(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】揺動形減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/06 20060101AFI20230518BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
F16H25/06 A
B25J17/00 E
(21)【出願番号】P 2021552284
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2020035827
(87)【国際公開番号】W WO2021075218
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019188761
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518408095
【氏名又は名称】株式会社アドRoBo
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】弁理士法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】寺田 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】永井 武
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-240008(JP,A)
【文献】特開2003-278875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/06
B25J 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X-Y-Z座標系において、
本体にX軸方向に延びる入力軸心を中心に回転自在に支持される入力軸と、
球状部と、前記球状部の中心を通る歳差軸に沿って両側から突出する一対の歳差軸部を有し、一方の前記歳差軸部がX軸を中心に歳差運動可能に前記入力軸に保持される歳差運動体と、
前記歳差運動体を前記本体に対して歳差運動自在に支持するとともに前記本体に固定される歳差運動支持体と、
Z軸方向において、前記歳差運動体の前記歳差運動支持体側とは反対側の表面に係合し、前記歳差運動体の歳差運動によって揺動される揺動体と、
前記揺動体に係合して前記本体に対して前記揺動体の揺動を支持する揺動支持体と、
前記本体にZ軸方向を軸に回転自在に支持され、前記揺動体に係合して前記揺動体の揺動により回転される出力軸とからなる装置において、
前記歳差運動体の前記歳差運動支持体側の面には、前記歳差運動体の歳差運動時に前記歳差運動支持体との間に描かれる軌跡を溝にした歳差運動環状溝が設けられ、前記歳差運動支持体には、前記歳差運動環状溝を転動する歳差運動球体が回転自在に保持され、
前記歳差運動体の前記揺動体側の面には、前記歳差運動体の歳差運動時にZ軸を中心に周方向及びZ軸方向に前記揺動体を揺動させる揺動環状溝が設けられ、前記揺動体の前記歳差運動体側の面には、前記揺動環状溝を転動する揺動用球体が回転自在に保持され、
前記揺動体の前記揺動支持体側の面には、前記揺動体の揺動運動を案内する揺動案内溝が設けられ、前記揺動支持体には、前記揺動案内溝を転動する揺動案内球体が回転自在に保持され、
前記揺動体の前記出力軸側の面には、前記揺動体の揺動の1周期分の円弧状溝が複数連続した波状溝が全周に亘って設けられ、前記出力軸には前記波状溝を転動する出力用球体が回転自在に保持されていることを特徴とする揺動形減速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揺動形減速装置であって、
前記歳差運動支持体は、前記本体に弾性部材を介して取り付けられ、前記歳差運動球体を前記歳差運動環状溝に対して付勢する歳差付勢手段を備えていることを特徴とする揺動形減速装置。
【請求項3】
請求項2に記載の揺動形減速装置であって、
前記歳差運動支持体は、前記球状部の中心に向けて前記歳差運動球体を前記歳差運動環状溝に対して付勢することを特徴とする揺動形減速装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の揺動形減速装置であって、
