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特許7281248水性塗料組成物とこれを用いた害虫防除方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】水性塗料組成物とこれを用いた害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230518BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230518BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230518BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230518BHJP
   A01N 31/14 20060101ALI20230518BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20230518BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/63
A01N31/14
A01P7/04
A01M1/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018210247
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020076007
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000251277
【氏名又は名称】スズカファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】田代 廣徳
(72)【発明者】
【氏名】中西 功
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-227903(JP,A)
【文献】国際公開第2002/022753(WO,A1)
【文献】特開2003-201626(JP,A)
【文献】特開2005-289941(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190433(WO,A1)
【文献】特開昭60-241406(JP,A)
【文献】特開2014-073089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
A01N 31/14
A01P 7/04
A01M 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルションと、シリカ系無機多孔質担体にピレスロイド系化合物を担持させた複合製剤とを含有し、
前記シリカ系無機多孔質担体は、BET比表面積が80~500m/gであり、
前記ピレスロイド系化合物の担持量が、前記シリカ系無機多孔質担体100重量部に対して100~250重量部であり、
前記樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、前記シリカ系無機多孔質担体を2~10重量部、かつ、前記ピレスロイド系化合物を4~25重量部含有する、水性塗料組成物。
【請求項2】
不揮発性の液状ポリオール類を0.3~5.0重量%含有する、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水性塗料組成物を、建材、建築物、又は家具の表面に塗布する、害虫防除方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除効果を備える水性塗料組成物と、これを用いた害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピレスロイド系化合物の殺虫剤は、蚊、ハエ、ゴキブリ、シロアリ等の害虫に対して高い選択毒性を有する一方で、温血動物に対する安全性が高いため、身の回りで広く一般的に使用されている。例えば、建築物や家具等を害虫から守るため、これらの表面に塗膜を形成する塗料にもピレスロイド系化合物が配合される。このような塗料としては、環境に配慮して水性塗料が使用されることがある。この場合、ピレスロイド系化合物は一般的に水に難溶であるため、液状のピレスロイド系化合物を水性塗料に調合すると、ピレスロイド系化合物が水性塗料と分離してしまう。
【0003】
