IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】トゥレット症候群の診断及び治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/454 20060101AFI20230518BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230518BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20230518BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALN20230518BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALN20230518BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20230518BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALN20230518BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P25/14
A61P43/00 121
A61K45/00
C12Q1/68
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6874 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6844 Z
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2018512296
(86)(22)【出願日】2016-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 US2016050573
(87)【国際公開番号】W WO2017044497
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】62/215,628
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/215,633
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/215,636
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/215,673
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハゥコーナルソン, ホーコン
(72)【発明者】
【氏名】カオ, チャーリー
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0143867(US,A1)
【文献】特表2013-535985(JP,A)
【文献】特表2004-523557(JP,A)
【文献】Eur. J. Pharmacol., (2000), 387, [1], p.9-17
【文献】TARVER, J. et al.,Attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD): an updated review of the essential facts,Child: care, health and development,2014年,Vol. 40, No. 6,p. 762-774
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/454
A61P 25/14
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のファソラセタムを含む、注意欠陥多動性障害(ADHD)を有し且つTier1、Tier2またはTier3代謝型グルタメート受容体(mGluR)ネットワーク遺伝子における少なくとも1のコピー数バリエーション(CNV)を有する対象における反復性チックを治療するための医薬であって、
(a)Tier1 mGluRネットワーク遺伝子は、図1に記載のTier1遺伝子であり、
(b)Tier2 mGluRネットワーク遺伝子は、図2に記載のTier2遺伝子であり、且つ
(c)Tier3 mGluRネットワーク遺伝子は、図3に記載のTier3遺伝子である、
医薬
【請求項2】
有効量のファソラセタムを含む、注意欠陥多動性障害(ADHD)を有する対象における反復性チックを治療するための医薬であって、対象の遺伝子スクリーニングからの結果が、前記対象がTier1、Tier2またはTier3代謝型グルタメート受容体(mGluR)ネットワーク遺伝子の、少なくとも1のコピー数バリエーション(CNV)を有することを示す場合、医薬が、対象に投与され、
(a)Tier1 mGluRネットワーク遺伝子は、図1に記載のTier1遺伝子であり、
(b)Tier2 mGluRネットワーク遺伝子は、図2に記載のTier2遺伝子であり、且つ
(c)Tier3 mGluRネットワーク遺伝子は、図3に記載のTier3遺伝子である、医薬。
【請求項3】
前記CNVが、重複又は欠失である、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
ファソラセタムが、ファソラセタム一水和物(NS-105又はNFC-1)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項5】
ファソラセタムが、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg又は400mgの用量で投与され、前記用量が、1日1回、2回又は3回投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項6】
ファソラセタムが、50-400mg、100-400mg、又は200-400mgの用量で投与され、前記用量が、1日1回、2回又は3回投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
ファソラセタムが、200-400mg、例えば、200mg、300mg又は400mgの用量で投与され、前記用量が1日2回投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項8】
前記対象が、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10のmGluRネットワーク遺伝子のコピー数バリエーション(CNV)を有する、請求項1から7の何れか一項に記載の医薬。
【請求項9】
mGluRネットワーク遺伝子のCNVが、
a.前記対象から得た試料を含む核酸を、少なくとも5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70若しくは全てのTier1 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに付すこと、又は
b.少なくとも5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70若しくは全てのTier1 mGluRネットワーク遺伝子のCNVについてスクリーニングした遺伝子検査の結果を記載したレポートを得ること
により判定され、
Tier1 mGluRネットワーク遺伝子は、図1に記載のTier1遺伝子である、請求項1から8の何れか一項に記載の医薬。
【請求項10】
mGluRネットワーク遺伝子のCNVが、
a.前記対象から得た試料を含む核酸を、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも175若しくは全てのTier2 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに付すこと、又は
b.少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも175若しくは全てのTier2 mGluRネットワーク遺伝子のCNVについてスクリーニングした遺伝子検査の結果を記載したレポートを得ること
により判定され、
Tier2 mGluRネットワーク遺伝子は、図2に記載のTier2遺伝子である、請求項1から8の何れか一項に記載の医薬。
【請求項11】
mGluRネットワーク遺伝子のCNVが、
a.前記対象から得た試料を含む核酸を、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500若しくは全てのTier3 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに付すこと、又は
b.少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500若しくは全てのTier3 mGluRネットワーク遺伝子のCNVについてスクリーニングした遺伝子検査の結果を記載したレポートを得ること
により判定され、
Tier3 mGluRネットワーク遺伝子は、図3に記載のTier3遺伝子である、請求項1から8の何れか一項に記載の医薬。
【請求項12】
前記スクリーニングが、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7又はGRM8のうちの一又は複数のCNVを評価しない、請求項1から11の何れか一項に記載の医薬。
【請求項13】
前記対象が、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7又はGRM8のうちの一又は複数のCNVを有さない、請求項1から12の何れか一項に記載の医薬。
【請求項14】
前記対象が、小児対象である、請求項1から13の何れか一項に記載の医薬。
【請求項15】
前記小児対象が、青年である、請求項14に記載の医薬。
【請求項16】
前記小児対象が、年齢が5歳から17歳の間、5歳から8歳の間、8歳から17歳の間、8歳から12歳の間、又は12歳から17歳の間である、請求項14に記載の医薬。
【請求項17】
前記対象が成人である、請求項1から13の何れか一項に記載の医薬。
【請求項18】
ファソラセタムが、別の薬物療法又は非薬物療法と組み合わせて投与される、請求項1から17の何れか一項に記載の医薬。
【請求項19】
前記非薬物療法が、脳刺激、例えば、迷走神経刺激、反復経頭蓋磁気刺激、磁気痙攣療法、又は脳深部刺激を含む、請求項18に記載の医薬。
【請求項20】
ファソラセタムが、抗精神病剤と組み合わせて投与される、請求項18又は19に記載の医薬。
【請求項21】
チック症状が、対象においてファソラセタムでの少なくとも1週間、例えば、少なくとも2週間、例えば、少なくとも3週間、例えば、少なくとも4週間の治療後に低減される、請求項1から20の何れか一項に記載の医薬。
【請求項22】
前記チック症状が、動きの頻度及び/又は程度を含む、請求項21に記載の医薬。
【請求項23】
不注意、多動性及び/又は衝動性の症状が、対象においてファソラセタムでの少なくとも1週間、例えば、少なくとも2週間、例えば、少なくとも3週間、例えば、少なくとも4週間の治療後に低減される、請求項1から22の何れか一項に記載の医薬。
【請求項24】
前記対象が、強迫性障害(OCD)も有する、請求項1から23の何れか一項に記載の医薬。
【請求項25】
強迫性障害(OCD)の症状が、前記対象においてファソラセタムでの少なくとも1週間、例えば、少なくとも2週間、例えば、少なくとも3週間、例えば、少なくとも4週間の治療後に低減される、請求項24に記載の医薬。
【請求項26】
注意欠陥多動性障害(ADHD)を有し且つTier1、Tier2またはTier3代謝型グルタメート受容体(mGluR)ネットワーク遺伝子における少なくとも1のコピー数バリエーション(CNV)を有する対象において、反復性チックを治療するための医薬の調製におけるファソラセタムの使用であって、
(a)Tier1 mGluRネットワーク遺伝子は、図1に記載のTier1遺伝子であり、
(b)Tier2 mGluRネットワーク遺伝子は、図2に記載のTier2遺伝子であり、且つ
(c)Tier3 mGluRネットワーク遺伝子は、図3に記載のTier3遺伝子である、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願とのクロスリファレンス
本願は、2015年9月8日に各々出願した米国特許仮出願第62/215628号、同第62/215633号、同第62/215636号及び同第62/215673号という4米国特許仮出願の優先権を主張するものであり、前記米国特許仮出願の各々は、その全内容が本明細書に参照により援用される。
【0002】
本願は、代謝型グルタメート受容体(mGluR)の非選択的アクチベーターでのトゥレット症候群の治療に、並びに一又は複数のmGluRネットワーク遺伝子に、例えば、コピー数バリエーション(CNV)などの遺伝子変化を有する対象におけるトゥレット症候群の診断及び治療に関する。
【背景技術】
【0003】
トゥレット症候群(TS)は、不随意発声又は反復される無目的な動きであるチックを特徴とする、神経障害である。200,000に上るアメリカ人が最重症型のTSを有し、100中1ものアメリカ人が、慢性運動性又は音声性チックを含み得る、より軽度でより単純なTS症状を示すと推定されている。NIH Handbook on Turette Syndrome(2012)を参照されたい。TSの有病率は、年齢が6-17歳のUS児童において0.3%であると推定されているが、これは、その有病率の低い見積もりであり得るという提言がある。Cohen S等、Neurosci Biobehav Rev.37(6):997-1007(2013)を参照されたい。
