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特許7281246封止材用マレイミド樹脂混合物、マレイミド樹脂組成物およびその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】封止材用マレイミド樹脂混合物、マレイミド樹脂組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/00 20060101AFI20230518BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230518BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C08G73/00
C08K3/013
C08L79/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022580898
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2022037693
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021169332
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】関 允諭
(72)【発明者】
【氏名】窪木 健一
(72)【発明者】
【氏名】井上 一真
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-145424(JP,A)
【文献】特開2018-104683(JP,A)
【文献】特開2009-001783(JP,A)
【文献】国際公開第2020/161926(WO,A1)
【文献】特開2019-189761(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165423(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/192680(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090578(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00- 73/26
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるマレイミド樹脂(A)、下記式(3)で表される2官能シアネート樹脂(B)からなるマレイミド樹脂混合物であって、
前記マレイミド樹脂(A)と前記2官能シアネート樹脂(B)の樹脂総量100重量%に対して、前記マレイミド樹脂(A)を55~95重量%含有する封止材用マレイミド樹脂混合物。
【化1】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立して下記式(2-a)~(2-f)で表される構造のいずれか1種を表す。Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、pはそれぞれ独立して1~3の整数を表す。nは繰り返し数であり、nの平均値naveは1<nave<10である。)
【化2】
(式(2-a)~式(2-f)中、*はベンゼン環への結合を表す。Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、mは1~50の整数を表し、qはそれぞれ独立して1~4の整数を表し、rはそれぞれ独立して1~3の整数を表す。式(2-d)の右側のメチレン基は、ナフタレン環の1~8位の任意の位置に結合する。)
【化3】
(式(3)中、Yは直接結合、―CH―、―CH(CH)―、―C(CH)2―のいずれかを表し、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、tはそれぞれ独立して1~4の整数を表す。)
【請求項2】
コーン・プレート粘度計で測定した150℃における溶融粘度が0.001~0.9Pa・sである請求項1に記載の封止材用マレイミド
樹脂混合物。
【請求項3】
軟化点が40~110℃である請求項1に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物。
【請求項4】
25℃においてアモルファス状である請求項1に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂混合物を含有する封止材用マレイミド樹脂組成物であって、
前記式(1)中、Xはそれぞれ独立して前記式(2-b)~(2-f)で表される構造のいずれか1種である、封止材用マレイミド樹脂組成物。
【請求項6】
更に、硬化剤(C)を含有する請求項5に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物。
【請求項7】
