(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】細胞培養管理システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
C12M1/00 C
(21)【出願番号】P 2019012410
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】516132301
【氏名又は名称】インテグリカルチャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 一公
(72)【発明者】
【氏名】羽生 雄毅
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533979(JP,A)
【文献】特開2015-100309(JP,A)
【文献】特開2016-071578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/00
C12N 1/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ管理装置と、
第1の細胞を培養するための第1の培養装置に備えられた出力データサーバーと、
第2の細胞を培養するための第2の培養装置に備えられた顧客サーバーと、
第2の細胞を保存している細胞管理庫に備えられた細胞管理サーバーと、
を備えた細胞培養管理システムであって、
データ管理装置と、出力データサーバー、顧客サーバー、及び細胞管理サーバーとはそれぞれ送受信可能に接続されており、
前記出力データサーバーは、
第1の細胞を培養するための第1のプロトコールを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、
前記顧客サーバーは、
第2の細胞を得るための注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置に送信するための1つまたはそれ以上の送信手段と、
第2の細胞を培養するための第2のプロトコールを前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有し、
前記データ管理装置は、
前記出力データサーバーから前記第1のプロトコールを受信するための受信手段と、前記顧客サーバーから前記注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を受信するための受信手段と、
前記出力データサーバーから受信した前記第1のプロトコールと、前記顧客サーバーから受信した前記第2のプロトコールと、前記注文情報と、前記第2の培養装置の位置情報と、を記憶する1つまたはそれ以上の記憶手段を有し、
前記細胞管理サーバーは、
前記注文情報と、前記第2の
培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有する
細胞培養管理システム。
【請求項2】
前記出力データサーバーは、前記データ管理装置から第3の細胞を培養するための第3のプロトコールを受信するための受信手段を有する、請求項1に記載の細胞培養管理システム。
【請求項3】
前記顧客サーバーは、第2の培養装置に設置された細胞センサーから得られる実測培養データを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、
前記データ管理装置は、
前記顧客サーバーから送信された前記実測培養データを受信するための受信手段と、
前記顧客サーバーから受信した前記実測培養データを記憶する記憶手段と、
を有する、請求項1または2に記載の細胞培養管理システム。
【請求項4】
前記細胞管理サーバーは、
前記細胞管理庫に存在する細胞の在庫情報を記憶するための記憶手段と、
前記在庫情報を前記データ管理装置に送信するための送信手段と、
を有し、
前記データ管理装置は、
前記細胞管理サーバーから送信された前記在庫情報を受信するための受信手段と、
受信した前記在庫情報を記憶するための記憶手段と、
を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養管理システム。
【請求項5】
第1の細胞を培養するための第1の培養装置に備えられた出力データサーバーと、
第2の細胞を培養するための第2の培養装置に備えられた顧客サーバーと、
第2の細胞を保存している細胞管理庫に備えられた細胞管理サーバーと、
を備えた細胞培養管理システムであって、
前記出力データサーバー、前記顧客サーバー、及び前記細胞管理サーバーは、それぞれデータ管理装置と送受信可能に接続されており、