揺動支持体は、前記本体に弾性部材を介して取り付けられ、前記揺動案内球体を前記揺動案内溝に対して付勢する揺動付勢手段を備えていることを特徴とする揺動形減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、入力軸の駆動を出力軸に減速して回転伝達する減速装置に関する。特に、本発明は、入力軸と出力軸との交差角を大きくして、ロボットのアーム等において、駆動機構部のオフセット量を無くしてコンパクト化を図り、人・動物等の関節的な駆動に近似させることのできる揺動形減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に直交形減速装置としては、傘歯車、食い違い歯車、ウォーム及びウォーム歯車等の歯車機構等がある。また、これらの減速装置として単独機構で減速を行うものと、一般の同軸の揺動形減速機構構の組合せによるものとがある。これらの減速装置は、ロボットの関節部をはじめ多くの分野で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3790715号公報
【文献】特許第3711338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの中で、直角若しくは交差角をもち軸心が交わるものとして、傘歯車機構を持った減速装置があるが、歯車機構を用いる場合は、歯車同士のバックラッシュが必然的に生じるため、駆動時の精度が低下すると共に、騒音の発生が不可避となる。
【0005】
また、これらの歯車機構では、減速は入力側と出力側との歯数の比により行うため、大きな減速比を得るためには大きな比の歯車が必要になり、大きな空間が必要となる。また、歯車の噛合いが軸より離れた位置において行われるため、同時噛み合い歯数も少ない。また、噛合いの遊び、軸のたわみ等の影響による回転精度の低下、或いは位置決め精度の低下、さらには回転時の騒音が発生しやすい等の課題がある。
【0006】
本願発明者等は、直角若しくは大きな交差角を持つ揺動形減速装置として、特許文献1及び特許文献2に示すように、入力回転を球状の歳差運動体(各文献における揺動体)を介して歳差運動に変換し、さらに歳差運動体の球状部表面の一部に係合して揺動される出力用揺動体によって軸心を直交させた出力軸の回転運動に変換する装置を提案している。
【0007】
これらの揺動形減速装置では、バックラッシュを限りなくゼロにすることが可能であり、構造的に大きな減速比を生じさせることが可能となるため、傘歯車機構等に比べて装置全体を小型化することができる。
【0008】
これら特許文献1及び2の揺動形減速装置においては、傘歯車機構等に対して小型化が可能であるが、近年では、ロボットアーム等において、さらに小型の関節機構が望まれている。
【0009】
本願発明者等が、従来の揺動型減速装置よりもさらに小型の原作装置を制作しようとしたが、従来の機構では歳差運動体及び出力用揺動体を駆動させるために必要なボール部材が転動するための軌道用の循環溝を形成することが困難であることが判明した。
【0010】
本発明は、大きな交差角を有する減速装置であって、従来の減速装置に比べてさらに小型化が可能な揺動形減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の揺動形減速装置は、X-Y-Z座標系において、本体にX軸方向に延びる入力軸心を中心に回転自在に支持される入力軸と、球状部と、前記球状部の中心を通る歳差軸に沿って両側から突出する一対の歳差軸部を有し、一方の前記歳差軸部がX軸を中心に歳差運動可能に前記入力軸に保持される歳差運動体と、前記歳差運動体を前記本体に対して歳差運動自在に支持するとともに前記本体に固定される歳差運動支持体と、Z軸方向において、前記歳差運動体の前記歳差運動支持体側とは反対側の表面に係合し、前記歳差運動体の歳差運動によって揺動される揺動体と、前記揺動体に係合して前記本体に対して前記揺動体の揺動を支持する揺動支持体と、前記本体にZ軸方向を軸に回転自在に支持され、前記揺動体に係合して前記揺動体の揺動により回転される出力軸とからなる装置において、前記歳差運動体の前記歳差運動支持体側の面には、前記歳差運動体の歳差運動時に前記歳差運動支持体との間に描かれる軌跡を溝にした歳差運動環状溝が設けられ、前記歳差運動支持体には、前記歳差運動環状溝を転動する歳差運動球体が回転自在に保持され、前記歳差運動体の前記揺動体側の面には、前記歳差運動体の歳差運動時にZ軸を中心に周方向及びZ軸方向に前記揺動体を揺動させる揺動環状溝が設けられ、前記揺動体の前記歳差運動体側の面には、前記揺動環状溝を転動する揺動用球体が回転自在に保持され、前記揺動体の前記揺動支持体側の面には、前記揺動体の揺動運動を案内する揺動案内溝が設けられ、前記揺動支持体には、前記揺動案内溝を転動する揺動案内球体が回転自在に保持され、前記揺動体の前記出力軸側の面には、前記揺動体の揺動の1周期分の円弧状溝が複数連続した波状溝が全周に亘って設けられ、前記出力軸には前記波状溝を転動する出力用球体が回転自在に保持されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の揺動形減速装置は、入力軸の回転によって歳差運動体を歳差運動させ、歳差運動体の歳差運動を揺動体による揺動に変換し、揺動体の揺動を、波状溝と出力用球体によって出力軸の回転運動に変換する。当該構成によれば、入力軸の1回転で歳差運動体が1周期の歳差運動を行い、この1周期の歳差運動で揺動体が1周期揺動し、この1周期の揺動で1周期の円弧状溝分だけ出力軸が回転するので、容易に大きな減速比を得ることができる。
