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特許7280965点鼻用噴霧・噴射ノズルおよび点鼻用レスト品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】点鼻用噴霧・噴射ノズルおよび点鼻用レスト品
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20230517BHJP
   A61M 15/08 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
A61M11/00 D
A61M15/08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021551676
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037930
(87)【国際公開番号】W WO2021066195
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2019181591
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390002705
【氏名又は名称】東興薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】上下 泰造
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 隆
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-135535(JP,A)
【文献】特開2018-187412(JP,A)
【文献】登録実用新案第3112243(JP,U)
【文献】特表2002-510225(JP,A)
【文献】実開平03-129153(JP,U)
【文献】国際公開第2009/057572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00
A61M 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点鼻用噴霧・噴射ノズルであって、
ノズル噴出孔が形成された先端部と、外鼻孔の周辺部に当接可能なノーズレストとを有して成り、
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、前記先端部の軸と前記ノーズレストの中心とは互いにずれた偏心関係を有すると共に、前記先端部の外輪郭は、その一部が前記ノーズレストの外輪郭によって囲まれていない非包囲部分を有し、
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、前記ノーズレストの前記外輪郭のうち前記非包囲部分の両側にて延在する部分が弧形状を有しており、前記ノーズレストの前記外輪郭は互いに対向する一方の側部と他方の側部とが互いに曲率を異にする部分を有する、点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項2】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、前記ノーズレストの前記外輪郭が、前記先端部の前記外輪郭の一部を囲っている、請求項1に記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項3】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの軸に対して、前記ノズル噴出孔の噴射方向が角度を成している、請求項1または2に記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項4】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの側面視において、前記先端部の長さ寸法が10mm以上25mm以下である、請求項1~のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項5】
前記先端部が前記ノズル噴出孔に向かって漸次的に先細る部分を有する、請求項1~のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項6】
前記先端部における前記ノズル噴出孔が形成された面の径が3mm以上10mm以下である、請求項1~のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項7】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルが、指を掛けるフィンガーレストをさらに有して成る、請求項1~のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項8】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域が呼吸部である、請求項1~のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項9】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域が鼻咽頭である、請求項1~いずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項10】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域が嗅部である、請求項1~のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項11】
前記ノーズレストの上面視形状が角張っていない、請求項1に記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項12】
前記ノーズレストの前記外輪郭において前記一方の側部が前記他方の側部よりも相対的に緩やかな曲線となっている、請求項1に記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項13】
前記ノーズレストはその向きを反転させて使用可能なノーズレストである、請求項1に記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項14】
前記偏心関係および前記非包囲部分を有する前記ノーズレストはその向きを反転させて使用可能なノーズレストである、請求項1に記載の点鼻用噴霧・噴射ノズル。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズルを有して成る、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス。
【請求項16】
請求項1~および14のいずれかに記載の点鼻用噴霧・噴射ノズルを有して成る、シリンジ型噴霧・噴射デバイス。
【請求項17】
前記点鼻用噴霧・噴射ノズルが取り付けられるシリンジ本体がフィンガーレストを有する、請求項16に記載のシリンジ型噴霧・噴射デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻腔内に薬剤を投与するための点鼻用噴霧・噴射ノズルに関すると共に、点鼻用レスト品に関する。
【背景技術】
【0002】
従前から薬剤の投与手段として、液剤を噴霧・噴射デバイスに充填して、内腔および体表面上の粘膜および皮膚に噴霧または噴射して投与する方法は広く利用されている。特に、鼻腔内投与型薬剤は広く利用されている。
【0003】
粘膜への噴霧・噴射投与型薬剤、特に鼻腔内投与型薬剤のメリットとしては、(1)早い吸収により即効性が期待できること、(2)肝臓の初回通過に起因する薬剤の分解を回避することができること、(3)胃酸や消化管酵素などの消化管中での薬剤分解を回避することができること、(4)高い生物学的利用率により薬剤の低用量化が可能となること、(5)注射と比較して非侵襲的投与ルートであること、(6)自分で治療することができること、(7)薬剤を直接血液循環あるいは中枢神経系に到達させること、(8)鼻粘膜には非特異的防御機構に基づく特異的免疫防御機構が備わっており、経鼻ワクチンの可能性を有することなどを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6322844号
【文献】特許第5185109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鼻腔内投与型薬剤は、呼吸部(例えば、鼻甲介)に対して噴射することで、鼻炎治療などの局所作用を期待するものが主である。鼻腔内投与型薬剤は、免疫応答のより高い鼻咽頭関連リンパ組織に対する薬剤投与、および中枢への薬剤送達を目的とした嗅部(例えば、嗅粘膜)に対する薬剤投与などにも利用されてきている。
【0006】
点鼻用噴霧・噴射デバイスは、薬剤を収容する容器、噴霧・噴射ノズル、および当該ノズルを経由して容器から定量噴霧を送達するための機構(例えば、アクチュエータ)を含む。点鼻用噴霧・噴射デバイスとしては、これまでの汎用されている常套的点鼻噴霧スプレーに加えて、シリンジ型噴霧・噴射デバイスおよびエアレス型噴霧・噴射デバイスなどが挙げられる。
【0007】
点鼻用噴霧・噴射デバイスにおいて、例えば、噴霧・噴射ノズル形態の適正化によって噴霧・噴射密度の均一性などを向上させた点鼻用噴霧・噴射ノズルを用いたシリンジ型噴霧・噴射デバイスが開示されている(特許文献1参照)。また、投与角度を所望の範囲に制御できる上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスが開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
噴霧・噴射デバイスでは、意図した領域への薬剤送達の点で更に改良できる余地があることを本発明者は見出した。より具体的には、点鼻用噴霧・噴射ノズルを用いた薬剤噴霧・噴射において鼻腔内の標的部位に対する薬剤到達特性をより向上させることができることを見出した。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、鼻腔内の標的部位に対する薬剤到達特性をより向上させることができる点鼻用噴霧・噴射ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された点鼻用噴霧・噴射ノズルの発明に至った。
【0011】
本発明では、ノズル噴出孔が形成された先端部と、外鼻孔の周辺部に当接可能なノーズレストとを有して成る点鼻用噴霧・噴射ノズルが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルは、鼻腔内の標的部位に対する薬剤到達特性をより向上させることができる。なお、本明細書に記載されている効果はあくまでも例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1A図1Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの種々の実施態様を示した模式的側面図である。
図2図2A図2Dは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルにおけるノーズレストの種々の実施態様を示した模式的上面図である。
図3図3A図3Dは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルにおけるノーズレストの種々の実施態様を示した模式的上面図である。
図4図4A図4Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図4A:斜視図、図4B:側面図、図4C:上面図)。
図5図5A図5Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図5A:斜視図、図5B:側面図、図5C:上面図)。
図6図6A図6Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図6A:斜視図、図6B:側面図、図6C:上面図)。
図7図7A図7Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図7A:斜視図、図7B:側面図、図7C:上面図)。
図8図8A図8Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図8A:斜視図、図8B:側面図、図8C:上面図)。
図9図9A図9Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図9A:斜視図、図9B:側面図、図9C:上面図)。
図10図10A図10Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図10A:斜視図、図10B:側面図、図10C:上面図)。
図11図11は、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である。
図12図12A図12Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図12A:斜視図、図12B:側面図、図12C:上面図)。
図13図13A図13Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図13A:斜視図、図13B:側面図、図13C:上面図)。
