(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】プログラムおよび復旧計画作成支援装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/30 20120101AFI20230518BHJP
【FI】
G06Q50/30
(21)【出願番号】P 2020002137
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】深澤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 尚也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇正
【審査官】藤原 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-329286(JP,A)
【文献】特開2005-068745(JP,A)
【文献】特開2011-123689(JP,A)
【文献】特開2014-010815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拠点間を輸送路で結んだ輸送区間の集合である輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成支援をコンピュータに行わせるためのプログラムであって、
各輸送区間には、不通状態から完全復旧までの段階的な復旧度合と、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
前記輸送ネットワークのうち、前記災害発生に伴い完全復旧に向けたリソース投入が必要な支障状態となった輸送区間である支障区間を設定する支障区間設定手段、
前記輸送ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限リソース量である上限投入リソース量を設定する上限投入リソース量設定手段、
前記災害発生の前の前記輸送ネットワークの1日当たりの輸送取扱量の基準として出発拠点および目的拠点が定められた輸送ODデータを設定する取扱量基準設定手段、
全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案を各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が前記上限投入リソース量以下となるように算出する算出手段であって、当該計画案に従ってリソースを投入した場合の各日について、各支障区間の前記復旧度合の判定と、当該復旧度合に応じて定まる前記輸送量上限に基づき、前記輸送ODデータを適用した場合の取扱実績予想量の算出と、を全ての支障区間が完全復旧するまで行うことで決まる前記輸送ODデータのうちの取り扱えなかった損失輸送量の合計が、所定の最小条件を満たす前記計画案を算出する算出手段、
として前記コンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項2】
前記算出手段は、各支障区間の前記復旧度合の判定を、当該支障区間に投入されたリソースの積算量が、当該支障区間に定められた前記必要リソース積算量に達したか否かで行う、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
各輸送区間には、投入可能な1日当たりの上限リソース量である区間別上限投入リソース量が定められており、
前記算出手段は、前記区間別上限投入リソース量に基づいて前記計画案を算出する、
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記算出手段により算出された計画案に基づいて、前記復旧度合が変化した支障区間の時系列表示と、前記取扱実績予想量の復旧進行日毎の推移と、を表示する制御を行う第1の表示制御手段、
を更に機能させるための請求項1~3の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
ユーザによって選択された所与の復旧進行日における各輸送区間の復旧度合を識別表示した前記輸送ネットワークの図を、前記算出手段により算出された計画案に基づいて表示する制御を行う第2の表示制御手段、
を更に機能させるための請求項1~4の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項6】
前記上限投入リソース量設定手段は、異なる複数の上限投入リソース量を設定し、
前記算出手段は、前記異なる複数の上限投入リソース量それぞれに対して、前記計画案を算出し、
前記異なる複数の上限投入リソース量それぞれについて前記算出手段によって算出された前記計画案を所定の比較基準に従って比較評価する比較評価手段として前記コンピュータを更に機能させる、
ための請求項1~5の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項7】
前記輸送ネットワークは鉄道ネットワークである、
請求項1~6の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項8】
拠点間を輸送路で結んだ輸送区間の集合である輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成支援を行う復旧計画作成支援装置であって、
各輸送区間には、不通状態から完全復旧までの段階的な復旧度合と、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
