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特許7281571フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20230518BHJP
   G01M 13/028 20190101ALI20230518BHJP
【FI】
G01M7/02 Z
G01M13/028
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022042448
(22)【出願日】2022-03-17
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】596016557
【氏名又は名称】上銀科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】陳賢佑
(72)【発明者】
【氏名】邱▲イク▼▲ショウ▼
(72)【発明者】
【氏名】鄭志鈞
(72)【発明者】
【氏名】程文男
(72)【発明者】
【氏名】劉濟銘
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-248595(JP,A)
【文献】特開2018-194303(JP,A)
【文献】特開2020-106342(JP,A)
【文献】特許第5574363(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02-7/06,13/00-13/045,99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法であって、
前記フィードシステムはフィードシステムが少なくとも1つの被検出部材を備え、前記各被検出部材は少なくとも1つのサブコンポーネントを含み、プロセッサにより実行し、且つ、
前記サブコンポーネントに前記プロセッサと通信するための検出器を設置するステップ(A)と、
監視モードで前記フィードシステムを振動させ、前記検出器により対応する前記サブコンポーネントの振動を検出すると共に監視振動信号を発信するステップ(B)と、
モーダル解析法により、前記監視振動信号の1セットの監視固有値及び1セットの監視固有ベクトルを計算するステップ(C)と、
モーダル検証法により、前記検出器が対応する前記1セットの監視固有値及び1セットの標準固有値の間の類似性を判断し、及び前記検出器が対応する前記1セットの監視固有ベクトルと1セットの標準固有ベクトルの間の類似性を判断し、前記1セットの標準固有ベクトルと前記1セットの標準固有ベクトルはデジタルツインモデルの標準動的特性であり、前記デジタルツインモデルは前記少なくとも1つの被検出部材に対して構築されるステップ(D)と、
前記検出器が対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルとそれぞれ類似しないと判断した場合、前記検出器が対応する前記サブコンポーネントの動的特性に偏差が発生したと判定するステップ(E)と、を含むことを特徴とするフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法。
【請求項2】
前記デジタルツインモデルは1セットの第一初期固有値及び1セットの第一初期固有ベクトルに対応し、前記1セットの第一初期固有値及び前記1セットの第一初期固有ベクトルは前記フィードシステムに装設されていない前記少なくとも1つの被検出部材に対して前記デジタルツインモデルを構築する際に発生し、且つ前記デジタルツインモデルの前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルは、
初期モードで前記フィードシステムを振動させ、且つ前記検出器が対応する前記サブコンポーネントの振動を検出すると共に初期振動信号を発信し、前記初期モードとは出荷されたばかりの前記少なくとも1つの被検出部材が前記監視モードに進む前の前記フィードシステムに装設される段階を指すステップ(F)と、
前記モーダル解析法により、前記初期振動信号の1セットの第二初期固有値及び1セットの第二初期固有ベクトルを計算するステップ(G)と、
最適化方法により、前記検出器が対応する前記1セットの第一初期固有値、前記1セットの第一初期固有ベクトル、前記1セットの第二初期固有値、及び前記1セットの第二初期固有ベクトルに基づいて、前記検出器が対応する前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルを推定するステップ(H)と、を経て発生することを特徴とする請求項1に記載のフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法。
【請求項3】
前記ステップ(H)は下記数式により実行し、
【請求項4】
前記1セットの監視固有値が監視閾値より小さいか否かを判断するステップ(I)と、
前記1セットの監視固有値が前記監視閾値より小さい場合、前記検出器が対応する前記サブコンポーネントに異常が発生したと判定するステップ(J)と、を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法。
【請求項5】
前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルとそれぞれ類似しないと判断した場合、前記フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法は、
