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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】顔料分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/324 20140101AFI20230517BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230517BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20230517BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230517BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C09D11/324
C09D17/00
C09D11/326
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022210649
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2023-01-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
(72)【発明者】
【氏名】南 智
(72)【発明者】
【氏名】越川 瞬平
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/185578(WO,A1)
【文献】Speciality Carbon Blacks Tachnical Data/Americas,Orion Engineered Carbons,2019年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
C09D 1/00-201/10
B41J 2/01-2/215
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液であって、
前記顔料が、前記顔料分散液中に分散した状態での数平均粒子径が80~300nmであるバイオマス由来のカーボンブラックであり、
前記分散剤が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノエステルの少なくともいずれかに由来する構成単位(i)と、バイオマス由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)と、を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、
前記ポリマーの酸価が50~150mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、
前記ポリマー中、前記構成単位(ii)の含有量が50質量%以上であり、
前記バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニルメタクリレートと、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、を含み、
すべての前記バイオマス由来の(メタ)アクリレート中のイソボルニルメタクリレートの割合が、40質量%以上である顔料分散液。
【請求項2】
前記分散剤が、下記要件(1)~(3)を満たす請求項1に記載の顔料分散液。
[要件(1)]
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布が1.6以下のA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]
前記ポリマー鎖Aが、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)を80質量%以上含み、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(3)]
前記ポリマー鎖Bが、メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含むとともに、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)を40~90質量%含み、酸価が100~260mgKOH/gであり、数平均分子量が3,000~10,000であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
【請求項3】
前記アルカリが、アンモニアと、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかとの組み合わせである請求項1又は2に記載の顔料分散液。
【請求項4】
前記顔料の含有量が10~30質量%であり、
前記分散剤の含有量が2~10質量%であり、
前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、
前記水の含有量が50~80質量%である請求項1又は2に記載の顔料分散液。
【請求項5】
水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液の製造方法であって、
その一次粒子の数平均粒子径が20~400nmであるバイオマス由来の原料カーボンブラック、前記分散剤、前記水溶性有機溶媒、及び前記水を含有する混合物を分散処理する工程を有し、
前記顔料が、前記顔料分散液中に分散した状態での数平均粒子径が80~300nmであるバイオマス由来のカーボンブラックであり、
前記分散剤が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノエステルの少なくともいずれかに由来する構成単位(i)と、バイオマス由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)と、を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、
前記ポリマーの酸価が50~150mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、
前記ポリマー中、前記構成単位(ii)の含有量が50質量%以上であり、
前記バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニルメタクリレートと、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、を含み、
すべての前記バイオマス由来の(メタ)アクリレート中のイソボルニルメタクリレートの割合が、40質量%以上である顔料分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用の水性インクを搭載したプリンターや印刷機は、その高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、及びカラー写真用と用途が多岐にわたってきており、特に産業用の高速印刷機として検討が進んでいる。モノクロ印刷には、通常、ブラック色のインクが使用される。また、フルカラー印刷には、通常、イエロー色、シアン色、マゼンタ色、及びブラック色の各インクが使用される。
【0003】
なお、文字や図形等は、基本的にはブラック色のインクで記録される。このため、ブラック色のインクは、イエロー色、シアン色、及びマゼンタ色のインクに比して使用量が多い。また、フルカラー印刷の場合であっても、プリンター等に搭載されるインクカートリッジのなかでは、ブラック色のインク用のカートリッジが特に大容量となっている。そして、近年、インクジェット用のブラック色のインクが種々提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-10632号公報
【文献】特開2009-67831号公報
【文献】特表2009-504884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、二酸化炭素排出量の削減、カーボンリサイクル、及びカーボンニュートラル等の観点から、現在使用されている石油由来の材料を、炭素循環可能なバイオマス由来の材料へと置き換える動きが活発になっている。具体的には、フィルム等の各種成形物の他、塗料及びインキ等の各種組成物を構成する材料として、バイオマス由来の材料を積極的に用いようとする強い要望がある。印刷物の画像を形成するためのインクジェット用の水性インクについても、バイオマス由来の材料を使用したいとの要求が高まっており、なかでも、使用量が特に多いブラック色のインクに対する要求が顕著に高まっている。
【0006】
