(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】表面処理された鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20230518BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230518BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C09K3/00 R
C23C26/00 A
(21)【出願番号】P 2020533585
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(86)【国際出願番号】 KR2018015756
(87)【国際公開番号】W WO2019124865
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178617
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-フン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ウォン―ホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ヤン―クワン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ホン―リ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミュン-ス
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536895(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062912(WO,A2)
【文献】特開2001-316845(JP,A)
【文献】特開2005-194627(JP,A)
【文献】特開2004-232083(JP,A)
【文献】特開2004-338397(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047853(WO,A1)
【文献】特開2001-098384(JP,A)
【文献】国際公開第2006/093240(WO,A1)
【文献】特開2010-150620(JP,A)
【文献】特開昭59-083748(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018531(WO,A1)
【文献】特開2008-274407(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0185990(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0070310(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0075657(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0060593(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1499352(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0079436(KR,A)
【文献】特開昭61-060766(JP,A)
【文献】国際公開第2007/083722(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/097762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00-28/04
C23C 22/00-22/86
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一表面上に形成されたニッケルめっき層と、
前記ニッケルめっき層上に形成された耐食性被膜層と、を含み、
前記耐食性被膜層は、シリカとアルコキシシランの加水分解反応により形成された生成物及びアクリレート系高分子を含み、
炭素(C)25~65重量%、シリコン(Si)20~70重量%、酸素(O)1~40重量%を含み、
前記ニッケルめっき層は5~10,000mg/m
2の付着量を有する、表面処理された鋼板。
【請求項2】
前記耐食性被膜層は0.1~50μmの厚さを有する、請求項1に記載の表面処理された鋼板。
【請求項3】
前記ニッケルめっき層は0.0005~1.12μmの厚さを有する、請求項1に記載の表面処理された鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は耐硫酸鋼である、請求項1に記載の表面処理された鋼板。
【請求項5】
前記耐硫酸鋼は、重量%で、C:0.2%以下(0は除く)、Si:0.5%以下(0は除く)、Mn:1.5%以下(0は除く)、S:0.02%以下、P:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.008%以下、及びCu:0.1~0.5%であり、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む、請求項
4に記載の表面処理された鋼板。
【請求項6】
