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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】高強度ポリフッ化ビニリデン複合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20230517BHJP
   C08L 27/22 20060101ALI20230517BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20230517BHJP
   C08F 14/22 20060101ALI20230517BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20230517BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C08L27/12
C08L27/22
C08L27/16
C08F14/22
C08F293/00
C08K7/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020501497
(86)(22)【出願日】2018-07-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018042227
(87)【国際公開番号】W WO2019014661
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】62/655,481
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/532,554
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・スコット・オブライエン
(72)【発明者】
【氏名】ラミン・アミン-サナイェイ
(72)【発明者】
【氏名】サエイド・ゼラファティ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ティー・ゴールドバッハ
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-105177(JP,A)
【文献】特開2006-169399(JP,A)
【文献】特開2007-314720(JP,A)
【文献】特表2010-531396(JP,A)
【文献】国際公開第2012/070401(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/142630(WO,A1)
【文献】特開平04-257373(JP,A)
【文献】特開2005-200466(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122740(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08F251/00-297/08
C08J 5/00- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む繊維強化フルオロポリマー複合体であって:
a)官能化フルオロポリマーを含む官能化フルオロポリマー組成物マトリックス;
b)前記官能化フルオロポリマー組成物と結合することができる官能基を有するサイジングを含む繊維、
前記官能化フルオロポリマー組成物マトリックスが、以下の少なくとも1つを含む、繊維強化フルオロポリマー複合体:
a)少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含む長いフルオロポリマーブロックと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックとを含むフルオロポリマーブロックコポリマー;
b)主鎖ポリマーの一部として官能性コモノマー単位を有し、少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含むフルオロポリマー;
c)少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含む非官能性フルオロポリマーと、混和性のある官能性非フルオロポリマーとのブレンド;
d)少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を有する官能性コモノマーと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックの両方を有するブロックフルオロポリマー;
e)1つ以上の非官能性フルオロポリマーと、a)~d)のいずれかとのブレンド。
【請求項2】
以下を含む請求項1に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体:
a)40から60重量%の前記フルオロポリマー組成物マトリックス;
b)15~60重量%の前記繊維。
【請求項3】
前記官能性コモノマーが以下からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体:
酢酸ビニル;2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf);2,3,3トリフルオロプロペン;ヘキサフルオロプロペン(HFP);2-クロロ-1-1-ジフルオロエチレン(R-1122);リン酸(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;ヒドロキシル官能性(メタ)アクリレート
コモノマーとして(M1)を有するビニルアルキル酸;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は、C1~C16の直鎖又は分岐基、C1~C16のフッ素化直鎖又は分岐基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5はカルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)である。)
以下の式M2を有するビニルアルキル酸;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4及びR5は個別に、水素、C1~C16の直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマー、アルカリ金属イオン(Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+)、アンモニウムイオン(NH4 +)、又はアルキルアンモニウム(NAlk4 +)である。)
コモノマーとして(M3)を含む官能性アクリレート;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は結合、C1~C16の直鎖又は分岐基、C1~C16のフッ素化直鎖又は分岐基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5はカルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)、エポキシド、C1~C16のアルキル又はシクロアルキルカーボネートである。)
コモノマーとして(M4)を含む官能性アクリルアミド;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4及びRは個別に、C1~C16の直鎖又は分岐基、C1~C16のフッ素化直鎖又は分岐基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5及びRは個別に、カルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +、又はホスホネート(P(O)(OH) 2 )、アルカリ金属、又はアンモニウムホスホネートである。)
