(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】タンパク質繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 4/02 20060101AFI20230518BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20230518BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20230518BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
D01F4/02
D01D5/06 102Z
C07K14/435 ZNA
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019521226
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020502
(87)【国際公開番号】W WO2018221498
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017107085
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 佑之介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀人
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/149414(WO,A1)
【文献】特表2016-531845(JP,A)
【文献】国際公開第03/060099(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030197(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/065650(WO,A1)
【文献】特開平09-268426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と、第1の溶解溶媒と、を含有する紡糸原液を、凝固浴液に導入して、前記タンパク質を凝固させる工程を含み、
前記凝固浴液が、第2の溶解溶媒を含有し、
前記第1の溶解溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロ
パノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及びこれらに無機塩を添加したもの、並びに水に無機塩、尿素、グアニジン、及びドデシル硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記第2の溶解溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロ
パノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及びこれらに無機塩を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であ
り、
前記凝固浴液が、メタノールと、前記第2の溶解溶媒と、を含有し、かつ前記第2の溶解溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに無機塩を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種である、タンパク質繊維の製造方法。
【請求項2】
前記第2の溶解溶媒の含有量が、前記凝固浴液全量に対して、10~60質量%である、請求項
1に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項3】
前記凝固浴液の温度が、40℃以下である、請求項1
又は2に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項4】
前記凝固浴液の温度が、0℃以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、構造タンパク質である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項6】
前記構造タンパク質が、フィブロインである、請求項
5に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項7】
前記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、請求項
6に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項8】
前記凝固浴液が、無機塩を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項9】
前記凝固浴液中における前記無機塩の含有量が、前記凝固浴液の全量基準で0質量%を超え且つ30質量%以下である、請求項
8に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【請求項10】
前記紡糸原液が無機塩を含み、
前記凝固浴液中における前記無機塩の含有量が、前記紡糸原液中の前記無機塩の含有量よりも低い、請求項
8又は
9に記載のタンパク質繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人造繊維の製造方法として、ノズルから吐出させた紡糸原液を凝固浴液中で凝固させて繊維を形成する湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法が知られている。湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法は、タンパク質を主成分として含むタンパク質繊維を製造する際にも利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、そのような湿式紡糸法、乾湿式紡糸法等によって人造繊維を得る際には、凝固浴液中で繊維が凝固する際に、繊維表面等にボイドが生ずることも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このため、例えば、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維等の化学繊維を湿式紡糸法によって得る際には、繊維表面等のボイド発生を抑制するために、紡糸原液中の水分含量を減少させたり(例えば、特許文献3参照)、溶剤の水溶液からなる凝固浴液の溶剤濃度をコントロールしたり(例えば、特許文献4参照)する対策が講じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5540154号公報
