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特許7281142サーミスタ焼結体およびサーミスタ焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】サーミスタ焼結体およびサーミスタ焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/04 20060101AFI20230518BHJP
   H01C 17/00 20060101ALI20230518BHJP
   H01C 17/065 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H01C7/04
H01C17/00 100
H01C17/065 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023520490
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041493
【審査請求日】2023-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145242
【氏名又は名称】株式会社芝浦電子
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】中村 和正
(72)【発明者】
【氏名】中山 法行
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 郁夫
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-77101(JP,A)
【文献】特開平6-263518(JP,A)
【文献】特開2005-279953(JP,A)
【文献】特開2006-179911(JP,A)
【文献】特開昭64-66926(JP,A)
【文献】特開平4-247603(JP,A)
【文献】特表2017-514292(JP,A)
【文献】特開2015-133359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/04
H01C 17/00
H01C 17/065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1μm以上、かつ50μm未満面積が1~10mmの範囲にあり、
NiMnの組成を有する焼結体の単体からなる、
ことを特徴とするサーミスタ焼結体。
【請求項2】
前記厚さが10μm以上、かつ50μm未満、前記面積が2~5mmの範囲にある、
請求項1に記載のサーミスタ焼結体。
【請求項3】
前記NiMnのMnの20~90%がFeで置換されている、
請求項1または請求項2に記載のサーミスタ焼結体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のサーミスタ焼結体の製造方法であって、
回転可能に支持される基板の表面に原料液を滴下する第1工程と、
前記原料液が滴下された前記基板を回転させて前記原料液を引き延ばす第2工程と、
前記原料液と前記原料液が載せられた前記基板を加熱保持することにより、前記NiMnの組成を有する前記焼結体を前記基板の表面に生成する第3工程と、
前記基板から前記焼結体を分離する第4工程と、
を備えることを特徴とするサーミスタ焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程と前記第2工程を複数回繰り返した後に、
前記第3工程を行う、
請求項4に記載のサーミスタ焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記第4工程は、
前記焼結体と前記基板の線膨張係数の差異に基づいて、前記基板から前記焼結体を分離する、
請求項4または請求項5に記載のサーミスタ焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記第4工程は、
前記基板を選択的に溶解することにより、前記基板から前記焼結体を分離する、
請求項4または請求項5に記載のサーミスタ焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記焼結体が前記基板の表面に形成されたサーミスタ接合体を平面視して格子状に切断、分割して複数のサーミスタ分割体を生成し、
生成された複数の前記サーミスタ分割体における前記基板との境界部分を選択的に溶解することにより、前記基板から前記焼結体を分離する、
