(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の、診断用マーカー、診断を補助する方法、診断のためにデータを収集する方法、罹患可能性を評価する方法、及び診断用キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230517BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230517BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20230517BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20230517BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230517BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
C12Q1/02
A01K67/027
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019184791
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.abstractsonline.com/pp8/#!/7883/presentation/63319(令和1年9月21日公開)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】道川 誠
(72)【発明者】
【氏名】アブドラ モハンマド
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221212(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01188839(EP,A1)
【文献】特開2016-161480(JP,A)
【文献】特表2018-513986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソソームマーカー
(但し、フロチリンを除く。)からなる
軽度認知障害の診断用マーカー。
【請求項2】
前記エクソソームマーカーが
、CD63、
CD9、及びHSP9
0からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の診断用マーカー。
【請求項3】
軽度認知障害の診断を補助する方法であって、
被験者から採取した血液検体中の、請求項1
又は2に記載の診断用マーカーの濃度を測定し、
前記濃度を基準値と比較する、方法。
【請求項4】
軽度認知障害の診断のためにデータを収集する方法であって、
被験者から採取した血液検体中の、請求項1
又は2に記載の診断用マーカーの濃度を測定する、方法。
【請求項5】
軽度認知障害の
罹患可能性を評価するための方法であって、
被験者から採取した血液検体中の、請求項1又は2に記載の診断用マーカーの濃度を測定し、
前記濃度を基準濃度と比較し、
前記濃度が前記基準濃度と比較して低い場合には、前記被験者が
軽度認知障害に
罹患している可能性が高いことを示す、方法。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の診断用マーカーに特異的な抗体を含む、
軽度認知障害の診断用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の、診断用マーカー、診断を補助する方法、診断のためにデータを収集する方法、罹患可能性を評価する方法、及び診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
1906年にドイツの精神科医であるアロイス・アルツハイマーによってアルツハイマー病患者の第一例が報告された。既に100年以上が経過したが、未だに根本的治療法は確立していない。しかし、ここ二十数年の間に、アルツハイマー病研究は長足の進歩を遂げ、発症メカニズムの枠組みはほぼ理解されたと考えられている。すなわち、アルツハイマー病における二大病理である老人班及び神経原線維変化の構成蛋白質が、それぞれ、アミロイドベータ蛋白(Aβ)及びタウ蛋白(τ)であると同定され、家族性アルツハイマー病を引き起こす原因遺伝子が複数同定されて、それら原因遺伝子や原因蛋白質の解析が進んだ。アルツハイマー病分子病態を引き起こす病的カスケードが明らかにされた結果、科学的根拠に基づいた治療法開発が可能になり、発症機構に介入する根本的な治療法開発が数多く試みられている。一方、1993年には、高比重リポ蛋白(HDL:High-density lipoprotein)新生を通してコレステロール代謝を司るアポリポ蛋白E(ApoE)の対立遺伝子ε4が遺伝的な危険因子であることが明らかになり、血中コレステロール高値がアルツハイマー病の発症と相関すること、血中のコレステロール値を降下させる薬剤であるスタチンがアルツハイマー病発症率を低下させることなどが報告され、コレステロール代謝とアルツハイマー病との関連が注目された。その後も、Aβ産生に関わる基質であるアミロイド前駆体蛋白(APP:Amyloid-β precursor protein)や切断酵素もすべて膜タンパク質であることから、膜を構成する他の脂質代謝との関連にも関心が寄せられ、疾患発症との関係で報告が相次いでいる。脳内の事象(アルツハイマー病分子病態)と脳外事象(体循環系や食物摂取など)とがどのように関連し、脳内脂質代謝がどのようにしてアルツハイマー病分子病態に関連するかについては、いまだに未解明の部分が残っている。アルツハイマー病は、弧発例がほとんどであることから、予防・治療法開発の観点から危険因子及び関連分子・現象の解析とその応用の意義は益々重要になってきている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】道川誠、「脂質とアルツハイマー病」、日本老年医学会雑誌、2014年、第51巻、第2号、p.109-116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人体で必要なコレステロールの約60%は、主として肝臓等の細胞で合成され、残りは食物から摂取される。血中のコレステロール値は、細胞内コレステロールレベルをダイレクトに反映したものではないことから、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患のバイオマーカーとして最適とはいえない。
【0005】
そこで、本発明は、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の、診断用マーカー、診断を補助する方法、診断のためにデータを収集する方法、罹患可能性を評価する方法、及び診断用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] エクソソームマーカーからなる細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカー。
[2] 前記エクソソームマーカーが、フロチリン、CD63、HSP90及びエクソソームからなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の診断用マーカー。
[3] 前記細胞内コレステロールレベルに関連する疾患が、アルツハイマー病、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、肥満症、耐糖能異常、脳血管疾患、心臓病、心血管疾患及び動脈硬化症からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]又は[2]に記載の診断用マーカー。
[4] 細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断を補助する方法であって、
被験者から採取した血液検体中の、[1]~[3]のいずれか1つに記載の診断用マーカーの濃度を測定し、
前記濃度を基準値と比較する、方法。
[5] 細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断のためにデータを収集する方法であって、
被験者から採取した血液検体中の、[1]~[3]のいずれか1つに記載の診断用マーカーの濃度を測定する、方法。
