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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】GLP-1分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20230518BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/30 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/56 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230518BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K31/216
A61K31/201
A61K9/16
A61K9/30
A61K9/56
A61P3/10
A61P43/00 121
A61P43/00 105
A23L33/10
A23L33/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019051851
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020152668
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳本 彩
(72)【発明者】
【氏名】大崎 紀子
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-044927(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102578387(CN,A)
【文献】Journal of Nutritional Science,2015年,vol.4,e9, p.1-9
【文献】日薬理誌,2012年,vol.140,p.275-279
【文献】American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism,2013年,vol.67,p.E651-E660
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類と(B)オレイン酸を有効成分とするGLP-1分泌促進剤。
【請求項2】
(A)3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類を有効成分とする小腸下部におけるオレイン酸のGLP-1分泌促進作用増強剤。
【請求項3】
(B)オレイン酸を有効成分とする小腸下部における3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強剤。
【請求項4】
(A)3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類と(B)オレイン酸を有効成分とするGLP-1分泌促進用食品組成物。
【請求項5】
(A)3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類を有効成分とする小腸下部におけるオレイン酸のGLP-1分泌促進作用増強用食品組成物。
【請求項6】
(B)オレイン酸を有効成分とする小腸下部における3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強用食品組成物。
【請求項7】
小腸下部におけるオレイン酸のGLP-1分泌促進作用を(A)3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類によって増強する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項8】
小腸下部における3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用を(B)オレイン酸によって増強する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項9】
(A)3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸であるクロロゲン酸類と(B)オレイン酸を含有する組成物であって、少なくとも(B)オレイン酸を被覆し、且つ小腸下部で溶解する被覆層を有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP-1の分泌促進作用を発揮する素材に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクレチン(Intestine Secretion Insulin)を標的とした糖尿病治療薬の開発が進められている。インクレチンは栄養素の摂取に伴って消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの総称である。2つの消化管ホルモン、GLP-1(glucagon-like peptide-1)とGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)がインクレチン作用を担うホルモンとして知られている。GLP-1は主に小腸下部や結腸に存在するL細胞から、GIPは小腸上部の十二指腸に多く存在するK細胞から分泌される。
【0003】
消化管内への栄養素の流入、刺激を受けて分泌されたインクレチンは、血糖値の上昇とともに膵β細胞からのインスリン分泌を増加させ、膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制し、血糖低下に働く。一方、血糖値が低い状態ではインスリン分泌は減少し、グルカゴン分泌等が増加して血糖値は上昇する。2つのインクレチンのうち、GLP-1は膵α細胞からのグルカゴン分泌抑制の作用を有している。また、臨床試験において、GLP-1は2型糖尿病患者のインスリン分泌を促す一方で、GIPはインスリン分泌を促進しないことが示されている。
