(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】グラフェンの生態系に優しい製造
(51)【国際特許分類】
C01B 32/184 20170101AFI20230518BHJP
【FI】
C01B32/184
(21)【出願番号】P 2019555171
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 US2018025113
(87)【国際公開番号】W WO2018191023
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-01-29
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184134(JP,A)
【文献】国際公開第2016/000614(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105060289(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103818900(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/184
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの化学物質の添加や触媒の使用を必要とせずに、パルプ、紙、又は紙製品から直接にグラフェンを製造する方法であって、グラフェン材料製品を形成するために十分な長さの時間実質的に非酸化性の環境において1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度での黒鉛化処理に前記パルプ、紙、又は紙製品を供する手順を含み、
前記パルプ、紙、又は紙製品を黒鉛化処理に供する前記手順が、(a)前記パルプ、紙、又は紙製品を熱処理チャンバ内に配置して、前記製品を200℃~500℃の範囲から選択される第1の処理温度に第1の時間の間暴露して第1の中間製品を形成するステップと、(b)前記第1の中間製品を700℃~1,500℃の範囲から選択される第2の温度で第2の時間の間さらに熱処理して第2の中間製品を形成するステップと、(c)前記第2の中間製品を2,000℃~3,400℃の範囲から選択される温度での最終黒鉛化処理に供するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記パルプ、紙、又は紙製品が、使用後の、再生される、又は再生利用される製品を含有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛化温度が2,000℃よりも高いことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛化温度が2,500℃よりも高いことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛化温度が2,800℃よりも高いことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記パルプ、紙、又は紙製品を黒鉛化処理に供する前記手順が、前記パルプ、紙、又は紙製品を熱処理チャンバ内に配置して、前記製品を1,500℃より低い初期温度に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の温度に上昇されるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記熱処理チャンバが、黒鉛、タングステン、タングステンカーバイド、ジルコニア、酸化モリブデン、酸化ニオブ、タンタル、酸化タンタル、又はそれらの組合せから選択される高温耐火材料から構成されている構造物を有することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記非酸化性の環境が窒素、水素、貴ガス、又はそれらの組合せを含有することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法において、前記パルプ、紙、又は紙製品が、前記熱処理チャンバ内に置かれる前に供給原料として充填又は圧縮固化されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記充填又は圧縮固化されたパルプ、紙、又は紙製品が、0.1~1.5g/cm
3の範囲の嵩密度を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、前記充填又は圧縮固化されたパルプ、紙、又は紙製品が、0.2~1.2g/cm
3の範囲の嵩密度を有することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェン材料製品が、少なくとも80%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する粉末形態であり、数層グラフェンが、2~10のグラフェン面が一緒に積層されているグラフェンシートとして定義されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェン材料製品が、少なくとも90%の単一層又は数層グラフェンシートを含有することを特徴とする方法。
【請求項14】
前記グラフェン材料製品中の非グラフェン炭素残留物からグラフェンを分離又は回収するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記紙又は紙製品が、原紙、ボンド紙、工作用紙、ボール紙、段ボール原紙、チップボード、上表紙、封筒用紙、フォームボンド紙、インシュレーションボード紙、クラフト袋用紙、クラフト包装紙、中質紙、新聞用紙、生理用紙、オフセット印刷紙、包装紙、板紙、印刷筆記用紙、上質紙、ざら紙、再生紙、無地漂白ブリストール、特殊紙、薄葉紙、又はそれらの組合せから選択される材料又は製品を含有することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、前記パルプが、化学パルプ、褐色パルプ、溶解パルプ、フラッフパルプ、クラフト(サルフェート)パルプ、市販パルプ、機械パルプ、亜硫酸パルプ、未さらしパルプ、又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項17】
外部からの化学物質の添加や触媒の使用を必要とせずに、木材から得られる紙又は紙製品を含まない木材製品又は木材成分から直接にグラフェンを製造する方法であって、前記製品をグラフェン材料製品に変換するために十分な長さの時間実質的に非酸化性の環境において1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度での黒鉛化処理に前記木材製品又は木材成分を供する手順を含み、
前記木材成分が、天然セルロース、精製綿、再生セルロース又はレーヨン、β-セルロース、γ-セルロース、ニトロセルロース、ヘミセルロース、リグニン、木材抽出物、セルロース誘導体、ロジン、みょうばん、スターチ、それらの組合せ、又は木材パルプとそれらの組合せから選択され、
