(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20230518BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20230518BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20230518BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/21
A61K8/55
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2020004824
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019035422
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】松岡 純枝
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/012764(WO,A1)
【文献】特開2013-129620(JP,A)
【文献】特開2005-263753(JP,A)
【文献】特開2014-009197(JP,A)
【文献】特開2000-154127(JP,A)
【文献】特開2011-126788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)並びに(D):
(A)エリスリトール 6質量%以上33質量%以下
(B)フッ化ナトリウム
(C)グリセロリン酸カルシウム 0.22質量%以上3.5質量%以下
(D)水
を含有し、成分(A)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((A)/(D))が0.06以上0.2以下である口腔用組成物。
【請求項2】
アニオン界面活性剤の含有量が、1質量%未満である請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
成分(D)の含有量が、55質量%以上93質量%以下である請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)が、0.35以上0.55以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
成分(B)以外のフッ素化合物及び多価金属塩の合計含有量が、0.02質量%未満である請求項1~4のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項6】
25℃におけるpHが、5.0以上10.0以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項7】
成分(B)の含有量が、0.1質量%以上2.5質量%以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項8】
象牙質知覚過敏用である請求項1~
7のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、う蝕、歯周病及び口臭等の口腔疾患を予防するには、口腔内においてバイオフィルムの形成を阻害するとともに、すでに形成されたバイオフィルムを除去することが有効であり、研磨剤や発泡剤、又は殺菌剤等の種々の成分を用いた口腔用組成物が開発されている。
【0003】
こうした成分のなかでも、エリスリトールは、例えば特許文献1にも記載されるように、口腔内における細菌同士の凝集反応を抑制又は解離する上で有効な成分であり、バイオフィルムの形成の阻害効果だけでなく、歯と歯や歯周ポケットなどの隙間に形成されたバイオフィルムの除去効果にも優れることで知られている。そして、特許文献2に記載の歯磨組成物では、かかるエリスリトールを高含有量とすることにより、口腔内におけるバイオフィルムの除去効果をより一層高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-29484号公報
【文献】特開2012-36172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献のように口腔内におけるバイオフィルム形成阻害効果及び除去効果に優れるエリスリトールを高含有量で用いると、エリスリトールの水への溶解を要因とする浸透圧刺激によって象牙質知覚過敏症に起因する痛みが増強されてしまうことが、本発明者により判明した。
このように、口腔内バイオフィルムの形成阻害効果や除去効果に優れるエリスリトールを高含有量としつつ、象牙質知覚過敏症に起因する痛みを効果的に防止することのできる口腔用組成物の実現が強く望まれるところである。
【0006】
すなわち、本発明は、高含有量のエリスリトールによって、象牙質知覚過敏症に起因する痛みが増強されるのを有効に抑制することのできる口腔用組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、種々検討したところ、エリスリトールを高含有量としつつ、かかるエリスリトールと水とを特定の質量比とするなか、フッ化ナトリウムとグリセロリン酸カルシウムを併用することにより、エリスリトールを要因とする浸透圧刺激を有効に低減し、かつ露出した象牙質の表面における象牙質細管の開口部を効率的に封鎖するフッ化カルシウム等のフッ化物の被膜を効率的に形成させることが可能となり、象牙質知覚過敏症に起因する痛みが増強されるのを有効に防止することができる口腔用組成物が得られることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)並びに(D):