また、膵臓以外の組織で、GLP-1はGIPとは異なる生理作用を有している。GLP-1の膵外作用としては、肝・筋での糖取り込み増加、インスリン抵抗性改善、中枢神経系での食欲抑制、消化管における胃排泄遅延等が報告されている(非特許文献1~3)。これより、GLP-1の効果を高めることは血糖調節に有利に働くと同時に肥満の改善につながる可能性が考えられる。
【0004】
しかしながら、GLP-1はポリペプチドであるため、投与しても生体内の酵素、DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)により不活性化され、半減期は数分と極めて短いためその血中濃度を一定に保つのは非常に困難である。従って、生体内でのGLP-1濃度を長時間にわたって高めるためには、体外からの投与よりも内因性GLP-1の分泌を促進することが望ましい。
これまでの研究では、GLP-1の分泌を促進する物質として、パルミチン酸やオレイン酸等の脂肪酸(非特許文献4~7)、グルコース(非特許文献8~9)、肉加水分解物、ガストリン放出ペプチド、カルバコール、フォルスコリン、イオノマイシン、酢酸ミリスチン酸ホルボール、必須アミノ酸、ロイシン、イソロイシン、スキムミルク、カゼイン、レプチン、ムスカリン性受容体M1及びM2、キラヤ、リゾホスファチジルイノシトール、マジョラム、カワラヨモギ、フェルラ酸、ユッカ、糖セラミド、βカロチン、植物ステロール、ビート、菊花、パプリカ、オレンジ、高麗人参、ビワ茶等が報告されている。
【0005】
一方、特許出願人は、クロロゲン酸類にGLP-1の分泌を促進する作用があることを見出している(非特許文献10)。
しかしながら、クロロゲン酸類と脂肪酸の併用によるGLP-1に対する作用については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Baggio, Laurie L., and Daniel J. Drucker., Gastroenterology 132.6, 2007, p.2131-2157
【文献】Seino, Yutaka, Mitsuo Fukushima, and Daisuke Yabe., Journal of diabetes investigation 1.1‐2, 2010, p.8-23
【文献】Eur J Pharmacol, 440(2-3), 2002, p.269-279
【文献】Li Y, Kokrashvili Z, Mosinger B, Margolskee RF. Gustducin couples fatty acid receptors to GLP-1 release in colon. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2013, 304(6), E651-60
【文献】Hirasawa, Akira, et al. "Free fatty acids regulate gut incretin glucagon-like peptide-1 secretion through GPR120." Nature medicine 11.1, 2005, p.90-94
【文献】Iakoubov, Roman, et al. "Protein kinase Cζ is required for oleic acid-induced secretion of glucagon-like peptide-1 by intestinal endocrine L cells." Endocrinology 148.3, 2007, p.1089-1098
【文献】Kaji, Izumi, Shin-ichiro Karaki, and Atsukazu Kuwahara. "Short-chain fatty acid receptor and its contribution to glucagon-like peptide-1 release." Digestion 89.1, 2014, p.31-36
【文献】Ritzel, U., et al. "Release of glucagon-like peptide-1 (GLP-1) by carbohydrates in the perfused rat ileum." Acta diabetologica 34.1, 1997, p.18-21
【文献】Kong, Marie-France, et al. "Effects of oral fructose and glucose on plasma GLP-1 and appetite in normal subjects." Peptides 20.5, 1999, p.545-551
【文献】Jokura, Hiroko, et al., Nutrition research 35(10), 2015, p.873-881
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、医薬品、食品等に利用することのできるGLP-1分泌促進剤を提供することに関する。また、本発明は、GLP-1の分泌をより促進することのできる組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、GLP-1の分泌を促す素材について検討したところ、クロロゲン酸類と脂肪酸を組み合わせると小腸下部L細胞への刺激が増大し、それらを単独で使用するよりもGLP-1の分泌促進作用が増強することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~9)に係るものである。
1)(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を有効成分とするGLP-1分泌促進剤。