更に、硬化促進剤(D)を含有する請求項5に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物。
【請求項8】
更に、無機充填剤(E)を含有する請求項5に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物を硬化してなる硬化物。
【請求項10】
請求項5に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止材用マレイミド樹脂混合物、マレイミド樹脂組成物およびその硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては電子化が進み、エンジン駆動部付近に精密電子機器が配置されることもあるため、半導体素子の封止材には高水準での耐熱・耐湿性が求められる。また、電車やエアコン等にはSiC半導体が使用され始めており、半導体素子の封止材には極めて高い耐熱性が要求されている。これらの封止材においては、250℃で1000時間放置後に物性変化を確認するなど、高度な耐熱信頼性試験が実施されることから、従来のエポキシ樹脂封止材では対応できなくなっている(非特許文献1)。
【0003】
それに加えて、現在開発が加速している第5世代通信システム「5G」では、自動運転等の技術導入も求められていることから、さらなる大容量化、高速通信、低遅延といった性能が求められ、少なくとも1GHzで誘電正接0.005以下の低誘電材料に対する需要が益々高まると予想される。
【0004】
マレイミド樹脂は、エポキシ樹脂を超える耐熱性を有するとともに、エポキシ樹脂と同等の成型性を有し、更に低誘電特性を示す化合物である。マレイミド樹脂は単独で架橋させるか、または各種のマレイミド樹脂もしくは架橋剤と反応させることにより、耐熱性、難燃性に優れた材料を与えることができ、封止材料、基板材料、絶縁材料各種用途に使用されている。特に、極めて高い耐熱性および成型性を両立することが必要な、高耐熱基板材料、フレキシブル基板材料、高耐熱低誘電材料、高耐熱CFRP用材料(炭素繊維複合材料)、車載向けSiCパワーデバイス用高耐熱封止材用途に使用される。
【0005】
従来、マレイミド樹脂は、自己反応性を有するため、その取り出しにおいては再結晶など結晶粉体での取り出し、あるいは再沈殿による樹脂粉末状として市販されているものが多い(特許文献1)。
特許文献2は、加熱減圧下において溶媒を留去することにより芳香族アミン樹脂を得た後、無水マレイン酸と反応させてマレイミド樹脂を得る方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特公平6-086425号公報
【文献】日本国特開2009-001783号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「SiCパワーモジュールの高耐熱実装」、The TRC News、2017年6月号、記事No.201706-04、株式会社東レリサーチセンター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、粉末状のマレイミド樹脂では、使用の際に粉が舞うなどにより作業性・生産性に問題があるだけでなく、環境への汚染(汚れ、および人体への吸入)などの問題があった。また、結晶化や沈殿の際に溶剤等を取り込み除去しきれないという問題もあった。
具体的には、溶媒を含有する場合、系内で結晶化するため均質な組成物を得ることができず、品質の安定化が見込みづらいといった問題も併発していた。このような背景から、作業性、生産性、保管安定性に優れるマレイミド成型体が望まれていた。
また、加熱減圧下で溶媒を除去する方法では、生産量を多くした場合、溶媒の留去に長時間を要するため、その間にマレイミド樹脂の自己重合が進行する恐れがある。すなわち、商業規模での製造においては、重合やゲル化のリスクが極めて大きく、分子量増加による粘度の上昇や、生産する度に特性が異なる等の成型性・安定生産性の観点から課題がある。また、この重合を抑えるために溶媒の回収温度を下げると、特に室温で固体のマレイミド樹脂の場合、溶媒の除去が困難となり、溶媒の残留が多くなる(特に30,000ppmを超える溶媒が残留する)ため、マレイミド樹脂の成型時にボイドやクラックが生成するおそれ、および溶媒が作業者へ暴露するなど問題がある。さらに、マレイミド樹脂の合成に用いる酢酸やトルエン、キシレン等の溶媒は人体に悪影響を及ぼすため、溶媒の残留は特に問題となる。
【0009】
そこで、本発明は、高度な耐熱性と誘電特性を示しつつ、作業性・生産性に優れ、溶媒の環境への暴露が少ない封止材用マレイミド樹脂混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の封止材用マレイミド樹脂混合物が、作業性・生産性に優れ、高度な耐熱性、誘電特性、難燃性を発揮することを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち本発明は以下の[1]~[9]に関する。なお、本願において「(数値1)~(数値2)」は上下限値を含むことを示す。
