(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】水素炭酸風呂
(51)【国際特許分類】
A61H 33/02 20060101AFI20230518BHJP
A47K 3/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61H33/02 A
A47K3/00 F
(21)【出願番号】P 2018156651
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】511303984
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県立病院機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】前川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小池 国彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 吾一
(72)【発明者】
【氏名】中島 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 陽
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-137452(JP,A)
【文献】特開2009-202113(JP,A)
【文献】特開2008-005973(JP,A)
【文献】特開2015-213569(JP,A)
【文献】特開2015-188789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/02
A47K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素炭酸水が供給される浴槽を備えた水素炭酸風呂であって、
前記浴槽内の浴槽水を吸引して水素と二酸化炭素を同時に溶解させて前記浴槽内に戻す浴槽水製造装置が用いられ、
前記浴槽水製造装置が、浴槽水を導入し導出する溶解タンクと、前記溶解タンク内の浴槽水にファインバブルを供給するファインバブル生成器を備え
、
前記溶解タンクに接続される導入路が前記浴
槽に接続され
て浴槽水のみを前記溶解タンクに導入し、浴槽水を前記溶解タンクおよび前記浴槽の間で循環させ
て、
前記浴槽に、水素の溶存濃度が0.2ppm以上1.2ppm以下であり、二酸化炭素の溶存濃度が250ppm以上3000ppm以下である水素炭酸水を連続して供給する
水素炭酸風呂。
【請求項2】
前記導入路の前記浴槽水製造装置がわの端が前記ファインバブル生成器の気体供給部に接続された
請求項1に記載の水素炭酸風呂。
【請求項3】
前記浴槽水製造装置が前記浴槽を有する浴室の外に設けられた
請求項
1または請求項2に記載の水素炭酸風呂。
【請求項4】
前記浴槽水製造装置の運転中における開放状態にある前記浴槽内の浴槽水の最大溶存水素濃度が0.5ppmであり、
浴室内の水素ガス濃度が25ppm未満である
請求項1から請求項
3のうちいずれか一項に記載の水素炭酸風呂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二酸化炭素に加えて水素を溶解した水を用いる水素炭酸風呂に関し、より詳しくは健康維持に貢献し得る水素炭酸風呂に関する。
【背景技術】
【0002】
健康維持に資する血行促進などを行える風呂として炭酸風呂が知られている。炭酸風呂は、二酸化炭素の経皮吸収による末梢血管の拡張を通じて、血行促進や血管抵抗の減少を生じるので、保温作用や疲労回復、血圧低下作用などの効果があるとされている。
【0003】
下記特許文献1では、炭酸風呂の上記のような効果に加えて、アンチエージング効果を有する人工炭酸泉が開示されている。この人工炭酸泉は、二酸化炭素のほかに水素を溶解させて酸化還元電位を還元系の電位にしたものであって、抗酸化作用を有する。
【0004】
しかし、この人工炭酸泉の水素は、酸化還元電位を還元系に傾けるためのものであって、溶存水素濃度は高くなく、水素を効果的に吸収させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、水素を効果的に吸収できるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段は、水素の溶存濃度が0.2ppm以上1.2ppm以下であり、二酸化炭素の溶存濃度が250ppm以上3000ppm以下である水素炭酸水が、浴槽に対して連続して供給される水素炭酸風呂である。
