(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】グラフェンナノリボン、及びその製造方法、並びに電子装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/194 20170101AFI20230517BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20230517BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C01B32/194
H01L29/91 F
H01L29/91 G
(21)【出願番号】P 2019062063
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「グラフェンナノリボンの合成・評価とシミュレーション」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大伴 真名歩
(72)【発明者】
【氏名】林 宏暢
(72)【発明者】
【氏名】山田 容子
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502415(JP,A)
【文献】特開2017-216319(JP,A)
【文献】特開2019-001754(JP,A)
【文献】特開2017-050424(JP,A)
【文献】SAATHOFF et al.,Journal of Physical Chemistry B,米国,2015年04月02日,Vol.119, No.13,p.4766-4776
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/194
H01L 29/861
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向の一方の側の第1領域と、前記長さ方向の他方の側の第2領域と、を有するグラフェンナノリボンであって、
前記第1領域が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有し、
前記第2領域が、下記一般式(C)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするグラフェンナノリボン。
【化1】
【化2】
【化3】
ただし、前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(C)中、mは、1~10の整数を表す。
【化4】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【請求項2】
前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000であり、
前記一般式(C)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000である、請求項1に記載のグラフェンナノリボン。
【請求項3】
前記第1領域の仕事関数と、前記第2領域の仕事関数との差の絶対値が、0.01eV以上である請求項1から2のいずれかに記載のグラフェンナノリボン。
【請求項4】
下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有することを特徴とするグラフェンナノリボン。
【化5】
【化6】
ただし、前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表す。
【化7】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【請求項5】
前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000である、請求項4に記載のグラフェンナノリボン。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のグラフェンナノリボンを製造する、グラフェンナノリボンの製造方法であって、
請求項4から5のいずれかに記載のグラフェンナノリボンの前記一般式(A)における下記一般式(1)で表される基及び前記一般式(B)における下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかの一部を、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかに転化する工程を含む、ことを特徴とするグラフェンナノリボンの製造方法。
【化8】
【化9】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化10】
ただし、前記一般式(3)中、R
21
は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【請求項7】
グラフェンナノリボンと、前記グラフェンナノリボンの長さ方向の両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極と、を備える電子装置であって、
前記グラフェンナノリボンが、長さ方向の一方の側の第1領域と、前記長さ方向の他方の側の第2領域とを有し、
前記第1領域が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有し、
前記第2領域が、下記一般式(C)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする電子装置。
【化11】
【化12】
【化13】
ただし、前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(C)中、mは、1~10の整数を表す。
【化14】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンナノリボン、及びその製造方法、並びに電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンをナノメートル程度の幅を持つリボン〔グラフェンナノリボン:GNR(graphene nanoribbon)〕に加工すると、幅と大よそ逆比例する大きさのバンドギャップを持つようになることが知られている。これを利用して、グラフェンを電子ビームリソグラフィなどのトップダウン手法で加工し、トランジスタなどのデバイスを作成する試みが行われている。その一方で必要なバンドギャップを実現するには、1nm前後という極めて狭い幅が必要になるため、トップダウン手法で再現性良く実現することはきわめて難しい。
