(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】削孔装置
(51)【国際特許分類】
E21B 7/18 20060101AFI20230518BHJP
【FI】
E21B7/18
(21)【出願番号】P 2019133222
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(73)【特許権者】
【識別番号】510181909
【氏名又は名称】株式会社久野製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 佑香
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿子
(72)【発明者】
【氏名】細川 良美
(72)【発明者】
【氏名】林 秀明
(72)【発明者】
【氏名】武藤 寿也
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-14955(JP,A)
【文献】特開2010-101011(JP,A)
【文献】特開2006-247799(JP,A)
【文献】登録実用新案第3144811(JP,U)
【文献】特開2013-129049(JP,A)
【文献】特開2015-190243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 7/18
E04G 23/02
E04G 23/08
B26F 3/00
B28D 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水を噴出するノズルを備え前記ノズルより高圧水を噴出してコンクリート構造物の壁内に孔を穿設するための削孔手段と、前記削孔手段をコンクリート構造物の壁面へ装着するための装着手段と、前記削孔手段と前記装着手段とを連結するための連結手段と、を備えた削孔装置であって、
前記削孔手段は、
前記ノズルが先端に設けられた高圧ランスと、
前記高圧ランスを自らの軸の周りに回転させるための自転駆動手段と、
前記高圧ランスを軸方向に移動させるための移動手段と、を備え、
前記装着手段は、
前記高圧ランスが挿通可能な円形の開口を有し、前記コンクリート構造物の壁面に接合されるベース部材と、
前記削孔手段を前記高圧ランスの自転軸と平行であって異なる位置にある軸の周りに回転させるための公転駆動手段と、を備えていることを特徴とする削孔装置。
【請求項2】
前記装着手段は、
前記ベース部材の前面側に設けられた支承部材と、
前記支承部材に対して回転可能に装着された回動部材と、
前記支承部材及び前記ベース部材を貫通するように配設されたガイドパイプと、
前記回動部材と前記ガイドパイプとを結合する第1結合手段と、
前記ガイドパイプと前記削孔手段とを結合する第2結合手段と、を備え、
前記高圧ランスは、前記削孔手段が前記装着手段に連結された状態にて前記ガイドパイプを貫通するように配され、
前記公転駆動手段は、前記回動部材を往復揺動可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の削孔装置。
【請求項3】
前記ガイドパイプの周壁には開口が形成され、前記ガイドパイプの前記開口の形成部に吸引用のホースの端部が接続されていることを特徴とする請求項2に記載の削孔装置。
【請求項4】
前記高圧ランスの先端部には、当該高圧ランスの軸と直交する方向へ高圧水を噴出するノズルと、前記高圧ランスの軸に対して斜め方向へ高圧水を噴出するノズルと、が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の削孔装置。
【請求項5】
前記削孔手段は、前記第2結合手段と一体のフレームと、前記フレームに設けられたガイドレールと、前記自転駆動手段に装着され前記高圧ランスの後端側を保持するホルダと、を備え、
前記自転駆動手段及び前記ホルダは、前記ガイドレールに沿って前記高圧ランスの軸方向へ移動可能に設置され、前記移動手段と前記自転駆動手段との間には位置調整可能な連結手段が設けられていることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の削孔装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲線状の長孔を穿設可能な削孔装置に関し、特に既設のコンクリート構造物にU字状の補強材を配設するための長孔を形成するのに利用して有効な削孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート柱の補強方法に関する技術として、例えばコンクリート柱の一側面より長孔を穿ち、この長孔に剪断補強材を打ち込み残部空隙に流動状硬化性樹脂もしくは無機系モルタルを充填し固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
