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特許7281196免疫調節創傷パッチとしての傾斜多孔質足場
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】免疫調節創傷パッチとしての傾斜多孔質足場
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/22 20060101AFI20230518BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230518BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20230518BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20230518BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61L27/22
A61L27/50
A61L27/56
A61L27/36 100
A61L27/26
A61L27/36 400
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019558466
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 US2018029519
(87)【国際公開番号】W WO2018200776
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】62/490,148
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591135163
【氏名又は名称】テンプル・ユニバーシティ-オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY-OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】アザデー ティムナク
(72)【発明者】
【氏名】ピーター アイ.レルケス
(72)【発明者】
【氏名】ヤー-エル エイチ.ハレル
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0074832(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0302896(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0311746(US,A1)
【文献】特開2009-119205(JP,A)
【文献】ACS Symposium series,2014年,Vol.1175,pp.103-126
【文献】Biomaterials,2008年,Vol.29,pp.2348-2358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00 -33/18
A61K 35/00 -35/768
C12M 3/00 - 3/10
C12N 5/00 - 5/28
D01D 1/00 -13/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足場であって、以下:
細孔の勾配を有する材料
を含み、前記材料は、植物タンパク質繊維を含み、前記植物タンパク質繊維は、第1の表面、第2の表面と、その間の厚さを有し;
ここで、前記第1の表面における平均孔径は、前記第2の表面における平均孔径よりも小さく;
ここで、前記平均孔径は、前記第1の表面から前記第2の表面まで材料を通して漸増し;並びに
ここで、前記第2の表面は、前記第1の表面まで前記材料の厚さ方向に細胞浸透を可能にするように構成されており、かつ、ここで、前記第1の表面の細孔は、細胞の通過を妨げるようにサイズ調整されている、足場。
【請求項2】
前記植物タンパク質が、以下:大豆タンパク質単離物、小麦グルテン、コーンゼイン、及びエンドウタンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
前記繊維が、0.5μm~5μmの直径を有する、請求項1に記載の足場。
【請求項4】
前記足場が、500μm~2000μmの厚さを有する、請求項1に記載の足場。
【請求項5】
前記第1の表面の平均孔径が、1μm~20μmの直径である、請求項1に記載の足場。
【請求項6】
前記第2の表面の平均孔径が、10μm~200μmである、請求項1に記載の足場。
【請求項7】
前記平均孔径の漸増が、線形である、請求項1に記載の足場。
【請求項8】
前記平均孔径の漸増が、非線形である、請求項1に記載の足場。
【請求項9】
前記足場が、細胞増殖を支持することができる、請求項1に記載の足場。
【請求項10】
少なくとも1つの細胞をさらに含む、請求項1に記載の足場。
【請求項11】
少なくとも1つの材料をさらに含む、請求項1に記載の足場であって、前記少なくとも1つの材料が、以下:フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、糖タンパク質、トロンボスポンジン、エラスチン、フィブリリン、ムコ多糖、糖脂質、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ビトロネクチン、ポリ-D-リジン、及び多糖類からなる群から選択される、足場。
【請求項12】
少なくとも1つの材料をさらに含む、請求項1に記載の足場であって、前記少なくとも1つの材料が、以下、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、コポリマーポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリアニリン、及びポリ(エチレンオキシド)(PEO)からなる群から選択される、足場。
【請求項13】
傾斜多孔質足場(graded porous scaffold)を作製する方法であって、以下のステップ:
植物タンパク質溶液を犠牲材料(sacrificial material)溶液とともに電気処理し、前記植物タンパク質溶液及び犠牲材料は、同時にかつ別々に回転基板へと堆積されて、複合足場(composite scaffold)を形成し;
前記複合足場から犠牲材料を除去して、植物タンパク質足場を形成し;
前記植物タンパク質足場を水溶液で水和し;
前記植物タンパク質足場を凍結し;並びに
凍結した植物タンパク質足場を凍結乾燥して、傾斜多孔質足場を形成すること、
を含前記電気処理が、エレクトロスピニングである、方法。
【請求項14】
前記植物タンパク質溶液が、1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中に溶解した大豆タンパク質単離物(SPIを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記犠牲材料が、水溶性材料を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶性材料が、エタノール中に溶解したPEOである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液が水である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記凍結ステップが、-80℃で2時間行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記凍結乾燥が、-60℃かつ0.08mbarで行われる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年4月26日に出願された米国仮特許出願第62/490,148号の優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
慢性創傷ケアは、米国の医療制度と個人支払者の両方に多大な経済的負担を強いている。現在、非治癒/治癒困難な皮膚創傷に関する年間費用は約25億ドルに達する(Witherel CE et al.、Wound Repair and Regeneration 24.3(2016): 514-524)。しかしながら、全体のコストにも関わらず、痛みや瘢痕のない正常な生活を送るという患者のニーズはほとんど満たされていない。自家移植は、皮膚置換で実践される、より一般的な方法の一つであるが、罹患率、死亡率、及び移植に利用可能なドナー皮膚の面積に関するサイズ制限は依然として問題である。
