(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】導電性生地及び導電性生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 21/00 20060101AFI20230518BHJP
D04B 1/20 20060101ALI20230518BHJP
D04B 21/14 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
D04B21/00 B
D04B1/20
D04B21/14 Z
(21)【出願番号】P 2019562801
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2018040680
(87)【国際公開番号】W WO2019130808
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2017252632
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503328399
【氏名又は名称】竹中繊維株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511079872
【氏名又は名称】北陸ウエブ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517457137
【氏名又は名称】POSH WELLNESS LABORATORY株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】竹中 健
(72)【発明者】
【氏名】飴谷 嘉治蔵
(72)【発明者】
【氏名】根武谷 吾
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093137(JP,A)
【文献】特開2013-178895(JP,A)
【文献】特表2007-529805(JP,A)
【文献】特開2012-31550(JP,A)
【文献】特開平7-166470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性生地であって、
表面が導電性を有する複数の構成繊維により構成されたウーリー加工糸である第1編糸を含
み、皮膚に接触する面を有する第1層と、
ウーリー加工糸以外の糸である第2編糸を含み、前記
第1層を皮膚に貼りつけた状態において電流源を有する装置に前記導電性生地を接続するためのコネクタが設けられる第2層と、
前記第1編糸と前記第2編糸とを連結する連結編糸を含み、かつ前記第1層と前記第2層との間に形成された連結層と、
を有し、
前記複数の構成繊維の少なくとも一部の構成繊維は、長手方向の異なる複数の位置において異なる一以上の他の構成繊維に接触して
おり、
前記第1編糸の断面の直径が、前記第2編糸の断面の直径よりも小さいことを特徴とする導電性生地。
【請求項2】
前記第1編糸を構成する前記複数の構成繊維は、前記導電性生地に外力が加わった状態において、前記外力が加わっていない状態で接触する他の構成繊維と異なる他の構成繊維に接触することを特徴とする、
請求項1に記載の導電性生地。
【請求項3】
前記第1層内の2点間のインピーダンスは、周囲の湿度が高くなるにつれて低下することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の導電性生地。
【請求項4】
前記連結編糸が導電性のウーリー加工糸であり、前記第1層と前記第2層とを近づける方向の外力が加わった状態でのインピーダンスが、前記外力が加わっていない状態でのインピーダンスよりも低いことを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性生地。
【請求項5】
前記連結編糸が導電性のウーリー加工糸であり、前記連結編糸を直線状に伸ばした状態での長さが、前記第1層と前記第2層とを近づける方向の外力が加わっていない状態での前記第1層と前記第2層との間の距離よりも長く、前記外力が加わっていない状態で、隣接する複数の前記連結編糸が接触していることを特徴とする、
請求項1から4のいずれか一項に記載の導電性生地。
【請求項6】
