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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】工作機械及びその作動方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20230518BHJP
   B23B 31/00 20060101ALI20230518BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
B23Q17/00 B
B23B31/00 D
B23Q17/12
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018185858
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020055051
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 宏顕
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-006543(JP,A)
【文献】特開2003-181747(JP,A)
【文献】特開2000-280140(JP,A)
【文献】特開平11-114707(JP,A)
【文献】特開2002-200542(JP,A)
【文献】特開2018-025979(JP,A)
【文献】特開2008-087094(JP,A)
【文献】特開2013-208660(JP,A)
【文献】特公平08-032392(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00-33/00
B23Q 5/00-5/58
B23Q 17/00-23/00
G05B 19/18-19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク又は工具を装着するために締結動作可能なクランプと、
前記クランプの締結動作を制御する制御部と、
前記クランプを有するとともに前記ワーク又は工具の装着状態で回転可能な主軸と、
前記クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を開始し、その測定は前記主軸の非回転時に行う、前記クランプの振動又は前記クランプの締結動作を生じさせるクランプ用アクチュエータの負荷に関連する所定のデータに基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知する検知部と、
を備える、工作機械。
【請求項2】
前記所定のデータの測定は、前記クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで終了することを特徴とする、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記所定のデータは、前記クランプの振動に関連することを特徴とする、請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記検知部は、前記クランプの振動を測定する振動センサを有することを特徴とする、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記振動センサは、前記主軸に配置される加速度センサであることを特徴とする、
請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記検知部は、
データを記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶する前記データに含まれる前記所定のデータに基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常の有無を判定する判定部と、を備えることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項7】
前記検知部は、時間領域の前記所定のデータ内の強度に基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項8】
前記検知部は、時間領域の前記所定のデータを高速フーリエ変換処理して得た周波数領域の前記所定のデータ内の強度に基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項9】
前記検知部は、前記周波数領域の前記所定のデータにおける所定の周波数帯域の強度に基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知することを特徴とする、請求項8に記載の工作機械。
【請求項10】
前記検知部が検知した前記クランプの締結動作に伴う異常を報知する報知部を備えることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項11】
ワーク又は工具を装着するためのクランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を開始し、その測定は、前記クランプを有するとともに前記ワーク又は工具の装着状態で回転可能な主軸の非回転時に行う、前記クランプの振動又は前記クランプの締結動作を生じさせるクランプ用アクチュエータの負荷に関連する所定のデータに基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知するクランプ異常検知ステップを備える、工作機械の作動方法。
【請求項12】
前記所定のデータの測定は、前記クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで終了することを特徴とする、請求項11に記載の工作機械の作動方法。
【請求項13】
前記所定のデータは、前記クランプの振動に関連することを特徴とする、請求項11又は12に記載の工作機械の作動方法。
【請求項14】
前記クランプ異常検知ステップにおいて、振動センサによって前記クランプの振動を測定することを特徴とする、請求項13に記載の工作機械の作動方法。
【請求項15】