【文献】特開2016-44382号公報
【文献】特開2015-132040号公報
【文献】特開2015-101803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法等により、タンパク質繊維を得る際には、タンパク質繊維のボイド発生を抑制するための対策が何等講じられていないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明は、ボイドの発生が充分に抑制されたタンパク質繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、タンパク質繊維でのボイドの発生原因を検討した。そして、ボイドの発生原因が、タンパク質を溶解溶媒に溶解させた紡糸原液を凝固浴液に導入する際に、紡糸原液から溶解溶媒が急激に離脱することにあると推定した。このような推定に基づいて、鋭意検討を重ねた結果、凝固浴液が溶解溶媒を含有することにより、凝固浴液中での紡糸原液の脱溶媒をゆっくりと時間を掛けて行うことが可能であることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、タンパク質と、第1の溶解溶媒と、を含有する紡糸原液を、凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含み、凝固浴液が、第2の溶解溶媒を含有する、タンパク質繊維の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の製造方法によれば、凝固浴液が、溶解溶媒(第2の溶解溶媒)を含有していることから、得られるタンパク質繊維のボイドの発生を充分に抑制することができる。
【0011】
本発明の製造方法において、第1の溶解溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及びこれらに溶解促進剤を添加したもの、並びに水に溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であってよく、第2の溶解溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及びこれらに溶解促進剤を添加したもの、並びに水に溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0012】
凝固浴液における、第2の溶解溶媒の含有量は、凝固浴液全量に対して、10~60質量%であることが好ましい。この場合、本発明の効果がより一層顕著に奏されることとなる。
【0013】
凝固浴液の温度は、40℃以下であってもよく、0℃以上であってもよい。
【0014】
タンパク質は、構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質は、フィブロインであってもよい。フィブロインは、クモ糸フィブロインであってもよい。
【0015】
凝固浴液は、メタノールと、第2の溶解溶媒と、を含有し、かつ第2の溶解溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0016】
凝固浴液は、無機塩を含んでいてもよい。この場合、ボイドの発生が充分に抑制されたタンパク質繊維をより一層容易に製造することができる。
【0017】
凝固浴液が無機塩を含む場合、凝固浴液中における無機塩の含有量は、凝固浴液の全量基準で0質量%を超え且つ30質量%以下であってもよい。
【0018】
紡糸原液が無機塩を含み、凝固浴液中における無機塩の含有量が、紡糸原液中の無機塩の含有量よりも低くてもよい。この場合、より温和な条件下でタンパク質が凝固するようになり、それによって、タンパク質繊維のボイドの発生をより有利に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ボイドの発生が充分に抑制されたタンパク質繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
【
図2】製造例1-1~1-5におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真を示す図である。
【
図3】実施例における応力の評価の結果を示す箱ひげ図である。
【
図4】実施例における最大延伸倍率の評価の結果を示すグラフである。
【
図5】製造例2-1におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図6】製造例2-2におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図7】製造例2-3におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図8】製造例2-4におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図9】製造例2-5におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図10】製造例2-6におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図11】製造例2-7におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【
図12】製造例2-8におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法は、タンパク質と第1の溶解溶媒(ドープ溶媒)とを含有する紡糸原液を、凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含み、凝固浴液が、第2の溶解溶媒を含有する。凝固浴液が、溶解溶媒を含有していることにより、得られるタンパク質繊維におけるボイドの発生を充分に抑制することができる。
【0023】
(タンパク質)