前記耐硫酸鋼は、重量%で、Co:0.03~0.1%、Ni:0.3%以下(0は除く)、及びSb:0.3%以下(0は除く)のうち少なくとも一つをさらに含む、請求項
5に記載の表面処理された鋼板。
【請求項7】
前記耐硫酸鋼は、重量%で、C:0.03~0.1%、Si:0.15~0.35%、Mn:0.5~1.2、S:0.01%以下、P:0.015%以下、Al:0.02~0.06、N:0.004%以下、及びCu:0.2~0.4%であり、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む、請求項
4に記載の表面処理された鋼板。
【請求項8】
前記耐硫酸鋼は、重量%で、Co:0.03~0.1%、Ni:0.1~0.25%、及びSb:0.05~0.2%のうち少なくとも一つをさらに含む、請求項
7に記載の表面処理された鋼板。
【請求項9】
前記耐硫酸鋼は、表面直下に厚さ100~300nmのCu、Co、Ni及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の濃化層が形成された、請求項
6又は
8に記載の表面処理された鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸などの酸に対する抵抗性に優れた鋼板の表面処理組成物及び上記表面処理組成物が適用されたコーティング鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、硫黄などが含まれた燃料を燃焼させる場合、硫酸化物、窒素酸化物などが発生するようになるが、このような硫酸化物や窒素酸化物などが水分と接触すると、硫酸や硝酸などのような強酸が生成される。これらは露点下の温度で金属などの構造物の表面に付着し、腐食を促進させる露点腐食を進行させる。したがって、火力発電所の熱交換器、ダクト(Duct)などの設備は、このような強酸による腐食環境に晒されることになる。
【0003】
このような露点腐食を低下させるために、メーカーでは、高価なステンレススチールやホーロー鋼板などを使用するか、又は相対的に低価でありながらも露点腐食に対する抵抗性の高い耐硫酸鋼などを適用している。腐食反応は構造体の表面で進行するが、ホーロー鋼板を除く大部分の素材は、その表面に別途のコーティング層がない状態で使用されている実情である。
【0004】
このような露点腐食を防止するための技術としては、韓国特許出願番号第2013-0151739号、第2013-0145717号、第2013-0141627号、第2013-0130161号などがあるが、これらはいずれも鋼板自体の成分調整などにより強酸に対する耐食性を向上させようとした技術であって、鋼板の表面にコーティング層を形成することでこのような露点腐食を抑制しようとする技術とは異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鋼板自体の成分調整ではなく、鋼板の表面にコーティングを施すことで、上述の露点腐食を含む強酸に対する耐食性を向上させる。また、局部腐食の問題が改善された、表面処理された鋼板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、鋼板と、上記鋼板の少なくとも一表面上に形成されたニッケルめっき層と、上記ニッケルめっき層上に形成された耐食性被膜層と、を含み、上記耐食性被膜層は、シリカとアルコキシシランの加水分解反応により形成された生成物及びアクリレート系高分子を含み、炭素(C)25~65重量%、シリコン(Si)20~70重量%、酸素(O)1~40重量%を含み、シリコン(Si)と酸素との結合(Si-O結合)及びシリコン(Si)と炭素(C)との結合(Si-C結合)の比率が80~95%:5~20%である、表面処理された鋼板が提供される。
【0007】
上記耐食性被膜層は、サイズ5~20nmのシリカを含むコロイダルシリカ30~50重量%と、3以上のアルコキシ基を含むシラン40~60重量%と、アクリレート系有機モノマー5~15重量%と、酸(acid)0.01~1重量%と、を含む、鋼板表面処理用溶液組成物により形成されることができる。
【0008】
上記コロイダルシリカは、シリカ含量が10~45重量%であってもよい。上記シランは、ビニルトリメトキシシラン(Vinyl trimethoxy silane)、ビニルトリエトキシシラン(Vinyl triethoxy silane)、ビニルトリイソプロポキシシラン(Vinyl tri-isopropoxy silane)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(3-methacryloxypropyl trimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(2-Glycidyloxy propyl trimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(2-Glycidyloxy propyl triethoxy silane)、2-アミノプロピルトリエトキシシラン(2-aminopropyl triethoxy silane)、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン(2-ureidoalkyl triethoxy silane)、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane)、トリエトキシフェニルシラン(Triethoxyphenylsilane)及びトリメトキシフェニルシラン(Trimethoxyphenylsilane)から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0009】
