(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】追尾対象識別装置、追尾対象識別方法、および、追尾対象識別プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/72 20060101AFI20230518BHJP
G01S 7/12 20060101ALI20230518BHJP
G01S 13/60 20060101ALI20230518BHJP
G01S 13/937 20200101ALI20230518BHJP
G08G 3/02 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
G01S13/72
G01S7/12 200
G01S13/60 220
G01S13/937
G08G3/02 A
(21)【出願番号】P 2020540170
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029780
(87)【国際公開番号】W WO2020044915
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018157905
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠太
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-156189(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204076(WO,A1)
【文献】特開2006-292429(JP,A)
【文献】特開平08-075841(JP,A)
【文献】特開2014-089056(JP,A)
【文献】特開2015-004610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0140909(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
13/00 - 13/95
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エコー信号から得られる複数時刻の追尾点から自船と異なる移動体の追尾点を設定し、前記自船または前記移動体の追尾点とは異なる追尾点に関する追尾統計情報を生成する統計情報生成部と、
前記追尾統計情報を用いて、前記追尾点が設定された前記エコー信号の発生源の種類
として海面反射と異なる引き波を識別する識別部と、
を備える、追尾対象識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の追尾対象識別装置であって、
前記統計情報生成部は、
前記複数時刻の前記追尾点の位置を用いて、前記追尾点の速度ベクトルを算出し、複数時刻の前記速度ベクトルを、前記追尾統計情報に含む、
追尾対象識別装置。
【請求項3】
請求項2に記載の追尾対象識別装置であって、
前記識別部は、
前記複数時刻の前記速度ベクトルを用いて、前記エコー信号の発生源として引き波を識別する、
追尾対象識別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の追尾対象識別装置であって、
前記識別部は、
特定の前記エコー信号の発生源に対する前記複数時刻の前記速度ベクトルから、前記特定のエコー信号の発生源に起因する
前記引き波の位置を表す引き波粒子を算出する引き波粒子設定部と、
前記引き波粒子と、前記特定のエコー信号の発生源とは異なるエコー信号の発生源の位置との距離を算出する距離算出部と、
前記距離を用いて、前記引き波を識別する引き波識別部と、
を備える、追尾対象識別装置。
【請求項5】
請求項3に記載の追尾対象識別装置であって、
前記統計情報生成部は、
前記速度ベクトルのバラツキを表す統計値を算出し、前記統計値を、前記追尾統計情報に含む、
追尾対象識別装置。
【請求項6】
請求項5に記載の追尾対象識別装置であって、
前記識別部は、
前記統計値を用いて、前記エコー信号の発生源として海面反射を識別する、
追尾対象識別装置。
【請求項7】
請求項6に記載の追尾対象識別装置であって、
前記識別部は、
船舶を含む移動または停止している物標と前記海面反射との前記統計値の相違に基づいて予め閾値を設定し、該閾値を用いて、前記海面反射を識別する、
追尾対象識別装置。
【請求項8】
エコー信号から得られる複数時刻の追尾点から自船と異なる移動体の追尾点を設定し、前記自船または前記移動体の追尾点とは異なる追尾点に関する追尾統計情報を生成し、
前記追尾統計情報を用いて、前記追尾点が設定された前記エコー信号の発生源の種類