ブラック色のインクには、通常、カーボンブラックが色材として配合されている。そして、環境に配慮したインクとするには、バイオマス由来のカーボンブラックを色材として用いる。しかし、バイオマス由来のカーボンブラックは、石油由来のカーボンブラックに比して粒子径が大きい。このため、バイオマス由来のカーボンブラックを液媒体中に良好な状態で分散させてインクを調製することは、一般的には困難である。そして、このようなバイオマス由来のカーボンブラックを用いて調製したブラック色のインクで記録した画像の濃度、発色性、及びグロス性等の特性が必ずしも十分でないといった課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高濃度であるとともに発色性及びグロス性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス由来のカーボンブラックが高度に微分散された顔料分散液を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この顔料分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す顔料分散液が提供される。
[1]水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液であって、前記顔料が、前記顔料分散液中に分散した状態での数平均粒子径が80~300nmであるバイオマス由来のカーボンブラックであり、前記分散剤が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノエステルの少なくともいずれかに由来する構成単位(i)と、バイオマス由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)と、を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、前記ポリマーの酸価が50~150mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、前記ポリマー中、前記構成単位(ii)の含有量が50質量%以上であり、前記バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である顔料分散液。
[2]前記分散剤が、下記要件(1)~(3)を満たす前記[1]に記載の顔料分散液。
[要件(1)]
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布が1.6以下のA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]
前記ポリマー鎖Aが、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)を80質量%以上含み、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(3)]
前記ポリマー鎖Bが、メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含むとともに、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)を40~90質量%含み、酸価が100~260mgKOH/gであり、数平均分子量が3,000~10,000であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
[3]前記バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニルメタクリレートと、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、を含み、すべての前記バイオマス由来の(メタ)アクリレート中のイソボルニルメタクリレートの割合が、40質量%以上である前記[1]又は[2]に記載の顔料分散液。
[4]前記アルカリが、アンモニアと、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかとの組み合わせである前記[1]~[3]のいずれかに記載の顔料分散液。
[5]前記顔料の含有量が10~30質量%であり、前記分散剤の含有量が2~10質量%であり、前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、前記水の含有量が50~80質量%である前記[1]~[4]のいずれかに記載の顔料分散液。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す顔料分散液の製造方法が提供される。
[6]水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液の製造方法であって、その一次粒子の数平均粒子径が20~400nmであるバイオマス由来の原料カーボンブラック、前記分散剤、前記水溶性有機溶媒、及び前記水を含有する混合物を分散処理する工程を有し、前記顔料が、前記顔料分散液中に分散した状態での数平均粒子径が80~300nmであるバイオマス由来のカーボンブラックであり、前記分散剤が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノエステルの少なくともいずれかに由来する構成単位(i)と、バイオマス由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)と、を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、前記ポリマーの酸価が50~150mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、前記ポリマー中、前記構成単位(ii)の含有量が50質量%以上であり、前記バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である顔料分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高濃度であるとともに発色性及びグロス性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス由来のカーボンブラックが高度に微分散された顔料分散液を提供することができる。また、本発明によれば、この顔料分散液の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<顔料分散液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の顔料分散液の一実施形態は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有するものである。以下、本実施形態の顔料分散液の詳細について説明する。
【0012】
(顔料)
本実施形態の顔料分散液は、微分散状態の顔料を含有する。顔料は、顔料分散液中に分散した状態での数平均粒子径が80~300nm、好ましくは90~200nmであるバイオマス由来のカーボンブラックである。「バイオマス由来」の材料は、生物、特に植物を原料として得られる材料である。バイオマス由来のカーボンブラックは、バイオマスから製造された従来公知のカーボンブラックであり、石油由来のカーボンブラックと異なり、カーボンニュートラル及びカーボンリサイクルを達成しうる、環境に配慮したカーボンブラックである。
【0013】
カーボンブラック(原料カーボンブラック)としては、例えば、植物性油を高温で不完全燃焼又は熱分解反応させて得られるカーボンブラック;植物性油を焚き上げて発生する煙を回収して得られるカーボンブラック(いわゆるランプブラック);植物又は植物種を炭化させて植物炭として得られるカーボンブラック;などを挙げることができる。植物性油としては、パーム油、やし油、ひまし油、松脂油、及び菜種油などを挙げることができる。植物炭としては、備長炭、竹炭、梅炭、松炭、白樺炭、及び楓炭などを挙げることができる。また、ヤシガラ等から得られる活性炭を用いることもできる。さらに、墨に使用される油煙煤や松煙煤等を用いることもできる。なかでも、非可食の植物から得られるカーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックは、結晶構造、アモルファス構造、及び黒鉛構造等の構造を有するものであってもよい。
【0014】
本実施形態の顔料分散液を製造する際には、その一次粒子の数平均粒子径が20~400nmであるバイオマス由来の原料カーボンブラックを用いる。その一次粒子の数平均粒子径が上記の範囲内にあるカーボンブラック(原料カーボンブラック)を、特定の分散剤を用いて水溶性有機溶媒及び水を含有する液媒体中に分散させることで、数平均粒子径80~300nmの分散状態のカーボンブラックを含有する、カーボンブラックの分散状態が長期にわたって維持される本実施形態の顔料分散液を得ることができる。原料カーボンブラックの一次粒子の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、及びX線回折等により測定することができる。カーボンブラックは、カルボキシ基で表面が修飾された酸性カーボンブラックであってもよく、水酸基、フェノール性水酸基、及びケトン基等で表面が修飾されていてもよい。以下、バイオマス由来のカーボンブラックのことを「バイオマスカーボンブラック」とも記す。
【0015】
本実施形態の顔料分散液は、上記のバイオマス由来のカーボンブラック以外の顔料(その他の顔料)をさらに含有してもよい。その他の顔料としては、石油材料由来のカーボンブラック等を挙げることができる。石油材料由来のカーボンブラックを含有させることで、バイオマス由来のカーボンブラックの機能を補完することが期待される。顔料全体に占める石油材料由来のカーボンブラックの割合は、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。なお、顔料分散液は、石油材料由来のカーボンブラックを実質的に含有しないことが好ましい。