[6] 細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の罹患可能性を評価する方法であって、
被験者から採取した血液検体中の、[1]又は[2]に記載の診断用マーカーの濃度を測定し、
前記濃度を基準濃度と比較し、
前記濃度が前記基準濃度と比較して低い場合には、前記被験者が前記細胞内コレステロールレベルに関連する疾患に罹患している可能性が高いと評価する、方法。
[7] 前記細胞内コレステロールレベルに関連する疾患が、アルツハイマー病、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、肥満症、耐糖能異常、脳血管疾患、心臓病及び心血管疾患からなる群から選択される少なくとも1つである、[6]に記載の方法。
[8] [1]~[3]のいずれか1つに記載の診断用マーカーに特異的な抗体を含む、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の、診断用マーカー、診断を補助する方法、診断のためにデータを収集する方法、罹患可能性を評価する方法、及び診断用キットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図10】
図10は、例10の実験結果(脳脊髄液)を示す図である。
【
図11】
図11は、例10の実験結果(血清)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「~」を用いて表す数値範囲には、「~」の両側の数値を含むものとする。
「発症前アルツハイマー病」は、脳内Aβの蓄積が認められるが、認知障害の症状は無い病態をいう。
血液は、全血、血漿又は血清のいずれでもよいが、血漿又は血清が好ましく、血清がより好ましい。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーを、単に「診断用マーカー」という場合がある。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断を補助する方法を、単に「診断を補助する方法」という場合がある。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断のためにデータを収集する方法を、単に「診断のためにデータを収集する方法」という場合がある。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の罹患可能性を評価する方法を、単に「罹患可能性を評価する方法」という場合がある。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用キットを、単に「診断用キット」という場合がある。
バイオマーカーとは「通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性」である(定義)。
SDは標準偏差(Standard Deviation)の意味である。標準偏差は、正規分布しているデータに対して、各データが平均値を挟んでどの程度散らばっているかという情報を提供する。平均値の上下、1SDの範囲(±1SDと略す)には、全データの68.26%が含まれる。±2SDには95.44%が含まれる。±3SDには99.74%が含まれる。
【0010】
以下では、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は後述する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。
【0011】
[診断用マーカー]
本発明の診断用マーカーは、エクソソームマーカーからなる。
【0012】
<エクソソームマーカー>
エクソソームマーカーは被験者の血液検体中のエクソソームを定量するために使用できるバイオマーカーであれば特に限定されないが、フロチリン、CD63、HSP90及びエクソソームからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
フロチリン、CD63、HSP90及びエクソソームからなる群から選択される2つ以上を組み合わせることによって、より精度のよい診断が可能となる。
【0013】
本発明の診断用マーカーはヒトの体液に含まれていると好ましい。本発明の診断用マーカーがヒトの体液に含まれていると、生体検査等に比べて、検体の採取が低侵襲であり、検査が簡便である。加えて、自宅等の医療機関以外の場所でも細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の検査を行うことができるという利点がある。
体液の具体例としては、血液、リンパ液、髄液、羊水等の体液が挙げられる。ただし、体液は、これらの例示に限定されない。
体液としては、前記体液から不要成分を除去する等の前処理を行った処理液、又は前記体液に含まれる細胞を培養して得られた培養液でもよい。
これらの中でも、採取が簡便で、エクソソームマーカー以外のバイオマーカーの測定にも使用できることから、体液としては血液が好ましい。血液は、全血であってもよいし、血漿又は血清であってもよい。
【0014】
《フロチリン》
フロチリンは、エンドソーム結合タンパク質の1種であり、エクソソームが多胞性エンドソーム(MVE)の内部にエンドソームの膜が陥没して形成される際に、エクソソームに取り込まれる。フロチリンは、一般的なエクソソームのマーカーの1つである。
【0015】
本発明者らは、ApoEノックアウトマウス(アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウス)から培養したアストロサイト培養細胞の細胞内コレステロールレベルと培養液へのフロチリン分泌量について解析したところ、次の(1)~(4)の結果を得た。
(1)ApoEノックアウトマウスから培養したアストロサイト培養細胞は、野生型のアストロサイト培養細胞に比べて、培養上清中のフロチリン濃度が低下していた。すなわち、フロチリン分泌が低下していた。
(2)ApoEノックアウトマウスにApoE3又はApoE4をノックインしたマウスから培養したアストロサイト培養細胞では、フロチリン分泌の低下が認められなかった。
(3)ApoE欠損型マウスから培養したアストロサイト培養細胞を、コレステロール除去剤であるβ-シクロデキストリンで処理したところ、フロチリン分泌の低下は回復した。
(4)ApoEノックアウトマウスにApoE3又はApoE4をノックインしたマウスから培養したアストロサイト培養細胞の培養液にコレステロールを添加したところ、(2)のアストロサイト培養細胞に比べて、培養上清中のフロチリン濃度が低下していた。すなわち、フロチリン分泌が低下していた。
これらの結果から、本発明者らは、細胞内コレステロールレベルが高い場合には、細胞からのフロチリン分泌が低下すること、すなわち、エクソソーム分泌が低下することを知見した。
【0016】
したがって、細胞内コレステロールレベルが高ければ、フロチリンの分泌が低下し、細胞内コレステロールが低ければ、フロチリンの分泌が上昇すること、換言すれば、細胞内コレステロールレベルとフロチリン分泌とは逆相関するという知見が得られた。
このことから、フロチリンは細胞内コレステロールレベルのマーカーとして利用できること、さらには、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーとして有用であることがわかる。
【0017】
《CD63》
CD63は、エクソソームの膜に発現する膜貫通タンパク質ファミリーであるテトラスパニンの1種であり、一般的なエクソソームのマーカーの1つである。
【0018】
本発明者らは、ApoEノックアウトマウス(アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウス)から培養したアストロサイト培養細胞の細胞内コレステロールレベルと培養液へのCD63分泌量について解析したところ、次の(1)~(4)の結果を得た。
(1)ApoEノックアウトマウスから培養したアストロサイト培養細胞は、野生型のアストロサイト培養細胞に比べて、培養上清中のCD63濃度が低下していた。すなわち、CD63分泌が低下していた。
(2)ApoEノックアウトマウスにApoE3又はApoE4をノックインしたマウスから培養したアストロサイト培養細胞では、CD63分泌の低下が認められなかった。