前記輸送ネットワークのうち、前記災害発生に伴い完全復旧に向けたリソース投入が必要な支障状態となった輸送区間である支障区間を設定する支障区間設定手段と、
前記輸送ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限リソース量である上限投入リソース量を設定する上限投入リソース量設定手段と、
前記災害発生の前の前記輸送ネットワークの1日当たりの輸送取扱量の基準として出発拠点および目的拠点が定められた輸送ODデータを設定する取扱量基準設定手段と、
全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案を各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が前記上限投入リソース量以下となるように算出する算出手段であって、当該計画案に従ってリソースを投入した場合の各日について、各支障区間の前記復旧度合の判定と、当該復旧度合に応じて定まる前記輸送量上限に基づき、前記輸送ODデータを適用した場合の取扱実績予想量の算出と、を全ての支障区間が完全復旧するまで行うことで決まる前記輸送ODデータのうちの取り扱えなかった損失輸送量の合計が、所定の最小条件を満たす前記計画案を算出する算出手段と、
を備えた復旧計画作成支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害発生に伴い支障が発生した輸送ネットワークに対する復旧計画の作成支援を行う復旧計画作成支援装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、降雨や降雪、強風、地震等の自然災害の発生に伴う線路の支障が発生した場合、点検・補修等の復旧作業を行った後に運転再開となる。早期の運転再開のためには、速やかに支障箇所の復旧を行う必要がある(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、地震や台風といった大規模自然災害の発生による広範囲での支障発生が増加している。鉄道事業者には安定した輸送力の供給が求められており、災害発生後も列車運行を継続しながら早期復旧を進める必要がある。復旧作業に投入できる人員や作業機械等のリソース(復旧資源)には限りがあり、迅速な輸送力の回復のためには、いつ、どの箇所にどれくらいのリソースを投入するか、といった復旧計画の作成が重要である。しかしながら、現状では大規模自然災害からの適切な復旧計画の作成については充分に検討されているとはいえない。この問題は、鉄道に限らず、高速道路といった他の輸送ネットワークについても同様である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鉄道ネットワーク等の輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合に、迅速な輸送力の回復のための復旧計画の作成を支援すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
拠点間を輸送路で結んだ輸送区間の集合である輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成支援をコンピュータに行わせるためのプログラムであって、
各輸送区間には、不通状態から完全復旧までの段階的な復旧度合と、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
前記輸送ネットワークのうち、前記災害発生に伴い完全復旧に向けたリソース投入が必要な支障状態となった輸送区間である支障区間を設定する支障区間設定手段(例えば、
図5の復旧関連設定部204)、
前記輸送ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限リソース量である上限投入リソース量を設定する上限投入リソース量設定手段(例えば、
図5の復旧関連設定部204)、
前記災害発生の前の前記輸送ネットワークの1日当たりの輸送取扱量の基準として出発拠点および目的拠点が定められた輸送ODデータを設定する取扱量基準設定手段(例えば、
図5のネットワーク関連設定部202)、
全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案を各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が前記上限投入リソース量以下となるように算出する算出手段であって、当該計画案に従ってリソースを投入した場合の各日について、各支障区間の前記復旧度合の判定と、当該復旧度合に応じて定まる前記輸送量上限に基づき、前記輸送ODデータを適用した場合の取扱実績予想量の算出と、を全ての支障区間が完全復旧するまで行うことで決まる前記輸送ODデータのうちの取り扱えなかった損失輸送量の合計が、所定の最小条件を満たす前記計画案を算出する算出手段(例えば、
図5の計画案算出部206)、
として前記コンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0007】
他の発明として、
拠点間を輸送路で結んだ輸送区間の集合である輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成支援を行う復旧計画作成支援装置であって、
各輸送区間には、不通状態から完全復旧までの段階的な復旧度合と、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