そこで、特許文献1及び特許文献2には、粉状のピレスロイド系化合物を乳化剤とともに有機溶媒に溶解させた上で、水性塗料に乳化分散させる塗料組成物が開示されている。特許文献3には、粉状又は液状のピレスロイド系化合物を、乳化剤とともに可塑剤、テルペノイド類の有機溶剤に溶解させたうえで水性塗料に乳化分散させ、塗膜形成後にピレスロイド系化合物が塗膜表面に移行しやすくする害虫防除性塗料が開示されている。
【0004】
特許文献4には、害虫防除効果を長く持続させるため、ピレスロイド系化合物を徐放性マイクロカプセルに包接したうえで、固着用の樹脂と混ぜる防虫加工用処理液が開示されている。特許文献5には、ピレスロイド系化合物を担持するシクロデキストリン-シリカ複合粒子を配合した水系樹脂塗料を、基布に表面塗工して、複合粒子の一部を表面に露出させる産業資材シートの形成方法が記載されている。
【0005】
特許文献6には、分子量325~425のピレスロイド系化合物を、BET比表面積550~1000m/gの無機多孔質担体に担持させた害虫防除剤(複合製剤)が開示されている。ここでは、ピレスロイド系化合物を、無機多孔質担体のBET比表面積100mあたり0.007~0.09ml担持させている。すなわち、無機多孔質担体に、ピレスロイド系化合物を0.0385~0.9ml/g担持させており、害虫防除剤中におけるピレスロイド系化合物の濃度としては50重量%に満たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-171619号公報
【文献】再表2016-190433号公報
【文献】特開平11-35405号公報
【文献】特開2000-166399号公報
【文献】特開2014-223043号公報
【文献】特開2016-166144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2では、予めピレスロイド系化合物を溶解させる有機溶剤が塗膜形成段階で早期に放散するため、ピレスロイド系化合物は塗膜中の樹脂層に内封され、害虫防除効果が発現しにくい。さらに、特許文献2では吸水量の大きな無機質粉末を樹脂エマルションに対して多量に配合しているため、塗膜が吸水しやすくなり、塗膜の物理的耐久性能を著しく低下させる懸念がある。
【0008】
特許文献3では、可塑剤及びテルペノイド類が塗膜から徐々に放散または溶出するため、ピレスロイド系化合物を塗膜表面に移行する効果は長く持続しないという問題がある。また、気化した可塑剤は吸入すると人体に有害であり、テルペノイド類は臭気が強いため扱いにくく、且つ天然由来成分で希少なため経済性が劣る、という問題もある。
【0009】
特許文献4及び特許文献5では、ピレスロイド系化合物の包接体に対する樹脂の比率を引き下げないと害虫防除効果を発現し難い。しかし、包接体に対する樹脂の比率を下げると、塗膜の物理的耐久性能が低下する。
【0010】
特許文献6では、BET比表面積の大きな無機多孔質担体を使用している。これでは、無機多孔質担体が凝集してほぐれにくいため、塗料中へ均一に分散させ難い。また、無機多孔質担体に対するピレスロイド系化合物の担持量も少ない。したがって、塗料全体におけるピレスロイド系化合物の含有量には限界があるため、高い害虫防除効果が期待できない。これを解決するため、無機多孔質担体を多量に配合すると、加工品の物理的耐久性能を低下させる懸念も生じる。
【0011】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、塗膜の物理的耐久性能が低下することなくピレスロイド系化合物の配合量を増量可能で、害虫防除効果の高い塗膜を形成可能な水性塗料組成物と、これを用いた害虫防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのための手段として、本発明の水性塗料組成物は、樹脂エマルションと、シリカ系無機多孔質担体にピレスロイド系化合物を担持させた複合製剤とを含有する水性塗料組成物である。ここで、前記シリカ系無機多孔質担体は、ピレスロイド系化合物を担持させる前の状態でBET比表面積が80~500m/gであり、前記ピレスロイド系化合物の担持量が、前記シリカ系無機多孔質担体100重量部に対して、100~250重量部である。そして、前記樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、前記シリカ系無機多孔質担体を2~10重量部、かつ、前記ピレスロイド系化合物を4~25重量部含有することを特徴とする。
【0013】
なお、本発明の水性塗料組成物には、必須成分である樹脂エマルション及び複合製剤に加えて、さらに不揮発性の液状ポリオール類を配合することが好ましい。この場合、液状ポリオール類の含有量は、塗料組成物中0.3~5.0重量%とする。
【0014】
