(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】エキシマ光照射装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20230518BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
B01J19/12 C
H01L21/304 645D
(21)【出願番号】P 2019091594
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】竹添 法隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 征司
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-169247(JP,A)
【文献】特開2008-279396(JP,A)
【文献】特開2012-049305(JP,A)
【文献】特開2017-012988(JP,A)
【文献】特開昭64-014805(JP,A)
【文献】米国特許第05144539(US,A)
【文献】特開2018-176032(JP,A)
【文献】特開2009-183949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/12
H01L 21/304
B08B 7/00
H01J 61/30-61/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に配置された紫外光を放射する複数の長尺なエキシマランプと、この筐体に取り付けられた光透過窓とを備え、前記エキシマランプとワークとがランプ長手方向に直交する方向に相対的に走査されるエキシマ光照射装置において、
前記エキシマランプと光透過窓との間に、当該光透過窓における走査方向の一部領域にのみランプ長手方向に伸びる遮光体を配置
し、
前記遮光体は、前記ランプ長手方向の中央部での照度が、両端部での照度よりも低下させるような構成であって、当該遮光体により走査方向の積算光量をランプ長手方向で均一化したことを特徴とする
エキシマ光照射装置。
【請求項2】
前記遮光体を前記複数のエキシマランプのうちの1つと前記光透過窓との間に配置したことを特徴とする請求項1に記載のエキシマ光照射装置。
【請求項3】
前記遮光体は、前記ランプ長手方向の中央部において拡幅された短冊状の板体からなるとともに、前記光透過窓における走査方向の中央に配置されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の
エキシマ光照射装置。
【請求項4】
前記遮光体が多孔板から
なり、当該多孔板の開口率を前記ランプ長手方向の中央部で小さく、両端部側で大きく形成したことを特徴とする請求項1
又は2に記載の
エキシマ光照射装置。
【請求項5】
前記遮光体が部分的に透過率の異なるガラス板から
なり、当該ガラス板の透過率を前記ランプ長手方向の中央部で低く、両端部側で高くしたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の
エキシマ光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエキシマランプを搭載したエキシマ光照射装置に関し、特に、半導体や液晶基板の製造工程における基板の表面洗浄や表面改質等に使用されるエキシマ光照射装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶基板の製造工程において、シリコンウエーハやガラス基板の表面に付着した有機化合物等の汚れを除去する方法として、紫外線を用いたドライ洗浄方法が広く利用されている。
特に、エキシマランプから放射される真空紫外光を用いた光洗浄装置が用いられている。
ここで用いられるエキシマ光照射装置としては、搬送される基板等のワークに対して、複数本の長尺なエキシマランプを並列配置したものが知られていて、特開2008-068155公報(特許文献1)がその例である。
【0003】
図8にその概略構造が示されており、エキシマ光照射装置70のランプハウス71内に複数本の長尺なエキシマランプ72、72が並列配置され、このエキシマランプ72からのエキシマ光は、光透過窓73から、その下方を搬送機構75によって搬送されるワークWに照射されるものである。
この従来例における各ランプの照度分布と、スキャン(走査)されるワークに対する積算光量分布が
図9(A)(B)(C)に示されている。
ここで用いられる長尺なエキシマランプ72では、
図9(B)に示すように、その管軸方向での照度は、ランプ中央部Aにおいて照度が高く、両端部Bで照度が低くなることが避けられない。
【0004】
このランプ両端部での照度低下を回避して、有効照射範囲内での照度均一化をもたらすには、光透過窓に対してランプ長さを大きくすればよいが、装置全体の小型化が求められる状況ではこのような解決策は現実的ではない。
そして、このようなランプ特性のもとで、ワークWをスキャン(走査)させて光照射すると、
図9(C)に示すように、複数のランプの光量が積算されることになり、ランプ下方のワークWでの積算光量Mは、ランプ中央部Aの下方での積算光量M1が大きくなり、ランプ両端部Bの下方での積算光量M2が小さくなり、ランプ管軸方向(長さ方向)において不均一なものとなってしまい、ワークWの処理が一様に行われないという問題がある。
【0005】