図14】ノーズレストの「肉薄または肉厚な部分」とそれが当接する「外鼻孔の周辺におけるレスト接触領域」との関係によって点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域を所望の領域にできることを説明するための模式図である。
図15図15A図15Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式的側面図である。
図16図16A図16Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式図である(図16A:斜視図、図16B:側面図、図16C:上面図)。
図17図17は、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの実施態様を示した模式図である。
図18図18は、偏心設置のノーズレスト態様を示す点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面図である(図18A:平面視円形のノーズレスト、図18B:平面視略台形状のノーズレスト、図18C:平面視略瓢箪状のノーズレスト、図18D:平面視略豆状のノーズレスト)。
図19図19は、先端部の外輪郭に関する非包囲の態様を示す点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面図である(図19A:平面視円形のノーズレスト、図19B:平面視略台形状のノーズレスト、図19C:平面視略瓢箪状のノーズレスト、図19D:平面視略豆状のノーズレスト)。
図20図20は、ノーズレストの外輪郭の弧形状の態様を示す点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面図である(図20A:全体が弧形状を有する平面視楕円形のノーズレスト、図20B:一部に弧形状を有する平面視略瓢箪状のノーズレスト、図20C:一部に弧形状を有する平面視略豆状のノーズレスト)。
図21図21は、「偏心設置のノーズレスト態様」と「ノーズレストの外輪郭の弧形状の態様」との組合せに係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面図である(図21A:平面視略瓢箪状のノーズレストベース、図21B:平面視略豆状のノーズレストベース)
図22図22は、偏心設置のノーズレストの使用態様を示す模式的斜視図である(図22A:ノーズレストの幅広部分上側、図22B:ノーズレストの幅広部分下側)
図23図23は、ドーム形状を有するノーズレストを示した模式図である(図23A:上面図、23B:A方向から視た側面図、23C:B方向から視た側面図)。
図24図24は、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの一実施態様を示した模式的斜視図である。
図25図25は、一実施態様に係る偏心設置のノーズレストを示した模式的斜視図である。
図26図26は、一実施態様に係るノーズレストを示した模式図である(図26A:上面図、図26B:I-Iに沿って切取った断面図)。
図27図27A図27Gは、本発明に係るフィンガーレストの種々の実施態様を示した模式的上面図である。
図28図28は、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルを備えた上方排圧エアレス型噴霧デバイスを示した模式的断面図である。図面の右半面は内部の構造がわかるように断面図を示す。
図29図29は、図28で示した上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスの要部の拡大断面図である。
図30】いずれの投与角度であっても噴霧・噴射可能することができることを説明するための模式図である。
図31図31は、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルを備えたシリンジ型噴霧・噴射デバイスの概略的構成を示す断面図である。
図32図32Aおよび図32Bは、本発明の一実施態様に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの概略的構成を示す分解斜視図であって、充填ロッドがノズル本体部に挿入される前後の状態を示すものである。
図33図33Aは、図32Bに示す点鼻用噴霧・噴射ノズルを垂直面で見たときの垂直断面図であり、図33B図33Dはそれぞれ、図33AのB-B線、C-C線、およびD-D線から見たときの水平断面図である。
図34図34A図34Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルを用いたシリンジ型噴霧・噴射デバイスの一実施態様を示した模式図である(図34A:斜視図、図34B:側面図、図34C:上面図)。
図35図35A図35Cは、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルを用いたシリンジ型噴霧・噴射デバイスの一実施態様を示した模式図である(図35A:斜視図、図35B:側面図、図35C:上面図)。
図36図36A図36Bは、本発明に係る点鼻用レスト品の一実施態様を説明するための模式図である(図36A:斜視図、図36B:上面図)。
図37図37は、ヒトの鼻腔に本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルを挿入して投与する様子を示す模式的斜視図である。
図38図38は、ヒトの鼻腔に本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルを挿入して投与する様子を、外鼻孔の開口方向から視た模式図である。
図39図39は、ヒトの鼻腔に本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルを挿入して投与する様子を示す模式的断面図である。
図40図40は、ノズル噴出孔から噴射または噴射された薬剤の噴射角度を示す模式図である。
図41図41は、ノーズレストの変更態様を示す模式図である(図41A:上面図、図41B:側面図)。
図42図42、ノーズレストの変更態様を示す模式図である(図42A:上面図、図42B:側面図)。
図43図43は、比較例で用いた点鼻用噴霧・噴射ノズルを示す画像図である(図43A:比較例1、図43B:比較例2、図43C:比較例3)
図44図44は、実施例で用いた点鼻用噴霧・噴射ノズルを示す画像図である(図44A:実施例1、図44B:実施例2、図44C:実施例3)
図45図45は、実証試験で用いた鼻腔モデルを示す画像図である。
図46図46は、実証試験における噴出孔位置および角度を示す模式図である(図46A:角度α、図46B:角度β)
図47図47は、ヒトの鼻腔を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の基礎となった知見等]
従前の噴霧・噴射デバイスは、種々の複雑な鼻腔内構造に適用した形態でない場合がある。例えば、従前の鼻弁周辺の狭い鼻腔領域により薬剤がトラップされ、標的領域への十分な薬剤送達が得られない場合がある(図47参照)。ここでいう「標的領域」は、点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる領域(例えば、少なくとも鼻粘膜呼吸部、鼻咽頭または嗅部などの鼻腔内の領域)などを指す。
【0015】
例えば、点鼻用噴霧・噴射デバイスにおいて噴霧・噴射ノズルの挿入位置が浅すぎると、鼻弁などにより噴霧・噴射された薬剤がトラップされる虞がある。一方、噴霧・噴射ノズルの挿入位置が深すぎると、標的領域に対する薬剤の噴射角度が狭くなり、当該標的領域の広範囲に薬剤が送達できない虞がある。
【0016】
そこで本発明者は、複雑な鼻腔内構造に適用し得る点鼻用噴霧・噴射ノズルのより適正化された形態などを考慮するに至った。
【0017】
以下、添付図面を参照して、本開示に係る発明を実施するための実施形態を説明する。説明する実施形態は、本開示に係る発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示に係る発明を以下で説明するものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態に分けて示す場合があるが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。また、後述の実施形態では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0018】
実施態様の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば「上下方向」、「水平方向(左右方向)」、「奥行方向」、「近位側」、および「遠位側」など)を適宜用いるが、これらは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものでない。また、各添付図面において、同様の構成部品は同様の参照符号を用いて図示している。
【0019】
本明細書でいう「上下方向」、「水平方向(左右方向)」および「奥行方向」は、それぞれ図中における上下方向、水平方向および奥行方向に相当する。例えば「上下方向」について、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えてもよい。
【0020】
本明細書でいう「側面視」とは、点鼻用噴霧・噴射ノズルの長尺方向に対する略垂直方向から捉えた場合の形態(例えば、図1A図1Cなどに示される形態)に基づいている。すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズルの軸方向に対して略垂直となる方向において外側から当該ノズルを視た場合の形態に基づいている。
【0021】
本明細書でいう「上面視」とは、点鼻用噴霧・噴射ノズルにおけるノズル噴出孔側から捉えた場合の形態(例えば、図2A図2Dなどに示される形態)に基づいている。すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズルの軸方向に沿って外側から点鼻用噴霧・噴射ノズル(例えば、そのノズル噴出孔側)を視た場合の形態に基づいている。
【0022】
本明細書でいう「略」とは、全部あるいは完全にではないが、それに近い状態であることを指す。例えば「略楕円形状」とは、当業者がかかる形状について、厳密な意味で楕円であると認識する形状に必ずしも限定されず、非厳密であるものの楕円であることを認識し得る形状も含む。例えば、楕円輪郭の一部が他の形状の輪郭となっている形状であったとしても、当業者がかかる形状を楕円であることを認識し得る形状も含む。
【0023】
本明細書でいう「径」とは、対象を上面視した場合の形状における円、楕円、内接円または内接楕円の径を指してよい。ここで、「内接円」または「内接楕円」とは、多角形の内部にある最大面積の円または楕円を指す。そのような径が複数考えられる場合には、そのうちの最大径を指す。
【0024】
図示する例示態様でいえば、「径」は、対象が真円の場合は直径Dを指し(図2A参照)、対象が楕円の場合は長径Dを指し(図2B参照)、対象が正方形の場合はその内接円の直径Dを指し(図2C参照)、または対象が矩形の場合はその内接楕円の長径Dを指すものであってよい(図2D参照)。
【0025】
[本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの特徴]
【0026】
本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルは、流体物を外部へと吐出できるノズル品である。特に、本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルは、好ましくは噴霧および/または噴射の形態を伴って薬剤に代表される流体物を吐出できるノズル品である。
【0027】
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルは、噴出孔が形成された先端部と、外鼻孔の周辺部に当接可能なノーズレストとを有して成る。図1A図1Cに示す例示態様でいえば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、ノズル噴出孔11Aが形成された先端部11と、ノーズレスト12とを有している。
【0028】
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル品は、特に制限はないものの、例えば樹脂材、ガラス材、金属材またはセラミック材などから形成されていてよい。ある好適な一例では、点鼻用噴霧・噴射ノズルは樹脂品(例えば、樹脂成形品)となっている。
【0029】
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルは、その内部または内側にて中空部分を有し得る。例えば、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10の先端部11の内部または内側に中空部分が形成されている。そのような中空部分は、ノズル噴出孔と連通したものであることが好ましい。また、そのような点鼻用噴霧・噴射ノズルの内部・内側の中空部分は、ノズル噴出孔と対向する側で外部と連通していてよい。換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズルは、ノズル噴出孔と軸方向で対向する端部が開口端の形態を有していてよい。
【0030】
図1Aなどに示す形態のように、例えば、先端部11とノーズレスト12とは、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸方向に互いに隣接するように連結されている。ここで「軸」とは、点鼻用噴霧・噴射ノズルの中央部分を長手方向に沿って貫くような仮想直線を指している。