[1]
下記式(1)で表されるマレイミド樹脂(A)、下記式(3)で表される2官能シアネート樹脂(B)からなるマレイミド樹脂混合物であって、
前記マレイミド樹脂(A)と前記2官能シアネート樹脂(B)の樹脂総量100重量%に対して、前記マレイミド樹脂(A)を55~95重量%含有する封止材用マレイミド樹脂混合物。
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立して下記式(2-a)~(2-f)で表される構造で表されるいずれか1種を表す。Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、pはそれぞれ独立して1~3の整数を表す。nは繰り返し数であり、nの平均値naveは1<nave<10である。)
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2-a)~式(2-f)中、*はベンゼン環への結合を表す。Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、mは1~50の整数を表し、qはそれぞれ独立して1~4の整数を表し、rはそれぞれ独立して1~3の整数を表す。式(2-d)の右側のメチレン基は、ナフタレン環の1~8位の任意の位置に結合する。)
【0016】
【化3】
【0017】
(式(3)中、Yは直接結合、―CH―、―CH(CH)―、―C(CH―のいずれかを表し、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、tはそれぞれ独立して1~4の整数を表す。)
[2]
コーン・プレート粘度計で測定した150℃における溶融粘度が0.001~0.9Pa・sである前項[1]に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物。
[3]
軟化点が40~110℃である前項[1]又は[2]に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物。
[4]
25℃においてアモルファス状である前項[1]~[3]のいずれか一項に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物。
[5]
前項[1]~[4]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂混合物を含有する封止材用マレイミド樹脂組成物。
[6]
更に、硬化剤(C)を含有する前項[5]に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物。
[7]
更に、硬化促進剤(D)を含有する前項[5]又は[6]に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物。
[8]
更に、無機充填剤(E)を含有する前項[5]~[7]のいずれか1項に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物。
[9]
前項[1]~[4]のいずれか一項に記載の封止材用マレイミド樹脂混合物、または前項[5]~[8]のいずれか一項に記載の封止材用マレイミド樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の効果】
【0018】
本発明の封止材用マレイミド樹脂混合物は、高度な耐熱性、誘電特性、難燃性を発揮する。また、作業性・生産性に優れ、環境暴露の少ないマレイミド樹脂混合物を提供することができる。更には、成型時のボイドやクラックの生成を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の封止用マレイミド樹脂混合物(以下、単に「マレイミド樹脂混合物」とも称す。)は、下記式(1)で表されるマレイミド樹脂(A)(以下、単に「マレイミド樹脂(A)」とも称す。)、下記式(3)で表される2官能シアネート樹脂(B)(以下、単に「2官能シアネート樹脂(B)」とも称す。)を含有するものであって、前記マレイミド樹脂(A)と前記2官能シアネート樹脂(B)の樹脂総量100重量%に対して、前記マレイミド樹脂(A)を55~95重量%含有する。
【0020】
【化4】
【0021】
式(1)中、複数存在するX、R、pはそれぞれ独立して存在し、Xは下記式(2-a)~(2-f)で表される構造で表されるいずれか1種を表す。Rは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、pは1~3の整数を表す。nは繰り返し数であり、nの平均値naveは1<nave<10である。
【0022】
【化5】
【0023】
式(2-a)~式(2-f)中、*はベンゼン環への結合を表す。複数存在するR、m、q、rはそれぞれ独立して存在し、Rは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、mは1~50、qは1~4、rは1~3の整数を表す。式(2-d)の右側のメチレン基は、ナフタレン環の1~8位の任意の位置に結合する。
