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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】音声処理装置、および音声処理方法
(51)【国際特許分類】
   G10L 13/06 20130101AFI20230517BHJP
   G10L 13/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
G10L13/06 140
G10L13/00 100Y
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019122680
(22)【出願日】2019-07-01
(62)【分割の表示】P 2019009182の分割
【原出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020118950
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】515327133
【氏名又は名称】株式会社テクノスピーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】大浦 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 和寛
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-314880(JP,A)
【文献】特開2018-136430(JP,A)
【文献】特開2017-151230(JP,A)
【文献】特開2017-032839(JP,A)
【文献】特開2015-034920(JP,A)
【文献】橋本佳,外3名,ニューラルネットワークに基づく音声合成における生成モデルの利用の検討,日本音響学会講演論文集,日本,2014年09月05日,p.245-246
【文献】高木信二,とてもDeepなテキスト音声合成,電子情報通信学会技術研究報告,日本,2017年01月14日,第116巻,第414号,p.41-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 13/00-13/10
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声処理装置であって、
音声に関する多次元の第1特徴量であって、音高情報とMIDIの音高番号と音素情報と品詞の情報とアクセントの情報とのうちいずれか1つ以上を含む第1特徴量を取得する取得部と、
予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換部と、
前記第2特徴量を、時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に変換する第2変換部と、を備え、
前記第2変換部は、前記第2特徴量に加えて前記第1特徴量に含まれる前記音高情報と前記MIDIの音高番号と前記音素情報と前記品詞の情報と前記アクセントの情報とのうちいずれか1つ以上を含む特定情報を前記ニューラルネットワークに入力して、前記音響特徴量への変換を行う、音声処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音声処理装置であって、
前記ニューラルネットワークは、情報が入力される入力層と、前記入力層から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う複数の中間層と、前記中間層から伝達される情報に基づいて結果を出力する出力層と、を備え、
前記第2変換部は、前記特定情報を前記複数の中間層のうち少なくとも1つ以上の中間層に入力して、前記ニューラルネットワークに前記音響特徴量への変換を行わせる、音声処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の音声処理装置であって、
前記第1特徴量における無音部分の前記音高情報は、前後の音高情報により補間された情報である、音声処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の音声処理装置であって、更に、
前記第1特徴量と前記音響特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習して前記ニューラルネットワークに反映させる学習部を備える、音声処理装置。
【請求項5】
音声処理装置であって、
音声に関する多次元の第1特徴量を取得する取得部と、
予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換部と、
前記第2特徴量を、時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に変換する第2変換部と
前記第1特徴量と前記音響特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習して前記ニューラルネットワークに反映させる学習部と、を備え、
前記ニューラルネットワークは、情報が入力される入力層と、前記入力層から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う複数の中間層と、前記中間層から伝達される情報に基づいて結果を出力する出力層と、を備え、
