IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリマテック・ジャパン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-熱伝導性シート 図1
  • 特許-熱伝導性シート 図2
  • 特許-熱伝導性シート 図3
  • 特許-熱伝導性シート 図4
  • 特許-熱伝導性シート 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230518BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230518BHJP
   B32B 5/16 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
B32B5/16
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020541281
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034847
(87)【国際公開番号】W WO2020050334
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018168241
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
(72)【発明者】
【氏名】李 建橋
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-326976(JP,A)
【文献】特開2004-253531(JP,A)
【文献】特開2014-027144(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179318(WO,A1)
【文献】特開2000-336279(JP,A)
【文献】国際公開第2017/172703(WO,A1)
【文献】特開2001-202828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
B32B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆している熱伝導性シート。
【請求項2】
前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有する、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記異方性材料が繊維材料を含有し、該繊維材料の平均繊維長が5~600μmである請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記繊維材料が炭素繊維である、請求項2又は3に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記異方性材料が扁平材料を含有し、該扁平材料の平均長軸長が5~300μmである請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記扁平材料が鱗片状黒鉛である、請求項2又は5に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記熱軟化層が、前記熱伝導層の両表面に設けられている、請求項1~6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記熱軟化層が、前記熱伝導層の端面にも設けられている、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記熱軟化層を有しない熱伝導性シートと比較して、熱抵抗値の上昇率が10%以下である、請求項1~8のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記熱軟化層が、非シリコーン系材料からなる、請求項1~9のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する、請求項1~10のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項12】
前記ワックス状物質が、パラフィン系ワックス、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックスからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項11に記載の熱伝導性シート。
【請求項13】
前記熱軟化層が、非異方性材料を含有する、請求項1~12のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項14】
前記異方性材料の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短い、請求項1~13のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項15】
前記熱伝導層が、非異方性材料を含有する、請求項1~14のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項16】
前記熱軟化層の厚さは、5~45μmである、請求項1~15のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項17】
前記熱軟化層の厚さは、前記熱伝導層の厚さの0.1倍以下である、請求項1~16のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項18】
40%圧縮時の荷重は、50N以下である、請求項1~17のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項19】
前記異方性材料の一部が倒れるように配置されている、請求項1~18のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかに記載の熱伝導性シートと、発熱体と、放熱体とを備え、前記熱伝導性シートが前記発熱体と前記放熱体との間に配置される電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関し、例えば、発熱体と放熱体の間に配置して使用される熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。
熱伝導性シートは、電子機器内部に配置させるとき圧縮して用いられることが一般的であり、高い柔軟性が求められる。したがって、ゴムやゲルなどの柔軟性の高い高分子マトリクスに、熱伝導性を有する充填材が配合されて構成される。熱伝導性シートは、厚さ方向の熱伝導性を高めるために、炭素繊維などの熱伝導性の異方性材料を厚さ方向に配向させることが広く知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-056315号公報
【文献】特開2018-014534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、熱伝導性の異方性材料を厚さ方向に配向させることにより、熱伝導性シートの熱伝導性を向上させることができる。このような異方性材料は、製造方法にもよるが、熱伝導性シートの表面に露出していることがある。露出した異方性材料が多い熱伝導性シートは、熱伝導性は良好であるものの、使用時に、異方性材料の脱落が生じ、電子機器等に不具合が生じる場合がある。