2)(A)クロロゲン酸類を有効成分とする小腸下部における脂肪酸のGLP-1分泌促進作用増強剤。
3)(B)脂肪酸を有効成分とする小腸下部におけるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強剤。
4)(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を有効成分とするGLP-1分泌促進用食品組成物。
5)(A)クロロゲン酸類を有効成分とする小腸下部における脂肪酸のGLP-1分泌促進作用増強用食品組成物。
6)(B)脂肪酸を有効成分とする小腸下部におけるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強用食品組成物。
7)小腸下部における脂肪酸のGLP-1分泌促進作用を(A)クロロゲン酸類によって増強する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
8)小腸下部におけるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用を(B)脂肪酸によって増強する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
9)(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を含有する組成物であって、少なくとも(B)脂肪酸を被覆し、且つ小腸下部で溶解する被覆層を有する組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小腸下部L細胞への刺激を増大させることができ、効果的に、GLP-1の分泌を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】クロロゲン酸類添加群でのGLP-1分泌量。
図2】脂肪酸添加群、クロロゲン酸類及び脂肪酸添加群でのGLP-1分泌量。
図3】グルコース添加群、クロロゲン酸類及びグルコース添加群でのGLP-1分泌量。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一実施形態において、本発明は、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を有効成分とするGLP-1分泌促進剤及びGLP-1分泌促進用食品組成物を提供する。別の実施形態において、本発明は、(A)クロロゲン酸類を有効成分とする小腸下部における脂肪酸のGLP-1分泌促進作用増強剤及びGLP-1分泌促進作用増強用食品組成物を提供する。また、別の実施形態において、本発明は、(B)脂肪酸を有効成分とする小腸下部におけるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強剤及びGLP-1分泌促進作用増強用食品組成物を提供する。また、別の実施形態において、本発明は、小腸下部における脂肪酸のGLP-1分泌促進作用を(A)クロロゲン酸類によって増強する方法を提供する。さらに、別の実施形態において、本発明は、小腸下部におけるクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用を(B)脂肪酸によって増強する方法を提供する。
【0013】
本明細書において「クロロゲン酸類」とは、3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸及び5-カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸のモノフェルロイルキナ酸を併せての総称である。本発明においては上記6種のうち少なくとも1種を含有すればよい。クロロゲン酸類には、立体異性体が存在し、本発明では、それらの純粋な立体異性体又はそれらの立体異性体の混合物を用いることができる。
本明細書において、(A)クロロゲン酸類の含有量は上記6種の合計量に基づいて定義される。なお、クロロゲン酸類が塩又は水和物である場合、クロロゲン酸類の含有量は、遊離酸であるクロロゲン酸類に換算した値とする。クロロゲン酸類の分析は、例えば、通常知られている測定法のうち測定試料の状況に適した分析法により測定することができる。例えば、後掲の実施例に記載の方法で分析することが可能である。
【0014】
(A)クロロゲン酸類は遊離の形態でもよく、塩や水和物の形態でもよい。塩にすることにより水溶性を向上させ、生理学的有効性を増大させることができる。クロロゲン酸類の塩としては、薬学的に許容される塩であればよい。このような塩形成用の塩基物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム等の無機塩基;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が用いられる。このうち、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。
【0015】
(A)クロロゲン酸類は、これを含有する天然物、特に植物から抽出することができ、化学合成により工業的に製造することもできる。本発明では、クロロゲン酸類を含む植物の抽出物を(A)クロロゲン酸類として用いることもできる。
クロロゲン酸類を含有する植物の例としては、コーヒー豆、キャベツ、レタス、アーチチョーク、トマト、ナス、ジャガイモ、ニンジン、リンゴ、ナシ、プラム、モモ、アプリコット、チェリー、ヒマワリ種子、モロヘイヤ、カンショ、南天の葉、ブルーベリー、小麦等が挙げられる。なかでも、クロロゲン酸類の含有量等の観点から、コーヒー豆が好ましい。コーヒー豆の豆種及び産地は、特に限定されない。