【0004】
TSの症状の発症は、通常、3から9歳の間であり、女性より男性のほうがおおよそ3-4倍多く罹患する。多くの患者について、TSは、症状のピークは10代にある、慢性の生涯にわたる疾患である。TSの単純性チックは、まばたきをすること、頭を上下に振ること、又は繰り返しブツブツ言うことを含むことがあり、その一方で、複雑性チックは、いくつかの筋肉群が関わるものであり、飛び跳ねること、ねじること、又は言葉若しくは言い回しを声に出すことを含み得る。チックは、身体障害性であり得、例えば、自分自身をたたくこと、汗をかくこと又は他者の言葉若しくは言い回しを繰り返すことを伴うものであり得る。TS患者の10%-15%は、成人期まで続く進行性又は身体障害性疾患過程を有すると推定されている。NIH Handbook on Tourette Syndrome(2012)を参照されたい。
【0005】
チックに加えて、TS患者は、他の神経行動症状、例えば、多動性及び衝動性(例えば、注意欠陥多動性障害[ADHD])、読書及び学業に関する困難、強迫思考、並びに反復行動を経験することが多い。TS患者の90%は併存神経精神障害に罹患していると推定されており、ADHD及び強迫性障害(OCD)が最もよく見られる(Cohen 2013)。
【0006】
TSとADHDの両方に罹患している個体は、学術的及び社会的障害に罹るリスクがかなり高い。
【0007】
TSの診断は、患者の病歴及び長期間のチックの存在に基づき得る。小児及び青年の場合、運動性及び音声性チックの数、頻度、強度、複雑性及び干渉を評価する臨床医のチック重症度評点としてイェール全般的チック重症度尺度が使用され得る。Storch等、Psychol.Assessment.17(4):486-491を参照されたい。TS患者におけるOCDの高い発生率のため、TSを有する小児及び青年における強迫症状の重症度の評価には小児版エール・ブラウン強迫尺度が使用され得る。Scahill等、J.Am.Acad.Child Adolesc.Psychiatry.36(6):844-852(1997)を参照されたい。
【0008】
TS患者全てに役立つ薬物は現在ない。精神遮断薬(すなわち、抗精神病薬)は、一部の患者におけるチックの治療には有効であったが、これらの薬物は、有意な副作用を伴い、これらの薬物は、チック症状を完全に除去しない。加えて、TSに随伴する神経行動障害、例えば、ADHDの治療は、ADHDを治療するために使用される一部の薬物がTS患者において禁忌である(リタリンの処方情報(2013)を参照されたい)ので、複雑であり得る。したがって、チック及び神経行動障害を含む、一連のTSの症状を治療するための新規治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本明細書の通り、本発明者らは、トゥレット症候群(TS)と診断された90を超える患者の遺伝子型を研究し、これらの患者が、歴史的コントロール患者より有意に高頻度で一又は複数の代謝型グルタメート受容体(mGluR)ネットワーク遺伝子の遺伝子変化を有すること見いだした。mGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化の頻度は、このTS集団でのほうが、他の神経心理学的障害を有さないコントロール集団での頻度より実質的に高かった。
【0010】
したがって、対象におけるTSを治療する方法であって、代謝型グルタメート受容体(mGluR)の非選択的アクチベーターの有効量を対象に投与することによってTSを治療することを含む方法を本明細書において提供する。一部の実施態様では、対象は、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化、例えば、コピー数バリエーション(CNV)を有する。一部の実施態様では、治療されることになる対象は、トゥレット症候群の診断についてのDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第5版(DSM-V)における基準を満たすことを含む、当技術分野において公知の任意のTS診断方法によりTSと診断されていた。一部の実施態様では、対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有することが判明した場合、TSの診断が下される。一部の実施態様では、対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有することが判明した場合、並びに対象が、運動性チック、音声性チック、運動性・音声性チックを含むがこれらに限定されない、TSの少なくとも1の症状を有することが判明した場合、TSの診断が下される。
【0011】
TSを治療する方法であって、代謝型グルタメート受容体(mGluR)の非選択的アクチベーターの有効量を、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化、例えば、CNVを有する対象に投与することによってTSを治療することを含む方法も提供する。対象がmGluRネットワーク遺伝子のCNVを有する一部の実施態様では、CNVは、重複又は欠失である。
【0012】
一部の実施態様では、本発明は、運動性及び/又は音声性チックを有する対象を 方法であって、代謝型グルタメート受容体(mGluR)の非選択的アクチベーターの有効量を投与することによってTSを治療することを含む方法を含む。一部の実施態様では、対象は、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化も有する。
【0013】
対象におけるTSを治療する方法であって、対象がmGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化を有するかどうかを判定する遺伝子スクリーニングからの結果を得ること、及び前記結果が、前記対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有することを示した場合、mGluRの非選択的アクチベーターの有効量を投与することにより前記対象を治療することを含む方法も提供する。
【0014】
上記方法の一部の実施態様では、mGluRの非選択的アクチベーターは、ファソラセタム、例えば、ファソラセタム一水和物(NS-105又はNFC-1)である。一部の実施態様では、ファソラセタムは、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、又は400mgの用量で投与され、前記用量は、1日1回、2回又は3回投与される。一部の実施態様では、ファソラセタムは、50-400mg、100-400mg、又は200-400mgの用量で投与され、1日1回、2回又は3回投与される。一部の実施態様では、ファソラセタムは、200-400mg、例えば、200mg、300mg又は400mgの用量で投与され、1日2回投与される。
【0015】
一部の実施態様では、方法は、スクリーニングの結果を考慮して、対象がmGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化、例えば、CNVを有するかどうかを判定することを含む。上記方法の一部の実施態様では、対象は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10のmGluRネットワーク遺伝子のCNVを有する。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子のCNVは、対象から核酸含有試料を得ること、及び少なくとも5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70又は全てのTier1 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに前記試料を付すことにより判定される。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子のCNVは、対象から核酸含有試料を得ること、及び少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも175又は全てのTier2 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに前記試料を付すことにより判定される。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子のCNVは、対象から核酸試料を得ること、及び少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500又は全てのTier3 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに前記試料を付すことにより判定される。一部の実施態様では、スクリーニングは、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7又はGRM8のうちの一又は複数のCNVを評価しない。ある特定の態様では、対象は、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7又はGRM8のうちの一又は複数のCNVを有さない。
【0016】
上記方法の一部の実施態様では、TSは、持続性(慢性)運動性チック障害、持続性(慢性)音声性チック障害又は暫定的チック障害のうちの一又は複数である。一部の実施態様では、方法は、対象におけるチックの頻度及び/又は重症度を低下させる。一部の実施態様では、方法は、他の行動症状、例えば、不注意、多動性及び/又は衝動性を低減させる。一部の実施態様では、方法は、例えば、投与中又は投与後に対象におけるチックの症状、例えば、チックの頻度、タイプ(例えば、音声性若しくは運動性)及び/又は重症度、並びに不注意、多動性及び/又は衝動性を評価して、対象におけるこれらの症状のうちの一又は複数が低減されたかどうかを判定することも含む。一部の方法では、そのような評価をエール・ブラウン小児強迫尺度及び/又はトゥレット症候群臨床評価尺度に基づいて行うことができる。一部の実施態様では、方法は、投与中又は投与後の対象の重症度又は改善についての臨床全般印象を得ることをさらに含む。一部の実施態様では、方法は、対象の臨床全般改善(CGI)スコアを改善することができる。
【0017】
一部の実施態様では、対象は、小児又は青年対象、例えば、年齢が5歳から17歳の間、5歳から8歳の間、8歳から17歳の間、8歳から12歳の間、12歳から18歳、13歳から18歳、又は12歳から17歳の間の小児又は青年対象である。他の実施態様では、対象は、成人である。
【0018】
上記方法の一部の実施態様では、mGluRの非選択的アクチベーターは、別の薬物、例えば抗精神病剤、又は非薬物療法と組み合わせて投与される。非薬物療法は、脳刺激、例えば、迷走神経刺激、反復経頭蓋磁気刺激、磁気痙攣療法、又は脳深部刺激を含み得る。
【0019】
一部の実施態様では、TS対象におけるチック症状、例えば、チックの頻度又は運動系のチックについての運動の程度、又は言語系のチックの強度が、対象において低減される。一部の実施態様では、不注意、多動性及び/又は衝動性の症状が対象において低減される。
【0020】
対象においてTSを診断するための方法であって、対象から核酸含有試料を単離すること、少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化の有無について前記試料を分析すること、及び前記対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有した場合、TSを診断することを含む方法も本明細書で提供する。対象においてTSを診断するための方法であって、対象から核酸含有試料を単離すること、前記試料から核酸を単離すること、少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化の有無について前記核酸を分析すること、及び前記対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有した場合、TSを診断することを含む方法も提供する。対象を、TSを有すると同定するための方法であって、患者から試料を得ること、前記試料から核酸を任意選択的に単離すること、前記核酸を任意選択的に増幅すること、及び少なくとも1のmGluRネットワークの遺伝子変化、例えば、CNVの有無について前記試料中の前記核酸を分析することを含み、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化、例えば、CNVが検出された場合、前記対象がTSを有すると同定される、方法も提供する。加えて、対象においてTSを診断するための方法であって、約一又は複数のmGluRネットワーク遺伝子についての遺伝子情報を分析すること、前記対象の情報を、TSを有さないコントロール対象と比較すること、及び前記遺伝子情報が、前記対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有することを示唆した場合、TSを診断することを含む方法を提供する。
【0021】