上記補強方法においては、柱の一側面から、対面に沿って埋設されている主筋列近傍にまで達する真っ直ぐな長孔を複数本平行もしくは交差するように穿ち、それぞれの長孔に剪断補強材を挿入して周囲を充填、固化させるというものであり、複数本の補強材は互いに結合されておらずバラバラである。そのため、補強材によるコアコンクリートの拘束力が充分なものでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-110365号公報
【文献】特開2004-84363号公報
【文献】特開2006-28751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、既設のコンクリート構造物内に補強材を挿入するための長孔をU字状に形成し、その長孔に連続した補強材を挿入することができれば、補強材によってコンクリートを拘束する力が生じるため、より一層耐震強度を高めることができる。
しかし、コンクリート柱にその一側面よりU字状の長孔を穿つことは技術的に困難であり、従来、そのような技術は実用化されていなかった。
【0005】
なお、曲線孔を形成するための曲線削孔装置に関する発明としては、曲線孔と同一曲率に形成された外管と、前端部にウォータージェットが取り付けられた内管とからなる二重管を備え、外管の前端部に配置されたウォータージェットから高圧水を噴射して地盤を掘削しながら、二重管を地盤内に挿入することにより、曲線孔を削孔するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
しかしながら、特許文献2や3に記載されている曲線削孔装置は、いずれも地盤内に曲線孔を形成するための装置であって、コンクリート柱のような硬度の高い構造物に曲線孔を形成することはできない。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、コンクリート構造物に曲線孔を形成することが可能な削孔装置を提供することにある。
本発明の他の目的は既設のコンクリート柱に耐震補強用の材料を挿入するためのU字状の孔を形成することが可能な小型かつ作業性の良い削孔装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明は、
高圧水を噴出するノズルを備え前記ノズルより高圧水を噴出してコンクリート構造物の壁内に孔を穿設するための削孔手段と、前記削孔手段をコンクリート構造物の壁面へ装着するための装着手段と、前記削孔手段と前記装着手段とを連結するための連結手段と、を備えた削孔装置であって、
前記削孔手段は、
前記ノズルが先端に設けられた高圧ランスと、
前記高圧ランスを自らの軸の周りに回転させるための自転駆動手段と、
前記高圧ランスを軸方向に移動させるための移動手段と、を備え、
前記装着手段は、
前記高圧ランスが挿通可能な円形の開口を有し、前記コンクリート構造物の壁面に接合されるベース部材と、
前記削孔手段を前記高圧ランスの自転軸と平行であって異なる位置にある軸の周りに回転させるための公転駆動手段と、を備えているように構成したものである。
【0008】
上記のような構成を有する削孔装置によれば、先端にノズルを備えた高圧ランスを、自転軸の周りと公転軸の周りに揺動させることができるため、自由度の高い削孔が行える。また、高圧水を噴出するノズルを切り替えて、高圧ランスの軸に対する角度の異なる孔を削孔することで曲線孔を形成することができる。さらに、自転の振り幅を同一に維持したまま公転の振り幅を変化させることで、ほぼ同一断面(矩形状)の孔を穿設することができるため、同一断面の長孔を削孔する際における駆動手段(モータ)の制御が簡単になる。また、揺動角度や揺動回数、削孔時間をプログラム等で詳細に設定することで、削孔精度を高めることができ、仕上がり状態を向上させることができる。
【0009】
ここで、望ましくは、前記装着手段は、
前記ベース部材の前面側に設けられた支承部材と、
前記支承部材に対して回転可能に装着された回動部材と、
前記支承部材及び前記ベース部材を貫通するように配設されたガイドパイプと、
前記回動部材と前記ガイドパイプとを結合する第1結合手段と、
前記ガイドパイプと前記削孔手段とを結合する第2結合手段と、を備え、
前記高圧ランスは、前記削孔手段が前記装着手段に連結された状態にて前記ガイドパイプを貫通するように配され、