コモノマーM5を含む炭酸塩;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は結合、C1~C16の直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール又はシクロアルキル基であり、R5は、環状構造の一部としてカーボネート基を含む、C1~C16のシクロアルキル基又はC1~C16のフッ素化シクロアルキル基である。)
コモノマーとして(M6)を含むビニルエーテル;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は、C1~C16の直鎖又は分岐基、C1~C16のフッ素化直鎖又は分岐基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5は、カルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、又はスルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 + )である。)
コモノマーとして(M7)を有するアリルオキシ化合物;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4はC1~C16の直鎖又は分岐基、C1~C16のフッ素化直鎖又は分岐基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5はカルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +、又はホスホネート(P(O)(OH) 2 )、アルカリ金属又はアンモニウムホスホネートである。)
【請求項4】
前記混和性のある官能性非フルオロポリマーが1つ以上の官能性(メタ)アクリルポリマーを含む、請求項1又は2に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項5】
前記繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項6】
前記繊維がチョップド繊維を含む、請求項1~5のいずれかに記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項7】
前記繊維が、少なくとも1000のアスペクト比のアスペクト比を有する長繊維を含む、請求項1~6のいずれかに記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項8】
前記サイジングが官能化フルオロポリマー組成物である、請求項1~7のいずれかに記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項9】
前記官能化フルオロポリマー組成物マトリックスは、少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を有する官能性コモノマーと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックの両方を有するブロックフルオロポリマーを含む、請求項1又は2に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項10】
前記官能化フルオロポリマー組成物マトリックスは、主鎖ポリマーの一部として官能性コモノマー単位を有し、少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を有するフルオロポリマーを含み、前記官能性コモノマーは、リン酸(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、又はヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートの少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項11】
前記官能化フルオロポリマー組成物マトリックスは、主鎖ポリマーの一部として官能性コモノマー単位を有し、少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を有するフルオロポリマーを含み、前記官能性コモノマーはアクリル酸を含む、請求項1又は2に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【請求項12】
前記官能化フルオロポリマー組成物マトリックスは、少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を有する官能性コモノマーと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックの両方を有するブロックフルオロポリマーを含み、前記官能性コモノマーは、リン酸(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、又はヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートの少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化フルオロポリマー組成物を含有し、繊維で強化されたフルオロポリマーマトリックスを有するフルオロポリマー複合体に関する。繊維は、チョップド繊維、長繊維、又はそれらの混合物であり得、フルオロポリマーマトリックスは、好ましくはポリフッ化ビニリデンベースである。サイジングの有無を問わず、任意のタイプの繊維を官能化フルオロポリマーマトリックス組成物とともに使用して、フルオロポリマー複合体を形成することができる。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー、例えばフッ化ビニリデンCF2=CH2(VDF)系のものは、優れた機械的安定性、非常に良い化学的不活性、低い表面エネルギー、電気化学的安定性、及び優れた耐老化性を有することが知られている。これらの品質は、さまざまな最終使用の適用に活用されている。残念ながら、その不活性のため、フルオロポリマーを他の材料に結合し、又は良好な接着を得ることは困難である。
【0003】
フルオロポリマーには、他の材料への付着力を高め、ある程度の親水性と湿潤性を追加し、架橋やその後の化学修飾などの反応部位を提供する目的で、官能基が追加されてきた。官能性は、複数の手段によって追加されており、例えば、官能性モノマーとフルオロモノマーの直接共重合、及び米国特許第7,241,817号に開示されるような、ポリフッ化ビニリデンのホモポリマー又はコポリマーへの無水マレイン酸のグラフト化などの重合後グラフト化メカニズムなどがある。これにより、Arkema Incから入手可能なKYNAR(登録商標)ADX樹脂を形成できる。国際公開WO2013/110740及び米国特許第7,351,498号はさらに、モノマーグラフト又は共重合によるフルオロポリマーの官能化を開示している。
【0004】
繊維は、多くの種類のポリマー複合材料の強化材として使用されることが知られている。長繊維には、当該繊維を一緒に保持するバインダーとして機能し、又は長繊維複合材のポリマーマトリックスと混和若しくは反応するように作用するポリマー又はプレポリマーにサイジングし又はコーティングすることができる。次に、サイジングされた長繊維に、一連の異なる方法でポリマーマトリックスを含浸させて、テープ又はシートを形成することができる。次いで、この含浸シート又はテープは、一連の異なる方法(圧縮成形、自動テープ配置など)によって最終製品に固化され、固化された熱可塑性複合製品を作成する。長繊維で作られた物品は、一般に少なくとも45重量%、好ましくは50重量%を超え、多くの場合60~70重量%を超える強化繊維を含む。
【0005】
連続繊維製品では、製品の特性は繊維の特性に左右される。ポリマーは、繊維を一緒に保持するバインダー/マトリックスとして機能する。
【0006】