前記クランプ異常検知ステップにおいて、前記主軸に配置される加速度センサによって前記クランプの振動を測定することを特徴とする、請求項14に記載の工作機械の作動方法。
【請求項16】
前記クランプ異常検知ステップは、
データを記憶する記憶ステップと、
前記記憶ステップで記憶された前記データに含まれる前記所定のデータに基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常の有無を判定する判定ステップと、を備えることを特徴とする、
請求項11~15のいずれか一項に記載の工作機械の作動方法。
【請求項17】
前記クランプ異常検知ステップにおいて、時間領域の前記所定のデータ内の強度に基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知することを特徴とする、請求項11~16のいずれか一項に記載の工作機械の作動方法。
【請求項18】
前記クランプ異常検知ステップにおいて、時間領域の前記所定のデータを高速フーリエ変換処理して得た周波数領域の前記所定のデータ内の強度に基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知することを特徴とする、請求項11~16のいずれか一項に記載の工作機械の作動方法。
【請求項19】
前記クランプ異常検知ステップにおいて、周波数領域の前記所定のデータにおける所定の周波数帯域の強度に基づいて、前記クランプの締結動作に伴う異常を検知することを特徴とする、請求項18に記載の工作機械の作動方法。
【請求項20】
前記クランプ異常検知ステップで検知した前記クランプの締結動作に伴う異常を報知するクランプ異常報知ステップを備えることを特徴とする、請求項11~19のいずれか一項に記載の工作機械の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械及びその作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NCフライス盤、マシニングセンタ等の、ワーク(被加工物)を工具で加工する工作機械が知られている。このような工作機械は、ワーク又は工具を装着するために締結動作可能なクランプを有する場合や、クランプ等によってワーク又は工具を装着した状態で回転可能な主軸を有する場合がある。このようなワーク又は工具の装着部に、切屑の噛み込み等の異常がある場合には、ワークの加工精度に悪影響を及ぼしかねない。
【0003】
このような問題に対処する従来技術としては、例えば特許文献1~3に記載されるようなものが知られている。特許文献1には、工具とクランプとの間に圧縮空気を流してその流量又は圧力の変化を測定することで、切屑の噛み込みを検知するように構成された工作機械が記載されている。特許文献2、3には、それぞれ、主軸の回転時に振動センサによって測定された主軸の振動の時間領域データをFFT処理して周波数領域データを得るとともに、当該周波数領域データに基づいて、主軸の回転に伴う振れを検知するように構成された工作機械が記載されている。特許文献3には、そのような検知を、周波数領域データにおける所定の周波数帯域の強度に基づいて行う点も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-226541号公報
【文献】特開2009-113160号公報
【文献】特開2005-74568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~3に記載されるような従来技術よりも効果的に、ワーク又は工具の装着部での異常を検知することができれば望ましい。
【0006】
本開示の目的は、ワーク又は工具の装着部での異常を効果的に検知することができる工作機械及びその作動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態に係る工作機械は、ワーク又は工具を装着するために締結動作可能なクランプと、クランプの締結動作を制御する制御部と、クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を開始するクランプの振動又は負荷に関連する所定のデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知する検知部と、を備える。このような構成によれば、クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を開始するデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0008】
一実施形態において、所定のデータは、クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を終了してもよい。このような構成によれば、定量化されたデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0009】
一実施形態において、所定のデータは、クランプの振動に関連してもよい。このような構成によれば、クランプの振動に関連するデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0010】
一実施形態において、検知部は、クランプの振動を測定する振動センサを有してもよい。このような構成によれば、振動センサで測定したクランプの振動に関連するデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0011】
一実施形態において、工作機械は、クランプを有するとともにワーク又は工具の装着状態で回転可能な主軸を備えてもよく、振動センサは、主軸に配置される加速度センサであってもよい。このような構成によれば、簡素な構成で精度良く、クランプの締結動作に伴う異常を検知することができる。
【0012】
一実施形態において、検知部は、データを記憶する記憶部と、記憶部が記憶するデータに含まれる所定のデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常の有無を判定する判定部と、を備えてもよい。このような構成によれば、記憶部が記憶するデータに含まれる、例えばクランプの締結動作より前の、適切なタイミングで開始するデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0013】
