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特許7281408不燃性準固体電解質及びこれを含むリチウム二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】不燃性準固体電解質及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230518BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230518BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20230518BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230518BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M12/08 K
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/60
H01M4/505
H01M4/38 Z
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2019551686
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 US2017038262
(87)【国際公開番号】W WO2018174924
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】15/468,080
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】パン,バオフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホー,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0363746(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106299472(CN,A)
【文献】国際公開第2016/029379(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103579676(CN,A)
【文献】特開2015-103449(JP,A)
【文献】特開2007-180016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード活物質を有するカソードと、アノード活物質を有するアノードと、前記アノードと前記カソードを電子的に分離する任意選択の多孔質セパレータと、前記カソードと前記アノードに接触する不燃性準固体電解質とを含む充電式リチウムセルにおいて、
前記電解質は、前記電解質が、20℃で測定した場合に0.01kPa未満の蒸気圧、液体溶媒のみの蒸気圧の60%未満の蒸気圧、前記液体溶媒のみの引火点より少なくとも20℃高い引火点、150℃を超える引火点、又は引火点なしを示すように、1.5M~5.0Mのリチウム塩濃度を有する液体溶媒と液体添加剤の混合物に溶解されたリチウム塩を含み、
前記液体添加剤は、前記液体溶媒とは組成が異なり、リン酸トリアリル(TAP)、硫酸エチレン(DTD)、アルキルシロキサン(Si-O)、アルキルシラン(Si-C)、液体オリゴマーシラキサン(-Si-O-Si-)、又はこれらの組み合わせから選択され、前記混合物における前記液体添加剤対前記液体溶媒比は、重量で5/95~95/5であり、
前記液体溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、又は、イオン液体溶媒を含んでおり、
前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項2】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記リチウム塩濃度は1.75M~3.5Mであることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項3】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記濃度は2.0M~3.0Mであることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項4】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記混合物における前記液体添加剤対前記液体溶媒比は、重量で15/85~85/15であることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項5】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記混合物における前記液体添加剤対前記液体溶媒比は、重量で25/75~75/25であることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項6】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記混合物における前記液体添加剤対前記液体溶媒比は、重量で35/65~65/35であることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項7】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、リチウム金属二次セル、リチウム-イオンセル、リチウム-硫黄セル、リチウムイオン-硫黄セル、リチウム-セレンセル、又はリチウム-空気セルであることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項8】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記電解質は、0.4より大きいリチウムイオン移動数を有することを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項9】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記電解質は、0.6より大きいリチウムイオン移動数を有することを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項10】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記電解質は、0.75より大きいリチウムイオン移動数を有することを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項11】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記電解質中の前記リチウム塩のモル分率又は分子分率は、0.2より大きいことを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項12】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記電解質中の前記リチウム塩のモル分率又は分子分率は、0.3より大きいことを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項13】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記電解質中の前記リチウム塩のモル分率又は分子分率は、0.4より大きいことを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項14】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記カソード活物質は、金属酸化物、金属酸化物を含まない無機材料、有機材料、ポリマー材料、硫黄、多硫化リチウム、セレン、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項15】
請求項14に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記無機材料は、遷移金属フッ化物、遷移金属塩化物、遷移金属ジカルコゲニド、遷移金属トリカルコゲニド、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項16】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記カソード活物質は、FeF、FeCl、CuCl、TiS、TaS、MoS、NbSe、MnO、CoO、酸化鉄、酸化バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項17】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記カソード活物質は、VO、LiVO、V、Li、V、Li、Li、V、Li、V13、Li13、これらのドープされたバージョン、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される酸化バナジウムを含み、0.1<x<5であることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項18】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記カソード活物質は、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、かんらん石化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO、又はこれらの組み合わせを含み、Mは遷移金属又は複数の遷移金属の混合物であることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項19】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記カソード活物質は、(a)セレン化ビスマス又はテルル化ビスマス、(b)遷移金属ジカルコゲニド又はトリカルコゲニド、(c)ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、チタン、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、又は遷移金属の硫化物、セレン化物、又はテルル化物、(d)窒化ホウ素、或いは(e)これらの組み合わせから選択される無機材料を含むことを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項20】
請求項14に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記有機材料又はポリマー材料は、ポリ(アントラキノニルスルフィド)(PAQS)、リチウムオキソカーボン、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ポリ(アントラキノニルスルフィド)、ピレン-4,5,9,10-テトラオン(PYT)、ポリマー結合PYT、キノ(トリアゼン)、レドックス活性有機材料、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、2,3,6,7,10,11-ヘキサメトキシトリフェニレン(HMTP)、ポリ(5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン)(PADAQ)、ホスファゼンジスルフィドポリマー([(NPS]n)、リチウム化1,4,5,8-ナフタレンテトラオールホルムアルデヒドポリマー、ヘキサアザトリナフチレン(HATN)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT(CN))、5-ベンジリデンヒダントイン、イサチンリチウム塩、ピロメリット酸ジイミドリチウム塩、テトラヒドロキシ-p-ベンゾキノン誘導体(THQLi)、N,N’-ジフェニル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PHP)、N,N’-ジアリル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(AP)、N,N’-ジプロピル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PRP)、チオエーテルポリマー、キノン化合物、1,4-ベンゾキノン、5,7,12,14-ペンタセネテトロン(PT)、5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADDAQ)、5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADAQ)、カリックスキノン、Li、Li、Li、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項21】
請求項20に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記チオエーテルポリマーは、主鎖チオエーテルポリマーとして、ポリ[メタンテトリル-テトラ(チオメチレン)](PMTTM)、ポリ(2,4-ジチオペンタニレン)(PDTP)、ポリ(エテン-1,1,2,2-テトラチオール)(PETT)を含むポリマー、共役芳香族部位からなる主鎖を有し、ペンダントとしてチオエーテル側鎖を有する側鎖チオエーテルポリマー、ポリ(2-フェニル-1,3-ジチオラン)(PPDT)、ポリ(1,4-ジ(1,3-ジチオラン-2-イル)ベンゼン)(PDDTB)、ポリ(テトラヒドロベンゾジチオフェン)(PTHBDT)、ポリ[1,2,4,5-テトラキス(プロピルチオ)ベンゼン](PTKPTB、又はポリ[3,4(エチレンジチオ)チオフェン](PEDTT)から選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項22】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記カソード活物質は、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、スズフタロシアニン、鉄フタロシアニン、鉛フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、フルオロクロムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、マンガンフタロシアニン、ジリチウムフタロシアニン、塩化アルミニウムフタロシアニン、カドミウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銀フタロシアニン、無金属フタロシアニン、これらの化学誘導体、又はこれらの組み合わせから選択されるフタロシアニン化合物を含むことを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項23】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記イオン液体溶媒は、テトラアルキルアンモニウム、ジ-、トリ-、又はテトラ-アルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキル-ピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、又はこれらの組み合わせから選択されるカチオンを有する室温イオン液体から選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項24】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記イオン液体溶媒は、BF 、B(CN) 、CHBF 、CHCHBF 、CFBF 、CBF 、n-CBF 、n-CBF 、PF 、CFCO 、CFSO 、N(SOCF 、N(COCF)(SOCF、N(SOF) 、N(CN) 、C(CN) 、SCN、SeCN、CuCl 、AlCl 、F(HF)2.3 、又はこれらの組み合わせから選択されるアニオンを有する室温イオン液体から選択されることを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項25】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記アノードは、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウム金属又はリチウム合金とリチウムインターカレーション化合物の混合物、リチウム化化合物、リチウム化二酸化チタン、リチウムチタン酸塩、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、LiTi12、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式リチウムセル。
【請求項26】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、前記アノードは、
(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdの他の元素との合金又は金属間化合物、並びにこれらのリチウム化バージョン、前記合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物又は複合体、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びに
これらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式リチウムセル
【請求項27】
請求項1に記載の充電式リチウムセルにおいて、0.2の分子分率未満の電解質塩濃度を有する対応するリチウム-空気セルと比較して、より高い往復効率(充電時に電池に供給されたエネルギー量に対して放電時に電池が供給できるエネルギー量)又は放電容量の低下に対するより高い耐性を有するリチウム-空気セルであることを特徴とする充電式リチウムセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用する、どちらも2017年3月23日に出願された米国特許出願第15/468,080号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、不燃性電解質組成物、及びこのような電解質組成物を含む二次又は充電式リチウム電池を提供する。
【背景技術】
【0003】