【0003】
その一方で、前駆体分子の表面重合によって、1nm以下の幅を実現する手法が報告されている。前駆体分子としては臭素化芳香族化合物が用いられ、これを加熱した金基板上でウルマン反応を起こさせ、重合させる。GNRの幅は、前駆体分子の設計次第で制御が可能である。このようなボトムアップ・GNRは、高周波デバイスなどとしての応用が期待されている。
【0004】
またPN接合を形成して、例えば、トンネルFET(Field-Effect Transistor:電界効果トランジスタ)を作製すると、シリコンのMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を上回る特性が可能であることを示唆するシミュレーション結果も得られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature 466, 470(2010)
【文献】IEEE Electron Device Letters 29, 1344-1346(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トンネルFETをはじめとした、GNRのPN接合を利用したデバイスを作製する際には、設計どおりの位置にPN接合を作成することが重要である。例えば、GNRのPN接合形成を目的として、異なる前駆体を逐次蒸着したとする。例えば、通常の水素エッジGNRを与える前駆体を蒸着したあと、水素エッジGNRより深い位置にLUMOが来て、N型として動作することが期待されるフッ素エッジGNRを与える前駆体を蒸着したとする。この場合、
図1に示すように、水素エッジGNRの両端にフッ素エッジGNRが成長するという、期待とは異なる成長が起きる。それと同時に、接合の位置もGNRによって異なってしまい、PN接合デバイスとして動作することは期待できない。
【0007】
本発明は、PN接合を利用した電子装置に利用可能なグラフェンナノリボン、その製造方法、及び電子装置、並びにPN接合を利用した電子装置に利用可能なグラフェンナノリボンの前駆体となりうるグラフェンナノリボンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、グラフェンナノリボン(第二の態様)は、
長さ方向の一方の側の第1領域と、前記長さ方向の他方の側の第2領域と、を有するグラフェンナノリボンであって、
前記第1領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有し、
前記第2領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかを有する。
【化1】
【化2】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化3】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0009】
また1つの態様では、グラフェンナノリボン(第一の態様)は、
幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有する。
【化4】
【化5】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化6】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0010】
また1つの態様では、グラフェンナノリボンの製造方法は、
第二の態様のグラフェンナノリボンを製造する、グラフェンナノリボンの製造方法であって、
第一の態様のグラフェンナノリボンの前記一般式(1)で表される基及び前記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかの一部を、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかに転化する工程を含む。
【0011】
また1つの態様では、電子装置は、
グラフェンナノリボンと、前記グラフェンナノリボンの長さ方向の両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極と、を備える電子装置であって、
前記グラフェンナノリボンが、長さ方向の一方の側の第1領域と、前記長さ方向の他方の側の第2領域とを有し、
前記第1領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有し、
前記第2領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかを有する。
【化7】
【化8】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化9】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【発明の効果】
【0012】
1つの側面として、PN接合を利用した電子装置に利用可能なグラフェンナノリボンを提供できる。
また、1つの側面として、PN接合を利用した電子装置に利用可能なグラフェンナノリボンの前駆体となりうるグラフェンナノリボンを提供できる。
また、1つの側面として、PN接合を利用した電子装置に利用可能なグラフェンナノリボンを製造できる。
また、1つの側面として、PN接合を利用した電子装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、異なる前駆体を逐次蒸着して作成したグラフェンナノリボンの概略図である。
【
図2A】
図2Aは、末端の一部がメトキシ基により修飾されたグラフェンナノリボンの一例の模式図である。
【
図3A】
図3Aは、末端の一部がアセトニド基により修飾されたグラフェンナノリボンの一例の模式図である。
【
図4A】
図4Aは、末端が未修飾のグラフェンナノリボンの一例の模式図である。
