(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】炭素質材料のガス化方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/54 20060101AFI20230517BHJP
C10J 3/02 20060101ALI20230517BHJP
C10J 3/46 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C10J3/54 A
C10J3/02 A
C10J3/46 A
(21)【出願番号】P 2019038688
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018043377
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】黒本 雅哲
(72)【発明者】
【氏名】松永 興哲
(72)【発明者】
【氏名】矢野 都世
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-095292(JP,A)
【文献】特表2009-500471(JP,A)
【文献】特開昭54-122304(JP,A)
【文献】特開2000-087045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水無灰基準で60~75質量%の炭素を含む炭素質材料のガス化方法であって、
前記炭素質材料を、カルシウムの水溶性塩を含む水溶液、ナトリウムの水溶性塩を含む
水溶液、および鉄の水溶性塩を含む水溶液に、同時にまたは順次に接触させて、前記炭素
質材料に前記炭素質材料(乾燥質量)に対する質量比で1.5%~6%のカルシウム、前
記炭素質材料(乾燥質量)に対する質量比で1.5%~6%のナトリウム、および前記炭
素質材料(乾燥質量)に対する質量比で1.5%~6%の鉄を担持する担持工程と、
カルシウム、ナトリウム、および鉄を担持した前記炭素質材料を、550~700℃の
温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、
前記ガス化工程によって得られるガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および、メ
タン、を含む炭素質材料のガス化方法。
【請求項2】
前記担持工程は、カルシウムの水溶性塩、ナトリウムの水溶性塩、および鉄の水溶性塩
を含む水溶液に、前記炭素質材料を含浸する含浸ステップを有する請求項
1に記載の炭素
質材料のガス化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料、特に褐炭等の比較的石炭化度の低い低品位炭のガス化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭の中でも石炭化度の低い褐炭、亜炭は水分量が多く運搬が難しく、乾燥すると発火する恐れもあることから、燃料としての利用が難しい場合が多く、活用されていないものが多くある。特許文献1には、このような低品位炭を加熱して脱水するとともに、重質油を吸着含有させて自然発火性の低い固形燃料とする方法が開示されている。このような改質された固形燃料とすることで、石炭化度の低い低品位炭を利用しやすくすることは可能であるが、石炭は燃焼利用した場合の単位発熱量当たりの二酸化炭素の排出量が多い問題もある。
【0003】
石炭を部分燃焼等の方法によりガス化して、水素と一酸化炭素を主成分とするガスを得、これを触媒上でメタン化反応によりメタンを得るプロセスも知られている(非特許文献1,2)。この方法では、石炭はメタンと二酸化炭素に変換されるので、二酸化炭素を分離して地中に隔離することにより、化石燃料の中で最も単位発熱量当たりの二酸化炭素の排出量が少ない天然ガスと同様の環境負荷の低い燃料として使用することが可能となる。
【0004】
しかし、部分燃焼法による石炭のガス化には通常1000℃以上の高温が必要であり、設備コストが高価になる。また、高温でガス化した場合には、生成するガスは一酸化炭素と水素が主となるため、メタン化反応によりメタンを生成する際に、熱量の20%程度が発熱により失われる。
【0005】
炭素(石炭)の水蒸気によるガス化反応(反応式1)は吸熱反応であるのに対して、メタン化反応(反応式2)は発熱反応である。炭素を水蒸気によりガス化して、水素、一酸化炭素および二酸化炭素を主成分とするガスを得て、これをメタン化反応によりメタンとした場合、総括反応としてはほぼ熱的に中性である。ガス化とメタン化を同時に行うことができれば、メタン化による発熱で、ガス化の吸熱を賄うことができて効率よくガス化することができる。しかし、一般的にガス化は有効な反応速度を得るのに高温を要するのに対して、メタン化は平衡的に低温でなければ進行しないため、ガス化とメタン化を併発させて断熱的に反応させることは極めて難しい。
【0006】
C+H2O(g)→CO+H2 ΔH=+131.3kJ/mol(吸熱)(1)
CO+3H2→CH4+H2O(g) ΔH=-206.2kJ/mol(発熱)(2)
【0007】
触媒を用いることにより、水蒸気をガス化剤として700℃程度の比較的低い温度で石炭をガス化できることが知られている(非特許文献3)。Kなどのアルカリ金属、Caなどのアルカリ土類金属、Fe,Co,Niなどの遷移金属がガス化に有効であることが知られている。