【0024】
【化6】
【0025】
(式(3)中、Yは直接結合、―CH―、―CH(CH)―、―C(CH―のいずれかを表し、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、tはそれぞれ独立して1~4の整数を表す。)
【0026】
本実施形態において用いることができるマレイミド樹脂(A)について説明する。
本実施形態のマレイミド樹脂(A)は前記式(1)で表されるものであり、式(1)中、Rは水素原子であることが好ましい。式(2-a)~式(2-f)中、Rは水素原子であることが好ましい。式(3)中、Rは水素原子であることが好ましい。
【0027】
Xは溶媒への溶解性や相溶性、および本実施形態の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性の点から式(2-b)、式(2-c)、式(2-e)で表されることが好ましく、式(2-c)、式(2-e)で表されることがさらに好ましい。
【0028】
前記式(1)中のnの平均値naveはマレイミド樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、検出器:RI)の測定により求められた数平均分子量の値、あるいは分離したピークの各々の面積比から算出することが出来る。前記式(1)中のnの平均値naveが1の場合、溶媒への溶解性が低く、またnの平均値naveが10以上の場合、成型時のフロー性が悪くなり、硬化物としての特性が十分発揮できない。
【0029】
マレイミド樹脂(A)は繰り返し単位を有することから、結晶性が低く、粘度および軟化点の低い作業性の優れたマレイミド樹脂となる。マレイミド樹脂の1分子中のマレイミド基の数は2を超えて10未満であることが好ましい。
【0030】
マレイミド樹脂(A)の製法は、特に限定されず、公知のいかなる方法で製造してもよい。具体的な製造方法としては例えば、特開2009-001783号公報のような方法を用いることが好ましい。
【0031】
マレイミド樹脂(A)と2官能シアネート樹脂(B)の含有比率としては、マレイミド樹脂(A)と2官能シアネート樹脂(B)の樹脂総量100重量%に対して、マレイミド樹脂(A)を好ましくは55~95重量%、更に好ましくは60~90重量%、特に好ましくは60~80重量%含有する。マレイミド樹脂(A)と2官能シアネート樹脂(B)を所定の割合で混合することにより、室温(25℃)においてマレイミド樹脂混合物のそれぞれの成分が結晶化していないアモルファス状にでき、それぞれの成分の凝集および結晶化を抑え、マレイミド樹脂混合物の長期保管性を発揮することができる。
【0032】
続いて、2官能シアネート樹脂(B)について説明する。本実施形態の2官能シアネート樹脂(B)は前記式(3)で表され、1種類もしくは複数種類を混合して用いることもできる。2官能シアネート樹脂(B)をマレイミド樹脂(A)と混合することにより、マレイミド樹脂混合物の結晶性を低減できることに加え、軟化点および溶融粘度を低減することができる。2官能シアネート樹脂(B)としては、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンが低溶融粘度、低融点の観点から好ましく、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンが更に好ましい。
なお、溶融粘度は、JIS K5600-2-3に記載のコーン・プレート粘度計(ICI粘度計)により測定することができる。以下、ICI粘度計で測定した溶融粘度をICI粘度ともいう。
【0033】
本実施形態のマレイミド樹脂混合物のコーン・プレート粘度計で測定した150℃における溶融粘度は、好ましくは0.001~0.9Pa・s、更に好ましくは0.01~0.5Pa・s、特に好ましくは0.01~0.3Pa・sである。溶融粘度が0.001Pa・sより低い場合、溶融混錬時に液だれを起こしてしまい成型体を保つことが難しい。一方で、溶融粘度が0.9Pa・sより高い場合、マレイミド樹脂混合物にフィラーを充填することが難しいことに加え、マレイミド樹脂混合物の流動性が乏しく封止材としての使用が難しい。一般に、封止材には溶媒を使用することができないため、溶媒によりマレイミド樹脂混合物の粘度を低下させることができない。
【0034】
本実施形態のマレイミド樹脂混合物の軟化点は、好ましくは40~110℃であり、更に好ましくは50~110℃、特に好ましくは55~100℃である。軟化点が40℃より低い場合、樹脂同士が室温でブロッキング(意図しない付着)を起こし、作業性・生産性が低下する。一方で、軟化点が110℃より高い場合は溶融混錬時に高熱を掛けて混合物を作成した後、室温に戻す過程で樹脂成分が凝集し、一部結晶化してしまうため均一な混合物とならず品質及び作業性が低下する。
【0035】