米国特許第8,883,898号には、官能化され、好ましくは無水マレイン酸をグラフト化されたフルオロポリマーに、連続繊維を含浸することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サイジングされた繊維とマトリックスポリマー間の混和性を改善するために、異なるポリマーマトリックス用に異なる繊維サイジングが開発された。残念ながら、現在の繊維サイジングはフルオロポリマーとの混和性が悪い。良好な混和性、ひいては繊維とフルオロポリマーマトリックス間の良好な分布及び良好な接着なしでは、繊維強化材を使用する利点は完全には実現されない。
【0008】
驚くべきことに、官能性を含むように処理又はサイジングされた繊維とともに、官能化フルオロポリマーマトリックスを使用すると、繊維とマトリックスの化学的相互作用が生じ、この相互作用により繊維のマトリックスへの接着性が向上することが判明し、これにより複合材の引張及び曲げ強度が向上することが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、官能化フルオロポリマー組成物マトリックス及び繊維を有する繊維強化フルオロポリマー複合体に関する。マトリックスは、複合体の2~100重量%、好ましくは10~100、最も好ましくは40~60重量%を構成し、15~60重量%の前記繊維を含む。
【0010】
官能化フルオロポリマーマトリックスは以下のものであり得る。
a)長いフルオロポリマーブロックと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックとを含むフルオロポリマーブロックコポリマー。
b)1つ以上のグラフト官能基を有するフルオロポリマー主鎖を有するグラフトコポリマー。一実施形態では、グラフトモノマーは無水マレイン酸ではない。
c)主鎖ポリマーの一部として官能性コモノマー単位を有するフルオロポリマー。
d)非官能性フルオロポリマーと、混和性のある官能性非フルオロポリマーのブレンド;
e)フッ化ビニリデンモノマー単位を有する官能性コモノマーと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックの両方を有するブロックフルオロポリマー。
f)1つ以上の非官能性フルオロポリマーと、a)、b)又はc)の官能性フルオロポリマーのいずれかとのブレンド。
【0011】
好ましくは、フルオロポリマーマトリックスは、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー、又は少なくとも60重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含むコポリマーである。
【0012】
請求項3に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体の一つの実施態様において、前記混和性のある官能性非フルオロポリマーが1つ以上の官能性(メタ)アクリルポリマーを含む。
【0013】
請求項1に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体の好ましい実施態様の一つにおいて、前記繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0014】
請求項1に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体の一つの実施態様において、前記繊維は、官能化フルオロポリマーマトリックス組成物と結合することができる官能基を有するサイジングを含む。
【0015】
請求項11に記載の繊維強化フルオロポリマー複合体の一つの実施態様において、前記サイジングは、官能化フルオロポリマー組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用される「コポリマー」は、2つ以上の異なるモノマー単位を有する任意のポリマーを指し、ターポリマー及び3つ以上の異なるモノマー単位を有するものも含む。
【0017】
本願で引用される参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
本明細書で使用される「%」は、特に明記しない限り重量%であり、分子量は、特に明記しない限り、PMMA照合を使用してGPCにより測定される重量平均分子量である。あるいは、所定の条件下で溶融粘度又はメルトフローレートを測定することにより、分子量を間接的に測定することができる。
【0019】
本発明は、官能化フルオロポリマーマトリックス組成物及び繊維強化材を有するフルオロポリマー複合体に関する。
【0020】
フルオロポリマー
本発明において有用なフルオロポリマーは、50重量%を超えるフルオロモノマー単位、好ましくは65重量%を超える、より好ましくは75重量%を超える、最も好ましくは90重量%を超える1つ以上のフルオロモノマーを有する熱可塑性ホモポリマー及びコポリマーである。フルオロポリマーの形成に有用なフルオロモノマーとしては、限定的ではないが、フッ化ビニリデン(VDF又はVF2)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル(VF)、ヘキサフルオロイソブチレン(HFIB)、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン、及びペルフルオロメチルエーテル(PMVE)、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロブチルビニルエーテル(PBVE)、長鎖ペルフルオロ化ビニルエーテルを含むフッ素化ビニルエーテル、及びフッ素化ジオキソール、C4以上の部分的又はペルフルオロ化アルファオレフィン、C3以上の部分的又はペルフルオロ化環状アルケン、並びにそれらの組み合わせがある。
【0021】
特に好ましいフルオロポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride:PVDF)ホモポリマー、及びArkema IncのKYNAR(登録商標)樹脂などのコポリマー、及びエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマーである。本発明はすべてのフルオロポリマー及びそれらのコポリマーに適用されるが、フッ化ビニリデンポリマーが本発明を説明するために使用される。当業者は、PVDFへの特定の言及を理解し、これらの他の熱可塑性ポリマーに適用することができ、これらは本発明の範囲内にあり、本発明の実施態様とされる。
【0022】
本発明で使用されるPVDFは、一般に、水性フリーラジカル乳化重合を使用して、当技術分野で知られている手段によって調製されるが、懸濁、溶液及び超臨界CO2重合プロセスも使用できる。一般的な乳化重合プロセスでは、反応器に脱イオン水、重合中に反応物質を乳化できる水溶性界面活性剤、及び任意的にパラフィンワックス防汚剤が充填される。好ましい一実施形態では、界面活性剤は非フルオロ界面活性剤であり、製造される最終製品はフルオロ界面活性剤を含まない。混合物を撹拌し、脱酸素化する。次いで、所定量の連鎖移動剤、CTAを反応器に導入し、反応器の温度を所望のレベルまで上昇させ、フッ化ビニリデン(及び可能な場合1つ以上のコモノマー)を反応器に供給する。フッ化ビニリデンの初期投入が導入され、反応器内の圧力が所望のレベルに達すると、重合反応を開始するために開始剤のエマルジョン又は溶液が導入される。反応の温度は、使用される開始剤の特性に応じて変化する可能性があり、当業者はその方法を知っているはずである。典型的には、温度は約30℃~150℃、好ましくは約60℃~120℃である。反応器内で所望の量のポリマーに到達すると、モノマーの供給は停止されるが、開始剤は任意的に供給され残りのモノマーを消費し続ける。残留ガス(未反応モノマーを含む)が排出され、反応器からラテックス又は懸濁液が回収される。
【0023】
PVDF重合は、一般に10から60重量%、好ましくは10から50%の固体レベルを有するラテックスをもたらす。ラテックスは一般に、噴霧乾燥、凝固、又は他の既知のプロセスにより粉末形態に分解され、乾燥粉末を生成する。
【0024】
官能化フルオロポリマー組成物
本発明の繊維強化フルオロポリマー複合体のマトリックスを形成する官能化フルオロポリマー組成物は、任意の形態をとることができる。マトリックスに特に好ましい官能化フルオロポリマー組成物は以下を含む。