【
図5A】
図5Aは、末端の一部が水酸基により修飾されたグラフェンナノリボンの一例の模式図である。
【
図6A】
図6Aは、第一の態様のグラフェンナノリボンの官能基の一部を酸加水分解する方法の一例を説明するための模式図である(その1)。
【
図6B】
図6Bは、第一の態様のグラフェンナノリボンの官能基の一部を酸加水分解する方法の一例を説明するための模式図である(その2)。
【
図6C】
図6Cは、第一の態様のグラフェンナノリボンの官能基の一部を酸加水分解する方法の一例を説明するための模式図である(その3)。
【
図6D】
図6Dは、第一の態様のグラフェンナノリボンの官能基の一部を酸加水分解する方法の一例を説明するための模式図である(その4)。
【
図8A】
図8Aは、電子装置の製造方法の一例を説明するための模式図である(その1)。
【
図8B】
図8Bは、電子装置の製造方法の一例を説明するための模式図である(その2)。
【
図8C】
図8Cは、電子装置の製造方法の一例を説明するための模式図である(その3)。
【
図8D】
図8Dは、電子装置の製造方法の一例を説明するための模式図である(その4)。
【
図8E】
図8Eは、電子装置の製造方法の一例を説明するための模式図である(その5)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(グラフェンナノリボン<第一の態様>)
開示のグラフェンナノリボンの一例(第一の態様)は、PN接合を利用した電子装置に利用可能なグラフェンナノリボン(第二の態様)の前駆体となりうる。
【0015】
第一の態様のグラフェンナノリボンは、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有する。
【化10】
【化11】
ただし、一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化12】
ただし、一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0016】
R1におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0017】
ここで、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基は、グラフェンナノリボンの幅方向の端部のsp2炭素に結合している。
【0018】
第一の態様のグラフェンナノリボンの幅方向の両端部における一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、両端部のsp2炭素に結合する基における25モル%~50モル%を占めることが挙げられる。ここでの基には、水素原子が含まれる。
【0019】
第一の態様のグラフェンナノリボンは、例えば、下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有する。
【化13】
【化14】
ただし、一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表し、1~6の整数が好ましい。
ただし、一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表し、1~6の整数が好ましい。
【化15】
ただし、一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0020】
R1におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0021】
一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び一般式(B)で表される繰り返し単位の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、それぞれ1~1,000,000が好ましく、10~100,000がより好ましい。
【0022】
<第一の態様のグラフェンナノリボンの製造方法>
第一の態様のグラフェンナノリボンの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非特許文献〔Nature 466, 470(2010)〕を参照した方法が挙げられる。その方法を以下に説明する。
【0023】
ここで、GNRのボトムアップ合成法について説明する。この合成法では、前駆体分子を真空中で触媒金属基板に真空蒸着する。前駆体分子は、例えば、以下に例示するような、脱離基であるハロゲン基(主に臭素、ヨウ素)を含む、芳香族化合物である。
【化16】
【0024】
触媒金属基板としては、金、銀、銅などの(111)面のほかに、(110)面や(788)面などの高指数面も用いられる。ここでは、金の(111)単結晶面を例として説明する。超高真空中で清浄化したAu(111)面を200℃程度に保持し、前駆体分子を真空蒸着する。このときの蒸着量は、1分子層程度になるように調節することが好ましい。この際Au(111)面上では、前駆体分子からハロゲン基が脱離してUllmann反応を起こし、芳香族化合物のポリマー鎖ができる。さらに350℃~450℃程度で真空中で加熱すると、水素が取れて芳香環化し、以下に示すようなグラフェンのナノリボンを得ることができる。
【化17】
【0025】
上記の製造方法において、上記前駆体分子に変えて、下記一般式(A-1)で表される分子、下記一般式(B-1)で表される分子などを用いることで、第一の態様のグラフェンナノリボンを製造することができる。
【化18】
【化19】
ただし、一般式(A-1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、一般式(B-1)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化20】
ただし、一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0026】
R1におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0027】
(グラフェンナノリボン<第二の態様>)