一実施形態において、検知部は、時間領域の所定のデータ内の強度に基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知してもよい。このような構成によれば、時間領域のデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を簡便に精度良く検知することができる。
【0014】
一実施形態において、検知部は、時間領域の所定のデータを高速フーリエ変換処理して得た周波数領域の所定のデータ内の強度に基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知してもよい。このような構成によれば、周波数領域のデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0015】
一実施形態において、検知部は、周波数領域の所定のデータにおける所定の周波数帯域の強度に基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知してもよい。このような構成によれば、所定の周波数帯域の強度に基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0016】
一実施形態において、工作機械は、検知部が検知したクランプの締結動作に伴う異常を報知する報知部を備えてもよい。このような構成によれば、クランプの締結動作に伴う異常を報知し、対処を促すことができる。
【0017】
幾つかの実施形態に係る工作機械の作動方法は、ワーク又は工具を装着するためのクランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を開始するクランプの振動又は負荷に関連する所定のデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知するクランプ異常検知ステップを備える。このような構成によれば、クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を開始するデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0018】
一実施形態において、所定のデータは、クランプの締結動作と同期した所定のタイミングで測定を終了してもよい。このような構成によれば、定量化されたデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0019】
一実施形態において、所定のデータは、クランプの振動に関連してもよい。このような構成によれば、クランプの振動に関連するデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0020】
一実施形態において、クランプ異常検知ステップでは、振動センサによってクランプの振動を測定してもよい。このような構成によれば、振動センサで測定したクランプの振動に関連するデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0021】
一実施形態において、クランプ異常検知ステップでは、クランプを有するとともにワーク又は工具の装着状態で回転可能な主軸に配置される加速度センサによってクランプの振動を測定してもよい。このような構成によれば、簡素な構成で精度良く、クランプの締結動作に伴う異常を検知することができる。
【0022】
一実施形態において、クランプ異常検知ステップは、データを記憶する記憶ステップと、記憶ステップで記憶されたデータに含まれる所定のデータに基づいて、クランプの締結動作に伴う異常の有無を判定する判定ステップと、を備えてもよい。このような構成によれば、記憶したデータに含まれる、例えばクランプの締結動作より前の、適切なタイミングで開始するデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0023】
一実施形態において、クランプ異常検知ステップでは、時間領域の所定のデータ内の強度に基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知してもよい。このような構成によれば、時間領域のデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を簡便に精度良く検知することができる。
【0024】
一実施形態において、クランプ異常検知ステップでは、時間領域の所定のデータを高速フーリエ変換処理して得た周波数領域の所定のデータ内の強度に基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知してもよい。このような構成によれば、周波数領域のデータに基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0025】
一実施形態において、クランプ異常検知ステップでは、周波数領域の所定のデータにおける所定の周波数帯域の強度に基づいて、クランプの締結動作に伴う異常を検知してもよい。このような構成によれば、所定の周波数帯域の強度に基づくことで、クランプの締結動作に伴う異常を精度良く検知することができる。
【0026】
一実施形態において、工作機械の作動方法は、クランプ異常検知ステップで検知したクランプの締結動作に伴う異常を報知するクランプ異常報知ステップを備えてもよい。このような構成によれば、クランプの締結動作に伴う異常を報知し、対処を促すことができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、ワーク又は工具の装着部での異常を効果的に検知することができる工作機械及びその作動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械を示す模式図である。
図2図1に示す工作機械の主軸の周辺部をより詳細に示す模式図である。
図3A】クランプの締結動作に伴う異常がない場合の、クランプの振動に関する時間領域の所定のデータの一例を示す図である。
図3B図3Aに示す時間領域データをFFT処理して得られた周波数領域の所定のデータの一例を示す図である。
図4A】クランプの締結動作に伴う異常がある場合(小さい切屑の噛み込みが生じた場合)の、クランプの振動に関する時間領域の所定のデータの一例を示す図である。