として海面反射と異なる引き波を識別する、
追尾対象識別方法。
【請求項9】
請求項8に記載の追尾対象識別方法であって、
前記複数時刻の前記追尾点の位置を用いて、前記追尾点の速度ベクトルを算出し、複数時刻の前記速度ベクトルを、前記追尾統計情報に含む、
追尾対象識別方法。
【請求項10】
請求項9に記載の追尾対象識別方法であって、
前記複数時刻の前記速度ベクトルを用いて、前記エコー信号の発生源として引き波を識別する、
追尾対象識別方法。
【請求項11】
請求項9に記載の追尾対象識別方法であって、
前記速度ベクトルのバラツキを表す統計値を算出し、前記統計値を、前記追尾統計情報に含む、
追尾対象識別方法。
【請求項12】
請求項11に記載の追尾対象識別方法であって、
前記統計値を用いて、前記エコー信号の発生源として海面反射を識別する、
追尾対象識別方法。
【請求項13】
エコー信号から得られる複数時刻の追尾点から自船と異なる移動体の追尾点を設定し、前記自船または前記移動体の追尾点とは異なる追尾点に関する追尾統計情報を生成し、
前記追尾統計情報を用いて、前記追尾点が設定された前記エコー信号の発生源の種類
として海面反射と異なる引き波を識別する、
処理を、演算処理装置に実行させる追尾対象識別プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の追尾対象識別プログラムであって、
前記複数時刻の前記追尾点の位置を用いて、前記追尾点の速度ベクトルを算出し、複数時刻の前記速度ベクトルを、前記追尾統計情報に含む、
追尾対象識別プログラム。
【請求項15】
請求項14に記載の追尾対象識別プログラムであって、
前記複数時刻の前記速度ベクトルを用いて、前記エコー信号の発生源として引き波を識別する、
追尾対象識別プログラム。
【請求項16】
請求項14に記載の追尾対象識別プログラムであって、
前記速度ベクトルのバラツキを表す統計値を算出し、前記統計値を、前記追尾統計情報に含む、
追尾対象識別プログラム。
【請求項17】
請求項16に記載の追尾対象識別プログラムであって、
前記統計値を用いて、前記エコー信号の発生源として海面反射を識別する、
追尾対象識別プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダのエコーを用いた追尾対象の識別技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に示すように、レーダのエコーを用いて、所望の物標を追尾する装置が考案されている。
【0003】
このような追尾装置には、例えば、特許文献2、3に示すように、引き波のエコーや海面反射エコーとの不要なエコーを識別する装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-055772号公報
【文献】国際公開2014-192530号
【文献】特開2015-105868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引き波のエコーや海面反射エコーを識別することは容易ではない。そして、引き波のエコーや海面反射のエコーを、他の船舶との追尾対象のエコーと識別できないと、引き波のエコーや海面反射のエコーを、追尾対象として誤って追尾してしまう。
【0006】
したがって、本発明の目的は、引き波のエコーや海面反射エコーを含む不要エコーを、他船等の追尾対象のエコーに対して、より確実に識別できる追尾対象識別技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の追尾装置は、バッファ、統計情報生成部、および、識別部を備える。統計情報生成部は、エコー信号から得られる複数時刻の追尾点に関する追尾統計情報を生成する。識別部は、追尾統計情報を用いて、追尾点が設定されたエコー信号の発生源の種類を識別する。
【0008】
この構成では、追尾統計情報が、船舶等の物標、引き波、海面反射等のエコー信号の発生源の種類によって異なる特徴を有することを利用し、追尾統計情報を生成することで、エコー信号の発生源の種類が識別される。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、引き波のエコーや海面反射エコーを含む不要エコーを、他船等の追尾対象のエコーに対して、より確実に識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】追尾処理部における識別部の構成を示すブロック図である。
【
図3】追尾処理部を含むレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】引き波の識別を行う場合の識別処理部の構成を示すブロック図である。
