(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池および電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20230517BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230517BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230517BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230517BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20230517BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20230517BHJP
H01M 50/262 20210101ALI20230517BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/133
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/457
H01M50/209
H01M50/262 Z
(21)【出願番号】P 2021073928
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄斗
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-165156(JP,A)
【文献】特開2007-188869(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105660(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/110975(WO,A1)
【文献】特開2011-154936(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047353(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 4/13
H01M 50/489
H01M 50/417
H01M 50/457
H01M 50/209
H01M 50/262
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体と電解液とを含み、
前記電極体は積層体を含み、
前記積層体は、正極板と負極板とセパレータとを含み、
前記セパレータは、前記正極板と前記負極板とを分離しており、
前記セパレータは、多孔質樹脂層を含み、
前記多孔質樹脂層は、ポリオレフィン系材料を含み、
前記負極板は、負極活物質層を含み、
前記負極活物質層は、負極活物質粒子を含み、
前記負極活物質層は、前記多孔質樹脂層と直接接触しており、
前記負極活物質層は、0.60N/mm以上の突き刺し抵抗を有し、
前記突き刺し抵抗は、式(α):
Z=Y/X …(α)
により求まり、
前記式(α)中、
Zは、前記突き刺し抵抗を示し、
Yは、突き刺し試験における最大応力を示し、
Xは、前記最大応力が得られた時点の変位を示し、
前記突き刺し試験においては、前記負極活物質層の表面に対して垂直に、10μm/sの速度で、10μmの先端半径を有する針が突き刺される、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記多孔質樹脂層は、91.8%から93.0%の厚さ保持率を有し、
前記厚さ保持率は、式(β):
Tr=(T
1/T
0)×100 …(β)
により求まり、
前記式(β)中、
Trは前記厚さ保持率を示し、
T
0は、前記多孔質樹脂層の厚さを示し、
T
1は、13.9MPaの圧力によって前記多孔質樹脂層が厚さ方向に圧縮された後、前記圧力が取り除かれた状態における前記多孔質樹脂層の厚さを示す、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質粒子は、0.60以上の真円度の中央値を有する、
請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記多孔質樹脂層は、第1層と第2層と第3層とを含み、
前記第1層と前記第2層と前記第3層とは、前記多孔質樹脂層の厚さ方向に積層されており、
前記第2層は、前記第1層と前記第3層との間に介在しており、
前記第1層および前記第3層の各々は、ポリプロピレンを含み、
前記第2層は、ポリエチレンを含み、
前記多孔質樹脂層は、式(γ):
t
2/{(t
1+t
3)×0.5}≦1.5 …(γ)
の関係を満たし、
前記式(γ)中、
t
1は前記第1層の厚さを示し、
t
2は前記第2層の厚さを示し、
t
3は前記第3層の厚さを示す、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記積層体の厚さに対する、前記負極活物質層の厚さの比は、0.35から0.45である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記電極体において、前記正極板が60から80の積層数を有する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記多孔質樹脂層は、14μmから20μmの厚さを有する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記多孔質樹脂層は、3.92N以下の突き刺し強さを有する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質層は、0.85N/mm以下の前記突き刺し抵抗を有する、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質粒子は、0.85以下の前記真円度の前記中央値を有する、
請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
複数個の単電池を含み、
複数個の前記単電池は、配列方向に並んでおり、
前記配列方向は、前記電極体における前記正極板、前記負極板および前記セパレータの積層方向に沿っており、
複数個の前記単電池の各々は、前記配列方向に沿う圧縮力を受けており、
複数個の前記単電池の各々は、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池である、
電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、非水電解質二次電池および電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2016/163115号(特許文献1)は、負極活物質層の表面に配置された保護層を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非水電解質二次電池(本明細書においては「電池」と略記され得る。)の製造過程において、電池内に金属片(異物)が混入することが想定される。金属片は、例えば電極板の切断屑、各種部材の溶接スパッタ等であり得る。