【0008】
特許文献2には、流動石油コークスの水蒸気を用いた触媒ガス化において、反応温度を593℃~816℃の範囲に変えて、生成ガスのメタン濃度を比較しており、593℃では38.3%であったメタン濃度は、704℃では27.5%に、816℃では14.1%まで低下することを示している。触媒として、K2CO3,Li2CO3,CaCO3の使用が開示されている。
【0009】
特許文献3には、約30%の揮発分を含む粘結性瀝青炭の水蒸気ガス化に際して、前記瀝青炭をNa,KもしくはLiの水酸化物と、Ca,MgもしくはBaの水酸化物もしくは炭酸塩を含む水溶液と混合して、150~375℃で水熱処理してからガス化に供することで、ガス化温度675℃において原料石炭の825℃でのガス化と同等のガス化速度が得られたことが示されている。しかし、具体的なガス化性能(反応時間とガス化率)については記載がない。
【0010】
特許文献4では、704℃(1300°F)における瀝青炭の水蒸気ガス化における、K、NaおよびCaの効果を比較している。それによれば、K2CO3を石炭に対し10および15重量%用いた場合、時間当たりのガス化率はそれぞれ72,100%、Na2CO3を石炭に対し5重量%用いた場合は21%、Ca(OH)2を2.9重量%(CaO換算)用いた場合は41%であったのに対し、Na2CO3を石炭に対し5重量%とCa(OH)2を8重量%(CaO換算)併せて用いた場合は、47~89%となって、NaあるいはCaの単独でのガス化促進効果は小さいが、NaとCaを併用することによりKに近いガス化効果が得られることを示している。Kと比較して、NaやCaは一般に安価であるため、触媒コストの低減の観点では意義がある。
【0011】
非特許文献3には、水酸化カルシウム触媒を用いた各種石炭(無水無灰基準の炭素含有率66.5%~83.6%)の水蒸気ガス化を600~700℃で行った結果が示されている。それによれば、700℃における水蒸気ガス化では、炭素含有率75%以下の石炭ではCa触媒の効果は大きく、1時間で95%以上のガス化率が得られたのに対し、炭素含有率が75%を超えるものでは、1時間後のガス化率は60%程度にとどまっている。
またガス化温度を650℃ないし600℃に低下するとガス化率が大きく低下することも示されている。
【0012】
非特許文献4には、鉄、コバルト、ニッケルを触媒とする650℃における水蒸気ガス化の結果が示されているが、コバルトおよびニッケルは、1時間で80%を超えるガス化率を示したのに対し、鉄ではこれらより低い70%にとどまっている。しかし、コバルトやニッケルは鉄よりもはるかに高価であるため、実用は難しい。
【0013】
非特許文献5には、アルカリ金属(Na,K)、アルカリ土類金属(Mg,Ca)、Alおよび遷移金属(Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo)を触媒とする炭素質材料の水蒸気および水素-水蒸気条件でのガス化を検討している。2種あるいは3種の成分を用いた2元系、3元系の触媒の効果についても検討されており、Na+Ca,Ca+Fe,Na+FeおよびNa+Ca+Feが水蒸気、二酸化炭素またはそれらの混合ガスによるガス化に有効であること、Fe+CaおよびFe+Ca+Naが水素によるガス化に有効であることを明らかにしている。ただし、検討された触媒の担持量は各成分とも0.25%~1%程度と低く、またガス化温度は800℃と高いことから、これらがメタン生成に有利となる700℃以下、特に550~650℃程度の低温域で実用的なガス化速度が得られるかどうかは不明である。
【0014】
また、石炭に触媒成分となるアルカリ金属やアルカリ土類金属を担持する方法としては、含浸法、イオン交換法のほか、単に石炭と触媒成分を含む金属塩を混合するなど種々の方法が知られている。たとえば非特許文献3では、Ca(OH)2を含むスラリーに石炭を加えて、混練により均一化したのち乾燥する方法が示されている。
【0015】
特許文献4では、飽和Ca(OH)2溶液中に石炭を浸漬して、石炭中にカルシウムイオンをイオン交換により取り込ませたのち、乾燥し、次いでNa2CO3と混合する方法が開示されている。本文献では、Na2CO3は単にCaをイオン交換で担持した石炭と混合されているだけだが、Caイオンは炭酸イオンと共存すると容易に炭酸カルシウムの沈殿を生じるので、Na2CO3を水溶液では担持できなかったとも考えられる。
【0016】
特許文献5では、触媒成分としてアルカリ金属を用い、触媒成分の50%超が石炭の酸官能基によりイオン交換担持されている触媒担持石炭組成物が開示されている。
【0017】
しかし、700℃以下、特に550~650℃程度の低温域で実用的なガス化速度を得るに際して、どのような担持方法が好適であるのかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開平7-233383号公報
【文献】特開昭47-23658号公報
【文献】特開昭51-122103号公報
【文献】特開昭54-122304号公報
【文献】国際公開第2009/018053号
【非特許文献】
【0019】
【文献】Perry M, Eliason D. “C02 recovery and sequestration at Dakota Gasification Company Inc.”, Technical report, Gasification Technology Conference, 2004.