【0031】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、その近位側(すなわち、使用時に鼻に対して相対的に近くに位置する側)から、ノズル噴出孔を備えた先端部11、ノーズレスト12、およびノズル本体部13が、この順で配置されている。これらは内部・内側に中空部分を有する部材となっていてよい。例えば、先端部11は、その内部に中空部分を有し、ノズル噴出孔を備えた閉鎖端とそれに対向する開口端を有して成る部材となっていてよい。ノズル本体部13は、その内部に中空部分を有し、両端が互いに対向する開口端を有する部材となっていてよい。ノーズレスト12は、その内側に中空部分を有するように、例えば全体としてリング形状またはそれが一部切り欠かれた一部切欠きのリング形状を有して成る部材であってよい。
【0032】
ノズル噴出孔を備えた先端部11、ノーズレスト12、およびノズル本体部13は、互いに一体となって点鼻用噴霧・噴射ノズル10を成していてよい(図1Aなど参照)。図示する形態から分かるように、ノーズレスト12は、先端部11および/または本体部13に対して、その周縁に付加的に加えられた部分又は部材とみなしてもよい。また、先端部11と本体部13とを互い一体化した単一部材(例えば、内部に中空を有する筒状部材)とみなし、その部材に対してノーズレスト12が設けられていると捉えてもよい(例えば、そのような一体化した部材の外周面にノーズレスト12として突出部が設けられていると捉えることもできる)。
【0033】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10において、先端部11は、ノーズレスト12から点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸方向に延在するように設けられている(図1Aなど参照)。ノーズレスト12は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸方向から外側に延出または突出している(図4など参照)。ここで、「外側」とは、例えば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸方向に対して略垂直となる放射線状の方向に相当する。
【0034】
ノーズレスト12は、その少なくとも一部が外鼻孔の周辺部に当接することができる。これにより点鼻用噴霧・噴射ノズルの使用時にて当該ノズルの安定化をより好適に図ることが可能となり、鼻腔内の標的部位への薬剤到達特性をより向上させることができる。例えば、本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルによって、標的部位への薬剤の到達率をより向上させることができる。特定の理論に拘束されるわけではないが、このような薬剤到達特性の向上は、点鼻用噴霧・噴射ノズルの使用時における当該ノズルの向き(角度、例えば鼻中隔に対して平行または垂直な面との間で形成される角度)および/またはノズルの先端部の鼻腔内に対する挿入長さなどがより好適に固定化または安定化されることが要因として考えられる。
【0035】
また、ある好適な態様では、ノーズレスト12によって、鼻腔内に挿入される点鼻用噴霧・噴射ノズル10の部位を好ましくは略先端部11のみに制限できる。換言すれば、鼻腔内に挿入される点鼻用噴霧・噴射ノズル10の長さを、おおよそ先端部11の長さ寸法Lとすることができる。すなわち、ノズル噴出孔11Aを鼻腔内で適切に位置付けることができる。鼻腔内でのノズル噴出孔の挿入深さが適切になるともいえる。したがって、点鼻用噴霧・噴射ノズルが用いられることで、複雑な鼻腔内構造であっても標的領域へと薬剤を好適に送達させることができる。例えば、ノーズレストの少なくとも一部を外鼻孔の周辺部に当接させることによって、鼻腔内のノズル噴出孔の挿入位置をより適切に決定づけることができる。よって、挿入位置が浅すぎない一方で深すぎることもなく薬剤の送達を行うことができ、標的領域の広範囲に薬剤を到達させ易くなる。
【0036】
本明細書でいう「ノズル」は、液体物の方向を定める、好ましくは薬剤(例えば、液剤、ゲル剤)の流れる方向を定めるためのものであって、その先端に設けられた孔から薬剤等の液体物を吐出(噴霧または噴射)させるものである。よって、ノズルは、その内部に先端孔と連通する中空部を好ましくは有している(当該中空部はノズル開口端とも連通し得る)。なお、ノズルは、「スパウト」、「薬剤噴霧・噴射のための部材」または「噴霧・噴射供給のための部材」などと称されてもよい。
【0037】
本明細書でいう「外鼻孔の周辺部」は、外鼻孔の周辺に存在する鼻の部分を指す(「外鼻孔」は図38および図47参照のこと)。例えば「外鼻孔の周辺部」は、鼻尖、鼻柱、鼻翼、食禄および内鼻孔の壁面などから成る群から選択される少なくとも1つを指す。
【0038】
本明細書でいう「当接」は、押すように接することを指す。本明細書でいう「当接」は、例えば、「押止」、「滑止」、「掛止」および「係止」などから成る群から選択される少なくとも1つの態様を包含する。
【0039】
本明細書でいう「先端部」は、点鼻用噴霧・噴射ノズルにおいて鼻腔内に挿入され得る部分を指す。先端部11は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10において近位側に位置付けられ、少なくとも外鼻孔よりも小さい径を有することが好ましい(図1Aなど参照)。
【0040】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、先端部11の幅寸法、例えば図示するような径D図2A参照)は、3mm以上10mm以下であってよい。先端部の径Dが3mm以上であることで、十分なノズル噴出孔径を確保することができる。また、先端部の径Dが10mm以下であることで、点鼻用噴霧・噴射ノズルを鼻腔内に挿入する場合に、先端部11が内鼻孔の壁面に接触することを防止し易くなる。先端部11の径Dは、3mm以上9mm以下であることが好ましく、例えば3mm以上7mm以下である。
【0041】
ここでいう「径D」は、先端部11において、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸方向に沿って平均化した径とみなしてよい。例えば、先端部11において、軸方向沿いの任意の3箇所の径の平均値である。
【0042】
ノズル噴出孔11Aが形成された面(すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の近位端面)の径は、先端部11において最も小さくしてよく、例えば3mm以上10mm以下、3mm以上9mm以下あるいは3.5mm以上8.5mm以下などであってよい。このように近位端面の寸法にすることによって、鼻腔内に先端部をよりスムーズに挿入し易くなり、結果として薬剤到達特性の向上に寄与し得る。
【0043】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノズル噴出孔11Aの径、例えば図示するような径D図2A参照)は、0.15mm以上0.60mm以下であってよい。かかる径Dを上述する範囲とすることで、薬剤の噴射角度がより適切な角度となり易くなる。ノズル噴出孔11Aの径Dは、0.20mm以上0.45mm以下であることが好ましく、例えば0.25mm以上0.30mm以下である。
【0044】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の側面視において、先端部11は長さ寸法Lを有する(図1A参照)。ここで「長さ寸法L」とは、先端部11の軸方向の長さ寸法(すなわち、長手寸法)を指す。より具体的には、「長さ寸法L」は、ノーズレスト12の近位側端の部分からノズル噴出孔11Aが形成された面までの長さに相当する。図6Aを参照して説明すると、「長さ寸法L」は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の最先端(すなわち、ノズル端面)からノーズレスト12の近位側端12Eまでの軸方向に沿った長さ寸法Lである。
【0045】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の側面視において、ノズル軸方向に沿った先端部11の長さ寸法Lは、5mm以上30mm以下であってよい(図1Aなど参照)。かかる寸法が5mm以上であることで、鼻弁などによりトラップされる薬剤量をより減じ易くなる。また、かかる寸法が30mm以下であることで、標的領域に対する薬剤の噴射角度をより広角とすることができ、標的領域の広範囲に薬剤を送達することができる。先端部の長さ寸法は、7mm以上25mm以下であることが好ましく、例えば10mm以上25mm以下、7mm以上18mm以下、8mm以上17mm以下、9mm以上16mm以下、または10mm以上15mm以下である。
【0046】
先端部は、鼻腔内に挿入することができる形態であれば、いずれの形態であってよい。例えば、先端部は、略円柱状であってよく、その近位端に向かって先細る略円錐状(すなわち、ノズル噴出孔に向かって先細る略円錐状)であってもよい。また、内鼻孔の壁面との接触による痛みを軽減するように、先端部における近位端は丸みを帯びていてもよい。換言すれば、先端部における近位端は面取りされたような形状を有していてよい。
【0047】
本明細書でいう「ノーズレスト」は、点鼻用噴霧・噴射ノズルにおいて外鼻孔の周辺部に当接される部分を含んで成る部材を指す(より具体的には、点鼻用噴霧・噴射ノズルをその先端部側から外鼻孔へと挿入した際に外鼻孔の周辺部に当接される部分を含んで成る部材を指す)。本発明におけるノーズレストは、その少なくとも一部が外鼻孔の周辺部に当接できるように外側へと突出または延在している部材である。ノーズレストは「鼻挿入時ストッパー」などと称されてもよい。好ましくは、ノーズレストは、それを外鼻孔の周辺部に当接させることで、点鼻用噴霧・噴射ノズルが鼻腔内にさらに挿入されないようにするノズル部分又は部材である。
【0048】
ノーズレスト12は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10において、先端部11に対して相対的に遠位側に位置付けられる(図1Aなど参照)。すなわち、ノーズレスト12は、点鼻用噴霧・噴射ノズルにおいて、先端部11よりも使用時に鼻穴に対して相対的に離れた位置に設けられている。より具体的には、図示するように、ノーズレスト12は、先端部11の遠位側にてその先端部11に隣接するように又は先端部11に直接的もしくは間接的に連結するように設けられていてよい。ノーズレストは、点鼻用噴霧・噴射ノズルにおいて先端部と一体化した部分又は部材であってよく、あるいは、別部材または別個のパーツとして点鼻用噴霧・噴射ノズルに対して取り付けられるものであってもよい。先端部とノーズレストとが互いに一体化している場合、それらは互いに同じ材質から成っていてもよいし、あるいは、互いに異なる材質から成っていてもよい。
【0049】
ノーズレスト12は、その少なくとも一部が、外鼻孔の周辺部に当接することができるのであれば、いずれの形態であってよい。すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を挿入した際に、ノーズレスト12が外鼻孔の周辺部に押し当たり、それによって、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のさらなる挿入が阻止されるのに資する形態であれば、いずれの形態であってよい。ある好適な態様において、ノーズレストの一部のみが外鼻孔の周辺部に押し当たるようになっていてよい。つまり、ノーズレストの一部のみが外鼻孔の周辺部に当接できるようにノーズレストが外側へと突出または延在していてよい。ノーズレストの一部のみが外鼻孔の周辺部に押し当たることによって、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のさらなる挿入が阻止されつつ、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の向きおよび/または角度が好適に調整され易くなる。
【0050】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の外輪郭が、先端部11の外輪郭の少なくとも一部を囲っていてよい。例えば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の輪郭、特に外輪郭が、先端部11の輪郭、特に外輪郭を囲うように位置付けられている(図1A図2A図2Dおよび図3A~3D参照)。例えば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10において、ノーズレスト12は略鍔状および略フランジ状に外側へと延在していてよい。
【0051】
上述のような構成とすることで、使用時にてノーズレストの少なくとも一部と外鼻孔の周辺部との接触面積をより大きくすることができる。よって、点鼻用噴霧・噴射ノズルを外鼻孔にしっかりと押し当てることができ、ひいては、より好適にノズル噴出孔の挿入位置を決定づけることができる。
【0052】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12は、略円形状、略楕円形状、多角形状および面取りされた多角形状などであってよく、さらには、それらから一部切り欠かれたような形状であってもよく、また、そのような形状においてノズル位置が中心から偏心したようなものであってもよい。図2A図2Dおよび図3A図3D参照のこと。別の切り口でいえば、(点鼻用噴霧・噴射ノズルの斜視視および/または側面図において)ノーズレストは、略平板状、略円盤状、略ドーム状、略円錐状、略楕円錐状およびその他異形状などを有していてよい。
