(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】スイベルジョイント
(51)【国際特許分類】
F16J 15/18 20060101AFI20230518BHJP
F16L 27/087 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
F16J15/18 C
F16L27/087
(21)【出願番号】P 2018105662
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道上 智史
(72)【発明者】
【氏名】飯谷 英史
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-301236(JP,A)
【文献】特開2017-150674(JP,A)
【文献】特開2001-355735(JP,A)
【文献】特開2017-133560(JP,A)
【文献】実公昭57-9560(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/32
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/46-15/53
F16L 27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータの孔に配置されるシャフトと、
前記孔の内周面の溝に配置され、前記ロータと前記シャフトとの間をシールするシール部材と、を備え、
前記シール部材は、
中心軸を囲む内周面と、
前記中心軸の軸方向において前記内周面の一端部に接続される上面と、
前記軸方向において前記内周面の他端部に接続される下面と、
前記中心軸を囲むように前記内周面に連続して設けられ、前記中心軸の周方向の一方側に向かって上面側に傾斜する第1部分と、前記周方向の一方側に向かって下面側に傾斜する第2部分とを有
し、前記シャフトに接触される凸部と、
前記内周面及び前記凸部を有する内周リング部材と、
前記内周リング部材の周囲に配置され、前記内周リング部材よりも低硬度の材料で形成された外周リング部材と、を有し、
前記第1部分と前記第2部分とは、前記周方向において交互に複数設けられ、
前記第1部分は、前記周方向の一方側に向かって前記上面側に傾斜する第1エッジ及び第2エッジによって規定され、
前記第2部分は、前記周方向の一方側に向かって前記下面側に傾斜する第3エッジ及び第4エッジによって規定され、
前記第1エッジ及び前記第3エッジは、前記内周面の一端部と他端部との間の中心線よりも前記内周面の一端部側に配置され、
前記第2エッジ及び前記第4エッジは、前記中心線よりも前記内周面の他端部側に配置され、
前記中心線に近い前記第1エッジと前記第3エッジとは、前記中心線と平行な第5エッジを介して結ばれ、前記中心線から遠い前記第1エッジと前記第3エッジとは、前記中心線と平行な第6エッジを介して結ばれ、
前記中心線に近い前記第2エッジと前記第4エッジとは、前記中心線と平行な第7エッジを介して結ばれ、前記中心線から遠い前記第2エッジと前記第4エッジとは、前記中心線と平行な第8エッジを介して結ばれ、
前記周方向において、前記第1エッジと前記第3エッジとの境界である前記第5エッジは、前記第2エッジと前記第4エッジとの境界である2つの前記第7エッジの間に配置され、
前記周方向において、前記第1エッジと前記第3エッジとの境界である前記第6エッジは、前記第2エッジと前記第4エッジとの境界である2つの前記第8エッジの間に配置され
、
前記内周リング部材は、合成樹脂製であり、
前記外周リング部材は、合成樹脂製又はゴム製である、
スイベルジョイント。
【請求項2】
前記第1エッジと前記第2エッジとは平行であり、
前記第3エッジと前記第4エッジとは平行である、
請求項1に記載の
スイベルジョイント。
【請求項3】
前記第1エッジ及び前記第2エッジは、直線状であり、
前記第3エッジ及び前記第4エッジは、直線状である、
請求項2に記載の
スイベルジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材及びスイベルジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルのような作業車両は、上部旋回体と下部走行体とを備える。上部旋回体に油圧ポンプが配置される。下部走行体に油圧モータ(走行モータ)が配置される。上部旋回体と下部走行体とは、スイベルジョイントを介して連結される。油圧ポンプから吐出された作動油は、スイベルジョイントに設けられている油路を介して油圧モータに供給される。油圧ポンプから吐出された作動油が油圧モータに供給され、油圧モータが駆動することにより、下部走行体が走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スイベルジョイントは、複数の油路を有する。複数の油路を区画するシール部材がスイベルジョイントに設けられる。シール部材に要求される性能として、作動油の漏出を抑制すること、スイベルジョイントを低トルクで円滑に回転させること、及びシール性を長期間維持できること等が挙げられる。
【0005】
作動油の漏出を抑制するために、シール部材の締め代を大きくしてシール部材の緊迫力を高める方策が考えられる。しかし、シール部材の緊迫力を高めると、スイベルジョイントを低トルクで円滑に回転させることが困難になる可能性がある。また、シール部材の緊迫力を高め、シール部材に作用する摩擦力を増大させると、シール部材とスイベルジョイントのシャフトとの摩擦においてスティックスリップ現象が発生し、異音や振動が発生して、作業車両の運転者に不快感をもたらしたり、ホースやスイベルジョイントが破損したりする可能性がある。一方、シール部材の締め代を小さくしてシール部材の緊迫力を低くすると、作動油の漏出を十分に抑制することが困難になったり、シール性を長期間維持することが困難になったりする可能性がある。
【0006】
本発明の態様は、シール性を長期間維持し、スイベルジョイントを低トルクで円滑に回転させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に従えば、中心軸を囲む内周面と、前記中心軸の軸方向において前記内周面の一端部に接続される上面と、前記軸方向において前記内周面の他端部に接続される下面と、前記中心軸を囲むように前記内周面に連続して設けられ、前記中心軸の周方向の一方側に向かって上面側に傾斜する第1部分と、前記周方向の一方側に向かって下面側に傾斜する第2部分とを有する凸部と、を備えるシール部材が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、シール性を長期間維持し、スイベルジョイントを低トルクで円滑に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る作業車両を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るスイベルジョイントを示す側断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るスイベルジョイントを示す側面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るスイベルジョイントを示す上面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るシール部材を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るシール部材の一部を拡大した斜視図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係るシール部材の内周面の展開図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る凸部を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るシール部材の作用を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る凸部を示す断面図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係る凸部を示す断面図である。
【
図12】
図12は、第4実施形態に係るシール部材の一部を拡大した斜視図である。
【
図13】
図13は、第5実施形態に係るシール部材の一部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0011】
[1]第1実施形態
[作業車両]