充電式リチウムイオン(Liイオン)、リチウム金属、リチウム-硫黄及びLi金属-空気電池が、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及びポータブル電子デバイス、例えばラップトップコンピュータ及び携帯電話用の有望な電源とみなされている。金属元素としてのリチウムは、アノード活性材料としての任意の他の金属又は金属インターカレーション化合物(4,200mAh/gの比容量を有するLi4.4Siを除く)と比較して最高のリチウム貯蔵容量(3,861mAh/g)を有する。従って、一般に、Li金属電池(リチウム金属アノードを有する)は、リチウム-イオン電池(黒鉛アノードを有する)よりも大幅に高いエネルギー密度を有する。
【0004】
歴史的には、充電式リチウム金属電池は、リチウム金属アノードと結合されたカソード活性材料として、TiS、MoS、MnO、CoO、及びVなど、比較的高い比容量を有する非リチウム化化合物を使用して製造された。電池が放電されると、リチウム金属アノードから電解質を通ってカソードにリチウムイオンが移動され、カソードがリチウム化された。残念ながら、充電及び放電を繰り返すと、リチウム金属がアノードでデンドライトを形成し、このデンドライトは、最終的には内部短絡、熱暴走及び爆発を引き起こした。この問題に関連した一連の事故の結果、1990年代初頭にこれらのタイプの二次電池の生産が中止され、リチウムイオン電池に取って代わられた。
【0005】
現在でも、EV、HEV、及びマイクロ電子デバイス用途向けのLi金属電池(例えば、リチウム-硫黄セル及びリチウム-遷移金属酸化物セル)の更なる商業化を妨げる主な要因は、依然としてサイクルの安定性と安全性の懸念である。繰り返すが、リチウム金属充電式電池のサイクル安定性と安全性の問題は、主に、充放電サイクルが繰り返される間又は過充電中にLi金属がデンドライト構造を形成する傾向が高く、内部電気短絡と熱暴走につながることに関連している。この熱暴走又更には爆発は、電解質で使用される有機液体溶媒(例えば、炭酸塩及びエーテル系溶媒)によって引き起こされるが、これらは残念ながら非常に揮発性で可燃性である。
【0006】
デンドライトと熱暴走の問題に対処するために多くの試みが行われてきた。しかしながら、これらの初期での取り組みにもかかわらず、充電式Li金属電池は市場で成功していない。これは、これらの従来技術の手法には依然として大きな欠陥があるという概念による可能性が高い。例えば、いくつかの場合、デンドライトの防止のために設計されたアノード又は電解質構造は複雑すぎる。他のものでは、材料が高すぎる又はこれらの材料の製造プロセスが面倒又は困難すぎる。ほとんどのリチウム金属セル及びリチウム-イオンセルでは、電解質溶媒は可燃性である。Li金属電池及び他の充電式電池における、Li金属デンドライトが誘発する内部短絡と熱暴走の問題を防ぐための、より簡易で費用効果が高く実装がより容易な手法が緊急に必要とされている。
【0007】
これらの取り組みと並行し、初期のリチウム金属二次電池の安全性に関する前述の懸念に促されて、リチウムイオン二次電池の開発に至り、ここでは、純粋なリチウム金属のシート又はフィルムが、アノード活物質として炭素質材料(例えば、天然黒鉛粒子)によって置換された。炭素質材料は、(例えば、グラフェン面間でのリチウムイオン又は原子のインターカレーションにより)リチウムを吸収し、リチウムイオン電池動作のそれぞれ再充電段階中及び放電段階中にリチウムイオンを脱着する。炭素質材料は、リチウムとインターカレートすることができる黒鉛を主に含むことがあり、得られる黒鉛インターカレーション化合物は、Liとして表すことができ、ここで、xは典型的には1未満である。
【0008】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリは、電気駆動車用の有望なエネルギー貯蔵デバイスであるが、現況技術のLiイオン電池は、コスト面、安全面及び性能面での目標をまだ満たしていない。Liイオンセルは、典型的には、炭素負極(アノード)に対して高電位でLi+を脱/再インターカレートする正極(カソード)としてリチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩を使用する。リチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩ベースのカソード活性材料の比容量は、典型的には140~170mAh/gの範囲内である。その結果、市販のLiイオンセルの比エネルギーは、典型的には120~220Wh/kg、最も典型的には150~180Wh/kgの範囲内である。これらの比エネルギー値は、バッテリ駆動式電気自動車が広く受け入れられるために必要とされるよりも2~3倍低い。
【0009】
更に、リチウム金属二次電池に以前使用されていた同じ可燃性溶媒は、ほとんどのリチウム-イオン電池にも使用されている。リチウム-イオンセル(リチウム金属セルと比較して)でデンドライトを形成する傾向が大幅に低下するという概念にもかかわらず、リチウム-イオンセルにはその固有の安全性の問題がある。例えば、リチウム金属酸化物カソードの遷移金属元素は、有機溶媒の分解を促進及び加速できる非常に活性な触媒であり、比較的低い電解質温度で熱暴走又は爆発の発生を引き起こす(例えば、<200℃、触媒効果のない通常の400℃に対して)。
【0010】
イオン液体(IL)は、異常に低い温度で液体である、新しい部類の純粋にイオン性の、塩のような材料である。ILの公式の定義では、基準点:「イオン液体は、100℃未満の液体であるイオン化合物である」として水の沸点を使用する。特に有用で科学的に興味深い部類のILは、室温イオン液体(RTIL)であり、これは、室温以下で液体の塩を指す。RTILは、有機液体塩又は有機溶融塩とも呼ばれる。RTILの受け入れられている定義は、周囲温度より低い溶融温度を有する任意の塩である。
【0011】
ILは不燃性のため、充電式リチウム電池の潜在的な電解質として提案されたが、従来のイオン液体組成物は、おそらくいくつかの固有の欠点のために電解質として使用した場合、満足のいく性能を示さなかった:(a)ILは室温以下で比較的高い粘度を有し、従って、リチウムイオン輸送の影響を受けにくいと考えられる。(b)Li-Sセルの使用の場合、ILはカソードで多硫化リチウムを溶解することができ、溶解した種をアノードに移動させることができる(即ち、シャトル効果は厳しいままである)。(c)リチウム金属二次セルの場合、ほとんどのILはアノードでリチウム金属と強く反応し、Liを消費し続け、充放電を繰り返す間、電解質自体を使い果たす。これらの要因により、比容量が比較的低くなり(特に、高電流又は高充電/放電速度条件で、従って出力密度が低くなる)、比エネルギー密度が低くなり、容量が急速に減衰しサイクル寿命が短くなる。更に、ILは依然として非常に高価である。結果として、今日の時点で、市販のリチウム電池は、主要な電解質成分としてイオン液体を使用していない。
【0012】
ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(HEV)、全電池電気自動車(EV)の急速な発展に伴って、大幅に高い比エネルギー、より高いエネルギー密度、より高いレート性能、長いサイクル寿命、及び安全性を備える充電式電池を提供するアノード及びカソード材料及び電解質が緊急で必要である。最も有望なエネルギー貯蔵デバイスの1つは、リチウム-硫黄(Li-S)セルである。これは、Liの理論容量が3,861mAh/gであり、Sの理論容量が1,675mAh/gであるからである。Li-Sセルは、その最も単純な形態では、正極としての元素硫黄と、負極としてのリチウムとからなる。リチウム-硫黄セルは、Li/Liに対して2.2Vに近い反応S+16Li⇔8LiSで表される酸化還元対で動作する。この電気化学電位は、従来の正極によって示される電位の約2/3である。しかし、この欠点は、LiとSの両方の非常に高い理論容量によって相殺される。従って、従来のインターカレーションに基づくLiイオン電池と比較して、Li-Sセルは、大幅に高いエネルギー密度(容量と電圧の積)を提供する可能性を有する。LiSへの完全な反応を想定すると、値は、LiとSの合計重量又は体積(総セル重量又は体積ではなく)に基づいて、それぞれ2,500Wh/kg又は2,800Wh/lに近づくことができる。適切なセル設計により、1,200Wh/kg(セル重量の)のセルレベルの比エネルギーと1,400Wh/l(セル容積の)のセルレベルのエネルギー密度とを達成できるはずである。しかしながら、硫黄カソード技術の業界リーダーの現在のLi-硫黄製品は、400Wh/kgの最大セル比エネルギー(総セル重量に基づく)を有し、実際の実践で得られることができるものよりはるかに低い。
【0013】
要約すると、その大きな利点にもかかわらず、充電式リチウム金属セル全般、特にLi-SセルとLi-空気セルは、その広範な商業化を妨げているいくつかの主要な技術的問題に悩まされている。
(1)従来のリチウム金属二次セル(例えば、充電式Li金属セル、Li-Sセル、及びLi-空気セル)には、デンドライトの形成、並びに関連する内部短絡及び熱暴走の問題が依然として存在する。また、従来のLi-イオンセルは、依然として主要な電解質溶媒としてかなりの量の可燃性液体(例えば、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、1,3-ジオキソランなど)を使用しており、爆発の危険性がある。
(2)このLi-Sセルは、放電-充電サイクル中に大幅な容量減衰を示す傾向がある。これは主に、電解質に使用される極性有機溶媒中での放電プロセスと充電プロセスの両方において反応中間体として形成されるポリ硫化リチウムアニオンの高い可溶性によるものである。サイクリング中、ポリ硫化リチウムアニオンは、セパレータ及び電解質を通ってLi負極に移動することがあり、そこで還元されて固体の沈殿物(Li及び/又はLiS)となり、活性質量損失を引き起こす。更に、放電中に正極の表面に析出する固体生成物が電気化学的に不可逆的になり得、これも活性質量損失の一因となる。
(3)より一般的に言えば、元素硫黄、有機硫黄、及び炭素-硫黄材料を含むカソードを含むセルの大きな欠点は、カソードからセルの残りの部分への、可溶性硫化物、ポリ硫化物、オルガノスルフィド、硫化炭素、及び/又はポリ硫化炭素(本明細書では以後、アニオン性還元生成物と呼ぶ)の溶解及び過剰な外方拡散に関する。この現象は一般的にシャトル効果と呼ばれる。このプロセスは、以下のようないくつかの問題を生じる:高い自己放電率、カソード容量の損失、活性セル構成要素への電気的接触の喪失をもたらす集電体及び電気的リードの腐食、アノードの機能不全をもたらすアノード表面の汚れ、並びに、イオン輸送の喪失及びセル内の内部抵抗の大きな増加をもたらすセル膜セパレータの細孔の目詰まり。
【0014】
これらの課題に対応して、新規の電解質、リチウムアノード用の保護フィルム、及び固体電解質が開発されている。いくつかの興味深いカソードの開発が最近報告されており、ポリ硫化リチウムを含む。しかし、それらの性能は、まだ実用的な用途に必要な性能に至っていない。元素硫黄、有機硫黄及び炭素硫黄カソード材料、又はこれらの誘導体及び組み合わせを含む高エネルギー密度の充電式セルの製造のために提案された様々な手法にもかかわらず、(a)これらのセルにおけるカソードコンパートメントから他のコンポーネントへのアニオン還元生成物の外部への分散を遅らせ、(b)電池の安全性を向上させ、(c)多数のサイクルにわたって高容量の充電式セルを提供する材料及びセルの設計の必要性が依然として存在する。
【0015】
繰り返すが、リチウム金属(純粋なリチウム、他の金属元素とリチウムの合金、又はリチウム含有化合物を含む)は、本質的に他の全てのアノード活物質(純粋なシリコンを除き、シリコンには粉砕の問題がある)と比較して、最も高いアノード比容量を依然として提供する。火災や爆発の危険などのデンドライト関連の問題に対処できれば、リチウム金属はリチウム-硫黄二次電池の理想的なアノード材料になる。更に、リチウムが帯電状態のSi、Sn、SnO、又はGeの格子サイトに挿入されるリチウムイオン電池には、高い比リチウム貯蔵容量を示す非リチウムアノード活物質がいくつかある(例えば、アノード活物質としてSi、Sn、SnO、及びGe)。これらの潜在的に有用なアノード材料は、従来技術のLi-Sセルではほとんど無視されてきた。
【0016】
我々の研究グループは、以前に準固体電解質の戦略を発見した(Hui He,Yanbo Wang,Aruna Zhamu,and Bor Z.Jang,“Lithium Secondary Batteries Containing a Non-flammable Quasi-solid Electrolyte,”米国特許第9,368,831号明細書(2016年6月14日))。この戦略は、有機液体溶媒に溶解したリチウム塩の濃度が3.5Mを超える場合(特に5Mを超える場合)、液体電解質が、固体のように挙動し、Li-イオンセルの電解質を本質的に不燃性にし、リチウム金属セルにおけるリチウムデンドライトの貫通を停止し、Li-Sセルにおけるシャトル効果を防ぐ能力を有することを維持する。しかしながら、3.5Mより高いリチウム塩濃度を有する電解質は、電池セルが作製されるときに乾電池に電解質を注入することを困難にする。塩濃度が5Mを超えると、典型的には、電解質は良好に流れず(固体のような粘性を有し)注入できない。これは、固体状電解質が、乾電池の製造、これに続く液体電解質の注入及び電解質が充填されたセルの密閉を伴う、業界におけるリチウム電池の製造の現在の慣行と適合しなくなる場合があることを意味する。更に、リチウム塩は、典型的には溶媒自体よりはるかに高価であり、従って、塩濃度が高いほど電解質コストが高くなる。結果として、異なる製造設備への変更も必要になるこのより高価な固体状電解質を使用することには消極的である。
【0017】
従って、本発明の一般的な目的は、既存の電池製造設備と適合性のある充電式リチウムセル用の、安全で不燃性であるが比較的低密度の準電解質の電解質システムを提供することである。電解質は、不燃性を確保しつつ、乾電池セルへの液体電解質の注入を可能にする適切な流動能力(流動性)を維持するために、リチウム塩濃度が十分に高くなければならない。これら2つは相反する要件である。
【0018】
更に、電池は高いエネルギー密度、高い出力密度、長いサイクル寿命を示し、爆発による危険がないことを示す。このリチウムセルは、リチウム金属二次セル(例えば、Li-S、Li-TiS、Li-MoS、Li-VO、及びLi-空気、ほんの数例を挙げると)、リチウム-イオンセル(例えば、黒鉛-LiMn、Si-LiNiMnなど)、Li-イオン硫黄セル(例えば、プレリチウム化Si-Sセル)、及びハイブリッドリチウムセル(少なくとも1つの電極がリチウムの挿入又はインターカレーションで動作する)を含む。
【0019】
本発明の特定の目的は、並外れて高い比エネルギー又は高いエネルギー密度及び高いレベルの安全性を示す充電式Li-S電池を提供することである。本発明の1つの特定の技術的目標は、長いサイクル寿命及び400Wh/kgを超える、好ましくは500Wh/kgを超える、より好ましくは600Wh/kgを超えるセル比エネルギー(全てセルの総重量に基づく)を有する安全なLi金属-硫黄又はLiイオン-硫黄セルを提供することである。
【0020】
本発明の別の特定の目的は、高い比容量(硫黄重量に基づいて1,200mAh/gより高い、或いは、硫黄、導電性添加剤及び導電性基材、及びバインダーの重量を組み合わせたものを含むが、カソード集電体の重量を除く、カソード複合体重量に基づいて1,000mAh/gより高い)を示す安全なリチウム-硫黄セルを提供することである。比容量は、硫黄重量のみに基づいて1,400mAh/gより高い、又はカソード複合体重量に基づいて1,200mAh/gより高いことが好ましい。これには、高い比エネルギー、デンドライト形成に対する良好な耐性、熱暴走に対する良好な耐性、爆発の可能性がないこと、及び長く安定したサイクル寿命が伴わなければならない。
【0021】
Li-Sセルに関する公開されている文献レポート(科学論文)のほとんどにおいて、科学者らは、(カソード複合体の総重量ではなく)硫黄の重量又はポリ硫化リチウムの重量のみに基づいてカソード比容量を表現することを選択しているが、残念ながら、典型的にはそれらのLi-Sセルでは高比率の非活性材料(導電性添加剤及びバインダーなど、リチウムを貯蔵することができない材料)が使用されることに留意されたい。同様にまた、酸化バナジウムリチウム電池の場合、科学者は、酸化バナジウムの重量のみに基づいてカソード比容量を報告する傾向がある。実際の使用目的では、カソード複合体の重量に基づいた容量値を使用する方がより有意義である。
【0022】
従って、本発明の特定の目的は、従来のLi-Sセルに一般的に関連する以下の問題を克服又は大幅に低減する合理的な材料及び電池設計に基づく充電式のリチウム-硫黄セルを提供することである:(a)デンドライト形成(内部短絡);(b)硫黄の非常に低い電気及びイオン伝導度。これは、大きな比率(典型的には30~55%)の非活性導電性フィラーを必要とし、且つかなりの比率のアクセス不可能な又は到達不可能な硫黄又はリチウムポリ硫化物を有する;(c)電解質中へのリチウムポリ硫化物の溶解、並びにカソードからアノードへの溶解したリチウムポリ硫化物の移動(これは、アノードでリチウムと不可逆反応する)。これは、活性材料の喪失及び容量減衰(シャトル効果)をもたらす;及び(d)短いサイクル寿命。
【0023】
本発明の別の目的は、様々なLi金属及びLi-イオン電池の潜在的なLi金属デンドライトによって誘発される内部短絡及び熱暴走の問題を防ぐ、簡易で費用効果が高く実施が容易な手法を提供することである。
【発明の概要】
【0024】
第1の実施形態として、本発明は、リチウム金属二次セル、リチウム-イオンセル、リチウム-硫黄セル、リチウムイオン-硫黄セル、リチウム-セレンセル、又はリチウム-空気セルを含む充電式リチウムセルを提供する。この電池は、不燃性の安全な高性能の電解質を備える。
【0025】
充電式リチウムセルは、カソード活物質を有するカソードと、アノード活物質を有するアノードと、アノードとカソードを電子的に分離する任意の多孔質セパレータと、カソードとアノードに接触する不燃性準固体電解質とを含み、この場合に、電解質は、電解質が、20℃で測定した場合に0.01kPa未満の蒸気圧、液体溶媒のみの蒸気圧の60%未満の蒸気圧、液体溶媒のみの引火点より少なくとも20℃高い引火点、150℃を超える引火点、又は引火点なしを示すように、1.5M~5.0Mのリチウム塩濃度を有する液体溶媒と液体添加剤の混合物に溶解されたリチウム塩を含む。液体添加剤は、液体溶媒とは組成が異なり、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、炭酸トリフルオロプロピレン(FPC)、メチルノナフルオロブチルエーテル(MFE)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TTSPi)、リン酸トリアリル(TAP)、硫酸エチレン(DTD)、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン(PES)、炭酸ジエチル(DEC)、アルキルシロキサン(Si-O)、アルキルシラン(Si-C)、液体オリゴマーシラキサン(-Si-O-Si-)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、キャノーラ油、又はこれらの組み合わせから選択される。混合物における液体添加剤対液体溶媒比は、重量で5/95~95/5、好ましくは重量で15/85~85/15、更に好ましくは重量で25/75~75/25、最も好ましくは重量で35/65~65/35である。