前記第2変換部は、前記第1特徴量の少なくとも一部および/または前記第2特徴量の少なくとも一部を前記複数の中間層のうち少なくとも1つ以上の中間層に入力して、前記ニューラルネットワークに前記音響特徴量への変換を行わせる、音声処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の音声処理装置であって、
前記第2期間は可変長である、音声処理装置。
【請求項7】
請求項に記載の音声処理装置であって、
前記第2変換部は、前記第1特徴量における無音部分に応じて前記第2期間の長さを変化させる、音声処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の音声処理装置であって、
前記第1変換部は、フィードフォワードニューラルネットワークを用いて前記第1特徴量を前記第2特徴量に変換する、音声処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の音声処理装置であって、
前記第1特徴量は、少なくとも言語特徴量と楽譜特徴量と声質特徴量とのいずれか一つを含む、音声処理装置。
【請求項10】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の音声処理装置であって、更に、
前記音響特徴量を用いて音声波形を生成するボコーダ部を備える、音声処理装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の音声処理装置であって、
前記第2変換部は、前記第2特徴量を、前記第2特徴量の各次元のデータを前記第2期間の長さ分並べて表される2次元データとして用いて前記音響特徴量に変換する、音声処理装置。
【請求項12】
音声処理方法であって、
音声に関する多次元の第1特徴量であって、音高情報とMIDIの音高番号と音素情報と品詞の情報とアクセントの情報とのうちいずれか1つ以上を含む第1特徴量を取得する取得工程と、
予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換工程と、
時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に、前記第2特徴量を変換する第2変換工程と、を備え、
前記第2変換工程は、前記第2特徴量に加えて前記第1特徴量に含まれる前記音高情報と前記MIDIの音高番号と前記音素情報と前記品詞の情報と前記アクセントの情報とのうちいずれか1つ以上を含む特定情報を前記ニューラルネットワークに入力して、前記音響特徴量への変換を行う工程を含む、音声処理方法。
【請求項13】
音声処理方法であって、
音声に関する多次元の第1特徴量を取得する取得工程と、
予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換工程と、
時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に、前記第2特徴量を変換する第2変換工程と
前記第1特徴量と前記音響特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習して前記ニューラルネットワークに反映させる学習工程と、を備え、
前記ニューラルネットワークは、情報が入力される入力層と、前記入力層から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う複数の中間層と、前記中間層から伝達される情報に基づいて結果を出力する出力層と、を備え、
前記第2変換工程は、前記第1特徴量の少なくとも一部および/または前記第2特徴量の少なくとも一部を前記複数の中間層のうち少なくとも1つ以上の中間層に入力して、前記音響特徴量への変換を行う工程を含む、音声処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声処理装置、および音声処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の音声処理装置として、ニューラルネットワークを用いて音声を合成するものが知られている。特許文献1に記載された技術では、ニューラルネットワークによって生成した音響特徴量を用いて音声波形を合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-146803号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】A. van den Oord et al., ”Wavenet: A Generative Model for Raw Audio”, arXiv preprint arXiv:1609.03499, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術では、音響特徴量は時間軸上で独立に、もしくは逐次的に生成されるため、音声の時間構造を十分に表現できず、機械的で不自然な音声が生成されるおそれがある。