【0053】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12は略楕円形状を有していてよい(図2B参照)。すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12は、対向する2つの方向において突出している形状を有している。例えば、ノーズレストは、略ドーム状または略楕円錐状であってよい。
【0054】
上述のような構成とすることで、当該ノーズレストを外鼻孔の周辺部の形状に沿わせ易くなる。それによって、外鼻孔の周辺部に対する当接性、および点鼻用噴霧・噴射ノズルのハンドリング性をより高めることができる。
【0055】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の幅寸法、例えば図示するような径D図2A図2D参照)は、10mm以上50mm以下であってよい。かかる径が10mm以上であることで、外鼻孔への当接性をより高め易くなる。また、かかる径が50mm以下であることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のハンドリング性をより高め易くなる。ノーズレスト12の径Dは、12mm以上40mm以下であってよく、例えば15mm以上30mm以下である。
【0056】
ここでいう「径D」は、ノーズレスト12における最大幅寸法、例えば最大径とみなしてよい。例えば、上述するように、ノーズレスト12を上面視した場合の形状における円、楕円、内接円または内接楕円の径を指してよい。
【0057】
別法にて、ノーズレスト12は、外鼻孔を掛止するような凹凸形状、略十手形状、略鉗子形状および略クリップ形状などであってもよい(図1Bおよび図1C参照)。
【0058】
図4図17は、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルの種々の実施態様をそれぞれ例示している。具体的には、図4および図5は、シリンジ型噴霧・噴射デバイスに用いる点鼻用噴霧・噴射ノズルをそれぞれ例示している。また、図6図13および図15図17は、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスに用いる点鼻用噴霧・噴射ノズルをそれぞれ例示している。
【0059】
一実施態様では、ノーズレスト12がノズル噴出孔11Aに向かって減径する部分を有していてよい(図4Bなど参照)。ノーズレストがノズル噴出孔に向かって漸次減径してよく、あるいは、ステップ状に減径してもよい。図4Bなどに示される例では、ノーズレストがノズル噴出孔に向かって漸次減径する(例えば、全体的に漸次幅寸法を減じる)部分を少なくとも有している。そのような構成とすることで、当接時にてノーズレストと外鼻孔の周辺部との接触面積がより大きなものとなり易くなる。また、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を鼻腔内に挿入する場合に、減径する部分が内鼻孔の壁面により好適に適合し易くもなる。
【0060】
つまり、ノーズレスト12の減径部分によって、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を内鼻孔の壁面にしっかりと押し当てることができ、特に好適にノズル噴出孔11Aの挿入位置および方向を決定づけ易くなる。また、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を鼻腔内に挿入する際の内鼻孔の壁面に生じる衝撃を低減でき、患者等の使用者に生じる痛みなどの不快感を減じ易くなる。
【0061】
一実施態様では、先端部がノズル噴出孔に向かって漸次的に先細る部分を少なくとも有していてよい。例えば、図6Bに示すように、先端部11がノズル噴出孔11Aに向かって漸次的に先細る形状を有していてよい。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を鼻腔内に挿入する場合に、先端部11が内鼻孔の壁面に不都合に接触することを防止し易くなる。
【0062】
先端部11およびノーズレスト12などは、側面視にて、直線状に減径(または増径)していてよく、曲線状に減径(または増径)していてもよく、ステップ状に減径(または増径)していてもよく、直線状と曲線状とが混在しつつ減径(または増径)していてもよい。図6に示す例示態様でいえば、ノーズレスト12の方が、先端部11よりも減径の程度(例えば、漸次減径の程度)が大きくなっていてよい。別の切り口でいえば、ノーズレスト12の方が、先端部11よりも点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸に対する垂直な面に対して成す角度がより小さくなっていてよい。
【0063】
シリンジ型噴霧・噴射デバイスに用いる点鼻用噴霧・噴射ノズル10において、ノズル本体部13にシリンジ接合用突出部13’が設けられていてよく(図4参照)、設けられていなくてもよい(図5参照)。ハンドリング性向上を特に重視する観点でいえば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10において、シリンジ接合用突出部13’が設けられていることが好ましい。かかるシリンジ接合用突出部13’の径としては、例えば5mm以上15mm未満である。なお、図示するように、シリンジ接合用突出部13’は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の本体部の下方端に設けられていてよい。つまり、点鼻用噴霧・噴射ノズルの遠位端にシリンジ接合用突出部が設けられていてよい。
【0064】
一実施態様では、ノーズレスト12が略楕円形状を有していてよい(図7参照)。すなわち、ノーズレスト12の上面視形状が略楕円形状となっている。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を鼻腔内に挿入する際に、外鼻孔の周辺部(特に、鼻翼、鼻柱および食禄)にノーズレスト12をより適合させ易くなる。
【0065】
一実施態様では、ノーズレスト12が略花弁形状を有していてよい(図8および図9参照)。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を鼻腔内に挿入する際に、挿入する鼻腔側の鼻翼、および他方の鼻腔側の内鼻孔の壁面にノーズレスト12が掛止され易くなる。
【0066】
上述の態様において、ノーズレスト12の略花弁形状の先端がノズル噴出孔11Aの方向へ湾曲していてよい(図9参照)。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を鼻腔内に挿入する際に、挿入する鼻腔側の鼻翼、および他方の鼻腔側の内鼻孔の壁面にノーズレスト12をより一層掛止し易くなる。
【0067】
一実施態様では、ノーズレスト12とノズル本体部13とが段差を有していなくてよい(図10参照)。つまり、ノーズレスト12の外側面とノズル本体部13との外側面は互いに一体的に連続していてよい。かかる態様は、ノーズレスト12の外面とノズル本体部13との外面とが面一になっているともいえる。そのような構成とすることで、例えば一体成型にて点鼻用噴霧・噴射ノズルを製造する場合において製造工程をより簡易なものにできる。
【0068】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10からノーズレスト12が着脱可能な部材となっていてよい(図11参照)。すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズル10からノーズレスト12が取り外し可能になっていてよい。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10とノーズレスト12とを別工程にて製造することができる。また、使用者の個々の鼻に合わせてノーズレストの形状を適宜カスタマイズできる。取り外し可能なノーズレスト12は、樹脂材であってよい。取り外し可能なノーズレスト12と先端部11とが互いに別の材質(例えば、互いに異なる樹脂材)から成っていてもよい。かかる場合、例えば、ノーズレスト12をよりクッション性のある材料(例えば、軟質樹脂材、エラストマー材)から製造すること等ができる。
【0069】
一実施態様では、ノーズレストにおいて、相対的に急峻な面と相対的に非急峻な面とが含まれていてよい。例えば、図12Bおよび図13Bに示されるように、ノーズレスト12がノズル噴出孔11Aに向かって減径する部分を有し、かかる減径する部分において、相対的に急峻な面および相対的に非急峻な面が含まれていてよい。つまり、ノーズレストでは、レスト面の傾斜の程度が局所的に異なっていてもよい。
【0070】
換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の側面視において、ノーズレスト12が先端部11に向かって漸次的に変化する輪郭を有するところ、かかる漸次的な変化が相対的に大きい箇所と相対的に小さい箇所とが存在していてよい(図12Bおよび図13B参照)。
【0071】
図12Bおよび図13Bに示す例示態様でいえば、ノーズレスト12において、相対的に急峻な面12Sと、相対的に緩やかな面12Sとが含まれている。より具体的には、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸に対する垂直な面(水平面)に対して傾斜面12Sが角度θ(すなわち、図12Bおよび図13BにおけるV-V’とW-W’とが成す角θ)を成しており、水平面に対して傾斜面12Sが角度θ’(すなわち、V-V’とW-W’とが成す角θ’)を成している。ここで、角度θは、角度θ’よりも大きくなっている。
【0072】
上述のような傾斜面12Sまたは12Sを外鼻孔の周辺部に当接させることよって、点鼻用噴霧・噴射ノズルを鼻腔内に挿入する場合に、ノズル噴出孔の方向(角度)を種々の標的領域に合わせることができる。ここで、ノズル噴出孔11Aの方向を種々の標的領域に合わせるべく、傾斜面12Sに関する角度θ’または傾斜面12Sに関する角度θを調整してよい(図12Bおよび図13B参照)。
【0073】
あくまでも例示にすぎないが、上述のような相対的に緩やかな傾斜面12Sを食禄の周辺部(すなわち、食禄ならびに/または食禄側の鼻柱および/もしくは鼻翼)に当接させてよく、鼻突の周辺部(すなわち、鼻突ならびに/または鼻突側の鼻柱および/もしくは鼻翼)に当接させてもよい(食禄および鼻突などは図47など参照)。
【0074】
点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域が呼吸部または嗅部である場合、角度θ’は、例えば5°以上20°以下であってよい。例えば、標的領域が呼吸部である場合、相対的に緩やかな傾斜面12Sを食禄の周辺部に当接させることが好ましい。また、標的領域が嗅部である場合、相対的に緩やかな傾斜面12Sを鼻突の周辺部に当接させることが好ましい。
【0075】
一実施態様では、ノーズレスト12が、局所的な厚み差を有していてよい。例えば相対的に急峻な傾斜面および相対的に非急峻な傾斜面などに起因して、ノーズレスト12が、相対的に肉薄な部分および相対的に肉薄な部分を有していてよい。かかる場合、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の厚みが点対称の関係を有していないともいえる。
【0076】
上述のような局所的な厚み差を有するノーズレストを、外鼻孔の周辺部に当接させることよって、点鼻用噴霧・噴射ノズルを鼻腔内に挿入する際に、ノズル噴出孔の方向(角度)を種々の標的領域に合わせることができる。ここで、ノズル噴出孔の方向を種々の標的領域に合わせるべく、かかる厚み差を調整してよい。
【0077】
つまり、ノーズレスト12の相対的に肉薄な部分または肉厚な部分を外鼻孔の周辺に当接させる場合、「肉薄または肉厚な部分」とそれが当接する「外鼻孔の周辺におけるレスト接触領域」との関係によって、点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域を所望の領域にしやすくできる(図14A~14D、特に図14B~14D参照)。例えば、ノーズレスト12の相対的に肉薄な部分を食禄またはその周辺部に当接させると、地平線に対してより垂直方向に点鼻用噴霧・噴射ノズルを挿入し易くなる。よって、点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域が、好ましくは嗅部となり得る。その一方、ノーズレスト12の相対的に肉厚な部分を食禄の周辺またはその周縁部に当接させると、地平線に対してより水平方向に点鼻用噴霧・噴射ノズルを挿入し易くなる。よって、点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴霧・噴射対象となる標的領域が、好ましくは鼻咽頭となり得る。
【0078】
なお、局所的な厚み差を有するノーズレスト12については種々の形態が考えられ、例えば図15に示されるような形態であってよい。つまり、図12および図13に示されるノーズレストの側面視輪郭からその一部が徐されたような形態(より具体的には、相対的に肉厚な部分における側面視輪郭が少なくとも一部除されたような形態)であってもよい。図15に示すようなノーズレストの場合、点鼻用噴霧・噴射ノズルを鼻腔内により好適に挿入し易くなる場合があり、あるいは、ノーズレストの相対的に肉薄な部分をより好適に所望の外鼻孔の周辺に当接させ易くなる場合がある(図14Cおよび14D参照)。