前記公転駆動手段は、前記回動部材を往復揺動可能に構成する。
【0010】
上記のような構成によれば、高圧ランスを自転軸の周りと公転軸の周りに揺動させることができるとともに、装着手段(公転駆動ユニット)に対して削孔手段(削孔ユニット)を容易に着脱可能な小型で操作性の良好な削孔装置を実現することができる。また、それによって、コンクリート構造物の壁面の2以上の箇所に対して削孔を実施する場合に、複数の削孔装置を被削孔対象の構造物の壁面に装着することができ、施工性を向上させることができる。さらにた、ノズルを切り替える際に、高圧ランスをガイドパイプの内壁に沿って移動させることで、安定した削孔手段(削孔ユニット)の着脱が可能となり、装着状態の再現性を向上させることができる。
【0011】
また、望ましくは、前記ガイドパイプの周壁には開口が形成され、前記ガイドパイプの前記開口の形成部に吸引用のホースの端部が接続されているようにする。
これにより、ガイドパイプを、高圧ランスを挿通するための部材および削孔で生じたハツリを外部へ排出するための部材として供用することができ、装置をコンパクトに構成することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記高圧ランスの先端部には、当該高圧ランスの軸と直交する方向へ高圧水を噴出するノズルと、前記高圧ランスの軸に対して斜め方向へ高圧水を噴出するノズルと、が設けられているようにする。
これにより、高圧水の噴出による削孔方向を切り替える際にノズルを交換する必要がなく、作業効率を高めることができる。
【0013】
また、望ましくは、前記削孔手段は、前記第2結合手段と一体のフレームと、前記フレームに設けられたガイドレールと、前記自転駆動手段に装着され前記高圧ランスの後端側を保持するホルダと、を備え、
前記自転駆動手段及び前記ホルダは、前記ガイドレールに沿って前記高圧ランスの軸方向へ移動可能に設置され、前記移動手段と前記自転駆動手段との間には位置調整可能な連結手段が設けられているように構成する。
かかる構成によれば、削孔の方向を切り替える際にフレームに対する自転駆動手段及びホルダランス軸方向の固定位置を変えることで、削孔したい方向に応じてノズルを最適位置に容易に設定することができる。また、高圧ランスを軸方向に移動させる移動手段による移動範囲が比較的狭くても、固定位置を変えることで、移動範囲を変更することなく異なる位置に孔を穿設することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の削孔装置によれば、コンクリート構造物に曲線孔を削孔することができる。また、コンクリート柱に耐震補強用の材料を挿入するための曲率の大きなU字状の孔を削孔することができる小型かつ作業性の良い削孔装置を実現することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る削孔装置を構成する削孔ユニットの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】実施形態の削孔ユニットの構成を示す側面図である。
【
図3】実施形態の削孔ユニットの構成を示す正面図である。
【
図4】実施形態の削孔装置を構成する公転駆動ユニットの構成を示すもので、(A)は正面図、(B)はその側面図である。
【
図5】(A)~(C)は実施形態の公転駆動ユニットが公転動作した状態を示す正面図である。
【
図6】実施形態の公転駆動ユニットに削孔ユニットを装着した状態を示す側面図である。
【
図7】実施形態の削孔ユニットを構成する高圧ランスの先端のヘッド部の構成例を示すもので、(A)はヘッド部の拡大平面図、(B)はヘッド部の拡大側面図である。
【
図8】高圧ランスの先端のヘッド部の揺動時の状態を示すもので、(A)は自転による揺動時のヘッド部の正面図、(B)は公転による揺動時のヘッド部の正面図である。
【
図9】(A)~(E)は高圧ランスの自転と公転を組み合わせて長孔を形成して行く様子を示す説明図である。
【
図10】耐震補強用のU字状の鋼材を挿入したコンクリート柱の構造の一例を示す断面図である。
【
図11】(A)および(B)はコンクリート柱へのU字状の長孔の削孔作業の第1工程を示す断面平面図である。
【
図12】(A)および(B)はコンクリート柱へのU字状の長孔の削孔作業の第2工程を示す断面平面図である。
【
図13】(A)および(B)はコンクリート柱へのU字状の長孔の削孔作業の第3工程を示す断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係るコンクリート構造物に曲線孔を削孔可能なウォータージェット式の削孔装置の実施形態について詳細に説明する。