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、異方性材料が厚さ方向に配向している熱伝導性シートにおいて、異方性材料の脱落を抑制することが可能な熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、熱伝導性を有する異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ表面に露出している熱伝導層の少なくとも一方の表面に、熱軟化層を設けることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下の[1]~[13]を提供する。
[1]高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆している熱伝導性シート。
[2]前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有する、上記[1]に記載の熱伝導性シート。
[3]前記異方性材料が繊維材料を含有し、該繊維材料の平均繊維長が5~600μmである上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性シート。
[4]前記繊維材料が炭素繊維である、上記[2]又は[3]に記載の熱伝導性シート。
[5]前記異方性材料が扁平材料を含有し、該扁平材料の平均長軸長が5~300μmである上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性シート。
[6]前記扁平材料が鱗片状黒鉛である、上記[2]又[5]に記載の熱伝導性シート。
[7]前記熱軟化層が、前記熱伝導層の両表面に設けられている、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[8]前記熱軟化層が、前記熱伝導層の端面にも設けられている、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[9]前記熱軟化層を有しない熱伝導性シートと比較して、熱抵抗値の上昇率が10%以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[10]前記熱軟化層が、非シリコーン系材料からなる、上記[1]~[9]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[11]前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する、上記[1]~[10]いずれかに記載の熱伝導性シート。
[12]前記ワックス状物質が、パラフィン系ワックス、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックスからなる群から選択される少なくとも一種である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[13]前記熱軟化層が、非異方性材料を含有する、上記[1]~[12]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱伝導性を有する異方性材料の脱落を抑制することが可能な熱伝導性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態の熱伝導性シートを示す模式的な断面図である。
図2】第2の実施形態の熱伝導性シートを示す模式的な断面図である。
図3】第3の実施形態の熱伝導性シートを示す模式的な断面図である。
図4】第4の実施形態の熱伝導性シートを示す模式的な断面図である。
図5】熱抵抗測定機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートについて詳しく説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態の熱伝導性シートを示す。第1の実施形態に係る熱伝導性シート10は、熱伝導層16と、熱伝導層16の表面16A、16Bに設けられる熱軟化層17とを備えている。熱伝導層16は、高分子マトリクス12と、充填材として異方性材料13とを含み、異方性材料13が厚さ方向に配向している。熱伝導層16の各表面16A,16Bには、露出する異方性材料13が存在する。また、露出している異方性材料13の一部は、倒れるように配置されている。異方性材料13は熱伝導性を有するため、熱伝導層は、厚さ方向の熱伝導性に優れている。
本実施形態において、熱伝導層16は、さらに異方性材料13とは異なる充填材として、非異方性材料14を含有する。熱伝導性シート10は、非異方性材料14を含有することで熱伝導性がさらに良好になる。
【0009】
熱伝導層16を単独で、放熱体や発熱体などの接触対象物の間に挿入して使用する場合は、表面に露出した異方性材料13が、接触対象物と接触し易いこと、及び異方性材料13が厚さ方向に配向していることにより、熱伝導層16の厚さ方向の熱伝導率が高くなり、放熱性に優れる。しかしながら、表面に露出した異方性材料13は、接触対象物との接触等を通じて脱落し、接触対象物の表面に付着することなどして、電子機器の性能に悪影響を及ぼしてしまう。特に、図1に示すように、倒れるように配置されている異方性材料13X、13Yなどが多いと、熱伝導層16の熱伝導性は良好になるものの、異方性材料が脱落しやすい。
【0010】
第1の実施形態では、表面に露出した異方性材料13の脱落を防止するため、熱伝導層16の表面に熱軟化層17を設けている。熱軟化層17は、熱伝導層16の表面に露出している異方性材料13を被覆しているため、熱伝導層16の表面から、異方性材料13が脱落するのを抑制するとができる。
なお、熱伝導層16の少なくとも一方の表面に熱軟化層17を備える態様であれば、異方性材料13の脱落を抑制することは可能であるが、第1の実施形態のように、熱伝導層16の両表面に熱軟化層17を備える態様であれば、より効果的に異方性材料13の脱落を抑制できる。
【0011】
熱軟化層17とは、熱を加えると軟化する性質を有する層であり、常温(25℃)では固体状である。熱軟化層17により、表面に露出している異方性材料13は被覆されているが、熱軟化層17と熱伝導層16との界面に、部分的に空隙15が生じている場合がある。ただし、熱軟化層17は、熱伝導層16の表面の形状に比較的追従性よく積層されるため、例えば、熱軟化層の代わりに、アルミニウム箔などの金属層を設ける場合などと比較し、空隙15の体積は格段に減少する。このため、熱軟化層17を用いることで、他の材料を用いる場合よりも、有効に異方性材料13の脱落を有効に防止でき、かつ熱伝導性も良好なものとなる。
【0012】
熱軟化層17を有する熱伝導性シート10を、発熱体及び放熱体の間に配置した場合には、発熱体及び放熱体と熱軟化層17の間にすき間が生じている場合がある。このような場合でも、発熱体により生じる熱により、熱軟化層17が軟化又は流動化して、すき間が減少又は存在しなくなることを通じて、放熱性が高まる。さらに、熱軟化層17が軟化又は流動化することにより、上記した熱軟化層17と熱伝導層16との界面の空隙15が熱軟化層により埋められやすくなる。そのため、異方性材料13の脱落を有効に防止でき、かつ熱伝導性も良好となる。
【0013】
熱軟化層17は、図示しない充填材を含有していることが好ましい。充填材としては、高い熱伝導性を有する金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などの粉末が好ましく、このような充填材を含有することにより、熱軟化層17の熱伝導率が向上し、熱伝導性シート10全体の熱伝導率が良好になる。
【0014】
<熱伝導層>
(高分子マトリクス)
熱伝導層において使用される高分子マトリクス12は、エラストマーやゴム等の高分子化合物であり、好ましくは主剤と硬化剤のような混合系からなる液状の高分子組成物(硬化性高分子組成物)を硬化して形成したものを使用するとよい。硬化性高分子組成物は、例えば、未架橋ゴムと架橋剤からなるものであってもよいし、モノマー、プレポリマーなどと硬化剤などを含むものであってもよい。また、上記硬化反応は常温硬化であっても、熱硬化であっても良い。
【0015】
