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特許7281507化学療法剤の多段階放出のための組成物、装置、および方法
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  • 特許-化学療法剤の多段階放出のための組成物、装置、および方法 図1
  • 特許-化学療法剤の多段階放出のための組成物、装置、および方法 図2A
  • 特許-化学療法剤の多段階放出のための組成物、装置、および方法 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】化学療法剤の多段階放出のための組成物、装置、および方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/16 20060101AFI20230518BHJP
   A61B 17/12 20060101ALI20230518BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20230518BHJP
【FI】
A61L29/16
A61B17/12
A61M25/10
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021106527
(22)【出願日】2021-06-28
(62)【分割の表示】P 2017540991の分割
【原出願日】2015-12-28
(65)【公開番号】P2021166744
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】62/097,410
(32)【優先日】2014-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】パロマー-モレノ、ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ハノン、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】バニスター、フィリップ
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-215620(JP,A)
【文献】特表2012-527942(JP,A)
【文献】特表2007-535418(JP,A)
【文献】特表2009-530039(JP,A)
【文献】特表2010-540159(JP,A)
【文献】特表2010-508901(JP,A)
【文献】国際公開第2014/117075(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0323312(US,A1)
【文献】Roy, Pallab and Shahiwala, Aliasgar,Journal of Controlled Release,2009年,Vol. 134, No. 2, p.74-80
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61P1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の体内の栄養動脈に微粒子を放出するように構成されたバルーンを含む送達装置と、
第一期間にわたって第一薬剤を放出するとともに、第二期間にわたって第二薬剤を放出するように構成された微粒子と、を含み、
前記第一期間と前記第二期間との間に、薬剤放出が実質的に行われない遅延期間が生じ、
前記第一薬剤および前記第二薬剤は同一であっても異なっていてもよい送達システムであって、
前記微粒子は、前記第一薬剤を含むが前記第二薬剤を含まず、前記第一期間にわたって前記第一薬剤を即時放出するように構成される第一微粒子と、前記第二薬剤を含むが前記第一薬剤を含まず、前記第二期間にわたって前記第二薬剤を遅延して放出するように構成される第二微粒子と、を含み、前記第二微粒子は、薬剤を実質的に含まない第一生分解性層によって取り囲まれた前記第二薬剤を含む生分解性コアを含んでおり、前記第一薬剤および前記第二薬剤は抗がん剤である、前記送達システム。
【請求項2】
対象の体内の栄養動脈に微粒子を放出するように構成されたバルーンを含む送達装置と、
第一期間にわたって第一薬剤を放出するとともに、第二期間にわたって第二薬剤を放出するように構成された微粒子と、を含み、
前記第一期間と前記第二期間との間に、薬剤放出が実質的に行われない遅延期間が生じる、送達システムであって、