図4B図4Aに示す時間領域データをFFT処理して得られた周波数領域の所定のデータの一例を示す図である。
図5A】クランプの締結動作に伴う異常がある場合(大きい切屑の噛み込みが生じた場合)の、クランプの振動に関する時間領域の所定のデータの一例を示す図である。
図5B図4Aに示す時間領域データをFFT処理して得られた周波数領域の所定のデータの一例を示す図である。
図6】クランプの締結動作と同期しない場合における所定のデータの指標値分布の例を示す図である。
図7】クランプの締結動作と同期した場合における所定のデータの指標値分布の例を示す図である。
図8A】主軸の回転に伴う振れが実質的にない場合における主軸の振動に関する周波数領域データの一例を示す図である。
図8B】主軸の回転に伴う振れがある場合における主軸の振動に関する周波数領域データの一例を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る工作機械の作動方法における、クランプの締結動作に伴う異常に対応するためのステップ(時間領域の所定のデータ内の強度に基づくクランプ異常の検知)を示すフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態に係る工作機械の作動方法における、クランプの締結動作に伴う異常に対応するためのステップ(周波数領域の所定のデータ内の強度に基づくクランプ異常の検知)を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施形態に係る工作機械の作動方法における、主軸の回転に伴う振れに対応するためのステップ(予備運転なし)を示すフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態に係る工作機械の予備運転方法における、主軸の回転に伴う振れに対応するためのステップ(予備運転有り)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る工作機械及びその作動方法について詳細に例示説明する。
【0030】
まず、本発明の一実施形態に係る工作機械について例示説明する。図1図2に示すように、本実施形態に係る工作機械1は、主軸2と主軸2を回転可能に支持する主軸台3とを備えている。主軸2は、ワークWを装着するために締結動作可能なクランプ4を備えている。本実施形態では、工作機械1は、クランプ4に装着したワークWを回転させながら工具Tで工作(加工)するように構成されている。しかし、クランプ4は、ドリル等の工具Tを装着するために締結動作可能に構成されてもよい。この場合、工作機械1は、クランプ4に装着した工具Tを回転させてワークWを加工するように構成することができる。
【0031】
本実施形態では、クランプ4は、テーパ面5aを有するスリーブ5を軸方向先端側に移動(以下、前進ともいう。また、その逆方向への移動を後退ともいう)させることで、テーパ面5aから径方向内側への押圧力を付与されて縮径し、被装着物(本例ではワークW)を把持する略円筒状のチャックとして構成されている。したがって、クランプ4の締結動作はスリーブ5の前進によって生じ、クランプ4の開放動作はスリーブ5の後退によって生じる。スリーブ5の進退は、例えばシリンダ、ピストン等で構成される、クランプ用アクチュエータ(図示省略)によって生じさせることができる。
【0032】
主軸2は、クランプ4及びスリーブ5を周方向に取り囲むカバー6を備えている。カバー6には、例えば工作機械1の稼働中は常時、クランプ4の振動を測定する振動センサ7が配置されている。振動センサ7は、工作機械1の稼働中は常時、クランプ4の振動を測定している。しかし、振動センサ7による測定のタイミングは、適宜変更が可能である。振動センサ7は、カバー6に配置されており、そのため、クランプ4の振動を効果的に測定することができる。しかし、振動センサ7は、主軸2におけるカバー6以外の部分に配置されてもよい。振動センサ7は、本実施形態では、加速度センサとして構成されている。加速度センサは、図2に示すx軸方向(主軸2の周方向)、y軸方向(主軸2の径方向外側)、z軸方向(主軸2の軸方向先端側)の3軸方向それぞれにおける加速度を測定可能である。しかし、1軸、2軸又は4軸以上の加速度を測定可能であってもよい。振動センサ7は、加速度センサに限定されず、例えば距離センサ等であってもよい。また、各センサは複数用いてもよい。
【0033】
工作機械1は、制御部8と、記憶部10及び判定部11を有する検知部9と、入力部12と、報知部13と、を備えている。
【0034】
制御部8は、主軸2の回転とクランプ4の締結動作及び開放動作とを制御するように構成されている。制御部8は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリ等で構成される中央制御盤等で構成することができる。制御部8は、主軸2を回転駆動する、例えば電動モータ又は流体圧モータ等で構成される、回転駆動部(図示省略)を制御することができる。また、制御部8は、クランプ4の締結動作及び開放動作を生じさせるためにクランプ用アクチュエータを制御することができる。
【0035】
検知部9は、クランプ4の締結動作と同期した所定のタイミングで開始する、クランプ4の振動に関連する所定のデータP(図3A等参照)に基づいて、クランプ4の締結動作に伴う、例えば切屑の噛み込み等の異常を検知するように構成されている。本実施形態では、所定のデータPは、クランプ4の締結動作と同期した所定のタイミングで終了している。しかし、所定のデータPは、クランプ4の締結動作と同期した所定のタイミングで終了していなくてもよい。検知部9の記憶部10は、ワークWの装着時(主軸2の非回転時)に振動センサ7が測定したクランプ4の振動に関するデータ(加速度)を記憶するように構成されている。検知部9の判定部11は、記憶部10が記憶するデータにおける、クランプ4の締結動作と同期した所定のタイミングで開始及び終了する部分である所定のデータPに基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無を判定するように構成されている。しかし、検知部9は、このような記憶部10を介さずに、振動センサ7から直接、所定のデータPを取得するように構成されてもよい。
【0036】