前記セルロース誘導体が、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、ニトロセルロース(硝酸セルロース)、セルロースサルフェート、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルヒドロキシエチルセルロース)、カルボキシアルキルセルロース、又はそれらの組合せから選択され
、
前記グラフェン材料が、少なくとも80%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する粉末形態であり、数層グラフェンが、2~10のグラフェン面が一緒に積層されているグラフェンシートとして定義されるることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記黒鉛化温度が2,500℃よりも高いことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記黒鉛化温度が2,800℃よりも高いことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法において、前記木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する前記手順が、前記木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、前記木材製品又は木材成分を1,500℃より低い初期温度に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の温度に上昇されるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法において、前記木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する前記手順が、前記木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、前記木材製品又は木材成分を1,500℃より低い初期温度に暴露し、次にそれが1,500℃~3,200℃の範囲の温度に上昇されるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項17に記載の方法において、前記木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する前記手順が、(a)前記木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、前記製品を200℃~500℃の範囲から選択される第1の処理温度に第1の時間の間暴露して第1の中間製品を形成するステップと、(b)前記第1の中間製品を700℃~1,500℃の範囲から選択される第2の温度で第2の時間の間さらに熱処理して第2の中間製品を形成するステップと、(c)前記第2の中間製品を2,000℃~3,200℃の範囲から選択される黒鉛化温度での最終黒鉛化処理に供するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項17に記載の方法において、前記非酸化性の環境が窒素、水素、貴ガス、又はそれらの組合せを含有することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、200℃~500℃の前記第1の処理が反応性環境内で行われ、700℃~1,500℃の前記第2の処理が不活性又は非酸化性環境内で行われることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項16に記載の方法において、前記グラフェン材料が少なくとも90%の単一層又は数層グラフェンシートを含有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月11日に出願された米国特許出願第15/484,546号(その内容を参照によって本願明細書に組み入れる)に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、グラフェン材料を製造する環境に優しい及び生態系に優しい方法を提供する。方法は、紙製品(特に、使用後の、再生される、又は再利用される紙製品)を一ステップにおいて熱変換して、グラフェンを製造する時間を劇的に短縮し且つ望ましくない化学物質の使用を避けることを必要とする。
【背景技術】
【0003】
単一層グラフェンシートは、2次元六方晶格子を占める炭素原子から構成される。複数層グラフェンは、炭素原子の2つ以上のグラフェン面から構成されるプレートリットである。個々の単一層グラフェンシート及び複数層グラフェンプレートリットは本明細書において一括してナノグラフェンプレートリット(NGP)又はグラフェン材料と呼ばれる。NGPは、純粋なグラフェン(本質的に99%の炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン((≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、水素化グラフェン、及び化学的に官能化されたグラフェンを含有する。
【0004】
グラフェンは、広範な並外れた物理的、化学的、及び機械的性質を有することがわかった。例えば、グラフェンは、全ての既存の材料のうち最も高い地力及び最も高い熱伝導率を示すことがわかった。グラフェンの実用的な電子デバイス用途(例えば、トランジスタ内で主鎖としてSiに取って代わる)が次の5~10年以内に起こることは想定されていないが、エネルギー蓄積デバイス内の複合材料及び電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は近いうちに生まれる。大量の加工可能なグラフェンシートの利用可能性は、グラフェンのための複合用途、エネルギー用途、及びその他の用途の開発に成功するのにきわめて重要である。
【0005】
我々の研究グループは、世界で最初にグラフェンを発見した[B.Z.Jang及びW.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2014年6月10日に公開された米国特許出願公開第20130087446号明細書、現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGP及びNGPナノ複合体を製造するための方法は最近、我々によって検討された[Bor Z.Jang及びA Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets(NGPs) and NGP Nanocomposites:A Review,”J. Materials Sci. 43(2008)5092-5101]。4つの主な先行技術の方法に従い、NGPを製造した。それらの利点及び欠点は以下のように簡潔に要約される:
【0006】