【0016】
(分散剤)
分散剤は、水溶性有機溶媒及び水を含む液媒体中に顔料を分散させるための成分であり、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノエステルの少なくともいずれかに由来する構成単位(i)と、バイオマス由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)と、を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーである。
【0017】
ポリマーは構成単位(i)を含むため、その構造中にカルボキシ基が導入されている。そして、ポリマーの酸価は50~150mgKOH/g、好ましくは70~200mgKOH/gである。酸価が50mgKOH/g未満であると、カルボキシ基を中和してイオン化しても水に溶解せず、水性の顔料分散液やインク中で分散剤として性能を発揮しない。一方、酸価が150mgKOH/g超であると、水に溶解する部分が多くなるため、顔料分散液の粘度が過度に高まったり、水溶性が高くなりすぎたりすることがある。このため、顔料に吸着しても脱離しやすくなるとともに、親水性のカルボキシ基が過剰であることから、記録する画像の耐水性が低下する場合がある。
【0018】
ポリマー中のカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリで中和されてイオン化し、ポリマー(分散剤)を水に溶解させる作用を示す。構成単位(i)を構成するモノマーは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及びイタコン酸モノエステルの少なくともいずれかである。イタコン酸モノエステルとしては、イタコン酸モノメチルエステル及びイタコン酸モノエチルエステルなどを挙げることができる。
【0019】
構成単位(ii)を構成するモノマーは、バイオマス由来の(メタ)アクリレートである。バイオマス由来の(メタ)アクリレートは、イソボルニル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びオクタデシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である。イソボルニル基は、炭素数の多い疎水性のシクロアルキル基である。ドデシル基及びオクタデシル基は、高疎水性・親油性の長鎖アルキル基である。イソボルニル基、ドデシル基、及びオクタデシル基は、バイオマスカーボンに吸着する吸着基として作用すると考えられる。テトラヒドロフルフリル基は、炭素数が比較的少ない環状エーテル基である。エチル基は、炭素数が比較的少ないアルキル基である。テトラヒドロフルフリル基及びエチル基は、分散剤の水への溶解性を調整する作用を示すと考えられる。
【0020】
バイオマス由来の(メタ)アクリレートは、例えば、植物由来のアルコールを用いて得られるモノマーである。本実施形態の顔料分散液は、バイオマスカーボンブラック、及びバイオマス由来のモノマーで構成された分散剤を含有する、バイオマス由来の材料を多く用いた分散液である。このため、本実施形態の顔料分散液を用いて調製したインクで記録される画像は、バイオマス由来の膜を含むことから、カーボンニュートラル及びカーボンリサイクルの観点で、より環境に配慮されたものである。
【0021】
イソボルニル(メタ)アクリレートは、アルコールとしてイソボルネオールを使用したエステル化物である。このイソボルネオールは、松脂などから得られるカンフェンから得られる植物由来のアルコールである。エチル(メタ)アクリレートは、アルコールとしてエタノールを使用したエステル化物である。このエタノールは、サトウキビ、トウモロコシ、及び木材などのバイオマスを発酵させて得られるアルコールである。テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートは、テトラヒドロフルフラノールのエステル化物である。このテトラヒドロフルフラノールは、トウモロコシの穂軸やサトウキビのバガスに含まれるフルフラールの触媒による水素添加反応により工業的に得られるアルコールである。ドデシル(メタ)アクリレート及びオクタデシル(メタ)アクリレートは、それぞれ、ドデシルアルコール及びオクタデシルアルコールのエステル化物である。ドデシルアルコール及びオクタデシルアルコールは、ヤシ油及びパーム油から得られるアルコールである。
【0022】
ポリマー(分散剤)中、構成単位(ii)の含有量は50質量%以上、好ましくは80~95質量%である。構成単位(ii)の含有量が50質量%であることで、環境に配慮した分散剤として用いることができるとともに、このポリマーを分散剤として含有するインクで記録した画像及び印刷物を環境に配慮した画像等とすることができる。
【0023】
バイオマス由来の(メタ)アクリレートは、イソボルニルメタクリレートと、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、を含むことが好ましい。そして、すべてのバイオマス由来の(メタ)アクリレート中のイソボルニルメタクリレートの割合は、40質量%以上であることが好ましく、45~70質量%であることがさらに好ましい。バイオマス由来の(メタ)アクリレートとして、メタクリレートを用いることで、得られるポリマーのガラス転移点温度を高く設定することできるとともに、耐加水分解性を向上させることもできる。また、すべてのバイオマス由来の(メタ)アクリレート中のイソボルニルメタクリレートの割合を40質量%以上とすることで、疎水性の高い基がポリマーに多く導入されることとなり、顔料への吸着性を向上させることができる。なかでも、バイオマス由来の(メタ)アクリレートは、イソボルニルメタクリレートと、エチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートの少なくともいずれかと、を含むことが好ましい。
【0024】
バイオマス由来の(メタ)アクリレートは、石油材料由来の(メタ)アクリレートと区別することができる。さらに、石油材料由来の化合物には、炭素同位体の一つである炭素14(14C)が含まれていない。一方、バイオマス由来、なかでも植物材料由来の化合物には、炭素14(14C)が含まれている。このため、炭素14(14C)の有無によって、バイオマス由来の(メタ)アクリレートであるか否かを判断することができる。14Cの測定方法としては、ベータ線計測法及び加速器質量分析(AMS)法等を挙げることができる。特に、環境材料については、バイオベース濃度試験規格ASTM D6866、ヨーロッパ規格CEN16137、及びISO国際標準規格ISO16620-2等でも規定されている。
【0025】
分散剤として用いるポリマーは、構成単位(i)及び構成単位(ii)以外のその他の構成単位をさらに含んでもよい。その他の構成単位としては、例えば、石油材料に由来するラジカル重合性のモノマー(その他のモノマー)に由来する構成単位等を挙げることができる。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン等のビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸系モノマー;等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、トリデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イソステアリル、ベヘニル、シクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、t-ブチルシクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチル、グリシジル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングコリールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン等の置換基を有する単官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。なかでも、ポリアルキレングリコール鎖を有するモノマーは、ポリアルキレングリコール鎖が生分解性を有することから、環境対応のモノマーであるために好ましい。なお、分散剤として用いるポリマーは、上記の構成単位(i)及び(ii)のみで実質的に構成されていることが好ましい。
【0026】
分散剤であるポリマーの数平均分子量(Mn)は5,000~20,000、好ましくは6,000~18,000、さらに好ましくは7,000~15,000である。ポリマーのMnが5,000未満であると、顔料から脱離しやすくなり、顔料の分散安定性が低下する。一方、ポリマーのMnが20,000超であると、顔料分散液の粘度が高くなりすぎるとともに、顔料の粒子同士が吸着しやすくなって凝集することがある。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0027】
