(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】芯鞘型複合熱接着性繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230518BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20230518BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20230518BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20230518BHJP
D04B 21/12 20060101ALI20230518BHJP
D04C 1/02 20060101ALI20230518BHJP
D04C 1/06 20060101ALI20230518BHJP
D04C 1/12 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D03D15/292
D04B1/16
D04B21/16
D04B21/12
D04C1/02
D04C1/06 Z
D04C1/12
(21)【出願番号】P 2019047266
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018050349
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘平
(72)【発明者】
【氏名】池上 翔平
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 富夫
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019094(JP,A)
【文献】特開平07-258921(JP,A)
【文献】特開2007-092204(JP,A)
【文献】特開2015-117445(JP,A)
【文献】特開2006-207084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
D04B1/00-1/28
D04B21/00-21/20
D04H1/00-18/04
D03D1/00-27/18
D04C1/00-7/00
D04G1/00-5/00
C08G63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとテレフタル酸からなる四元共重合体よりなり、
該四元共重合体の共重合モル比が、テレフタル酸100モル%に対して、ジエチレングリコール1.0~2.0モル%、1,4-ブタンジオール20.0~90.0モル%及びエチレングリコール9.0~79.0モル%であり、該鞘成分の融点が該芯成分の融点よりも50℃~90℃低く、該鞘成分が熱接着性成分となる芯鞘型複合熱接着性繊維。
【請求項2】
四元共重合体の共重合モル比が、テレフタル酸100モル%に対して、ジエチレングリコール1.0~2.0モル%、1,4-ブタンジオール49.0~49.5モル%及びエチレングリコール49.0~49.5モル%である請求項
1記載の芯鞘型複合熱接着性繊維。
【請求項3】
芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとテレフタル酸からなる四元共重合体よりなり、該鞘成分の融点が該芯成分の融点よりも50℃~90℃低く、該鞘成分が熱接着性成分となる芯鞘型複合熱接着性長繊維であり、該長繊維が複数本集束されてなる熱接着性マルチフィラメント糸。
【請求項4】
請求項
3記載の熱接着性マルチフィラメント糸で構成された織物、編物、網地及び紐よりなる群から選ばれた熱接着性繊維製品。
【請求項5】
請求項
4記載の熱接着性繊維製品に加熱処理を施すことにより、鞘成分を溶融させて、芯鞘型複合熱接着性
長繊維相互間を融着させることを特徴とする熱成形体の製造方法。
【請求項6】
熱成形体がメッシュシート、漁網、剥落防止ネット、獣害ネット及び防蟻シートよりなる群から選ばれた用途に用いられる請求項
5記載の熱成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞘成分を熱接着性成分とする、引張強度の高い芯鞘型複合熱接着性繊維に関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、メッシュシートの素材として、芯成分がポリエチレンテレフタレートで鞘成分がポリエチレンテレフタレートよりも融点の低いポリエステル共重合体よりなる芯鞘型複合繊維を用いることは知られている。ここで、ポリエステル共重合体としては、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールとテレフタル酸とε-カプロラクトンの四元重合体が用いられている。かかる芯鞘型複合繊維よりなるマルチフィラメント糸を経糸及び緯糸に用いて粗目の織物を製織し、熱処理して鞘成分を溶融させ経糸及び緯糸の交点を融着させてメッシュシートとして用いられる。経糸及び緯糸の交点を融着させるのは、メッシュシートの目づれを防止するためである。以上の事項は、本件出願人の子会社であった者の公開公報である特許文献1の実施例等に記載されている。