硬化性高分子組成物から形成される高分子マトリクスは、シリコーンゴムが例示される。シリコーンゴムの場合、高分子マトリクス(硬化性高分子組成物)としては、好ましくは、付加反応硬化型シリコーンを使用する。また、より具体的には、硬化性高分子組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含むものを使用すればよい。
【0016】
ゴムとしては、上記以外にも各種の合成ゴムを使用可能であり、具体例には、例えば、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらゴムを使用する場合、合成ゴムは、熱伝導性シートにおいて、架橋されてもよいし、未架橋(すなわち、未硬化)のままでもよい。未架橋のゴムは、主に流動配向にて使用される。
また、架橋(すなわち、硬化)される場合には、上記で説明したとおり、高分子マトリクスは、これら合成ゴムからなる未架橋ゴムと、架橋剤とからなる硬化性高分子組成物を硬化したものとすればよい。
また、エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなど熱可塑性エラストマーや、主剤と硬化剤からなる混合系の液状の高分子組成物を硬化して形成する熱硬化型エラストマーも使用可能である。例えば、水酸基を有する高分子とイソシアネートとを含む高分子組成物を硬化して形成するポリウレタン系エラストマーを例示できる。
上記した中では、例えば硬化後の高分子マトリクスが特に柔軟であり、上記した異方性材料13、非異方性材料14等の充填性が良い点から、シリコーンゴム、特に付加反応硬化型シリコーンを用いることが好ましい。
【0017】
また、高分子マトリクスを形成するための高分子組成物は、高分子化合物単体からなるものでもよいが、高分子化合物と可塑剤とからなるものでもよい。可塑剤は、合成ゴムを使用する場合に好適に使用され、可塑剤を含むことで、未架橋時の高分子マトリクスの柔軟性を高めることが可能である。
可塑剤は、高分子化合物と相溶性を有するものが使用され、具体的には、エステル系可塑剤やシリコーンオイルであることが好ましい。エステル系可塑剤の具体例として、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル等が挙げられる。シリコーンオイルとしては、ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0018】
高分子化合物に対する可塑剤の含有量は、可塑剤/高分子化合物が質量比で5/95~60/40であることが好ましく、10/90~55/45であることがより好ましい。可塑剤/高分子化合物の質量比を60/40以下とすることで、高分子化合物によって、充填材を保持しやすくなる。また、5/95以上とすることで、高分子マトリクスの柔軟性が十分となる。可塑剤は、後述する流動配向により異方性材料を配向させる場合に好適に使用される。
高分子マトリクスの含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導層全量に対して、好ましくは20~50体積%、より好ましくは25~45体積%である。
【0019】
(添加剤)
熱伝導層において、高分子マトリクス12には、さらに熱伝導層としての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。また、上記したように硬化性高分子組成物を架橋、硬化などさせる場合には、添加剤として、架橋、硬化を促進させる架橋促進剤、硬化促進剤などが配合されてもよい。
【0020】
(異方性材料)
高分子マトリクス12に配合される異方性材料13は、配向が可能な熱伝導性充填材である。異方性材料は、アスペクト比が高いものであり、具体的にはアスペクト比が2を越えるものであり、アスペクト比は5以上であることが好ましい。アスペクト比を2より大きくすることで、異方性材料13を厚さ方向に配向させやすくなり、熱伝導性シートの熱伝導性を高めやすい。また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。なお、アスペクト比とは、異方性材料13が後述する繊維材料である場合は繊維長/繊維の直径を意味し、異方性材料13が後述する扁平材料である場合には長軸の長さ/短軸の長さを意味する。
【0021】
熱伝導層における異方性材料13の含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導層全量に対して、好ましくは5~35体積%、より好ましくは8~30体積%である。
異方性材料13の含有量を5体積%以上とすることで、熱伝導性を高めやすくなり、35体積%以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が適切になりやすく、異方性材料13の配向性が良好となる。
【0022】
異方性材料13が繊維材料であるときは、その平均繊維長が、好ましくは5~600μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは70~180μmである。平均繊維長を5μm以上とすると、熱伝導層内部において、異方性材料13同士が適切に接触して、熱の伝達経路が確保される。一方、平均繊維長を600μm以下とすると、異方性材料13の嵩が低くなり、高分子マトリクス中に高充填できるようになる。
また、異方性材料13が扁平材料であるときは、その平均長軸長が好ましくは5~300μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは40~135μmである。
平均長軸長を5μm以上とすると、熱伝導層内部において、異方性材料13同士が適切に接触して、熱の伝達経路が確保される。一方、平均長軸長を300μm以下とすると、異方性材料13の嵩が低くなり、高分子マトリクス中に高充填できるようになる。
なお、上記の平均繊維長や繊維の直径、平均長軸長や平均短軸長は、異方性材料13を顕微鏡で観察して算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性材料100個の繊維長を測定して、その平均値(相加平均値)を平均繊維長とすることができる。また、繊維の直径、平均長軸長、及び平均短軸長についても同様に求めることができる。
【0023】
また、異方性材料13の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短いことが好ましい。厚さよりも短いことで、異方性材料13が熱伝導層16の表面16A、16Bから必要以上に突出したりすることを防止して、異方性材料13の脱落を抑制しやすくなる。
【0024】
また、異方性材料13は、特に限定されないが、長軸方向に沿う熱伝導率が、一般的に60W/m・K以上であり、好ましくは400W/m・K以上である。異方性材料13の熱伝導率は、その上限は特に限定されないが、例えば2000W/m・K以下である。熱伝導率の測定方法は、レーザーフラッシュ法である。
【0025】
異方性材料13は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、異方性材料13として、少なくとも2つの互いに異なる平均繊維長または平均長軸長を有する異方性材料13を使用してもよい。大きさの異なる異方性材料を使用すると、相対的に大きな異方性材料の間に小さな異方性材料が入り込むことにより、異方性材料を高分子マトリクス中に高密度に充填できるとともに、熱の伝導効率を高められると考えられる。
【0026】
異方性材料13は、熱伝導性を有する公知の材料を使用すればよいが、後述するように磁場配向できるように、反磁性を備えることが好ましい。
異方性材料13としては、上記したアスペクト比を満足するものであればよいが、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含むことが好ましい。
また、異方性材料13は、繊維材料、扁平材料以外のものを含んでもよいが、繊維材料及び扁平材料のいずれか一方のみからなるもの、又は繊維材料及び扁平材料の両方のみからなるものが好ましい。