【0005】
例えば、正極板に金属片が付着することが想定される。正極板に付着した金属片は、高電位環境下に置かれることになる。高電位環境下においては、金属片が比較的容易に酸化され、電解液に溶解し得る。電解液に溶解した金属は、負極板の表面に析出し得る。金属は針状に析出し得る。針状金属の析出は、例えば電圧の降下に反映され得る。従来、針状金属を検出するため、例えば電池の製造時に電圧降下試験が実施されている。
【0006】
例えば、負極板に金属片が付着することも想定される。負極板に付着した金属片は、低電位環境下に置かれることになる。低電位環境下においては、金属片の溶解速度が非常に低くなり得る。電圧降下試験の時点で、金属片の溶解量が少ない場合(すなわち針状金属の析出量が少ない場合)、針状金属の析出による電圧の降下が検出され難いと考えられる。さらに、溶解前の金属片が針状ではなく、例えば、アスペクト比が小さい形状である場合、溶解前の金属片による電圧の降下も検出され難いと考えられる。すなわち、製造時の電圧降下試験によって、負極板に付着した金属片を検出することは困難であると考えられる。
【0007】
金属片の検出方法として、耐電圧試験(絶縁破壊試験)も考えられる。しかし従来、耐電圧試験においても、負極板に付着した金属片が検出され難い傾向がある。
【0008】
負極板に付着した金属片が、電池の製造時に検出されなかった場合、電池の使用開始後に、金属片によって電圧不良が引き起こされる可能性がある。負極板に付着した金属片への対策として、例えば負極板とセパレータとの間に保護層(セラミックス層)を導入することが提案されている。ただし負極板とセパレータとの間に保護層が介在することにより、電池の出力が低下する可能性もある。
【0009】
本技術の目的は、負極板に付着した金属片の検出感度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本技術の構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本技術の範囲を限定しない。
【0011】
1.非水電解質二次電池は電極体と電解液とを含む。電極体は積層体を含む。積層体は正極板と負極板とセパレータとを含む。セパレータは、正極板と負極板とを分離している。セパレータは多孔質樹脂層を含む。多孔質樹脂層はポリオレフィン系材料を含む。負極板は負極活物質層を含む。負極活物質層は負極活物質粒子を含む。負極活物質層は、多孔質樹脂層と直接接触している。負極活物質層は0.60N/mm以上の突き刺し抵抗を有する。
突き刺し抵抗は下記式(α):
Z=Y/X …(α)
により求まる。
上記式(α)中、「Z」は、突き刺し抵抗を示す。「Y」は、突き刺し試験における最大応力を示す。「X」は、最大応力が得られた時点の変位を示す。突き刺し試験においては、負極活物質層の表面に対して垂直に、10μm/sの速度で、10μmの先端半径を有する針が突き刺される。
【0012】
電池の製造過程において、負極活物質層の表面に付着した金属片は、負極活物質層の表面に貫入し得る。負極活物質層の表面が軟質であるためと考えられる。金属片が負極活物質層に埋没することにより、耐電圧試験において、金属片による絶縁破壊が検出され難くなると考えられる。
【0013】
本技術の突き刺し抵抗は、金属片の貫入し難さを示すと考えられる。すなわち、負極活物質層の突き刺し抵抗が大きい程、金属片が負極活物質層の表面に貫入し難いと考えられる。突き刺し抵抗が0.60N/mm以上である時、耐電圧試験において、所望の検出感度が得られることが期待される。金属片が負極活物質層に埋没し難いことにより、金属片が負極板の表面から突出しやすくなるためと考えられる。
【0014】
2.多孔質樹脂層は、例えば91.8%から93.0%の厚さ保持率を有していてもよい。厚さ保持率は下記式(β):
Tr=(T1/T0)×100 …(β)
により求まる。
上記式(β)中、「Tr」は厚さ保持率を示す。「T0」は多孔質樹脂層の厚さを示す。「T1」は、13.9MPaの圧力によって多孔質樹脂層が厚さ方向に圧縮された後、圧力が取り除かれた状態における多孔質樹脂層の厚さを示す。
【0015】
本技術の厚さ保持率は、例えば耐クリープ性の指標になり得る。すなわち、厚さ保持率が高い程、多孔質樹脂層がクリープを起こし難いと考えられる。
【0016】
例えば、電池モジュールにおいては、電池の周囲が拘束されることにより、電池に圧縮力が加わる。そのため、電池内のセパレータ(多孔質樹脂層)に、継続的に圧力が加わることになる。多孔質樹脂層に継続的に圧力が加わることにより、多孔質樹脂層がクリープを起こし得る。上記式(β)における13.9MPaの圧力は、電池の拘束時に多孔質樹脂層が受ける圧力を想定している。
【0017】
上記のように本技術の電池は、負極板に付着した金属片の検出感度が高い。そのため、ある程度大きいサイズの金属片は、耐電圧試験において検出されることが期待される。ただし、非常に小さいサイズの金属片は、耐電圧試験で検出できない可能性もある。
【0018】
小さいサイズの金属片が耐電圧試験を通過しても、電池の使用開始当初は、電圧不良が発生しない可能性がある。セパレータ(多孔質樹脂層)の厚さに対して、金属片が十分小さいためである。しかし金属片と多孔質樹脂層との接点には圧力が集中し得る。電池の使用が長期間にわたると、金属片と多孔質樹脂層との接点において、多孔質樹脂層が局所的にクリープを起こし得る。クリープによって多孔質樹脂層が局所的に薄くなることにより、電圧不良が発生する可能性がある。本明細書においては、当該現象が「クリープ短絡」とも記される。
【0019】
厚さ保持率が91.8%以上であることにより、金属片が耐電圧試験を通過したとしても、クリープ短絡の発生率が低減され得る。厚さ保持率が93.0%以下であることにより、出力の向上が期待される。
【0020】
3.負極活物質粒子は、例えば0.60以上の真円度の中央値を有していてもよい。
【0021】
本技術の新知見によると、負極活物質粒子の真円度が高い程、負極活物質層の突き刺し抵抗が大きくなる傾向がある。負極活物質粒子の真円度が高い程、負極活物質層の圧縮時に、負極活物質粒子が一方向に配向し難くなると考えられる。負極活物質層の圧縮時に、負極活物質粒子が一方向に配向し難いことにより、負極活物質粒子が負極活物質層の厚さ方向に圧潰し難くなると考えられる。負極活物質粒子が厚さ方向に圧潰し難いことにより、金属片(異物)が負極活物質層の表面に貫入し難くなると考えられる。真円度の中央値が0.60以上であることにより、0.60N/mm以上の突き刺し抵抗が得られやすい傾向がある。
【0022】
4.多孔質樹脂層は、第1層と第2層と第3層とを含んでいてもよい。第1層と第2層と第3層とは、多孔質樹脂層の厚さ方向に積層されている。第2層は、第1層と第3層との間に介在している。第1層および第3層の各々はポリプロピレンを含む。第2層はポリエチレンを含む。多孔質樹脂層は下記式(γ):