【0026】
特定の実施形態では、リチウム塩濃度は1.75M~3.5Mである。特定の好ましい実施形態では、リチウム塩濃度は2.0M~3.0Mである。
【0027】
驚くべきことに、十分に高い量のリチウム塩(1.5M~5.0M)を液体溶媒と液体添加剤(上記のリストから選択)の混合物に加え溶解して、固体状又は準固体の電解質を形成するという条件で、任意の有機溶媒の可燃性が効果的に抑制できることを発見した。更に驚くべきことに、十分な量の上記のリストに記載されている電解質添加剤の少なくとも1つを液体溶媒に添加して混合物を形成する場合、必要な塩量(濃度)を大幅に減らすことができる(例えば、5M~3M未満、又は3.5M~2.5M未満、更には2.0M未満)ことが観察された。予想外にも、このような電解質添加剤の存在により、相互に排他的とみなされる2つの要件である、液体電解質の不燃性と適切な流動性の両方を達成することができる。
【0028】
一般的に、このような準固体電解質は、0.01kPa未満(20℃で測定した場合)及び0.1kPa未満(100℃で測定した場合)の蒸気圧を示す。多くの場合、蒸気分子は実際には少なすぎて検出できない。他の揮発性の高い溶媒へのリチウム塩の高い溶解度は、非常に高い温度でさも可燃性ガス分子が火炎を発生させるのを効果的に防止した(例えば、図1(A)及び図1(B)に示されるようにトーチを使用して)。準固体電解質の引火点は、典型的には純粋な有機溶媒のみの引火点より少なくとも20度(多くの場合>50度)高い。ほとんどの場合、引火点が150℃を超える、又は引火点を検出できない。電解質は、単に燃えだす又は発火することはない。誤って発生したいかなる火炎も、数秒以上持続しない。火災と爆発の懸念が電池駆動の電気自動車の普及に大きな障害となっているという概念を考慮すると、これは非常に重要な発見である。この新しい技術は、EV業界の展望を変える可能性がある。
【0029】
本発明の別の驚くべき要素は、高濃度のリチウム塩を有機溶媒に溶解して、充電式リチウムセルでの使用に適した電解質を形成できるという概念である。この濃度は、典型的には約>0.12(約>1.5M又は1.5モル/リットルに相当)、より典型的には>0.15(約>1.9M)のリチウム塩分子比(分子分率)より大きく、>0.2(>2.5M)、>0.3(>3.75M)、更に>0.4(>5M)であり得る。分子分率の数値とモル濃度の数値(モル/リットル)の等価性は、塩/溶媒の組み合わせによって異なる。
【0030】
本発明では、電解質添加剤を選択して添加すると、濃度は、典型的且つ好ましくは1.5M~5.0M、更により典型的且つ好ましくは2.0M~3.5M、最も好ましくは2.5M~3.0Mである。溶媒中のこうした高濃度のリチウム塩は、一般的に可能又は望ましいとは考えられていない。実際、一般的に、3.5Mを超える有機溶媒でリチウム塩の濃度を達成することは不可能であり、一般的に、1Mがリチウム-イオン電池の標準濃度である。
【0031】
広範囲にわたる綿密な研究の後、初めに(a)揮発性の高い共溶媒を使用して溶媒混合物に溶解するリチウム塩の量を増やし、次いで(b)溶解手順が完了したら、この揮発性共溶媒を部分的又は完全に除去すると、リチウム塩の見かけの溶解度が大幅に増加する可能性があることを更に我々は発見するに至った。まったく予想外に、典型的には、この共溶媒を除去することで、溶液が高度に過飽和状態になっていても、溶液からリチウム塩が沈殿又は結晶化することはなかった。この新規で特異的な手法は、ほとんどの溶媒分子が揮発性でないリチウム塩イオンによって保持又は捕捉される材料状態を作り出したようである。従って、気相に逃げることができる溶媒分子はほとんどない。結果として、火炎を発生又は維持する揮発性ガス分子はほとんど存在し得ない。これは、いかなる以前の報告でも技術的に可能又は実行可能であると示唆されていなかった。
【0032】
化学又は材料科学の分野の優秀な科学者は、このような高い塩濃度により、電解質が非常に高い粘度の固体のように挙動し、従って、この電解質は、その中のリチウムイオンの高速拡散の影響を受けにくいことを予測するであろうことに留意されたい。結果として、科学者は、このような固体状電解質を含むリチウム電池は、高い充放電速度又は高電流密度条件で高容量を示さない且つ示すことができないことを予想する傾向がある(即ち、電池の速度能力が低い必要がある)。これらの予想に反して、このような準固体電解質を含む全てのリチウムセルは、長いサイクル寿命のための驚くほど高いエネルギー密度及び高出力密度を実現する。本明細書に開示される準固体電解質は、リチウムイオンの移動を容易にするのに役立つ。この驚くべき観察は、高いリチウムイオン移動数(TN)によって明らかになり、この明細書の後のセクションで更に説明される。全ての現在のLi-イオン及びLi-Sセルに使用される全ての低濃度電解質(例えば、<1.5M)での典型的な値0.1~0.2とは対照的に、準固体電解質は、0.4を超えるTN(典型的には0.4~0.8の範囲)を提供することがわかった。
【0033】
充電式リチウムセルは、好ましくは0.4より大きい、好ましくは典型的には0.6より大きい、最も好ましくは典型的には0.7より大きいリチウムイオン移動数を有する準固体電解質を含む。電解質のリチウムイオン移動数(同じ溶媒中のリチウム塩の種類と濃度が同じ場合)は、例えば、リチウム金属セル(アノードがLi金属である)からリチウム-イオン電池(アノードがSnである)までなど、電池の種類によって異なることがあることに留意されたい。アノードとカソードの間を行き来するために利用可能なリチウムの総量は、この転移数を決定することができる重要な要素である。
【0034】
液体溶媒は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-ホスフェート(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0035】
リチウム塩は、好ましくは、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、イオン液体系リチウム塩、これらの組み合わせ、又はリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)とのこれらの組み合わせから選択される。
【0036】
好ましい充電式リチウムセルでは、カソード活物質は、金属酸化物、金属酸化物を含まない無機材料、有機材料、ポリマー材料、硫黄、多硫化リチウム、セレン、又はこれらの組み合わせから選択することができる。金属酸化物を含まない無機材料は、遷移金属フッ化物、遷移金属塩化物、遷移金属ジカルコゲニド、遷移金属トリカルコゲニド、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。特に有用な実施形態では、アノードがアノード活物質としてリチウム金属を含む場合、カソード活物質は、FeF、FeCl、CuCl、TiS、TaS、MoS、NbSe、MnO、CoO、酸化鉄、酸化バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される。酸化バナジウムは、好ましくは、VO、LiVO、V、Li、V、Li、Li、V、Li、V13、Li13、これらのドープされたバージョン、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができ、この場合に0.1<x<5である。
【0037】
充電式リチウムセル(例えば、リチウムイオン電池セル)では、カソード活物質は、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、かんらん石化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO、又はこれらの組み合わせを含むように選択されることができ、ここで、Mは遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である。
【0038】
好ましいリチウム金属二次セルでは、カソード活物質は、好ましくは、(a)セレン化ビスマス又はテルル化ビスマス、(b)遷移金属ジカルコゲニド又はトリカルコゲニド、(c)ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、チタン、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、又は遷移金属の硫化物、セレン化物、又はテルル化物、(d)窒化ホウ素、或いは(e)これらの組み合わせから選択される無機材料を含む。
【0039】
別の好ましい充電式リチウムセル(例えば、リチウム金属二次セル又はリチウム-イオンセル)では、カソード活物質は、ポリ(アントラキノニルスルフィド)(PAQS)、リチウムオキソカーボン(スクアレート、クロコネート、及びロジゾン酸リチウム塩を含む)、オキサカーボン(キニーネ、酸無水物、及びニトロ化合物を含む)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ポリ(アントラキノニルスルフィド)、ピレン-4,5,9,10-テトラオン(PYT)、ポリマー結合PYT、キノ(トリアゼン)、レドックス活性有機材料(複数の隣接するカルボニル基に基づくレドックス活性構造(例えば、「C」型構造、オキソカーボン)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、2,3,6,7,10,11-ヘキサメトキシトリフェニレン(HMTP)、ポリ(5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン)(PADAQ)、ホスファゼンジスルフィドポリマー([(NPS]n)、リチウム化1,4,5,8-ナフタレンテトラオールホルムアルデヒドポリマー、ヘキサアザトリナフチレン(HATN)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT(CN)6)、5-ベンジリデンヒダントイン、イサチンリチウム塩、ピロメリット酸ジイミドリチウム塩、テトラヒドロキシ-p-ベンゾキノン誘導体(THQLi)、N,N’-ジフェニル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PHP)、N,N’-ジアリル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(AP)、N,N’-ジプロピル-2,3,5,6-テトラケトピペラジン(PRP)、チオエーテルポリマー、キノン化合物、1,4-ベンゾキノン、5,7,12,14-ペンタセネテトロン(PT)、5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADDAQ)、5-アミノ-1,4-ジヒドロキシアントラキノン(ADAQ)、カリックスキノン、Li、Li、Li、又はこれらの組み合わせから選択される有機材料又はポリマー材料を含む。
【0040】
チオエーテルポリマーは、硫黄原子が炭素原子を結合してポリマー骨格を形成する主鎖チオエーテルポリマーとして、ポリ[メタンテトリル-テトラ(チオメチレン)](PMTTM)、ポリ(2,4-ジチオペンタニレン)(PDTP)、又はポリ(エテン-1,1,2,2-テトラチオール)(PETT)から選択されることができる。側鎖チオエーテルポリマーは、共役芳香族部位からなるポリマー主鎖を有するが、ペンダントとしてチオエーテル側鎖を有する。これらの中で、ポリ(2-フェニル-1,3-ジチオラン)(PPDT)、ポリ(1,4-ジ(1,3-ジチオラン-2-イル)ベンゼン)(PDDTB)、ポリ(テトラヒドロベンゾジチオフェン)(PTHBDT)、及びポリ[1,2,4,5-テトラキス(プロピルチオ)ベンゼン](PTKPTB)は、ポリフェニレン主鎖を有し、ペンダントとしてベンゼン部位のチオランを結合する。同様に、ポリ[3,4(エチレンジチオ)チオフェン](PEDTT)は、ポリチオフェン骨格を有し、チオフェン環の3,4-位にシクロ-チオランを結合する。
【0041】
更に別の好ましい充電式リチウムセルにおいて、カソード活物質は、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、スズフタロシアニン、鉄フタロシアニン、鉛フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、フルオロクロムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、マンガンフタロシアニン、ジリチウムフタロシアニン、塩化アルミニウムフタロシアニン、カドミウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銀フタロシアニン、無金属フタロシアニン、これらの化学誘導体、又はこれらの組み合わせから選択されるフタロシアニン化合物を含む。この部類のリチウム二次電池は、高容量と高エネルギー密度を有する。
【0042】
本発明の更に別の好ましい実施形態は、カソード活物質として硫黄又はリチウムポリスルフィドを有する硫黄カソードを含む充電式リチウム-硫黄セル又はリチウムイオン-硫黄セルである。
【0043】
前述の充電式リチウムセル(例えば、リチウム金属二次セル又はリチウム-イオンセル)のいずれにおいても、第1の有機液体溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、グリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、ハイドロフロロエーテル、これらの組み合わせ、又は室温イオン液体溶媒との組み合わせから選択される。
【0044】
好ましいリチウム金属二次セル(リチウム-硫黄セルを除く)又はリチウム-イオンセルでは、リチウム塩は、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、イオン液体系リチウム塩、これらの組み合わせ、又はリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)とのこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0045】
一実施形態では、電解質は更にイオン液体溶媒を含み、第1の有機液体溶媒対イオン液体溶媒の比は1/1より大きく、好ましくは3/1より大きい。イオン液体溶媒は、好ましくは、テトラアルキルアンモニウム、ジ-、トリ-、又はテトラ-アルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキル-ピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、又はこれらの組み合わせから選択されるカチオンを有する室温イオン液体から選択される。室温イオン液体は、好ましくは、BF 、B(CN) 、CHBF 、CHCHBF 、CFBF 、CBF 、n-CBF 、n-CBF 、PF 、CFCO 、CFSO 、N(SOCF 、N(COCF)(SOCF、N(SOF) 、N(CN) 、C(CN) 、SCN、SeCN、CuCl 、AlCl 、F(HF)2.3 、又はこれらの組み合わせから選択されるアニオンを有する。
【0046】
前述の充電式リチウムセルのいずれにおいても、アノードは、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウム金属又はリチウム合金とリチウムインターカレーション化合物の混合物、リチウム化化合物、リチウム化二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、LiTi12、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含むことができる。
【0047】
代替的にアノードは、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと他の元素との合金又は金属間化合物、並びにこれらのリチウム化バージョン、この場合に、前述の合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物又は複合体、並びにこれらのリチウム化バージョン、(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含み得る。炭素又は黒鉛材料は、天然黒鉛粒子、合成黒鉛粒子、ニードルコークス、エレクトロスピニングナノファイバー、気相成長炭素又は黒鉛ナノファイバー、炭素又は黒鉛ウィスカー、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤ、未処理のグラフェンのシート又はプレートレット、酸化グラフェン、還元グラフェン酸化物、ドープされたグラフェン又は酸化グラフェン、及び化学的に官能化されたグラフェン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。
【0048】
別の好ましい充電式リチウムセルは、電解質塩濃度x(分子比)が0.2未満である対応するリチウム-空気セルと比較して、より高い往復効率又は容量減衰に対するより高い耐性を有するリチウム-空気セルである。
【0049】
充電式リチウムセルは、アノードと電解質の間に配置された保護材料の層を更に含み得、この場合に保護材料はリチウムイオン伝導体である。
【0050】
充電式リチウムセルは、アルミニウム箔、炭素又はグラフェンコーティングされたアルミニウム箔、ステンレススチール箔又はウェブ、炭素又はグラフェンコーチィングされたスチール箔又はウェブ、炭素又は黒鉛紙、炭素又は黒鉛繊維布、可撓性黒鉛箔、グラフェン紙又はフィルム、又はこれらの組み合わせから選択されるカソード集電体を更に含み得る。ウェブとは、好ましくは相互接続された細孔又は厚さ方向の開口部を有する、スクリーン状の構造又は金属発泡体を意味する。リチウムセルは、銅箔又はウェブ、炭素又はグラフェンコーティングされた銅箔又はウェブ、ステンレススチール箔又はウェブ、炭素又はグラフェンコーティングされたスチール箔又はウェブ、チタン箔又はウェブ、炭素又はグラフェンでコーティングされたチタン箔又はウェブ、炭素又は黒鉛紙、炭素又は黒鉛繊維布、可撓性黒鉛箔、グラフェン紙又はフィルム、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード集電体を更に含み得る。
【0051】
本発明のリチウム-硫黄セルは、剥離黒鉛ワームと硫黄(又は硫黄化合物又はリチウムポリスルフィド)を合わせた総重量に基づいて、典型的には1グラムあたり800mAh以上の可逆的比容量を提供する。より典型的に好ましくは、可逆的比容量は、1グラム当たり1,000mAh以上であり、多くの場合、1グラム当たり1,200mAhを超える。本発明のカソードの高い比容量は、リチウムアノードと組み合わせた場合、アノード、カソード、電解質、セパレータ、及び集電体の組み合わせた重量を含む総セル重量に基づいて600Wh/kg以上のセル比エネルギーをもたらす。多くの場合、セルの比エネルギーは800Wh/Kgより高く、一部の例では1,000Wh/kgを超える。
【0052】
不燃性の準固体電解質を備える本発明の充電式リチウムセルは、リチウム金属-硫黄セル又はリチウム-イオンセルに限定されない。この安全で高性能な電解質は、任意のリチウム金属二次セル(任意のカソード活物質と結合したリチウム金属系アノード)及び任意のリチウム-イオンセルで使用できる。
