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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】細胞培養器
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230517BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/34 D
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2020538394
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032384
(87)【国際公開番号】W WO2020040118
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】62/766,597
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】平出 亮二
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】伴 一訓
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-017716(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114845(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/131715(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038887(WO,A1)
【文献】特開平06-181749(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122528(WO,A1)
【文献】特表平11-501866(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003073(WO,A1)
【文献】特開2006-304733(JP,A)
【文献】特開2006-030465(JP,A)
【文献】特開2011-004613(JP,A)
【文献】特開2014-064475(JP,A)
【文献】特開2012-147678(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056695(WO,A1)
【文献】特開昭61-108373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養成分が透過可能な培養成分透過部材と、
前記培養成分透過部材の一方の面を覆う、細胞含有培地を保持し、細胞を培養するための培養槽と、
前記培養成分透過部材の他方の面を覆う、培地を保持するための培地保持槽と、
前記培地保持槽に接続された培地流路と、
を備える細胞培養器であって、
前記培養槽に細胞を供給するための培養槽供給口と、細胞を排出するための培養槽排出口と、が設けられており、
前記培地流路が、密閉可能な培地流路であって、
前記培地流路内に流体を供給するための流路供給口と、前記培地流路内の流体を排出するための流路排出口と、が、前記培地流路に設けられており、
前記流路供給口及び前記流路排出口が密閉可能であり、
前記培地流路に設けられた、前記流体を移動させるための流体機械と、
前記培地流路及び前記流体機械が配置される培地流路用外気遮断部材と、
を備え、
前記培地流路及び前記流体機械のポンプヘッドが、前記培地流路用外気遮断部材内に配置され、
前記流体機械の前記ポンプヘッドに接続される駆動部が、前記培地流路用外気遮断部材外に配置される、
細胞培養器
【請求項2】
前記流路供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能である、請求項1に記載の細胞培養器
【請求項3】
前記供給器が供給用ニードルレスコネクターを介して前記流路供給口に接続される、請求項2に記載の細胞培養器
【請求項4】
前記流路排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能である、請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項5】
前記排出器が排出用ニードルレスコネクターを介して前記流路排出口に接続される、請求項4に記載の細胞培養器
【請求項6】
前記流路供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であり、
前記流路排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であり、
前記供給器から前記培地流路内に流体を供給すると、前記培地流路内の流体が前記排出器内に移動する、
請求項1に記載の細胞培養器
【請求項7】
前記流路供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であり、
前記流路排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であり、
前記流体機械が駆動されると、前記供給器から前記培地流路に流体を供給され、前記培地流路内の流体が前記排出器内に移動する、
請求項1に記載の細胞培養器
【請求項8】
前記供給器から前記培地流路内に培地を供給すると、前記培地流路内の空気が前記排出器内に移動する、請求項6又は7に記載の細胞培養器
【請求項9】
前記供給器から前記培地流路内に培地を供給すると、前記培地流路内の培地が前記排出器内に移動する、請求項6又は7に記載の細胞培養器
【請求項10】
前記供給器から前記培地流路内に流体を供給する際に、外気が前記培地流路内に進入しない、請求項2、3、6及び7のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項11】
前記培地流路が密閉された状態で、前記培地流路内に外気が進入しない、請求項1から10のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項12】
前記培地流路が密閉された状態で、前記培地流路内に、前記培地流路外の細胞、微生物、ウイルス、及び塵が進入しない、請求項1から11のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項13】
前記培地流路が密閉された状態で、前記培地流路内の物質が、前記培地流路外に流出しない、請求項1から12のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項14】
前記培地流路が密閉された状態で、前記培地流路の内外で気体の交換が生じない、請求項1から13のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項15】
前記培地流路が密閉された状態で、前記培地流路内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスの少なくともいずれかが供給されない、請求項1から14のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項16】
前記培地流路内の培地のpHが所定の範囲内に保たれる、請求項1から15のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項17】
前記培地流路が、ガス非透過性物質に埋め込まれている、請求項1から16のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項18】
前記培地流路の少なくとも一部が、ガス非透過性物質からなる部材中に設けられた孔である、請求項1から17のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項19】
前記流体機械が流体機械用外気遮断部材で外気から遮断されている、請求項1から18のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項20】
前記ポンプヘッドと前記駆動部が着脱可能である、請求項1から19のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項21】
前記駆動部が駆動部保持部材に保持され、
前記培地流路用外気遮断部材と前記駆動部保持部材が着脱可能である、請求項1から20のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項22】
前記駆動部保持部材が前記培地流路用外気遮断部材から外された際に、前記培地流路用外気遮断部材の内外で気体の交換が生じない、請求項21に記載の細胞培養器
【請求項23】
前記培地流路と前記培地保持槽内を培地が循環可能である、請求項1から22のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項24】
前記培地流路が、前記培地保持槽と接続されることにより、前記培地流路の内部が密閉される、請求項1から23のいずれか1項に記載の細胞培養器
【請求項25】
請求項1から24のいずれか1項に記載の細胞培養器と、
前記培養槽内の培地及び細胞の少なくとも一方を撮影する撮影装置と、
備える、培養装置。
【請求項26】
前記撮影装置が、テレセントリックレンズを介して前記細胞を撮影する、請求項25に記載の培養装置。
【請求項27】
前記撮影装置で得られた画像にハイパスフィルタを適用する画像処理部をさらに備える、請求項25又は26に記載の培養装置。
【請求項28】
前記画像処理部が、前記ハイパスフィルタを適用した画像に分水嶺アルゴリズムを適用して、前記画像中の細胞又は細胞塊を抽出する、請求項27に記載の培養装置。
【請求項29】
前記画像処理部が、前記画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、前記画像にDistance Transform法を適用する、請求項28に記載の培養装置。
【請求項30】
前記画像処理部が、前記抽出した細胞又は細胞魂の大きさを算出する、請求項28又は29に記載の培養装置。
【請求項31】
前記画像処理部が、前記抽出した細胞又は細胞魂の数を算出する、請求項28から30のいずれか1項に記載の培養装置。
【請求項32】
培地の濁度と、培地の細胞又は細胞魂の密度と、の関係を記憶する関係記憶装置をさらに備え、
前記撮影装置で得られた画像に基づき、前記培養槽内の前記培地の濁度の値を算出し、前記算出された濁度の値と、前記関係と、に基づき、撮影された細胞又は細胞魂の密度の値を算出する画像処理部をさらに備える、請求項25又は26に記載の培養装置。
【請求項33】
前記画像処理部が、前記抽出した細胞又は細胞塊の数、及び前記培養槽全体の容積に対する前記撮影装置が撮影した領域の容積の割合から、前記培養槽における細胞又は細胞塊の密度の値を算出する、請求項28から31のいずれか1項に記載の培養装置。
【請求項34】
培地の色と、培地のpHと、の関係を記憶する関係記憶装置をさらに備え、
前記撮影装置で得られた画像における前記培養槽内の前記培地の色の値を算出し、前記算出された色の値と、前記関係と、に基づき、撮影された前記培地のpHの値を算出する画像処理部をさらに備える、請求項25又は26に記載の培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞技術に関し、細胞培養器に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期胚から樹立された幹細胞である。ES細胞は、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を有する。現在、ヒトES細胞は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患に対する細胞移植療法に利用可能である。しかし、ES細胞の移植には障害もある。特に、ES細胞の移植は、不成功な臓器移植に続いて起こる拒絶反応と同様の免疫拒絶反応を惹起しうる。また、ヒト胚を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては、倫理的見地から批判や反対意見が多い。
【0003】
このような背景の状況の下、京都大学の山中伸弥教授は、4種の遺伝子:OCT3/4、KLF4、c-MYC、及びSOX2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功した。これにより、山中教授は、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1、2参照。)。iPS細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞である。したがって、iPS細胞は、細胞移植療法への利用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4183742号公報