そのため、音声の時間構造を適切に処理することができ、滑らかで自然な音声を合成可能な音声合成技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本発明の第1の形態によれば、音声処理装置は、音声に関する多次元の第1特徴量であって、音高情報とMIDIの音高番号と音素情報と品詞の情報とアクセントの情報とのうちいずれか1つ以上を含む第1特徴量を取得する取得部と、予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換部と、前記第2特徴量を、時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に変換する第2変換部と、を備える。前記第2変換部は、前記第2特徴量に加えて前記第1特徴量に含まれる前記音高情報と前記MIDIの音高番号と前記音素情報と前記品詞の情報と前記アクセントの情報とのうちいずれか1つ以上を含む特定情報を前記ニューラルネットワークに入力して、前記音響特徴量への変換を行う。
(2)本発明の第2の形態によれば、音声処理装置は、音声に関する多次元の第1特徴量を取得する取得部と、予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換部と、前記第2特徴量を、時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に変換する第2変換部と、前記第1特徴量と前記音響特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習して前記ニューラルネットワークに反映させる学習部と、を備える。前記ニューラルネットワークは、情報が入力される入力層と、前記入力層から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う複数の中間層と、前記中間層から伝達される情報に基づいて結果を出力する出力層と、を備え、前記第2変換部は、前記第1特徴量の少なくとも一部および/または前記第2特徴量の少なくとも一部を前記複数の中間層のうち少なくとも1つ以上の中間層に入力して、前記ニューラルネットワークに前記音響特徴量への変換を行わせる。また、本発明は、以下の形態としても実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、音声処理装置が提供される。この音声処理装置は、音声に関する多次元の第1特徴量を取得する取得部と、予め定められた第1期間毎に前記第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する第1変換部と、前記第2特徴量を、時系列的に前記第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、前記第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に変換する第2変換部と、を備える。この形態の音声処理装置によれば、長い期間毎に第1特徴量が音響特徴量に変換されるため、この音響特徴量を用いて音声を合成すると滑らかで自然な音声を合成できる。
(2)上記形態の音声処理装置において、前記第2変換部は、前記ニューラルネットワークとして、畳み込みニューラルネットワークを用いて前記第2特徴量を前記音響特徴量に変換してもよい。この形態の音声処理装置によれば、既存の技術を利用して高品位に第2特徴量を音響特徴量に変換できる。
(3)上記形態の音声処理装置において、前記第2期間は可変長でもよい。この形態の音声処理装置によれば、任意の長さの音響特徴量に変換できる。
(4)上記形態の音声処理装置において、前記第2変換部は、前記第1特徴量における無音部分に応じて前記第2期間の長さを変化させてもよい。この形態の音声処理装置によれば、例えば、歌声を合成する場合に、フレーズ毎に合成ができる。
(5)上記形態の音声処理装置において、前記第1変換部は、フィードフォワードニューラルネットワークを用いて前記第1特徴量を前記第2特徴量に変換してもよい。この形態の音声処理装置によれば、高速に第1特徴量を第2特徴量に変換できる。
(6)上記形態の音声処理装置において、前記第2変換部は、前記第2特徴量に加えて前記第1特徴量に含まれる特定のパラメータを前記ニューラルネットワークに入力して、前記音響特徴量への変換を行ってもよい。この形態の音声処理装置によれば、補助情報として第1特徴量に含まれる特定のパラメータを第2特徴量に加えるため、合成音声の精度が向上する音響特徴量に変換できる。
(7)上記形態の音声処理装置において、前記パラメータは音高情報を含んでいてもよい。この形態の音声処理装置によれば、合成音声の音質が向上する音響特徴量に変換できる。
(8)上記形態の音声処理装置において、前記第1特徴量における無音部分の前記音高情報は、前後の音高情報により補間された情報でもよい。この形態の音声処理装置によれば、より合成音声の音質が向上する音響特徴量に変換できる。
(9)上記形態の音声処理装置において、前記第1特徴量は、少なくとも言語特徴量と楽譜特徴量と声質特徴量とのいずれか一つを含んでいてもよい。この形態の音声処理装置によれば、例えば、第1特徴量をテキスト音声合成や歌声合成や声質変換を行うための音響特徴量に変換できる。
(10)上記形態の音声処理装置において、更に、前記音響特徴量を用いて音声波形を生成するボコーダ部を備えてもよい。この形態の音声処理装置によれば、音響特徴量を用いて合成音声を生成できる。