前記出力データサーバーは、
第1の細胞を培養するための第1のプロトコールを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、
前記顧客サーバーは、
第2の細胞を得るための注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置に送信するための1つまたはそれ以上の送信手段と、
第2の細胞を培養するための第2のプロトコールを前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有し、
前記細胞管理サーバーは、
前記注文情報と、前記第2の培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有する
細胞培養管理システム。
【請求項6】
前記出力データサーバーは、前記データ管理装置から第3の細胞を培養するための第3のプロトコールを受信するための受信手段を有する、請求項5に記載の細胞培養管理システム。
【請求項7】
前記顧客サーバーは、第2の培養装置に設置された細胞センサーから得られる実測培養データを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、
前記データ管理装置は、
前記顧客サーバーから送信された前記実測培養データを受信するための受信手段と、
前記顧客サーバーから受信した前記実測培養データを記憶する記憶手段と、
を有する、請求項5または6に記載の細胞培養管理システム。
【請求項8】
前記細胞管理サーバーは、
前記細胞管理庫に存在する細胞の在庫情報を記憶するための記憶手段と、
前記在庫情報を前記データ管理装置に送信するための送信手段と、
を有し、
前記データ管理装置は、
前記細胞管理サーバーから送信された前記在庫情報を受信するための受信手段と、
受信した前記在庫情報を記憶するための記憶手段と、
を有する、請求項5~7のいずれか1項に記載の細胞培養管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長期間の臓器機能維持や成長を目的として、様々な種類の培養装置や培養方法が開発されている。例えば、特許文献1には、成長段階ごとのサイトカイン添加を必要とすることなく成長を誘導することができる成長誘導システム、成長誘導制御装置、成長誘導制御方法、および、成長誘導制御プログラムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2017/191691パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、そのような細胞培養システムを個別に配置した場合に、全体として管理できるシステムはこれまでになかった。
【0005】
そこで、本発明は、新規な細胞培養管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、データ管理装置と、第1の細胞を培養するための第1の培養装置に備えられた出力データサーバーと、第2の細胞を培養するための第2の培養装置に備えられた顧客サーバーと、第2の細胞を保存している細胞管理庫に備えられた細胞管理サーバーと、を備えた細胞培養管理システムであって、データ管理装置と、出力データサーバー、顧客サーバー、及び細胞管理サーバーとはそれぞれ送受信可能に接続されており、前記出力データサーバーは、第1の細胞を培養するための第1のプロトコールを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、前記顧客サーバーは、第2の細胞を得るための注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置に送信するための1つまたはそれ以上の送信手段と、第2の細胞を培養するための第2のプロトコールを前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有し、前記データ管理装置は、前記出力データサーバーから前記第1のプロトコールを受信するための受信手段と、前記顧客サーバーから前記注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を受信するための受信手段と、前記出力データサーバーから受信した前記第1のプロトコールと、前記顧客サーバーから受信した前記第2のプロトコールと、前記注文情報と、前記第2の培養装置の位置情報と、を記憶する1つまたはそれ以上の記憶手段を有し、前記細胞管理サーバーは、前記注文情報と、前記第2のバイオリアクターの位置情報と、を前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有する細胞培養管理システムである。