【0013】
また、本発明の揺動型減速装置において、円滑な動きを行うためには、歳差運動環状溝、揺動環状溝、及び波状溝の精密な溝加工が必要となる。本発明においては、歳差運動環状溝及び揺動環状溝は、球状の歳差運動体の表面に設けられており、波状溝は揺動体の表面に設けられている。従来は、これらの溝が部材の内周面に設けられていたために、加工が困難であり、さらなる小型化が困難な状況であった。本発明では、このような従来の装置に比べて、溝の加工が容易となり、従来よりもさらに小型化した揺動形減速装置を実現することができる。
【0014】
また、本発明の揺動型減速装置において、前記歳差運動支持体は、前記本体に弾性部材を介して取り付けられ、前記歳差運動球体を前記歳差運動環状溝に対して付勢する歳差付勢手段を備えるようにしてもよい。当該構成によれば、歳差運動体が歳差運動する際に、歳差運動支持体が歳差付勢手段によって歳差運動体を付勢するので、円滑な歳差運動が可能となる。
【0015】
また、当該構成において、前記歳差運動支持体は、前記球状部の中心に向けて前記歳差運動球体を前記歳差運動環状溝に対して付勢するようにしてもよい。当該構成により、歳差運動球体に荷重がかかった場合に、当該荷重を均等に分散させることができる。
【0016】
また、本発明の揺動型減速装置において、揺動支持体は、前記本体に弾性部材を介して取り付けられ、前記揺動案内球体を前記揺動案内溝に対して付勢する揺動付勢手段を備えるようにしてもよい。当該構成によれば、揺動体が揺動する際に、揺動支持体が揺動案内球体を揺動案内溝に対して付勢する揺動付勢手段を備えているため、円滑な揺動が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大きな交差角を有する減速装置であって、従来の減速装置に比べてさらに小型化が可能な揺動形減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の揺動形減速装置を示す一部断面図。
【
図2】(A)は
図1の揺動形減速装置の分解図、(B)は(A)のB-B線拡大断面図。
【
図3】(A)は歳差運動体の球状部の上面側に設けられた揺動環状溝を示す説明図、(B)は球状部の下面側に設けられた歳差運動環状溝を示す説明図。
【
図4】
図1の揺動形減速装置における歳差運動体の上方に位置する各部材を示す分解図。
【
図5】(A)~(C)は、本実施形態における揺動体の構成を示す説明図。
【
図6】歳差運動体の歳差運動環状溝の構成を説明するための断面図。
【
図7】球状部の下面側の歳差運動環状溝と歳差運動球体との関係を示す説明図。
【
図8】球状部の上面側の揺動環状溝と揺動用球体との関係を示す説明図。
【
図9】揺動部の上面の波状溝と出力用球体との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態の一例である揺動形減速装置について、
図1~
図10を参照して説明する。
【0020】
本実施形態の揺動形減速装置1は、
図1に示すように、X-Y-Z座標系において、装置全体を囲む本体10と、本体10に入力軸心20Aを中心に回転自在に保持された入力軸20と、入力軸20の回転によって歳差運動がなされる歳差運動体30と、歳差運動体30のZ軸方向の上方位置で歳差運動体30に係合して歳差運動によって揺動される揺動体40と、揺動体40の揺動によってZ軸を中心に回転される出力軸50とを備えている。
【0021】
本体10は、
図1及び
図2に示すように、入力軸20を回転自在に支持する前板11と、入力軸20とは反対側に設けられた後板12と、底面に設けられた底板13と、天面に設けられた天板14とを有している。この本体10は、例えばロボットアームの関節部分等の適用される機器に応じて適宜形状を変更することができる。
【0022】
入力軸20は、本体10の前板11に入力ベアリング15を介して保持される軸部21と、X軸方向に延びる入力軸心20Aから偏心した位置に歳差運動体30の一方の歳差軸部32を回転自在に保持する偏心部22とを備えている。偏心部22においては、歳差軸部32の先端部分を歳差ベアリング23によって回転自在に保持している。この入力軸20を回転させると、軸部21と一体となっている偏心部22も回転し、歳差軸部32が偏心されて回転することにより歳差運動体30を歳差運動させることができる。