【文献】特開2014-114997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
iPS細胞に限らず、様々な細胞を効率よく培養可能な装置が望まれている。本発明は、細胞を効率よく培養可能な細胞培養器を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、培養成分が透過可能な培養成分透過部材と、培養成分透過部材の一方の面を覆う、細胞含有培地を保持し、細胞を培養するための培養槽と、培養成分透過部材の他方の面を覆う、培地を保持するための培地保持槽と、を備える、細胞培養器が提供される。
【0007】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材が半透膜であってもよい。
【0008】
上記の細胞培養器が、培養成分透過部材を挟む、それぞれ開口が設けられた培養側プレート及び培地側プレートをさらに備え、培養槽内の細胞含有培地が、培養側プレートの開口を介して培養成分透過部材に接触可能であり、培地保持槽内の培地が、培地側プレートの開口を介して培養成分透過部材に接触可能であってもよい。
【0009】
上記の細胞培養器において、培養側プレートが濃色であってもよい。
【0010】
上記の細胞培養器において、培養槽と培地保持槽が着脱可能であってもよい。
【0011】
上記の細胞培養器において、培養側プレートの表面が細胞非接着性であってもよい。
【0012】
上記の細胞培養器において、培養側プレートの表面がタンパク質非接着性であってもよい。
【0013】
上記の細胞培養器において、培養側プレートの表面が細胞接着性であってもよい。
【0014】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材の表面が細胞非接着性であってもよい。
【0015】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材の表面がタンパク質非接着性であってもよい。
【0016】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材の表面が細胞接着性であってもよい。
【0017】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材が細胞接着性であってもよい。
【0018】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材が細胞非接着性であってもよい。
【0019】
上記の細胞培養器において、培養槽及び培地保持槽が密閉された状態で、培養槽及び培地保持槽内に外気が進入しなくともよい。
【0020】
上記の細胞培養器において、培養槽及び培地保持槽が密閉された状態で、培養槽及び培地保持槽内に、培養槽及び培地保持槽外の細胞、微生物、ウイルス、及び塵が進入しなくともよい。
【0021】
上記の細胞培養器において、培養槽及び培地保持槽が密閉された状態で、培養槽及び培地保持槽内の物質が、培養槽及び培地保持槽外に流出しなくともよい。
【0022】
上記の細胞培養器において、培養槽及び培地保持槽が密閉された状態で、培養槽及び培地保持槽の内外で気体の交換が生じなくともよい。
【0023】
上記の細胞培養器において、培養槽及び培地保持槽が密閉された状態で、培養槽及び培地保持槽内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスの少なくともいずれかが供給されなくともよい。
【0024】
上記の細胞培養器において、培養槽及び培地保持槽内の培地のpHが所定の範囲内に保たれてもよい。
【0025】
上記の細胞培養器において、培養槽がガス非透過性物質に埋め込まれていてもよい。
【0026】
上記の細胞培養器において、培地保持槽がガス非透過性物質に埋め込まれていてもよい。
【0027】
上記の細胞培養器において、培養成分透過部材と培養槽の間に配置されるパッキンをさらに備えていてもよい。
【0028】
上記の細胞培養器において、パッキンが培養成分透過部材の外周と培養槽の間に配置されていてもよい。
【0029】
上記の細胞培養器において、パッキンの外径が培養成分透過部材の外径より大きくてもよい。
【0030】
上記の細胞培養器が、培養成分透過部材と培地保持槽の間に配置されるパッキンをさらに備えていてもよい。
【0031】
上記の細胞培養器において、パッキンが培養成分透過部材の外周と培地保持槽の間に配置されていてもよい。
【0032】
上記の細胞培養器において、パッキンの外径が培養成分透過部材の外径より大きくてもよい。
【0033】
上記の細胞培養器において、培養槽内が細胞非接着性であってもよい。
【0034】
上記の細胞培養器において、培養槽内がタンパク質非接着性であってもよい。
【0035】
上記の細胞培養器において、培養槽内が細胞接着性であってもよい。
【0036】
また、本発明の態様によれば、細胞を培養するための密閉可能な培養槽であって、当該培養槽内に流体を供給するための供給口と、当該培養槽内の流体を排出するための排出口と、が、当該培養槽に設けられており、供給口及び排出口が密閉可能である、培養槽が提供される。
【0037】
上記の培養槽において、供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であってもよい。
【0038】
上記の培養槽において、供給器が供給用ニードルレスコネクターを介して供給口に接続されてもよい。
【0039】
上記の培養槽において、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であってもよい。
【0040】
上記の培養槽において、排出器が排出用ニードルレスコネクターを介して排出口に接続されてもよい。
【0041】
上記の培養槽において、供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であり、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であり、供給器から当該培養槽内に流体を供給すると、当該培養槽内の流体が排出器内に移動してもよい。
【0042】
上記の培養槽において、供給器から当該培養槽内に培地を供給すると、当該培養槽内の空気が排出器内に移動してもよい。
【0043】
上記の培養槽において、供給器から当該培養槽内に培地を供給すると、当該培養槽内の培地が排出器内に移動してもよい。
【0044】
上記の培養槽において、培地が細胞を含有してもよい。
【0045】
上記の培養槽において、供給器から当該培養槽内に流体を供給する際に、外気が当該培養槽内に進入しなくともよい。
【0046】
上記の培養槽において、窓が設けられていてもよい。
【0047】
上記の培養槽において、窓に透明ヒーターが設けられていてもよい。
【0048】
上記の培養槽が、当該培養槽内部の温度を調節するための温度調節部を備えていてもよい。
【0049】
上記の培養槽にが、当該培養槽内部の温度を測るための温度計を備えていてもよい。
【0050】
上記の培養槽において、当該培養槽が密閉された状態で、当該培養槽内に外気が進入しなくともよい。
【0051】
上記の培養槽において、当該培養槽が密閉された状態で、当該培養槽内に、当該培養槽外の細胞、微生物、ウイルス、及び塵が進入しなくともよい。
【0052】
上記の培養槽において、当該培養槽が密閉された状態で、当該培養槽内の物質が、当該培養槽外に流出しなくともよい。
【0053】
上記の培養槽において、当該培養槽が密閉された状態で、当該培養槽の内外で気体の交換が生じなくともよい。
【0054】
上記の培養槽において、当該培養槽が密閉された状態で、当該培養槽内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスの少なくともいずれかが供給されなくともよい。
【0055】
上記の培養槽において、当該培養槽内の培地のpHが所定の範囲に保たれてもよい。
【0056】
上記の培養槽において、当該培養槽がガス非透過性物質に埋め込まれていてもよい。
【0057】
上記の培養槽において、当該培養槽の傾きが調整可能であってもよい。
【0058】
上記の培養槽において、幹細胞が拡大培養されてもよい。
【0059】
上記の培養槽において、幹細胞がiPS細胞、ES細胞、又は体性幹細胞であってもよい。
【0060】
上記の培養槽において、誘導因子を導入された細胞が培養され、幹細胞に誘導されてもよい。
【0061】
上記の培養槽において、当該培養槽内の培地に誘導因子が添加され、当該培養槽で培養されている細胞に誘導因子が導入されてもよい。
【0062】
上記の培養槽において、誘導因子が導入された細胞が幹細胞に誘導されてもよい。
【0063】
上記の培養槽において、幹細胞がiPS細胞であってもよい。
【0064】
上記の培養槽において、細胞が血液系細胞であってもよい。
【0065】
上記の培養槽において、当該培養槽で誘導因子を導入された細胞が培養され、別種の細胞に誘導されてもよい。
【0066】
上記の培養槽において、当該培養槽内の培地に誘導因子が添加され、当該培養槽で培養されている細胞に誘導因子が導入され、細胞が別種の細胞に誘導されてもよい。
【0067】
上記の培養槽において、誘導因子がRNAであってもよい。
【0068】
上記の培養槽において、誘導因子がセンダイウイルスに含まれてもよい。
【0069】
上記の培養槽において、誘導因子がプラスミドに含まれてもよい。
【0070】
上記の培養槽において、細胞が培養されてもよい。
【0071】
上記の培養槽において、細胞が、血液系細胞、神経系細胞、心筋系細胞、上皮系細胞、間葉系細胞、及び肝細胞から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0072】
上記の培養槽において、当該培養槽内で細胞が浮遊培養されてもよい。
【0073】
上記の培養槽において、当該培養槽内で細胞が接着培養されてもよい。
【0074】
上記の培養槽において、当該培養槽内のゲル培地中で細胞が培養されてもよい。
【0075】
上記の培養槽において、内部が細胞非接着性であってもよい。
【0076】
上記の培養槽において、内部がタンパク質非接着性であってもよい。
【0077】
上記の培養槽において、内部が細胞接着性であってもよい。
【0078】
また、本発明の態様によれば、上記の培養槽と、培養槽内の培地及び細胞の少なくとも一方を撮影する撮影装置と、を備える、培養装置が提供される。
【0079】
上記の培養装置において、撮影装置が、テレセントリックレンズを介して細胞を撮影してもよい。
【0080】
上記の培養装置が、撮影装置で得られた画像にハイパスフィルタを適用する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0081】
上記の培養装置において、画像処理部が、ハイパスフィルタを適用した画像に分水嶺アルゴリズムを適用して、画像中の細胞又は細胞塊を抽出してもよい。
【0082】
上記の培養装置において、画像処理部が、画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、画像にDistance Transform法を適用してもよい。
【0083】
上記の培養装置において、画像処理部が、抽出した細胞又は細胞魂の大きさを算出してもよい。
【0084】
上記の培養装置において、画像処理部が、抽出した細胞又は細胞魂の数を算出してもよい。
【0085】
上記の培養装置が、培地の濁度と、培地の細胞又は細胞魂の密度と、の関係を記憶する関係記憶装置をさらに備え、撮影装置で得られた画像に基づき、培養槽内の培地の濁度の値を算出し、算出された濁度の値と、関係と、に基づき、撮影された細胞又は細胞魂の密度の値を算出する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0086】
上記の培養装置が、抽出した細胞又は細胞塊の数、及び培養槽全体の容積に対する撮影装置が撮影した領域の容積の割合から、培地における細胞又は細胞塊の密度の値を算出する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0087】
上記の培養装置が、培地の色と、培地のpHと、の関係を記憶する関係記憶装置をさらに備え、撮影装置で得られた画像における培養槽内の培地の色の値を算出し、算出された色の値と、関係と、に基づき、撮影された培地のpHの値を算出する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0088】
また、本発明の態様によれば、培地を保持するための、密閉可能な培地保持槽であって、当該培地保持槽内に流体を供給するための導入口と、当該培地保持槽内の流体を排出するための排出口と、が、当該培地保持槽に設けられており、導入口及び排出口が密閉可能である、培地保持槽が提供される。
【0089】
上記の培地保持槽において、導入口に流体を供給するための供給器が着脱可能であってもよい。
【0090】
上記の培地保持槽において、供給器が供給用ニードルレスコネクターを介して導入口に接続されてもよい。
【0091】
上記の培地保持槽において、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であってもよい。
【0092】