(3)ApoE欠損型マウスから培養したアストロサイト培養細胞を、コレステロール除去剤であるβ-シクロデキストリンで処理したところ、CD63分泌の低下は回復した。
(4)ApoEノックアウトマウスにApoE3又はApoE4をノックインしたマウスから培養したアストロサイト培養細胞の培養液にコレステロールを添加したところ、(2)のアストロサイト培養細胞に比べて、培養上清中のCD63濃度が低下していた。すなわち、CD63分泌が低下していた。
これらの結果から、本発明者らは、細胞内コレステロールレベルが高い場合には、細胞からのCD63分泌が低下すること、すなわち、エクソソーム分泌が低下することを知見した。
【0019】
したがって、細胞内コレステロールレベルが高ければ、CD63の分泌が低下し、細胞内コレステロールが低ければ、CD63の分泌が上昇すること、換言すれば、細胞内コレステロールレベルとCD63分泌とは逆相関するという知見が得られた。
このことから、CD63は細胞内コレステロールレベルのマーカーとして利用できること、さらには、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーとして有用であることがわかる。
【0020】
《HSP90》
HSP90は、分子量約90kDaのタンパク質であり、エクソソームの内部に含まれている。HSP90は、一般的なエクソソームのマーカーの1つである。
【0021】
本発明者らは、ApoEノックアウトマウス(アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウス)から培養したアストロサイト培養細胞の細胞内コレステロールレベルと培養液へのHSP90分泌量について解析したところ、次の(1)~(4)の結果を得た。
(1)ApoEノックアウトマウスから培養したアストロサイト培養細胞は、野生型のアストロサイト培養細胞に比べて、培養上清中のHSP90濃度が低下していた。すなわち、HSP90分泌が低下していた。
(2)ApoEノックアウトマウスにApoE3又はApoE4をノックインしたマウスから培養したアストロサイト培養細胞では、HSP90分泌の低下が認められなかった。
(3)ApoE欠損型マウスから培養したアストロサイト培養細胞を、コレステロール除去剤であるβ-シクロデキストリンで処理したところ、HSP90分泌の低下は回復した。
(4)ApoEノックアウトマウスにApoE3又はApoE4をノックインしたマウスから培養したアストロサイト培養細胞の培養液にコレステロールを添加したところ、(2)のアストロサイト培養細胞に比べて、培養上清中のHSP90濃度が低下していた。すなわち、HSP90分泌が低下していた。
これらの結果から、本発明者らは、細胞内コレステロールレベルが高い場合には、細胞からのHSP90分泌が低下すること、すなわち、エクソソーム分泌が低下することを知見した。
【0022】
したがって、細胞内コレステロールレベルが高ければ、HSP90の分泌が低下し、細胞内コレステロールが低ければ、HSP90の分泌が上昇すること、換言すれば、細胞内コレステロールレベルとHSP90分泌とは逆相関するという知見が得られた。
このことから、HSP90は細胞内コレステロールレベルのマーカーとして利用できること、さらには、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーとして有用であることがわかる。
【0023】
《エクソソーム》
上述したフロチリン、CD63及びHSP90は、いずれも一般的なエクソソームのマーカーであることに鑑みれば、細胞内コレステロールレベルが高ければ、エクソソームの分泌が低下し、細胞内コレステロールが低ければ、エクソソームの分泌が上昇すること、換言すれば、細胞内コレステロールレベルとエクソソーム分泌とは逆相関するという知見が得られた。
このことから、エクソソームは細胞内コレステロールレベルのマーカーとして利用できること、さらには、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーとして有用であることがわかる。
【0024】
さらに、本発明者らは、培養上清中のエクソソームをELISA法又はウェスタンブロッティング法によって直接定量したところ、培養上清中のエクソソーム濃度と、細胞内コレステロールレベルとは、逆相関するという知見が得られた。
このことからも、エクソソームは細胞内コレステロールレベルのマーカーとして利用できること、さらには、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーとして有用であることがわかる。
【0025】
<細胞内コレステロールレベルに関連する疾患>
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患は、例えば、アルツハイマー病、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、肥満症、耐糖能異常、脳血管疾患、心臓病、心血管疾患及び動脈硬化症であり、これらの疾患からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0026】
被験者から採取した検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度が基準値よりも低い場合に、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患に罹患している可能性があると判断できる。
基準値は、例えば、健常者から採取した検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度の平均値±1SDである。
【0027】
本発明の診断用マーカーの濃度が基準値よりも低いことに関連する疾患としては、例えば、アルツハイマー病、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、肥満症、耐糖能異常、脳血管疾患、心臓病、心血管疾患及び動脈硬化症が挙げられる。
動脈硬化症としては、特に、アテローム性動脈硬化症が挙げられる。
脂質異常症としては、高コレステロール血症及び高脂血症が挙げられる。
【0028】
[診断を補助する方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断を補助する方法(単に「診断を補助する方法」という場合がある。)は、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定し、前記濃度を基準値と比較することを特徴とする。
【0029】
本発明の診断を補助する方法は、被験者が細胞内コレステロールレベルに関連する疾患に罹患しているか否かの診断の補助となる判断材料を提供するものである。当該判断材料に基づいて、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断を行ってもよい。
【0030】
本発明の診断を補助する方法においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定する。次いで、前記濃度を基準値と比較する。
【0031】
被験者から血液検体を採取する方法は特に限定されない。一般的な検査で使用される方法でよい。例えば、静脈穿刺により血液を採取できる。
【0032】
血液検体中の、本発明の診断用マーカーの検出及び定量は、前記診断用マーカーに特異的な抗体を用いることが好ましい。
血液検体中のフロチリンの検出及び定量は、抗フロチリン抗体を用いることが好ましい。
血液検体中のCD63の検出及び定量は、抗CD63抗体を用いることが好ましい。
血液検体中のHSP90の検出及び定量は、抗HSP90抗体を用いることが好ましい。
フロチリン、CD63又はHSP90の検出及び定量は、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay:エライザ)、ウェスタンブロッティング等、抗原抗体反応を利用したものが好ましく、ELISAが特に好ましい。ELISAは、直接吸着法、サンドイッチ法、競合法のいずれでもよい。
【0033】
