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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】反毛綿と原綿を混合使用したパイル糸
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20230518BHJP
   A47L 23/22 20060101ALI20230518BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A47L13/16 A
A47L23/22
D02G3/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022075772
(22)【出願日】2022-05-02
(62)【分割の表示】P 2018054578の分割
【原出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2022106893
(43)【公開日】2022-07-20
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000133445
【氏名又は名称】株式会社ダスキン
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(72)【発明者】
【氏名】中岡 蒔
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-290838(JP,A)
【文献】特開平07-011536(JP,A)
【文献】実開昭59-095969(JP,U)
【文献】特公昭39-004535(JP,B1)
【文献】特開昭57-177729(JP,A)
【文献】特公昭48-009816(JP,B1)
【文献】特開2004-113478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
A47L 23/22
D02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布団綿を除く屑綿繊維が反毛機で再生された反毛綿繊維であって、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維を使用し、原綿繊維と前記反毛綿繊維とが混紡された反毛綿含有綿繊維を用いて構成し、
前記反毛綿含有綿繊維の全重量に対する前記反毛綿繊維の重量比は10wt%~30wt%であり、
前記反毛綿含有綿繊維を紡績して反毛綿含有綿紡績糸とし、
複数本の前記反毛綿含有綿紡績糸が1本以上の熱融着糸を介して撚成状態で融着されたパイル糸。
【請求項2】
前記反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、前記反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維と前記コーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、前記反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率は前記コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下である請求項1に記載のパイル糸。
【請求項3】
前記反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、前記反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維と前記コーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、前記反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率は前記コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率の70%以下である請求項1又は2に記載のパイル糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来から廃棄されていた屑綿繊維を原綿繊維に添加して再利用した払拭体のエコ製品に関し、特に詳細には、屑綿繊維と原綿繊維を混合使用して構成されたパイル糸及びモップやマット等の払拭体に関する。
トに関する。
【背景技術】
【0002】
エコモップに直接関連する従来技術として特許文献1(特許3746749号公報)の「ダストコントロール用モップ糸及びその製造方法」が存在する。その請求項1から分かるように、「紡績工程上発生する短繊維、落綿、あるいは紡績工程上や織布工程上において発生する糸屑を反毛工程によって再度紡績可能な繊維状態に還元することにより形成された綿から成る未利用繊維と、該未利用繊維よりも繊維長の長い補強用化学繊維と、低融点のバインダー合成繊維とが混綿されたスライバーを精紡して得た単糸または該単糸の撚糸から成り、該単糸の中または該撚糸の中の繊維同士が上記バインダー合成繊維の溶融物により互いに結合、融着されている」ことによりダストコントロール用モップ糸が提供される。
しかし、短繊維である未利用繊維を補強用化学繊維と混綿するから綿繊維100%で構成された綿モップを製造することができない。このことは、その段落[0004]、[0009]及び[0020]に綿紡方式でないと強力に主張されており、綿繊維100%で構成された綿モップ等の綿払拭体を除外する旨が言明されている。また、低融点のバインダー合成繊維(所謂、熱融着糸)も混綿するためには短繊維状の熱融着糸を用いることになり、長繊維の熱融着糸を使用する場合と比べて製造工程に手間が掛かるためエコモップでありながら高価になる欠点がある。
【0003】
特許文献2(特開平4-281055号公報)は「廃繊維とポリマー繊維綿を使用した不織布ウエス製品」に関する。その発明の名称と要約から分かるように、反毛化した廃繊維(再生繊維)にポリオレフィン系ポリマー繊維綿を混合して、高温にて加熱して繊維の融着結合を強化し、ニードル・パンチングを施して圧縮成形することで不織布ウエス製品を提供するものである。
従って、ポリオレフィン系ポリマー繊維綿を混合するから綿繊維100%で構成された綿モップ等の払拭体を製造することができず、しかも不織布ウエス製品であるからパイルを有したモップやマット等の払拭体を製造することは不可能である。