前記出力データサーバーは、前記データ管理装置から第3の細胞を培養するための第3のプロトコールを受信するための受信手段を有してもよい。前記顧客サーバーは、第2の培養装置に設置された細胞センサーから得られる実測培養データを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、前記データ管理装置は、前記顧客サーバーから送信された前記実測培養データを受信するための受信手段と、前記顧客サーバーから受信した前記実測培養データを記憶する記憶手段と、を有してもよい。前記細胞管理サーバーは、前記細胞管理庫に存在する細胞の在庫情報を記憶するための記憶手段と、前記在庫情報を前記データ管理装置に送信するための送信手段と、を有し、前記データ管理装置は、前記細胞管理サーバーから送信された前記在庫情報を受信するための受信手段と、受信した前記在庫情報を記憶するための記憶手段と、を有してもよい。
【0007】
本発明の他の実施態様は、第1の細胞を培養するための第1の培養装置に備えられた出力データサーバーと、第2の細胞を培養するための第2の培養装置に備えられた顧客サーバーと、第2の細胞を保存している細胞管理庫に備えられた細胞管理サーバーと、
を備えた細胞培養管理システムであって、前記出力データサーバー、前記顧客サーバー、及び前記細胞管理サーバーは、それぞれデータ管理装置と送受信可能に接続されており、前記出力データサーバーは、第1の細胞を培養するための第1のプロトコールを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、前記顧客サーバーは、第2の細胞を得るための注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置に送信するための1つまたはそれ以上の送信手段と、第2の細胞を培養するための第2のプロトコールを前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有し、前記細胞管理サーバーは、前記注文情報と、前記第2の培養装置の位置情報と、を前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有する細胞培養管理システムである。前記出力データサーバーは、前記データ管理装置から第3の細胞を培養するための第3のプロトコールを受信するための受信手段を有してもよい。前記顧客サーバーは、第2の培養装置に設置された細胞センサーから得られる実測培養データを前記データ管理装置に送信するための送信手段を有し、前記データ管理装置は、前記顧客サーバーから送信された前記実測培養データを受信するための受信手段と、前記顧客サーバーから受信した前記実測培養データを記憶する記憶手段と、を有してもよい。前記細胞管理サーバーは、前記細胞管理庫に存在する細胞の在庫情報を記憶するための記憶手段と、前記在庫情報を前記データ管理装置に送信するための送信手段と、を有し、前記データ管理装置は、前記細胞管理サーバーから送信された前記在庫情報を受信するための受信手段と、受信した前記在庫情報を記憶するための記憶手段と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、新規な細胞培養管理システムを提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明にかかる一実施形態である基本工程における細胞培養システムの動きを示すフローチャートである。
【
図2】本発明にかかる一実施形態である基本工程における細胞培養システムの模式図である。破線は情報の流れを、実線は物の流れを意味する。
【
図3】本発明にかかる他の実施形態である、新規なプロトコールの開発の際の細胞培養システムの模式図である。破線は情報の流れを、実線は物の流れを意味する。
【
図4】本発明にかかる他の実施形態である培養条件のフィードバックの際の細胞培養システムの模式図である。破線は情報の流れを、実線は物の流れを意味する。
【
図5】本発明にかかる他の実施形態である在庫管理における細胞培養システムの模式図である。線は情報の流れを、実線は物の流れを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明するが、必ずしもこれに限定するわけではない。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==細胞培養管理システム==