【0079】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸に対して、ノズル噴出孔11Aの噴射方向が角度θまたはθを成していてよい(図16および図17参照)。より具体的には、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸X-X’と、ノズル噴出孔11Aを形成する面に対する法線Y-Y’(すなわち、ノズル噴出孔11Aの噴射方向)とが角度θまたはθを成している。
【0080】
ノズル噴出孔11Aを形成する面に対する法線Y-Y’は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸X-X’に対して先端部11を湾曲または屈曲させることで角度θを成していてよい(図16Aおよび図16B参照)。ここでいう「湾曲」または「屈曲」は、予め湾曲または屈曲された形態でもよく、使用時に随時、湾曲または屈曲することが可能な構成であってもよい。
【0081】
または、ノズル噴出孔11Aを形成する面に対する法線Y-Y’は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の軸X-X’に対してノズル噴出孔11Aを斜め方向に開口させることで角度θを成していてもよい(図17参照)。
【0082】
角度θおよびθ図16Bおよび図17参照)は、ノーズレスト12における外鼻孔の周辺部と当接する部分(例えば、図16Aにおける15の部分)が向く方向に対して成されていてよい。換言すれば、角度θおよびθは、図16Bおよび図17における上下方向に対して成されていてよい。そのような構成とすることで、種々の鼻腔内構造における標的領域へと好適に薬剤を送達させ易くなる。
【0083】
上述の態様において、標的領域が呼吸部または嗅部である場合、角度θおよびθは、5°以上15°以下であることが好ましい。例えば、標的領域が呼吸部である場合、ノズル噴出孔の開口方向(例えば、図16Bにおける右方向)に対応するノーズレストの部分を外鼻孔の周辺部に当接させることが好ましい。また、標的領域が嗅部である場合、ノズル噴出孔の開口方向に対する反対方向(例えば、図16Bにおける左方向)に対応するノーズレストの部分を外鼻孔の周辺部に当接させることが好ましい。
【0084】
標的領域が鼻咽頭である場合、角度θおよびθは5°以上15°以下であってよい。ここで、例えばノズル噴出孔の開口方向に対応するノーズレストの部分を外鼻孔の周辺部に当接させることが好ましい。
【0085】
角度θおよびθ図16Bおよび図17参照)は、ノーズレスト12における外鼻孔の周辺部と当接する部分が向く方向の略垂直方向に対して成されていてよい。換言すれば、角度θおよびθは、図16Bおよび図17における奥行方向に対して成されているようなものであってもよい。そのような構成とすることで、鼻腔内構造における標的領域へと好適に薬剤を送達することができる。特に、薬剤が鼻中隔方向または鼻翼方向に噴射することを好適に防止することができる。
【0086】
上述の態様において、角度θおよびθは5°以上15°以下であってよい。ここで、例えばノズル噴出孔の開口方向に対する略垂直方向(例えば、図16Bにおける奥行方向)に対応するノーズレストの部分を外鼻孔の周辺部に当接させることが好ましい。
【0087】
誤使用防止のために、点鼻用噴霧・噴射ノズルは、適合面(特に、点鼻用噴霧・噴射ノズルを外鼻孔に挿入した際に、外鼻孔の周辺部と適合し得る面)または向きマーカーを有していてよい。適合面15または向きマーカー15は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の任意の箇所に設けられてよく、例えばノーズレスト12に設けられてよい(図13図16および図17参照)。
【0088】
一実施態様では、上述する適合面が切欠き部または接触板が成していてよい。換言すれば、ノーズレストが外鼻孔の周辺部と接する又は適合するための切欠き部または接触板を有していてよい。
【0089】
切欠き部は、外鼻孔の周辺部(例えば、鼻柱、鼻翼および食禄)と適合することができる形態であれば、いずれの形態であってよい。かかる形態は、例えば鼻翼、鼻柱または食禄の形状に合わせた切欠き部15であってよい(図13参照)。
【0090】
切欠き部を有するノーズレストの形状は、例えばノーズレストが上面視にて略楕円形状である場合、かかる略楕円形状の輪郭の一部が、元の形状と比して切り欠かれた形状であってよい。換言すれば、切欠き部によってもたらされる面(例えば、図13における面15a)は、平面および/または局面を含んでいてよい。例えば、「切欠き部」は、「凹状部」および「U状部」などであってもよい。
【0091】
接触板もまた、外鼻孔の周辺部と適合することができる形態であれば、いずれの形態であってよい。かかる形態は、例えば鼻翼、鼻柱または食禄の形状に合わせた接触板15であってよい(図16参照)。
【0092】
ここで「接触板」とは、例えば凹状およびU状などの形状であってよい。接触板は、ノーズレストの外輪郭の一部が凹状およびU状などの形状に形成されていてよく、別部材(例えば、エラストマー材)がノーズレストに取り付けられていてもよい。
【0093】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、先端部11の軸とノーズレスト12の中心とは互いにずれた偏心関係を有してよい(図18A~18D参照)。つまり、点鼻用噴霧・噴射ノズルの軸に対してノーズレストが偏心した状態で設けられていてよい。ここでいう「中心」とは、例えばノーズレストの重心などであってよい。このようなノーズレストの中心は、上面視において、例えば、互いに直交する方向の2つの幅寸法の中間に相当するポイントであってよい(図18A~18D参照)。かかる態様では、先端部11の周囲に位置するノーズレスト12において、一方の側が他方の側よりも相対的に広範に延在していてよい(例えば、図18A~18Dに示されるように、互いに対向する一方の側が他方の側よりも相対的に広範に延在していてよい)。図18B~18Cに示す態様でいえば、点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、先端部11の軸が位置するラインを境に互いに対向するノーズレストの一方の長辺領域12Mが他方の長辺領域12Nよりも大きくなっていてよい。先端部を挟んで互いに対向するノーズレストの領域の大きさ(扁平領域のサイズ)が一方と他方とで互いに異なっていてよいともいえる。図18A~18Dに示す例示態様でいえば、相対的に幅寸法が大きい幅狭部分12Mと、相対的に幅寸法が小さい幅広部分12Nとがノーズレストに設けられることになる。このようなノーズレストでは、点鼻用噴霧・噴射ノズルを外鼻孔の周辺部に当接させた際、先端部を所望の向き・角度に調整し易くなる。つまり、使用時における点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度特性が向上し得る。例えば、ノーズレストの幅広部分12Mが相対的に上側(即ち、鼻突側)に位置付けられるように使用される場合、先端部をより立てた向き、すなわち、図46Aの角度αがより大きくなる向きに点鼻用噴霧・噴射ノズルを配置し易くなり(図22A参照)、鼻腔内の上側の領域(例えば、嗅部)に対して薬剤を噴霧・噴射し易くなる。その逆で、ノーズレストの幅広部分12Mが相対的に下側(即ち、食禄側)に位置付けられるように使用される場合、先端部をより寝かせた向き、すなわち、図46Aの角度αがより小さくなる向きに点鼻用噴霧・噴射ノズルを配置し易くなり(図22B参照)、鼻腔内の下側または奥側の領域(例えば、鼻咽頭)に対して薬剤を噴霧・噴射し易くなる。
【0094】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、先端部の外輪郭は、その一部がノーズレストの外輪郭によって囲まれていない非包囲部分を有していてよい。つまり、点鼻用噴霧・噴射ノズルの軸に対してノーズレストが大きく偏心した状態で設けられていてよい。かかる態様では、図19A~19Dに示すように、先端部11の外輪郭11Pは、ノーズレスト12の外輪郭12Pによりその全てが包囲されておらず、先端部11の外輪郭11Pの一箇所だけ非包囲部分11Pが存在している。かかる場合、先端部の外輪郭11Pは、包囲部分11Pと非包囲部分11Pとから構成されていてよい。このような態様では、使用時における点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度特性がより好適に向上し易くなる。
【0095】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、ノーズレストの外輪郭が一方の側部に弧形状を有していてよい。つまり、図20A~20Cに示すように、ノーズレスト12の外輪郭12Pの少なくとも一部は、直線的な輪郭でなく、丸みを帯びたものとなっていてよい。図20Aは、外輪郭12Pの全てが弧形状を有するノーズレストの例であり、図20Bおよび20Cは、外輪郭12の一部が弧形状を有するノーズレストの例である。かかる実施形態において、ノーズレストの外輪郭の互いに対向する一方の側部と他方の側部とは互いに曲率を異にするものであってもよい。例えば、図20Cの例示態様では、ノーズレストの外輪郭12Pの互いに対向する一方の側部12Pと他方の側部12Pについて側部12Pの方が側部12Pよりも相対的に曲率が小さくなっている(つまり、側部12Pの方が側部12Pよりも相対的に緩やかな曲線となっている)。このようにノーズレストの外輪郭が弧形状を有すると、使用時における点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度特性がより好適に向上し易くなる。つまり、かかる態様ではノーズレストの上面視形状が角張っていない。ノーズレストが角張っていると、その部分が点鼻用噴霧・噴射ノズルの使用に際して不都合に使用者の鼻に干渉してしまう場合がある。よって、ノーズレストの外輪郭が一方の側部に弧形状を有する態様は、角張っている態様よりも使用時の点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度をより好適に変え易い又は調整し易くなる。
【0096】
なお、ノーズレストのそのような弧形状の外輪郭は、上述の偏心設置の態様と組み合わせて用いてよい。例えば、図21Aおよび21Bに示すように、点鼻用噴霧・噴射ノズルの上面視において、ノーズレストの外輪郭のうち非包囲部11Pの両側にて延在する部分12P,12Pが弧形状を有していてよい。これにより、使用時にて点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度を変えやすくなる効果が顕在化し易くなる。特に図21Bに示すように、そのように非包囲部11Pの両側で延在する部分12P,12Pが楕円弧の形状を有していてよい。また、非包囲部11Pの両側で延在する部分12P,12Pは、上面視にて、非包囲部11Pを中心に互いに対称的な形状を有していてもよい。このようなノーズレスト12は、その上面視の全体形状が、例えば“豆”状となっていてもよい(図21B参照)。このような態様では、使用時における点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度を変えやすくなる効果がさらに顕在化し得る。
【0097】
図21Bに示されるノーズレストの使用態様の一例を図22Aおよび図22Bに示しておく。図示されるように、標的領域に応じてノーズレスト12の向きを反転させて使用できる。図22Aの使用態様では、鼻腔内の上側の領域(例えば、嗅部)に対して薬剤を到達させ易くなる一方、図22Bの使用態様では、鼻腔内の下側または奥側の領域(例えば、鼻咽頭)に対して薬剤を到達させ易くなる。
【0098】
一実施態様では、ノーズレストの近位側の面は、ドーム形状を有していてよい。つまり、図23A~23C(特に図23Bおよび23C)に例示するように、ノーズレスト12は、その側面視において、角張っておらず、近位側の表面が全体的に曲面から構成されていてよい。このような態様では、使用時の点鼻用噴霧・噴射ノズルの向き・角度を変えやすくなるだけでなく、ノーズレストから受ける抵抗感などに起因した使用者の不快感が低減され得る。
【0099】
ある1つの例示態様に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10を図24に示す。図24に示される点鼻用噴霧・噴射ノズル10に設けられたノーズレスト12は、上記の特徴を有している。具体的には、先端部11の軸とノーズレスト12の中心とは互いにずれた偏心関係を有しており、先端部11の外輪郭は、その一部がノーズレスト12の外輪郭により囲まれていない非包囲部分を有している。また、ノーズレスト12の近位側の面はドーム形状を有している。ノーズレスト12は、その上面視において、先端部の外輪郭の非包囲部11Pの両側にて延在する部分12P,12Pが楕円弧の形状を有している(図21B参照)。このようなノーズレスト12は、先端部11および/またはノズル本体部13に対して予め一体化していてよいものの、先端部11および/またはノズル本体部13に対して着脱可能となっていてもよい。図25には、着脱可能なノーズレスト12を示す。このようなノーズレスト12は、例えばスナップフィット式に先端部11および/またはノズル本体部13に取り付けられてもよい。具体的には、ノーズレスト12の側方開口12Gを介してノーズレスト12の側方から着脱が行われてよい。
【0100】
ノーズレスト12の着脱についていえば、種々の態様が考えられる。ノーズレスト112を先端部の近位端から被せるように取り付けてもよい。これは、着脱可能なノーズレスト12において図25に示されるような側方開口12Gがない場合に特に考えられる態様である。また、図26Bに示すように、ノーズレスト12の内壁に設けた凹部12Wを利用してもよい。凹部12Wと相補的に係合可能な凸部を先端部11および/またはノズル本体部13に設ければ、それらの係合(例えば篏合)を通じてノーズレスト12の着脱を行うことができる。凹部と凸部との設置は逆も可能である。つまり、ノーズレスト12の内壁に凸部が設けられ、先端部11および/またはノズル本体部13に凹部が設けられてもよい。
