(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】認知機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20230518BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20230518BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K31/047 ZMD
A23L33/125
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2018238509
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2017248655
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡原 史明
(72)【発明者】
【氏名】古賀 義隆
(72)【発明者】
【氏名】矢野 路子
(72)【発明者】
【氏名】石田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】森 卓也
(72)【発明者】
【氏名】三澤 幸一
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/203499(WO,A1)
【文献】特表2011-513318(JP,A)
【文献】国際公開第03/007977(WO,A1)
【文献】医療用医薬品 : ドネペジル塩酸塩,KEGG,2023年01月19日,https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00062138#00062138-00,規格単位毎の明細 (ドネペジル塩酸塩OD錠5mg「DSEP」)
【文献】Ronit Shaltiel-Karyo et al.,A Blood-Brain Barrier (BBB) Disrupter Is Also a Potent α-Synuclein (α-syn) Aggregation Inhibitor,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2013年,Vol.288 No.24,pp.17579-17588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/047
A23L 33/125
A61P 25/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンニトールを含有し、経口投与又は
経口摂取される、総合記憶力、認知機能速度、反応時間、処理速度、総合注意力及び認知柔軟性から選ばれる認知機能の亢進用医薬又は食品組成物
であって、マンニトールとして、1日あたり1~5g/体重60Kg投与又は摂取される、組成物(但し、アルコール摂取による中枢神経障害を改善するための組成物として使用する場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、総人口に対する高齢者の比率が上昇し、加齢に伴う記憶、学習能力の低下や、さらには疾病としての認知症の増加が問題になっている。認知症の原因疾患としては、アルツハイマー病に代表される神経変性疾患、脳梗塞や脳出血等による脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、感染症、代謝性疾患等が挙げられる。特に、高齢化の進展に伴って患者数が著しく増加しているのはアルツハイマー病である。アルツハイマー病は、急激な短期の記銘力、記憶力の低下、人格障害等を引き起こすことから、介護の面から社会問題になっている。
【0003】
アルツハイマー病は、脳組織の萎縮や脱落などを伴い、神経伝達物質であるアセチルコリンの減少が起こる。その発症メカニズムは未だ解明されていないが、大脳皮質や海馬に出現する老人斑や神経原繊維変化があり、老人斑の中心に存在するアミロイドβ蛋白質と神経原繊維変化の構成蛋白質であるタウ蛋白質の両面から研究が進められている。
従来、認知症、アルツハイマー型の認知症の治療には、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が使用されているが、認知症を根本的に治療するものではなく、十分な効果を上げているとは未だ言い難い。
【0004】
一方、糖アルコールの一種であるマンニトールは、難消化性であることから低エネルギー甘味料として利用されている。また、マンニトールにはACE阻害作用(特許文献1)等の薬理作用があることが報告されている。
【0005】