請求項4または請求項5に記載のサーミスタ焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記基板が分離された前記焼結体の面である分離面には、前記基板を構成する材料の痕跡が残る、
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のサーミスタ焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記基板から分離された、前記焼結体を磁力により吸引することで回収する、
請求項4から請求項9のいずれか一項に記載のサーミスタ焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NTCサーミスタの熱応答速度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタはthermally sensitive resistorの略称であり、温度によって電気抵抗が変化することを利用して温度を測定する金属酸化物である。
サーミスタは、NTC(negative temperature coefficient)とPTC(positive temperature coefficient)に区分される。
【0003】
NTCサーミスタとして典型的なスピネル構造を有するのはマンガン酸化物(Mn)である。この基本構成にM元素(Ni、Co、Fe、Cu、AlおよびCrの1種又は2種以上)を加えたMMn3-Xの組成を有する酸化物焼結体も知られている。
また、PTCサーミスタとして典型的なペロブスカイト構造を有するのは複合酸化物、例えばYCrOを基本構成とする酸化物焼結体である。
【0004】
特許文献1は、基板表面の片側にNi及びMnを含むスピネル結晶相からなるセラミックス粉末を常温真空粉末噴射法(AD法)で真空蒸着したNTCサーミスタ膜を開示する。この特許文献1のサーミスタ膜は、0.2~50μmの厚さを有するとともに、相対密度が95%以上である。また、特許文献1のNTCサーミスタ膜は、ナノ結晶粒の微細構造を有し、特性定数(B)が3000K以上を有する。
特許文献1のサーミスタ膜は、一例として、NiMnスピネル相粉末を膜形成装置内の混合容器に装入して、ガラス基板をステージに固定した後、常温でガラス基板に5回真空噴射して作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5180987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開示内容によると、特許文献1のNTCサーミスタ膜は、ガラス、セラミックスなどからなる基板に接合された状態が前提と解される。したがって、特許文献1のサーミスタ膜は、基板の存在が前提となるために、使用が制約されるのに加えて、熱応答速度を阻害する熱容量が高くなる。使用の制約を取り除くためには、基板からサーミスタ膜を分離すればよい。しかし、分離できたとしてもサーミスタ膜は蒸着膜であるために強度が不足するために、温度センサとしての実用に耐えることができないことが想定される。
【0007】
以上より、本発明は、基板から分離したとしても温度センサとして必要な強度を有するサーミスタ焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るサーミスタ焼結体は、厚さが1~100μm、面積が1~10mmの範囲にあり、NiMnの組成を有する焼結体の単体からなる。
【0009】
本発明に係るサーミスタ焼結体は、好ましくは、厚さが10~50μm、面積が2~5mmの範囲にある。
本発明に係るサーミスタ焼結体は、好ましくは、NiMnのMnの20~90%が、Feで置換される。
【0010】
本発明は以上で説明したサーミスタ焼結体の製造方法を提供する。
この製造方法は、回転可能に支持される基板の表面に原料液を滴下する第1工程と、原料液が滴下された基板を回転させて原料液を引き延ばす第2工程と、原料液と原料液が載せられた基板を加熱保持することにより、NiMnの組成を有する焼結体を基板の表面に生成する第3工程と、基板から焼結体を分離する第4工程と、を備える。
【0011】
本発明の製造方法において、好ましくは、第1工程と第2工程を複数回繰り返した後に、第3工程を行う。
【0012】
本発明の製造方法において、好ましくは、第4工程は、焼結体と基板の線膨張係数の差異に基づいて、基板から焼結体を分離する。
【0013】
本発明の製造方法において、好ましくは、第4工程は、基板を選択的に溶解することにより、基板から焼結体を分離する。
【0014】