エクソソームの検出及び定量は、例えば、固相化した抗CD9抗体でエクソソームを補足し、標識した抗CD63抗体で検出及び定量を行う方法、固相化した抗CD9抗体でエクソソームを捕捉し、標識した抗CD9抗体で検出及び定量を行う方法、固相化した抗CD63抗体でエクソソームを補足し、標識した抗CD63抗体で検出及び定量を行う方法、固相化した抗HSP90抗体でエクソソームを補足し、標識した抗HSP90抗体で検出及び定量を行う方法、固相化した抗フロチリン抗体でエクソソームを補足し、標識した抗フロチリン抗体で検出及び定量を行う方法等により行うことが好ましい。また、血液検体からエクソソームを単離後、FACS(Fluorescence-Activated Cell Sorting:蛍光活性化セルソーティング)を用いて検出及び定量を行う方法でもよい。また、血液検体からエクソソームを単離後、ウェスタンブロッティングによって検出及び定量を行ってもよい。エクソソームの検出及び定量のための抗体としては、抗フロチリン抗体、抗CD63抗体、抗HSP90抗体等が挙げられる。
【0034】
次いで、血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を基準値と比較する。
基準値は、例えば、健常者から採取した検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度の平均値±1SDである。
【0035】
血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度が基準値よりも低い場合の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患としては、例えば、アルツハイマー病、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、肥満症、耐糖能異常、脳血管疾患、心臓病、心血管疾患及び動脈硬化症が挙げられる。動脈硬化症としては、特に、アテローム性動脈硬化症が挙げられる。脂質異常症としては、高コレステロール血症及び高脂血症が挙げられる。
【0036】
本発明の診断を補助する方法によれば、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患を高精度で診断するための情報を取得できる。
本発明の診断を補助する方法によって得られた情報は、基準値との比較に使用できる。このように当該情報は、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患を診断するため判断材料の提供に有用である。
【0037】
[診断のためにデータを収集する方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断のためにデータを収集する方法(単に「診断のためにデータを収集する方法」という場合がある。)は、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定することを特徴とする。
【0038】
本発明の診断用マーカーの濃度の測定方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0039】
本発明の診断のためにデータを収集する方法によれば、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患を高精度で診断するための情報を取得できる。
本発明の診断のためにデータを収集する方法によって得られた情報は、基準値との比較に使用できる。このように当該情報は、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患を診断するため判断材料の提供に有用である。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの濃度の基準値との比較の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0040】
[診断を補助するためのインビトロの方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断を補助するためのインビトロの方法(単に「診断を補助するためのインビトロの方法」という場合がある。)においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定する。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーの検出及び定量の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0041】
本発明の診断を補助するためのインビトロの方法によれば、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患を高精度で診断するための情報を取得できる。
本発明の診断を補助するためのインビトロの方法によって得られた情報は、基準値との比較に使用できる。このように当該情報は、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患を診断するため判断材料の提供に有用である。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの濃度の基準値との比較の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0042】
[診断方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断方法(単に「診断方法」という場合がある。)においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定し、前記濃度を基準値と比較する。
本発明の診断方法は、被験者が細胞内コレステロールレベルに関連する疾患に罹患しているか否かを診断する方法である。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーの検出及び定量の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの発現量の基準値との比較の詳細及び好ましい態様は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0043】
本発明の診断方法においては、本発明の診断用マーカーの濃度を基準値と比較する。
【0044】
[判定方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の判定方法(単に「判定方法」という場合がある。)においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定し、前記濃度を基準値と比較する。
本発明の判定方法は、被験者における細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の罹患の有無を判定する方法である。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーの検出及び定量の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの濃度の基準値との比較の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0045】
本発明の判定方法においては、本発明の診断用マーカーの濃度を基準値と比較する。
【0046】
[試験方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の試験方法(単に「試験方法」という場合がる。)においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定し、前記濃度を基準値と比較する。
本発明の試験方法は、被験者における細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の有無を試験する方法である。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーの検出及び定量の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの濃度の基準値との比較の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0047】
本発明の試験方法においては、本発明の診断用マーカーの濃度を基準値と比較する。
【0048】