【0023】
歳差運動体30は、球状に形成された球状部31と、球状部31の中心31Cを通る歳差軸心30Aに沿って両側に突出する一対の歳差軸部32を備えている。歳差軸心30Aは、X軸方向に向けて角度αの偏心角度で前後に延びる軸心である。本実施形態では、この角度αを10°としている。
【0024】
図1における左側の歳差軸部32は、入力軸20の偏心部22に設けられた歳差ベアリング23で支持されている。
図1における右側の歳差軸部32は、入力軸20の偏心部22と同様の構成を備える偏心軸受24によって、本体10に対して偏心回転(歳差運動)自在に保持されている。
【0025】
球状部31の表面は、
図3(A)に示すように、その上方の面に揺動環状溝33が形成されている。揺動環状溝33は、歳差運動体30の歳差運動時に、Z軸方向の出力軸心50Aを中心に、揺動体40を周方向及びZ軸方向に揺動させるように案内する溝である。本実施形態においては、揺動環状溝33は、球状部31の上面に8箇所形成されている。なお、本願においては、図面の一部において、揺動環状溝33等の溝の形状を表すために複数の細線を用いている。
【0026】
また、球状部31の下方には、
図3(B)に示すように歳差運動環状溝34が形成されている。歳差運動環状溝34は、歳差運動体30の歳差運動時に、球状部31の表面と後述する歳差運動支持体16との間に描かれる軌跡を形取って形成した溝である。本実施形態においては、歳差運動環状溝34は、球状部31の下面に6箇所形成されている。
【0027】
図1及び
図2(A)を参照して、球状部31の下方には、歳差運動体30を支持する歳差運動支持体16が底板13に固定されている。本実施形態では、この歳差運動支持体16は、歳差運動環状溝34の位置に合わせて、X軸方向に2個、左右(Y方向)にそれぞれ2個ずつの合計6個設けられている(
図2(A)参照)。
【0028】
この歳差運動支持体16は、円柱状の部材を斜めに切断した形状となっており、その射面には凹部16aが設けられている。この凹部16aには、金属製のボールである歳差運動球体16bが回転自在に保持されている。歳差運動球体16bは、歳差運動体30の歳差運動時に、歳差運動環状溝34に当接しながら転動される。
【0029】
また、歳差運動支持体16は、
図1に示すように、底板13の貫通孔に固定された固定部材16cに、歳差付勢手段である皿バネ16dを介して取り付けられている。当該構成により、歳差運動支持体16は、弾性部材である皿バネ16dの弾性力によって、歳差運動球体16bを歳差運動体30の歳差運動環状溝34に付勢するように形成されている。
【0030】
また、歳差運動支持体16は、後述する揺動支持体17(
図4参照)と同様に、固定部材16cに固定される側の外周面がD形状に加工されており、底板13の表面に固定される案内板13aによって回転が防止されている。
【0031】
揺動体40は、
図4及び
図5に示すように、全体としてドーム状に形成されている。その内周面には、
図5(B)に示すように、半球状の凹部40aが設けられている。本実施形態では、凹部40aは、8箇所に設けられており、この凹部40aに揺動用球体40bが回転自在に保持されている。
【0032】
また、揺動体40の上面側は、揺動支持体17によって支持される支持部41と、出力軸50の出力支持体51が出力用球体51bを介して当接する案内部42が形成されている。支持部41には、揺動体40の揺動の案内を行う揺動案内溝41aが形成されている。案内部42には、揺動体40の揺動を出力軸50の回転運動に変換するための波状溝42aが形成されている。
【0033】
揺動体40の支持部41に設けられた揺動案内溝41aは、
図5(A)~(C)に示すように、Z軸方向に縦長の楕円形となっている。この揺動案内溝41aに、揺動支持体17に保持された揺動案内球体17bが当接されることにより、揺動体40の揺動運動が案内される。
【0034】
揺動支持体17は、
図4に示すように、円柱状の部材を斜めに切断した形状となっており、その射面には凹部17aが設けられている。この凹部17aには、揺動案内球体17bが回転自在に保持されている。
【0035】
また、揺動支持体17は、
図2(B)に示すように、天板14の貫通孔に固定された固定部材17cに、揺動付勢手段である皿バネ17dを介して取り付けられている。当該構成により、揺動支持体17は、弾性部材である皿バネ17dの弾性力によって、揺動案内球体17bを揺動体40の揺動案内溝41aに付勢した状態となる。
【0036】
揺動体40の案内部42に設けられた波状溝42aは、