方法1:酸化黒鉛(GO)プレートリットの化学的形成及び還元
第1の方法(
図1)は、天然黒鉛粉末をインターカラント及び酸化体(例えば、それぞれ濃硫酸及び硝酸)で処理して黒鉛層間化合物(GIC)又は、実際には、酸化黒鉛(GO)を得るステップを必要とする。インターカレーション又は酸化の前に、黒鉛は、約0.335nmのグラフェン面間間隔を有する(L
d=1/2 d
002=0.335nm)。インターカレーション及び酸化処理によって、グラフェン間間隔は典型的に0.6nmより大きい値に増加する。これは、この化学的経路の間に黒鉛材料が受ける第1の膨張段階である。次に、得られたGIC又はGOは、熱衝撃への暴露又は溶液をベースとした、超音波処理補助グラフェン層剥離方法のどちらかを使用して、追加的な膨張(しばしば剥離(exfoliation)と称される)に供せられる。
【0007】
熱衝撃への暴露方法において、GIC又はGOを高温(典型的に800~1,050℃)に短時間の間(典型的に15~60秒)暴露して、GIC又はGOを剥離又は膨張させて、剥離した又はさらに膨張した黒鉛を形成するが、それは典型的に、互いにまだ相互接続されている黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である。この熱衝撃手順は、若干の分離した黒鉛フレーク又はグラフェンシートを生じることがあるが、通常は黒鉛フレークの大部分は相互接続したままである。典型的に、次に、エアーミリング、機械的剪断、又は水中での超音波処理を使用して剥離黒鉛又は黒鉛ワームをフレーク分離処理に供する。したがって、方法1は基本的に、3つのはっきり区別できる手順を必要とする:第1の膨張(酸化又はインターカレーション)、さらなる膨張(又は「剥離」)、及び分離。
【0008】
溶液をベースとした分離方法において、膨張又は剥離GO粉末を水又はアルコール水溶液中に分散させ、それを超音波処理に供する。これらの方法において、黒鉛のインターカレーション及び酸化後に(すなわち、第1の膨張後に)及び典型的には、得られたGIC又はGOの熱衝撃への暴露後に(第2の膨張後に)超音波処理が使用されることを指摘しておくことは重要である。あるいは、面間空隙に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝ち、グラフェン層の分離をもたらすように、水中に分散されたGO粉末をイオン交換又は非常に長い精製手順に供する。
【0009】
この化学製造プロセスに伴ういくつかの主な問題がある:
(1)プロセスは、多量のいくつかの望ましくない化学物質、例えば硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウム又は及び塩素酸ナトリウムを使用することを必要とする。
(2)化学処理プロセスは、典型的に5時間~5日間の長いインターカレーション及び酸化時間を必要とする。
(3)強酸は、「それらが黒鉛を浸食しながら進む」ことによってこの長いインターカレーション/酸化プロセスの間に著しい量の黒鉛を消費する(黒鉛を二酸化炭素に変換し、それはプロセスにおいて失われる)。強酸及び酸化剤に浸漬された黒鉛材料の20~50重量%を失うことは珍しいことではない。
(4)熱剥離は高温(典型的に800~1,050℃)を必要とし、したがって、高度にエネルギー集約的なプロセスである。
(5)熱による剥離方法及び溶液による剥離方法の両方は、非常に時間のかかる洗浄及び精製ステップを必要とする。例えば、典型的に2.5kgの水を使用して洗浄して1グラムのGICを回収し、適切に処理される必要があるきわめて多量の廃水を生じる。
(6)熱による剥離方法及び溶液による剥離方法の両方において、得られた生成物は、酸素含有量を低減させる追加的な化学還元処理を受けなければならないGOプレートリットである。典型的に還元後でも、GOプレートリットの導電率は、純粋グラフェンの導電率よりもずっと低いままである。さらに、還元手順はしばしば、例えばヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を必要とする。
(7)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり溶液20~150重量部(pph)及びより典型的には約50~120pphの範囲であってもよい。高温剥離する間、フレークによって保持される残留インターカレート種は分解して硫黄及び亜硝酸化合物(例えば、NOx及びSOx)の様々な種を生じるが、それらは望ましくない。流出物は、好ましくない環境影響を与えないために費用がかかる改善手順を必要とする。
【0010】
本発明は、これらの問題に対処するためになされた。
【0011】
方法2:純粋なナノグラフェンプレートリットの直接形成
2002年に、我々の研究チームは、ポリマー又はピッチ前駆体から得られた、部分的に炭化又は黒鉛化されたポリマー炭素から単一層及び複数層グラフェンシートを単離するのに成功した[B.Z.Jang及びW.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2006年9月28日に公開された米国特許出願公開第20060216222号明細書、今は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。Mack,et al[“Chemical manufacture of nanostructured materials”米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛をカリウム溶融体でインターカレートするステップと、得られたKがインターカレートされた黒鉛をアルコールと接触させるステップと、NGPを含有する激しく剥離された黒鉛を製造するステップとを必要とする方法を開発した。この方法は、カリウム及びナトリウムなどの高純度アルカリ金属は湿気にきわめて影響されやすく爆発の危険があるので、真空中又は極度に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行われなければならない。このプロセスは、NGPの大量生産に適していない。
【0012】
方法3:無機結晶表面上のナノグラフェンシートのエピタキシャル成長及び化学蒸着
基材上の極薄グラフェンシートの小規模生産は、熱分解によるエピタキシャル成長及びレーザー脱離イオン化技術によって得ることができる。ただ1つの又は少数原子層を有する黒鉛のエピタキシャルフィルムは、デバイス基材としてそれらの独特の特性及び大きな可能性のために、技術的及び科学的に重要である。しかしながら、これらの方法は、複合材料及びエネルギー蓄積用途のための単離グラフェンシートの大量生産に適していない。
【0013】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yang,et al.[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木・宮浦カップリングから始める方法を使用して12nmまでの長さを有するナノグラフェンシートを合成した。得られたヘキサフェニルベンゼン誘導体はさらに誘導体化され、小さなグラフェンシートに縮環された。これは、非常に小さなグラフェンシートをこれまでのところ製造している緩慢な方法である。