ウェール方向の伸長率がコース方向の伸長率よりも大きいことを特徴とする、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の導電性生地。
【請求項7】
前記複数の構成繊維のうち、所定の大きさ以上の電流が流れた構成繊維が溶断することを特徴とする、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の導電性生地。
【請求項8】
第1編糸を含
み、皮膚に接触する面を有する第1層と、
第2編糸を含む第2層と、
前記第1編糸と前記第2編糸とを連結する連結編糸を含み、かつ前記第1層と前記第2層との間に形成された連結層と、
を有する導電性生地であって、前記
第1層を皮膚に貼りつけた状態において電流源を有する装置に前記導電性生地を接続するためのコネクタが前記第2層に設けられる前記導電性生地の製造方法であって、
表面が導電性を有する複数の構成繊維がウーリー加工され、前記複数の構成繊維の少なくとも一部の構成繊維が、長手方向の異なる複数の位置において異なる一以上の他の構成繊維に接触している前記複数の構成繊維により構成されるウーリー加工糸により前記第1編糸を作成する工程と、
ウーリー加工されていない糸により前記第2編糸を作成する工程と、
前記連結編糸を作成する工程と、
前記第1編糸
と、前記第1編糸よりも断面の直径が大きい前記第2編糸
と、を前記連結編糸で連結する工程と、
を有する導電性生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する導電性生地及び導電性生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍を測定したり、人体に電気的刺激を与えたりするために、人の皮膚の表面に装着される電極が用いられている。特許文献1には、導電性を有するゲル接着剤を含む電極を介して電気生理学的信号をモニタリングする方法が開示されている。特許文献2には、導電性の繊維が用いられた生地状の電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-523139号公報
【文献】特開2015-93137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゲル接着剤を含む電極においては、心拍を測定したり人体に電気的刺激を与えたりするために十分な程度にインピーダンスを低くすることができる。しかしながら、ゲル接着剤は皮膚刺激性が強いため、皮膚に炎症が生じるおそれがあり、長期間の装着に適していないという問題があった。一方、生地状の電極を用いる場合、ゲル接着剤を含む電極に比べてインピーダンスが高いという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、ゲル接着剤を含まない導電性生地のインピーダンスを低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の導電性生地は、表面が導電性を有する複数の構成繊維により構成された第1編糸を含む第1層と、第2編糸を含む第2層と、前記第1編糸と前記第2編糸とを連結する連結編糸を含み、かつ前記第1層と前記第2層との間に形成された連結層と、を有し、前記複数の構成繊維の少なくとも一部の構成繊維は、長手方向の異なる複数の位置において異なる一以上の他の構成繊維に接触していることを特徴とする。
【0007】
前記第1編糸を構成する前記複数の構成繊維は、前記導電性生地に外力が加わった状態において、前記外力が加わっていない状態で接触する他の構成繊維と異なる他の構成繊維に接触していてもよい。前記第1層内の2点間のインピーダンスは、周囲の湿度が高くなるにつれて低下してもよい。
【0008】
前記連結編糸が導電性のウーリー加工糸であり、前記第1層と前記第2層とを近づける方向の外力が加わった状態でのインピーダンスが、前記外力が加わっていない状態でのインピーダンスよりも低くてもよい。
【0009】
前記連結編糸が導電性のウーリー加工糸であり、前記連結編糸を直線状に伸ばした状態での長さが、前記第1層と前記第2層とを近づける方向の外力が加わっていない状態での前記第1層と前記第2層との間の距離よりも長く、前記外力が加わっていない状態で、隣接する複数の前記連結編糸が接触していてもよい。
【0010】
前記第1編糸の断面の直径が、前記連結編糸の断面の直径よりも小さくてもよい。また、ウェール方向の伸長率がコース方向の伸長率よりも大きくてもよい。前記複数の構成繊維のうち、所定の大きさ以上の電流が流れた構成繊維が溶断してもよい。