対象におけるTSの診断を確証する方法であって、mGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化を検出すること又は分析することを含まない方法によりTSと診断された対象から核酸含有試料を得ること、前記試料中の核酸を任意選択的に増幅すること、及び前記対象が、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化、例えば、CNVを有するかどうかを判定すること、及び前記対象がmGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有した場合、TSの診断を確証することを含む方法も、本明細書において提供する。
【0022】
上記方法の何れにおいても、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化の有無についての分析は、マイクロアレイ、全ゲノム配列決定、エクソーム配列決定、標的配列決定、FISH、比較ゲノムハイブリダイゼーション、ゲノムマッピング、又は次世代配列決定、サンガー配列決定、PCR若しくはTaqMan技術を使用する他の方法を含み得る。
【0023】
一部の実施態様では、対象は、1、2、又はそれを超えるmGluRネットワーク遺伝子のCNVを有する。一部の実施態様では、方法は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10のmGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに試料を付すことによりmGluRネットワーク遺伝子のCNVを検出することを含む。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子のCNVは、少なくとも5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70又は全てのTier1 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに試料を付すことにより判定される。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子のCNVは、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも175又は全てのTier2 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに試料を付すことにより判定される。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子のCNVは、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500又は全てのTier3 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを評価するスクリーニングに試料を付すことにより判定される。
【0024】
上記方法の一部の実施態様では、TSは、持続性(慢性)運動性チック障害、持続性(慢性)音声性チック障害又は暫定的チック障害のうちの一又は複数である。一部の実施態様では、対象は、小児又は青年対象、例えば、年齢が5歳から17歳の間、5歳から8歳の間、8歳から17歳の間、8歳から12歳の間、12歳から18歳、13歳から18歳、又は12歳から17歳の間の対象である。他の実施態様では、対象は、成人対象である。
【0025】
一部の実施態様では、少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子遺伝子変化の有無を判定するためのスクリーニング方法は、マイクロアレイ、全ゲノム配列決定、エクソーム配列決定、標的配列決定、FISH、比較ゲノムハイブリダイゼーション、ゲノムマッピング、又は次世代配列決定、サンガー配列決定、PCR若しくはTaqMan技術を使用する他の方法を含む。
【0026】
一部の実施態様では、対象は、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7及びGRM8のうちの一又は複数の遺伝子変化又はCNVについて評価されない。一部の実施態様では、対象は、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7及びGRM8のうちの一又は複数のCNVを有さない。一部の実施態様では、対象は、GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7及びGRM8の何れについてもCNVを有さない。
【0027】
この「発明の概要」の上述の段落に記載の方法及び実施態様の何れにおいても、対象は、TS、並びに一又は複数の併存状態、例えば、注意欠陥多動性障害(ADHD)、反抗挑戦性障害(ODD)、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、怒りの制御困難、破壊行動症状、自傷性皮膚症、発達障害、併存運動障害、又はうつ病を有し得る。他の場合、対象は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、恐怖症、自閉症、気分障害、統合失調症及びうつ病のうちの一又は複数を有さない。さらに他の場合、対象は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、恐怖症、自閉症、気分障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、怒りの制御困難、破壊行動症状、自傷性皮膚症、発達障害、併存運動障害及びうつ病の何れも有さない。
【0028】
一実施態様では、mGluR関連障害を診断するための方法であって、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化が検出された場合、対象がmGluR関連障害と診断される、方法を提供する。
【0029】
さらなる目的及び利点は、一部は、後続の説明で述べることとし、一部は、その説明から明らかとなり、又は実施により学ぶことができる。それらの目的及び利点は、添付の特許請求の範囲において特に指し示す要素及び組合せによって実現及び達成されることになる。
【0030】
上述の概要及び下記の詳細な説明の両方が例示的及び説明的なものに過ぎず、本特許請求の範囲を制限するものではないことは、理解されるはずである。
【0031】
本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する添付の図面は、1(いくつかの)実施態様をその説明と共に例証するものであり、本明細書に記載の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】Tier1遺伝子セットに含まれるmGluRネットワーク遺伝子を示す図である。これらの遺伝子は、生体分子相互作用ネットワークをハイスループットデータと統合するための(Shannon P (2003) Genome Research 13:2498-2504に記載の)ソフトウェアであるCytoscape Human Interactomeに基づき、mGluR遺伝子(GRM1-8)とのタンパク質間相互作用度2を有する。Tier1遺伝子セットは76の遺伝子を含む。Tier1内の各遺伝子についての正確な座位は、Human Genomeバージョン18(hg18)とHuman Genomeバージョン19(hg19)の両方に収載されている。加えて、hg19には正確な遺伝子座位+500キロベース(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース前から500キロベース後までの範囲)が収載されている。最初の一塩基多型(StartSNP)(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース前に位置するSNP)及びEndSNP(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース後に位置するSNP)も収載されている。mGluRの遺伝子自体は「GRM」と記されている。拡張領域(すなわち、500kg上流及び下流)は、調節エレメントを担持することが多く、CNVによる影響を受けた場合、遺伝子発現に対して同じ影響を及ぼし、その遺伝子配列自体に存在するCNVとして機能し得る。
図2】Tier2遺伝子セットに含まれるmGluRネットワーク遺伝子を示す図である。これらの遺伝子は、Cytoscape Human Interactomに基づき、mGluR遺伝子(GRM1-8)とのタンパク質間相互作用度2を有するが、Tier1からの遺伝子を含まない。Tier2遺伝子セットは197の遺伝子を含む。Tier2の各遺伝子についての正確な座位は、Human Genomeバージョン18(hg18)とHuman Genomeバージョン19(hg19)の両方に収載されている。加えて、hg19には正確な遺伝子座位+500キロベース(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース前から500キロベース後までの範囲)が収載されている。最初の一塩基多型(StartSNP)(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース前に位置するSNP)及びEndSNP(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース後に位置するSNP)もhg19に収載されている。
図3】Tier3遺伝子セット内の遺伝子を示す図である。Cytoscape Human Interactomに基づき、mGluR遺伝子とのタンパク質間相互作用度2で検索して片割れの遺伝子がある遺伝子を含む。Tier1及び2に含まれる遺伝子は、Tier3から除外される。Tier3遺伝子セットは599の遺伝子を含む。Tier3の各遺伝子についての正確な座位は、Human Genomeバージョン18(hg18)とHuman Genomeバージョン19(hg19)の両方に収載されている。加えて、hg19には正確な遺伝子座位+500キロベース(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース前から500キロベース後までの範囲)が収載されている。StartSNP(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース前に位置するSNP)及びEndSNP(すなわち、目的の遺伝子の500キロベース後に位置するSNP)もhg19に収載されている。
図4】完全に遺伝子型が同定された95のTS患者からの試料中のmGluRネットワーク遺伝子を含むコピー数バリエーション(CNV)コールの数を示す図である。数名の患者は、mGluRネットワーク遺伝子を含む1を超えるCNVコールを有したことに留意されたい。
図5】Tier1、Tier1+2、又はTier1+2+3 mGluRネットワーク遺伝子セット内にCNVを有した、完全に遺伝子型が同定されたTS患者の百分率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
I.定義
この小節に含まれている定義に加えて、用語のさらなる定義が本文書全体にわたって散在する。
【0034】
本発明において、別途文脈による明らかな指示がない限り、「a」又は「an」は、「少なくとも1」又は「一又は複数」等を意味する。「又は」という用語は、別途指示がない限り、「及び/又は」を意味する。しかし、多項従属請求項の場合、「又は」という用語の使用は、1を超える先行請求項に戻って専ら択一的に該請求項を参照する。
【0035】
「mGluR」又は代謝型グルタメート受容体は、mGluR1、mGluR2、mGluR3、mGluR4、mGluR5、mGluR6、mGluR7及びmGluR8という名の、神経組織において発現される8のグルタメート受容体のうちの1を指す。それらの遺伝子は、GRM1からGMRM8と略記される。mGluRタンパク質は、Gタンパク質共役型受容体である。それらは、典型的に3サブグループに分類され、mGluR1及びmGluR5を含むグループI受容体は、緩徐興奮性受容体として分類される。グループIIは、mGluR2及びmGluR3を含む。グループIIIは、mGluR4、mGluR6、mGluR7及びmGluR8を含む。グループII及びIIIは、緩徐抑制性受容体として分類される。mGluRは、イオンチャネル結合型グルタメート受容体であって高速興奮性受容体として分類されるイオンチャネル型GluR又はiGluRとは区別される。
【0036】
「mGluRネットワーク遺伝子」は、本発明では、mGluRm遺伝子GRM1、GRM2、GRM3、GRM4、GRM5、GRM6、GRM7及びGRM8のみならず、本明細書の図1-3に収載されている他の遺伝子の各々並びに図1-3に収載されている遺伝子を調節するDNAの領域も含む。加えて、「mGluRネットワークタンパク質」は、mGluRネットワーク遺伝子によりコードされるタンパク質である。
【0037】
mGluRネットワーク遺伝子は、Tier1、Tier2及びTier3という3サブセットに分類される。(図1-3を参照されたい)。図1に示されているTier1 mGluRネットワーク遺伝子は、いくつかのGRM遺伝子自体はもちろん多数の他の遺伝子も含む76の遺伝子を含む。図2に示されているTier2 mGluRネットワーク遺伝子は197の遺伝子を含み、Tier1遺伝子を含まない。
【0038】