開示のグラフェンナノリボンの一例(第二の態様)は、長さ方向の一方の側の第1領域と、長さ方向の他方の側の第2領域と、を有するグラフェンナノリボンである。
第1領域は、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有する。
第2領域は、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかを有する。
【化21】
【化22】
ただし、一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化23】
ただし、一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0028】
R1におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0029】
ここで、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基は、グラフェンナノリボンの幅方向の端部のsp2炭素に結合している。
水素原子、及び水酸基は、グラフェンナノリボンの幅方向の端部のsp2炭素に結合している。
【0030】
第二の態様のグラフェンナノリボンの第1領域の幅方向の両端部における一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、両端部のsp2炭素に結合する基における25モル%~50モル%を占めることが挙げられる。ここでの基には、水素原子が含まれる。
第二の態様のグラフェンナノリボンの第2領域の幅方向の両端部における水酸基の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、両端部のsp2炭素に結合する基における25モル%~50モル%を占めることが挙げられる。ここでの基には、水素原子が含まれる。
【0031】
第1領域は、例えば、下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有する。
第2領域は、例えば、下記一般式(C)で表される繰り返し単位を有する。
【化24】
【化25】
【化26】
ただし、一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表し、1~6の整数が好ましい。
ただし、一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表し、1~6の整数が好ましい。
ただし、一般式(C)中、mは、1~10の整数を表し、1~6の整数が好ましい。
【化27】
ただし、一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
【0032】
R1におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0033】
一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び一般式(B)で表される繰り返し単位の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、それぞれ1~1,000,000が好ましく、10~100,000がより好ましい。
一般式(C)で表される繰り返し単位の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1~1,000,000が好ましく、10~100,000がより好ましい。
【0034】
グラフェンナノリボンの第1領域と第2領域との境は、グラフェンナノリボンの長さ方向の略中央であることが好ましい。ここで、略中央とは、例えば、グラフェンナノリボンを用いたPN接合デバイスにおいて、デバイスが良好に動作する程度の位置であればよい。
【0035】
第1領域の仕事関数と、第2領域の仕事関数との差の絶対値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01eV以上が好ましく、0.03eV以上がより好ましく、0.1eV以上が特に好ましい。
第1領域と第2領域との仕事関数の差の絶対値の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第1領域と第2領域との仕事関数の差の絶対値は、0.8eV以下であってもよいし、0.6eV以下であってもよい。
【0036】
幅方向の両端部に官能基を付与したグラフェンナノリボンの仕事関数を、密度汎関数法を用いて計算した。
図2Aで示される繰り返し単位を有するグラフェンナノリボンのバンド分散図は、
図2Bのようになる。
図3Aで示される繰り返し単位を有するグラフェンナノリボンのバンド分散図は、
図3Bのようになる。
図4Aで示される繰り返し単位を有するグラフェンナノリボンのバンド分散図は、
図4Bのようになる。
図5Aで示される繰り返し単位を有するグラフェンナノリボンのバンド分散図は、
図5Bのようになる。
これらから各グラフェンナノリボンの仕事関数を求めると以下のようになる。
【0037】
【0038】
上記の通り、これらの仕事関数には、数百meV程度の差があり、これらを組み合わせることでPN接合を形成可能である。例えばAcetonide-N7とHO-N7とを組み合わせた場合、Acetonide-N7がP型として動作し、HO-N7がN型として動作する。これは、Acetonide-NとPristine N7と組み合わせた場合も同様で、Acetonide-N7がP型として動作する。その一方でMeO-N7とAcetonide-N7とを組み合わせた場合は、MeO-N7がN型として動作し、Acetonide-N7がP型として動作する。MeO-N7とHO-N7との組み合わせの場合は、MeO-N7がP型として動作し、HO-N7がN型として動作する。このようなエッジ修飾基の違いによるPN接合を含む電子デバイスの例を
図7に示す。
【0039】
第二の態様のグラフェンナノリボンの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下のグラフェンナノリボンの製造方法が好ましい。
【0040】
(グラフェンナノリボンの製造方法)
開示のグラフェンナノリボンの製造方法は、第二の態様のグラフェンナノリボンを製造する方法である。