【0101】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10が、指を掛けるフィンガーレスト14をさらに有して成っていてよい(図6および図7など参照)。換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、ノーズレストに起因した第1増径部12およびフィンガーレストに起因した第2増径部14を有して成っていてもよい。
【0102】
本明細書でいう「フィンガーレスト」とは、広義には、点鼻用噴霧・噴射ノズルの使用時に指を掛ける部分であり、狭義には、点鼻用噴霧・噴射ノズルを鼻腔内に挿入する際に指を掛ける部分を指す。そのような観点から、フィンガーレストは「指掛け部」または「フィンガーグリップ」などと称されてもよい。本発明では、フィンガーレストは、点鼻用噴霧・噴射ノズルにおいて、ノーズレストよりも相対的に遠位側に設けられている。例えば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10において、フィンガーレストに起因した第2増径部14とノーズレストに起因した第1増径部12とがノズル軸方向に沿って互いに離隔して設けられているところ、第2増径部14が第1増径部12よりも相対的に遠位側に設けられている。
【0103】
点鼻用噴霧・噴射ノズルがフィンガーレストを有することで、薬剤噴射におけるハンドリング性をより高めることができる。
【0104】
フィンガーレストは、指を掛けることができる形態であれば、いずれの形態であってよい。例えば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、フィンガーレスト14の外輪郭が、先端部11の外輪郭の少なくとも一部を囲うように位置付けられていてよい(図6Cなど参照)。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の操作方向に指を容易に動かせるように指をフィンガーレスト14に掛けることができる(図6B参照)。フィンガーレストは、例えば厚みが一定の部材から成っていてよい。
【0105】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、フィンガーレスト14は、略円形状、略楕円形状、多角形状および面取りされた多角形状などであってよい(図27A図27G参照)。
【0106】
ハンドリング性をより重視する観点などからは、フィンガーレスト14は、上面視形状として、略楕円形状または略矩形状であってよい(図27Bおよび図27C参照)。また、フィンガーレスト14は、フィンガーガイド14’を備えていてよい(図27Dおよび図27E参照)。そのような構成とすることで、指を掛ける位置を決定づけ易くなる。それによって、好適にノズル噴出孔の挿入位置および方向を決定づけ易くなる。なお、図27A~27Eはあくまでも例示にすぎず、フィンガーレスト14は、例えば図27Fおよび図27Gに示されるような上面視形状を有していてもよい。
【0107】
点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、フィンガーレスト14の幅寸法、例えば図示するような径Dは、15mm以上60mm以下であってよい(図27A図27G参照)。かかる径が15mm以上であることで、指の掛止性をより高めることができる。また、かかる径が60mm以下であることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のハンドリング性をより高めることができる。フィンガーレスト14の径Dは、17mm以上50mm以下であることが好ましく、例えば20mm以上45mm以下である。
【0108】
ここでいう「径D」は、フィンガーレスト14における最大径とみなしてよい。例えば、上述するように、フィンガーレスト14を上面視した場合の形状における円、楕円、内接円または内接楕円の径を指してよい。フィンガーレスト14がフィンガーガイド14’を備える場合(例えば、図27Dおよび図27E参照)、フィンガーレスト14からフィンガーガイド14’を除いた形状における円、楕円、内接円または内接楕円の径を指してよい。
【0109】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の径N-N’と、フィンガーレスト14の径F-F’とが略直交している(図7C参照)。そのような構成とすることで、鼻腔内のノズル噴出孔11Aの方向をより一層決定づけ易くなる。
【0110】
ここでいう「略直交」は、必ずしも完全な90°である必要はない。例えば、「略直交」は90°±10°の範囲であってよい。図示される形態では、ノーズレスト12の径N-N’と、フィンガーレスト14の径F-F’とが90°を成している(図7C参照)。
【0111】
上述の態様において、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の長径N-N’と、フィンガーレスト14の長径F-F’とが略直交していてよい。具体的には、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14は、上面視形状として略楕円形状または略矩形状であり、それぞれの長径が互いに略直交していてよい。
【0112】
換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12とフィンガーレスト14とが、略十字形状を成していてよいといえる(図7C参照)。ここで、長径N-N’および長径F-F’は、それぞれ線対称となるように(すなわち、それぞれの長径が中心で交差するように)略十字形状となっていることが好ましい。
【0113】
換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14がそれぞれオーバーラップしているものの、ノーズレスト12の2つの非オーバーラップ部12Aおよび12Aの対向方向と、フィンガーレスト14の2つの非オーバーラップ部14Aおよび14Aの対向方向とが互いに略直交していてよい(図7C参照)。
【0114】
上述のような構成とすることで、外鼻孔に対する点鼻用噴霧・噴射ノズルの位置合わせをより容易に、かつより正確に行い易くなる。つまり、鼻腔内のノズル噴出孔11Aの方向を特に決定づけ易くなる。
【0115】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12と、フィンガーレスト14との軸が一致していてよい(図7Cなど参照)。換言すれば、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14は、点鼻用噴霧・噴射ノズル10における同一の軸を有していてよい。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のハンドリング性をより一層高め易くなる。
【0116】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の側面視において、ノーズレスト12と、フィンガーレスト14との離隔寸法Oは、10mm以上50mm以下であってよく、例えば10mm以上30mm以下である(図7B参照)。換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10におけるノズル本体部13又はその一部に相当する部分の長さ寸法Oが10mm以上50mm以下であってよく、例えば10mm以上30mm以下である。
【0117】
上述する寸法が10mm以上であることで、フィンガーレストに指を掛けた際に、指がノーズレストに干渉することを防止し易くなる。また、かかる寸法が50mm以下であることで、薬剤噴射におけるハンドリング性を特に高め易くなる。
【0118】
ノーズレストとフィンガーレストとの離隔寸法は、点鼻用噴霧・噴射ノズルを自身が使用する場合と第三者に使用する場合とで違っていてもよい。点鼻用噴霧・噴射ノズルを自分自身に対して用いる場合、ノーズレストとフィンガーレストとの離隔寸法Oは例えば15mm以上30mm以下であることが好ましく、例えば15mm以上25mm以下である。一方、点鼻用噴霧・噴射ノズルを第三者に対して用いる場合、ノーズレストとフィンガーレストとの離隔寸法Oは50mm以上70mm以下であってよい。
【0119】
(点鼻用噴霧・噴射デバイス)
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルを用いた点鼻用噴霧・噴射デバイスとして、常套的噴霧・噴射スプレーに加えて点鼻用噴霧・噴射ノズルを上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスまたはシリンジ型噴霧・噴射デバイスに組み込んだものが挙げられる。ここでは、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスおよびシリンジ型噴霧・噴射デバイスについて詳細しておく。
【0120】
(上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス)
図28は、本発明の一実施態様に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10を備えた上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス100の実施態様を例示している。上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス100の使用に際しては、保護キャップ110が取り外される。噴霧・噴射デバイス100は、保護キャップ110を外し、噴霧・噴射デバイス100の頭部に装着されたポンプ120の環状操作部130(すなわち、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のフィンガーレスト14)を押し下げることにより、容器140内からポンプ120の吸引室150に吸引した内容物を噴射孔より外部に噴出させると共に、容器140内のエアを排気するように吸引に連動して上方へ摺動する摺動底蓋本体160を備え、その摺動底蓋本体160の周囲に容器内周面141に圧接してシール状態で移動するポンプ120の環状外周面部(すなわち、上側環状外周面部121および下側環状外周面部122)が形成されている上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス100である。
【0121】
換言すれば、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスは、薬剤を収容する容器、当該容器から薬剤を吸引するポンプ、および薬剤を噴出する点鼻用噴霧・噴射ノズルがこの順に流体連通されて成り、かかるポンプは、容器から薬剤を吸引して点鼻用噴霧・噴射ノズルから噴出させると共に、容器内のエアを排気するように吸引に連動して上方へ摺動する摺動底蓋本体を備える。
【0122】
図29に示すように、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス100は、無駄なスペースを取り除くためのリング190を装填し、更に通常平らな摺動底蓋本体160に一定の角度を持たせている。それによって、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス100内のエアが抜けやすくなり、使用終了時の薬剤の残存量を非常に少なくすることができる。
【0123】
上述のような特徴を有する上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスは、通常の医薬品としての噴霧量または噴射量の精度が担保されている。この摺動底蓋本体の一定の角度は、小さいと薬剤充てん時、容器本体の肩部分に空隙が残り、大きいと摺動底蓋の裾野部分に空隙が残り、不都合である。その角度は5以上30°以下が好ましく、さらに好ましくは15以上25°以下である。
【0124】
また、上述する上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスは、外気を取り込むシステムではないため、外気による微生物汚染を受けにくいという医薬薬剤として極めて有用な特性も有しており、必要以上の防腐剤や保存剤を要しないという安全性や製造コストの面からも極めて優れた経鼻投与システムである。
【0125】
本発明に係る上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスでは、いずれの投与角度であっても噴霧・噴射可能することができ、より好適なノズル使用に資する(図30A~30F参照)。つまり、上述の噴霧・噴射デバイスの投与角度は0°から360°のいずれの角度または角度の範囲でも使用することができる。例えば点鼻用の場合、上記のスプレー型点鼻薬剤を、投与体位(頭部の角度)とスプレー容器との投与角度を種々変化させて使用することができる。すなわち、角度0°付近から45°以上90°以下、更には180°まで噴霧・噴射可能である。
【0126】
ここで、頭を後ろに倒し容器投与角度を65°以上180°以下で使用することにより、鼻甲介(鼻道)が平行方向から垂直方向へ変化していくことになり、最初に鼻甲介の先端部分に分散させて付着させることができると考えられ、鼻甲介に捕捉沈着した薬剤は、重力による流れと粘膜を覆う繊毛細胞の繊毛運動により後方に運ばれ、鼻甲介広範囲に薬剤がいきわたることになる。
【0127】