【
図6】(A)は、エコーデータの分布を示す図であり、(B)は、エコーデータと引き波粒子の分布を示す図であり、(C)は、引き波によるエコーデータを抑圧した状態を示す図である。
【
図7】(A)は、エコーデータおよび追尾点の分布を示す図であり、(B)は、表示状態の画像を示す図である。
【
図9】船舶と海面反射の速度ベクトルの分散の散布図である。
【
図10】本実施形態に係る識別処理の概要フローを示すフローチャートである。
【
図11】引き波の識別処理を示すフローチャートである。
【
図12】海面反射の識別処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る追尾装置、追尾方法、および、追尾プログラムについて、図を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る追尾処理部における識別部の構成を示すブロック図である。
図2は、本発明の実施形態に係る追尾処理部の構成を示すブロック図である。
図3は、本発明の実施形態に係る追尾処理部を含むレーダ装置の構成を示すブロック図である。なお、
図2に示す追尾処理部が本発明の「追尾対象識別装置」に対応するが、追尾対象識別装置は、少なくとも、
図1に示す識別部(必要に応じてバッファも削除できる。)を備えていればよい。
【0013】
(レーダ装置90の構成)
まず、追尾処理部10を含むレーダ装置90について、概略的に説明する。
図3に示すように、レーダ装置90は、アンテナ91、送信部92、送受切替部93、受信部94、追尾処理部10、および、表示部95を備える。なお、レーダ装置90における追尾処理部10以外の構成は、既知の構成と同様であり、以下では簡略的に説明する。そして、追尾処理部10は、単体の追尾装置として用いることも可能であるが、このように、
図3に示すようなレーダ装置90の一部として用いられる。
【0014】
送信部92および受信部94は、送受切替部93を介して、アンテナ91に接続している。受信部94は、追尾処理部10に接続している。追尾処理部10は、表示部95に接続している。例えば、送信部92および受信部94は、それぞれに電気回路や電子回路によって実現される。例えば、送受切替部93は、導波管やストリップライン等の分波回路を実現する信号伝送部材によって実現される。例えば、追尾処理部10は、追尾処理部10で実行する機能を実現するためのプログラム、このプログラムを記録する記録媒体、および、このプログラムを実行するCPU等の演算処理装置によって実現される。例えば、表示部95は、液晶ディスプレイ等によって実現される。
【0015】
送信部92は、所定の送信周期で探知信号を生成して出力する。送受切替部93は、探知信号をアンテナ91に伝送する。
【0016】
アンテナ91は、船舶等の水上移動体に取り付けられており、送信周期よりも長い回転周期で送受波面を回転させながら、探知信号を外部(探知領域)に送信し、そのエコー信号を受信する。
【0017】
アンテナ91は、エコー信号を送受切替部93に出力する。送受切替部93は、エコー信号を受信部94に伝送する。
【0018】
受信部94は、エコー信号に対して、A/D変換、増幅処理等の既知の受信処理を行って、エコーデータを生成する。エコーデータは、PPI画像を構成する直交座標系に変換される。エコーデータは、例えば、1スキャン(アンテナ91の1周分)毎にグループ化されている。受信部94は、エコーデータを、追尾処理部10に出力する。
【0019】
追尾処理部10の具体的な構成および処理は後述する。概略的には、追尾処理部10は、エコーデータから代表点を検出し、代表点から追尾点を検出する。追尾処理部10は、複数時刻の追尾点の位置を含む追尾情報から追尾統計情報を生成する。追尾処理部10は、追尾統計情報から、追尾点が設定されたエコーデータ(エコー信号)の発生源の種類を識別する。追尾処理部10は、この処理によって、引き波によるエコーデータ、および、海面反射によるエコーデータを不要エコーとして検出する。すなわち、追尾処理部10は、船舶等の移動体のエコーと不要エコーとを識別する。
【0020】
追尾処理部10は、全体のエコーデータから不要エコーを抑圧して、表示部95に出力する。追尾処理部10は、1スキャン分のエコーデータが入力される毎に、この処理を繰り返して、追尾情報を更新する。この際、追尾処理部10は、追尾情報から航跡を生成することもできる。
【0021】
表示部95は、エコーデータに基づくレーダ装置90の周囲の探知画像を表示する。さらに、表示部95は、所望の物標(船舶等)の速度や航跡、追尾点等を、探知画像上等に表示することもできる。
【0022】
(追尾処理部10の構成)