判定部11は、図3Aに示されるような、横軸を時間とする時間領域の所定のデータP内の強度に基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無を判定するように構成されてもよい。この場合、判定部11は、例えば、時間領域の所定のデータP内の強度に基づく所定の指標値を閾値と比較することによってクランプ4の締結動作に伴う異常を検知してもよい。所定の指標値は、例えば、x軸方向の強度、y軸方向の強度及びz軸方向の強度のいずれかの積分値又は最大値であってもよいし、x軸方向の強度、y軸方向の強度及びz軸方向の強度のそれぞれの積分値又は最大値の合算値であってもよいし、統計処理等から算出される特徴量であってもよいし、その他の値であってもよいし、所定の指標値を複数用いてもよい。また、所定の指標値は無次元量であってもよい。
【0037】
判定部11は、時間領域の所定のデータPを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理して得た、図3Bに示されるような、横軸を周波数とする周波数領域の所定のデータP’内の強度に基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無を判定するように構成されてもよい。この場合、判定部11は、周波数領域の所定のデータP’における所定の周波数帯域B(図3B等参照)の強度に基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常を検知するように構成されてもよい。また、判定部11は、例えば、所定の周波数帯域Bの強度に基づく所定の指標値を閾値と比較することによってクランプ4の締結動作に伴う異常を検知してもよい。所定の指標値は、例えば、x軸方向の強度、y軸方向の強度及びz軸方向の強度のいずれかの積分値又は最大値であってもよいし、x軸方向の強度、y軸方向の強度及びz軸方向の強度のそれぞれの積分値又は最大値の合算値であってもよいし、統計処理等から算出される特徴量であってもよいし、その他の値であってもよいし、所定の指標値を複数用いてもよい。また、所定の指標値は無次元量であってもよい。所定の周波数帯域Bは、クランプの締結動作に伴う異常がある場合とない場合との間の強度の変化ができるだけ大きくなる範囲に設定されることが好ましい。
【0038】
記憶部10が記憶するデータの例を図3A図4A及び図5Aに示す。図3Aは、クランプ4の締結動作に伴う異常がない場合の例である。図4Aは、クランプ4の締結動作に伴う異常がある場合(小さい切屑の噛み込みが生じた場合)の例である。図5Aは、クランプ4の締結動作に伴う異常がある場合(大きい切屑の噛み込みが生じた場合)の例である。図3A図4A及び図5Aでは、所定のタイミングで開始及び終了する所定のデータを符号Pで示し、所定の開始タイミングを符号Sで示し、所定の終了タイミングを符号Eで示している。
【0039】
所定の開始タイミングSは、クランプ4の締結動作の開始と同時でもよいし、クランプ4の締結動作の開始より前(例えば1秒前)でもよいし、クランプ4の締結動作の開始より後でもよい。所定の終了タイミングEは、クランプ4の締結動作の終了と同時でもよいし、クランプ4の締結動作の終了より前でもよいし、クランプ4の締結動作の終了より後(例えば1秒後)でもよい。所定の開始タイミングSと所定の終了タイミングEとの両方をクランプ4の締結動作と同期させることが好ましいが、所定の開始タイミングSのみをクランプ4の締結動作と同期させてもよい。
【0040】
周波数領域の所定のデータP’の例を図3B図4B及び図5Bに示す。図3Bは、図3Aに示す所定のデータPをFFT処理して得られたものである。図4Bは、図4Aに示す所定のデータPをFFT処理して得られたものである。図5Bは、図5Aに示す所定のデータPをFFT処理して得られたものである。
【0041】
クランプ4の締結動作の開始と所定の開始タイミングSとのタイムラグ、及びクランプ4の締結動作の開始と所定の終了タイミングEとのタイムラグ、時間領域の所定のデータP内の強度に基づく所定の指標値の算出方法、所定の周波数帯域B、所定の周波数帯域Bの強度に基づく所定の指標値の算出方法、及び閾値は、それぞれ、工作機械1の出荷時に予め設定されていてもよいし、入力部12を介してユーザー等により設定されてもよいし、統計処理や深層学習、機械学習、AI:Artificial Intelligence、等によって自動的に設定されてもよい。
【0042】
記憶部10は、クランプ4の振動に関するデータに替えて又は加えて、クランプ4の負荷に関するデータを記憶するように構成されてもよい。クランプ4の負荷に関するデータは、例えば、クランプ用アクチュエータが電動式である場合には駆動電流値又は駆動電圧値であってよく、クランプ用アクチュエータが流体圧駆動式である場合には駆動流体流量値又は駆動流体圧値であってよく、その他のものであってもよい。この場合、判定部11は、記憶部10が記憶するクランプ4の負荷に関するデータに含まれる、クランプ4の締結動作と同期した所定のタイミングで開始する所定のデータに基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無を判定するように構成されてもよい。所定のデータは、クランプ4の締結動作と同期した所定のタイミングで終了してもよい。判定部11は、時間領域の所定のデータ内の強度に基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無を判定するように構成されてもよいし、時間領域の所定のデータをFFT処理して得た周波数領域の所定のデータ内の強度に基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無を判定するように構成されてもよい。クランプ4の締結動作に伴う異常の有無の判定は、前述したような所定の指標値と閾値との比較によって行うことができる。
【0043】
クランプの締結動作と同期しない場合における所定のデータの指標値分布の例を図6に示す。クランプの締結動作を所定のタイミングで同期しない場合、所定の指標値は散逸しており、指標値が閾値14付近に位置する場合に誤検知を生じ易い。
【0044】