前記輸送ネットワークのうち、前記災害発生に伴い完全復旧に向けたリソース投入が必要な支障状態となった輸送区間である支障区間を設定する支障区間設定手段と、
前記輸送ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限リソース量である上限投入リソース量を設定する上限投入リソース量設定手段と、
前記災害発生の前の前記輸送ネットワークの1日当たりの輸送取扱量の基準として出発拠点および目的拠点が定められた輸送ODデータを設定する取扱量基準設定手段と、
全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案を各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が前記上限投入リソース量以下となるように算出する算出手段であって、当該計画案に従ってリソースを投入した場合の各日について、各支障区間の前記復旧度合の判定と、当該復旧度合に応じて定まる前記輸送量上限に基づき、前記輸送ODデータを適用した場合の取扱実績予想量の算出と、を全ての支障区間が完全復旧するまで行うことで決まる前記輸送ODデータのうちの取り扱えなかった損失輸送量の合計が、所定の最小条件を満たす前記計画案を算出する算出手段と、
を備えた復旧計画作成支援装置を構成してもよい。
【0008】
第1の発明等によれば、輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合に、迅速な輸送力の回復のための復旧計画の作成を支援することができる。つまり、全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案として、災害発生前の輸送ODデータを基準として支障により取り扱えなかった完全復旧までの各日の損失輸送量の合計が最小条件を満たす計画案を算出することで、適切な復旧計画の作成を支援することができる。また、段階的な復旧度合に応じて輸送量上限が定められることから、復旧の進行に伴って輸送力が徐々に回復してゆくような計画案を算出することができる。また、復旧のために投入できるリソースには限りがあることから、輸送ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限投入リソース量を設定することで、現実に即した復旧案を算出することができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記算出手段は、各支障区間の前記復旧度合の判定を、当該支障区間に投入されたリソースの積算量が、当該支障区間に定められた前記必要リソース積算量に達したか否かで行う、
プログラムである。
【0010】
第2の発明によれば、支障区間に投入されたリソースの積算量が必要リソース積算量に達したか否かで、当該支障区間の復旧度合を判定することができる。輸送区間の構成や発生した支障の状況に応じて復旧に至るまでに必要なリソース量は異なり得るから、支障区間毎に必要リソース積算量を定めることで、より精度の高い計画案を算出することができる。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
各輸送区間には、投入可能な1日当たりの上限リソース量である区間別上限投入リソース量が定められており、
前記算出手段は、前記区間別上限投入リソース量に基づいて前記計画案を算出する、
プログラムである。
【0012】
第3の発明によれば、各輸送区間に定められた区間別上限投入リソース量に基づいて、計画案を算出することができる。輸送区間に区間別上限投入リソース量を定めることで、どの程度まで特定の輸送区間にリソースを集中して投入するかといったことを任意に調整することができる。
【0013】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記算出手段により算出された計画案に基づいて、前記復旧度合が変化した支障区間の時系列表示と、前記取扱実績予想量の復旧進行日毎の推移と、を表示する制御を行う第1の表示制御手段(例えば、
図5の表示制御部208)、
を更に機能させるためのプログラムである。
【0014】
第4の発明によれば、算出した計画案に基づいて、復旧度合が変化した支障区間の時系列表示や、取扱実績予想量の復旧進行日毎の推移を表示させることができる。これにより、ユーザは、算出された計画案に従った場合の復旧の進行を容易に把握することが可能となる。
【0015】
第5の発明は、第1~第4の何れかの発明において、
ユーザによって選択された所与の復旧進行日における各輸送区間の復旧度合を識別表示した前記輸送ネットワークの図を、前記算出手段により算出された計画案に基づいて表示する制御を行う第2の表示制御手段(例えば、
図5の表示制御部208)、
を更に機能させるためのプログラムである。
【0016】
第5の発明によれば、算出した計画案に基づいて、所与の復旧進行日における各輸送区間の復旧度合を識別表示した輸送ネットワークの図を表示させることができる。これにより、ユーザは、自身で選択した復旧進行日における輸送ネットワークの輸送区間毎の詳細な復旧度合を、容易に把握することが可能となる。
【0017】
第6の発明は、第1~第5の何れかの発明において、
前記上限投入リソース量設定手段は、異なる複数の上限投入リソース量を設定し、
前記算出手段は、前記異なる複数の上限投入リソース量それぞれに対して、前記計画案を算出し、