【文献】Kopyscinskiほか、フュエル(Fuel)、第89巻、2010年,p.1763-1783
【文献】Yasuo OhtsukaおよびKenji Asami、エネルギー アンド フュエルズ(Energy and Fuels),第9巻,1995年,p.1038-1042
【文献】Yasuo Ohtsukaほか、エネルギー アンド フュエルズ(Energy and Fuels),第1巻,1987年,p.32-36
【文献】Tetsuya Hagaほか、アプライド キャタリシス(Applied Catalysis),第67巻,1991年,p.189-202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、安価な触媒を用いて、化学平衡的にメタン生成が有利となる700℃以下の低温域において、水蒸気をガス化剤として低品位炭のような炭素質材料を高い反応速度でガス化することにより、高効率で経済的な低品位炭のガス化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、下記に示すとおりの炭素質材料のガス化方法を提供するものである。
【0023】
本発明に係る炭素質材料のガス化方法の第二の特徴構成は、無水無灰基準で60~75
質量%の炭素を含む炭素質材料のガス化方法であって、前記炭素質材料を、カルシウムの
水溶性塩を含む水溶液、ナトリウムの水溶性塩を含む水溶液、および鉄の水溶性塩を含む
水溶液に、同時にまたは順次に接触させて、前記炭素質材料に前記炭素質材料(乾燥質量)に対する質量比で1.5%~6%のカルシウム、前記炭素質材料(乾燥質量)に対する質量比で1.5%~6%のナトリウム、および前記炭素質材料(乾燥質量)に対する質量比で1.5%~6%の鉄を担持する担持工程と、カルシウム、ナトリウム、および鉄を担持した前記炭素質材料を、550~700℃の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、前記ガス化工程によって得られるガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および、メタン、を含む点にある。
【0024】
本発明に係る炭素質材料において、炭素質材料の炭素含有率が上記の範囲であると、ガス化速度および生成ガスの後処理の観点で有利である。また、ガス化温度が上記の範囲であると、ガス化速度および生成ガスの組成の観点で有利である。さらに、本発明に係る炭素質材料のガス化方法においては、比較的安価なカルシウムおよびナトリウムを用いるため、従来のガス化方法に比べて安価に実行できる点で有利である。
【0025】
本発明に係る炭素質材料において、カルシウムおよびナトリウムに加えて鉄を含む触媒を用いると、特に600℃以下の低温でのガス化が促進される点、および、COシフト反応に対する鉄の活性が高いことから生成ガス中のCO濃度を低減できる点、で有利である。
【0027】
本発明の第二の特徴構成に係る炭素質材料のガス化方法の更なる特徴構成は、前記担持工程は、カルシウムの水溶性塩、ナトリウムの水溶性塩、および鉄の水溶性塩を含む水溶液に、前記炭素質材料を含浸する含浸ステップを有する点にある。
【0028】
本発明に係るガス化方法において、含浸ステップを有する担持工程を用いると、担持量の制御が容易である点で有利である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の炭素質材料のガス化方法は、低品位炭のような安価な炭素質材料を700℃以下の低温域で速やかにガス化するので、高い効率で経済的に代替天然ガスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0033】
本発明の炭素質材料のガス化方法は、無水無灰基準で60~75質量%の炭素を含む炭素質材料のガス化方法であって、前記炭素質材料を、カルシウムの水溶性塩を含む水溶液およびナトリウムの水溶性塩を含む水溶液に、同時にまたは順次に接触させて、前記炭素質材料にカルシウムおよびナトリウムを担持する担持工程と、カルシウムおよびナトリウムを担持した前記炭素質材料を、550~700℃の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、前記ガス化工程によって得られるガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および、メタン、を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の炭素質材料のガス化方法は、一態様として、無水無灰基準で60~75質量%の炭素を含む炭素質材料のガス化方法であって、前記炭素質材料に、カルシウムの水溶性塩およびナトリウムの水溶性塩を含む水溶液を含浸する含浸工程(担持工程の例)と、前記水溶液に含浸した前記炭素質材料を、550~700℃の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、前記ガス化工程によって得られるガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および、メタン、を含むことを特徴とする。
【0035】
本発明の炭素質材料のガス化方法は、一態様として、無水無灰基準で60~75質量%の炭素を含む炭素質材料のガス化方法であって、前記炭素質材料を、カルシウムの水溶性塩を含む水溶液およびナトリウムの水溶性塩を含む水溶液に浸漬した後にろ過により液を分離したのち乾燥する吸着工程(担持工程の例)と、カルシウムおよびナトリウムを担持した前記炭素質材料を、550~700℃の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、前記ガス化工程によって得られるガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および、メタン、を含むことを特徴とする。なお、吸着工程において、カルシウムの水溶性塩およびナトリウムの水溶性塩を含む混合水溶液に炭素材料を浸漬した後にろ過および乾燥を行ってもよいし、カルシウムの水溶性塩を含む水溶液およびナトリウムの水溶性塩を含む水溶液について、別々に、浸漬、ろ過、および乾燥を行ってもよい。
【0036】
また、本発明の炭素質材料のガス化方法では、一態様として、前記水溶液がさらに鉄の水溶性塩を含むことが好ましい。鉄はCOシフト反応に対して活性が高いので、生成ガス中のCO濃度を低減するのに有効であるほか、低温でのガス化も促進される。