【0014】
グラフェン材料をバイオマスから製造するいくつかの先行する試みがなされている。例えば、B.Zhaoら(“Method for Preparing Graphene from Biomass-derived carbonaceous mesophase”、米国特許出願公開第2015/0133568号明細書、2015年5月14日)は、(a)炭素質メソフェーズをバイオマスから調製するステップと、(b)基体物質(例えばウエハ又は粉状単結晶シリコン、多結晶シリコン、マイカ、又は石英などの触媒基材)をバイオマス由来炭素質メソフェーズのエタノール溶液中に少しの間浸漬するステップと、(c)基体物質(基体物質の表面に付着されているバイオマス由来炭素質メソフェーズの層を含有する)を取り出して乾燥させるステップと、(d)水素雰囲気の保護下で基体物質を熱処理(600~1,000℃)に供して、積層グラフェンフィルムを基体物質の表面上に形成するステップと、(e)基体物質をアルコール溶剤中で超音波分散処理に供してグラフェンフィルムを基体物質から分離し、グラフェンアルコール溶液を形成するステップと、(f)グラフェンをアルコール溶剤溶液から分離/回収するステップとを含む、グラフェンを調製するための方法を開示している。炭素質メソフェーズへのバイオマスの変換は、容易な作業ではないことを指摘しておいてもよいだろう。それは達成するのに或る複雑な触媒又は熱水プロセスを要する。その場合、炭素質メソフェーズをグラフェンに変換するための付加的な5つのステップがある。
【0015】
さらに、A.Rashidiら(“Producing Graphene and Porous Graphene”、米国特許出願公開第2016/0060123号明細書、2016年3月3日)は、ナノポーラスグラフェンを製造するための複数ステップ方法を開示する。この5ステップ方法は、(a)(例えば細粒径に細断された)セルロース原材料を調製するステップと、(b)調製された原材料に触媒(例えばMg、Al、Si、Mo、W、Ni、Cu、Zn、Ti、金属酸化物等)を注入するステップと、(c)(KOHなどの望ましくない化学物質を使用して)触媒含浸セルロース系材料を活性化するステップと、(d)活性化されたセルロース原材料を700~1,100℃の最終熱処理温度を有する加熱システム内で加熱してナノポーラスグラフェンを生じるステップと、(e)ナノポーラスグラフェンを洗浄して不純物を除去するステップとを含む。これらの触媒材料の使用は、それらを後で除去する付加的なステップを必要とすることを意味する。これらのステップは、これらの触媒を完全に除去することができない場合がある。
【0016】
これらの先行技術の方法は典型的に非常に複雑であり且つ時間がかかり(多くのステップを必要とする)、グラフェンが形成された後に除去されなければならない外部から添加される物質又は望ましくない(有害な)化学物質の使用を必要とする。不純物をグラフェン製品から完全に除去することは必ずしも可能でなかった。いくつかの場合、望ましくないか又は費用がかかる化学物質(例えば高腐蝕性KOH及び費用がかかるNi、Mo、及びW)が使用される。これらの先行技術の方法又はプロセスのいずれも、紙又は紙製品、特に使用後の、再生される又は再利用される紙又は紙製品から始めない。
【0017】
したがって、望ましくない化学物質又は費用がかかる化学物質が無く、短縮されたプロセス時間、より低いグラフェン酸化度、排液中への望ましくない化学種の流出物(例えば、硫酸及び硝酸)又は空気中への望ましくない化学種の流出物(例えば、SO2及びNO2)の低減又は除去を必要とする環境に優しい及び生態系に優しいグラフェン製造プロセスを有することが急務である。プロセスは、より純粋な(より酸化されていない及びより損傷を受けていない)且つより電気導電性のグラフェンシートを製造できるのがよい。
【0018】
本発明は、前述の必要を満たすきわめて単純な、拡大縮小可能な、環境に優しく、生態系に優しい、及び費用効果が高いグラフェン製造方法を提供する。
【発明の概要】
【0019】
具体的にはパルプ、紙、又は紙製品から直接にグラフェンを製造する方法が提供され、方法は、製品をグラフェン材料製品に変換するために十分な長さの時間(好ましくは、使用後の、再生される、又は再生利用される製品を含有する)パルプ、紙、又は紙製品を実質的に非酸化性の環境(製品を囲む雰囲気中の酸素含有量が5%未満、好ましくは<1%、さらに好ましくは<0.1%である)中で1,500℃~3,400℃の範囲から選択される黒鉛化温度での黒鉛化処理に供する手順を含む。好ましくは、方法は、(製造する間に紙製品中にすでに存在しているそれらの紙化学物質以外の)外部から添加される化学物質又は一切の触媒の使用を必要としない。方法は環境に優しく生態系に優しく、非常に拡大縮小可能である。
【0020】
また、好ましくは、パルプ、紙、又は紙製品は、使用後の、再生される、又は再生利用される製品を含有する。紙及び紙製品が使用後の固形廃棄物の著しい比率を構成するので、これは環境に対して非常に良い影響がある。
【0021】
好ましくは、黒鉛化温度は2,000℃よりも高く、より好ましくは2,500℃よりも高く、最も好ましくは2,800℃よりも高い。
【0022】
パルプ、紙、又は紙製品を黒鉛化処理に供する手順は、パルプ、紙、又は紙製品を熱処理チャンバ(例えば、黒鉛るつぼ)内に配置するステップと、製品を1,500℃より低い初期温度(例えば周囲温度)に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の温度に上昇されるステップとを含んでもよい。
【0023】
特定の好ましい実施形態において、パルプ、紙、又は紙製品を黒鉛化処理に供する手順は、(a)パルプ、紙、又は紙製品を熱処理チャンバ内に配置するステップと、製品を200℃~600℃の範囲から選択される第1の処理温度に第1の時間の間暴露して第1の中間製品を形成するステップと、(b)第1の中間製品を700℃~1,500℃の範囲から選択される第2の温度で第2の時間の間さらに熱処理して第2の中間製品を形成するステップと、(c)第2の中間製品を2,000℃~3,400℃(より好ましくは2,500℃~3,000℃)の範囲から選択される温度での最終黒鉛化処理に供するステップとを含む。
【0024】
第1の時間は好ましくは0.5時間~6時間である。第2の時間は好ましくは0.5時間~6時間である。200℃~600℃での第1の処理(本明細書において第1段階処理とも称される)は好ましくは反応性環境内で行われ、700℃~1,500℃での第2の処理(本明細書において第2段階処理とも称される)は不活性又は非酸化性環境内で行われる。最終黒鉛化処理前のパルプ、紙、又は紙製品の2つの予備処理時間は、必要とされないが、供給原料の同量が与えられたとすると製造され得るグラフェンシートの量を増加させる観点から有益であり得る。第1の処理及び第2の処理が実質的に省かれる(例えば温度傾斜手順が0.5時間を超える時間の間200℃~1,500℃の特定の温度に保たれない)加工条件において、このプロセスは本明細書において直接黒鉛化と称される。