上記有機モノマーは、アクリル酸グレイシャル(Acrylic acid glacial)、メチルアクリレート(Methyl acrylate)、エチルアクリレート(Ethyl acrylate)、ブチルアクリレート(Butyl acrylate)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-Ethylhexyl acrylate)、イソブチルアクリレート(Isobutyl acrylate)、ターシャリーブチルアクリレート(Tertiary butyl acrylate)、ターシャリーブチルメタクリレート(Tertiary butyl methacrylate)、ブタンジオールモノアクリレート(Butanediol monoacrylate)、ラウリルアクリレート(Lauryl acrylate)、ジメチルアミノエチルアクリレート(Dimethylaminoethyl acrylate)及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレート(Dihydrodicyclopentadienyl acrylate)からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0010】
上記酸は、酢酸、ギ酸、乳酸、グルコン酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸からなる群から選択される一つ以上であってもよい。
【0011】
上記鋼板表面処理用溶液組成物は、1~15重量%の溶剤をさらに含むことができる。
【0012】
上記溶剤は、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール及び2-ブトキシエタノールからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0013】
上記鋼板表面処理用溶液組成物は、環状リング構造を有する有機樹脂0.1~5.0重量%をさらに含むことができる。
【0014】
上記環状リング構造を有する有機樹脂は、ポリウレタンと、アミノ変性フェノール樹脂と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリビニルブチラールと、からなる群から選択される少なくとも一つ又はこれらの2以上のハイブリッド樹脂であってもよい。
【0015】
上記耐食性被膜層は、0.1~50μmの厚さを有することができる。
【0016】
上記ニッケルめっき層は、0.0005~1.12μmの厚さを有することができる。
【0017】
上記ニッケルめっき層は、5~10,000mg/m2の付着量を有することができる。
【0018】
上記鋼板は、耐硫酸鋼であってもよい。
【0019】
上記耐硫酸鋼は、重量%で、C:0.2%以下(0は除く)、Si:0.5%以下(0は除く)、Mn:1.5%以下(0は除く)、S:0.02%以下、P:0.02%以下、Al:0.1%以下、及びCu:0.1~0.5%であり、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含むものであってもよく、耐硫酸鋼は、Co:0.03~0.1%、Ni:0.3%以下(0は除く)、及びSb:0.3%以下(0は除く)のうち少なくとも一つをさらに含むものであってもよい。さらに、上記耐硫酸鋼は、表面直下に厚さ100~300nmのCu、Co、Ni及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の濃化層が形成されたものであってもよい。
【0020】
また、上記耐硫酸鋼は、重量%で、C:0.03~0.1%、Si:0.15~0.35%、Mn:0.5~1.2、S:0.01%以下、P:0.015%以下、Al:0.02~0.06、N:0.004%以下、及びCu:0.2~0.4%であり、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む鋼板であってもよく、Ni:0.1~0.25%、Sb:0.05~0.2%、Co:0.03~0.1%のうち少なくとも一つをさらに含むことができ、上記耐硫酸鋼は、表面直下に厚さ100~300nmのCu、Co、Ni及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の濃化層が形成されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態によると、鋼板の表面に、本発明で提供する組成物をコーティングすることにより、鋼板の組成を変更しなくても、硫酸に対する耐食性を提供することができる。
【0022】
また、本発明による表面処理組成物は、構造物に硫酸と塩酸に対する優れた耐食性を提供することにより、鋼板の寿命を長期化することができる。
【0023】