図2に示すように、追尾処理部10は、代表点検出部11、追尾点検出部12、識別部13、および、除去部14を備える。
【0023】
代表点検出部11は、1スキャン分のエコーデータから、所定の閾値レベル以上のエコーデータを、代表点のエコーデータとして検出する。この閾値レベルは、例えば、所定の大きさの船舶が自船(アンテナ91)から所定距離に存在する場合に得られるエコーデータのレベルの最小値等に基づいて設定されている。代表点検出部11は、代表点のエコーデータを追尾点検出部12に出力する。
【0024】
追尾点検出部12は、検出された複数の代表点のエコーデータから、既知の方法を用いて、追尾点のエコーデータを検出する。例えば、追尾点検出部12は、過去の追尾点のエコーデータの強さ、速度、推定位置等から、追尾点のエコーデータを検出する。追尾点検出部12は、追尾点のエコーデータおよび追尾点の位置を、識別部13および除去部14に出力する。
【0025】
図1に示すように、識別部13は、バッファ131、統計情報生成部132、および、識別処理部133を備える。
【0026】
バッファ131は、順次入力される追尾点のエコーデータおよび追尾点の位置を記憶する。蓄積された複数時刻における追尾点のエコーデータおよび追尾点の位置、すなわち、複数スキャン分の追尾点のエコーデータおよび追尾点の位置は、追尾情報として、統計情報生成部132に出力される。
【0027】
統計情報生成部132は、追尾情報を用いて、追尾点毎に、追尾統計情報を生成する。追尾統計情報は、例えば、追尾点の速度ベクトルであり、また例えば、追尾点の速度ベクトルと当該速度ベクトルの分散とである。統計情報生成部132は、追尾統計情報を、識別処理部133に出力する。
【0028】
識別処理部133は、追尾統計情報を用いて、追尾点が設定されたエコーデータ(エコー信号)の発生源の種類を識別する。より具体的には、識別処理部133は、追尾統計情報を用いて、引き波によるエコーデータ、または、海面反射によるエコーデータを、識別する。
【0029】
(引き波の識別)
図4は、引き波の識別を行う場合の識別処理部の構成を示すブロック図である。
図5は、引き波粒子の設定概念を示す図である。
【0030】
図4に示すように、識別処理部は、引き波粒子設定部331、距離算出部332、および、引き波識別部333を備える。引き波粒子設定部331は、
図5に示すような原理に基づいて、特定の追尾点EPの追尾情報を用いて、引き波粒子PBRを算出する。
【0031】
具体的には、時刻t=t0における引き波粒子を設定する場合、引き波粒子設定部331は、過去の追尾情報等から、船舶等の移動体と推定される追尾点を、特定の追尾点EPに設定する。引き波粒子設定部331は、特定の追尾点EPの過去の時刻(t=tB)の追尾点EPBの位置と、この時刻(t=tB)での速度ベクトルEvBを取得する。
【0032】
引き波粒子設定部331は、速度ベクトルEvBと、引き波粒子設定用の角度θLおよびθRと、正弦定理等の幾何学的な射影の原理と、を用いて、時刻t=tBにおける引き波粒子の速度ベクトルPvを算出する。この際、角度θLおよび角度θRは、引き波の原理に準じて、それぞれ略19°であることが好ましい。
【0033】
引き波粒子設定部331は、引き波粒子の速度ベクトルPvを、時刻t0と時刻tBとの時間差Δt(=t0-tB)で乗算する(Δt・Pv)。引き波粒子設定部331は、この乗算後の速度ベクトル(Δt・Pv)の終点位置に、時刻t0における引き波粒子PBRを設定する。
【0034】
引き波粒子設定部331は、この引き波粒子PBRの設定を、過去の複数の時刻に対して行う。これにより、後述する
図6に示すような引き波粒子群を設定する。
【0035】
この処理を行うことによって、引き波粒子PBRは、引き波の発生確率が高い位置に配置される。
【0036】
引き波粒子設定部331は、設定した複数の引き波粒子PBRの位置を、距離算出部332に出力する。
【0037】
距離算出部332は、複数の追尾点と複数の引き波粒子PBRとの距離を算出する。この際、距離算出部332は、それぞれの追尾点に対して最も近い位置にある引き波粒子PBRとの距離を算出する。距離算出部332は、追尾点毎に算出した距離を、当該追尾点に関連付けして、引き波識別部333に出力する。
【0038】
引き波識別部333は、追尾点毎に、追尾点と引き波粒子PBRとの距離が、引き波識別用の閾値以下であるかどうかを検出する。引き波識別部333は、距離が閾値以下であれば、その追尾点を引き波として識別する。言い換えれば、引き波識別部333は、その追尾点に設定されたエコーデータの発生源が引き波による反射であると識別する。
【0039】
引き波識別部333は、この識別結果を、除去部14に出力する。
【0040】