【0025】
特定の好ましい実施形態において、供給原料(パルプ、紙、又は紙製品)は、供給原料の投入の助けになる温度に予め設定された熱処理チャンバ内に便宜的に置かれる。次に、温度をゆっくりと所望の最終温度(例えば2,500℃~3,200℃)に上昇させ、この温度に0.5~5時間の間維持し、次いでグラフェン製品の容易な除去を可能にする温度に冷却する。
【0026】
特定の代替実施形態において、供給原料(例えば再生されるパルプ、紙、又は紙製品)は熱処理チャンバ(例えば黒鉛るつぼ)内に置かれ、それは加熱炉の一方の端部に移動され(例えば、コンベヤーで運ばれ)、所望の長さの熱処理時間の後、反対側の端部から炉の外へ移動する。典型的に、炉の入口区域及び出口区域は、炉の中央部(黒鉛化区域)より低い温度を有する。0.5時間以上、好ましくは0.5~5時間の間(望ましいと考えられるとき、もっと長くなり得る)この区域の製品の滞留時間を可能にするために十分な長さの黒鉛化区域があるのがよい。
【0027】
熱処理チャンバは、黒鉛、タングステン、タングステンカーバイド、ジルコニア、酸化モリブデン、酸化ニオブ、タンタル、酸化タンタル、又はそれらの組合せから選択される高温耐火材料から作られてもよい。
【0028】
好ましくは、黒鉛化処理のための非酸化性の環境の提供には、熱処理チャンバ内への窒素、水素、貴ガス(例えばArガス)、又はそれらの組合せの導入が含まれる。実質的に非酸化性の環境は、5重量%未満の酸素、好ましくは<1%、さらに好ましくは<0.1%、最も好ましくは<0.01%を含有する雰囲気を意味する。
【0029】
特定の好ましい実施形態において、パルプ、紙、又は紙製品は、熱処理チャンバ内に置かれる前に供給原料として充填又は圧縮固化される。好ましくは、供給原料(充填又は圧縮固化されたパルプ、紙、又は紙製品)は、0.1~1.5g/cm3の範囲、より好ましくは0.2~1.2g/cm3の範囲、最も好ましくは0.4g/cm3超の嵩密度を有する。より高いこの供給原料密度が望ましいのはより多くの供給原料材料を所定の熱処理チャンバ内に充填するためにだけでなく、また、驚くべきことに、もっとより高い生産収率でのグラフェンの製造を可能にする(圧縮固化されていない供給原料について5%~15%の歩留まりに対して15%~50%)。また、得られたグラフェンシートは横方向寸法がより大きい(圧縮固化されていない供給原料からのグラフェンシートについて長さ又は幅5~50nmに対して50~500nm)。これは本当に予想外であり、非常に有益である。
【0030】
方法は典型的に、少なくとも80%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する粉末形態のグラフェン材料製品を製造することができ、そこで数層グラフェンは、2~10のグラフェン面が一緒に積層されているグラフェンシートとして一般的に定義される。方法は、少なくとも90%の単一層又は数層グラフェンシートを含有するグラフェン材料製品の製造に資することができる。本発明の特定の実施形態において、方法は、グラフェン材料製品中の非グラフェン炭素残留物からグラフェンを分離又は回収するステップをさらに含んでもよい。炭素残留物は典型的に、非晶質炭素と若干の微小黒鉛結晶とを含有する。
【0031】
供給原料中の紙又は紙製品は、紙原紙、ボンド紙、工作用紙、ボール紙、段ボール原紙、チップボード、上表紙、封筒用紙、フォームボンド紙、インシュレーションボード紙、クラフト袋用紙、クラフト包装紙、中質紙、新聞用紙、生理用紙、オフセット印刷紙、包装紙、板紙、印刷筆記用紙、上質紙、ざら紙、再生紙、無地漂白ブリストール、特殊紙、薄葉紙、又はそれらの組合せから選択される材料又は製品を含有してもよい。パルプは、化学パルプ、褐色パルプ、溶解パルプ、フラッフパルプ、クラフト(サルフェート)パルプ、市販パルプ、機械パルプ、亜硫酸パルプ、未さらしパルプ、又はそれらの組合せから選択されてもよい。
【0032】
また、本発明は、(木材から得られる紙又は紙製品を含まない)木材製品又は木材成分から直接にグラフェンを製造する方法を提供する。この環境に優しい方法は、製品をグラフェン材料製品に変換するために十分な長さの時間実質的に非酸化性の環境において1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度での黒鉛化処理に木材製品又は木材成分を供する手順を含み、方法は、触媒の使用を必要としない。さらに、また、方法は、望ましくないか又は危険な化学物質を一切使用しない。黒鉛化温度は好ましくは2,000℃よりも高く、さらに好ましくは2,500℃よりも高く、最も好ましくは2,800℃よりも高い。黒鉛化のための非酸化性の環境は窒素、水素、貴ガス、又はそれらの組合せを含有する。
【0033】
木材成分は、天然セルロース、精製綿、再生セルロース又はレーヨン、β-セルロース、γ-セルロース、ニトロセルロース、ヘミセルロース、リグニン、木材抽出物、セルロース誘導体、ロジン、みょうばん、スターチ、それらの組合せ、又は木材パルプとそれらの組合せから選択される.
【0034】
セルロース誘導体は、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、ニトロセルロース(硝酸セルロース)、セルロースサルフェート、アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルヒドロキシエチルセルロース)、及びカルボキシアルキルセルロース(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))から選択される。
【0035】
木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する手順は、木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、木材製品又は木材成分を1,500℃より低い初期温度に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度に上昇されるステップを含む。
【0036】
特定の好ましい実施形態において、木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する手順は、(a)木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、製品を200℃~600℃の範囲から選択される第1の処理温度に第1の時間の間暴露して第1の中間製品を形成するステップと、(b)中間製品を700℃~1,500℃の範囲から選択される第2の温度で第2の時間の間さらに熱処理して第2の中間製品を形成するステップと、(c)第2の中間製品を2,000℃~3,200℃(より好ましくは2,500℃~3,000℃)の範囲から選択される温度での最終黒鉛化処理に供するステップとを含む。
【0037】