t2/{(t1+t3)×0.5}≦1.5 …(γ)
の関係を満たす。上記式(γ)中、「t1」は第1層の厚さを示す。「t2」は第2層の厚さを示す。「t3」は第3層の厚さを示す。
【0023】
多孔質樹脂層は、例えば3層構造を有していてもよい。3層構造の多孔質樹脂層において、上記式(γ)の関係が満たされる時、厚さ保持率が高くなる傾向がある。
【0024】
5.積層体の厚さに対する、負極活物質層の厚さの比は、例えば0.35から0.45であってもよい。
【0025】
積層体の厚さに対する、負極活物質層の厚さの比が大きい程、積層体に混入した金属片(異物)の周辺で圧力が分散しやすい傾向がある。積層体の厚さに対する、負極活物質層の厚さの比が0.35以上であることにより、例えばクリープ短絡の発生率が低減することが期待される。積層体の厚さに対する、負極活物質層の厚さの比が0.45以下であることにより、例えば耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。
【0026】
6.電極体において、正極板が例えば60から80の積層数を有していてもよい。
【0027】
正極板の積層数が多い程、電極体に混入した金属片(異物)の周辺で圧力が分散しやすい傾向がある。正極板の積層数が60以上であることにより、例えばクリープ短絡の発生率が低減することが期待される。正極板の積層数が80以下であることにより、例えば、耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。
【0028】
7.多孔質樹脂層は、例えば14μmから20μmの厚さを有していてもよい。
【0029】
8.多孔質樹脂層は、例えば3.92N以下の突き刺し強さを有していてもよい。
【0030】
多孔質樹脂層の突き刺し強さが3.92N以下であることにより、例えば耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。
【0031】
9.負極活物質層は、例えば0.85N/mm以下の突き刺し抵抗を有していてもよい。
【0032】
10.負極活物質粒子は、例えば0.85以下の真円度の中央値を有していてもよい。
【0033】
11.電池モジュールは、複数個の単電池を含む。複数個の単電池は、配列方向に並んでいる。配列方向は、電極体における正極板、負極板およびセパレータの積層方向に沿っている。複数個の単電池の各々は、配列方向に沿う圧縮力を受けている。複数個の単電池の各々は、上記1~10に記載の非水電解質二次電池である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本実施形態における非水電解質二次電池の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、負極活物質粒子の真円度の中央値と、負極活物質層の突き刺し抵抗との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、多層構造の一例を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、厚さ保持率と、第2層の厚さ比との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本実施形態における電池モジュールの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本技術の実施形態(本明細書においては「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、本技術の範囲を限定しない。例えば本明細書中の作用効果に関する記載は、当該作用効果が全て奏される範囲内に、本技術の範囲を限定しない。
【0036】
<用語の定義等>
本明細書において、「備える、含む(comprise, include)」、「有する(have)」およびこれらの変形〔例えば「から構成される(be composed of)」、「包含する(encompass,involve)」、「含有する(contain)」、「担持する(carry, support)」、「保持する(hold)」等〕の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる(consist of)」との記載はクローズド形式である。「実質的に…からなる(consist essentially of)」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式は、本技術の目的を阻害しない範囲で、必須要素に加えて追加要素をさらに含んでいてもよい。例えば、本技術の属する分野において通常想定される要素(例えば不可避不純物等)が、追加要素として含まれていてもよい。
【0037】
本明細書において、「…してもよい(may)、…し得る(can)」等の表現は、義務的な意味「…しなければならない(must)という意味」ではなく、許容的な意味「…する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0038】
本明細書において、単数形(a, an, the)で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0039】
本明細書において、例えば「91.8%から93.0%」および「91.8~93.0%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「91.8%から93.0%」および「91.8~93.0%」は、いずれも「91.8%以上93.0%以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値および下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0040】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本技術の利用形態によって変化し得る近似値である。全ての数値は有効数字で表示される。全ての測定値等は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により処理され得る。全ての数値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差を含み得る。
【0041】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換も許容され得る。
【0042】
本明細書における幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0043】
<非水電解質二次電池>
図1は、本実施形態における非水電解質二次電池の構成の一例を示す概略図である。