【0003】
代替治療法には、生物活性創傷ドレッシング、陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy)(NPWT)、又は生物工学皮膚置換が挙げられる。創傷ドレッシングの適用は、効果的に創面の水分のバランスを取るが、組織の瘢痕化及び壊死を引き起こす可能性がある。NPWTは、より速い肉芽組織形成及び創傷サイズの減少などの利点を提供し、これは最終的に、創傷組織を切断する必要性の減少をもたらす(Huang C et al.、Current problems in surgery 51.7(2014): 301-331;Bruhin A et al.、International Journal of Surgery 12.10(2014): 1105-1114;Li T et al.、Experimental and therapeutic medicine 11.3(2016): 769-776)。しかしながら、NPWTは、いくつかの臨床的な注意点に関連する(Huang C et al.、Current problems in surgery 51.7(2014): 301-331;Bruhin A et al.、International Journal of Surgery 12.10(2014): 1105-1114;Orgill DP et al.、International wound journal 10.s1(2013): 15-19)。最近のFDAの警告によると、NPWTは時により、出血及び感染を含む重度の合併症を引き起こすことがある。
【0004】
動物モデルにおける生物工学足場の適用は、皮膚付属器の修復に役割を果たすようであり、これは他の2つの技術で治療される皮膚創傷では報告されていない(Har-el Y et al.、Wound Medicine 5(2014): 9-15;Sundaramurthi D et al.、Polymer Reviews 54.2(2014): 348-376)。皮膚付属器の再構築は、組織再生の開始、最終及び所望の段階の治癒プロセスを表す。長期にわたる炎症は、治癒組織のリモデリング及び再生に対する主要な障害である(Wang Z et al.、Biomaterials 35.22(2014): 5700-5710;Mantovani A et al.、The Journal of pathology 229.2(2013): 176-185;Badylak SF et al.、Tissue Engineering Part A 14.11(2008): 1835-1842)。
【0005】
改善された多孔質構造を有する足場のための技術が必要とされている。本発明はこの必要性を満たす。
【発明の概要】
【0006】
発明の概要
一態様では、本発明は、足場であって:多孔質材料を含み、当該多孔質材料は:大豆タンパク質単離物(SPI)繊維を含み、当該SPIは、第1の表面、第2の表面、及びその間に厚さを含み;ここで、第1の表面における平均孔径は、第2の表面における平均孔径よりも小さく;並びに、ここで、平均孔径は、第1の表面から第2の表面まで材料を通して漸増する、足場に関する。
【0007】
一実施形態では、植物タンパク質は、大豆タンパク質単離物、小麦グルテン、コーンゼイン、及びエンドウタンパク質からなる群から選択される。一実施形態では、繊維は、0.5μm~5μmの直径を有する。一実施形態では、足場は、500μm~2000μmの厚さを有する。一実施形態では、第1の表面の平均孔径は、1μm~20μmの直径である。一実施形態では、第2の表面の平均孔径は、10μm~200μmである。一実施形態では、平均孔径の漸増は線形である。一実施形態では、平均孔径の漸増は非線形である。
【0008】
一実施形態では、足場は、細胞増殖を支持することができる。一実施形態では、足場は、少なくとも1つの細胞をさらに含む。一実施形態では、足場は、少なくとも1つの材料をさらに含み、当該少なくとも1つの材料は、以下:フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、糖タンパク質、トロンボスポンジン、エラスチン、フィブリリン、ムコ多糖、糖脂質、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ビトロネクチン、ポリ-D-リジン、及び多糖類からなる群から選択される。一実施形態では、足場はさらに、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、コポリマー ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリアニリン、及びポリ(エチレンオキシド)(PEO)からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む。
【0009】
別の態様では、本発明は、傾斜多孔質足場(graded porous scaffold)を作製する方法であって、以下のステップ:植物タンパク質溶液を犠牲材料(sacrificial material)溶液とともに電気処理し、植物タンパク質溶液及び犠牲材料は、同時に及び別々に回転基板へと堆積されて、複合足場を形成し;複合足場から犠牲材料を除去して、植物タンパク質足場を形成し;植物タンパク質足場を水溶液で水和し;植物タンパク質足場を凍結し;並びに、凍結した植物タンパク質足場を凍結乾燥して、傾斜多孔質足場を形成すること、を含む、方法に関する。
【0010】
一実施形態では、電気処理は、エレクトロスピニングである。一実施形態では、SPI溶液は、1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノール中に溶解したSPIを含む。一実施形態では、犠牲材料は、水溶性材料を含む。一実施形態では、水溶性材料は、エタノール中に溶解したPEOである。一実施形態では、水溶液は水である。一実施形態では、凍結ステップは、-80℃で2時間行われる。一実施形態では、凍結乾燥ステップは、-60℃かつ0.08mbarで行われる。
【0011】
以下の本発明の実施形態の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより良く理解されることになる。しかしながら、本発明は、図面に示された実施形態の正確な配置及び手段に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1Aから図1Cは、本発明の例示的な足場であって、可視化した水和前の赤色(DilC18)の大豆繊維、及び青色(DiOC18)のPEO繊維(図1A)、可視化した水和後の大豆繊維のみ(図1B)、並びに凍結乾燥後(図1C)を示す。
図2図2は、本願発明の足場を製造する例示的な方法を示す。
図3図3は、複合大豆タンパク質単離物(SPI)及びポリエチレンオキシド(PEO)足場を製造するための実験セットアップを示す。
図4図4A及び図4Bは、40℃の水中で24時間水和する前(図4A)及び後(図4B)の実験的SPI-PEO足場を示す。DilC18で赤色染色されたSPI繊維、及びDiOC18で緑色染色された犠牲PEO繊維。
図5図5A及び図5Bは、30kVの加速電圧で操作電子顕微鏡を用いて撮影した傾斜水和凍結(GHL)足場(図5A)対、規則的紡糸(regularly spun)SPI足場(図5B)の断面図を示す。
図6図6A及び図6Bは、播種7日後のGHL足場(図6A)及び規則的紡糸SPI足場(図6B)へのHDFB細胞浸透を実証する実験の結果を示す。
図7図7A及び図7Bは、播種24時間後のHL足場(図7A)及び規則的紡糸SPI足場(図7B)へのRAW264.7細胞浸透を示すMATLABを用いた3D再構成レーザー走査共焦点画像を示す。細胞核は青色、足場は緑色である。軸の単位はμmである。
図8A図8A及び図8Bは、内層への細胞浸透を示すHL足場(図8A、矢印)、及び最小限の細胞浸透を示す規則的紡糸足場(図8B)についての手術7日後の汎マクロファージ(pan-macrophages)(L1)抗体でのIHC染色を示す。Tは組織であり、Sは足場である。点線は、足場-組織の境界を示す。