a)長いフルオロポリマーブロックと、1つ以上の短い官能性末端ブロックとを含むフルオロポリマーブロックコポリマー。
b)1つ以上のグラフト官能基を有するフルオロポリマー主鎖を有するグラフトコポリマー。
c)主鎖ポリマーの一部として官能性コモノマー単位を有するフルオロポリマー。
d)非官能性フルオロポリマーと、混和性のある官能性非フルオロポリマーのブレンド;
e)フッ化ビニリデンモノマー単位を有する官能性コモノマーと、1つ以上の短いポリアクリル酸末端ブロックの両方を有するブロックフルオロポリマー。
f)1つ以上の非官能性フルオロポリマーと、a)、b)又はc)の官能性フルオロポリマーのいずれかとのブレンド。
【0025】
官能化フルオロポリマーブロックコポリマー
官能化フルオロポリマーは、長いフルオロポリマー又はフルオロコポリマー鎖、及び1つ又は複数の短い官能性末端ブロックを有するブロックコポリマーであってもよい。官能性末端ブロックは、官能性連鎖移動剤から形成される。
【0026】
いくつかの実施形態の官能性連鎖移動剤は、低分子量官能性ポリマーである。低分子量とは、1,000以下、好ましくは800未満の重合度を有するポリマーを意味する。好ましい実施形態では、GPCにより測定されるポリマー連鎖移動剤の重量平均分子量は、20,000g/モル以下、より好ましくは15,000g/モル、より好ましくは10,000g/モル未満である。一実施形態では、重量平均分子量は5,000g/モル未満である。低分子量官能性連鎖移動剤は、2つ以上のモノマー単位、好ましくは少なくとも3つ以上のモノマー単位を有するポリマー又はオリゴマーである。いくつかの実施形態では、低分子量官能性連鎖移動剤は、10個以上のモノマー単位を有するポリマー又はオリゴマーである。
【0027】
いくつかの実施形態で使用される官能性ポリマー連鎖移動剤とは、低分子量ポリマー連鎖移動剤が1つ以上の異なる官能基を含むことを意味する。連鎖移動剤は、式(CH2-CH-(X)-R)yを有し、yは2~1000の整数であり、Xは、限定的ではないが、共有結合若しくはイオン結合、アルキル、アルケン、アルキン、置換アルキル、置換アルケン、アリール、エステル、エーテル、ケトン、アミン、アミド、アミド、有機シランを含む結合基であり、Rは官能基である。
【0028】
官能基(R)は官能性を提供し、単独のモノマー又はコモノマーとして、官能性モノマーの重合によって提供される。官能性は、重合前及び/又は重合反応中に官能性連鎖移動剤を重合媒体に導入することで追加できる。有用な官能基には、限定的ではないが、カルボキシル、ヒドロキシル、シロキサン、エーテル、エステル、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、硫酸、アミド、エポキシ基、又はそれらの混合物が含まれる。いくつかの実施形態は、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリホスホン酸、ポリスルホン酸、及びポリマレイン酸を含むがこれらに限定されない官能性連鎖移動剤を含む。酸性基の場合、官能基は部分的又は完全に中和及び/又はエステル化されていてもよい。ポリアクリル酸連鎖移動剤が好ましい実施形態である。
【0029】
低分子量官能性連鎖移動剤は、モノマーの総量に基づいて0.1から25重量%で重合反応系中に存在する。好ましくは、そのレベルは0.25から15重量%、より好ましくは0.5から10重量%である。一実施形態では、連鎖移動剤のレベルは、2重量%超から10重量%、さらには2.2から8重量%である。官能化された連鎖移動剤のレベルが低すぎる場合、PVDFに十分な官能性が提供されず、顕著な性能上の利点が得られず、所望の分子量を得ることができない。
【0030】
低分子量のポリマー官能性連鎖移動剤は成長中のポリマー鎖の活性中心と反応し、CHのHの抽出とポリマー鎖への残留低分子量官能基の結合をもたらす。このポリマーの連鎖移動剤は、PVDF主鎖のシーケンス分布を乱さないという点で、コモノマーとは異なる。残留低分子量官能性ポリマー連鎖移動剤の存在は、NMRにより官能化PVDFの中で検出できる。
【0031】
いくつかの実施形態の低分子量の官能性連鎖移動剤に加えて、PVDFの重合に典型的に使用される他の連鎖移動剤も、所望の分子量を提供するレベルで添加してもよい。
【0032】
一般に、低分子量連鎖移動剤の一部又はすべてを初期投入で加えて、極性溶媒に不溶でゲルとして存在する非常に高分子量のポリマーの形成を防ぐ。次いで、連鎖移動剤の残りを連続的に、又は残りの重合を通して少量ずつ加えることができる。
【0033】
官能性連鎖移動剤は、フルオロポリマーブロックと官能性非フルオロポリマーエンドブロックを備えたブロックコポリマーを作成する。別の実施形態では、親水性官能基は、フルオロポリマー主鎖の一部としての低レベルの官能性モノマーとして、また親水性非フルオロポリマー末端ブロックとしても存在する。驚くべきことに、このブロックコポリマーは、フルオロポリマーブロックの親水性モノマーレベルが非常に低い場合でも、相乗効果を示す。フルオロポリマーブロック中の親水性コモノマーは、例えば、全モノマーに基づいて約0.0001~約10重量%の量で使用され得る。フルオロポリマーブロックの総モノマーに基づいて、500ppm未満、250ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、さらには10ppmまでの親水性モノマーレベルにより、接着性及びその他の特性の相乗効果が向上する。
【0034】
フルオロポリマーブロックの合成中の親水性モノマーは、ポリマーバックグラウンドにランダムに分布するか、ホモポリマーを形成するか、又は未反応である。一実施形態では、親水性モノマーは(メタ)アクリルモノマーであり、非フルオロポリマーブロックは(メタ)アクリルモノマーのポリマーである。この場合、フルオロポリマーブロックにランダムに分布する(メタ)アクリルモノマー単位の総量は、ブロックコポリマー全体の(メタ)アクリルモノマー単位の合計に対して、40モル%未満、好ましくは30モル%未満、好ましくは25モル%未満、さらには20モル%未満、好ましくは15モル%未満、さらには10モル%未満である。フルオロポリマーブロック内の(メタ)アクリルモノマーのモル%が低く、非フルオロポリマーブロックに組み込まれた(メタ)アクリルモノマー単位のレベルが高いため、ブロックコポリマーのフルオロポリマーブロックにランダムに分布した(メタ)アクリルモノマー単位のモル%が低い。フルオロポリマーブロックの(メタ)アクリルモノマーは、非フルオロポリマーブロックの(メタ)アクリルモノマーと同じでも異なっていてもよい。1つの好ましい実施形態では、アクリル酸モノマー単位は、フルオロポリマーブロックと非フルオロポリマーブロックの両方に存在する。
【0035】
ブロックコポリマーの官能性フルオロポリマーブロックは高分子量であり、式-CF2H及び/又は-OSO3H及び/又は-OHを有する末端基は、フッ化ビニリデン(VDF)繰返し単位のKgあたり30ミリモル未満の量であり、好ましくはVDFのkgあたり25ミリモル未満、より好ましくはVDFのkgあたり20ミリモル未満である。
【0036】
好ましい実施形態では、連鎖移動剤は界面活性剤と組み合わせて使用され、成長するポリマー鎖を安定化する。界面活性剤は、フルオロポリマーを安定化することが知られている任意の界面活性剤であり得、1つ以上のフッ素化界面活性剤、1つ以上の非フッ素化界面活性剤、又はフッ素化界面活性剤と非フッ素化界面活性剤の混合物であり得る。好ましい実施形態では、出願人が以前の特許出願で示したように、重合はフッ素化界面活性剤なしで実施される。有用な非フッ素化界面活性剤は、50~250nmの範囲の粒子サイズを有する安定したエマルジョンを生成できる。
【0037】
官能化グラフトフルオロコポリマー
本発明の複合体の官能性フルオロポリマーマトリックスは、米国特許第7,241,817号に記載されているように、不飽和カルボキシル官能性モノマーでグラフトされたフルオロポリマー、又はエポキシ若しくはアミド官能基でグラフトされたフルオロポリマーをいくらか含むことができる。グラフト化プロセスには次のステップが含まれる。