また、本発明によれば、上記水性塗料組成物を、建材、建築物、又は家具の表面に塗布する害虫防除方法を提供することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗料組成物は、水をベースとする水性なので、有機溶剤を使用した場合のように有機溶剤が塗膜形成段階で早期に放散する問題は無く、害虫防除効果を有効に発現させることができる。また、有機溶剤を必須としていないので、人体や環境への悪影響もない。また、薬効成分であるピレスロイド系化合物を担体に担持させた状態で配合しているので、ピレスロイド系化合物が水性塗料中で分離することもない。
【0016】
そのうえで、本発明では、ピレスロイド系化合物を担持させる担体として、BET比表面積が比較的小さいシリカ系無機多孔質担体を使用している。これにより、複合製剤が凝集し難く均一に分散させられる。また、ピレスロイド系化合物を適度な範囲で多量に担持させているので、複合製剤の配合量を比較的抑えながら有効に害虫防除効果を得られると共に、塗膜の吸水性が無駄に高くなることは無く、物理的耐久性能の低下を避けることもできる。
【0017】
水性塗料組成物に不揮発性の液状ポリオール類を配合しておけば、塗膜形成後に、ポリオール類の液状分散層に接触溶解したピレスロイド系化合物が塗膜表面へ徐々に移行するので、害虫防除効果を効果的に長く持続させることができる。
【0018】
本発明の害虫防除方法によれば、形成される塗膜の吸水性が低く良好な物理的耐久性能を担保しながら、効果的に害虫防除効果を向上することができる。また、液状ポリオール類が配合されていれば、害虫防除効果の持続性も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塗料組成物は、樹脂エマルションと、シリカ系無機多孔質担体にピレスロイド系化合物を担持させた複合製剤とを必須成分として含有し、水を分散媒体とする水性の組成物であり、ピレスロイド系化合物を溶解させるための有機溶媒は必要としていない。
【0020】
樹脂エマルションは塗料組成物のベース成分であり、水を分散媒体とする乳化重合によって得られる。樹脂エマルションとしては、従来からこの種の塗料組成物で使用されている公知のベース成分を、特に制限無く広く選択できる。具体的には、アクリル樹脂エマルション、アクリル/スチレン共重合樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、ふっ素樹脂複合アクリル樹脂エマルション、酢酸ビニル/エチレン共重合樹脂エマルションなどを例示でき、自己架橋形のものであってもよい。樹脂エマルションは、1種のみを単用してもよいし、2種以上を混用することもできる。
【0021】
複合製剤のベース担体となるシリカ系無機多孔質担体としては、合成非晶質シリカ、ゼオライト、珪藻土から選択される1種又は2種以上を使用できる。合成非晶質シリカは、アルカリ性であるケイ酸アルカリ化合物と硫酸を代表とする鉱酸の反応により製造される方法が一般的である。この方法で製造されたシリカは、アルカリ側から反応が行われたものは沈降法シリカ、酸性側から反応が行われたものはゲル法シリカと称される。合成非晶質シリカは、一次粒子が不定形に二次凝集した非晶質構造であり、不定形状の多孔質体となっている。なお、四塩化珪素を気層中で燃焼させることにより得られる気相法(無水)シリカや、ケイ酸アルカリ化合物をイオン交換樹脂などでナトリウムイオンと水素イオンを置換し、一次粒子が凝集しないような形状にさせたコロイダルシリカなどもあるが、これらは一次粒子を単独で存在させる形状をとるため、本発明では使用できない。
【0022】
ピレスロイド系化合物を担持させる前のシリカ系無機多孔質担体のBET比表面積は、少なくとも80~500m/gとし、好ましくは85~400m/g、より好ましくは90~350m/gとする。BET比表面積が80m/g未満であると、ピレスロイド系化合物の担持量が少なくなり、十分な害虫防除効果が得られない。若しくは、十分な害虫防除効果を得るために複合製剤の配合量を多くする必要があり、塗膜の物理的耐久性が低下する。一方、BET比表面積が500m/gを超えると、シリカ系無機多孔質担体の凝集力が強く、塗料中に均一に分散させ難くなる。また、BET比表面積が大きいと吸水量(吸水性能)が大きくなるため、塗膜が吸水しやすくなって塗膜の物理的耐久性能が低下する。なお、シリカ系無機多孔質担体として合成非晶質シリカを使用する場合は、合成開始温度、攪拌条件、酸添加速度などによって、吸水量やBET比表面積等を調整することができる。
【0023】