Tier1及び2は共に「一次mGluRネットワーク」に含まれる。mGluR遺伝子の「一次ネットワーク」は、合計276の遺伝子で、遺伝子4-Sep、LOC642393及びLOC653098も含む。4-Sep、LOC642393及びLOC653098遺伝子の評価は、現在の技術では困難である。それ故、それらはTier1及びTier2に含まれないが、本発明の遺伝子の一次ネットワークにはそれらを含める。Tier1及び2遺伝子は、Tier1遺伝子の変化が、精神障害に罹患している対象についての以前のジェノタイピング研究で立証されている点で異なる。
【0039】
図3に示されているTier3 mGluRネットワーク遺伝子は、Cytoscapeソフトウェア(Shannon P等 (2003) Genome Research 13:2498- 2504)により提供されるマージされたヒトインタラクトームに基づきmGluRネットワークの末端部にある599の遺伝子を含み、Tier1及びTier2遺伝子を含まない。したがって、Tier3遺伝子は、「末端mGluRネットワーク」の一部である。Tier3遺伝子に加えて、遺伝子LOC285147、LOC147004及びLOC93444は、「末端mGluRネットワーク」に含まれるが、これらの遺伝子の遺伝子変化の評価が技術的に困難であるため、それらを本研究では評価しておらず、Tier3に含めない。
【0040】
本明細書で使用される「遺伝子変化」は、遺伝子のDNAの、又は遺伝子を調節するDNAの、任意の変化を意味する。遺伝子変化は、例えば、変化していないDNAから産生された遺伝子産物と比較して機能的に変化した遺伝子産物をもたらし得る。機能的変化は、例えば、異なる発現レベル(アップレギュレーション又はダウンレギュレーション)であってもよく、又は一若しくは複数の生物活性の喪失若しくは変化であってもよい。遺伝子変化は、これらに限定されないが、コピー数バリエーション(CNV)、本明細書では一塩基多型(SNP)とも呼ばれる一塩基バリアント(SNV)、フレームシフト突然変異、又は任意の他の塩基対置換、挿入及び欠失若しくは重複を含む。
【0041】
「コピー数バリエーション」又は「CNV」は、参照ゲノムと比較した場合のDNAセグメントの重複又は欠失であり、前記DNAセグメントは、遺伝子(単数)、遺伝子(複数)、遺伝子のセグメント、又は遺伝子を調節するDNA領域を包含する。一部の実施態様では、CNVは、正常な二倍体状態からの変化に基づいて判定される。一部の実施態様では、CNVは、1キロベース(kb)以上であるDNA断片に関わるコピー数変化を表す。本明細書に記載のCNVは、転位因子(例えば、6kb KpnIリピート)の挿入/欠失から生じるバリアントを含まない。したがって、CNVという用語は、大規模コピー数バリエーション(LCV;Iafrate等、2004)、コピー数多型(CNP;Sebat等、2004)、及び中間サイズのバリアント(ISV;Tuzun等、2005)等の用語を包含するが、レトロトランスポゾン挿入は包含しない。
【0042】
「CNV欠失」又は「欠失CNV」又は同様の用語は、遺伝子、遺伝子を調節するDNAセグメント、又は遺伝子セグメントが欠失されている、CNVを指す。「CNV重複」又は「重複CNV」又は同様の用語は、遺伝子、遺伝子を調節するDNAセグメント、又は遺伝子セグメントが、正常な参照ゲノムにおいて見いだされる単一コピーと比較して少なくとも2コピー、ことによると2を超えるコピー中に存在する、CNVを指す。
【0043】
「試料」は、本明細書に記載の通り、例えば一又は複数のmGluRネットワーク遺伝子タンパク質のCNVの存在について、検査され得る対象からの試料を指す。試料は、細胞を含むこともあり、体液、例えば、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、涙、胸膜液等を含むこともある。
【0044】
トゥレット症候群は、1年より長い間症状が持続している、複数の運動性チックと一又は複数の音声性チックの両方の存在を特徴とする障害として、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第5版(DSM-5、2013)に記載されている。チックとは、突発的、急速、反復性、非律動的運動動作又は発声である。典型的に、症状は、年齢が18歳未満に表れる。本明細書で使用される用語「トゥレット症候群」は、「持続性(慢性)運動性チック障害」、「持続性(慢性)音声性チック障害」、「暫定的チック障害」及び「チック障害」の各々を含む。トゥレット症候群患者は、少なくとも1年間存在している、運動性チック症状と音声性チック症状の両方を有することがある。しかし、「チック障害」の患者は、運動性チックのみ又は音声性チックのみを有することがある。「持続性(慢性)運動性チック障害」の患者は、運動性チックのみを有することがある。「持続性(慢性)音声性チック障害」の患者は、音声性チックのみを有することがある。「暫定的チック障害」の患者は、1年未満しか症状を有さないこともある。
【0045】
TSの患者は、不注意、多動性、不安、気分及び睡眠障害も有し得る。現在、TSは、Storch 2005に記載されているように、イェール全般的チック重症度尺度等の、一又は複数の評価尺度を使用して診断することができる。
【0046】
「対象」及び「患者」という用語は、ヒトを指すために同義で使用される。
【0047】
「小児対象」又は「小児患者」という用語は、18歳未満のヒトを指すために同義で使用される。「成人患者」又は「成人対象」は、18歳以上のヒトを指す。「青年患者」又は「青年対象」は、典型的には約12から18歳、例えば、12から17歳、又は13から18歳の対象である。
【0048】
II.トゥレット症候群を診断する方法
一部の実施態様では、本発明は、対象においてTSを診断する方法であって、前記対象の遺伝子情報を分析して、前記対象が少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝的バリエーションを有するかどうかを判定すること、及び遺伝的バリエーションが見つかった場合、前記対象を、TSを有するとを診断することを含む方法を含む。一部の実施態様では、対象は、TSを有するが、ADHD、反抗挑戦性障害(ODD)、素行障害、不安障害、恐怖症、自閉症、気分障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、怒りのコントロール困難、破壊行動症状、自傷性皮膚症、別の運動障害、発達障害、及びうつ病を有さない。一部の実施態様では、対象は、TSを有し、ADHD、素行障害、不安障害、恐怖症、自閉症、気分障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、怒りの制御困難、破壊行動症状、自傷性皮膚症、別の運動障害、発達障害及びうつ病のうちの一又は複数も有する。一部の実施態様では、対象は、TSとADHDの両方を有する。
【0049】
本明細書における「発達障害」は、例えば、国際疾病分類第9版(世界保健機関)のコード299.80、299.90、315.2、315.39、315.4、315.5、315.8及び315.9に分類されるものであって、学習、協調運動及び会話等の行動に影響を与え得るものを含む。「自傷性皮膚症」は、皮膚むしり症又は皮膚むしりとも呼ばれ、損傷を生じさせるほど過剰に自分自身の皮膚をむしることを伴う障害であり、正常な皮膚はもちろん、現実の又は仮想の皮膚欠損創、例えば、ほくろ、そばかす又はざ創をむしることも含む。
【0050】
他の実施態様では、本発明は、対象におけるTSの診断を確証することを包含する。本明細書で使用される「TSの診断を確証すること」は、既にTSと診断された対象を診断することを意味する。一部の実施態様では、TSの診断を確証する方法は、mGluRネットワーク遺伝子を分析することを含まない方法によりTSを有すると診断された対象の遺伝子情報を分析して、前記対象が、少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝的バリエーションを有するかどうかを判定すること、及び少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝的バリエーションが見つかった場合、TSの診断を確証することを含む。一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子バリエーションの存在についてのスクリーニングは、対象における診断を確証するために行われる2以上の検査又は評価のうちの1である。一部の実施態様では、対象は、TSを有するが、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、恐怖症、自閉症、気分障害、及びうつ病を有さない。一部の実施態様では、対象は、TSを有し、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病の一又は複数も有する。一部の実施態様では、対象は、TSとADHDの両方を有する。
【0051】
別の実施態様では、本発明は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病を有さない対象におけるTSの診断を確証することを含み、これは、mGluRネットワーク遺伝子を分析することを含まない方法によりTSを有すると診断された対象の遺伝子情報を分析して、前記対象が、少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝的バリエーションを有するかどうかを判定すること、及び少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝的バリエーションが見つかった場合、TSの診断を確証することを含む。
【0052】
一実施態様では、TSは、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1のCNV、SNV、フレームシフト突然変異又は任意の他の塩基対置換、挿入、欠失若しくは重複が検出された場合、診断及び/又は確証される。他の実施態様では、TSは、Tier1 mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1のCNV、SNV、フレームシフト突然変異又は任意の他の塩基対置換、挿入若しくは欠失が検出された場合、診断及び/又は確証される。別の実施態様では、TSは、Tier2 mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1のCNV、SNV、フレームシフト突然変異又は任意の他の塩基対置換、挿入若しくは欠失が検出された場合、診断及び/又は確証される。さらに他の実施態様では、TSは、Tier3 mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1のCNV、SNV、フレームシフト突然変異又は任意の他の塩基対置換、挿入若しくは欠失が検出された場合、診断及び/又は確証される。
【0053】
TSの診断又は診断又は確証は、Tier1、Tier2及び/又はTier3 mGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化を見つけることに基づき得る、又は見つけることで確証され得る。遺伝子変化は、CNVであり得る。CNVは、mGluRネットワーク遺伝子をコードし、それを制御/調節するDNAの一部又は全てを含有するDNA領域の重複又は欠失であり得る。別の実施態様では、TSの診断又は診断の確証は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症、及びうつ病を有さない患者において行われる。一部の実施態様では、TSの診断又は診断の確証は、TSと、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病のうちの一又は複数とを有する患者において行われる。
【0054】
一部の実施態様では、TSの診断又は診断の確証は、mGluRネットワーク遺伝子のコピー数が正常な二倍体状態を逸脱していることを見つけることに基づく。一部の実施態様では、TSの診断又は診断の確証は、CNV欠失を示す0又は1のコピー数に基づく。一部の実施態様では、TSの診断又は診断の確証は、CNV重複を示す3以上のコピー数に基づく。別の実施態様では、TSの診断又は診断の確証は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症、及びうつ病を有さない患者において、0若しくは1のコピー数の存在により、又は3以上のコピー数により、又は二倍体状態からの任意の逸脱により行われる。
【0055】
一実施態様では、より重症度の高い型のTSの診断は、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも2のCNVが検出された場合、下される。一実施態様では、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病を有さない患者における、より重症度の高い型のTSは、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも2のCNVが検出された場合、診断される。
【0056】