電池100は、任意の用途で使用され得る。電池100は、例えば電動車両等において、主電源または動力アシスト用電源として使用されてもよい。複数個の電池100が連結されることにより、電池モジュールまたは組電池が形成されてもよい。電池100は、例えば1~200Ahの定格容量を有していてもよい。
【0044】
電池100は外装体90を含む。外装体90は角形(扁平直方体状)である。外装体90は、例えばアルミニウム(Al)合金製であってもよい。外装体90は、電極体50と電解液(不図示)とを収納している。すなわち電池100は電極体50と電解液とを含む。
【0045】
外装体90は、例えば封口板91と外装缶92とを含んでいてもよい。封口板91は、外装缶92の開口部を塞いでいる。例えばレーザ加工等により、封口板91と外装缶92とが接合されていてもよい。なお、外装体90は任意の形態を有し得る。外装体90は、例えばパウチ形等であってもよい。すなわち外装体90は、Alラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。
【0046】
封口板91には、正極端子81と負極端子82とが設けられている。封口板91に、注入口(不図示)、ガス排出弁(不図示)等がさらに設けられていてもよい。注入口から外装体90の内部に電解液が注入され得る。注入口は、例えば封止栓等によって閉塞され得る。正極集電部材71は、正極端子81と電極体50とを接続している。正極集電部材71は、例えばAl板等であってもよい。負極集電部材72は、負極端子82と電極体50とを接続している。負極集電部材72は、例えば銅(Cu)板等であってもよい。
【0047】
図2は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
電極体50は積層体40を含む。電極体50は、実質的に積層体40からなっていてもよい。積層体40は、正極板10と負極板20とセパレータ30とを含む。セパレータ30の少なくとも一部は、正極板10と負極板20との間に介在している。セパレータ30は、正極板10と負極板20とを分離している。積層体40は、1枚のセパレータ30を単独で含んでいてもよい。積層体40は、2枚のセパレータ30を含んでいてもよい。例えば正極板10が2枚のセパレータ30に挟まれていてもよい。例えば負極板20が2枚のセパレータ30に挟まれていてもよい。積層体40は、例えば、セパレータ30(第1セパレータ)と、負極板20と、セパレータ30(第2セパレータ)と、正極板10とがこの順序で積層されることにより形成されていてもよい。
【0048】
電極体50は、例えば巻回型であってもよいし、積層型であってもよい。電極体50が巻回型である時、正極板10、負極板20およびセパレータ30の各々は、例えば帯状の平面形状を有し得る。すなわち積層体40が帯状の平面形状を有し得る。帯状の積層体40が渦巻き状に巻回されることにより、巻回体が形成され得る。巻回体は、例えば筒状であってもよい。筒状の巻回体が径方向に圧縮されることにより、扁平状の電極体50が形成され得る。
【0049】
電極体50が積層型である時、正極板10、負極板20およびセパレータ30の各々は、例えば矩形状の平面形状を有し得る。すなわち積層体40が矩形状の平面形状を有し得る。複数個の積層体40が所定の一方向に積み上げられることにより、電極体50が形成され得る。
【0050】
図3は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略断面図である。
図3の電極体50は巻回型である。
図3には巻回軸と直交する断面が示されている。電極体50は、湾曲部51と平坦部52とを含む。湾曲部51においては、積層体40が湾曲している。湾曲部51において、積層体40は弧を描いていてもよい。平坦部52においては、積層体40が平坦である。平坦部52は、2つの湾曲部51に挟まれている。平坦部52は、2つの湾曲部51を接続している。なお、積層型の電極体50は、実質的に平坦部52からなる。
【0051】
電極体50において、正極板10は任意の積層数を有し得る。正極板10の積層数は、電極体50を積層方向に横断する直線が、正極板10と交差する回数を示す。積層方向は、電極体50において、正極板10、負極板20およびセパレータ30が積層される方向を示す。巻回型の電極体50における積層方向は、平坦部52における正極板10、負極板20およびセパレータ30の厚さ方向(
図3のD軸方向)と平行である。積層型の電極体50における積層方向は、正極板10、負極板20およびセパレータ30の厚さ方向と平行である。
【0052】
正極板10の積層数が多い程、電極体50に混入した金属片(異物)の周辺で圧力が分散しやすい傾向がある。正極板10は、例えば60~80の積層数を有していてもよい。正極板10の積層数が60以上であることにより、例えばクリープ短絡の発生率が低減することが期待される。正極板10の積層数が80以下であることにより、例えば耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。正極板10は、例えば60~70の積層数を有していてもよい。なお、電極体50が積層型である場合、正極板10の積層数は、正極板10の枚数を示す。
【0053】
負極板20は、例えば60~80の積層数を有していてもよい。セパレータ30は、例えば120~160の積層数を有していてもよい。負極板20およびセパレータ30の積層数も、正極板10の積層数と同様に計数され得る。
【0054】
《負極板》
負極板20は負極活物質層22を含む(
図2参照)。負極板20は、実質的に負極活物質層22からなっていてもよい。負極板20は、例えば負極基材21をさらに含んでいてもよい。例えば、負極活物質層22は負極基材21の表面に配置されていてもよい。負極基材21の片面のみに負極活物質層22が配置されていてもよい。負極基材21の表裏両面に負極活物質層22が配置されていてもよい。負極基材21は導電性のシートである。負極基材21は、例えば純Cu箔、Cu合金箔等を含んでいてもよい。負極基材21は、例えば5~30μmの厚さを有していてもよい。負極板20の幅方向(
図2のW軸方向)において、一方の端部に負極基材21が露出していてもよい。負極基材21が露出した部分には、負極集電部材72が接合され得る(
図1参照)。
【0055】
(突き刺し抵抗)
図4は、突き刺し試験の第1説明図である。
負極活物質層22は0.60N/mm以上の突き刺し抵抗を有する。突き刺し抵抗は、突き刺し試験により測定され得る。針5が準備される。針5の先端は球状である。針5は、10μmの先端半径(r)を有する。針5は金属製である。針5は、例えばステンレス製であってもよい。針5が突き刺し試験機の可動部に装着される。負極板20が突き刺し試験機のステージ上に固定される。針5は、負極活物質層22の表面に対して垂直に突き刺される。試験速度(突き刺し速度)は10μm/sである。試験温度は25℃±5℃である。
【0056】
図5は、突き刺し試験の第2説明図である。