図1は、本実施形態に係る作業車両MVを模式的に示す図である。作業車両MVは、下部走行体100と、下部走行体100に旋回可能に支持される上部旋回体200と、下部走行体100と上部旋回体200とを連結する回転機構300と、下部走行体100と上部旋回体200とを連結するスイベルジョイント1とを備える。作業車両MVとして、油圧ショベル又はバックホーが例示される。
【0012】
回転機構300は、内側リング部材301と、内側リング部材301の周囲に配置される外側リング部材302とを有する。内側リング部材301と外側リング部材302とは、旋回軸AXを中心に相対回転する。内側リング部材301は、下部走行体100に固定される。外側リング部材302は、上部旋回体200に固定される。
【0013】
スイベルジョイント1は、ロータ10と、ロータ10に回転可能に支持されるシャフト20とを有する。ロータ10とシャフト20とは、旋回軸AXを中心に相対回転する。ロータ10は、下部走行体100に固定される。シャフト20は、上部旋回体200に固定される。なお、ロータ10が上部旋回体200に固定され、シャフト20が下部走行体100に固定されてもよい。
【0014】
下部走行体100と上部旋回体200とは、回転機構300及びスイベルジョイント1を介して連結される。回転機構300及びスイベルジョイント1により、上部旋回体200は、下部走行体100に対して旋回軸AXを中心に旋回可能である。
【0015】
上部旋回体200に油圧ポンプ202及び作動油タンク203が設けられる。下部走行体100に油圧モータ102が設けられる。油圧ポンプ202とスイベルジョイント1とは、チューブ201を介して接続される。スイベルジョイント1と油圧モータ102とは、チューブ101を介して接続される。作動油タンク203は、作動油を収容する。作動油タンク203に収容されている作動油は、油路204を介して油圧ポンプ202に供給される。油圧ポンプ202は、作動油タンク203から供給された作動油を吐出する。油圧ポンプ202から吐出された作動油は、チューブ201、スイベルジョイント1に設けられている油路30、及びチューブ101を介して、油圧モータ102に供給される。油圧ポンプ202から吐出された作動油が油圧モータ102に供給され、油圧モータ102が駆動することにより、下部走行体100が走行する。油圧モータ102から送出された作動油は、不図示の油路を介して作動油タンク203に戻される。
【0016】
[スイベルジョイント]
図2は、本実施形態に係るスイベルジョイント1を示す側断面図である。
図3は、本実施形態に係るスイベルジョイント1を示す側面図である。
図4は、本実施形態に係るスイベルジョイント1を示す上面図である。本実施形態においては、スイベルジョイント1が4ポートである例について説明するが、6ポートでもよいし他の任意の数のポートでもよい。
【0017】
スイベルジョイント1は、孔11を有するロータ10と、ロータ10の孔11に配置されるシャフト20と、ロータ10とシャフト20との間をシールするシール部材40とを備える。
【0018】
孔11の上端部は開かれる。孔11の下端部は閉じられる。ロータ10の上面に開口が設けられる。シャフト20は、ロータ10の上面に設けられている開口から孔11に挿入される。シャフト20は、孔11の内側に配置されている状態で、旋回軸AXを中心に回転する。油圧ポンプ202から吐出された作動油が油圧モータ(旋回モータ)に送られることにより上部旋回体200が旋回し、上部旋回体200に固定されているシャフト20が回転する。
【0019】
油路30は、複数設けられる。本実施形態において、油路30は、油路30Aと、油路30Bと、油路30Cと、油路30Dとを含む。
【0020】
油路30Aは、ロータ10の孔11の内周面に設けられる環状油路31Aと、環状油路31Aとロータ10の外周面とを結ぶようにロータ10に設けられるロータポート32Aと、シャフト20の上面とシャフト20の外周面とを結ぶようにシャフト20の内部に設けられるシャフトポート33Aとを含む。
【0021】
油路30Bは、ロータ10の孔11の内周面に設けられる環状油路31Bと、環状油路31Bとロータ10の外周面とを結ぶようにロータ10に設けられるロータポート32Bと、シャフト20の上面とシャフト20の外周面とを結ぶようにシャフト20の内部に設けられるシャフトポート33Bとを含む。
【0022】
油路30Cは、ロータ10の孔11の内周面に設けられる環状油路31Cと、環状油路31Cとロータ10の外周面とを結ぶようにロータ10に設けられるロータポート32Cと、シャフト20の上面とシャフト20の外周面とを結ぶようにシャフト20の内部に設けられるシャフトポート33Cとを含む。