【0053】
本発明のこれら及び他の利点及び特徴は、以下の最良の形態の実施及び例示的な例の説明によってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1A図1(A)は、異なるリチウム塩濃度の様々な電解質に対して実施された可燃性試験の結果を示す写真。
図1B図1(B)は、低濃度の電解質の可燃性試験の結果を示す写真、ただし添加剤、30%のFPCを有し、LiTFSI/(DME+DOL+FPC)=0.16又は約2.0M。
図2図2は、リチウム塩分子比x(LiTFSI/DOL及びLiTFSI/DOL-FEC-50/50)の関数としての蒸気圧比データ(p/p=溶液の蒸気圧/溶媒のみの蒸気圧)、並びに古典的なラウルの法則に基づいた理論的予測値。
図3図3は、リチウム塩分子比x(LiTFSI/DME及びLiTFSI/DME-FPC-35/65)の関数としての蒸気圧比データ(p/p=溶液の蒸気圧/溶媒のみの蒸気圧)、並びに古典的なラウルの法則に基づいた理論的予測値。
図4図4は、リチウム塩分子比x(LiPF/DEC及びLiPF/DEC-HFE-15/85)の関数としての蒸気圧比データ(p/p=溶液の蒸気圧/溶媒のみの蒸気圧)、並びに古典的なラウルの法則に基づいた理論的予測値。
図5図5は、リチウム塩の分子比x(LiBF/EC-VC及びLiBF/EC-VC-TAP-40/40/20)の関数としての蒸気圧比データ(p/p=溶液の蒸気圧/溶媒のみの蒸気圧)、並びに古典的なラウルの法則に基づいた理論的予測値。
図6図6は、電解質添加剤FECを有する又は有さない、リチウム塩の分子比xに関連した電解質のLiイオン移動数(例えば、LiTFSI塩/(DOL+DME)溶媒)。
図7図7は、電解質添加剤アルキルシロキサンを有する又は有さない、リチウム塩の分子比xに関連した電解質のLiイオン移動数(例えば、LiTFSI塩/(EMImTFSI+DOL)溶媒)。
図8図8は、電解質添加剤FECを有する又は有さない、リチウム塩の分子比xに関連した電解質のLiイオン移動数(例えば、LiTFSI塩/(EMImTFSI+DME)溶媒)。
図9A図9(A)は、EC-VC(70/30)の2M LiPFの電解質における黒鉛アノード対Li金属の第1のサイクル効率、及びEC-VC-FPC(60/20/20)の2M LiPFの電解質における黒鉛アノード対Li金属の第1のサイクル効率、後者は不燃性である。
図9B図9(B)は、EV-VC(70/30)の2M LiPFの電解質におけるLiCOカソード対Li金属の第1のサイクル効率、及びEC-VC-FPC(60/20/20)の2M LiPFの電解質におけるLiCOカソード対Li金属の第1のサイクル効率、後者は不燃性である。
図10A図10(A)は、有機溶媒中のLi塩の低濃度電解質(x=0.06)を含むLi金属-硫黄セルのサイクル性能(充電比容量、放電比容量、及びクーロン効率)、並びに
図10B図10(B)は、同じセルの代表的な充放電曲線。
図11A図11(A)は、高濃度有機電解質DME(x=0.3)を含むLi金属-硫黄セルのサイクル性能(充電比容量、放電比容量、及びクーロン効率)。
図11B図11(B)は、DME溶媒に添加された20%のFPCを有し、それぞれ2.5M及び5Mの塩濃度を有する2つの対応するセルのサイクル挙動。
図12図12は、それぞれが剥離黒鉛ワーム-硫黄カソードを有するがリチウム塩濃度が異なる3つのLi金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対電池エネルギー密度)。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明は、安全で高性能の充電式リチウム電池を提供し、これは様々な種類のリチウム-イオンセル又はリチウム金属セルのいずれかであり得る。本質的に不燃性であり、火炎の発生又は火炎の維持もせず、従って爆発の危険をもたらさない新規で特異的な電解質によって、高度な安全性がこの電池に付与される。本発明は、20年以上にわたってリチウム-金属及びリチウム-イオン業界を悩ませてきたまさに最も重要な問題を解決した。
【0056】
背景技術のセクションで前述したように、既存の電池製造施設と適合する充電式リチウムセル向けの安全で不燃性でありながら注入可能な準電解質の電解質システムが強く必要とされている。電解質は、不燃性を確保するが更に乾電池セルへの液体電解質の注入を可能にする適切な流動能力(流動性)を維持するために、リチウム塩濃度が十分に高くなければならない。本発明は、相互に排他的であると思われる2つの相反する要件を有するというこの問題を解決した。
【0057】
本発明のセルは、カソード活物質及び/又は導電性カソード支持構造体を有するカソードと、アノード活物質及び/又は導電性支持ナノ構造体を有するアノードと、アノードとカソードを電子的に分離するセパレータと、カソード活物質(又はリチウム-空気セルのカソード導電性支持構造体)及びアノード活物質と接触する有機溶媒系高濃度電解質とを含み、電解質は、電解質が、0.01kPa未満の蒸気圧又は溶媒のみの0.6(60%)未満の蒸気圧(20℃で測定した場合)、第1の有機液体溶媒のみの引火点より少なくとも20℃高い引火点(リチウム塩が存在しない場合)、150℃を超える引火点、又はまったく検出可能でない引火点を示すように、十分に高いリチウム塩の分子比を有する第1の有機液体溶媒に溶解したリチウム塩を含む。
【0058】
最も驚くべきものであり非常に大きな科学的及び技術的意義は、この有機溶媒に十分に多量のリチウム塩を加えて溶解し、固体状又は準固体の電解質を形成するという条件で、任意の揮発性有機溶媒の可燃性を効果的に抑制できるという我々の発見である。一般的に、このような準固体電解質は、0.01kPa未満及び多くの場合0.001kPa未満(20℃で測定した場合)、0.1kPa未満及び多くの場合0.01kPa未満(100℃で測定した場合)の蒸気圧を示す。(いかなるリチウム塩もその中に溶解していない、対応する純粋な溶媒の蒸気圧は、典型的には著しく高い。)多くの場合、蒸気分子は実際には少なすぎて検出できない。
【0059】
非常に重要な観察は、他の揮発性の高い溶媒に溶解した高濃度のリチウム塩が(リチウム塩の大きな分子比又はモル分率、典型的には>0.2、より典型的には>0.3、多くの場合>0.4、更には>0.5)、熱力学的平衡状態で蒸気相に逃げることができる揮発性溶媒分子の量を劇的に削減できることである。多くの場合、これにより、可燃性ガス分子が非常に高い温度でも火炎を発生するのを効果的に防止した(例えば、図1に示すようにトーチを使用)。準固体電解質の引火点は、典型的には、純粋な有機溶媒のみの引火点より少なくとも20度(多くの場合>50度)高い。ほとんどの場合、引火点は150℃を超える、又は引火点は検出されることができない。電解質はまさに燃えることはない。更に、いかなる誤って発生した火炎も3秒を超えて持続しない。火災と爆発の懸念が、電池駆動の電気自動車の普及に大きな障害となっているという概念を考慮すると、これは非常に重要な発見である。この新しい技術は、活気のあるEV産業の出現に大きな影響を与える可能性がある。
【0060】
しかしながら、塩濃度が高すぎると、電解質の粘度が高すぎることになる可能性がある。リチウム塩濃度が約3.5M(分子比又は分率>0.28)を超えると、電解質を十分に充填された乾電池に注入してセルの製造手順を完了することが非常に困難になる。塩濃度が5.0M(分子分率>0.4)を超えると、注入は完全に不可能になる。これにより、2つの相互に排他的な要件(不燃性の場合は高塩濃度、電解質の流動性の場合は低塩濃度)を有するというこの問題の解決策を模索することになった。広範囲にわたる綿密な研究の後、特定の液体添加剤を液体溶媒に加えて、リチウム塩が溶解して電解質を形成する混合物を形成する場合、これらの矛盾する問題を解決できることを我々は発見するに至った。液体混合物において、1つの液体添加剤を有する1つの液体溶媒、2つの液体添加剤を有する1つの液体溶媒、1つの液体添加剤を有する2つの液体溶媒などがあり得る。複数の液体添加剤と混合された複数の液体溶媒があり得る。
【0061】
図1(B)は、低濃度の電解質であるが添加剤(30%FPC)を有する場合の可燃性試験の結果を示す写真である。電解質組成物は、LiTFSI/(DME+DOL+FPC)=0.16又は約2.0Mの分子比を有する。これは、準固体電解質のグループの中で比較的低い濃度であるが、トーチが電解質と接触する場合に電解質は不燃性である。この電解質は、比較的低い粘度を有し、電池の製造中に電解質を注入できる十分な流動性を有する。電解質の注入は、塩濃度が3Mを超えるとより困難になり、塩濃度が5Mを超えると実際に実行不可能になる。
【0062】
基本的な化学原理の観点から、液体への溶質分子の添加は液体の沸騰温度を上昇させ、その蒸気圧と凍結温度を下げる。これらの現象は、浸透と同様に、溶質濃度のみに依存し、その種類には依存せず、溶液の束一的特性と呼ばれる。元のラウルの法則は、純液な液体の蒸気圧(p)に対する溶液の蒸気圧(p)の比と溶質(x)のモル分率(分子比)の間の関係を示す:
/p=e-x 方程式(1a)
希釈溶液の場合、x<<1、従ってe-x≒1-x。従って、低溶質モル分率の特別の場合では、ラウルの法則のより馴染みのある形式が得られる:
/p=1-x 方程式(1b)
【0063】
古典的なラウルの法則を使用して高濃度電解質の蒸気圧を予測できるかどうかを判断するために、幅広いリチウム塩/有機溶媒の組み合わせを調査した。我々の研究結果の例のいくつかを図2図5に要約し、この場合に、実験的なp/p値は、いくつかの塩/溶媒の組み合わせの分子比(モル分率、x)の関数としてプロットされる。比較のために、古典的なラウルの法則、方程式(1a)に基づく曲線もプロットされる。全ての種類の電解質について、モル分率xが約0.2(電解質添加剤なし)に達するまで、p/p値がラウルの法則の予測に従うことは明らかであり、それを超えると蒸気圧は急速に本質的にゼロに低下する(ほとんど検出できない)。蒸気圧が閾値より低い場合、火炎は発生せず、リストの添加剤の存在は、閾値をより低い分子分率値(より低い塩濃度値)にシフトするのに役立つ。有用な添加剤のリストには、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、炭酸トリフルオロプロピレン(FPC)、メチルノナフルオロブチルエーテル(MFE)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TTSPi)、リン酸トリアリル(TAP)、エチレンサルフェート(DTD)、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン(PES)、炭酸ジエチル(DEC)、アルキルシロキサン(Si-O)、アルキルシラン(Si-C)、液体オリゴマーシラキサン(-Si-O-Si-)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、又はこれらの組み合わせが含まれる。本発明は、火炎の発生を効果的に抑制し、なおかつ電解質が乾電池セルへの注入を促進し続けることを保証するプラットフォーム材料化学手法を提供することを我々は自信を持って述べる。
【0064】
ラウルの法則からの逸脱は科学では珍しいことではないが、p/p値のこの種類の曲線は、いかなるバイナリソリューションシステムでも観測されていない。特に、安全性を考慮した高濃度電池電解質の蒸気圧に関する検討は報告されていない(例えば、0.15を超える高い分子分率)。これは本当に予想外であり、技術的及び科学的に重要である。
【0065】
本発明の別の驚くべき要素は、充電式リチウム電池での使用に適した準固体電解質を形成するために、ほぼ全ての種類の通常使用される電池グレードの有機溶媒に高濃度のリチウム塩を我々は溶解できるという概念である。より用意に理解できる用語で表現すると、この濃度は典型的には3.5M(モル/リットル)を超え、4M、5M、7M、更には10Mを超えることができる(ただし、本発明で5Mを超えるのは望ましくない)。溶媒中のこのような高濃度のリチウム塩は、一般的に可能とは考えられていなかった。しかしながら、Mについての濃度値(モル/リットル)から溶液の蒸気圧を直接且つ直に予測することはできないことを理解する必要がある。代わりに、リチウム塩の場合、ラウルの法則の分子比xは、正イオンと負イオンのモル分率の合計であり、特定の溶媒における特定の温度でのリチウム塩の解離度に比例する。モル/リットルの濃度は、蒸気圧の予測に最適な情報を提供しない。
【0066】
一般的に、電池電解質に使用される有機溶媒で、このような高濃度のリチウム塩(例えば、x=0.2~0.7)を達成することは不可能であった。広範囲にわたる綿密な調査の後、特定の溶媒へのリチウム塩の見かけの溶解度は、初めに(a)揮発性の高い共溶媒を使用して溶媒混合物に溶解したリチウム塩の量を増やし、次いで(b)溶解手順が完了したら、この揮発性共溶媒を部分的又は完全に除去すると、大幅に増加することができることを我々は更に発見するに至った。まったく予想外に、典型的には、この共溶媒を除去することで、溶液が高度に過飽和状態になっていても、溶液からリチウム塩が沈殿又は結晶化することにはならなかった。この新規で特異的な手法は、揮発性でないリチウム塩イオン(実際にはリチウム塩が固体のようなもの)によって溶媒分子のほとんどが捕捉又は適切に保持される材料状態を作り出したようである。従って、気相に逃げることができる揮発性溶媒分子は非常に少ないため、火炎の発生又は維持に役立つ「可燃性」ガス分子はほとんど存在しない。上記のリストの添加剤は、逃げたガス分子の量を更に減らすことができ、従って、可燃性を低減又は排除するのに役立つようである。これは、従来技術において技術的に可能又は実行可能であると示唆されていない。
【0067】
更に、化学又は材料科学の分野の当業者は、このような高い塩濃度は、電解質を非常に高い粘度を有する固体のように挙動させる必要があり、従って、この電解質はその中のリチウムイオンの急速な拡散の影響を受けやすくてはならないことを予想したであろう。結果として、このような固体状電解質(1.5M~5M)を含むリチウム電池は、高い充放電速度又は高い電流密度条件で高い容量を示さない且つ示すことができないことを(即ち、電池は不十分な速度能力を有したはずである)、当業者ならば予測していたであろう。当業者、更には当技術分野の専門家のこれらの予想に反して、このような準固体電解質を含む全てのリチウム電池は、長いサイクル寿命のために高エネルギー密度と高出力密度を実現する。本明細書で発明され開示された準固体電解質は、容易なリチウムイオン輸送に役立つと思われる。この驚くべき観察は、高いリチウムイオン移動数(TN)に関連しており、これについては、本明細書の後のセクションで更に説明される。準固体電解質は、全ての現行のLi-イオン及びLi-Sセルに使用される全ての低濃度電解質(例えば、<1.5M)での典型的な値0.1~0.2とは対照的に、0.4を超えるTN(典型的には0.4~0.8の範囲)を提供することを我々は見出した。
【0068】
図6図9に示すように、低塩濃度電解質のLiイオン移動数は、濃度がx=0からx=0.2~0.3に増加するにつれて減少する。しかしながら、x=0.2~0.3の分子比を超えると、塩濃度の増加とともに移動数が増加し、Liイオン輸送機構の根本的な変化を示す。理論に縛られることを望まないが、以下の科学的に妥当な説明を提供したい。Liイオンが低塩濃度電解質(例えば、x<0.2)を移動すると、各Liイオンは1つ以上の溶媒和アニオンをそれとともに引きつける。このような荷電種のクラスターの調整された移動は、流体の粘度が増加した場合(即ち、より多くの塩が溶媒に添加される場合)に更に妨げられる可能性がある。
【0069】
幸いなことに、極めて高い濃度のリチウム塩(例えば、x>0.2)が存在する場合、Liイオンは、リチウムイオンを別の方法でクラスター化することができる利用可能な溶媒和アニオン又は溶媒分子を大幅に上回る可能性があり、複数イオン錯体種を形成し、Liイオンの拡散プロセスを遅くする。この高いLiイオン濃度により、より多くの「遊離Liイオン」(クラスター化されることなく単独で作用するイオン)を得ることができ、これにより高いLi移動数(従って、容易なLi輸送)が得られる。言い換えると、リチウムイオン輸送機構は、複数イオン錯体支配機構(流体力学的半径がより大きい)から多数の利用可能な遊離Liイオンを有する単一イオン支配機構(流体力学的半径がより小さい)に変わる。この観察は、LiイオンがLi-Sセルの速度能力を損なうことなく準固体電解質で動作できることを更に主張している。しかし、これらの高濃度電解質は不燃性で安全である。電池用途のこれらの機能と利点の組み合わせは、いかなる以前の報告でも教示されたことはなく、更には少しも示唆されたこともない。準固体電解質のイオン移動数の理論的態様をここで以下に示す。
【0070】
電池の電解質システムを選択する際に、リチウムイオンのイオン伝導度は考慮すべき重要な要素である。有機液体系電解質におけるLiイオンのイオン伝導度は、約10-3~10-2S/cmであり、固体電解質におけるイオン伝導度は、典型的には10-4~10-6S/cmの範囲である。イオン伝導率が低いため、任意の電池システムでは固体電解質はまったく使用されていない。固体電解質はリチウム金属二次セルのデンドライトの貫通に耐性があり、Li-Sセルでの多硫化リチウムの溶解を許容しないため、これは残念である。固体電解質を有するLi-Sセルの充放電容量は非常に低く、典型的には硫黄の理論容量より1~2桁低くなる。対照的に、我々の準固体電解質のイオン伝導率は、典型的には10-4~8×10-3S/cmの範囲にあり、充電式電池での使用に十分である。
【0071】
しかしながら、全体的なイオン伝導率は、電池電解質の唯一の重要な輸送パラメーターではない。また、カチオンとアニオンの個々の移動数が重要である。例えば、粘性の液体がリチウム電池の電解質として使用される場合、電解質においてLiイオンの高い移動数が必要である。
【0072】
1種類のカチオン(即ち、Li)と1種類のアニオン、及び液体溶媒、又は2種類の液体溶媒の混合物のみからなる液体電解質のイオン輸送及び拡散は、ACインピーダンス分光法及びパルス磁場勾配NMR技術によって検討されることができる。ACインピーダンスは、全体的なイオン伝導率に関する情報を提供し、NMRは、カチオンとアニオンの個々の自己拡散係数の決定を可能にする。一般的に、カチオンの自己拡散係数は、アニオンの自己拡散係数よりわずかに高くなる。拡散係数と全体のイオン伝導率から計算されるヘブン比(Haven ratio)は、典型的には1.3~2の範囲にあり、低い塩濃度を含む電解質では、イオン対又はイオン錯体(例えば、Li-溶媒和分子のクラスター)の輸送が重要な特徴であることを示す。
【0073】
2つの異なるリチウム塩又は1つのイオン液体(リチウム塩又は液体溶媒として)を電解質に添加すると、状況は更に複雑になり、少なくとも3種類又は4種類のイオンを有する溶液になる。この場合、例として、溶解可能なリチウム塩の量は異なるアニオンとの混合物より多いため、溶媒和イオン液体と同じアニオンを含むリチウム塩を使用することが有利である。従って、次の論理的な尋ねるべき質問は、液体溶媒により多くのリチウム塩を溶解することにより、Li移動数を改善できるかどうかである。
【0074】