(11)上記形態の音声処理装置において、更に、前記第1特徴量と前記音響特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習して前記ニューラルネットワークに反映させる学習部を備えてもよい。この形態の音声処理装置によれば、第1特徴量と音響特徴量との関係を学習でき、第2変換部に学習結果を反映できる。また、第1変換部がニューラルネットワークを用いて変換を行う場合には、第1変換部にも学習結果を反映できる。
(12)上記形態の音声処理装置において、前記第2変換部は、前記第2特徴量を、前記第2特徴量の各次元のデータを前記第2期間の長さ分並べて表される2次元データとして用いて前記音響特徴量に変換する、音声処理装置。この形態の音声処理装置によれば、時間方向の変化を効果的に扱うことができる。
(13)音声処理装置であって、音声に関する多次元の特徴量を取得する取得部と、前記特徴量を予め定められた期間毎に畳み込みニューラルネットワークを用いて音声波形を生成するための音響特徴量に変換する変換部と、を備え、前記変換部は、前記特徴量を、前記特徴量の各次元のデータを前記期間の長さ分並べて表される2次元データとして用いて前記音響特徴量に変換する。この形態の音声処理装置によれば、時間方向の変化を効果的に扱うことができ、長い期間毎に音響特徴量に変換するため、この音響特徴量を用いて音声を合成すると滑らかで自然な音声を合成できる。
【0008】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、この形態の音声処理装置を利用した音声処理システム、音声合成装置や音声合成システムの機能を実現するために情報処理装置において実行される方法、コンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における音声処理装置の概要を示す説明図である。
図2】第1特徴量における各種のパラメータの一例を示す図である。
図3】音響特徴量における各種のパラメータの一例を示す図である。
図4】ディープニューラルネットワークによる機械学習について説明するための説明図である。
図5】音声合成処理を表すフローチャートである。
図6】音声合成処理を模式的に表した説明図である。
図7】主観評価実験の実験結果を示した図である。
図8】第2実施形態におけるCNNの説明図である。
図9】音高情報を補間した場合の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の一実施形態における音声処理装置100の概要を示す説明図である。音声処理装置100は、取得部10と、第1変換部20と、第2変換部30と、ボコーダ部40と、学習部50と、音響モデル60と、を備える。取得部10と、第1変換部20と、第2変換部30と、ボコーダ部40と、学習部50とは、1以上のCPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより、ソフトウェア的に実現される。なおこれらの一部または全部は、回路によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0011】
取得部10は、音声に関する多次元の第1特徴量を取得する。第1特徴量の詳細については後述する。取得部10は、例えば、予め録音された音声の音声波形から周知の音声認識技術を用いて第1特徴量を抽出してもよく、発語対象のテキストや楽譜に応じて予め生成された第1特徴量を取得してもよい。
【0012】
第1変換部20は、予め定められた第1期間毎に取得部10によって取得された第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する。第2特徴量とは、第2変換部30が音響特徴量への変換において扱いやすいデータである。本実施形態において、第1変換部20は、フィードフォワードニューラルネットワーク(Feedforward Neural Network(FFNN))を用いて第1特徴量を多次元の第2特徴量に変換する。第1変換部20は、FFNNに限られず、ロングショートタームメモリーネットワーク(Long short-term memory(LSTM))等の再起構造を持ったリカレントニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network(RNN))を用いてもよく、隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model(HMM))用いてもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0013】
第2変換部30は、第1変換部20によって変換された第2特徴量を、時系列的に第2特徴量を処理することができるニューラルネットワークを用いて、第1期間よりも長い第2期間毎に音声波形を生成するための音響特徴量に変換する。音響特徴量の詳細については後述する。第2期間は、可変長でもよい。第2期間を可変長とする場合、第1特徴量における無音部分に応じて第2期間を変化させて設定することが好ましい。これにより、音響特徴量をフレーズ毎に生成することができる。本実施形態において、第2変換部30は、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network(CNN))を用いて第2特徴量を音響特徴量に変換する。第2変換部30は、第2期間が可変等である場合は、Fully recurrent network(FRN)や、Fully Convolutional network(FCN)を用いる。また、第2変換部30は、CNNに限らず、RNNを用いてもよい。