図8B図8A及び図8Bは、内層への細胞浸透を示すHL足場(図8A、矢印)、及び最小限の細胞浸透を示す規則的紡糸足場(図8B)についての手術7日後の汎マクロファージ(pan-macrophages)(L1)抗体でのIHC染色を示す。Tは組織であり、Sは足場である。点線は、足場-組織の境界を示す。
図9図9は、GHL足場上への播種後3、7、及び10日目の細胞の生存率を示すalamarBlueアッセイの結果を示す。
図10図10Aから図10Dは、GHL足場(図10A)及び規則的紡糸SPI(図10B)上のヒト皮膚繊維芽細胞について、並びにGHL足場(図10C)及び規則的紡糸SPI(図10D)上のTHP-1細胞についての播種後5日の細胞生存率の結果を示す。
図11図11は、湿潤及び乾燥条件下でのGHL足場の引張試験からの応力-ひずみ曲線を示す。
図12A-B】図12Aから図12Cは、GHL足場と規則的紡糸SPI足場との孔径を比較する。図12Aは、GHL足場の断面図である。図12Bは、規則的紡糸SPI足場の断面図である。断面図は、走査電子顕微鏡を用いて撮影した。
図12C図12Cは、GHL足場及び規則的紡糸SPI足場の異なる領域における孔径の範囲を示すグラフである。ブラケットは、統計的に比較された2つの群を示す。この場合、中間部(Mid)が電界紡糸SPIと比較され、そして底部(Bottom)が電界紡糸SPIと比較される。二重アスタリスクは、0.01以下のp値を示す。統計分析において、p値は結果の有意性を決定する。0.01未満のp値は、2つの群の比較が99%の確実性で有意に異なることを示す。
図13図13は、GHL足場及び規則的紡糸SPI足場に対する身体の炎症反応を調査する実験の結果を示すグラフであり、斯かる炎症反応は、手術後3、7、及び10日に汎マクロファージ細胞密度スコアによって測定された。単一のアスタリスクは、0.05以下のp値を示す。0.05未満のp値は、2つの群の比較が95%の確実性で有意に異なることを示す。
図14図14は、本発明の例示的な傾斜足場が3層の異なる孔径を含むことを実証する実験の結果を示す。
図15図15は、規則的紡糸SPI足場と、傾斜多孔質繊維(GPF)足場の大細孔(large pore)領域とにおけるヒト皮膚繊維芽細胞、THP-1単球、及びRAW 264.7マクロファージの付着及び増殖を比較する実験の結果を示す。細胞核はDAPIで青色に染色され;アクチンフィラメントはファロイジンで緑色に染色された。
図16図16は、GPF足場の大細孔領域が、皮膚繊維芽細胞の異なる浸透を支持することを実証する実験の結果を示す。規則的紡糸SPI足場及びGPF足場の小細孔で培養された皮膚繊維芽細胞及びRAW 264.7マクロファージが、比較のために提供される。細胞核はDAPIで青色に染色され;アクチンフィラメントはファロイジンで緑色に染色された。
図17図17は、GPF足場の大きな孔径が、培養2日目という早さでTHP-1マクロファージのプロヒーリング(pro-healing)表現型への極性化(polarization)を促進することを実証する実験の結果を示す。規則的紡糸SPI足場及びGP足場の小細孔領域で培養されたTHP-1マクロファージが、比較のために提供される。M2/M1スコアは、M1遺伝子(TNFα、IL6)の発現レベルの合計をM2遺伝子(MRC1、CCL17)の発現レベルの合計で割ったものとして定義される。
図18図18は、規則的紡糸SPI足場で処置した創傷と、非処置創面とが比較される例示的なGPF足場を用いた創傷処置の結果を示す。手術後7日のプロヒーリング(M2)及び炎症誘発性(pro-inflammatory)(M1)抗体の茶色での免疫組織化学染色。スケールバーは250μm、インセットで100μmである。
図19図19は、創傷に移植されたGPF足場が、マクロファージのプロヒーリング表現型への極性化を促進することを実証する実験の結果を示す。創傷に移植された規則的紡糸SPI足場及び非処置創傷におけるマクロファージが比較のために提供される。M2/M1スコアは、抗MRC1で免疫染色されたマクロファージの数の平均を、抗iNOSで免疫染色されたマクロファージの数の平均で割ったものとして定義され、それぞれサンプリングエリアに対して正規化された。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本発明は、多孔質生体模倣足場及びその作製方法を提供する。当該足場は、増強された細胞浸透のための傾斜孔径を有する。当該足場は、特定の組織の固有の層状構造を模倣することにより、創傷再生及び組織モデリングに役立つ。
【0014】
定義
本発明の図面及び説明は、本願発明の明確な理解に関連する要素を例示するために簡略化され、明確性の目的で、典型的に当該技術分野で見られる他の多くの要素は排除されていることを理解されたい。当業者は、他の要素及び/又はステップが、本発明の実施に望ましい、及び/又は必要とされることを理解するであろう。しかしながら、そのような要素及びステップは当該技術分野で良く知られているため、並びにそれらは本願発明のより良い理解を促進しないため、そのような要素及びステップの議論は本明細書では提供されない。本明細書の開示は、当業者によって知られているそのような要素及び方法に対するそのような全ての変形及び修正に関する。
【0015】
他で定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似又は同等の任意の方法及び材料が、本願発明の実施又は試験に使用されてもよいが、例示的な方法及び材料が記載される。
【0016】
本明細書で使用される場合、以下の用語のそれぞれはこの章でそれに関連する意味を有する。
【0017】
冠詞「a」及び「an」は、1つの又は1つを超える(すなわち、少なくとも1つの)冠詞の文法的対象を指すために使用される。例として、「要素(an element)」とは、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0018】
「約」は、本明細書において、測定可能な値、例えば量、一時的な持続期間などを指す際に使用される場合、指定された値からの±20%、±10%、±5%、±1%、及び±0.1%の変動を包含することを意味し、それは、そのような変数が適切であるためである。
【0019】
本明細書で使用される場合、「生体適合性」は、哺乳動物に移植された場合に、哺乳動物に有害反応を引き起こさない任意の材料を指す。生体適合性材料は、個体に導入された場合、その個体に対して毒性又は有害でなく、またそれは哺乳動物における材料の免疫学的拒絶を誘導しない。
【0020】
本明細書で使用される場合、「培養」は、栄養培地中又は栄養培地上での細胞、例えば組織細胞の培養又は成長を指す。細胞又は組織培養の当業者に良く知られているように、細胞培養は一般に、ヒト又は他の動物から細胞又は組織を除去し、それを酵素で処理することによって分離し、そして得られた細胞の懸濁液をペトリ皿の底部のような平坦な表面に広げることによって開始される。細胞は一般に、ペトリ皿のプラスチック又はガラスに細胞を付着させる糖タンパク質様物質を生成することによって、「単層」と呼ばれる細胞の薄い層を形成する。次に、細胞増殖に適した栄養素を含む培養培地の層を、単層の上に配置し、培養物をインキュベートして、細胞の増殖を促進する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「細胞外マトリックス組成物」は、可溶性及び不溶性画分の両方又はそれらの任意の部分を含む。不溶性画分は、支持体又は足場に堆積している分泌されたECMタンパク質及び生物学的成分を含む。可溶性画分は、細胞が培養された培養培地、並びに細胞が活性剤(複数)を分泌した培養培地への言及を含み、かつ、足場に堆積していないタンパク質及び生物学的成分を含む。両方の画分は収集され、任意によりさらに処理され、そして、本明細書に記載の様々な用途で個別に又は組み合わせて使用することができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「移植片(graft)」は、典型的には欠損を置換、修正、又は克服するために、個体に移植される細胞、組織、器官、又は生体材料を指す。移植片はさらに足場を含んでもよい。組織又は器官は、同じ個体に由来する細胞からなり得る;この移植片は、本明細書において以下の互換可能な用語で呼ばれる:「自家移植片(autograft)」、「自家移植片(autologous transplant)」、「自家移植片(autologous implant)」及び「自家移植片(autologous graft)」。同じ種の遺伝的に異なる個体からの細胞を含む移植片は、本明細書において以下の互換可能な用語で呼ばれる:「同種異系移植片(allograft)」、「同種異系移植片(allogeneic transplant)」、「同種異系移植片(allogeneic implant)」及び「同種異系移植片(allogeneic graft)」。個体からその個体の一卵性双生児への移植片は、「同系移植片(isograft)」、「同系移植片(syngeneic transplant)」、「同系移植片(syngeneic implant)」又は「同系移植片(syngeneic graft)」と呼ばれる。「異種移植片(xenograft)」、「異種移植片(xenogeneic transplant)」又は「異種移植片(xenogeneic implant)」は、1つの個体から異なる種の別の個体への移植片を指す。用語「患者」、「対象」、「個体」などは、本明細書で互換的に使用され、そして、本明細書に記載された方法に適した任意の動物、又はインビトロ又はインサイチュ(in situ)に関わらずその動物の細胞を指す。特定の非限定的な実施形態では、患者、対象又は個体は、ヒトである。