3イオン液体混合物の全体的なイオン伝導率σdcと、イオンの個々の拡散係数Diとの間の関係は、ネルンスト-アインシュタインの方程式によって与えられることができる:σdc=(e/kTH)[(NLi)(DLi)+(NA)(DA)+(NB)(DB)] 方程式(2)
【0075】
ここで、eとkはそれぞれ元素電荷とボルツマン定数を示し、Nは個々のイオンの数密度である。ヘブン比、Hは、様々な種類のイオンの動きの間の相互関連を説明する。
【0076】
1種類のカチオンとアニオンのみを有する単純なイオン液体は、ヘブン比が典型的には1.3~2.0の範囲にあるという特徴がある。1より大きいヘブン比は、異なる電荷のイオンが優先的に同じ方向に移動することを示す(即ち、対又はクラスターでのイオン輸送)。このようなイオン対の証拠は、様々な電解質のラマンスペクトルを使用して見つけることができる。3イオン混合物のヘブン比の値は、1.6~2.0の範囲である。x=0の電解質と比較してH値がわずかに高いことは、混合物において対形成がより顕著であることを示している。
【0077】
同じ混合物の場合、混合物の全体的なイオン伝導度は、リチウム塩含有量xの増加とともに減少する。この伝導率の低下は、全てのイオンの個々の自己拡散係数の低下に直接関連する。更に、イオン液体とリチウム塩の異なる混合物に関する検討では、リチウム塩含有量xの増加とともに粘度が増加することが示された。これらの発見は、リチウム塩の添加が液体混合物におけるより強いイオン結合につながり、これは液体動力を遅くすることを示唆している。これは、小さいリチウムイオンとアニオンの間のクーロン相互作用が、より大きな有機カチオンとアニオンの間のクーロン相互作用より強いためである可能性がある。従って、リチウム塩含有量xの増加に伴うイオン伝導率の減少は、移動イオンの数密度の減少によるものではなく、イオンの移動度の減少によるものである。
【0078】
混合物の全体的なイオン伝導度に対するカチオンとアニオンの個々の寄与を分析するために、見かけの移動数tを:
=NDi/(ΣNDi) 方程式(3)
で定義できる。例として、Li、BMP、及びTFSIイオンを含むN-ブチル-N-メチル-ピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BMP-TFSI)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li-TFSI)の混合物では、Li-TFSI含有量が増加すると、見かけのリチウム移動数tLiは増加する:x=0.377で、tLi=0.132(対tLi<0.1、x<0.2で)、DLi≒0.8DTFSI及びDBMP≒1.6DTFSI。混合物の見かけのリチウム移動数が高い主な理由は、リチウムイオンの数密度が高いことである。
【0079】
このような混合物のリチウム移動数を更に高めるために、リチウムイオンの数密度及び/又は拡散係数は、他のイオンと比較して更に増加しなければならない。Liイオンの数密度の更なる増加は、混合物が高いLi塩含有量で塩の結晶化又は沈殿を受ける傾向があるため、一般的に非常に難しいと考えられている。本発明はこの課題を克服した。揮発性の高い有機液体(例えば、エーテル系溶媒)を非常に少量添加すると、高粘度の有機液体(例えば、VC)又はイオン液体中のいくらかのLi塩の溶解限界が大幅に増加するできることを我々は驚くべきことに観察した(例えば、典型的にはx<0.2からx>0.3~0.6、又は典型的には1~2Mから>5M)。これは、イオン液体(又は粘性の有機液体)と揮発性有機溶媒の比が10:1と高くあることで実現でき、揮発性溶媒の含有量を最小限に抑え、電解質の潜在的な可燃性を必要最小限に抑える。
【0080】
パルス磁場勾配NMR(PFG-NMR)実験で測定されるイオンの拡散係数は、拡散体の有効半径に依存する。LiイオンとTFSIイオンの間の強い相互作用により、Liイオンは[Li(TFSI)n+1n-錯体を形成することができる。n+1=4までの配位数が公開文献で報告されている。配位数は、複合体の有効な流体力学的半径を決定し、従って液体混合物の拡散係数を決定する。ストークス-アインシュタインの方程式、Di=kT/(cπηr)を使用して、その拡散係数Diから拡散体riの有効流体力学的半径を計算することができる。定数cは、拡散体の形状に応じて4~6の間で変動する。イオン液体中のカチオン及びアニオンの有効流体力学的半径とそれらのファンデルワールス半径を比較すると、カチオンのc値は一般的にアニオンのc値より低いことがわかる。EMI-TFSI/Li-TFSI混合物の場合、Liの流体力学的半径は0.7~0.9nmの範囲にある。これは、ほぼ[Li(TFSI)及び[Li(TFSI)2-錯体のファンデルワールス半径である。x=0.377のBMP-TFSI/Li-TFSI混合物の場合、拡散リチウム錯体の有効流体力学的半径は、rBMP≒0.55nmでありBMPと拡散Li錯体のc値は同一であるという仮定の下で、rLi=(DBMP/DLi)rBMP≒1.1nmである。rLiのこの値は、低塩濃度を含む混合物では、拡散錯体のリチウム配位数が少なくとも2であることを示唆している。
【0081】
TFSIイオンの数はかなりの量の[Li(TFSI)2-錯体を形成するほど高くないため、ほとんどのリチウムイオンは[Li(TFSI)錯体として拡散する必要がある。一方、結晶化せずにより高いLi塩濃度が達成される場合(例えば、我々の準固体電解質で)、混合物はかなりの量の中性[Li(TFSI)]錯体を含む必要があり、これは、より小さくあり(r[Li(TFSI)]≒0.4nm)、且つより高い拡散率を有する必要がある。従って、より高い塩濃度は、リチウムイオンの数密度を高めるだけでなく、有機カチオンに比べて拡散リチウム錯体のより高い拡散係数にもつながる必要がある。上記の分析は、有機液体溶媒又はイオン液体溶媒のいずれかを含む電解質(電解質添加剤あり又はなし)に適用できる。全ての場合において、リチウム塩濃度が閾値より高い場合、濃度が更に増加すると、アノードとカソードの間を移動する遊離した又はクラスター化されていないLiイオンの数が増加することになり、カソード及びアノードでのインターカレーション/デインターカレーション又は化学反応に必要である適切な量のLiイオンをもたらす。リストから選択された添加剤の存在は、電解質の可燃性を有利に低下させ、移動数に悪影響を与えない。
【0082】
上記の不燃性と高いリチウムイオン移動数とに加えて、本発明の準固体電解質の使用に関連するいくつかの更なる利点がある。一例として、準固体電解質は、リチウムデンドライトの成長を効果的に抑制することにより、充電式リチウム電池のサイクル性能と安全性能を大幅に向上させることができる。一般的に、めっきが発生する電極付近でアニオンが枯渇すると、非水性液体電解質内でデンドライト結晶が成長し始めることが認められている。極めて高い濃度の電解質には、金属リチウムアノードの近くにカチオン(Li)とアニオンのバランスを保つためにアニオンの塊が存在する。更に、アニオンの枯渇によって生じる空間電荷は最小限であり、これはデンドライトの成長を助長しない。更に、極めて高いリチウム塩濃度と高いリチウムイオン移動数の両方により、準固体電解質は、大量の利用可能なリチウム-イオンの流れ(flux)をもたらし、電解質とリチウム電極の間のリチウムイオン物質移動速度を高め、これにより充電/放電プロセス中のリチウムの堆積の均一性と溶解を向上させる。更に、高濃度によって引き起こされる局所的な高粘度は、電解質からの圧力を増加させてデンドライトの成長を抑制し、潜在的にアノードの表面により均一な堆積をもたらす。また、高粘度は、堆積領域付近のアニオン対流を制限することができ、Liイオンのより均一な堆積を促進する。これらの理由は、別々に又は組み合わせて、我々がこれまで調査した多数の充電式リチウムセル(Li-Sセルの2.5Mを超える塩濃度を有する)のいずれでもデンドライトのような特徴が観察されないという概念に基づいていると考えられる。アノードがアノード活物質としてリチウム金属を有さないLi-イオンセル又はLi-イオン硫黄セルに関連するデンドライトの問題はない。これらの場合、望ましい塩濃度は、1.5M~5.0M、より好ましくは2.0M~3.5Mである。
【0083】
別の利点の例として、この電解質は、Li-Sセルのカソードでのリチウムポリスルフィドの溶解を抑制でき、従って、ポリスルフィドのシャトル現象を克服し、セル容量が時間とともに大幅に減衰しないようにする。結果として、長いサイクル寿命とともに100%に近いクーロン効率が達成された。多硫化リチウム(ξ)の溶解度は、通常のイオン効果により電解質にすでに存在するリチウムイオンの濃度に影響される。
多硫化リチウムの溶解度積(Ksp)は、
Li⟷2Li+S 2-、Ksp=[Li[S 2-]=4ξ 、ξ=(Ksp/4)1/3 (方程式4)
と記述されることができ、式中、ξはリチウムイオンが溶媒に存在しない場合のリチウムポリスルフィドの溶解度を表す。電解質中のリチウム塩の濃度(C)がポリスルフィドの溶解度より著しく大きい場合、濃縮リチウム塩を含む電解質中のポリスルフィドの溶解度は、ξ/ξ=(2ξ/C) (方程式5)
と表すことができる。従って、濃縮電解質を使用すると、ポリ硫化リチウムの溶解度が大幅に低下する。
【0084】
本発明の実施形態は、リチウム金属二次セル、リチウム-イオンセル、リチウム-硫黄セル、リチウム-イオン硫黄セル、又はリチウム-空気セルから選択される充電式リチウムセルである。充電式リチウムセルは、カソード活物質を有するカソードと、アノード活物質を有するアノードと、アノードとカソードを分離する多孔質セパレータと、カソードとアノードに接触する不燃性準固体電解質とを含み、電解質は、電解質が、20℃で測定した場合に0.01kPa未満の蒸気圧、前述の第1の有機液体溶媒のみの引火点より少なくとも20℃高い引火点、150℃を超える引火点、又は引火点なしを示すように、十分に高い濃度を有する第1の有機液体溶媒に溶解したリチウム塩を含み、リチウム塩濃度xは1.5M~5.0Mであり、電解質添加剤が液体溶媒に添加される。充電式リチウムセルは、好ましくは、0.3より大きい、好ましくは典型的には0.4より大きい、最も好ましくは典型的には0.6より大きいリチウムイオン移動数を有する準固体電解質を含む。
【0085】
液体添加剤は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、炭酸トリフルオロプロピレン(FPC)、メチルノナフルオロブチルエーテル(MFE)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TTSPi)、リン酸トリアリル(TAP)、硫酸エチレン(DTD)、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン(PES)、炭酸ジエチル(DEC)、アルキルシロキサン(Si-O)、アルキルシラン(Si-C)、液体オリゴマーシラキサン(-Si-O-Si-)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、キャノーラ油、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0086】
液体溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、ハイドロフロロエーテル(例えば、メチルパーフルオロブチルエーテル、MFE、又はエチルパーフルオロブチルエーテル、EFE)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる
【0087】
リチウム塩は、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスベルフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0088】
イオン液体はイオンのみから構成されている。イオン液体は、所望の温度を超えたときには融解状態又は液体状態になる低融解温度の塩である。例えば、イオン塩は、その融点が100℃未満である場合にイオン液体とみなされる。融解温度が室温(25℃)以下である場合、塩は室温イオン液体(RTIL)と呼ばれる。IL由来のリチウム塩は、大きなカチオンと電荷非局在化アニオンとの組み合わせによる弱い相互作用によって特徴付けられる。これは、可撓性(アニオン)及び非対称性(カチオン)による結晶化の傾向を低減する。
【0089】
いくつかのILは、本発明の第1の有機溶媒で機能する共溶媒(塩としてではなく)として使用されることができる。1-エチル-3-メチル-イミダゾリウム(EMI)カチオンとN,N-ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(TFSI)アニオンとの組み合わせによって、よく知られたイオン液体が生成される。この組み合わせにより、最大約300~400℃で、多くの有機電解質溶液と同等のイオン導電率、並びに低い分解性及び低い蒸気圧を有する流体が得られる。これは、一般に低い揮発性及び非引火性、従って、電池に関してはるかに安全な電解質溶媒を示唆する。
【0090】
イオン液体は、基本的には、多様な成分の調製が容易であることにより、無制限の数の構造変化を生じる有機又は無機イオンから構成される。従って、様々な種類の塩を使用して、所与の用途に合わせて所望の特性を有するイオン液体を設計することができる。これらには、とりわけ、カチオンとしてイミダゾリウム、ピロリジニウム及び四級アンモニウム塩、及びアニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、及びヘキサフルオロホスフェートが含まれる。有用なイオン液体系リチウム塩(溶媒ではない)は、カチオンとしてリチウムイオン、並びにアニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、及びヘキサフルオロホスフェートからなり得る。例えば、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)は、特に有用なリチウム塩である。
【0091】
その組成に基づいて、イオン液体は、基本的な三種類のタイプ:非プロトン性、プロトン性、両性イオン型を含む様々な部類に分類され、それぞれが特定の用途に適している。室温イオン液体(RTIL)の一般的なカチオンとしては、限定はしないが、テトラアルキルアンモニウム、ジ、トリ、及びテトラ-アルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、並びにトリアルキルスルホニウムが挙げられる。RTILの一般的なアニオンとしては、限定はしないが、BF 、B(CN) 、CHBF 、CH2CHBF 、CFBF 、CBF 、n-CBF 、n-CBF 、PF 、CFCO 、CFSO 、N(SOCF 、N(COCF)(SOCF、N(SOF) 、N(CN) 、C(CN) 、SCN、SeCN、CuCl 、AlCl 、F(HF)2.3 などが挙げられる。相対的に言えば、イミダゾリウム又はスルホニウムベースのカチオンと、AlCl 、BF 、CFCO 、CFSO 、NTf 、N(SOF) 、又はF(HF)2.3 などの錯体ハロゲン化物アニオンとの組み合わせが、良好な動作伝導率を有するRTILをもたらす。
【0092】
RTILは、高い固有のイオン導電率、高い熱安定性、低い揮発性、低い(実質的にゼロの)蒸気圧、非引火性、室温よりも上及び下の広い温度範囲で液体を維持する機能、高い極性、高い粘度、及び広い電気化学的窓など、典型的な特性を有することができる。高い粘度を除いて、これらの特性は、充電式リチウムセルにおける電解質共溶媒としてRTILを使用する際に望ましい特性である。
【0093】
アノード活物質は、例として、大量のリチウムを貯蔵することができるリチウム金属箔又は大容量のSi、Sn、又はSnOを含み得る。LI-Sセルでは、カソード活物質は、純粋な硫黄(アノード活物質がリチウムを含む場合)、リチウムポリスルフィド、又は任意選択の硫黄含有化合物、分子、又はポリマーを含み得る。セルの作製時にカソード活物質がリチウム含有化学種(例えば、リチウムポリスルフィド)を含む場合、アノード活物質は、大量のリチウムを貯蔵できる任意選択の材料(例えば、Si、Ge、Sn、SnO等)であり得る。他のリチウム二次セルの場合、カソード活物質としては、遷移金属フッ化物(例えば、MnF、FeFなど)、塩化遷移金属(例えば、CuCl)、ジカルコゲン化遷移金属(例えば、TiS、TaS、及びMoS)、遷移金属トリカルコゲナイド(例えば、NbSe)、遷移金属酸化物(例えば、MnO、CoO、酸化鉄、酸化バナジウムなど)、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。酸化バナジウムは、VO、LiVO、V、Li、V、Li、Li、V、Li、V13、Li13、これらのドープされたバージョン、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができ、この場合に0.1<x<5である。
【0094】
高いリチウム塩濃度を含む有機液体溶媒系準固体電解質を備える充電式リチウム-金属又はリチウム-イオンセルは、例として、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、かんらん石化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO、又はこれらの組み合わせから選択されるカソード活物質を含むことができ、この場合に、Mは遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である。
【0095】
典型的には、カソード活物質は導電性ではない。従って、一実施形態では、カソード活物質は、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、黒鉛粒子、膨張黒鉛粒子、活性炭、メソポーラスカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、グラフェンシート(ナノグラフェンプレートレット、NGPとも呼ばれる)、炭素繊維、又はこれらの組み合わせなどの導電性フィラーと混合されることができる。これらの炭素/黒鉛/グラフェン材料は、カソード活物質を支持するために、布、マット、又は紙の形態にすることができる。
【0096】
好ましい実施形態では、ナノスケールフィラメント(例えば、CNT、CNF、及び/又はNGP)は、アノード活物質(例えば、Li又はSiコーティング)、又はカソード活物質(例えば、硫黄、多硫化リチウム、酸化バナジウム、TiSなど)を支持する大きな表面を含む多孔質ナノ構造体に形成される。多孔質ナノ構造体は、硫黄又は多硫化リチウムを含浸させる前に、好ましくは2nm~1μmの細孔サイズを有する細孔を有する必要がある。細孔に硫黄又は多硫化リチウムを含浸させた後、細孔サイズは、好ましくは2nm~50nm、更に好ましくは2nm~10nmの範囲である。これらの細孔は、充電/放電を繰り返す間にカソード側で電解質を収容しカソード活物質を細孔内に保持するために適切なサイズになっている。アノード活物質を支持するために、同じ種類のナノ構造体をアノード側に実装することができる。
【0097】