前記微粒子は、前記第一薬剤を含むが前記第二薬剤を含まず、前記第一期間にわたって前記第一薬剤を即時放出するように構成される第一微粒子と、前記第二薬剤を含むが前記第一薬剤を含まず、前記第二期間にわたって前記第二薬剤を遅延して放出するように構成される第二微粒子と、を含み、前記第二微粒子は、薬剤を実質的に含まない第一生分解性層によって取り囲まれた前記第二薬剤を含む生分解性コアを含んでおり、前記第一薬剤および前記第二薬剤は同一である、前記送達システム。
【請求項3】
前記第一薬剤および前記第二薬剤は異なる、請求項1に記載の送達システム。
【請求項4】
前記遅延期間は2~6週間の範囲である、請求項1に記載の送達システム。
【請求項5】
前記第一期間は5日以下の期間であり、前記第二期間は5日以下の期間である、請求項に記載の送達システム。
【請求項6】
前記微粒子は、生分解性ポリマーを含む、請求項1に記載の送達システム。
【請求項7】
前記生分解性ポリマーは、ポリエステルホモポリマーおよびコポリマーから選択される、請求項に記載の送達システム。
【請求項8】
前記生分解性ポリマーは、ポリグリコリド、ポリ(β-ヒドロキシブチレート)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、およびポリ(β-ヒドロキシブチレート-コ-β-ヒドロキシバレレート)から選択される、請求項に記載の送達システム。
【請求項9】
対象の体内の栄養動脈に微粒子を放出するように構成されたバルーンを含む送達装置と、
第一期間にわたって第一薬剤を放出するとともに、第二期間にわたって第二薬剤を放出するように構成された微粒子と、を含み、
前記第一期間と前記第二期間との間に、薬剤放出が実質的に行われない遅延期間が生じ、
前記第一薬剤および前記第二薬剤は同一であっても異なっていてもよい送達システムであって、
前記微粒子は、前記第一薬剤を含むが前記第二薬剤を含まず、前記第一期間にわたって前記第一薬剤を即時放出するように構成される第一微粒子と、前記第二薬剤を含むが前記第一薬剤を含まず、前記第二期間にわたって前記第二薬剤を遅延して放出するように構成される第二微粒子と、を含み、前記第二微粒子は、薬剤を実質的に含まない第一生分解性層によって取り囲まれた前記第二薬剤を含む生分解性コアを含んでおり、
前記バルーンは、腫瘍の栄養動脈内で膨張されるとともに、栄養動脈に前記微粒子を送達するように構成されている、前記送達システム。
【請求項10】
栄養動脈は、肝動脈である、請求項に記載の送達システム。
【請求項11】
前記バルーンは、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、およびポリウレタンから選択された材料を含む、請求項1に記載の送達システム。
【請求項12】
前記バルーンは折り込みを含み、前記微粒子は、折り込み内に配置されている、請求項1に記載の送達システム。
【請求項13】
前記バルーンは、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、または八つの折り込みを有する、請求項12に記載の送達システム。
【請求項14】
前記微粒子は、前記折り込みを形成する前に前記バルーンの表面上にプリントされている、請求項12に記載の送達システム。
【請求項15】
前記微粒子は、前記折り込みを形成した後に前記折り込み内に注入されている、請求項12に記載の送達システム。
【請求項16】
前記微粒子は、インクジェットプリントプロセスおよび三次元プリントプロセスから選択されるプロセスによって、前記バルーンの表面上にプリントされている、請求項12に記載の送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、医療装置の分野に関する。より具体的には、本願は、脈管系への薬剤の送達に関する。
【背景技術】
【0002】
塞栓形成術とは、粒子を使用して、組織死に至るような腫瘍等の望ましくない生物学的組織への血液供給を選択的にブロックする低侵襲処置である。様々なポリマーベースの粒子、典型的にはマイクロスフェアが、塞栓形成術のために現在使用されている。これらのマイクロスフェアは通常、マイクロカテーテルを介して意図された塞栓形成位置に導入される。典型的な塞栓形成術では、最初に共通の血管に対して局所麻酔が行われる。次いで、血管を経皮的に穿刺してカテーテルを挿入し、蛍光透視法を用いて対象の領域に誘導する。その後、造影剤をカテーテルを通して注入することによって、血管造影を行うことができる。さらにその後、塞栓剤がカテーテルを通して導入される。通常、動脈閉塞の特異性および完全性を判断するために、フォローアップ血管造影が行われる。
【0003】