一実施態様では、TSを診断する及び/又は不安障害を確証する方法は、対象から核酸含有試料を得ること;前記核酸を任意選択的に増幅すること;前記核酸試料を任意選択的に標識すること;mGluRネットワーク遺伝子の一又は複数の核酸を含み、該核酸がmGluRネットワーク遺伝子のSNVを任意選択的に含むものである固体支持体に、前記核酸を塗布すること;一切の非結合核酸試料を除去すること;及び固体支持体上の核酸に結合した一切の核酸を検出することを含み、結合した核酸が検出された場合、前記患者は、TSを有すると診断又は確証される。一実施態様では、方法は、一切の結合核酸を標準又はコントロールと比較すること、及び分析により被検試料が前記コントロール又は標準と異なることが判明した場合、TSを診断する又はTSを確証することをさらに含む。この方法の別の実施態様では、TSの患者は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病を有さない。別の実施態様では、TS患者は、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症又はうつ病のうちの一又は複数も有する。
【0057】
本発明の各診断、確証及び治療方法では、障害は、TS、持続性(慢性)音声性チック障害、持続性(慢性)運動性チック障害、又は暫定的チック障害であり得る。本発明の各診断、確証及び治療方法では、対象は、TSを有するが、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病の何れも有さない。本発明の他の診断、確証及び治療方法では、対象は、TS及び一又は複数のさらなる障害、例えば、ADHD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症又はうつ病を有する。一部の方法では、対象は、TSとADHDの両方を有する。
【0058】
III.トゥレット症候群を治療するための方法及び使用
対象におけるTSを治療する方法であって、非選択的mGluRアクチベーターの有効量を投与することを含む方法が、ここに包含される。本明細書で使用される「治療」という用語は、対象における疾患又は障害のための治療のいかなる投与又は適用を含み、疾患を抑制すること、その発症を阻止すること、疾患の症状を軽減すること、又は疾患若しくは疾患の症状の発生若しくは再発を防止することを含む。
【0059】
mGluRタンパク質は、典型的に3サブグループに分類され、mGluR1及びmGluR5を含むグループI受容体は、緩徐興奮性受容体として分類される。グループIIは、mGluR2及びmGluR3を含む。グループIIIは、mGluR4、mGluR6、mGluR7及びmGluR8を含む。グループII及びIIIは、緩徐抑制性受容体として分類される。
【0060】
mGluRは、イオンチャネル結合型グルタメート受容体であって高速興奮性受容体として分類されるイオンチャネル型GluR又はiGluRとは区別される。
【0061】
「mGluRの非選択的アクチベーター」は、グループI、II及びIIIカテゴリーのうちの1を超えるカテゴリーからのmGluRを活性化する分子を指す。したがって、mGluRの非選択的アクチベーターは、mGluRネットワークに対する全般的刺激を提供し得る。これは、例えばmGluR5等の、単一のmGluRを専ら有意に活性化することができる特異的mGluRアクチベーターとは対照的である。非選択的mGluRアクチベーターは、例えば、非選択的mGluRアゴニストを含む。
【0062】
一部の実施態様では、非選択的mGluRアクチベーターは、ファソラセタムである。ファソラセタムは、インビトロ研究でグループI mGluRとグループII/III mGluRの両方を刺激することができる向知性(すなわち、認知促進)薬である。(Hirouchi M等 (2000) European Journal of Pharmacology 387:9-17を参照されたい)。ファソラセタムは、グループI mGluRの活性化によってアデニル酸シクラーゼ活性を刺激することができる一方で、グループII及びIII mGluRを刺激することによりアデニル酸シクラーゼ活性を阻害することもできる。(Oka M等 (1997) Brain Research 754:121-130)。ファソラセタムは、生物学的利用率が高く(79%-97%)、5-6.5時間の半減期を有することが以前のヒト研究で認められている(Malykh AG等(2010) Drugs 70(3):287-312を参照されたい)。ファソラセタムは、5炭素オキソピロリドン環を共有する化学物質のラセタムファミリーのメンバーである。
【0063】
ファソラセタムの構造は、
である。
【0064】
本明細書で使用される「ファソラセタム」という用語は、薬学的に許容される水和物及び任意の固体、非晶質又は結晶質形態のファソラセタム分子を包含する。例えば、本明細書におけるファソラセタムという用語は、ファソラセタム一水和物であるNFC-1等の形態を含む。NFC-1に加えて、ファソラセタムは、C-NS-105、NS105及びLAM-105としても公知である。
【0065】
NFC-1は、認知症関連認知障害の第I-III相臨床治験で以前に研究されているが、第III相治験で認知症に関して十分な有効性を示さなかった。これらの治験は、NFC-1がそれらの適応症のための一般に安全であり且つ良好な耐容性を示すものであることを実証した。第III相データは、NFC-1が脳梗塞患者及び脳血管疾患を有する成人認知症患者における精神症状に対して有益な効果を示すことを示した。
【0066】
治療実施態様の各々の方法では、代謝型グルタメート受容体陽性アロステリックモジュレーター、代謝型グルタメート受容体陰性アロステリックモジュレーター、又はタキキニン-3/ニューロキニン-3受容体(TACR-3/NK3R)アンタゴニストは、単独で、又はmGluRの非選択的アクチベーターと組み合わせて、例えば、mGluRネットワーク遺伝子の変化を有する対象に投与され得る。一部の実施態様では、治療剤は、ADX63365、ADX50938、ADX71149、AMN082、1-(ヘテロ)アリール-3-アミノ-ピロリジン誘導体、LY341495、ADX48621、GSK1144814又はSB223412を含む。
【0067】
少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化を有する対象にファソラセタムを投与することを含む、TSを治療する方法も、ここに包含される。一部の実施態様では、この対象は、TSを有するが、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症、統合失調症、強迫性障害(OCD)、怒りの制御困難、破壊行動症状、自傷性皮膚症、別の運動障害、発達障害及びうつ病を有さず、その一方で、他の実施態様では、対象は、TS、並びにADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症、統合失調症、強迫性障害(OCD)、怒りの制御困難、破壊行動症状、自傷性皮膚症、別の運動障害、発達障害又はうつ病のうちの少なくとも1を有する。一部の実施態様では、対象は、TSとADHDの両方を有する。
【0068】
一部の実施態様では、治療方法は、少なくとも1のmGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化を有すると対象を同定又は診断すること、及び同定又は診断された対象にファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターを投与することを含む。一部の実施態様では、対象は、TSを有するが、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病を有さない。他の実施態様では、対象は、TSを有し、一又は複数の神経心理学的障害、例えば、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症及びうつ病も有する。
【0069】
本発明の各治療方法実施態様では、障害は、TS、持続性(慢性)音声性チック障害、持続性(慢性)運動性チック障害、又は暫定的チック障害であり得る。各治療方法において、非選択的mGluRアクチベーター、例えば、ファソラセタムは、対象のチックにおける運動の頻度若しくは程度を緩和することができ、並びに/又はTS若しくはチック障害の患者に見られることがある不注意、多動性、不安、気分及び睡眠障害の症状を改善することができる。例えば、これらの症状は、アクチベーターでの1週間の治療後、例えば、2週間の治療後、3週間の治療後、又は4週間の治療後に緩和され得る。
【0070】
一部の実施態様では、対象は、不安の併存症状を有し、場合によっては、方法は、不安症状を低減させる。一部の実施態様では、対象は、OCDを有し、場合によっては、方法は、OCD症状を低減させる。場合によっては、対象は、過剰な皮膚むしり等の自傷性皮膚症の併存症状を有し、方法は、それらの症状を低減させる。一部の実施態様では、対象は、一又は複数の併存発達障害を有し、場合によっては、方法は、発達障害に関係する症状の重症度を低下させる。
【0071】
一部の実施態様では、対象は、アクチベーターでの少なくとも1、2、3又は4週間の治療後に症状に関する以下の変化のうちの一又は複数を有し得る:(a)対象は、怒り制御の症状を有し、それらの怒り制御症状が低減される;(b)対象は、破壊行動の症状を有し、それらの破壊行動症状が低減される;(c)対象のCGI-Iが、少なくとも1又は少なくとも2低下される;(d)1、2、3又は4週間の治療後の対象のCGI-Iスコアは1又は2である;(e)1、2、3又は4週間の治療後の対象のCGI-Sスコアは1である;(f)対象は、ADHDを有し、対象のADHD評価尺度スコアが、少なくとも25%、例えば、少なくとも30%、少なくとも35%又は少なくとも40%低下される;(g)対象は、不注意の症状を有し、それらの不注意症状が低減される;(h)対象は、多動性の症状を有し、それらの多動性症状が低減される;(i)対象は、衝動性の症状を有し、それらの衝動性症状が低減される;(j)対象は、ODDの症状、例えば、怒り及び易怒性、口論及び反抗的態度、及び/又は執念深さを有し、それらのODD症状が低減される;(k)対象は、素行障害の症状を有し、それらの素行障害症状が低減される;(l)対象は、不安の症状を有し、それらの不安症状が低減される;(m)対象は、OCDの症状を有し、それらのOCD症状が低減される;(n)対象は、自閉症の症状を有し、それらの自閉症症状が低減される;並びに(o)対象は、トゥレット症候群以外の運動障害の症状を有し、それらの運動障害症状が低減される。
【0072】
一実施態様では、ファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターは、TSを有する対象であって、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化を有すると確証された対象に投与される。遺伝子変化は、Tier1 mGluRネットワーク遺伝子のものであってもよい。遺伝子変化は、Tier2 mGluRネットワーク遺伝子のものであってもよい。遺伝子変化は、Tier3 mGluRネットワーク遺伝子のものであってもよい。遺伝子変化は、1を超える遺伝子変化であってもよく、1を超える変化は、Tier1、2若しくは3のうちの1のものであってもよく、又はTierの任意の組合せのものであってもよい。
【0073】
一部の実施態様は、TSを治療する方法であって、対象のmGluRネットワーク遺伝子についての遺伝子情報を得ること、及び前記対象が、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化、例えば、CNVを有した場合、ファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターを投与することを含む方法を含む。他の実施態様は、TSを治療する方法であって、対象のmGluRネットワーク遺伝子についての遺伝子情報を得ること、及び前記対象が、Tier1 mGluRネットワーク遺伝子の少なくとも1の遺伝子変化、例えば、CNVを有した場合、ファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターを投与することを含む方法を包含する。
【0074】
他の実施態様は、TSを治療する方法であって、対象のmGluRネットワーク遺伝子についての遺伝子情報を得ること、及び前記対象が、Tier2 mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化、例えば、CNVを有した場合、ファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターを投与することを含む方法を含む。
【0075】
さらに他の実施態様は、TSを治療する方法であって、対象のmGluRネットワーク遺伝子についての遺伝子情報を得ること、及び前記対象が、Tier3 mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも3の遺伝子変化、例えば、CNVを有した場合、ファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターを投与することを含む方法を包含する。
【0076】
何れか1のTierの、又は3のTierのうちの何れかについての組合せの、1を超えるCNVを有する対象を、ファソラセタム等の非選択的mGluRアクチベーターを投与することにより治療することができる。
【0077】
一部の実施態様では、TSを有するが、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症、統合失調症、怒りの制御困難、破壊行動、症状、強迫性障害(OCD)、自傷性皮膚症、発達障害、TS以外の別の運動障害、及びうつ病を有さない対象を、治療することができる。本発明の他の治療方法実施態様では、対象は、TSに加えて、一又は複数の神経心理学的障害、例えば、ADHD、ODD、素行障害、不安障害、自閉症、気分障害、恐怖症、統合失調症、怒りの制御困難、破壊行動、症状、強迫性障害(OCD)、自傷性皮膚症、発達障害、TS以外の別の運動障害、及びうつ病を有する。