分散剤であるポリマーの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.5以下、好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.6以下である。ポリマーの分子量分布(PDI)が2.5超であると、顔料の分散性が低下する。リビングラジカル重合によって、得られるポリマーの分子量をそろえたり、構造を制御したりすることができる。ポリマーの分子量をそろえることで、高分子量のポリマーや低分子量のポリマーが少なく、顔料の分散性に寄与するポリマー鎖が多く含まれることになるので好ましい。
【0028】
分散剤は、(メタ)アクリル酸やイタコン酸等に由来するカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーである。カルボキシ基の少なくとも一部が中和されてイオン化しているため、このポリマーは水に親和及び溶解しやすい。
【0029】
アルカリとしては、アンモニア;トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコルモノアミン等の有機アミン;ココナッツアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ジメチルオクチルアミン等のバイオマス由来の有機モノアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;等を挙げることができる。なかでも、アルカリは、アンモニアと、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかとの組み合わせであることが好ましい。アンモニアで中和すると、記録後にアンモニアが揮発して元のカルボキシ基となるので、画像の耐水性を向上させることができる。また、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムで中和すると、カルボキシ基がイオン性であることからポリマーが水に溶解しやすく、インクの非乾燥性及び再溶解性を向上させることができる。
【0030】
分散剤として用いるポリマーは、従来公知の方法で製造することができる。具体的には、顔料分散液に含まれる水溶性有機溶媒を用いる溶液重合によって合成することが好ましい。例えば、アゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤を使用し、水溶性有機溶媒中にモノマーを滴下しながら、又は一括で仕込んで重合する。重合時には、得られるポリマーの分子量を調整するために、チオール類やブロモメチルアクリル酸エステル等の連鎖移動剤を併用してもよい。また、得られるポリマーの分子量をそろえるために、リビングラジカル重合法で合成してもよい。リビングラジカル重合法としては、原子移動ラジカル重合法;ニトロキサイド等を使用するNMP法;チオエステルやチオカーボネート等を使用する可逆的付加開裂型連鎖移動重合法;、有機テルルを開始剤とするTERP法;ヨウ素化合物を開始剤とするヨウ素移動重合法;無機・有機触媒を使用する可逆的移動触媒重合法や可逆的触媒媒介重合法;コバルト触媒等を使用する連鎖移動重合法;等を挙げることができる。
【0031】
分散剤は、下記要件(1)~(3)を満たすことが好ましい。
[要件(1)]
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~20,000であり、分子量分布が1.6以下のA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]
ポリマー鎖Aが、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)を80質量%以上含み、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(3)]
ポリマー鎖Bが、メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含むとともに、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)を40~90質量%含み、酸価が100~260mgKOH/gであり、数平均分子量が3,000~10,000であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
【0032】
この分散剤は、ポリマー鎖A(以下、「A鎖」とも記す)及びポリマー鎖B(以下、「B鎖」とも記す)を含むA-Bブロックコポリマーである。A鎖は、水不溶のポリマーブロックである。また、B鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されている水溶性のポリマーブロックである。A鎖は水不溶性のポリマーブロックであることから、疎水性が高く、水不溶性の顔料と疎水性相互作用しやすい。このため、A鎖は水素結合等によって顔料に吸着又は堆積し、顔料をカプセル化することができる。また、A鎖は高分子量であることから、顔料からほとんど脱離しない。そして、A鎖が顔料に吸着するとともに、B鎖が水に溶解するので、微分散された顔料同士が立体反発し、長期間にわたって微分散状態が維持される。また、液媒体中に遊離又は溶解している分散剤が少ない又は遊離していても、A鎖が水不溶性で粒子を形成しているので、インクの吐出安定性を向上させることができ、高速印刷に適したインクを提供することができる。
【0033】
B鎖は、水溶性のポリマーブロックである。分散剤は顔料に吸着しているので、この分散剤を含有するインクが記録ヘッド等で乾燥した場合であっても、分散剤は吸着した顔料から脱離しにくい。このため、顔料が凝集したり、脱離した分散剤が皮膜を形成したりすることがほとんどないので、再溶解性に優れており、水性の液媒体を添加することで分散状態へと容易に戻すことができる。
【0034】
[要件(1)]
分散剤は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むA-Bブロックコポリマーである。メタクリル酸系モノマーとしては、メタクリル酸及びメタクリル酸のエステル化物であるメタクリレート等を挙げることができる。A-Bブロックコポリマーは、その構造が的確に制御されたポリマーであり、リビング重合、なかでもリビングラジカル重合によって製造することができる。有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるリビングラジカル重合によってA-Bブロックコポリマーを製造することが、環境に配慮した材料を使用可能であるとともに、ポリマー設計の自由度が高いために好ましい。有機ヨウ化物を用いるリビングラジカル重合の場合、末端成長基であるヨウ素原子は第3級の炭素原子に結合していることが好ましいため、A-Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である。また、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が多いと、A-Bブロックコポリマーのガラス転移温度が高くなるので、耐熱性等の熱的性質が向上し、タックのない画像を記録することができる。さらに、メタクリル酸系モノマーは、アクリル酸エステル等のアクリル酸系モノマーに比して耐加水分解性が高いので、水性の液媒体中でも加水分解しにくく、比較的安定である。なかでも、A-Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が100質量%であることが好ましい。
【0035】
メタクリル酸系モノマーとしては、メタクリル酸及びバイオマス由来のメタクリレートを用いることが好ましい。なかでも、前述の通り、バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニルメタクリレートと、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、を含むことが好ましい。そして、すべてのバイオマス由来の(メタ)アクリレート中のイソボルニルメタクリレートの割合が、40質量%以上であることが好ましい。
【0036】
A-BブロックコポリマーのMnは5,000~20,000、好ましくは7,000~15,000である。A-BブロックコポリマーのMnが5,000未満であると、顔料から脱離しやすくなることがある。一方、A-BブロックコポリマーのMnが20,000超であると、重合中に粘度が過度に上昇したり、顔料分散液の粘度が過度に上昇したりすることがある。
【0037】
A-Bブロックコポリマーの分子量分布(PDI)は1.6以下、好ましくは1.5以下である。A-BブロックコポリマーのPDIが1.6超であると、上記のMnの範囲外のものが多く含まれることになり、顔料の分散性がやや不足することがある。
【0038】
[要件(2)]
ポリマー鎖Aは、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)を80質量%以上含み、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。すなわち、A鎖は、顔料に吸着及び堆積し、顔料をカプセル化しうるポリマーブロックである。
【0039】