上記の培地保持槽において、排出器が排出用ニードルレスコネクターを介して排出口に接続されてもよい。
【0093】
上記の培地保持槽において、導入口に流体を供給するための供給器が着脱可能であり、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であり、供給器から当該培地保持槽内に流体を供給すると、当該培地保持槽内の流体が排出器内に移動してもよい。
【0094】
上記の培地保持槽において、供給器から当該培地保持槽内に培地を供給すると、当該培地保持槽内の空気が排出器内に移動してもよい。
【0095】
上記の培地保持槽において、供給器から当該培地保持槽内に培地を供給すると、当該培地保持槽内の培地が排出器内に移動してもよい。
【0096】
上記の培地保持槽において、供給器から当該培地保持槽内に流体を供給する際に、外気が当該培地保持槽内に進入しなくともよい。
【0097】
上記の培地保持槽が、当該培地保持槽内部の温度を調節するための温度調節部を備えていてもよい。
【0098】
上記の培地保持槽が、当該培地保持槽内部の温度を測るための温度計を備えていてもよい。
【0099】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が密閉された状態で、当該培地保持槽内に外気が進入しなくともよい。
【0100】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が密閉された状態で、当該培地保持槽内に、当該培地保持槽外の細胞、微生物、ウイルス、及び塵が進入しなくともよい。
【0101】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が密閉された状態で、当該培地保持槽内の物質が、当該培地保持槽外に流出しなくともよい。
【0102】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が密閉された状態で、当該培地保持槽の内外で気体の交換が生じなくともよい。
【0103】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が密閉された状態で、当該培地保持槽内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスの少なくともいずれかが供給されなくともよい。
【0104】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽内の培地のpHが所定の範囲に保たれてもよい。
【0105】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽がガス非透過性物質に埋め込まれていてもよい。
【0106】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽内に配置された整流板を備えていてもよい。
【0107】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽内に培地を供給するための1又は複数の吐出口であって、導入口に連通している1又は複数の吐出口が設けられていてもよい。
【0108】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽内に、培地を供給するための1又は複数の吐出口であって、導入口に連通することができる1又は複数の吐出口が設けられた吐出ブロックを挿入可能であってもよい。
【0109】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽内に培地を導入する際に当該培地保持槽内の空気を外部に外出するための開口が設けられていてもよい。
【0110】
上記の培地保持槽において、培地保持槽の導入口と排出口に培地流路が接続されてもよい。
【0111】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽と培地流路内を培地が循環可能であってもよい。
【0112】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が、培地流路と接続されることにより、当該培地保持槽の内部が密閉されてもよい。
【0113】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が、細胞を培養するための培養槽に接続されてもよい。
【0114】
上記の培地保持槽において、当該培地保持槽が、培養槽と接続されることにより、当該培地保持槽の内部が密閉されてもよい。
【0115】
また、本発明の態様によれば、密閉可能な培地流路であって、当該培地流路内に流体を供給するための供給口と、当該培地流路内の流体を排出するための排出口と、が、当該培地流路に設けられており、供給口及び排出口が密閉可能である、培地流路が提供される。
【0116】
上記の培地流路において、供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であってもよい。
【0117】
上記の培地流路において、供給器が供給用ニードルレスコネクターを介して供給口に接続されてもよい。
【0118】
上記の培地流路において、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であってもよい。
【0119】
上記の培地流路において、排出器が排出用ニードルレスコネクターを介して排出口に接続されてもよい。
【0120】
上記の培地流路において、供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であり、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であり、供給器から当該培地流路内に流体を供給すると、当該培地流路内の流体が排出器内に移動してもよい。
【0121】
上記の培地流路において、当該培地流路に設けられた、流体を移動させるための流体機械をさらに備えていてもよい。
【0122】
上記の培地流路において、供給口に流体を供給するための供給器が着脱可能であり、排出口に流体を排出するための排出器が着脱可能であり、流体機械が駆動されると、供給器から培地流路に流体を供給され、培地流路内の流体が排出器内に移動してもよい。
【0123】
上記の培地流路において、供給器から当該培地流路内に培地を供給すると、当該培地流路内の空気が排出器内に移動してもよい。
【0124】
上記の培地流路において、供給器から当該培地流路内に培地を供給すると、当該培地流路内の培地が排出器内に移動してもよい。
【0125】
上記の培地流路において、供給器から当該培地流路内に流体を供給する際に、外気が当該培地流路内に進入しなくともよい。
【0126】
上記の培地流路が、当該培地流路内部の温度を調節するための温度調節部を備えていてもよい。
【0127】
上記の培地流路が、当該培地流路内部の温度を測るための温度計を備えていてもよい。
【0128】
上記の培地流路において、当該培地流路が密閉された状態で、当該培地流路内に外気が進入しなくともよい。
【0129】
上記の培地流路において、当該培地流路が密閉された状態で、当該培地流路内に、当該培地流路外の細胞、微生物、ウイルス、及び塵が進入しなくともよい。
【0130】
上記の培地流路において、当該培地流路が密閉された状態で、当該培地流路内の物質が、当該培地流路外に流出しなくともよい。
【0131】
上記の培地流路において、当該培地流路が密閉された状態で、当該培地流路の内外で気体の交換が生じなくともよい。
【0132】
上記の培地流路において、当該培地流路が密閉された状態で、当該培地流路内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスの少なくともいずれかが供給されなくともよい。
【0133】
上記の培地流路において、当該培地流路内の培地のpHが所定の範囲内に保たれてもよい。
【0134】
上記の培地流路が、培地流路用外気遮断部材で外気から遮断されていてもよい。
【0135】
上記の培地流路が、ガス非透過性物質に埋め込まれていてもよい。
【0136】
上記の培地流路が、少なくとも一部が部材中に設けられた孔であってもよい。
【0137】
上記の培地流路において、流体機械が流体機械用外気遮断部材で外気から遮断されていてもよい。
【0138】
上記の培地流路において、当該培地流路が、培地流路用外気遮断部材で外気から遮断されており、培地流路用外気遮断部材内に当該培地流路及び流体機械のポンプヘッドが配置され、流体機械のポンプヘッドに接続される駆動部が、培地流路用外気遮断部材外に配置されてもよい。
【0139】
上記の培地流路において、ポンプヘッドと駆動部が着脱可能であってもよい。
【0140】
上記の培地流路において、内部に培地流路及びポンプヘッドを含む培地流路用外気遮断部材が使い捨て可能であってもよい。
【0141】
上記の培地流路において、駆動部が駆動部保持部材に保持され、培地流路用外気遮断部材と駆動部保持部材が着脱可能であってもよい。
【0142】
上記の培地流路において、駆動部保持部材が培地流路用外気遮断部材から外された際に、培地流路用外気遮断部材の内外で気体の交換が生じなくともよい。
【0143】
上記の培地流路において、当該培地流路が、細胞を培養するための培養槽に接続されてもよい。
【0144】
上記の培地流路において、当該培地流路と培養槽内を培地が循環可能であってもよい。
【0145】
上記の培地流路において、当該培地流路が、培養槽と接続されることにより、当該培地流路の内部が密閉されてもよい。
【0146】
上記の培地流路において、当該培地流路が、培地を保持するための培地保持槽に接続されてもよい。
【0147】
上記の培地流路において、当該培地流路と培地保持槽内を培地が循環可能であってもよい。
【0148】
上記の培地流路において、当該培地流路が、培地保持槽と接続されることにより、当該培地流路の内部が密閉されてもよい。
【0149】
上記の培地流路において、当該培地流路内で、細胞が培養されてもよい。
【0150】
上記の培地流路において、内部が細胞非接着性であってもよい。
【0151】
上記の培地流路において、内部がタンパク質非接着性であってもよい。
【0152】
上記の培地流路において、内部が細胞接着性であってもよい。
【0153】
また、本発明の態様によれば、上記の培地流路と、培地流路内の培地及び細胞の少なくとも一方を撮影する撮影装置と、を備える、培養装置が提供される。
【0154】
上記の培養装置において、撮影装置が、テレセントリックレンズを介して細胞を撮影してもよい。
【0155】
上記の培養装置が、撮影装置で得られた画像にハイパスフィルタを適用する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0156】
上記の培養装置において、画像処理部が、ハイパスフィルタを適用した画像に分水嶺アルゴリズムを適用して、画像中の細胞又は細胞塊を抽出してもよい。
【0157】
上記の培養装置において、画像処理部が、画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、画像にDistance Transform法を適用してもよい。
【0158】
上記の培養装置において、画像処理部が、抽出した細胞又は細胞魂の大きさを算出してもよい。
【0159】
上記の培養装置において、画像処理部が、抽出した細胞又は細胞魂の数を算出してもよい。
【0160】
上記の培養装置が、培地の濁度と、培地の細胞又は細胞魂の密度と、の関係を記憶する関係記憶装置をさらに備え、撮影装置で得られた画像に基づき、培地流路内の培地の濁度の値を算出し、算出された濁度の値と、関係と、に基づき、撮影された細胞又は細胞魂の密度の値を算出する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0161】
上記の培養装置が、抽出した細胞又は細胞塊の数、及び培地流路全体の容積に対する撮影装置が撮影した領域の容積の割合から、培地流路における細胞又は細胞塊の密度の値を算出する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0162】
上記の培養装置が、培地の色と、培地のpHと、の関係を記憶する関係記憶装置をさらに備え、撮影装置で得られた画像における培地流路内の培地の色の値を算出し、算出された色の値と、関係と、に基づき、撮影された培地のpHの値を算出する画像処理部をさらに備えていてもよい。
【0163】
また、本発明の態様によれば、細胞を培養する際に使用されるプレートであって、培地成分を透過させる膜である培養成分透過部材と重ねられて使用され、開口が設けられている、プレートが提供される。
【0164】
上記のプレートが、濃色であってもよい。
【0165】
上記のプレートにおいて、開口が設けられていない部分の大きさが、細胞又は細胞からなる細胞塊の大きさより大きくてもよい。
【0166】
上記のプレートにおいて、表面が細胞接着性であってもよい。
【発明の効果】
【0167】
本発明によれば、細胞を効率よく培養可能な細胞培養器を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0168】
図1】実施形態に係る細胞培養器の分解斜視図である。