(A)エリスリトール 6質量%以上33質量%以下
(B)フッ化ナトリウム
(C)グリセロリン酸カルシウム
(D)水
を含有し、成分(A)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((A)/(D))が0.06以上0.2以下である口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物によれば、エリスリトールが高含有量でありながらも、エリスリトールを要因とする浸透圧刺激を低減し、かつ露出した象牙質の表面における象牙質細管の開口部をフッ化物の被膜によって、効率的かつ効果的に封鎖することができるため、優れた象牙質知覚過敏症に起因する痛み抑制効果を充分に発揮することができる。そのため、高含有量のエリスリトールによって、優れた口腔内バイオフィルムの形成阻害効果及び除去効果をも充分に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例3の口腔用組成物を用いた際における、象牙質の表面の電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、比較例2の口腔用組成物を用いた際における、象牙質の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、「象牙質細管」は「象牙細管」ともいう。また、「象牙細管を封鎖する」とは、象牙細管を物理的に封鎖することであって、象牙質の表面において象牙細管の開口や開口周辺を覆う状態だけでなく、象牙細管の表面近傍の細管内に充填して蓋をする(栓をする)状態をも含む意味である。
また、本発明において、「フッ化物」とは、主として成分(B)及び成分(C)により形成されるフッ化カルシウム等のフッ素含有の無機化合物を意味し、フッ化物の被膜を「フッ化物被膜」ともいう。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、成分(A)として、エリスリトールを6質量%以上33質量%以下含有する。これにより、後述する成分(B)及び成分(C)によるフッ化物被膜の形成が促進され、かかる被膜により象牙細管を物理的に効率よく封鎖して、象牙質知覚過敏症に起因する痛み抑制効果を発揮することができる。また、細菌同士の凝集反応を抑制する、又は細菌同士の凝集を解離して、エリスリトール本来の効果である、バイオフィルムの形成阻害効果や除去効果をも発揮することができる。
【0013】
成分(A)の含有量は、バイオフィルムの形成阻害効果及び除去効果を保持しつつ、成分(B)及び成分(C)による被膜形成の促進効果を充分に発揮する観点から、本発明の口腔用組成物中に、6質量%以上であって、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは12質量%以上であり、よりさらに好ましくは14質量%以上である。また成分(A)の含有量は、浸透圧刺激によって象牙質知覚過敏症に起因する痛みが過度に増強されてしまうのを効果的に回避する観点から、本発明の口腔用組成物中に、33質量%以下であって、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、よりさらに好ましくは18質量%以下である。そして、成分(A)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、6質量%以上33質量%以下であって、好ましくは8~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%であり、さらに好ましくは12~20質量%であり、よりさらに好ましくは14~18質量%である。
【0014】
本発明の口腔用組成物は、成分(B)として、フッ化ナトリウムを含有する。これにより、上記成分(A)によるバイオフィルムの形成阻害効果及び除去効果を確保しつつ、本発明の口腔用組成物を口腔内に適用後、上記成分(A)による被膜形成促進効果が発揮されるなか、速やかにフッ素イオンを放出して、後述する成分(C)とともにフッ化物被膜を象牙質の表面に効率的に形成することができる。そのため、かかる被膜によって効果的に象牙細管が封鎖され、成分(A)が高含有量であることを要因とする浸透圧刺激によって象牙質知覚過敏症に起因する痛みが増強されてしまうのを有効に抑制することができる。
【0015】
成分(B)の含有量は、フッ化物被膜を効率的に形成させる観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.5質量%以上である。また成分(B)の含有量は、組成物の保存安定性を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは2.5質量%以下であり、より好ましくは2.2質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、よりさらに好ましくは1.8質量%以下である。そして、成分(B)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.1質量%以上2.5質量%以下であり、より好ましくは0.2~2.2質量%であり、さらに好ましくは0.3~2質量%であり、よりさらに好ましくは0.5~1.8質量%である。
【0016】
本発明の口腔用組成物は、成分(C)として、グリセロリン酸カルシウムを含有する。かかる成分(C)は、成分(A)による被膜形成の促進効果の下、成分(B)と相まって効率よくフッ化物を形成しながら被膜化することができ、象牙細管の封鎖に大きく寄与することが可能となる。