クランプの締結動作と同期した場合における所定のデータの指標値分布の例を図7に示す。クランプの締結動作を所定のタイミングで同期した場合、図7に示すように、所定の指標値は正常な場合と異常な場合とで分布が2分化するため、設定した閾値14による誤検出が少なくなる。したがって、締結動作を同期した方が、クランプの締結動作に伴う異常の検知精度が高くなる。
【0045】
また、記憶部10は、ワークWを装着した状態の主軸2の回転時に振動センサ7によって測定されたクランプ4の振動に関するデータ(加速度)を記憶するように構成されている。判定部11は、当該データ(時間領域データ)を記憶部10から取得し、FFT処理して周波数領域のデータ(周波数領域データ)に変換するとともに、周波数領域データにおける、ワークWを装着した状態の主軸2の所定の固有周波数F(図8A等参照)の強度又は所定の固有周波数Fを含む所定の周波数帯域Bfの強度に基づいて、例えば主軸2及び/又はワークWの偏心等による、主軸2の回転に伴う振れを検知するように構成されている。所定の固有周波数Fは、主軸2の回転に伴う振れがある場合とない場合との間の強度の変化ができるだけ大きくなる固有周波数に設定されることが好ましい。時間領域データは、主軸2の回転による工作時に測定される。しかし、時間領域データは、主軸2の回転による工作に先立つ予備運転時に測定されてもよい。
【0046】
予備運転時の測定は主軸2の回転周波数の高調波周波数(回転周波数の整数倍の周波数)を所定の固有周波数Fに一致させて、取得される波形を強調させて判定してもよい。
【0047】
周波数領域データの例を図8A及び図8Bに示す。図8Aは、主軸2の回転に伴う振れが実質的にない場合における周波数領域データの一例を示している。図8Bは、主軸2の回転に伴う振れがある場合における周波数領域データの一例を示している。
【0048】
判定部11は、例えば、所定の固有周波数Fの強度を閾値と比較することで、主軸2の回転に伴う振れの有無を判定してもよい。
【0049】
判定部11は、例えば、所定の周波数帯域Bfの強度を閾値と比較することで、主軸2の回転に伴う振れの有無を判定してもよい。この場合、判定部11は、例えば、所定の周波数帯域Bfの強度に基づく所定の指標値を閾値と比較することによって主軸2の回転に伴う振れの有無を判定してもよい。所定の指標値は、例えば、x軸方向の強度、y軸方向の強度及びz軸方向の強度のいずれかの積分値又は最大値であってもよいし、x軸方向の強度、y軸方向の強度及びz軸方向の強度のそれぞれの積分値又は最大値の合算値であってもよいし、統計処理等から算出される特徴量であってもよいし、その他の値であってもよいし、所定の指標値を複数用いてもよい。また、所定の指標値は無次元量であってもよい。
【0050】
ワークW又は工具Tを装着した状態の主軸2の所定の固有周波数Fは、例えば加振部材による加振やシミュレーションによって予め測定又は算出することができる。また、所定の周波数帯域Bfの上限値・下限値は、例えば、主軸2自体の固有周波数を加振やシミュレーションによって予め測定又は算出し、このように測定又は算出された主軸2自体の固有周波数に基づいて設定することができる。
【0051】
ワークW又は工具Tを装着した状態の主軸2の所定の固有周波数Fは、装着するワークW又は工具Tの種類等によって多少変動する場合がある。例えば、ワークW又は工具Tの突き出し量や重量が大きくなる場合は、固有振動数の式(F=1/2π√k/m、F:周波数、k:ばね定数、m:重量)より所定の固有周波数Fが小さくなる傾向がある。逆に、ワークW又は工具Tの突き出し量や重量が小さくなる場合は、固有振動数の式(F=1/2π√k/m)より所定の固有周波数Fが大きくなる傾向がある。したがって、このような傾向を考慮した上で、予め測定又は算出した主軸2自体の固有周波数に基づいて、所定の固有周波数F、又は所定の周波数帯域Bfの上限値・下限値を設定してもよい。
【0052】
所定の固有周波数F、所定の周波数帯域Bfの上限値・下限値、所定の周波数帯域Bfの強度に基づく所定の指標値の算出方法、及び閾値は、工作機械1の出荷時に予め設定されていてもよいし、入力部12を介してユーザー等により設定されてもよいし、統計処理や深層学習、機械学習、AI:Artificial Intelligence等によって自動的に設定されてもよい。
【0053】
検知部9は、例えば、振動センサ7からのセンサ信号を処理して振動の測定値に変換する変換器と、当該測定値をFFT処理する解析器と、これらを制御部8からの指令に基づいて統合的に制御するプロセッサを含む制御器と、で構成することができる。
【0054】
入力部12は、所定の固有周波数F及び閾値等の入力を受付けるように構成されている。入力部12は、例えば、ボタン、キーボード、タッチパネル等で構成することができる。
【0055】
報知部13は、判定部11が判定したクランプ4の締結動作に伴う異常の有無、及び主軸2の回転に伴う振れの有無を、例えば表示又は音により、報知するように構成されている。報知部13は、例えば、ディスプレイ、警告灯又はスピーカ等で構成することができる。
【0056】
判定部11は、クランプ4の締結動作に伴う異常の有無だけでなく、クランプ4の締結動作に伴う異常の態様(切屑の噛み込み位置の特定、切屑の噛み込みによる異常であるか、その他の原因による異常であるか、など)も判定するように構成されてもよい。また、判定部11は、主軸2の回転に伴う振れの有無だけでなく、主軸2の回転に伴う振れの態様(ワークWや主軸2のどの部分に振れが生じているか、など)も判定するように構成されてもよい。
【0057】
次に、本発明の一実施形態に係る工作機械の作動方法について例示説明する。本実施形態では、前述した工作機械1の作動方法を例に説明するが、当該作動方法は、他の工作機械の作動方法に適用することも可能である。
【0058】
本実施形態の作動方法は、図9図10に示すような、クランプ4の締結動作に伴う異常に対応するためのステップと、図11図12に示すような、主軸2の回転に伴う振れに対応するためのステップと、を備えている。クランプ4の締結動作に伴う異常に対応するためのステップと、主軸2の回転に伴う振れに対応するためのステップとは、互いに独立して行われる。
【0059】