【0011】
本発明の第2の態様の導電性生地の製造方法は、第1編糸を含む第1層と、第2編糸を含む第2層と、前記第1編糸と前記第2編糸とを連結する連結編糸を含み、かつ前記第1層と前記第2層との間に形成された連結層と、を有する導電性生地の製造方法であって、表面が導電性を有する複数の構成繊維がウーリー加工され、前記複数の構成繊維の少なくとも一部の構成繊維が、長手方向の異なる複数の位置において異なる一以上の他の構成繊維に接触している前記複数の構成繊維により構成される前記第1編糸を作成する工程と、前記第2編糸を作成する工程と、前記連結編糸を作成する工程と、前記第1編糸及び前記第2編糸を前記連結編糸で連結する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゲル接着剤を含まない導電性生地のインピーダンスを低下させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】導電性生地の概要を説明するための図である。
【
図3】導電性繊維の構造について説明するための図である。
【
図4】構成繊維の形状について説明するための図である。
【
図5】導電性生地の特性を測定するための実験方法について説明するための図である。
【
図6】本実施の形態に係る導電性生地、及び比較例の表面の顕微鏡写真である。
【
図7】導電性生地に圧力が加えられた場合の接触インピーダンスを示す図である。
【
図8】導電性生地に圧力が加えられた場合の接触インピーダンスを示す図である。
【
図9】導電性生地、比較例、及びゲル付電極の抵抗の測定結果を示す表である。
【
図10】乾燥した状態の導電性生地1及び導電性生地100の接触インピーダンスを示す図である。
【
図11】湿った状態の導電性生地1及び導電性生地100の接触インピーダンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[導電性生地1の概要]
図1は、本実施の形態に係る導電性生地1の概要を説明するための図である。導電性生地1は、心拍を測定したり人体に電気的刺激を与えたりするために、人体の皮膚の表面に貼り付けられた状態で使用される。
【0015】
図1(a)は、皮膚に貼り付けられる面から見た場合の導電性生地1の模式図である。
図1(b)は、導電性生地1のA-A線断面図である。導電性生地1は、ダブルラッセル編み機により製造されており、
図1(b)に示すように、第1層11と、第2層12と、連結層13とを有する。第1層11は、皮膚に接触する面を有する。第2層12には、例えば、電流源を有する装置に導電性生地1を接続するためのコネクタが設けられる。
【0016】
図2は、導電性生地1の構造を示す模式図である。
図2は、導電性生地1を斜め方向から見た状態を示している。
図2に示すように、第1層11は、表面が導電性を有する複数の構成繊維により構成された第1編糸111を含む層である。第1編糸111は、導電性を有する複数の構成繊維を束ねてから捩った状態で加熱し、加熱後に捩じりを戻すことにより製造されたウーリー加工糸(仮撚り加工糸ともいう)である。
【0017】
第2層12は、第2編糸121を含む層である。連結層13は、第1編糸111と第2編糸121とを連結する連結編糸131を含み、第1層11と第2層12との間に形成された層である。第2編糸121及び連結編糸131としては任意の糸を使用することができるが、本実施の形態では、第1編糸111と同じ材質及び形状の導電性を有するウーリー加工糸であるものとする。
【0018】
図3は、第1層11、第2層12及び連結層13を構成する導電性繊維2の構造について説明するための図である。
図3(a)は、導電性繊維2の構造の模式図である。
図3(b)は、導電性繊維2を顕微鏡で拡大した写真である。
図3(a)に示すように、導電性繊維2は、曲線状の複数の構成繊維21(例えば
図3(a)に示す21a~21f)により構成されている。
図3(a)においては6本の構成繊維21しか示していないが、導電性繊維2は、
図3(b)に示すように、より多くの構成繊維21により構成されている。
【0019】
図4は、構成繊維21の形状について説明するための図である。
図4(a)は、構成繊維21の典型的な形状を示しており、
図4(b)は、構成繊維21の各部の寸法を例示している。