【0017】
成分(C)の含有量は、成分(A)の存在下、成分(B)とともにフッ化物の被膜を有効かつ効率的に形成する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、よりさらに好ましくは1質量%以上である。また成分(C)の含有量は、組成物の保存安定性を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4.5質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下であり、よりさらに好ましくは3.5質量%以下である。そして、成分(C)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.3~4.5質量%であり、さらに好ましくは0.5~4質量%であり、よりさらに好ましくは1~3.5質量%である。
【0018】
成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)は、フッ化物の被膜化を促進する観点から、好ましくは0.35以上であり、より好ましくは0.38以上であり、さらに好ましくは0.42以上である。また成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)は、好ましくは0.55以下であり、より好ましくは0.52以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。そして、成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)は、好ましくは0.35以上0.55以下であり、より好ましくは0.38~0.52であり、さらに好ましくは0.42~0.5である。
【0019】
成分(A)の含有量に対する、成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)の比の値((Ca/F)/(A)、単位:質量%-1)は、浸透圧刺激によって象牙質知覚過敏症に起因する痛みが過度に増強されてしまうのを効果的に回避する観点から、好ましくは0.015以上であり、より好ましくは0.017以上であり、さらに好ましくは0.02以上である。また成分(A)の含有量に対する、成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)の比の値((Ca/F)/(A)、単位:質量%-1)は、バイオフィルムの形成阻害効果及び除去効果を保持しつつ、成分(B)及び成分(C)による被膜形成の促進効果を充分に発揮する観点から、好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.1以下であり、さらに好ましくは0.07以下である。そして、成分(A)の含有量に対する、成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)の比の値((Ca/F)/(A)、単位:質量%-1)は、好ましくは0.015以上0.15以下であり、より好ましくは0.017~0.1であり、さらに好ましくは0.020~0.07である。
【0020】
成分(C)の含有量と成分(A)の含有量との質量比((C)/(A))は、成分(A)による優れたフッ化物被膜形成促進効果を充分に活用する観点から、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上であり、好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.28以下であり、さらに好ましくは0.24以下であり、よりさらに好ましくは0.18以下である。そして、成分(C)の含有量と成分(A)の含有量との質量比((C)/(A))は、好ましくは0.02以上0.3以下であり、より好ましくは0.05~0.28であり、さらに好ましくは0.1~0.24であり、よりさらに好ましくは0.1~0.18である。
【0021】
本発明の口腔用組成物は、成分(D)として、水を含有する。水の含有量を調節することにより、成分(A)が高含有量であることを要因とする浸透圧刺激によって象牙質知覚過敏症に起因する痛みが増強されてしまうのを効果的に回避する。また、成分(B)から放出されるフッ素イオンを組成物中に存在させるとともに、口腔内において成分(A)を充分に行き渡らせ、成分(B)と成分(C)によるフッ化物被膜の形成を促進させて、かかる被膜により象牙細管を迅速かつ効率的に封鎖することが可能となる。
【0022】
成分(D)の含有量は、成分(A)が高含有量であることを要因とする浸透圧刺激を抑制する観点、及び成分(B)と成分(C)によりフッ化物被膜を効率的に形成させて象牙細管の封鎖効果を向上させる観点、及び成分(A)により有効にバイオフィルム形成阻害効果や除去効果を発揮させる観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、よりさらに好ましくは68質量%以上であり、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは89質量%以下であり、よりさらに好ましくは88質量%以下であり、よりさらに好ましくは87質量%以下であり、よりさらに好ましくは86.7質量%以下である。そして、成分(D)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは55質量%以上93質量%以下であり、より好ましくは60~91質量%であり、さらに好ましくは65~89質量%であり、よりさらに好ましくは68~88質量%であり、よりさらに好ましくは68~87質量%であり、よりさらに好ましくは68~86.7質量%である。