【0008】
この水素炭酸風呂により、炭酸水でありながらも溶存水素濃度が高い水素炭酸水で入浴可能となり、二酸化炭素による血行促進作用に合わせて水素を経皮吸収させることができる。皮膚から吸収された水素は皮膚血管やリンパ管を通って人体の各組織に作用する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、炭酸風呂としては高い溶存濃度の水素を作用させることができ、入浴によって、経口摂取する場合よりも負担が少なく、効果的な水素吸収を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0012】
図1に、水素炭酸風呂11の概略構成図を示す。水素炭酸風呂11は、加熱された適宜温度の水素炭酸水12が浴槽13に対して連続して供給されるものであって、水素炭酸水12の溶存水素濃度は0.2ppm以上1.2ppm以下であり、溶存二酸化炭素濃度は250ppm以上3000ppm以下である。
【0013】
具体的には、水素炭酸風呂11は、浴槽13を設置する浴室14と、浴室14の外に設けられて水素炭酸水12を製造する浴槽水製造装置15を有している。
【0014】
浴室14は、換気扇(図示せず)による換気が可能であり、また窓(図示せず)を有するものの、基本的には閉鎖された空間を形成できる構成である。浴室14内には、浴槽13のほか、給湯ライン16及び給水ライン17が接続された給水部18や、洗い場19等必要な設備を有している。
【0015】
浴槽水製造装置15は、浴槽13に貯留された浴槽水13aを循環させて、循環中に前述の範囲の濃度の水素と二酸化炭素を溶解し、浴槽13に供給するものであって、循環ポンプ21と、ガスボンベ22と、溶解装置23を備えている。
【0016】
ガスボンベ22は、水素と二酸化炭素を適宜の割合で混合した混合ガスを貯蔵している。ガスボンベ22の開閉弁22aは、混合ガスを適宜流量で噴出する構造である。なお、ガス供給方法としては、水素と二酸化炭素の混合ガスを貯蔵したガスボンベ22を使用する以外に、水素と二酸化炭素をそれぞれのガスボンベから供給されたガスを混合して混合ガスを供給するようにしてもよい。
【0017】
溶解装置23は、溶解タンク24とファインバブル生成器25で構成される。ファインバブル生成器25としては、加圧溶解方式、バブルせん断方式または多孔質方式などの装置を使用できる。
【0018】
循環ポンプ21は、浴槽13に形成される吸入口26に接続されて浴槽水13aを導き出す導出路27に設けられ、循環ポンプ21の先にはファインバブル生成器25が接続されている。ファインバブル生成器25は、通過させる浴槽水13aに気体を供給する気体供給部25aと、ファインバブルを発生させるバブル発生部25bを有しており、バブル発生部25bは溶解タンク24内に収容されている。気体供給部25aには、ガスボンベ22が接続され、溶解タンク24からは浴槽水13aを浴槽13に形成される吐出口28に導く導入路29が接続されている。
【0019】
このような構成の水素炭酸風呂11では、次のようにして浴槽水13aとしての水素炭酸水を生成する。
【0020】
まず、給水部18から浴槽13内に湯水を供給し湯水が貯留された状態で、浴槽水製造装置15を作動する。つまり、循環ポンプ21を駆動するとともに、循環ポンプ21の能力(流量)と目標とする溶存濃度を考慮して、ガスボンベ22から混合ガスを適宜流量で供給する。
【0021】
すると、循環ポンプ21によって吸入口26から吸い込まれた浴槽水13aには、ファインバブル生成器25を通る際に混合ガスが混合される。通過する浴槽水13a中に発生した水素と二酸化炭素のファインバブルは、すぐに消えることなく分散して広がり、湯水又は浴槽水13aに溶解する。この結果、溶解タンク24の中で水素と二酸化炭素のファインバブルを有する水素炭酸水12となり、導入路29を通って吐出口28から浴槽13に導入される。このような動作が繰り返されることにより、浴槽13の湯水は徐々に所望の溶存水素濃度と溶存二酸化炭素濃度の水素炭酸水12となる。
【0022】