【0023】
油路30Dは、ロータ10の孔11の内周面に設けられる環状油路31Dと、環状油路31Dとロータ10の外周面とを結ぶようにロータ10に設けられるロータポート32Dと、シャフト20の上面とシャフト20の外周面とを結ぶようにシャフト20の内部に設けられるシャフトポート33Dとを含む。
【0024】
環状油路31A、環状油路31B、環状油路31C、及び環状油路31Dのそれぞれは、旋回軸AXを囲むように孔11の内周面に形成される。旋回軸AXと平行な方向において、環状油路31Aと環状油路31Bと環状油路31Cと環状油路31Dは、異なる位置に設けられる。
【0025】
ロータポート32Aの一端部32Aaは、環状油路31Aに接続される。ロータポート32Aの他端部32Abは、ロータ10の外周面に配置される。ロータポート32Bの一端部32Baは、環状油路31Bに接続され、ロータポート32Bの他端部32Bbは、ロータ10の外周面に配置される。ロータポート32Cの一端部32Caは、環状油路31Cに接続される。ロータポート32Cの他端部32Cbは、ロータ10の外周面に配置される。ロータポート32Dの一端部32Daは、環状油路31Dに接続され、ロータポート32Dの他端部32Dbは、ロータ10の外周面に配置される。
【0026】
シャフトポート33Aの一端部33Aaは、シャフト20の上面に配置される。シャフトポート33Aの他端部33Abは、環状油路31Aに対向するように、シャフト20の外周面に配置される。シャフトポート33Bの一端部33Baは、シャフト20の上面に配置される。シャフトポート33Bの他端部33Bbは、環状油路31Bに対向するように、シャフト20の外周面に配置される。シャフトポート33Cの一端部33Caは、シャフト20の上面に配置される。シャフトポート33Cの他端部33Cbは、環状油路31Cに対向するように、シャフト20の外周面に配置される。シャフトポート33Dの一端部33Daは、シャフト20の上面に配置される。シャフトポート33Dの他端部33Dbは、環状油路31Dに対向するように、シャフト20の外周面に配置される。
【0027】
シャフトポート33A,33B,33C,33Dの一端部33Aa,33Ba,33Ca,33Daは、チューブ201に接続される。シャフトポート33A,33B,33C,33Dは、チューブ201を介して、油圧ポンプ202に接続される。
【0028】
ロータポート32A,32B,32C,32Dの他端部32Ab,32Bb,32Cb,32Dbは、チューブ101に接続される。ロータポート32A,32B,32C,32Dは、チューブ101を介して、油圧モータ102に接続される。
【0029】
油圧ポンプ202から吐出された作動油は、チューブ201を流れた後、油路30A,30B,30C,30Dの少なくとも一部及びチューブ101を介して、油圧モータ102に供給される。また、油圧モータ102からの作動油は、チューブ101を流れた後、油路30A,30B,30C,30Dの少なくとも一部及びチューブ201を介して、上部旋回体200に設けられている作動油タンク203に戻される。
【0030】
ロータ10に対してシャフト20が回転した場合においても、シャフトポート33Aの他端部は、環状油路31Aに対向し続ける。これにより、作動油は、シャフトポート33Aと環状油路31Aとロータポート32Aとを流通し続けることができる。同様に、ロータ10に対してシャフト20が回転した場合においても、シャフトポート33B,33C,33Dの他端部は、環状油路31B,31C,31Dに対向し続ける。
【0031】
シール部材40は、複数の油路30A,30B,30C,30Dを区画する。シール部材40は、環状部材である。シール部材40は、孔11の内周面の溝12に配置される。溝12は、旋回軸AXを囲むように孔11の内周面に形成される。旋回軸AXと平行な方向において、溝12は、環状油路31Aよりも上方、環状油路31Aと環状油路31Bとの間、環状油路31Bと環状油路31Cとの間、環状油路31Cと環状油路31Dとの間、及び環状油路31Dよりも下方のそれぞれに設けられる。シール部材40は、複数の溝12のそれぞれに配置される。
【0032】