様々な市販の塞栓マイクロスフェアは、ポリマーからなる。この目的のために商業的に一般に使用されている材料には、ポリビニルアルコール(PVA)、アセタール化PVA(例えば、米国マサチューセッツ州ネイティックに所在するボストンサイエンティフィック社のContour SE(商標)塞栓剤)、および架橋アクリルヒドロゲル(例えば、米国マサチューセッツ州ロックランドに所在するバイオスフィアメディカル社のEMBOSPHERE(登録商標))が含まれる。送達後の化学療法剤の滞留時間を延長させるため、同様のマイクロスフェアが肝動脈化学塞栓術(TACE)において使用されている。一つの特定の例において、化学療法剤(ドキソルビシン)は、送達後に局所的に放出されるように、ポリビニルアルコールヒドロゲルマイクロスフェアに直接添加されている(例えば、英国サリー州ファーナムに所在するバイオコンパティブルズインターナショナル社のDC Bead(商標)薬剤送達化学塞栓システム)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は上記に鑑み、多段階薬剤放出を提供するとともに、従来の肝動脈化学塞栓術の代替法を提示する組成物、装置、および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本願は、対象に一つ以上の薬剤を送達するための送達システムであって、(a)対象の体内の栄養動脈に微粒子を放出するように構成された送達装置と、(b)第一期間にわたって第一薬剤を放出するとともに、第二期間にわたって第二薬剤を放出するように構成された微粒子と、を含み、第一期間と第二期間との間に、薬剤を実質的に放出しない遅延期間が生じ、第一薬剤および第二薬剤は同一であっても異なっていてもよい送達システムを提供する。
【0006】
別の態様において、本願は、腫瘍の栄養動脈に微粒子を放出する治療剤を送達する工程を含む治療方法であって、微粒子は第一期間にわたって第一薬剤を放出するとともに、第二期間にわたって第二薬剤を放出し、第一期間と第二期間との間に、薬剤を実質的に放出しない遅延期間が生じ、第一薬剤および第二薬剤は同一であっても異なっていてもよい治療方法を提供する。特定の実施形態において、微粒子は、先の段落に記載されたような送達システムを用いて送達されてもよい。
【0007】
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、第一薬剤および第二薬剤は抗がん剤であってもよい。
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、遅延期間は2~6週間の範囲であってもよい。
【0008】
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、第一期間は5日以下の期間であってもよく、第二期間は5日以下の期間であってもよい。
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、微粒子からの総累積薬剤放出の30~70%が第一期間にわたって生じること、微粒子からの総累積薬剤放出の30~70%が第二期間にわたって生じること、および総累積薬剤放出の5%未満、より好適には1%未満が遅延期間にわたって生じることの少なくとも一つが生じる。
【0009】
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、微粒子は、(a)第二薬剤を含む生分解性コアと、(b)生分解性コアを取り囲む、薬剤を実質的に含まない第一生分解性層と、(c)第一生分解性層を取り囲む、第一薬剤を含む第二生分解性層と、を含んでいてもよい。
【0010】
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、微粒子は、(a)第一薬剤を含むが第二薬剤を含まず、第一期間にわたって第一薬剤を放出する第一微粒子と、(b)第二薬剤を含むが第一薬剤を含まず、第二期間にわたって第二薬剤を放出する第二微粒子と、を含んでいてもよい。
【0011】
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な特定の実施形態において、送達装置はバルーンを含んでいてもよく、その場合、好適には微粒子はバルーンの表面上に提供されてもよく、いくつかの場合において、例えばバルーンの膨張時に微粒子が折り込みから放出されるように、バルーンの折り込み内に配置されてもよい。バルーンは、例えば腫瘍の栄養動脈(例えば、肝動脈、腎動脈等)内で膨張されるとともに、栄養動脈に微粒子を送達するように適合されてもよい。
【0012】