A鎖中、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)の含有量は80質量%以上、好ましくは90質量%以上である。A鎖中の構成単位(ii-a)の含有量が80質量%未満であると、環境に対する配慮がやや不足する場合がある。また、構成単位(ii-a)の含有量が80質量%以上である限り、石油原料由来のメタクリレートに由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。さらに、A鎖が水不溶性のポリマーブロックである限り、メタクリル酸に由来する構成単位を、例えば0.5~5質量%程度含んでいてもよい。
【0040】
A鎖のMnは3,000~10,000、好ましくは4,000~8,000である。A鎖は、分子量がある程度大きいために顔料に吸着及び堆積しやすく、顔料をカプセル化することができる。A鎖のMnが3,000未満であると、水溶性有機溶媒等の液媒体に溶解しやすくなり、顔料から脱離しやすくなる場合がある。一方、A鎖のMnが10,000超であると水不溶性が強すぎることがあり、顔料に吸着しにくくなる場合がある。
【0041】
A鎖の分子量分布(PDI)は1.6以下、好ましくは1.5以下である。A鎖のPDIが1.6超であると、上記のMnの範囲外のポリマーブロックが多く含まれることとなり、顔料の分散性を高めることがやや困難になる場合がある。
【0042】
[要件(3)]
ポリマー鎖Bは、メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含むとともに、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)を40~90質量%含むポリマーブロックである。そして、ポリマー鎖Bは、酸価が100~260mgKOH/gであり、数平均分子量が3,000~10,000であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されている、イオン化することで水に溶解する水溶性のポリマーブロックである。
【0043】
B鎖の酸価は100~260mgKOH/g、好ましくは70~200mgKOH/gである。酸価がこの範囲内にあることで、カルボキシ基の少なくとも一部を中和して水に溶解させるポリマーブロックとすることができる。B鎖の酸価が100mgKOH/g未満であると、B鎖中にイソボルニル基などの高疎水性基を多く有するので、中和しても水に溶解させることができない場合がある。一方、B鎖の酸価が260mgKOH/g超であると、親水性が高くなりすぎることがある。このため、記録される画像(乾燥皮膜)の耐水性が低下しやすくなる場合があるとともに、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が相対的に減少するので、環境への対応性が低下することがある。
【0044】
A-Bブロックコポリマーを分散剤として含有するインクが乾燥した場合であっても、B鎖が水に溶解するので、水性の液媒体を付与することで分散状態へと容易に戻すことができる。なお、水不溶性のA鎖は顔料に吸着及び堆積しているので、インクが乾燥しても顔料から脱離しにくく、良好な分散状態へと戻すことができる。
【0045】
B鎖中、バイオマス由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)の含有量は40~90質量%、好ましくは50~80質量%である。このため、A-Bブロックコポリマーは、環境に配慮された分散剤である。
【0046】
B鎖のMnは3,000~10,000、好ましくは4,000~8,000である。なお、本明細書における「B鎖の数平均分子量(Mn)」は、「A-Bブロックコポリマー全体の数平均分子量(Mn)から、A鎖の数平均分子量(Mn)を引いた値」である。B鎖のMnが3,000未満であると、B鎖の水溶解性がやや不足し、顔料の分散安定性が不十分になることがある。一方、B鎖のMnが10,000超であると、A鎖が顔料に吸着していても、ポリマー全体として水に溶解しやすくなり、脱離しやすくなることがあるとともに、顔料分散液の粘度が過度に上昇する場合がある。
【0047】
B鎖は、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和され、イオン化することで水に溶解する水溶性のポリマーブロックである。アルカリとしては、前述のアンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等を用いることができる。カルボキシ基の全部がアルカリで中和されていてもよいし、B鎖が水に溶解しうる範囲で、カルボキシ基の一部が中和されていてもよい。
【0048】
A-Bブロックコポリマーは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、又はリビングラジカル重合によって製造することができる。なかでも、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合によって製造することが好ましい。
【0049】
リビングラジカル重合には、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、ニトロキサイドを介したラジカル重合(NMP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルル系リビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合(RCMP法)等がある。なかでも、有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるRTCP法やRCMP法が、重金属や特殊な化合物を必要とせずにコスト面で有利であるとともに、精製や処理の簡便さの面でも有利である。
【0050】
RTCP法及びRCMP法の場合、末端成長基であるヨウ素原子が第3級の炭素原子に結合しているため、安定化したラジカルが生成しやすく、特定のブロック構造を有するA-Bブロックコポリマーを一般的な設備で精度よく容易に製造することができるために好ましい。このため、A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上であることが好ましい。
【0051】
無溶剤、溶液重合、及び乳化重合等のいずれの重合形式によってA-Bブロックコポリマーを製造してもよい。なかでも、有機溶媒中で溶液重合することが好ましく、顔料分散液に配合する水溶性有機溶媒と同一の有機溶媒中で溶液重合することがさらに好ましい。これにより、A-Bブロックコポリマーを取り出すことなく、そのまま顔料分散液に用いることができる。上記のRTCP法やRCMP法は、顔料分散液に用いる水溶性有機溶媒中で実施することができる。
【0052】
A鎖とB鎖のいずれのポリマーブロックを先に重合してもよい。A鎖を重合した後にB鎖を重合することが好ましい。先にB鎖を重合すると、重合率が100%未満であった場合に、残存したモノマーに由来する構成単位が、後に重合するA鎖に導入されてしまう場合がある。この場合、B鎖の構成成分であるメタクリル酸がA鎖に多く導入されてしまうので、A鎖が水に溶解しやすくなる可能性がある。
【0053】
(分散媒体)
本実施形態の顔料分散液は、顔料の分散媒体として、水及び水溶性有機溶媒を含む液媒体を含有する。水としては、イオン交換水、蒸留水、及び精製水等を用いることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、グリコールエーテル類、アミド系溶媒、カーボネート系溶媒、その他の極性溶媒等を用いることができる。
【0054】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等を挙げることができる。グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を挙げることができる。グリコールエーテル類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、1,3-ブタングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等を挙げることができる。
【0055】
アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。カーボネート系溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等を挙げることができる。その他の極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができる。
【0056】
水溶性有機溶媒としては、バイオマス由来の溶媒、再生された溶媒、生分解性を有する溶媒、及びグリーンソルベント等を用いることが好ましい。具体的には、サトウキビ、トウモロコシ、及びセルロース材料等を糖化させて得られるエタノール;天然物からの抽出物である1,3-ブタンジオール及びグリセリン;生分解性を有する3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール;プラスチック製品等の様々な材料の再生溶媒であるエチレングリコール、プロピレングリコール及びこれらの誘導体;等を挙げることができる。
【0057】
分散剤は、顔料分散液や水性インクジェットインクに含有させる水溶性有機溶媒を用いる溶液重合によって製造することが好ましい。これらの水溶性有機溶媒を重合溶媒として用いると、重合して得られるポリマー溶液をそのまま用いて顔料分散液を調製することが可能であることから、工程を簡略化することができる。