【0023】
本明細書で使用される場合「成長因子」は、以下を含むがこれらに限定されない非限定的な因子が意図される:成長ホルモン、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インターロイキン3、インターロイキン6、インターロイキン7、マクロファージコロニー刺激因子、c-kitリガンド/幹細胞因子、オステオプロテジェリンリガンド、インスリン、インスリン様成長因子、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子(TGF-ベータ)、肝細胞成長因子(HGF)、及び骨形成タンパク質であって、ピコグラム/ml~ミリグラム/mlレベルの濃度のもの。
【0024】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」はコポリマーを含む。「コポリマー」は、1つを超えるポリマー前駆体から形成されるポリマーである。ポリマーは、本明細書で使用される場合、溶媒に可溶性であり、かつ貧溶媒(antisolvent)に不溶性であるポリマーを含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「足場(scaffold)」は、生体適合性材料を含む構造を指し、当該生体適合性材料は、細胞の付着及び増殖に適した表面を提供する。足場はさらに、機械的安定性及び支持を提供することができる。足場は、増殖する細胞の集団によって想定される三次元形状又は形態に影響与えるかその範囲を定めるように、特定の形状又は形態であってもよい。そのような形状又は形態は、これらに限定されるものではないが、フィルム(例えば三次元よりも実質的に大きな二次元を有する形態)、リボン、コード、シート、フラットディスク、シリンダー、球体、3次元無定形などを含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、「組織工学」は、組織の置換又は再構築に使用するためにエクスビボで組織を生成するプロセスを指す。組織工学は、「再生医療」の一例であり、これは、生物工学材料及び技術とともに、細胞、遺伝子又は他の生物学的構成要素を組み込むことによる、組織及び器官の修復または置換に対するアプローチを含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「組織移植」及び「組織再構築」はいずれも、肺欠損又は軟組織欠損などの組織欠損を治療又は軽減するために移植片を個体に移植することを指す。
【0028】
「移植片(Transplant)」は、移植されることになる生体適合性格子(lattice)又はドナー組織、器官又は細胞を指す。移植片の例としては、これらに限定されるものではないが、皮膚細胞又は組織、骨髄、並びに固形臓器、例えば心臓、膵臓、腎臓、肺及び肝臓が挙げられる。
【0029】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示される。範囲形式での説明は、単に便宜上及び簡潔にするためのものであることが理解されるべきであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではない。従って、範囲の説明は、全ての可能な部分範囲、並びにその範囲内の個別の数値を具体的に開示したとみなされるべきである。例えば、1~6のような範囲の説明は、部分範囲、例えば1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6、及び当該範囲内の個別の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、6、並びにその間の任意の全体的及び部分的増分を開示したとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関わらず適用される。
【0030】
足場
本発明は、細胞浸潤を促進する傾斜孔径を有する繊維足場を提供する。足場は、皮膚又は骨などの固有の段階的構造を有する組織のエンジニアリングに役立つ。勾配-多孔質(gradient-porous)構造は、これら組織の細胞外マトリックスの天然の生体構造を模倣し、他の多孔質足場と比較して、足場へのより自然な、異方性の細胞浸透、並びに構築物内での改善された細胞の運動性及び移動を可能にする。足場全体の細孔のサイズ分布は、多様な細胞タイプの分離と配置を増強する。例えば、皮膚繊維芽細胞及び角化細胞は、それぞれの天然組織の固有の層状構造を緊密に模倣する一で足場に配置され得る。また、細孔は、生理活性分子、栄養因子、及び老廃物の効率的な輸送を可能にする。
【0031】
ここで、図1Aから図1Cを参照すると、例示的な足場10が示されている。足場10は、植物タンパク質繊維を含む多孔質材料である。植物タンパク質は、任意の好適な植物、例えば大豆タンパク質単離物、小麦グルテン、コーンゼイン、エンドウタンパク質などに由来し得る。足場10は、第1の表面12、第2の表面14と、その間の厚さを有するように形成され、ここで、表面12は第1の平均孔径を備え、かつ表面14は第2の孔径を備える。SPI繊維は、任意の好適な平均直径、例えば0.5μm~5μmを有し得る。一実施形態では、表面12の第1の平均孔径は、表面14の第2の平均孔径よりも大きい。別の実施形態では、表面14の第2の平均孔径は、表面12の第1の平均孔径よりも大きい。より小さな平均孔径を有する表面についての平均孔径は、1μm~20μmであるか、又は一実施形態では、1μm~10μmであり得る。より大きな平均孔径を有する表面についての平均孔径は、10μm~1000μmであるか、又は一実施形態では、10μm~200μmであり得る。平均孔径は、足場10を通じて、より小さな平均孔径を有する表面から、より大きな平均孔径を有する表面まで、徐々に増加する。様々な実施形態では、平均孔径の変化は、線形又は非線形であり得る。様々な実施形態では、複数の足場10を組み合わせて、動的平均孔径を有する多成分足場を形成することができる。例えば、2つの足場10は、鏡面勾配配向(mirrored gradient orientation)を有する表面対表面で融合されて、外表面から足場内部に向かって増加又は減少する平均孔径を有する、より厚い足場を形成することができる。他の例では、2つの足場10は、同じ勾配配向を有する表面対表面で融合されて、表面対表面の界面で大細孔と小細孔との間の急激な遷移を有する、より厚い足場を形成することができる。
【0032】
特定の実施形態では、足場10の構造は、多孔度に関して説明することができる。例えば、第1の表面12は、第1の多孔度を有することができ、かつ表面14は第2の多孔度を有することができ、ここで、第1の多孔度は第2の多孔度よりも高く、又は第2の多孔度は第1の多孔度よりも高い。より低い多孔度を有する表面の多孔度は、1%~50%であり得る。より高い多孔度を有する表面の多孔度は、50%~99%であり得る。足場10の多孔度は、より低い多孔度を有する表面からより高い多孔度を有する表面まで徐々に増加する。多孔度の変化は、線形又は非線形であり得る。
【0033】