グラフェンナノリボンの製造方法は、第一の態様のグラフェンナノリボンの一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基の少なくともいずれかの一部を、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかに転化する工程を含む。
【0041】
転化する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基に転化する方法としては、酸加水分解などが挙げられる。酸加水分解の方法としては、例えば、溶媒(例えば、メタノールなど)と酸(例えば、塩酸など)とを含む酸溶液にグラフェンナノリボンを浸漬させる方法が挙げられる。また、例えば、水素原子に転化する方法としては、金触媒存在下で、原子状水素を接触させる方法が挙げられる。原子状水素を発生させる方法としては、例えば、超高真空下で水素ガスを高温フィラメントに接触させる方法が挙げられる。
【0042】
第一の態様のグラフェンナノリボンの一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基の少なくともいずれかの一部を水酸基に転化する方法としては、例えば、第一の態様のグラフェンナノリボンの長さ方向の一方の側を被膜により被覆しつつ、長さ方向の他方の側に酸を接触させる方法が挙げられる。
被膜としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フォトレジストの被膜などが挙げられる。
被膜は、酸加水分解の後に除去されることが好ましい。
【0043】
以下に、第一の態様のグラフェンナノリボンの一般式(1)で表される基(R
1がメチル基)の一部を、酸加水分解により水酸基に転化する方法を、説明する。
図6Aに、第一の態様のグラフェンナノリボンの一例を示す。
図6Bに示すように、
図6Aのグラフェンナノリボンの長さ方向の一方の側(
図6Bにおいて左側)を、グラフェンナノリボンの中央部を境に、フォトレジストの被膜10で被覆する。フォトレジストの被膜を一方の側にのみ被覆する方法としては、例えば、グラフェンナノリボン全体をポジ型フォトレジストの被膜で被覆した後に、グラフェンナノリボンの長さ方向の他方の側のみをフォトマスクを用いて選択的に露光した後にアルカリ現像し、他方の側のフォトレジストの被膜を選択的に溶解除去する方法が挙げられる。
次に、
図6Bに示す状態でグラフェンナノリボン全体に酸を付与する。そうすると、グラフェンナノリボンの左側は、フォトレジストの被膜10により保護されているため、グラフェンナノリボンの左側のメトキシ基は、酸加水分解されない。一方、グラフェンナノリボンの右側は、フォトレジストの被膜10により保護されていないため、グラフェンナノリボンの右側のメトキシ基は、酸加水分解され、水酸基となる(
図6C)。
フォトレジストの被膜10は、不要であれば、除去してもよい(
図6D)。フォトレジストの被膜10の除去は、例えば、フォトレジストの被膜10を露光した後にアルカリ現像すればよい。
【0044】
(電子装置)
開示の電子装置は、グラフェンナノリボンと、グラフェンナノリボンの長さ方向の両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極と、を備える。
グラフェンナノリボンは、第二の態様のグラフェンナノリボンである。すなわち、グラフェンナノリボンは、長さ方向の一方の側の第1領域と、長さ方向の他方の側の第2領域とを有する。
そして、第1領域は、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、一般式(1)で表される基及び一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有し、第2領域は、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかを有する。
【0045】
図7に電子装置の一例を示す。
図7の電子装置は、サファイヤ基板等の支持基板2上に、第1領域1Aと第2領域1Bとを有する。更に電子装置は、第1領域1Aに接続する第1電極3、及び第2領域1Bに接続する第2電極4を有する。第1電極及び第2電極としては、例えば、Au電極、Ti/Au積層体などが挙げられる。
【0046】
次に、
図7の電子装置の製造方法の一例を、図を用いて説明する。
図8A~
図8Eは、電子装置の製造方法の一例を説明するための模式図である。
まず、支持基板2上に第一の態様のグラフェンナノリボン1を配する(
図8A)。支持基板2上に第一の態様のグラフェンナノリボン1を配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、<第一の態様のグラフェンナノリボンの製造方法>に記載の方法で触媒金属基板上に製造した第一の態様のグラフェンナノリボンを支持基板2上に転写する方法が挙げられる。
次に、第一の態様のグラフェンナノリボン1の長さ方向の一方の側をフォトレジストの被膜10で被覆する(
図8B)。
次に、
図8Bに示す状態でグラフェンナノリボン全体に酸を付与し、第一の態様のグラフェンナノリボン1の長さ方向の他方の側の官能基(一般式(1)で表される基、一般式(2)で表される基)を酸加水分解により水酸基に転化する。そうすることで、第一の態様のグラフェンナノリボン1が、第1領域1A及び第2領域1Bを有する第二の態様のグラフェンナノリボンに変化する(
図8C)。
次に、不要なフォトレジストの被膜10を除去する(
図8D)。
次に、第1電極3を第1領域1Aに接続するように、かつ第2電極4を第2領域1Bに接続するようにそれぞれ形成する。そうすることで、
図8Eに示す電子装置が得られる。
電子装置は、例えば、PN接合ダイオードである。
【0047】
更に以下の付記を開示する。
(付記1)
長さ方向の一方の側の第1領域と、前記長さ方向の他方の側の第2領域と、を有するグラフェンナノリボンであって、
前記第1領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有し、
前記第2領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかを有することを特徴とするグラフェンナノリボン。