まず、クランプ4の締結動作に伴う異常に対応するためのステップについて説明する。クランプ4の締結動作に伴う異常に対応するためのステップは、図9図10に示すように、クランプ異常検知ステップS1又はS1’とクランプ異常報知ステップS2とを備えている。クランプ異常検知ステップS1及びS1’において、検知部9は、制御部8で出力されるワークWを装着するためのクランプ4の締結動作指令と同期した所定のタイミングで振動測定を開始及び終了する。検知部9はクランプ4の振動に関連する所定のデータPに基づいて、クランプ4の締結動作に伴う異常(以下、「クランプ異常」ともいう)を検知する。図9に示すように、クランプ異常検知ステップS1において、検知部9は、時間領域の所定のデータP内の強度に基づいて、クランプ異常を検知する。また、図10に示すように、クランプ異常検知ステップS1’において、検知部9は、時間領域の所定のデータPをFFT処理して得た周波数領域の所定のデータP’内の強度に基づいて、クランプ異常を検知する。この場合、クランプ異常検知ステップS1’において、検知部9は、周波数領域の所定のデータP’における所定の周波数帯域Bの強度に基づいて、クランプ異常を検知してもよい。
【0060】
図9に示すように、時間領域の所定のデータP内の強度に基づいてクランプ異常を検知する場合には、クランプ異常検知ステップS1は、クランプ締結動作ステップS11と、記憶ステップS12と、判定ステップS13と、を備えている。クランプ締結動作ステップS11において、制御部8は、ワークWを装着するためのクランプ4の締結動作指令を出力する。記憶ステップS12において、記憶部10は、クランプ締結動作ステップS11で出力されたクランプ締結動作指令と同期した所定のタイミングで、所定のデータPを含むデータを記憶する。判定ステップS13において、判定部11は、記憶ステップS12で記憶されたデータに含まれる所定のデータPに基づいて、クランプ異常の有無を判定する。
【0061】
より具体的には、判定ステップS13は、判定部11が、時間領域の所定のデータP内の強度に基づく所定の指標値を算出し、その所定の指標値を閾値と比較することによって、クランプ異常の有無を判定するクランプ異常判定ステップS132を備えている。
【0062】
クランプ異常判定ステップS122で異常有りと判定された場合は、クランプ異常報知ステップS2に進む。クランプ異常報知ステップS2において、報知部13は、クランプ異常の発生を報知する。
【0063】
クランプ異常判定ステップS132で異常なしと判定された場合は、クランプ異常検知ステップS1は終了する。
【0064】
図10に示すように、周波数領域の所定のデータP’内の強度に基づいてクランプ異常を検知する場合には、クランプ異常検知ステップS1’は、クランプ締結動作ステップS11と、記憶ステップS12と、判定ステップS13’と、を備えている。クランプ締結動作ステップS11において、制御部8は、ワークWを装着するためのクランプ4の締結動指令を出力する。記憶ステップS12において、記憶部10は、クランプ締結動作ステップS11で出力されたクランプ締結動作と同期した所定のタイミングで所定のデータPを含むデータを記憶する。判定ステップS13において、判定部11は、記憶ステップS12で記憶されたデータに含まれる所定のデータPに基づいて、クランプ異常の有無を判定する。
【0065】
より具体的には、判定ステップS13は、判定部11が、所定のデータPをFFT処理して周波数領域の所定のデータP’を得る解析ステップS131と、判定部11が、解析ステップS131で得た周波数領域の所定のデータP’における所定の周波数帯域Bの強度に基づく所定の指標値を算出し、その所定の指標値を閾値と比較することによって、クランプ異常の有無を判定するクランプ異常判定ステップS132’と、を備えている。
【0066】
クランプ異常判定ステップS132’で異常有りと判定された場合は、クランプ異常報知ステップS2に進む。クランプ異常報知ステップS2において、報知部13は、クランプ異常の発生を報知する。
【0067】
クランプ異常判定ステップS132で異常なしと判定された場合は、クランプ異常検知ステップS1は終了する。
【0068】
時間領域の所定のデータP内の強度に基づいてクランプ異常を検知してもよいし、周波数領域の所定のデータP’内の強度に基づいてクランプ異常を検知もしてもよいし、両手法を用いてもよいし、それぞれ複数回実施してもよい。
【0069】
なお、本実施形態のクランプ異常検知ステップS1、S1’は、クランプ4にワークWを装着する場合に限定されず、クランプ4に工具Tを装着する場合にも適用できる。また、本実施形態のクランプ異常検知ステップS1、S1’は、所定のデータPの開始タイミングSと終了タイミングEとの両方がクランプ4の締結動作と同期している場合に限定されず、所定のデータPの開始タイミングSのみがクランプ4の締結動作と同期している場合にも適用できる。また、本実施形態のクランプ異常検知ステップS1、S1’は、クランプ4の振動に関するデータを用いる場合に限定されず、クランプ4の負荷に関するデータを用いる場合にも適用できる。
【0070】
次に、主軸2の回転に伴う振れに対応するためのステップについて説明する。主軸2の回転に伴う振れに対応するためのステップは、図11に示すように、入力ステップS4と、工作ステップS6内で行われる、振れ検知ステップS3及び振れ報知ステップS5と、を備えている。また、主軸2の回転に伴う振れに対応するためのステップは、図12に示すように、工作ステップS6の前に行われる予備運転ステップS7内で行われる振れ検知ステップS3’及び振れ報知ステップS5’を備えていてもよい。予備運転ステップS7内で振れ検知ステップS3’及び振れ報知ステップS5’を行う場合には、工作ステップS6内で振れ検知ステップS3及び振れ報知ステップS5を行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0071】
振れ検知ステップS3、S3’において、検知部9は、ワークWを装着した状態の主軸2の回転時に振動センサ7によって測定された主軸2の振動に関する時間領域データをFFT処理して周波数領域データを得るとともに、周波数領域データにおける、ワークWを装着した状態の主軸2の所定の固有周波数Fの強度、又は所定の固有周波数Fを含む所定の周波数帯域Bfの強度に基づいて、主軸2の回転に伴う振れを検知する。振れ検知ステップS3においては、当該時間領域データは、主軸2の回転による工作時に測定される。また、振れ検知ステップS3’においては、当該時間領域データは、主軸2の回転による工作に先立つ予備運転時に測定される。
【0072】