異方性材料13の具体例としては、鉄、銅、銀、アルミニウム、ステンレスなどからなる金属繊維、炭素繊維等の繊維材料や、鱗片状黒鉛や窒化ホウ素等の扁平材料が挙げられる。上記繊維材料の中では、比重が小さく、高分子マトリクス12中への分散性が良好なため、炭素繊維が好ましく、炭素繊維の中でも黒鉛化炭素繊維が好ましい。また、上記扁平材料の中では鱗片状黒鉛が好ましい。
黒鉛化炭素繊維や鱗片状黒鉛は熱伝導率が高いため、グラファイト面が所定方向に揃うことで反磁性を備える。
【0027】
異方性材料13として用いる炭素繊維は、上記したとおり黒鉛化炭素繊維が好ましい。
黒鉛化炭素繊維は、グラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。黒鉛化炭素繊維は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
【0028】
黒鉛化炭素繊維としては、以下の原料を黒鉛化したものを用いることができる。例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特に黒鉛化度の高い黒鉛化メソフェーズピッチやポリイミド、ポリベンザゾールを用いることが好ましい。例えばメソフェーズピッチを用いることにより、後述する紡糸工程において、ピッチがその異方性により繊維軸方向に配向され、その繊維軸方向へ優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。
黒鉛化炭素繊維におけるメソフェーズピッチの使用態様は、紡糸可能ならば特に限定されず、メソフェーズピッチを単独で用いてもよいし、他の原料と組み合わせて用いてもよい。ただし、メソフェーズピッチを単独で用いること、すなわち、メソフェーズピッチ含有量100%の黒鉛化炭素繊維が、高熱伝導化、紡糸性及び品質の安定性の面から最も好ましい。
【0029】
黒鉛化炭素繊維は、紡糸、不融化及び炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維粉末を得ることができる。
【0030】
黒鉛化炭素繊維の平均繊維長は、上記したとおり、好ましくは5~600μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは70~180μmである。また、黒鉛化炭素繊維のアスペクト比は上記したとおり2を超えており、好ましくは5以上である。黒鉛化炭素繊維の熱伝導率は、特に限定されないが、繊維軸方向における熱伝導率が、好ましくは400W/m・K以上、より好ましくは800W/m・K以上である。
【0031】
異方性材料13として用いる扁平材料としては、鱗片状黒鉛が好ましい。
鱗片状黒鉛は、グラファイトの結晶面が鱗片面内方向に連なっており、その面内方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。鱗片状黒鉛は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
【0032】
鱗片状黒鉛としても、前記黒鉛化炭素繊維と同じ原料の他、天然黒鉛を用いることができる。中でも、例えばナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物やポリイミドフィルムを黒鉛化して粉砕したものが好ましい。
【0033】
鱗片状黒鉛の平均長軸長は、上記したとおり、好ましくは5~300μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは40~135μmである。また、鱗片状黒鉛のアスペクト比は上記したとおり2を超えており、好ましくは5以上である。鱗片状黒鉛の熱伝導率は、特に限定されないが、鱗片面方向における熱伝導率が、好ましくは400W/m・K以上、より好ましくは800W/m・K以上である。
なお、鱗片状黒鉛の長軸の長さは、鱗片面内の中の最も長くなる方向の長さを示し、鱗片状黒鉛の短軸の長さは、黒鉛の厚みを示すものとする。
【0034】
異方性材料13は、上記のように厚さ方向に配向するものであるが、長軸方向が厳密に厚さ方向に平行である必要はなく、長軸方向が多少厚さ方向に対して傾いていても厚さ方向に配向するものとする。具体的には、長軸方向が20°未満程度傾いているものも厚さ方向に配向している異方性材料13とし、そのような異方性材料13が、熱伝導層において、大部分であれば(例えば、全炭素繊維の数に対して60%超、好ましくは80%超)、厚さ方向に配向するものとする。
なお、異方性材料13の配向方向(角度)や配向している異方性材料13の割合は、熱伝導性シート10の表面に対して垂直な任意の断面を電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察して、任意の異方性材料100個の配向角度を測定することで見積ることができる。
【0035】
(異方性材料以外の充填材)
熱伝導層は、上記した異方性材料以外の充填材として、非異方性材料14を含んでもよい。
非異方性材料14は、異方性材料13とは別に熱伝導性シートに含有される熱伝導性充填材であり、異方性材料13とともに熱伝導性シート10に熱伝導性を付与する材料である。非異方性材料14を充填することで、熱伝導層へ硬化する前段階において、粘度上昇が抑えられ、分散性が良好となる。また、異方性材料13同士では、例えば繊維長が大きくなると異方性材料同士の接触面積を高くしにくいが、その間を非異方性材料14で埋めることで、伝熱パスを形成でき、熱伝導率の高い熱伝導性シート10が得られる。
非異方性材料14は、形状に異方性を実質的に有しない充填材であり、後述する磁力線発生下又は剪断力作用下など、異方性材料13が所定の方向に配向する環境下においても、その所定の方向に配向しない充填材である。
【0036】
非異方性材料14は、そのアスペクト比が2以下であり、1.5以下であることが好ましい。本実施形態では、このようにアスペクト比が低い非異方性材料14が含有されることで、異方性材料13の隙間に熱伝導性を有する充填材が適切に介在され、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。また、アスペクト比を2以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0037】
非異方性材料14の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性材料14の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性材料14において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
非異方性材料14は、上記した中でも、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムから選択されることが好ましく、特に充填性や熱伝導率の観点からアルミナが好ましい。
非異方性材料14は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
非異方性材料14の平均粒径は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましい。また、1~15μmであることが特に好ましい。平均粒径を50μm以下とすることで、異方性材料13の配向を乱すなどの不具合が生じにくくなる。また、平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材14の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても混合組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材14を高充填しやすくなる。