第1の時間は好ましくは0.5時間~6時間である。第2の時間は好ましくは0.5時間~6時間である。200℃~600℃での第1の処理は好ましくは反応性環境内で行われ、700℃~1,500℃での第2の処理は不活性又は非酸化性環境内で行われる。最終黒鉛化処理前の木材製品又は木材成分の2つの予備処理時間は、必要とされないが、供給原料の同量が与えられたとすると製造され得るグラフェンシートの量を増加させるのに有益であり得る。
【0038】
製造されるグラフェン材料製品は典型的に、少なくとも80%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する粉末形態であり、そこで数層グラフェンは、2~10のグラフェン面が一緒に積層されているグラフェンシートとして定義される。典型的に、グラフェン材料製品は少なくとも90%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、時間のかかる化学酸化/インターカレーション、洗浄、及び高温剥離手順を伴う高酸化NGPの製造に最も一般的に使用される先行技術の方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、使用後の板紙から製造されるグラフェンシートのTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
炭素材料は、本質的に非晶質構造物(ガラス状炭素)、高組織化結晶(黒鉛)、又は様々な比率及びサイズの黒鉛微結晶及び欠陥が非晶質母材中に分散されることを特徴とするあらゆる種類の中間構造を呈することができる。典型的に、黒鉛微結晶は、c軸方向、基礎面に垂直な方向においてファンデルワールス力によって一緒に接合される多数のグラフェンシート又は基礎面から構成される。これらの黒鉛微結晶は典型的にミクロンサイズ又はナノメートルサイズである。黒鉛微結晶は、黒鉛粒子中の結晶欠陥又は非晶相中に分散されるか又はそれらによって接続され、それらは黒鉛フレーク、炭素/黒鉛繊維セグメント、炭素/黒鉛ホイスカー、又は炭素/黒鉛ナノ繊維等であり得る。
【0041】
本発明の1つの好ましい特定の実施形態は、単一シートのグラフェン面又は一緒に積層又は接合される複数シートのグラフェン面(典型的に、複数層プレートリット当たり、平均して5シートまで)から本質的に構成されるグラフェン材料(ナノグラフェンプレートリット、NGPとも称される)を製造する方法である。グラフェンシートとも称される、それぞれのグラフェン面は、炭素原子の2次元六方構造を含む。それぞれのプレートリットは、グラフェン面に平行な長さ及び幅、並びにグラファイト面に直交した厚さを有する。定義によって、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であり、単一層グラフェンは0.34nmの薄さである。しかしながら、本発明の方法は、典型的に1~10層(又は厚さ0.34nm~3.4nm)及びより典型的に1~5層であるグラフェンシートを製造する。多くの場合、製造されたグラフェン材料は、主に単一層グラフェン(典型的に>80%及びより典型的に>90%)である。NGPの長さ及び幅は典型的に、5nm~1μmの間、より典型的に10nm~500nmの間である。
【0042】
本発明は、パルプ、紙、又は紙製品から直接にグラフェンを製造する方法を提供する。方法は、製品をグラフェン材料製品に変換するために十分な長さの時間実質的に非酸化性の環境において1,500℃~3,400℃の範囲から選択される黒鉛化温度での黒鉛化処理にパルプ、紙、又は紙製品(好ましくは、使用後の、再生される、又は再生利用される製品を含有する)を供する手順を含み、そこで方法は、(製造する間に紙製品中にすでに存在しているそれらの紙化学物質以外の)外部から添加される化学物質又は一切の触媒の使用を必要としない。実質的に非酸化性の環境は、5%未満、好ましくは<1%、さらに好ましくは<0.1%、最も好ましくは<0.01%である、製品を囲む雰囲気中の酸素含有量を含有する。
【0043】
好ましくは、パルプ、紙、又は紙製品は、使用後の、再生される、又は再生利用される製品を含有する。紙及び紙製品は、ほかの場合なら地中に埋められるであろう、使用後の固形廃棄物の著しい比率を構成するので、これは環境に非常に良い影響がある。
【0044】
本発明の方法は本質的に一段法である。方法は、きわめて単純であり、拡大縮小可能で、環境に優しく、生態系に優しく、及び費用効果が高い。方法は、先行技術の方法に伴う欠点の本質的に全てを回避する。
【0045】
対照的に、
図1に示されるように、先行技術の化学プロセスは典型的に、濃硫酸と、硝酸と、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤との混合物中に黒鉛粉末を浸漬し、化学インターカレーション/酸化反応を終えるために典型的に5~120時間を必要とする反応塊を形成するステップを含む。反応が終了すると、スラリーは、水によるすすぎ及び洗浄の繰り返しステップに供され、次に乾燥処理に供されて水を除去する。黒鉛層間化合物(GIC)又は酸化黒鉛(GO)と称される乾燥粉末は、次に熱衝撃処理に供される。典型的にはこれは、典型的に800~1100℃(より典型的に950~1050℃)の温度に予め設定された炉にGICを暴露することによって達成される。先行技術の方法は、背景技術の欄に記載された7つの主な問題の難点がある。
【0046】
本発明の特定の実施形態において、パルプ、紙、又は紙製品を黒鉛化処理に供する手順は、パルプ、紙、又は紙製品を熱処理チャンバ(例えば、黒鉛るつぼ)内に配置するステップと、製品を1,500℃より低い初期温度(例えば周囲温度)に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の温度に上昇されるステップとを含んでもよい。好ましくは、黒鉛化温度が2,000℃よりも高く、より好ましくは2,500℃よりも高く、最も好ましくは2,800℃よりも高い。
【0047】
供給原料(パルプ、紙、又は紙製品)は、供給原料の投入が難しくならないようにそれほど高くはない温度に予め設定された熱処理チャンバ内に置かれてもよい。次に、温度をゆっくりと所望の最終温度(例えば2,500℃~3,200℃)に上昇させ、この温度に0.5~5時間の間維持し、次いでグラフェン材料製品の容易な除去を可能にする温度に冷却する。
【0048】
特定の代替実施形態において、供給原料(例えば再生されるパルプ、紙、又は紙製品)は熱処理チャンバ(例えば黒鉛るつぼ)内に置かれ、それは加熱炉の一方の端部に移動され(例えば、コンベヤーで運ばれ)、所望の長さの熱処理時間の後、反対側の端部から炉の外へ移動する。典型的に、炉の入口区域及び出口区域は、炉の中央部(黒鉛化区域)より低い温度を有する。0.5時間以上、好ましくは0.5~5時間の間(望ましいと考えられるとき、もっと長くなり得る)この区域の製品の滞留時間を可能にするために十分な長さの黒鉛化区域があるのがよい。
【0049】