図4(b)に示すように、70番手の導電性繊維2は24本の構成繊維21を含んでいる。この場合、構成繊維21の円形状の断面の直径dは19.54(μm)であり、正弦波状に変化する曲線における1周期の長さL1は2421.82(μm)であり、正弦波状に変化する曲線の短手方向の両端間の距離L2は439.44(μm)である。この場合、L1の区間を直線状態に伸ばした状態での長さL3は、√{(L1/2)
2+L2
2}×2=2576.36(μm)であり、L3/L1=1.063である。
【0020】
同様に、100番手の導電性繊維2は34本の導電性繊維2を含んでいる。この場合、構成繊維21の円形状の断面の直径dは19.54(μm)であり、正弦波状に変化する曲線における1周期の長さL1は3320.60(μm)であり、正弦波状に変化する曲線の短手方向の両端間の距離L2は517.66(μm)である。この場合、L1の区間を直線状態に伸ばした状態での長さL3は、√{(L1/2)2+L22}×2=3478.26(μm)であり、L3/L1=1.047である。
【0021】
導電性繊維2が、このように加工された複数の構成繊維21により構成されていることで、導電性生地1は、皮膚に接触させた状態で電流を流すために好適な各種の特性を満たすことが可能になる。以下、導電性生地1の特徴について詳細に説明する。
【0022】
[導電性生地1の特徴]
(低インピーダンス)
図3に示すように、複数の構成繊維21は概ね同じような形状をしているが、それぞれ異なる位置で曲がっている。そして、複数の構成繊維21の少なくとも一部の構成繊維は、長手方向の異なる複数の位置(例えば少なくとも2つの位置)において異なる一以上の他の構成繊維21に接触している。50%以上の構成繊維21が、長手方向の異なる複数の位置において、それぞれ異なる一以上の他の構成繊維21に接触していてもよく、全ての構成繊維21が、長手方向の異なる複数の位置において、それぞれ異なる一以上の他の構成繊維21に接触していてもよい。
【0023】
第1編糸111、第2編糸121及び連結編糸131を構成する導電性繊維2が、このような特徴を有する導電性の複数の構成繊維21により構成されていることで、電流が流れる経路が分散する。したがって、導電性生地1のインピーダンスは、複数の構成繊維21のそれぞれが長手方向の位置によって異なる構成繊維21に接触しない従来の導電性生地のインピーダンスに比べて低くなる。
【0024】
また、連結編糸131が導電性のウーリー加工糸である場合、第1層11と第2層12とを近づける方向の外力が加わった状態でのインピーダンスが、第1層11と第2層12とを近づける方向の外力が加わっていない状態でのインピーダンスよりも低い。そして、外力が大きくなるにつれて、インピーダンスの低下量が小さくなり、所定の外力以上においてインピーダンスが所定の範囲内に収まる。導電性生地1がこのような特徴を有することで、導電性生地1は、皮膚に装着されて衣服等により押された状態で使用される場合にインピーダンスが低下するので、人体に装着して使用される用途に好適である。
【0025】
(クッション性の向上とインピーダンスの変化の抑制)
連結編糸131が、曲線状の複数の構成繊維21を有する導電性繊維2であることで、連結編糸131を直線状に伸ばした状態での長さが、第1層11と第2層12とを近づける方向の外力が加わっていない状態での第1層11と第2層12との間の距離よりも長い。連結編糸131を直線状に伸ばした状態での長さは、例えば、第1層11と第2層12との間の距離の1.01倍以上かつ1.50倍未満である。
図4に示した例においては、連結編糸131を直線状に伸ばした状態での長さは、第1層11と第2層12との間の距離の1.04倍より大きく、1.07倍より小さい。
【0026】
連結編糸131がこのような特徴を有することで、導電性生地1のクッション性が高くなる。また、連結編糸131が、曲線状の導電性繊維2であることで、第1層11と第2層12とを近づける方向の外力が加わっていない状態で、隣接する複数の連結編糸131が接触している状態になる。連結編糸131がこのような特徴を有することにより、第1層11が皮膚に接触し、第2層12が測定機に接続される場合に、クッション性を確保しつつ、皮膚と測定機との間のインピーダンスを低くすることができる。
【0027】