さらに、鋼板とコーティング層との間にニッケルめっき層を含むことにより、鋼板の局部腐食を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は、本発明のニッケルめっき層が形成されていない比較例の50%硫酸における72時間の腐食評価後の写真であり、(b)は、本発明のニッケルめっき層が形成された実施例の50%硫酸における96時間の腐食評価後の写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、鋼板に対して、硫酸、塩酸などの強酸に対する耐食性を提供し、鋼板上にニッケルめっき層を形成して局部腐食効果を改善しようとするものであって、鋼板自体の成分調整によって耐酸性鋼板を提供するものではなく、鋼板に硫酸などの強酸に対する耐食性を付与する表面処理、すなわち、コーティングによって耐酸性の特性を提供するものである。
【0026】
このために、本発明は、耐酸性の特性を付与することができる表面処理用溶液組成物がコーティングされた鋼板を提供する。本発明の一側面によると、鋼板と、上記鋼板の少なくとも一表面上に形成されたニッケルめっき層と、上記ニッケルめっき層上に形成された耐食性被膜層と、を含み、上記耐食性被膜層は、シリカとアルコキシシランの加水分解反応により形成された生成物及びアクリレート系高分子を含み、炭素(C)25~65重量%、シリコン(Si)20~70重量%、酸素(O)1~40重量%を含み、シリコン(Si)と酸素との結合(Si-O結合)及びシリコン(Si)と炭素(C)との結合(Si-C結合)の比率が80~95%:5~20%である、表面処理された鋼板が提供される。
【0027】
また、上記耐食性被膜層は、サイズ5~20nmのシリカを含むコロイダルシリカ30~50重量%と、3以上のアルコキシ基を含むシラン40~60重量%と、アクリレート系有機モノマー5~15重量%と、酸(acid)0.01~1重量%と、を含む、鋼板表面処理用溶液組成物により形成されることができる。
【0028】
本発明により提供される表面処理用溶液組成物は、コロイダルシリカとシラン、有機モノマーなどを含む。
【0029】
本発明の表面処理用溶液組成物に含まれる上記コロイダルシリカは、鋼板の表面に対して緻密な構造の被膜を形成して、本発明による鋼板の表面処理被膜を形成する主要成分であって、被膜に硬度を提供する。また、上記コロイダルシリカは、上記被膜形成過程中にシランと化学的に結合し、乾燥及び硬化の過程で鋼板の表面にコーティングされることで、鋼板に対する耐酸性を提供する役割を果たす。
【0030】
上記コロイダルシリカは、ナノサイズの粒子サイズを有するものが使用でき、例えば、粒子サイズが5nm~50nmのものを使用することができる。上記コロイダルシリカの粒子サイズが5nm未満であると、シリカの表面積が広すぎて反応するシランが不足するため、耐酸性に劣るようになる。一方、コロイダルシリカの粒子サイズが50nmを超えると、シリカ間の空隙率(porosity)が高く耐酸性が低下するという問題がある。上記コロイダルシリカは、5~20nmの粒子サイズを有することがより好ましい。
【0031】
上記コロイダルシリカは、シリカの含量が10~45重量%の含量で含まれることが好ましい。10重量%未満であると、シリカの含量が不足して被膜の耐食性に劣るという問題が発生することがあり、45重量%を超えると、過剰なシリカ粒子が沈殿するという問題がある。
【0032】
上記コロイダルシリカは、金属表面処理用溶液組成物100重量部に対して30重量部~50重量部となるように含まれることができる。これをシリカ含量で表すと、組成物全体100重量部に対して3.0~22.5重量%の含量であってもよい。上記コロイダルシリカの含量が30重量部未満であると、アルコキシシランとの十分な結合ができず、硬度を減少させ、酸に対する耐食性が確保できないことがある。一方、上記コロイダルシリカの含量が50重量部を超えると、シランと結合していないシリカが残存して塗膜形成能を低下させることがある。これにより、酸に対する耐食性が確保できないことがある。
【0033】
本発明の金属表面処理用溶液組成物はシランを含む。上記シランは、シリカとゾルゲル反応して結合すると共に、シラン間で架橋し、乾燥過程で鋼板の表面と反応して鋼板に被膜を付着させる役割を果たす。これにより、酸に対する耐食性を提供するシリカが鋼板の表面に堅固に被膜を形成かつ保持することができるようにすることで、耐酸性を増大させるのに寄与する。
【0034】
上記シランは特に限定しないが、アルコキシ基を有するアルコキシシランが好ましく、アルコキシ基が3つ以上のアルコキシシランを使用することによって、シリカ、シラン、鋼板との結合反応を行うことができるため、鋼板に対する被膜の密着性を向上させることができる。また、緻密なコーティングを形成することができ、酸に対する耐食性を向上させることができるという点において、より好ましい。
【0035】
このようなアルコキシシランとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン(Vinyl trimethoxy silane)、ビニルトリエトキシシラン(Vinyl triethoxy silane)、ビニルトリイソプロポキシシラン(Vinyl tri-isopropoxy silane)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(3-methacryloxypropyl trimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(2-Glycidyloxy propyl trimethoxy silane)、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(2-Glycidyloxy propyl triethoxy silane)、2-アミノプロピルトリエトキシシラン(2-aminopropyl triethoxy silane)、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン(2-ureidoalkyl triethoxy silane)、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane)、トリエトキシフェニルシラン(Triethoxyphenylsilane)、トリメトキシフェニルシラン(Trimethoxyphenylsilane)、メチルトリメトキシシラン及びこれらの混合物からなる群から選択される一つ以上のものを含むことができ、これらは加水分解後に安定化することができるため、より好ましい。