本発明の一実施形態の細胞培養管理システムは、第1の細胞を培養するための第1の培養装置に備えられた出力データサーバーと、第2の細胞を培養するための第2の培養装置に備えられた顧客サーバーと、第2の細胞を保存している細胞管理庫に備えられた細胞管理サーバーと、を備えた細胞培養管理システムであって、出力データサーバー、顧客サーバー、及び細胞管理サーバーは、システム外部のデータ管理装置と、それぞれ送受信可能に接続されており、出力データサーバーは、第1の細胞を培養するための第1のプロトコールをデータ管理装置に送信するための送信手段を有し、顧客サーバーは、第2の細胞を得るための注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、をデータ管理装置に送信するための1つまたはそれ以上の送信手段と、第2の細胞を培養するための第2のプロトコールを前記データ管理装置より受信するための受信手段と、を有し、細胞管理サーバーは、注文情報と、第2のバイオリアクターの位置情報と、をデータ管理装置より受信するための受信手段と、を有する。ここで、データ管理装置は、出力データサーバーから第1のプロトコールを受信するための受信手段と、顧客サーバーから注文情報と、第2の培養装置の位置情報と、を受信するための受信手段と、出力データサーバーから受信した第1のプロトコールと、顧客サーバーから受信した第2のプロトコールと、注文情報と、第2のバイオリアクターの位置情報と、を記憶する1つまたはそれ以上の記憶手段を有する。以下に、
図2を用いて、このシステムの具体的な実施形態を説明する。
【0012】
<データ管理装置>
データ管理装置1は、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、専用線等によるネットワークを介して、1又は複数の出力データサーバー3、1又は複数の顧客サーバー7、及び1又は複数の細胞管理サーバー11と送受信可能に接続されている。データ管理装置1は、少なくとも、出力データサーバー3からのプロトコールを受信するための受信手段と、顧客サーバー7から注文情報と、培養装置8の位置情報と、を受信するための受信手段と、を有し、受信したデータを保存する記憶手段2を有する。受信したデータはデータベースとして保存されることが好ましい。
【0013】
データ管理装置1は、クラウドのように細胞培養管理システムの外部の装置であってもよいが、細胞培養管理システムの一部として管理されていてもよい。
【0014】
また、データ管理装置1は、単に送受信手段と記憶手段2とからなりデータを保持するためだけの装置であってもよいが、送受信手段と記憶手段2以外のデータ処理手段を有し、データに様々な処理を行ってもよい。
【0015】
<出力データサーバー>
出力データサーバー3は、細胞を培養するための新たなプロトコールを開発するための培養装置4に備えられている。そして、新たなプロトコールをデータ管理装置1に送信するための送信手段を有する。プロトコールには、例えば、細胞培養するための、細胞の種類、培養条件(例えば、温度及びCO2濃度)、用いる培地の種類、経時的に測定する細胞マーカーの基準値、経時的測定する培地のpH基準値、経時的に測定する細胞密度の基準値などの情報が含まれていてもよい。
【0016】
培養装置4は特に限定されず、公知の培養装置であれば用いることができる。例えば、培養装置4は、細胞を培養するためのインキュベーターだけからなっていてもよいが、バイオリアクター6を含んでもよい。ここで、バイオリアクター6とは、例えば、細胞を培養して細胞生産物を取得するための1つ又は複数の培養槽タンクと、細胞培養を制御するための制御部、及び培養条件を含む培養プロトコールを記憶するための記憶部を含む。複数の培養槽を用いるとき、培養液を培養槽内で還流するため、培養槽ごとに別個の培養液還流機構を備えていてもよいし、複数の培養槽が、互いに培養液が循環できるように連結されている場合は、培養液循環器が備えられていてもよい。培養を制御するための制御部は培養液還流機構を介して培地流量及び還流方向を制御してもよい。
【0017】
また、培養装置4は、細胞培養の状況を自動的、かつ経時的に検出できる細胞センサー5を有していることが好ましい。細胞センサー5は、培養槽内の細胞、培地または細胞生産物の重量、温度、粘度、色調(吸光度)、pH、糖度、塩分濃度、密度、種類などの物理的、化学的、生物学的特性を経時的に取得できることが好ましい。細胞センサー5は制御部によって制御されていてもよい。細胞センサー5によって検出された条件は、記憶部に保存されてもよい。
【0018】
さらに、データ管理装置1が出力データサーバー3に培養プロトコールを送信する送信手段を有し、一方、出力データサーバー3がデータ管理装置1から培養プロトコールを受信する受信手段を有していてもよい。培養プロトコール作成者は、全く新規のプロトコールを作成してもよいが、プロトコールを受信する手段を有することによって、既存の培養プロトコールを改変することによって新たなプロトコールを作成することが可能になる。