除去部14は、この識別結果を用いて、引き波として識別された追尾点のエコーデータを除去する。
【0041】
(具体的な引き波の除去処理の一例)
図6(A)は、エコーデータの分布を示す図であり、
図6(B)は、エコーデータと引き波粒子の分布を示す図であり、
図6(C)は、引き波によるエコーデータを抑圧した状態を示す図である。
【0042】
自船のレーダ探知範囲内に他の船舶が存在すると、
図6(A)に示すように、レーダ装置90は、他の船舶のエコーデータEDが得られる。レーダ装置90の追尾処理部10は、上述の追尾処理によって、他の船舶のエコーデータEDに対する追尾点EPを検出する。この際、追尾処理部10は、他の船舶のエコーデータEDの速度Evを検出することもできる。
【0043】
このような船舶が存在し、航走していると、
図6(A)に示すように、船尾側に、引き波のエコーデータEBRが存在し、それぞれに追尾点が検出されている。
【0044】
ここで、上述の方法を用いることによって、引き波粒子設定部331は、他の船舶に対する引き波粒子PBRを設定する。そして、この方法を用いることによって、
図6(B)に示すように、引き波粒子設定部331で設定された複数の引き波粒子PBRは、引き波のエコーデータEBRの近傍に分布する。
【0045】
したがって、引き波のエコーデータEBRの追尾点と、エコーデータEBRに最も近い引き波粒子PBRとの距離は短くなる。そして、上述の閾値を用いることで、引き波識別部333は、引き波のエコーデータEBRの追尾点を識別できる。そして、この引き波として識別されたエコーデータ、すなわち、引き波のエコーデータEBRを除去することによって、
図6(C)に示すように、他の船舶のエコーデータEDのみが残る。
【0046】
なお、上述の説明では、引き波のエコーデータEBRを除去して表示しないようにしている。しかしながら、引き波のエコーデータEBRを表示し、引き波のエコーデータEBRの追尾点を表示しないようにすることもできる。
【0047】
図7(A)は、エコーデータおよび追尾点の分布を示す図であり、
図7(B)は、表示状態の画像を示す図である。
図7(A)に示すように、引き波の識別前では、エコーデータEBRおよび追尾点EPRが残っている。しかしながら、引き波の識別を行い、追尾点ERRの除去を行うことによって、
図7(B)に示すように、引き波のエコーデータEBRを表示に残しながら、その追尾点EPRを非表示にできる。この際、追尾対象のエコーデータEDおよびその追尾点EPは、除去されることなく、表示される。
【0048】
(海面反射の識別)
図8は、海面反射の識別概念を示す図である。
図9は、船舶と海面反射の速度ベクトルの分散の散布図である。
図8に示すように、他の船舶のエコーデータEDの追尾点の航跡STDは、ランダム性を有することなく、特定の規則性を有する。一方、海面反射のエコーデータESCの追尾点の航跡(軌跡)STSCは、ランダム性を有し、特定の規則性を有さない。
【0049】
したがって、
図9に示すように、複数の時刻での船舶のエコーデータEDの追尾点の速度ベクトルの分散は小さい。一方、複数の時刻での海面反射のエコーデータESCの追尾点の速度ベクトルの分散は大きい。このように、船舶を含む一定方向に移動する物標の分散と、海面反射の分散とは明確に相違する。
【0050】
これを利用し、海面反射の識別時には、統計情報生成部132は、追尾点毎に、速度ベクトルとその分散を算出し、追尾統計情報とする。統計情報生成部132は、速度ベクトルの分散を、追尾点に関連付けして、識別処理部133に出力する。なお、この際、統計情報生成部132は、速度ベクトルを同時に出力してもよい。
【0051】
識別処理部133は、速度ベクトルの分散と、海面反射用の閾値とを比較する。識別処理部133は、速度ベクトルの分散が海面反射用の閾値よりも大きければ、この速度ベクトルの元となる追尾点が示すエコーデータの発生源が海面反射であることを識別する。
【0052】
なお、海面反射用の閾値は、例えば、船舶を含む一定方向に移動する物標の分散に基づいて予め設定すればよい。例えば、過去の一般的なデータから、海面反射用の閾値は、一定方向に移動する物標の分散の最大値に、所定のオフセット値を加算した値に設定されている。このオフセット値は、予め分かっている海面反射の分散の最低値よりも、海面反射用の閾値が低くなるように設定されている。
【0053】
そして、海面反射用の閾値は、自船から距離毎に設定されている。すなわち、海面反射用の閾値は、距離の関数によって設定されている。
【0054】
このような処理を行うことによって、船舶を含む一定方向に移動する物標のエコーデータの追尾点と、海面反射に起因するエコーデータの追尾テントを、より確実に識別できる。
【0055】
識別処理部133は、この識別結果を、除去部14に出力する。