【0037】
炭素質材料としては、無水無灰基準で60~75質量%の炭素を含む常温で固形の炭素質材料であればよいが、通常褐炭ないし亜炭である。このほか木材等のバイオマスを不活性ガス雰囲気下で250~400℃程度で熱処理(半炭化処理)して、前記の炭素含有量範囲としたものも同様に用いることができる。
【0038】
炭素含有量がこれよりも高い炭素質材料では、ガス化速度が遅くなって、実用的な速度でガス化することが困難になる。逆に、炭素含有量がこれよりも低い炭素質材料、たとえば半炭化処理をしない木材などでは、ガス化速度は速いものの、ガス化に際して多量のタールが発生するなどして生成ガスの後処理が必要になる。
【0039】
ガス化温度は、550~700℃とする。550℃より低い温度では、高活性な触媒を用いても実用的な速度でガス化することが困難になる。一方、700℃よりも高い温度では、高圧下でガス化した場合でも平衡的にメタンが生成しなくなり、メタン化による発熱でガス化反応の吸熱を補うことができなくなって、外部から加熱しなければガス化を進行できなくなる。また、700℃よりも高い温度であれば、本発明に開示される触媒ではなく、従来から知られているカリウム等の触媒でもガス化反応自体は進行させることができる。なお、ガス化温度の下限は好ましくは600℃であり、より好ましくは650℃である。
【0040】
本発明の炭素質材料のガス化方法では、ガス化を促進する触媒としてカルシウム塩およびナトリウム塩を併用する。これらは、炭素質材料に含浸担持されて、ガス化触媒として作用する。具体的には、硝酸塩、炭酸塩などの水溶性化合物を用いてカルシウム塩およびナトリウム塩を含む混合水溶液を調製し、これに炭素質材料を浸漬し、乾燥して触媒を担持した炭素質材料を得る。これを所定の温度で、水蒸気を含むガス化剤に接触させることにより、水素、一酸化炭素、二酸化炭素およびメタンを含むガスを得る。
【0041】
炭素質材料に対する触媒成分の担持量は、公知の方法によって制御できるが、たとえば、次に例示する方法で制御できる。第一に例示される平衡吸着法を用いる場合には、担持させたい成分を含む水溶液を調製し、これに炭素質材料を浸漬したのち、ろ過により液を分離したのち乾燥する方法(イオン交換法)によって、触媒を担持した炭素質材料が得られる。この場合、担持量は炭素質材料を浸漬する水溶液の濃度および水溶液を浸漬する時間に依存する。そのため、含浸工程においてこれらの条件を制御することによって、任意の量の触媒を担持させた炭素質材料が得られる。なお、本発明において、カルシウムおよびナトリウムは、同時に担持させてもよく、順次担持させてもよい。同時に担持させる場合は、上記の水溶液としてカルシウム塩およびナトリウム塩を含む混合水溶液を用いる。順次担持させる場合は、上記の水溶液としてカルシウム塩またはナトリウム塩の一方の塩を含む水溶液を用いて当該一方の金属を担持させた後、他方の塩を含む水溶液を用いて当該他方の金属を担持させる。同様に、3種類以上の成分を担持させる場合、すべての成分を同時に担持させてもよく、一部または全ての成分を順次担持させてもよい。
【0042】
第二に例示される蒸発乾固法を用いる場合には、カルシウム塩およびナトリウム塩を含む混合水溶液を調製し、これに炭素質材料を浸漬したのち、水分を蒸発によって除く方法によって、触媒を担持した炭素質材料が得られる。この場合、担持量は水溶液中に含まれる金属(カルシウムおよびナトリウム)の量で決まる。
【0043】
蒸発乾固法では、用いた金属のすべてが担持されるので、担持量の制御が容易である。一方、担持された金属の分散度は一般に平衡吸着法のほうが高くなるので、蒸発乾固法により触媒成分を担持させた場合と同等の担持量であっても、より高い触媒効果が得られやすい。
【0044】
ここで、炭素質材料に対する触媒成分の担持量が少なすぎるとガス化促進の効果がなく、多すぎると費用に見合う効果が得られないため、カルシウムおよびナトリウムとも、炭素質材料(乾燥質量)に対する各金属成分の質量比で1.5%~10%とするのが好ましく、1.5%~6%とするのがより好ましく、2%~6%とするのがさらに好ましく、2~5%とするのが特に好ましい。また、上記のカルシウムおよびナトリウムに加え、さらに鉄を担持する場合は、炭素質材料(乾燥質量)に対する各金属成分の質量比で1.5%~6%とするのが好ましく、2%~6%とするのがさらに好ましく、2~5%とするのが特に好ましい。
【0045】
なお、平衡吸着法(イオン交換法)により炭素質材料に触媒成分を担持させる場合、前述の通り蒸発乾固法により担持させる場合より高い触媒効果が得られやすいため、好ましい担持量の下限はより小さな値となる。具体的には、平衡吸着法(イオン交換法)による場合は、カルシウムおよびナトリウムとも、炭素質材料(乾燥質量)に対する各金属成分の質量比で0.1~10%とするのが好ましく、0.2~10%とするのがより好ましい。
【0046】
ガス化反応の圧力は、特に制限はないが、高圧ほど平衡的にメタン生成が有利となる。
従って、メタン生成を目的とする場合は、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上とする。
【0047】
ガス化剤としての水蒸気の量は、少なすぎるとガス化反応が十分な速度で進行しない一方で、多すぎるとメタンの水蒸気改質反応が平衡的に有利となるためにガス化後のガス中のメタン濃度が低下してメタン収率が低下すること、加えて水蒸気を生成するためのエネルギーを余分に必要とすることからガス化のエネルギー効率が低下する問題がある。従って、一般的には石炭中の炭素原子の物質量Cに対する水蒸気(水)Sのモル比(S/C)として1~10であることが好ましく、より好ましくは1.5~5.0とする。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔触媒担持炭素質材料の作成とガス化率の評価〕
以下に示すように試料A~Uを作成し、試料A~Uについてガス化率の評価を行った。
なお、カルシウムおよびナトリウムを担持して調製した試料A、I、M、N、O、R、S、およびT、ならびに、カルシウム、ナトリウム、および鉄、を担持して調製した試料B、J、および、P、は、本発明の実施例である。また、カリウムを含む触媒を担持して調製した試料G、H、および、Lは本発明の参考例であり、上記の他の試料C、D、E、F、K、Q、およびUは、本発明の比較例である。
【0050】
《試料A》