最適化方法により、前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルに基づいて前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルを更新し、且つ更新した前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルを前記デジタルツインモデルの更新動的特性と定義するステップ(K)を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態検出システムの分野に関し、更に詳しくは、フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機械の製造では、製造装置の最適化が特に重要である。そこで、従来の特許文献では、例えば、特許文献1には、機械装置のデジタルツインモデルを利用して機械装置の制御器の内部データを調節することにより、この機械装置を最適化する技術が記載されている。然しながら、この技術は装置の加工関連データしか読み取れず、装置の部材に異常があるかどうかを診断することは出来なかった。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、自動化設備とそのデジタルツインとの間の偏差を鑑定する方法が記載されている。この方法は加工材料本体に架設されているセンサーにより温度、速度、加速度等のパラメータを監視し、その後に検出結果と事前にシミュレートしたデジタルツインデータとを比較し、センサーの結果とシミュレーションデータとの間に差異が発見された場合、自動化設備中でこの加工品に異常が出現したステージを識別する。然しながら、この方法では異常が発生した原因及び伝動部材システムの動的特性が劣化したかどうかを把握することはできなかった。
【0004】
なお、例えば、特許文献3には、工作機械の健康状態監視方法が記載されている。この方法は製造設備を振動させると同時に、センサーにより収集したデータを利用して健康固有クラスタ(変位伝達率、固有振動数等を含む)を構築し、このクラスタを機械装置の健康状態を判断する根拠としている。然しながら、この方法では機械装置にあるどの部材に異常が発生したのか正確には分からず、感度不足であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/053083A1号
【文献】中国特許出願公開第112446104A号明細書
【文献】米国特許出願公開第2021/0123830号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の技術では、機械装置にある各部材の状態の変化をリアルタイムで監視できないため、通常は完成品のサイズに不良があったり、機械装置が異常なノイズを発した段階になって初めて機械装置の異常が見つかった。その後、実稼働モーダル解析(Operational Modal Analysis、OMA)技術により機械装置にあるどの部材に異常が発生したか実験を行うため、時間と労力がかかり、実験データも通用しなかった。
【0007】
そこで、本発明者は上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものである。本発明の第一の目的は、監視者がフィードシステム中の各重要部材(即ち、サブコンポーネント)の動的特性の変化を遠隔から監視できるようにするフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第二の目的は、監視者が各重要部材の動的特性に偏差や異常が発生したかどうかを即時知ることができ、異常が発生した重要部材に対し即時適切な処置を施すことができるようにするフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第三の目的は、、異常が発生した重要部材を高速に検出し、製造ラインの作業を停滞させる障害を排除するのに掛かる時間を短縮するフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の第四の目的は、被検出部材に対応する標準デジタルツインモデルを異なる仕様のフィードシステムに適用可能にするフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題と他の目的を解決するために、本発明のある態様のフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法は、前記フィードシステムはフィードシステムが少なくとも1つの被検出部材を備え、前記各被検出部材は少なくとも1つのサブコンポーネントを含み、プロセッサにより実行する。また、前記サブコンポーネントに前記プロセッサと通信するための検出器を設置するステップ(A)と、監視モードで前記フィードシステムを振動させ、前記検出器により対応する前記サブコンポーネントの振動を検出すると共に監視振動信号を発信するステップ(B)と、モーダル解析法により、前記監視振動信号の1セットの監視固有値及び1セットの監視固有ベクトルを計算するステップ(C)と、モーダル検証法により、前記検出器が対応する前記1セットの監視固有値及び1セットの標準固有値の間の類似性を判断し、前記検出器が対応する前記1セット監視固有ベクトルと1セットの標準固有値の間の類似性を判断し、前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルはデジタルツインモデルの標準動的特性であり、前記デジタルツインモデルは前記少なくとも1つの被検出部材に対して構築されるステップ(D)と、前記検出器が対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルとそれぞれ類似しないと判断した場合、前記検出器が対応する前記サブコンポーネントの動的特性に偏差が発生したと判定するステップ(E)と、を含む。