本実施形態の製造方法に従って製造されるタンパク質繊維は、タンパク質を主成分として含む。タンパク質は、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したものであってもよく、合成により製造されたものであってもよく、また天然由来のタンパク質を精製したものであってもよい。
【0024】
上記タンパク質は、例えば、構造タンパク質、又は当該構造タンパク質に由来する人造構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質とは、生体内で構造、形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン、レシリン等を挙げることができる。構造タンパク質は、好ましくは、フィブロインである。
【0025】
フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。特に、構造タンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン又はこれらの組み合わせであってもよい。絹フィブロインとクモ糸フィブロインとを併用する場合、絹フィブロインの割合は、例えば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってよい。
【0026】
絹フィブロインとしては、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、又はこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製したものである。このようにして精製した絹フィブロインは、好ましくは、凍結乾燥粉末として用いられる。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製の絹フィブロインである。
【0027】
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、及び天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチド(人造クモ糸タンパク質)からなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0028】
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0029】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、これらのしおり糸タンパク質に由来するポリペプチドであってもよい。ADF3に由来するポリペプチドは、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0030】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0031】
天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、組換えクモ糸タンパク質であってよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このようなポリペプチドの好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質(「大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチド」ともいう。)である。
【0032】
フィブロイン様タンパク質である大吐糸管しおり糸由来のタンパク質及びカイコシルク由来のタンパク質としては、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。大吐糸管しおり糸由来のタンパク質の具体例としては、配列番号1及び配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。
【0033】
横糸タンパク質に由来するタンパク質としては、例えば、式3:[REP2]oで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、REP2はGly-Pro-Gly-Gly-Xから構成されるアミノ酸配列を示し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を示す。oは8~300の整数を示す。)を挙げることができる。具体的には配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0034】
コラーゲン由来のタンパク質として、例えば、式4:[REP3]pで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、pは5~300の整数を示す。REP3は、Gly-X-Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0035】
レシリン由来のタンパク質として、例えば、式5:[REP4]qで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式5中、qは4~300の整数を示す。REP4はSer-J-J-Tyr-Gly-U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0036】
エラスチン由来のタンパク質として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号5で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0037】
ケラチン由来のタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号6で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0038】
上述した構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来するタンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
タンパク質繊維に主成分として含まれるタンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0040】