前記異なる複数の上限投入リソース量それぞれについて前記算出手段によって算出された前記計画案を所定の比較基準に従って比較評価する比較評価手段として前記コンピュータを更に機能させる、
ためのプログラムである。
【0018】
第6の発明によれば、異なる複数の上限投入リソース量それぞれに対する複数の計画案を作成し、これらの複数の計画案を所定の評価基準に従って比較評価することができる。評価基準としては、例えば、各日の各輸送区間の損失輸送量の合計とすることができる。これにより、輸送ネットワークの復旧のために投入すべき適切なリソース量の策定を支援することができる。
【0019】
第7の発明は、第1~第6の何れかの発明において、
前記輸送ネットワークは鉄道ネットワークである、
プログラムである。
【0020】
第7の発明によれば、鉄道ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】災害発生後の鉄道ネットワークの状況の一例。
【
図19】鉄道ネットワークにおける各輸送区間の輸送上限量の一例。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0023】
[概要]
本実施形態は、輸送ネットワークの一種である鉄道ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成支援を行うものである。
【0024】
(A)鉄道ネットワーク
図1は、鉄道ネットワークの一例である。鉄道ネットワークは、拠点間である駅間を輸送路である線路で結んだ輸送区間の集合である輸送ネットワークの一例である。鉄道ネットワークでは、輸送対象である旅客或いは貨物が、輸送区間を単位として定められた出発駅から目的駅まで輸送される。また、鉄道ネットワークに対する復旧計画は、輸送区間を単位として作成される。なお、輸送区間の途中(輸送区間の両端の駅間)に他の駅が存在してもよい。
【0025】
(B)災害発生
図2は、災害発生後の鉄道ネットワークの状況の一例である。本実施形態において“災害”とは地震や豪雨といった大規模自然災害を想定している。災害の影響により、鉄道ネットワークにおいて、復旧資源であるリソースの投入が必要な支障状態となった輸送区間である支障区間が発生する。なお、本実施形態では、災害発生後の輸送区間の支障状態を輸送が不可能な不通状態とするが、輸送が一部可能な仮復旧の状態を含むとしてもよい。
図2の例では、A駅~B駅間、A駅~F駅間、C駅~G駅間、が支障区間となっている。本実施形態においてリソースとは、具体的には復旧作業に投入できる人員や作業機械等のことであり、復旧作業に投入する量(数値)を示すため、統一した指標値(パラメータ)として扱う。
【0026】
支障区間には、支障の状況等に応じて、不通状態から完全復旧までの段階的な復旧度合に至るまでに必要なリソースの積算量を示す必要リソース積算量、復旧度合に応じた1日当たりの輸送量上限を定める輸送率、投入可能な1日当たりの上限リソース量である区間別上限投入リソース量、が定められる。本実施形態では、支障区間の復旧度合を、不通状態、仮復旧、平常時に相当する完全復旧、の3段階とするが、4段階以上としてもよい。そして、必要リソース積算量は、災害発生後の支障状態から仮復旧に至るまでの必要リソース量と、災害発生後の支障状態から完全復旧に至るまでの必要リソース量とが定められる。輸送率は、平常時の輸送量上限を基準とした割合であり、具体的には、輸送が不可能な不通状態の輸送率を「0.0」とし、平常時である完全復旧での輸送率を「1.0」とした「0.0~1.0」の値である。
【0027】
また、鉄道ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限リソース量である上限投入リソース量が定められる。各支障区間に投入したリソース量が当該支障区間に定められた区間別上限投入リソース量以下となり、且つ、各支障区間に投入したリソースの合計がこの上限投入リソース量以下となるように、支障区間にリソースが分配される。リソース投入により、支障区間が段階的に復旧する。支障区間の復旧度合は、当該支障区間に投入したリソースの積算量が、当該支障区間に定められた必要リソース量に達したか否かにより定まる。そして、支障区間の復旧に応じて、輸送量上限が上昇することから支障区間の輸送が回復することになる。
【0028】
(C)復旧度合に応じた輸送量
図3は、鉄道ネットワークにおける支障区間の復旧度合に応じた輸送量を説明する図である。復旧途中の鉄道ネットワークにおける輸送量は、災害発生の前である正常時の輸送ODデータを基準として、各輸送区間に定められた輸送量上限以下となるように算出される。支障が発生していない輸送区間である正常区間の輸送量上限は、平常時の輸送量上限と同じであり、支障区間の輸送量上限は、平常時の輸送量上限に復旧度合に応じた輸送率を乗算した輸送量上限となる。輸送ODデータは、出発駅と目的駅との組み合わせ別の輸送量を定めたデータであり、出発駅から目的駅までの輸送経路に支障区間が含まれるODについては、その支障区間の上限輸送量を超える分が輸送されない。つまり、復旧途中の鉄道ネットワークにおいては、平常時を基準としたときに輸送されない(取り扱われない)損失輸送量が発生し得る。そして、全ての支障区間が復旧すると、鉄道ネットワークにおける輸送量が平常時の輸送量まで回復する。
【0029】