非異方性材料14は、例えば、非異方性充填材14として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径を有する非異方性充填材14を使用してもよい。
なお、非異方性材料14の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0039】
非異方性材料14の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して、200~800質量部の範囲であることが好ましく、300~700質量部の範囲であることがより好ましい。
非異方性材料14の含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導層全量に対して、30~60体積%が好ましく、40~55体積%がより好ましい。
非異方性材料14は、30体積%以上とすることで、異方性材料13同士の隙間に介在する非異方性材料14の量が十分となり、熱伝導性が良好になる。一方、60体積%以下とすることで、含有量に応じた熱伝導性を高める効果を得ることができ、また、非異方性充填材14により異方性材料13による熱伝導を阻害したりすることもない。さらに、40~55体積%の範囲内にすることで、熱伝導性シートの熱伝導性に優れ、混合組成物の粘度も好適となる。
【0040】
非異方性材料14の体積充填率に対する、異方性材料13の体積充填率の比は、2~5であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。体積充填率の割合の範囲を上記範囲内とすることで、非異方性充填材14が、異方性材料13の間に適度に充填され、効率的な伝熱パスを形成することができるため、熱伝導性シートの熱伝導性を向上させることができる。
【0041】
熱伝導層の厚さは、熱伝導性シートが搭載される電子機器の形状や用途に応じて、適宜調整されればよいため、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~5mmの範囲とすればよい。
熱伝導層の厚さは、熱伝導性シートの断面を走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡により観察することにより、求めることができる。
【0042】
<熱軟化層>
熱軟化層は、常温(25℃)では固体であり、例えば、35~120℃程度の熱を加えると軟化する性質を有する層である。
熱軟化層の組成は特に限定されないが、非シリコーン系材料からなること好ましい。ここで、非シリコーン系とは、シロキサン結合を有する化合物を実質的に含有しないことを意味し、実質的に含有しないとは、シロキサン結合を有する化合物を意図的に配合しないことを意味する。
熱軟化層が、非シリコーン系材料からなることにより、低分子シロキサンの発生に起因する接点不良を防止することができる。
【0043】
熱軟化層は、融点35~120℃のワックス状物質を含有することが好ましい。これにより、熱伝導層の表面に露出した異方性材料の脱落を抑制しやすくなる。融点が35℃以上であることにより、熱軟化層が常温で過度に柔軟なり、取扱い性が悪化するのを防止でき、融点が120℃以下であることにより、適切な温度で熱軟化層が軟化又は流動化して、汎用性が向上する。
ワックス状物質の融点は、好ましくは35~80℃であり、より好ましくは40~60℃である。
ワックス状物質は、溶け始めから溶け終わりまでの温度範囲が狭いことが好ましい。この温度範囲が狭い方が速やかに相変化して接触対象物に密着するためである。この温度範囲が狭い材料としては、分子量分布が狭い物質や、結晶性を有する物質を挙げることができる。ワックス状物質において、溶け終わりの温度と溶け始めの温度の差(溶け終わりの温度-溶け始めの温度)は好ましくは15℃以下であり、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは8℃以下である。
なお、本明細書において、融点とは、示差走査熱量分析(DSC)で測定したDSC曲線の吸熱ピークの温度である。また、溶け始めから溶け終わりまでの温度範囲とは、DSC曲線のベースラインと、ベースラインから吸熱ピークへ向かう変曲点における接線との交点の温度と、吸熱ピークからベースラインへ向かう変曲点における接線との交点の温度の範囲である。
【0044】
上記ワックス状物質は、非シリコーン系であることが好ましく、パラフィン系ワックス、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックスからなる群から選択される少なくとも一種のワックス状物質であることが好ましい。このようなワックス状物質は、溶け始めから溶け終わりまでの温度範囲が比較的狭く、かつ加熱時の流動性が高い傾向があるため、該ワックス状物質を含有した熱軟化層を用いることで、異方性材料13の脱落を有効に抑制することができる。上記ワックス状物質の中でも、パラフィン系ワックスが好ましい。
【0045】
熱軟化層がワックス状物質を含有する場合は、熱軟化層のすべてがワックス状物質であってもよいが、好ましくは、ワックス状物質と後述する充填材と併用することが好ましい。したがって、熱軟化層におけるワックス状物質の体積充填率は、熱軟化層全量に対して、15~80体積%であることが好ましく、20~60体積%であることがより好ましく、30~50体積%であることが更に好ましい。
【0046】
熱軟化層は、充填材を含有することが好ましい。充填材を含有することにより、熱軟化層の熱伝導率が向上し、熱伝導性シート全体の熱伝導率が向上する。
充填材としては、特に限定されないが、熱軟化層から脱落し難いものが好ましく、具体的には、前述した非異方性材料14を使用することができる。熱軟化層に配合される充填材としては、前述した非異方性材料14と同種のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよいが、同種のものを用いることが好ましい。
熱軟化層に配合される充填材は、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムから選択されることが好ましく、特に充填性や熱伝導率の観点からアルミナが好ましい。
熱軟化層に配合される充填材の平均粒径は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましく、1~15μmであることが特に好ましい。
【0047】
熱軟化層における充填材の体積充填率は、熱軟化層全量に対して、20~85体積%であることが好ましく、40~80体積%であることがより好ましい。このような範囲であると、熱軟化層の加熱時の軟化のし易さを阻害することなく、熱伝導性を向上させることができる。また、後述する熱伝導性シートの熱抵抗値の上昇率を所望の範囲に調整しやすくなる。
【0048】
熱軟化層の厚さは、異方性材料13の脱落を防止する観点からは、厚いほうがよいが、熱伝導性シートの熱伝導性を良好にしつつ、異方性材料13の脱落を抑制する観点から、5~45μmであることが好ましく、10~40μmであることがより好ましく、10~30μmであることが更に好ましい。熱軟化層の厚さが、5μm以上であると異方性材料の脱落を防止しやすくなり、45μm以下であると、熱伝導性シートの熱伝導率が高く維持されやすく、後述する熱伝導性シートの熱抵抗値及び熱抵抗値の上昇率を所望の範囲に調整しやすくなる。
熱軟化層を熱伝導層の両面に設ける場合は、少なくとも片面に設けられる熱軟化層の厚さを上記の範囲とすることが好ましく、両面に設けられる各熱軟化層の厚さをそれぞれ上記の範囲とすることがより好ましい。
熱軟化層の厚さは、熱伝導性シートの熱伝導性を良好とする観点から、熱伝導層の厚さよりも薄いことが好ましく、熱伝導層の厚さの0.1倍以下であることが好ましく、0.02倍以下であることが更に好ましく、そして、好ましくは0.005倍以上である。