【0036】
本発明の金属表面処理用溶液組成物において、上記アルコキシシランは、金属表面処理組成物100重量部に対して40重量部~60重量部を含むことができる。上記アルコキシシランが40重量部未満であると、コロイダルシリカ及び鋼板との十分な結合を形成できず、塗膜形成能が低下し、これにより酸に対する耐食性が確保できないことがある。一方、上記アルコキシシランが60重量部を超えると、熱分解による有機ガスが排出されることがあり、多量のシラノールが残存して塗膜密着性が阻害されるため、耐食性が確保できないことがある。
【0037】
上記アルコキシシランとシリカは、ゾルゲル反応により形成される鋼板の表面処理被膜を形成するが、これにより形成された被膜は硬い特性を有するため、無機被膜内において被膜の柔軟性を付与することが好ましい。そこで、本発明の金属表面処理用溶液組成物は有機モノマーを含む。
【0038】
上記シリカとアルコキシシランが結合反応する条件は強い酸性条件であるが、このような条件下におけるモノマーは、高分子反応が進行されて高分子となる。このようなモノマーから生成された高分子は、硬い無機物の間を充填して塗膜形成能を向上させ、耐水性を提供し、無機物被膜に柔軟性を提供することができる。また、上記モノマーは、乾燥過程において更なる重合反応が起こるが、アルコキシシランとシランの硬化過程より低い温度で起こるため、全体的に硬化温度を下げる役割も果たす。
【0039】
上記有機モノマーは、シリカとシランとが結合する反応条件下で重合できるものであれば特に限定しないが、アクリレート系モノマーを使用することがより好ましい。上記アクリレート系モノマーは、シリカとシランの反応が起こる酸性の条件において重合反応が起こり、重合反応後に生成された高分子の粒子サイズが大きすぎず、適当なサイズを有するため好ましい。
【0040】
また、上記アクリレート系モノマーは、上記アルコキシシランとシリカのゾルゲル反応によってアルコール成分が生成されるが、上記アルコール成分はモノマーの重合速度を上昇させ、ポリマー化反応を促進させることができる。また、硬化密度を調節すると共に、硬度(Hardness)の調節が容易であり、被膜の透明度が高くなるという利点がある。それ以外の陽イオン(cation)型のモノマーを使用する場合には、得られる高分子の粒子が大きすぎて、ゲル化が著しくなり得る。
【0041】
上記アクリレート系モノマーの例としては、アクリル酸グレイシャル(Acrylic acid glacial)、メチルアクリレート(Methyl acrylate)、エチルアクリレート(Ethyl acrylate)、N-ブチルアクリレート(N-Butyl acrylate)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-Ethylhexyl acrylate)、イソブチルアクリレート(Isobutyl acrylate)、ターシャリーブチルアクリレート(Tertiary butyl acrylate)、ターシャリーブチルメタクリレート(Tertiary butyl methacrylate)、ブタンジオールモノアクリレート(Butanediol monoacrylate)、ラウリルアクリレート(Lauryl acrylate)、ジメチルアミノエチルアクリレート(Dimethylaminoethyl acrylate)、ジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレート(Dihydrodicyclopentadienyl acrylate)などが挙げられ、これらは単独または2以上を混合して使用することができる。
【0042】
上記有機モノマーは、コーティング時に塗膜形成及び架橋反応に寄与するものであって、金属表面処理用溶液組成物100重量部に対して5重量部~15重量部含まれることができる。金属表面処理用溶液組成物100重量部に対して上記有機モノマーが5重量部未満であると、シリカ及びアルコキシシラン重合体との十分な結合が形成されず、塗膜形成能が低下することがあり、これにより耐食性が確保できないことがある。一方、上記有機モノマーが15重量部を超えると、反応していない残存モノマーにより耐食性が低下するか、又は酸耐食性が減少し得る。
【0043】
本発明の金属表面処理用溶液組成物は、酸度を調節するための酸をも含む。上記酸は、アルコキシシランの加水分解反応に寄与しながら、アルコキシシランの安定性を向上させる役割を果たすものであって、溶液の酸度を1~5のpH範囲に調節することが好ましい。このために、上記酸は、金属表面処理組成物100重量部に対して0.01重量部~1.00重量部含まれることができる。金属表面処理用溶液組成物100重量部に対して上記酸の含量が0.01重量部未満であると、加水分解時間が増加して、溶液組成物全体の溶液安定性が低下する可能性がある。金属表面処理用溶液組成物100重量部に対して上記酸の含量が1.00重量部を超えると、鋼板の腐食が発生する可能性があり、樹脂の分子量制御が困難になり得る。