上記態様および実施形態のいずれかと組み合わせ可能な別の態様において、折り込みと、折り込み内に配置された微粒子と含む、折り込まれた膨張性薬剤送達用のバルーンを含む薬剤送達システムであって、(例えば、インクジェットプリントプロセス、三次元プリントプロセス等によって)折り込みを形成する前にバルーンの表面上に微粒子をプリントするか、折り込みを形成した後に折り込み内に微粒子を注入する薬剤送達システムが提供される。
【0013】
本願の利点として、第一薬剤の制御された放出と、その後に(例えば、繰り返しの化学療法セッションの間に患者を休ませることができるように)薬剤を実質的に放出しない遅延期間が続き、その後に第一薬剤と同一であっても異なっていてもよい第二薬剤の放出が続くこととを可能にする微粒子、装置、システム、および方法を提供することによって、要求される治療介入の回数を低減させ(これにより、繰り返しの介入処置によるストレスを最小化す)ることが挙げられる。
【0014】
これらの、および他の態様、実施形態、および利点は、以下の詳細な説明を検討することによって当業者に明らかとなるであろう。
本願の態様は、同様の参照番号が同様の要素を参照する以下の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】多段階放出微粒子の模式的断面図である。
図2A】収縮状態にある化学療法剤送達用のバルーンの概略的で、部分的に透明で表された斜視図である。
図2B】膨張状態にある化学療法剤送達用のバルーンの概略的で、部分的に透明で表された斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の明細書中に他に示されていない限り、図面は必ずしも縮尺通りではなく、本願の原理の説明に重点が置かれたものである。
本明細書で使用される「AおよびBの少なくとも一方(and/or)」という語句は、そのように組み合わされた要素、すなわち、ある場合には組み合わされて存在し、他の場合には離接的に存在する要素の「一方または両方」を意味するものと理解されるべきである。「AおよびBの少なくとも一方(and/or)」という語句によって具体的に特定される要素以外の要素は、明確に反対の指示がされない限り、具体的に特定される要素と関連しているか否かにかかわらず、必要に応じて存在していてもよい。従って、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも一方(and/or)」という語句は、「~を含む(comprising)」等の非限定的な語句と併せて使用される場合、一実施形態において、Aを含むがBを含まない(必要に応じてB以外の要素を含む)ということを表し、別の実施形態において、Bを含むがAを含まない(必要に応じてA以外の要素を含む)ということを表し、さらに別の実施形態において、AおよびBの両方を含む(必要に応じて他の要素を含む)ということを表すこと等が可能である。
【0017】
「本質的に~からなる」等の語句は、本明細書中に別段の定めがない限り、機能に寄与する他の要素を廃除することを意味する。しかしながら、このような他の要素は、集合的または個別的に、微量だけ存在していてもよい。
【0018】
本明細書で使用される場合、「実質的に」または「およそ」等の語句は、(例えば、重量または体積において)プラスマイナス10%、実施形態によってはプラスマイナス5%を意味する。
【0019】
本明細書を通して、「一例」、「一実施形態」等の語句は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、または特性が、当該技術における少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書の様々な箇所における「一例において」、「一実施形態において」等の語句は、そのすべてが必ずしも同じ実施形態を指しているとは限らない。また、特定の特徴、構造、ルーチン、ステップ、または特性は、当該技術における一つ以上の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わせることができる。本明細書に付けられる見出しは便宜上のものであり、請求される技術の範囲または意味を限定または解釈することを意図するものではない。
【0020】
様々な態様において、本願は、肝臓癌、腎癌、および骨腫瘍等の癌に関連するような固形腫瘍の治療、ならびに子宮筋腫等の良性腫瘍の治療を含む、構造および器官の治療方法に関する。これらの方法において、構造または器官の栄養動脈に薬剤放出微粒子が導入される。送達されると、微粒子は第一期間にわたって第一薬剤を放出し、次に、第二期間にわたって第二薬剤を放出する。様々な実施形態において、第一期間と第二期間との間には、薬剤を実質的に放出しない、本明細書において遅延期間(lag period)と呼ばれる遅延期間が生じる。