熱軟化層の厚さは、熱伝導性シート10の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、熱軟化層の部分について等間隔に10点の厚さを測定し、その値を平均した平均厚さを意味する。また、上記熱軟化層の厚さは、製造直後の厚さであっても、発熱体と放熱体の間に装着したものを取り外したときの厚さであってもよい。
【0049】
熱軟化層は、その機能を害しない範囲で、上記したワックス状物質及び充填材以外の他の成分を含有してもよく、他の成分としては、例えば、界面活性剤、補強材、着色剤、耐熱向上剤、カップリング剤、難燃剤、劣化防止剤などが挙げられる。
【0050】
<熱伝導性シート>
本発明の熱伝導性シートの10%圧縮時の熱抵抗値は、0.15℃in/W以下であることが好ましく、0.10℃in/W以下であることがより好ましい。熱抵抗値を上記のとおりとするこにより、熱伝導性シートの熱伝導性を高められる。
また、熱伝導性シートの10%圧縮時の熱抵抗値は、低ければ低いほうがよいが、実用上は、0.01℃in/W以上である。
なお、熱抵抗値は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0051】
本発明の熱伝導性シートの熱抵抗値は、熱軟化層を有しない熱伝導性シートと比較した場合の熱抵抗値の上昇率が10%以下であることが好ましい。本熱抵抗値の上昇率は、熱軟化層を設けたことによる熱抵抗値の上昇率を表し、これが10%以下であることにより、本発明の熱伝導性シートは、異方性材料の脱落を防止しつつ、熱伝導性シートの熱伝導性を高く維持できる。
熱抵抗値の上昇率は5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが好ましい。
熱抵抗値の上昇率は、負の値(例えば-5%以下など)となってもよい。熱抵抗値の上昇率が負の値となる場合は、熱軟化層を設けたことにより、熱抵抗値が減少することを意味する。例えば、熱伝導層の表面が研磨されていない状態、あるいは研磨されていても研磨の程度が弱い場合は、表面の凹凸が大きく、適切な厚みの熱軟化層を熱伝導層の表面に設けることで、凹凸が減少し、熱抵抗値が低くなる。
熱抵抗値の上昇率は、低ければ低い方がよいが、実用上は-50%以上である。
なお、熱抵抗値の上昇率は、熱伝導性シートの熱抵抗値をA、熱軟化層を有しない熱伝導性シートの熱抵抗値をBとしたとき、100×(A-B)/Bの式で求めることができる。
具体的に上記熱抵抗値の上昇率は、例えば熱軟化層を備える熱伝導性シートの熱抵抗値Aを測定し、この熱伝導性シートから熱軟化層を除去した熱伝導性シートの熱抵抗値Bを測定することで求めることができる。ここで、熱軟化層を除去する方法としては、熱軟化層が溶解し熱伝導性が溶解しない溶剤で熱軟化層を溶かして除去する方法や、所定温度に加熱して熱軟化層が溶融した状態にして熱軟化層を拭き取る方法などを採用することができる。
【0052】
熱伝導性シートの40%圧縮時の荷重は、50N以下であることが好ましく、30N以下であることが好ましい。圧縮時の荷重をこのように調整することにより、熱伝導性シート使用時の接触対象物への負荷が低減され、接触対象物の破損が抑制される。
熱伝導性シートの40%圧縮時の荷重は、熱伝導性シートの厚みが圧縮する前の60%になるまで圧縮した状態の圧縮荷重を測定することにより求めることができる。熱伝導性シートの40%圧縮時の荷重は、熱伝導層の組成、厚みなどにより主として影響される為、これらを調整することにより、所望の範囲に調整できる。
【0053】
<熱伝導性シートの製造方法>
本実施形態の熱伝導性シートは、特に限定されないが、例えば、以下の工程(A)、(B)及び(C)を備える方法により製造できる。
工程(A):熱伝導層において厚さ方向となる一方向に沿って、異方性材料が配向された配向成形体を得る工程
工程(B):配向成形体を切断してシート状にして、熱伝導層を得る工程
工程(C):熱伝導層の表面に、熱軟化層を形成する工程
以下、各工程について、より詳細に説明する。
【0054】
[工程(A)]
工程(A)では、異方性材料13と、非異方性材料14と、高分子マトリクスの原料となる高分子組成物とを含む混合組成物から配向成形体を成形する。混合組成物は、好ましくは硬化して配向成形体とする。配向成形体は、より具体的には磁場配向製法、流動配向製法により得ることができるが、これらの中では、磁場配向製法が好ましい。
【0055】
(磁場配向製法)
磁場配向製法では、硬化後に高分子マトリクスとなる液状の高分子組成物と、異方性材料13及び非異方性材料14とを含む混合組成物を金型などの内部に注入したうえで磁場に置き、異方性材料13を磁場に沿って配向させた後、高分子組成物を硬化させることで配向成形体を得る。配向成形体としてはブロック状のものとすることが好ましい。
また、金型内部において、混合組成物に接触する部分には、剥離フィルムを配置してもよい。剥離フィルムは、例えば、剥離性の良い樹脂フィルムや、片面が剥離剤などで剥離処理された樹脂フィルムが使用される。剥離フィルムを使用することで、配向成形体が金型から離型しやすくなる。
【0056】
磁場配向製法において使用する混合組成物の粘度は、磁場配向させるために、10~300Pa・sであることが好ましい。10Pa・s以上とすることで、異方性材料13や非異方性材料14が沈降しにくくなる。また、300Pa・s以下とすることで流動性が良好になり、磁場で異方性材料13が適切に配向され、配向に時間がかかりすぎたりする不具合も生じない。なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV-E、スピンドルSC4-14)を用いて25℃において、回転速度10rpmで測定された粘度である。
ただし、沈降し難い異方性材料13や非異方性材料14を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりする場合には、混合組成物の粘度は、10Pa・s未満としてもよい。
【0057】
磁場配向製法において、磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1~30テスラである。磁束密度を1テスラ以上とすると、炭素材料などからなる上記した異方性材料13を容易に配向させることが可能になる。また、30テスラ以下にすることで、実用的に製造することが可能になる。
高分子組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50~150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分~3時間程度である。
【0058】
(流動配向製法)
流動配向製法では、混合組成物に剪断力をかけて、面方向に異方性材料が配向された予備的シートを製造し、これを複数枚積層して積層ブロックを製造して、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
より具体的には、流動配向製法では、まず、高分子組成物に異方性材料13と非異方性材料14、必要により種々の添加剤を混入し攪拌し、混入させた固形物が均質に分散した混合組成物を調製する。ここで、高分子組成物に使用する高分子化合物は、常温(23℃)で液状の高分子化合物を含むものであってもよいし、常温で固体状の高分子化合物を含むものであってもよい。また、高分子組成物は、可塑剤を含有していてもよい。
混合組成物は、シート状に伸長させるときに剪断力がかかるように比較的高粘度であり、混合組成物の粘度は、具体的には3~50Pa・sであることが好ましい。混合組成物は、上記粘度を得るために、溶剤が配合されることが好ましい。
【0059】
次に、混合組成物に対して剪断力を付与しながら平たく伸長させてシート状(予備的シート)に成形する。剪断力をかけることで、異方性材料13を剪断方向に配向させることができる。シートの成形手段として、例えば、バーコータやドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に混合組成物を塗工し、その後、必要に応じて乾燥したり、混合組成物を半硬化させたりするとよい。予備的シートの厚さは、50~250μm程度とすることが好ましい。予備的シートにおいて、異方性材料はシートの面方向に沿う一方向に配向している。具体的には、異方性材料が繊維材料であるときは繊維軸方向が塗布方向を向き、異方性材料が扁平材料であるときは長軸が塗布方向を向き、短軸がシート面の法線方向を向くように配向する。