タンパク質繊維に主成分として含まれるタンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0041】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0042】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0043】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0044】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0045】
原核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0046】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0047】
真核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0048】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0049】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0050】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0051】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0052】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0053】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0054】
発現させたタンパク質の単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0055】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0056】
(タンパク質繊維の製造方法)
タンパク質繊維は、上述したタンパク質を紡糸したものであり、上述したタンパク質を主成分として含む。本実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法は、タンパク質と第1の溶解溶媒とを含有する紡糸原液を、凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含むものであり、凝固浴液が、第2の溶解溶媒を含有することに特徴を有する。本実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸等の公知の紡糸方法に準じて実施することができる。
【0057】
紡糸原液は、上述のタンパク質及び第1の溶解溶媒を含有する。紡糸原液は、上述のタンパク質を溶解溶媒に溶解させたものであってよい。ここで、溶解溶媒とは、タンパク質を溶解する成分(溶媒)を意味する。溶解溶媒は、後述する溶解促進剤と組み合わせて用いることにより、タンパク質を溶解する成分も含む。溶解溶媒は、溶解促進剤を含んでいてもよい。第1の溶解溶媒は、紡糸原液中のタンパク質を溶解する成分であり、ドープ溶媒ともいう。
【0058】
溶解溶媒(第1の溶解溶媒)は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ギ酸等の有機溶媒であってよい。また、第1の溶解溶媒は、上記の有機溶媒に溶解促進剤を添加したもの、又は水に溶解促進剤を添加したものであってよい。第1の溶解溶媒は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いたものであってよい。
【0059】
溶解溶媒(第1の溶解溶媒)は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及びこれらに溶解促進剤を添加したもの、並びに水に溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であってもよく、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに溶解促進剤を添加したものからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。第1の溶解溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに溶解促進剤を添加したものからなる群から選択される少なくとも1種である場合、これらの溶媒が高沸点であるため、高温条件でのタンパク質の溶解が可能となる。これにより、タンパク質を第1の溶解溶媒に溶解させて紡糸原液を得る際の調製作業がより一層効率化する。さらに、第1の溶解溶媒がジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに溶解促進剤を添加したものからなる群から選択される少なくとも1種である場合、当該溶媒の安全性が高いことから、生産作業性が向上し、かつ、当該溶媒自体のコストが安いことから、タンパク質繊維の製造コストが低減する。
【0060】
第1の溶解溶媒は、溶解促進剤を添加したもの(含有するもの)であってよい。この場合、紡糸原液の調製が容易になる。溶解促進剤は、タンパク質及び溶解溶媒の種類等に応じて、適宜選択することができる。
【0061】
溶解促進剤は、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩であってよい。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。溶解溶媒が有機溶媒である場合、無機塩としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、並びに、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩などが挙げられる。これらの無機塩は、溶解溶媒に対するタンパク質の溶解促進剤として用いられる。紡糸原液が溶解促進剤(上記の無機塩)を含有することにより、タンパク質が紡糸原液中に高い濃度で溶解可能となる。これにより、タンパク質繊維の生産効率がより一層向上し、かつタンパク質繊維の高品質化と応力等の物性の向上等が期待される。無機塩は、塩化リチウム及び塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0062】