シール部材40は、溝12に配置された状態で、シャフト20の外周面に接触する。環状油路31Aと環状油路31Bとの間に配置されるシール部材40は、油路30Aを流れる作動油が油路30Bに浸入せず、油路30Bを流れる作動油が油路30Aに浸入しないように、油路30Aと油路30Bとの間をシールする。同様に、環状油路31Bと環状油路31Cとの間に配置されるシール部材40は、油路30Bと油路30Cとの間をシールする。環状油路31Cと環状油路31Dとの間に配置されるシール部材40は、油路30Cと油路30Dとの間をシールする。環状油路31Aよりも上方に配置されるシール部材40は、油路30Aをシールし、ロータ10とシャフト20との間から作動油が漏出することを抑制する。環状油路31Dよりも下方に配置されるシール部材40は、油路30Dをシールし、ロータ10とシャフト20との間から作動油が漏出することを抑制する。
【0033】
[シール部材]
図5は、本実施形態に係るシール部材40を示す斜視図である。
図6は、本実施形態に係るシール部材40の一部を拡大した斜視図である。
図7は、本実施形態に係るシール部材40の内周面41の展開図である。
【0034】
シール部材40は、中心軸CXの周囲に配置される環状部材である。シール部材40が溝12に配置された状態で、シール部材40の中心軸CXと旋回軸AXとは一致する。
【0035】
シール部材40は、中心軸CXを囲む内周面41と、内周面41の反対側を向く外周面42と、中心軸CXの軸方向において内周面41の一端部41Aに接続される上面43と、軸方向において内周面41の他端部41Bに接続される下面44と、内周面41に設けられる凸部50とを備える。
【0036】
上面43は、内周面41の一端部41Aと外周面42の一端部42Aとを結ぶ。内周面41の一端部41Aは、内周面41の上端部であり、外周面42の一端部42Aは、外周面42の上端部である。
【0037】
下面44は、内周面41の他端部41Bと外周面42の他端部42Bとを結ぶ。内周面41の他端部41Bは、内周面41の下端部であり、外周面42の他端部42Bは、外周面42の下端部である。
【0038】
凸部50は、内周面41に設けられ、内周面41から中心軸CXに向かって突出する。シール部材40が溝12に配置された状態で、凸部50は、シャフト20の外周面に接触する。凸部50は、中心軸CXを囲むように内周面41に連続的に設けられる。凸部50は、軸方向において第1空間SP1と第2空間SP2とを区画するように内周面41に設けられる。
図7に示すように、第1空間SP1は、軸方向において凸部50よりも一方側の空間(上方の空間)であり、一端部41Aを含む空間である。第2空間SP2は、凸部50よりも他方側の空間(下方の空間)であり、他端部41Bを含む空間である。
【0039】
例えば、環状油路31Aと環状油路31Bとの間に配置されるシール部材40の凸部50は、シャフト20の外周面に接触することによって、油路30Aを含む第1空間SP1と、油路30Bを含む第2空間SP2とを区画し、第1空間SP1及び第2空間SP2の一方から他方への作動油の流通を抑制する。
【0040】
同様に、環状油路31Bと環状油路31Cとの間に配置されるシール部材40の凸部50は、シャフト20の外周面に接触することによって、油路30Bを含む第1空間SP1と、油路30Cを含む第2空間SP2とを区画し、第1空間SP1及び第2空間SP2の一方から他方への作動油の流通を抑制する。環状油路31Cと環状油路31Dとの間に配置されるシール部材40の凸部50は、シャフト20の外周面に接触することによって、油路30Cを含む第1空間SP1と、油路30Dを含む第2空間SP2とを区画し、第1空間SP1及び第2空間SP2の一方から他方への作動油の流通を抑制する。
【0041】
すなわち、凸部50は、中心軸CXの周方向において、シャフト20との間に間隙が形成されないように、連続的に設けられる。
【0042】
図7に示すように、凸部50は、中心軸CXの周方向の一方側に向かって上面43側に傾斜する第1部分51と、周方向の一方側に向かって下面44側に傾斜する第2部分52とを有する。
【0043】
第1部分51と第2部分52とは、周方向において交互に複数設けられる。
【0044】
第1部分51は、周方向の一方側に向かって上面43側に傾斜する第1エッジ61及び第2エッジ62によって規定される。第1エッジ61と第2エッジ62とは平行である。第1エッジ61及び第2エッジ62は、直線状である。
【0045】
第2部分52は、周方向の一方側に向かって下面44側に傾斜する第3エッジ63及び第4エッジ64によって規定される。第3エッジ63と第4エッジ64とは平行である。第3エッジ63及び第4エッジ64は、直線状である。
【0046】