本発明の製造方法において、好ましくは、焼結体が基板の表面に形成されたサーミスタ接合体を平面視して格子状に切断、分割して複数のサーミスタ分割体を生成し、生成された複数のサーミスタ分割体における基板との境界部分を選択的に溶解することにより、基板から焼結体を分離する。
【0015】
本発明の製造方法において、好ましくは、基板が分離された焼結体の面である分離面には、基板を構成する材料の痕跡が残る。
【0016】
本発明の製造方法において、好ましくは、基板から分離された焼結体を磁力により吸引することで回収する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板から分離したとしても温度センサとして必要な強度を有するサーミスタ焼結体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るサーミスタ焼結体を製造する手順を示す図である。
図2図1の手順で製造されたサーミスタ焼結体の断面を示す顕微鏡写真であり、(a)は走査電子顕微鏡(SEM,1000倍)によるサーミスタ焼結体10と基板20の一部の断面を示し、(b)は走査電子顕微鏡(SEM,20000倍)によるサーミスタ焼結体10と基板20との境界近傍の断面を示す。
図3図1の手順で製造されたサーミスタ焼結体を示し、(a)はX線回折パターンであり、(b)は基板および基板から分離したNiMn焼結体を示す写真である。
図4図1の手順で製造された焼結体の測定温度(Temperature/℃)と電気抵抗(Resistance/kΩ)の関係を示し、(a)は試料2についてのグラフであり、(b)は試料4についてのグラフである。
図5図1の手順で製造された焼結体の熱応答性を示し、(a)は試料1および試料4についてのグラフであり、(b)は試料3についてのグラフである。
図6】基板の面積を変えて製造されたサーミスタ焼結体を示す写真であり、(a)は試料2の例であり、(b)は試料3の例である。
図7】(a)は基板が分離されたサーミスタ焼結体を塩酸に30分間だけ浸漬した後のサーミスタ焼結体の分離面の側を示し、(b)は同様に塩酸に120分だけ浸漬した後のサーミスタ焼結体の分離面の側を示し、(c)は塩酸に120分間浸漬した後のサーミスタ焼結体をピンセットで掴んだ様子を示す。
図8】基板が分離されたサーミスタ焼結体を塩酸に120分間だけ浸漬した後のサーミスタ焼結体の分離面および自由面を示すSEM写真であり、(a)は分離面(15000倍)、(b)は分離面(2000倍)、(b)は自由面(15000倍)を示している。
図9】Fe置換型NiMnの仮焼粉末に関し、(a)はX線回折パターンであり、(b)はFeの置換率(Fe substitution)と格子定数(Lattice constant)の関係を示すグラフである。
図10】Fe置換型NiMnの仮焼粉末のSEM写真である。
図11】Fe置換型NiMn焼結体に関し、(a)はX線回折パターンであり、(b)はFeの置換率と焼結体の密度などとの関係を示す表である。
図12】Fe置換型NiMn焼結体の表面および断面のSEM写真である。
図13】Fe置換型NiMn焼結体のFe置換率と電気抵抗の関係を示すグラフである。
図14】Fe置換型NiMn焼結体のFe置換率と特性の関係を示すグラフであって、(a)はB定数、(b)は室温抵抗値、応答速度に関する。
図15】Fe置換型NiMn仮焼粉末における磁場(Magnetic field)と磁化(Magnetization)の関係を示すグラフである。
図16】Fe置換型NiMn仮焼粉末における残留磁化と飽和磁化を示すグラフである。
図17】フェリ磁性を利用したサーミスタ焼結体の回収手順を示す図である。
図18】第1実施形態の変形手順により得られたサーミスタ焼結体を走査電子顕微鏡(5000倍)で観察した結果を示し、(a)は表面、(b)は断面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るサーミスタ焼結体およびその製造方法の実施形態について説明する。この実施形態は、基板を伴わないNiMn焼結体に関する第1実施形態と、Fe置換型のNiMn焼結体に関する第2実施形態とを含む。以下、第1実施形態および第2実施形態の順に説明する。
【0020】
〔第1実施形態:図1図8を参照〕
第1実施形態は、基板を伴わないNiMn焼結体(以下、基板フリー焼結体ということがある)およびその製造方法を説明する。ただし、この基板フリー焼結体は、基板の上に形成されるNiMn焼結体を基板から分離することにより得られる。
【0021】
[基板フリー焼結体の製造方法:図1
はじめに、図1を参照してサーミスタ焼結体10の製造方法を説明する。