【0021】
実施形態に応じて、第一薬剤および第二薬剤は同一であっても異なっていてもよい。様々な実施形態において、第一薬剤および第二薬剤は抗癌剤である。
抗癌剤の例には、(a)ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、およびミトキサントロン、ならびにアクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、マイトマイシン等のアントラサイクリンを含む抗悪性腫瘍性抗生物質、(b)ナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、ブスルファン等)、ニトロソウレア(例えば、N-ニトロソ-N-メチル尿素、カルムスチン、ロムスチネム、セムスチン、フォテムスチン、ストレプトゾトシン等)、テトラジン(例えば、ダカルバジン、ミトゾロミド、テモゾロマイド等)、アジリジン(例えば、チオテパ、マイトマイシン、ジアジノン等)、シスプラチンおよび誘導体(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン等を含む)、および非古典的アルキル化剤(例えば、プロカルバジンおよびヘキサメチルメラミン等)を含むアルキル化剤、(c)葉酸代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート、ペメトレキセド等)、フルオロピリミジン(例えば、5-フルオロウラシル、カペシタビン等)、デオキシヌクレオシド類似体(例えば、シタラビン、ゲムシタビン、デシタビン、ビダザ、フルダラビン、ネララビン、クラドリビン、クロファラビン、ペントスタチン等)、およびチオプリン(例えば、チオグアニン、メルカプトプリン等)を含む代謝拮抗物質、(d)トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン等)、およびトポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、テニポシド、ノボビオシン、メルバロン、アクラルビシン等)を含むトポイソメラーゼ阻害剤、および(e)ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ビンフルニン等)、およびタキサン(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル等)を含む微小管阻害剤、ポドフィロトキシン、エトポシド、およびテニポシドが含まれる。
【0022】
特に有益な薬剤には、ドキソルビシン、シスプラチン、フルオロウラシル(例えば、5-フルオロウラシル)、およびゲムシタビンが含まれる。
第一期間、第二期間、および遅延期間は、実施形態によって大幅に変わる場合がある。いくつかの実施形態では、第一薬剤が放出される第一期間は、5日以内である。いくつかの実施形態では、第二薬剤が放出される第二期間は、5日以内である。いくつかの実施形態では、第一期間と第二期間との間の遅延期間は、2~6週間、より典型的には3~5週間、さらにより典型的には約4週間の範囲である。
【0023】
特定の実施形態において、微粒子からの総累積薬剤放出(すなわち、微粒子の寿命にわたる総放出)の30~70wt%、好ましくは40~60wt%が第一期間にわたって生じてもよく、微粒子からの総累積薬剤放出の70~30wt%、好ましくは60~40wt%が第二期間にわたって生じてもよい。好ましくは、微粒子からの総累積薬剤放出の5wt%未満、より好ましくは1wt%未満が遅延期間にわたって生じてもよい。いくつかの実施形態において、第一薬剤および第二薬剤が実質的に異なる量で放出される粒子を生成することができる。
【0024】
特定の実施形態において、微粒子の幅(例えば、球状微粒子の直径、円筒状微粒子の直径等)は、1nm~500μm、またはそれ以上、例えば1nm~2.5nm~5nm~10nm~25nm~50nm~100nm~250nm~500nm~1μm~2.5μm~5μm~10μm~25μm~50μm~100μm~150μm~250μm~500μm(すなわち、上記値のうちの任意の二つの間)の範囲である。特定の有益な実施形態において、微粒子の幅は50~150μmの範囲とすることができる。
【0025】