シリカ系無機多孔質担体の平均粒径は、0.05~500μmが好ましく、0.1~100μmがより好ましく、0.5~50μmがさらに好ましい。シリカ系無機多孔質担体の平均粒径が0.05μm未満では、見掛け比重が小さいために複合製剤が空気中に飛散浮遊しやすく、取り扱いが不便となる。一方、シリカ系無機多孔質担体の平均粒径が500μmを超えると、塗膜の表面平滑性が損なわれる。なお、合成非晶質シリカの平均粒径は、塗料組成物へ配合するために二次粒子を粉末化した状態の粒径を意味する。
【0024】
本発明で使用するピレスロイド系化合物には、少なくとも常温(25℃)域で固体のものを使用する。なお、ピレスロイド系化合物は、一般的に水に難溶である。したがって、液状のピレスロイド系化合物では、塗料組成物中で水に難溶な油状液体として分離するおそれがある。また、ピレスロイド系化合物の融点は50℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。ピレスロイド系化合物の融点が低いと、塗料調合時の液温上昇により溶融して、塗料組成物中で水に難溶な油状液体として分離するおそれがある。
【0025】
常温域で固体のピレスロイド系化合物としては例えば、エトフェンプロックス(etofenprox)、シクロプロトリン(cycloprothrin)、シフルトリン(cyfluthrin)、ベータシフルトリン(beta-cyfluthrin)、ラムダシハロトリン(lambda-cyhalothrin)、エスフェンバレレート(esfenvalerate)、フェンプロパトリン(fenpropathrin)、フェンバレレート(fenvalerate)、ペルメトリン(permethrin)、レスメトリン(resmethrin)、d-レスメトリン(d-resmethrin)、テフルトリン(tefluthrin)、トラロメトリン(tralomethrin)、トランスフルトリン(transfluthrin)等が挙げられる。中でも、エトフェンプロックスが好ましい。これらピレスロイド系化合物は、1種のみを単用してもよいし、2種以上を混用してもよい。
【0026】
ピレスロイド系化合物をシリカ系無機多孔質担体に担持する方法は、従来から公知の方法を用いればよい。例えば、ピレスロイド系化合物とシリカ系無機多孔質担体とを、ピレスロイド系化合物の融点以上の温度下で混合し、冷却することで複合担持体となる。
【0027】
ピレスロイド系化合物のシリカ系無機多孔質担体への担持量は、可能な限り多い方が好ましい。複合製剤の塗料組成物中への配合量をできるだけ抑えながら、有効に害虫防除効果を担保するためである。具体的には、ピレスロイド系化合物の担持量は、シリカ系無機多孔質担体100重量部に対して少なくとも100重量部以上、好ましくは130重量部以上とする。100重量部未満では、害虫防除効果の有効成分が少なくて良好な害虫防除効果が得られないか、複合製剤の配合量が多くなって塗膜の物理的耐久性が低下する。
【0028】
一方、ピレスロイド系化合物の担持量の上限は、シリカ系無機多孔質担体100重量部に対して少なくとも250重量部以下、好ましくは220重量部以下とする。250重量部を超えると、複合製剤が粉末化できず塊状となる。
【0029】
シリカ系無機多孔質担体にピレスロイド系化合物を担持させた複合製剤の塗料組成物への配合量は、ピレスロイド系化合物を担持させていないシリカ系無機多孔質担体そのものの重量基準で、樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、シリカ系無機質担体の含有量を少なくとも2~10重量部、好ましくは2~8重量部、より好ましくは2~6重量部とする。シリカ系無機多孔質担体の含有量が2重量部未満であると、これに伴いピレスロイド系化合物の含有量も少なくなり、十分な害虫忌避効果が得られない。一方、シリカ系無機多孔質担体の含有量が10重量部を超えると、塗料組成物の粘度が上昇して塗装が困難になる。
【0030】
また、塗料組成物中のピレスロイド系化合物の含有量は、樹脂エマルションの固形分100重量部に対して4~25重量部、好ましくは4~20重量部、より好ましくは4~15重量部とする。
【0031】
なお、複合製剤の塗料組成物への配合量を複合製剤の重量で直接示せば、塗料組成物中の複合製剤の含有量は0.5~4.5重量%が好ましく、0.7~4.0重量%が好ましく、1.0~3.0重量%がより好ましい。
【0032】