この製造方法は、以下の第1A工程、第2A工程、第3A工程および第4A工程を備える。
【0022】
[第1A工程]:回転可能に支持される基板20の表面に原料液RLを滴下する。
原料液RLは、一例として、溶質として塩化ニッケル(NiCl・6HO)および塩化マンガン(MnCl・6HO)を含み、溶媒として水(HO)、エタノール(CO)およびエチレングリコール(C)を含む。この原料液における塩化ニッケルと塩化マンガンの比(モル比)は、Ni:Mn=1:2である。また、エタノール(ET)とエチレングリコール(EG)の比(重量比)は、ET:EG=4:1である。
【0023】
基板20の寸法は任意であるが、第1実施形態においては、直径10mm、厚さ0.5~1.0mmの円板状のZnOからなる基板20を用いた。基板20をなすZnOとして焼結体を用いることができる。
【0024】
基板20としてZnOを用いるのは、基板20からNiMn焼結体を分離するのに熱応力を利用するためである。つまり、NiMnとZnOには以下に示すように線膨張係数に相当の差異があるために、焼結後に、NiMnとZnOの間に線膨張係数の差異に基づく熱応力が生じ、両者の分離が促進される。
線膨張係数
NiMn;8.6×10-6/K
ZnO;6.5×10-6/K
【0025】
熱応力による分離を起こさせるために、ここではNiMnと線膨張係数の差が大きいZnOを基板20に用いるが、分離に熱応力を利用しないのであれば、基板20として他の材料、例えば酸化ジルコニウム(ZrO)などの酸化物セラミックス、窒化ケイ素(Si)などの窒化物セラミックスなどを用いることができる。
なお、熱応力を利用しない場合には、酸性液により基板20を選択的に溶解することで、結果的にサーミスタ焼結体10を基板20から分離できる。
【0026】
[第2A工程]:滴下された原料液RLを基板20上で均一な厚さに延ばす。
第1実施形態において、第2A工程の目的を達成するために、基板20を回転させて原料液RLに遠心力を作用させるスピンコート(Spin coating)が用いられる。本実施形態においては、一例として2000rpmの回転数で90秒間にわたって基板20を回転するスピンコートを行った。
【0027】
[第3A工程]:第2A工程を経た後に、大気中で焼結を行って原料液RLからNiMn焼結体を生成する。
本実施形態における焼結は、一例として、1100℃で5時間にわたって保持する条件を採用した。ただし、焼結の条件としては、保持温度が1000~1200℃の範囲、保持時間が1~10時間の範囲から採用することができる。
これで、サーミスタ焼結体10が基板20の上に接合されたサーミスタ接合体30が得られる。
【0028】
[第4A工程]:基板20からサーミスタ焼結体10を分離する。
分離は、一例として、前述した熱応力を利用することができる。この熱応力を利用する分離は、第3A工程における焼結温度の保持を終えて室温まで冷却する過程において生じ得る。この熱応力を利用する分離においては、この過程の冷却速度が速いほど分離が生じやすい。したがって、サーミスタ焼結体10および基板20の寸法などの条件に応じて空冷または空冷よりも冷却速度が速くなるように冷却媒体を吹き付けるなどして分離を行うこともできる。
【0029】
図3(b)に、焼結後に基板20から分離して単体として存在するサーミスタ焼結体10を示す。この例においては、基板20の表面にサーミスタ焼結体10が残り、一部のサーミスタ焼結体10だけが分離しているが、焼結後に格別な応力を付与しなくてもサーミスタ焼結体10が分離している。したがって、サーミスタ焼結体10と基板20の線膨張係数の差異に基づく熱応力によって、サーミスタ焼結体10を基板20から分離できることが確認された。
【0030】
また、他の分離の方法としては、サーミスタ焼結体10を支持している基板20を選択的に溶解する。例えば、サーミスタ焼結体10がNiMnであり、基板20がZnOの場合には、塩酸(HCl水溶液)を用いることができる。塩酸であれば、サーミスタ焼結体10(NiMn)は溶解せずに、基板20(ZnO)が選択的に溶解される。この場合、サーミスタ焼結体10に接する基板20の境界部分が先行して溶解されると、比較的短い時間で基板20からサーミスタ焼結体10を分離できる。
【0031】
[第1A工程~第3A工程の繰り返し]
以上においては、第1A工程~第3A工程を一度ずつ行う例を説明したが、図1に示すように第1A工程~第3A工程を複数回にわたって繰り返すこともできる。第1A工程~第3A工程、つまり焼結までの工程を繰り返すことにより、サーミスタ焼結体10の厚さを調整して厚くすることにより、強度の高いサーミスタ焼結体10を得ることができる。