このようなランプの管軸方向での照度不均一を是正するものとして、特開2012-49305号公報(引用文献2)では、ランプ下方に格子部材を配置して、ランプからの出射光の透過率を変えて長手方向での光強度を均一化することが提案されている。
図10にその概略構造が示されていて、ランプハウス81内に配置されたエキシマランプ82と、光透過窓83の間に光強度分布補正貫通板90が配設されている。この補正貫通板90は
図11(A)に示すように、貫通メッシュあるいは多数の貫通穴を形成した格子状パターン91の板構造で、所望の光強度分布が得られるように、貫通部の管軸方向Yの分布を変化させて、透過光の管軸方向Yの光強度分布を補正している。その格子パターンは、ランプの管軸方向Yの中央部から端部に向かって、格子間隔を増加させたものである。
これにより、出射強度の高いランプ中央部でより光を遮断してランプ管軸方向Yでの光強度を均一化しようとするものである。
【0006】
また、
図11(B)に示すように、更に、ランプ管軸方向Yと直交する方向Xでも貫通部の分布を変化させて、透過光の管軸直交方向Xの光強度分布を補正している。ランプの管軸直交方向Xにおいて、ランプ直下で格子間隔を小さくし、ランプ間において格子間隔を増加させたものである。
これにより、出射強度の高いランプ直下でより光を遮断してランプ管軸直交方向での光強度を均一化しようとするものである。
こうすることで、ランプハウス81の下方の処理室85内のワークステージ86上のワークWの面内において強度分布の均一化を図ろうとするものである。
【0007】
しかしながら、この種のランプでは、発光管材料となるガラス管の肉厚のばらつきによる放電距離のばらつき、ガラス管内に封入されるガス圧のばらつき、また、ガラス管とその外表面の電極との密着具合のばらつき、更には、いわゆる二重管型のランプにおいては、外側管と外部電極との密着具合や内側管と内部電極との密着具合のばらつき、などの種々の要因で個体差が必然的に生じていて、管軸方向での照度分布も各ランプで一様とはならず、各々のランプで変動する。
この変動は、複数本のランプを用いた場合の各ランプ間でも生じるし、またランプ交換した場合の交換前後の各ランプ間においても生じる。
上記特許文献2の技術は、光強度分布補正貫通板によりランプに対して画一的に一様に光強度を補正するものであって、前述したようなランプ固有の個体差は解消することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-068155号公報
【文献】特開2012-49305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、筐体内に配置された紫外光を放射する複数の長尺なエキシマランプと、この筐体に取り付けられた光透過窓とを備え、前記エキシマランプとワークとがランプ長手方向に直交する方向に相対的に走査されるエキシマ光照射装置において、各ランプに個体差があっても、ワークに対する走査方向での積算光量をランプ長手方向において均一化することのできる構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明に係るエキシマ光照射装置は、前記エキシマランプと光透過窓との間に、当該光透過窓における走査方向の一部領域にのみランプ長手方向に伸びる遮光体を配置することにより、走査方向の積算光量をランプ長手方向で均一化したことを特徴とする。
また、前記遮光体は、前記ランプ長手方向の中央部において拡幅された短冊状の板体からなるとともに、前記光透過窓における走査方向の中央に配置されていることを特徴とする。
また、前記遮光体が多孔板からなることを特徴とする。
また、前記遮光体が部分的に透過率の異なるガラス板から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、光透過窓における走査方向の一部領域にのみランプ長手方向に伸びる遮光体を配置したことにより、各ランプに個体差があっても、実際に配置された複数本のランプを走査するシミュレーションにより、走査方向での積算光量を均一化するような適正な遮光体形状を選定することで、ランプ長手方向において積算光量を均一化することができる。
また、そのための遮光体は単純形状の1枚の遮光体で済むという利点がある。更には、予め形状の異なる遮光体を複数枚用意し、そのうちの適正な遮光体を1枚だけ選定するので、遮光体の構造も複雑にならず、コスト面での優位性もある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るエキシマ光照射装置の縦断面図(A)と横断面図(B)。
【
図2】本発明の下面図(A)と遮光体の下面図(B)。
【
図3】本発明の下面図(A)に応じた各ランプの長手方向の照度分布図(B)と走査方向での積算光量図(C)。
【
図9】従来のエキシマ光照射装置の照度分布および積算光量の説明図。
【
図11】
図10の光強度分布補正貫通板の具体例(A)(B)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、この発明のエキシマ光照射装置1の説明図であって、その全体的な構造は、
図8に示す従来技術と同様であって、エキシマ光照射装置1は、並列配置された複数本の長尺なエキシマランプ2,2を有する。ここでは、このエキシマランプ2はいわゆる二重管構造のものが示されていて、冷却ブロック4に当接されて冷却されている。