【0013】
本発明の一態様において、前記デジタルツインモデルは1セットの第一初期固有値及び1セットの第一初期固有ベクトルに対応し、前記1セットの第一初期固有値及び前記1セットの第一初期固有ベクトルは前記フィードシステムに装設されていない前記少なくとも1つの被検出部材に対して前記デジタルツインモデルを構築する際に発生する。また、前記デジタルツインモデルの前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルは、初期モードで前記フィードシステムを振動させ、且つ前記検出器が対応する前記サブコンポーネントの振動を検出すると共に初期振動信号を発信し、前記初期モードとは出荷されたばかりの前記少なくとも1つの被検出部材が前記監視モードに進む前の前記フィードシステムに装設される段階を指すステップ(F)と、前記モーダル解析法により、前記初期振動信号の1セットの第二初期固有値及び1セットの第二初期固有ベクトルを計算するステップ(G)と、最適化方法により、前記検出器が対応する前記1セットの第一初期固有値、前記1セットの第一初期固有ベクトル、前記1セットの第二初期固有値、及び前記1セットの第二初期固有ベクトルに基づいて、前記検出器が対応する前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルを推定するステップ(H)と、を経て発生する。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、前記ステップ(H)は下記数式により実行し、
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、前記フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法は、前記1セットの監視固有値が監視閾値より小さいか否かを判断するステップ(I)と、前記1セットの監視固有値が前記監視閾値より小さい場合、前記検出器が対応する前記サブコンポーネントに異常が発生したと判定するステップ(J)と、を更に含む。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態では、前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルとそれぞれ類似しないと判断した場合、前記フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法は、最適化方法により、前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルに基づいて前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルを更新し、且つ更新した前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルを前記デジタルツインモデルの更新動的特性と定義するステップ(K)を更に含む。
【0017】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る初期モードにおいて、デジタルツインモデルの標準的な動的特性を確立するための方法のフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る監視モードにおいて、動的特性の偏差と異常を監視する方法のフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係るフィードシステムが検出器を設置する状態をある視角から見た概略図である。
図5】本発明の一実施形態に係るフィードシステムが検出器を設置する状態を他の視角から見た概略図である。
図6】本発明の一実施形態に係る作業台のスライダーの剛性値に対する固有振動数を示す関係曲線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施例に係るフィードシステムの動的特性の偏差を検出するシステム1(以下、システム1と略する)はフィードシステム2の動的特性の偏差を検出する方法に応用される(図1乃至図5参照)。このフィードシステム2は少なくとも1つの線形モジュール21を備え、各線形モジュール21は複数の部材を含み、制限しないが、例えば、作業台22及び少なくとも1つのリニア伝動装置を含む。図4に示す実施例では、リニア伝動装置の数量は3つであり、それぞれボールねじ23及び2つの線形ガイドウェイ24である。ボールねじ23は複数のサブコンポーネントを備え、それぞれねじ棒(screw rod)231及びナット232である。また、各線形ガイドウェイ24は複数のサブコンポーネントを具備し、それぞれレール241及び作業台22に装設されると共にレール241に可動に覆設される2つのスライダー242である。各部材は共に動的特性を有し、制限しないが、例えば、質量、減衰振動、及び剛性である。本実施例では、2つの線形ガイドウェイ24を被検出部材として4つのスライダー242の剛性の偏差を確認する例について説明する。