水素炭酸水12は浴槽13に連続して供給されるので、浴槽13内の人体には常に所望濃度の水素と二酸化炭素のガスが接触することになる。
【0023】
なお、水素炭酸水12を浴槽13に対して連続して供給するためには、前述のような浴室14の外に備えた浴槽水製造装置15を用いて湯水を循環させて供給する手段を取らずに、別の手段で別途に生成した水素炭酸水12を浴槽13に供給するなど、他の方法で供給してもよい。
【0024】
以上のような構成の水素炭酸風呂11への入浴が人体にどのような作用をするのか確認すべく、試験を行った。次にその試験と結果について述べる。
【0025】
試験方法は、水素炭酸水12を用いた水素炭酸風呂11と、比較例としての炭酸水を用いた炭酸風呂に対する入浴を、所定期間ずつ行い、その前後における呼気終末水素濃度と血液検査諸量の変化を被験者10名の平均値でみた。比較評価には、個人差が大きい因子の調査に効果的なクロスオーバー法を用いた。
【0026】
具体的には、試験期間として3か月を設定し、成人の男性5人ずつ、合計10人を略均等に2つのグループにわけて、それぞれ入浴期間を、土曜日と日曜日を除く1か月(5日×4週間)とし、インターバルを1か月とした。つまり、一方のグループは最初に水素炭酸風呂に1か月間(20回)入浴し、その後1カ月のインターバルをおいて、炭酸風呂に1か月間(20回)入浴する。他方のグループは、最初に炭酸風呂に1か月間(20回)入浴し、その後1カ月のインターバルをおいて、水素炭酸風呂に1か月間(20回)入浴する。
【0027】
被験者10名の身長の平均値は172cmであり、体重はおよそ73kg、胸囲はおよそ87cmであって、標準的な体格であった。また全被験者の健康状態は良好であった。
【0028】
水素炭酸風呂11における水素炭酸水12の生成に際して水素と二酸化炭素の混合率、つまりガスボンベ22の混合ガスの構成割合は、水素濃度を8%、二酸化炭素濃度を92%とした。また、循環ポンプ21の流量は8L/minであり、混合ガスを噴出する際の流量は500cc/minであった。浴槽13及び浴室14は一人用の一般的なものであった。
【0029】
炭酸風呂には、水素炭酸風呂11と同じ風呂を用い、前述のガスボンベ22に代えて二酸化炭素100%のガスボンベを用いた以外は、水素炭酸風呂11の場合と同じである。
【0030】
前述の条件で製造された水素炭酸風呂11における水素炭酸水12からなる浴槽水13aの溶存水素濃度は最大で0.5ppmであった。具体的には、運転開始から5分で0.2ppm、10分で0.3ppm、15分で0.35ppm、20分で0.4ppm、25分で0.5ppmとなった。溶存二酸化炭素濃度については、900ppmであった。入浴は、運転開始から25分以上経ってから行わせた。
【0031】
また、浴槽13を開放した状態での浴槽水製造装置15の運転中に、浴室14内のガス濃度を測定したところ、炭酸ガス濃度は0.1~0.2%で、水素ガス濃度は0.1%未満、酸素ガス濃度は21%であった。入浴中におけるある時点で、浴室14内の水素ガス濃度を3カ所(浴槽水13aの水面付近と、浴室14の天井付近と、浴室14の高さと幅と奥行のそれぞれの中間である浴室空間の中央(高さでは水面より上で天井より下)) において測定したところ、いずれの測定点でも25ppm未満であった。なお、水素ガス濃度の測定には、新コスモス電機株式会社製の高感度可燃性ガス検知器「XP-3160」を用いた。
【0032】
入浴は、浴槽13内に10分以上、浴室14内には20分以上30分以下の滞在とし、呼気終末水素濃度と、血液生化学検査の測定と、血圧や脈拍などの検査を行った。
【0033】
呼気終末水素濃度とは、息を吐き切った状態から更にもう一吐きした呼気中の水素濃度であり、血中のガス濃度を反映したものである。試験では、終末呼気をアルミニウムバッグに採取してから測定した。測定には、新コスモス電機株式会社製のポータブルガス分析装置「XG-100H」を用いた。
【0034】
試験の結果、呼気終末水素濃度については表1の結果が得られ、水素炭酸風呂11への入浴により、水素が血中に取り込まれていることが判る。
【0035】
【表1】
表1では、水素炭酸風呂入浴と炭酸風呂入浴のそれぞれについて、20回のうちの1回目の入浴(1回目入浴)と、1か月の試験期間の最終回である20回目の入浴(20回目入浴)について、入浴前と入浴後の値を示した。単位はppmである。
【0036】