図5(A)に示すように、揺動体40の揺動の1周期分で出力用球体51bを周方向に移動させる円弧状溝42bを、周方向に9個連続して形成している。この波状溝42aには、出力軸50に設けられた出力支持体51の凹部51aに回転自在に保持された出力用球体51bが当接される。
【0037】
本実施形態では、
図5(A)に示すように、案内部42には1周期分の円弧状溝42bが全周に亘って9個設けられている。この波状溝42aには、
図4及び
図5(C)に示すように、出力軸50に装着された8個の出力支持体51が出力用球体51bを介して当接している。出力支持体51は、円柱状の部材を斜めに切断した形状となっており、その射面には凹部51aが設けられている。この凹部51aには、出力用球体51bが回転自在に保持されている。
【0038】
次に、
図6及び
図7を参照して、歳差運動体30が歳差運動する際の、歳差運動環状溝34と歳差運動球体16bとの関係について説明する。
図6における状態は、左側の歳差軸部32がZ軸方向の最下部に位置している。この状態を初期位置とすると、その際の歳差運動環状溝34と歳差運動球体16bとの位置関係は
図7の通りである。
【0039】
歳差運動環状溝34は、入力軸20の入力軸心20Aに対して歳差軸心30Aとの角度αで回転させたときに得られる歳差運動体30の球状部31表面のある固定点(この場合は歳差運動球体16b)に対する軌跡である。
【0040】
具体的には、球状部31表面の初期位置から入力軸20を角度θ(°)回転させたときの座標位置をP1、このP1を歳差軸心30Aに座標変換した位置をP2とすると、それぞれの座標は以下の式で表される。
P1=Po・E20A・θ (1)
P2=P1・E30A(-θ) (2)
【0041】
上記式(1)及び(2)のEは、入力軸20の入力軸心20Aの回転θに関する変換マトリクスである。当該式で表される軌跡に沿って、歳差運動球体16bと同じ形状の工具で球状部31の表面に加工を行うと、歳差運動環状溝34が形成される。
【0042】
次に、
図8を参照して、歳差運動体30の球状部31の揺動環状溝33について説明する。揺動環状溝33は、歳差運動体30の歳差運動によって、揺動体40の凹部40aに回転自在に保持された揺動用球体40bを介して揺動体40を揺動させるための軌跡を備えている。
【0043】
揺動環状溝33は、
図8に示すように8個設けられているが、それぞれ形状が異なっている。まず、
図8に示す状態を初期位置として、入力軸20を角度θ(°)回転させたときの位置を算出し、その位置を揺動体40の揺動軸心40A(
図5(C)参照)で座標変換した位置を算出してその軌跡を求める。この軌跡は、実際には製品に形として現れない中間の仮想軌跡であり、円形状の軌跡となる。
【0044】
更に、歳差運動体30の揺動環状溝33の軌跡は、この仮想軌跡から歳差運動体の歳差運動を差し引くことで求められる。上記軌跡の計算を、前述の歳差運動環状溝34の算出手順と同様に変換マトリクスを用いて座標の算出を繰り返し、1周期分の軌跡を算出する。具体的な手法は、特許文献1における手法と同様であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0045】
次に、
図9を参照して、揺動体40の波状溝42aと出力用球体51bとの関係について説明する。
図9の出力用球体51bの位置は、歳差運動体30が
図1に示す状態のときの初期位置を示している。この状態では、波状溝42aの9個ある円弧状溝42bのうち、
図9の左端にある2個の円弧状溝42bの交点42b
1に、8個ある出力用球体51bの1個が位置している。
【0046】
図9に示すように、出力用球体51bの数は円弧状溝42bの数に比べて1個少ないため、出力用球体51bの位置は、右側に行くにつれてずれた位置となる。ここで、
図9の状態から入力軸20が1回転すると、揺動体40が1回揺動し、出力用球体51bが円弧状溝42bにより転動され、左端にあった出力用球体51bがその右上の円弧状溝42bの交点42b
2に移動する。入力軸20をさらに回転させると、順次上記作動が行われ、入力軸20を円弧状溝42bの数と同じ9回回転させたときに、
図9に示す初期位置に戻る。
【0047】
以上のように、波状溝42aにおける円弧状溝42bの数が入力軸20に対する出力軸50の減速比となる。従って、減速比を大きくしたい場合は、円弧状溝42bの数を多くすればよい。なお、この波状溝42aを形成する手法については、特許文献1における手法と同様であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0048】
本実施形態の揺動形減速装置1は、入力軸20の回転によって歳差運動体30を歳差運動させ、この歳差運動体30に係合する揺動体40を揺動させる。そして、揺動体40の揺動運動を波状溝42a、出力用球体51b、及び出力支持体51の機構により出力軸50の回転運動に変換する。