【0044】
上記酸の具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、酢酸、ギ酸、乳酸、グルコン酸などの有機酸、及び硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの有-無機酸、並びにこれらの混合物からなる群から選択される一つ以上を本発明の金属表面処理用溶液組成物において含むことができる。
【0045】
本発明の金属表面処理用溶液組成物は溶剤を含む。上記溶剤は、シランの水に対する相溶性と加水分解性、樹脂組成物の金属表面に対する濡れ性(Wetting)、乾燥速度の調節などの役割を果たすものであって、金属表面処理組成物100重量部に対して1重量部~15重量部含まれることができる。上記溶剤の含量が1重量部未満であると、相溶性が低下してコーティング液の貯蔵性が低下し、コーティング後の耐食性が確保できないことがある。一方、上記金属表面処理組成物100重量部に対して上記溶剤の含量が15重量部を超えると、粘度が低くなりすぎて溶液の安定性が低下し、コーティング後に耐食性が確保できないことがある。
【0046】
本発明の金属表面処理用溶液組成物において、上記溶剤の具体的な種類は特に制限されないが、好ましくは、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシエタノールなどからなる群から選択される一つ以上のものを含むことができる。
【0047】
さらに、本発明は有機樹脂をさらに含むことができる。上記有機樹脂は、コーティングしようとする素材との付着性を増進させ、常温乾燥性を向上させる役割を果たすものであって、金属表面処理組成物100重量部に対して0.1重量部~5.0重量部を含むことが好ましい。上記有機樹脂の含量が0.1重量部未満であると、添加による相乗効果が小さく、5.0重量部を超えると、耐水性が低下して塗膜剥離現象などが発生し得る。
【0048】
本発明の金属表面処理組成物において、上記有機樹脂は、樹脂構造内に環状リング構造を有する樹脂を使用することが好ましい。樹脂構造内の環状リング構造は、様々な反応から相対的に安定するため、耐酸性の向上に寄与する。
【0049】
このような環状リング構造を樹脂構造内に有する有機樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラールなどが挙げられ、上記各樹脂のハイブリッド形態を使用することができ、これらを単独で、又は混合して使用することができる。
【0050】
上記のような本発明による金属表面処理用溶液組成物を鋼板の表面にコーティングし、乾燥することにより、酸に対する優れた耐食性を有する表面処理被膜を形成することができる。上記コーティングは、通常使用されるコーティング法を適用することができ、特に限定しない。例えば、ロールコーティング、スプレー、浸漬、スプレー圧搾又は浸漬圧搾などの方法を適用することができ、必要に応じては、2以上の方法を混用することもできる。
【0051】
一方、上記乾燥は、熱風乾燥炉又は誘導加熱炉の方法を適用して行うことができ、上記乾燥は、素材鋼板の最終到達温度(PMT)を基準として150~420℃の温度範囲で行うことができる。上記乾燥温度がPMTを基準として150℃以上の温度に達しないと、堅固な被膜層が形成されず、液状の残留溶液が後の工程で除去され、目標とする耐食性が確保できないことがある。また、上記乾燥温度がPMTを基準として420℃を超えると、被膜層内の有機樹脂層が酸化(焼けてしまうという意味)して、被膜層の構造が変化するようになり、所望の耐食性が確保できなくなることがある。このために、例えば、上記熱風乾燥炉により乾燥する場合には、熱風乾燥炉の内部温度を150~420℃として乾燥することができる。
【0052】
本発明による鋼板の表面処理コーティングは特に限定せず、連続工程で行われることができ、この際、連続工程の速度は、例えば、60~180mpm(m/min)で行うことができる。
【0053】
これにより得られた表面処理コーティング鋼板は、乾燥後の厚さとして0.1~50μmの被膜厚さを有することができる。被膜厚さが0.1μm未満の場合には、被膜が十分でなく耐食性が不足するという問題があり、50μmを超える場合には、上記コーティング工程の作業中に十分な乾燥ができず、堅固な被膜が形成されない恐れがあるという問題がある。
【0054】
上記被膜は有無機複合被膜であって、本発明による被膜は、シリカとアルコキシシランの加水分解反応により結合し、またアルコキシシランの他のアルコキシ基が鋼板と結合して鋼板の表面に堅固な被膜を形成する。したがって、本発明による被膜は、鋼板の表面にアルコキシシランとシリカの加水分解反応生成物が存在するといえる。上記のような加水分解反応などの過程でアルコールが生成されるが、これは乾燥過程で揮発される。このような被膜は、鋼板に対する耐食性、すなわち、酸に対する優れた耐食性を提供する。
【0055】
一方、本発明の有機モノマーは重合して重合体として存在する。上記有機モノマーはアクリレート系モノマーであって、被膜中には、上記有機モノマーの重合体であるアクリレート系高分子が鋼板の表面に存在するようになる。
【0056】
このように、本発明の鋼板表面処理用溶液組成物を鋼板の表面に塗布して形成された有無機複合被膜は、炭素(C)25~65重量%、シリコン(Si)20~70重量%、及び酸素(O)1~40重量%の範囲で含む。これはElectron probe micro-analysis(EPMA)、Energy-dispersive X-ray spectroscopy(EDS)などの分析方法により確認することができる。