また、導電性生地1は、クッション性と低インピーダンスを両立させるべく第1層11、第2層12及び連結層13の各層における導電性繊維2の密度が決定されており、ウェール方向及びコース方向の両方向に伸長可能に構成されている。一例として、導電性生地1は、ウェール方向の伸長率がコース方向の伸長率よりも大きい。このように、導電性生地1が、一方の方向の伸長率が、当該方向に直交する方向の伸長率よりも高くなるように構成されていることは、一方向の動きが他方向の動きよりも大きい部位に装着される用途に好適である。
【0028】
導電性生地が、複数の構成繊維を有する導電性繊維により構成されている場合、複数の構成繊維それぞれの間の間隔を大きくしてクッション性を向上させると、複数の構成繊維の間の接触状態が変化しやすく、インピーダンスが変化しやすい傾向になる。これに対して、導電性生地1においては、第1編糸111、第2編糸121及び連結編糸131を構成する導電性繊維2が有する複数の構成繊維21がウーリー加工されており、
図3に示すように曲率がランダムな曲線状になっている。その結果、導電性生地1に外力が加わった状態において、外力が加わっていない状態で接触する他の構成繊維21と異なる他の構成繊維21に接触しやすい。導電性繊維2がこのような構成繊維21を有することにより、外力の大きさによらず、各構成繊維21が接触する他の構成繊維21の数に大きな変動が生じないので、外力の大きさによらず導電性生地1のインピーダンスの変化量が所定の範囲内に収まる。
【0029】
詳細な実験結果については後述するが、例えば、第1層11と第2層12とを近づける方向の外力が加わり、連結層の厚みが、外力が加えられていない状態での厚みの50%になった状態における第1層内の2点間のインピーダンスは、外力が加わっていない状態における2点間のインピーダンスに対して、-10%以上かつ+10%以下、又は-15Ω以上かつ+15Ω以下である。導電性生地1内の任意の2点間のインピーダンスも、外力が加わっていない状態における2点間のインピーダンスに対して、-10%以上かつ+10%以下、又は-15Ω以上かつ+15Ω以下である。導電性生地1がこのような特性を有することにより、導電性生地1が皮膚の表面に装着された状態で人が動いても、導電性生地1のインピーダンスの変化量が、測定結果に許容誤差以上の変動を与えない範囲に収まるので、導電性生地1は、人が動く状態で装着される用途に好適である。
【0030】
(湿度の低下に伴うインピーダンスの低下)
導電性繊維2が導電性の複数の構成繊維21を有することにより、導電性繊維2が微少量の水分を保持することができる。その結果、第1層11内の2点間のインピーダンスは、周囲の湿度が高くなるにつれて低下する。第2編糸121及び連結編糸131も導電性繊維2を有する場合、周囲の湿度が高くなるにつれて導電性生地1内の任意の2点間のインピーダンスも低下する。したがって、導電性生地1は、皮膚に装着された状態で皮膚から発せられる汗によりインピーダンスが低下するので、皮膚に装着した状態で使用される電極として好適である。
【0031】
(過電流による切断)
導電性生地1が皮膚に接触している状態で特定の箇所に過電流が流れてしまうと、皮膚に悪影響を与えてしまうことが想定される。そこで、導電性繊維2は、複数の構成繊維21のうち、所定の大きさ以上の電流が流れた構成繊維21が溶断するように構成されている。具体的には、構成繊維21は、測定に必要な電流(例えば0.1μA)では溶断せず、人が刺激を感じるとされている500μA以上の電流が流れた場合に溶断する。構成繊維21は、測定に必要な電流の約10倍の電流が流れることで溶断してもよく、例えば1μA以上の電流が流れた場合に溶断してもよい。
【0032】
[導電性生地1の製造方法]
導電性生地1を製造するにあたって、まず、ウーリー加工された導電性繊維2を準備する。具体的には、まず、表面が導電性を有する複数の構成繊維21をウーリー加工する。続いて、複数の構成繊維21のそれぞれが、長手方向の異なる複数の位置において異なる一以上の他の構成繊維21に接触している複数の構成繊維21により構成される導電性繊維2により第1編糸111を作成する。
【0033】
同様に、導電性繊維2により構成される第2編糸121、及び導電性繊維2により構成される連結編糸131を作成する。続いて、第1編糸111、第2編糸121及び連結編糸131をダブルラッセル編機にセットしてからダブルラッセル編機を動作させることにより、第1編糸111及び第2編糸121を連結編糸131で連結する。このようにすることで、導電性生地1を製造することができる。上記の製造工程において、第2編糸121及び連結編糸131の材質を第1編糸111と異なる材質にしてもよい。