突き刺し試験は、針5が負極活物質層22を貫通するまで実施される。針5の突き刺し中、針5の変位(深さ)と、応力とが測定される。変位が増大するにつれて、応力も増大する。針5が負極活物質層22を貫通した時点で、最大応力(Y)が示される。針5の貫通後、応力は減少に転じる。最大応力が得られた時点の変位(X)が記録される。最大応力(Y)が変位(X)で除されることにより、突き刺し抵抗(Z)が求まる(上記式(α)参照)。突き刺し抵抗(Z)は、「MT
-2(=M×L×T
-2×L
-1)」の次元を有する。1つの測定対象について、突き刺し抵抗は3回以上測定される。3回以上の結果の算術平均が採用される。
【0057】
負極活物質層の突き刺し抵抗が大きい程、耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。突き刺し抵抗は、例えば0.67N/mm以上であってもよいし、0.74N/mm以上であってもよいし、0.78N/mm以上であってもよい。突き刺し抵抗は、任意の上限値を有し得る。突き刺し抵抗は、例えば0.85N/mm以下であってもよい。
【0058】
(負極活物質層の厚さ)
積層体40の厚さに対する、負極活物質層22の厚さの比は、例えば0.35~0.45であってもよい。積層体40の厚さに対する、負極活物質層22の厚さの比が大きい程、積層体40に混入した金属片(異物)の周辺で圧力が分散しやすい傾向がある。積層体40の厚さに対する、負極活物質層22の厚さの比が0.35以上であることにより、例えばクリープ短絡の発生率が低減することが期待される。積層体40の厚さに対する、負極活物質層22の厚さの比が0.45以下であることにより、耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。
【0059】
積層体40の厚さは、積層体40に含まれる正極板10、負極板20およびセパレータ30の厚さの合計を示す。積層体40は、例えば100~200μmの厚さを有していてもよいし、120~180μmの厚さを有していてもよい。
【0060】
負極活物質層22の厚さは、積層体40に含まれる負極活物質層22の厚さの合計を示す。例えば、負極板20の両面に負極活物質層22が形成されている場合、負極活物質層22の厚さは、両面(2つ)の負極活物質層22の厚さの合計を示す。負極活物質層22は、例えば40~80μmの厚さを有していてもよいし、50~70μmの厚さを有していてもよい。なお、片面(1つ)の負極活物質層22の厚さは、例えば20~40μmであってもよいし、25~35μmであってもよい。
【0061】
負極活物質層22は、例えば0.5~2.0g/cm3の密度を有していてもよいし、1.0~1.5g/cm3の密度を有していてもよい。負極活物質層22の密度は、負極活物質層22の質量が、負極活物質層22の見かけ体積で除されることにより求まる。見かけ体積は、負極活物質層22内の空隙の体積を含む。
【0062】
(負極活物質粒子)
負極活物質層22は負極活物質粒子を含む。負極活物質層22は、実質的に負極活物質粒子からなっていてもよい。負極活物質粒子は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、珪素、酸化珪素、錫、酸化錫、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。負極活物質粒子は、例えば複合粒子であってもよい。負極活物質粒子は、例えば基材粒子と皮膜とを含んでいてもよい。皮膜は基材粒子の表面を被覆し得る。基材粒子は、例えば天然黒鉛等を含んでいてもよい。皮膜は、例えば非晶質炭素等を含んでいてもよい。
【0063】
負極活物質粒子は任意の形状を有し得る。負極活物質粒子は、例えば球状、塊状、フレーク状等であってもよい。負極活物質粒子は、例えば球形化黒鉛等であってもよい。圧縮後の負極活物質層22において、負極活物質粒子が球形に近似した形状を有することにより、負極活物質層22の突き刺し抵抗が大きくなる傾向がある。圧縮後の負極活物質層22における負極活物質粒子の形状は、例えば、真円度によって評価され得る。
【0064】
(真円度)
図6は、負極活物質粒子の真円度の中央値と、負極活物質層の突き刺し抵抗との関係を示すグラフである。真円度の中央値が高い程、負極活物質層22の突き刺し抵抗が大きくなる傾向がみられる。真円度の中央値は、例えば0.60以上であってもよいし、0.69以上であってもよいし、0.78以上であってもよい。
【0065】
真円度の中央値は、例えば0.85以下であってもよい。真円度は、例えば負極活物質層22の圧縮率等によっても変化し得る。真円度の中央値が0.85以下であることにより、高密度の負極活物質層22が形成されやすい傾向がある。
【0066】
真円度は次の手順で測定され得る。
圧縮後の負極板20から、所定のサイズの試験片が切り出される。試験片が樹脂材料に包埋される。包埋後の試験片が切断されることにより、負極活物質層22の断面試料が作製される。断面試料は、負極活物質層22の表面に対して垂直な断面を含む。断面試料に対して、清浄化処理(イオンミリング処理)が施される。清浄化後、断面試料がSEM(scanning electron microscope)によって観察されることにより、断面SEM画像が取得される。断面SEM画像において、30個の負極活物質粒子がランダムに抽出される。30個の負極活物質粒子の真円度が測定される。30個の真円度から中央値が求められる。
【0067】
個々の粒子の真円度は、下記式(δ):
R=4πS/L2 …(δ)
により求まる。
上記式(δ)中、「R」は真円度を示す。「S」は、粒子の断面像の面積を示す。「L」は、粒子の断面像の周長(輪郭線の長さ)を示す。真円の真円度は1となる。すなわち、真円度の中央値は1以下であってもよい。
【0068】
(粒子サイズ)
負極活物質粒子は、例えば5~20μmのD50を有していてもよいし、9.5~15μmのD50を有していてもよいし、10~12μmのD50を有していてもよい。本明細書における「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%になる粒子径と定義される。体積基準の粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。例えば、島津製作所製のレーザ回折式粒子径分布測定装置「製品名 SALD-2200」等、または該装置と同等品が使用されてもよい。
【0069】
負極活物質粒子は、例えば5~20μmの算術平均径を有していてもよいし、9.5~15μmの算術平均径を有していてもよいし、10~12μmの算術平均径を有していてもよい。本明細書における「算術平均径」は、圧縮後の負極活物質層22において測定され得る。上記の断面SEM画像において、30個の負極活物質粒子の径が測定される。個々の負極活物質粒子の径は、負極活物質粒子の輪郭線上の最も離れた2点間の距離を示す。30個の径の算術平均が算術平均径とみなされる。負極板20の製造方法によっては、D50と算術平均径との間に差が生じることもあるし、D50と算術平均径とが実質的に同一であることもある。
【0070】
(任意成分)