したがって、投与体位とスプレー容器との投与角度としては、0°以上180°以下のいずれの角度でもよく、好ましくは45°以上180°以下、更に好ましくは65°以上180°以下、最も好ましくは135°付近の鼻甲介(鼻道)が垂直方向であり、鼻甲介の広範囲に薬剤を行き渡る角度が最も有利で望ましい。また投与の際の姿勢は、起立状態、座位、仰臥位、横臥位等いずれでもよく、本発明の点鼻薬剤はいずれの投与角度でも使用することができる。
【0128】
(シリンジ型噴霧・噴射デバイス)
図31は、本発明の一実施態様に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10を備えたシリンジ型噴霧・噴射デバイス200の実施態様を例示している。シリンジ型噴霧・噴射デバイス200は、シリンジバレル220を備えたシリンジ本体230と、シリンジ本体230のシリンジバレル220内に挿通されるプランジャロッド240と、プランジャロッド240の遠位端に設けた固定部240aを介して取り付けられるピストン260と、シリンジ本体230の近位端の周りに配設されたフィンガーレスト270とを有して成る。より具体的には、図31に示すように、シリンジ型噴霧・噴射デバイス200は、薬剤210を充填可能なシリンジバレル220を有する合成樹脂またはガラスから成るシリンジ本体230と、シリンジ本体230のシリンジバレル220内に挿通されるプランジャロッド240と、プランジャロッド240の遠位端に設けた固定部240aを介して取り付けられ、シリンジバレル220内に摺動してシリンジバレル220内の薬剤をシリンジ本体230の遠位側の先端開口部250から送出するためのピストン260と、医者等の施術者の指から加わった力をプランジャロッド240に伝えるシリンジ本体230の近位端の周りに配設されたフィンガーレスト270と、プランジャ操作部280とを有する。
【0129】
シリンジ型噴霧・噴射デバイス200は、図31に示すように、シリンジ本体230の先端開口部250に対向して配置される点鼻用噴霧・噴射ノズル10をさらに有する。ここで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、図4に例示した点鼻用噴霧・噴射ノズル10であってよい。点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、その先端部11への汚染物質および機械的衝撃から保護するための保護キャップ(図示せず)をさらに有していてもよい。保護キャップは、ノズル全体を覆うように構成されていてよく、または先端部のみを覆うように構成されていてもよい。
【0130】
図32Aおよび図32Bは、本発明の一実施態様に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10の概略的構成を示す部分破断分解斜視図である。図示するように、点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、ノズル噴出孔21が形成されたノズル噴出端面11Bを有する中空のノズル本体部13と、ノズル本体部13内に配設される中実の充填ロッド(充填棒)30とを有する。図32Aおよび図32Bは、充填ロッド30がノズル本体部13に配設または挿入される前後の状態を示すものである。ノズル本体部13のノズル噴出端面11Bは略円形状を有し、ノズル噴出孔11Aはノズル噴出端面11Bの中心に形成されている。
【0131】
図33Aは、図32Bに示す点鼻用噴霧・噴射ノズル10を、ノズル噴出孔11Aを通る垂直面で見たときの垂直断面図である。図33B図33Dはそれぞれ、図33AのB-B線、C-C線、およびD-D線から見たときの水平断面図である。中空のノズル本体部13は、その内壁20が略円筒形状の内部空間22を形成し、内部空間22は、図33Cおよび図33Dに示すように、中空のノズル本体部13のノズル噴出孔11Aにより近いノズル小径部23と、充填ロッド30のロッド大径部34が挿入されるノズル大径部24と、内部空間22の径がノズル大径部24からノズル小径部23に向かって連続的または段階的に小さくなるように形成されたノズル肩部25とを有する。
【0132】
一方、ノズル本体部13に挿入される中実の充填ロッド30は、その外壁31がノズル本体部13の内壁20(内部空間22)とほぼ相補的な外形形状を有し、図32A図33Cおよび図33Dに示すように、ロッド大径部34およびロッド小径部33の径がロッド大径部34からロッド小径部33に向かって連続的または段階的に小さくなるように形成されたロッド肩部35とを有する。
【0133】
なお、図32Aに示すように、ノズル本体部13の内壁20には突起部21を設け、充填ロッド30の外壁31には突起部21を受容する凹部32を設け、充填ロッド30をノズル本体部13の内部空間22に挿入したとき、突起部21と凹部32とが適合して、確実に固定できるように構成することが好ましい。
【0134】
また、図32A図32Bおよび図33A図33Dから明らかなように、充填ロッド30は、ロッド小径部33およびロッド大径部34において周方向に間隔を設けて配置された複数の溝部36、37を有する。また充填ロッド30は、ノズル肩部25とロッド肩部35との間に隙間38(図33A)が形成されるようにノズル本体部13に挿入される。したがって、図32Bのようにアセンブリされた点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、溝部36、37および隙間38により流体連通可能なノズルチャンバ39が形成され、シリンジ本体230の先端開口部250から送出された薬剤210を、ノズルチャンバ39を介して点鼻用噴霧・噴射ノズル10のノズル噴出端面11Bまで案内することができる。
【0135】
さらに充填ロッド30は、図33Bに示すように、点鼻用噴霧・噴射ノズル10のノズル噴出端面11Bに対向する渦流形成部40を有する。渦流形成部40は、ロッド小径部33の各溝部36から流入した薬剤210がノズル本体部13のノズル噴出孔11Aから噴射される前に渦流を形成するように構成されている。具体的には、渦流形成部40を構成するロッド小径部33の端部部分がノズル噴出孔11Aの垂直中心軸から位置ずれした方向に延びるように形成されている。このように薬剤210がノズル噴出孔11Aから噴射される前に渦流を形成することにより、薬剤の噴射角度を拡大させ、薬剤をより均一に噴霧・噴射することができる。
【0136】
なお、図33Cおよび図33Dから明らかなように、ロッド小径部33の溝部36をロッド大径部34の溝部37より小さく設計して、ノズル噴出孔11Aから噴射される前の渦流形成部40内の薬剤の圧力を増大させることが好ましい。またロッド大径部34およびロッド小径部33の径がロッド大径部34からロッド小径部33に向かって連続的または段階的に小さくなるように設計したことから、患者等の使用者の鼻腔内に深く挿入しやすくして、使用者の下鼻甲介付近およびその深部に対する薬剤の噴霧・噴射を容易にすることができる。すなわちロッド小径部33の径は、使用者に恐怖感を与えることなく、使用者の鼻孔より十分に小さいものであることが好ましい。
【0137】
換言すれば、シリンジ型噴霧・噴射デバイスは、薬剤を収容するシリンジ本体と、かかるシリンジ本体に流体連通する点鼻用噴霧・噴射ノズルとを有して成り、シリンジ本体は、薬剤を噴出するためのプランジャロッドおよびピストン、ならびにプランジャロッドと連動するフィンガーレストおよびプランジャ操作部を備え、点鼻用噴霧・噴射ノズルは、当該ノズル内に配設される充填ロッド、充填ロッドとノズル内壁との間に形成されノズル噴出孔との間で流体連通するノズルチャンバとをさらに備える。
【0138】
図34は、本発明の一実施態様に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10を備えるシリンジ型噴霧・噴射デバイス200を示す。図34の態様において、点鼻用噴霧・噴射ノズル10がノーズレスト12を有し、シリンジ本体230がフィンガーレスト270を有する。
【0139】
また、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14の外輪郭がそれぞれ、先端部11の外輪郭を囲うように位置付けられている。そのような構成とすることで、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の操作方向に指を容易に動かせるように当接することができる
【0140】
一実施態様では、点鼻用噴霧・噴射ノズル10におけるノーズレスト12、およびシリンジ本体230におけるフィンガーレスト14が略楕円形状または略矩形状であってよい(図35参照)。また、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14の長径が直交している。
【0141】
上述の態様において、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12の長径と、フィンガーレスト14の長径とが略直交していてよい。具体的には、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14は、略楕円形状または略矩形状であり、それぞれの長径が互いに略直交していてよい。
【0142】
換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12とフィンガーレスト14とが略十字形状を成している。ここで、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14の長径は、それぞれ線対称となるように略十字形状となっていてよい。
【0143】
換言すれば、点鼻用噴霧・噴射ノズル10の上面視において、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14がそれぞれオーバーラップしているものの、ノーズレスト12の2つの非オーバーラップ部の対向方向と、フィンガーレスト14の2つの非オーバーラップ部の対向方向とが略直交していてよい。
【0144】
上述のような構成とすることで、後述するように、外鼻孔に対する点鼻用噴霧・噴射ノズルの位置合わせをより容易に、かつより正確に行い易くなる。つまり、鼻腔内のノズル噴出孔11Aの方向を特に決定づけ易くなる。
【0145】
(本発明のレスト品)
本発明の技術思想に従えば、例えば図36に示されるような点鼻用レスト品300も考えられる。かかるレスト品300は、外鼻孔の周辺部に当接可能なノーズレスト12と、フィンガーレスト14とを有して成り、例えば、常套的噴霧・噴射スプレー、上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスまたはシリンジ型噴霧・噴射デバイス(以下では、総称して「噴霧・噴射デバイス」とも呼ぶ)に対して装着できるようになっている。つまり、レスト品300は、噴霧・噴射デバイスのためのパーツ品であり、かかるデバイスに対してノーズレスト12およびフィンガーレスト14を供するパーツ品となっている。
【0146】
図36に示されるように、レスト品300では、ノーズレスト12とフィンガーレスト14とが一体化している。より具体的には、例えば、筒状部分350を介して、ノーズレスト12とフィンガーレスト14とが連結されている。このようなレスト品300を噴霧・噴射デバイスに被せることによって(好ましくはそのノズル側からレスト品300を被せることによって)、当該デバイスにノーズレスト12とフィンガーレスト14との双方を供することができる。例えば、レスト品300の筒状部分350の内側に上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイスまたはシリンジ型噴霧・噴射デバイスの胴部分が位置付けられるようにレスト品300を被せると、シリンジ型噴霧・噴射デバイスにノーズレスト12とフィンガーレスト14とを好適に供することができる。
【0147】
本発明に係るレスト品300では、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14が略楕円形状または略矩形状であってよく、そのようなノーズレスト12およびフィンガーレスト14の長径が直交していてよい(図36参照)。つまり、レスト品300の上面視において、ノーズレスト12とフィンガーレスト14とが略十字形状を成していてよい。また、レスト品300の上面視において、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14がそれぞれオーバーラップしているものの、ノーズレスト12の2つの非オーバーラップ部の対向方向と、フィンガーレスト14の2つの非オーバーラップ部の対向方向とが略直交していてよい。このようなノズル品が用いられることによって、外鼻孔に対する点鼻用噴霧・噴射ノズルの位置合わせをより容易に、かつより正確に行うことができる。なお、図36の態様に示されるように、シリンジ型噴霧・噴射デバイスに対して用いられるレスト品300では、ノーズレスト12とフィンガーレスト14との離隔寸法は、例えば50mm~80mm程度であってよい。
【0148】
(薬剤の特性について)
上述した点鼻用噴霧・噴射デバイスに用いられる薬剤の製剤物性(pH、粘度、表面張力、浸透圧等)には特に制限されない、特に粘度は噴霧・噴射特性に大きな影響を与えるが特に制限されない。それゆえ、当該薬剤は、例えば液状、ゲル状またはスラリー状の形態を有している。例えば、薬剤の粘度は1mPa・s以上5000Pa・s以下であってよく、ある態様では250Pa・s以上2500Pa・s以下である。
【0149】
薬剤の粘度が250Pa・s以下であると、せっかく標的領域に送達させても液だれが生じ当該領域から流失してしまう傾向が出やすくなる。5000Pa・s以上であると、ノズル噴出孔から薬剤が膜を形成した状態(すなわち、狭拡散領域)の噴射孔から所定の距離(C)51が長くなり、膜が破膜しにくくなるため、標的領域に薬剤をより好適に滞留させ易くなる。