【0034】
[実験例]
(実験1)
図5は、導電性生地1の特性を測定するための実験方法について説明するための図である。皮膚の2箇所に導電性生地1aと導電性生地1bを接触させた状態で、導電性生地1aと導電性生地1bとの間に電圧源3及びインピーダンス測定機4を接続した。そして、50kHz、1Vの交流電圧を出力可能な電圧源3により電圧を印加状態でインピーダンス測定機4においてインピーダンスZを測定した。測定したインピーダンスZは皮膚のインピーダンス、並びに導電性生地1a及び導電性生地1bのインピーダンスを加算した接触インピーダンスとなる。導電性生地1を構成する導電性繊維2として、ミツフジ株式会社製の銀メッキ導電性繊維であるAGposs(登録商標)を使用した。インピーダンス測定機4として、インピーダンスアナライザIM3570(日置電機株式会社製)を使用した。
【0035】
図6は、測定に用いた本実施の形態に係る導電性生地1、及び比較例としての導電性生地100の表面の顕微鏡写真である。
図6(a)は導電性生地1の顕微鏡写真であり、
図6(b)は導電性生地100の顕微鏡写真である。導電性生地1は、ウーリー加工された導電性繊維2により構成されているため、複数の構成繊維21がさまざまな構成繊維21と接触していることがわかる。一方、比較例の導電性生地100は、ウーリー加工されていない編糸により構成されている。ウーリー加工されていない編糸においては、構成繊維が特定の他の構成繊維と接触しており、外力が加わった場合と外力が加わっていない場合との間で、1本の構成繊維が接触する他の構成繊維が変化しづらいという傾向にある。
【0036】
図7は、導電性生地1に圧力が加えられた場合の接触インピーダンスを示す図である。
図7は、第1被験者が導電性生地1を装着した場合の接触インピーダンス、導電性生地100を装着した場合の接触インピーダンス、及びゲル付電極200を装着した場合の接触インピーダンスを示している。
図7における横軸は、導電性生地1、導電性生地100及びゲル付電極200のそれぞれに印加した圧力を示しており、縦軸は接触インピーダンスを示している。
【0037】
図7における実線は導電性生地1の測定結果を示しており、破線は導電性生地100の測定結果を示しており、一点鎖線はゲル付電極200の測定結果を示している。また、■は、導電性生地1及び導電性生地100が乾燥した状態で測定した結果を示しており、●は、導電性生地1及び導電性生地100に霧吹きにより水を噴霧した後の湿った状態で測定した結果を示している。
【0038】
まず、乾燥した状態と湿った状態とを比較すると、湿った状態において接触インピーダンスが大幅に低下していることを確認できる。また、湿った状態において、導電性生地1の接触インピーダンスは、導電性生地100の接触インピーダンスに比べて低くなっており、ゲル付電極200の接触インピーダンスとほぼ等しくなっていることを確認できる。さらに、圧力の変化に伴う導電性生地1の接触インピーダンスの変化量が、導電性生地100の接触インピーダンスの変化量、及びゲル付電極200の接触インピーダンスの変化量よりも小さいことを確認できる。
【0039】
図8は、
図7と同様に、導電性生地1に圧力が加えられた場合の接触インピーダンスを示す図である。
図8は、第2被験者が導電性生地1、導電性生地100及びゲル付電極200を装着した場合の接触インピーダンスを示す図である。
図8においても、
図7に示した結果に見られた傾向と同様の傾向がみられる。
図8に示す結果においては、導電性生地1の接触インピーダンスがゲル付電極200の接触インピーダンスよりも高いが、圧力の変化に伴う導電性生地1の接触インピーダンスの変化量が、導電性生地100の接触インピーダンスの変化量、及びゲル付電極200の接触インピーダンスの変化量よりも小さいという点では、
図7に示した例と同じである。
【0040】
(実験2)
導電性生地1に外力が加わった際の接触インピーダンスの変動量を確認するための実験を行った。
図5に示したように、2つの導電性生地1を皮膚の表面に接触された状態で加振機により振動を与えている間の接触インピーダンスの変動量を測定した。
【0041】
測定条件は以下のとおりである。
・印加電圧:1.0V
・印加電圧の周波数:50Hz
・2つの導電性生地1の配置間隔:10cm
・振動周波数:3Hz
【0042】