特定の有益な実施形態において、微粒子は生分解性コアと、前記コア上の少なくとも二つの異なる生分解性層とを含んでいてもよい。生分解性コアは第二薬剤を含む。生分解性コアはまた、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤の少なくとも一つのような、任意の成分を追加で含んでいてもよい。生分解性コアは、一つ以上の生分解性ポリマーを含むとともに、薬剤を実質的に含まない(すなわち、5%未満の薬剤、より典型的には1%未満の薬剤を含み、さらにより典型的には、考えられる不純物量を除いて薬剤を含まない)第一生分解性層によって取り囲まれていてもよい。第一生分解性層はまた、一つ以上の任意の補助的薬剤を含んでいてもよい。第一生分解性層は次に、第一薬剤を含む第二生分解性層によって取り囲まれていてもよい。第二生分解性層はまた、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤の少なくとも一つのような、任意の成分を追加で含んでいてもよい。
【0026】
一つの特定の実施形態が図1に示されており、ここで微粒子100は、(a)生分解性ポリマーマトリックス112中に第二薬剤110の微粒子を含む生分解性コアと、(b)一つ以上の生分解性ポリマーを含む第一生分解性層114と、(c)生分解性ポリマーマトリックス118中に第一薬剤116を含む第二生分解性層とを含んでいる。
【0027】
特定の実施形態において、微粒子はさらに、第二生分解性層を取り囲み、一つ以上の生分解性ポリマーを含むとともに、薬剤を実質的に含まない(すなわち、5%未満の薬剤、より典型的には1%未満の薬剤を含み、さらにより典型的には、考えられる不純物量を除いて薬剤を含まない)追加の第一生分解性層を含んでいてもよい。追加の第一生分解性層はまた、一つ以上の任意の補助的薬剤を含んでいてもよい。追加の第一生分解性層は次に、第一薬剤および第二薬剤と同一であっても異なっていてもよい追加の薬剤を含む、追加の第二生分解性層によって取り囲まれていてもよい。追加の第二生分解性層はまた、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤の少なくとも一つのような、任意の成分を追加で含んでいてもよい。これらの実施形態において、追加の第二生分解性層は追加の薬剤の初期放出をもたらし、(薬剤を実質的に含まない)追加の第一生分解性層が生分解される遅延期間が続き、その後、第二生分解性層が生分解されて第一薬剤を放出し、(薬剤を実質的に含まない)第一生分解性層が生分解される第二の遅延期間が続き、その後、コアが生分解されて第二薬剤を放出するであろう。同様の方法で、追加の薬剤を放出させるためにさらなる層を追加することができる。
【0028】
いくつかの実施形態において、少なくとも二つの異なる種類の微粒子を生成することができる。特定の一実施形態において、第一微粒子および第二微粒子が提供される。第一微粒子は第一薬剤を含むとともに、即時薬剤放出のために構成される。第一微粒子はまた、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤の少なくとも一つのような、任意の成分を追加で含んでいてもよい。第二微粒子は第二薬剤を含むとともに、遅延放出のために構成される。第二微粒子は第二薬剤を含む生分解性コアを含んでいてもよく、生分解性コアは、薬剤を実質的に含まないが、第二薬剤の放出前の遅延期間を実現可能な生分解性層によって取り囲まれている。生分解性コアはまた、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤の少なくとも一つのような、任意の成分を追加で含んでいてもよい。生分解性層は、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤を含んでいてもよく、薬剤を実質的に含まなくてもよい(すなわち、5%未満の薬剤、より典型的には1%未満の薬剤を含んでいてもよく、さらにより典型的には、考えられる不純物量を除いて薬剤を含まなくてもよい)。
【0029】
特定の実施形態において、第一微粒子および第二微粒子とともに、追加の微粒子が提供されてもよい。追加の微粒子は、(第一薬剤および第二薬剤と同一であっても異なっていてもよい)追加の薬剤を含んでいてもよく、第二微粒子の遅延放出よりも長い期間遅延された放出のために構成されていてもよく、これにより、三段階の薬剤放出を可能とすることができる。追加の微粒子は追加の薬剤を含む生分解性コアを含んでいてもよく、生分解性コアは、薬剤を実質的に含まないが、追加の薬剤の放出前の遅延期間を実現可能な生分解性層によって取り囲まれている。生分解性コアはまた、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤の少なくとも一つのような、任意の成分を追加で含んでいてもよい。生分解性層は、一つ以上の生分解性ポリマーおよび一つ以上の任意の補助的薬剤を含んでいてもよく、薬剤を実質的に含まなくてもよい(すなわち、5%未満の薬剤、より典型的には1%未満の薬剤を含んでいてもよく、さらにより典型的には、考えられる不純物量を除いて薬剤を含まなくてもよい)。