特定の好ましい実施形態において、パルプ、紙、又は紙製品を黒鉛化処理に供する手順は、(a)パルプ、紙、又は紙製品を熱処理チャンバ内に配置するステップと、製品を200℃~600℃の範囲から選択される第1の処理温度(本明細書において第1段階処理とも称される)に第1の時間の間暴露して第1の中間製品を形成するステップと、(b)第1の中間製品を700℃~1,500℃の範囲から選択される第2の温度(本明細書において第2段階処理とも称される)で第2の時間の間さらに熱処理して第2の中間製品を形成するステップと、(c)第2の中間製品を2,000℃~3,200℃(より好ましくは2,500℃~3,000℃)の範囲から選択される温度での最終黒鉛化処理に供するステップとを含む。
【0050】
好ましくは、第1の時間は、好ましくは反応性環境(例えば流動する空気、酸素、塩素、又はHClガスを有する)において0.5時間~6時間である。また、第2の時間は好ましくは0.5時間~6時間であるが、不活性又は非酸化性雰囲気下である。黒鉛化は、不活性又は非酸化性雰囲気中で行われなければならない。
【0051】
最終黒鉛化処理前のパルプ、紙、又は紙製品の2つの予備処理時間は、必要とされないが、供給原料の同量が与えられたとすると製造され得るグラフェンシートの量を増加させるのに有益であり得る。これらの改良の原因は、完全には明らかではない。しかしながら、比較的低い加熱速度で200℃~600℃の第1の熱処理時間は初期グラフェン層の芳香族化及び発生(グラフェン状芳香族又は縮合環構造又はドメイン)を促進するようにセルロース構造物の制御された分解を助けることができると本出願人は考える。700℃~1,500℃の第2の熱処理時間の間により多くの芳香族縮合環又はグラフェン状層が核生成して成長する。黒鉛化の間、隣接するグラフェン状ドメインからのグラフェン面が同化されてより長い又はより幅が広いグラフェンシートを形成する。
【0052】
熱処理チャンバは、黒鉛、タングステン、タングステンカーバイド、ジルコニア、酸化モリブデン、酸化ニオブ、タンタル、酸化タンタル、又はそれらの組合せから選択される高温耐火材料から作られてもよい。
【0053】
好ましくは、非酸化性の環境の提供には、熱処理チャンバ内への窒素、水素、貴ガス(例えばArガス)、又はそれらの組合せの導入が含まれる。実質的に非酸化性の環境は、5重量%未満の酸素、好ましくは<1%、さらに好ましくは<0.1%、最も好ましくは<0.01%を含有する雰囲気を意味する。
【0054】
特定の好ましい実施形態において、パルプ、紙、又は紙製品は、熱処理チャンバ内に置かれる前に(バインダー樹脂を使用して又は使用せずに)供給原料として充填又は圧縮固化される。好ましくは、供給原料(パルプ、紙、又は紙製品の充填又は圧縮固化された質量)は、0.1~1.5g/cm3の範囲、より好ましくは0.2~1.2g/cm3の範囲、最も好ましくは0.4g/cm3超の嵩密度を有する。より高いこの供給原料密度が望ましいのはより多くの供給原料材料を所定の熱処理チャンバ内に充填するためにだけでなく、また、驚くべきことに、もっとより高い生産収率でのグラフェンの製造を可能にする(典型的に圧縮固化されていない供給原料について5%~15%の歩留まりに対して15%~50%)。また、得られたグラフェンシートは横方向寸法がより大きい(圧縮固化されていない供給原料からのグラフェンシートについて長さ又は幅5~50nmに対して50~500nm)。これは本当に予想外であり、非常に有益である。
【0055】
供給原料は、パルプ、紙、又は紙製品と混合される所望の量の炭化促進剤(構成セルロース分子の制御されていない分解からの揮発物ガス分子の過度発生に対して保護する)及び/又は難燃剤を含有してもよい。炭素収率及びグラフェン生産収率は、酸の窒素含有塩、酸、酸性塩、金属ハロゲン化物、燐酸の誘導体、クロロシラン、及びそれらの組合せからなる群から好ましくは選択されてもよい、炭化促進剤及び/又は難燃剤を注入又は混入することによって著しく高めることができる。
【0056】
方法は典型的に、少なくとも80%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する粉末形態のグラフェン材料製品を製造することができ、そこで数層グラフェンは、2~10のグラフェン面が一緒に積層されているグラフェンシートとして一般的に定義される。方法は、少なくとも90%の単一層又は数層グラフェンシートを含有するグラフェン材料製品の製造に資することができる(多くの場合、グラフェンシートの>90%は単一層である)。本発明の特定の実施形態において、方法は、グラフェン材料製品中の非グラフェン炭素残留物からグラフェンを分離又は回収するステップをさらに含んでもよい。炭素残留物は典型的に、非晶質グラフェンと若干の微小黒鉛結晶とを含有する。
【0057】
供給原料中の紙又は紙製品は、紙原紙、ボンド紙、工作用紙、ボール紙、段ボール原紙、チップボード、上表紙、封筒用紙、フォームボンド紙、インシュレーションボード紙、クラフト袋用紙、クラフト包装紙、中質紙、新聞用紙、生理用紙、オフセット印刷紙、包装紙、板紙、印刷筆記用紙、上質紙、ざら紙、再生紙、無地漂白ブリストール、特殊紙、薄葉紙、又はそれらの組合せから選択される材料又は製品を含有してもよい。パルプは、化学パルプ、褐色パルプ、溶解パルプ、フラッフパルプ、クラフト(サルフェート)パルプ、市販パルプ、機械パルプ、亜硫酸パルプ、未さらしパルプ、又はそれらの組合せから選択されてもよい。
【0058】
また、本発明は、(木材から製造される紙又は紙製品を含まない)木材製品又は木材成分から直接にグラフェンを製造する方法を提供する。この環境に優しい方法は、製品をグラフェン材料製品に変換するために十分な長さの時間実質的に非酸化性の環境において1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度での黒鉛化処理に木材製品又は木材成分を供する手順を含み、方法は、触媒の使用を必要としない。好ましくは、また、方法は、望ましくないか又は危険な化学物質を一切使用しない。黒鉛化温度は好ましくは2,000℃よりも高く、さらに好ましくは2,500℃よりも高く、最も好ましくは2,800℃よりも高い。
【0059】
木材成分は、天然セルロース、精製綿、再生セルロース又はレーヨン、β-セルロース、γ-セルロース、ニトロセルロース、ヘミセルロース、リグニン、木材抽出物、セルロース誘導体、ロジン、みょうばん、スターチ、それらの組合せ、又は木材パルプとそれらの組合せから選択される。
【0060】
セルロース誘導体は、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、ニトロセルロース(硝酸セルロース)、セルロースサルフェート、アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルヒドロキシエチルセルロース)、及びカルボキシアルキルセルロース(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))から選択される。
【0061】
木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する手順は、木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、木材製品又は木材成分を1,500℃より低い初期温度に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度に上昇されるステップを含む。非酸化性の環境が窒素、水素、貴ガス、又はそれらの組合せを含有する。