図1~
図4は本発明に係る削孔装置の一実施形態を示すもので、このうち、
図1は削孔装置を構成する削孔ユニットの平面図、
図2は削孔ユニットの側面図、
図3は削孔ユニットの正面図、
図4(A)および(B)は削孔装置を構成する公転駆動ユニットを示す正面図および側面図である。
本実施形態の削孔装置は、ウォータージェットを噴出するノズルを備えたヘッド部11を有する
図1~
図3に示すような構成の削孔ユニット10と、削孔対象のコンクリート構造物の壁面に固定され上記削孔ユニット10を支承しつつ公転運動を付与する
図4に示すような構成の公転駆動ユニット20とを備える。
【0017】
このうち、削孔ユニット10は、
図1および
図2に示すように、先端にヘッド部11を有する高圧ランス12と、当該高圧ランス12を保持するホルダ13と、ガイドレール14A、スライダ14Bおよびエアーシリンダ14Cを備え上記ホルダ13を前後方向(図では左右方向)へ移動可能なスライドユニット14と、を有する。ガイドレール14Aは、
図3に示すように、ホルダ13の下方とエアーシリンダ14Cの下方にそれぞれ14A1,14A2として設けられている。
上記スライドユニット14による削孔ユニット10の移動量は、特に限定されるものでないが、1つの孔を形成するのに必要な大きさ(例えば数10mm)に設定されている。移動量を小さくすることで、エアーシリンダ14Cの小型化を図ることができる。
【0018】
また、上記削孔ユニット10は、上記スライドユニット14を支持するフレーム15と、上記高圧ランス12を案内しつつ当該削孔ユニット10を公転駆動ユニット20に連結するための公転用ガイドパイプ16と、公転用ガイドパイプ16を把持する一対の単クランプからなるクランプ手段17Aおよびこのクランプ手段17Aを上記フレーム15の前端部に固定するブラケット17Bを備え公転用ガイドパイプ16を上記フレーム15に連結するための連結手段17と、を有する。
【0019】
上記クランプ手段17Aを構成する各単クランプは、
図3に示されているように、C字状をなすクランプ本体71と、このクランプ本体71の一方の端部にピン軸72を介して回動可能に装着された可動片73と、クランプ本体71の他方の端部にピン軸74を介して回動可能に装着され可動片73の先端部を貫通するボルト75と、ボルト75に螺合される締付けナット76とを備え、締付けナット76を回して締め付けることでクランプ本体71と可動片73と間に公転用ガイドパイプ16を把持するように構成されている。
【0020】
さらに、削孔ユニット10は、L形プレート18Aとボルト18Bによって上記エアーシリンダ14Cを上記フレーム15の所定位置に固定するための連結手段18と、上記ホルダ13に保持されている高圧ランス12を自転させるためのエアーモータ19Aおよびスイベルジョイント19Bを備えたスライドユニット駆動部19とを有する。ボルト18Bの取付け位置を、
図2のP1、P2、P3のいずれかに設定することで、高圧ランス12の軸方向における移動範囲を切り替えて、ウォータージェットを噴き付けて孔を穿設する位置を変えることができる。
なお、上記ボルト取付け位置P1は
図12(B)の斜孔36Aの削孔位置に、P2は
図12(A)の補助孔35Aの削孔位置に、P3は
図13(A)の横孔37Aの削孔位置に、それぞれ対応する。
【0021】
上記スライドユニット駆動部19には、圧縮エアをエアーモータ19Aに供給するエアーホースを結合するためのエアホースジョイント19Cが設けられている。また、上記ホルダ13の後端には、高圧ランス12に高圧水を供給するための高圧ホース41が結合されるホース結合部13aが設けられている。
さらに、上記公転用ガイドパイプ16の周壁の連結手段17寄りの位置には開口が形成され、該開口には、高圧水によるコンクリート柱への削孔により生じたハツリ水やハツリガラを、高圧ランス12と公転用ガイドパイプ16との隙間を通して外部へ吸い出すためのバキュームホース42の端部が接続されている。
【0022】
図2に示すように、高圧ランス12は、公転用ガイドパイプ16の中心よりも下寄りの位置に来るように公転用ガイドパイプ16内に挿入されている。これは、高圧ランス12の先端のヘッド部11に、高圧ランス12の周面よりも外側へはみ出すノズル11aが設けられているためである。
上記のように、高圧ランス12の中心を公転用ガイドパイプ16の中心から偏心させることで、以下に説明するように、公転用ガイドパイプ16を公転駆動ユニット20に結合させた状態で、高圧ランス12を公転用ガイドパイプ16へ挿入したり公転用ガイドパイプ16から引き抜いたりすることができる。公転駆動ユニット20は、公転用ガイドパイプ16を介して上記削孔ユニット10をコンクリート構造物の壁面に装着するための装着手段としての機能を有する。