a)フルオロポリマーと不飽和モノマーを溶融ブレンドする;
b)a)で得られたブレンドをフィルム、シート、顆粒又は粉末に成形する。
c)ステップb)の生成物を空気がない状態で、1~15Mradの線量の光子(γ)又は電子(β)照射にさらす。
d)c)で得られた生成物は、任意的に、フルオロポリマーにグラフト化されていない不飽和モノマーの全部又は一部を除去するために処理される。
【0038】
得られたグラフトフルオロポリマーは、そのままで、又はグラフトされていない同じフルオロポリマー若しくは別のフルオロポリマーとのブレンドとして使用できる。マトリックス中のグラフトフルオロポリマーのレベルは、1~100重量%、好ましくは3~50重量%、最も好ましくは5~20重量%である。
【0039】
有用な不飽和カルボキシルモノマーの例には、2~20個の炭素原子を有するカルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸を含み、これらの酸の官能性誘導体、例えば、限定的ではないが、無水物、エステル誘導体、アミド誘導体、イミド誘導体、及び不飽和カルボン酸の金属塩(アルカリ金属塩など)がある。ウンデシレン酸、4~10個の炭素原子を有する不飽和ジカルボン酸及びそれらの官能性誘導体、特にそれらの無水物も挙げることができ、これらは特に好ましいグラフト化モノマーである。
【0040】
他のグラフト化モノマーの例には、不飽和カルボン酸のC1~C8アルキルエステル又はグリシジルエステル誘導体、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、モノエチルマレエート、ジエチルマレエート、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸モノメチル及びイタコン酸ジエチル;不飽和カルボン酸のアミド誘導体、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸のモノアミド、マレイン酸のジアミド、マレイン酸のN-モノエチルアミド、マレイン酸のN,N-ジエチルアミド、マレイン酸のN-モノブチルアミド、マレイン酸のN,N-ジブチルアミド、フマル酸のモノアミド、フマル酸のジアミド、フマル酸のN-モノエチルアミド、フマル酸のN,N-ジエチルアミド、フマル酸のN-モノブチルアミド、フマル酸のN,N-ジブチルアミド;不飽和カルボン酸のイミド誘導体、例えばマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド;及び不飽和カルボン酸の金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなどがある。
【0041】
ステップa)は、熱可塑性プラスチック業界で使用される押出機又はミキサーなどの混合装置で実行される。
【0042】
フルオロポリマー及び不飽和モノマーそれぞれの割合に関して、フルオロポリマーの割合は、有利には、重量で、0.1~10%の不飽和モノマーに対して90~99.9%である。好ましくは、フルオロポリマーそれぞれの割合は、1.0~8%の不飽和モノマーに対して、より好ましくは不飽和グラフトモノマーが1~5重量%に対して、92~99.0%である。
【0043】
工程c)に関して、工程b)後に回収された製品は、有利にはポリエチレン袋に包装され、空気が排出され、次いで袋が閉じられる。照射方法に関しては、より一般的にはベータ線照射として知られている電子照射と、より一般的にはガンマ線照射として知られている光子照射を同様に使用することが可能である。有利には、線量は2~6Mrad、好ましくは3~5Mradである。
【0044】
ステップd)に関して、グラフトされていないモノマーは、任意の手段により除去され得る。工程c)の開始時に存在するモノマーに対するグラフトモノマーの割合は、50~100%である。フルオロポリマー及びグラフトされた官能基に対して不活性な溶媒による洗浄操作を実施することができる。例えば、グラフト化に無水マレイン酸を使用する場合、洗浄にはクロロベンゼンを使用できる。さらに簡単に、ステップc)で回収した生成物を真空脱気することもできる。
【0045】
一実施形態において、無水マレイン酸グラフトフルオロポリマーマトリックスは、短い(チョップド)繊維と共にのみ使用される。別の実施形態では、無水マレイン酸グラフト官能性マトリックスがフルオロポリマーでサイジングされた繊維と共に使用される。
【0046】
一実施形態では、グラフトモノマーは無水マレイン酸ではない。
【0047】
官能性コモノマーを含む官能性フルオロポリマー
本発明の官能性PVDFマトリックスは、フッ化ビニリデン(VDF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及び/又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)を含むがこれらに限定されない1つ以上のフルオロモノマーを80~99モル%、好ましくは85~98.8モル%含むコポリマーであり得る。フルオロポリマーの化学的不活性は、非フルオロポリマーと比較して長い複合体寿命を提供する。好ましい実施形態では、コポリマーは、80から99モル%のVDFモノマー単位を含む。
【0048】
コポリマーは、コポリマーに基づいて0.005~20モル%、好ましくは0.01~10モル%、最も好ましくは0.03~5モル%の低レベルで使用される、接着性を改善する1つ又は複数の官能性コモノマーも含む。官能性コモノマーの存在は、コポリマーにフルオロホモポリマーよりも優れた接着性を提供する。
【0049】
ランダムコポリマーは、接着基のより良い分布を提供し、より良い接着をもたらすため、最も有用である。グラフトコポリマーも本発明において想定される。
【0050】
有用なコモノマーは一般に極性基を含むか、表面エネルギーが高い。有用なコモノマーの例には、以下のうちの1つ以上が含まれるが、これらに限定されない:酢酸ビニル、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、2,3,3トリフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、及び2-クロロ-1-1-ジフルオロエチレン(R-1122)。HFPは良好な接着性を提供するが、耐溶剤性が低下する場合がある。リン酸(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、及びヒドロキシル官能性(メタ)アクリルコモノマーもコモノマーとして使用できる。
【0051】
1つ以上のフルオロモノマーと組み合わせて使用される他の有用な接着性コモノマーには、以下の1つ以上が含まれるが、これらに限定されない:
A)コモノマーとして(M1)を有するビニルアルキル酸;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は、C1~C16の直鎖、分岐、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖、分岐、アリール、又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5はカルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)である。)
B)以下の式M2を有するビニルアルキル酸;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4及びR5は個別に、水素、C1~C16の直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマー、アルカリ金属イオン(Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+)、アンモニウムイオン(NH4 +)、又はアルキルアンモニウム(NAlk4 +)である。)