特定の実施形態では、足場10の構造は、細孔の数、又は細孔数に関して説明することができる。例えば、第1の表面12は第1の細孔数を有することができ、表面14は第2の細孔数を有することができる、ここで、第1の細孔数は第2の細孔数よりも多く、又は第2の細孔数は第1の細孔数よりも多い。足場10の細孔数は、より少ない細孔数を有する表面からより多い細孔数を有する表面へと徐々に増加する。細孔数の変化は線形又は非線形であり得る。
【0034】
足場10は、任意の好適な形状を有し得る。いくつかの実施形態では、足場10は、実質的に平面、例えばシートの形態である。他の実施形態では、足場10は、三次元構造、例えばチューブ又は球体に成形することができる。足場10は、任意の好適な厚さ、例えば100μm未満又は数ミリメートル程度の厚さを有し得る。一実施形態では、生体模倣足場の厚さは、500μm~5000μmであり、又は別の実施形態では、500μm~2000μmである。足場10は任意の幾何学形状を有し得る。様々な実施形態では、足場10は、任意の好適な形状に合わせてトリミング又はサイズ調整することができる。
【0035】
様々な実施形態では、足場10は、大豆タンパク質単離物(SPI)を含み、宿主体内における免疫応答を軽減し、組織のリモデリングを進める炎症プロセスを低減又は短縮する。用語「大豆タンパク質単離物」は、本明細書で使用される場合、大豆タンパク質産業での従来の意味で使用される。例えば、大豆タンパク質単離物は、無水ベースで少なくとも90%の大豆タンパク質のタンパク質含有量を有する大豆材料である。「単離された大豆タンパク質」は、当該技術分野で使用される場合、本明細書で使用され、かつ当該技術分野で使用される「大豆タンパク質単離物」と同じ意味を有する。大豆タンパク質単離物は、大豆から形成され、この形成は、子葉から大豆の外皮及び胚芽を取り除き、子葉をフレーキング(flaking)又は粉砕し、そしてフレーキング又は粉砕した子葉から油を除去し、子葉繊維及び脂質から子葉の大豆タンパク質及び炭水化物を分離し、その後炭水化物から大豆タンパク質を分離することによって行われる。特定の実施形態では、得られた材料をエタノールで洗浄して、何割かのイソフラボノイドを除去する。一実施形態では、大豆ベースの組成物は、大豆タンパク質と大豆子葉繊維とを含む繊維材料を含む。繊維材料は一般に、脱脂大豆タンパク質材料及び大豆子葉繊維を含む。繊維材料は、大豆タンパク質材料及び大豆子葉繊維を押し出すことにより生成される。
【0036】
様々な実施形態では、足場は、様々なタンパク質(例えば、コラーゲン)又は化合物、例えば治療剤を共有結合するための1つ又は複数の官能基で修飾することができる。足場に連結され得る治療剤としては、これらに限定されるものではないが、鎮痛薬、麻酔薬、抗真菌薬、抗生物質、抗炎症薬、駆虫薬、解毒剤、制吐薬、抗ヒスタミン薬、抗がん薬、抗高血圧薬、抗マラリア薬、抗菌薬、抗精神病薬、解熱薬、消毒薬、抗関節炎薬、抗結核薬、鎮咳薬、抗ウイルス薬、心臓作用薬、下剤、化学療法剤、着色又は蛍光イメージング剤、コルチコイド(例えばステロイド)、抗うつ薬、抑制薬、診断補助薬、利尿薬、酵素、去痰薬、ホルモン、睡眠薬、ミネラル、栄養補助食品、副交感神経刺激薬、カリウム補助食品、放射線増感剤、放射性同位元素、蛍光ナノ粒子、例えばナノダイヤモンド、鎮静剤、スルホンアミド、刺激剤、交感神経刺激薬、精神安定剤、尿路抗感染薬、血管収縮薬、血管拡張薬、ビタミン、キサンチン誘導体などが挙げられる。治療剤はまた、他の小有機分子、天然に単離された実体又はそのアナログ、有機金属剤、キレート化金属又は金属塩、ペプチドベースの薬物、あるいは、ペプチド又は非ペプチド受容体標的化または結合剤であってもよい。足場への治療剤の結合は、プロテアーゼ感受性リンカー又は他の生分解性結合を介していてもよいことが企図される。生体模倣足場に組み込まれてもよい分子は、これらに限定されるものではないが、ビタミン及び他の栄養補助剤;糖タンパク質(例えば、コラーゲン);フィブロネクチン;ペプチド及びタンパク質;炭水化物(単純及び/又は複合体の両方);プロテオグリカン;抗原;オリゴヌクレオチド(センス及び/又はアンチセンスDNA及び/又はRNA);抗体(例えば、感染因子、腫瘍、薬物又はホルモンに対する);並びに遺伝子治療試薬を含む。
【0037】
様々な実施形態では、足場はさらに、1つ又は複数の多糖類を含むことができ、斯かる多糖類には、好適な粘度、分子量、及び他の所望の特性を有するグリコサミノグリカン(GAG)又はグルコサミノグリカンが含まれる。用語「グリコサミノグリカン」は、任意のグリカン(すなわち、多糖類)を包含することが意図され、斯かる任意のグリカンは、1つが常にアミノ糖である二糖類の繰り返し単位を有する非分岐多糖鎖を含む。クラスとしてのこれら化合物は、高い負電荷を有し、強い親水性であり、一般的にムコ多糖と呼ばれる。多糖類のこのグループは、ヘパリン、へパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、及びヒアルロン酸を含む。これらGAGは、主として細胞表面上及び細胞外マトリックスに見られる。用語「グルコサミノグリカン」はまた、主として単糖誘導体を含む任意のグリカン(すなわち多糖類)を包含することを意図し、斯かる単糖誘導体において、アルコール性ヒドロキシル基は、アミノ基又は他の官能基、例えばサルフェート又はホスフェートによって置換されている。グルコサミノグリカンの例はポリ-N-アセチルグルコサミノグリカンであり、これは一般的にキトサンと呼ばれる。本発明において有用であり得る例示的な多糖類としては、デキストラン、ヘパラン、ヘパリン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、アガロース、カラギーナン、アミロペクチン、アミロース、グリコーゲン、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、及び様々な硫酸化多糖類、例えばヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸、又はケラタン硫酸が挙げられる。
【0038】
様々な実施形態では、足場はさらに、1つ又は複数の細胞外マトリックス材料及び/又は天然に存在する細胞外マトリックス材料のブレンドを含むことができ、斯かる材料には、これらに限定されるものではないが、コラーゲン、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン硫酸、ヘパリン、及びケラタン硫酸、プロテオグリカン、及びこれらの組み合わせが含まれる。有益であり得るいくつかのコラーゲンは、これらに限定されるものではないが、I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XVIII、及びXIX型コラーゲンを含む。これらタンパク質は、天然型及び変性型を含むがこれらに限定されない任意の形態であり得る。足場はさらに、1つ又は複数の炭水化物、例えばキチン、キトサン、アルギン酸、並びにアルギン酸塩、例えばアルギン酸カルシウム及びアルギン酸ナトリウムを含み得る。これら材料は、植物製品、ヒト若しくは他の生物、又は細胞から単離されるか、あるいは合成によって製造され得る。また、単独又は組み合わせでの組織の粗抽出物、細胞外マトリックス材料、又は非天然組織の抽出物が企図される。細胞、組織、器官、及び腫瘍を含むが、これらに限定されない、生物学的材料の抽出物も含まれ得る。
【0039】
様々な実施形態では、足場はさらに、1つ又は複数の合成材料を含み得る。合成材料は好ましくは、インビボ又はインビトロでの適用に生物学的に適合する。そのようなポリマーは、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:ポリ(ウレタン)、ポリ(シロキサン)又はシリコーン、ポリ(エチレン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ナイロン、ポリアミド、ポリ無水物、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)(EVOH)、ポリカプロラクトン、ポリ(酢酸ビニル)(PVA)、ポリビニル水酸化物、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリオルトエステル又は開発され得る任意の他の類似の合成ポリマーであって、生物学的に適合性のもの。カチオン性部分を有するポリマー、例えばポリ(アリルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(リジン)、及びポリ(アルギニン)を使用することもできる。ポリマーは任意の分子構造を有してもよく、斯かる分子構造は、これらに限定されるものではないが、線形、分岐、グラフト、ブロック、星形、くし形、及びデンドリマー構造を含む。