後述するX線回折による観察は、焼結までの工程が1回だけの焼結体、さらに、2回、3回、4回および5回繰り返した後の焼結体について行った。
【0032】
[組織観察:図2(a),(b)]
第1A工程~第3A工程を3回繰り返した後に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により断面組織を観察した。その結果、図2(a)に示すように、NiMnからなるサーミスタ焼結体10の厚さが10μmであることが観察された。また、図2(b)に示すように、サーミスタ焼結体10にはNiMnからなる粒子間に空隙が観察されるが、サーミスタ焼結体10として足りる密度を有していることが確認された。
【0033】
[X線回折:図3(a)]
次に、得られたサーミスタ焼結体10について、X線回折(X-ray Diffraction : XRD)を行った。その結果が図3(a)に示されている。なお、図3(a)には、焼結までの工程である第1A工程~第3A工程が1回だけの焼結体、および、2回、3回、4回および5回繰り返した後の焼結体の回折結果が示されている。
図3(a)に示すように、1回~5回の何れの繰り返し後のサーミスタ焼結体10であっても、NiMnとして必要とされる組織が得られていることが確認された。
また、図3(a)には明示されていないが、他のX線回折の結果から、h20面とh11面(hは整数)の結晶配向が観察され、特に220面と311面の結晶配向が大きいことが確認された。
【0034】
[サーミスタ特性:図4図5
次に、以下に示す三つの試料1,2,3を用いて、サーミスタ焼結体10をサーミスタとして用いたときの以下に示す特性1,2を測定した。なお、試料1,2,3の厚さは30μmで共通する。
試料1:面積 1.56mm
試料2:面積 2.42mm
試料3:面積 5.61mm
試料4:面積 8.71mm
【0035】
特性1(図4):試料2,4における温度の変化(Temperature)と電気抵抗の変化(Resistance)との関係
特性2(図5):試料1(100℃),3,4(100℃)の熱応答性
【0036】
図4に示すように、試料2,4ともに測定温度が高くなると電気抵抗が小さくなっており、試料2,4を構成するサーミスタ焼結体10はNTCサーミスタとしての要件を備えていることが確認された。図4に示される特性は現在常用されているNTCサーミスタと同等である。
【0037】
また、図5に示すように、試料1,3,4のいずれにおいても、100℃における応答時間が1.1~1.2秒程度の範囲と敏感であり、この点でも本実施形態に係るサーミスタ焼結体10はNTCサーミスタとして必要な特性を備えていることが確認された。なお、図5には示されていないが、試料2の100℃における応答時間も上記の範囲にある。
【0038】
[基板20の面積と分離するサーミスタ焼結体10の面積:図6
以上の試料2および試料3における、基板20と基板20から分離して単体として存在するサーミスタ焼結体10の一例を図6に示す。なお、試料2および試料3ともに、熱応力によりサーミスタ焼結体10が基板20から分離している。
図6(a),(b)において、基板20の面積とサーミスタ焼結体10の面積とが対応しており、基板20の面積を大きくすることによりサーミスタ焼結体10の面積を大きくできる。
【0039】
ここで、サーミスタ焼結体10は、熱応答速度の向上のためには、厚さ方向の寸法が小さく、面積が大きいことが望まれる。ただし、あまり薄すぎると強度が得られにくくなるので、厚さは1μm~100μmの範囲であることが好ましい。より好ましい厚さは10~50μmである。また、面積については、厚さとの兼ね合いから、1~10mmの範囲とすることが好ましく、より好ましい面積は2~5mmである。
【0040】
[分離されたサーミスタ焼結体10における基板20の痕跡:図7図8
前述したように、サーミスタ焼結体10は基板20から分離されるが、基板20が分離されたサーミスタ焼結体10の面である分離面における基板20の痕跡を確認した。痕跡の確認は、得られたサーミスタ接合体30を塩酸(HCL濃度:1mol/L)に浸漬することにより基板20を分離することによって行った。
【0041】
図7(a)には、サーミスタ接合体30を塩酸に浸漬して30分経過した後のサーミスタ焼結体10の分離面の側が示されている。図7(a)において、黒色の部分がサーミスタ焼結体10であって、その表面が分離面をなす。この分離面の大部分を覆っている灰色の部分が基板20であるZnOの痕跡である。塩酸への浸漬が120分経過すると、図7(b)に示すように、この痕跡は塩酸による溶解によりほぼ消滅する。基板20の痕跡が消滅したサーミスタ焼結体10は、図7(c)に示すように、ピンセットで掴んでも亀裂などが生じない強度を有している。