炭素質材料としてオーストラリア産のLoy Yang褐炭(褐炭X)を用いた。この褐炭Xの工業分析結果は、水分59.3%、揮発分22.1%、固定炭素18.2%、灰分0.4%(いずれも質量ベース、以下も同様)であった。また、無水無灰基準の元素組成は、C:70.9%、H:4.56%、O:23.7%、N:0.63%、S:0.26%であった。
【0051】
この褐炭を、水分が17%になるまで乾燥し、粉砕し、53~150μmに分級した。
次に、蒸発乾固法を用いて、乾燥褐炭に触媒を担持した。具体的には、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液を調製し、これに前記の分級した褐炭Xを混合して、よく混ぜ合わせ、室温で減圧乾燥し、さらに窒素流通下107℃で2時間乾燥して、試料Aを得た。なおこのとき、混合水溶液に含まれるCaおよびNaの乾燥褐炭の質量に対する量が、Caが5.1%、Naが5.3%、になるように、硝酸カルシウムおよび硝酸ナトリウムの濃度を調整した。
【0052】
試料Aを酸分解したのち、ICP分析によって担持量を定量した。試料AのCaおよびNa担持量(乾燥褐炭の単位質量あたりの金属換算の担持量)はCa5.1%、Na5.3%であった。
【0053】
示差熱天秤(株式会社リガク製TG-DTA/HUM-1)を用いて試料Aのガス化評価を行った。試料Aを約20mg装填し、水蒸気20%と残部窒素からなるガスを300mL/分の流量で流通しながら、所定温度(550℃、600℃、650℃、700℃)まで10℃/分の昇温速度で昇温したのち、所定温度に維持して、1時間後の質量減少率(水分、灰分、触媒成分を控除した試料量に対する)をもってガス化率とした。
【0054】
表1に示す通り、550℃、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ58.6%、79.8%、95.3%、94.2%となった。
【0055】
《試料B》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウムおよび硝酸鉄(III)の混合水溶液を用いたほかは同様にして試料Bを得た。試料BのCa、NaおよびFe担持量(乾燥褐炭の単位質量あたりの金属換算の担持量)はCa5.7%、Na6.0%、Fe5.9%であった。
【0056】
試料Bについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。
【0057】
表1に示す通り、550℃、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ65.5%、84.7%、96.5%、95.4%となった。
【0058】
《試料C》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを、触媒を担持することなく用いた(試料Cとする)。
【0059】
試料Cについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。
【0060】
表1に示す通り、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ47.5%、54.2%、57.4%となった。触媒を担持しない場合のガス化率は低いことがわかる。褐炭Xの揮発分は乾燥ベースで55%程度であるから、得られた結果は無触媒の場合は700℃であっても固定炭素分のガス化はほとんどできないことを示している。
【0061】
《試料D》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、炭酸ナトリウムの水溶液を用いたほかは同様にして試料Dを得た。試料DのNa担持量は4.9%であった。
【0062】
試料Dについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ60.3%、88.1%、94.0%となった。
【0063】
《試料E》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸カルシウムの水溶液を用いたほかは同様にして試料Eを得た。試料EのCa担持量は5.1%であった。
【0064】
試料Eについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ64.2%、86.9%、97.4%となった。
【0065】
《試料F》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸鉄(III)の水溶液を用いたほかは同様にして試料Fを得た。試料FのFe担持量は5.5%であった。
【0066】
試料Fについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ53.4%、64.8%、80.8%となった。
【0067】
《試料G》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、炭酸カリウムの水溶液を用いたほかは同様にして試料Gを得た。試料GのK担持量は4.8%であった。
【0068】
試料Gについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ70.0%、95.2%、97.7%となった。
【0069】
《試料H》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸カリウムの水溶液を用いたほかは同様にして試料Hを得た。試料HのK担持量は5.1%であった。
【0070】
試料Hについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃、650℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ73.0%、97.1%、97.1%となった。
【0071】
以上の結果を比較すると、本発明の方法、すなわちカルシウムおよびナトリウムの両方を担持して触媒とすると、650℃ではカリウムと同程度のガス化速度が得られ、それよりも低い温度ではカリウムよりもガス化を促進する効果が高いことがわかる。また、カルシウム、ナトリウムないし鉄を単独で用いた場合は、ガス化の促進効果は小さいことがわかる。
【0072】
《試料I》