また、ツクリタケ(学名:Agaricus bisporus)は、イネ科植物などの草本類の枯れ草を分解する腐植分解菌であり、マッシュルームとして広く食用利用されており、その主要成分は、蛋白質や食物繊維、糖アルコール(マンニトール)等である。マッシュルームの抽出物には、ロイコトリエン遊離抑制作用を有し、抗アレルギー剤として使用できること(特許文献2)、脂肪細胞分化促進作用があること(特許文献3)等が報告されている。また、きのこ類の水性抽出物には、神経成長因子NGFを増強する作用が報告されている(特許文献4)。また、マッシュルーム凍結乾燥物を摂取した場合に、極微量の濃度域においてのみ空間認識力が改善されることが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-306775号公報
【文献】特開平11-217336号公報
【文献】特開2009-263344号公報
【文献】特許第4410555号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nutr Res. 2015 Dec;35(12):1079-84.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、記憶、学習能力等の認知機能の改善に有効な認知機能改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高脂肪食摂取により記憶学習能力の低下した動物や老化促進モデル動物に、マンニトールやマンニトールを多く含むツクリタケの圧搾物を継続摂取した場合に、短期及び長期の記憶能力又は学習能力の低下が改善されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)マンニトールを有効成分とする認知機能改善剤。
(2)マンニトールを有効成分とする認知機能改善用食品。
(3)ツクリタケの圧搾物又は抽出物を有効成分とする認知機能改善剤。
(4)ツクリタケの圧搾物又は抽出物を有効成分とする認知機能改善用食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の認知機能改善剤は、脳の記憶、学習能力等の認知機能の低下を伴う障害を効果的に改善することができる。短期及び長期の記憶力、特に高脂肪食の継続摂取や過度のアルコール摂取、喫煙等の生活習慣の乱れに起因した記憶力低下を伴う障害を効果的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】高脂肪食依存性の記憶力低下若齢マウスに対するツクリタケ圧搾物摂取による短期の記憶力改善を示すグラフ。
【
図2】高脂肪食依存性の記憶力低下若齢マウスに対するツクリタケ圧搾物摂取による長期の記憶力改善を示すグラフ。
【
図3】高脂肪食依存性の記憶力低下老齢マウスに対するツクリタケ圧搾物摂取による短期の記憶力改善を示すグラフ。
【
図4】高脂肪食依存性の記憶力低下老齢マウスに対するツクリタケ圧搾物摂取による長期の記憶力改善を示すグラフ。
【
図5】老化促進マウスを対象としたマンニトール摂取後の記憶力改善を示すグラフ。
【
図6】健常男女を対象としたマンニトール単回摂取後の認知機能亢進作用を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、マンニトールはマンノースの糖アルコールであり、マンニットとも呼ばれる。本発明のマンニトールはD体、L体のいずれでも良いが、D-マンニトールが好ましい。マンニトールは、マンニトールを含有する植物から公知の方法で単離精製すること等により取得することができる。単離精製されたD-マンニトールは物流フードサイエンス社、三菱商事フードテック社等から市販されており、本発明においては当該市販品を使用することもできる。
また、本発明において、マンニトールとしては、単離されたマンニトールのみならず、マンニトールを含有する植物の抽出物やその分画物若しくは精製物を使用することもできる。
マンニトールを含有する植物としては、昆布等の海藻類やキノコ類が挙げられるが、代表的には、後述するツクリタケが挙げられる。
ツクリタケには、マンニトールが多く含有され、特に子実体には、その乾燥重量100g当たり20~50gのマンニトールを含有することが知られている。したがって、ツクリタケの圧搾物又は抽出物はマンニトールの代替となり得る。
【0014】
本発明において、「ツクリタケ」とは、ハラタケ科(Agaricaceae)ハラタケ属(Agaricus)に属するAgaricus bisporusを指し、わが国では、「マッシュルーム」とも称される。
【0015】
ツクリタケは、ホワイト種、オフホワイト種、クリーム種、ブラウン種、Agaricus bitorquis種等の品種が知られているが、本発明においては、当該品種は特に限定されることはなく、いずれも好ましく使用することができる。
【0016】
本発明において、ツクリタケの使用部位は特に限定されることはなく、傘又は柄、子実体、菌糸体、菌核等の何れでもよいが、子実体を用いるのが好ましい。
【0017】
ツクリタケの圧搾物としては、ツクリタケを圧搾することにより得られる圧搾汁(搾汁)が挙げられる。圧搾物の製造は特に限定されないが、例えばツクリタケを粗切し、スロージューサー等の圧搾機を用いて圧搾することにより行うことができる。
【0018】
ツクリタケの抽出物としては、ツクリタケの子実体をそのまま、その破砕物、粉砕物、若しくは上記の圧搾物から抽出した抽出物が挙げられる。