【0023】
公転駆動ユニット20は、
図4に示すように、コンクリート柱の壁面W等に打設された3個のアンカーボルト21A及びナット21Bによって壁面に接合された状態で固定される円形のベースプレート22と、ベースプレート22の中央よりやや上方位置に設けられたスリーブ23と、該スリーブ23の内側に嵌合される軸部を備えスリーブ23の中心を回動中心として回動可能に装着された前面視でほぼ長方形をなす回動部材24と、回動部材24の回動中心側の端部前面に固着されたクランプ手段25とを有する。
上記ベースプレート22には上記スリーブ23の内周に対応した円形の開口が形成されており、上記公転用ガイドパイプ16がスリーブ23およびベースプレート22の開口に挿通されるように構成されている。なお、
図4(B)において、符号Hが付されているのは、コンクリート柱の壁面Wから奥部に向かって直線状に穿設された長孔である。この長孔Hは、ダイヤモンドコアドリル等の工具を用いて予め穿設しておくようにすることができる。
【0024】
また、公転駆動ユニット20は、上記回動部材24の回動中心と反対側の端部前面に取り付けられ前記削孔ユニット10を公転させるための公転駆動用モータ26と、該モータ26の回転軸に固着された公転歯車27Aおよび上記ベースプレート22の下部に固着され公転歯車27Aと噛合する円弧状の内歯歯車27Bとを有する。
上記ベースプレート22と回動部材24は、スリーブ23に対応する部位に、前記公転用ガイドパイプ16を挿入可能な開口部が形成されている。また、クランプ手段25はハンドル25Aを備えており、ハンドル25Aを緩めた状態で、公転用ガイドパイプ16の先端部をベースプレート22と回動部材24の開口部へ挿入した後、ハンドル25Aを回して締め付けることによって、公転用ガイドパイプ16を回動部材24と一体に結合することができるように構成されている。
【0025】
さらに、上記ベースプレート22の前面には上記回動部材24の回動範囲を規制するための一対のストッパピン28A,28Bが設けられているとともに、上記回動部材24の下端部には原点位置および回動範囲限界位置を検出するためのリミットセンサ29が設けられている。
図5には上記公転駆動ユニット20が公転動作した状態が示されている。このうち、
図5(B)は回動部材24が原点位置にある状態を、
図5(A)は回動部材24が原点位置から左方向へ回動した状態を、
図5(C)は回動部材24が原点位置から右方向へ回動した状態を示している。
【0026】
図6には、
図1に示す削孔ユニット10を、
図4に示す公転駆動ユニット20に装着した状態を示している。
本実施例の公転駆動ユニット20は、公転駆動用モータ26を作動させると公転歯車27Aが回転して内歯歯車27Bに沿って左方向または右方向へ移動し、それによって回動部材24が揺動される。そのため、クランプ手段25によって回動部材24に結合された公転用ガイドパイプ16および削孔ユニット10が一体となって揺動される。
そして、高圧ランス12が公転用ガイドパイプ16の中心から偏心した位置に挿入されているため、高圧ランス12およびその先端のヘッド部11は公転用ガイドパイプ16の中心軸を揺動中心として公転することとなる。
一方、削孔ユニット10は、エアーモータ19Aを作動させると高圧ランス12が自身の軸を中心にして自転し、ヘッド部11のノズルの向きを変えることができる。
【0027】
上記のように、長孔H内に挿入された高圧ランス12を自転させつつ公転させるように構成しているのは、自転のみでは、後に挿入する剪断補強用のワイヤの挿入径(入り口)を確保できないためである。また、長孔Hの径がヘッド部11の先端の径よりも少しだけ大きくなるように設定しているとともに、ノズルの高圧ランス12が公転用ガイドパイプ16の中心から偏心した位置に挿入されているため、高圧ランス12を所定角度以上自転させるとノズルの先端が長孔Hの壁面に当たってしまうが、公転を組み合わせることでノズルの向きをより大きい角度まで変化させることができる。さらに、高圧ランス12の自転と公転を組み合わせることで、ノズルから噴出されるウォータージェットの角度と到達距離を制御して所望の大きさの孔を容易に穿設することができる。
【0028】
図7には、高圧ランス12の先端に設けられているヘッド部11のノズルの構成が示されている。このうち、(A)はヘッド部11を拡大して示す平面図、(B)はヘッド部11の側面図である。