【0042】
基板20の痕跡を微視的に観察した結果が図8に示されている。なお、観察は塩酸への浸漬が120分経過した後のサーミスタ焼結体10の分離面および分離面に対向する面(自由面)である。
図8(a),(b)に示すように、分離面においては基板20であるZnOの痕跡が白色として観察される。なお、図8(a)と図8(b)は、前者の方が高い倍率で撮影されている。
図8(c)に示すように、自由面においてはZnOの痕跡は観察されない。ただし、図8(a)と図8(c)を比較すると、分離面(図8(a))の方の表面の凹凸が顕著であるのに対して、自由面(図8(c))の方の表面が平滑である。
【0043】
以上の通りであるから、本実施形態のように、基板20の上に焼結により得られるサーミスタ焼結体10は、基板20が分離された後のおもて面およびうら面を観察することにより、自由面および分離面を特定できる。
【0044】
〔第2実施形態:図9図17を参照〕
次に、NiMnのMnをFeで置換するFe置換型NiMn(NiMn2-XFe)焼結体に関する第2実施形態を説明する。第2実施形態においてMnをFeで置換することは、焼結体としての密度向上と焼結体に対する磁性付与が目的である。密度向上は、サーミスタに適用されたときの機械的な強度向上につながり、磁性付与は微小な焼結体の回収を磁石で吸着するのを可能とする。
以下、Fe置換型NiMn仮焼粉末の素性、Fe置換型NiMn焼結体の素性、Fe置換型NiMn焼結体のサーミスタ特性、Fe置換型NiMn仮焼粉末の磁気特性の順に説明する。
【0045】
[Fe置換型NiMn仮焼粉末の組織:図9図10
以下の手順でFe置換型NiMn(NiMn2-XFe)仮焼粉末を製造し、当該仮焼粉末についてX線回折による観察を行うとともに、格子定数を求めた。その結果を図9に示す。なお、FeによるMnの置換率x(%)は以下の通りであり、9種類の仮焼粉末を作製した。Fe置換率xが0%の試料はNiMn仮焼粉末であり,Fe置換率xが100%の試料はNiFe仮焼粉末である。
【0046】
図9(a)に示すように、ここで得られた仮焼粉末は、全てのFe置換率においてスピネル型化合物の単一相が生成された。また、これらの仮焼粉末はMnをFeで置換しても二次相を形成することなく完全に固溶する全率固溶型の固溶体であることが確認された。
また、図9(b)に示すように、Fe置換率の増加に伴って仮焼粉末における格子定数が小さくなることが確認された。
【0047】
また、図10に1000℃で仮焼した粉末のSEM写真が示されるが、Feの置換率が増えるのにつれて、仮焼における粒成長が抑制されることが確認された。
【0048】
[NiMn2-XFe仮焼粉末および焼結体の製造手順]
NiMn2-XFe仮焼粉末および焼結体の製造手順の説明をするが、はじめに仮焼粉末の製造手順を説明する。
市販の硫酸ニッケル(II,NiSO)、硫酸マンガン(II,MnSO)および硫酸鉄(II,FeSO)をNi:Mn:Fe=1:2-x:x(モル比)になるように秤量し、イオン交換水中で原料が溶解するまで撹拌して原料混合溶液を得た。その後、原料混合溶液中にシュウ酸アンモニウム((NH)水溶液を加えて24h撹拌後、吸引ろ過で沈殿物を回収し、回収物を120℃乾燥機で一晩乾燥させて共沈粉末を得た。得られた共沈粉末を空気中、400℃で2h焼成して仮焼粉末を得た。
【0049】
次に、焼結体の製造手順は以下の通りである。
以上の手順で得られた仮焼粉末を一軸加圧(加圧力:98MPa)で円盤状の成形体(直径:10mm)を作製した。この成形体を5℃/minの速度で室温から1100℃まで昇温し、空気中1100℃で5h.保持する焼成を行った後に、放冷してFe置換型NiMnであるNiMn2-xFe焼結体を得た。
【0050】
[Fe置換率]
Fe置換率x(%):
0%(NiMn) 15%(NiMn1.7Fe0.3
30%(NiMn1.4Fe0.6) 45%(NiMn1.1Fe0.9
50%(NiMnFeO) 60%(NiMn0.8Fe1.2
75%(NiMn0.5Fe1.5) 90%(NiMn0.2Fe1.8
100%(NiFeO
【0051】
[Fe置換型NiMn焼結体の組織:図11図12
上述した手順でFe置換型NiMn焼結体を製造し、当該焼結体についてX線回折による観察を行うとともに、焼結体の密度を求めた。その結果を図11に示す。なお、FeによるMnの置換率x(%)は仮焼粉末と同様に9種類である。
図11(a)に示すように、Fe置換型NiMn焼結体は上述した1100℃による仮焼粉末の結果と同様に全てのFe置換率においてスピネル型化合物の単一相が生成された。