【0021】
このシステム1は制限しないが、例えば、サーバー10と、少なくとも1つの検出器11と、振動装置12と、を備えている。サーバー10はプロセッサ13及びプロセッサ13に電気的に接続されているストレージ14を含む。
【0022】
サーバー10には複数のソフトウェアがインストールされており、これにより、プロセッサ13及びストレージ14がソフトウェアの動作中にコントロールユニット131と、モーダル解析ユニット132と、標準確立ユニット133と、類似性判断ユニット134と、異常判断ユニット135と、モデル更新ユニット136と、データベース141と、を含むように配置されている。コントロールユニット131はモーダル解析ユニット132と通信し、モーダル解析ユニット132は標準確立ユニット133と通信し、類似性判断ユニット134は異常判断ユニット135と通信し、異常判断ユニット135はモデル更新ユニット136と通信する。これらのユニットはデータベース141と通信し、データベース141へアクセスする。コントロールユニット131も検出器11及び振動装置12と通信し、検出器11及び振動装置12の動作を制御する。
【0023】
制限しないが、データベース141には、例えば、アルゴリズム、閾値、及び各種対応関係に関するデータが保存されている。各種対応関係は制限しないが、例えば、剛性値及び固有振動数の対応関係、材質及び密度の対応関係、材質及びヤング率の対応関係、及び検出器11及び検出器11がある被検出物品(部材)のサブコンポーネントの対応関係である。データベース141には各部材の関連データも保存され、制限しないが、例えば、部材のサイズデータ、材質データ、位置データ、既定剛性値、及びその対応関係等である。サイズデータは制限しないが、例えば、システム1にインストールされたグラフィックソフトウェア(制限しないが、例えば、AutoCAD)により部材の三次元部材画像を描画した際に構築または設定される。位置データは制限しないが、例えば、有限要素法(Finite Element Method、FEM)または連続体法(Continuum Mechanics)により、三次元部材画像から画素座標をサンプリングすることで取得する。位置データはフィードシステム2におけるこの部材の他の部材との相対的位置に関連している。
【0024】
本実施例では、スライダー242A~242Dの剛性の偏差を検出するため、検出器11の数量は4つ設置し、即ち、検出器11A~11Dを設置し、且つ作業台22の底面にあるスライダー242A~242Dにそれぞれ設置する(図4参照)。然しながら、本発明はこの実施態様に限られない。制限しないが、例えば、検出器11はスライダー242A~242Dの振動により作業台22の振動を検出するために配置する加速度計でもよい。振動装置12がフィードシステム2を振動するために配置され、作業台22が外力を受けて振動する。振動装置12は制限しないが、例えば、タップ(knock)またはモーターにより駆動する方式でフィードシステム2を振動する。
【0025】
以下、例を挙げて2つの線形ガイドウェイ24の剛性の偏差を検出する方法について説明する。この検出方法では、プロセッサ13がまず初期モードに進み、仮想動的特性の標準を確立した後に監視モードに進み、この標準に基づいて動作開始後のスライダー242A~242Dの動的特性に偏差または異常が発生したかどうかを定期的または不定期に監視する。初期モードとは、工場から出荷されたばかりの(すなわち、新品)2つの線形ガイドウェイ24(即ち、被検出部材)が監視モードに進む前のフィードシステム2に装設された段階を指す。監視モードとは、装設が完了したフィードシステム2が動作を開始し、監視が必要になった段階を指す。
【0026】
図1図2を併せて参照し、初期モードにおいて、仮想動的特性の標準を確立する方法は制限しないが、例えば、下記ステップを含む。
【0027】
まず、ステップS11において、2つの線形ガイドウェイ24のスライダー242A~242Dが作業台22の底面に固定され、スライダーの予圧がフィード構造(2つの線形ガイドウェイ24が並設されている作業台22)の振動モーダルに程度の異なる影響を与えるため、モーダル解析ユニット132がデジタルツインモデルを構築するための参照物体としてスライダー242A~242Dが分布されている作業台22を選択し、且つデータベース141から作業台22のサイズデータ(制限しないが、例えば、長さ、幅、及び高さ)、材質データ、及び位置データを取得し、且つスライダー242の剛性値の範囲を取得すると共にこれらのデータに基づいて、ストレージ14内に保存されているソフトウェア(制限しないが、例えば、コンピューター支援エンジニアリング(Computer Aided Engineering、CAE)ソフトウェア(制限しないが、例えば、ANSYSが販売している解析ソフトウェア))により、フィードシステム2に装設されていない2つの線形ガイドウェイ24に対し、作業台22のデジタルツインモデルを構築すると共に1セットの第一初期固有値及び1セットの第一初期固有ベクトルを算出し、このデジタルツインモデルの初期動的特性とする。第一初期固有値はデジタルツインモデルの初期固有振動数であり、第一初期固有ベクトルはデジタルツインモデルの初期モーダルである。この際のデジタルツインモデルは未補正の初期デジタルツインモデルであり、このため、その初期動的特性はフィードシステム2に装設されている2つの線形ガイドウェイ24の実際の動的特性とは僅かに異なっている。初期デジタルツインモデル及びその初期動的特性は共にデータベース141に保存され、後続の検索に使用する。