【0040】
一実施形態では、足場はさらに、1つ又は複数の天然又は合成薬、例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、抗生物質、例えばペニシリンを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、天然ペプチド、例えばグリシル-アルギニル-グリシル-アスパルチル-セリン(GRGDS)、アルギニルグリシルアスパラギン酸(RGD)、及びアメロゲニンを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、タンパク質、例えばキトサン及びシルクを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、スクロース、フルクトース、セルロース、又はマンニトールを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、細胞外マトリックスタンパク質、例えばフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、及びヴィクサパチン(vixapatin)(VP12)を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、ディスインテグリン(disintegrins)、例えばVLO4を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、脱細胞化組織又は脱塩(demineralized)組織を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、合成ペプチド、例えばエムドゲイン(emdogain)を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、栄養素、例えばウシ血清アルブミンを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、ビタミン、例えばビタミンB2、ビタミンAd、ビタミンD、ビタミンE、及びビタミンKを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、核酸、例えばmRNA及びDNAを含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、天然又は合成ステロイド及びホルモン、例えばデキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、エストロゲン、及びその誘導体を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、成長因子、例えば繊維芽細胞成長因子(FGF)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)、及び上皮成長因子(EGF)を含むことができる。一実施形態では、足場はさらに、送達ビヒクル、例えばナノ粒子、微小粒子、リポソーム、ウイルス及び非ウイルストランスフェクション系を含むことができる。
【0041】
一実施形態では、足場は無細胞で提供される。別の実施形態では、足場は、人工組織コンストラクトを形成するために、1つ又は複数の細胞集団を予め播種して設けられている。人工組織コンストラクトは、細胞集団が患者自身の組織に由来する自家であっても、あるいは細胞集団が患者と同じ種内の別の対象に由来する同種異系であってもよい。人工器官コンストラクトはまた、異なる細胞集団が対象とは異なる哺乳動物種に由来する異種であってもよい。例えば、細胞は、哺乳動物、例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、及びヒツジの器官に由来してもよい。
【0042】
細胞は、例えば生体からの生検及び死体からの臓器全体の回復を含む多くの供給源から単離することができる。単離された細胞は好ましくは、レシピエントとなることが意図される対象からの生検によって得られる自家細胞である。生検は、生検針を使用して取得することができ、急速作用針は手順を迅速かつ簡単にする。
【0043】
細胞は、当業者に既知の技法を用いて単離することができる。例えば、組織は、機械的に分解し、並びに/あるいは消化酵素及び/又はキレート剤で処理することができ、斯かる処理は隣接細胞間の結合を弱め、大幅な細胞破壊無しに組織を個々の細胞の懸濁液に分散することを可能にする。酵素的解離は、組織を細かく刻み、いくつかの消化酵素を単独で又は組み合わせて刻んだ組織を処理することによって達成される。消化酵素には、これらに限定されるものではないが、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、及び/又はヒアルロニダーゼ、DNase、プロナーゼ及びディスパーゼが含まれる。機械的破壊はまた、組織の表面の削り、グラインダー、ブレンダー、篩、ホモジナイザー、圧力セル、又は超音波処理器の使用を含むがこれらに限定されない多くの方法によって達成される。
【0044】
組織が個々の細胞の懸濁液まで小さくなると、懸濁液は、細胞要素が得られる部分集団に分画され得る。これはまた、細胞分離のための標準技術を用いて達成することができ、斯かる技術は、これらに限定されるものではないが、特定の細胞タイプのクローニング及び選抜、不要な細胞の選択的破壊(ネガティブ選抜)、混合集団での細胞凝集能の違いに基づく分離、凍結融解手順、混合集団における細胞の異なる付着特性、濾過、従来の遠心分離及びゾーン遠心分離、遠心溶出法(centrifugal elutriation)(対流遠心分離(counterstreaming centrifugation))、単位重力分離、向流分配、電気泳動及び蛍光活性化セルソーティングを含む。
【0045】
例えば、ドナーが疾患、例えば癌又は所望の組織への他の腫瘍の転移を有する場合に、細胞分画が望ましい場合もある。細胞集団は、正常な非癌性細胞から悪性細胞又は他の腫瘍細胞を分離するためにソートされ得る。1つ又は複数のソート技術から単離された正常な非癌性細胞は、次に組織再構築に使用することができる。
【0046】
単離された細胞を、インビトロで培養して、生体模倣足場に播種するために利用可能な細胞数を増加してもよい。組織拒絶を防ぐために、同種異形細胞の使用、より好ましくは自家細胞の使用が好ましい。しかしながら、人工器官の移植後に対象において免疫応答が生じた場合、対象は、拒絶の可能性を減らすために、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン又はFK506で治療され得る。特定の実施形態では、キメラ細胞、又はトランスジェニック動物からの細胞が、生体適合性足場上に播種され得る。
【0047】
単離された細胞は、遺伝物質でコーティングする前にトランスフェクトされ得る。有用な遺伝物質は、例えば、宿主の免疫応答を低減又は排除することができる遺伝子配列であり得る。例えば、細胞表面抗原、例えばクラスI及びクラスII組織適合性抗原の発現が抑制され得る。これは、移植された細胞の宿主による拒絶の可能性を低下させ得る。さらに、遺伝子導入のためにトランスフェクションを使用することもできる。
【0048】
単離された細胞は、正常であるか、あるいは追加の又は正常な機能を提供するために遺伝的に操作されていてもよい。レトロウイルスベクター、ポリエチレングリコール、又は当業者に既知の他の方法を用いて細胞を遺伝的に操作するための方法が使用され得る。これらには、細胞において核酸を輸送及び発現する発現ベクターを用いるものが含まれる。(Goeddel;Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、Calif.(1990)参照)。ベクターDNAは、従来の形質転換又はトランスフェクション技術によって原核生物又は細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual、3nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory press(2001))、及び他の実験教科書に見出すことができる。
【0049】