作業性の面において粉塵等の問題を解消するため、本実施形態のマレイミド樹脂混合物は室温(25℃)においてアモルファス状であることが好ましい。アモルファス状のマレイミド樹脂混合物を用いることで、マレイミド樹脂組成物を容易に調製することができる。尚、固体のマレイミド樹脂混合物がアモルファス状であることは、外観上、結晶成分の凝集の有無により確認することができるが、固体のマレイミド樹脂混合物中の結晶成分の凝集の有無をDSC(示差走査熱量計)やXRD(X線回折)により確認することもできる。具体的にはDSCにより結晶の融解熱に起因する吸熱ピークが無いこと、またはXRDにより結晶構造の繰り返しに由来するピークが無いことを確認する。
【0036】
本実施形態のマレイミド樹脂混合物は含有する有機溶媒が30,000ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10,000ppm以下である。含有する有機溶媒が30,000ppmを超える場合、マレイミド樹脂混合物を使用する際に、有機溶媒に起因する臭気が残る。尚、有機溶媒の含有量は0ppmでも構わないが、下限値は測定検出限界の5ppmであり、溶媒の留去作業の効率性を考慮した場合、好ましい下限値は100ppm、さらに好ましい下限値は1,000ppmである。
【0037】
前記有機溶媒はマレイミド樹脂(A)と2官能シアネート樹脂(B)を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、炭素数3~10の芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類、エーテル類から選ばれる少なくとも一種の有機溶媒が好ましく、溶解性の面からケトン類が特に好ましい。有機溶媒の使用量は、マレイミド樹脂(A)と2官能シアネート樹脂(B)の総量100重量部に対し、好ましくは10~1000重量部であり、更に好ましくは50~500重量部である。
【0038】
次に、本実施形態のマレイミド樹脂混合物の製造方法について説明する。
本実施形態のマレイミド樹脂混合物は、マレイミド樹脂(A)、2官能シアネート樹(B)、有機溶媒を混合し、加熱攪拌しながら減圧蒸留することで得られる。加熱温度としては、40~150℃であることが好ましく、マレイミド樹脂混合物の溶融粘度と製品の安定性の面から80~120℃であることが更に好ましい。
【0039】
次に、本実施形態の封止用マレイミド樹脂組成物(以下、単に「マレイミド樹脂組成物」とも称す。)について説明する。
本実施形態のマレイミド樹脂組成物は上述したマレイミド樹脂混合物を含む。
さらに、マレイミド樹脂組成物は、マレイミド樹脂(A)または2官能シアネート樹脂(B)と架橋反応可能な硬化剤(C)を含むことができる。架橋可能な化合物はマレイミド基またはシアナト基と架橋反応を起こし、マレイミド樹脂混合物の硬化剤(C)として作用する。架橋可能な化合物としては、アミノ基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、共役ジエン基を有する化合物等が挙げられる。例えば、耐熱性および誘電特性の観点から、ビニル基および共役ジエン基を有する化合物を配合することができる。硬化剤(C)の配合量は適宜選択できるが、前記マレイミド樹脂混合物100重量部に対して好ましくは10~5000重量部、更に好ましくは50~2000重量部、特に好ましくは100~1000重量部の範囲である。
【0040】
本実施形態のマレイミド樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤(D)を配合することもできる。硬化促進剤(D)としては、例えば2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、テトラフェニルホスフォニウム テトラフェニルボレートなどのホスフィン類、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジブチルスズジマレエート、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オレイン酸スズ等の有機金属塩、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化スズなどの金属塩化物、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、塩酸、硫酸、リン酸などの鉱酸、三フッ化ホウ素などのルイス酸、炭酸ナトリウムや塩化リチウム等の塩類などが挙げられる。硬化促進剤(D)の配合量は、前記マレイミド樹脂混合物100重量部に対して好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下の範囲である。
【0041】