【0056】
除去部14は、この識別結果を用いて、海面反射として識別された追尾点のエコーデータを除去する。
【0057】
なお、ここでは、速度ベクトルの分散を用いているが、標準偏差を用いてもよく、速度ベクトルのバラツキを表す統計値であればよい。また、速度ベクトルに替えて加速度ベクトルのバラツキを表す統計値も利用が可能である。
【0058】
また、識別処理部133は、新たな追尾情報が追加されると、この追加された追尾情報も含めて、海面反射用の閾値を更新することもできる。これにより、海面反射用の閾値は、海況に応じた適応型の閾値となる。したがって、海面反射に起因するエコーデータの追尾点を、より確実に識別できる。
【0059】
上述の説明では、複数の機能部によって、引き波のエコーデータや海面反射のエコーデータを含む不要エコーのエコーデータを識別する処理を実現する態様を示したが、上述の識別処理をプログラム化して記憶媒体等に記憶しており、CPU等の演算処理装置が当該プログラムを読み出して実行する態様であってもよい。この場合、概略的には、次の
図9に示す処理を実行すればよい。
図10は、本実施形態に係る識別処理の概要フローを示すフローチャートである。なお、各処理の具体的な内容は、ほぼ上述しているので、上述している内容については説明を省略する。
【0060】
図10に示すように、演算処理装置は、検出した複数の追尾点の複数の位置を含む追尾情報をバッファする(S11)。
【0061】
演算処理装置は、追尾情報を用いて、追尾点の速度ベクトルを含む追尾統計情報を生成する(S12)。
【0062】
演算処理装置は、追尾統計情報を用いて、追尾点を識別する(S13)。より具体的には、演算処理装置は、追尾統計情報を用いて、追尾点のエコーデータの発生源の種類を識別する。
【0063】
(引き波の識別処理)
引き波を識別する場合は、例えば、
図11の処理を実行すればよい。
図11は、引き波の識別処理を示すフローチャートである。
【0064】
図11に示すように、演算処理装置は、追尾統計情報として、各追尾点の速度ベクトルを算出する(S211)。このステップS211の処理が、
図10のステップS12の処理に対応する。
【0065】
演算処理装置は、速度ベクトルを用いて、引き波粒子を算出する(S311)。演算処理装置は、引き波粒子と追尾点との距離を算出する(S312)。この際、演算処理装置は、各追尾点に対して、最も近い引き波粒子との距離を算出する。
【0066】
演算処理装置は、距離が引き波識別用の閾値以下であれば(S313:YES)、この距離の算出元の追尾点を、引き波に起因するエコーデータの追尾点として識別する(S314)。一方、演算処理装置は、距離が引き波識別用の閾値よりも大きければ(S313:NO)、この距離の算出元の追尾点を、引き波に起因するエコーデータの追尾点ではないと識別する(S315)。これらのステップS311からステップS315の処理が、
図10のステップS13の処理に対応する。
【0067】
(海面反射の識別処理)
海面反射を識別する場合は、例えば、
図12の処理を実行すればよい。
図12は、海面反射の識別処理を示すフローチャートである。
【0068】
図12に示すように、演算処理装置は、追尾統計情報として、各追尾点の速度ベクトルを算出し(S211)、速度ベクトルの分散を算出する(S212)。これらのステップS211、S212の処理が、
図10のステップS12の処理に対応する。
【0069】
演算処理装置は、速度ベクトルの分散と、海面反射用の閾値とを比較する(S321)。演算処理装置は、分散が海面反射用の閾値よりも大きければ(S322:YES)、この分散の算出元の追尾点を、海面反射に起因するエコーデータの追尾点として識別する(S323)。一方、演算処理装置は、分散が海面反射用の閾値以下であれば(S322:NO)、この分散の算出元の追尾点を、海面反射に起因するエコーデータの追尾点ではないと識別する(S324)。これらのステップS321からステップS324の処理が、
図10のステップS13の処理に対応する。
【0070】
なお、上述の説明では、引き波のエコーおよび海面反射のエコーのいずれか一方を識別する態様を示した。しかしながら、上述の構成および処理を組み合わせることによって、引き波のエコーと海面反射のエコーとの両方を識別することもできる。さらに、対象とする不要エコーの挙動に特徴がある場合には、当該挙動に基づく追尾統計情報を算出して、上述のように利用することで、引き波のエコーや海面反射のエコーと同様に、不要エコーを識別できる。
【0071】
また、上述の海面反射のエコーの識別では、一定方向に移動する物標を例に説明した。この際、移動は、一定方向への移動に限るものではなく、旋回等、物標(船舶)の位置、船首方位が変化するものも含む。また、上述の海面反射のエコーの識別には、停止(停泊)している船舶に対しても、上述の構成および処理を適用できる。