【0030】
本願に従った微粒子を形成するための生分解性ポリマーは、とりわけ以下の適切なメンバーから選択することができる。すなわち、(a)ポリグリコリド、ポリ-L-ラクチド、ポリ-D-ラクチド、ポリ-D,L-ラクチド、ポリ(β-ヒドロキシブチレート)、ポリ-D-グルコン酸、ポリ-L-グルコン酸、ポリ-D,L-グルコン酸、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(δ-バレロラクトン)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(ラクチド-コ-δ-バレロラクトン)、ポリ(ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)、ポリ(ラクチド-コ-β-リンゴ酸)、ポリ(ラクチド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(β-ヒドロキシブチレート-コ-β-ヒドロキシバレレート)、ポリ[1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン-コ-セバシン酸]、およびポリ(セバシン酸-コ-フマル酸)等のポリエステルホモポリマーおよびコポリマー、(b)種々のジケテンアセタールおよびジオールの共重合により合成されたもの等のポリ(オルトエステル)ホモポリマーおよびコポリマー、(c)ポリ(アジピン酸無水物)、ポリ(スベリン酸無水物)、ポリ(セバシン酸無水物)、ポリ(ドデカン二酸無水物)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ[1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)メタン無水物]、およびポリ[α,ω-ビス(p-カルボキシフェノキシ)アルカン無水物]、例えばポリ[1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン無水物]およびポリ[1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)ヘキサン無水物]等のポリ無水物ホモポリマーおよびコポリマー、(d)ポリエチレンオキシド、ポリブチレンオキシド、およびポリ(エチレンオキシド-コ-ブチレンオキシド)等を含むポリエーテルホモポリマーおよびコポリマー、および(e)チロシン系ポリアリーレート(例えばデスアミノチロシル-チロシンのエチル、ブチル、ヘキシル、オクチル、およびベジルエステルから選択されるジフェノールと、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、およびセバシン酸から選択される二酸とがエステル結合によって架橋された、ジフェノールおよび二酸のコポリマー)、チロシン系ポリカーボネート(例えばデスアミノチロシル-チロシンのエチル、ブチル、ヘキシル、オクチル、およびベジルエステルから選択されるジフェノールとホスゲンとの縮合重合によって形成されるコポリマー)、およびチロシン、ロイシン、およびリジン系ポリエステル-アミドを含むアミノ酸系ホモポリマーおよびコポリマーから選択することができる。チロシン系ポリマーの具体例には、デスアミノチロシルチロシンヘキシルエステル、デスアミノチロシルチロシン、および種々の二酸、例えばコハク酸およびアジピン酸等の組み合わせからなるポリマーが含まれる。
【0031】
いくつかの実施形態において、他の方法の中でもとりわけ、ポリマーブレンドにおける二つのポリマーの比率の変更、および(例えば、上述のものからの選択のような)選択されるコポリマーにおけるモノマー比の変更の少なくとも一方に基づいて、ポリマーの分解速度を調整することができる。
【0032】
補助的薬剤の例には、例えば造影剤等が含まれる。有益な造影剤には、(a)金属(例えば、タングステン、白金、金等)、金属塩および酸化物(特に、ビスマスおよびバリウム塩および酸化物)、およびヨード化合物等を含む、X線透視に関連して使用される造影剤、(b)無機および有機エコージェニック粒子(すなわち、反射超音波エネルギーの増加をもたらす粒子)または無機および有機エコールーセント粒子(すなわち、反射超音波エネルギーの減少をもたらす粒子)を含む、超音波イメージングに関連して使用される造影剤、および(c)Gd(III)、Mn(II)、Fe(III)等の比較的大きな磁気モーメントを有する元素、および同元素を含有する化合物(キレートを含む)、例えばジエチレントリアミンペンタ酢酸でキレート化されたガドリニウムイオン等を含有する造影剤を含む、磁気共鳴イメージング(MRI)に関連して使用される造影剤が含まれる。