前記エキシマランプ2からの紫外光は下方の光透過窓3から、その下方を搬送機構5によって搬送されるワークWに照射されるものである。なお、この例では、搬送機構5は光透過窓3の下方を往復動するものが示されているが、
図8の従来例に示すように一方向に搬送するものであってもよい。
そして、本発明においては、エキシマランプ2と光透過窓3の間に遮光体6が設けられている。
図2(A)(B)に示すように、この遮光体6はランプ長手方向に伸びていて、該ランプ長手方向の中央部において拡幅された短冊状の板体からなり、光透過窓3における走査方向の一部領域にのみ存在している。この例では、遮光体6は、その幅が、エキシマランプ2の太さ(直径)よりも若干小さなものが示されている。
【0014】
図3に遮光体6と各ランプの照度および積算光量の関係が示されていて、
図3(A)に示すように、この例では遮光体6は、光透過窓3の走査方向の中央部に配置されている。
図3(B)に示すように、中央部のエキシマランプ21はこの遮光体6によって、その照度分布は長手方向の中央部Aでの照度が、両端部Bでの照度よりも低下させられている。
この状態で
図1のように、光透過窓3の下方でワークWを走査すると、その走査方向での積算光量は、各ランプ21、22、22からの光量が積算されるので、
図3(C)に示すように、ランプの長手方向中央部での積算光量M1は、中央ランプ21からの低減された光量と、その両側のランプ22、22からの低減されない光量が積算されることになり、ランプ長手方向の両端部Bでの積算光量M2と同等のものとなる。
【0015】
これを
図4によって詳述すると以下の通りである。この
図4(A)は
図3(C)に示すランプの長手方向に垂直な方向、即ちワークの走査方向の積算光量、即ち、ランプ中央部Aでの積算光量M1(実線)と両端部Bでの積算光量M2(点線)を重ね合わせて表示した図である。なお、遮光体のない従来例の中央部Aでの積算照度については、図中において一点鎖線で表されている。
ここで、
図4(A)に示すように、ランプ中央部Aでは、遮光体6のない領域(ランプ22、22の下方)では両端部Bよりも照度が高く、遮光体6の存在する領域(ランプ21の下方)では、両端部Bよりも照度が低くなる。
【0016】
つまり、
図4(B)に示すように、走査されるワークWは、遮光体6のない領域(ランプ22、22の下方)においては、ランプ中央部Aでの照度が両端部Bでの照度より高く、紫外光照射の積算光量はS1だけ多くなる。
次いで遮光体6の存在で、ランプ中央部Aにおける照度が両端部Bよりも低くされた領域(ランプ21の下方)においては、中央部Aを通過するワークWにおける紫外光照射の積算光量はS2だけ少なくなる。
遮光体6の形状を適宜に選定することにより、S2=2×S1として、ランプ中央部Aの積算光量M1と、両端部Bでの積算光量M2を均一化することができ、ワーク対して照射される紫外光の積算光量の均斉化が図られる。
【0017】
上記実施例では、遮光体6は、ランプ長手方向の中央部において拡幅された短冊状の板体である例を示したが、これに限られず、
図5に示すように、長手方向で幅を一定として、多数の孔(開口)61が穿設された多孔板を用いてもよい。遮光体(板)6には、ランプの長手方向の中央部Aで開口率が小さく、両端部B側で開口率が大きくなるように孔(開口)61が形成されている。開口率の変化は、開口(孔)61の数によるものでもよいし、開口(孔)61の大きさによるものであってもよく、図示の例は、その両者を混ぜ合わせたものである。
なお、ここで開口率とは、単位面積に占める開口面積の割合をいう。
【0018】
また、
図6に示すように、遮光体6は、部分的に透過率を変化させたガラスにより構成してもよい。
ガラス製の遮光体6をフロスト加工によりガラス表面をすりガラス状に加工し、その加工度合を調整してガラスの透過率を部分的に変化させたものである。
図6において、灰色部分がフロスト加工した部分で、長手方向の中央部Aでもっとも色が濃く透過率が低いフロスト加工部分63、端部側Bに向かうにつれて、次いで濃いフロスト加工部分64、もっとも薄いフロスト加工部分65と徐々に色が変化し、透過率が増加するように形成されている。
【0019】
なお、エキシマランプ2の形状は円筒形(二重円筒型)に限られず、
図7に示すように、断面が扁平な矩形形状のものであってもよい。
更には、エキシマランプ2は3本のものが例示されたが、その本数はこれに限られず、2本、あるいは4本以上であってもよい。
また、ワークとエキシマ光照射装置との相対的な走査はワーク側に限られず、エキシマ光照射装置側を走査するものであってもよい。
【0020】
以上のように、この発明のエキシマ光照射装置では、筐体内に配置された紫外光を放射する複数の長尺なエキシマランプと、この筐体に取り付けられた光透過窓とを備え、前記エキシマランプとワークとがランプ長手方向に直交する方向に相対的に走査されるエキシマ光照射装置において、
前記エキシマランプと光透過窓との間に、当該光透過窓における走査方向の一部領域にのみランプ長手方向に伸びる遮光体を配置することにより、複数のエキシマランプに個別的なばらつきによる照度分布の変動があっても、遮光体によって、走査方向での積算光量をランプ長手方向において均一化することができるという効果を奏するものである。
また、遮光体は、光透過窓の走査方向の一部領域にのみ配置されるので、紫外光を必要以上に減ずることがない。
【符号の説明】
【0021】
1 :エキシマ光照射装置
2 :エキシマランプ
21,22:エキシマランプ
3 :光透過窓
4 :冷却ブロック
5 :搬送機構
6 :遮光体
61:孔(開口)
63~65:フロスト加工部
W :ワーク