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特許文献1に記載された芯鞘型複合繊維を改良したものであって、特に繊維の引張強度を高くしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、繊維の引張強度を高くするため、鞘成分であるポリエステル共重合体として、特定の共重合体を採用したものである。すなわち、本発明は、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとテレフタル酸からなる四元共重合体よりなり、該四元共重合体の共重合モル比が、テレフタル酸100モル%に対して、ジエチレングリコール1.0~2.0モル%、1,4-ブタンジオール20.0~90.0モル%及びエチレングリコール9.0~79.0モル%であり、該鞘成分の融点が該芯成分の融点よりも50℃~90℃低く、該鞘成分が熱接着性成分となる芯鞘型複合熱接着性繊維に関するものである。また、本発明は、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとテレフタル酸からなる四元共重合体よりなり、該鞘成分の融点が該芯成分の融点よりも50℃~90℃低く、該鞘成分が熱接着性成分となる芯鞘型複合熱接着性長繊維であり、該長繊維が複数本集束されてなる熱接着性マルチフィラメント糸に関するものである。本発明において、エチレングリコール、テレフタル酸、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコールの化合物名は、共重合体の構成単位としての意味、すなわち、エチレングリコール構成単位等という意味である。なお、芯成分及び鞘成分の融点は、パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計DSC-7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定したものである。
【0006】
本発明に係る芯鞘型複合熱接着性繊維は、芯成分と鞘成分とからなる。芯成分を構成する共重合体は、エチレングリコールをジオール成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られるポリエチレンテレフタレートである。なお、ジカルボン酸成分として、ごく少量のイソフタル酸等の他のジカルボン酸成分が混合されていてもよい。エチレングリコールとテレフタル酸の共重合比は、概ね当モル比である。芯成分の融点は概ね260℃程度である。一方、鞘成分を構成する四元共重合体は、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールとジエチレングリコールとをジオール成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる共重合ポリエステルである。四元共重合体の共重合モル比は、テレフタル酸100モル%に対して、ジエチレングリコール1.0~2.0モル%、1,4-ブタンジオール20.0~90.0モル%及びエチレングリコール9.0~79.0モル%であるのが好ましい。特に、テレフタル酸100モル%に対して、ジエチレングリコール1.0~2.0モル%、1,4-ブタンジオール49.0~49.5モル%及びエチレングリコール49.0~49.5モル%であるのが、より好ましい。ジエチレングリコールが共重合成分として所定量存在すると、繊維の引張強度が向上する。鞘成分の融点は、芯成分の融点よりも50℃~90℃低くなっており、概ね170℃~210℃である。芯成分と鞘成分の融点差が50℃未満であると、鞘成分が溶融する温度に加熱した場合、芯成分が熱による影響を受けて劣化する恐れがある。したがって、加熱処理により得られた熱成形体の物性が低下するので、好ましくない。また、芯成分と鞘成分の融点差が80℃を超えると、芯成分と鞘成分の融点差が大きくなりすぎて、芯鞘型複合熱接着性繊維を公知の複合溶融紡糸法で得られにくくなる。
【0007】
芯鞘型複合熱接着性繊維は、芯成分となるポリエチレンテレフタレートと、鞘成分となる共重合ポリエステルとを、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して、複合溶融紡糸するという公知の方法で得ることができる。芯成分と鞘成分の重量割合は、芯成分:鞘成分=1~5:1(重量比)程度である。芯成分の重量割合が低すぎると、加熱処理後に得られた熱成形体の形態保持性(強度や剛性)が低下する傾向となる。熱接着性成分である鞘成分が溶融して融着しても芯成分は当初の繊維形態を維持しているが、かかる芯成分の重量割合が低いと、熱成形体の強度や剛性が低下するのである。また、熱接着性成分である鞘成分の重量割合が低すぎると、加熱処理後に得られた熱成形体の表面に毛羽立ちが生じやすくなる。芯成分と鞘成分は、同心に配置されていてもよいし、偏心して配置されていてもよい。しかしながら、偏心に配置されていると、加熱処理時に、収縮が生じやすくなるため、同心に配置されている方が好ましい。
【0008】
芯鞘型複合熱接着性繊維の繊度は1~20デシテックス程度であり、短繊維であっても長繊維であってもよい。長繊維の場合は、一本の長繊維を熱接着性モノフィラメント糸として用いてもよいが、複数本の長繊維を集束して熱接着性マルチフィラメント糸とするのが好ましい。さらに、この熱接着性マルチフィラメント糸を用いて、製織、製編、製網又は編組して、織物、編物、網地又は紐等の熱接着性繊維製品としてもよい。もちろん、熱接着性モノフィラメント糸を用いて熱接着性製品を得てもよい。
【0009】
本発明に係る芯鞘型複合熱接着性繊維は、種々の方法で用いることができる。たとえば、芯鞘型複合熱接着性繊維と他種繊維とを混合して繊維ウェブを形成した後、加熱処理を施し、鞘成分のみを溶融させて繊維相互間を融着させた不織布を得ることができる。また、芯鞘型複合熱接着性長繊維一本からなる熱接着性モノフィラメント糸で粗目の織物又は編物を得た後、加熱処理を施し、鞘成分のみを溶融させて熱接着性モノフィラメント糸同士の交点を融着させたネットを得ることもできる。
【0010】