【符号の説明】
【0072】
10:追尾処理部
11:代表点検出部
12:追尾点検出部
13:識別部
14:除去部
33:引き波識別部
90:レーダ装置
91:アンテナ
92:送信部
93:送受切替部
94:受信部
95:表示部
131:バッファ
132:統計情報生成部
133:識別処理部
331:波粒子設定部
332:距離算出部
333:引き波波識別部
EBR:引き波のエコーデータ
ED:エコーデータ
EP、EPB:追尾点
ESC:海面反射のエコーデータ
PBR:引き波波粒子
ST、STD:航跡
STSC:航跡(軌跡)
【用語】
【0073】
必ずしも全ての目的または効果・利点が、本明細書中に記載される任意の特定の実施形態に則って達成され得るわけではない。従って、例えば当業者であれば、特定の実施形態は、本明細書中で教示または示唆されるような他の目的または効果・利点を必ずしも達成することなく、本明細書中で教示されるような1つまたは複数の効果・利点を達成または最適化するように動作するように構成され得ることを想到するであろう。
【0074】
本明細書中に記載される全ての処理は、1つまたは複数のコンピュータまたはプロセッサを含むコンピューティングシステムによって実行されるソフトウェアコードモジュールにより具現化され、完全に自動化され得る。コードモジュールは、任意のタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体または他のコンピュータ記憶装置に記憶することができる。一部または全ての方法は、専用のコンピュータハードウェアで具現化され得る。
【0075】
本明細書中に記載されるもの以外でも、多くの他の変形例があることは、本開示から明らかである。例えば、実施形態に応じて、本明細書中に記載されるアルゴリズムのいずれかの特定の動作、イベント、または機能は、異なるシーケンスで実行することができ、追加、併合、または完全に除外することができる (例えば、記述された全ての行為または事象がアルゴリズムの実行に必要というわけではない)。さらに、特定の実施形態では、動作またはイベントは、例えば、マルチスレッド処理、割り込み処理、または複数のプロセッサまたはプロセッサコアを介して、または他の並列アーキテクチャ上で、逐次ではなく、並列に実行することができる。さらに、異なるタスクまたはプロセスは、一緒に機能し得る異なるマシンおよび/またはコンピューティングシステムによっても実行され得る。
【0076】
本明細書中に開示された実施形態に関連して説明された様々な例示的論理ブロックおよびモジュールは、プロセッサなどのマシンによって実施または実行することができる。プロセッサは、マイクロプロセッサであってもよいが、代替的に、プロセッサは、コントローラ、マイクロコントローラ、またはステートマシン、またはそれらの組み合わせなどであってもよい。プロセッサは、コンピュータ実行可能命令を処理するように構成された電気回路を含むことができる。別の実施形態では、プロセッサは、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはコンピュータ実行可能命令を処理することなく論理演算を実行する他のプログラマブルデバイスを含む。プロセッサはまた、コンピューティングデバイスの組み合わせ、例えば、デジタル信号プロセッサ(デジタル信号処理装置)とマイクロプロセッサの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと組み合わせた1つ以上のマイクロプロセッサ、または任意の他のそのような構成として実装することができる。本明細書中では、主にデジタル技術に関して説明するが、プロセッサは、主にアナログ素子を含むこともできる。例えば、本明細書中に記載される信号処理アルゴリズムの一部または全部は、アナログ回路またはアナログとデジタルの混合回路により実装することができる。コンピューティング環境は、マイクロプロセッサ、メインフレームコンピュータ、デジタル信号プロセッサ、ポータブルコンピューティングデバイス、デバイスコントローラ、または装置内の計算エンジンに基づくコンピュータシステムを含むが、これらに限定されない任意のタイプのコンピュータシステムを含むことができる。
【0077】
特に明記しない限り、「できる」「できた」「だろう」または「可能性がある」などの条件付き言語は、特定の実施形態が特定の特徴、要素および/またはステップを含むが、他の実施形態は含まないことを伝達するために一般に使用される文脈内での意味で理解される。従って、このような条件付き言語は、一般に、特徴、要素および/またはステップが1つ以上の実施形態に必要とされる任意の方法であること、または1つ以上の実施形態が、これらの特徴、要素および/またはステップが任意の特定の実施形態に含まれるか、または実行されるかどうかを決定するための論理を必然的に含むことを意味するという訳ではない。