図9は、実験に用いた導電性生地1(1a,1b)を貼り付けた装着具5と、導電性生地100(100a,100b)を貼り付けた装着具500とを示す写真である。被験者1名の上腕部に装着具5及び装着具500のいずれかを装着した状態で、振動させながら電圧を印加した状態での接触インピーダンスを測定した。導電性生地1及び導電性生地100が乾燥した状態と、霧吹きにより水を噴霧することにより湿らせた状態とで測定した。
【0043】
図10は、乾燥した状態の導電性生地1及び導電性生地100の接触インピーダンスを示す図である。
図10(a)は、乾燥した状態の導電性生地100の接触インピーダンスを示しており、
図10(b)は、乾燥した状態の導電性生地1の接触インピーダンスを示している。
図10に示す結果は、接触インピーダンスのドリフトの影響が表れないように、カットオフ周波数0.5Hzのハイパスフィルタを用いて低周波成分を除去している。
【0044】
図10(a)と
図10(b)とを比較すると、
図10(a)に示す従来の導電性生地100の接触インピーダンスは、約-110000Ωから+80000Ωの範囲で変動しているのに対して、
図10(b)に示す本実施形態に係る導電性生地1の接触インピーダンスは、約-1400Ωから+1500Ωの範囲で変動しており、導電性生地1の接触インピーダンスの変動量が大幅に小さいことを確認できた。
【0045】
図11は、湿った状態の導電性生地1及び導電性生地100の接触インピーダンスを示す図である。
図11(a)は、湿った状態の導電性生地100の接触インピーダンスを示しており、
図11(b)は、湿った状態の導電性生地1の接触インピーダンスを示している。
図10と同様に、
図11に示す結果は、接触インピーダンスのドリフトの影響が表れないように、カットオフ周波数0.5Hzのハイパスフィルタを用いて低周波成分を除去している。
【0046】
図11(a)と
図11(b)とを比較すると、
図11(a)に示す従来の導電性生地100の接触インピーダンスは、約-16000Ωから+12000Ωの範囲で変動しているのに対して、
図11(b)に示す本実施形態に係る導電性生地1の接触インピーダンスは、約-11Ωから+13Ωの範囲で変動しており、導電性生地1の接触インピーダンスの変動量が、導電性生地100の接触インピーダンスの変動量の約1000分の1になっていることを確認できた。このように、本実施形態に係る導電性生地1は、体動による接触インピーダンスの変動量が極めて小さいので、人体に装着して生体信号を測定したり人体に電気的刺激を与えたりする用途に好適である。
【0047】
[変形例]
以上の説明においては、第2編糸121及び連結編糸131が第1編糸111と同一の導電性繊維2により構成される場合を例示したが、第2編糸121及び連結編糸131は、第1編糸111と異なる糸により構成されていてもよい。例えば、第1編糸111の断面の直径が、第2編糸121の断面又は連結編糸131の断面の直径よりも小さくなるように構成されていてもよい。このようにすることで、第1編糸111が皮膚の表面の凹凸に合わせて曲がりやすくなり、第1層11が皮膚に密着しやすくなる。その結果、皮膚と導電性生地1との間のインピーダンスを低下させることが可能になる。
【0048】
また、第2編糸121及び連結編糸131の少なくともいずれかとして、ウーリー加工糸以外の糸が用いられてもよい。第2層12がウーリー加工糸以外の糸で構成されていることで、第2層12を測定機に接続するためのコネクタを接着シールで第2層12に貼り付ける場合の接着力を高めることが可能になる。また、第2編糸121及び連結編糸131の少なくともいずれかが非導電性の糸であってもよい。
【0049】
また、以上の説明においては、導電性繊維2が銀メッキされている例を示したが、導電性繊維2は、銀以外の金属がメッキされた繊維であってもよい。また、導電性繊維2は、メッキされておらず、金属の粒子が表面及び内部に含まれた繊維であってもよい。例えば、導電性繊維2は、カーボンファイバー糸、導電性インクを染色した糸、又はカーボン粒子を糸に絡めた糸であってもよい。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【符号の説明】
【0051】
1 導電性生地
2 導電性繊維
3 電圧源
4 インピーダンス測定機
5 装着具
11 第1層
12 第2層
13 連結層
21 構成繊維
100 導電性生地
111 第1編糸
121 第2編糸
131 連結編糸
200 ゲル付電極
500 装着具