また、図11(b)の表に焼結密度と理論密度の関係から算出した相対密度を示すが、MnをFeで置換すれば相対密度は向上し、Fe置換率が50%の焼結体の相対密度が最も大きい。このFe置換による相対密度の向上は、固溶体の仮焼粉末の粒成長が抑制され、それによって粒子同士の接触面積が増えて焼結が進行しやすくなったためと解される。
【0052】
図12にFe置換型NiMn焼結体の表面および断面のSEM写真を示す。図12に示すように、Fe置換率が0%から75%においては焼結が相当に進行し緻密化している。またFe置換率が50%で最も焼結が進行しているのに対してFe置換率が100%の焼結体(NiFe)は気孔が散見されており、焼結が不十分である。
【0053】
以上の結果より、MnをFeで置換することで焼結体の緻密化が促進される結果、焼結体の気孔が減少することが確認された。焼結体の密度向上を目的とする好ましいFe置換率は20~90%であり、より好ましいFe置換率は40~80%である。
【0054】
[Fe置換型NiMn焼結体のサーミスタ特性:図13図14
次に、以上で得られたNiMn2-XFe焼結体について、サーミスタ特性を測定した。測定したサーミスタ特性は、各種温度における電気抵抗の変化(図13)、温度変化におけるB定数(図14(a))、室温抵抗値、応答速度(図14(b))である。特性の測定条件は以下に示される通りである。
【0055】
図13に示すように、Fe置換率が0%から100%の全ての焼結体は時間経過とともに焼結体への熱伝導がほぼ完了し、電気抵抗が一定の値に達する。また、いずれの試料においても環境温度が高いほど電気抵抗が低下しており、NTCサーミスタとしての要件を備えることが確認された。
【0056】
次に、図14(a)に示すように、サーミスタとしての感度を表すB定数は、Fe置換率が50%の焼結体が最も高い。また、図14(b)に示すように、Fe置換率が50%の焼結体において、室温抵抗値が最も低く、かつ、応答速度が小さいことが確認された。
【0057】
以上の結果より、サーミスタ特性を考慮したときのFe置換率は、15~75%が好ましく、30~75%がより好ましく、45~60%がさらに好ましい。
【0058】
[測定条件]
まず電極作製と熱源距離2mmでの測定方法について説明する。焼結体カーボンテープでマスキングし、Pt,Pdで3分間蒸着後、Agペーストと銅線を接続して電極を取り付けた。この電極を取り付けた焼結体を以下のようにデジタルマルチメーターに取り付け、上から温度可変型ガラスヒーターをおいて電気抵抗を測定した。
【0059】
[Fe置換型NiMn仮焼粉末の磁気特性:図15図16
次に、NiMn2-XFe仮焼粉末の室温(300K)における磁気特性を測定した結果を説明する。測定した磁気特性は、図15に示される磁場(Magnetic field)と磁化(Magnetization)の関係、および、図16(a),(b)に示される残留磁化(Residual magnetization)と飽和磁化(Saturation magnetization)である。
【0060】
図15に示すように、Fe置換率が0%であるNiMnは常磁性(paramagnetism)を示すのに対して、Fe置換率が30%以上のNiMn2-XFe仮焼粉末においてフェリ磁性(ferrimagnetism)によるS字状のヒステリシス曲線を示すことが確認された。フェリ磁性は自発磁化を持つために、磁石に吸着される。詳しくは後述するが、微細なNiMn2-XFe焼結体は、磁石を用いて回収できる。
【0061】
また、図16より、Fe置換率が大きくなるのにつれて残留磁化と飽和磁化が増加することが確認された。また、Fe置換率が50%以上になると残留磁化の増加量が減少することも確認された。
なお、残留磁化とは、磁場を取り除いたあとに磁性体に残っている磁化をいう。また、飽和磁化とは、磁場の増加とともに磁性体内の磁気モーメントはすべて磁場方向にそろい、それ以上磁化されない、磁化が飽和した状態のことをいう。
【0062】
[フェリ磁性を利用した回収方法:図17
次に、フェリ磁性を利用して基板20から分離したサーミスタ焼結体10を回収する方法について図17を参照して説明する。なお、図17に示される以前の、基板20の上にサーミスタ焼結体10を焼結するまでの手順は、第1実施形態(図1)に準ずるものとする。
【0063】
この回収方法は、以下の第1B工程、第2B工程および第3B工程を備える。
[第1B工程]:サーミスタ接合体30の切断、分割(図17(a))