次いで、予備的シートを、配向方向が同じになるように複数枚重ねて積層した後、加熱、紫外線照射などにより混合組成物を必要に応じて硬化させつつ、熱プレス等により予備的シートを互いに接着させることで積層ブロックを形成し、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
【0060】
[工程(B)]
工程(B)では、工程(A)にて得られた配向成形体を、異方性材料13が配向する方向に対して垂直に、スライスなどにより切断して、熱伝導層を得る。スライスは、例えばせん断刃などで行うとよい。熱伝導層は、スライスなどの切断により、切断面である各表面において高分子マトリクスから異方性材料13の先端が露出する。また、露出した異方性材料13の少なくとも一部は、各表面から突出する。露出する異方性材料は、ほとんどが倒れずに厚さ方向に配向したものとなる。
工程(B)の後に、熱伝導層の異方性材料が露出した表面を研磨してもよい。熱伝導層の表面を研磨することより、露出した異方性材料13の一部が倒される。これにより、熱伝導層の厚み方向の熱伝導率は向上する。倒された異方性材料13は、脱落しやすいが、熱軟化層を用いるため、倒された異方性材料13の脱落を抑制することができる。倒された異方性材料13の量は、例えば、研磨の強さ、研磨回数などにより調節できる。
【0061】
[工程(C)]熱伝導層の表面に、熱軟化層を形成する工程
工程(C)では、熱伝導層の表面に、熱軟化層を形成する工程である。熱軟化層を形成する手段は、特に限定されず、例えば、ワックス状物質、充填材などの熱軟化層の原料となる各成分を混合した後、シート状に成形して、熱軟化シートを形成させ、該熱軟化シートを熱伝導層の表面に圧着して、熱伝導層の表面に熱軟化層を形成してもよいが、以下のような方法が好ましい。
熱軟化層の原料である、ワックス状物質、充填材などの各成分に溶剤を添加して、ペースト状組成物を調製する。該ペースト状組成物を上記熱伝導層の表面に、塗布して、溶剤を揮発されることで、熱伝導層表面に、熱軟化層を形成させることができる。
溶剤としては、特に限定されず、塗布性、揮発性などを考慮して、適宜選択すればよいが、ワックス状物質として、パラフィン系ワックスやポリオレフィン系ワックスを用いる場合は、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤などを用いることが好ましい。
【0062】
なお、以上の説明では、熱伝導層の両表面16A、16Bに異方性材料13が露出した態様を示した。ただし、本発明では、両表面16A、16Bのうち一方のみにおいて、異方性材料13が露出し、他方は、異方性材料13が高分子マトリクス12内部に埋まった表面にしてもよい。上記した磁場配向製法により製造された配向成形体は、その最外面が、異方性材料13の充填割合が他の部分よりも低い、典型的には、異方性材料13が含有しないスキン層となる。したがって、例えば、配向成形体の最外面を、熱伝導層の両表面16A、16Bのうちの他方にすることで、両表面16A、16Bのうちの他方を、異方性材料13が高分子マトリクス12内部に埋まった表面にできる。両表面16A、16Bのうち一方のみにおいて、異方性材料13が露出し、他方は、異方性材料13が高分子マトリクス12内部に埋まった表面にした場合は、異方性材料13が露出した表面のみに、熱軟化層を形成させることが好ましい。
【0063】
[第2の実施形態]
図2は、第2の実施形態の熱伝導性シートを示す。第2の実施形態に係る熱伝導性シート20は、上記第1の実施形態の熱伝導性シート10の態様に加え、さらに、熱伝導層16の端面にも、熱軟化層27が設けられている。このような態様により、熱伝導層の端面からの異方性材料13の脱落を抑制しやすくなる。特に、熱伝導性シート20を圧縮して使用する場合は、熱伝導層の端面から異方性材料が脱落しやすくなるため、端面に熱軟化層を設けることが好ましい。
熱伝導層の端面に熱軟化層27を設ける場合は、少なくとも一方の端面に熱軟化層27を設ければよいが、端面からの異方性材料の脱落を有効に抑制する観点から、図2に示すとおり、全外周端面に熱軟化層27を設ける態様が好ましい。
また、熱軟化層27が、熱伝導層16の端面に設けられる場合、その厚さは、熱伝導層16の表面に設けた熱軟化層の厚さと同程度とすることもできるが、厚くすることもできる。また、熱伝導層の全外周端面に熱軟化層設ける場合は、外周の各部位の熱軟化層の厚さは同程度であっても、異なってもよい。
熱軟化層27が、熱伝導層16の端面にも設けられている熱伝導性シート20を得るためには、熱伝導層の端面にも、熱軟化層を形成させればよい。熱伝導層の端面に熱軟化層を形成させる方法は、以下の方法を採用することができる。
熱伝導層の厚みが薄い場合には、熱伝導層の表面へ熱軟化層を形成するのと同時に、はみ出した熱軟化層で熱伝導層の端面も覆うことができる。また、熱伝導層が厚い場合には、熱伝導層の表面に熱軟化層を形成させる方法と同様の方法で熱伝導層の端面へ熱軟化層を形成することができる。
【0064】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態の熱伝導性シートについて、図3を用いて説明する。
第1の実施形態においては、熱伝導性シート30には、異方性材料13に加えて、非異方性材料14が含有されていたが、本実施形態の熱伝導性シート30は、図3に示すように、非異方性材料14が含有されない。すなわち、第1の実施形態の熱伝導性シートにおいては、充填材として例えば炭素繊維のみを使用してもよい。
第3の実施形態の熱伝導性シート30のその他の構成は、非異方性材料14が含有されない点以外は、上記した第1の実施形態の熱伝導性シート10と同様であるので、その説明は省略する。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、熱軟化層を熱伝導層の表面に設けることで、熱伝導層の表面に露出した異方性材料の脱落を防止することができる。
【0065】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態の熱伝導性シートについて、図4を用いて説明する。
第2の実施形態においては、熱伝導性シート20には、異方性材料13に加えて、非異方性材料14が含有されていたが、本実施形態の熱伝導性シート40は、図4に示すように、非異方性材料14が含有されない。すなわち、第4の実施形態の熱伝導性シートにおいては、充填材として例えば炭素繊維のみを使用してもよい。
第4の実施形態の熱伝導性シート40のその他の構成は、非異方性材料14が含有されない点以外は、上記した第2の実施形態の熱伝導性シート20と同様であるので、その説明は省略する。
本実施形態においても、第2の実施形態と同様に、熱軟化層を熱伝導層の表面及び端面に設けることで、熱伝導層の表面に露出した異方性材料の脱落を防止することができる。
【0066】
[熱伝導性シートの使用]
本発明の熱伝導性シートは、好ましくは、電子機器中の発熱体と放熱体の間に配置して使用することができる。発熱体としては、例えば、電子素子などが挙げられ、放熱体としては、例えば、ヒートシンク、ヒートパイプなどが挙げられる。本発明の熱伝導シートを発熱体と放熱体の間に配置して、使用した場合には、熱により、熱軟化層が軟化又は流動化して、熱伝導性シートと発熱体及び放熱体との密着性が高まり、かつ、異方性材料の脱落が抑制され、電子機器の不具合の発生を防止できる。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0068】
本実施例では、以下の方法により熱伝導性シートの物性を評価した。
[40%圧縮時の荷重]