【0023】
成分(A)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((A)/(D))は、成分(A)による優れたフッ化物被膜形成促進効果を確保しつつ、成分(A)が高含有量であることを要因とする浸透圧刺激を適度に制御して、フッ化物被膜による象牙細管の封鎖効果を向上させる観点から、0.06以上であって、好ましく0.08以上であり、より好ましくは0.09以上であり、さらに好ましくは0.1以上であり、0.3以下であって、好ましくは0.26以下であり、より好ましくは0.24以下であり、さらに好ましくは0.22以下である。そして、成分(A)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((A)/(D))は、0.06以上0.3以下であって、好ましくは0.08~0.26であり、より好ましくは0.09~0.24であり、さらに好ましくは0.1~0.22である。
【0024】
本発明の口腔用組成物は、成分(A)の存在下、成分(B)と成分(C)によってフッ化物の被膜を有効かつ効率的に形成させる観点から、アニオン界面活性剤の含有を制限するのが好ましい。かかるアニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。アニオン界面活性剤の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは1質量%未満であり、より好ましくは0.6質量%未満であり、さらに好ましくは0.4質量%未満であり、よりさらに好ましくは0.2質量%未満であり、よりさらに好ましくは0.08質量%未満であり、或いは本発明の口腔用組成物は、アニオン界面活性剤を実質的に含有しないのが好ましい。
【0025】
本発明の口腔用組成物は、成分(A)の存在下、成分(B)と成分(C)によるフッ化物の被膜を有効かつ効率的に形成してフッ化物被膜による象牙細管の封鎖効果を向上させる観点から、成分(B)以外のフッ素化合物及び多価金属塩の合計含有量を制限するのが好ましい。成分(B)以外のフッ素化合物としては、具体的には、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸ナトリウム等の含フッ素化合物である、フッ素化合物が挙げられる。また、多価金属塩としては、具体的には、銅、鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、及び錫から選ばれる1種又は2種以上の塩が挙げられる。これら成分(B)以外のフッ素化合物及び多価金属塩の合計含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.02質量%未満であり、より好ましくは0.015質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以下であり、或いは本発明の口腔用組成物は、成分(B)以外のフッ素化合物及び多価金属塩を含有しないのが好ましい。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、研磨剤を含有しないか、或いは、成分(B)以外のフッ素化合物及び多価金属塩の合計含有量の制限内において、研磨剤を含有することができる。かかる研磨剤としては、研磨性シリカ(吸油量50~150mL/100g、JIS K5101-13-2(2004年制定)により、吸収される煮あまに油の量による)、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、酢酸マグネシウム、第2リン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト等の研磨剤等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0027】
本発明の口腔用組成物は、上記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、カチオン界面活性剤やヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油やショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤等である界面活性剤;グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、及びグアーガム等の粘結剤;増粘性シリカ;サッカリンナトリウム等の甘味剤;香料;色素;薬効成分を適宜含有することができる。
【0028】
本発明の口腔用組成物の25℃におけるpHは、成分(A)の存在下、成分(B)と成分(C)によるフッ化物被膜形成を効率的に促進する観点から、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは6.0以上であり、さらに好ましくは6.5以上であり、よりさらに好ましくは6.7以上である。また本発明の口腔用組成物の25℃におけるpHは、組成物の変色等を回避する観点から、好ましくは10.0以下であり、より好ましくは9.6以下であり、さらに好ましくは9.3以下であり、よりさらに好ましくは8.8以下である。
なお、本発明の口腔用組成物のpHは、pH電極を用いて25℃で測定した値であり、本発明の口腔用組成物が液体歯磨き組成物である場合には、組成物を希釈せずに測定した値を意味し、本発明の口腔用組成物が練り歯磨き組成物である場合には、イオン交換水又は蒸留水からなる精製水により10質量%の濃度の水溶液に調整した後に測定した値を意味する。