C)コモノマーとして(M3)を含む官能性アクリレート;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は結合、C1~C16の直鎖、分岐、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖、分岐、アリール又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5はカルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)、エポキシド、C1~C16のアルキル又はシクロアルキルカーボネートである。)
【0052】
一実施形態では、2つ以上の異なる官能性アクリレートが接着性を向上させることが見出された。特定の理論に拘束されるものではないが、例えばアルコールと酸の官能基などの異なる官能基が反応又は架橋してエステル基を形成すると考えられている。2つ以上の異なる官能基は、同じターポリマーに存在することが好ましいが、2つ以上の異なるコポリマーのブレンドであってもよい。
D)コモノマーとして(M4)を含む官能性アクリルアミド;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4及びR5は個別に、水素、C1~C16の直鎖、分岐、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖、分岐、アリール又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5及びR6は個別に、カルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)、ケトン(C(O))、又はアセチルアセトネート(C(O)-CH2-C(O))、又はホスホネート(P(O)(OH)2)、アルカリ金属、又はアンモニウムホスホネートである。)
E)コモノマーM5を含む炭酸塩;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は結合、C1~C16の直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖アルキル、分岐アルキル、アリール又はシクロアルキル基であり、R5は、環状構造の一部としてカーボネート基を含む、C1~C16のシクロアルキル基又はC1~C16のフッ素化シクロアルキル基である。)
F)コモノマーとして(M6)を含むビニルエーテル;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4は、C1~C16の直鎖、分岐、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖、分岐、アリール又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5は、カルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)、ケトン(C(O))、又はアセチルアセトネート(C(O)-CH2-C(O))である。)
G)コモノマーとして(M7)を有するアリルオキシ化合物;
(式中、R1、R2、及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、R4はC1~C16の直鎖、分岐、アリール、又はシクロアルキル基、C1~C16のフッ素化直鎖、分岐、アリール又はシクロアルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー又はテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴマーであり、R5はカルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、スルホン酸アルキルアンモニウム塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)、ケトン(C(O))、又はアセチルアセトネート(C(O)-CH2-C(O))、又はホスホネート(P(O)(OH)2)、アルカリ金属又はアンモニウムホスホネートである。)
【0053】
非官能性フルオロポリマーと官能性混和性ポリマーとのブレンド
いくつかの実施形態では、官能性フルオロポリマーは、ポリフッ化ビニリデンと、少なくとも1つのメタクリル酸モノマーと少なくとも1つのメチルメタクリレートモノマーの官能性アクリルコポリマーなどの混和性官能性非フッ素化ポリマーとを含むブレンドである。混和性のある非フッ素化ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンと混和性がある。ポリフッ化ビニリデンと混和性のある官能性非フッ素化ポリマーは溶融ブレンドして、本発明の官能性PVDFを形成する。
【0054】
いくつかの実施形態において、混和性官能性非フッ素化ポリマーは、α、β不飽和カルボン酸、ヒドロキシル基を含むアクリルモノマー、エポキシ基を含むモノマー、シラノールを含むモノマー、アルデヒドを含むモノマー、シアン化アルケニル、及びアセトアセトキシエチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一つのモノマーを含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、α、β不飽和カルボン酸を含むモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、クロトン酸、及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも1つのモノマーである。
【0056】
いくつかの実施形態において、ヒドロキシル基を含むアクリルモノマーは、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、及びジエチレングリコールエチルエーテルアクリレートからなる群から選択される。
【0057】
いくつかの実施形態において、エポキシ基を含むモノマーは、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートからなる群から選択される。
【0058】
いくつかの実施形態において、シラノールを含むモノマーは、γ-トリメトキシシランメタクリレート及びγ-トリエトキシシランメタクリレートからなる群から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態において、アルデヒドを含むモノマーはアクロレインである。
【0060】
いくつかの実施形態において、シアン化アルケニルモノマーは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群から選択される。
【0061】
いくつかの実施形態において、混和性のある官能性非フッ素化ポリマーは、以下からなる群から選択される少なくとも一つのモノマーを含む:アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールエチルエーテルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、γ-トリメトキシシランメタクリレート、γ-トリエトキシシランメタクリレート、アクロレイン 、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びアセトアセトキシエチルメタクリレート。
【0062】
いくつかの実施形態において、混和性のある官能性非フッ素化ポリマーは、少なくとも1つのメタクリル酸モノマーと少なくとも1つのメチルメタクリレートモノマーを含む官能性アクリルコポリマーである。いくつかの実施形態では、混和性のある官能性非フッ素化コポリマーは、酸基が部分的に無水物官能基に変換される酸コポリマーである。
【0063】
いくつかの実施形態において、フルオロポリマーは官能基を含まない。いくつかの実施形態において、フルオロポリマーは、フッ化ビニリデンポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンポリマー、又はエチレンクロロトリフルオロエチレンポリマーである。