本実施形態では、鉄道ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画として、全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案を、災害の影響による損失輸送量が所定の最小条件を満たすように作成する。具体的には、計画案として、全ての支障区間が完全復旧するまでの各日において各支障区間に投入するリソース量を、各日の損失輸送量の合計が所定の最小条件を満たすように作成する。最小条件を満たす計画案は、損失輸送量の最小化を目的関数とする最適化問題として解くことで作成する。
【0030】
(D)最適化問題
計画案の定式化に当たり、
図4に示すように、輸送区間を輸送方向で区別する。つまり、
図4に示すように、i駅~j駅間の輸送区間を、輸送方向がi駅からj駅に向かう方向の輸送区間ijと、輸送方向がj駅からi駅に向かう方向の輸送区間jiとの異なる2つの輸送区間として定義する。
【0031】
本実施形態の計画案を定式化した最適化問題は、次式(1)~(10)のように記述される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0032】
式(1)~(10)において、添え字i,j,kは駅を表し、添え字dは日を表し、添え字mはODを表す。また、Q_CAPijdは、日dの輸送区間ijの平常時の輸送量上限であり、Q_SDijdは、日dの輸送区間ijの仮復旧時輸送率であり、O_NORkmは、ODmにおける駅kの平常時発送量であり、D_NORkmは、ODmにおける駅kの平常時到着量であり、O_LOWkmdは、日dのODmにおける駅kの最低発送量であり、D_LOWkmdは、日dのODmにおける駅kの最低到着量であり、R_SDijは、輸送区間ijの仮復旧に至るまでの必要リソース積算量であり、R_NORijは、輸送区間ijの完全復旧に至るまでの必要リソース積算量であり、R_CAPijdは、日dの輸送区間ijの区間別上限投入リソース量であり、R_ALLは、鉄道ネットワークに対する1日当たりの上限投入リソース量である。
【0033】
式(1)は、決定変数である。つまり、決定変数は、日dのODmにおける輸送区間ijの輸送量Qijmd、日dのODmにおける駅kの発送量Okmd、日dのODmにおける駅kの到着量Dkmd、日dの輸送区間ijに投入するリソース量Rijd、日dの輸送区間ijの復旧度合が仮復旧に至っているか示す仮復旧フラグSDijd、日dの輸送区間ijの復旧度合が完全復旧に至っているかを示す完全復旧フラグRSijd、である。
【0034】
式(2)は、目的関数であり、各日dの各ODmにおける各駅kの平常時発送量O_NORkmdと発送量Okmdとの差である損失輸送量の合計を、最小化することを表す。
【0035】
式(3)~(10)は、制約条件である。式(3)は、輸送区間の輸送量に関する制約条件であり、日dの各ODmにおける輸送区間ijの輸送量Qijmdの合計が、仮復旧フラグSDijd、および、完全復旧フラグRSijdで表される輸送区間ijの復旧度合に応じた輸送量上限以下であること、を表す。式(4)は、ODに関する制約条件であり、日dのODmにおいて、定められた出発駅から発送された輸送対象は目的駅まで輸送される、ことを表す。式(5)は、駅からの発送量に関する制約条件であり、日dのODmにおける駅kの発送量Okmdは、定められた最低発送量O_LOWkmd以上、且つ、平常時発送量O_NORkm以下である、ことを表す。式(6)は、駅への到着量に関する制約条件であり、日dのODmにおける駅kの到着量Dkmdは、定められた最低到着量D_LOWkmd以上、且つ、平常時到着量D_NORkm以下である、ことを表す。
【0036】
式(7)は、鉄道ネットワーク全体に投入されるリソースに関する制約条件であり、日dの各輸送区間ijに投入されるリソース量Rijdの合計が、定められた上限リソース量以下であること、を表す。式(8)は、輸送区間に投入されるリソースに関する制約条件であり、日dの輸送区間ijに投入されるリソース量Rijdが、輸送区間ijに定められた区間別上限投入リソース量R_CAPijd以下であること、を表す。式(9),(10)は、輸送区間の復旧度合に関する制約条件である。式(9)は、日dまでの各日cに輸送区間ijに投入されたリソース量Rijcの合計が、輸送区間ijに定められた仮復旧に至るまでの必要リソース積算量R_SDijに達したか否か、を表す。式(10)は、日dまでの各日cに輸送区間ijに投入されたリソース量Rijcの合計が、輸送区間ijに定められた完全復旧に至るまでの必要リソース積算量R_NORijに達したか否か、を表す。
【0037】
[機能構成]
図5は、復旧計画作成支援装置1の機能構成の一例である。
図5によれば、復旧計画作成支援装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、復旧計画作成支援装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
【0038】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0039】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、復旧計画作成支援装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、ネットワーク関連設定部202、復旧関連設定部204、計画案算出部206、および、表示制御部208、を有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0040】