足場上への細胞の播種は標準的な方法に従って行うことができる。例えば、組織修復に使用するためのポリマー基板上への細胞の播種が報告されている(例えば、Atala, A.et al.、J. Urol.148(2 Pt 2): 658-62(1992);Atala, A., et al. J. Urol.150(2 Pt 2): 608-12(1993)参照)。培養で増殖した細胞をトリプシン処理して細胞を分離し、分離した細胞を足場上に播種してもよい。あるいは、細胞培養から得られた細胞を細胞層として培養プレートから採取し、細胞を事前に分離することなく、細胞層を足場上に直接播種してもよい。
【0050】
一実施形態では、100万~5000万細胞の範囲が培地に懸濁され、足場の表面の各平方センチメートルに適用される。足場は、細胞が付着するまでの期間、例えば37℃、5%CO2のような標準的な培養条件下でインキュベートされる。しかしながら、足場上に播種される細胞の密度は異なってもよいことが理解されよう。例えば、より高い細胞密度は、播種された細胞によってより高い組織再生を促進するが、より低い密度は、宿主から移植片へと浸潤する細胞によって組織の比較的高い再生を可能にし得る。他の播種技術も、マトリックス又は足場及び細胞に応じて使用することができる。例えば、細胞は、真空濾過によってマトリックス又は足場に適用されてもよい。細胞タイプの選択、及び足場上への細胞の播種は、本明細書の教示に照らして当業者にとって日常的なものであろう。
【0051】
一実施形態では、足場に細胞の1つの集団を播種して、人工組織コンストラクトを形成する。別の実施形態では、足場は、2つの面に2つの異なる細胞集団で播種される。これは、足場の1つの面に第1の播種し、次いで他の面に播種することによって行われる。例えば、足場は、片側を上にして配置され、播種され得る。次に、足場は、第2の面が上になるように再配置され得る。次に、第2の面は第2の細胞集団で播種され得る。あるいは、足場の両面が同時に播種されてもよい。例えば、2つの細胞チャンバは、足場の両面(すなわち、サンドイッチ)に配置されてもよい。2つのチャンバは、異なる細胞集団で充填されて、足場の両面に同時に播種することができる。サンドイッチされた足場は、両方の細胞集団が均等に付着する機会を与えるために、回転又は反転し得る。
【0052】
別の実施形態では、2つの別個の足場に異なる細胞集団を播種することができる。播種後に、2つの足場は結合されて、2つの面に2つの異なる細胞集団を有する単一の足場を形成し得る。足場の相互の結合は、標準的な手順、例えばフィブリン接着剤、液体コポリマー、縫合糸などを用いて行うことができる。
【0053】
本願発明の足場上での細胞増殖を促進するために、足場は、1つ又は複数の細胞接着増強剤でコーティングされ得る。これらの剤は、コラーゲン、ラミニン、及びフィブロネクチンを含むが、これらに限定されない。足場はまた、足場上で培養された細胞を含み、標的組織代替物を形成し得る。代替では、他の細胞が、本願発明の足場上で培養され得る。
【0054】
作製方法
本発明はまた、本願発明の足場を作製する方法に関する。当該方法は、電気処理することと、電気処理された足場を水和し、浸漬したコンストラクトを凍結し、それを凍結乾燥する処理後プロセスとを組み合わせる。この方法は、水和及び凍結乾燥された足場を生成し、これは犠牲材料と組み合わせて、本願発明の独自の傾斜多孔質足場を生成する。
【0055】
ここで、図2を参照すると、傾斜多孔質足場を作製する例示的な方法100が示される。方法100は、ステップ110で始まり、当該ステップでは、植物タンパク質溶液を犠牲材料とともに電気処理して、複合足場を形成する。植物タンパク質溶液及び犠牲材料は、同じ回転基板上に、同時に、さらには別々に、電気的に堆積されることに留意することが重要である。特定の実施形態では、植物タンパク質溶液及び犠牲材料は、植物タンパク質溶液及び犠牲材料堆積の軌跡が互いに90度に配向されるように堆積される。ステップ120では、犠牲材料は複合足場から除去されて、植物タンパク質足場を残す。ステップ130では、植物タンパク質足場は水溶液で水和される。ステップ140では、植物タンパク質足場は水溶液から取り出した後に凍結される。ステップ150では、凍結した植物タンパク質足場は凍結乾燥され、傾斜多孔質足場を形成する。凍結乾燥は-60℃及び0.08mbarで行われる。
【0056】
SPI溶液は任意の好適な方法で調製することができる。例えば、SPI溶液は、1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFP)溶液中に溶解したSPIを含み得る。いくつかの実施形態では、SPI溶液は、一定量の犠牲材料を含むことができる。一実施形態では、SPI溶液は、HFPに溶解した7%(w/v)のSPI及び0.05%(w/v)ポリエチレンオキシド(PEO)を含む。
【0057】
犠牲材料溶液は任意の好適な方法で調製することができる。特定の実施形態では、犠牲材料は、ステップ120及びステップ130が同時に行われるように水溶性である(犠牲繊維は水和ステップ中に除去される)。一実施形態では、犠牲材料は、90%エタノールに溶解した3%(w/v)PEOを含む。他の実施形態では、犠牲材料は、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、又はデキストランを含むことができる。
【0058】
一実施形態では、電気処理は、エレクトロスピニングである。SPI溶液及び犠牲材料溶液が同時紡糸される条件は、任意の好適な範囲、例えば本明細書に開示された範囲内で行われる。例えば、エレクトロスピニングプロセスが使用される電界は、約5~約50kV、より好ましくは約10~約30kVの範囲であり得る。スピナレット(spinneret)へのスピニング溶液の送り速度(feed rate)は、約0.1~約3mL/時間、より好ましくは約0.5~約1.5mL/時間の範囲内であり得る。スピナレットは、個別に又は両方、1つ又は複数の追加のエアジェットで補充され得る。スピナレットは、回転基板から同じ距離であるか、それらは、SPI溶液及び犠牲材料溶液について異なる距離であり得る。
【0059】
回転基板が典型的には、通常ドリルチャックを介して、モーターに機械的に結合されたマンドレルを含むことを当業者は理解するであろう。様々な実施形態では、モーターは、約1毎分回転数(revolution per minute)(rpm)~約40,000rpmの速度でマンドレルを回転させる。1つの例示的な実施形態では、モーター回転速度は約1000rpm~約4000rpmである。別の例示的な実施形態では、モーター回転速度は約1rpm~約300rpmである。
【0060】
いくつかの実施形態では、SPI溶液、犠牲溶液、又はその両方はさらに付加的なポリマーを含んでもよい。ポリマーの非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:ポリウレタン、ポリシロキサン又はシリコーン、ポリエチレン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレン-コ-酢酸ビニル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリメタクリル酸、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリスチレン、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリカーボネートなど。
【0061】
いくつかの実施形態では、SPI溶液、犠牲溶液、又はその両方はさらに付加的な治療薬を含んでもよい。治療薬の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:麻酔薬、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、かゆみ止め薬、筋弛緩薬、鎮痛薬、解熱薬、ビタミン、抗菌薬、防腐剤、消毒薬、殺菌剤、外部寄生虫駆除薬(ectoparasiticides)、駆虫薬、アルカロイド、塩、イオン、抗炎症薬、創傷治癒剤、植物抽出物、成長因子、ポリカーボネート、細胞外マトリックス(ECM)成分、例えばECMタンパク質、皮膚軟化剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤、精神安定剤、鎮咳剤、ナノ粒子、例えば銀イオン、細胞、例えば幹細胞、上皮細胞、内皮細胞など。
【0062】