【0058】
(その他の添加剤)
本実施形態の顔料分散液には、必要に応じて、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、pH調整のためのアルカリ、界面活性剤、防腐剤、水性インクジェットインク用のバインダー成分等を挙げることができる。
【0059】
アルカリとしては、前述のアルカリを用いることができる。また、界面活性剤を含有させることで、顔料分散液やインクの表面張力を所定の範囲に維持することができる。界面活性剤としては、シリコーン系、アセチレングリコール系、フッ素系、アルキレンオキサイド系、及び炭化水素系の界面活性剤等を挙げることができる。界面活性剤には、天然物やバイオマス由来の材料が用いられていることが好ましい。例えば、パーム油やココナッツ油等の脂肪酸や脂肪族アルコールを用いたポリアルキレングリコールエステル及びエーテル系の界面活性剤等が環境面で好ましい。界面活性剤は、一般的には、インクが発泡する原因となったり、フィルム表面でインクが弾かれる原因となったりすることがある。また、界面活性剤を添加することで顔料が凝集しやすくなることがあるので、界面活性剤の添加量を適切に制御することが好ましい。
【0060】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ソルビタン酸カリウム、ソルビタン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、チアゾスルファミド、及びピリジンチオールオキシド等を挙げることができる。
【0061】
顔料分散液には、水性インクジェットインク用のバインダー成分を予め含有させておいてもよい。なお、バインダー成分を含有するインクは、例えば、普通紙、写真印画紙、フォト光沢紙、及びマット紙等の紙類に画像を記録するインクとして有用である。なお、プラスチックフィルム、プラスチック成形品、繊維、布地、金属、及びセラミックス等の非吸収性の記録媒体に画像を記録するインクには、膜形成成分であるバインダー成分をさらに含有させることが好ましい。膜形成成分を含有するインクを用いることで、膜形成成分が皮膜を形成し、記録される画像(乾燥皮膜)の密着性、耐乾摩擦性、耐湿摩擦性、耐ブロッキング性、耐薬品性、耐溶剤性、及び耐傷性等を向上させることができる。
【0062】
バインダー成分としては、アクリル系ポリマー、スチレンアクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、及びポリオレフィン系ポリマー等のポリマーを用いることができる。これらのポリマーは、水溶液、水分散体、及びエマルジョンの形態で用いることができる。
【0063】
アクリル系ポリマー及びスチレンアクリル系ポリマーとしては、界面活性剤の存在下、スチレンやメタクリレート等のアクリル酸系モノマーを重合して得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmのエマルジョンを用いることができる。これらのポリマーは、水不溶性のA鎖及び水溶性のB鎖を有するA-BブロックコポリマーやA-B-Aブロックコポリマーであることが好ましい。これらのポリマーを構成するモノマー成分が、バイオマス由来の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0064】
ウレタン系ポリマーとしては、ジイソシアネート、ポリオール、短鎖ジオール、及びジオールモノカルボン酸等を反応させるとともに、必要に応じてヒドラジンやイソホロンジアミン等を反応させて鎖延長させた後、アルカリ水を用いて自己乳化させて得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmの水分散体を用いることができる。ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネートの他、天然材料由来のリジンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート等が好ましい。ポリオールとしては、ポリカーボネートジオールの他、天然材料であるひまし油ポリオール等が好ましい。短鎖ジオールとしては、ジエチレングリコールの他、天然材料由来のエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソソルバイド等が好ましい。ジオールモノカルボン酸としては、ジメチロールプロパン酸等が好ましい。
【0065】
ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸やフタル酸等の二塩基酸と、エチレングコリール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオールと、ジメチルイソフタル酸スルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基を有するモノマーと、を脱水又は脱アルコールさせてポリエステルとした後、強制撹拌しながら水を添加して得られる水分散体を用いることができる。
【0066】
ポリオレフィン系ポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレンのアクリル酸共重合体や、マレイン酸グラフト物等を有機溶剤に溶解した後、強制撹拌しながらアルカリ水溶液を添加して水分散体とし、さらに脱有機溶剤処理して得られる水分散体を用いることができる。
【0067】
顔料分散液には、必要に応じて、前述の水溶性有機溶媒以外の有機溶媒、レベリング剤、表面張力調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、フィラー、ワックス、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、帯電防止剤、金属微粒子、及び磁性粉等のその他の添加剤をさらに含有させることができる。
【0068】
(顔料分散液)
本実施形態の顔料分散液は、前述の通り、その一次粒子の数平均粒子径が20~400nmであるバイオマスカーボンブラック(原料カーボンブラック)を、特定の分散剤を使用して分散媒体中で分散させて調製することができる。一次粒子の数平均粒子径が比較的大きい上記の原料カーボンブラックであっても、特定の分散剤を使用し、機械的(物理的)に分散させることで、分散状態での数平均粒子径が80~300nmであるバイオマスカーボンブラックを含有する顔料分散液を得ることができる。
【0069】
分散状態のバイオマスカーボンブラックの数平均粒子径が80~300nm、好ましくは85~130nmであることで、高濃度であるとともに発色性及びグロス性に優れた画像を記録しうる、インクジェット法による吐出安定性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な顔料分散液とすることができる。顔料分散液中のバイオマスカーボンブラックの数平均粒子径(分散粒子径)が80nm未満であると、記録される画像の光学濃度(黒度)や発色性が不足する。一方、顔料分散液中のバイオマスカーボンブラックの数平均粒子径(分散粒子径)が300nm超であると、記録ヘッドが詰まりやすくなるとともに、記録される画像の光学濃度(黒度)、発色性、及びグロス性が不足する。顔料分散液中の分散粒子(バイオマスカーボンブラック)の数平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径分布測定装置を使用して測定することができる。
【0070】
顔料分散液中の顔料の含有量は、10~30質量%であることが好ましく、12~25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料分散液中の水の含有量は、50~80質量%であることが好ましく、55~75質量%であることがさらに好ましい。
【0071】
顔料分散液中の水溶性有機溶媒の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒の含有量が30質量%超であると、この顔料分散液を用いて調製したインクで記録した画像が乾燥しにくくなることがある。
【0072】
顔料分散液中の分散剤の含有量は、2~10質量%であることが好ましく、3~8質量%であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が2質量%未満であると、顔料を安定的に分散させることがやや困難になることがある。一方、分散剤の含有量が10質量%超であると、粘度が高くなりすぎるとともに、非ニュートニアン粘性を示してしまい、インクジェット方式で直線的に吐出することがやや困難になる場合がある。
【0073】
顔料分散液中の分散剤の含有量は、顔料の種類、表面性質、及び粒子径等に応じて設定することも好ましい。具体的には、顔料分散液中の分散剤の含有量を、顔料100質量部に対して、5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。
【0074】