コーヒー豆は、生コーヒー豆でも、焙煎コーヒー豆でもよく、これらを併用することもできる。焙煎コーヒー豆は、クロロゲン酸類の含有量の観点から、浅焙煎コーヒー豆であることが好ましい。浅焙煎コーヒー豆のL値は、クロロゲン酸類含量等の観点から、27以上が好ましく、29以上がより好ましく、35以上が更に好ましく、40以上が更に好ましく、また、風味の観点から、62未満が好ましく、60以下がより好ましく、55以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「L値」とは、黒をL値0とし、また白をL値100として、焙煎コーヒー豆の明度を粉砕後に色差計(例えば、スペクトロフォトメーター SE2000、(株)日本電色社製)で測定したものである。
抽出方法及び抽出条件は、適宜選択することができ、例えば、水や熱水、水溶性有機溶媒を用いて、バッチ抽出、ドリップ抽出、カラム抽出等の公知の方法により行うことができる。水溶性有機溶媒としては、例えば、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。抽出方法は、例えば、特開昭58-138347号公報、特開昭59-51763号公報、特開昭62-111671号公報、特開平5-236918号公報に記載の方法等を採用することができる。抽出に付されるコーヒー豆は、未粉砕のものでも、粉砕したものでもよい。
抽出後、得られた抽出液は、常圧濃縮、減圧濃縮、膜濃縮等の公知の手段により濃縮してもよく、また、抽出液や濃縮液を精製してもよい。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の手段により行うことができる。
【0016】
(B)脂肪酸は、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~22の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸を好ましく用いることができる。(B)脂肪酸としては、例えば、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、cis-9-オクタデセン酸(オレイン酸)、11-オクタデセン酸(バクセン酸)、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、9,12,15-オクタデカントリエン酸(α―リノレン酸)、6,9,12-オクタデカトリエン酸(γ―リノレン酸)、9,11,13-オクタデカトリエン酸(エレオステアリン酸)、8,11-エイコサジエン酸、5,8,11-エイコサトリエン酸(ミード酸)、5,8,11-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が挙げられる。脂肪酸は、2種以上を組み合わせてもよい。なかでも、GLP-1分泌促進の観点から、炭素数14から22が好ましく、炭素数16から18がより好ましい。脂肪酸には、立体異性体が存在し、本発明では、それらの純粋な立体異性体又はそれらの立体異性体の混合物を用いることができる。
【0017】
(B)脂肪酸は遊離の形態でもよく、塩の形態でもよい。塩にすることにより水溶性を向上させ、生理学的有効性を増大させることができる。脂肪酸の塩としては、薬学的に許容される塩であればよい。このような塩形成用の塩基物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム等の無機塩基;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が用いられるが、このうち、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。
【0018】
(B)脂肪酸は、単純脂質、複合脂質に由来するものであってよい。
単純脂質は、脂肪酸とアルコールから生成するエステルであり、メタノール、エタノール等の低級アルコールと脂肪酸とのエステル、炭素数8~24の高級アルコールと脂肪酸とのエステルワックス、グリセリンと脂肪酸とのエステルであるグリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)等が挙げられる。
複合脂質とは、単純脂質に、さらにリンや窒素等を含有する脂質であり、リン脂質や糖脂質等が挙げられる。
【0019】
(B)脂肪酸は、これを含有する天然物、特に脂質から抽出することができ、化学合成により工業的に製造することもできる。
脂質の例としては、例えば、大豆油、コーン油、菜種油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、サフラワー油、エゴマ油、魚油、牛脂、ラード、バター等の天然油脂の他、油脂を多く含む食品から得ることができる。油脂を多く含む食品の例としては、種子類、木の実、魚肉、牛肉、牛乳、生クリーム、チーズ、菓子類等が挙げられる。
【0020】
後記実施例に示すように、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸の組み合わせは、L細胞からのGLP-1分泌量を上昇させる作用を有する。しかもその作用は、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸それぞれ単独での作用と比べて優れ、且つ、それぞれ単独で添加した際の効果の相加を超え、相乗的効果であると云える。一方、(A)クロロゲン酸類とグルコースの組み合わせによるGLP-1の分泌促進作用の増強は認められなかった。
このように、GLP-1分泌量を上昇させる作用を有する単独成分を併用しても、分泌促進作用が増強するとは限らないところ、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸の組み合わせは、GLP-1分泌促進剤となり得、またこれを製造するために使用することができる。また、(A)クロロゲン酸類は、(B)脂肪酸のGLP-1分泌促進作用を増強するための脂肪酸のGLP-1分泌促進作用増強剤となり得、またこれを製造するために使用することができる。さらに、(B)脂肪酸は、(A)クロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用を増強するためのクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強剤となり得、またこれを製造するために使用することができる。