ネットワーク関連設定部202は、計画案の作成支援の対象となる鉄道ネットワークに関する設定を行う。具体的には、拠点である駅の名称や位置、輸送区間として輸送路である線路で結ばれた駅間といった鉄道ネットワークの構成を定めた鉄道ネットワークデータ310を設定する。また、災害発生の前の鉄道ネットワークの1日当たりの輸送取扱量の基準として出発駅および目的駅が定められた輸送ODデータ314を設定する。また、鉄道ネットワークにおける各輸送区間ijの平常時の輸送量上限Q_CAPijdを定めた輸送量上限データ312を設定する。
【0041】
図6は、輸送ODデータ314の一例である。
図6によれば、輸送ODデータ314は、出発駅と目的駅との組み合わせであるODm毎に、平常時の輸送量を対応付けるとともに、平常時の輸送量の内訳として、経路別の輸送量と、駅k別の発送量O_NOR
kmおよび到着量D_NOR
kmとを対応付けて格納している。
【0042】
図7は、輸送量上限データ312の一例である。
図7によれば、輸送量上限データ312は、輸送区間ij毎に、平常時の輸送量上限Q_CAP
ijdを対応付けて格納している。
【0043】
復旧関連設定部204は、鉄道ネットワークにおいて災害発生に伴い発生した支障および復旧に関する設定を行う。なお、ここでの“災害発生”は、実際に発生した災害であってもよいし、想定した災害であってもよい。鉄道ネットワークのうち、災害発生に伴い完全復旧に向けたリソース投入が必要な支障状態となった輸送区間である支障区間を、支障区間データ316として設定する。また、鉄道ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限リソース量である上限投入リソース量R_ALLと、各輸送区間ijに投入可能な1日当たりの上限リソース量である区間別上限投入リソース量R_CAPijdとを、上限リソース量データ322として設定する。また、段階的な復旧度合に至るまでに必要なリソースの積算量を、必要リソース量データ320として設定する。また、各駅の最低発送量および最低到着量を、OD制約データ318として設定する。
【0044】
図8は、上限リソース量データ322の一例である。
図8によれば、上限リソース量データ322は、輸送区間ij毎に区間別上限投入リソース量R_CAP
ijdを対応付けて格納しているとともに、区間別上限投入リソース量R_CAP
ijdの合計である上限投入リソース量R_ALLを格納している。なお、上限リソース量データ322では、区間別上限投入リソース量R_CAP
ijdを全ての日dにおいて同じとしているが、日d毎に異なるように定めてもよい。
【0045】
図9は、必要リソース量データ320の一例である。
図9によれば、必要リソース量データ320は、輸送区間ij毎に、仮復旧までの必要リソース積算量R_SD
ijと、完全復旧までの必要リソース積算量R_NOR
ijと、仮復旧時輸送率Q_SD
ijdと、を対応付けて格納している。なお、必要リソース量データ320では、復旧時輸送率Q_SD
ijdを全ての日dにおいて同じとしているが、日d毎に異なるように定めてもよい。
【0046】
図10は、OD制約データ318の一例である。
図10によれば、OD制約データ318は、出発駅と目的駅との組み合わせであるODm毎に、各駅kの最低発送量O_LOW
kmd、および、最低到着量D_LOW
kmdを対応付けて格納している。なお、OD制約データ318では、最低発送量O_LOW
kmd、および、最低到着量D_LOW
kmdを全ての日dにおいて同じとしているが、日d毎に異なるように定めてもよい。
【0047】
計画案算出部206は、全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案を各日dの支障区間ijに投入するリソース量Rijdの合計が上限投入リソース量R_ALL以下となるように算出するとともに、当該計画案に従ってリソースを投入した場合の各日dについて、各支障区間ijの復旧度合の判定と、当該復旧度合に応じて定まる輸送量上限に基づき、輸送ODデータ314を適用した場合の取扱実績予想量である予想輸送量の算出と、を全ての支障区間が完全復旧するまで行うことで決まる輸送ODデータ314のうちの取り扱えなかった損失輸送量の合計が、所定の最小条件を満たす計画案を算出する。また、各支障区間の復旧度合の判定を、当該支障区間に投入されたリソースの積算量が、当該支障区間に定められた必要リソース積算量に達したか否かで行う。また、各輸送区間ijに定められた投入可能な1日当たりの上リソース量である区間別上限投入リソース量R_CAPijdに基づいて計画案を算出する。
【0048】
具体的には、ネットワーク関連設定部202および復旧関連設定部204の設定に従い、式(1)~(10)に示すように定式化した最適化問題を解くことで、鉄道ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の計画案を作成する。最適化問題を解くことにより、式(1)に示した決定変数が算出される。算出結果として、計画案を示す計画案データ324と、輸送ODデータ314を適用した場合の予想輸送量を示す予想ODデータ326および予想輸送量データ328とが生成される。なお、日dは、災害発生後であって復旧作業の開始前を0日目とし、復旧作業の開始日を1日目とした復旧作業の開始日からの経過日数である復旧進行日を表すとする。
【0049】
図11は、計画案データ324の一例である。
図11によれば、計画案データ324は、支障区間ij毎に、各日dの投入リソース量R
ijdと、当該日dまでの積算リソース量と、復旧度合とを対応付けて格納している。復旧度合は、仮復旧フラグSD
ijd、および、完全復旧フラグRS
ijd、によって示される。
【0050】
図12は、予想ODデータ326の一例である。