各試料についてその厚みが初期厚みの60%の厚みになるまで圧縮した際の圧縮荷重を、荷重測定器により測定した。
【0069】
[10%圧縮時熱抵抗値]
熱抵抗値は、図5に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。具体的には、各試料について、本試験用に大きさが30mm×30mmの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって荷重をかけて、厚さが元の厚さの90%となるように設定した。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23は、断熱材21によって覆われ、かつファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θj0)、下方の銅製ブロック22の温度(θj1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θj1-θj0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θj1は下方の銅製ブロック22の温度、θj0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
【0070】
[異方性材料の脱落の程度]
異方性材料の脱落の程度は、白紙及び熱伝導性シートを用いた異方性材料の脱落試験により評価した。具体的には、異方性材料の脱落により着色した白紙の着色濃度の高低により、異方性材料の脱落の程度を評価した。脱落試験は、以下のとおり行い、白紙の着色濃度の高低は、分光測色計で行った。
(観察)
白色の上質紙に30mm×30mmの熱伝導性シートを載せ、荷重29.4Nで30秒放置した後に、前記熱伝導性シートを前記上質紙から剥して、前記上質紙の表面に残った異方性材料による前記上質紙の着色濃度をCIE-L*a*b*表色系のL*値として、分光測色計( (株)カラーテクノシステム製「JX777」)で見積もった。
このとき、前記上質紙としてはL*値が98以上のものを用い、熱伝導性シートを載置した範囲内の任意の濃い着色部分3箇所のL*値および任意の薄い着色部分3箇所を測定し、それらの相加平均を各試料のL*値とした。なお、L*が大きい値であるほど、異方性材料の脱落の程度が小さいことを意味する。
(評価)
A: L*値が95以上だったもの。
B: L*値が88~95だったもの。
C: L*値が88未満だったもの。
【0071】
[実施例1]
高分子マトリクス(高分子組成物)として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンと、異方性材料として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)と、非異方性材料として、酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径10μm、アスペクト比1.0)を混合して混合組成物を得た。各成分の配合量は、熱伝導層において表1の体積%となるように配合した。
続いて、熱伝導層よりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して黒鉛化炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ2mmのシート状にスライスすることにより、炭素繊維が露出している熱伝導層を得た。続いて、熱伝導層の両表面を、研磨粒子の粒径が10μmである研磨紙を用いて10往復研磨して、両表面を研磨した熱伝導層を得た。
パラフィン系ワックス(融点46℃、溶け始めから溶け終わりまでの温度範囲40~50℃)、酸化アルミニウム(球状、平均粒径10μm、アスペクト比1.0)及び溶剤としてイソパラフィンを混合し、ペースト状の組成物を得た。パラフィン系ワックスと酸化アルミニウムは、熱軟化層を形成させたときに、表1に記載の体積%となる量で配合した。該ペースト状の組成物を、両表面を研磨した熱伝導層の両面に塗布して、乾燥することで、熱伝導層の両面にそれぞれ平均厚み12.5μmの熱軟化層を形成させ、熱伝導性シートを得た。結果を表1に示した。
【0072】
[実施例2]
熱伝導層の両面及び全外周端面にペースト状の組成物塗布し、乾燥させて、熱伝導層の両面及び全外周端面に熱軟化層を形成させたこと、並びに熱軟化層の平均厚みを変更したこと以外は、実施例1の方法と同様にして、熱伝導性シートを得た。結果を表1に示した。
【0073】
[実施例3]
熱軟化層の平均厚みを変更した以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。結果を表1に示した。
【0074】
[実施例4]
実施例1では10往復とした研磨条件を5往復に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。結果を表1に示した。
【0075】
[実施例5]
実施例1で行った研磨を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。結果を表1に示した。
【0076】
[比較例1]
熱伝導層の両面に熱軟化層を形成させなかった以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。比較例1の熱伝導性シートは、熱伝導層のみからなる熱伝導性シートである。結果を表1に示した。
【0077】
[実施例6、11]
熱軟化層の組成をそれぞれ表2、表3のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。結果を表2及び3に示した。
なお、表2で示したポリオレフィン系ワックスは、結晶性ポリオレフィン(結晶性ポリアルファオレフィン:CPAO)であり、融点が42℃で、溶け始めから溶け終わりまでの温度範囲が39~45℃である。表3で示したエステル系ワックスは、融点が46℃で、溶け始めから溶け終わりまでの温度範囲が40~50℃である。
【0078】
[実施例7、12]
熱軟化層の組成をそれぞれ表2、表3のとおり変更した以外は、実施例2と同様にして熱伝導性シートを得た。結果を表2及び3に示した。
【0079】
[実施例8、13]
熱軟化層の組成をそれぞれ表2、表3のとおり変更した以外は、実施例3と同様にして熱伝導性シートを得た。結果を表2及び3に示した。
【0080】
[実施例9、14]
熱軟化層の組成をそれぞれ表2、表3のとおり変更した以外は、実施例4と同様にして熱伝導性シートを得た。結果を表2及び3に示した。
【0081】
[実施例10、15]
熱軟化層の組成をそれぞれ表2、表3のとおり変更した以外は、実施例5と同様にして熱伝導性シートを得た。結果を表2及び3に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
以上の実施例の結果から明らかなように、本発明の熱伝導性シートは、熱伝導層の表面に熱軟化層を設けることで、異方性材料の脱落を防止することができることが分かった。また、熱軟化層を熱伝導層の表面及び端面に設けることで、異方性材料の脱落を防止する効果が高まることが分かった。
一方、熱軟化層を設けていない比較例1の熱伝導性シートは、異方性材料が脱落し易かった。
研磨回数が少ない熱伝導性シートや研磨工程を行っていない熱伝導性シートでは、熱伝導層の表面の凹凸が大きいことが考えられ、熱軟化層を積層することによって熱抵抗値を低減する効果が見込めることがわかった。
【符号の説明】
【0086】
10、20、30、40 熱伝導性シート
12 高分子マトリクス
13、13X、13Y 異方性材料
14 非異方性材料
15 空隙
16、36 熱伝導層
16A、16B 熱伝導層の表面
17 熱軟化層
21 断熱材
22 下方の銅製ブロック
23 上方の銅製ブロック
24 ヒーター
25 ヒートシンク
26 ロードセル
S 試験片
θj0 上方の銅製ブロックの温度
θj1 下方の銅製ブロックの温度


図1
図2
図3
図4
図5