【0014】
ボコーダ部40は、第2変換部30によって変換された音響特徴量から音声波形を生成する。ボコーダ部40として、例えば、従来のボコーダ技術を用いてもよく、wavenet(非特許文献1記載)等のニューラルネットワークを用いたボコーダ技術を用いてもよい。音声処理装置100は、ボコーダ部40を備えていなくてもよい。その場合、音声波形の生成は外部の音声合成装置が行う。
【0015】
学習部50は、第1特徴量と音響特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習する。学習部50は、学習結果を第1変換部20のニューラルネットワークもしくは隠れマルコフモデル(HMM)といった統計モデルや第2変換部30で用いられるニューラルネットワークに反映させる。こうすることにより、第1変換部20や第2変換部30は、学習部50の学習結果を反映して変換を行うことができる。音声処理装置100は、学習部50を備えていなくてもよい。この場合、第1変換部20や第2変換部30は、外部の機械学習を行う学習装置等によって得られた学習結果を反映して変換を行うことができる。第1変換部20がニューラルネットワークを用いる場合、第2変換部30の用いるニューラルネットワークと連結して同時学習を行うことで、より高精度な学習を行うことができる。また、第1変換部20が用いるニューラルネットワークと、第2変換部30が用いるニューラルネットワークとのいずれか一方に、交互に学習結果を反映させてもよい。
【0016】
図2は、歌声合成において、取得部10により取得される第1特徴量に含まれる多次元のパラメータの一例を示す図である。本実施形態において、第1特徴量は楽譜特徴量である。楽譜情報には、曲情報とフレーズ情報と音符情報とが含まれている。音符情報には,例えば、音符の長さや音高、フレーズ内における音符の位置等の情報が含まれている。言語情報には、音節情報と音素情報とが含まれている。音節情報は、例えば音素数や音符内における音節の位置等の情報が含まれている。音素情報は、例えば、種類(例えば、母音や有声子音、無声子音等)や音節内における音素の位置等の情報が含まれている。継続長情報は、音素内位置情報と状態内位置情報とが含まれている。音素内位置情報は、例えば、音素の開始位置からの長さや割合等の情報が含まれている。状態内位置情報は、例えば、状態の開始位置からの長さや割合等の情報が含まれている。
【0017】
図3は、第2変換部30により出力される音響特徴量における各種のパラメータの一例を示す図である。スペクトルパラメータとしては、メルケプストラムや線スペクトル対(Line Spectrum Pair(LSP))などがある。これらは、スペクトル情報と呼ばれることがある。音源情報としては、基本周波数は、一般に対数基本周波数として扱われており、その関連パラメータとしては、有声/無声の区別や、非周期性指標が考えられる。これらは音源情報と呼ばれることがある。なお、無声部分は対数基本周波数の値を持たないため、有声/無声の区別を音源情報に含める代わりに、無声部分に所定の定数を入れる等の方法によって有声/無声の区別を行ってもよい。また、更に、こうした音源情報、スペクトル情報の他に、本実施形態では、歌唱表現情報が音響特徴量に含まれる。
【0018】
歌唱表現情報には、音高のビブラートの周期および振幅とその有無、音の大きさのビブラートの周期および振幅とその有無が、含まれている。なお、音高のビブラートの有無の区別を歌唱表現情報に含める代わりに、音高のビブラートが無い部分に所定の定数を入れる等の方法によって音高のビブラートの有無の区別を行ってもよい。同様に、音の大きさのビブラートの有無の区別を歌唱表現情報に含める代わりに、音の大きさのビブラートが無い部分に所定の定数を入れる等の方法によって音の大きさのビブラートの有無の区別を行ってもよい。
【0019】
図4は、ディープニューラルネットワークによる第1特徴量の変換について説明するための説明図である。ディープニューラルネットワーク200は、人間の脳神経系における学習機構をモデルにしたネットワークである。ディープニューラルネットワーク200は、入力層L1と、複数の中間層L2と、出力層L3とを備える。中間層L2の数は任意に定める事ができる。
【0020】
入力層L1は、情報が入力される層である。中間層L2は、入力層L1から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う層である。出力層L3は、中間層L2から伝達される情報に基づいて結果を出力する層である。各層には、複数のノードが含まれる。
【0021】
ディープニューラルネットワーク200による変換について説明する。本実施形態において、第1変換部20はディープニューラルネットワーク200を用いて第1特徴量を第2特徴量に変換する。入力層L1は、図2に示した第1特徴量に含まれる複数のパラメータが入力されると、それらのパラメータを中間層L2に伝達する。中間層L2では、入力層L1から伝達されたパラメータに対して種々の演算が各層において段階的に行われる。出力層L3において、最終的に演算されたパラメータが、図3に示した第2特徴量として出力される。