本実施形態のマレイミド樹脂組成物は、無機充填剤(E)を含有することもできる。無機充填剤としては、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、フォステライト、ステアタイト、スピネル、チタニア、タルク等の粉体またはこれらを球形化したビーズ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。本実施形態においては、マレイミド樹脂組成物を半導体封止材に使用することを想定する場合には、特性のバランスの観点から、結晶シリカ、溶融シリカ、またはアルミナを無機充填剤(E)として用いることが好ましい。
これら無機充填剤の含有量は、本実施形態のマレイミド樹脂組成物100質量%に対して70~96質量%を占める量が用いられることが好ましい。特に75~93質量%が好ましく、80~93質量%であることが更に好ましい。本実施形態においては特にマレイミド樹脂組成物の流動性が高いため、無機充填剤が少なすぎると無機充填剤と樹脂の比率が成型時にマレイミド樹脂組成物内の位置によって変動し、樹脂組成物の成型体の中で無機充填剤の多い部分と少ない部分が出てしまう等、特性面で好ましくない。
また、無機充填剤の含有量が96%を超えると流動性が出せなくなってしまうため好ましくない。
【0042】
更に本実施形態のマレイミド樹脂組成物には、その他の添加剤として、シランカップリング剤、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤、界面活性剤、染料、顔料、紫外線吸収剤等の種々の配合剤、各種熱硬化性樹脂を添加することができる。
【0043】
さらに本実施形態のマレイミド樹脂組成物には、必要に応じてバインダー樹脂を配合することも出来る。バインダー樹脂としてはブチラール系樹脂、アセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-ナイロン系樹脂、NBR-フェノール系樹脂、エポキシ-NBR系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。バインダー樹脂の配合量は、硬化物の難燃性、耐熱性を損なわない範囲であることが好ましく、本実施形態のマレイミド樹脂組成物中の樹脂成分の総量100質量部に対して好ましくは0.05~50質量部、更に好ましくは0.05~20質量部が必要に応じて用いられる。
【0044】
本実施形態のマレイミド樹脂組成物はプレポリマー化してもよい。例えば本実施形態のマレイミド樹脂混合物、硬化剤(C)、硬化促進剤(D)、無機充填剤(E)、バインダー樹脂及びその他の添加剤を、溶媒の存在下または非存在下において加熱、混合することによりプレポリマー化する。各成分の混合またはプレポリマー化は溶媒の非存在下では例えば押出機、ニーダ、ロールなどを用い、溶媒の存在下では攪拌装置つきの反応釜などを使用する。
【0045】
溶媒等を使用しないで均一に混合する手法としては50~100℃の範囲内の温度でニーダ、ロール、プラネタリーミキサー等の装置を用いて練りこむように混合し、均一な硬化性樹脂組成物とする。得られた硬化性樹脂組成物は粉砕後、タブレットマシーン等の成型機で円柱のタブレット状に成型、もしくは顆粒状の紛体、もしくは粉状の成型体とする、もしくはこれら組成物を表面支持体の上で溶融し0.05mm~10mmの厚みのシート状に成型し、硬化性樹脂組成物成型体とすることもできる。得られた成型体は0~20℃でべたつきのない成型体となり、-25~0℃で1週間以上保管しても流動性、硬化性がほとんど低下しない。
得られた成型体についてトランスファー成型機、コンプレッション成型機にて硬化物に成型することができる。
【0046】
本実施形態のマレイミド樹脂組成物は、上記各成分を所定の割合で均一に混合することにより得られ、130~200℃で30~500秒の範囲で予備硬化し、更に、150~250℃で2~15時間、後硬化することにより充分な硬化反応が進行し、本実施形態の硬化物が得られる。又、硬化性樹脂組成物の成分を溶媒等に均一に分散または溶解させ、溶媒を除去した後硬化させることもできる。
【0047】
こうして得られる本実施形態のマレイミド樹脂組成物は、耐湿性、耐熱性、高接着性、難燃性、低誘電率、低誘電正接を有する。従って、本実施形態のマレイミド樹脂組成物は、耐湿性、耐熱性、高接着性、低誘電率、低誘電正接の要求される広範な分野で用いることが出来る。具体的には、絶縁材料、積層板(プリント配線板、BGA用基板、ビルドアップ基板など)、封止材料、レジスト等あらゆる電気・電子部品用材料として有用である。又、成形材料、複合材料の他、塗料材料、接着剤、3Dプリンティング等の分野にも用いることが出来る。特に半導体封止においては、耐ハンダリフロー性が有益なものとなる。
【0048】
半導体装置は本実施形態のマレイミド樹脂組成物で封止された半導体素子を有する。半導体装置としては、例えばDIP(デュアルインラインパッケージ)、QFP(クワッドフラットパッケージ)、BGA(ボールグリッドアレイ)、CSP(チップサイズパッケージ)、SOP(スモールアウトラインパッケージ)、TSOP(シンスモールアウトラインパッケージ)、TQFP(シンクワッドフラットパッケージ)等が挙げられる。
【実施例
【0049】