本発明においては、芯鞘型複合熱接着性長繊維を複数本集束させた熱接着性マルチフィラメント糸を得た後、この熱接着性マルチフィラメント糸を用いて、上記した熱接着性繊維製品を得るのが好ましい。たとえば、織物又は編物よりなる熱接着性繊維製品の場合、この編織物に加熱処理を施し、鞘成分のみを溶融させて、編織物中の糸の交点で融着させ、目づれの生じにくい織物よりなる熱成形体を得ることができる。かかる熱成形体は、建築土木工事現場で用いるメッシュシート、安全ネット又は剥落防止ネットとして好適である。また、編織物中の糸の交点だけでなく、熱接着性マルチフィラメント糸全体を鞘成分で融着させて高剛性の熱成形体を得ることもできる。かかる高剛性の熱成形体は、漁網や獣害防止ネットとして好適である。特に漁網の場合、定置網、籠網又は養殖網として最適である。さらに、本発明に係る方法で得られた熱成形体は、住居の床下から白蟻が侵入するのを防止するための防蟻シートとして用いることもできる。防蟻シートとする際に、本発明に係る方法で得られた熱成形体に殺蟻剤や蟻忌避剤等の防蟻剤を付着させてもよい。なお、加熱処理は、熱接着性成分である鞘成分の融点以上で芯成分の融点未満の温度で行われ、一般的に180℃~200℃程度で行われる。また、加熱処理時に又は加熱処理後に、所望の形状となるように加圧してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る芯鞘型複合熱接着性繊維は、鞘成分として特定の四元共重合体を採用したので、引張強度が高くなり、切断伸度が低くなって、繊維物性が向上したものである。この結果、芯鞘型複合熱接着性繊維を用いて、熱接着性マルチフィラメント糸を得る際に、糸切れや毛羽立ちが少なくなるという効果を奏する。したがってまた、この熱接着性マルチフィラメント糸を製織、編織、製網又は編組しやすくなり、織物、編物、網地又は紐等の熱接着性繊維製品を得やすくなるという効果も奏する。
【実施例】
【0012】
実施例1
芯成分として、エチレングリコールとテレフタル酸の共重合体(融点256℃で極限粘度[η]0.75)よりなるポリエチレンテレフタレートを準備した。鞘成分として、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール及びテレフタル酸の四元共重合体(融点183℃で極限粘度[η]0.70)よりなる共重合ポリエステルを準備した。なお、四元共重合体の共重合モル比は、エチレングリコール49.4モル%、1,4-ブタンジオール49.3モル%、ジエチレングリコール1.3モル%及びテレフタル酸100モル%である。なお、極限粘度[η]は、フェノールと四塩化エタンの等重量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl及び液温20℃で測定したものである。
孔径0.6mmで孔数192個の芯鞘型複合紡糸口金を具えた複合溶融紡糸装置に、上記したポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエステルを供給し、口金温度を285℃とし、ポリエチレンテレフタレート:共重合ポリエステル=2.7:1(重量比)として、複合溶融紡糸を行い、同心状芯鞘型複合接着性繊維を得た。得られた芯鞘型複合熱接着性繊維192本が集束した糸条に、常法により冷却、延伸及び弛緩処理を施して、1670デシテックス/192フィラメントの熱接着性マルチフィラメント糸を得た。
【0013】
実施例2
芯成分として用いるポリエチレンテレフタレートの極限粘度[η]を0.80に変更した他は、実施例1と同一の方法で熱接着性マルチフィラメント糸を得た。
【0014】
実施例3
芯成分として用いるポリエチレンテレフタレートの極限粘度[η]を0.86に変更した他は、実施例1と同一の方法で熱接着性マルチフィラメント糸を得た。
【0015】
実施例4
芯成分として用いるポリエチレンテレフタレートの極限粘度[η]を0.92に変更した他は、実施例1と同一の方法で熱接着性マルチフィラメント糸を得た。
【0016】
実施例5
芯成分として用いるポリエチレンテレフタレートの極限粘度[η]を1.05に変更した他は、実施例1と同一の方法で熱接着性マルチフィラメント糸を得た。
【0017】
参考例1
芯成分として、実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートを準備した。鞘成分として、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ε-カプロラクトン及びテレフタル酸の五元共重合体(融点160℃で極限粘度[η]0.65)よりなる共重合ポリエステルを準備した。なお、五元共重合体の共重合モル比は、エチレングリコール50.0モル%、1,4-ブタンジオール49.2モル%、ジエチレングリコール0.8モル%、ε-カプロラクトン13.2モル%及びテレフタル酸86.8モル%である。
孔径0.6mmで孔数192個の芯鞘型複合紡糸口金を具えた複合溶融紡糸装置に、上記したポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエステルを供給し、口金温度を280℃とし、ポリエチレンテレフタレート:共重合ポリエステル=2.7:1(重量比)として、複合溶融紡糸を行い、同心状芯鞘型複合接着性繊維を得た。得られた芯鞘型複合熱接着性繊維192本が集束した糸条に、常法により冷却、延伸及び弛緩処理を施して、1670デシテックス/192フィラメントの熱接着性マルチフィラメント糸を得た。
【0018】
実施例1~5及び参考例1で得られた熱接着性マルチフィラメント糸の引張強度(cN/dt)、切断伸度(%)及び毛羽立ち(個/100万m)を、以下の方法で評価した。その結果を表1に示した。
[引張強度(cN/dt)及び切断伸度(%)]
JIS L-1013記載の方法の準拠し、島津製作所社製オートグラフDSS-500を用い、つかみ間隔25cm及び引張速度30cm/分の測定条件で行った。
[毛羽立ち]
春日電機社製毛羽発見器F9-AN型を用い、引取速度300m/分で行った。
【0019】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
引張強度 切断伸度 毛羽立ち
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 5.41 15.2 20
実施例2 5.61 14.5 20
実施例3 5.82 14.2 18
実施例4 6.23 13.5 15
実施例5 6.85 12.8 16
参考例1 4.28 18.3 25
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0020】
実施例及び参考例から分かるように、鞘成分としてε-カプロラクトンを含む共重合ポリエステルを採用した参考例に比べて、それを含まない共重合ポリエステルを採用した実施例の方が、引張強度、切断伸度及び毛羽立ちの点において優れている。