【0022】
図5は、本実施形態における音声処理装置100を用いた音声合成処理を表すフローチャートである。まず、取得部10が、ステップS100で第1特徴量を取得する。次に、第1変換部20が、ステップS110において、ステップS100で取得した第1特徴量を第2特徴量に変換する。続いて、第2変換部30が、ステップS120において、ステップS110で変換した第2特徴量を音響特徴量に変換する。最後に、ボコーダ部40が、ステップS130において、ステップS120で変換した音響特徴量を用いて音声波形を生成する。
【0023】
図6は、図5に示した音声合成処理を模式的に表した説明図である。図6に示すように、ステップS110において第1変換部20により、FFNNを用いて第1特徴量が第2特徴量に変換され、ステップS120において、第2変換部30により、CNNを用いて第2特徴量が音響特徴量に変換される。本実施形態において、第1変換部20によって変換される第1特徴量の第1期間は、例えば、5ミリ秒である。また、第2変換部30によって変換される第2特徴量の第2期間は、例えば、10秒である。つまり、第2変換部30は、第2特徴量を2000個束ねてCNNを用いて変換を行う。第2変換部30は、CNNにおいて、第2特徴量を第2特徴量の各次元のデータを第2期間の長さ分並べて表される2次元データD1として用いて、音響特徴量に変換する。2次元データD1は、本実施形態においては、第2特徴量を時系列順に2000個並べたデータである。つまり、[第2特徴量の各次元のデータ]×[時間]で表されたデータである。第2特徴量は2次元データD1に限られず、3次元以上の多次元データとして表されてもよい。CNNにおける入力データのサイズの概念は、画像処理が元となっているため、高さ、幅、チャンネル数(フィルタ数)の3次元である。本実施形態では、高さを1、幅を第2期間の長さ、チャンネル数を第2特徴量の次元数、としている。CNNの内部には、畳み込み(Convolution)により第2特徴量を畳み込んでいく部分を有する。加えて、畳み込みにより2次元データD1の列の大きさを小さくする部分と、逆畳み込み(fractionally-strided convolution)や転置畳み込み(transposed convolution)により元の第2期間数に戻すよう大きくする部分と、を有してもよい。
【0024】
以上で説明した本実施形態の音声処理装置100によれば、楽譜特徴量等の第1特徴量が表される時間単位である予め定められた第1期間よりも長い第2期間毎に音響特徴量に変換するため、この音響特徴量を用いて音声を合成すると滑らかで自然な音声を合成できる。また、第2変換部30は、第2特徴量を第2特徴量の各次元のデータを第2期間に含まれる第1期間の数分並べて表される2次元データD1として用いて音響特徴量に変換しているため、時間方向の変化を効果的に扱うことができる。より具体的には、例えば、第2特徴量を第2期間分の各次元のデータを並べて表される1次元データとして用いる場合と比較して、各次元のデータの時間方向での変化をより効果的に学習できる。また、第2変換部30は、CNNを用いて変換を行うため、既存の技術を利用して高品位に第2特徴量を音響特徴量に変換できる。
【0025】
また、本実施形態では、第1変換部20は、FFNNを用いて第1特徴量を第2特徴量に変換しているため、高速に変換できる。
【0026】
実験結果:
図7は、生成した音声波形に対する主観評価実験の実験結果である平均オピニオン評点(Mean Opinion Score(MOS))を示した図である。本実験において、4手法の合成音声の品質を、「1:非常に悪い、2:悪い、3:普通、4:良い、5:非常に良い」の5段階の主観評価実験によって評価した。被験者は15人であり、各被験者はテストデータである5曲から各手法につき10フレーズを評価した。評価対象である合成音声の音声波形は、4手法とも同じ第1特徴量を用いて生成した。
【0027】
実施例1および実施例2は、上述した実施形態1の音声処理装置100によって第1特徴量を変換した音響特徴量、より具体的には、第2変換部30がCNNを用いて第2特徴量を変換した音響特徴量を用いて、音声波形を生成した。比較例1および比較例2は、第2変換部30がFFNNを用いて第2特徴量を変換した音響特徴量を用いて音声波形を生成した。また、実施例1および比較例1は、従来のボコーダ技術であるMLSAフィルタを用いて音響特徴量から音声波形を生成し、実施例2および比較例2は、wavenetを用いて音響特徴量から音声波形を生成した。図7に示すように、第2変換部30がCNNを用いた実施例1、実施例2のスコアは、第2変換部30がFFNNを用いた比較例1、比較例2のスコアよりも高かった。つまり、第2変換部30が上記実施形態に従ってCNNを用いて変換を行うと、より高品位に第2特徴量を音響特徴量に変換できる。
【0028】
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態におけるCNNの説明図である。第2実施形態のCNNは、図8においてハッチングで示すように、第2特徴量に加えて第1特徴量に含まれる特定のパラメータを入力層に入力して用いる点が第1実施形態と異なる。第2実施形態の音声処理装置100の構成は、第1実施形態の音声処理装置100の構成と同様であるため、構成の説明は省略する。