いくつかの実施形態では、SPI溶液、犠牲溶液、又はその両方はさらに付加的な動物又は植物タンパク質を含んでもよい。非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:ゼラチン、マトリゲル、ケラチン、コラーゲン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、キトサン、及び大豆キトサン。
【0063】
本発明のキット
本発明はキットも含み、斯かるキットは、本発明の方法内で有用な成分と、例えば足場を使用する方法を説明する指示資料とを含む。キットは、本発明の方法を実施するのに有用な成分及び材料を含んでもよい。例えば、キットは、SPI及び犠牲材料のスピニング溶液を含んでもよい。特定の実施形態では、キットは、予め形成された足場を含んでもよい。他の実施形態では、キットはさらに、細胞培養及び外科用器具を含む。
【0064】
一実施形態では、キットは創傷治療用である。例えば、キットは、小、中、大、及び特大のような予め設定されたサイズを有する足場を含んでもよく、ここで、オペレータは、創傷に合うよう適切にサイズ調整した足場を有する適切なキットを選択することができる。キットはさらに、包帯、抗生物質、又は創傷再生を促進する他の薬物を含んでもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、キットはさらに、組成物の総重量で約0.005%~2.0%の保存剤に入れられた足場を含んでもよい。保存剤は、環境中での汚染物質に曝露した場合に腐敗を防ぐために使用される。本発明に従って有用な保存剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン、イミド尿素(imidurea)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される保存剤が挙げられる。一実施形態では、保存剤は、約0.5%~2.0%のベンジルアルコールと0.05%~0.5%のソルビン酸との組み合わせである。
【0066】
特定の実施形態では、キットは、指示資料を含む。指示資料は、出版物、記録、図表、又は本明細書に記載のデバイス又はインプラントキットの有用性を伝えるために使用できる他の任意の表現媒体を含み得る。本発明のキットの指示資料は、例えば、所望の手順に必要であり得る1つ又は複数の機器を含むパッケージに貼り付けられていてもよい。あるいは、指示資料は、パッケージとは別に出荷されるか、又は通信ネットワーク、例えばインターネットを介して電子的にアクセス可能であってもよい。
【実施例
【0067】
実験例
本発明は、以下の実験例を参照することによってさらに詳細に説明される。これらの例は、例示の目的のためのみに提供され、特に指定がない限り限定的であることを意図しない。したがって、本発明は、決して以下の例に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ本明細書に提供された教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0068】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明及び以下の例示的な例を使用して、本発明の化合物を作製及び利用し、特許請求の範囲に記載の方法を実施することができると考えられる。それゆえ、以下の実施例は、本願発明の例示的な実施形態を具体的に指摘するものであり、決して本開示の残りを限定するものと解釈されるべきではない。
【0069】
実施例1:傾斜水和凍結乾燥(GHL)足場
本研究の目標は、足場の深部への細胞浸透を可能にするのに十分大きな細孔を有する繊維足場を開発することであり、これは、マクロファージの組織リモデリングM2表現型への切り替えを開始/促進し、したがって再生創傷治癒を促進することが報告されている(Garg K et al.、Biomaterials 34.18(2013): 4439-4451;Wang Z et al.、Biomaterials 35.22(2014): 5700-5710;Sussman EM et al.、Annals of biomedical engineering 42.7(2014): 1508-1516)。
【0070】
繊維足場の主成分は精製された大豆タンパク質単離物(SPI)であり、これは、インビトロでの細胞の付着、拡散及び増殖を可能にすることが示されている系列的な(paradigmatic)生体適合性生体材料である(Lin L et al.、Journal of tissue engineering and regenerative medicine 7.12(2013): 994-1008)。足場の犠牲成分はポリエチレンオキシド(PEO)であり、これは容易に入手可能かつ水に可溶性の安価なポリマー化合物である。スピニング溶液については、7%(w/v)のSPI+0.05%(w/v)のポリエチレンオキシド(PEO)を1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFP)に溶解し、PEOスピニング溶液については、3%(w/v)PEOを90%エタノールに溶解した。2つの成分を共電界紡糸(co-electrospun)し、得られた足場を後処理した。水和ステップ中、PEOを除去し;凍結ステップにより、傾斜多孔性が得られる。
【0071】
具体的には、共紡糸システムは、いずれも13kVの高電圧静電場に接続された別々のSPI及びPEOスピナレットを提供した。PEOスピナレットを、1barの圧力で作動する追加のエアジェットに接続した。繊維を収集するために垂直回転マンドレルを使用した。2つのノズルを、互いに90度で、かつマンドレルに垂直に配置した(図3)。この配置により、PEOの大きな繊維(~20μmの直径)とSPIの小さな繊維(~1.2μmの直径)とを含む繊維足場が作成される。複合SPI/PEO足場から犠牲繊維を除去するために、足場を水(40℃)に一晩浸漬した(図4A図4B)。次に、浸漬した足場を-80℃に2時間移した。凍結した試料を、-60℃及び0.08mbarで一晩凍結乾燥した。得られたGHL足場及び規則的紡糸SPIの断面図をそれぞれ図5A及び図5Bに示す。規則的紡糸SPI足場については、7%(w/v)のSPI+0.05%(w/v)のポリエチレンオキシド(PEO)を1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFP)に溶解し、静止した長方形のアルミニウムターゲット上に紡糸した。13kVの高電圧静電場で、15cmのアルミニウムターゲット距離へのスピナレットを用いて、エレクトロスピニングを行った。
【0072】
インビトロ細胞研究は、規則的電界紡糸SPI足場と比較して、本発明者らの新たに開発した足場の浸透性における有意な改善を明らかにした(図6A図6B図7A図7B)。Sprague Dawleyラットを用いた動物研究を行って、GHL足場の炎症反応の影響と、従来の電界紡糸SPI足場により誘発される炎症反応とを比較した。下背部の右側と左側にそれぞれ1つずつ、2つの皮下ポーチ(subcutaneous pouches)を作成し、正方形の10mm×10mmの足場をそれぞれに挿入した。1つはGHL足場であり、もう一つは従来紡糸のSPI対照であった。動物を手術の3、7、及び10日後に安楽死させ、足場を取り巻く組織を採取して、組織学用に調製した。
【0073】
足場を取り巻くコラーゲン性カプセルに隣接する領域に存在する全てのマクロファージを識別する汎マクロファージ抗体による組織の染色により、術後10日の対照SPI群と比較して、GHL足場を標的とするマクロファージの数が有意に少ないことが明らかとなった(図8A図8B)。
【0074】
本明細書で引用されるありとあらゆる特許、特許出願、及び刊行物の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本願は、特定の実施形態を参照して開示されたが、本発明の他の実施形態及び変形が、本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、このような全ての実施形態及び等価な変形を含むと解釈されることを意図している。
図1A-1C】
図2
図3
図4A-4B】
図5A-5B】
図6A-6B】
図7A-7B】
図8A
図8B
図9
図10A-10D】
図11
図12A-12B】
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19