図2】実施形態に係る細胞培養器の斜視図である。
図3】実施形態に係る細胞培養器の一部の正面図である。
図4】実施形態に係る細胞培養器の一部の斜視図である。
図5】実施形態に係る細胞培養器の一部の正面図である。
図6】実施形態に係る細胞培養器の背面図である。
図7】実施形態に係る細胞培養器の分解斜視図である。
図8】実施形態に係るコンピュータの模式図である。
図9】実施形態に係る細胞塊の画像の一例である。
図10】実施形態に係る二値化処理された細胞塊の画像の一例である。
図11】実施形態に係るハイパスフィルタを適用された細胞塊の画像の一例である。
図12】実施形態に係る分水嶺アルゴリズムを適用された細胞塊の画像の一例である。
図13】実施形態に係るDistance Transform法を適用された細胞塊の画像の一例である。
図14】実施形態に係る分水嶺アルゴリズムを適用された細胞塊の画像の一例である。
図15】実施形態に係る複数領域に分割された細胞塊の画像の一例である。
図16】実施形態に係る輪郭が抽出された細胞塊の画像の一例である。
図17】実施例1に係る細胞培養器の分解斜視図である。
図18】実施例1に係る細胞培養器の斜視図である。
図19】実施例1に係る細胞塊の顕微鏡写真である。
図20】実施例1に係るiPS細胞のフローサイトメトリーの結果を示すヒストグラムである。
図21】参考例に係る細胞塊の顕微鏡写真である。
図22】参考例に係るiPS細胞のフローサイトメトリーの結果を示すヒストグラムである。
図23】参考例及び実施例2に係る細胞塊の大きさのヒストグラムである。
図24】実施例2に係る細胞塊の顕微鏡写真である。
図25】実施例2に係るiPS細胞のフローサイトメトリーの結果を示すヒストグラムである。
図26】実施例3に係る細胞塊の顕微鏡写真である。
図27】実施例3に係るiPS細胞のフローサイトメトリーの結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0169】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0170】
実施形態に係る細胞培養器は、図1に示すように、培養成分が透過可能な培養成分透過部材10と、培養成分透過部材10の一方の面を覆う、細胞含有培地を保持し、細胞を培養するための培養槽30と、培養成分透過部材10の他方の面を覆う、培地を保持するための培地保持槽40と、を備える。培養槽30内の細胞含有培地は、培養成分透過部材10に接触可能である。また、培地保持槽40内の培地は、培養成分透過部材10に接触可能である。培地保持槽40内の培地は、細胞を含有していない。
【0171】
培養成分透過部材10は、培地保持槽40内の培地の有効成分を、培養槽30内の細胞含有培地中に透過させる。また、培養成分透過部材10は、培養槽30内の細胞含有培地中の老廃物を、培地保持槽40内の培地中に透過させてもよい。培養成分透過部材10としては、例えば、半透膜及びメッシュが使用可能である。半透膜は、透析膜を含む。
【0172】
培養成分透過部材10が半透膜である場合、半透膜の分画分子量は、例えば、0.1KDa以上、10KDa以上、あるいは50KDa以上である。半透膜は、例えば、セルロースエステル、エチルセルロース、セルロースエステル類、再生セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリカーボネート、ポリアミド、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、銅アンモニウムレーヨン、鹸化セルロース、ヘモファン膜、フォスファチジルコリン膜、及びビタミンEコーティング膜等からなる。
【0173】
培養成分透過部材10がメッシュである場合、メッシュは、培養槽30内で培養される細胞又は細胞塊よりも小さい孔を有する。これにより、培養槽30内の細胞又は細胞塊が培地保持槽40内に移動することが妨げられる。メッシュの材料は、例えば樹脂及び金属であるが、特に限定されない。培養成分透過部材10の表面は、細胞非接着性であってもよい。
【0174】
実施形態に係る細胞培養器は、培養成分透過部材10を挟む、それぞれ開口が設けられた培養側プレート21及び培地側プレート22と、をさらに備えていてもよい。培養側プレート21及び培地側プレート22は、培養槽30内の細胞含有培地及び培地保持槽40内の培地の圧力により、培養成分透過部材10が変動することを抑制するよう、培養成分透過部材10を挟み込むようにして、培養成分透過部材10を保持する。これにより、圧力変動により、培養成分透過部材10が培養槽30あるいは培地保持槽40の内壁に接触することが抑制される。培養側プレート21及び培地側プレート22は、培養槽30内の細胞含有培地及び培地保持槽40内の培地から受ける圧力で変動しない硬さを有する。培養側プレート21及び培地側プレート22の材料は、例えば樹脂及び金属であるが、特に限定されない。培養側プレート21の表面は、細胞非接着性であってもよい。なお、培養成分透過部材10が培養槽30内の細胞含有培地及び培地保持槽40内の培地から受ける圧力により変動しない場合、培養側プレート21及び培地側プレート22は省略されてもよい。
【0175】
培養側プレート21には、培養槽30内の細胞含有培地が培養成分透過部材10に接することができるよう、開口が設けられている。また、培地側プレート22には、培地保持槽40内の培地が培養成分透過部材10に接することができるよう、開口が設けられている。培養側プレート21の開口を介して、培養槽30内の細胞含有培地の成分及び培地保持槽40内の培地の成分が培養成分透過部材10を透過可能である。培養側プレート21及び培地側プレート22のそれぞれに設けられた開口の形状は、例えば円であるが、特に限定されない。培養側プレート21及び培地側プレート22のそれぞれに設けられた開口は、培養成分透過部材10が変動することを抑制できる範囲内の大きさを有する。開口は、例えば、格子状に、あるいはランダムに、培養側プレート21及び培地側プレート22のそれぞれに設けられる。
【0176】
培養側プレート21は、例えば黒色等の濃色を有していてもよい。培養側プレート21が濃色を有していると、培養側プレート21を背景として、細胞含有培地中の細胞を高いコントラストで視認したり、画像化したりすることが可能である。培養側プレート21の開口が設けられていない部分の面積等の大きさが、細胞あるいは細胞塊よりも大きいと、培養側プレート21の開口が設けられていない部分を背景として細胞あるいは細胞塊を高いコントラストで視認したり、画像化したりすることが容易になる。ただし、細胞あるいは細胞塊に照射する光を調整することにより、培養成分透過部材10や培養側プレート21が透明であっても、細胞あるいは細胞塊を視認したり、画像化したりすることも可能である。
【0177】
培養槽30と、培地保持槽40と、は、ネジ、ピンあるいは電磁石等で固定されてもよい。培養槽30の接触部と、培養側プレート21の一方の面の少なくとも一部と、が密着する。培養側プレート21の他方の面の少なくとも一部と、培養成分透過部材10の一方の面の少なくとも一部と、が密着する。培養成分透過部材10の他方の面の少なくとも一部と、培地側プレート22の一方の面の少なくとも一部と、が密着する。培地側プレート22の他方の面の少なくとも一部と、培地保持槽40の接触部と、が密着する。密着させる際には、適宜、パッキン等を使用してもよい。パッキンは、例えば、培養成分透過部材10と培養槽30の間に配置されてもよい。パッキンは、培養成分透過部材10の外周と培養槽30の間に配置されてもよい。培養成分透過部材10と培養槽30の間に配置されるパッキンの外径は、培養成分透過部材10の外径より大きくてもよい。また、パッキンは、例えば、培養成分透過部材10と培地保持槽40の間に配置されてもよい。パッキンは、培養成分透過部材10の外周と培地保持槽40の間に配置されてもよい。培養成分透過部材10と培地保持槽40の間に配置されるパッキンの外径は、培養成分透過部材10の外径より大きくてもよい。
【0178】
培養槽30は、例えば、筐体31及び筐体31を覆うカバー32を備える。筐体31及びカバー32は一体化していてもよい。培養槽30の内壁には、細胞が接着しないよう、poly-HEMA(poly 2-hydroxyethyl methacrylate)等の細胞非接着性物質をコーティングして、培養槽30の内壁を細胞非接着性にしてもよい。筐体31には、培養側プレート21の開口を介して培養成分透過部材10を露出させるための開口131が設けられている。図2に示すように、培養槽30のカバー32には、培養槽30内の細胞含有培地を観察可能な窓132が設けられている。窓132の材料としては、例えば、ガラス及び樹脂が使用可能である。
【0179】
実施形態に係る細胞培養器は、窓132を加熱及び冷却するための、温度調節部を備えていてもよい。温度調節部は、窓132に配置され、窓を加熱する透明導電膜等の透明ヒーターであってもよい。あるいは、実施形態に係る細胞培養器は、培養槽30の筐体31又はカバー32を加熱及び冷却するための温度調節部を備えていてもよい。筐体31、カバー32、及び窓132のいずれかを温度調節部で温度調節することにより、培養槽30内の細胞含有培地を温度調節することが可能である。実施形態に係る細胞培養器は、培養槽30内の細胞含有培地の温度を測る温度計をさらに備えていてもよい。温度計は、細胞含有培地に接触することなく培養槽30の温度に基づいて細胞含有培地の温度を測ってもよいし、細胞含有培地に接触して細胞含有培地の温度を直接測ってもよい。この場合、細胞含有培地の温度が所定の温度となるよう、温度調節部がフィードバック制御されてもよい。細胞含有培地の温度は、例えば、20℃から45℃に調節される。
【0180】
図1に示すように、培養槽30には、培養槽30内に流体を供給するための供給口231と、培養槽30内の流体を排出するための排出口331と、が、設けられている。例えば、供給口231に、流体を供給するためのバッグ、蛇腹及びシリンジ等の供給器を接続可能な図2に示すプラグ33が挿入される。供給器は、ポンプ等の流体機械であってもよい。ただし、図1に示す供給口231に、注入装置が直接接続されてもよい。供給器は供給口231に着脱可能であり、供給器が供給口231に接続されていない場合は、供給口231は密閉可能であり、供給口231を介した培養槽30内外の流体の交換が生じない。
【0181】
プラグ33は、ニードルレスコネクターであってもよい。ニードルレスコネクターは、スプリットセプタム型であってもよいし、メカニカルバルブ型であってもよい。プラグ33がスプリットセプタム型のニードレスコネクターである場合、プラグ33は、スリットが設けられたディスク弁を備える。培養槽30内に流体を供給する際には、ディスク弁のスリットに供給器あるいは供給器に接続された流路が挿入される。スリットに供給器あるいは供給器に接続された流路が挿入されていない場合、スリットは密閉する。スリットに供給器あるいは供給器に接続された流路が挿入された場合、ディスク弁は供給器あるいは供給器に接続された流路の外周に密着する。したがって、プラグ33に供給器あるいは供給器に接続された流路が挿入された場合も、プラグ33を介して外気が培養槽30内に進入しない。ただし、プラグ33は、針が刺入されるコネクターであってもよい。
【0182】
また、例えば、排出口331に、培養槽30内の流体を排出するためのバッグ、蛇腹及びシリンジ等の排出器が接続可能な図2に示すプラグ34が挿入される。排出器は、ポンプ等の流体機械であってもよい。ただし、図1に示す排出口331に、排出器が直接接続されてもよい。排出器は、能動的に培養槽30内の流体を吸引してもよい。あるいは、排出器は、培養槽30内の圧力に応じて受動的に内部容積を増加させ、培養槽30から押し出された流体を受容してもよい。排出器は排出口331に着脱可能であり、排出器が排出口331に接続されていない場合は、排出口331は密閉可能であり、排出口331を介した培養槽30内外の流体の交換が生じない。プラグ34は、ニードルレスコネクターであってもよい。ニードルレスコネクターは、スプリットセプタム型であってもよいし、メカニカルバルブ型であってもよい。プラグ34に排出器あるいは排出器に接続された流路が挿入された場合も、プラグ34を介して外気が培養槽30内に進入しない。ただし、プラグ34は、針が刺入されるコネクターであってもよい。
【0183】
例えば、培養槽30が、培養側プレート21、培養成分透過部材10、及び培地側プレート22を間に挟んで培地保持槽40に密着している状態であり、培養槽30内に空気が入っている場合、排出口331から培養槽30内の空気を排出しながら、供給口231から培養槽30内に細胞含有培地を注入することにより、図2に示す培養槽30内に細胞含有培地を入れることが可能である。また、培養槽30内の空気層を完全になくすことも可能である。ただし、培養槽30内に空気層が残っていてもよい。培養槽30内に既に細胞含有培地が入っている場合、図1に示す排出口331から培養槽30内の細胞含有培地を排出しながら、供給口231から培養槽30内に別の細胞含有培地を注入することにより、図2に示す培養槽30内の細胞含有培地の少なくとも一部を置換することが可能である。
【0184】
実施形態に係る細胞培養器は、培養槽30を保持可能であり、培養槽30の傾きを調整可能な培養槽保持部材をさらに備えていてもよい。培養槽30の傾きを調整することにより、培養槽30内の空気等のガスを排出することが容易になる。