炭素質材料としてオーストラリア産のLoy Yang褐炭(褐炭Y)を用いた。この褐炭Yの工業分析結果は、水分61.3%、揮発分20.2%、固定炭素17.8%、灰分0.7%(いずれも質量ベース、以下も同様)であった。また、無水無灰基準の元素組成は、C:66.8%、H:5.30%、O:26.9%、N:0.57%、S:0.35%であった。
【0073】
褐炭Xに代えて褐炭Yを用いたほかは、試料Aと同様にして試料Iを調製した。試料IのCaおよびNa担持量(乾燥褐炭の単位質量あたりの金属換算の担持量)はCa5.6%、Na5.6%であった。
【0074】
試料Iについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、550℃、600℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ59.4%、76.7%、98.0%となった。
【0075】
《試料J》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウムおよび硝酸鉄(III)の混合水溶液を用いたほかは同様にして試料Jを得た。試料JのCa、NaおよびFe担持量はCa5.5%、Na5.5%、Fe5.3%であった。
【0076】
試料Jについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、550℃、600℃、700℃におけるガス化率は、それぞれ64.5%、82.9%、96.8%となった。
【0077】
《試料K》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸ナトリウムの水溶液を用いたほかは同様にして試料Kを得た。試料KのNa担持量は4.8%であった。
【0078】
試料Kについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃、650℃および700℃におけるガス化率は、それぞれ66.3%、90.3%、95.4%となった。
【0079】
《試料L》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸カルシウム、硝酸カリウムの混合水溶液を用いたほかは同様にして試料Lを得た。試料LのCaおよびK担持量は、それぞれ5.1%、4.8%であった。
【0080】
試料Lについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃および700℃におけるガス化率は、それぞれ78.8%、97.0%となった。試料Iとの比較から、CaとKの二元系触媒のガス化性能はCaとNaとほとんど変わらず、Kよりも安価なNaを用いる本発明の方法が有利である。
【0081】
《試料M~P》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを用い、Ca、NaおよびFeの担持量を変えた試料M、N、O、Pを調製して、ガス化性能を評価した。
【0082】
表1に示す通り、600℃でのガス化率は69.5~74.9%となり、Naのみを4.8%担持した試料Kよりも高く、本発明のカルシウムとナトリウムを複合化した触媒が高いガス化性能を示すことが明らかである。
【0083】
《試料Q》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを、触媒を担持することなく用いた(試料Qとする)。
【0084】
試料Qについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、550℃におけるガス化率は45.7%となった。試料Iおよび試料Jの結果と比較すると、触媒を担持した場合には、550℃という低い温度であっても固定炭素のガス化が進行することがわかる。
【0085】
《試料R》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを室温で減圧乾燥して、53~150μmに分級した。この石炭30gに対して、300mLの硝酸ナトリウム水溶液(0.222mol/L)中で3時間煮沸処理を行って石炭にNaをイオン交換担持し、その後ろ過してNaイオン交換炭を回収した。次いで3gのCa(OH)2を300mLのイオン交換水に懸濁した溶液を調製し、ここに前記のNaイオン交換炭を加えた。1日に数回、各1時間程度撹拌しながら、3日かけてCaイオン交換を行った。ろ過によりCa-Naイオン交換炭を回収した。室温で乾燥し、さらに減圧乾燥し、107℃で2時間減圧乾燥を行って、53~150μmに分級し試料Rを得た。試料RのNa担持量は0.24%、Ca担持量は5.1%であった。
【0086】
試料Rについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃におけるガス化率は79.2%となった。試料Iおよび試料Nの結果と比較すると、イオン交換法を用いた場合、ごく少ないNa担持量でも、ガス化が効率的に進行することがわかる。
【0087】
《試料S》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを室温で減圧乾燥して、53~150μmに分級した。3gのCa(OH)2を懸濁した300mLの硝酸ナトリウム水溶液(0.222mol/L)を調製し、ここに前記の石炭30gを加えた。1日に数回、各1時間程度撹拌しながら、3日かけてCaおよびNaイオン交換を行った。ろ過によりCa-Naイオン交換炭を回収した。室温で乾燥し、さらに減圧乾燥し、107℃で2時間減圧乾燥を行って、53~150μmに分級し試料Sを得た。試料SのNa担持量は1.0%、Ca担持量は4.8%であった。
【0088】
試料Sについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃におけるガス化率は81.9%となった。試料Iおよび試料Nの結果と比較すると、イオン交換法を用いた場合、少ないNa担持量でも、ガス化が効率的に進行することがわかる。試料Rと比較すると、必要なNa量は増えるが、NaとCaを同時にイオン交換しているので、工程としては簡単であるというメリットがある。
【0089】