予備運転を行わない場合には、図11に示すように、まず、工作ステップS6の開始前に、入力ステップS4が行われる。入力ステップS4においては、所定の固有周波数F(或いは、所定の周波数帯域Bfの上限値・下限値、及び所定の指標値の算出方法)、及び閾値が入力部12を介してユーザー等により入力され、設定される。当該設定は、統計処理や深層学習、機械学習、AI:Artificial Intelligence等によって自動的になされてもよい。また、当該設定は、工作機械1の出荷時に予めなされてもよく、この場合には入力ステップS4は不要となる。入力ステップS4が終了すると、ステップS61で工作を開始する(工作ステップS6の開始)。
【0073】
振れ検知ステップS3は、ステップS61に次いで行われる測定・解析ステップS32と、測定・解析ステップS32に次いで行われる振れ判定ステップS33と、を備えている。測定・解析ステップS32においては、工作の最中(主軸2の回転時)に振動センサ7によって測定された主軸2の振動に関する時間領域データをFFT処理して周波数領域データを得る。振れ判定ステップS33においては、周波数領域データに基づいて主軸2の回転に伴う振れの有無を判定する。
【0074】
測定・解析ステップS32において、記憶部10は、振動センサ7が測定した主軸2の振動に関する時間領域データを記憶する。測定・解析ステップS32において、判定部11は、当該時間領域データを記憶部10から取得し、FFT処理して周波数領域データを得る。
【0075】
振れ判定ステップS33において、判定部11は、当該周波数領域データにおける所定の固有周波数Fの強度、又は所定の固有周波数Fを含む所定の周波数帯域Bfの強度を閾値と比較することで、主軸2の回転に伴う振れの有無を判定する。
【0076】
振れ判定ステップS33で異常有りと判定された場合は、振れ報知ステップS5に進む。振れ報知ステップS5において、報知部13は、主軸2の回転に伴う振れの発生を報知する。
【0077】
振れ判定ステップS33で異常なしと判定された場合は、工作を構成する複数の加工パスのうちの実行中の加工パスが完了するまで加工を継続する。ステップS62で、実行中の加工パスが終了すると、ステップS63で、全ての加工パスが終了したか否かを判定する。ステップS63で、全ての加工パスは終了していないと判定された場合には、測定・解析ステップS32に戻る。ステップS63で、全ての加工パスが終了したと判定された場合には、工作ステップS6は終了する。
【0078】
予備運転を行う場合には、図12に示すように、まず、入力ステップS4が行われ、次いで、予備運転ステップS7が行われる。予備運転ステップS7は、振れ検知ステップS3’と振れ報知ステップS5’と、を備えている。振れ検知ステップS3’は、回転ステップS31と、測定・解析ステップS32’と、振れ判定ステップS33’と、を備えている。
【0079】
回転ステップS31においては、制御部8は、ワークWを装着した状態で主軸2を所定の回転数で回転させる。このとき、本実施形態では、制御部8は、入力ステップS4で入力した所定の回転数又はその高調波周波数が所定の固有周波数Fに一致するように、所定の回転数を調整する。このような回転数の調整により、測定・解析ステップS32’で取得される周波数領域データの波形を強調させて、振れ判定ステップS33’における判定の精度を向上することができる。しかし、所定の回転数をこのように所定の固有周波数Fに対応させる回転数の調整を行わずに、主軸2を所定の固有周波数Fに対応しない回転数で回転させて、周波数領域データを取得してもよい。
【0080】
測定・解析ステップS32’においては、回転ステップS31で主軸2を回転させた状態で振動センサ7によって測定された主軸2の振動に関する時間領域データをFFT処理して周波数領域データを得る。測定・解析ステップS32’において、記憶部10は、振動センサ7が測定した主軸2の振動に関する時間領域データを記憶する。測定・解析ステップS32’において、判定部11は、当該時間領域データを記憶部10から取得し、FFT処理して周波数領域データを得る。
【0081】
振れ判定ステップS33’においては、周波数領域データに基づいて主軸2の回転に伴う振れの有無を判定する。振れ判定ステップS33’において、判定部11は、当該周波数領域データにおける所定の固有周波数Fの強度、又は所定の固有周波数Fを含む所定の周波数帯域Bfの強度を閾値と比較することで、主軸2の回転に伴う振れの有無を判定する。
【0082】
振れ判定ステップS33’で異常有りと判定された場合は、振れ報知ステップS5’に進む。振れ報知ステップS5’において、報知部13は、主軸2の回転に伴う振れの発生を報知する。
【0083】
振れ判定ステップS33’で異常なしと判定された場合は、予備運転ステップS7が終了し、ステップS61で工作を開始する(工作ステップS6の開始)。
【0084】
このように、振れの検知は予備運転時に行ってもよいし、工作時に行ってもよいし、予備運転時と工作時の両方に行ってもよい。また、振れの検知を予備運転時と工作時に、それぞれ複数回実施してもよい。
【0085】
なお、本実施形態の振れ検知ステップS3、S3’は、クランプ4にワークWを装着する場合に限定されず、クランプ4に工具Tを装着する場合にも適用できる。
【0086】
前述した本実施形態は、本発明の実施形態の一例にすぎず、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0087】
前記の実施形態に係る工作機械においては、検知部が主軸の回転に伴う振れを検知するように構成されているが、検知部はこのような構成を有していなくてもよい。また、前記の実施形態に係る工作機械の作動方法は、主軸の回転に伴う振れに対応するためのステップを備えているが、このようなステップを備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 工作機械
2 主軸
3 主軸台
4 クランプ
5 スリーブ
5a テーパ面
6 カバー
7 振動センサ
8 制御部
9 検知部
10 記憶部
11 判定部
12 入力部
13 報知部
14 閾値
W ワーク
T 工具
P、P’ 所定のデータ
S 所定の開始タイミング
E 所定の終了タイミング
B、Bf 所定の周波数帯域
F 所定の固有周波数
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12