抽出のための溶媒には、極性溶媒、非極性溶媒のいずれをも使用することができる。溶媒の具体例としては、例えば、水;1価、2価又は多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状のエーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン等の飽和又は不飽和の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ピリジン類;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;二酸化炭素、超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他のオイル類;ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適には、水、アルコール類及びその水溶液が挙げられ、アルコール類としてはメタノール、エタノール、1,3-ブチレングリコール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられ、好ましくはエタノールである。
【0019】
上記アルコール類の水溶液におけるアルコールの濃度(25℃における容量%)は、好ましくは30容量%以上、より好ましくは50容量%以上、さらに好ましくは75容量%以上であり、且つ好ましくは99.5容量%以下、より好ましくは99容量%以下、さらに好ましくは98容量%以下である。また、上記アルコール類の水溶液におけるアルコールの濃度は、好ましくは30~99.5容量%、より好ましくは50~99容量%、さらに好ましくは75~98容量%である。好ましくは、30~99.5容量%エタノール水溶液、より好ましくは50~99容量%エタノール水溶液、さらに好ましくは65~98容量%エタノール水溶液が挙げられる。
【0020】
抽出における溶媒の使用量としては、ツクリタケ(乾燥質量換算)1gに対して1~100mLが好ましい。抽出条件は、十分な抽出が行える条件であれば特に限定されないが、例えば、抽出時間は好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上がより好ましく、他方、好ましくは2ヶ月以下、より好ましくは5週間以下、より好ましくは2週間以下である。抽出温度は0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、他方、溶媒沸点以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。通常、低温なら長時間、高温なら短時間の抽出を行う。
抽出手段は、特に限定されないが、例えば、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、ソックスレー抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の通常の手段を用いることができる。
【0021】
本発明のツクリタケの圧搾物又は抽出物は、例えば食品や医薬品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよい。また、必要に応じて、液々分配、固液分配、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂、澱出し等の公知の技術によって不活性な夾雑物の除去、脱臭、脱色等の処理を施すことができる。
また、さらに公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0022】
また、本発明のツクリタケの圧搾物又は抽出物は、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0023】
本発明のツクリタケの圧搾物又は抽出物は、マンニトールを0.1~50質量%、好ましくは0.5~45質量%、より好ましくは1~40質量%含有するツクリタケの圧搾物又は抽出物であるのが好ましい。
【0024】
後記実施例に示すように、マンニトールはヒトに摂取することにより認知機能亢進作用を発揮し、また、ツクリタケの圧搾物は動物に対して、高脂肪食摂取等の生活習慣の乱れに起因した短期及び長期の記憶・学習能力の低下を抑制し、改善する作用を有する。
したがって、マンニトール又はツクリタケの圧搾物若しくは抽出物は、認知機能改善剤となり得、またこれらを製造するために使用できる。
また、マンニトール又はツクリタケの圧搾物若しくは抽出物は、認知機能改善のために使用することができる。ここで、当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与、又はそれらに由来する検体における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。尚、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0025】