第1エッジ61及び第3エッジ63は、内周面41の一端部41Aと他端部41Bとの間の中心線CLよりも一端部41A側に配置される。第2エッジ62及び第4エッジ64は、中心線CLよりも他端部41B側に配置される。すなわち、中心線CLは、凸部50を通る。中心線CLとは、軸方向において一端部41Aと他端部41Bとの中心を通り、周方向に延在する線をいう。
【0047】
中心線CLに近い第1エッジ61と第3エッジ63とは、第5エッジ65を介して結ばれる。第5エッジ65は、中心線CLと平行である。
【0048】
中心線CLから遠い第1エッジ61と第3エッジ63とは、第6エッジ66を介して結ばれる。第6エッジ66は、中心線CLと平行である。
【0049】
中心線CLに近い第2エッジ62と第4エッジ64とは、第7エッジ67を介して結ばれる。第7エッジ67は、中心線CLと平行である。
【0050】
中心線CLから遠い第2エッジ62と第4エッジ64とは、第8エッジ68を介して結ばれる。第8エッジ68は、中心線CLと平行である。
【0051】
周方向において、第1エッジ61と第3エッジ63との境界である第5エッジ65は、第2エッジ62と第4エッジ64との境界である2つの第7エッジ67の間に配置される。また、周方向において、第1エッジ61と第3エッジ63との境界である第6エッジ66は、第2エッジ62と第4エッジ64との境界である2つの第8エッジ68の間に配置される。
【0052】
すなわち、本実施形態において、凸部50は、中心軸CXの周方向において、ジグザグ状(zigzag)に設けられる。第1エッジ61と第2エッジ62との間の第1部分51は、帯状に形成される。第3エッジ63と第4エッジ64との間の第2部分52は、帯状に形成される。
【0053】
第1部分51及び第2部分52のそれぞれについて、中心線HLが規定される。第1部分51の中心線HLとは、第1エッジ61と第2エッジ61との中心を通り、第1エッジ61及び第2エッジ62のそれぞれに平行な線をいう。第2部分52の中心線HLとは、第3エッジ63と第4エッジ64との中心を通り、第3エッジ63及び第4エッジ64のそれぞれに平行な線をいう。第1部分51の中心線HL及び第2部分52の中心線HLのそれぞれは、中心軸CXに垂直な方向に対して傾斜している。本実施形態において、シャフト20の回転方向に対する中心線HLの傾斜角度θは、45[°]以下である。
【0054】
周方向に配置される複数の第1部分51のそれぞれについて、第1部分51の中心線HLの傾斜角度θは同一の角度である。周方向に配置される複数の第2部分52のそれぞれについて、第2部分52の中心線HLの傾斜角度θは同一の角度である。第1部分51の中心線HLの傾斜角度θと第2部分52の中心線HLの傾斜角度θとは同一である。
【0055】
また、周方向に配置される複数の第1部分51のそれぞれについて、第1エッジ61の長さは同一の長さであり、第2エッジ62の長さは同一である。周方向に配置される複数の第2部分52のそれぞれについて、第3エッジ63の長さは同一であり、第4エッジ64の長さは同一の長さである。
【0056】
すなわち、本実施形態において、凸部50は、中心軸CXの周方向において、均一ピッチでジグザグ状(zigzag)に設けられる。
【0057】
図5及び
図6に示すように、シール部材40は、内周リング部材401と、内周リング部材401の周囲に配置される外周リング部材402とを有する。すなわち、シール部材40は、2つのリング部材によって構成される。内周リング部材401は、内周面41、凸部50、上面43の一部、及び下面44の一部を有する。外周リング部材402は、外周面42、上面43の一部、及び下面44の一部を有する。
【0058】
外周リング部材402は、内周リング部材401よりも低硬度の材料で形成される。内周リング部材401は、合成樹脂製である。外周リング部材402は、内周リング部材401よりも低硬度の合成樹脂製又はゴム製である。本実施形態において、内周リング部材401は、ナイロン樹脂製であり、外周リング部材402は、ウレタン樹脂製である。
【0059】
図8は、本実施形態に係る凸部50を示す断面図であり、
図7のA-A線矢視図に相当する。
図8に示すように、断面において、シャフト20の外周面に接触する凸部50の接触面53は、平坦である。これにより、凸部50は、シャフト20の外周面に十分に接触することができる。
【0060】
[作用]