別の好ましい実施形態では、カソード活物質は、(a)相互接続されて、100nmより小さいサイズを有する細孔を含む多孔質の導電性黒鉛フレークネットワークを形成する剥離黒鉛ワーム、及び(b)細孔に配置された、又は黒鉛フレーク表面にコーティングされた、硫黄、硫黄化合物、又は多硫化リチウムのナノスケール粉末又はコーティングからなり、粉末又はコーティングは、電解質と接触し100nm未満の寸法を有する。好ましくは、セルが完全に充電された状態にあるときに測定又は計算される、剥離黒鉛ワーム、及び硫黄、硫黄化合物、又はリチウムポリスルフィドを合わせた総重量に基づいて、剥離黒鉛ワームの量は1重量%~90重量%の範囲であり、粉末又はコーティングの量は99重量%~10重量%の範囲である。好ましくは、硫黄、硫黄化合物、又はリチウムポリスルフィドの粉末又はコーティングの量は、70重量%~95重量%の範囲である。最も好ましくは、硫黄、硫黄化合物、又はリチウムポリスルフィドの粉末又はコーティングの量は、80重量%以上である。
【0098】
外部充填又は外部回路から出入りする電子は、導電性添加剤(従来の硫黄カソードで)又は導電性フレームワーク(例えば、剥離黒鉛メソポーラス構造又は導電性ナノフィラメントのナノ構造)を経て、カソード活物質に達する必要がある。カソード活物質(例えば、硫黄、多硫化リチウム、酸化バナジウムなど)は不十分な電子導電体であるため、必要な電子の移動距離を短くするために、活物質の粒子又はコーティングをできるだけ薄くする必要がある。
【0099】
従来のLi-Sセルは、典型的には、硫黄と導電性添加剤/支持体からなる複合カソードの硫黄が70重量%未満に制限されていた。従来技術の複合カソードの硫黄含有量が70重量%に達する、又はそれを超える場合でも、複合カソードの比容量は、典型的には、理論的予測に基づいて予想されるものより著しく低い。例えば、硫黄の理論比容量は1,675mAh/gである。70%の硫黄(S)と30%のカーボンブラック(CB)からなる、バインダーなしの複合カソードは、1,675×70%=1,172mAh/gまでを保存できる必要がある。残念ながら、実際に観察される比容量は、典型的には、達成できるものの75%未満(多くの場合50%未満)である。即ち、活物質の利用率は典型的には75%未満(又は50%未満)である。これは、Li-Sセルの当技術分野における大きな問題であり、この問題に対する解決策はなかった。最も驚くべきことに、カソードでイオン液体電解質と組み合わせて、硫黄又は多硫化リチウムの導電性支持材料として剥離黒鉛ワームを実装することにより、典型的には>>80%、より頻繁に90%を超え、多くの場合に99%に近い活物質利用率を達成することが可能になった。
【0100】
本発明のリチウム-硫黄セルでは、硫黄、硫黄化合物、又は多硫化リチウムのナノスケール粉末又はコーティングが細孔内に配置される、又は黒鉛フレーク表面にコーティングされる後、電解質をその中に収容するために、多孔質硫黄/剥離黒鉛の混合物又は複合材料の細孔のサイズは2nm~10nmであることが好ましい。硫黄/剥離黒鉛の混合物又は複合材料のこれらの細孔サイズは、驚くべきことに、シャトル効果を更に抑制、低減、又は排除することができる。理論に縛られることを望まないが、これはおそらく、充放電サイクル中に微小なポケット(細孔)にリチウムポリスルフィドを保持する2~10nm間隔の剥離黒鉛フレーク表面の予期しない能力によるものであろうと我々は感じている。黒鉛表面がリチウムポリスルフィドの流出を防ぐこの能力は、私たちにとってもう一つの大きな驚きである。
【0101】
剥離黒鉛ワームは、層状黒鉛材料のインターカレーションと剥離から得られることができる。剥離黒鉛ワームを製造する従来のプロセスは、典型的には、黒鉛材料に化学処理(強酸及び/又は酸化剤を使用したインターカレーション及び/又は酸化)を施して、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は黒鉛酸化物(GO)を形成することから始まる。これは、硫酸、硝酸(酸化剤)、及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は塩素酸ナトリウム)の混合物に天然黒鉛粉末を浸漬することで最も多くの場合達成される。得られたGICは、実際にはある種類の酸化黒鉛(GO)粒子である。次いで、このGICを水で繰り返し洗浄し濯いで過剰な酸を除去し、酸化黒鉛の懸濁液又は分散液を得、これは水に分散された別個の視覚的に識別可能な酸化黒鉛粒子を含む。様々な種類の黒鉛又はグラフェン生成物を形成するために、この濯ぎ工程の後に続くことができる様々な処理経路が存在する。
【0102】
例えば、第1の経路は、懸濁液から水を除去して、本質的に乾燥GIC又は乾燥酸化黒鉛粒子の塊である「膨張性黒鉛」を得ることを伴う。膨張性黒鉛を典型的には800~1,050℃の範囲の温度に約30秒~2分間曝すと、GICは30~800倍に急速に膨張して「黒鉛ワーム」を形成し、これらはそれぞれ、剥離したが大部分は分離されていない依然相互接続されている黒鉛フレークの集合体である。
【0103】
第2の経路として、単離及び分離された黒鉛フレーク又は100nmより厚いプレートレット(従って、定義によりナノ材料ではない)であるいわゆる「膨張黒鉛フレーク」を作製する目的で、低い強度のエアミル又はせん断機を使用して黒鉛ワームを簡単に分解することを選択できる。或いは、剥離黒鉛ワームを、再圧縮(例えば、ロールプレスして)して、本質的に電池電解質を透過させない固体フィルムである可撓性黒鉛シート又は可撓性黒鉛箔を形成することができる。このような電解質不浸透性フィルムは、良好な電池集電体(例えば、アルミホイルを置き換えるため)となり得るが、硫黄を支持するのに十分な量の比表面積を有さない。
【0104】
或いは、第3の経路として、我々の米国特許出願第10/858,814号明細書に開示される通り、剥離黒鉛ワームを高強度の機械的せん断にかけて(例えば、超音波装置、高せん断ミキサー、高強度エアジェットミル、又は高エネルギーボールミルを使用)、分離した単層及び/又は多層グラフェンシート(総称してナノグラフェンプレートレット又はNGPと呼ばれる)を形成する。単層グラフェンは、0.34nmほどに薄くすることができ、一方、多層グラフェンは、100nmまでの厚さを有することができる。
【0105】
酸化黒鉛懸濁液(十分に高い度合の酸化の後)は、個々の酸化グラフェンシートを酸化黒鉛粒子から分離/単離する目的で、超音波処理に供されることができる。これは、グラフェン間の面分離が、天然黒鉛の0.335nmから高度に酸化された黒鉛酸化物の0.6~1.1nmに増加し、隣接する面をともに保持するファンデルワールス力を著しく弱めるという概念に基づく。超音波力は、グラフェン面シートを更に分離して、分離された、単離された、又は別個の、典型的には20~50重量%の酸素含有量を有する酸化グラフェン(GO)シートを形成するのに十分であり得る。次いで、これらの酸化グラフェンシートを化学的又は熱的に還元して、典型的には0.01重量%~10重量%、より典型的には0.01重量%~5重量%、最も典型的には0.01重量%~2重量%の酸素含有量を有する「還元グラフェン酸化物」(RGO)を得ることができる。
【0106】
一般的に、NGPには、0~10重量%、より典型的には0~5重量%、好ましくは0~2重量%の酸素含有量を有する単層及び多層グラフェン又は還元グラフェン酸化物が含まれる。元のグラフェンは、本質的に酸素が0%である。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.01重量%~50重量%の酸素を含むことができる。
【0107】
先に示したように、乾燥GIC又は乾燥GO粉末は、短時間(典型的には30~120秒)、熱衝撃(高温で、典型的には800~1,050℃)に曝されることができ、構成された黒鉛フレークを自由に膨張させる。得られた黒鉛ワームは、典型的には、酸化又はインターカレーションの程度に応じて、元の黒鉛体積の30~800倍の膨張体積を有する。
【0108】
典型的には、総GO重量に基づいて46~50重量%の酸素含有量は、黒鉛の実質的に完全な酸化の指標であり、これはまた、インターカレーションされていない又は酸化されていない天然黒鉛における元来2θ=約26度にあるX線回折曲線ピークの完全な消失によって反映される。2θ=約26度のこの回折ピークは、2つの(002)グラフェン面間のd002間隔に対応する。
【0109】
硫酸などの酸は、グラフェン面間の空間に浸透する唯一の種類のインターカレーション剤(インターカラント)ではない。アルカリ金属(Li、K、Na、Cs、及びこれらの合金又は共晶)など、多くの他の種類のインターカレーション剤を使用して、黒鉛をステージ1、ステージ2、ステージ3などにインターカレーションできる。ステージnは、n個のグラフェン面ごとの1つのインターカラント層を意味する。例えば、ステージ1のカリウムがインターカレートされたGICは、グラフェン面ごとに1つのKの層があることを意味する、又は、G/K/G/K/G/KG...の配列における2つの隣接するグラフェン面の間に挿入されたK原子の1つの層を見つけることができることを意味し、この場合に、Gはグラフェン面、Kはカリウム原子面である。ステージ2のGICは、GG/K/GG/K/GG/K/GG...の配列を有し、ステージ3のGICは、GGG/K/GGG/K/GGG...などの配列を有する。
【0110】
黒鉛ワームは、フレーク間の細孔を有する大きく相互接続された剥離黒鉛フレークのネットワークを有することを特徴とする。この剥離黒鉛フレークは、使用される出発となる黒鉛材料の種類に応じて、0.5~100μm(より典型的には1~20μm)の典型的な長さ又は幅の寸法を有し、これらの横方向の寸法(長さ又は幅)は、GICステージの数(又はGOの酸素含有量)、剥離温度、及び剥離環境から比較的独立している。しかしながら、これらの要因は、体積膨張率(剥離黒鉛ワームの体積対出発となる黒鉛粒子体積)、フレークの厚さの範囲、及び剥離黒鉛ワームの細孔サイズ範囲に大きな影響を及ぼす。
【0111】
例えば、ステージ-1のGIC又は完全酸化黒鉛(酸素含有量40~50%のGO)は、1,000℃で1分間の制限されていない剥離後に、約450~800%の典型的な体積膨張率、0.34~3nmの範囲のフレークの厚さ、及び50nm~20μmの細孔サイズ範囲を示す。対照的に、20~25%の酸素含有量のステージ-5のGIC又はGOは、1,000℃で1分間の制限されていない剥離後に、約80~180%の体積膨張率、1.7~200nmの範囲のフレークの厚さ、及び30nm~2μmの細孔サイズ範囲を示す。
【0112】
ステージ-1のGICは、非常に高い比表面積(典型的には>500m/g、多くの場合>700mm/g、更にはいくつかの場合で>1,000mm/g)を有する薄い黒鉛フレークを備える高度に剥離した黒鉛ワームにつながるため、最も望ましい。表面積が大きいと、同じ硫黄又は多硫化リチウムの体積で、より薄い硫黄又は多硫化リチウムのコーティングの堆積が可能になる。結果として、剥離黒鉛フレークの表面に付着する硫黄又は多硫化リチウムのより厚いコーティングの割合が大幅に減少する。これにより、セルの放電中にほとんどの硫黄がリチウムイオンに到達できる。
【0113】
剥離黒鉛ワームのフレークは、実質的に相互接続されたままで(物理的に相互に接触又は相互に結合)、電子導電経路のネットワークを形成する。従って、剥離黒鉛ワームの導電率は比較的高く(10~10,000S/cm)、カーボンブラック、活性炭、ポリマーカーボン、非晶質炭素、硬質炭素、軟質炭素、及びメソフェーズピッチなどの導電率よりも数桁高くなる可能性がある。
【0114】
柔らかくふわふわしたワームは、硫黄を含浸又はコーティングすると、機械的強度(例えば、圧縮強度又は曲げ強度)が予想外に2~3桁まで向上すると示した。必要に応じて、含浸黒鉛ワームを再圧縮して、物理密度と構造的完全性を高めることができる。黒鉛ワーム硫黄複合体の密度は、剥離の度合いと再圧縮の状態に応じて、典型的には0.02g/cm~1.0g/cmの範囲である。
【0115】
カソードが作製されると、カソード活物質(硫黄、多硫化リチウム、酸化バナジウム、二硫化チタンなど)が、剥離黒鉛フレークで構成されるナノスケールの細孔に埋め込まれる。好ましくは、カソード活物質は、ナノメートルスケール(好ましくは<10nm、より好ましくは<5nm)に粉砕される。或いは、カソード活物質は、溶融含浸、溶液堆積、電気堆積、化学蒸着(CVD)、物理蒸着、スパッタリング、レーザーアブレーションなどによって得られた黒鉛フレークの表面に堆積した薄膜コーティングの形態であり得る。次いで、このコーティングは、カソードが作製される前、その間、その後、或いはセルが作製される後でさえ電解質と接触している。
【0116】
Li-Sセルにメソスケールの細孔を有するメソポーラス黒鉛ワームのカソードの本設計は、主として、元素硫黄、有機硫黄及び炭素硫黄材料を含むカソードを含むセルの重大な欠点が、カソードからセルの残り(特にアノード)への可溶性硫化物、多硫化物、有機硫化物、炭素硫化物及び/又は炭素多硫化物(アニオン性還元生成物)の溶解と過剰な外部への拡散に関連しているという概念によって動機付けられた。このプロセスは、いくつかの問題につながる:高い自己放電率、カソード容量の損失、活性なセル構成要素との電気的接触の損失につながる集電体及び電気リードの腐食、アノードの誤動作を生じさせるアノード表面の汚れ、並びにイオン輸送の損失及びセルの内部抵抗の大幅な増加につながるセル膜セパレータの細孔の詰まり。
【0117】
アノード側では、リチウム金属がLi金属セルの唯一のアノード活物質として使用される場合、リチウムデンドライトの形成が懸念され、これは内部短絡と熱暴走を引き起こす可能性がある。本明細書では、このデンドライトの形成の課題に対処するために、2つの手法を別々に又は組み合わせて使用した。1つは高濃度電解質を使用することを伴い、もう1つは導電性ナノフィラメントからなるナノ構造体を使用することを伴う。後者の場合、複数の導電性ナノフィラメントを処理して、好ましくは密集したウェブ、マット、又は紙の形態の統合された凝集構造を形成し、これらのフィラメントが交差、重なり、又は何らかの方法で相互に結合して(例えば、バインダー材料を使用して)、電子導電経路のネットワークを形成することを特徴とする。統合された構造は、電解質を収容するために実質的に相互接続された細孔を有する。ナノフィラメントは、例として、カーボンナノファイバー(CNF)、黒鉛ナノファイバー(GNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、金属ナノワイヤ(MNW)、エレクトロスピニングにより得られた導電性ナノファイバー、導電性エレクトロスピニング複合ナノファイバー、ナノスケール化グラフェンプレートレット(NGP)、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。ナノフィラメントは、ポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、又はこれらの誘導体から選択されるバインダー材料によって結合されることができる。
【0118】
驚くべきことであり重要であることに、ナノ構造は、多くの回数のサイクル後にアノードに幾何学的に鋭い構造又はデンドライトが見つからない程度まで、リチウム原子の均一な堆積を助長する環境を提供する。理論に束縛されることを望まないが、出願人は、高導電性ナノフィラメントの3-Dネットワークが、再充電中にフィラメント表面にリチウムイオンを実質的に均一に引き戻すことを想定している。更に、フィラメントのナノメートルのサイズのため、ナノフィラメントの単位体積あたり又は単位重量あたりの表面積が大きい。この極めて高い比表面積により、リチウムイオンにフィラメント表面にリチウム金属コーティングを高速で均一に堆積する機会をもたらし、リチウム金属二次電池の高い再充電率を可能にする。
【0119】
本発明の高濃度電解質システム及び任意選択のメソポーラス剥離黒鉛-硫黄は、いくつかの広範な部類の充電式リチウムセルに組み込まれることができる。以下の例では、例示のために硫黄又は多硫化リチウムがカソード活物質として使用される。
【0120】
(A)従来のアノード構成のリチウム金属-硫黄:セルは、任意選択のカソード集電体、カソード(硫黄又は多硫化リチウム、及び導電性添加剤、或いはメソポーラス剥離黒鉛又は導電性ナノフィラメントのナノ構造体などの導電性支持フレームワークの複合体を含む)、セパレータ/電解質(勾配電解質システムを備える)、並びにアノード集電体を含む。潜在的なデンドライトの形成は、アノードで高濃度電解質を使用することにより克服できる。
【0121】
(B)ナノ構造アノード構成のリチウム金属-硫黄セル:セルは、任意選択のカソード集電体、カソード(硫黄又は多硫化リチウム、及び導電性添加剤、或いはメソポーラス剥離黒鉛又は導電性ナノフィラメントのナノ構造体などの導電性支持フレームワークの複合体を含む)、セパレータ/電解質(勾配電解質システムを備える)、任意選択のアノード集電体、並びに充電又は再充電操作中にアノードに戻り堆積されるリチウム金属を収容するナノ構造体を含む。ナノフィラメントのこのナノ構造体(ウェブ、マット、又は紙)は、均一なLi金属の堆積を可能にする均一な電界を提供し、デンドライトを形成する傾向を低減する。この構成は、アノードの高濃度電解質と相まって、長く安全なサイクル挙動のためのデンドライトのないセルを提供する。
【0122】
(C)従来のアノードを有するリチウムイオン-硫黄セル:例えば、このセルは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はスチレンブタジエンゴム(SBR)などのバインダーで結合されたアノード活性黒鉛粒子からなるアノードを含む。また、このセルは、カソード集電体、カソード(硫黄又は多硫化リチウム、及び導電性添加剤、或いはメソポーラス剥離黒鉛又は導電性ナノフィラメントのナノ構造体などの導電性支持フレームワークの複合体を含む)、セパレータ/電解質(準固体電解質システムを備える)、並びにアノード集電体を含む。
【0123】
(D)ナノ構造アノードを有するリチウムイオン-硫黄セル:例えば、このセルは、Siコーティングでコーティングされた、又はSiナノ粒子で結合されたナノファイバーのウェブを含む。また、このセルは、任意選択のカソード集電体、カソード(硫黄又は多硫化リチウム、及び導電性添加剤、或いはメソポーラス剥離黒鉛又は導電性ナノフィラメントのナノ構造体などの導電性支持フレームワークの複合体を含む)、セパレータ/電解質(準固体電解質システムを備える)、並びにアノード集電体を含む。この構成は、極めて高い容量、高エネルギー密度、及び安全で長いサイクル寿命を提供する。
【0124】
(A)~(D)のこの硫黄又はリチウムポリスルフィドは、遷移金属ジカルコゲナイド(例えば、TiS)、遷移金属トリカルコゲナイド(例えば、NbSe)、遷移金属酸化物(例えば、MnO、酸化バナジウムなど)、層状化合物LiMO、スピネル化合物LiM、かんらん石化合物LiMPO、ケイ酸塩化合物LiMSiO、タボライト化合物LiMPOF、ホウ酸塩化合物LiMBO、又はこれらの組み合わせなどの任意の他の種類のカソード活物質と交換されることができ、この場合に、Mは遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である。
【0125】