【0028】
また一方で、ステップS12では、検出器11A~11Dをスライダー242A~242Dにそれぞれ装設する(図4図5参照)。
【0029】
次いで、ステップ13では、初期モードにおいて、コントロールユニット131により振動装置12を制御することで振動を静止したフィードシステム2が、スライダー242A~242Dを振動させる。同時に、コントロールユニット131が4つの検出器11を制御してスライダー242A~242Dの振動を検出し、この4つの検出器11が対応するように4つの初期振動信号を発信し、且つコントロールユニット131に返信する。
【0030】
その後、ステップS14において、コントロールユニット131がこの4つの初期振動信号をモーダル解析ユニット132に供給し、モーダル解析ユニット132はストレージ14内に保存されているソフトウェア(制限しないが、例えば、CAEソフトウェア)を使用し、モーダル解析法により各初期振動信号を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform、FFT)を経て時間領域信号から周波数領域信号に変換し、各初期振動信号の1セットの第二初期固有値及び1セットの第二初期固有ベクトルを算出する。第二初期固有値及び第二初期固有ベクトルはそれぞれフィードシステム2に装設されている作業台22の実際の固有振動数及び実際のモーダルである。モーダル解析法は制限しないが、例えば、実験モーダル解析法や実稼働モーダル解析である。
【0031】
最後に、ステップS15において、標準確立ユニット133がモーダル解析ユニット132から各検出器11の初期振動信号の前記1セットの第二初期固有値及び前記1セットの第二初期固有ベクトルを取得し、データベース141から前記1セットの第一初期固有値及び前記1セットの第一初期固有ベクトルを取得した後、ストレージ14内に保存されているソフトウェア(制限しないが、例えば、CAEソフトウェア)を使用し、最適化方法により、前記1セットの第一初期固有値、前記1セットの第一初期固有ベクトル、及び各検出器11が対応する前記1セットの第二初期固有値及び前記1セットの第二初期固有ベクトルに基づいて、各検出器11に対応する1セットの標準固有値及び1セットの標準固有ベクトルを推定する。各検出器11に対応する各セットの標準固有値及び各検出器11に対応する各セットの標準固有ベクトルをデジタルツインモデルの標準動的特性とする。この際のデジタルツインモデルは補正済みの標準デジタルツインモデルであり、その標準動的特性はフィードシステム2に装設されている2つの線形ガイドウェイ24の実際の動的特性に適合する。この標準デジタルツインモデル及びその標準動的特性は標準確立ユニット133によりデータベース141に記録され、且つ標準動的特性と4つの検出器11との対応関係も標準確立ユニット133によりデータベース141に記録され、後続の検索に使用する。
【0032】
デジタルツインモデルの標準動的特性を確立した後、プロセッサ13が監視モードに進み、スライダー242A~242Dの動的特性の偏差及び異常を更に監視する。図1図3に示すように、監視モードにおいて、スライダー242A~242Dの動的特性の偏差及び異常を監視する方法は制限しないが、例えば、下記ステップを含む。
【0033】
まず、ステップS21において、コントロールユニット131が監視モードにおいて、振動装置12を制御することで振動を静止したフィードシステム2が、スライダー242A~242Dを振動させる。同時に、コントロールユニット131が4つの検出器11を制御してスライダー242A~242Dの振動を検出し、この4つの検出器11が対応するように4つの監視振動信号を発信させると共にコントロールユニット131に返信する。
【0034】
次いで、ステップS22において、コントロールユニット131がこの4つの監視振動信号をモーダル解析ユニット132に供給し、モーダル解析ユニット132がストレージ14内に保存されているソフトウェア(制限しないが、例えば、CAEソフトウェア)を使用し、モーダル解析法により、各検出器11が対応する監視振動信号を高速フーリエ変換により時間領域信号から周波数領域信号に変換し、各検出器11の監視振動信号の1セットの監視固有値及び1セットの監視固有ベクトルを算出する。また、モーダル解析ユニット132が各検出器11が対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルをデータベース141に更に記録する。モーダル解析法は制限しないが、例えば、実験モーダル解析法や実稼働モーダル解析である。
【0035】
その後、ステップS23において、類似性判断ユニット134がデータベース141からデジタルツインモデルの標準動的特性(即ち、各検出器11が対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトル)を取得し、データベース141からステップS22において計算により獲得した各検出器11が対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルを取得する。また、類似性判断ユニット134はストレージ14内に保存されているソフトウェア(制限しないが、例えば、CAEソフトウェア)を使用し、モーダル検証法により、同じ検出器11に対応する前記1セットの標準固有ベクトルと前記1セットの監視固有ベクトルとの類似性を判断し、同じ検出器11に対応する前記1セットの標準固有値と前記1セットの監視固有値との類似性を判断する。モーダル検証法は制限しないが、例えば、モード信頼性評価基準である。