【0029】
本発明の口腔用組成物は、フッ化物被膜により象牙質知覚過敏症に起因する痛みを効率的かつ効果的に防止することができるため、象牙質知覚過敏用の口腔用組成物、すなわち象牙質知覚過敏軽減剤又は予防剤としても、幅広く用いることができる。
【0030】
本発明の口腔用組成物の製造方法は、特に制限されず、常法により上記成分を適宜混合すればよい。
【0031】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の口腔用組成物を開示する。
[1]次の成分(A)、(B)、(C)並びに(D):
(A)エリスリトール 6質量%以上33質量%以下
(B)フッ化ナトリウム
(C)グリセロリン酸カルシウム
(D)水
を含有し、成分(A)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((A)/(D))が0.06以上0.2以下である口腔用組成物。
[2]成分(A)の含有量が、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは12質量%以上であり、よりさらに好ましくは14質量%以上であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、よりさらに好ましくは18質量%以下である上記[1]の口腔用組成物。
[3]成分(B)の含有量が、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは2.5質量%以下であり、より好ましくは2.2質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、よりさらに好ましくは1.8質量%以下である上記[1]又は[2]の口腔用組成物。
[4]成分(C)の含有量が、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、よりさらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4.5質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下であり、よりさらに好ましくは3.5質量%以下である上記[1]~[3]いずれか1の口腔用組成物。
[5]成分(D)の含有量が、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、よりさらに好ましくは68質量%以上であり、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは89質量%以下であり、さらに好ましくは88質量%以下であり、よりさらに好ましくは87質量%以下であり、よりさらに好ましくは86.7質量%以下である上記[1]~[4]いずれか1の口腔用組成物。
【0032】
[6]成分(A)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((A)/(D))が、好ましくは0.08以上であり、より好ましくは0.09以上であり、さらに好ましくは0.1以上であり、好ましくは0.26以下であり、より好ましくは0.24以下であり、さらに好ましくは0.22以下である上記[1]~[5]いずれか1の口腔用組成物。
[7]アニオン界面活性剤の含有量が、好ましくは1質量%未満であり、より好ましくは0.6質量%未満であり、さらに好ましくは0.4質量%未満であり、よりさらに好ましくは0.2質量%未満であり、よりさらに好ましくは0.08質量%未満であり、或いはアニオン界面活性剤を実質的に含有しない上記[1]~[6]いずれか1の口腔用組成物。
[8]成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)が、好ましくは0.35以上であり、より好ましくは0.38以上であり、さらに好ましくは0.42以上であり、好ましくは0.55以下であり、より好ましくは0.52以下であり、さらに好ましくは0.5以下である上記[1]~[7]いずれか1の口腔用組成物。
[9]成分(B)以外のフッ素化合物及び多価金属塩の合計含有量が、好ましくは0.02質量%未満であり、より好ましくは0.015質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以下であり、或いは成分(B)以外のフッ化物及び多価金属塩を含有しない上記[1]~[8]いずれか1の口腔用組成物。
[10]成分(C)の含有量と成分(A)の含有量との質量比((C)/(A))が、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上であり、好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.28以下であり、さらに好ましくは0.24以下であり、よりさらに好ましくは0.18以下である上記[1]~[9]いずれか1の口腔用組成物。
[11]成分(A)の含有量に対する、成分(C)のカルシウム原子換算量と成分(B)のフッ素原子換算量との質量比(Ca/F)の比の値((Ca/F)/(A)、単位:質量%-1)が、好ましくは0.015以上であり、より好ましくは0.017以上であり、さらに好ましくは0.02以上であり、好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.1以下であり、さらに好ましくは0.07以下である上記[1]~[10]いずれか1の口腔用組成物。