《試料T》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを室温で減圧乾燥して、53~150μmに分級した。2.4gのCa(OH)2をイオン交換水240mLに懸濁した溶液を調製し、ここに前記の石炭24gを加えた。1日に数回、各1時間程度撹拌しながら、3日かけてCaイオン交換を行った。ろ過によりCaイオン交換炭を回収した。室温で乾燥したCaイオン交換炭を、硝酸ナトリウム水溶液とよく混ぜ合わせ、室温で減圧乾燥し、さらに減圧下107℃で2時間乾燥して、試料Tを得た。なおこのとき、硝酸ナトリウム水溶液に含まれるNaが乾燥褐炭に対する質量比が5%になるように、硝酸ナトリウムの濃度を調整した。試料TのNa担持量は4.7%、Ca担持量は4.6%であった。
【0090】
試料Tについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、550℃におけるガス化率は67.8%、600℃におけるガス化率は87.5%となった。試料Iおよび試料Nの結果と比較すると、まずCaをイオン交換法によって担持し、次いでNaを含浸法で担持した場合には、低温でも極めて高いガス化性能を示すことが分かる。
【0091】
《試料U》
試料Aの調製時と同じ褐炭Xを、室温で自然乾燥し、さらに減圧乾燥したのち、粉砕して、53~150μmに分級した。蒸留水20mLに0.2gのCa(OH)2を加えて撹拌した。ここに前記の乾燥した褐炭2gを投入して、室温で18時間撹拌して、イオン交換を行った。
【0092】
ろ過して回収した固形分を、室温で自然乾燥、次いで減圧乾燥し、さらに窒素流通下107℃で2時間乾燥して、試料Uを得た。試料UのCa担持量は5.1%であった。
試料Uについて、試料Aと同様にしてガス化評価を行った。表1に示す通り、600℃におけるガス化率は63.9%となった。試料Uと試料Eの結果を比較すると、両者のガス化率に大きな差はない。すなわち、Caの担持方法をイオン交換に変更しただけでは、ガス化率はほとんど向上しないことが分かる。また、試料Tと試料Uの結果を比較すると、CaとNaがともに担持されていることが、高いガス化性能を得るためには必要となることが分かる。
【0093】
【0094】
〔ガス化試験〕
以下に示すようにガス化試験1~7を行った。カルシウムおよびナトリウムを担持して調製した試料I(前述)を用いたガス化試験1、2、および、4、カルシウム、ナトリウム、および、鉄、を担持して調製した試料J(前述)を用いたガス化試験5、ならびに、カルシウムおよびナトリウムを担持して調製した試料R(前述)を用いたガス化試験8は、本発明の実施例である。また、カリウムを担持して調製した試料V(後述)を用いたガス化試験3および6は、本発明の参考例であり、金属触媒を担持することなく調製した試料Q(前述)を用いたガス化試験7は、本発明の比較例である。
【0095】
《ガス化試験1 試料I》
試料Iを用いて、流動床でのガス化試験を行った。流動床反応器はステンレス製で、流動部の内径は22mm、高さ50mm、容積20mLであり、その上部はテーパー状に内径が拡大して、流動部と合わせて高さ110mm、容積80mLの部分までが所定温度に加熱されるようになっている。反応器の底部のステンレスフィルターを介して、水蒸気および窒素の混合ガスがガス化剤として導入される。一方、反応器の上部にはスクリューフィーダーを備えて、石炭試料が連続的に導入される。スクリューフィーダー部への結露を防止するため、スクリューフィーダー部にも少量の窒素ガスが導入されるように構成されている。ガス化して生成したガスは、氷水(2段)およびドライアイス(1段)のトラップを経て、流量計およびガスクロマトグラフに導入され、分析される。
【0096】
反応管内部温度を700℃に制御して、試料Iを毎分51.9mg(炭素の供給速度として1.91mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。
ガス化剤として、水を74.1mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素48mL/分を導入した。水は試料Iの投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表2に示すように、生成ガスは、水素314mmol、一酸化炭素(CO)53mmol、二酸化炭素(CO2)159mmol、メタン6.0mmol、C2(エタンおよびエチレン)2.7mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.6mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は78.2%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は3.08であった。
【0097】
《ガス化試験2 試料I》
試料Iを用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。
試料Iの投入速度:毎分54.7mg(炭素の供給速度として2.02mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:108.2mg/分。
【0098】
表2に示すように、生成ガスは、水素355mmol、一酸化炭素47mmol、二酸化炭素184mmol、メタン6.6mmol、C2(エタンおよびエチレン)2.8mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.7mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は80.5%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は4.24であった。
【0099】
《ガス化試験3 試料V》
試料Iの調製時と同じ褐炭Yを用い、硝酸カルシウムと硝酸ナトリウムの混合水溶液に代えて、硝酸カリウムの水溶液を用いたほかは同様にして試料Vを得た。試料VのK担持量は、4.1%であった。
【0100】
試料Vを用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。
試料Vの投入速度:毎分44.5mg(炭素の供給速度として2.15mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:69.2mg/分。
【0101】
表2に示すように、生成ガスは、水素356mmol、一酸化炭素67mmol、二酸化炭素162mmol、メタン8.2mmol、C2(エタンおよびエチレン)3.3mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.8mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は76.5%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は2.55であった。