【0036】
次いで、ステップS24において、類似性判断ユニット134がステップS23において計算により獲得した類似性と類似性閾値(制限しないが、例えば、0.8)とを比較し、同じ検出器11に対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが、同じ検出器11に対応する前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルにそれぞれ類似しているか否かを判断する。
【0037】
ステップS24において、同じ検出器11に対応する前記1セットの監視固有値と前記1セットの標準固有値との類似性が類似性閾値に等しいかより大きい場合、類似性判断ユニット134は前記1セットの監視固有値が前記1セットの標準固有値に類似していると判定する。同様に、ステップS24において、同じ検出器11に対応する前記組前記1セットの監視固有ベクトルと前記1セットの標準固有ベクトルとの類似性が類似性閾値に等しいかより大きい場合、類似性判断ユニット134は前記1セットの監視固有ベクトルが前記1セットの標準固有ベクトルに類似していると判定する。データベース141に各検出器11と各スライダー242との対応関係が記録されているため、類似性判断ユニット134がステップS25においてステップS24での判断結果に基づいて、前記1セットの標準固有ベクトルに類似している前記1セットの監視固有ベクトルが対応する検出器11が対応するスライダー242の目下の剛性値に偏差が無いと更に判定し、この結果をデータベース141に記録する。
【0038】
反対に、ステップS24において、同じ検出器11に対応する前記1セットの監視固有値と前記1セットの標準固有値との類似性が類似性閾値より小さい場合、類似性判断ユニット134は前記1セットの監視固有値と前記1セットの標準固有値とが類似していないと判定する。同様に、ステップS24において、同じ検出器11に対応する前記1セットの監視固有ベクトルと前記1セットの標準固有ベクトルとの類似性が類似性閾値より小さい場合、類似性判断ユニット134は前記1セットの監視固有ベクトルと前記1セットの標準固有ベクトルとが類似していないと判定する。この際、異常判断ユニット135はステップS26において、データベース141から監視閾値Mを更に取得し、且つ前記1セットの標準固有値と類似していない前記1セットの監視固有値が監視閾値Mより小さいか否かを判断する。
【0039】
ステップS26において、前記1セットの監視固有値が対応する検出器11が対応するスライダー242の目下の動的特性が標準から逸脱しているのみであり、逸脱程度が許容範囲内である場合、異常判断ユニット135がステップS27においてこのスライダー242の目下の剛性値に偏差が発生したと判定し、且つ判定結果をデータベース141に記録する。その後、ステップS28において、モデル更新ユニット136がストレージ14内に保存されているソフトウェア(制限しないが、例えば、CAEソフトウェア)を使用し、最適化方法により、前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルに基づいて、データベース141に記録されているデジタルツインモデル及びその仮想動的特性(即ち、各1セットの標準固有値及び各1セットの標準固有ベクトル)を更新し、且つ更新した各1セットの標準固有値及び更新した各1セットの標準固有ベクトルをデジタルツインモデルの更新動的特性として定義する。
【0040】
反対に、ステップS26において、前記1セットの監視固有値が対応する検出器11が対応するスライダー242の目下の剛性値が標準から逸脱しているのみならず、逸脱程度が許容範囲を超えていた場合、異常判断ユニット135がステップS29においてこのスライダー242の目下の剛性値に異常が発生したと判定し、且つ対応するように異常信号を発信すると共に判定結果をデータベース141に記録する。
【0041】
以下、検出器11A~11Dの例を列挙して説明する。一定時間動作した後の2つの線形ガイドウェイ24のスライダー242A~242Dの摩損程度が異なるため、ステップS24において各検出器11が対応する前記1セットの監視固有値が対応する前記1セットの標準固有値に類似しているか否か判断し、これらスライダー242A~242Dのうちの少なくとも1つのスライダー242の剛性値に偏差が発生したと初期判断し、ステップS24において各検出器11が対応する前記1セットの監視固有ベクトルが対応する前記1セットの標準固有ベクトルに類似しているか否か判断し、スライダー242A~242Dのうちのどのスライダー222の剛性値に偏差が発生したのかを更に的確に判断する。図6にはスライダーの剛性値に対する固有振動数の関係曲線を示し、縦軸は作業台22の異なる固有振動数を示し、横軸は異なるスライダーの剛性値を示し、各固有振動数は1つの剛性値に対応し、固有振動数F1が対応する剛性値R1は工場出荷時の高い予圧のスライダーの剛性値であり、固有振動数F2(即ち、監視閾値M)が対応する剛性値R2は予圧が消失したスライダーの剛性値であり、固有振動数とスライダーの剛性値との対応関はデータベース141に予め保存されている。