溶解溶媒が水である(又は水を含有している)場合、紡糸原液は、溶解促進剤として、例えば、尿素、グアニジン、又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含んでいてよい。
【0063】
上記の溶解促進剤は、1種単独、又は2種以上を組み合わせて用いたものであってよい。
【0064】
溶解促進剤の含有量は、紡糸原液全量に対して、0.1質量%以上、1質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、20質量%以下、16質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってよい。
【0065】
紡糸原液(タンパク質溶液)は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有していてよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、紡糸原液中のタンパク質全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
【0066】
図1は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図1に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、凝固浴槽20と、洗浄浴槽(延伸浴槽)21と、乾燥装置4とを上流側から順に有している。
【0067】
押出し装置1は貯槽7を有しており、ここに紡糸原液(ドープ液)6が貯留される。紡糸原液6は、上述したタンパク質を溶解溶媒(ドープ溶媒)に溶解させて得られる。凝固浴槽20に凝固浴液11が貯留される。紡糸原液6は、貯槽7の下端部に取り付けられたギアポンプ8により、凝固浴液11との間にエアギャップ19を開けて設けられたノズル9から押し出される。押し出された紡糸原液6は、エアギャップ19を経て、凝固浴槽20の凝固浴液11内に供給(導入)される。凝固浴液11内で紡糸原液から溶媒が除去されてタンパク質が凝固する。凝固したタンパク質は、洗浄浴槽21に導かれ、洗浄浴槽21内の洗浄液12により洗浄された後、洗浄浴槽21内に設置された第一ニップローラ13と第二ニップローラ14により、乾燥装置4へと送られる。このとき、例えば、第二ニップローラ14の回転速度を第一ニップローラ13の回転速度よりも速く設定すると、回転速度比に応じた倍率で延伸されたタンパク質繊維36が得られる。洗浄液12中で延伸されたタンパク質繊維は、洗浄浴槽21内を離脱してから、乾燥装置4内を通過する際に乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られる。このようにして、タンパク質繊維が、紡糸装置10により、最終的にワインダーに巻き取られた巻回物5として得られる。なお、18a~18gは糸ガイドである。
【0068】
凝固浴液11は、第2の溶解溶媒を含有する。ここで、第2の溶解溶媒とは、凝固浴液11に含まれる溶解溶媒であり、紡糸原液6中のタンパク質を溶解し得る溶媒ということもできる。第2の溶解溶媒として、第1の溶解溶媒で例示したものと同じものを例示できる。第2の溶解溶媒は、第1の溶解溶媒(ドープ溶媒)と、同種の溶媒であってもよく、異種の溶媒であってもよい。紡糸原液6を凝固浴液11に導入する際、紡糸原液6とともに、紡糸原液6中の第1の溶解溶媒が凝固浴液11に導入されるが、本実施形態における凝固浴液11は、紡糸原液6を導入する前に、予め、第2の溶解溶媒を含んでいる。すなわち、本実施形態において、凝固浴液11は、紡糸原液6を凝固浴液11に導入する前に、第2の溶解溶媒を添加されてなるものである。凝固浴液11が第2の溶解溶媒を含有することにより、得られるタンパク質繊維のボイドの発生が充分に抑制される。
【0069】
第2の溶解溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及びこれらに溶解促進剤を添加したもの、並びに水に溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であってよく、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0070】
凝固浴液11は、第2の溶解溶媒を含み、かつ、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、アセトン等を含有していてよい。凝固浴液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固浴液11は、メタノールと、第2の溶解溶媒とを含有していてよい。この場合、第2の溶解溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びこれらに溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0071】
凝固浴液11における、第2の溶解溶媒の含有量は、凝固浴液11全量に対して、10~60質量%であってもよい。また、第2の溶解溶媒の含有量は、凝固浴液11全量に対して、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってもよく、50質量%以下、40質量%以下、又は30質量%以下であってもよい。第2の溶解溶媒の含有量が、上述の範囲内である場合、タンパク質繊維におけるボイドの発生がより一層顕著に抑制される。凝固浴液11における第2の溶解溶媒の含有量が、凝固浴液11全量に対して、15質量%以上である場合、最大延伸倍率がより一層高くなり、20質量%以上である場合、応力がより一層大きくなる。なお、本明細書における応力とは、タンパク質繊維が繊維軸方向の引張外力により破断するまでの最大荷重を、タンパク質繊維の9000mあたりの重量で除した値(単位:g/D)を意味する。
【0072】
凝固浴液11は、溶解促進剤を含んでいてよい。凝固浴液11における溶解促進剤として、例えば、上述の無機塩を用いてもよい。また、凝固浴液11は、溶解促進剤を含有する第2の溶解溶媒を用いることにより、溶解促進剤を含んでいてよい。凝固浴液11は、無機塩を含んでいてよく、塩化リチウム及び塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよい。凝固浴液11における溶解促進剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