【0078】
語句「X、Y、Zの少なくとも1つ」のような選言的言語は、特に別段の記載がない限り、項目、用語等が X, Y, Z、のいずれか、又はそれらの任意の組み合わせであり得ることを示すために一般的に使用されている文脈で理解される(例: X、Y、Z)。従って、このような選言的言語は、一般的には、特定の実施形態がそれぞれ存在するXの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、またはZの少なくとも1つ、の各々を必要とすることを意味するものではない。
【0079】
本明細書中に記載されかつ/または添付の図面に示されたフロー図における任意のプロセス記述、要素またはブロックは、プロセスにおける特定の論理機能または要素を実装するための1つ以上の実行可能命令を含む、潜在的にモジュール、セグメント、またはコードの一部を表すものとして理解されるべきである。代替の実施形態は、本明細書中に記載された実施形態の範囲内に含まれ、ここでは、要素または機能は、当業者に理解されるように、関連する機能性に応じて、実質的に同時にまたは逆の順序で、図示または説明されたものから削除、順不同で実行され得る。
【0080】
特に明示されていない限り、「一つ」のような数詞は、一般的に、1つ以上の記述された項目を含むと解釈されるべきである。従って、「~するように設定された一つのデバイス」などの語句は、1つ以上の列挙されたデバイスを含むことを意図している。このような1つまたは複数の列挙されたデバイスは、記載された引用を実行するように集合的に構成することもできる。例えば、「以下のA、BおよびCを実行するように構成されたプロセッサ」は、Aを実行するように構成された第1のプロセッサと、BおよびCを実行するように構成された第2のプロセッサとを含むことができる。加えて、導入された実施例の具体的な数の列挙が明示的に列挙されたとしても、当業者は、このような列挙が典型的には少なくとも列挙された数(例えば、他の修飾語を用いない「2つの列挙と」の単なる列挙は、通常、少なくとも2つの列挙、または2つ以上の列挙を意味する)を意味すると解釈されるべきである。
【0081】
一般に、本明細書中で使用される用語は、一般に、「非限定」用語(例えば、「~を含む」という用語は「それだけでなく、少なくとも~を含む」と解釈すべきであり、「~を持つ」という用語は「少なくとも~を持っている」と解釈すべきであり、「含む」という用語は「以下を含むが、これらに限定されない。」などと解釈すべきである。) を意図していると、当業者には判断される。
【0082】
説明の目的のために、本明細書中で使用される「水平」という用語は、その方向に関係なく、説明されるシステムが使用される領域の床の平面または表面に平行な平面、または説明される方法が実施される平面として定義される。「床」という用語は、「地面」または「水面」という用語と置き換えることができる。「垂直/鉛直」という用語は、定義された水平線に垂直/鉛直な方向を指します。「上側」「下側」「下」「上」「側面」「より高く」「より低く」「上の方に」「~を越えて」「下の」などの用語は水平面に対して定義されている。
【0083】
本明細書中で使用される用語の「付着する」、「接続する」、「対になる」及び他の関連用語は、別段の注記がない限り、取り外し可能、移動可能、固定、調節可能、及び/または、取り外し可能な接続または連結を含むと解釈されるべきである。接続/連結は、直接接続及び/または説明した2つの構成要素間の中間構造を有する接続を含む。
【0084】
特に明示されていない限り、本明細書中で使用される、「およそ」、「約」、および「実質的に」のような用語が先行する数は、列挙された数を含み、また、さらに所望の機能を実行するか、または所望の結果を達成する、記載された量に近い量を表す。例えば、「およそ」、「約」及び「実質的に」とは、特に明示されていない限り、記載された数値の10%未満の値をいう。本明細書中で使用されているように、「およそ」、「約」、および「実質的に」などの用語が先行して開示されている実施形態の特徴は、さらに所望の機能を実行するか、またはその特徴について所望の結果を達成するいくつかの可変性を有する特徴を表す。
【0085】
上述した実施形態には、多くの変形例および修正例を加えることができ、それらの要素は、他の許容可能な例の中にあるものとして理解されるべきである。そのような全ての修正および変形は、本開示の範囲内に含まれることを意図し、以下の特許請求の範囲によって保護される。