【0029】
本実施形態において、第1特徴量に含まれる特定のパラメータは、音高情報である。「音高情報」とは、楽譜情報における音高の対数基本周波数の情報である。音高情報は、第1特徴量における無音部分が、時間軸における前後の第1特徴量の音高情報によって補間されていることが好ましい。パラメータの他の例として、例えば、MIDIの音高番号や、音素情報が挙げられる。
【0030】
図9は、音高情報を補間した場合の一例を示す説明図である。図9に示す音高情報は、縦軸が対数基本周波数を示し、横軸が時間を示す。図9では、無音部分であるn番目(nは2以上の整数)の音符nにおける第1特徴量の音高情報が、音符n-1における第1特徴量の音高情報P0と音符n+1における第1特徴量の音高情報P2とを用いて音高情報P1に線形補間されている。なお、音高情報の補間は、線形補間に限らず、スプライン補間やラグランジュ補間等の他の補間手法を適用してもよい。
【0031】
以上で説明した本実施形態の音声処理装置100によれば、補助情報として第1特徴量に含まれるパラメータである音高情報を第2特徴量に加えるため、合成音声の音質が向上する音響特徴量に変換できる。なお、音高情報は入力層ではなく、中間層に入力してもよい。
【0032】
C.その他の実施形態:
上記実施形態において、取得部10が取得する第1特徴量は、楽譜特徴量である。この代わりに、取得部10は、第1特徴量として言語特徴量を取得してもよい。言語特徴量は、図2に示した楽譜特徴量から楽譜情報が省略され、品詞やアクセント等の情報が追加された多次元のパラメータである。この形態によれば、歌声ではない、単なるテキスト合成音声を行うための音響特徴量を生成できる。また、取得部10は、第1特徴量として声質特徴量を取得してもよい。声質特徴量は、他人の声から抽出した音響特徴量である。この形態によれば、ある話者の音響特徴量から、他の話者の音響特徴量へと変換する声質変換を行うための音響特徴量を生成できる。
【0033】
また、上記実施形態において、音声処理装置100は、第1変換部20による変換と第2変換部30による変換とによって第1特徴量を音響特徴量に変換している。この代わりに、第2変換部30が直接第1特徴量から音響特徴量に変換してもよい。この場合、第2変換部30は、CNNにより、第1特徴量を、第1特徴量の各次元のデータを予め定めた期間の長さ分並べて表される2次元データとして用いて変換を行う。
【0034】
また、上記実施形態において、第1変換部20は、FFNNを用いて第1特徴量を第2特徴量に変換している。第1変換部20は、FFNNにおいて、中間層L2において無作為にまたは任意に選んだノードの情報を伝達しないドロップアウトを行ってもよい。これにより、FFNNにおけるロバスト性を向上させることができる。
【0035】
また、上記実施形態において、第1変換部20および第2変換部30は、ニューラルネットワークにおいて、任意の層に入力されたパラメータを変換せずに次の層に伝える経路を追加した、スキップ構造であってもよい。これにより、任意のパラメータの情報を損なわずに、伝搬することができる。例えば、第1変換部20のFFNNでは第1特徴量における音高情報P0をスキップし、第2変換部30のCNNにおいて、変換されてない音高情報P0を含む第2特徴量を音響特徴量に変換してもよい。また、第2変換部30のニューラルネットワークにスキップ構造を加えることで、中間層の数を増加しても、入力した任意のパラメータの情報(例えば、楽譜の音高情報)を損なわずに、伝搬することができる。
【0036】
また、上記実施形態において、学習部50は、第2変換部30の生成した音響特徴量と教師データとに対して、一次微分や二次微分である時間変動を考慮するために用いられる動的特徴量を求め、これらを比較した学習結果をニューラルネットワークに反映してもよい。これにより、第1期間毎の時間変動における音響特徴量の関係がより考慮されるため、滑らかで自然な音声を合成できる。また、上記実施形態において、第2変換部30は、動的特徴量を生成していないが、動的特徴量を生成してもよい。この場合、ボコーダ部40は、音響特徴量に含まれる静的特徴量と動的特徴量から、これらの関係を考慮したパラメータ生成を行い、音声波形を生成できる。これにより、ボコーダ部40は、第2変換部30によって生成された動的特徴量を考慮して、静的特徴量を補正することができるため、より滑らかで自然な音声を合成できる。また、学習部50は、第2変換部30が生成する動的特徴量を含めて、音響特徴量における静的特徴量と動的特徴量との関係を教師有り機械学習によって学習することができる。
【0037】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述した課題を解決するために、あるいは上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10…取得部、20…第1変換部、30…第2変換部、40…ボコーダ部、50…学習部、60…音響モデル、100…音声処理装置、200…ディープニューラルネットワーク、D1…2次元データ、L1…入力層、L2…中間層、L3…出力層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9