[罹患可能性を評価する方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の罹患可能性を評価する方法(単に「罹患可能性を評価する方法」)の一実施形態においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定し、前記濃度を基準濃度と比較し、前記濃度が前記基準濃度と比較して低い場合には、前記被験者が前記細胞内コレステロールレベルに関連する疾患に罹患している可能性が高いと評価する。
【0049】
本発明の罹患可能性を評価する方法は、被験者における細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の罹患可能性を評価する方法である。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーの検出及び定量の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの濃度の基準値との比較の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0050】
本発明の罹患可能性を評価する方法においては、本発明の診断用マーカーの濃度を基準値と比較する。
【0051】
血液検体中の診断用マーカーの濃度が基準値よりも低い場合の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患としては、例えば、アルツハイマー病、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、肥満症、耐糖能異常、脳血管疾患、心臓病、心血管疾患及び動脈硬化症が挙げられる。動脈硬化症としては、特に、アテローム性動脈硬化症が挙げられる。脂質異常症としては、高コレステロール血症及び高脂血症が挙げられる。
【0052】
[治療方法]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の治療方法(単に「治療方法」という場合がる。)においては、被験者から採取した血液検体中の、本発明の診断用マーカーの濃度を測定し、前記濃度を基準値と比較し、前記濃度が前記基準値よりも低い場合に、前記被験者に前記疾患の治療薬を投与する。
本発明の治療方法は、被験者における細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の治療を目的とする方法である。
細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用マーカーの検出及び定量の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
基準値の具体的内容及び診断用マーカーの濃度の基準値との比較の方法は、上述の「診断を補助する方法」において述べたものと同様のものとすることができる。
【0053】
本発明の治療方法においては、本発明の診断用マーカーが基準値よりも低値である被験者に対して、投薬治療を行う。
【0054】
本発明の診断用マーカーの濃度が基準値よりも低く、細胞内コレステロールレベルが高い場合に投与する治療薬としては、例えば、HMG-CoA阻害薬(スタチン類)が挙げられる。HMG-CoA阻害薬は、細胞内でのコレステロール合成を阻害するため、細胞内コレステロールレベルを下げることができる。HMG-CoA阻害薬と、エゼチミブ、フィブラート等を併用してもよい。
【0055】
[診断用キット]
本発明の細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断用キット(単位「診断用キット」という場合がある。)は、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の有無を検査するために使用するキットである。本発明の診断用キットは、本発明の診断用マーカーに特異的な抗体を含む。このような特異的な抗体は、抗フロチリン抗体抗CD63抗体、抗HSP90抗体及びエクソソームに特異的な抗体からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0056】
<抗フロチリン抗体>
抗フロチリン抗体は、フロチリンに対する特異的結合性を有する抗体である。抗フロチリン抗体は、フロチリンに対する特異的結合性を有する限り、その種類及び由来等は特に限定されない。また、ポリクローナル抗体、オリゴクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれでもよい。ポリクローナル抗体又はオリゴクローナル抗体としては、動物免疫して得た抗血清由来のIgG画分の他、抗原によるアフィニティー精製抗体を使用できる。抗フロチリン抗体が、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv抗体等の抗体断片であってもよい。
【0057】
抗フロチリン抗体は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法等を利用して調製できる。免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は次の手順で行える。抗原(フロチリン又はその一部)を調製し、これを用いてウサギ等の動物に免疫を施す。抗原は生体試料を精製することにより得られる。また、組換え型抗原を用いることもできる。組換え型抗原は、例えば、フロチリンをコードする遺伝子(遺伝子の一部であってもよい)を、ベクターを用いて適当な宿主細胞に導入し、得られた組換え細胞内で遺伝子を発現させることにより調製できる。
【0058】
免疫惹起作用を増強するために、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いてもよい。キャリアタンパク質としては、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、BSA(ウシ血清アルブミン)、OVA(オボアルブミン)等が使用される。キャリアタンパク質の結合には、カルボジイミド法、グルタルアルデヒド法、ジアゾ縮合法、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法等を使用できる。一方、フロチリン(又はその一部)を、GST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)、βガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク又はヒスチジン(His)タグ等との融合タンパク質として発現させた抗体を用いることもできる。このような融合タンパク質は、汎用液な方法により簡便に精製できる。
【0059】
必要に応じて免疫を繰り返し、充分に抗体価が上昇した時点で採決し、遠心処理等によって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製し、ポリクローナル抗体とする。
【0060】
一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製できる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、充分に抗体価が上昇した時点で免疫細胞から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、フロチリンに対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製して目的の抗体を得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製しても目的の抗体を取得できる。培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原(フロチリン)を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。さらには、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、硫安分画又は遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は、単独で、又は組み合わせて、用いられる。
【0061】