負極活物質層22は、負極活物質粒子に加えて、導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。例えば負極活物質層22は、実質的に、質量分率で0~10%の導電材と、0.1~10%のバインダと、残部の負極活物質粒子とからなっていてもよい。導電材は任意の成分を含み得る。導電材は、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ等を含んでいてもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0071】
《セパレータ》
セパレータ30は多孔質樹脂層を含む。セパレータ30は、実質的に多孔質樹脂層からなっていてもよい。多孔質樹脂層は、負極活物質層22と直接接触している。多孔質樹脂層と負極活物質層22との間に介在物がないことにより、例えば出力の向上等が期待される。なおセパレータ30は、正極活物質層12と接触する面に、保護層を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0072】
多孔質樹脂層は、例えば100~400s/100mLの透気度を有していてもよい。本明細書における「透気度」は、「JIS P 8117:2009」に規定される「透気抵抗度(air resistance)」を示す。透気度はガーレー試験法により測定される。
【0073】
多孔質樹脂層は、例えば10~50μmの厚さを有していてもよいし、10~30μmの厚さを有していてもよいし、14~20μmの厚さを有していてもよい。
【0074】
多孔質樹脂層は電気絶縁性を有する。多孔質樹脂層はポリオレフィン系材料を含む。多孔質樹脂層は、例えば、実質的にポリオレフィン系材料からなっていてもよい。ポリオレフィン系材料は、例えば、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0075】
(厚さ保持率)
多孔質樹脂層は、例えば91.8~93.0%の厚さ保持率を有していてもよい。厚さ保持率が91.8%以上であることにより、金属片が耐電圧試験を通過したとしても、クリープ短絡の発生率が低減され得る。厚さ保持率が93.0%以下であることにより、例えば出力の向上等が期待される。多孔質樹脂層は、例えば91.8~92.1%の厚さ保持率を有していてもよいし、92.1~93.0%の厚さ保持率を有していてもよい。
【0076】
厚さ保持率は次の手順で測定され得る。
セパレータ30から多孔質樹脂層の試験片が切り出される。試験片は、例えば2cm×2cmの平面サイズを有し得る。試験片は140枚準備される。試験片は、可能な限り永久ひずみがない部分から採取され得る。例えば、巻回型の電極体50の場合、湾曲部51から試験片が採取され得る(
図3参照)。平坦部52においては、セパレータ30の厚さ方向に永久ひずみが生じている可能性がある。
【0077】
平面圧子が準備される。平面圧子は正方形の平面形状を有する。平面圧子が圧縮試験機の可動部に装着される。平面圧子は、例えば2cm×2cmの平面サイズを有し得る。試験片の圧縮前厚さ(T0)が測定される。圧縮前厚さ(T0)は、マイクロメータにより測定され得る。例えばミツトヨ社製のマイクロメータ(定圧タイプ)等が使用されてもよい。
【0078】
140枚の試験片が積層されることにより、供試体が形成される。供試体が圧縮試験機のステージ上に置かれる。試験温度は25℃±5℃である。平面圧子により供試体に圧力が加えられる。加圧方向は、供試体に含まれる試験片の積層方向に沿っている。試験速度(昇圧速度)は、6.95MPa/sである。2秒間で圧力が目標値(13.9MPa)に達する。圧力が目標値に達した時点で、圧力が解除される。圧力の解除後、30分間にわたって試験片が静置される。静置後、供試体から1枚の試料片が採取される。試験片において平面圧子と接触していた部分の厚さ(T1)が測定される。すなわち13.9MPaの圧力によって多孔質樹脂層が厚さ方向に圧縮された後、圧力が取り除かれた状態において、多孔質樹脂層の厚さ(T1)が測定される。圧縮後厚さ(T1)もマイクロメータにより測定され得る。圧縮後厚さ(T1)が、圧縮前厚さ(T0)で除されることにより、厚さ保持率(Tr)が求まる(上記式(β)参照)。厚さ保持率(Tr)は百分率で表示される。
【0079】
(多層構造)
多孔質樹脂層は、例えば単層構造を有していてもよい。多孔質樹脂層は、例えば実質的にPE層からなっていてもよい。
【0080】
図7は、多層構造の一例を示す概略断面図である。
多孔質樹脂層31は、例えば多層構造を有していてもよい。多孔質樹脂層31は、例えば3層構造を有していてもよい。多孔質樹脂層31は、例えば第1層31aと第2層31bと第3層31cとを含んでいてもよい。第1層31aと第2層31bと第3層31cとは、多孔質樹脂層31の厚さ方向(
図7のH軸方向)に積層されている。第2層31bは、第1層31aと第3層31cとの間に介在している。
【0081】
第1層31aおよび第3層31cの各々は、例えばPPを含んでいてもよい。第1層31aおよび第3層31cの各々は、実質的にPPからなっていてもよい。すなわち、第1層31aおよび第3層31cの各々は、PP層であってもよい。第2層31bは、例えばPEを含んでいてもよい。第2層31bは、実質的にPEからなっていてもよい。すなわち、第2層31bはPE層であってもよい。
【0082】
(第2層の厚さ比)
第2層31bの厚さ比は、第1層31aおよび第3層31cの平均厚さ((t1+t3)×0.5)に対する、第2層31bの厚さ(t2)の比を示す。第2層31bの厚さ比は、例えば1.5以下であってもよい(上記式(γ)参照)。
【0083】
図8は、厚さ保持率と、第2層の厚さ比との関係を示すグラフである。
第2層31bの厚さ比が1.5以下であることにより、厚さ保持率が高くなる傾向がみられる。第2層31bの厚さ比は、例えば1.31以下であってもよいし、1.30以下であってもよい。第2層31bの厚さ比は、例えば1.0以上であってもよいし、1.1以上であってもよいし、1.2以上であってもよい。
【0084】
第1層31aおよび第3層31cの各々は、例えば1~10μmの厚さを有していてもよいし、3~6μmの厚さを有していてもよい。第2層31bは、例えば1~15μmの厚さを有していてもよいし、5~10μmの厚さを有していてもよい。なお各層の厚さは、第1層31aおよび第3層31cの各々が第2層31bから剥離された後、マイクロメータにより測定され得る。
【0085】
(突き刺し強さ)
多孔質樹脂層は、例えば3.92N以下の突き刺し強さを有していてもよい。多孔質樹脂層の突き刺し強さが3.92N以下であることにより、例えば耐電圧試験における、金属片の検出感度が向上することが期待される。多孔質樹脂層は、例えば0.98~3.92Nの突き刺し強さを有していてもよいし、1.96~3.92Nの突き刺し強さを有していてもよいし、2.94~3.92Nの突き刺し強さを有していてもよい。
【0086】
突き刺し強さは、次の手順で測定され得る。