本発明において、「認知機能」とは、判断、計算、理解、学習、思考、言語、空間認識、物体認識、及び記憶(短期記憶、長期記憶)などを含む脳の高次の機能を意味し、「認知機能の改善」とは、当該認知機能の維持・向上、認知機能の低下に伴う各種症状の緩和・治癒を意味する。
本発明の認知機能の改善には、記憶力の改善が含まれる。ここで、「記憶力」とは、過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出すことを言い、即時記憶、近時記憶、短期記憶、長期記憶等がある。ここで、即時記憶とは、情報を新しく覚えた直後に想起させることを言い、単語の復唱などの際に必要な記憶である。近時記憶とは、即時記憶よりも保持時間が長い記憶であり、例えば前日会った人の名前を思い出すことなど、情報を覚えてから思い起こすまでの間に、情報が一旦意識から消えることを特徴とする。短期記憶とは、保持時間が比較的短く、一度に保持される情報の容量の大きさにも限界がある記憶を言う。長期記憶とは、短期記憶の中でも忘れられずに長期間にわたって保持される記憶のことで、例えば幼いころの家族との思い出などが挙げられる。
【0026】
したがって、本発明の認知機能改善剤は、当該認知機能の障害を呈する疾患又は状態の予防又は治療用として有用である。斯かる認知機能障害を呈する疾患又は状態としては、例えば、認知症(例、老人性認知症、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症及びパーキンソン型認知症などの種々の疾患により生じる認知症)、非認知症性の認知障害(例、軽度認知障害(MCI))、記憶又は学習障害(例、脳発達障害に伴う記憶及び学習障害)等が挙げられる。
【0027】
本発明の認知機能改善剤は、認知機能低下の予防、改善、又は向上効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品となり、また当該医薬品、医薬部外品、食品に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
なお、当該食品には、認知機能低下の予防、改善、又は向上効果をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、サプリメントが包含される。
【0028】
本発明の認知機能改善剤を医薬品(医薬部外品を含む)として用いる場合、当該医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられるが、好ましい形態は経口投与である。
このような種々の剤型の医薬製剤は、本発明のマンニトール又はツクリタケの圧搾物若しくは抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0029】
本発明の認知機能改善剤を食品として用いる場合、当該食品の形態は、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品組成物の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品は、本発明のマンニトール又はツクリタケの圧搾物若しくは抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0030】
本発明の認知機能改善剤におけるマンニトール又はツクリタケの圧搾物若しくは抽出物の含有量(圧搾物又は抽出物においては、その乾燥物換算)は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、且つ好ましくは10質量%以下、より好ましく5質量%以下であり、また好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0031】
本発明の認知機能改善剤の投与量又は摂取量は、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与又は摂取の場合、成人(体重60Kg)1人に対して、マンニトールとして、1日あたり、好ましくは1g以上、より好ましくは1.5g以上であり、より好ましくは2g以上であり、且つ好ましくは5g以下、より好ましくは4g以下、より好ましくは3g以下である。また、1日あたり好ましくは1~5g、より好ましくは1.5~4g、より好ましくは2~3gである。
また、ツクリタケの圧搾物(圧搾物の乾燥物換算)として、成人1人に対して、1日あたり、好ましくは3g以上、より好ましくは5g以上、より好ましくは7g以上であり、且つ好ましくは15g以下、より好ましくは12g以下、より好ましくは10g以下である。また、1日あたり好ましくは3~15g、より好ましくは5~12g、より好ましくは7~10gである。
また、ツクリタケの抽出物(抽出物の乾燥物換算)として、成人1人に対して、1日あたり、好ましくは3g以上、より好ましくは4g以上であり、より好ましくは5g以上であり、且つ好ましくは15g以下、より好ましくは12g以下、より好ましくは10g以下である。また、1日あたり好ましくは3~15g、より好ましくは4~12g、より好ましくは5~10gである。