顔料分散液中のアルカリの含有量は、調製しようとするインク中の含有量が0.5~5質量%となる量であることが好ましい。顔料分散液中の防腐剤の含有量は、調製しようとするインク中の含有量が0.05~2.0質量%となる量であることが好ましく、0.1~1.0質量%となる量であることがさらに好ましい。顔料分散液中のバインダー成分の含有量は、調製しようとするインク中の含有量が、顔料100部に対して10~200質量部となる量であることが好ましく、20~150質量部となる量であることがさらに好ましい。
【0075】
顔料分散液の粘度は、調製しようとするインクの粘度等に応じて適宜設定することができる。顔料分散液の25℃における粘度は2.5~20mPa・sであることが好ましく、2.6~10mPa・sであることがさらに好ましい。
【0076】
顔料分散液の25℃における表面張力は、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。顔料分散液の表面張力は、例えば、水溶性有機溶媒の種類及び量によって、又は界面活性剤等を添加すること等にとって調整することができる。
【0077】
顔料分散液の25℃におけるpHは、7.0~10であることが好ましく、8.0~9.5であることがさらに好ましい。分散剤がアルカリで中和されているため、顔料分散液の液性が酸性であると分散剤が析出することがあり、顔料が凝集する場合がある。
【0078】
<顔料分散液の製造方法>
上述の顔料分散液は、以下に示す方法にしたがって製造することができる。すなわち、本発明の顔料分散液の製造方法の一実施形態は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液の製造方法であり、その一次粒子の数平均粒子径が20~400nm、好ましくは25~200nmであるバイオマス由来の原料カーボンブラック、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する混合物を分散処理する工程(分散処理工程)を有する。
【0079】
分散処理工程では、まず、原料カーボンブラック(顔料)、分散剤、水、及び水溶性有機溶媒を混合して混合物を調製する。そして、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を使用して混合物を分散処理し、顔料を微分散させて分散液を調製する。調製した分散液に、水及び水溶性有機溶媒を添加するとともに、必要に応じて、バインダー成分及びその他の添加剤等を添加して所望の濃度に調整する。さらに、アルカリ等を添加してpHを調整してもよい。そして、界面活性剤や防腐剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することで、目的とする顔料分散液を得ることができる。
【0080】
本実施形態の製造方法では、その一次粒子の粒子径が比較的大きいバイオマスカーボンブラックである原料カーボンブラックを、所定の細かい粒子径となるように分散させる。分散処理には、メディアを使用したミルや高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。メディアの衝突や高圧による粒子の衝突によって、乾燥状態で大きい粒子径を所定の粒子径まで破砕する。メディアを使用したミルでは、例えば、用いるメディア(粉砕メディア)のサイズを小さくする;粉砕メディアの充填率を高める;周速を速くする;処理時間を長くする;吐出速度を遅くする;等の手法をとることができる。高圧ホモジナイザーでは、圧力を高める;パス回数を増加する;等の手法をとることができる。分散処理後、必要に応じて遠心分離処理する、又はフィルターでろ過する等して粗大粒子を除去してもよい。
【0081】
<顔料分散液の使用>
本実施形態の顔料分散液は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる材料として、すなわち、水性インクジェットインク用の着色剤として有用である。本実施形態の顔料分散液を用いることで、高濃度であるとともに発色性及びグロス性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性に優れた水性インクジェットインクを調製することができる。また、水性インクジェットインクだけでなく、例えば、自動車や建材用の水性塗料、水性文具の他、水性グラビアインキや水性フレキソインキ等の印刷インキ用の材料(着色剤)として用いることもできる。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0083】
<分散剤の製造>
(合成例1)
ジエチレングリコール(BDG)300部を反応容器に入れ、窒素をバブリングしながら70℃に加温した。イソボルニルメタクリレート(IBXMA)120部、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)90部、ラウリルメタクリレート(LMA)45部、メタクリル酸(MAA)45部、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フイルム社製)(V-65)4.5部を別容器に入れて混合し、均一化してモノマー混合液を調製した。
【0084】
IBXMAとしては、松脂や松精油から得られるイソボルネオールと、メタクリル酸とを反応して得られたメタクリレート(バイオマス度71.4%)を用いた。THFMAとしては、トウモロコシの芯等から得られるフルフラールを水素化して得たテトラヒドロフルフリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物(バイオマス度55.5%)を用いた。LMAとしては、パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得た脂肪酸の分留物であるラウリン酸を水素還元して得たラウリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物(バイオマス度75.0%)を用いた。
【0085】
調製したモノマー混合液の1/3を反応容器内に滴下した後、モノマー混合液の残部を2時間かけてさらに滴下し、70℃で8時間重合して、ポリマーを含有する液体を得た。得られた液体の一部をサンプリングし、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は15,800であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.98であり、重合率は約100%であった。重合率は、得られた液体の一部をアルミ皿に測りとり、150℃の送風乾燥機にて3時間乾燥させ、得られた残分から算出した。
【0086】
得られた液体の一部をサンプリングし、トルエン/エタノール(=1/1(体積比))混合溶媒を加えて均一化した。1%フェノールフタレイン/エタノール溶液を数滴加え、0.1規定(0.1mol/L)の水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して、ポリマーの酸価を測定した。その結果、ポリマーの酸価は97.8mgKOH/gであった。ポリマーを含有する溶液に、28%アンモニア水34.9部(含有するカルボキシ基に対し100mol%)及び水114.2部の混合液を添加して中和し、分散剤D-1の水溶液を得た。得られた水溶液の固形分は40.1%であり、pHは8.9であった。
【0087】
(合成例2~4、比較合成例1~3)
表1に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、分散剤D-2~4、比較分散剤HD-1~3の水溶液を得た。得られた分散剤の物性等を表1に示す。なお、表1中の略号の意味を以下に示す。
・MPG:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・LSH:ラウリルチオール
・EMA:エチルメタクリレート(でんぷんを発酵して得られるイタコン酸をバイオマスのエタノールと、メタクリル酸とのエステル化物、バイオマス度33.3%)
・StMA:ステアリルメタクリレート(パーム核油やヤシ油等の油脂から得たステアリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物、バイオマス度81.8%)
・ITME:イタコン酸モノエチル(でんぷんを発酵して得られるイタコン酸をバイオマスのエタノールでモノエステル化したもの、バイオマス度100%)
【0088】
【0089】
(合成例5)
BDG283.1部、IBXMA59.6部、THFMA59.6部、ヨウ素2.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フイルム社製)(V-70)3.6部、及びN-アイオドコハク酸イミンド(NIS)0.1部を反応容器に入れた。窒素をバブリングしながら45℃に加温し、4時間重合してA鎖(ポリマー)を形成した。一部をサンプリングして測定したA鎖のMnは4,900であり、PDIは1.19であり、重合率は約100%であった。
【0090】
IBXMA59.5部、THFMA59.5部、及びMAA30.2部の混合物を添加し、45℃で4時間重合してB鎖を形成し、A-Bブロックコポリマーを得た。A-BブロックコポリマーのMnは10,800であり、PDIは1.26であり、酸価は73.2mgKOH/gであり、重合率は約100%であった。また、B鎖のMn(全体のMn-A鎖のMn)は5,900であり、重合率を考慮した配合値から算出したB鎖の酸価は132.0mgKOH/gであった。室温まで冷却した後、水酸化ナトリウム14.0及び水125.8部の混合液を添加して中和し、分散剤D-5の水溶液を得た。得られた水溶液の固形分は41.6%であり、pHは10.2であった。