針が準備される。針は1mmの胴径を有する。針の先端形状は球状である。針は、0.5mmの先端半径を有する。針は金属製である。針は、例えばステンレス製であってもよい。針が突き刺し試験機の可動部に装着される。多孔質樹脂層から試験片が切り出される。試験片は、例えば2cm×2cmの平面サイズを有し得る。多孔質樹脂層が突き刺し試験機のステージ上に固定される。針は多孔質樹脂層の表面に対して垂直に突き刺される。試験速度(突き刺し速度)は2mm/sである。試験温度は25℃±5℃である。針が多孔質樹脂層を貫通するまでの最大力が突き刺し強さである。1つの測定対象について、突き刺し強さは3回以上測定される。3回以上の結果の算術平均が採用される。
【0087】
《正極板》
正極板10は、例えば正極基材11と正極活物質層12とを含んでいてもよい(
図2参照)。正極基材11は導電性シートである。正極基材11は、例えば純Al箔、Al合金箔等を含んでいてもよい。正極基材11は、例えば10~30μmの厚さを有していてもよい。正極板10の幅方向(
図2のW軸方向)において、一方の端部に正極基材11が露出していてもよい。正極基材11が露出した部分には、正極集電部材71が接合され得る(
図1参照)。
【0088】
正極活物質層12は、正極基材11の片面のみに配置されていてもよい。正極活物質層12は、正極基材11の表裏両面に配置されていてもよい。前述の負極活物質層22の厚さと同様に、正極活物質層12の厚さは、積層体40に含まれる正極活物質層12の厚さの合計を示す。例えば、正極板10の両面に正極活物質層12が形成されている場合、正極活物質層12の厚さは、両面(2つ)の正極活物質層12の厚さの合計を示す。正極活物質層12は、例えば20~60μmの厚さを有していてもよいし、30~50μmの厚さを有していてもよい。なお、片面(1つ)の正極活物質層12の厚さは、例えば10~30μmであってもよいし、15~25μmであってもよい。
【0089】
正極活物質層12は正極活物質粒子を含む。正極活物質粒子は任意の成分を含み得る。正極活物質粒子は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」等の組成式においては、括弧内の組成比の合計が1である。すなわち「CNi+CCo+CMn=1」の関係が満たされている。例えば「CNi」はNiの組成比を示す。組成比の合計が1である限り、各成分の組成比は任意である。
【0090】
正極活物質層12は正極活物質粒子に加えて、例えば、導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。例えば正極活物質層12は、実質的に、質量分率で0.1~10%の導電材と、0.1~10%のバインダと、残部の正極活物質粒子とからなっていてもよい。導電材は、例えばアセチレンブラック等を含んでいてもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含んでいてもよい。
【0091】
《電解液》
電解液は液体電解質である。電解液は溶媒と支持電解質とを含む。溶媒は非プロトン性である。溶媒は任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0092】
支持電解質は溶媒に溶解している。支持電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4、およびLiN(FSO2)2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。支持電解質は、例えば0.5~2.0mоl/Lのモル濃度を有していてもよいし、0.8~1.2mоl/Lのモル濃度を有していてもよい。
【0093】
電解液は、溶媒および支持電解質に加えて、任意の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば電解液は、質量分率で0.01~5%の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)、およびリチウムビスオキサラトボラート(LiBOB)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0094】
<電池モジュール>
図9は、本実施形態における電池モジュールの一例を示す概略図である。
本技術においては、電池モジュール200も提供され得る。電池モジュール200は、複数個の単電池と、エンドプレート110と、拘束部材120とを含む。複数個の単電池の各々は、本実施形態に従う電池100である。電池モジュール200は、例えば2~50個の単電池を含んでいてもよいし、4~20個の単電池を含んでいてもよい。
【0095】
複数個の単電池は、配列方向(D軸方向)に並んでいる。配列方向は、電極体50における正極板10、負極板20およびセパレータ30の積層方向に沿っている。配列方向は、積層方向と平行であってもよい。単電池同士は、例えばバスバー(不図示)により電気的に接続され得る。複数個の単電池は、例えば直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【0096】
単電池同士の間に、中間プレート(不図示)が介在していてもよい。エンドプレート110は、配列方向の両端に配置されている。拘束部材120は、2枚のエンドプレート110を接続している。拘束部材120は、2枚のエンドプレートが互いに近づく方向に、2枚のエンドプレートに引張力を加えている。そのため単電池の各々は、配列方向に沿う圧縮力を受けている。単電池内のセパレータは、例えば13~14MPaの圧力を受けていてもよい。電池モジュール200においては、例えばクリープ短絡の発生率が低いことが期待される。
【実施例】
【0097】
以下、本技術の実施例(本明細書においては「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、本技術の範囲を限定しない。
【0098】
<電池の製造>
以下のように、No.1~9に係る試験電池(非水電解質二次電池)が製造された。
【0099】
《No.1》
(正極板の製造)
下記材料が準備された。
正極活物質粒子:Li(NiCoMn)O2
導電材:アセチレンブラック
バインダ:PVdF
分散媒:N-メチル-2-ピロリドン
正極基材:Al合金箔
【0100】
正極活物質粒子と導電材とバインダと分散媒とが混合されることにより、正極スラリーが調製された。正極スラリーが正極基材の表裏両面に塗布され、乾燥されることにより、正極活物質層が形成された。これにより正極原反が製造された。正極原反が圧縮された。圧縮後、正極原反が帯状に切断されることにより、正極板が製造された。
【0101】
正極板の幅(
図2のW軸方向の寸法)は、105mmであった。正極活物質層の幅は90mmであった。正極板の幅方向の一端には、15mmにわたって正極基材が露出していた。
【0102】
(負極板の製造)
下記材料が準備された。
負極活物質粒子:球形化天然黒鉛
バインダ:CMC、SBR
分散媒:水
負極基材:Cu合金箔
【0103】
負極活物質粒子のD50が測定された。D50は下記表1に示される。