【0019】
<顧客サーバー>
顧客サーバー7は、顧客が細胞を培養するための培養装置8に備えられている。培養装置8の構成は、出力データサーバー3に付随する培養装置4と同じであっても構わず、例えば、同じバイオリアクター10と同じ細胞センサー9を含んでもよい。特に出力データサーバー3に付随する培養装置4で新規のプロトコールが開発される場合、条件を揃えるために全くの同型機であることが好ましい。
【0020】
顧客にとって、培養の目的は特に限定されないが、例えば、食用、医療用や素材用の細胞を増殖させてもよく、細胞を用いて物質を製造してもよい。
【0021】
顧客サーバー7は、注文情報と培養装置8の位置情報とをデータ管理装置1に送信するための送信手段を備える。注文情報は、顧客の目的が記載されているものであれば内容は限定されない。例えば、細胞が必要であれば、目的の細胞の名称そのものであってもよく、細胞生産物が必要であれば、細胞生産物の名称であってもよい。さらに、目的の細胞の名称や目的の細胞生産物以外に、通常、商品を注文するための情報が含まれてもよい。例えば、細胞や細胞生産物の必要な時期の情報を入れておくことによって、細胞が細胞管理庫から配達される時期を計算することも可能になる。一方、培養装置8の位置情報とは、培養装置8の存在する場所を意味する。その場所は、住所などで特定することができる。
【0022】
また、顧客サーバー7は、目的の細胞や細胞生産物を得るためのプロトコールをデータ管理装置1から受信するための受信手段を有している。データ管理装置1から受信されたプロトコールは、バイオリアクターに備えられた記憶部に保存されてもよい。
【0023】
さらに、顧客サーバー7は、培養装置8で細胞を培養している間にバイオリアクター内に設置された細胞センサーから経時的に取得されるか、あるいは培養終了時に細胞センサーから得られる、プロトコールの基準値(たとえば、pH値や細胞密度の基準値)に対応する実測値を含む実測培養データを、データ管理装置1に送信するための送信手段を有していてもよい。このような手段を有することにより、複数のバイオリアクターで同じ細胞生産物を製造する際のばらつきを検出管理することが可能になる。この場合、データ管理装置は、実測培養データを受信するための受信手段及び記憶するための記憶手段を備えてもよい。この記憶手段は、他のデータを格納するための記憶手段と同じでも異なっていてもよい。
【0024】
バイオリアクター10で複数の培養槽を用いる場合は、培養細胞の初期配置情報(例えば、バイオリアクター内の培養槽番号など)や、経時的な培養槽間の培地の還流条件の変更の指示などもプロトコールに含まれてもよい。
【0025】
<細胞管理サーバー>
細胞管理サーバー11は、細胞を保管している細胞管理庫12に備えられており、データ管理装置1から、顧客サーバーが送信した顧客からの注文情報と、顧客が目的の細胞を培養するための培養装置8の位置情報と、を受信するための受信手段を有している。さらに、データ管理装置1から、注文情報に付随している培養プロトコールや搬送物情報を受信してもよい。搬送物情報とは、顧客からの注文に応じて、顧客に搬送する搬送物を示す情報であり、培養に必要な材料(例えば培養用培地などの消耗品)についての情報が含まれる。これらの情報に基づき、顧客の必要な搬送品を培養装置8のある場所に搬送することが可能になる。
【0026】
細胞管理サーバー11は、細胞管理庫内あるいは細胞管理サーバー11に保存されている、各種の細胞の在庫情報をデータ管理装置1に送信するための送信手段を有していてもよい。データ管理装置1にアクセスした細胞の管理者は、在庫の少ない又は在庫がない細胞について、細胞を購入したり、自分で増殖させたりして、補充を行うことができる。
【0027】
なお、細胞管理庫には、細胞を保存し、指示があれば細胞を搬出するため、倉庫、冷蔵庫、冷凍庫、培養槽などを含んでもよい。
【0028】
==細胞培養管理方法==
上記細胞培養管理システムを用いて、どのように細胞を管理できるかについて、いくつかの態様を例として詳細に説明する。
【0029】
(1)基本工程(
図1~2)
本管理システムを用いた細胞培養管理方法における基本工程について、
図1~2を用いて記載する。
【0030】
培養プロトコール作成者は、細胞及び/又は細胞生産物の名前やIDを、それらに関連した細胞培養方法と関連付けた培養プロトコールを、出力データサーバー3を介してデータ管理装置1に送信すると(S1)、データ管理装置1は、出力データサーバー3から送信されたデータを受信し、記憶手段2に格納する(S2)(A)。細胞培養方法は、培養プロトコール作成者が開発した方法であるが、その際、細胞センサー5が検出したバイオリアクター6における培養条件などを培養プロトコールに含ませてもよい。