【0049】
当該構成により、本実施形態の揺動形減速装置1は、入力回転の減速を行う際にギヤ等を用いないため、装置を小型化することができ、バックラッシュを極力小さくすることができる。
【0050】
また、本実施形態の揺動形減速装置1では、高い加工精度を必要とする揺動環状溝33及び歳差運動環状溝34の双方を、歳差運動体30の球状部31の表面に形成している。このような溝を形成する場合、球状部31の表面であれば、自動加工機における加工工具による加工を容易に行うことができる。
【0051】
また、球状部31の径が小さくなった場合でも、自動加工機における加工工具による加工を容易に行うことができる。このような溝の加工を、例えば揺動体40の内周面に行う場合は、揺動体40に工具が干渉しない範囲での加工になるため、加工領域が狭くなり、小型化すると加工が困難になる場合がある。本実施形態では、溝の加工を球状部31の表面に行うことで、小型化した場合であっても精密な加工ができる。
【0052】
一方で、溝を球状部31の表面に設けることで、これらの溝に当接する揺動用球体40b及び歳差運動球体16bに、弾性体による不勢力を生じさせることが可能となった。歳差運動体30は、皿バネ16dを介して底板13に取り付けられた歳差運動支持体16及び、歳差運動球体16bによって支持されている。また、揺動体40は、皿バネ17dを介して天板14に取り付けられた揺動支持体17及び揺動案内球体17bによって支持されている。
【0053】
このため、揺動形減速装置1に高い負荷がかかり、各部材に高い荷重がかかった場合であっても、歳差運動体30及び揺動体40に生じる荷重が、それぞれ皿バネ17d及び皿バネ16dによって吸収されるので、各部材への影響を最小限のものとすることができる。従って、揺動形減速装置1の耐荷重性及び耐久性の向上を図ることができる。
【0054】
次に、
図10を参照して、本実施形態の揺動形減速装置の変形例について説明する。
図10は、変形例である揺動形減速装置1aの歳差運動支持体16eを示す図である。
図10における歳差運動支持体16eは、本体10aの底板13bに、歳差運動体30の球状部31の中心31Cに向けて延びる円柱状の部材である。なお、変形例の説明において、上記実施形態と同一の構成を有する部材については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
この変形例における歳差運動支持体16eは、基本的な形状が円柱状であり、その先端部には歳差運動球体16bが回転自在に保持されている。この歳差運動支持体16eは、上記実施形態と同様に皿バネを介して底板13bに取り付け、底板13bに対して軸方向に移動可能に装着している。或いは、歳差運動支持体16eをコイルスプリング等の他の付勢手段により歳差運動環状溝34に対して付勢してもよい。
【0056】
この変形例における歳差運動支持体16eは、上記構成となっているため、仮に出力軸50から歳差運動体30に対して強い荷重が加わった場合であっても、各歳差運動支持体16e及び付勢手段によって均等に歳差運動体30に対する荷重を分散させて吸収することができる。
【0057】
なお、上記各実施形態においては、入力軸20の入力軸心20Aと歳差運動体30の歳差軸心30Aとの角度αを10°としているが、これに限らず、0°<α≦20°の範囲であれば、装置全体の大きさや減速比に応じて種々変更が可能である。
【0058】
また、入力軸心20Aと出力軸心50Aの交差角は、上記実施形態では90°に設定しているが、これに限らず、プラスマイナス20°の範囲で変更が可能である。また、歳差運動体30の球状部31の表面に設けられた揺動環状溝33及び歳差運動環状溝34の数と形状についても、球状部31の大きさ等に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
1,1a…揺動形減速装置、10,10a…本体、11…前板、12…後板、13,13b…底板、14…天板、15…入力ベアリング、16…歳差運動支持体、16a…凹部、16b…歳差運動球体、16d…皿バネ、17…揺動支持体、17b…揺動案内球体、17c…固定部材、17d…皿バネ、20…入力軸、20A…入力軸心、21…軸部、21…歳差軸部、22…偏心部、23…歳差ベアリング、24…偏心軸受、30…歳差運動体、30A…歳差軸心、31…球状部、31C…中心、32…歳差軸部、33…揺動環状溝、34…歳差運動環状溝、40…揺動体、40a…凹部、40A…揺動軸心、40b…揺動用球体、41…支持部、41a…揺動案内溝、42…案内部、42a…波状溝、42b…円弧状溝、50…出力軸、50A…出力軸心、51…出力支持体、51a…凹部、51b…出力用球体。