シール部材40の凸部50は、第1部分51と第2部分52とを有するので、シール部材40とシャフト20とが接触した状態でロータ10及びシール部材40に対してシャフト20が回転したとき、スティックスリップ現象の発生が抑制され、スイベルジョイント1は低トルクで円滑に回転することができる。
【0061】
図9は、本実施形態に係るシール部材40の作用を説明するための図であり、凸部50の第2部分52を拡大した図である。第2部分52は、平行に配置された第3エッジ63と第4エッジ64とによって規定された帯状の部分である。凸部50がシャフト20の外周面に接触した状態で、シャフト20が回転すると、第2部分52にシャフト20との摩擦力Fが作用する。摩擦力Fは、中心軸CXと直交するシャフト20の回転方向に作用する。摩擦力Fは、凸部50の摩擦係数μと凸部50をシャフト20に押し付ける力を示す緊迫力Nとの積に相当する。緊迫力Nは、溝12とシャフト20との間に配置されるシール部材40の締め代が大きいほど高くなる。
【0062】
第2部分52の中心線HLは、シャフト20の回転方向に対して傾斜している。本実施形態において、シャフト20の回転方向に対する中心線HLの傾斜角度θは、45[°]以下である。
図9に示す例において、傾斜角度θは45[°]である。上述のように、第2部分52の中心線HLとは、第3エッジ63と第4エッジ64との中心を通り、第3エッジ63及び第4エッジ64のそれぞれに平行な線をいう。摩擦力Fに基づいて、第2部分52には、中心線HLと直交する方向に力Fdが作用する。摩擦力Fと力Fdとの間に[Fd=F×sinθ]の関係が成立する。
【0063】
凸部50は、合成樹脂製であり弾性変形する。第2部分52に力Fdが作用すると、力Fdに抗うように、第2部分52は、弾性力Feを発生する。力Fdが作用する方向と弾性力Feが作用する方向とは、逆方向である。凸部50の第2部分52に作用する摩擦力Fは、弾性力Feの作用により、[Ff=F-Fe×cosθ]まで減少する。
【0064】
このように、第2部分52が弾性力Feを発生することにより、シャフト20の回転方向において凸部50に作用する力は、緊迫力Nに基づいて規定される摩擦力Fよりも小さい力Ffに変換される。そのため、スイベルジョイント1は低トルクで円滑に回転することができる。
【0065】
本実施形態においては、緊迫力N(シール部材40の締め代)を大きくしても、シャフト20の回転方向に作用する力は、力Ffまで減少される。すなわち、緊迫力Nを高い値に維持した状態で、スイベルジョイント1を低トルクで円滑に回転させることができる。緊迫力Nを高い値に維持できるため、作動油の漏出は十分に抑制され、シール性を長期間維持することができる。
【0066】
また、シャフト20の回転方向に作用する力が軽減されるので、例えばシャフト20が低速で回転しても、スティックスリップ現象の発生が抑制される。
【0067】
以上、シャフト20が一方側に回転するときの第2部分52の作用について説明した。シャフト20が他方側に回転するときも、第2部分52は、上述と同様の機能を発揮する。また、シャフト20が回転したとき、第1部分51も、第2部分52と同様の機能を発揮する。
【0068】
[効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、凸部50が第1部分51と第2部分52とを備えるので、緊迫力Nを高い値に維持した状態で、スイベルジョイント1のシャフト220を低トルクで円滑に回転させることができる。また、シャフト20が低速で回転しても、スティックスリップ現象の発生が抑制される。また、緊迫力Nを高い値に維持できるので、作動油の漏出は十分に抑制され、シール性を長期間維持することができる。
【0069】
また、本実施形態においては、シール部材40は、シャフト20に接触する内周リング部材401と、内周リング部材401の周囲に配置され、内周リング部材401よりも低硬度の材料で形成された外周リング部材402とを有する。外周リング部材402が低硬度なので、シール部材40の締め代を大きくすることができる。シャフト20に接触する内周リング部材401が硬いので、シール性を長期間維持することができる。
【0070】
[2]第2実施形態
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0071】
図10は、本実施形態に係る凸部50を示す断面図である。
図10に示すように、凸部50と内周面41との境界に、凹部71が形成されてもよい。凹部71が形成されることにより、凸部50は、中心線HLと直交する方向に弾性変形し易くなる。そのため、凸部50は、摩擦力Fを軽減させるための弾性力Feを十分に発生することができる。