図7(A),(B)に示されているように、本実施例の高圧ランス12の先端のヘッド部11には、2つのノズル11a,11bが設けられている。このうち先端側のノズル11aは軸に対して直角方向へウォータージェットを噴出するノズル、先端より離れた部位に設けられているノズル11bは軸に対して約45度の方向へウォータージェットを噴出するノズルである。
【0029】
なお、高圧ランス12は両方のノズル11a,11bへ高圧水を供給可能であるが、ノズル11aを使用するときにはノズル11bに盲栓を施し、ノズル11bを使用するときにはノズル11aに盲栓を施すことで、所望の方向へのみウォータージェットを噴出して削孔を進めるようにすることができる。また、ノズル11aと11bの両方から同時にウォータージェットを噴出させることも可能であり、両方から同時に噴出させることで生じるハツリガラを小さくすることができる。
【0030】
図8には、高圧ランス12の先端に設けられているヘッド部11の正面図が示されている。このうち、(A)は高圧ランス12を自転させたときのウォータージェットWJの噴出の様子を示す図、(B)は高圧ランス12を自転および公転させたときのウォータージェットWJの噴出の様子を示す図である。
図8に示すように、ノズル11aまたは11bの角度すなわちウォータージェットの噴出角度を制御しつつ高圧ランス12を軸方向へ移動させることで所望の大きさの孔を形成することができる。
【0031】
また、
図8(A),(B)において、符号O1が付されている点は高圧ランス12の自転中心、符号O2が付されている点は高圧ランス12の公転中心、符号Hが付されているのはコンクリート柱の壁面に穿設された孔である。
図8(A)を参照すると、O1点を中心に高圧ランス12を自転させると、所定角度以上でノズル11aの先端(図における上端側)が孔Hの壁面に当たることが分かる。一方、O2点を中心に高圧ランス12を公転させると、所定角度以上でノズル11aの下端が孔Hの壁面に当たることが分かる。
そのため、上述したように高圧ランス12の自転と公転を組み合わせることで、ノズルから噴出されるウォータージェットの角度を、自転のみの場合や公転のみの場合に比べて大きくして、剪断補強用のワイヤの挿入径(入り口)を確保することができる。
【0032】
図9には、高圧ランス12の自転と公転を組み合わせてウォータージェットの噴出角度を制御して、孔Hを掘り進んで行く様子が示されている。
図9に示されているように、孔Hの入り口部分を穿設する際には公転の振り幅を大きくしておき、孔Hが深くなるにつれて公転の振り幅を小さくすることで、ほぼ同一断面(矩形状の断面)の孔Hを穿設することができる。
また、自転の振り幅を同一に維持したまま公転の振り幅を変化させることで、ほぼ同一断面の孔Hを穿設することができるため、モータの制御も簡単になるという利点がある。なお、同一断面の孔Hを掘り進んで行くには、公転の振り幅の制御の他、時間(往復回数)の制御も行う必要がある。そのような制御は、モータを制御するプログラムの設定により実行することができる。なお、軸方向の位置に応じて公転の振り幅を変化させることで、円形断面の孔Hを穿設することも可能である。
【0033】
次に、上記実施形態の削孔装置を用いた具体的な削孔作業の手順の一例を、コンクリート柱の耐震強度を高めるために
図10に示すようなU字状の剪断補強材を埋設する工亊を例にとって具体的に説明する。
なお、
図10のコンクリート柱30は、既設の鉄筋コンクリート柱に後から剪断補強材を挿入して耐震強度を高めるようにしたもので、既設の鉄筋コンクリート柱には所定の間隔をおいて配設された鉛直方向の複数本の主鉄筋31が予め埋設されている。
【0034】
また、耐震強度を高めた
図10のコンクリート柱30は、柱の一面から対向する面の近傍に位置する主鉄筋31の近くまで達するU字状の剪断補強材32が配設されている。そして、剪断補強材32の両端には、端部を係止する係止部33A,33Bが固着されている。また、剪断補強材32の周囲の孔との隙間には流動性硬化材が充填、固化されている。上記剪断補強材32には、コンクリート柱30に形成したU字状の孔内へ挿入し易くするため、例えば鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープを用いると良い。
剪断補強材32は、例えば一方の端部に係止部33Aを固着した後、他方の端部を引っ張った状態で係止部33Bが固着することによって、張力が付与された状態で配設されていても良い。また、係止部33A,33Bと柱の面との間にクサビを打ち込んで剪断補強材32に張力を付与するようにしても良い。
【0035】
次に、上記実施形態のウォータージェット式の削孔装置を用いて既設のコンクリート柱へU字状の剪断補強材32を挿通するための長孔の穿設方法を、