[12]25℃におけるpHが、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは6.0以上であり、さらに好ましくは6.5以上であり、よりさらに好ましくは6.7以上であり、好ましくは10.0以下であり、より好ましくは9.6以下であり、さらに好ましくは9.3以下であり、よりさらに好ましくは8.8以下である上記[1]~[11]いずれか1の口腔用組成物。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0034】
[実施例1~12、比較例1~5]
表1に示す実施例1~12、比較例1~5の液体歯磨き組成物について、常法により各成分を混合することにより製造した。
次いで、得られた液体歯磨き組成物と下記象牙質サンプルを用い、以下に示す方法により、象牙細管の開口部封鎖状態及びフッ化物被膜の観察を行い、また知覚過敏官能評価、及び歯垢形成抑制率の測定を行った。
【0035】
試験1:象牙細管の開口部封鎖及びフッ化物被膜の形成状態の評価
《象牙質サンプルの作製》
牛歯の象牙質の約1cm各切片(厚さ約500μm)の表面を砥粒サイズ40μmのサンドペーパー、及び砥粒サイズ3μmのサンドペーパーを用いて鏡面研磨した後、10分間超音波処理を施した。次いで、1%クエン酸水溶液にて20秒間エッチング処理を施し、再度10分間超音波処理を施すことによりスメア層を完全に除去して、牛歯の象牙質の象牙細管の開口部を露出させた。
【0036】
《電子顕微鏡観察》
得られた象牙質サンプルを実施例3及び比較例2の各液体歯磨き組成物10mLに5分間浸漬した後、かかるサンプルを蒸留水で10秒間洗浄した。洗浄後、充分に乾燥させたサンプルの表面に白金蒸着させて、表面における象牙細管の開口部を、電子顕微鏡(VE-7800、KEYENCE社製、加速電圧2kV)を用いて倍率2000倍で観察し、象牙細管の開口部封鎖状態及びフッ化物被膜の形成状態を確認した。
結果を
図1~2に示す。
【0037】
図1~2の結果より、実施例3では、サンプルの表面における象牙細管の開口部がフッ化物被膜で良好に覆われることによって充分に封鎖されていることが確認されたのに対し、比較例2では、象牙質の表面に付着物を確認できるものの、象牙細管の開口が覆われている部分と象牙質が露出している部分とが散在しているにすぎないことが確認された。
【0038】
試験2:知覚過敏官能評価
最近1か月の間で歯がしみるのが毎日である者、又は週に2~3回である者をパネラーとして、3名のパネラーに各液体歯磨き組成物を30秒間含漱させ、その後冷水を口に含み、下記基準にしたがって象牙質知覚過敏症に起因する痛みの評価を行った。
4 :全くしみない
3 :ほとんどしみない
2 :少々しみる
1 :しみる
3名のパネラーの評価結果の平均値を表1に示す。
【0039】
試験3:歯垢形成抑制率の測定
1)HAp基板の各液体歯磨き組成物による処理
HAp基板(コスモ・バイオ社製、1cm角)の片面を40μm、12μm、3μmの研磨紙を用いて鏡面研磨した後、1N HClに1分間浸漬して酸脱灰処理を施した。処理後のHAp板をイオン交換水で洗浄して乾燥し、24穴プレートに入れ、実施例及び比較例で得られた各液体歯磨き組成物1mLを添加して5分間振盪した。振盪は、振盪機(BioShake iQ(ワケンビーテック製))を用い、室温(25℃)、500rpmの条件で行った。その後、各液体歯磨き組成物を吸い取り、イオン交換水1mLを添加して5分間振盪した後、水を吸い取り処理基板とした。
2)刺激唾液の採取
20~30代の健常男性を対象に、デントバフ ストリップ(オーラルケア社製OralCare Inc.)に含まれているガムペレットを噛んでもらい、その都度口の中に溜まった唾液をファルコンチューブに吐き出してもらうことにより、かかるファルコンチューブに唾液を採取した。なお、唾液中の細菌には個人差があるため、1名の健常男性の唾液により、全ての実施例と比較例について歯垢形成抑制率の測定を行った。
【0040】
3)モデル歯垢の作製
次に2)にてファルコンチューブに採取した唾液を、3000rpm/rt/10minにて遠心分離した。分離された上澄み唾液にスクロースを添加して5質量%スクラロース溶液を調製した後、撹拌機器(voltex、日本ジェネティクス社製)を用いて撹拌し、歯垢モデル試験液を調製した。
4)歯垢形成抑制率の評価
1)にて処理を施したHAp基板に、3)にて調製したモデル歯垢試験液を1mLずつ添加した後、これをCO2パックとともにプラスチックケースに格納して嫌気条件下とし、37℃で24時間培養した。
【0041】
5)歯垢のCV染色
減圧ポンプを用い、プレート中のモデル歯垢試験液を吸い取り、イオン交換水1mLを添加して5分間振盪した。次にポンプを用いて水を吸い取り、0.1質量%クリスタルバイオレット(CV)溶液を750μL添加して15分間振盪した。
さらにポンプでCV溶液を吸い取り、イオン交換水1mLを添加して5分間振盪し、これを2回繰り返した。次いで、水をポンプで吸い取り、エタノール500μLを添加してピペッティングした後、抽出液をイオン交換水で10倍希釈した。
6)歯垢形成抑制率の評価
得られたイオン交換水10倍希釈液についてマイクロプレートレコーダー(TECAN社製 波長可変型吸光マイクロプレートリーダー サンライズレインボーサーモ)で吸光度OD595nmを測定した。
また、上記得られた液体歯磨き組成物を用いて処理することなく、酸脱灰処理後のHAp板上にモデル歯垢を作製した場合の吸光度OD595nm(初期値)を基準とし、下記式にしたがって歯垢形成抑制率(%)を算出した。
なお、得られた歯垢形成抑制率の値が大きいほど、歯垢形成抑制効果が高いことを意味する。
歯垢形成抑制率(%)=100-{上記得られた液体歯磨き組成物にて処理した基板のOD595nm/未処理基板のOD595nm}×100
結果を表1に示す。
【0042】