以下に実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。尚、本文中「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0050】
(実施例1~8,比較例1~6)
ナスフラスコにマレイミド樹脂(A)として表1、表2に示すマレイミド樹脂ワニス、2官能シアネート樹脂、追加溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)をそれぞれ表1、2に示す質量部で仕込んだ。続いて、窒素ガスラインを付したロータリーエバポレーションにナスフラスコを接続した後、窒素ガスを50mL/minでバブリングしながら、100℃に加熱したオイルバス中で減圧し、溶媒を留去した樹脂混合物を得た。溶媒留去後の室温に戻した樹脂混合物の外観は、表1、2の通りとなった。
軟化点、溶融粘度、残トルエン量および残メチルエチルケトン量(残MEK量)は下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
・軟化点:
JISK-7234の環球法に準じた方法で測定した。規定の環に樹脂混合物を充てんし、水浴中に水平に支え、試料の中央に規定の質量の球を置き、浴温を規定の速さで上昇させたとき、球の重さで軟化した樹脂混合物が環台の底板に触れたときの温度を軟化点とした。
・溶融粘度(ICI粘度@150℃):
コーン・プレート粘度計で150℃における樹脂混合物の粘度(ICI粘度@150℃)を測定した。
・残トルエン量および残MEK量:
ガスクロマトグラフィーにて定量した。
-装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
-カラム:DB-WAX(Agilent Technologies社製、長さ30m、内径0.25mm)
-メソッド:
樹脂混合物を40℃で5分保持した後、20℃/minで昇温し、220℃で5分保持した。この間に樹脂混合物から気化したトルエンおよびメチルエチルケトンをカラム(DB-WAX、Agilent Technologies社製、長さ30m、内径0.25mm)に通し、ガスクロマトグラフィー装置(GC-2010、株式会社島津製作所製)にて定量した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
MIR-3000-70MT:ビフェニルアラルキル型マレイミド樹脂(日本化薬株式会社製、不揮発分70%のMEK/トルエン混合溶液)
MIR-5000-60T:ジイソプロピリデンベンゼン型マレイミド樹脂(日本化薬株式会社製、不揮発分60%のトルエン溶液)
BisA-OCN:2,2-ビス(4-シアネートフェニル)プロパン(三菱ガス化学株式会社製)
【0054】
(軟化点)
実施例1~8では、軟化点が49℃~88℃のマレイミド樹脂混合物が得られた。一方、比較例3および比較例6では、軟化点が115℃以上であった。比較例1~2、4~5では一部または全部が結晶化していたため、軟化点の測定ができなかった。
(溶融粘度)
実施例1~8では、150℃における溶融粘度が0.03Pa・s~0.16Pa・sのマレイミド樹脂混合物が得られた。一方、比較例3では150℃における溶融粘度が7.59Pa・s、比較例6では150℃における溶融粘度が10Pa・sを超えていた。比較例1~2、4~5では一部または全部が結晶化していたため、溶融粘度の測定ができなかった。
(残トルエン量および残MEK量)
実施例1~8における残トルエン量および残MEK量は表1、2の通りとなった。なお、比較例1~2および4~6では残トルエン量を測定しなかった。また、比較例1~6では残MEK量を測定しなかった。
上記結果から、実施例1~8のようにマレイミド樹脂(A)と2官能シアネート樹脂(B)を所定の割合で含有することで、軟化点を有するアモルファス状の樹脂混合物が得られることが確認出来る。また、溶媒を留去し、残溶媒量を抑えることができることから、作業性・生産性に優れ、環境暴露の少ないマレイミド樹脂混合物を提供することができ、更には、成型時のボイドやクラックの生成を防ぐことができる。
【0055】
本願は、2021年10月15日付で出願された日本国特許出願第2021-169332号に基づく優先権を主張する。
【要約】
下記式(1)で表されるマレイミド樹脂(A)、下記式(3)で表される2官能シアネート樹脂(B)からなるマレイミド樹脂混合物であって、前記マレイミド樹脂(A)と前記2官能シアネート樹脂(B)の樹脂総量100重量%に対して、前記マレイミド樹脂(A)を55~95重量%含有する封止材用マレイミド樹脂混合物。式(1)中、複数存在するX、R、pはそれぞれ独立して存在し、Xは下記式(2-a)~(2-f)で表される構造で表されるいずれか1種を表す。Rは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有しても良い炭素数1~20の芳香族基を表し、pは1~3の実数を表す。nは繰り返し数であり、nの平均値naveは1<nave<10である。
【化1】