また、ヒトを含む動物に投与又は摂取することにより、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸は、これによってGLP-1分泌を促進することができ、(A)クロロゲン酸類は、これによって脂肪酸のGLP-1分泌促進作用を増強することができ、(B)脂肪酸は、これによってクロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用を増強することができる。
さらに、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸の組み合わせは、GLP-1分泌の促進のために使用することができ、(A)クロロゲン酸類は、(B)脂肪酸のGLP-1分泌促進作用を増強するために使用することができ、(B)脂肪酸は、(A)クロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用を増強するために使用することができる。
(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸の組み合わせは、このGLP-1分泌促進の作用を介して様々な状態の制御、例えば、肥満、糖尿病等の生活習慣病の予防及び/又は改善のため、肝・筋での糖取り込み増加のため、インスリン抵抗性改善のため、中枢神経系での食欲抑制のため、消化管における胃排泄遅延のために使用することができる。
【0021】
本明細書において、「GLP-1分泌促進」とは、生体内でのGLP-1分泌を促進することを意味する。本発明においては、小腸下部のL細胞からのGLP-1分泌の促進に適する。「GLP-1分泌促進」は、生体内でのGLP-1分泌に伴う血中GLP-1濃度上昇の促進、上昇したGLP-1濃度の維持、又は上昇したGLP-1濃度の低下抑制、すなわち血中GLP-1濃度の安定化のいずれをも含む概念である。
「使用」は、ヒトを含む動物への投与又は摂取であり、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0022】
本発明において、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸はどちらを先に投与しても、同時に投与してもよい。両剤を同時に投与しない場合、両剤の投与間隔は、(A)クロロゲン酸類又は(B)脂肪酸のGLP-1分泌促進作用の増強効果を奏するかぎり適宜選択しうる。
(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を組み合わせてなる剤は、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を配合剤として一の剤型に製剤化したものでも、また単独に製剤化したものを同時に又は間隔を空けて別々に使用できるようにしたキットであってもよい。
【0023】
本発明のGLP-1分泌促進剤、脂肪酸のGLP-1分泌促進作用増強剤、クロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強剤(以下、「GLP-1分泌促進剤等」とも称する)は、ヒトを含む動物に投与又は摂取した場合にGLP-1分泌促進や脂肪酸のGLP-1分泌促進作用増強、クロロゲン酸類のGLP-1分泌促進作用増強の効果を発揮する医薬品、医薬部外品、食品又は飼料となり、また当該医薬品、医薬部外品、食品又は飼料に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
【0024】
上記医薬品(以下、医薬部外品も含む)の投与形態としては、固形、半固形又は液状であり得、例えば、顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、散剤、トローチ剤、液剤、シロップ剤等による経口投与;注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。好ましくは経口投与、小腸内投与である。形態は使用目的に応じて大きさを任意に調節することができる。
このような種々の剤形の製剤は、必要に応じて、薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、保存剤、増粘剤、流動性改善剤、嬌味剤、発泡剤、香料、被膜剤、希釈剤等や、クロロゲン酸類と脂肪酸以外の薬効成分を適宜組み合わせて調製することができる。
【0025】
上記食品には、GLP-1分泌促進を訴求とし、必要に応じてその旨の表示が許可された食品(特定保健用食品、機能性表示食品)が含まれる。表示の例としては、「インスリン抵抗性を改善させる」「HbA1Cを改善させる」「空腹時血糖値を低下させるのを助ける」がある。機能表示が許可された食品は、一般の食品と区別することができる。
食品の形態としては、固形、半固形又は液状であり得、各種食品組成物(パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、シェイク、飲料等)、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、トローチ剤等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。飲料は、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料等が挙げられる。形態は使用目的に応じて大きさを任意に調節することができる。
種々の形態の食品は、必要に応じて、他の食品材料、例えば、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、流動性改善剤、発泡剤、香科、調味料等や、クロロゲン酸類や脂肪酸以外の有効成分を適宜組み合わせて調製することができる。
【0026】