【0102】
《ガス化試験4 試料I》
試料Iを用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。
反応管内部温度:650℃、試料Iの投入速度:毎分45.5mg(炭素の供給速度として1.68mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:65.0mg/分。
【0103】
表2に示すように、生成ガスは、水素231mmol、一酸化炭素27mmol、二酸化炭素126mmol、メタン5.3mmol、C2(エタンおよびエチレン)1.9mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.5mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は65.1%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は3.08であった。
【0104】
《ガス化試験5 試料J》
試料Jを用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。
反応管内部温度:650℃、試料Jの投入速度:毎分57.0mg(炭素の供給速度として2.03mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:77.0mg/分。
【0105】
表2に示すように、生成ガスは、水素276mmol、一酸化炭素31mmol、二酸化炭素161mmol、メタン5.3mmol、C2(エタンおよびエチレン)1.8mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.5mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は66.0%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は3.00であった。
【0106】
ガス化試験4とガス化試験5とを比較すると、生成ガスに含まれる水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、C2(エタンおよびエチレン)、および、C3(プロパンおよびプロピレン)、の物質量合計に対する一酸化炭素の占める割合は、ガス化試験4において6.9%であり、ガス化試験5において6.5%であった。すなわち、Feを含まない触媒を用いたガス化試験4に比べて、Feを含む触媒を用いたガス化試験5の方が、生成ガス中の一酸化炭素濃度を低減することができた。
【0107】
《ガス化試験6 試料V》
試料Vを用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。
反応管内部温度:650℃、試料Vの投入速度:毎分51.8mg(炭素の供給速度として2.50mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:95.0mg/分。
【0108】
表2に示すように、生成ガスは、水素327mmol、一酸化炭素34mmol、二酸化炭素166mmol、メタン7.8mmol、C2(エタンおよびエチレン)2.7mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.8mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は57.3%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は3.01であった。
【0109】
ガス化試験4および5とガス化試験6とを比較すると、650℃での炭素基準のガス化率ではガス化試験4および5のガス化方法がガス化試験6のガス化方法と比較して、顕著に高いガス化率を示すことが明らかである。
【0110】
《ガス化試験7 試料Q》
試料Q(すなわち触媒成分を担持しない褐炭Y)を用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度:650℃、試料Qの投入速度:毎分36.9mg(炭素の供給速度として1.81mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:87.1mg/分。
【0111】
表2に示すように、生成ガスは、水素40mmol、一酸化炭素12mmol、二酸化炭素30mmol、メタン6.4mmol、C2(エタンおよびエチレン)1.9mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.6mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は19.4%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は3.87であった。触媒を担持しない場合のガス化率は極めて低いことが明らかである。
【0112】
《ガス化試験8 試料R》
試料Rを用いて、以下を除いてガス化試験1と同様に流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度:650℃、試料Rの投入速度:毎分39.6mg(炭素の供給速度として1.64mmol/分)、ガス化剤としての水の流量:64.8mg/分。
【0113】
表2に示すように、生成ガスは、水素234mmol、一酸化炭素27mmol、二酸化炭素116mmol、メタン9.5mmol、C2(エタンおよびエチレン)2.3mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)1.2mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は65.6%であった。なお、この試験でのS/C((試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気)/(試料中の炭素)のモル比)は3.20であった。試料Rは試料Iと比較すると、ナトリウム担持量が少ないが、ガス化率は試料Iと同等となった。
【0114】