【0078】
IV.遺伝子変化の有無を判定するための方法
血液、尿、血清、胃洗浄液、中枢神経系液、任意の細胞型(例えば、脳細胞、白血球、単核細胞)又は体組織を含むがこれらに限定されない、任意の生物学的試料を使用して、mGluRネットワーク遺伝子変化の有無を判定することができる。DNAを抽出することができる任意の生物学的試料を使用して、mGluRネットワーク遺伝子変化の有無を判定することができる。試料は、新たに採取したてのものであってもよく、又は任意の使用/目的のために以前に採取され、遺伝子変化について検査するときまで保存されたものであってもよい。異なる目的で以前に精製されたDNAも使用することができる。
【0079】
遺伝子変化を判定するための様々な方法が公知であり、それらは以下のものを含む。
【0080】
A.一塩基バリアント(SNV)/一塩基多型(SNP)ジェノタイピング
患者が、mGluRネットワーク遺伝子の遺伝子変化、例えば、CNVを有するかどうかの判定は、SNP/SNVジェノタイピングにより行うことができる。「一塩基バリアント(SNV)」は、本明細書では「一塩基多型(SNP)」とも呼ばれ、DNA中の単一塩基がその位置の通常の塩基と異なる変化を指す。ヒトゲノムの何百万ものSNVの目録が作成されている。一部のSNVは、ゲノムの通常のバリエーションであるが、他のものは、疾患に関連している。特定のSNVは、病状又は易罹患性に関連し得るが、SNVの配列決定情報を使用して個体の特有の遺伝子構造を決定する、高密度SNVジェノタイピングに取り組むこともでる。
【0081】
SNVジェノタイピングでは、相補的DNAプローブをSNV部位にハイブリダイズさせることにより、SNVを判定することができる。広範なプラットフォームをSNVジェノタイピングツールと共に使用して、様々な試料スループット、多重化能力及び化学的性質に対応することができる。高密度SNVアレイでは、標的DNAをチップ上で処理するときに同時に多くのSNVを照合することができるように、何十万ものプローブが小型チップ上に配列される。試料中の標的DNAのアレイ上のプローブ(又は冗長プローブ)へのハイブリダイゼーションの量を決定することにより、特異的SNV対立遺伝子を決定することができる。SNVジェノタイピングのためのアレイの使用は、SNVの大規模照合を可能にする。
【0082】
CNVを分析する場合、SNVを分析した後、コンピュータプログラムを使用して、CNVデータに到達するようにSNVデータを操作することができる。その場合、PennCNV又は同様のプログラムを使用して、ゲノム全体にわたってシグナルパターンを検出し、コピー数変化に関する連続した遺伝子マーカーを同定することができる。(Wang K等(June 2008) Cold Spring Harb Protocを参照されたい)。PennCNVは、CNVのキロベース分解能検出を可能にする(Wang K等(Nov 2007) Genome Res.17(11):1665-74を参照されたい)。
【0083】
CNV分析では、SNVジェノタイピングデータを正常な二倍体DNAの挙動と比較する。ソフトウェアは、SNVジェノタイピングデータを使用して、シグナル強度データ及びSNV対立遺伝子比の分布を決定し、次いでこれらのデータを使用して、CNVを示すDNAの正常な二倍体状態からの逸脱がいつあるのかを決定する。これは、SNVの2対立遺伝子についての全シグナル強度の正規化された測度であるlog R比(LRR)を使用することにより一部は行われる(Wang 2008)。ソフトウェアが0を下回る傾向を示す強度(LRR)を有する、近接するSNVの領域を検出した場合、これは、CNV欠失を示す。ソフトウェアが0を上回る傾向を示す強度(LRR)を有する近接するSNVの領域を検出した場合、これは、CNV重複を示す。二倍体DNAの挙動と比較してLRRの変化が認められなかった場合、配列は、CNVが存在しない正常な二倍体状態である。ソフトウェアは、CNV欠失若しくは重複と同様に、対立遺伝子を失った又は獲得した場合に変化する2対立遺伝子の対立遺伝子強度比の正規化された測度である、B対立遺伝子頻度(BAF)も使用する。例えば、CNV欠失は、LRR値の減少と、BAF値中のヘテロ接合体の欠如との両方により示される。対照的に、CNV重複は、LRR値の増加と、ヘテロ接合遺伝子型BAFクラスターの異なる2クラスターへの分割との両方により示される。ソフトウェアは、全ゲノムSNVデータについてCNV欠失及び重複を検出するためのLRR及びBAFの計算を自動化する。強度データと遺伝子型データの同時分析により、正常な二倍体状態が正確に定義され、CNVが判定される。
【0084】
Illumina、Affymetrix及びAgilentからのもの等のアレイプラットフォームをSNVジェノタイピングにおいて使用することができる。カスタムアレイを設計することもでき、本明細書に記載のデータに基づいて使用することもできる。
【0085】
B.比較ゲノムハイブリダイゼーション
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)は、CNV等の遺伝子変化を評価するために使用することができる別の方法である。CGHは、競合的蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を使用して参照試料との比較でCNV等の遺伝子変化を分析する分子細胞遺伝学的方法である。患者及び参照供給源からDNAを単離し、DNAの変性後に蛍光分子(すなわち、フルオロフォア)で独立して標識する。得られた試料へのフルオロフォアのハイブリダイゼーションを各染色体の長さに沿って比較して、2供給源間の染色体の差を同定する。色の不一致は、検査試料の特異的領域内の物質の獲得又は喪失を示し、色の一致は、特定の領域における検査試料と参照試料間のコピー数等の遺伝子変化に差がないことを示す。
【0086】
C.比較ゲノムハイブリダイゼーション
全ゲノム配列決定、全エクソーム配列決定、又は標的配列決定を使用して、CNV等の遺伝子変化を分析することもできる。全ゲノム配列決定(完全長ゲノム配列決定、完全ゲノム配列決定、又はゲノム全体配列決定としても公知)は、タンパク質をコードする又はコードしない遺伝子を含む、種の完全長ゲノムの配列決定を含む。対照的に、全エクソーム配列決定は、ゲノム内のタンパク質コード遺伝子(ゲノムのおおよそ1%)のみの配列決定である。標的配列決定は、ゲノムの選択された部分のみの配列決定を含む。
【0087】
対象からの精製されたDNAを用いて全ゲノム、全エクソーム又は標的配列決定を行うための広範な技法が当業者に公知であるであろう。同様の技法を異なるタイプの配列決定に使用することができるであろう。
【0088】
全ゲノム配列決定に使用される技法としては、ナノポア技術、フルオロフォア技術、DNAナノボール技術、及びパイロシークエンシング(すなわち、合成による配列決定)が挙げられる。詳細には、次世代配列決定(NGS)は、DNAの何百万もの小断片の並行した配列決定、続いて、前記断片からの配列決定データをつなぎ合わせるためのバイオインフォマティクス解析の使用を含む。
【0089】
全エクソーム配列決定は、全ゲノム配列決定のような大量のDNAの配列決定を行う必要がないので、広範な技法を使用することができる。全エクソーム配列決定のための方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応法、NGS法、分子反転プローブ、マクロアレイを使用するハイブリッドキャプチャー、溶液中キャプチャー、及び古典的サンガー配列決定が挙げられる。標的配列決定は、全ゲノムではなく特定の遺伝子についての配列データを得ることを可能にするものであり、目的の遺伝子の配列決定用の材料を含有する特殊化マイクロアレイを含む、他のタイプの配列決定に使用される任意の技法を使用することができる。
【0090】
D.遺伝子変化を判定するための他の方法
ゲノムマッピング技術を使用する、BioNano又はOpGenからのもの等の、知的財産権を有する方法を使用して、CNV等の遺伝子変化を評価することもできる。
【0091】
標準的な分子生物学方法、例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、液滴PCR、及びTaqManプローブ(すなわち、定量的PCRの特異性を増大させるために設計された加水分解プローブ)を使用して、CNV等の遺伝子変化を評価することができる。蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)プローブを使用して、CNV等の遺伝子変化を評価してもよい。TS患者に存在するCNV等の遺伝子変化の分析は、CNV等の遺伝子変化を判定するまさにその方法によって限定されるものではない。
【0092】
V.CNVデータに基づいてTSを診断するための方法
一部の実施態様では、遺伝子変化は、SNV又はCNVである。TSに関連するSNV又はCNVは、図1-3に示されているようなTier1、Tier2若しくはTier3に収載されている遺伝子等のmGluRネットワーク遺伝子、又はそのような遺伝子のセット若しくはパネルにおいて見つけられる。
【0093】
一部の実施態様では、mGluRネットワーク遺伝子の遺伝子セットは、TSの患者又はTSを有する疑いのある患者からの試料の分析に使用される。一部の実施態様では、これらの遺伝子セット又はパネル内のCNV重複又は欠失の存在が判定される。一部の実施態様では、図1に示されているTier1遺伝子のCNVが判定される。一部の実施態様では、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、又は全76のTier1遺伝子のパネルがCNVの存在について評価される。任意のそのような遺伝子パネル内の、個々の特定のTier1遺伝子が分析セットから除外されることもある。例えば、任意の又は全てのGRM1-8がパネルから除外されることもある。
【0094】
一部の実施態様では、図2に示されているようなTier2遺伝子を、CNV等の遺伝子変化の存在について分析する。Tier2遺伝子は、mGluRと密接に関連しているが、Tier1の中に含まれない。
【0095】
一部の実施態様では、Tier2遺伝子は、Tier1遺伝子と一緒に評価される。一部の実施態様では、少なくとも100のTier2遺伝子が評価されるが、一部の実施態様では、少なくとも150又は197のTier2遺伝子が評価される。一部の実施態様では、個々の特定のTier2遺伝子が評価用の遺伝子セットから除外されることがある。
【0096】
一部の実施態様では、図3に示されているような599のTier3遺伝子が、CNV等の遺伝子変化の存在について評価される。一部の実施態様では、Tier3遺伝子は、Tier1及び/又はTier2遺伝子と一緒に評価される。一部の実施態様では、少なくとも100のTier3遺伝子が評価されるが、一部の実施態様では、少なくとも150、200、250、300、350、400、450又は599のTier3遺伝子が評価される。一部の実施態様では、個々の特定のTier3遺伝子が評価用の遺伝子セットから除外されることがある。
【0097】
VI.投与方法及び併用療法
一部の実施態様では、mGluRシグナル伝達を調節する薬剤は、ファソラセタム又はファソラセタム一水和物(C-NS-105、NFC1、NS105又はLAM-105としても公知)である。
【0098】
A.投薬
一部の実施態様では、ファソラセタムをファソラセタム一水和物(NFC-1)として投与することができる。一部の実施態様では、ファソラセタムを口経由で(すなわち、経口)投与することができる。一部の実施態様では、ファソラセタムをカプセルとして投与することができる。一部の実施態様では、ファソラセタムカプセルは、50、60、70、80、90、100、110、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195又は200mgのファソラセタム一水和物を含有し得る。一部の実施態様では、ファソラセタムを1日1回又は1日2回投与することができる。一部の実施態様では、ファソラセタムの1日用量は、1日1回50mg、1日1回100mg、1日1回200mg、1日1回400mg、1日2回50mg、1日2回100mg、1日2回200mg、又は1日2回400mgであり得る。一部の実施態様では、一連の用量漸増を使用してファソラセタム投薬を調整することができる。一部の実施態様では、薬物レベル又は臨床応答に関する薬物動態データが、投薬の変化を判定するために使用される。一部の実施態様では、ファソラセタムの用量漸増は使用されない。一部の実施態様では、対象は、用量漸増プロトコールなしで臨床的に効果的であると予想されるファソラセタム用量で治療される。
【0099】
B.併用療法
一部の実施態様では、ファソラセタムは、TSの治療用の他の薬剤と組み合わせて使用される。ファソラセタムと組み合わせて使用される他の薬剤は、ハロペリドール、クロルプロマジン、アミスルプリド、アリピプラゾール、アセナピン、ブロナンセリン、クロザピン、イロペリドン、ルラシドン、メルペロン、オランザピン、パリペリドン、クエチアピン、リスペリドン、セルチンドール、スルピリド、ジプラシドン、又はゾテピンを含む精神病剤であり得る。
【0100】