図11~
図13の柱の断面平面図を用いて説明する。
剪断補強材32を挿通するための長孔の形成に当たっては、先ず、
図11(A)に示すような真っ直ぐな縦孔34A,34Bを、ダイヤモンドコアドリル等の工具を用いて所定の部位に所定の深さまで削孔する。なお、この縦孔34A,34Bは、前方へ向かって高圧水を噴出可能なノズルを有する高圧ランスを使用して削孔するようにしても良い。
【0036】
次に、
図11(B)に示すように、縦孔34A(または34B)の入り口を覆うようにして前記実施形態の削孔装置の公転駆動ユニット20を取り付ける。
その後、先端にノズルを有する高圧ランス12を縦孔34Aに挿入させるようにして削孔ユニット10を公転駆動ユニット20に連結する。そして、
図12(A)に示すように、横方向へ高圧水を噴出可能なノズル11aより高圧水を噴出して、縦孔34Aの奥部より少し手前の部位に比較的浅い補助孔35Aを削孔する。続いて、
図12(B)に示すように、縦孔34Aに挿入した高圧ランス12の先端の斜め方向へ高圧水を噴出可能なノズル11bより高圧水を噴出して、縦孔34Aの奥部の補助孔35Aより少し手前の部位から、所定深さまで斜孔36Aを削孔する。
【0037】
次に、
図13(A)に示すように、縦孔34Aに挿入した高圧ランス12の先端の横方向へ高圧水を噴出可能なノズル11aより高圧水を噴出して、縦孔34Aの奥部から、他方の縦孔34Bへ向かう横孔37Aを中央付近まで削孔する。
続いて、
図13(B)に示すように、他方の縦孔34Bに高圧ランス12を挿入して、上記と同様の手順で、補助孔35Bと斜孔36Bと横孔37Bを削孔して貫通させる。これにより、ほぼU字状をなす通路を有する空洞が形成される。なお、横孔37Bを貫通させる際には、出口側である縦孔34Bの奥部まで吸引パイプを挿入してハツリを吸引することで、吸引パイプがガード部材となって削孔対象部位以外への余分な削孔を防止することができる。なお、削孔装置を2台用意してコンクリーチ柱の壁面に装着し、縦孔34A側からの削孔と縦孔34B側からの削孔を同時に進めるようにしてもよい。
【0038】
その後、挿入する剪断補強材の先端に、比較的径の細い先導用のワイヤもしくは紐の一端を結合し、この先導用のワイヤもしくは紐の他端を縦孔34A(または34B)の入口へ挿入して、縦孔34A-斜孔36A-横孔37A-横孔37B-斜孔36B-縦孔34Bのように挿通させる。そして、縦孔34B(または34B)の入口より突出した先導用のワイヤもしくは紐の端部を挟持して、他端に結合されている剪断補強材を引っ張ってU字状の孔内へ挿通させる。
【0039】
次に、縦孔34A(または34B)の入口から流動状硬化性樹脂を注入して剪断補強材と孔との隙間や空隙を充填する。続いて、剪断補強材に張力を与えるようにして剪断補強材32の両端部に係止部33A,33Bを固着して、1本の剪断補強材の配設作業が完了する。複数の剪断補強材32が必要な場合には、高さを変えて上記作業を繰り返す。なお、補助孔35Aと35Bの穿設は省略しても良いが、これらの孔を穿設することで、剪断補強材を挿通し易くなるという利点がある。
【0040】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、削孔装置のヘッド部11に横方向へ高圧水を噴出可能なノズル11aと斜め方向へ高圧水を噴出可能なノズル11bを設けた高圧ランス12を使用しているが、横方向へ高圧水を噴出可能なノズルを設けた高圧ランスと斜め方向へ高圧水を噴出可能なノズルを設けた高圧ランスを別個に用意しておいてそれらを取り換えて使用するようにしても良い。
【0041】
また、前記実施形態においては、本発明の削孔装置を、鉄筋コンクリート柱へ剪断補強材を埋設するために、U字状をなす長孔を穿設する作業に使用した場合を例にとって説明したが、本発明の削孔装置は鉄筋コンクリート柱以外のコンクリート構造物に湾曲した孔あるいは曲線孔を穿設したい場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 削孔ユニット(削孔手段)
11 ヘッド部
11a,11b ノズル
12 高圧ランス
13 ホルダ
14 スライドユニット
14C エアーシリンダ
15 フレーム
16 公転用ガイドパイプ
17,18 連結手段
19 スライドユニット駆動部
19A エアーモータ(自転駆動手段)
20 公転駆動ユニット(装着手段)
22 ベースプレート(ベース部材)
23 スリーブ(支承部材)
24 回動部材
25 クランプ手段
26 公転駆動用モータ(公転駆動手段)
30 コンクリート柱
32 剪断補強材
34~37 孔
42 バキュームホース