図17(a)に示すように、基板20の表面にサーミスタ焼結体10が接合されたサーミスタ接合体30を切断して、複数のサーミスタ分割体40を得る。円板状をなしているサーミスタ接合体30を、図17(a)に示すように、サーミスタ接合体30を平面視して格子状に切断することにより、複数のサーミスタ分割体40を得る。それぞれのサーミスタ分割体40は、サーミスタ焼結体10および基板20からなり、直方体状の外観を有する。このサーミスタ分割体40の寸法は、例えば、2×2×0.5(縦×横×高さ)mmを有する。
サーミスタ接合体30を切断する手法は任意であり、例えば機械的切断手法および光学的切断手法を採用できる。機械的切断手法としてダイシングソー(dicing saw)が掲げられ、光学的切断手法としてはレーザ光切断が掲げられ。
【0064】
[第2B工程]:酸溶解によるサーミスタ焼結体10の基板20からの分離(図17(b))
次に、図17(b)に示すように、サーミスタ分割体40を酸溶液AS、例えば塩酸(HCl)水溶液に浸漬することにより、基板20を溶解することによりサーミスタ焼結体10を基板20から分離させる。塩酸は、サーミスタ焼結体10と基板20の界面に浸透し、この界面に臨む基板20を溶解することで、分離に寄与する。分離後には、サーミスタ焼結体10および基板20はそれぞれ単体となる。
【0065】
第1B工程において、例えばダイシングソーによる切断が行われた場合、サーミスタ焼結体10と基板20の界面の接合がその振動により弱められ、第2B工程における分離が促進される。この効果は、レーザ切断においても期待できる。
【0066】
[第3B工程]:サーミスタ焼結体10の磁石による回収(図17(c))
次に、図17(c)に示すように、基板20から分離されたサーミスタ焼結体10を磁石MGで吸着させることで回収する。ZnOから構成される基板20は常磁性を有しており、磁石MGに吸着されないため、サーミスタ焼結体10を基板20と区分して回収できる。
【0067】
ここで用いる磁石MGの種類は、電磁石および永久磁石の何れであってもよい。
電磁石からなる磁石MGによれば、吸着による回収が必要なときに電流を流して磁力を発生させ、回収したサーミスタ焼結体10を磁石MGから離して次の工程に必要な領域に置くときに電流を流すのを止めて磁力をなくす。
電磁石からなる磁石MGによれば、吸着したサーミスタ焼結体10を磁石MGから離して次の工程に必要な領域に置くときには、機械的にサーミスタ焼結体10を磁石MGから引き離す。これを実現するには、磁力が比較的に弱い永久磁石を磁石MGに適用することが望まれる。
【0068】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、基板20として酸化亜鉛(ZnO)を用いたが、酸化カルシウム(CaO)を用いても同様の効果が得られる。CaOの線膨張係数は13.6×10-6/Kと、NiMnの8.6×10-6/Kと差異がある。
また、第2実施形態において、Mnを置換する元素としてFeを掲げたが、CoでMnを置換することもできる。
【0069】
以上説明した第1実施形態においては、第1A工程(原料滴下)~第3A工程(焼結)を3回繰り返す手順により得られたサーミスタ焼結体を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1A工程(原料滴下)と第2A工程(スピンコート)を複数回繰り返した後に第3A工程(焼結)を行うことができる。この手順は、薄いサーミスタ焼結体10を得るのに有効である。
第1A工程(原料滴下)と第2A工程(スピンコート)を20回(20cycle)繰り返した後に焼結した。なお、この手順以外は第1実施形態の製造手順を踏襲した。
得られた焼結体のSEM像を図18に示すが、厚さが2μmという極めて薄い焼結体が得られた。この焼結体は、負の温度特性を有しており、NTCサーミスタとしての要件を備える。
【符号の説明】
【0070】
RL 原料液
10 サーミスタ焼結体
20 基板
30 サーミスタ接合体
40 サーミスタ分割体
MG 磁石
【要約】
厚さが1~100μm、面積が1~10mmの範囲にあり、NiMnの組成を有する焼結体の単体からなるサーミスタ焼結体10。このサーミスタ焼結体10は、回転可能に支持される基板20の表面に原料液RLを滴下する第1工程と、原料液RLが滴下された基板20を回転させて原料液RLを引き延ばす第2工程と、原料液RLと原料液RLが載せられた基板20を加熱保持することにより、NiMnの組成を有する焼結体10を基板20の表面に生成する第3工程と、基板20から焼結体10を分離する第4工程と、により製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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