また、塗料組成物に不揮発性の液状ポリオール類も配合すると、害虫忌避効果の持続性を長くすることができる。ポリオール類とは、主にポリウレタン用のポリエーテルポリオールのことであり、多価アルコールにプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等アルキレンオキサイドを付加重合させたものである。不揮発性の液状ポリオール類としては、数平均分子量が200~3000の範囲で、例えばポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリセルエーテル、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ネオペンチルアジペート、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテル、及びこれらのアクリル酸エステルの重合物等が挙げられる。これらのポリオール類は、1種のみを単用してもよいし、2種以上を混用してもよい。
【0033】
ポリオール類の配合量は、塗料組成物中0.3~5.0重量%とすることが好ましい。樹脂エマルションの固形分との相対割合で示せば、樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、ポリオール類を2~40重量部とすることが好ましい。ポリオール類の含有量が少ないと、害虫防除効果を有効に長期化できない。一方、ポリオール類の含有量が多すぎると塗膜に粘着性が生じる。これにより、塗膜の触感が不良となったり、塗膜表面に汚れが付着しやすくなるなどの弊害が顕著となる。
【0034】
本発明の塗料組成物には、上記各成分以外にも、貯蔵安定性、塗装作業性、仕上り性、耐候性などの機能付与・向上を目的として、本発明の効果を阻害しない範囲で各種添加剤を配合することも可能である。具体的には、着色顔料、体質顔料、分散剤、増粘剤、造膜助剤、消泡剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を挙げることができる。
【0035】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、カーボンブラック、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等を挙げることができる。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、タルク、クレー、珪藻土、マイカ等を挙げることができる。
【0036】
そのうえで、塗料組成物を建材、建築物、又は家具等の表面に塗布し、乾燥させて塗膜を形成することで、これらの塗布対象物に害虫防除効果を付与することができる。塗料組成物の塗布方法は特に制限されず、スプレー塗装、ローラー塗装、バーコート、鏝塗り、ヘラ塗りなど、従来から公知の方法で行えばよい。建築物への塗装箇所としては、例えば、外壁、基礎部、軒天、内壁、天井、床などを挙げることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明の具体例について説明する。先ず、シリカ系無機多孔質担体のBET比表面積と、ピレスロイド系化合物の担持量との関係による影響について検討した。
【0038】
(複合製剤の製造)
ピレスロイド系化合物であるエトフェンプロックス(融点36.4~38.0℃)を、50℃の温度下で溶融させ、表1に記載のシリカ系無機多孔質担体に表1に示す量で混合して吸着させ、複合製剤1~複合製剤5を調製した。なお、表1に示すシリカA、シリカBとは、次の通りである。
シリカA:合成非晶質シリカ;東ソー・シリカ(株)製沈降性シリカ「ニップシールVN3」
シリカB:合成非晶質シリカ;東ソー・シリカ(株)製沈降性シリカ「ニップゲルBY-200」
【0039】
得られた各複合製剤について、粉末化の容易性を対比検討した。その結果も表1に示す。なお、粉末化の容易性については次のように調べ、その判断基準も下記の通りである。
【0040】
(粉末化の容易性)
調製した複合製剤1~複合製剤5を、室温で24時間静置した後、複合製剤の外観が粉末状となっているか,塊状となっているかにより、粉末化の容易性を評価した。
○:全体が均一な粉末状となっている。
△:若干粒状の塊が存在する。
×:全体が塊状となっている。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から、複合製剤1のようにシリカ系無機多孔質担体のBET比表面積が小さすぎると、複合製剤の粉末化容易性が悪かった。一方、複合製剤4の結果から、BET比表面積が450m/gでも、複合製剤の粉末化容易性に大きな問題は無かった。また、複合製剤5の結果から、ピレスロイド系化合物の担持量が多すぎると、複合製剤の粉末化容易性が悪かった。これに対し、複合製剤2~複合製剤4の結果から、ピレスロイド系化合物の担持量が、シリカ系無機多孔質担体100重量部に対して100~250重量部であれば、複合製剤の粉末化容易性に大きな問題は無かった。特に、複合製剤2~複合製剤3の結果から、ピレスロイド系化合物の担持量が、シリカ系無機多孔質担体100重量部に対して100~200重量部であれば、複合製剤の粉末化容易性が良好であった。