【0064】
いくつかの実施形態において、フルオロポリマーは官能化されている。官能化フルオロポリマーは、官能化フッ化ビニリデンポリマー、官能化エチレンテトラフルオロエチレンポリマー、又は官能化エチレンクロロトリフルオロエチレンポリマーであってもよい。
【0065】
いくつかの実施形態において、官能性ポリビニリデンポリマーブレンドは、官能性アクリルコポリマーを約1重量%~約20重量%含む。一部の実施形態では、ポリビニリデンポリマーブレンドは、5重量%未満の官能性アクリルコポリマーを含む。理論に拘束されないが、過剰な官能性アクリルコポリマー(例えば、20重量%を超える)は、ブレンドにより作られたこの官能性PVDFで作られた熱可塑性複合体の耐薬品性を低下させる可能性がある。
【0066】
官能性アクリルコポリマーは、約1.5重量%~約15重量%の(メタ)アクリル酸モノマー、又は無水マレイン酸を含んでもよい。いくつかの実施形態では、官能性アクリルコポリマーは、約5重量%~約15重量%の(メタ)アクリル酸モノマー又は無水マレイン酸を含んでもよい。いくつかの実施形態では、官能性アクリルコポリマーは、約6重量%~約11重量%の(メタ)アクリル酸モノマー又は無水マレイン酸を含んでもよい。
【0067】
上述のように、いくつかの実施形態では、ポリビニリデンポリマーブレンドはPVDFと官能性アクリルコポリマーを含む。メタクリル酸モノマーの総含有量は、ポリビニリデンポリマーブレンド全体の一部として、又は官能性アクリルコポリマーの一部として説明され得る。特に明記しない限り、メタクリル酸モノマーはポリビニリデンポリマーブレンドの一部として説明されている。
【0068】
ポリビニリデンポリマーブレンドは、重量で約50ppmから約30,000ppmのメタクリル酸モノマーを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ポリビニリデンポリマーブレンドは、約500重量ppmから約10,000重量ppmのメタクリル酸モノマーを含んでもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、ポリビニリデンポリマーブレンドは、メタクリル酸モノマーを重量で少なくとも約100ppm、約200ppm、約300ppm、約400ppm、約500ppm、約600ppm、約700ppm、約800ppm、約900ppm、約1000ppm、約2000ppm、約3000ppm、約4000ppm、又は約5000ppm含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、ポリビニリデンポリマーブレンドは、メタクリル酸モノマーを重量で最大約10,000ppm、約5000ppm、約2800ppm、約2600ppm、約2500ppm、約2400ppm、約2300ppm、約2200ppm、約2100ppm、約2000ppm、約1900ppm、約1800ppm、約1700ppm、約1600ppm、約1500ppm、約1400ppm、約1300ppm、約1200ppm、約1100ppm、又は約1000ppm含む。
【0071】
官能性末端ブロックと官能性コモノマーの両方を持つブロックコポリマー
官能性フルオロポリマーマトリックスは、フルオロポリマーブロックの主鎖に低レベルの官能性モノマーと、官能性の非フルオロポリマー短末端ブロックとを有するフルオロポリマーを含んでもよい。これは、フルオロポリマーブロックに追加の官能性がある、上記のようなPAA連鎖移動剤末端ブロックなどを有する類似のフルオロポリマーブロックコポリマーであろう。官能性コモノマーのレベルは、官能性フルオロコポリマーの上記と同じ範囲内にあり得るが、フルオロポリマーブロック中の官能性コモノマーは、官能性末端ブロックにより寄与される官能性に加えられるため、官能性コモノマーのレベルは大量に存在しない。少量のランダムに分布したコモノマーは、複合体の官能性マトリックスと繊維との間の接着を改善するのに効果的である。官能性コモノマーのレベルは、フルオロポリマーブロックに対して最大15モル%で存在する場合があるが、フルオロポリマーブロックに対して1モル%未満、500ppm未満、250ppm未満、150ppm未満、さらには100ppm未満のレベルまで有効である。
【0072】
非官能性フルオロポリマーと官能性フルオロポリマーのブレンド
上記の官能性フルオロポリマーのそれぞれに対して、フルオロポリマー及び(メタ)アクリルポリマーを含むがこれらに限定されない、混和性のある非官能性ポリマーとさらにブレンドしてもよい。1つの好ましい実施形態では、官能性PVDFと非官能性PVDFが一緒にブレンドされ、ポリマー/繊維複合体のマトリックスを形成する。
【0073】
繊維
本発明の繊維は、一次元、二次元又は三次元の様々な形態及び寸法を有し得る。繊維質基材は、1つ以上の繊維の集合体を含む。繊維が連続している場合、それらの集合体はファブリックを形成する。
【0074】
一次元形態は線形繊維に対応する。繊維は、不連続、チョップド、又は連続であってもよい。繊維は、短繊維(チョップド繊維)、又はアスペクト比が少なくとも1000、好ましくは少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000、有利には少なくとも3000、最も有利には少なくとも5000の長い連続繊維であり得る。
【0075】
二次元形態は、繊維マット又は不織布補強材又は織ロービング又は繊維束に対応し、これらを編組することもできる。
【0076】
三次元形態は、例えば、繊維マット、不織布補強材、繊維束、又はこれらの組み合わせを積み重ね、又は折り畳んだ、二次元形態の三次元集合体に対応する。
【0077】
繊維材料は、通常、その起源が合成である。合成材料には、熱硬化性ポリマー繊維、熱可塑性ポリマー繊維又はそれらの組み合わせから選択されるポリマー繊維が含まれる。ポリマー繊維は、ポリアミド(脂肪族又は芳香族)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、アラミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、及びビニルエステルで構成され得る。鉱物繊維は、ガラス繊維、特にE、R又はS2型、炭素繊維、ホウ素繊維又はシリカ繊維から選択することもできる。フルオロポリマー複合体に好ましい繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維である。
【0078】
繊維には、フルオロポリマーマトリックスの官能基と相互作用するために、表面の官能性が必要である。官能性は、繊維の表面処理又はサイジングによって追加できる。
【0079】
一実施形態では、繊維は、官能性フルオロポリマーサイジングでサイジングされ、官能性フルオロポリマーは、マトリックスの官能性フルオロポリマーとして上述したように形成される。官能基が相互作用して接着結合を形成することを条件として、繊維の官能基とマトリックスの官能基は同じでも異なっていてもよい。他の実施形態では、繊維は、酸化酸、プラズマ又は高温酸化処理により官能化され、官能性PVDFマトリックスと相互作用するために追加のサイジングが必要とされない。
【0080】
いくつかの実施形態では、強化繊維は炭素繊維であり、活性化されて官能基を形成する。一実施形態では、官能基は酸素含有官能基である。いくつかの実施形態では、酸素含有官能基はC=O基である。いくつかの実施形態では、酸化炭素繊維はサイジングされず、直接使用される。他の実施形態では、炭素繊維は、官能化PVDF、又はエポキシ、ポリイミド、ポリアミドなどの非フルオロポリマー官能性サイジングにサイジングされる。マトリックスの官能性バインダーは、「サイジングされた」又は官能化された炭素繊維と相互作用又は接着して、マトリックス/バインダーと炭素繊維間の接着性を高める。
【0081】