【0185】
培養槽30の供給口231及び排出口331は、栓等により閉塞可能である。あるいは、培養槽30の供給口231及び排出口331にそれぞれ接続されるプラグ33及びプラグ34が閉塞可能である。また、あるいは、培養槽30の供給口231は供給器に接続されることによって、外部から遮蔽され、培養槽30の排出口331は排出器に接続されることによって、外部から遮蔽されることが可能である。供給口231及び排出口331が閉塞され、図2に示すように培養槽30が培地保持槽40に密着させられた場合、培養槽30内は培養槽30外の空気から密閉される。これにより、培養槽30内に外気が進入することが抑制され、培養槽30内の細胞含有培地のpHの変化が抑制され、所定の範囲内に保たれる。細胞含有培地のpHの所定の範囲は、例えば6.0から9.0である。なお、本発明者らの知見により、細胞は、完全に閉鎖された密閉空間で培養可能であるため、培養槽30内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガス等を積極的に供給しなくともよい。そのため、培養槽30をCOインキュベーター内に配置しなくともよい。また、密閉されている培養槽30内に、培養槽30外に存在する細胞、微生物、ウイルス、及び塵等が進入しないため、培養槽30内の清浄度が保たれる。そのため、培養槽30をクリーンルーム内に配置しなくともよい。培養槽30は、ガス非透過性物質で包埋されていてもよい。換言すれば、培養槽30は、ガス非透過性物質中に埋め込まれていてもよい。
【0186】
培養槽30内で培養される細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞、胚性幹細胞(ES細胞)及び体性幹細胞等の幹細胞であってもよいし、幹細胞以外の細胞であってもよい。体性幹細胞は、間葉系幹細胞であってもよい。培養槽30内で、幹細胞が拡大培養されてもよい。培養槽30内で培養される細胞は、誘導因子が導入された細胞であって、幹細胞に誘導される細胞であってもよい。あるいは、培養槽30内で培養される細胞は、誘導因子が導入されていない細胞であり、培養槽30内の細胞含有培地に誘導因子を添加して、細胞に誘導因子を導入し、細胞を幹細胞に誘導してもよい。細胞を幹細胞に誘導することを、初期化という場合がある。幹細胞に誘導される細胞は、血液細胞であってもよい。また、培養槽30内で培養される細胞は、誘導因子が導入された細胞であって、別種の細胞に誘導される細胞であってもよい。あるいは、培養槽30内で培養される細胞は、誘導因子が導入されていない細胞であり、培養槽30内の細胞含有培地に誘導因子を添加して、細胞に誘導因子を導入し、別種の細胞に誘導してもよい。分化細胞を別種の分化細胞に誘導することを、分化転換(Transdifferentiation or Lineage reprogramming)や細胞の運命転換(Cell fate reprogramming)という場合がある。また、培養槽30内で、幹細胞が細胞に誘導されてもよい。誘導因子はRNAであってもよいし、タンパク質であってもよい。誘導因子は、例えば、プラスミド、センダイウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、及びレトロウイルスに含まれていてもよい。培養槽30内で培養される細胞は、誘導されない細胞であってもよい。培養槽30内で培養される細胞の例としては、血液系細胞、神経系細胞、心筋系細胞、上皮系細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、肝細胞、インスリン産生細胞、網膜色素上皮細胞、及び角膜細胞等が挙げられる。血液系細胞の例としては、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、メガカリオサイト、マクロファージ、顆粒球、好中球、好酸球、造血幹細胞、血液幹・前駆細胞、赤血球、白血球及び血小板が挙げられる。神経系細胞の例としては、神経細胞及びグリア細胞、オリゴデンドロサイト、神経幹細胞が挙げられる。心筋系細胞の例としては、心筋幹細胞及び心筋細胞、ペースメーカー細胞が挙げられる。上皮系細胞の例としては、ケラチノサイト、腸管上皮細胞、口腔上皮、角膜上皮細胞上皮細胞が挙げられる。間葉系細胞の例としては、真皮細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、及び軟骨細胞等が挙げられる。細胞含有培地において、細胞は、細胞塊(コロニー)を形成していてもよい。細胞はヒトを含む動物細胞であってもよいし、昆虫細胞であってもよいし、植物細胞であってもよい。
【0187】
細胞含有培地はゲル状であってもよい。この場合、細胞含有培地は、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、ラムナン硫酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物を含んでいてもよい。また、細胞含有培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチルセルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0188】
あるいは、細胞含有培地は、poly(glycerol monomethacrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypropyl methacrylate) (PHPMA)、Poly (N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)、amine terminated、carboxylic acid terminated、maleimide terminated、N-hydroxysuccinimide (NHS) ester terminated、triethoxysilane terminated、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co-octadecyl acrylate)、及びN-Isopropylacrylamideから選択される少なくの温度感受性ゲルを含んでいてもよい。
【0189】
なお、本開示において、ゲル状の培地あるいはゲル培地とは、ポリマー培地を包含する。
【0190】
図1に示す培地保持槽40には、培地側プレート22の開口を介して培養成分透過部材10を露出させるための図3に示す開口140が設けられている。開口140は、図1に示す培養成分透過部材10で覆われる。また、図3に示す培地保持槽40には、培地保持槽40内に流体を導入するための導入口240と、培地保持槽40内の流体を排出するための排出口340が設けられている。さらに、培地保持槽40内には、複数の整流板41が配置されていてもよい。複数の整流板41は、例えば、培地保持槽40の対向する内壁から、交互に突出するように配置されている。
【0191】
例えば、培地保持槽40が、図1に示す培地側プレート22、培養成分透過部材10、及び培養側プレート21を間に挟んで培養槽30に密着している状態であり、培地保持槽40内に空気が入っている場合、図3に示す排出口340から培地保持槽40内の空気を排出しながら、導入口240から培地保持槽40内に細胞培地を注入することにより、培地保持槽40内に細胞培地を入れることが可能である。また、培地保持槽40内に既に培地が入っている場合、排出口340から培地保持槽40内の細胞培地を排出しながら、導入口240から培地保持槽40内に細胞培地を注入することにより、培地保持槽40内に細胞培地を流すことが可能である。
【0192】
複数の整流板41が培地保持槽40内に配置されている場合、培地保持槽40内において、培地は、導入口240から排出口340に向かって、複数の整流板41に沿って流れる。そのため、培地の成分が、培養成分透過部材10に接触する機会が確保される。
【0193】
あるいは、図4に示すように、培地保持槽40の内壁に、図3に示す導入口240に連通する1又は複数の吐出口241を設けてもよい。図4に示す複数の吐出口241は、例えば、横一列に設けられる。複数の吐出口241の数や、配列は、均等に配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。複数の吐出口241の数や、配列は、培地の粘度等の特性に応じて設定される。図5に示すように、培地を複数の吐出口241から吐出することにより、培地保持槽40内において、培養成分透過部材10に接触する培地の均一性を向上することが可能である。
【0194】
培地保持槽40の内壁には、1又は複数の吐出口241が設けられた吐出ブロック145が挿入可能であってもよい。例えば、複数の吐出口241の数や配列等のパターンが異なる吐出ブロック145を用意して、培地や培養される細胞の特性に応じて使い分けてもよい。培地保持槽40の内壁の重力に対して上側は、上方又は下方に屈曲又は湾曲していてもよい。培地保持槽40の内壁の重力に対して下側は、上方又は下方に屈曲又は湾曲していてもよい。
【0195】
図4及び図5に示すように、培地保持槽40の内壁の複数の吐出口241近傍には、開口242が設けられていてもよい。複数の吐出口241から吐出された培地が培地保持槽40内に貯まるにつれて、培地保持槽40内の空気が開口242から外部に流出する。培地を培地保持槽40に入れた後、開口242は密閉してもよい。
【0196】
図3に示すように、培地保持槽40の導入口240と排出口340は、培地流路200で接続され、培地保持槽40と、培地流路200と、の間を培地が循環可能であってもよい。培地流路200は、樹脂チューブやシリコンチューブ等を備えていてもよい。培地流路200は、ガス非透過性物質で包埋されていてもよい。換言すれば、培地流路200は、ガス非透過性物質中に埋め込まれていてもよい。例えば、培地流路200は、樹脂、ガラス、及び金属等からなる部材中に設けられた孔であってもよい。この場合、例えば、凹部が設けられた部材同士を貼りあわせることにより、培地流路200が形成される。培地流路200には、培地を培地保持槽40内に導入し、培地を培地保持槽40内から排出するための流体機械が設けられていてもよい。流体機械は、例えば、培地を培地保持槽40内に導入するための導入用流体機械51と、培地を培地保持槽40内から排出するための排出用流体機械52と、を備える。
【0197】
図1に示す導入用流体機械51及び排出用流体機械52としては、容積式ポンプが使用可能である。容積式ポンプの例としては、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、及びダイヤフラムポンプを含む往復ポンプ、あるいは、ギアポンプ、ベーンポンプ、及びネジポンプを含む回転ポンプが挙げられる。ダイヤフラムポンプの例としては、チュービングポンプ及び圧電(ピエゾ)ポンプが挙げられる。チュービングポンプは、ペリスタルティックポンプと呼ばれる場合もある。また、様々な種類のポンプを組み合わせたマイクロ流体チップモジュールを用いてもよい。
【0198】
ペリスタポンプ(登録商標)、チュービングポンプ、及びダイヤフラムポンプ等の密閉型ポンプを用いると、図3に示す培地流路200内部の培地にポンプが直接接触することなく、送液することが可能である。あるいは、導入用流体機械51及び排出用流体機械52としては、シリンジポンプを使用してもよい。密閉型ポンプ以外のポンプであっても、加熱滅菌処理等により再利用が可能である。
【0199】
導入用流体機械51が密閉型ポンプである場合、図1に示すように、導入用流体機械51は、ポンプヘッド151と、モーター等の駆動部251と、を備える。ポンプヘッド151と、駆動部251と、は、着脱可能である。ポンプヘッド151は、チューブ等の培地流路を外側からしごくローラーを備える。駆動部251は、ポンプヘッド151のローラーを回転させる。排出用流体機械52が密閉型ポンプである場合、排出用流体機械52は、ポンプヘッド152と、モーター等の駆動部252と、を備える。ポンプヘッド152と、駆動部252と、は、着脱可能である。ポンプヘッド152は、チューブ等の培地流路を外側からしごくローラーを備える。駆動部252は、ポンプヘッド152のローラーを回転させる。
【0200】
図3に示すように、培地流路200には、培地が入ることができる培地タンク60が設けられていてもよい。培地流路200から培地タンク60に入った培地は、再び、培地流路200に流れ出ていく。培地タンク60を設けることにより、培地流路200と培地保持槽40との間を循環する培地の容量を大きくすることが可能である。
【0201】
培地タンク60には、培地タンク60内に流体を供給するための供給口と、培地タンク60内の流体を排出するための排出口と、が、設けられていてもよい。例えば、培地タンク60の供給口に、流体を供給するためのバッグ、蛇腹及びシリンジ等の供給器を接続可能な図6に示すプラグ61が挿入される。供給器は、ポンプ等の流体機械であってもよい。ただし、培地タンク60の供給口に、供給器が直接接続されてもよい。供給器は供給口に着脱可能であり、供給器が供給口に接続されていない場合は、供給口は密閉可能であり、供給口を介した培地流路200内外の流体の交換が生じない。あるいは、供給口は、供給器に接続されることによって、外部から遮蔽される。プラグ61は、ニードルレスコネクターであってもよい。ニードルレスコネクターは、スプリットセプタム型であってもよいし、メカニカルバルブ型であってもよい。プラグ61に供給器あるいは供給器に接続された流路が挿入された場合も、プラグ61を介して外気が培地タンク60内に進入しない。ただし、プラグ61は、針が刺入されるコネクターであってもよい。