【0032】
本発明の認知機能改善剤は、摂食・摂餌時或いは摂食・摂餌前に投与又は摂取するのが好ましく、特に摂食・摂餌前5分から30分以内に投与又は摂取するのが好ましい。
【0033】
本発明の認知機能改善剤の適用対象は、記憶・学習の能力が低下したヒト、認知機能の維持・向上を望むヒトが好ましい。
【0034】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>マンニトールを有効成分とする認知機能改善剤。
<2>マンニトールを有効成分とする認知機能改善用食品。
<3>認知機能改善剤を製造するための、マンニトールの使用。
<4>認知機能改善用食品を製造するための、マンニトールの使用。
<5>認知機能改善に使用するためのマンニトール。
<6>認知機能を改善するためのマンニトールの非治療的使用。
<7>マンニトールを対象に投与又は摂取することを含む、認知機能改善方法。
【0035】
<8><1>~<4>の剤又は食品において、その製剤中のマンニトールの含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、且つ好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、また好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
<9><1>~<7>において、マンニトールの投与量又は摂取量は、成人(体重60Kg)1人に対して、1日あたり、好ましくは1g以上、より好ましくは1.5g以上であり、より好ましくは2g以上であり、且つ好ましくは5g以下、より好ましくは4g以下、より好ましくは3g以下である。また、1日あたり好ましくは1~5g、より好ましくは1.5~4g、より好ましくは2~3gである。
【0036】
<10>ツクリタケの圧搾物又は抽出物を有効成分とする認知機能改善剤。
<11>ツクリタケの圧搾物又は抽出物を有効成分とする認知機能改善用食品。
<12>認知機能改善剤を製造するための、ツクリタケの圧搾物又は抽出物の使用。
<13>認知機能改善用食品を製造するための、ツクリタケの圧搾物又は抽出物の使用。
<14>認知機能改善に使用するためのツクリタケの圧搾物又は抽出物。
<15>認知機能を改善するためのツクリタケの圧搾物又は抽出物の非治療的使用。
<16>ツクリタケの圧搾物又は抽出物を対象に投与又は摂取することを含む、認知機能改善方法。
【0037】
<17><10>~<16>において、ツクリタケの圧搾物は、ツクリタケの子実体を圧搾して得られる圧搾物である。
<18><10>~<16>において、ツクリタケの圧搾物又は抽出物は、好ましくはマンニトールを0.1~50質量%含有するツクリタケの圧搾物又は抽出物である。
<19><10>~<13>の剤又は食品において、その製剤中のツクリタケの圧搾物若しくは抽出物の含有量は、その乾燥物換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、且つ好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、また好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
<20><10>~<16>において、ツクリタケの圧搾物の投与量又は摂取量は、成人(体重60Kg)1人に対して、圧搾物の乾燥物換算として、1日あたり、好ましくは3g以上、より好ましくは5g以上、より好ましくは7g以上であり、且つ好ましくは15g以下、より好ましくは12g以下、より好ましくは10g以下である。また、1日あたり好ましくは3~15g、より好ましくは5~12g、より好ましくは7~10gである。
【実施例】
【0038】
製造例1 ツクリタケ圧搾物の調製
ツクリタケ(Agaricus bisporus)の子実体11.3kg、室温条件下で、スロージューサー(商品名:Huromスロージューサー HU-400)にて圧搾抽出を行った。得られた圧搾物を凍結乾燥して、圧搾物粉末308.2gを得た。
得られたツクリタケ圧搾物の成分組成は、食品成分分析センターにて測定した(表1)。
【0039】
【0040】
製造例2 ツクリタケ抽出物の調製
製造例1で得られたツクリタケ圧搾物100gに水1Lを加え、100℃下、1時間撹拌し、熱水抽出した。得られた抽出液を遠心分離(3000rpm、25℃、5分、himac CF 7D2(Hitachi))し、上清を回収、凍結乾燥した。得られた乾燥粉末74.7gのうち30.0gを、水300mLに懸濁させた。懸濁液に、98%エタノール900mLを加え、室温条件下、12時間静置し、抽出した。得られた抽出液を遠心分離(3000rpm、25℃、5分、himac CF 7D2(Hitachi))し、上清を回収した。上清中のエタノールは、減圧留去した。残った水分を凍結乾燥し、エタノール抽出物26.1gを得た。
【0041】
製造例3 動物用飼料の調製