【0042】
この例ではステップS24において、検出器11A~11Dの各検出器11が対応する前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが全て前記検出器11が対応する前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルと類似しない場合、各検出器11が対応する前記1セットの監視固有値が全て固有振動数F1より小さいことを示し、検出器11A~11Dが対応するスライダー242A~242Dの剛性値も低下して剛性値R1より低くなる。
【0043】
この例ではステップS26において、検出器11Dが対応する前記1セットの監視固有値が固有振動数F2より小さいのみである場合、検出器11A~11Cが対応するスライダー242A~242Cの剛性値が低下しているが尚も剛性値R2に等しいかそれより大きいことを示し、検出器11Dが対応するスライダー242Dの剛性値が剛性値R2より低くなるまで低下しており、スライダー242Dの剛性値の低下幅が許容範囲を超えているため、スライダー242Dが異常状態にある。この際、異常判断ユニット135はこのスライダー242Dに対応する異常信号を発信し、これにより異常のある部材を高速に検索する。
【0044】
一方、各時間点で取得した監視情報(即ち、毎回獲得した各1セットの監視固有値及び各1セットの監視固有ベクトルとその検出結果)がプロセッサ13と通信するユーザーインターフェース(図示省略)に表示されると、監視者がスライダー242A~242Dの前記時間点における状態を即時把握でき、これによりスライダー242(例えば、スライダー242D)に異常が発生した場合、この異常が発生したスライダー242Dを即時交換可能になる。このほか、上述のステップS24~S27及びS29により、監視者が作業台22に装設されているスライダー242A~242Dのうちの少なくとも1つのスライダー242が損壊して交換する必要があることを知ることができるのみならず、監視者はどのスライダー242が交換する必要があるのか正確に知ることができる。このユーザーインターフェースはサーバー10に電気的に接続されている表示装置及びサーバー10に遠隔から接続されているコンピューター装置の表示装置に表示される。これにより、近接及び遠隔から監視する目的を達成する。
【0045】
上述の各実施例は2つの線形ガイドウェイ24を被検出部材としているが、然しながら、本発明はこれに限られない。他の実施例では、ボールねじ23を被検出部材としてもよい。ステップS11においてねじ棒231をデジタルツインモデルを構築するための参照物体として選択し、データベース141に予め保存されているナット232(即ち、サブコンポーネント)の剛性値の範囲、ねじ棒231のサイズデータ、材質データ、及び位置データを利用してデジタルツインモデルを構築し、このデジタルツインモデルの1セットの第一初期固有値及び1セットの第一初期固有ベクトルを算出する。その後、ステップS12~S15及びステップS21~28によりナット232の剛性値の変化を即時監視し、検出器11はナット232に装設されている。
【0046】
このほか、上述のように構築した各デジタルツインモデルは異なる仕様のフィードシステムにも適用可能であり、且つ本発明に係るフィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法も異なる仕様のフィードシステムに適用可能である。
【0047】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 フィードシステムの動的特性の偏差を検出するシステム
10 サーバー
11 検出器
11A 検出器
11B 検出器
11C 検出器
11D 検出器
12 振動装置
13 プロセッサ
131 コントロールユニット
132 モーダル解析ユニット
133 標準確立ユニット
134 類似性判断ユニット
135 異常判断ユニット
136 モデル更新ユニット
14 ストレージ
141 データベース
2 フィードシステム
21 線形モジュール
22 作業台
23 ボールねじ
231 ねじ棒
232 ナット
24 線形ガイドウェイ
241 レール
242 スライダー
242A スライダー
242B スライダー
242C スライダー
242D スライダー
M 監視閾値
F1 固有振動数
F2 固有振動数
R1 剛性値
R2 剛性値
【要約】      (修正有)
【課題】フィードシステムの動的特性の偏差を検出する方法を提供する。
【解決手段】監視モードで前記フィードシステムを振動させ、前記フィードシステムの被検出部材のサブコンポーネントの振動を検出し、監視振動信号を発信するステップと、モーダル解析法により前記監視振動信号の1セットの監視固有値及び1セットの監視固有ベクトルを計算するステップと、モーダル検証法により前記1セットの監視固有値及びデジタルツインモーダルの1セットの標準固有値の間の類似性を判断し及び前記1セットの監視固有ベクトルと前記デジタルツインモデルの1セットの標準固有ベクトルの間の類似性を判断するステップと、前記1セットの監視固有値及び前記1セットの監視固有ベクトルが前記1セットの標準固有値及び前記1セットの標準固有ベクトルとそれぞれ類似しないと判断した場合、前記サブコンポーネントの動的特性に偏差が発生したと判定するステップと、を含む。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6