上記飼料の形態としては、好ましくはペレット状、フレーク状又はマッシュ状であり、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥等に用いるペットフード等が挙げられる。
飼料は、必要に応じて、他の飼料材料、例えば、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等や、クロロゲン酸類や脂肪酸以外の有効成分を適宜組み合わせて常法により調製することができる。
【0027】
一実施形態において、本発明は、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸を含有する組成物であって、少なくとも(B)脂肪酸を被覆し、且つ小腸下部で溶解する被覆層を有する組成物を提供する。組成物は、医薬品、医薬部外品、食品の形態であってよい。ここで、(A)クロロゲン酸類、(B)脂肪酸は、また、医薬品、医薬部外品、食品の形態としては、上述したものと同様である。
一般的に、脂肪酸は小腸上部で吸収されるため、小腸上部を通過する投与又は摂取であると、L細胞が高局在する小腸下部においては脂肪酸によるGLP-1の分泌促進作用が十分に得られない。これに対して、本発明の組成物における被膜層の存在によれば、L細胞の高局在する小腸下部において(B)脂肪酸の放出をもたらすことができ、したがって小腸下部において消化管で吸収されにくい(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸とが共存することで両者によるL細胞への刺激が増大し、GLP-1分泌促進効果の増強が見込まれる。従って、本発明の組成物は、GLP-1分泌促進のために好適に用いることができる。
本発明における「小腸下部で溶解する被覆層」とは、小腸下部に達するまで溶解せず、小腸下部で溶解する一般的な腸溶性の被覆層であれば良く、さらに有効成分を小腸下部へ選択的に送達する観点で、人の消化管内の物理的・生理的環境及び消化管内移動時間を考慮した設計(例えば、徐放性型、持続放出型、時限放出型等)とするのが好ましい。さらに、唾液耐性及び/又は胃液耐性の外層と活性成分の放出を制御する内層とを有する設計とするのが好ましい。
被覆層を構成する成分としては、例えば、キトサン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ゼラチン、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体、ろう類、硬化油類等が挙げられる。被覆層は、必要に応じて、着香物質、香味剤、甘味料、着色料等を備えることができる。
【0028】
本発明のGLP-1分泌促進剤等及び本発明の組成物において(A)クロロゲン酸類の含有量は、投与又は摂取のしやすさ、小腸に到達し作用するまでに唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液等によって希釈されることを考慮して、好ましくは0.00001質量%以上、より好ましくは0.00002質量%以上、更に好ましくは0.00005質量%以上、より更に好ましくは0.0001質量%以上であり、また、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0029】
本発明のGLP-1分泌促進剤等及び本発明の組成物において(B)脂肪酸の含有量は、投与又は摂取のしやすさ、小腸に到達し作用するまでに唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液等によって希釈されることを考慮して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上、より更に好ましくは0.008質量%以上であり、また、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下である。脂肪酸が塩である場合、脂肪酸の含有量は、遊離酸である脂肪酸に換算した値とする。
【0030】
本発明のGLP-1分泌促進剤等及び本発明の組成物において、(A)クロロゲン酸類と(B)脂肪酸の比率は、GLP-1分泌促進の観点から、その質量比[(A)/(B)]で、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは1以下である。
【0031】
本発明のGLP-1分泌促進剤等の投与量又は摂取量、本発明の組成物の投与量又は摂取量は、投与又は摂取対象者の体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、投与又は摂取のしやすさ、小腸に到達し作用するまでに唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液等によって希釈されることを考慮して、通常、成人1人(60kg)に対して1日あたり、(A)クロロゲン酸類として、好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上、更に好ましくは100mg以上であり、また、好ましくは30000mg以下、より好ましくは10000mg以下、更に好ましくは5000mg以下である。
また、(B)脂肪酸として、成人1人(60kg)に対して1日あたり、好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上、更に好ましくは100mg以上であり、また、好ましくは30000mg以下、より好ましくは10000mg以下、更に好ましくは5000mg以下である。
本発明では斯かる量を1日に1回~複数回、好ましくは1日に1回投与又は摂取するのが好ましい。
【0032】
本発明のGLP-1分泌促進剤等及び本発明の組成物は、任意の計画に従って投与又は摂取され得る。
投与又は摂取期間は特に限定されないが、反復・連続して投与又は摂取することが好ましく、2週間以上、更に4週間以上、更に8週間以上、連続して投与又は摂取することが好ましい。
【0033】