本試験に用いた試験食(粉末飼料)中の餌組成を表2に示す。通常食は5%コーン油と66.5%α化ポテト澱粉、高脂肪食は30%脂質(25%コーン油+5%ラード)+13%ショ糖とし、それ以外の成分(カゼイン、セルロース、ミネラル、ビタミン)は通常食と高脂肪食で同一量とした。製造例1で得られたツクリタケ圧搾物は各栄養組成を考慮し、高脂肪食と同等の栄養組成・カロリーとなるように成分を置き換える形で混合した。試験食中のコーン油、ラード、カゼイン、セルロース、AIN76ミネラル混合、AIN76ビタミン混合、α化ポテト澱粉はオリエンタル酵母工業(株)社製、ショ糖は和光純薬(株)製スクロース細粒(特級)を使用した。
【0042】
【0043】
実施例1 高脂肪食摂取若齢マウスに対するツクリタケの記憶・学習機能改善作用
(1)動物及び飼育方法
C57BL/6J雄性マウス(日本クレア(株))を7週齢で搬入後(室温23℃,湿度55±10%,明期;7:00~19:00)、自由摂餌、自由飲水下で飼育した。8週齢から1週間、粉末飼料(CE-2、日本クレア(株))への馴化を行った後、各群の体重、及び記憶・学習機能が同等になるように群分けした。9週齢から試験食として、30%の脂質を含む高脂肪食(高脂肪食群)、又は20%ツクリタケ圧搾物を含む30%高脂肪食(ツクリタケ摂取群)をそれぞれ17週間(26週齢)給餌した。なお、飼育期間中は自由摂食、自由摂水とした。試験開始2ヶ月後(18週齢)、及び4ヶ月後(26週齢)に記憶・学習機能を評価した。
【0044】
(2)試験食
上記製造例3の表2に記載した組成比の粉末飼料を用いた。飼育期間中、摂食量は週3回測定した。
【0045】
(3)Y字迷路(短期記憶)試験
試験は試験食摂取前、摂取開始2ヶ月後に行い、短期の記憶・学習能力(空間作業記憶)を測定した。各アームの長さ40cm、高さ12cm、角度120°のプラスチック製Y字迷路(Noldus社製)の端にマウスを入れ、10分間の行動をビデオ撮影により記録し、アームへの進入順序及び進入回数を計測した。短期記憶・学習能力のスコアは、自発的交替行動変化率(下記算出式参照)により評価した。自発的交替行動変化率(%)=自発的交替行動数/(総進入回数-2)×100(自発的交替行動数:それぞれのアームを重複することなく進入した回数)
【0046】
(4)新奇物体探索(長期記憶)試験
試験は試験食摂取前、摂取開始4ヶ月後に行い、長期の記憶・学習能力(参照記憶・物体認識力)を測定した。縦30cm、横30cm、高さ40cmのボックス(Noldus社製)内にマウスを入れ、1日5分間の馴化を3日連続で行った。翌日、2つの同一物体(ゴム製の物体に青色のゴムテームを巻いたもの;直径4cm,高さ3.5cmの円柱)をボックス内(壁面から縦10cm,横10cmの間隔を空けた場所)に置き、5分間のマウスの行動をビデオ撮影により記録することで、探索回数(マウスが各物体に対して1cm以内に接近した回数)を計測した(訓練試行)。さらに翌日(24時間後)、2つの物体のうち1つを新しい形状の新奇物体(ガラス製の物体に赤色のゴムテームを巻いたもの;一辺が6cmの正三角錐)に置き換えたボックス内にマウスを入れ、5分間の行動をビデオ撮影により記録することで、探索回数を計測した(保持試行)。長期記憶・学習能力のスコアは、保持試行における新奇物体への探索比率(下記算出式参照)で評価した。
新奇物体探索比率(%)=新奇物体探索回数/総探索回数×100
【0047】
(5)統計解析
解析結果は平均値(Ave.)±標準誤差(SE)で示した。統計解析には2-way
ANOVA followed by Dunnett’s post hoc検定、及び1-way ANOVA followed by Dunnett’s post hoc検定を用い、P値が0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。
【0048】
(6)結果
Y字迷路試験において、通常食摂取群と比較して、高脂肪食摂取(対照)群で自発的交替行動変化率(短期の空間作業記憶・学習能力)の有意な低下が認められたが、ツクリタケ摂取群では、高脂肪食の継続摂取に伴った短期記憶力の低下が抑制された(
図1)。新奇物体探索試験においても同様に、通常食摂取群と比較して、高脂肪食摂取(対照)群で新奇物体探索比率(長期の物体認識力・学習能力)の低下傾向が認められたが、ツクリタケ摂取群では、高脂肪食の継続摂取に伴った長期記憶力の低下が抑制された(
図2)。
【0049】
実施例2 高脂肪食摂取老齢マウスに対するツクリタケの記憶・学習機能改善作用
(1)動物及び飼育方法
C57BL/6J雄性マウス(日本クレア(株))を4週齢で搬入後(室温23℃,湿度55±10%,明期;7:00~19:00)、自由摂餌、自由飲水下で飼育した。餌は高脂肪食(D12451,Research Diets,Inc)で57週間(61週齢まで)飼育を行った後、各群の体重、及び記憶・学習機能が同等になるように群分けした。試験食として、30%の脂質を含む高脂肪食(高脂肪食群)、又は20%ツクリタケ圧搾物を含む30%高脂肪食(ツクリタケ摂取群)をそれぞれ15週間(76週齢)給餌した。なお、飼育期間中は自由摂食、自由摂水とした。試験開始1ヶ月後(65~66週齢)、及び3ヶ月後(75~76週齢)に記憶・学習機能を評価した。