フロチリンへの特異的結合性を保持することを条件として、得られた抗体に種々の改変を施すことができる。このような改変抗体をフロチリンに特異的な抗体として用いてもよい。
【0062】
抗フロチリン抗体として標識化抗体を使用すれば、標識量を指標に結合体量を直接検出することが可能である。従って、より簡便な検査法を構築できる。その反面、標識物質を結合させた抗フロチリン抗体を用意する必要があることに加えて、検出感度が一般に低くなるという問題点がある。そこで、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法、二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法等、間接的検出方法を利用することが好ましい。ここでの二次抗体とは、抗フロチリン抗体に特異的結合性を有する抗体であった、例えばウサギ抗体として抗HSP抗体を調製した場合には、抗ウサギIgG抗体を使用できる。ウサギ、ヤギ又はマウス等、様々な種の抗体に対して使用可能な標識二次抗体が市販されており(例えばフナコシ社、コスモバイオ社等)、適切なものを適宜選択して使用できる。
【0063】
標識物質としては、例えば、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、オレゴングリーン等の蛍光色素、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ等の酵素、ルミノール、アクリジン色素等の化学又は生物発光化合物、32P、35S、131I、125I等の放射性同位体、及びビオチンが挙げられる。
【0064】
一態様では、フロチリンに特異的な抗体はその用途に合わせて固相化されている。固相化に用いる不溶性支持体は特に限定されない。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂、又はガラス等の水に不溶性の物質からなる不溶性支持体を用いることができる。不溶性支持体への抗体の担持は、物理吸着又は化学吸着によって行える。
【0065】
本発明の診断用キットは、被験者の血液中のフロチリンを測定する際に使用する、フロチリンに特異的な抗体以外の試薬を含んでもよい。このような試薬としては、緩衝液、部ロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬等が挙げられる。さらに、被験者の血液中のフロチリンを測定する際に使用する、容器、反応装置、蛍光リーダー等の器具又は装置を含んでもよい。また、標準試料として、フロチリンをキットに含めることが好ましい。
【0066】
<抗CD63抗体>
抗CD63抗体は、CD63に対する特異的結合性を有する限り、その種類及び由来等は特に限定されない。抗CD63抗体は、抗フロチリン抗体の調製方法に準じて調製できる。
【0067】
<抗HSP90抗体>
抗HSP90抗体は、HSP90に対する特異的結合性を有する限り、その種類及び由来等は特に限定されない。抗HSP90抗体は、抗HSP90抗体の調製方法に準じて調製できる。
【0068】
<フロチリンに特異的な抗体>
フロチリンに特異的な抗体は、上述した抗フロチリン抗体、抗CD63抗体及び抗HSP90抗体の他、抗CD9抗体又は抗CD81抗体等を利用できる。
【0069】
<複数の抗体を含む場合>
本発明の診断用キットは、抗フロチリン抗体、抗CD63抗体、抗HSP90抗体及びエクソソームに特異的な抗体のうち1種以上を含む。
【0070】
抗フロチリン抗体、抗CD63抗体、抗HSP90抗体及びエクソソームに特異的な抗体のうち2種以上を含む場合は、各抗体はそれぞれ別個の容器に収容されていてもよいし、同一の容器に収容されていてもよい。
【0071】
本発明の診断用キットでは、抗体をはじめとする各試薬は、それぞれ別個の容器に収容されて、使用者が使用時に混合するようにして提供されてもよいし、少なくとも一部の試薬についてプレミックスとして予め混合した状態で提供されてもよい。
【0072】
本発明の診断用キットには、さらに、取扱説明書(プロトコール)を添付することが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下では、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。
【0074】
[例1]
<ApoEノックアウトマウスから培養したアストロサイトの馴化培養液中のフロチリン濃度は低下する>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6JマウスおよびApoE欠損C57BL/6Jマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれ無血清培地で72時間培養後、上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、ApoEレベルをウエスタンブロット解析で検出した。
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びヤギ抗アポリポプロテインE(ApoE)抗体(Millipore社製,Cat No. AB947)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
【0075】
図1に示す結果が得られた。
72時間培養した馴化培養液(CM;Conditioned Media)中のフロチリン及びApoEは、いずれも、ApoEノックアウト細胞(ApoE-KO)において、野生型細胞(WT)よりも低濃度であった(
図1A、B)。
また、セル・ライセート中のフロチリンは、ApoEノックアウト細胞(ApoE-KO)と野生型細胞(WT)との間で差が無かったが、ApoEは、ApoEノックアウト細胞(ApoE-KO)において、野生型細胞(WT)よりも低濃度であった(
図1C、D)。
これらのことから、ApoEノックアウト細胞では、エクソソームの分泌が低下することがわかった。
【0076】
[例2]
<野生型マウス、ApoEノックアウトマウス、ApoE3ノックインマウス、ApoE4ノックインマウスから培養したアストロサイトの馴化培養液中のエクソソーム分泌の比較>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウス、ApoE3-ノックインマウス、およびApoE4-ノックインマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれ無血清培地で24時間、48時間、72時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、ApoE、HSP90レベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0077】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びヤギ抗アポリポプロテインE(ApoE)抗体(Millipore社製,Cat No.AB947)およびマウス抗HSP90モノクローナル抗体(BD Bioscience社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
【0078】
図2に示す結果が得られた。
24時間、48時間又は72時間培養した馴化培養液(CM;Conditioned Media)中のフロチリン、HSP90、ApoEの濃度は、ApoEノックアウトマウスが、野生型マウス、ApoE3ノックインマウス及びApoE4ノックインマウスに比べて低かった。このことから、ApoEノックアウト細胞ではエクソソーム分泌が低下するが、ApoE3又はApoE4をノックインすることにより、野生型と同等にまで回復することがわかった。
【0079】
[例3]