【0031】
顧客は、データ管理装置1に対し、顧客サーバー7を介して目的の細胞を得るための注文を行う。その際、注文情報とともに、細胞を製造する培養装置8の位置情報などをデータ管理装置1に送信すると(S3)、データ管理装置1は、顧客サーバー7から送信されたデータを受信し、記憶手段2に格納する(S4)(B)。注文情報は、顧客が培養したい細胞に関する情報であってもよく、培養細胞を用いて生産したい細胞生産物に関する情報であってもよい。この場合の情報とは細胞や細胞生産物の名前であることが好ましいが、データ管理装置が培養細胞、細胞生産物、または培養プロトコールなどをIDで管理し、顧客がそのIDを知ることができる場合は、情報がIDであってもよい。
【0032】
データ管理装置1は、顧客サーバー7からの注文を受け、細胞を培養するための培養プロトコールを送信すると(S5)、顧客は、顧客サーバー7を通じて、データ管理装置1から送信されたデータを受信する(S6)(C)。これは、データ管理装置1が注文情報の受信に応じて自動的に、注文情報に対応する培養プロトコールを送信してもよく、顧客が、データ管理装置1にあるデータから、適当な培養プロトコールを選択してダウンロードしてもよい。
【0033】
一方、顧客からの注文を受信したデータ管理装置1は、顧客からの注文情報や、顧客の培養装置の位置情報、などを送信し(S7)、細胞管理庫12に備えられた細胞管理サーバー11が、データ管理装置1からのデータを受信する(S8)(D)。細胞管理サーバー11によるデータの受信は、例えば、一定の時間ごとにデータ管理装置1にデータを取りに行ってもよいが、細胞管理庫12の管理者が都合の良い時に、適宜データ管理装置1にデータを取りに行ってもよい。あるいは、注文を受信したデータ管理装置1が、自動的に細胞管理サーバー11に顧客の培養装置の位置情報などとともに送信してもよい。そして、細胞管理庫12の管理者は、受信したデータに基づき、顧客の必要な搬送品を顧客の培養装置8まで搬送する。
【0034】
顧客は、細胞管理庫12から受け取った搬送品を用い、受信した培養プロトコールに従って、細胞をバイオリアクター10の培養槽に設置し、培養を開始し、目的の細胞を増殖させる。あるいは、細胞の増殖から得られる細胞生産物を回収してもよい。
【0035】
(2)新規なプロトコールの作成(
図3)
出力データサーバー3が、新規なプロトコールをデータ管理装置1に送るという実施態様について
図3を用いて説明する。
【0036】
培養用プロトコール作成者は、全く新規なプロトコールを開発し、新たな管理番号と共にデータ管理装置1に送信することができる(A)。あるいは、既存のプロトコールaをデータ管理装置1から出力データサーバー3を用いて受信し(E)、培養装置4を用いて研究し、プロトコールaから新たなプロトコールbを開発し、プロトコールbを新たな管理番号と共にデータ管理装置1に送信してもよい(A)。
【0037】
(3)顧客からのフィードバック(
図4)
顧客サーバー7が、実測培養データをデータ管理装置1にフィードバックするという実施態様について
図4を用いて説明する。
【0038】
顧客は顧客サーバー7を介してデータ管理装置1にアクセスし、注文を行う。その際、注文情報と目的の細胞を培養する培養装置8の位置情報がデータ管理装置1に送信される(B)。データ管理装置1は、それらの情報を受信し、記憶手段2に記憶する。それに伴い、顧客サーバー7は、データ管理装置1より、目的の細胞を培養するための培養プロトコールを受信する(C)。
【0039】
細胞管理庫12に備えられた細胞管理サーバー11が、データ管理装置1から、顧客からの注文情報や、顧客の培養装置の位置情報、などを受信すると、細胞管理庫12の管理者は、受信したデータに基づき、細胞を顧客の培養装置8まで搬送する(D)。
【0040】
顧客は、受信したプロトコールをバイオリアクター10に読み込ませてもよく、細胞をバイオリアクター10の所定の培養槽タンクで培養を開始する。その際、顧客サーバー7は、目的の細胞を培養している際に、培養装置8に設置された細胞センサー9から経時的に取得されたり、あるいは目的の細胞の培養終了時に細胞センサーから得られたりする、プロトコールの基準値(たとえば、pH値や細胞密度の基準値)に対応する実測値を含む実測培養データをデータ管理装置1に送信することができる(F)。データ管理装置1は実測培養データを受信し、記憶手段2に格納してもよい。
【0041】