【0150】
(噴霧・噴射デバイスの使用方法)
図37は、図7に示す点鼻用噴霧・噴射ノズル10を備える上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス100の使用方法を例示している。すなわち、図37に示す点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、ノーズレスト12およびフィンガーレスト14を有している。
【0151】
使用者は、例えば以下の手順で噴霧・噴射デバイス100を使用する。
(1)フィンガーレスト14におけるノズル本体部13を挟んで対向する位置に、2本の指(例えば、人差し指および中指)をそれぞれ配置する。
(2)配置した2本の指が並列する方向と、鼻柱の長手方向とが略平行となるように、点鼻用噴霧・噴射ノズル10を位置付ける。
(3)点鼻用噴霧・噴射ノズル10の先端部11を鼻腔内に挿入する。ここで、ノーズレスト12が外鼻孔の周辺部(例えば、鼻柱および鼻翼など)に圧着するまで、先端部11を挿入する(図37および図38参照)。
(4)フィンガーレスト14を点鼻用噴霧・噴射ノズル10の遠位側(図示する操作方向側)に向けて押すことで、鼻腔内に薬剤を噴射させる。
【0152】
ここで、図37に示す点鼻用噴霧・噴射ノズル10は、ノーズレスト12の長径N-N’とフィンガーレスト14の長径F-F’とが略直交していてよい(図7C参照)。そのような点鼻用噴霧・噴射ノズル10を(2)の手順で位置付けると、ノーズレスト12の長径方向と鼻柱および鼻翼を結ぶ方向とが必然的に略一致し易くなる(図38参照)。それによって、ノーズレスト12と鼻柱および鼻翼とがより一層適合する。
【0153】
図39は、上述する手順で鼻腔内に挿入された点鼻用噴霧・噴射ノズル10の一態様を示す。
図39に示すように、ノーズレスト12が外鼻孔の周辺部に当接されることで、鼻弁周辺の狭い鼻腔領域を先端部11または噴射される薬剤50が通過し得るように、ノズル噴出孔11Aの挿入位置および方向を決定づけ易くなる。よって、標的領域の薬剤到達率がより高くなり易くなったり、および/または、標的領域(例えば、呼吸部、嗅部または鼻咽頭)の広範囲に薬剤を送達し易くなる。
【0154】
噴射される薬剤50は、噴射直後の狭拡散領域51、およびかかる狭拡散領域51に比して微細な液滴になっていく広拡散領域52を含む(図40参照)。特定の理論に拘束される訳ではないが、噴射直後の薬剤は外縁に膜が形成されており収束された状態であるが、一定の噴射距離を通過すると膜が破壊されて微細な液滴になると考えられる。具体的には、ノズル噴出孔11Aからの噴射距離Cが5mm以上15mm以下の位置を境界として、薬剤の膜が破壊され微細な液滴に変化し得る。
【0155】
標的領域の広範囲に薬剤を送達するためには、鼻弁周辺の狭い鼻腔領域を先端部11または噴射される薬剤50の狭拡散領域51が通過し得ることが重要である(図39および図40参照)。ここで、外鼻孔から鼻弁までの距離は約20mmであることが知られている。
【0156】
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズル10における先端部11の長さ寸法は例えば、5mm以上30mm以下であるため、先端部11または薬剤50の狭拡散領域51を通過させることができる。
【0157】
鼻弁周辺の鼻腔内壁への接触を防ぐ観点および標的領域の広範囲に薬剤を送達する観点から、鼻弁周辺の狭い鼻腔領域を噴射される薬剤50の狭拡散領域51のみが通過することが好ましい(図39および図40参照)。
【0158】
上述の態様とするために、先端部11の長さ寸法は、例えば10mm以上25mm以下、7mm以上18mm以下、8mm以上17mm以下、9mm以上16mm以下、または10mm以上15mm以下(一つの例示として15mm近傍)であってよい。ここで先端部11の長さ寸法とは、ノーズレスト12の近位端からノズル噴出孔11Aが形成された面までの長さを指す。
【0159】
特に、先端部11の長さ寸法が上記寸法であると、ノズル噴出孔11Aを鼻弁直前に位置付けられ易くなり、鼻弁周辺の狭い鼻腔領域を噴射される薬剤50が狭拡散領域51を通過し易くなる。また、ノズル噴出孔11Aから標的領域までの距離を十分にとれるため、より効果的に標的領域の広範囲に薬剤を送達し易くなる。
【0160】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0161】
例えば、図12および図13を参照して厚み差を有するノーズレスト12について説明した。かかる厚み差を有するノーズレスト12は、その上面(近位側の面)が部分的または全体的に傾斜しているが、そのような傾斜形態は、種々の態様で具現化することができる。例えば、ノーズレスト12の面が傾斜する態様は、図41および図42に示すようなものであってもよい。つまり、図41Bおよび図42Bに示すような側面視において、一定厚み(実質的に一定厚み)を有するノーズレスト12が先端部11の軸に直交する方向に対して角度を成して傾いて設けられてもよい。
【0162】
また、上記の説明では、“標的領域”なる表現を用いたが、本発明は必ずしもそれに限定されない。標的領域と実質的に同義となる“標的部位”なる表現が用いられてもよい。つまり、標的領域に代えて又はそれに加えて、標的部位なる表現と共に本発明を理解してもよい。なお、鼻炎などが想定される場合、標的部位が鼻甲介(下鼻甲介および/または中鼻甲介)となってよい。例えば、アレルギー性鼻炎等の鼻甲介が腫脹して鼻閉状態となっている場合、本発明の点鼻用噴霧・噴射ノズルの使用によって下鼻甲介、中鼻甲介に到達する薬剤の到達率を高くできる。また、鼻腔の広い呼吸部鼻粘膜を介する鼻粘膜吸収による全身効果が期待される点鼻製剤を用いる場合、標的部位が鼻腔中間部位となっていてよい。鼻咽頭の強い免疫応答性を利用して経鼻ワクチンによる抗体産生効果を期待する点鼻製剤が用いられる場合、標的部位が鼻咽頭部位となってよい。さらには、嗅粘膜から直接脳に通じる経路が知られていることから、嗅粘膜に到達する薬剤の量を向上させることは鼻から脳への薬物送達の可能性を高めることにつながるので、中枢神経系への効果を期待する点鼻製剤が用いられる場合には、標的部位が嗅粘膜となってよい。
【0163】
さらに、上記の説明では、点鼻用噴霧・噴射ノズルの外側構造を中心に説明したが、その内部構造または内側構造は、特に制限されず、常套の点鼻用噴霧・噴射ノズルと同様であってもよい。つまり、点鼻用噴霧・噴射ノズルの内部構造・内側構造は、ノズル機能(例えば、薬剤の噴霧・噴射)に資するものであれば、特に制限はされず、いずれの構造であってもよい。
【実施例
【0164】
本発明に関連する実施例を説明する。
【0165】
点鼻用噴霧・噴射ノズルを模した以下の供試ノズルを用いて実証試験を行った。
● 比較例1:ノーズレストを備えていない点鼻用噴霧・噴射ノズル(図43A参照)
・ノズル噴出孔が形成された面の径寸法:8mm
・噴霧量:100mg(噴霧量100mgのポンプに装着して使用)
● 比較例2:ノーズレストを備えていない点鼻用噴霧・噴射ノズル(図43B参照)
・ノズル噴出孔が形成された面の径寸法:4mm
・噴霧量:100mg(噴霧量100mgのポンプに装着して使用)
● 比較例3:ノーズレストを備えていない点鼻用噴霧・噴射ノズル(図43C参照)
・ノズル噴出孔が形成された面の径寸法:4.5mm
・噴霧量:250mg(1.0mLのシリンジバレルにセットして使用)
● 実施例1:ノーズレスが備えられたこと以外は比較例1と同じ点鼻用噴霧
・噴射ノズル(図44A参照)
・先端部の長さ寸法が10mmまたは15mmとなるようにノーズレストを設けた。
● 実施例2:ノーズレスが備えられたこと以外は比較例2と同じ点鼻用噴霧
・噴射ノズル(図44B参照)
・先端部の長さ寸法が15mmとなるようにノーズレストを設けた。
● 実施例3:ノーズレスが備えられたこと以外は比較例3と同じ点鼻用噴霧
・噴射ノズル(図44C参照)
・先端部の長さ寸法が10mm、15mmまたは20mmとなるようにノーズレストを設けた。
【0166】
噴霧状態の確認
点鼻用噴霧・噴射を用いて薬剤の噴霧状態を確認した。液状薬剤は、質量を測定するため、沈着部位での強い付着性が必要であることから、東興薬品工業株式会社の登録特許5185109に記載された製法に準じて調製した。上記のいずれの点鼻用噴霧・噴射ノズルも噴霧角度および薬剤粘度に依らず微細な霧の状態で十分に噴霧されることを確認できた。
具体的には、上記の比較例1~3および実施例1~3のいずれの点鼻用噴霧・噴射ノズルであっても、噴霧角度および薬剤粘度に依らず、液滴径分布は10~100μmの範囲に70%以上の噴霧状態となることを確認した。
【0167】
ノーズレストの効果確認の試験
シリコン製3D鼻腔モデル[株式会社高研製](図45参照)を使用した。試験時に鼻腔モデルに使用される点鼻用噴霧・噴射ノズルの噴出孔位置および角度は図46に示す。図46Aでは、鼻中隔と平行となる面に対して成す角度の“角度α”が示され、図46Bでは、鼻中隔に垂直となる面に対して成す角度の“角度β”が示されている。
【0168】
噴霧対象の標的部位が“鼻甲介”となる場合、下鼻甲介・中鼻甲介の先端部に取り外し可能な衝立をセットした。点鼻用噴霧・噴射ノズルによる薬剤の噴霧前後における衝立の質量を測定し、その差から衝立への沈着量を求めると共に、その衝立より後位の鼻中隔に沈着した薬剤質量を測定し、鼻甲介に薬剤が到達した量とした。噴霧対象の標的部位が“鼻腔中間部位”となる場合、鼻腔の中央部で垂直に切断した鼻腔モデルの後部断面に沈着した薬剤質量を測定し、鼻腔中間部位に薬剤が到達した量とした。噴霧対象の標的部位が“鼻咽頭部位”となる場合、鼻腔モデルの後部(後面)の鼻咽頭部で垂直に切断したモデルの後部断面に沈着した薬剤質量を測定し、鼻咽頭部位に薬剤が到達した量とした。噴霧対象の標的部位が“嗅粘膜部位”となる場合、鼻腔モデルの上部を平行に切断した鼻腔モデルの上部断面に沈着した薬剤質量を測定し、嗅粘膜部位に薬剤が到達した量とした。
標的部位に薬剤が到達した量の噴霧量に対する割合から「標的部位到達率」を算出した。また、試験は複数回で行ったところ、標的部位到達率のバラツキを把握するためRSD(相対標準偏差)を求めた。
【0169】
結果を表1~16に示す。
【0170】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【0171】
表1~16に示されるように、ノーズレストを備えた点鼻用噴霧・噴射ノズル(実施例1~3)では、ノーズレストを備えていない点鼻用噴霧・噴射ノズル(比較例1~3)よりも標的部位への薬剤到達率が高くなることが分かった。また、ノーズレストを備えた点鼻用噴霧・噴射ノズル(実施例1~3)は、ノーズレストを備えていない点鼻用噴霧・噴射ノズル(比較例1~3)よりも薬剤到達率のバラツキを抑えられることも分かった。つまり、本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルは、より向上した薬剤到達特性を有することを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明に係る点鼻用噴霧・噴射ノズルは、複雑な鼻腔内構造において、より好適な標的領域への薬剤送達性を有し得る。具体的には、ノーズレストを外鼻孔の周辺部に当接させることによって、鼻腔内のノズル噴出孔の挿入位置を決定づけることができる。それによって、標的領域の広範囲に薬剤を送達することができ、より高い薬効が得られる点鼻用噴霧・噴射式の医療用デバイスを実現することができる。
【符号の説明】
【0173】
10:点鼻用噴霧・噴射ノズル
11:先端部
11A:ノズル噴出孔
11B:ノズル噴出端面
12:ノーズレスト
12E:ノーズレストの近位側の端部
12S:ノーズレストの傾斜面
13:ノズル本体部
13’:シリンジ接合用突出部
14:フィンガーレスト
14’:フィンガーガイド
15:挿入方向マーカー
15a:切欠き面
20:ノズル本体部の内壁
21:突起部
22:内部空間
23:ノズル小径部
24:ノズル大径部
25:ノズル肩部、
30:充填ロッド(充填棒)
31:充填ロッドの外壁
32:凹部
33:ロッド小径部
34:ロッド大径部
35:ロッド肩部
36、37:溝部
38:隙間
39:ノズルチャンバ
40:渦流形成部
50:噴射される薬剤
51:狭拡散領域
52:広拡散領域
100:上方排圧エアレス型噴霧・噴射デバイス
110:保護キャップ
120:ポンプ
121:上側環状外周面部
122:下側環状外周面部
130:環状操作部(フィンガーレスト)
140:薬剤容器
141:内周面
150:吸引室
160:摺動底蓋本体
170:固定底蓋
180:通気孔
190:リング
200:シリンジ型噴霧・噴射デバイス
210:薬剤
220:シリンジバレル
230:シリンジ本体
240:プランジャロッド
240a:固定部
250:先端開口部
260:ピストン
270:フィンガーレスト
280:プランジャ操作部
300:点鼻用レスト品
350:筒状部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
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図20
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図22
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図26
図27
図28
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図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47