<ApoEノックアウトマウスから培養したアストロサイトではリン酸化Akt、リン酸化PI3キナーゼが亢進している>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウス、ApoE3-ノックインマウス、およびApoE4-ノックインマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれ無血清培地で48時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、リン酸化PI3キナーゼ、PI3キナーゼ、リン酸化Akt、Aktレベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0080】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗マウスリン酸化PI3キナーゼp85/p55ポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)、ウサギ抗ヒトPI3キナーゼp85モノクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)、ウサギ抗マウスリン酸化Aktポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)、ウサギ抗マウスAktポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
【0081】
図3に示す結果が得られた。
野生型、ApoEノックアウト、ApoE3ノックイン及びApoE4ノックインの間では、Akt量に有意差が無かったが、P-Akt(リン酸化Akt)量は、ApoEノックアウトが最も多く、野生型が最も少なかった。
野生型、ApoEノックアウト、ApoE3ノックイン及びApoE4ノックインの間では、PI3K(PI3キナーゼ)量に有意差が無かったが、P-PI3K(リン酸化PI3キナーゼ)量は、ApoEノックアウトが最も多く、野生型が最も少なかった。
α-tubulin(α-チュブリン)は常時発現しており、ポジティブコントロールとして用いた。
【0082】
[例4]
<ApoEノックアウトマウスから培養したアストロサイトの細胞内コレステロールレベルは高い>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウス、ApoE3-ノックインマウス、およびApoE4-ノックインマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれ無血清培地で48時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、ApoE、HSP90、α-チュブリンレベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0083】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びヤギ抗アポリポプロテインE(ApoE)抗体(Millipore社製,Cat No.AB947)およびマウス抗HSP90モノクローナル抗体(BD Bioscience社製),マウス抗α-チュブリンモノクローナル抗体(Sigma ALdrich,USA)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
(3)コレステロール定量
培養細胞のコレステロール定量では、細胞のコレステロールを乾燥させ、その後ヘキサン・イソプロパノール溶液(3:2)で30分間インキュベーションさせたのち、ヘキサン・イソプロパノール溶液を乾燥させ、溶解したコレステロールをコレステロール定量キット(協和発酵、和光純薬)を用いて定量した。溶液除去後にプレートを乾燥させ、タンパクを定量し、単位タンパク質当たりのコレステロール量を定量した。
【0084】
図4に示す結果が得られた。
馴化培養液中のフロチリン濃度、HSP90濃度、ApoE濃度は、ApoEノックアウト細胞が最も低かった(
図4A)。
また、セル・ライセート中のフロチリン及びHSP90の濃度は、ApoEノックアウト細胞と他の細胞との間で有意な差が無かったが、ApoEの濃度が、ApoEノックアウト細胞が最も低かった(
図4B)。
細胞内コレステロールレベルは、ApoEノックアウト細胞が著しく高く、野生型細胞、ApoE3ノックイン細胞及びApoE4ノックイン細胞は、ほぼ同レベルであった。
【0085】
[例5]
<コレステロール添加により培養液中のフロチリン/HSP90濃度は低下する>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウス、ApoE3-ノックインマウス、およびApoE4-ノックインマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれに濃度の異なるコレステロール(エタノールに溶解)を添加した。添加内容は、エタノールのみ、0μM、5μM、10μMのコレステロールであった。これらの濃度で処理された培養細胞は無血清培地で48時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、ApoE、HSP90レベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0086】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びヤギ抗アポリポプロテインE(ApoE)抗体(Millipore社製,Cat No.AB947)およびマウス抗HSP90モノクローナル抗体(BD Bioscience社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
(3)コレステロール定量
培養細胞のコレステロール定量では、細胞のコレステロールを乾燥させ、その後ヘキサン・イソプロパノール溶液(3:2)で30分間インキュベーションさせたのち、ヘキサン・イソプロパノール溶液を乾燥させ、溶解したコレステロールをコレステロール定量キット(協和発酵、和光純薬)を用いて定量した。溶液除去後にプレートを乾燥させ、タンパクを定量し、単位タンパク質当たりのコレステロール量を定量した。
【0087】
図5に示す結果が得られた。
野生型細胞及びApoEノックアウト細胞のいずれにおいても、コレステロール添加によって、馴化培養液中のフロチリン濃度及びHSP90濃度が低下したが、ApoE濃度は変化がなかった(
図5A、C~E)。
野生型細胞及びApoEノックアウト細胞のいずれにおいても、コレステロール添加によって、細胞内コレステロールレベルが上昇したが、ApoEノックアウト細胞は野生型細胞よりも高レベルであった(
図5B)。
【0088】
[例6]
<β-シクロデキストリン処理でコレステロールを細胞から引き抜くとフロチリン/HSP90分泌が増加する>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれに濃度の異なるβ-シクロデキストリン(エタノールに溶解)をエタノールのみ、0mM、5mM、10mMの濃度で添加した。β-シクロデキストリンは細胞からコレステロールを抜き取る作用があり、細胞のコレステロールレベルを低下させる。これらの濃度で処理された培養細胞は無血清培地で48時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、ApoE、HSP90レベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0089】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びヤギ抗アポリポプロテインE(ApoE)抗体(Millipore社製,Cat No.AB947)およびマウス抗HSP90モノクローナル抗体(BD Bioscience社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
(3)コレステロール定量
培養細胞のコレステロール定量では、細胞のコレステロールを乾燥させ、その後ヘキサン・イソプロパノール溶液(3:2)で30分間インキュベーションさせたのち、ヘキサン・イソプロパノール溶液を乾燥させ、溶解したコレステロールをコレステロール定量キット(協和発酵、和光純薬)を用いて定量した。溶液除去後にプレートを乾燥させ、タンパクを定量し、単位タンパク質当たりのコレステロール量を定量した。
【0090】
図6に示す結果が得られた。
培養液へのβ-シクロデキストリンの添加により、ApoEノックアウト細胞の馴化培養液中のフロチリン濃度及びHSP90濃度は野生型細胞と同程度にまで増加したが、ApoE濃度に変化はなかった(
図6A、C~E)。
野生型細胞及びApoEノックアウト細胞のいずれにおいても、β-シクロデキストリンの添加によって、細胞内コレステロールレベルが低下したが、ApoEノックアウト細胞では、2mMの添加で野生型細胞と同等にまで低下した(