いくつかの実施形態では、強化繊維は、シラン又は潜在的に官能性PVDFサイジングを含む他の官能性ポリマー成分でサイジングされたガラス繊維である。いくつかの実施形態では、サイジングされた強化繊維はシランカップリング剤を含む。シランカップリング剤は、ガラス繊維にシラン結合できる基と官能基を含む。いくつかの実施形態では、シランカップリング剤の官能基はエポキシ基又はアミド基である。シランカップリング剤の官能基は、官能性ポリマーサイジングに結合され、任意に官能性PVDFに結合される。すべての実施形態において、官能性PVDFマトリックスは、特性を強化する強化繊維と相互作用し又はこれに付着する。
【0082】
いくつかの実施形態では、ガラス繊維は最初に官能性シランでサイジングされ、続いて官能性フルオロポリマーサイジングでオーバーサイジングされ、次に上記の官能性PVDFマトリックスで使用される。
【実施例
【0083】
炭素繊維のサイジング:
この特許において官能性PVDFで作られたサイジングされた炭素繊維のすべての例は、まったく同じ方法で作られている。すべての例においてHexcel AS4 12,000トウの未サイジング炭素繊維を使用したが、これらは市販されていないため、官能性PVDFサイジングを使用することに注意されたい。「官能性PVDF」を5%DMAC(ジメチルアセトアミド)に溶解して、液体溶液を作成した。ラボスケールのユニットをセットアップして、この炭素繊維を連続的にサイジングし、そこでトウをコーティングし、次に余分を絞り出し、溶媒を除去し、サイジングした繊維をリールに巻き取った。
【0084】
湿潤トレイは5%の固体溶液を保持し、AS4トウはローラーを使用してこの溶液を通過させ、表面の下に保持した。次に、繊維トウを2つの動かないソフトローラーの間を通過させて、過剰な溶液を絞り出し、炭素繊維の周りのサイジング溶液の良好な湿潤を促進した。次に、「ウェットのサイジングされた」のトウを、大量の空気流と90秒の滞留時間で150℃に加熱されたホットチャンバーに通して、すべての溶媒を除去し、「ドライ」のサイジングされた炭素繊維トウで終了した。サイジングの前後に1メートルの炭素繊維を計量することにより、サイジングの量を計算した。このプロセスによって製造されたサイジングされた繊維は、以下の表1に例A及び例Bとして示されている。次に、Fiber Glastの繊維ガラス用に設計された空気駆動チョッパーを使用して、サイジングされたカーボントウを6mmの長さに切断した。
【0085】
これらの試験に使用された市販のコントロール炭素繊維サイジングは、帝人東邦テナックス社製であった。グレードはHT C702で、これは高温の熱可塑性プラスチック用にサイジングされた炭素繊維である。この繊維は標準で6mmの長さに切断されている。
【0086】
特に明記しない限り、これらの実験には、100秒-1で約6kpoiseの溶融粘度のPVDFホモポリマーを使用した。
【0087】
上記の重合系にアクリル酸を2500ppm添加したアクリル酸官能性PVDFを製造し、230℃で100秒-1で14kpoiseの溶融粘度を有する官能性PVDFホモポリマーを製造した。これを用いて、官能性サイジング(表1の例B、表3の例4及び5)及び官能性マトリックス(表2の例1及び2)の両方としてテストを行った。
【0088】
【表1】
【0089】
強化複合体は、65グラムの化合物を保持するブラベンダーミキシングボウルを使用して調製した。マトリックス樹脂を最初にミキシングボウルで230℃、45rpmで(1分間)溶融した。事前に計量した量の炭素繊維(15重量%)をボウルに加え、さらに2分間混合を続けた。材料をミキシングボウルから手動で取り出し、60グラムを圧縮金型に入れた。材料は、3インチ×5インチ×1/8インチの容積式モールドで、230℃で圧縮成形され、カーバー社製ホットプレスで、1000psiで1分間、5000psiで2分間、続いて10,000psiで1分間、230℃で圧縮成形された。金型を取り外し、冷却プレスで10,000psiの圧力下で冷却した。次いで、プラークを、湿式のダイヤモンドグリットタイルソーを使用して、0.5インチ×5インチのフレックスバーに切断した。バーを乾燥させ、50%RH、73Fの制御温度ラボで一晩調整した後、Instron 4201でASTM D790に従ってテストし、0.05インチ/分でフレックスバー構成でテストした。曲げ強度を記録した。炭素繊維と官能性又は非官能性マトリックスのさまざまな組み合わせを表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
結果を表2に示す。本発明の概念は、官能性PVDFマトリックスは、官能性PVDFサイジングと組み合わせて、又は標準の市販のサイジングされた炭素繊維と組み合わせて使用すると、熱可塑性複合体の強度を高めることができることである。
【0092】
ツインスクリュー押出試験:
追加のサイジングされた炭素繊維は、2軸押し出し配合の検討を完了するのに十分な程度に上記の手順で作成された。製造されたサイジングされた炭素繊維は、上の表1に記載された例Bであり、長さ6mmに切断されている。2番目のコントロール炭素繊維はHT C702で、市販されており、長さ6mmに切断されている。
【0093】
2つの例(3及び4)と対照配合物を30mmのZSK二軸スクリュー押出機で230℃で配合した。その際、6kpoiseの粘度のPVDFホモポリマーで15wt%のチョップド炭素繊維を製造するために、ロスインウェイトサイドスタッファーを使用してチョップド炭素繊維を追加した。押し出されたストランドをペレット化し、220℃でASTM D790フレックスバーに射出成形した。フレックスバーを73F、50%RHで24時間平衡化し、上記のように曲げ強度をテストした。
【0094】
結果を以下の表3に示す。これらは、市販のサイジングと比較して、官能性PVDFサイジングで見られる強度の向上を示している(例3)。さらに、官能性PVDFサイジングと官能性PVDFマトリックスを組み合わせることで、さらに強度を強化できることが示されている(例4)。
【0095】
【表3】
【0096】
その他のツインスクリュー配合実験
コントロール例1:100秒-1で(MFR)6kpoiseの溶融粘度を有するPVDFホモポリマーを、チョップドストランド炭素繊維を下流添加しながら、36:1のL/Dを有する30mmのW&P共回転二軸押出機で溶融配合した。ロスインウェイトフィーダーを使用してPVDFを押出機の背面に追加し、ロスインウェイトフィーダーを使用して下流側のサイドスタッファーで炭素繊維を追加した。押出温度は230℃に維持され、二軸スクリューのrpmは200rpmであった。フィードを制御して、15重量%の炭素繊維を含む最終製品を製造した。次いで、ペレットを230℃の溶融温度及び50℃の金型温度でASTM D638タイプ1引張棒及びASTM D790曲げ棒に射出成形した。特性は、これらのASTMプロトコルに従ってテストした。
【0097】
説明:
1)CT-702は、東邦テナックス社から入手可能な細断炭素繊維である。
2)6kpoiseのPVDFホモポリマーは、特に明記されている場合を除き、すべての場合に使用される。
3)MMA/MAA:90重量%のメタクリル酸メチルと10重量%のメタクリル酸を含む官能性アクリルを使用
4)MMA/MAA-Anhy:説明(3)の官能性アクリルであって、2次反応押出プロセスによってMAA官能基の60~80%が無水物官能基に変換されている。
【0098】
官能性PVDF(ブレンド4)は、100秒-1、230℃で6kpoiseのMVを有するPVDFホモポリマー95重量%と、官能性アクリルコポリマーMMA/MAA(上記説明3)5重量%を溶融ブレンドすることで製造した。このアクリルはPVDFホモポリマーに混和性を有する。例5の混和性官能性アクリルは、炭素繊維の既存のサイジングに対する接着性を改善し、それにより界面接着性及び複合体強度を増加させる。
【0099】
別の官能性PVDF(ブレンド5)は、95重量%のPVDFホモポリマーと5重量%の官能性アクリルコポリマーMMA/MAA-Anhy(上記の説明4)を溶融ブレンドすることにより製造した。例4と5の両方で、官能性アクリルはPVDFホモポリマーと分子レベルで完全に混和性である。そのため、PMMAの官能基は使用中の炭素繊維に結合しているように見えますが、PVDFと完全に混和性があるため、マトリックスへの応力伝達も改善し、以下の表4に示すように引張強度、曲げ強度、破断伸びが向上する。
【0100】
【表4】