【0202】
また、例えば、培地タンク60の排出口に、培地タンク60内の流体を排出するためのバッグ、蛇腹及びシリンジ等の排出器が接続可能なプラグ62が挿入される。排出器は、ポンプ等の流体機械であってもよい。ただし、培地タンク60の排出口に、排出器が直接接続されてもよい。排出器は、能動的に培地流路内の流体を吸引してもよい。あるいは、排出器は、培地流路内の圧力に応じて受動的に内部容積を増加させ、培地流路から押し出された流体を受容してもよい。排出器は排出口に着脱可能であり、排出器が排出口に接続されていない場合は、排出口は密閉可能であり、排出口を介した培地流路200内外の流体の交換が生じない。あるいは、排出口は、排出器に接続されることによって、外部から遮蔽される。プラグ62は、ニードルレスコネクターであってもよい。ニードルレスコネクターは、スプリットセプタム型であってもよいし、メカニカルバルブ型であってもよい。プラグ62に排出器あるいは排出器に接続された流路が挿入された場合も、プラグ62を介して外気が培地タンク60内に進入しない。ただし、プラグ62は、針が刺入されるコネクターであってもよい。
【0203】
例えば、図1に示す培地保持槽40が、培地側プレート22、培養成分透過部材10、及び培養側プレート21を間に挟んで培養槽30に密着している状態であり、図3に示す培地保持槽40、培地流路200及び培地タンク60内に空気が入っている場合、培地タンク60の排出口から培地保持槽40、培地流路200及び培地タンク60内の空気を排出しながら、培地タンク60の供給口から培地保持槽40、培地流路200及び培地タンク60内に培地を注入することにより、培地保持槽40、培地流路200及び培地タンク60内に培地を入れることが可能である。培地保持槽40、培地流路200及び培地タンク60内の空気層を完全になくしてもよいし、空気層が残っていてもよい。
【0204】
培地流路200に、培地が充填された供給器と空の排出器を接続し、流体機械を駆動させて、供給器から培地流路200に培地を導入させ、排出器に空気を導入させてもよい。この際、供給器が能動的に培地流路200に培地を注入してもよいし、流体機械の駆動により低圧になった培地流路200に供給器内の培地が吸引され、供給器内の内部容積が受動的に減少しもよい。また、排出器が能動的に培地流路200内の空気を吸引してもよいし、流体機械の駆動により高圧になった培地流路200内の空気が排出器に流入し、排出器の内部容積が受動的に増加してもよい。
【0205】
また、培地保持槽40、培地流路200及び培地タンク60内に既に培地が入っている場合、培地タンク60の排出口から培地タンク60内の培地を排出しながら、培地タンク60の供給口から培地タンク60内に培地を注入することにより、培地タンク60内に細胞培地を置換することが可能である。
【0206】
培地流路200に、培地が充填された供給器と空の排出器を接続し、流体機械を駆動させて、供給器から培地流路200に新しい培地を導入させ、排出器に古い培地を導入させてもよい。この際、供給器が能動的に培地流路200に新しい培地を注入してもよいし、流体機械の駆動により低圧になった培地流路200に供給器内の新しい培地が吸引され、供給器内の内部容積が受動的に減少しもよい。また、排出器が能動的に培地流路200内の古い培地を吸引してもよいし、流体機械の駆動により高圧になった培地流路200内の古い培地が排出器に流入し、排出器の内部容積が受動的に増加してもよい。
【0207】
培地流路200及び培地保持槽40内に培地を供給するための供給口と、培地流路200及び培地保持槽40内の空気を排出するための排出口は、培地流路200の培地タンク60が設けられた部分以外に設けられていてもよい。例えば、培地流路200及び培地保持槽40内に培地を供給するための供給口と、培地流路200及び培地保持槽40内の空気を排出するための排出口は、培地流路200に設けられていてもよい。
【0208】
実施形態に係る細胞培養器は、培地保持槽40、培地流路200、及び培地タンク60の少なくともいずれかを加熱及び冷却するための、温度調節部を備えていてもよい。培地保持槽40、培地流路200、及び培地タンク60のいずれかを温度調節部で温度調節することにより、培地を温度調節することが可能である。実施形態に係る細胞培養器は、培地の温度を測る温度計をさらに備えていてもよい。温度計は、培地に接触することなく培地保持槽40、培地流路200、及び培地タンク60の少なくともいずれかの温度に基づいて培地の温度を測ってもよいし、培地に接触して培地の温度を直接測ってもよい。この場合、培地の温度が所定の温度となるよう、温度調節部がフィードバック制御されてもよい。培地の温度は、例えば、4℃以上45℃以下、あるいは20℃以上45℃以下に調節される。
【0209】
図3に示すように、培地保持槽40、培地流路200、ポンプヘッド151、ポンプヘッド152、及び培地タンク60は、流路ケース70内に格納されてもよい。流路ケース70内において、培地保持槽40、培地流路200、ポンプヘッド151、ポンプヘッド152、及び培地タンク60は、ガス非透過性物質中に完全に埋め込まれていてもよい。培地流路200は、ガス非透過性物質中にトンネル状に設けられていてもよい。例えば、流路ケース70には、ポンプヘッド151に軸を挿入するための穴、ポンプヘッド152に軸を挿入するための穴、培地タンク60の供給口にプラグ61を挿入するための穴、及び培地タンク60の排出口にプラグ62を挿入するための穴が設けられている。培地タンク60の供給口にプラグ61を挿入するための穴、及び培地タンク60の排出口にプラグ62を挿入するための穴は、塞ぐことが可能であってもよい。
【0210】
図7に示すように、導入用流体機械51の駆動部251及び排出用流体機械52の駆動部252は、基板状の駆動部保持部材80に配置されてもよい。駆動部保持部材80には、培地タンク60の供給口にプラグ61を挿入するための穴、及び培地タンク60の排出口にプラグ62を挿入するための穴82が設けられている。培地タンク60の供給口にプラグ61を挿入するための穴、及び培地タンク60の排出口にプラグ62を挿入するための穴82は、塞ぐことが可能であってもよい。
【0211】
駆動部保持部材80は、図1に示すパッキン90を介して、流路ケース70に密着させられる。パッキン90は、流路ケース70と駆動部保持部材80の接触部から流路ケース70内に空気が進入することを抑制する。
【0212】
培地を培地保持槽40内に導入し、培地を培地保持槽40内から排出するための流体機械を流体機械用外気遮断部材で覆ってもよい。流体機械用外気遮断部材は、例えば、図7に示すように、駆動部保持部材80に配置された導入用流体機械51の駆動部251を覆う導入用流体機械用外気遮断部材351と、駆動部保持部材80に配置された排出用流体機械52の駆動部252を覆う排出用流体機械用外気遮断部材352と、を備える。
【0213】
流路ケース70と、駆動部保持部材80と、は、着脱可能である。駆動部保持部材80を流路ケース70に密着させ、培地タンク60の供給口にプラグ61を挿入するための穴、及び培地タンク60の排出口にプラグ62を挿入するための穴を塞ぎ、導入用流体機械51の駆動部251を導入用流体機械用外気遮断部材351で覆い、排出用流体機械52の駆動部252を排出用流体機械用外気遮断部材352で覆うと、流路ケース70内が外気から遮断され、流路ケース70内に外気が進入することができなくなる。そのため、流路ケース70内外のガスの交換が生じなくなる。したがって、培地保持槽40及び培地流路200内に外気が進入しなくなる。培地流路用外気遮断部材の少なくとも一部を構成する流路ケース70内を外気から遮断することにより、培地流路200がガス透過性のチューブであっても、培地保持槽40及び培地流路200内の培地のpHの変動を抑制し、所定の範囲内に保つことが可能となる。培地のpHの所定の範囲は、例えば6.0から9.0である。なお、本発明者らの知見により、細胞は、完全に閉鎖された密閉空間で培養可能であるため、培地保持槽40及び培地流路200内に、二酸化炭素ガス、窒素ガス、及び酸素ガス等を積極的に供給しなくともよい。そのため、培地保持槽40及び培地流路200をCOインキュベーター内に配置しなくともよい。また、密閉されている培地保持槽40及び培地流路200内に、培地保持槽40及び培地流路200外に存在する細胞、微生物、ウイルス、及び塵等が進入しないため、培地保持槽40及び培地流路200内の清浄度が保たれる。そのため、培地保持槽40及び培地流路200をクリーンルーム内に配置しなくともよい。培地保持槽40は、ガス非透過性物質で包埋されていてもよい。換言すれば、培地保持槽40は、ガス非透過性物質中に埋め込まれていてもよい。
【0214】
流路ケース70から駆動部保持部材80を外した際、培地タンク60の供給口にプラグ61を挿入するための流路ケース70の穴、及び培地タンク60の排出口にプラグ62を挿入するための流路ケース70の穴を塞ぐことにより、流路ケース70内を密閉し、流路ケース70内部の物質が外部に流出したり、流路ケース70内に外気が進入したりすることを抑制することが可能である。
【0215】
内部に培地流路200及びポンプヘッド151、152を含む流路ケース70は、使い捨て可能である。一方、駆動部251、252を保持している駆動部保持部材80は、繰り返し利用することが可能である。
【0216】
例えば、図2に示す導入用流体機械51によって培地保持槽40内に送液される培地の量と、排出用流体機械52によって培地保持槽40から排出される培地の量と、が同じになるよう、導入用流体機械51及び排出用流体機械52は制御される。導入用流体機械51及び排出用流体機械52は、培地保持槽40内に、常時、培地を送液してもよいし、適宜間隔をおいて、培地を送液してもよい。
【0217】
培地を、常時、培地保持槽40内に送液する場合、培地保持槽40内に送液される培地の流量は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、培地及び培地中の細胞塊を撮影装置で監視し、培地及び培地中の細胞塊の状態に応じて、培地保持槽40内に送液される培地の流量を増加させたり、減少させたりしてもよい。
【0218】
また、培地保持槽40内に培地を常時送液せずに、例えば、培地の状態、培地中の細胞塊の状態、細胞数、細胞塊数、培地の濁度、及びpHの変化に応じて、培地の送液の開始及び終了をしてもよい。この場合も、培地及び培地中の細胞塊の状態に応じて、送液される培地の流量を増加させたり、減少させたりしてもよい。
【0219】
攪拌されている培地中では、細胞同士がランダムに衝突し、結合して、様々な大きさの細胞塊(コロニー)が形成される場合がある。そのためコロニー間の均質性が保てない場合がある。さらに、大きすぎるコロニーにおいては、コロニーの中まで栄養や成長因子が届かず、内部から分化、細胞死してしまう場合がある。その一方で、小さすぎるコロニーは、継代培養には適さない場合がある。これに対し、図2に示す培養槽30内では、培地の流速が遅いか、培地が流動しないため、細胞同士が衝突する頻度が低い。そのため、コロニーにおいてクローナリティを維持することが可能である。したがって、例えば、細胞がiPS細胞等の幹細胞である場合、1つの体細胞由来の幹細胞のクローナリティを担保することが可能である。また、幹細胞同士が衝突する頻度が低いため、幹細胞のコロニーの大きさを均質に保つことが可能である。
【0220】
実施形態に係る細胞培養器は、培養槽30のカバー32の窓132を介して、培養槽30内の細胞含有培地を撮影する写真カメラやビデオカメラ等の撮影装置をさらに備えていてもよい。ここで、培地に無色の培地を用いると、有色の培地を用いた場合に生じうる乱反射や自家蛍光を抑制することが可能となる。ただし、培地のpHを確認するために、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいてもよい。また、未分化状態を維持している幹細胞と、分化した細胞とでは、細胞の形状及び大きさ等が異なるため、細胞培養器は、培養槽30内の細胞を撮影することにより、細胞の分化状態を監視する分化状態監視装置をさらに備えていてもよい。
【0221】
シャーレのような平らなディッシュ上で細胞を培養している場合は、細胞の存在範囲は、平面的に広がる。そのため、撮影装置のレンズの光軸がディッシュ面と直交するよう、撮影装置とシャーレを配置すれば、シャーレ上のほぼ全ての細胞に焦点を合わせることが可能である。
【0222】
しかし、培養槽30内で細胞を培地の中に浮遊させて浮遊培養を行う場合、細胞の存在範囲が3次元的に広がるため、撮影装置から各細胞までの光軸方向の距離にばらつきが生じる。そのため、全ての細胞に焦点を合わせることが困難になりうる。
【0223】
これに対し、明るいレンズ(F値の小さいレンズ)を用いたり、明るい照明を被測定対象物に照射しつつ、レンズの絞りをできるだけ絞って撮像したりすることにより、被写界深度を深くすることが可能である。
【0224】