一部の実施態様では、ファソラセタムを、非薬理学的治療、例えば、心理療法又は脳刺激療法と組み合わせて使用することができる。一部の実施態様では、ファソラセタムは脳刺激と組み合わせて使用され、そのような脳刺激は、迷走神経刺激、反復経頭蓋磁気刺激、磁気痙攣療法、脳深部刺激、又は電気、磁石若しくは留置剤による脳機能の調節を含む任意の他の療法であり得る。
【0101】
VII.製造品
一部の実施態様では、本発明は、本明細書に記載の方法及び治療において使用することができる製造品を含む。一実施態様では、製造物は、図1-3に収載されているmGluRネットワーク遺伝子(すなわち、Tier1-3)の一部又は全ての遺伝子変化の検出に使用するための固体支持体又はマイクロアレイである。(異なるmGluRネットワーク関連SNPについての開始及び終止位置を提供する、本明細書の表1-3も参照されたい。この情報は、マイクロアレイの作成に有用であり得る)。一部の実施態様では、複数のTierに含まれる遺伝子が同じ固体支持体又はマイクロアレイ内で評価される。一部の実施態様では、ある特定のmGluRネットワーク遺伝子は除外される。一部の実施態様では、GRM遺伝子が除外される。
【0102】
したがって、例えば、mGluRネットワーク遺伝子をアッセイして前記遺伝子のうちの一又は複数にCNV等の遺伝子変化があるかどうかを判定する一部の実施態様では、10、20、30、40、50、60、70又は全てのTier1遺伝子の遺伝子変化の存在を判定するための適切なプローブを含有する固体支持体又はマイクロアレイ、例えば、チップが使用される。ある特定の実施態様では、検出可能な標識は、天然に存在しない。一部の実施態様では、固体支持体又はマイクロアレイは、少なくとも10、20、30、50、100、150又は全てのTier2遺伝子の遺伝子変化の存在を判定するための適切なプローブも含み得る。一部の実施態様では、それは、少なくとも10、20、50、100、200、300、400、500又は全てのTier3遺伝子の遺伝子変化の存在を判定するための適切なプローブをさらに含み得る。例えば、そのような固体支持体、マイクロアレイ又はチップは、ADHD又は22q欠失及び/若しくは重複患者を治療する方法の一部としてTier1、Tier1+2、又はTier1+2+3 mGluR遺伝子ネットワークの遺伝子変化、例えば、CNV又はSNVの存在を判定するために使用することができる。
【0103】
一部の実施態様では、製造物は、Tier1、2及び/又は3からの目的のmGluRネットワーク遺伝子のためのプローブセットである。一部の実施態様では、プローブは標識される。同様に、10、20、30、40、50、60、70又は全てのTier1遺伝子の遺伝子変化の存在を判定するためのプローブセットを製造することができる。一部の実施態様では、少なくとも10、20、30、50、100、150又は全てのTier2遺伝子の遺伝子変化の存在を判定するためのプローブを製造することができる。一部の実施態様では、プローブは、少なくとも10、20、50、100、200、300、400、500又は全てのTier3遺伝子の遺伝子変化の存在を判定するためのものをさらに含み得る。これらの様々なプローブセットは、ADHD又は22q欠失及び/若しくは重複患者を治療する方法の一部としてTier1、Tier1+2、又はTier1+2+3 mGluR遺伝子ネットワークの遺伝子変化、例えば、CNV又はSNVの存在を判定する方法において使用することができる。
【実施例
【0104】
実施例1.TSの患者からの試料におけるmGluRネットワーク遺伝子を含むCNVコールの濃縮
以前に、ADHD患者に豊富に存在するコピー数バリエーションについての大規模ゲノム関連性研究(Elia等, Nature Genetics, 44(1): 78-84 (2012)に記載の通り)が行われた。Eliaの研究は、約2,493のADHD患者及び約9,222のコントロールを含み、彼らの全てが、ヨーロッパ系の者であり、年齢が6歳から18歳の間であった。この研究では、mGluRネットワーク遺伝子を含むCNVの比率がコントロール群では1.2%であり、この比率がADHD患者では11.3%に上昇したと述べられている。
【0105】
研究により、代謝型グルタメート受容体(mGluR)をコードする特定のmGluRネットワーク遺伝子(すなわち、GRM1、GRM5、GRM7及びGRM8)に影響を及ぼす、稀な、繰り返し発生するCNVが、健常コントロールと比較して有意に高い頻度でADHD患者において見つかることが明らかになった。この大きい効果量(>15のオッズ比を有する)は、これらの突然変異が、ADHDに対するそれらの効果の浸透性が非常に高いものである可能性が高いことを示唆する。コントロールでは見つからなかった、GRM2及びGRM6欠失を有する単独症例も、認められた。mGluRネットワーク遺伝子のシグナル伝達経路における遺伝子を評価したとき、コントロールと比較してADHD症例においてCNVの有意な濃縮がこのネットワーク内に存在することが判明した。
【0106】
本発明者らは、Cytoscapeソフトウェアにより提供されるマージされたヒトインタラクトームに基づき合計279のmGluR一次ネットワーク遺伝子を同定した。mGluR経路のネットワーク分析により、ヨーロッパ系の対象からのおおよそ1,000症例及び4,000コントロールの集団に関して、症例におけるmGluRシグナル伝達に関与する遺伝子又はそれらの相互作用因子には、コントロール発生率に対して補正して合わせてADHD症例の~20%に影響を及ぼす、CNVの有意な濃縮がある(P=4.38x10-10)ことが判明した。これらのデータは、mGluRネットワーク遺伝子が、相互作用遺伝子の高度に連結されたモジュールを協働させる重要なハブとして役立ち得るものであり、その多くに、CNVがあり得、シナプス及びニューロンの生物学的機能が濃縮されていることを示唆している。それ故、グルタミン酸作動性神経伝達に関与する遺伝子に影響を及ぼす、複数の非依存的ADHDコホートにおいて過剰発現される、いくつかの稀な、反復性のCNVを同定した。
【0107】
TSは、ADHDを有する児童に併存する頻度が高い。具体的には、小児TS患者の約3分の2は、ADHDも有する。加えて、ADHD患者の10%ほどもがチックを有し得る。それ故、本発明者らは、mGluR遺伝子変化が、TSを有する児童にも濃縮されているかどうかを調査した。
【0108】
本研究用の試料は、Children’s Hospital of Philadelphoa(CHOP)で治療を受けた小児及び青年の電子健康記録からの診断についてのICP-9コードに基づいて選択した。全ての95の対象は、TSの診断を入力した小児精神科医が評価した。全ての対象は、トゥレット症候群の診断基準を満たすのに十分な期間の反復性チックを有した。この研究における、ある特定の患者は、統合失調症とTSの両方の診断を受けていた。
【0109】
一塩基バリアント(SNV)/一塩基多型(SNP)遺伝子型データを使用してCNVを判定した。SNVジェノタイピングは、多数のSNVマーカーを使用して高密度SNVジェノタイピングデータを生じさせることにより個体の遺伝子指紋をもたらす(Wang K等(Nov 2007) Genome Res.17(11):1665-74を参照されたい)。HumanHap550 Gentyping BeadChip(商標)(Illumina)又はHuman610-Quad v1.0 BeadChip(商標)(Illumina)をこの研究において使用した。両方のチップについて、同じ520のSNVを分析した。したがって、これら2チップからのデータは、交換可能である。標準的な製造プロトコールを全てのジェノタイピングアッセイに使用した。Illuminaリーダーを全ての実験に使用した。
【0110】
完全に遺伝子型が同定された各患者試料からのSNVジェノタイピングデータをPennCNVソフトウェアで分析して、シグナル強度データ及びSNV対立遺伝子比の分布を決定した。次いで、これらのデータを使用して、(以前にWang 2008に記載されたような)強度及び遺伝子型データの同時分析によりCNVを判定した。この分析を使用すると、近接SNV喪失の領域を示すデータは、CNV欠失のコールをもたらす。近接SNV獲得の領域を示すデータは、CNV重複のコールをもたらす。単一個体が、複数のCNV欠失/重複を有することもあり、又はCNVを一切有さないこともある。
【0111】
前に論じたように、mGluRネットワーク遺伝子の3のTierを開発した。図1-3は、3の遺伝子セットに含まれる遺伝子-図1におけるTier1(76の遺伝子)、図2におけるTier2(197の遺伝子)、及び図3におけるTier3(599の遺伝子)-を示す。これらの遺伝子セットは非包括的であったので、単一の遺伝子は、単一のTierにしか含まれていないことに留意されたい。
【0112】
図4は、TS患者についての各mGluR遺伝子TierにおけるCNVコール数に関するデータを示す。CNVは、重複又は欠失のどちらかである。データは、TS患者からの試料におけるmGluRネットワーク遺伝子の各遺伝子セットに比較的多数のCNVコールが見られたことを示す。
【0113】
mGluRネットワーク遺伝子の各遺伝子セットにおけるCNVコール(重複又は欠失のどちらか)を有した患者の百分率を図5に示す。TSを有する遺伝子型が同定された95の児童のうちの20(~21%)は、ADHDにおいて最も有意であることが判明し、本発明者らがTier1と名付けたTier1遺伝子(全てがmGluR一次ネットワークの遺伝子である)における突然変異を有した。合計28の児童、又は~29%が、評価した全mGluR一次ネットワーク遺伝子(Tier1+2)の中に突然変異を有した。児童の約52%は、一次又は二次(Tier1+2+3)mGluRネットワークの何れかにおける突然変異を有した。これは、TS患者の50%以下は、この経路が破壊された可能性があり、これらの突然変異の結果を好転させる治療に応答性であり得ることを示唆している。
【0114】
これらのデータは、以前に報告されたコントロール集団におけるCNVコールの頻度と比較して、実質的に高い百分率のTS患者が、mGluRネットワーク遺伝子セットの各々の中にCNVコールを有したことも示す。mGluRネットワーク遺伝子のCNVを有する患者のコントロール頻度は1.2%であると以前に推定されており(Eliaを参照されたい)、これは、TS患者におけるCNVの中のmGluRネットワーク遺伝子の濃縮の特異性を裏付ける。
【0115】
図4-5に示されているように、TS患者にはmGluRネットワーク遺伝子の有意な濃縮があった。したがって、mGluR遺伝子ネットワークの調節に焦点を当てた診断及び治療は、TS患者において特に役立ち得る。
【0116】
実施例2.TS患者の試料からのCNVの中に含まれるmGluRネットワーク遺伝子の分析
次に、本発明者らは、95の完全に遺伝子型が同定されたTS患者からのジェノタイピングデータを分析して、CNVに関連する遺伝子を同定した。
【0117】
表1は、Tier1 mGluRネットワーク遺伝子が患者の試料におけるCNVの中に又は付近に位置した、TS患者からの代表的CNVのデータを示すものである。CNVは、CNVの外側だがその付近に位置する遺伝子の転写に影響を与える構造変化をもたらし得る。したがって、CNVの500,000塩基対以内に位置するTierのうちの1のTierの中のmGluRネットワーク遺伝子を分析に含めた。mGluRネットワーク遺伝子が、収載されているCNVの中に含まれている場合、これには、0という「遺伝子からの距離」の値が記されている。mGluRネットワーク遺伝子が、CNVの中にではないがCNVに極近接して含まれている場合、これには、0より大きい「遺伝子からの距離」の値が与えられている。
【0118】
表1には、CNVが位置する染色体がHuman Genomeバージョン19(hg19)に関するその開始及び終止位置と共に収載されている。CNVの中に位置するSNV(SNP)の数は、「Num SNP」と記され、CNVの長さは、塩基対で記されている。CNVのStartSNP及びEndSNPも与えられている。
【0119】
「状態、CN」という列は、CNVの結果として得られるコピー数を示す。通常、ヒトDNA(すなわち、CNVを有さないもの)は、二倍体であるはずであり、2の「状態、CN」を有することになる。「状態、CN」が0又は1であるCNVは、コピー数欠失を示す。対照的に、「状態、CN」が3以上であるCNVは、コピー数重複を示す。
【0120】
信頼値は、CNVのコールが正しい、相対信頼度を示す。この分析に含めた全てのCNVは、CNVコールが正しい、高い尤度を示す、正の信頼値を有した。15以上の値が殆どのCNVに見られ、この値は、qPCR及びTaqmanジェノタイピング検証に基づきCNVコールに対する極めて高い信頼度と考えられる。
【0121】
表1中の「mGluR遺伝子」列は、収載されているCNVの中に含まれるTier1内の特異的mGluRネットワーク遺伝子を収載するものである。表1は、所与のTier1 mGluRネットワーク遺伝子を含むCNVの全てを示すようにソートされている。一部のTier1遺伝子は、この研究における異なる患者からの複数のCNVに表示され、その結果、それらの特定のmGluRネットワーク遺伝子について複数の行がもたらされることもある。一部のTier1遺伝子がこの特定の患者集団からのCNVに表示されていないこともある。
【0122】