表1から判るように、水素炭酸風呂と炭酸風呂の1回目入浴の入浴前には、呼気終末水素濃度は水素炭酸風呂で6.0、炭酸風呂で7.7であったが、1回の入浴で、水素炭酸風呂では29.6に上昇し、炭酸風呂では3.7に低下した。水素炭酸風呂では23.6も水素濃度が増加しているのに対して、炭酸風呂では4.1減少している。このことから、水素炭酸風呂に入浴することで、効果的に水素が血中に取り込まれていることがわかる。
【0037】
また、20回目入浴になると、水素炭酸風呂では入浴前の呼気終末水素濃度が11.4と高くなり、入浴後の数値も46.0となって、前後差は34.6であり、1回目入浴のときと比較して、入浴前後での水素ガス濃度の差が増していることが判る。一方、炭酸風呂では20回目入浴でも入浴後の水素濃度が、入浴前の12.5から9.7へと低下している。これらのことから、水素炭酸風呂への入浴を継続することにより、血中への水素の取り込み量が多くなっていると考えられる。
【0038】
血液生化学検査の結果は、表2のとおりである。
【0039】
【表2】
検査項目はT-Bil、Total Protein 、A/G、Albumin、AST、ALT、LD、ALP、γ-GT、CHE、NH3であり、Total Protein以下のすべての検査項目においては水素炭酸風呂入浴と炭酸風呂入浴において顕著な差は見られなかった。
【0040】
しかし、T-Bilにおいては、水素炭酸風呂の1回目入浴が1.05であるのに対して20回目入浴が0.89と数値が低下しているのに対し、炭酸風呂の場合には、1回目入浴が0.93で20回目入浴が1.05であった。この数値変化については統計処理による検証も行ったところ、水素炭酸風呂への継続した入浴により、T-Bilが有意に低下したことが確認され、肝機能の改善を示唆していると考えられる。
【0041】
また、併せて測定した被験者の血圧と脈拍とSpO2と、舌下温は、表3のとおりである。なお、表3中「開始前」は、1回目入浴の前であり、「終了時」は、20回目入浴の後である。
【0042】
【表3】
表3に示したように、血圧、脈拍、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO
2)、舌下温において、水素炭酸風呂への入浴と炭酸風呂への入浴による違いはなく、同等の結果が見られた。
【0043】
表2に示した血液生化学検査の結果と、表3の脈拍等の結果からは、水素炭酸風呂への入浴はT‐Bilの数値を除き、炭酸風呂とほぼ同等であり人体への悪影響は認められない。
【0044】
以上のように、水素炭酸水を連続して導入した浴槽を有する風呂に入浴して、少なくとも水素炭酸水の最大溶存水素濃度が0.5ppmであり、溶存二酸化炭素濃度が250ppm以上1000ppm未満、好適には900ppmであって、1回の入浴で浴槽内に10分以上入浴する場合には、前述のように血中に水素を効果的に取り込むことができ、その結果T-Bilの値が改善することが判る。
【0045】
水素炭酸水は、炭酸水でありながらも溶存水素濃度が高い水素炭酸水であるため、入浴によって人体の皮膚に接すると、二酸化炭素による血行促進作用ながされ、同時に水素も経皮吸収される。皮膚から吸収された水素は皮膚血管やリンパ管を通って人体の各組織に作用した結果、前述のような肝機能の改善を示唆する結果が得られたものと考えられる。
【0046】
このように、水素炭酸風呂を用いた入浴方法によって、二酸化炭素との協働とも相まって人体への効果的な水素吸収・水素摂取を実現できる。入浴によって自然に吸収されるので、経口摂取の場合のような、一定量以上飲まなければならないという負担はない。
【0047】
水素炭酸水の溶存水素濃度は、0.2ppmから1.2ppmまで適宜設定できるが、0.35ppm以上、または0.4ppm以上、好ましくは前述の0.5ppm前後の値か、0.5ppmが最大値となるようにするとよい。
【0048】
水素炭酸水の溶存二酸化炭素濃度は、250ppmから3000ppmまで、好みに応じて適宜設定することができるが、水素の吸収を主にするので、炭酸泉として必要な250ppm以上であれば、高濃度とされる1000ppmに満たない値であってもよく、前述の900ppm前後の値か、900ppmが最大値となるようにするとよい。
【符号の説明】
【0049】
11…水素炭酸風呂
12…水素炭酸水
13…浴槽
14…浴室
15…浴槽水製造装置
22…ガスボンベ
23…溶解装置