あるいは、レンズの焦点位置を少しずつ変化させながら複数枚の画像を撮像し、撮像した複数枚の画像を合成して、擬似的に深く焦点の合った画像を得てもよい。また、複数枚の画像のそれぞれは、焦点の合った細胞のと、焦点が合っていないぼやけた細胞と、が交ざった画像になる。そのため、複数枚の画像から焦点の合った部分画像を集めて、1枚の合成画像を生成してもよい。
【0225】
また、例えば、テレセントリックレンズを介して細胞を撮影してもよい。テレセントリックレンズは、細胞等の被写体からレンズ絞りの中心を通る主光線をレンズ光軸と平行にするため、撮影装置から培養槽30内の複数の細胞のそれぞれまでの距離が一様でなくても、撮像される細胞の大きさが距離に応じて変化しない。
【0226】
撮影装置で培養槽30内の細胞を撮像する場合、撮影装置の光軸に対して垂直な方向、あるいは垂直な方向から撮影装置に近い方向に照明光源を配置し、当該照明光源から培養槽30内の細胞に照明光を照射する散乱光照明法を用いるとよい。これにより、細胞に当たった照明光による散乱光は撮影装置に届くが、細胞に当たらなかった照明光は撮影装置には届かなくなる。そのため、画像において培地の部分が相対的に暗くなり、細胞の部分が相対的に明るくなる。ただし、画像において細胞を認識できれば、照明法はこれに限定されない。
【0227】
実施形態に係る細胞培養器は、図8に示すように、培養槽30の前に配置された撮影装置が撮像した画像を画像処理する画像処理部501を備える中央演算処理装置(CPU)500を備えていてもよい。CPU500には、キーボード及びマウス等の入力装置401、並びにモニター等の出力装置402が接続されていてもよい。CPU500は、バス及び画像インターフェース等を介して、図2に示す培養槽30の前に配置された撮影装置から画像を受け取る。
【0228】
図8に示す画像処理部501は、細胞の画像において、細胞又は細胞塊の輪郭を定義する輪郭定義部511を備えていてもよい。図9は、マクロズームレンズ等を介して拡大して撮像されたiPS細胞塊の画像の一例である。図9に示す画像において、白い塊に見える部分がiPS細胞塊であり、背景の暗い部分が培地である。
【0229】
ここで、図9に示す画像が8ビットのグレースケール画像である場合、所定の閾値以上の輝度の値を有する画素の輝度の値を例えば255のような最高輝度の値にし、所定の閾値未満の輝度の値を有する画素の輝度の値を例えば0のような最低輝度の値に置き換える二値化処理を画像に加えると、図10に示すように、培地の部分のみならず、細胞又は細胞塊の内部も最低輝度の黒となり、細胞又は細胞塊の内部と、培地の部分と、が連結した部分が生じうる。そのため、二値化処理では、細胞又は細胞塊を抽出できない場合がある。
【0230】
これに対し、図8に示す輪郭定義部511は、細胞の画像に、空間周波数に含まれる所定の周波数以上の高周波成分を通過させ、所定の周波数未満の低周波成分をブロックし、輝度値を例えば0のような最低値にするハイパスフィルタを適用する。細胞の画像において、細胞又は細胞塊の部分においては、空間周波数に含まれる高周波成分が多く、培地の部分においては、空間周波数に含まれる高周波成分が少ない。そのため、図11に示すように、ハイパスフィルタを適用された細胞の画像においては、培地の部分の輝度の値が、例えば0のような最低値となり、細胞又は細胞塊の部分においては、輝度の値が培地の部分と比較して相対的に大きな値となる。そのため、輝度が最低値とならなかった部分を、細胞又は細胞塊であるとみなすことが可能である。
【0231】
ここで、図11に示す画像において、輝度が最低値とならなかった部分をブロブ(Blob)として、ブロブ解析により検出しても、例えば、互いに接している2つの細胞又は細胞塊を、1つの細胞又は細胞塊として認識してしまう場合がある。
【0232】
これに対し、図8に示す輪郭定義部511は、ハイパスフィルタを適用した画像に、分水嶺アルゴリズムを適用する。分水嶺アルゴリズムは、画像の輝度勾配を山の起伏と見なし、山の高い位置(輝度値の大きい位置又は小さい位置)から低い位置(輝度値の小さい位置又は大きい位置)へと流れ込む水の作る区域を1つの領域とするように、画像の分割を行う。
【0233】
例えば、輪郭定義部511は、画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、画像にDistance Transform法で変換する。Distance Transform法とは、画像の各画素の輝度の値を、直近の背景画素までの距離に応じて置換する画像変換の方法である。例えば、図12(a)に示すように、ハイパスフィルタを適用した画像において、培地の領域の輝度値を、一括して最高輝度値である255に変換し、図12(b)に示すように白の背景にする。さらに、細胞領域内部の各画素の輝度の値を、直近の背景画素までの距離に応じて、0以上255未満に変換する。例えば、直近の背景画素から離れるほど、輝度の値を低くする。
【0234】
次に、輪郭定義部511は、Distance Transform法で変換された画像に、分水嶺アルゴリズムを適用する。図12(b)に示す画像において、輝度の低い暗い部分を山の嶺とみなし、画像に対して垂直方向上から水を落としたときに、図12(c)の矢印に示すように、水がどのように流れて行くかを推測し、図12(c)の破線に示すように、様々な方向から流れてきた水がぶつかる箇所を谷とみなし、当該谷の底において、細胞領域を分割する。
【0235】
図11に示す画像の細胞領域の画素を、Distance Transform法で変換すると、図13で示す画像が得られる。図13で示す画像に分水嶺アルゴリズムを適用すると、図14に示す画像が得られる。得られた分割線を図9に示す元の画像に重ねると、図15に示す画像が得られる。図15において、分割線で分割された各領域に存在する細胞又は細胞塊は、複数の細胞又は細胞塊が接した塊ではなく、1個の細胞又は細胞塊であるとみなすことが可能である。そのため、各領域において、図16に示すように、細胞又は細胞塊の輪郭を抽出することにより、1個の細胞又は細胞塊を正確に抽出することが可能となる。
【0236】
図8に示す画像処理部501は、細胞評価部512をさらに備えていてもよい。細胞評価部512は、輪郭定義部511が抽出した1個の細胞又は細胞塊の大きさ等を評価する。例えば、細胞評価部512は、輪郭定義部511が抽出した1個の細胞又は細胞塊の面積を算出する。さらに、例えば、1個の細胞塊の形状が略円形とみなせる場合、細胞評価部512は、下記(1)式を用いて、面積から、1個の細胞又は細胞塊の直径を算出する。
D=2(s/π)1/2 (1)
ここで、Dは直径、Sは面積を表す。
【0237】
細胞塊が大きく成長しすぎると、培地中に含まれる栄養やホルモンが内部に行き届かず、細胞が分化してしまう場合がある。また、細胞塊が小さすぎる状態のまま培養すると、細胞死や核型異常が生じる場合がある。したがって、細胞評価部512は、個々の細胞塊の大きさが適切な範囲外になった場合、警告を発してもよい。また、細胞評価部512は、個々の細胞塊の大きさが所定の閾値以上になった場合、継代するタイミングであることを出力してもよい。さらに、算出された細胞塊の大きさに応じて、細胞培養器の流体機械を制御して、培地流路における培地の循環速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の大きさが大きくなるにつれて、培地の循環速度を上昇させてもよい。
【0238】
画像処理部501は、画像処理された画像から得られる情報を統計処理する統計処理部513をさらに備えていてもよい。統計処理部513は、例えば、輪郭定義部511が抽出した細胞塊について、例えば、サイズの度数分布を計算したり、ヒストグラムを作成したりしてもよい。また、統計処理部513は、細胞の情報を連続的、かつ定期的に取得することにより、細胞塊の成長度、数、及び密集度等を算出してもよい。これにより、細胞塊の状態を定量的に把握することが可能であり、培養結果を安定化させることが可能である。また、算出された細胞塊の数に応じて、細胞培養器の流体機械を制御して、培地流路における培地の循環速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の数が増えるにつれて、培地の循環速度を上昇させてもよい。
【0239】
画像処理部501は、培地の画像から培地の濁度を算出し、培地の濁度に基づき、培地中の細胞又は細胞塊の密度を算出する密度算出部514をさらに備えていてもよい。
【0240】
例えば、CPU500には、揮発性メモリ、又は不揮発性メモリ等を備える関係記憶装置403が接続されている。関係記憶装置403は、例えば、予め取得された、培地の濁度と、培地中の細胞又は細胞塊の密度と、の関係を保存する。密度算出部514は、関係記憶装置403から、濁度と密度の関係を読み出す。さらに、密度算出部514は、培地の画像から算出した培地の濁度の値と、濁度と密度の関係と、に基づいて、培地中の細胞又は細胞塊の値の密度を算出する。これにより、培地から細胞塊を採取することなく、非破壊的に、培養槽30内の細胞又は細胞塊の密度を測定することが可能である。あるいは密度算出部514は、培地の濁度は用いずに、抽出された細胞又は細胞塊の数と、培養槽30全体の容積に対する撮影装置が実際に撮影した領域の容積の割合から、培地における細胞又は細胞塊の密度の値を算出してもよい。
【0241】
また、密度算出部514は、細胞又は細胞塊の密度が所定の閾値以上になった場合、継代するタイミングであることを出力してもよい。さらに、密度算出部514は、培地中の細胞又は細胞塊の密度を経時的に算出し、細胞塊の増殖速度を算出してもよい。異常な増殖速度は、細胞が異常であることを表す場合がある。例えば、密度算出部514は、異常な増殖速度が算出された場合は、警告を発する。この場合、細胞の培養を中止してもよい。
【0242】
培地中の細胞又は細胞塊の密度が高くなり、細胞塊同士の距離が近くなりすぎると、複数の細胞又は細胞塊同士が接着して一つの大きな細胞塊となる場合がある。大きな細胞塊においては、培地中に含まれる栄養やホルモンが内部に行き届かず、内部の細胞が分化してしまう場合がある。反面、培地中の細胞又は細胞塊の密度が好適な範囲より低いと、細胞塊の成長速度、及び細胞塊の形成能が著しく減少する場合がある。
【0243】
これに対し、密度算出部514によれば、細胞又は細胞塊の密度を算出することが可能であるため、細胞又は細胞塊の密度が好適な範囲内にあるか否かを容易に判断することが可能である。細胞又は細胞塊の密度が好適な範囲より低くなった場合は、例えば培養を中止する判断をしてもよい。さらに、算出された細胞又は細胞塊の密度に応じて、細胞培養器の流体機械を制御して、培地流路における培地の循環速度を変化させてもよい。例えば、細胞又は細胞塊の密度が増えるにつれて、培地の循環速度を上昇させてもよい。
【0244】
画像処理部501は、細胞培養器の培養槽30内の細胞を培養している培地の画像に基づいて、培地の評価をする培地評価部515をさらに備えていてもよい。培地評価部515は、例えば、培地の画像を画像処理して、HSVによって、培地の色を、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)の3つパラメーターで表現する。このうち、色相は、一般に「色合い」とか「色味」といわれる概念に対応するパラメーターである。色相は、一般に、角度の単位で表現される。
【0245】
例えば、関係記憶装置403は、予め取得された、培地の色相と、培地のpHと、の関係を保存する。培地評価部515は、関係記憶装置403から、色相とpHの関係を読み出す。さらに培地評価部515は、培地の画像から算出した培地の色相の値と、色相とpHの関係と、に基づいて、撮影された培地のpHの値を算出する。例えば、培地評価部515は、経時的に培地の画像を取得し、培地のpHの値を算出してもよい。
【0246】
培地評価部515は、図2に示す培養槽30内の細胞を培養している培地の色相又は培地のpHが所定の範囲以外になった場合、培地保持槽40に保持される培地の交換を促進すると判断したり、培地においてコンタミネーションが生じていると判断したりしてもよい。なお、培地を交換するとは、培地を一部置換することや、補充することも含む。
【0247】
さらに、図8に示す培地評価部515は、培養槽30内の細胞を培養している培地の色相の変化速度から、細胞の増殖速度を算出してもよい。例えば、関係記憶装置403は、予め取得された、培地の色相の変化速度と、細胞の増殖速度と、の関係を保存する。培地評価部515は、関係記憶装置403から、色相の変化速度と増殖速度の関係を読み出す。さらに、培地評価部515は、算出された色相の変化速度の値と、色相の変化速度と増殖速度の関係と、に基づいて、細胞の増殖速度の値を算出する。
【0248】
実施形態に係る細胞培養器によれば、例えば、完全閉鎖系で細胞が培養されるため、培養装置からの細胞の漏れ出しによるクロスコンタミネーションのリスクを低減することが可能である。また、例えば、細胞がHIV肝炎ウイルス等のウイルスに感染している場合であっても、細胞の漏れ出しによるオペレーターへの感染のリスクを低減することが可能である。さらに、細胞培養器内の培地が、細胞培養器外の空気中の細菌、ウイルス及びカビ等にコンタミネーションするリスクを低減することが可能である。またさらに、実施形態に係る細胞培養器によれば、COインキュベーターを用いることなく、細胞を培養することも可能である。
【0249】