【0104】
負極活物質粒子とバインダと分散媒とが混合されることにより、負極スラリーが調製された。負極スラリーが負極基材の表裏両面に塗布され、乾燥されることにより、負極活物質層が形成された。これにより負極原反が製造された。負極原反が圧縮された。圧縮後、負極原反が帯状に切断されることにより、負極板が製造された。
【0105】
負極板の幅(
図2のW軸方向の寸法)は、107mmであった。負極活物質層の幅は95mmであった。負極板の幅方向の一端には、12mmにわたって負極基材が露出していた。
【0106】
負極板において、前述の手順により、負極活物質粒子の真円度の中央値が測定された。真円度の中央値は下記表1に示される。
【0107】
(セパレータの準備)
セパレータが準備された。セパレータは多孔質樹脂層からなっていた。多孔質樹脂層は、第1層(PP層)と第2層(PE層)と第3層(PP層)とを含んでいた。第2層は第1層と第3層との間に介在していた。
【0108】
(電極体の形成)
セパレータと、正極板と、セパレータと、負極板とがこの順序で積層されることにより、積層体が形成された。積層体が巻き芯に巻き取られることにより、筒状の巻回体が形成された。巻回軸と直交する方向に、巻回体が圧し潰されることにより、巻回体が扁平状に成形された。これにより電極体が形成された。
【0109】
電極体の厚さ(
図3のD軸方向の寸法)は10.56mmであった。正極板は66の積層数を有していた。負極板は68の積層数を有していた。セパレータは140の積層数を有していた。
【0110】
電極体は平坦部と湾曲部とからなっていた。電極体の最外層において、湾曲部から積層体の一部が切り出された。切り出された積層体の一部において、正極板、負極板、セパレータの厚さがそれぞれ測定された。各部材の厚さは、定圧タイプのマイクロメータ(ミツトヨ社製)により測定された。
【0111】
負極板の厚さから負極基材の厚さが差し引かれることにより、負極活物質層の厚さが求められた。負極活物質層の厚さは下記表1に示される。積層体の厚さに対する、負極活物質層の厚さの比は、0.43であった。
【0112】
負極板において、前述の手順により突き刺し抵抗が測定された。突き刺し抵抗は下記表1に示される。
【0113】
セパレータにおいて、前述の手順により、多孔質樹脂層の厚さ保持率と突き刺し強さとが測定された。厚さ保持率および突き刺し強さは、下記表1に示される。
【0114】
多孔質樹脂層が3層に分離された。マイクロメータにより、各層の厚さが測定された。第2層(PE層)の厚さ比が求められた。第2層の厚さ比は下記表1に示される。
【0115】
《No.2~9》
下記表1に示される負極板とセパレータとを含む電極体がそれぞれ形成された。
【0116】
<評価>
《耐電圧試験における検出感度》
電極体の最外層において、負極板の表面に模擬異物が配置された。模擬異物は、金属球(直径:200μm、SUS304製)であった。模擬異物の配置後、200Vの耐電圧試験が実施された。50mA以上の漏れ電流が流れた場合、検出感度が良好であると判断された。50mA以上の漏れ電流が流れた電極体が解体された。50mA以上の漏れ電流が流れた電極体においては、模擬異物に対応する位置に短絡痕が確認された。下記表1において、評価結果が「P」である時、金属片の検出感度が向上していると考えられる。
【0117】
《放電抵抗》
Al合金製の外装体が準備された。外装体は角形であった。外装体は「120mm×65mm×12.55mm(幅W×高さH×奥行D)」の外形寸法を有していた。外装体に電極体が収納された。外装体に電解液が注入された。電解液の注入後、電解液が電極体に十分含浸された。含浸後、所定量の充電が実施された。充電時に電極体から発生したガスが、外装体から排出された。ガスの排出後、外装体が密閉された。以上より、電池が製造された。なお電解液は下記成分からなっていた。
【0118】
溶媒:「EC/EMC/DMC=3/3/4(体積比)」
支持電解質:LiPF6(1mоl/L)
添加剤:VC(質量分率で0.3%)
【0119】
定電流-定電圧(CC-CV)充電により、電池の電圧が3.51Vに調整された。定電流(CC)充電時の電流は1Itであった。合計充電時間は1.5時間であった。なお「1It」は、電池の定格容量を1時間で流し切る電流と定義される。
【0120】
75Itの電流で10秒間にわたって、電池が放電された。放電時の電流-電圧グラフの傾きから、放電抵抗が求められた。放電抵抗は下記表1に示される。下記表1中の放電抵抗は、No.1の放電抵抗が100と定義された時の相対値である。放電抵抗が低い程、出力が良好であると考えられる。
【0121】
《クリープ短絡耐性》
電極体が準備された。電極体の最外層の平坦部において、負極板の表面に模擬異物が配置された。模擬異物の配置後、耐電圧試験が実施されずに、電池が製造された。
【0122】
CC-CV放電により、電池の電圧が2.5Vに調整された。CC放電時の電流は9Itであった。終止電流は0.25Itであった。放電終了後、CC-CV充電により、電池の電圧が3.176Vに調整された。CC充電時の電流は5Itであった。終止電流は0.0625Itであった。
【0123】
充電後、2枚のプレートと、拘束部材とが電池に装着された。2枚のプレートの間に電池が挟み込まれた。拘束部材が2枚のプレートを接続した。2枚のプレートが電池を押圧することにより、外装体の奥行(
図9のD軸方向の寸法)が、12.30mmに減少した。すなわち奥行は0.25mm減少した。拘束部材の装着後、4日間にわたって、電池が静置された。静置後、電圧に有意な降下があったか否かが確認された。さらに電圧の降下がなかった電池が解体され、模擬異物に対応する位置に短絡痕があるか否かが確認された。
【0124】
【0125】
<結果>
上記表1において、負極活物質層の突き刺し抵抗が0.60N/mm以上であることにより、耐電圧試験における検出感度が向上する傾向がみられる(例えばNo.4、9参照)。
【0126】
上記表1において、多孔質樹脂層の厚さ保持率が91.8%以上であることにより、クリープ短絡耐性が向上する傾向がみられる(例えばNo.5、7参照)。
【0127】
上記表1において、多孔質樹脂層の厚さ保持率が93.0%以下であることにより、出力が向上する傾向がみられる(例えばNo.6、8参照)。
【0128】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本技術の範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0129】
5 針、10 正極板、11 正極基材、12 正極活物質層、20 負極板、21 負極基材、22 負極活物質層、30 セパレータ、31 多孔質樹脂層、31a 第1層、31b 第2層、31c 第3層、40 積層体、50 電極体、51 湾曲部、52 平坦部、71 正極集電部材、72 負極集電部材、81 正極端子、82 負極端子、90 外装体、91 封口板、92 外装缶、100 電池、110 エンドプレート、120 拘束部材、200 電池モジュール。