【0091】
(合成例6~8)
表2に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の合成例5と同様にして、分散剤D-6~8の水溶液を得た。得られた分散剤の物性等を表2に示す。
【0092】
【0093】
<分散剤の用意>
(分散剤HD-4)
スチレン-無水マレイン酸共重合体(スチレン/無水マレイン酸=1/1(mol比)、Mn5,000、酸価470.0mgKOH/g)をアンモニアで中和して得た水溶液(固形分35.0%)を、分散剤HD-4の水溶液として用意した。この分散剤HD-4は、すべて石油由来の材料で製造された高酸価の分散剤(ポリマー)である。
【0094】
<顔料分散液の製造(1)>
(実施例1)
分散剤D-1の水溶液89.1部及びイオン交換水337.8部を混合して透明の液体を得た。得られた溶液に、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック6、商品名「プリンテックスネイチャー」、オリオン・エンジニアドカーボン社製、一次粒子の数平均粒子径27nm、吸油量68cm/100g)150部を添加し、ディスパーを使用して30分乾撹拌してミルベースを調製した。このカーボンブラックは、バイオマス由来のカーボンブラック(原料カーボンブラック)である。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速10m/sで5パスの分散処理を実施してミルベース中に顔料を十分に分散させた。水256.4部を添加して顔料濃度が18%となるように調整した。ミルベースを遠心分離処理(7,500回転、20分間)した後、ポアサイズ5μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、顔料濃度が14%であるインクジェット用の顔料分散液-1を得た。
【0095】
粒度測定器(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定した顔料分散液-1中の顔料の数平均粒子径は116.6nmであり、顔料が微分散されていることを確認した。顔料分散液-1の粘度は2.7mPa・sであり、pHは8.4であった。顔料分散液-1の粘度は、E型粘度計を使用し、60回転の条件で測定した25℃における値である。70℃で1週間保存後の顔料分散液-1中の顔料の数平均粒子径は116.5nmであり、粘度は2.6mPa・sであった。これにより、顔料分散液-1の保存安定性が非常に良好であることを確認した。
【0096】
(実施例2~8、比較例1~4、参考例1~3)
表3に示す種類の分散剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、顔料分散液-2~8、顔料分散液-1H~4Hを得た。また、表3に示す種類の分散剤を用いるとともに、C.I.ピグメントブラック7(商品名「プリンテックス85」、オリオン・エンジニアドカーボン社製、一次粒子の数平均粒子径16nm、吸油量54cm/100g)をカーボンブラックとして用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、顔料分散剤-1S~3Sを得た。このカーボンブラックは、石油由来のカーボンブラック(原料カーボンブラック)である。得られた各顔料分散液の特性を表3に示す。また、表3中の「評価」の基準を以下に示す。なお、「○」が合格であり、「△」及び「×」は不合格である。
○:顔料が微分散されており、70℃で1週間保存しても顔料の数平均粒子径及び粘度が大きく変化しなかった。
△:顔料が微分散されているが、粘度が4.0mPa・s超であった、又は70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度が大きく変化した。
×:顔料が微分散されているが、70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径が増大した、又は粘度が増大した。
【0097】
【0098】
<インクの調製>
(評価例1~11)
表4に示す種類の顔料分散液28.7部、BDG1.5部、2-ピロリドン5部、グリセリン20.0部、界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製)1部、及び水44.8部を混合した。十分撹拌した後、ポアサイズ5μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインクI-1~11を調製した。
【0099】
(再溶解性)
各インクをガラスプレートに一滴落とした。60℃で24時間乾燥させた後、イオン交換水を添加し、以下に示す評価基準にしたがってインクの再溶解性を評価した。結果を表4に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とする。
◎:ブツ及び膜がいずれもない分散液の状態に戻った。
○:細かい膜状物がみられるが、元の分散液の状態に戻った。
△:膜状物が脱離して剥がれていた。
×:溶解しなかった。
【0100】
(吐出性)
各インクをカートリッジにそれぞれ充填し、インクジェットプリンタ(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)に装着した。(i)専用写真用光沢紙(PGPP)、及び(ii)普通紙(商品名「4024」、ゼロックス社製)に、「フォト720dpi」の印刷モードでベタ画像を印刷した。印刷時のインクの吐出状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。結果を表4に示す。なお、「○」を合格とする。
○:問題なく吐出することができた。
×:途中でスプラッシュしたり、液滴吐出が直進していなかったりした。
【0101】
(光学濃度及び20°グロスの測定)
光学濃度計(商品名「マクベスRD-914」、マクベス社製)を使用し、PGPPに記録した画像の光学濃度(OD値)及び20°グロス、並びに普通紙に記録した画像の光学濃度(OD値)を測定した。結果を表4に示す。なお、各物性値はそれぞれ5回測定し、いずれも平均値を算出した。
【0102】
(耐擦過性)
PGPPに記録した画像の表面を指で擦り、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐擦過性を評価した。結果を表4に示す。なお、「○」及び「△」を合格とする。
○:指にインクが付着しなかった。
△:指にインクが付着したが画像は乱れなかった。
×:画像に筋が生じた。
【0103】
【0104】
<顔料分散液の製造(2)>
(実施例9)
竹炭(商品名「微細竹炭粉末」、協同組合トラスト社製、一次粒子の数平均粒子径350nm)をカーボンブラック(原料カーボンブラック)として用いたこと以外は、前述の実施例8と同様にして、顔料分散液-9を得た。なお、顔料分散液-9の製造途中及び製造後(分散処理(1~5パス)の途中、フィルター・遠心分離処理後、及び70℃で1週間保存後)に、顔料分散液中の顔料の数平均粒子径を測定した。結果を表5に示す。
【0105】
【0106】
表5に示すように、一次粒子径が大きい竹炭を原料カーボンブラックとして用いた場合であっても、実施例8と同様にして、分散安定性に優れた顔料分散液を得ることができた。
【0107】
また、製造した顔料分散液-9を用いて前述の評価例と同様にしてインクジェット用のインクを調製し、各種の評価を行った。その結果、再溶解性、吐出性、及び耐擦過性については、顔料分散液-8を用いて調製したインクI-8と同等の評価結果であった。また、PGPPに記録した画像の光学濃度(OD値)は1.81であり、20°グロスは38.3であった。さらに、普通紙に記録した画像の光学濃度(OD値)は0.99であった。このように、画像の特性は、インクI-8で記録した画像の特性よりも若干劣っていたが、実用の範囲内であったことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の顔料分散液は、バイオマス由来のカーボンブラックが高度に微分散されており、水性インクジェットインクを調製するための材料として有用である。
【要約】
【課題】高濃度であるとともに発色性及びグロス性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、バイオマス由来のカーボンブラックが高度に微分散された顔料分散液を提供する。
【解決手段】水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液である。顔料が、顔料分散液中に分散した状態での数平均粒子径が80~300nmであるバイオマス由来のカーボンブラックであり、分散剤が、(メタ)アクリル酸等に由来する構成単位(i)と、バイオマス由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)とを含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、ポリマーの酸価が50~150mgKOH/gであり、バイオマス由来の(メタ)アクリレートが、イソボルニル(メタ)アクリレート等である。
【選択図】なし