【0033】
取り囲まれるかカプセル化される生分解性層を含むか、または含まない微粒子は、噴霧乾燥、パンコーティング、エアサスペンションコーティング、インクジェットプリント、3D(三次元)プリント、またはロールコーティングを含む、様々な方法によって形成することができる。
【0034】
微粒子は、血液の流れに応じて従来の動脈および静脈のアクセス部位を用い、マイクロカテーテルを介して、遠位スプレーノズルを有する内視鏡を介して、またはバルーン送達システムを介して、様々な経路で患者の脈管構造に導入することができる。
【0035】
上述のように、伝統的なTACE処置において、患者は複数の介入を受け入れなければならず、これによってストレスを引き起こし、患者に身体的負担をかける可能性がある。しかしながら、本明細書に記載される微粒子は、第一薬剤に基づく第一の化学療法治療を行い、(とりわけ、化学療法への暴露の間に患者を休ませることができる)遅延期間が続き、その後、第二薬剤に基づく第二の化学療法治療を行うことによって、要求される介入の回数を低減する。いくつかの実施形態において、一つ以上の追加の休止期間が設けられ、続いて一つ以上の追加の薬剤が放出される。
【0036】
カテーテル送達に関して、図2Aおよび図2Bを参照すると、いくつかの実施形態において、微粒子100を送達するためにバルーンカテーテル200を使用することができる。バルーンカテーテル200は、(バルーンカテーテル200を、図示されていないガイドワイヤ上で前進させることが可能な)内側管状部材214と、バルーン210とを含んでいてもよい。バルーン210と内側管状部材214との間に、管腔212が形成される。収縮状態にある時、バルーン210は一つ以上の折り込み210fが設けられていてもよく、これによってバルーン210を管状部材214の周りに巻き付けることができる。図2Aおよび図2Bには三つの折り込み(より具体的には、バルーンの外面に対する三つの凹状の折り込み210f)が示されているが、バルーン210は一つ、二つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、またはそれ以上の折り込みを有していてもよい。上述したような微粒子100は、折り込み210f内の領域において、バルーン210上に配置されてもよい。このようにして、送達中に、バルーン210を形成する材料の外面を維持したまま、微粒子100をバルーン210の折り込み210fの内側で保護することができる。これにより、送達中に微粒子100が流されることを防止することができる。膨張すると、図2Bに示すように折り込みは消滅し、微粒子100がバルーン210の表面上において送達可能となる。微粒子100は、任意の適切なプロセスによって折り込む前にバルーン210の表面上に配置することができ、例えばインクジェットプリント、3D(三次元)プリント、ロールコーティング、または他の適切なプロセスによって、微粒子をバルーンの表面に付着させることができる。
【0037】
あるいは、任意の適切なプロセス、例えばマイクロシリンジを用いて折り込み内に注入すること、または他の適切な方法によって、バルーンが形成されて折り込まれた後に、予め設定されたバルーンの折り込み内に微粒子を配置することができる。
【0038】
特定の実施形態において、本願に従ったバルーンカテーテルは、肝動脈における微粒子の薬剤放出のために適切に寸法決めすることができる。
バルーンを形成するのに適した材料には、例えばポリエーテルブロックアミド(例えば、PEBAX(登録商標))、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、およびポリウレタン等が含まれる。
【0039】
以上、本願の特定の実施形態について説明した。しかしながら、本願はこれらの実施形態に限定されず、むしろ、本明細書に明示的に記載された事項に対する追加や修正も、本願の範囲内に含まれることが意図されていることは明らかである。また、本明細書に記載された様々な実施形態の特徴は、互いに排他的なものではなく、この組み合わせおよび置き換えが本明細書に明示されていなくても、本願の意図および範囲から逸脱することなく、様々な組み合わせおよび置き換えを行うことができることが理解されるべきである。実際、当業者は、本願の意図および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された事項についての変形、修正、および他の実装に想到することができるであろう。このように、本願は先の例示的な説明によってのみ定義されるものではない。
図1
図2A
図2B