リチウムイオン硫黄セル(例えば、上記の(C)及び(D)に記載される)では、アノード活物質は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdの他の元素との合金又は金属間化合物、及びこれらのリチウム化バージョン、この場合に、前述の合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCd、及びこれらの混合物又は複合体の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせを含む、広範囲の高容量材料から選択されることができる。リチウムイオン化されていないバージョンは、セルの作製時にカソード側がリチウムポリスルフィド又はその他のリチウム源を含む場合に使用できる。
【0126】
考えられるリチウム金属セルは、アノード集電体、電解質相(任意選択であるが、多孔質ポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーフィルムなどの多孔質セパレータで支持されていることが好ましい)、本発明のメソポーラス剥離黒鉛ワーム-硫黄カソード(カソード活物質を含む)、及び任意選択のカソード集電体からなり得る。本発明のメソポーラス剥離黒鉛構造は、適切に設計されていれば、集電体又は集電体の延長として機能できるため、このカソード集電体は任意選択である。
【0127】
電池で高容量を達成するために、より高い量又は充填量のカソード活物質、或いは好ましくは、カソード層におけるより高容量のカソード活物質を有することが望ましい。活物質の既知の組み合わせ(Li-空気セル以外)のいずれかの重量又は体積に基づいて、できる限りほぼ最も高いエネルギー密度を提供することから、リチウムと硫黄はそれぞれ、アノードとカソードにおける電気化学的活物質として非常に望ましい。高いエネルギー密度を得るために、リチウムは、純金属として、合金(リチウム-金属セルで)で、又はインターカレートされた形態(リチウム-イオンセルで)で存在でき、硫黄は元素硫黄として、又は硫黄含有量の高い有機又は無機材料の成分として存在できる。
【0128】
リチウム-イオンセルの遷移金属酸化物よりはるかに高い比容量を有する硫黄系化合物では、硫黄系化合物は高い絶縁性であり一般に微孔性ではないため、高い体積密度で硫黄系化合物の効率的な電気化学的利用を達成することは困難である。例えば、Chuの米国特許第5,532,077号明細書は、こうした問題を克服しようとするために、複合カソードにおける元素硫黄の絶縁特性を克服する問題と、複合電極における電子導電性材料(カーボンブラック)及びイオン伝導性材料(例えば、ポリエチレンオキシド又はPEO)の大きな体積分率の使用とを記載している。典型的には、Chuは、ほぼ50%以上の非活性材料(例えば、カーボンブラック、バインダー、PEOなど)を使用する必要があり、活性硫黄の相対量を効果的に制限していた。更に、おそらく、カーボンペーパー(カーボンブラックの代わりに、又はカーボンブラックに加えて)をカソード活物質のホストとして使用することを選択できる。しかしながら、この従来の炭素繊維紙では、依然として低いコーティング厚を維持しながら、十分な量のカソード活物質を大きい直径の炭素繊維表面にコーティングすることはできないが、これは、充電/放電速度の改善と抵抗の減少のために、リチウム拡散経路の長さを短くすることに必要である。言い換えれば、大きい直径の繊維に適度な割合の電極活物質をコーティングするために、コーティングの厚さを比例して大きくする必要がある。コーティングが厚くなると、リチウムが出入りする拡散経路が長くなることを意味し、これにより電池の充電/放電速度が遅くなる。本出願は、カソード活物質(硫黄、硫黄含有化合物、又は多硫化リチウム)を受け入れるために、大きな導電性表面を有するナノ厚さの剥離黒鉛フレークからなる統合された3-Dメソポーラス黒鉛ワーム構造を使用することにより、これらの困難な問題を解決した。
【0129】
ミクロンスケールの炭素繊維(典型的には、12μmを超える直径を有する)からなるカーボンペーパー(元素硫黄、導電性添加剤、イオン伝導体、及び電解質のホストとして多くの場合使用される)とは対照的に、本出願では、200nm未満、好ましくはより典型的には100nm未満、更により好ましくはより典型的には10nm未満、最も好ましくはより典型的には3nm未満の厚さを有するナノ厚さのフレークの黒鉛ワームを使用する。おそらく、剥離黒鉛ワームは、これらのワームが電極作製プロセスで処理するには弱すぎて任意の硫黄含有電極活物質を支持するには弱すぎると認識されているという概念のために、電極設計の当業者によって無視又は見過ごされていた。実際、黒鉛ワームは非常に弱い。しかしながら、黒鉛ワームのコーティングに硫黄又は硫黄化合物を含浸させると、得られる複合材料が従来の電池電極製造機(コーター)を使用して容易にカソードに形成できる程度まで、黒鉛ワームの機械的強度が大幅に向上する。更に、剥離黒鉛ワームを使用して多硫化リチウムを閉じ込め、多硫化リチウムがカソードから出てアノードに入るのを防ぐことができるという教示はなかった。これは当業者には取るに足りないことでも明白なことでもなかった。
【0130】
剥離黒鉛ワームの相互接続されたネットワークは、電子のための連続経路を形成し、アノード又はカソード(又は両方)における内部エネルギー損失又は内部加熱を大幅に削減する。このネットワークは、集電体に電子的に接続されているため、黒鉛ワームを構成する全ての黒鉛フレークは、本質的に集電体に接続されている。本発明において、硫化リチウムコーティングはフレーク表面に堆積され、このコーティングが別個のセグメントに破壊されたとしても、個々のセグメントは、下にあるフレークと物理的に依然接触したままであり、これは本質的に集電体の一部である。カソードに移動された電子は、全てのカソード活性コーティングに分配されることができる。カソード構造のメソ細孔の内部の電解質に分散/溶解された硫化リチウム粒子の場合、粒子は、必然的にナノスケールであり(塩電解質溶液プールもナノスケールである)、従って、充電操作中の速いカソード反応を助長する。
【0131】
本出願のリチウム金属セルは、ナノ構造アノード又はより従来のアノード構造を有することができるが、このような従来の構造は好ましくない。より従来のアノード構造では、アセチレンブラック、カーボンブラック、又は超微細黒鉛粒子を導電性添加剤として使用できる。バインダーは、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-プロピレン-ジエンコポリマー(EPDM)、又はスチレン-ブタジエンゴム(SBR)から選択されることができる。導電性ポリマー、メソフェーズピッチ、コールタールピッチ、及び石油ピッチなどの導電性材料もバインダーとして使用できる。これらの成分の好ましい混合比は、アノード活物質(天然又は人工黒鉛粒子、MCMB、コークス系アノード粒子、炭素コーティングされたSiナノ粒子など)の場合に80~95重量%、導電性添加剤の場合に3~20重量%、バインダーの場合に2~7重量%であり得る。アノード集電体は、銅箔又はステンレススチール箔から選択されることができる。カソード集電体は、アルミニウム箔又はニッケル箔であり得る。材料が良好な導電体であり、比較的耐腐食性であるならば、集電体の種類に特に重要な制限はない。セパレータは、ポリマー不織布、多孔質ポリエチレンフィルム、多孔質ポリプロピレンフィルム、又は多孔質PTFEフィルムから選択されることができる。
【0132】
電極活物質(例えば、アノードでのLi又はSi)を支持するために本明細書で使用されるフィラメントの最も重要な特性は、最小の抵抗で電子の容易な輸送を可能にする高い導電性である。低い導電率は、高い抵抗と高いエネルギー損失を意味し、これは望ましくない。また、フィラメントは、繰り返しの充電/放電及び加熱/冷却サイクルの際、フィラメントとコーティングの間の良好な接触を確保するために、目的の活物質(即ち、アノードでのリチウム)と化学的及び熱機械的に適合性がなければならない。いくつかの技術を使用して、フィラメントの導電性集合体(ウェブ又はマット)を製造することができ、この導電性集合体は、望ましい相互に接続された細孔を有するモノリシック体である。本発明の1つの好ましい実施形態では、多孔質ウェブは、スラリー成形又はフィラメント/バインダーのスプレー技術を使用することにより作製することができる。これらの方法は、以下の方法で実行できる。
【実施例
【0133】
以下で説明する実施例では、特に明記しない限り、シリコン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン、亜鉛、鉄、ニッケル、チタン、コバルト、及びスズなどの原料は、Ward Hill,Mass.のAlfa Aesar、Milwaukee,Wis.のAldrich Chemical Company、又はBerkeley,CA.のAlcan Metal Powdersから得た。銅ターゲットX線管と回折ビームモノクロメーターを備えた回折計を使用して、X線回折パターンを収集した。ピークの特徴的なパターンの有無は、検討した合金試料それぞれで観察された。例えば、X線回折パターンが存在しない又はシャープで明確なピークがない場合、相は非晶質であるとみなされた。いくつかの場合では、走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、ハイブリッド材料試料の構造と形態を特性評価した。
【0134】
剥離黒鉛ワーム-硫黄(又はポリスルフィド)を含むナノ構造カソードを、アルミニウム箔(集電体)に結合した。溶媒除去後、ウェブ-アルミニウム箔構成をホットプレスしてカソードを得、或いは、完全なセルをアノード集電体(Cu箔)、アノード層(例えば、Li箔片、Siコーティングを有するナノ構造ウェブ、又はPVDFで結合された黒鉛粒子)、電解質-セパレータ層、メソポーラスカソード、及びカソード集電体(例えば、ステンレススチール箔又はアルミニウム箔)全てを同時に積層することによって作製した。いくつかの場合では、NGP含有樹脂を、例えば、カソード層とカソード集電体の間のバインダーとして使用した。また、フィラメントを、ウェブを形成するためのバインダーとして固有導電性ポリマーによって結合することができる。例えば、ポリアニリン-マレイン酸-ドデシル硫酸水素塩を、過酸化ベンゾイル酸化剤、ドデシル硫酸ナトリウム界面活性剤、及びマレイン酸をドーパントとして使用する乳化重合経路を介して直接合成することができる。乾燥ポリアニリン系粉末を、DMFに2%重量/体積まで溶解して溶液を形成できる。
【0135】
Li-Sセルの従来のカソードを以下の方法で調製した。例として、60~80重量%の硫化リチウム粉末、3.5重量%のアセチレンブラック、13.5~33.5重量%の黒鉛、及び3重量%のエチレン-プロピレン-ジエンモノマー粉末をトルエンとともに混合して混合物を得た。次いで、混合物を集電体として機能するアルミニウム箔(30μm)にコーティングした。次いで、得られた2層アルミニウム箔活物質の構成をホットプレスして正極を得た。円筒型セルの調製では、正極、多孔質ポリエチレンフィルムからなるセパレータ、及び負極をこの順に積層した。この積層体を渦巻き状に巻き、セパレータ層を最も外側に配置して電極アセンブリを得た。Li-イオンセルについても同様に作製し、例えば、90重量%の選択されたカソード活物質を、5%の導電性添加剤(例えば、カーボンブラック)、及び5%のバインダー(例えば、PVDF)を混合してカソードを調製する。
【0136】
以下の実施例は、主に本発明の最良の形態の実施を例示する目的で提示され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されない。
【0137】
実施例1:使用される電解質のいくつかの例
広範囲のリチウム塩を、有機液体溶媒(単独又は別の有機液体又はイオン液体との混合物)に溶解したリチウム塩として使用できる。以下は、選択された有機又はイオン液体溶媒によく溶解する傾向があるリチウム塩の適切な選択である:ホウフッ化リチウム(LiBF)、リチウムトリフルオロ-メタスルホネート(LiCFSO)、リチウムビス-トリフルオロメチルスルホニルイミド(LiN(CFSO又はLITFSI)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF)、及びリチウムビスペルフルオロエチ-スルホニルイミド(LiBETI)。Li金属の安定化に役立つ良好な電解質添加剤はLiNOである。特に有用なイオン液体系リチウム塩としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)が挙げられる。
【0138】
好ましい有機液体溶媒としては、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)、アセトニトリル(AN)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、1,3-ジオキソラン(DOL)、及び1,2-ジメトキシエタン(DME)が挙げられる。
【0139】
好ましい液体電解質添加剤は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、炭酸トリフルオロプロピレン(FPC)、メチルノナフルオロブチルエーテル(MFE)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト(TTSPi)、リン酸トリアリル(TAP)、硫酸エチレン(DTD)、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン(PES)、炭酸ジエチル(DEC)、アルキルシロキサン(Si-O)、アルキルシラン(Si-C)、液体オリゴマーシラキサン(-Si-O-Si-)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、キャノーラ油である。
【0140】
好ましいイオン液体溶媒は、テトラアルキルアンモニウム、ジアルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキル-ピロリジニウム、又はジアルキルピペリジニウムから選択されるカチオンを有する室温イオン液体(RTIL)から選択されることができる。対アニオンは、好ましくはBF 、B(CN) 、CFCO 、CFSO 、N(SOCF 、N(COCF)(SOCF、又はN(SOF) 、から選択される。特に有用なイオン液体系溶媒としては、N-n-ブチル-N-エチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BEPyTFSI)、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP13TFSI)、及びN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが挙げられる。
【0141】
実施例2:いくつかの溶媒の蒸気圧、及び様々なリチウム塩の分子比を有する対応する準固体電解質
ホウフッ化リチウム(LiBF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などの広い分子比範囲のリチウム塩を加える前及び後の、いくつかの溶媒(DOL、DME、PC、AN、イオン液体系共溶媒を有する又は有さない、PP13TFSI)の蒸気圧、及び幅広い電解質添加剤を測定した。いくつかの蒸気圧比データ(p/p=溶液の蒸気圧/溶媒のみの蒸気圧)を、ラウルの法則を表す曲線とともに、図2図5に示すように、リチウム塩の分子比xの関数としてプロットする。ほとんどの場合、蒸気圧比は、わずかx<0.15までのラウルの法則に基づく理論的予測に従い、これを超えると、蒸気圧は新規な前例のない様式でラウルの法則から逸脱する。蒸気圧は、分子比xが0.2を超えると非常に速い速度で低下し、xが0.4を超えると極小さい値又は本質的にゼロに急速に近づくようである。p/p値が非常に低い場合、電解質の蒸気相は発火できない、又は開始してから3秒を超えて火炎を持続できない。更に重要なことは、いくらかの量の選択した添加剤を加えることにより、不燃性の閾値濃度を約1.5M又はx=0.12に大幅にシフトできる。
【0142】
実施例3:いくつかの溶媒及び添加剤及びリチウム塩分子比x=0.2を有する対応する準固体電解質の引火点と蒸気圧
いくつかの溶媒(液体添加剤を有する又は有さない)及びリチウム塩分子比x=0.2を有する電解質の引火点を以下の表1に示す。OSHA(労働安全衛生局)分類によると、38.7℃未満の引火点を有する全ての液体は可燃性であることに留意されたい。しかしながら、安全性を確保するために、38.7℃を大きく超える引火点(大幅に、例えば、少なくとも50°増加し、好ましくは150℃を超える)を示すように準固体電解質を設計した。表1のデータは、選択された添加剤が液体溶媒に添加される場合、リチウム塩を0.2の分子比まで添加すれば、これらの基準を満たすのに通常は十分であることを示している。
【0143】
実施例4:いくつかの電解質のリチウムイオン移動数
リチウム塩の分子比に関して、いくつかの種類の電解質(例えば、添加剤を有する又は有さない、LiTFSI塩/(EMImTFSI+DME)溶媒及びLiPF/DEC)のLiイオン移動数を検討し代表的な結果を図6図8に要約する。一般的に、低塩濃度の電解質のLiイオン移動数は、濃度がx=0からx=0.2~0.35に増加すると減少する。しかしながら、x=0.2~0.35の分子比を超えると、塩濃度の増加とともに移動数が増加し、Liイオン輸送機構の根本的な変化を示す。これは、前述の理論的なサブセクションで説明した。更に、電解質への液体添加剤の組み込みは、リチウムイオン輸送挙動に悪影響を与えない。いくつかの場合では、液体添加剤は実際に移動数を増加させる。
【0144】
Liイオンが低塩濃度の電解質(例えば、x<0.2)において移動する場合、Liイオンは、これとともに複数の溶媒和アニオン又は分子を引きつけることができる。溶媒により多くの塩が溶解しているために流体の粘度が増加すると、荷電種のこのようなクラスターの協調的な移動が更に妨げられる可能性がある。対照的に、x>0.2の極めて高い濃度のリチウム塩が存在する場合、Liイオンは、リチウムイオンを別にクラスター化する可能性のある利用できる溶媒和アニオンを大幅に上回る可能性があり、複数イオン錯体種を形成し、その拡散プロセスを遅くする。この高いLiイオン濃度により、より多くの「遊離Liイオン」(クラスター化されていない)を得ることを可能にし、これにより、より高いLi移動数が得られる(従って、容易なLi輸送)。リチウムイオン輸送機構は、複数イオン錯体支配機構(全体的に流体力学的半径が大きい)から多数の利用可能な遊離Liイオンを有する単一イオン支配機構(流体力学的半径が小さい)に変わる。この観察では、十分な数のLiイオンが準固体電解質を通って又はそこから迅速に移動して、カソード(放電中)又はアノード(充電中)との相互作用又は反応に容易に利用できるようにすることを更に主張しており、これによりリチウム二次セルの良好な速度能力を確証する。最も重要なことは、これらの濃縮電解質は不燃性で安全である。液体添加剤の存在により、必要なリチウム塩濃度が低下し、不燃性の電解質を作製することができ、乾電池セルへの電解質注入における液体流動性を維持することができる。安全性、容易なリチウムイオン輸送、良好な電気化学的性能特性、及び電池製造の容易さが組み合わされることは、これまで全ての種類のリチウム二次電池で実現するのが困難であった。
【0145】
実施例5:ハマー法を使用した天然黒鉛から得られた剥離黒鉛ワーム