【0073】
紡糸原液が溶解促進剤として無機塩を含有する場合、凝固浴液11は、紡糸原液が含有する無機塩と同種の無機塩を含んでいてよく、また異種の無機塩を含んでいてよい。紡糸原液が溶解促進剤として無機塩を含有しない場合であっても、凝固浴液11は、無機塩を含有していてもよい。
【0074】
凝固浴液11が無機塩を含有する場合、凝固浴液11中でのタンパク質の凝固をより温和な条件で行うことができる。これにより、得られるタンパク質繊維のボイドの発生がより一層抑制される。また、得られるタンパク質繊維の応力及び最大延伸倍率がより一層高くなる。凝固浴液11中の無機塩の含有量を調整することにより、凝固浴液11中でのタンパク質の凝固速度等の調整が容易になり、ボイドの発生が抑制されたタンパク質繊維の製造がより一層容易になる。
【0075】
凝固浴液11が無機塩を含有する場合、凝固浴液11における無機塩の含有量は、特に限定されないが、凝固浴液11全量基準で、0質量%超え30質量%以下、5質量%以上25質量%以下、又は10質量%以上20質量%未満であってよい。紡糸原液6が無機塩を含有する場合、凝固浴液11における無機塩の含有量は、紡糸原液6中の無機塩の含有量より低いことが好ましい。この場合、紡糸原液6を凝固浴液11に導入する際に、凝固浴液11中でタンパク質の凝固が阻害されることなく、より温和な条件下でタンパク質の凝固が可能となる。これにより、タンパク質繊維のボイドの発生がより有利に抑制される。
【0076】
凝固浴液11の温度は、特に限定されないが、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、10℃以下、又は5℃以下であってよい。凝固浴液11の温度は、特に限定されないが、-30℃以上、-20℃以上、又は-10℃以上であってよく、作業性、冷却コスト等の観点から、0℃以上であることが好ましい。凝固浴液11の温度が上記範囲内であれば、ボイドの発生が充分に抑制されたタンパク質繊維の製造がより一層容易になる。凝固浴液11の温度を上記範囲に調整することにより、タンパク質繊維のボイドの発生が充分に抑制され、得られるタンパク質繊維の応力がより増大する。なお、凝固浴液の温度は、例えば、熱交換器を内部に備える凝固浴槽20と、冷却循環装置と、を有する紡糸装置10を用いることにより調整することができる。例えば、凝固浴槽内に設置した熱交換器に冷却循環装置で所定の温度まで冷却した媒体を流すことにより、凝固浴液と熱交換器間での熱交換により温度を上記範囲内に調整することができる。この場合、媒体として凝固浴液11に用いる溶媒(例えば、メタノール)を循環することでより効率的な冷却が可能となる。
【0077】
凝固浴液11が貯留される凝固浴槽20は複数設けられていてもよい。この場合、ノズル9から押し出された紡糸原液6が直接供給(導入)される、凝固浴槽の凝固浴液(第1凝固浴液)が、第2の溶解溶媒を含有していればよい。すなわち、凝固浴液11が貯留される凝固浴槽20は複数設けられている場合、第1凝固浴液以外の凝固浴液(他の凝固浴液)は、第2の溶解溶媒を含有していなくてもよい。他の凝固浴液の温度は、40℃以下、20℃以下、10℃以下、又は5℃以下であってもよく、0℃以上、又は40℃超であってもよい。
【0078】
凝固したタンパク質が凝固浴液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行えるよく、ノズル9からの紡糸原液の押出速度(吐出速度)等に応じて決定されるものであってよい。凝固したタンパク質(又は紡糸原液)の凝固浴液11中での滞留時間は、凝固したタンパク質が凝固浴液11中を通過する距離、ノズル9からの紡糸原液6の押出速度等に応じて決定されるものであってよく、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固浴液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。
【0079】
なお、タンパク質繊維を得る際に洗浄浴槽21内で実施される延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う、いわゆる湿熱延伸であってもよい。この湿熱延伸の温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1倍~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0080】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
【実施例】
【0081】
以下、本発明について実施例をもとに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
1.クモ糸タンパク質(クモ糸フィブロイン:PRT410)の製造(クモ糸タンパク質をコードする遺伝子の合成、及び発現ベクターの構築)
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT410」ともいう。)を設計した。
【0083】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列と、そのN末端に付加された配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)とを有する。
【0084】
設計したPRT410をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0085】
得られたpET22b(+)発現ベクターによって、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまで約15時間、フラスコ培養を行って、シード培養液を得た。
【0086】
【0087】
当該シード培養液を500mlの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
【0088】
【0089】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、PRT410を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存したPRT410に相当するサイズのバンドの出現により、PRT410の発現を確認した。