上記のように、本発明を実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施形態及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、培地の循環が不要な場合は、図3に示す培地保持槽40に培地流路200を接続しなくともよい。また、実施形態に係る細胞培養器の培養槽30内で、血液細胞等の分化細胞を幹細胞にリプログラミングしたり、幹細胞を神経細胞等の分化細胞に誘導したりしてもよい。また、培養槽30内で細胞は浮遊培養されてもよいし、接着培養されてもよい。細胞が接着培養される場合、図1に示す培養側プレート21の表面が細胞接着性であってもよいし、培養成分透過部材10の表面が細胞接着性であってもよい。また、培地流路が培地保持槽や培養槽に接続されずに使用され、培地流路内で細胞を培養してもよい。この場合、培地流路内で培養されている細胞や培地を観察してもよい。この様に、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。
【実施例
【0250】
(実施例1)
図17及び図18に示すように、半透膜110(旭化成株式会社又はSPECTRUM)を、培養側プレート21及び培地側プレート22で挟み、さらに、半透膜110、培養側プレート21及び培地側プレート22を、培養槽30及び培地保持槽40で挟み込んだ。
【0251】
20%の代替血清(KnockOut SR、登録商標、Gibco)を含むDMEM/F12をゲル化してゲル培地を作製した。ゲル培地にシングルセルにされたiPS細胞を2×10個/mLを添加して、細胞含有培地を調製した。
【0252】
細胞含有培地をシリンジに入れ、シリンジをプラグ33を介して培養槽30の供給口231に接続した。また、空のシリンジをプラグ34を介して培養槽30の排出口331に接続した。次に、培養槽30の供給口231から培養槽30内に、シリンジ内の細胞含有培地を注入した。培養槽30内の圧力上昇により、排出口331に接続されたシリンジのピストンが受動的に上昇し、培養槽30内の空気は、培養槽30の排出口331に接続されたシリンジ内に移動した。培養槽30内の空気層が完全になくなるまで、培養槽30内に細胞含有培地を注入した。その後、培養槽30の供給口231及び排出口331を遮蔽した。
【0253】
ゲル培地をシリンジに入れ、シリンジをプラグ61を介して培地保持槽40の導入口240に接続した。また、空のシリンジをプラグ62を介して培地保持槽40の排出口340に接続した。次に、培地保持槽40の導入口240から培地保持槽40内に、シリンジ内のゲル培地を注入した。培地保持槽40内の圧力上昇により、培地保持槽40の排出口340に接続されたシリンジが受動的に上昇し、培地保持槽40内の空気は、培地保持槽40の排出口340に接続されたシリンジ内に移動した。培地保持槽40内の空気層が完全になくなるまで、培地保持槽40内にゲル培地を注入した。その後、培地保持槽40の導入口240及び排出口340を遮蔽した。これにより、培養槽30及び培地保持槽40内部を密閉し、培養槽30及び培地保持槽40の内部と外部とで、ガス交換が完全に生じないようにした。
【0254】
培養槽30内でiPS細胞の浮遊培養を開始した。その後、2日に一度、培地保持槽40内の2mLのゲル培地を、2mLの新鮮なゲル培地に交換した。培養槽30内での培養を開始してから7から10日後、培養槽30内の細胞含有培地をシリンジで排出し、ゲル培地中に形成されたiPS細胞の細胞塊をフィルターを用いて回収し、PBSで洗浄し、ファルコンチューブに入れた。さらに、細胞塊に500μLの細胞解離酵素(TrypLE Select、Thermo Fisher)を添加し、COインキュベーター内で細胞塊を5分間インキュベートした。次に、インキュベーターからファルコンチューブを取り出し、ファルコンチューブ内に500μLの細胞培地を入れ、細胞塊を懸濁して、iPS細胞をシングルセルにした。ファルコンチューブ内に2mLの細胞培地を添加し、遠心機を用いて200gでファルコンチューブを遠心した。遠心後、ファルコンチューブ内の上清を除去し、iPS細胞とゲル培地をファルコンチューブに入れて、細胞含有培地を調製した。その後、上記と同様に、細胞含有培地を培養槽30に注入し、2日に一度、培地保持槽40内の2mLのゲル培地を交換しながら、7から10日間、iPS細胞を浮遊培養した。
【0255】
以後、上記と同様に、継代及び7から10日間の浮遊培養を繰り返し、合計して1か月以上、iPS細胞を密閉された培養槽30内で浮遊培養した。
【0256】
培養槽30で培養したiPS細胞を顕微鏡で観察したところ、図19に示すように、いずれも、均一な細胞塊を形成していることが確認された。
【0257】
また、継代時に、一部のシングルセルのiPS細胞を分注し、4%-パラホルムアルデヒドを用いてiPS細胞を固定した。さらに、フローサイトメーターを用いて、固定されたiPS細胞における細胞表面抗原TRA-1-60の発現量を測定した。TRA-1-60は、多能性幹細胞の代表的な表面抗原であり、分化した細胞では発現量が減少することが知られている。
【0258】
その結果、図20に示すように、培養開始から39日目におけるiPS細胞は、90%以上TRA-1-60陽性であった。したがって、容器を密閉すると、容器内の二酸化炭素濃度を制御せずとも、幹細胞を長期間にわたって、未分化状態で多能性を保ちながら培養できることが示された。
【0259】
(参考例)
実施例1と同様にゲル培地を作製した。ゲル培地にシングルセルにされたiPS細胞を添加した。15mLファルコンチューブ(Falcon)にiPS細胞を含むゲル培地を入れた。その後、ファルコンチューブのキャップを固く締めた。
【0260】
ファルコンチューブを二酸化炭素濃度が5%のインキュベーター内に配置し、iPS細胞の浮遊培養を開始した。その後、2日に一度、ファルコンチューブのキャップを開け、2mLのゲル培地をファルコンチューブ内に追加した。ゲル培地を追加した後は、上記のとおり、キャップを締めた。
【0261】
ファルコンチューブ内での培養を開始してから7から10日後、ファルコンチューブのキャップを開け、ゲル培地中に形成されたiPS細胞の細胞塊をフィルターを用いて回収し、PBSで洗浄し、ファルコンチューブに入れた。さらに、細胞塊に500μLの細胞解離酵素を添加し、COインキュベーター内で細胞塊を5分間インキュベートした。次に、インキュベーターからファルコンチューブを取り出し、ファルコンチューブ内に500μLの幹細胞培地を入れ、細胞塊を懸濁して、iPS細胞をシングルセルにした。ファルコンチューブ内に2mLのiPS培地を添加し、遠心機を用いて200gでファルコンチューブを遠心した。遠心後、ファルコンチューブ内の上清を除去し、iPS細胞とゲル培地をファルコンチューブに入れた。その後、上記と同様に、2日に一度ゲル培地を追加しながら、7から10日間、iPS細胞を密閉されたファルコンチューブ内で浮遊培養した。
【0262】
以後、上記と同様に、継代及び7から10日間の浮遊培養を繰り返し、合計して1か月以上、iPS細胞を密閉されたファルコンチューブ内で浮遊培養した。
【0263】
ファルコンチューブ内で培養したiPS細胞を顕微鏡で観察したところ、図21に示すように、いずれも、細胞塊を形成していることが確認された。また、実施例1と同様に、フローサイトメーターを用いて、iPS細胞における細胞表面抗原TRA-1-60の発現量を測定したところ、図22に示すように、iPS細胞は、ほぼ100%TRA-1-60陽性であった。ファルコンチューブ内で培養したiPS細胞の細胞塊の大きさと個数を測定した。結果を図23に示す。
【0264】
(実施例2)
実施例1と同様に細胞含有培地を調製した。また、図2に示した細胞培養器と同様の細胞培養器を用意した。培養槽30内の空気層が完全になくなるまで、培養槽30内に細胞含有培地を注入した。その後、培養槽30の供給口及び排出口を遮蔽した。また、培地保持槽40、培地流路200、及び培地タンク60をゲル培地で充填した。その後、培地タンク60の導入口及び排出口を遮蔽した。これにより、培養槽30及び培地保持槽40内部を密閉し、培養槽30及び培地保持槽40の内部と外部とで、ガス交換が完全に生じないようにした。
【0265】
培地保持槽40、培地流路200、及び培地タンク60内でゲル培地を循環させ、培養槽30内でiPS細胞の浮遊培養を開始した。その後、2から6日に一度、培地タンク60内の10mLのゲル培地を、10mLの新鮮なゲル培地に交換した。培養槽30内での培養を開始してから7から10日後、培養槽30内の細胞含有培地をシリンジで排出し、実施例1と同様の継代処理をして、上記と同様に、細胞含有培地を培養槽30に注入し、4日に一度、培地タンク60内の10mLのゲル培地を交換しながら、7から10日間、iPS細胞を浮遊培養した。
【0266】
以後、上記と同様に、継代及び7から10日間の浮遊培養を繰り返し、合計して1か月以上、iPS細胞を密閉された培養槽30内で浮遊培養した。
【0267】
培養槽30で培養したiPS細胞を顕微鏡で観察したところ、図24に示すように、いずれも、均一な細胞塊を形成していることが確認された。また、実施例1と同様に、フローサイトメーターを用いて、iPS細胞における細胞表面抗原TRA-1-60の発現量を測定したところ、図25に示すように、培養開始から15日目におけるiPS細胞は、ほぼ100%TRA-1-60陽性であった。
【0268】
図2に示した細胞培養器と同様の細胞培養器内で培養したiPS細胞の細胞塊の大きさと個数を測定した。結果を図23に示す。参考例と比較して、クランプ数が多いことが確認された。したがって、細胞培養器を用いると、細胞の生存率が向上し、成長速度が促進されることが示された。
【0269】
(実施例3)
増殖因子を培地(StemSpan H3000、登録商標、STEMCELL Technologies Inc.)に添加し、さらに培地に脱アシル化ゲランガムを添加して、ゲル培地を用意した。
【0270】
用意したゲル培地を15mLチューブに入れ、ゲル培地に2×10個の血液細胞を播種した。その後、15mLチューブをCOインキュベーター内に配置し、7日間、血液細胞(単核球)を培養した。その後、ゲル培地にOCT3/4、SOX2、KLF4、cMYCを搭載するセンダイウイルスベクター(CytoTune-iPS2.0、株式会社IDファーマ)を感染多重度(MOI)が10.0となるよう添加し、血液細胞をセンダイウイルスに感染させた。
【0271】
ゲル培地にセンダイウイルスを添加した後、ゲル培地に15mLのゲル化した幹細胞培地(20%KnockOut SR(登録商標、ThermoFisher SCIENTIFIC)を含むDMEM/F12)を添加し、そのうち15mLのセンダイウイルスに感染した細胞を含む培地を図17及び図18に示す培養槽30に入れ、ゲル培地を培地保持槽40に注入した。実施例1と同様に、培養槽30及び培地保持槽40内部を密閉し、培養槽30及び培地保持槽40の内部と外部とで、ガス交換が完全に生じないようにした。
【0272】
培養槽30内で初期化因子を導入された細胞の浮遊培養を開始した。その後、2日に一度、培地保持槽40内の2mLのゲル培地を、2mLの新鮮なゲル培地に交換した。
【0273】
15日後、細胞を顕微鏡で観察したところ、図26に示すように、ES細胞様コロニーを形成していることが確認された。また、4%-パラホルムアルデヒドを用いて細胞を固定し、フローサイトメーターを用いて、固定された細胞における細胞表面抗原TRA-1-60の発現量を測定したところ、図27に示すように、90%以上TRA-1-60陽性であり、ほぼ完全にリプログラミングされていることが確認された。したがって、完全に閉鎖された環境下において、培地交換及びガス交換をすることなく、幹細胞以外の体細胞からiPS細胞を誘導できることが示された。
【符号の説明】
【0274】
10・・・培養成分透過部材、21・・・培養側プレート、22・・・培地側プレート、30・・・培養槽、31・・・筐体、32・・・カバー、33・・・プラグ、34・・・プラグ、40・・・培地保持槽、41・・・整流板、51・・・導入用流体機械、52・・・排出用流体機械、60・・・培地タンク、61・・・プラグ、62・・・プラグ、70・・・流路ケース、80・・・駆動部保持部材、82・・・穴、90・・・パッキン、110・・・半透膜、131・・・開口、132・・・窓、140・・・開口、145・・・吐出ブロック、151・・・ポンプヘッド、152・・・ポンプヘッド、200・・・培地流路、231・・・供給口、240・・・導入口、241・・・吐出口、242・・・開口、251・・・駆動部、252・・・駆動部、331・・・排出口、340・・・排出口、351・・・導入用流体機械用外気遮断部材、352・・・排出用流体機械用外気遮断部材、401・・・入力装置、402・・・出力装置、403・・・関係記憶装置、501・・・画像処理部、511・・・輪郭定義部、512・・・細胞評価部、513・・・統計処理部、514・・・密度算出部、515・・・培地評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
図18
図19
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図21
図22
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図27