【0057】
このうち、シリコンは酸素又は炭素と結合して存在するが、上記シリコンが酸素と結合したSi-O結合と、シリコンが炭素と結合したSi-C結合間の比率は80~95%(Si-O):5~20%(Si-C)の範囲を有する。
【0058】
一方、本発明において有機樹脂をさらに含む場合には、上記有機樹脂は被膜内に0.1~5.0重量%の含量で含まれることができる。このような本発明の被膜は、通常の鋼板、すなわち、亜鉛系めっき鋼板に対して適用されても硫酸などに対して良好な耐食性が得られる。特に、通常、硫酸などに対する耐食性を高めた鋼であって、酸性の腐食環境に晒されたとき、鋼の表面に薄い被膜を形成することで酸に対する強い耐食性を有する耐硫酸鋼に対して、本発明の被膜を適用する場合には、鋼自体の硫酸などに対する耐食性とともに相乗作用を起こし、著しく優れた硫酸耐食性が得られる。
【0059】
上記耐硫酸鋼としては特に限定しないが、例えば、重量%で、C:0.2%以下(0は除く)、Si:0.5%以下(0は除く)、Mn:1.5%以下(0は除く)、S:0.02%以下、P:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.008%以下、及びCu:0.1~0.5%であり、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む鋼板であってもよい。この際、Co:0.03~0.1%、及びNiとSb:0.3%以下(0は除く)をさらに含むことができ、この場合、上記耐硫酸鋼は、表面直下に厚さ100~300nmのCu、Co、Ni、及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の濃化層が形成されたものであってもよい。
【0060】
上記耐硫酸鋼は、より好ましくは、例えば、重量%で、C:0.03~0.1%、Si:0.15~0.35%、Mn:0.5~1.2、S:0.01%以下、P:0.015%以下、Al:0.02~0.06、N:0.004%以下、及びCu:0.2~0.4%であり、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む鋼板であってもよい。この際、Ni:0.1~0.25%、Sb:0.05~0.2%、Co:0.03~0.1%のうちいずれか1種をさらに含むことができ、上記耐硫酸鋼は、表面直下に厚さ100~300nmのCu、Co、Ni、及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の濃化層が形成されたものを使用することができる。
【0061】
本発明による表面処理用溶液組成物がコーティングされた鋼板は、それ自体だけでも耐食性に優れているが、表面処理コーティングの特性上、長期間腐食環境に晒されたとき、局部腐食が発生し得る。そこで、本発明では、上記鋼板の表面に上記表面処理用溶液組成物をコーティングする前に、鋼板の少なくとも一表面上にニッケルめっき層を形成する段階を含むことができる。
【0062】
ニッケルめっき層を形成する方法は特に限定されず、公知された方法を用いることができる。一方、上記ニッケルめっき層は、5~10,000mg/m2の付着量を有することが好ましく、付着量が5mg/m2未満であると、ニッケルめっきによる局部腐食に対する抑制効果が確保できないこともある。一方、ニッケルめっき層の付着量が10,000mg/m2を超えると、生産コストが過度に高くなり、経済性が確保できないという問題が発生し得る。
【0063】
上記ニッケルめっき層は0.0005~1.12μmの厚さを有することが好ましい。0.0005μm未満の場合、局部腐食を改善する効果がない恐れがあり、1.12μm超過の場合は、過剰なめっき量により生産コストが高くなって収益性が低下することがある。
【実施例】
【0064】
(実施例)
以下、本発明による実施例及び本発明によらない比較例を通じて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は下記に提示された実施例により制限されるものではない。
【0065】
(製造例)
「ニッケルめっき層が形成された鋼板」
鋼板表面へのニッケル層の形成は、ニッケル濃度30g/Lのめっき溶液を55℃で電流7.7kAを印加し、電気めっき方式でめっきした。
【0066】
「表面処理組成物がコーティングされた鋼板」
コロイダルシリカLudox HSA(固形分30%、粒子サイズ12nm、W.R.Grace & Co.-Conn.)にテトラエトキシシランと、溶剤としてエタノール及び酸度調節剤である酢酸をそれぞれ添加した後、温度が約50℃を超えないように冷却させながら約5時間攪拌した。
【0067】
この際、コロイダルシリカはシランにより表面改質が生じ、シランは加水分解される。十分に反応させた後、モノマーとしてエチルアクリレートと、有機樹脂としてポリ(メタ)アクリル酸をそれぞれ後添して、さらに約24時間反応させた。
【0068】
各表面処理組成物に上記ニッケルめっき層が形成された鋼板(ポスコ製ANCOR-CS鋼)をロールコーティング方式でコーティングした後、約250℃の熱風乾燥炉に入れて鋼板のPMTを250℃に加熱して、上記組成物を乾燥及び硬化させて表面処理された鋼板をそれぞれ製造した。
【0069】
製造された鋼板のニッケル付着量、コーティング層の厚さ及びコーティング層の各成分の含量を下記表1に示した。