【0090】
(クモ糸フィブロインの精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質(PRT410)を遠心分離により回収した。回収した凝集タンパク質から凍結乾燥機で水分を除き、PRT410の凍結乾燥粉末を得た。
【0091】
2.クモ糸フィブロイン繊維の製造
(紡糸原液の調製)
溶解溶媒(第1の溶解溶媒)であるジメチルスルホキシド(DMSO)に、上述のクモ糸フィブロイン(PRT410)を濃度24質量%となるよう添加した後、溶解促進剤として塩化リチウム(LiCl)を濃度4.0質量%となるように添加し、その後、シェーカーを使用して3時間振盪し、溶解させた。その後、ゴミと泡を取り除き、紡糸原液(ドープ液)とした。紡糸原液の溶液粘度は90℃において5000cP(センチポアズ)であった。
【0092】
(紡糸)
得られた紡糸原液を用いて、
図1に示す紡糸装置10に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって、紡糸及び延伸されたタンパク質繊維(クモ糸フィブロイン繊維)を製造した。用いた紡糸装置は、
図1に示す紡糸装置10において、未延伸糸製造装置2(第1凝固浴槽)及び湿熱延伸装置3(洗浄浴槽)の間に、第2の未延伸糸製造装置(第2凝固浴槽)及び第3の未延伸糸製造装置(第3凝固浴槽)を備えるものである。第1凝固浴液には、メタノール(MeOH)、及びDMSO(第2の溶解溶媒)を表3に示す組成(質量比)で含む溶液を用いた。凝固浴液全量に対する、第2の溶解溶媒の含有量を表3に示す。第2凝固浴槽及び第3凝固浴槽の凝固浴液としては、MeOHを用いた。また、洗浄浴槽の洗浄液には、水を用いた。その他の乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
押出しノズル直径:0.2mm
第1凝固浴液の滞在時間、温度及び延伸倍率:表3参照
延伸倍率:表3参照
乾燥温度:95℃
【0093】
【0094】
3.ボイドの評価
製造例1-1~1-5におけるクモ糸フィブロイン繊維のボイドの評価は、光学顕微鏡を用いた表面観測により行った。具体的には、ボイドの評価は、凝固後及び洗浄後の繊維について、光学顕微鏡を用いた観察により、約1000μm
2あたりに1μm以上のボイドが存在する割合を評価した。製造例1-1~1-5におけるクモ糸フィブロイン繊維の光学顕微鏡写真を
図2に示す。凝固後の繊維は第1凝固浴液での凝固により得られた繊維である。なお、
図2の製造例1-1の洗浄後における光学顕微鏡写真中のスケールバーは、50μmである。
【0095】
図2に示すとおり、凝固浴液が溶解溶媒(第2の溶解溶媒)としてDMSOを含有する場合(製造例1-2~1-5)では、凝固浴液がDMSOを含有しない場合(製造例1-1)と比べて、クモ糸フィブロイン繊維のボイドの発生が抑制された。また、凝固浴液がDMSOを10質量%以上含有する場合(製造例1-4~1-5)では、クモ糸フィブロイン繊維のボイドの発生がより顕著に抑制された。
【0096】
4.応力の評価
製造例1-1~1-8により得られたタンパク質繊維について応力を評価した。応力は、INSTRON3342引張試験機により、試験片長100mm、引張り速度100mm/minで10回測定し、その平均値を算出した。平均値間の有意差に関しては、2水準間の比較は2-sapmle t検定により行い、3水準以上の比較は分散分析検定により行った。有意差水準(p値)が0.05未満の場合に有意差有りと判断した。
図3は、応力の評価結果を示す箱ひげ図である。なお、本明細書における応力とは、タンパク質繊維が繊維軸方向の引張外力により破断するまでの最大荷重を、タンパク質繊維の9000mあたりの重量で除した値(単位:g/D)を意味する。
図3中、*は外れ値を示す。
【0097】
DMSOの含有量が20質量%以上である第1凝固浴液を用いて得たクモ糸フィブロイン繊維(製造例1-4~1-8)は、DMSOの含有量が20質量%未満である第1凝固浴液を用いて得たクモ糸フィブロイン繊維(製造例1-1~1-3)と比べて、応力が高かった。また、第1凝固浴液におけるDMSOの含有量が、30質量%以上である凝固浴液を用いた場合、より一層応力が高くなることが示された。
【0098】
5.最大延伸倍率の評価
最大延伸倍率は、
図1に示した紡糸装置10の2箇所で評価した。評価した箇所は、1箇所目が18bと18cとの間での延伸(固化浴延伸)であり、2箇所目が14と18eの間での延伸(洗浄浴延伸)である。評価は、2箇所同時でなく、一方を評価する際は他方は等倍に近い延伸倍率に固定して行った。評価方法としては1倍ずつ延伸倍率を上昇させていき、断糸した際の延伸倍率を最大延伸倍率とした。結果を
図4に示す。
【0099】
凝固浴液がDMSOを15質量%以上含有する場合、DMSOを15質量%未満の割合で含有する場合と比べ、最大延伸倍率が高くなった。
【0100】
6.凝固浴液に無機塩を添加した際のボイドの発生量評価
凝固浴液における組成MeOH/DMSO(質量比)、第2の溶解溶媒として用いたDMSOの含有量並びに無機塩の種類及び含有量を表4に示す条件とすること以外は、製造例1-1と同様にして、クモ糸フィブロイン繊維(タンパク質繊維)を製造した(製造例2-1~2-8)。ボイドの評価は、製造例1-1~1-5における方法と同様にして行った。製造例2-1~2-8において、得られたタンパク質繊維のボイドの評価結果をそれぞれ
図5~12に示す。
【0101】
【0102】
図5~12に示すとおり、凝固浴液(第1凝固浴液)が溶解溶媒(第2の溶解溶媒)として、DMSOを含み、かつ無機塩を含む場合であっても、ボイドの発生が充分に抑制されることが示された。第1凝固浴液の組成MeOH/DMSO(質量比)が90/10である場合、凝固浴液における、LiClの含有量を10質量%以上、又は、塩化カルシウム(CaCl
2)の含有量を10質量%とすることで、より顕著にボイドの発生が抑制された(製造例2-2~2-4と、製造例2-1との対比)。また、第1凝固浴液の組成MeOH/DMSO(質量比)が80/20である場合、LiClの含有量を5質量%以上とすることで、より顕著にボイドの発生が抑制された(製造例2-6~2-8と、製造例2-5との対比)。
【符号の説明】
【0103】
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…紡糸原液、10…紡糸装置、20…凝固浴槽、21…洗浄浴槽、36…タンパク質繊維。
【配列表】