【0062】
木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する手順は、木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、木材製品又は木材成分を1,500℃より低い初期温度に暴露し、次にそれが1,500℃~3,400℃の範囲の黒鉛化温度に上昇されるステップを含んでもよい。
【0063】
特定の好ましい実施形態において、木材製品又は木材成分を黒鉛化処理に供する手順は、(a)木材製品又は木材成分を熱処理チャンバ内に配置して、製品を200℃~600℃の範囲から選択される第1の処理温度に第1の時間の間暴露して第1の中間製品を形成するステップと、(b)中間製品を700℃~1,500℃の範囲から選択される第2の温度で第2の時間の間さらに熱処理して第2の中間製品を形成するステップと、(c)第2の中間製品を2,000℃~3,200℃(より好ましくは2,500℃~3,000℃)の範囲から選択される温度での最終黒鉛化処理に供するステップとを含む。
【0064】
第1の時間は好ましくは0.5時間~6時間である。第2の時間は好ましくは0.5時間~6時間である。200℃~500℃の第1の処理は好ましくは反応性環境内で行われ、700℃~1,500℃での第2の処理が不活性又は非酸化性環境内で行われる。最終黒鉛化処理前の木材製品又は木材成分の2つの予備処理時間は、必要とされないが、供給原料の同量が与えられたとすると製造され得るグラフェンシートの量を増加させるのに有益であり得る。
【0065】
特定の好ましい実施形態において、木材製品又は木材成分は、熱処理される前に、酸の窒素含有塩、酸、酸性塩、金属ハロゲン化物、燐酸の誘導体、クロロシラン、及びそれらの組合せからなる群から選択される炭化促進剤又は難燃剤と混合される。これらの添加剤は、グラフェンの生産収率を増加させることがわかった。
【0066】
製造されるグラフェン材料製品は典型的に、少なくとも80%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する粉末形態であり、そこで数層グラフェンは、2~10のグラフェン面が一緒に積層されているグラフェンシートとして定義される。典型的に、グラフェン材料製品は少なくとも90%の単一層又は数層グラフェンシートを含有する。
【0067】
パルプ、紙、紙製品、木材製品、又は木材成分の黒鉛化処理製品は粉末形態であり得る。いくつかの場合、製品は供給原料の元の形状によく似ていることができるが、製品はグラフェンシートを含有する。これらの場合、黒鉛化処理ステップは、製品を機械的剪断処理に供して粉末形態のグラフェン材料製品を製造するステップの前に行われてもよい。機械的剪断処理は、エアーミリング、エアジェットミリング、ボールミリング、回転ブレード機械的剪断、超音波処理、キャビテーション、又はそれらの組合せの使用を含む。
【実施例】
【0068】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の方式を提供するのに役立ち、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない:
実施例1:パルプ、紙及び紙製品の制御された黒鉛化処理
【0069】
二段階予備処理を使用して又は使用せずに及び炭化促進剤又は難燃剤添加剤を混入して又は混入せずに広範囲のパルプ、紙、及び紙製品を黒鉛化処理に供した。製品の圧縮固化は、圧縮成形機として一般に知られている、油圧プレスを使用して行われた。本技術分野に公知の他の圧縮固化手順もまた、使用されてもよい。パルプ、紙、又は紙製品を、それが0.1~1.5g/cm
3の範囲、好ましくは密度0.2~1.2g/cm
3の範囲、より好ましくは0.3g/cm
3超の嵩密度を有する程度まで圧縮固化するために圧縮力が導入される。加工条件及び(供給原料の全重量に基づく)グラフェン生産収率のデータを以下の表1に記載する:
【0070】
ここで製造される代表的なグラフェン材料のTEM画像が
図2に示される。
【0071】
比較例1:黒鉛の酸化/インターカレーションからのグラフェンシート(NGP)
実施例として、サイズが約20μmのメソフェーズピッチ由来人工黒鉛20mgをGO/GICの調製において使用した。人工黒鉛を4:1:0.05の重量比の硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウムの混合物中に24時間の間分散させた(1:3の黒鉛対インターカレート比)。インターカレーション反応の終了時に、混合物を脱イオン水中に流し込み、濾過した。次に、試料を5%HCl溶液で洗浄して、硫酸イオン及び残留塩の大部分を取り除き、次いで、ろ液のpHが約5になるまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。次に、乾燥された試料を900℃の管状炉内で45秒間剥離した。
【0072】
原子間力顕微鏡法(AFM)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、及び走査型電子顕微鏡法(SEM)を使用してそれぞれの試料において得られたグラフェンシートを検査して、それらの厚さ(層数)及び横方向寸法(長さ及び幅)を求めた。水中に懸濁されたグラフェンシートをガラス板上に流延して、それぞれの試料からの薄いフィルム(厚さ2~5μm)を形成した。4点プローブ方法を使用して薄いフィルムの導電率を測定した。実験データは、(化学還元後の)酸化グラフェンフィルムの導電率が30~300S/cmの範囲であることを示す。対照的に、本方法に従って製造されたグラフェンフィルムの導電率は典型的に500~4,500S/cmの範囲である。
【0073】
これらのデータは明らかに、黒鉛の酸化/インターカレーションを使用する従来の化学的方法よりもグラフェン材料を製造する本発明の直接黒鉛化方法が優れていることを示している。両方の方法とも単一層グラフェンを製造することができるが、我々の発明の方法は、典型的にずっとより電気導電性であるグラフェンシートを製造する。従来のハマーズ法及び全ての他の化学酸化/インターカレーション方法は必ず、黒鉛材料を高度に酸化させることと、得られたグラフェンシートに対して、決して修復又は回復され得ない損傷(欠陥)を生じることとを伴う。ヒドラジンによる強い化学還元の後でも、グラフェン材料(還元酸化グラフェン)はまだ、当該の直接黒鉛化方法によって製造される、より純粋なグラフェンの導電率よりも一桁低い導電率を示す。
【0074】
多種多様な木材製品及び木材成分もまた、本発明の方法を使用してグラフェンシートに変換された。結果は、以下の表2に記載された。
【0075】
要約すると、本発明は、廃棄された紙又は木材製品を高付加価値の製品、グラフェンに変換することができる、環境に優しく、生態系に優しい、高度に拡大縮小可能な、且つ場合によっては低コストである方法を提供する。この方法は、社会及び環境に対して良い及び著しい影響をもつと予想される。