図12によれば、予想ODデータ326は、各日dについて、出発駅と目的駅との組み合わせであるODm毎に、予想輸送量を対応付けるとともに、予想輸送量の内訳として、経路別の輸送量と、各駅kの発送量O
kmdおよび到着量D
kmdとを対応付けて格納している。
【0051】
図13は、予想輸送量データ328の一例である。
図13によれば、予想輸送量データ328は、各日dについて、輸送区間ij毎に、予想輸送量および損失輸送量を対応付けるとともに、損失輸送量の合計を対応付けて格納している。予想輸送量は、日dの各ODmにおける輸送区間ijの輸送量Q
ijmdの合計である。損失輸送量は、予想輸送量と、輸送ODデータ314における平常時の輸送量との差分である。
【0052】
表示制御部208は、計画案算出部206により算出された計画案に基づいて、復旧度合が変化した支障区間の時系列表示と、取扱実績予想量の復旧進行日毎の推移とを表示する制御を行う。また、ユーザによって選択された所与の復旧進行日における各輸送区間の復旧度合を識別表示した輸送ネットワークの図を、計画案算出部206により算出された計画案に基づいて表示する制御を行う。
【0053】
具体的には、算出した計画案に基づき、
図14~
図16に一例を示す表示画面を表示させる。
図14は、復旧度合が変化した支障区間を時系列表示させた復旧順序画面の一例である。復旧順序画面では、完全復旧するまでの各復旧進行日の復旧状況を、テーブル形式で時系列表示している。復旧状況は、当該日において復旧度合が変化した支障区間と変化後の復旧度合とを含む。復旧順序画面によれば、計画案に従った場合には、支障区間がどの順序で復旧してゆくかを容易に把握することができる。
【0054】
図15は、取扱実績予想量である予想輸送量の復旧進行日毎の推移を表示させた全体輸送量画面の一例である。輸送量推移画面では、横軸を復旧進行日、縦軸を輸送量として、復旧の進行に伴う日毎の鉄道ネットワーク全体での予想輸送量の推移を、グラフ形式で表示している。また、比較のため、平常時の輸送量を併せて表示している。輸送量推移画面によれば、計画案に従った場合には、復旧の進行に伴って輸送量がどのように回復して平常時に戻るかを容易に把握することができる。
【0055】
図16は、所与の復旧進行日における各輸送区間の復旧度合を識別表示した輸送ネットワークの図を表示させた区間輸送量画面の一例である。区間輸送量画面では、例えば、上述の復旧順序画面や全体輸送量画面においてユーザにより指定された復旧進行日についての各輸送区間の予想輸送量を、マップ形式で表示している。つまり、鉄道ネットワークの模式図において、輸送区間それぞれに、輸送方向別の予想輸送量を付加表示している。また、鉄道ネットワークの模式図において、輸送区間の輸送路である線路を示す線を、実線や点線、破線といった該当する輸送区間の復旧度合に応じた線種で識別表示している。区間輸送量画面によれば、復旧途中の輸送区間毎の詳細な復旧度合と予想輸送量とを容易に把握することができる。
【0056】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が復旧計画作成支援装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、復旧計画作成支援プログラム302と、鉄道ネットワークデータ310と、輸送量上限データ312と、輸送ODデータ314と、支障区間データ316と、OD制約データ318と、必要リソース量データ320と、上限リソース量データ322と、計画案データ324と、予想ODデータ326と、予想輸送量データ328とが記憶される。
【0057】
[処理の流れ]
図17は、復旧計画作成支援処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、処理部200が、復旧計画作成支援プログラム302を実行することで実現される。
【0058】
先ず、ネットワーク関連設定部202が、復旧計画の計画案の作成支援の対象となる鉄道ネットワークに関する設定を行う(ステップS1)。次いで、復旧関連設定部204が、鉄道ネットワークにおいて災害発生に伴い発生した支障および復旧に関する設定を行う(ステップS3)。続いて、計画案算出部206が、鉄道ネットワークや、災害発生に伴う支障および復旧に関する設定に従い、最適化問題を解くことで復旧計画の計画案を算出する(ステップS5)。その後、表示制御部208が、算出した計画案に基づく表示を行う(ステップS7)。以上の処理を行うと、本処理は終了となる。
【0059】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、鉄道ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合に、迅速な輸送力の回復のための復旧計画の作成を支援することができる。つまり、全ての支障区間が完全復旧するまでのリソース投入に係る計画案として、災害発生前の輸送ODデータを基準として支障により取り扱えなかった完全復旧までの各日の損失輸送量の合計が最小条件を満たす計画案を算出することで、適切な復旧計画の作成を支援することができる。また、段階的な復旧度合に応じて輸送量上限が定められることから、復旧の進行に伴って輸送力が徐々に回復してゆくような計画案を算出することができる。また、復旧のために投入できるリソースには限りがあることから、輸送ネットワーク全体に対して投入可能な1日当たりの上限投入リソース量を設定することで、現実に即した復旧案を算出することができる。