このような実測培養データをデータ管理装置1で管理することによって、培養用プロトコール作成者がプロトコール開発時に、実測培養データを自由に活用することができるようになる。
【0042】
(4)在庫管理(
図5)
細胞管理サーバー11が細胞の在庫を管理する一実施態様について
図5を用いて説明する。
【0043】
細胞管理サーバー11は、データ管理装置1に、細胞の在庫情報を送信してもよい(G)。これは、定期的に細胞の在庫情報をアップレートしてもよいが、細胞管理サーバー11で細胞の在庫情報に変化があったときだけ、在庫情報をアップレートしてもよい。データ管理装置1は、記憶装置2で、在庫情報をデータベースとして管理しているが、細胞管理サーバー11から新たな在庫情報が送信されると、それを受信し、記憶装置2のデータベースをアップデートする。なお、在庫情報は、在庫量だけでなく、使用期限情報などを含んでもよい。
【0044】
細胞管理庫12の管理者は、データ管理装置1にアクセスし、在庫の少ない又はない細胞、あるいは使用期限の切れた細胞などについて、新たに細胞を細胞管理庫12に搬入する。あるいは、細胞管理庫12に備えられた培養装置13を用いて細胞を増殖させ、細胞の在庫を確保する。培養装置13は、出力データサーバー3の培養装置4や顧客サーバー7の培養装置4を同じであっても違っていてもよいが、同型であることが好ましく、細胞センサー14やバイオリアクター15を備えることが好ましい。
【0045】
==細胞培養管理システムを用いた運用の具体例==
ここでは、顧客の側から見た、細胞培養管理システムの運用例を記載する。これらの実施形態により、顧客は目的とする細胞または細胞生産物を指定すれば、所定の培養装置で目的の細胞または細胞生産物を製造するのに適した培養プロトコールと細胞を取得でき、取得した培養プロトコールで細胞培養を行えば、再現性良く、細胞または細胞生産物を製造できるようになる。
【0046】
(1)顧客が細胞を注文する場合
顧客はあらかじめ、目的の細胞を培養するための培養装置を提供される。
【0047】
顧客は、細胞を培養する必要が生じた時、顧客サーバー7を介してデータ管理装置1にアクセスする。データ管理装置1は、注文できる細胞のリストや注文書をデータベースとして表示する。顧客はリストから細胞を選択し、細胞の名前やIDをクリックしたり細胞の名前やIDを書き込んだりすると同時に、細胞を製造する培養装置8の住所を注文書に記載する。最後に、これらの情報をデータ管理装置1に送信する。
【0048】
顧客は、注文した細胞に関連付けられている培養プロトコールをダウンロードすることができる。培養プロトコールには、目的の細胞の培養方法(例えば、培地の種類や培養条件など)が記載されている。
【0049】
データ管理装置1から注文を知った細胞管理庫12の管理者が、その細胞に関連付けられており、その培養に必要な搬送品を顧客に配送し、顧客はその搬送品を受領する。そして、顧客は、受け取った搬送品を用い、ダウンロードした培養プロトコールに従って、培養装置を用いて目的の細胞を培養する。
【0050】
(2)顧客が細胞生産物を注文する場合
顧客はあらかじめ、目的の細胞生産物を得るために行う細胞培養のための培養装置を提供される。
【0051】
顧客は、細胞生産物を得る必要が生じた時、顧客サーバー7を介してデータ管理装置1にアクセスする。データ管理装置1は、生産できる細胞生産物のリストや注文書をデータベースとして表示する。顧客はリストから細胞生産物を選択し、細胞生産物の名前やIDをクリックしたり細胞生産物の名前やIDを書き込んだりすると同時に、細胞を製造する培養装置8の住所を注文書に記載する。最後に、これらの情報をデータ管理装置1に送信する。
【0052】
顧客は、注文した細胞生産物に関連付けられている培養プロトコールをダウンロードすることができる。培養プロトコールには、目的の細胞生産物を得るための細胞の培養方法(例えば、細胞の種類、培地の種類や培養条件など)が記載されている。
【0053】
データ管理装置1から注文を知った細胞管理庫12の管理者が、その細胞生産物に関連付けられており、その生産のための細胞培養に必要な搬送品を顧客に配送し、顧客はその搬送品を受領する。そして、顧客は、受け取った搬送品を用い、ダウンロードした培養プロトコールに従って、培養装置を用いて所定の細胞を培養することによって、目的の細胞生産物を得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 データ管理装置1
2 記憶手段
3 出力データサーバー
4 培養装置
5 細胞センサー
6 バイオリアクター
7 顧客サーバー
8 培養装置
9 細胞センサー
10 バイオリアクター
11 細胞管理サーバー
12 細胞管理庫
13 培養装置
14 細胞センサー
15 バイオリアクター