【化28】
【化29】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化30】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
(付記2)
前記第2領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水酸基を有する、付記1に記載のグラフェンナノリボン。
(付記3)
前記第1領域が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有し、
前記第2領域が、下記一般式(C)で表される繰り返し単位を有する、付記1に記載のグラフェンナノリボン。
【化31】
【化32】
【化33】
ただし、前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(C)中、mは、1~10の整数を表す。
【化34】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
(付記4)
前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000であり、
前記一般式(C)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000である、付記3に記載のグラフェンナノリボン。
(付記5)
前記第1領域の仕事関数と、前記第2領域の仕事関数との差の絶対値が、0.01eV以上である付記1から4のいずれかに記載のグラフェンナノリボン。
(付記6)
幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有することを特徴とするグラフェンナノリボン。
【化35】
【化36】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化37】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
(付記7)
下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有する、付記6に記載のグラフェンナノリボン。
【化38】
【化39】
ただし、前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表す。
【化40】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
(付記8)
前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000である、付記7に記載のグラフェンナノリボン。
(付記9)
付記1から5のいずれかに記載のグラフェンナノリボンを製造する、グラフェンナノリボンの製造方法であって、
付記6から8のいずれかに記載のグラフェンナノリボンの前記一般式(1)で表される基及び前記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかの一部を、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかに転化する工程を含む、ことを特徴とするグラフェンナノリボンの製造方法。
(付記10)
グラフェンナノリボンと、前記グラフェンナノリボンの長さ方向の両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極と、を備える電子装置であって、
前記グラフェンナノリボンが、長さ方向の一方の側の第1領域と、前記長さ方向の他方の側の第2領域とを有し、
前記第1領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、下記一般式(1)で表される基及び下記一般式(2)で表される基の少なくともいずれかを有し、
前記第2領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水素原子、及び水酸基の少なくともいずれかを有することを特徴とする電子装置。
【化41】
【化42】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。
ただし、前記一般式(2)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。
【化43】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
(付記11)
前記第2領域が、幅方向の両端部の少なくともいずれかに、水酸基を有する、付記10に記載の電子装置。
(付記12)
前記第1領域が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位及び下記一般式(B)で表される繰り返し単位のいずれかを有し、
前記第2領域が、下記一般式(C)で表される繰り返し単位を有する、付記10に記載の電子装置。
【化44】
【化45】
【化46】
ただし、前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(B)中、R
2は、メチレン基、及び下記一般式(3)で表される基のいずれかを表す。mは、1~10の整数を表す。
ただし、前記一般式(C)中、mは、1~10の整数を表す。
【化47】
ただし、前記一般式(3)中、R
21は、それぞれ独立して、メチル基、及びエチル基のいずれかを表す。
(付記13)
前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数、及び前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000であり、
前記一般式(C)で表される繰り返し単位の数が、1~1,000,000である、付記12に記載の電子装置。
(付記14)
前記第1領域の仕事関数と、前記第2領域の仕事関数との差の絶対値が、0.01eV以上である付記10から13のいずれかに記載の電子装置。
【符号の説明】
【0048】
1 第一の態様のグラフェンナノリボン
1A 第1領域
1B 第2領域
2 支持基板
3 第1電極
4 第2電極
10 フォトレジストの被膜