【0060】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0061】
(A)輸送ネットワーク
上述の実施形態では、輸送ネットワークが鉄道ネットワークであるとしたが、例えば、高速道路といった他の輸送ネットワークにも同様に適用可能である。
【0062】
(B)計画案の評価
異なる複数の上限投入リソース量を設定し、これら複数の上限投入リソース量それぞれについて算出した計画案を所定の評価基準に従って比較評価するようにしてもよい。評価基準としては、例えば、全ての支障区間が完全復旧するまでの各日の各輸送区間の損失輸送量の合計や、或いは、各日の輸送ネットワーク全体に対して投入したリソースの合計と損失輸送量の合計との比率、とすることができる。これにより、効率の良い復旧計画とするために投入すべきリソース量の策定に役立てることができる。例えば、第1の上限投入リソース量を設定して第1の計画案を算出するとともに、第1の上限投入リソース量に対して多少割合だけ増減させた複数の上限投入リソース量(例えば、+1%、+3%、+5%、-1%、-3%、-5%とした上限投入リソース量)それぞれに対して、計画案を算出する。そして、第1の計画案の損失輸送量の合計に対して、それぞれの計画案の損失輸送量の合計がどの程度変化したか(例えば、-1%、-3%、-5%、+1%、+3%、+5%となったかどうか)を比較することで、投入リソース量を少し減らしても損失輸送量が変わらないとか、逆に少しだけ増やせば損失輸送量が大きく減少するといった、投入リソース量に対する効果という投資効果的な判断をすることができる。
【0063】
(C)迂回経路の算出
算出した計画案に対して、迂回輸送を前提とした輸送計画を算出するようにしても良い。つまり、上述の実施形態で算出した計画案は、輸送対象が迂回輸送をしないことを前提とした計画案であり、輸送経路に支障区間を含む場合には、復旧度合に応じて定まる輸送量上限を超える分は輸送されない(取り扱われない)として予想輸送量を算出した(
図3参照)。これを改めて、迂回輸送を前提とした輸送計画を算出することとしてもよい。具体的には、
図18に一例を示すように、計画案に従って復旧を実施した場合、全ての支障区間が完全復旧となるまでの各日について、鉄道ネットワークにおける各支障区間の復旧度合が算出され、復旧度合に応じて輸送上限量が定められる。復旧度合に応じた輸送量上限は、式(3)の右項で算出される。この輸送上限量を超えないように、平常時の輸送ODデータ314を適用して輸送計画を算出する。
【0064】
図19は、復旧途中のある日dにおける鉄道ネットワークの各輸送区間の輸送量上限の一例である。先ず、輸送ODデータ314で定められる輸送対象を、支障区間の影響を受けるか否かで分類する。“支障区間の影響を受ける”とは、輸送経路に支障区間が含まれる、ことを意味し、“支障区間の影響を受けない”とは、輸送経路に支障区間が含まれない、ことを意味する。次いで、支障区間の影響を受けない輸送対象については、平常時の輸送経路で輸送されるとし、その場合の各輸送区間の輸送量を算出する。
図20は、支障区間の影響を受けない輸送対象が輸送される場合の輸送量の一例である。支障区間の影響を受けない輸送対象は輸送経路に支障区間を含まないから、支障区間の輸送量は「0」となる。続いて、
図21に示すように、鉄道ネットワークにおける各輸送区間について、輸送量上限と、支障区間の影響を受けない輸送対象を輸送した場合の輸送量との差分を余剰輸送量として算出する。また、支障区間の影響を受ける輸送対象を“迂回輸送対象”とし、各輸送区間の輸送量が余剰輸送量以下となるよう、これらの迂回輸送対象の迂回経路を算出する。なお、ここでの“迂回経路”には、平常時の輸送経路も含むとする。余剰輸送量をもって迂回輸送されない迂回輸送対象は、その品目等に応じて、消失、或いは、滞留して次の日d+1の迂回輸送対象に追加となる。
【0065】
日d毎に各輸送区間の復旧度合が異なり得るから、復旧の進行順に各日dについて、その日dの復旧度合に基づく輸送量上限を算出し、輸送ODデータ314を適用した場合の輸送対象の迂回輸送を含む輸送経路を算出することで、計画案に対する輸送計画を算出する。
【0066】
迂回輸送対象の迂回経路は、迂回輸送対象に関する迂回コストの合計の最小化を目的関数とする最適化問題を解くことで算出する。迂回輸送対象は、平常時の輸送経路で輸送、平常時の輸送経路と異なる迂回経路で輸送、輸送されず消失、輸送されず滞留して次日の迂回輸送対象に追加、の4つのケースの何れかとなる。“迂回経路に関する迂回コスト”とは、この迂回輸送対象がとる4つのケースに関するコストである。具体的には、迂回経路に関するコストとして、到着が遅れることによる機会損失、輸送経路や輸送列車が異なることにより生じる輸送コスト増、がある。消失に関するコストとして、届けられないことによる機会損失、消失させるための廃棄損失、がある。滞留に関するコストとして、到着が遅れることによる機会損失、次の日まで滞留させるために必要となる保管コスト、がある。なお、迂回輸送対象が平常時の輸送経路で輸送となる場合には、迂回コストは生じない。
【符号の説明】
【0067】
1…復旧計画作成支援装置
200…処理部
202…ネットワーク関連設定部
204…復旧関連設定部
206…計画案算出部
208…表示制御部
300…記憶部
302…復旧計画作成支援プログラム
310…鉄道ネットワークデータ
312…輸送量上限データ
314…輸送ODデータ
316…支障区間データ
318…OD制約データ
320…必要リソース量データ
322…上限リソース量データ
324…計画案データ
326…予想ODデータ
328…予想輸送量データ