ハマーの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に従い、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)を、硫酸、硝酸ナトリウム、及び過マンガン酸カリウムを使用して、天然黒鉛フレーク(Huadong Graphite Co.,Pingdu,Chinaの、元のサイズが200メッシュ、約15μmに粉砕)のインターカレーション及び酸化によって調製した。この実施例では、黒鉛1グラムごとに、濃硫酸22ml、過マンガン酸カリウム2.8グラム、及び硝酸ナトリウム0.5グラムの混合物を使用した。黒鉛フレークを混合溶液に浸漬し、反応時間は30℃で約3時間であった。過熱及びその他の安全上の問題を回避するために、過マンガン酸カリウムを十分に制御された方法で硫酸に徐々に加える必要があることに注意することが重要である。反応が完了したら、混合物を脱イオン水に注ぎ濾過した。次いで、濾液のpHが約5になるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。スラリーを噴霧乾燥し、60℃の真空オーブンに24時間保存した。得られたGICを、剥離黒鉛フレークのワームを得るために、窒素ガスで満たされた石英管内で35秒間1,050℃の温度に曝した。
【0146】
実施例6:アノード用のエレクトロスピニングPAAフィブリルから得られたフィラメントの導電性ウェブ
紡糸のためのポリ(アミド酸)(PAA)前駆体を、テトラヒドロフラン/メタノール(THF/MeOH、重量で8/2)の混合溶媒中で、ピロメリット酸二無水物(Aldrich)と4,4’-オキシジアニリン(Aldrich)を共重合することにより調製した。エレクトロスピニング装置を使用して、PAA溶液を繊維ウェブに紡糸した。装置は、ポリマー溶液が押し出された正に帯電したキャピラリーを備えた15kV直流電力供給装置と、繊維を収集するための負に帯電したドラムとからなった。PAAからの溶媒除去とイミド化を、40℃で12時間、100℃で1時間、250℃で2時間、及び350℃で1時間、気流下での段階的な熱処理によって同時に実行した。熱硬化したポリイミド(PI)ウェブ試料を1,000℃で炭化して、フィブリルの平均直径が67nmの試料を得た。このようなウェブは、カソードにおける硫黄(又はポリ硫化リチウム)、酸化バナジウム、二硫化チタンなどを収容するために、且つ/又はアノード活物質のための導電性基材として使用できる。
【0147】
実施例7:アノード又はカソード用のNGP系ウェブ(NGP及びNGP+CNFのウェブ)の調製(導電性ナノ構造支持体として)
出発となる天然黒鉛フレーク(Huadong Graphite Co.,Pingdu,Chinaの、元のサイズが200メッシュ)を約15μmに粉砕した。発煙硝酸(>90%)、硫酸(95~98%)、塩素酸カリウム(98%)、及び塩酸(37%)を含む、本検討で使用したインターカレーション及び酸化化学物質は、Sigma-Aldrichから購入し受け取ったまま使用した。
【0148】
磁気攪拌棒を含む反応フラスコに硫酸(360mL)及び硝酸(180mL)を入れ、氷浴に浸して冷却した。酸混合物を撹拌し、15分間冷却し、凝集を避けるために激しく撹拌しながら黒鉛粒子(20g)を加えた。黒鉛粒子をよく分散した後、温度の突然の上昇を避けるために、塩素酸カリウム(110g)を15分かけてゆっくりと加えた。反応フラスコにゆるく蓋をして反応混合物からガスを発生させ、室温で48時間撹拌した。反応が完了したら、混合物を脱イオン水8Lに注ぎ濾過した。スラリーを噴霧乾燥して、膨張性黒鉛試料を回収した。乾燥した膨張性黒鉛試料を1,000℃に予熱した管状炉にすばやく入れ、約40秒間石英チューブ内に置いて剥離黒鉛ワームを得た。このワームを水に分散させて懸濁液を形成し、60ワットの電力で15分間超音波処理して分離されたNGPを得た。
【0149】
NGP含有懸濁液の約半分を濾過し乾燥させて、いくつかの紙状マットを得た。次いで、蒸気成長したCNFを残りの半分に加えて、NGPとCNF(20%)の両方を含む懸濁液を形成し、これを乾燥していくつかの紙状マットを作製した。約5%のフェノール樹脂バインダーを使用して、両方の試料のウェブ構造を統合するのを支援した。このようなウェブは、アノード活物質用の導電性基材としてあり得る。
【0150】
実施例8:Li-Sカソード用のメソポーラス黒鉛ワーム導電性構造体における硫黄の物理蒸着(PVD)
典型的な手順では、メソポーラス黒鉛ワーム構造又はナノフィラメントウェブをガラスチューブにて封止し、40~75℃の温度で、固体硫黄をガラスチューブの一方の端に配置し、ウェブをもう一方の端の近くに配置する。硫黄蒸気への暴露時間は、厚さ数ナノメートルから数ミクロンの硫黄のコーティングの場合、典型的には数分から数時間であった。100nm未満の硫黄のコーティングの厚さが好ましいが、20nm未満の厚さがより好ましく、10nm(又は更には5nm)未満の厚さが最も好ましい。ナノ構造アノードを有する又は有さないいくつかのリチウム-金属セルを作製し、この場合に、リチウム金属箔をLiイオン源として使用した。
【0151】
実施例9:VとLiOHからのグラフェン使用可能Liナノシートの調製(充電式リチウム金属電池のカソード活物質として)
この検討で使用した全ての化学物質は分析グレードであり、更に精製することなく受け取ったままで使用した。V(99.6%、Alfa Aesar)及びLiOH(99+%、Sigma-Aldrich)を使用して、前駆体溶液を調製した。酸化グラフェン(GO、上記の実施例2で得られた1%重量/体積)を構造調整剤として使用した。初めに、化学量論的V/Li比1:3のVとLiOHを、Liの水溶液が形成されるまで、50℃で積極的に攪拌した脱イオン水に溶解した。次いで、攪拌しながらGO懸濁液を添加し、得られた懸濁液を霧化し、160℃のオーブンで乾燥させて、GO/Liナノシートの球状複合粒子を生成した。対応するLi材料が同等の処理条件で得られたが、酸化グラフェンシートはなかった。
【0152】
更なる組のグラフェン使用可能Liナノシート複合微粒子は、同等の条件でVとLiOHから作製されたが、異なる霧化温度、圧力、及びガス流量の下で乾燥され、4つの異なるLiナノシート平均厚さ(4.6nm、8.5nm、14nm、及び35nm)を有する複合微粒子の4つの試料を得た。また、76nmの平均厚さ/直径を有するLiシート/ロッドの試料を、35nmのナノシート平均厚を有するグラフェン強化微粒子と同じ処理条件で、酸化グラフェンシートの存在なしで(しかし、カーボンブラック粒子の存在下で)得られた。カーボンブラックは、Liナノシート結晶の形成においてグラフェンほど良好な核生成剤ではないようである。リチウム箔を対電極として使用するLi金属セル及び黒鉛アノードを使用するLi-イオンセルにおけるこれらのカソード材料の比容量及び他の電気化学的特性を調査した。
【0153】
実施例10:Vと酸化グラフェンからのグラフェン使用可能VOナノベルトの水熱合成
典型的な手順では、0.015gのVを9mlの蒸留水に加えた。GO-水懸濁液(98/2のV/GO比)をV懸濁液に注いだ。得られた混合物を35mlのテフロンで封止されたオートクレーブに移し、180~200℃で24~36時間保存し(様々なバッチ)、次いで室温まで空冷した。GOを不均一核生成剤として使用して、結晶子サイズを小さくするために多数の核の迅速な核生成を促進した(結晶の成長に対して核生成を促進する)。生成物を蒸留水で数回洗浄し、最後にオーブンにて60℃で乾燥させた。
【0154】
これらの微粒子の周囲を包むグラフェン酸化物シートを有するGO/VO複合体の微粒子を得るために、200℃で噴霧乾燥し、400℃で2時間熱処理することで2番目のバッチを得た。比較のために、GOを使用せずにVOの第3のバッチを調製し(オーブン乾燥)、第4のバッチを、GOとポリエチレンオキシド(水の1%PEOをGO懸濁液に加え、次いで噴霧乾燥して400℃で2時間熱処理した)を用いて調製し、第5のバッチを、噴霧乾燥によりPEO(水中1%、GOなし)を用いて調製し、その後、400℃で2時間熱処理した。PEOを400℃で熱処理することで、PEOが炭素材料に変換される。GO/VO複合体の微粒子を、Li金属セルのカソード活物質として使用した。
【0155】
実施例11:準固体電解質を備えたLi-イオンセルにおける電極の調製
グラフェン強化微粒子(例えば、グラフェンシートで包まれたコバルト酸リチウム又はリン酸鉄リチウム一次粒子を含む)を含むいくつかの乾燥電極を、微粒子を液体と混合してPVDFなどのバインダーを使用しないペーストを形成することにより調製した。ペーストをガラス片の表面にキャストし、液体媒体を除去して乾燥電極を得た。別の乾燥電極を、同一の液体においてLiFePO一次粒子をグラフェンシートと直接混合してバインダーを使用しないペーストを形成することにより調製した。次いで再度、ペーストをキャストして乾燥電極を形成した。乾燥電極は、電極の導電性に対する様々な導電性添加剤の効果を評価するためのものであった。
【0156】
比較のために、いくつかの更なる乾燥電極をまったく同一の条件下で調製し、同じカソード活性粒子を含むが同等の量の他の導電性添加剤を含むそれぞれの場合のペーストを作成した:多層カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(TimcalのSuper-P)、1/1の比のCNT/Super-P混合物、及び1/1の比のGO/Super-P混合物。電池セルに組み込むための対応する「湿潤した」電極を、PVDFバインダーを含むように作製した。これらの電極は、アノード活物質として黒鉛粒子又はリチウム金属を含むフルセルに作製した。
【0157】
アノード活物質としてリチウム金属を含む小型のフルボタンセル(full button cell)の第1のサイクル放電容量データが得られた。このデータは、カソードにグラフェン強化微粒子を含む電池セルが、カーボンブラック強化カソードのものより優れた速度能力を示すことを示している。最も重要なことは、有機液体溶媒中の塩濃度がより高いLi-イオンセルは、典型的には、より長くより安定したサイクル寿命を示し、特定の回数の充電/放電サイクル後の容量減衰が大幅に少なくなる。
【0158】
本発明の電極に使用できるカソード活物質は、コバルト酸リチウム及びリン酸鉄リチウムに限定されないことに更に留意されたい。本発明の準固体電解質を備えるLi-イオンセルで使用できる電極活物質の種類に特に制限はない。
【0159】
実施例12:様々な塩濃度を含むイオン液体電解質を有するLi-空気セル
様々なリチウム塩濃度の有機液体溶媒を使用したLi-空気電池の性能を試験するために、5cm×5cmの寸法のいくつかのポーチセルを構築した。多孔質カーボン電極を、初めに90重量%のEC600JDケッチェンブラック(AkzoNobel)と5重量%のKynar PVDF(Arkema Corporation)をNメチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解して初めにインクのスラリーを調製することによって調製した。インクをカーボンクロス(PANEX 35、Zoltek Corporation)に手塗りすることにより、約20.0mg/cmの炭素充填にて空気電極を調製し、次いで180℃で一晩乾燥させた。電極の総幾何学的面積は3.93cmであった。Li/O試験ポーチセルを、アルゴンを充填したグローブボックスで組み立てた。セルは、上記のように調製した、金属リチウムアノードとカソードとしての空気電極からなる。アノードには銅の集電体、カソードにはアルミニウムの集電体を使用した。2つの電極を分離するCelgard 3401セパレータを、LiTFSI-DOL/EMITFSI(6/4)溶液(異なるLiTFSI塩濃度と異なる電解質添加剤を有する)に最低24時間浸した。カソードを酸素飽和EMITFSI-DOL/LiTFSI溶液に24時間浸し、セルアセンブリに使用する前に1時間真空下に置いた。セルを酸素圧が1atmに維持された酸素が充填されたグローブボックスに入れた。セルの充放電を、室温で電流速度0.1mA/cmで電池サイクラーにて実行した。液体溶媒のリチウム塩濃度が高いと、セルの往復効率が高くなり(x=0.11、0.21、及び0.32でそれぞれ62%、66%、75%)、所定の回数の充電/放電サイクル(100サイクル後、x=0.11、0.21、及び0.32のセルでそれぞれ25%、8%、及び4.8%)後に、容量減衰が低くなることがわかった。
【0160】
実施例13:様々なセルの電気化学的性能の評価
電荷貯蔵容量を定期的に測定しサイクル数の関数として記録した。本明細書で言及される比放電容量は、複合カソードの単位質量当たり、放電中にカソードに挿入される総電荷である(集電体を除くカソード活物質、導電性添加剤又は支持体、バインダー、及び任意の任意選択の添加剤を組み合わせた重量をカウントする)。比電荷容量は、複合カソードの単位質量当たりの電荷量を指す。このセクションに示される比エネルギー及び比出力値は、総セル重量に基づく。透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)の両方を使用して、所望の回数の充電及び再充電サイクルを繰り返した後、選択した試料の形態学的又は微細構造の変化が認められた。
【0161】
例として、EC+DECの基準電解質と2つの不燃性電解質(NF-1はFPCを含み、NF-2はFECを含む)を使用して、いくつかのセルの第1のサイクル効率(クーロン効率)を評価した。図9(A)及び図9(B)に示すデータは、選択された添加剤が実際に電解質のクーロン効率を高めることができることを示している。これは予想外の望ましい結果である。
【0162】
別の例として、低濃度の電解質(有機液体中のリチウム塩のx=0.06、約0.8M)を含むLi金属-硫黄セルのサイクル性能(充電比容量、放電比容量、及びクーロン効率)を図10(A)に示す。同じセルのいくつかの代表的な充放電曲線を図10(B)に示す。充電と放電が繰り返されると、セルの容量が急速に減衰することは全く明らかである。これは、硫黄及び多硫化リチウムがカソード側の電解質に溶解する傾向が大きい従来のLi-Sセルの特徴である。溶解した硫黄の多くは、その後の充電/放電中にカソード導電性添加剤/基材又はカソード集電体に再堆積することはできなかった。最も重要なことは、時間が経過する又は充電/放電サイクルが継続すると、溶解した多硫化リチウム種の一部がアノード側に移動し、Liと反応して不溶性生成物を形成するため、これらの種はカソードに戻ることができない。これらの現象は、電池容量の継続的な減衰につながる。
【0163】
我々は、リチウム塩濃度が有機溶媒でのリチウムポリスルフィドの溶解にどのように影響するかを調べ、濃度変化がシャトル効果の熱力学及び速度論にどのように影響するかを決定することへと進んだ。我々は、すぐにいくつかの大きな課題に直面した。第1に、自由に使えるリチウム塩の濃度が広範囲でなかった。ほとんどのリチウム塩は、モル比が0.2~0.3を超えると、Li-イオン又はLi-S二次セルで一般的に使用されるこうした溶媒に溶解できなかった。第2に、多くの有機液体溶媒の粘度は室温ですでに非常に高く、このような粘性固体に0.2~0.3モル比を超えるリチウム塩を加えると、得られる混合物が固体のように見え固体のように挙動することを、我々は実感するに至った。固体リチウム塩粉末を液体溶媒に分散させるのを助けるためにスターラーを使用することはほとんど不可能であった。更に、一般的には、より高い濃度は通常電解質のより低いリチウムイオン伝導性をもたらすため、より高い溶質濃度は望ましくないと考えられていた。これは、より高い出力密度、より低い分極、及びより高いエネルギー密度を達成するのに役立たない(高い充電/放電速度で)。我々はほとんど諦めたが、ともかく前進することにした。その研究結果は最も驚くべきものであった。
【0164】
電気化学者と電池設計者が、顕著に高いリチウム塩濃度を生じさせることができないという予想に反して、揮発性の高い溶媒(AN又はDOLなど)を最初に共溶媒として添加すると、いくつかの有機液体中のリチウム塩の3~11Mにほぼ相当するx=0.2~0.6ほどの高い濃度が達成できることを我々は見出した。混合溶媒にリチウム塩が完全に溶解すると、共溶媒を選択的に除去することを選択できた。たとえ塩(溶質)が非常に過飽和状態にあったとしても、完全な塩の溶解時により揮発性の高い共溶媒を部分的又は完全に除去しても、有機液体溶媒からの塩の結晶又は沈殿が生じないことを、我々は観察してうれしい驚きであった。
【0165】
我々は、電解質濃度が高いと放電容量が低下するという電池化学者及びエンジニアの予想に更に反した。最も驚くべきことに、Li-Sセルは、一般的にエネルギー密度が高いだけでなく、サイクル挙動が劇的により安定しておりサイクル寿命がより長くなることを示すより高い濃度の電解質システムを含む。
【0166】
例として、図11(A)は、有機液体溶媒系準固体電解質(x=0.3)を含むLi金属-硫黄セルの充電比容量、放電比容量、及びクーロン効率を示している。サイクル性能は、図10(A)及び図10(B)に示されるように、より低い塩濃度を有する対応するセルの性能よりはるかに優れている。図10(B)のこの低い濃度のセルの比容量は、充電/放電サイクルの回数が増えるにつれて急速に減衰する。図11(B)に示されるように、DME溶媒に添加された20%のFPCを有し、それぞれ2.5M及び5Mの塩濃度を有する2つの対応するセルのサイクル挙動は、x=0.3(約3.7M)を有するが電解質添加剤を有さないセル(図11(A)のセル)、及びx=0.06を有するセル(図10(A)のセル)より全て安定している。
【0167】
図12は、それぞれが剥離黒鉛ワーム-硫黄カソードを有し、リチウム塩濃度が、それぞれ、3.5M(添加剤あり)、3.5M(添加剤なし)、及び2.0M(添加剤あり)である3つのLi金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対セルエネルギー密度)を示す。第3のセルは、2.0Mほどの低い塩濃度を有するが、電解質は不燃性であり、このセルは3つのセルの中で最も高い出力密度を示す。高い塩濃度及び電解質添加剤を有する第1のセルは、813Wh/kgほどの最も高いエネルギー密度を実現する。これは、従来のリチウム-イオンセルのエネルギー密度の4倍である。
【0168】
要約すると、本発明は、優れたリチウム金属及びリチウム-イオン充電式電池の設計及び製造を可能にする、革新的で汎用性があり、驚くほど効果的なプラットフォーム材料技術を提供する。選ばれた添加剤を有する高濃度電解質システムを備えたリチウムセルは、安定で安全なアノード(デンドライトのような特徴がない)、高いリチウム利用率、高いカソード活物質利用率、高い比容量、高い比エネルギー、高い出力密度、ほとんど又はまったくないシャトル効果、及び長いサイクル寿命を示す。選択された電解質添加剤は、不燃性における閾値塩濃度を大幅に低下させることができ(典型的には1.5M~5.0M、より典型的には2.0M~3.5M)、又乾電池への電解質注入を可能にする適切な電解質流動性を維持することができる。
【0169】
本発明のLi-Sセルは、アノード、カソード、電解質、セパレータ、及び集電体を合わせて含む総セル重量に基づいて、400Wh/Kgを超える(より典型的には600Wh/Kgを超える、多くの場合に800Wh/Kgを超える)比エネルギーを提供できる。これは、いかなる従来の手法でも達成されていなかった。
図1(A)】
図1(B)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A-9B】
図10A-10B】
図11A-11B】
図12