本発明のGLP-1分泌促進剤等及び本発明の組成物は、摂食・摂餌時、摂食・摂餌前又は摂食・摂餌後に投与又は摂取するのが好ましい。より好ましくは摂食・摂餌後から10分以内に投与又は摂取するのが好ましい。摂食(摂餌)の内容としては、特に限定されず、タンパク質、糖質、脂質を含む食事又は餌が挙げられるが、糖質、脂質を含む食事又は餌が好ましい。
投与又は摂取対象者としては、それを必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物等であれば特に限定されない。対象の好ましい例として、単純性肥満者や糖尿病患者、それの予備軍が挙げられる。
【実施例
【0034】
(1)試験サンプル溶液の調製
浅焙煎コーヒー豆の粉砕物を熱水で抽出後、活性炭を用いたカラムで処理後、スプレードライ乾燥することで、浅焙煎コーヒー豆抽出物を得た。得られた浅焙煎コーヒー豆抽出物は、クロロゲン酸類(6種)含量が24.2質量%、カフェイン含量が0.1質量%であった。
なお、クロロゲン酸類及びカフェインの定量にはHPLC(日立製作所(株)製)を使用した。HPLCでは、試料1gを精秤後、溶離液にて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm、ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。5-カフェオイルキナ酸及びカフェインを標準物質として、3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸、5-カフェオイルキナ酸、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸、5-フェルロイルキナ酸、カフェインを定量した。
【0035】
Krebs-Ringer Bicarbonate(KRB) Buffer(SIGMA―ALDRICH社)にCaCl2(富士フイルム和光純薬(株)、終濃度1mM)溶液及びDPP IV Inhibitor(メルクミリポア、2質量%添加)を加えたものに、試験サンプルを溶解した。試験サンプル溶液は、試験当日に調整し、試用直前まで37℃で保温した。
実験に用いるクロロゲン酸類含有試験サンプル溶液は、クロロゲン酸類濃度が3μM、300μMとなるように調整し、溶解させるため30分間超音波処理を実施した。また、脂肪酸含有試験サンプル溶液は、オレイン酸ナトリウム塩(SIGMA-ALDRICH社)を0.4mM、Bovine Serum Albumin Fraction v、Fatty acid free from bovine serum(SIGMA-ALDRICH社)が終濃度0.2%となるように含む試験サンプル溶液を調整し、溶解させるため30分間超音波処理を実施した。グルコース含有試験サンプル溶液は、D-(+)-Dextrose(東京化成工業(株))を終濃度250mMとなるように調整した。また、対照としてクロロゲン酸類及び脂肪酸、グルコースを加えない試験サンプル溶液を準備した。
【0036】
(2)細胞培養
腸L細胞のin vitroモデルであるNCI-H716細胞(ヒト盲腸腺癌由来上皮細胞、表1参照)(American Type Culture Collection社)を用いて実験を行った。細胞は75cm2フラスコに播種し、37℃、5%CO2存在下で培養した。増殖培地には、RPMI1640(10%ウシ胎児血清含有、高グルコース)培地(Invitrogen社)を用いた。細胞の分化誘導にはDMEM(10%ウシ胎児血清含有、高グルコース)培地(Invitrogen社)を用いた。48ウェルプレートにマトリゲル(BD社)を60μl/wellとなるようにコーティングし、37℃で30分間インキュベートした後、2.5×105 cells/500μl/wellとなるように細胞を播種し、3日間培養し分化させた。
【0037】
【表1】
【0038】
(3)GLP-1分泌刺激実験
上述のように分化させた細胞を37℃に加温したKRB培地600μLで2回洗浄した後、前記試験サンプル溶液250μLに交換し、37℃、5%CO2存在下で2時間インキュベートした。上澄みをアプロチニン溶液(富士フイルム和光純薬(株)、6500KIU/mLに調整)を10μL加えたマイクロチューブに回収し、遠心(5000r/min、5分、4℃)した。上清を回収し、GLUCAGON LIKE PEPTIDE-1(ACTIVE)ELISA, 96-WELL PLATE(メルクミリポア)を用いて、GLP-1の定量を行った。GLP-1の測定は、キットのプロトコルに従って行い、サンプルは添付のAssay bufferで10倍希釈して用いた。
有意差の検定は、群間の比較をt検定で評価した。有意水準は全て5%とし、P値が有意水準を下回った時に、統計的に有意と判断した(*p < 0.05、**p<0.01,vs. 対照)。有意差の検定にはMicrosoft Excelを使用した。得られた数値は平均値±標準誤差で示した
【0039】
(4)結果
試験サンプル溶液添加後のGLP-1の定量結果を図1図3に示す。ここでGLP-1の分泌量は対照を添加した時のGLP-1の分泌量を「1」とし、対照を添加した際のGLP-1の分泌量に対する相対値として示している。
クロロゲン酸類300μM添加によるGLP-1分泌量は対照と比較して、約15%の増加であった(図1)。脂肪酸によるGLP-1分泌量は対照と比較して、約49%の増加であり(図2)、グルコースによるGLP-1分泌量は対照と比較して約65%の増加であった(図3)。一方、クロロゲン酸類とグルコースを併用して添加した場合のGLP-1分泌量は、対照と比較して約51%の増加であった(図3)。従って、クロロゲン酸類とグルコースを組み合わせることによるGLP-1分泌への効果は認められなかった。これに対して、クロロゲン酸類と脂肪酸を併用して添加した場合のGLP-1分泌量は、対照と比較して約171%の増加であったことから、クロロゲン酸類と脂肪酸を共存させることによるGLP-1分泌への効果は相乗的であると考えられた。
図1
図2
図3