図6B)。
【0091】
[例7]
<β-シクロデキストリン処理でコレステロールを細胞から引き抜くとリン酸化PI3キナーゼとリン酸化Aktは減少する>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれに濃度の異なるβ-シクロデキストリン(エタノールに溶解)をエタノールのみ、0mM、5mM、10mMの濃度で添加した。β-シクロデキストリンは細胞からコレステロールを抜き取る作用があり、細胞のコレステロールレベルを低下させる。これらの濃度で処理された培養細胞は無血清培地で48時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、リン酸化PI3キナーゼ、PI3キナーゼ、リン酸化Akt、Aktレベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0092】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗マウスリン酸化PI3キナーゼp85/p55ポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)、ウサギ抗ヒトPI3キナーゼp85モノクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)、ウサギ抗マウスリン酸化Aktポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)、ウサギ抗マウスAktポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
【0093】
図7に示す結果が得られた。
セル・ライセート中のAkt量はβ-シクロデキストリン処理により影響を受けなかったが、P-Akt(リン酸化Akt)量はβ-シクロデキストリン処理により低下した(
図7A~C)。
セル・ライセート中のPI3K(PI3キナーゼ)量はβ-シクロデキストリン処理により影響を受けなかったが、ApoEノックアウト細胞では、P-PI3K(リン酸化PI3キナーゼ)量はβ-シクロデキストリン処理により低下した(
図7A、D、E)。
【0094】
[例8]
<PI3キナーゼ阻害剤(LY294002)はApoEノックアウトにフロチリン/HSP90の減少を改善させた>
(1)細胞培養試験
生まれて1日目の野生型C57BL/6Jマウス、ApoE欠損C57BL/6Jマウスから大脳皮質を採取したのち髄膜を除去し、メスを用い細切した。細切した脳組織をトリプシン(0.25%)及びDNase I(0.1mg/mL)を含むDMEM培地にいれ、37℃、15分間インキュベートし組織を破砕した。その後、800rpmで5分間遠心してから上清を吸引し、10%ウシ胎児血清、100μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM溶液を加え、培養フラスコに播き培養した(37℃、5% CO2)。細胞がコンフルーエントになり次第、恒温振とう機を用い37℃、200rpmの条件で1時間振とうし、接着力が弱いミクログリアを除去した。
次いで、60mm dishに1×106個のアストロサイトを播き、それぞれに濃度の異なるPI3キナーゼ阻害剤(LY294002)(DMSOに溶解)を、2、10、20μM、の濃度で添加した。これらの濃度で処理された培養細胞は無血清培地で48時間培養後、それぞれ上清を回収した。
次に、前記の手順で回収した上清を用いて、培養液中に分泌されたフロチリン(flotillin)、HSP90レベルをウエスタンブロット解析で検出した。
【0095】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びマウス抗HSP90モノクローナル抗体(BD Bioscience社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
【0096】
図8に示す結果が得られた。
PI3キナーゼ阻害剤(LY294002)添加によって、ApoEノックアウト細胞における培養液中のフロチリン濃度及びHSP90濃度が野生型細胞と同等にまで上昇した(
図8A~C)。
【0097】
[例9]
<ヒト血清試料を用いたフロチリン濃度とCD63/9との相関(MCI(+),MCI(-))>
ヒトサンプルの収集では、MCI(-)(軽度認知障害ない)群とMCI(+)(軽度認知障害あり)群の患者血清を採取した。これらの患者は、認知機能検査、MRI検査、アミロイドPET検査等により診断されたものである。
それぞれの血清をPBSで100倍に希釈したものを使用し、含まれているフロチリンレベルをウエスタンブロット解析で定量した。まず、10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行いタンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
また、血清エクソソームレベル定量では、血清を20倍に希釈してCD9/CD63エクソソーム定量キット(コスモバイオ株式会社)を使用し、プロトコールに従って解析した。
【0098】
図9に示す結果が得られた。
MCI(-)(軽度認知障害ない)群とMCI(+)(軽度認知障害あり)群とでは、血清中のエクソソーム濃度に有意差が認められた(
図9A~C)。
【0099】
[例10]
(1)マウスを用いた高脂肪食(高コレステロール食)による影響の解析
3か月齢の野生型C57BL/6Jマウスを20匹準備し、普通食で飼育するマウスを11匹、高脂肪食で飼育するマウスを9匹とした。これらの条件で4カ月間飼育し、脳脊髄液、血清ならびに脳サンプルを回収した。回収に際しては3種類の麻酔剤をメデトミジン(ドミトール(登録商標)、日本全薬工業社製)0.3mg/kg、ミダゾラム(ドルミカム(登録商標)、アステラス製薬社製)4.0mg/kg及びブトルファノール(ベトルファール(登録商標)、Meiji Seikaファルマ社製)5.0mg/kgの割合で投与できるように混合したものを準備し、純水に溶かしたものをマウスの体重に合わせて使用した。
投与方法は、マウスの腹腔に容量としてg体重あたり0.01mLを投与した。
麻酔下で、マウス後頭部を開き、髄液を採取し凍結保存(-80℃)した。
心臓から4℃PBSを注入して全身(脳を含む)を還流した。
【0100】
(2)ウエスタンブロット解析
10%ポリアクリルアミドゲルに各サンプルの上清液10μLに4×SDSサンプルバッファー2.5μLを加えた溶液を入れて電気泳動を行い、タンパク質を分離した。分離されたタンパク質は、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)メンブレンにトランスファーした後、室温で1時間ブロッキング(5%スキムミルク/TBS-Tween20、TBS-T)を行った。その後、メンブレンを洗浄バッファー(TBS-T)で10分間、3回洗浄し、ウサギ抗フロチリン-1抗体(Sigma-Aldrich社製)及びマウス抗HSP90モノクローナル抗体(BD Bioscience社製)をTBS-Tバッファーで1,000倍希釈した抗体溶液をメンブレンに入れ、4℃で16時間反応を行った。メンブレンを洗浄バッファーで10分間、3回洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識goat二次抗体(2.5%スキムミルク/TBS-Tween20で5,000倍希釈)を入れて室温で1時間反応させた後、化学発光をAmersham Imager-600(GE Healthcare Life Sciences社製)装置で検出した。
【0101】
図10に示すように、高脂肪食で飼育したマウスの脳脊髄液におけるフロチリンならびにHSP90のレベルは、普通食で飼育したマウスのそれにくらべて、有意に低下した。
また、
図11に示すように、血清中のフロチリンならびにHSP90のレベルも同様に、高脂肪食で飼育したマウス血清では、普通食で飼育したマウスのそれにくらべて有意に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の、診断用マーカー、診断を補助する方法、診断のためにデータを収集する方法、罹患可能性を評価する方法、及び診断用キットによれば、直接測定できない細胞内コレステロールレベルを推定でき、細胞内コレステロールレベルに関連する疾患の診断のために有用である。