【0070】
【0071】
(実験例)
1.硫酸耐食性
上記表面処理鋼板を70℃に保持される硫酸50vol%水溶液に6時間浸漬させた後、腐食特性を観察した。その評価基準は次の通りである。
○:15mg/cm2/hr未満
△:15以上65mg/cm2/hr未満
×:65mg/cm2/hr以上
【0072】
2.複合耐食性
上記表面処理鋼板を60℃に保持される硫酸16.9vol%及び塩酸0.35vol%混合水溶液に6時間浸漬させた後、硫酸-塩酸の複合腐食条件における腐食特性を観察した。その評価基準は次の通りである。
○:3mg/cm2/hr未満
△:3以上6mg/cm2/hr未満
×:6mg/cm2/hr以上
【0073】
3.最小厚さ(局部腐食性)
上記表面処理鋼板を70℃に保持される硫酸50vol%水溶液に96時間浸漬して腐食を進行させた後、縦横8ポイントずつ計64ポイントの厚さを測定し、最も薄い厚さを観察した。その評価基準は次の通りである。
○:0.10mm以上
△:0.05mm以上0.10mm未満
×:0.05mm未満
【0074】
4.塗膜密着性
上記表面処理鋼板を150cm×75cm(横×縦)のサイズに裁断して試片を製造し、上記試片の表面をクロスカットガイド(cross cut guide)を用いて横及び縦にそれぞれ100個のマスを形成するように1mm間隔で線を引き、上記100個のマスが形成された部分をエリクソン(erichsen)試験機を用いて6mmの高さに押し上げ、押し上げた部位に剥離テープ(NB-1、Ichiban社(製))を付着した後、剥がしながらエリクソン部分が剥離されるか否かを観察した。その評価基準は次の通りである。
○:表面剥離がない場合
△:表面剥離が100個のうち1個~3個である場合
×:表面剥離が100個のうち3個を超えた場合
【0075】
5.加工後の硫酸耐食性
上記表面処理鋼板を直径38mmサイズの鋼板に製造した後、エリクソンCuppingテスター機を用いて7mmの高さに加工した後、70℃に保持される硫酸50vol%水溶液に6時間浸漬させた後、試片の腐食減量を観察した。その評価基準は次の通りである。
○:15mg/cm2/hr未満
△:15以上65mg/cm2/hr未満
×:65mg/cm2/hr以上
【0076】
上記実施例1~4及び比較例1~10で製造された表面処理鋼板に対する物性の測定結果を下記表2に記載した。
【0077】
【0078】
上記表2に示されたように、本発明の実施例1~4の場合、硫酸耐食性、複合耐食性、塗膜密着性、及び加工後の硫酸耐食性が非常に優れていることが分かる。また、コーティング及び乾燥の過程で沸騰現象などの表面欠陥が発生せず、非常に良好な表面品質を確保した。さらに、50%硫酸における96時間の腐食評価後、0.10mm以上の最小厚さを示しており、これによりニッケルめっき層によって局部腐食性が改善されたことが確認できる。
【0079】
しかし、比較例1の場合、硫酸耐食性と複合耐食性が著しく低下することが分かる。これは、コロイダルシリカの含量が過量添加され、シランとの反応における残留シリカが多量に残ることで、被膜の形成を妨げたためである。
【0080】
また、比較例2の場合にも硫酸耐食性と複合耐食性が低下した結果が示された。これは、シランの含量が不足しているため、比較例1のようにコロイダルシリカの表面が十分に改質されず、これにより多量の残留シリカが被膜の形成を妨げたためである。
【0081】
一方、比較例3は、酸度調節剤が過量添加された場合であって、シランにより改質されたシリカとモノマー及び有機樹脂において、有無機混合樹脂の分子量が過度に増加して溶液のゲル化が起こったり、コーティングをしても硫酸耐食性や複合耐食性が低下することが分かる。また、残留酸度調節剤により鋼板の腐食が進行する可能性もある。
【0082】
また、比較例4には溶剤が含まれていないため、溶液組成物の製造過程でゲル化が起こりやすく、コーティングをしても硫酸耐食性及び複合耐食性が低下することが分かる。
【0083】
比較例5と比較例6の場合は、それぞれ、モノマーと有機樹脂が過量添加された場合であって、このように無機成分に対する有機成分の含量が過量である場合、硫酸耐食性及び複合耐食性が低下することが分かる。
【0084】
比較例7は、シランの含量が過量添加された場合であって、溶液組成物の製造過程で熱分解による有機ガスが排出されることがあり、多量の残存シランによりコーティング後の耐硫酸性が低下することが分かる。
【0085】
比較例8は、コーティング層の厚さが不足しているため、硫酸耐食性、複合耐食性及び加工後の硫酸耐食性が低下することが分かる。
【0086】
一方、比較例9は、ニッケルめっき量が不足しているため、最小厚さ(局部腐食性)が低下することが分かる。
【0087】
また、比較例10は、コーティング層の厚さが厚すぎて、加工中に発生したコーティング層のクラックにより塗膜密着性及び加工後の硫酸耐食性に劣ることが分かる。
【0088】
一方、
図1の(a)は、本発明のニッケルめっき層が形成されていない比較例の50%硫酸における72時間の腐食評価後の写真であり、(b)は、本発明のニッケルめっき層が形成された実施例の50%硫酸における96時間の腐食評価後の写真を示したものである。ニッケルめっき層が形成されていない(a)は左の角が剥離さされているのに対し、ニッケルめっき層が形成された(b)は同じ条件で96時間の評価後においても剥離される部分がないことが確認できる。
【0089】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には自明である。