【0050】
(2)試験食
上記製造例3の表2に記載した組成比の粉末飼料を用いた。飼育期間中、摂食量は週3回測定した。
【0051】
(3)Y字迷路(短期記憶)試験
試験は試験食摂取前、摂取開始1ヶ月後、及び3ヶ月後に行い、短期の記憶・学習能力(空間作業記憶)を測定した。各アームの長さ40cm、高さ12cm、角度120°のプラスチック製Y字迷路(Noldus社製)の端にマウスを入れ、10分間の行動をビデオ撮影により記録し、アームへの進入順序及び進入回数を計測した。短期記憶・学習能力のスコアは、自発的交替行動変化率(下記算出式参照)により評価した。自発的交替行動変化率(%)=自発的交替行動数/(総進入回数-2)×100(自発的交替行動数:それぞれのアームを重複することなく進入した回数)
【0052】
(4)新奇物体探索(長期記憶)試験
試験は試験食摂取前、摂取開始1ヶ月後、及び3ヶ月後に行い、長期の記憶・学習能力(参照記憶・物体認識力)を測定した。縦30cm、横30cm、高さ40cmのボックス(Noldus社製)内にマウスを入れ、1日5分間の馴化を3日連続で行った。翌日、2つの同一物体(ゴム製の物体に青色のゴムテームを巻いたもの;直径4cm,高さ3.5cmの円柱)をボックス内(壁面から縦10cm,横10cmの間隔を空けた場所)に置き、5分間のマウスの行動をビデオ撮影により記録することで、探索回数(マウスが各物体に対して1cm以内に接近した回数)を計測した(訓練試行)。さらに翌日(24時間後)、2つの物体のうち1つを新しい形状の新奇物体(ガラス製の物体に赤色のゴムテームを巻いたもの;一辺が6cmの正三角錐)に置き換えたボックス内にマウスを入れ、5分間の行動をビデオ撮影により記録することで、探索回数を計測した(保持試行)。長期記憶・学習能力のスコアは、保持試行における新奇物体への探索比率(下記算出式参照)で評価した。
新奇物体探索比率(%)=新奇物体探索回数/総探索回数×100
【0053】
(5)統計解析
解析結果は平均値(Ave.)±標準誤差(SE)で示した。統計解析には2-way
ANOVA followed by Dunnett’s post hoc検定を用い、P値が0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。
【0054】
(6)結果
Y字迷路試験において、対照群と比較して、ツクリタケ摂取群で自発的交替行動変化率(短期の空間作業記憶・学習能力)の上昇が認められた(
図3)。新奇物体探索試験においても同様に、対照群と比較して、ツクリタケ摂取群で新奇物体探索比率(長期の物体認識力・学習能力)の上昇が認められた(
図4)。
【0055】
実施例3 老化促進マウスに対するマンニトールの記憶・学習改善作用
(1)動物及び飼育方法
加齢に伴う記憶・学習障害を発現する老化促進モデルであるsenescence-accelerated Mouse(SAM)P8雄性マウス(日本エスエルシー(株))を27週齢で搬入後、5日間の検疫期間、3日間の馴化期間後に使用した。馴化期間中に体重測定を行い、体重が等しくなるように群分けをした。被験物質は注射用水((株)大塚製薬)、又はマンニトール(50mg/kg体重/day、花王(株))を1日1回、4週間(28~32週齢)、胃ゾンデを用いて経口投与した。4週間の被験物質投与後(33週齢)、記憶・学習機能を評価した。動物の飼育は、室温23±3℃,湿度55±15%,明期;6:00~18:00とした。試験期間中は通常固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株))の自由摂餌と水道水の自由飲水下とした。
【0056】
(2)被験物質
本試験で用いた被験物質の調整方法を表3に示す。対照溶液は注射用水((株)大塚製薬)を用いた。マンニトール溶液は50mg/mLとなるように注射用水を加え、攪拌して溶解させた。なお投与液量は10mL/kg体重とした。
【0057】
【0058】
(3)新奇物体探索試験
試験は試験食摂取4週間後に行い、記憶・学習能力(参照記憶・物体認識力)を測定した。縦22cm、横32cm、高さ13cmのボックス((株)夏目製作所)内にマウスを入れ、1日10分間の馴化を2日連続で行った。翌日、2つの同一物体(積み木;一辺が4.5cmの正四角錐)をボックス内(壁面から縦2cm,横2cmの間隔を空けた場所)に置き、10分間のマウスの行動をビデオ撮影により記録することで、探索時間(マウスの鼻や前肢が各物体に接触した時間)を計測した(訓練試行)。2時間後、2つの物体のうち1つを新しい形状の新奇物体(積み木;一辺が4.5cmの正三角柱)に置き換えたボックス内にマウスを入れ、5分間の行動をビデオ撮影により記録することで、探索時間を計測した(保持試行)。記憶・学習能力のスコアは、保持試行における新奇物体への探索比率(下記算出式参照)で評価した。
新奇物体探索比率(%)=新奇物体探索時間/総探索時間×100
【0059】
(4)統計解析