【0043】
次に、表2に示す材料を表2に示す配合量(特記していない限り、組成の数値は重量部)で混合して水性塗料組成物の各実施例・比較例を調製し、これらの塗料粘度、ローラー塗装作業性、塗膜表面粘着、塗膜の物理耐久性能の指標として耐水性、および、害虫防除効果としてシロアリの強制接触試験と這い上がり試験により苦死虫率を評価した。その結果も表2に示す。
【0044】
なお、表2に示す各材料として、次のものを使用した。
樹脂エマルション:アクリル樹脂エマルション;高圧ガス工業(株)製「ペガール896」(固形分50重量%)
シリカ系無機多孔質担体:合成非晶質シリカ;東ソー・シリカ(株)製沈降性シリカ「ニップシールVN3」
ピレスロイド系化合物:エトフェンプロックス(融点36.4~38.0℃)
【0045】
また、各試験は、次のように行った。
(塗料粘度)
各実施例及び比較例の水性塗料組成物の温度を23℃に調整し、B8H型粘度計(回転数20rpm、測定時間2分間)を用いて測定した。
【0046】
(ローラー塗装作業性)
フレキシブル板(180cm×90cm)に、下塗りとしてJIS K 5663合成樹脂エマルションシーラーを90g/m程度になるようにスプレーにて塗布した。1日後、各実施例及び比較例の水性塗料組成物を植毛ローラーで塗装して、ローラー塗装作業性を評価した。
○:塗装作業性が良好である(ローラーを手早く運行してもローラーが滑らずにスムーズに回転する)。
△:塗装作業性が概ね良好である(ローラーをゆっくりと運行すればローラーが滑らずにスムーズに回転する)。
×:塗装作業性が著しく劣る(ローラーをゆっくりと運行してもローラーが滑って回転しにくい)。
【0047】
(塗膜表面粘着)
ガラス板(15cm×10cm)に各実施例及び比較例の水性塗料組成物をウェット膜厚150μmのアプリケーターを用いて塗布した。これら試験体を23℃、相対湿度50%で3日間乾燥させ、塗膜表面粘着を指触評価した。
○:表面粘着が無い(指を押し当てても試験板は持ち上がらない)。
△:表面粘着があまり無い(指を押し当てると少し試験板が持ち上がるが、すぐに離れる)。
×:表面粘着が著しい(指を押し当てると試験板が持ち上がり、すぐには離れない)。
【0048】
(耐水性)
フレキシブル板(15cm×10cm)に、下塗りとしてJIS K 5663合成樹脂エマルションシーラーをスプレー塗装にて90g/mになるように塗布し、23℃、相対湿度50%で2時間乾燥させた。乾燥後、各実施例及び比較例の水性塗料組成物をウェット膜厚150μmのアプリケーターを用いて塗布し、23℃、相対湿度50%で7日間乾燥させた。これら試験体を純水に3日間浸漬して、耐水性を評価した。
○:塗膜の膨れが発生しない。
△:塗膜の膨れの程度がJIS K 5600-8-2に規定している膨れの密度1~2。
×:塗膜の膨れの程度がJIS K 5600-8-2に規定している膨れの密度3以上。
【0049】
(シロアリ強制接触試験での苦死虫率)
100ccのポリプロピレンカップに高さが1.5cmになるようにコンクリートを敷き詰め、各実施例及び比較例の水性塗料組成物を刷毛にて260g/mになるように塗布した。室温で7日間乾燥させた後、イエシロアリを約100頭放ち、所定時間でのイエシロアリの苦死虫率を算出した。
【0050】
(シロアリ這い上がり試験での苦死虫率)
500ccのポリプロピレンカップに高さが1.5cm程度となるように珪砂を敷き詰める。その上に、各実施例及び比較例の水性塗料組成物を刷毛にて260g/mになるように塗布したコンクリート片を設置した。コンクリート片の上部に餌木として杉を設置した後、イエシロアリを約200頭放ち、所定時間でのイエシロアリの苦死虫率を算出した。
【0051】
【表2】
【0052】
表2の結果から、シリカ系無機多孔質担体にピレスロイド系化合物を担持させた害虫防除剤を含有する水性塗料組成物の塗膜は、実施例1~実施例3のように、その含有量が増加するにつれて、シロアリの強制接触試験と這い上がり試験による苦死虫率が上昇し、塗膜の害虫防除効果が認められた。さらに、不揮発性の液状ポリオール類を併せて含有させることにより、実施例4~実施例6のように、シロアリの苦死虫率はさらに上昇し、塗膜の害虫防除効果が向上することが確認できた。シリカ系無機多孔質担体の配合量が過剰になると、比較例2の水性塗料組成物のように粘度が極めて高くなるため、ローラー塗装作業性が不良となり、塗膜の物理的耐久性能の指標となる耐水性も低下する。なお、比較例2は塗膜を良好に形成できなかったため、害虫防除試験を行えなかった。