表2は、Tier1又はTier2 mGluRネットワーク遺伝子を含んだ特異的CNVからのデータを示す。表2の構成は、表1のものに準じる。「mGluR遺伝子」列は、収載されているCNVの中に含まれるTier1又はTier2内の特異的mGluRネットワーク遺伝子を収載するものである。表2は、所与のTier1又はTier2 mGluRネットワーク遺伝子を含んだCNVの全てを示すようにソートされている。一部のTier1又はTier2遺伝子は、この研究における異なる患者からの複数のCNVに表示され、その結果、それらの特定の遺伝子について複数の行がもたらされることもある。一部のTier1又はTier2遺伝子がこの特定の患者集団からのCNVに表示されていないこともある。
【0123】
表3は、Tier1、2又は3 mGluRネットワーク遺伝子を含んだ特異的CNVからのデータを示す。表3の構成は、表1及び2のものに準じる。「mGluR遺伝子」列は、収載されているCNVの中に含まれたTier1、Tier2又はTier3内の特異的mGluRネットワーク遺伝子を収載するものである。表3は、所与のTier1、2又は3 mGluRネットワーク遺伝子を含んだ全てのCNVを示すようにソートされている。一部のTier1、2又は3遺伝子は、この研究における異なる患者からの複数のCNVに表示され、その結果、それらの特定のmGluRネットワーク遺伝子について複数の行がもたらされることもある。一部のTier1、2又は3遺伝子がこの特定の患者集団からのCNVに表示されていないこともある。
【0124】
総合して、表1-3中のデータは、各Tier内に含まれた多種多様なmGluRネットワーク遺伝子が、TS患者からのCNV中に存在することを示す。TSを有するより大きい患者コホートの遺伝子型を同定した場合、Tier1、Tier2及びTier3内の全ての遺伝子は、TS患者においてCNVの濃縮を示すことになる。
【0125】
実施例3.mGluRネットワーク遺伝子のCNVを有するADHD患者のファソラセタム一水和物(NFC-1)での治療及びチック症候群に対する影響
mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1の遺伝子変化も有する、以前にADHDと診断された年齢が12歳から17歳の間の青年対象において、非盲検第Ib相臨床治験を行って、NFC-1(ファソラセタム一水和物)の安全性、薬物動態及び有効性を調査した。
【0126】
この研究には、任意の出自又は人種の、その年齢が5から95パーセンタイル以内の体重の、他の点では良好な医学的健康状態であると判断された、年齢が12歳から17歳の間である、30のADHD対象を組み入れた。対象の遺伝子型を同定し、彼らが、遺伝子の機能を破壊する可能性のある、mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1のコピー数バリエーション(欠失又は重複)の形態の少なくとも1の遺伝子変化を有した場合、彼らを治験に組み入れた。30の対象のうちの17は、tier1 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを有するが、7の対象は、tier2遺伝子のCNVを有し、6はtier3遺伝子のCNVを有する。登録時に、反復性チックを有する2の対象を含む数名の治験対象が、併存症表現型の証拠を示した。
【0127】
除外基準は、治験責任医師の見解として、研究の結果を混乱させる可能性がある又は研究の完了を妨げる可能性がある、臨床的に有意な精神的若しくは肉体的何れかの疾患に罹患している対象;妊娠中又は授乳中である対象;薬物乱用の履歴がある、違法薬物についての検査で陽性を示す対象;アルコール飲料を飲む対象;又は別の点で彼らのコンプライアンス若しくは適合性に関して治験責任医師に懸念を持たせる対象を含んだ。
【0128】
ファソラセタム一水和物を有効成分として含む50mg又は200mgの何れかのNFC-1カプセル、及びマイクロセルロースを含むプラセボカプセルを研究に使用した。治験の計画は、電話スクリーニング(1日)、登録期(1から2日)、現在ADHD薬で治療中の対象についてのウォッシュアウト期(1-14日)、薬物動態(PK)評価(2日)、その後、用量漸増期(35日)、そして最終投与のおおよそ4週間後の追跡調査期来院、最大127日間であった。全てのADHD薬を研究前のウォッシュアウト期の間に中止した。刺激薬のウォッシュアウト期間は、2-3日であり、アトモキセチン又はノルアドレナリンアゴニストのウォッシュアウト期間は、10-12日であった。新たなADHD薬を研究中に開始しなかった。
【0129】
初期ウォッシュアウト期間、そしてPK評価及び初期安全性評価の後、治験の用量漸増期が5週間にわたって続く。第1週目の間、全ての対象にプラセボカプセルを1日2回投与した。1週間のプラセボ治療後、患者に1週間の50mg bid NFC-1を開始させた。ファソラセタムの以前の用量レベルからの安全性及び応答性データが適切であった場合には、対象の用量を次のより高い用量(100、200又は400mg)に上昇させた。50mg bid用量への耐容性及び薬物への応答を示した対象は、治験の残りの3週間の間、そのレベルを維持することになった。
【0130】
耐容性を示したが、50mg bid用量への応答欠如又は部分的応答を示した対象は、後続の週の間、次のより高い100mg用量に上昇させることになった。100mgで耐容性を示したが、応答の欠如又は部分的応答を示した対象は、後続の週、200mg用量に上昇させることになったが、100mgで耐容性と応答の両方を示した対象は、治験の残りの間、100mg bidを保つことになった。同様に、耐容性と応答の両方を示した、200mg用量に上昇させた対象は、治験の最終週の間200mgを保つことになったが、耐容性を示したが応答の欠如又は部分的応答を示した対象は、最終週の間、400mg用量に変えさせた。30の治験対象のうち、3は、100mgの最大容量を摂取し、9は、200mgの最大容量を摂取し、残りの18は、400mgの最大容量を摂取した。
【0131】
この研究は、チック又はTSを測定することを特に目的としたものではなかったが、反復性チックの病歴のある2個体は、NFC-1での治療中にチックを示さなかった。
【0132】
実施例4.mGluRネットワーク遺伝子のCNVを有するADHD患者のファソラセタム一水和物(NFC-1)での治療及び強迫性症状に対する影響
実施例2に記載の非盲検第Ib相臨床治験で試験した30のADHD対象のうちの8は、強迫性障害(OCD)の症状を有した。チックの対象のうちの1は、OCDの症状も有した。8全ての対象において、OCD症状がNFC-1での治療中に改善した。
【0133】
ODCの1対象は、出血性潰瘍につながる耳ひっかき行動(すなわち、自傷性皮膚症)の病歴も有した。出血性潰瘍は、NFC-1での治療中に治癒した。これは、対象の自傷性皮膚症症状がNFC-1治療中に低減されたことを意味する。
【0134】
実施例5.mGluRネットワークCNVに関連する表現型の研究
年齢が6-17歳である合計1,000のADHD患者を治験に登録させて、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子のCNVに関連し得る表現型を考察した。研究実施施設がDNA試料用の唾液を採取した。次いで、各DNA試料をDNA抽出、遺伝子配列決定、及びDNAのバイオバンキングに付した。
【0135】
遺伝子配列決定結果を病歴と共に使用して、遺伝子型(遺伝子配列決定に基づいて)及び表現型(臨床医と対象の親/後見人により行われた問診に基づいて)評価した。対象は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第5版(DSM-V)により定義された通りのADHD有した。
【0136】
単独の臨床医が、親又は患者の法的後見人に、可能性のある行動又は健康表現型に関する一連の質問をした。個々の表現型各々について、親/後見人に「これは現在の懸念事項ですか」と尋ね、ハイ又はイイエの答えを収集した。臨床医は、ハイ又はイイエの返答の頻度を判定して、表現型データを生成した。
【0137】
この研究により、親の現在の懸念事項としての怒りの制御についての有病率は、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子CNVを有するADHD対象では58.9%であったが、そのようなmGluRネットワーク遺伝子CNVを有さないADHD対象では47.4%に過ぎなかった。この差は、統計的に有意であった(1.59のオッズ比、P=0.003)。1より大きいこのオッズ比は、現在の怒りの制御という懸念事項についての、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子CNVを有するADHD対象の、そのようなCNVを有さない対象に対する高い有病率を含意する。
【0138】
患者にとっての現在の懸念事項としての破壊行動の有病率は、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子CNVを有するADHD対象では57.1%であり、そのようなmGluRネットワーク遺伝子CNVを有さないADHD対象では43.9%であった。この差も統計的に有意であった(1.70のオッズ比、P<0.001)。この差は、親の現在の破壊行動という懸念事項についての、mGluRネットワーク遺伝子突然変異も有するADHD対象の、突然変異を有さない対象に対する高い有病率を示す。
【0139】
実施例6:併存障害を有するADHD対象におけるmGluRネットワーク遺伝子のコピー数バリエーション
ADHDであることが判明している2707の小児対象(平均年齢が10-10.5歳)からの試料の遺伝子型を、550/610 Illuminaチップを用いて同定して、それらがTier1又はTier2遺伝子の一又は複数のCNVを有するかどうかを判定した。2707の対象は、アフリカ系アメリカ人又は白人(それぞれ、1063及び1483)の759の女性及び1778の男性を含んだ。2707の対象のうちの430(16.9%)は、mGluR Tier1又はTier2遺伝子の、少なくとも1のCNVを有した。
【0140】
2707の対象の記録を点検して、世界保健機関国際疾病分類第9版(ICD-9)に従って彼らが併存症と診断されるかどうかも判定した。2707の対象のうち、1902(約70%)は併存症を有したが、805は有さなかった。併存症を有するこれらの1902の対象のうち、約30%は、1を超える併存症を有し、約20%は、2以上を有したが、わずかな百分率は、より多数の共存症を有した。
【0141】
各々100を超える対象に存在した最も有病率の高い共存症を表4に収載する。この表は、共存症をICD-9コードにより収載し、2707の対象の中での症例数(「N」と題する列)及び共存する状態又は障害各々についての名称を提供するものである。
【0142】
表4中の共存症は、以下の少数の異なる群にクラスター化する傾向がある:不安、うつ病又は気分に関係する障害;有病率の高い発達障害;有病率の低い発達障害;並びに自閉症及び関連障害。
【0143】
次いで、表現型データ及び共存症データを組み合わせて、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子のCNVを有する対象のうちの何名が共存症も有するのか判定した。そのようなCNVを有する対象のうちの316(CNV陽性対象の約18%又は全対象の12%)が少なくとも1の共存症も有する一方で、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子CNVを有さない対象のうちの114(CNV陰性対象の約15%又は全対象の4%)が少なくとも1共存症も有することが判明した。この差は、0.118のP値を示した。したがって、併存症は、全体的に見て、CNV陰性対象よりCNV陽性対象のほうによく見られる傾向があった。白人と同定された対象のみを考えた場合、mGluR CNVとADHD併存症には非常に有意な相関関係があった。具体的には、1483の対象のうちの218は、Tier1又は2 mGluRネットワーク遺伝子の、少なくとも1のCNVを有し、これらの218の対象のうち、169は併存症も有したが、49は有さなかった。この差は、0.004のP値を示した。
【0144】
上記明細書は、当業者が実施態様を実施できるようにするのに十分なものであると考えられる。上文の説明及び実施例は、ある特定の実施態様を詳述し、本発明者らが企図する最良の形態を説明するものである。しかし、本文中に出現し得る前述の事項がいかに詳述されていようとも、実施態様を多くの方法で実施することができ、添付の特許請求の範囲及びその任意の均等物に従って実施態様を解釈すべきであることは、理解されるであろう。
【0145】
本明細書で使用される約という用語は、例えば、明確に示されているか否かを問わず、整数、分数及び百分率を含む、数値を指す。約という用語は、当業者が、列挙されている値と等価である(例えば、同じ機能又は結果を有する)と考えるであろう数値範囲(例えば、列挙されている範囲の+/-5-10%)を、一般に指す。少なくとも及び約等の用語が数値又は範囲のリストの前にある場合、これらの用語は、そのリストに与えられている値又は範囲の全てを修飾する。場合によっては、約という用語は、最近有効数字に丸められた数値を含み得る。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】
図2-9】
図2-10】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図3-6】
図3-7】
図3-8】
図3-9】
図3-10】
図3-11】
図3-12】
図3-13】
図3-14】
図3-15】
図3-16】
図3-17】
図3-18】
図3-19】
図3-20】
図3-21】
図3-22】
図3-23】
図3-24】
図3-25】
図3-26】
図3-27】
図3-28】
図3-29】
図4
図5