解析結果は平均値(Ave.)±標準誤差(SE)で示した。対照群とマンニトール群の平均値の比較にはunpaired Student’s t-testを用い、P値が0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。
【0060】
(5)結果
新奇物体探索試験において、対照群と比較してマンニトール群で新奇物体探索比率(物体認識力・学習能力)の増加が認められ、老化に伴った記憶力の低下が抑制された(
図5)。
【0061】
実施例4 健常男女を対象としたマンニトール単回摂取後の認知機能亢進作用
(1)試験概要
健常男女4名(平均年齢38.5歳±9.5、男性3名、女性1名)を対象とし、対照食摂取、及び1.5gのマンニトール粉末(D-マンニトール,物流フードサイエンス(株))含有食(以後はマンニトール食と表記)摂取後の認知機能を評価した。被験者は朝7:00に指定朝食を摂取し、昼食として11:30に対照食又はマンニトール食を摂取した。介入前(昼食前(10:10~))及び介入後(昼食後(12:40~))に下記の認知機能テストを実施した。試験は1週間以上のウォッシュアウト期間を挟んだクロスオーバーデザインで実施し、計2日の試験の中で同一被験者が対照食及びマンニトール食の両方を摂取して測定を行った。
対照食:即席カップうどん(458kcal)
マンニトール食:マンニトール粉末1.5g(2.4kcal)を添加した即席カップうどん(460.4 kcal)
【0062】
(2)認知機能評価
認知機能評価にはCNS Vital Signs(CNS Vital Signs社、日本語版) を用いた(Archives of Clinical Neuropsychology, 2006, 21:7:623-643)。本実施例では、以下の7つのテストによる評価を行った。
【0063】
1)言語記憶テスト
最初にパソコン画面に15個の単語が2秒に1つずつ表示され、被験者はそれを記憶する。直後、或いは約30分後に、新たな15個を加えたより多くの単語が表示されるので、被験者は記憶した単語が出てきたらスペースキーを押す。
【0064】
2)視覚記憶テスト
最初にパソコン画面に15個の幾何学図形が2秒に1つずつ表示され、被験者はそれを記憶する。直後、或いは約30分後に、新たな15個を加えたより多くの図形が表示されるので、被験者は記憶した図形が出てきたらスペースキーを押す。
【0065】
3)指たたきテスト
被験者は右手の人差し指でスペースキーを10秒間出来るだけ早く叩く。同じことを左手でも行う。
【0066】
4)符号化(SDC;Symbol Digit Coding)テスト
パソコン画面の上部にシンボルと数字の組み合わせの表が表示され、被験者は画面下部の空欄の表にシンボルに対応する数字を入れる。
【0067】
5)ストループテスト
ストループテストは3つのパートから成る。第1パートでは、黒文字で赤、黄、青、及び緑の文字がランダムに画面に現れる。被験者は、文字が現れたらできるだけ早くスペースキーを押す(単純反応)。第2パートでは、赤、黄、青、及び緑の文字が色文字で表示される。被験者は文字の色と文字の意味が一致したらスペースキーを押す(複合反応)。第3パートでは、赤、黄、青、及び緑の文字が色文字で表示される。被験者は文字の色が文字の意味と一致しない時だけスペースキーを押す(ストループ反応)。
【0068】
6)注意シフトテスト
画面に3つの図形が、上部に1つ、下部に2つ表示される(四角又は丸で、色は赤か青)。被験者は「形」か「色」の適合のルール(「形が同じ」又は「色が同じ」)を指示され、上部の図と適合する図を下部の2つの図から選ぶ。指示される適合のルール(形が同じ・色が同じ)、及び3つの図形の色(赤・青)と形(丸、四角)はランダムに変わる。
【0069】
7)持続処理テスト
被験者は画面にランダムに表示される文字の中で、「B」が表示された場合だけ応答してスペースキーを押し、その他の文字には応答しない。テストは5分間継続される。
【0070】
テスト結果から、CNS Vital Signsの計算方法に基づいて認知機能領域の標準化スコアを算出した。標準化スコアとは、被験者の年齢(5歳刻み)のスコア平均値を100、標準偏差値を15とし、正規化して算出したものである。各認知機能領域のスコア算出には、表4に示すテストの結果が反映されている。
【0071】
【0072】
(3)統計解析
得られた数値は平均値±標準偏差で示した。対照食摂取群(対照群)とマンニトール食摂取群(マンニトール添加群)の平均値の比較にはpaired t-testを用いた。
【0073】
(4)結果
対照群とマンニトール添加群の間で、昼食後における測定結果に差があった認知機能領域について、対照食摂取群の標準化スコアを100とした場合の相対値で示した(
図6)。マンニトール添加群では、対照群と比較して総合記憶力、認知機能速度、処理速度、神経認知インデックスのスコアが有意に高い値を示した(P<0.05)。また、言語記憶力、反応時間、運動速度のスコアも高くなる傾向を示した(P<0.1)。なお、昼食前に実施した認知機能評価では、群間で標準化スコアに差のある認知機能領域は無かった。以上の結果から、マンニトールの単回摂取により認知機能が亢進されることが示された。