【0072】
[3]第3実施形態
第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0073】
図11は、本実施形態に係る凸部50を示す断面図である。
図11に示すように、凸部50の接触面53に、凹部72が形成されてもよい。凹部72が形成されることにより、凸部50は、中心線HLと直交する方向に弾性変形し易くなる。そのため、凸部50は、摩擦力Fを軽減させるための弾性力Feを十分に発生することができる。
【0074】
[4]第4実施形態
第4実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0075】
図12は、本実施形態に係るシール部材40の一部を拡大した斜視図である。上述の実施形態においては、第1エッジ61及び第2エッジ62が直線状であり、第3エッジ63及び第4エッジ64が直線状であることとした。
図12に示すように、第1エッジ61及び第2エッジ62が曲線状であり、第3エッジ63及び第4エッジ64が曲線状でもよい。本実施形態においても、第1部分51及び第2部分52は帯状なので、摩擦力Fを軽減させるための弾性力Feを十分に発生することができる。
【0076】
[5]第5実施形態
第5実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0077】
図13は、本実施形態に係るシール部材40の一部を拡大した斜視図である。上述の実施形態においては、凸部50は、中心軸CXの周方向において、均一ピッチでジグザグ状に設けられることとした。
図13に示すように、凸部50は、中心軸CXの周方向において、不均一ピッチでジグザグ状に設けられてもよい。
【0078】
例えば、周方向に配置される複数の第1部分51のそれぞれについて、中心線HLの傾斜角度θは、異なる角度でもよい。周方向に配置される複数の第2部分52のそれぞれについて、中心線HLの傾斜角度θは、異なる角度でもよい。また、周方向に配置される複数の第1部分51のそれぞれについて、第1エッジ61の長さが異なる長さであり、第2エッジ62の長さが異なる長さでもよい。周方向に配置される複数の第2部分52のそれぞれについて、第3エッジ63の長さが異なる長さであり、第4エッジ64の長さが異なる長さでもよい。
【0079】
[6]他の実施形態
上述の実施形態において、第1部分51と第2部分52とは周方向に交互に複数設けられることとした。第1部分51と第2部分52とは、周方向に連続的に配置されてなくてもよく、第1部分51と第2部分52とが離れていてもよい。また、第1部分51の隣に別の第1部分51が配置されたり、第2部分52の隣に別の第2部分52が配置されたりしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…スイベルジョイント、10…ロータ、11…孔、12…溝、20…シャフト、30…油路、30A…油路、30B…油路、30C…油路、30D…油路、31A…環状油路、31B…環状油路、31C…環状油路、31D…環状油路、32A…ロータポート、32Aa…一端部、32Ab…他端部、32B…ロータポート、32Ba…一端部、32Bb…他端部、32C…ロータポート、32Ca…一端部、32Cb…他端部、32D…ロータポート、32Da…一端部、32Db…他端部、33A…シャフトポート、33Aa…一端部、33Ab…他端部、33B…シャフトポート、33Ba…一端部、33Bb…他端部、33C…シャフトポート、33Ca…一端部、33Cb…他端部、33D…シャフトポート、33Da…一端部、33Db…他端部、40…シール部材、41…内周面、41A…一端部、41B…他端部、42…外周面、42A…一端部、42B…他端部、43…上面、44…下面、50…凸部、51…第1部分、52…第2部分、53…接触面、61…第1エッジ、62…第2エッジ、63…第3エッジ、64…第4エッジ、65…第5エッジ、66…第6エッジ、67…第7エッジ、68…第8エッジ、71…凹部、72…凹部、100…下部走行体、101…チューブ、102…油圧モータ、200…上部旋回体、201…チューブ、202…油圧ポンプ、203…作動油タンク、204…油路、300…回転機構、301…内側リング部材、302…外側リング部材、401…内周リング部材、402…外周リング部材、AX…旋回軸、CL…中心線、CX…中心軸、HL…中心線、MV…作業車両。