【0004】
特許文献3(特開平7-48780号公報)は「自動車内装材の製造方法」に関する。その発明の名称と要約から分かるように、原料繊維はポリエステル反毛綿を主成分とする反毛綿とポリプロピレン綿からなり、フェルト製造工程におけるウェッブ形成と記載されるように、不織布であって全てが合成繊維から構成されていることが明らかである。
従って、綿繊維100%で構成された綿モップや綿マットを製造することができず、しかも不織布ウエス製品であるからパイルを有した払拭体を製造することはできない。
【0005】
特許文献4(特開2006-225814号公報)は「ムラ糸の製造方法」に関する。その要約に記載されているように、コーマ落綿などの短い繊維を多く含む原綿からカードスライバーを形成すると記載され、その請求項1、2及び3から、少なくとも一部にコーマ落綿を含む原綿とあるから、原綿繊維にコーマ落綿繊維を含有した原綿を使用している。
しかし、その段落[0002]にあるように、自然な太細ムラのある糸は市場で人気があり、発明の名称から、太細ムラのある「ムラ糸の製造方法」が特許文献4の目的である
。そのためにコーマ落綿を使用しているのであり、その段落[0043]にはコーマ落綿の混合割合は50~100%の範囲で使用可能であると記載され、大量のコーマ落綿を使用した綿100%のムラ糸を製造することを前提としている。
本願発明者等の研究によれば、通常のコーマ落綿は繊維長が20mm以下の短繊維を60wt%以上も含有している。本願発明者等が研究過程で使用したコーマ落綿は繊維長20mm以下の短繊維が63.8wt%も含有されていた。そして、このコーマ落綿を20wt%の重量比で80wt%の原綿に混合して紡績糸を形成し引張強度を測定した。その結果、引張強度である紡績糸強力が4.89kgと小さく最低強力でも4.35kgであり、過大な引張力が作用すると糸切れが生じる可能性があることが分かった。
従って、本願発明では、コーマ落綿に替えて、繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維を使用して原綿に混入させることにより、コーマ落綿の混入よりも紡績糸強力と最低強力の増大化に成功したものである。
【0006】
特許文献5(特開2007-16328号公報)は「ムラ糸の製造方法及びそのムラ糸を用いた織編物」に関する。特許文献4と同様に、その要約にはコーマ落綿などの短い繊維を多く含む原綿と記載されている。また、その段落[0016]には、コーマ落綿などの繊維長が5mm~15mm未満のものと記載され、本願発明者等が研究で使用したコーマ落綿よりも一層に短い短繊維を大量に含有したコーマ落綿が使用されている。
従って、このコーマ落綿を原綿に混合した紡績糸では、紡績糸強力や最低強力が上述よりも一層に小さくなり、清掃時に過大な摩擦力や引張力を受けるモップやマットのパイルに使用されると、その摩擦力や引張力により糸切れが生じることは明らかである。
【0007】
特許文献6(特開2000-290838号公報)は「布団綿を用いた紡績糸の製造方法」に関する。その請求項1と請求項6から、反毛工程で得られた反毛繊維に新綿やリサイクルコットン等からなる補助原料繊維を混入した紡績糸であることが記載されている。また、その段落[0003]には、布団綿に用いられる綿は繊維屑として除去された非常に繊維長の短い繊維であると記載されている。更に、その段落[0010]には、補助原料繊維の繊維長の例示として、60mm~150mm程度と記載されている。
しかしながら、特許文献6には、反毛綿繊維の繊維長は非常に繊維長の短い繊維であるとしか記載されておらず、具体的な数値は不明である。この点が本願発明とは全く異なる。本願発明の反毛綿繊維では、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維に限定される。このことにより、本願発明の紡績糸では、紡績糸強力や最低強力がコーマ落綿をエコ使用した場合よりも確実に増大させることができる。また、清掃時に過大な摩擦力や引張力を受けるモップやマットのパイルに使用されても、その摩擦力や引張力により糸切れが生じることが無くなり、払拭体の耐久性を格段に向上させることができるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許3746749号公報
【文献】特開平4-281055号公報
【文献】特開平7-48780号公報
【文献】特開2006-225814号公報
【文献】特開2007-16328号公報
【文献】特開2000-290838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、短繊維の未利用繊維を補強用化学繊維と混綿するから綿繊維100%の払拭体を製造できない。また、短繊維状の熱融着糸を用いるから、製造工程に手間が掛
かり高価なエコモップになる欠点がある。
また、特許文献2では、反毛廃繊維にポリオレフィン系ポリマー繊維綿を混合するから綿繊維100%の払拭体を製造できず、しかもパイルを有したモップやマット等の払拭体を製造できない。
更に、特許文献3は、ポリエステル反毛綿とポリプロピレン綿からなるウェッブであり、綿繊維100%で構成された払拭体を製造できず、しかも不織布ウエス製品であるからパイルを有した払拭体を製造することはできない。
【0010】
特許文献4は、通常、繊維長20mm以下の短繊維を60wt%以上も含有しているコーマ落綿を大量に含有した綿100%のムラ糸を製造するものであり、その紡績糸強力や最低強力が小さいため、過大な引張力や摩擦力を受けるパイル払拭体では糸切れが生じる可能性がある。
また、特許文献5では、繊維長が5mm~15mm未満の極短のコーマ落綿を使用しているため、紡績糸強力や最低強力がより一層に小さくなり、清掃時に過大な摩擦力や引張力を受けるモップやマットのパイルへの使用は困難である。
更に、特許文献6では、例えば反毛綿繊維に原綿繊維などからなる補助原料繊維を混入した紡績糸が開示されているが、反毛綿繊維は非常に短い繊維であるとしか記載されておらず、具体的な数値は全く不明である。従って、パイル糸にした場合にパイル強度などが不明であり、清掃時に過大な摩擦力や引張力を受けるモップやマットのパイルに適用することが困難である。
【0011】
従って、本発明の第1目的は、屑綿繊維が反毛機で再生された反毛綿繊維であって、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維を使用し、原綿繊維と反毛綿繊維とが混紡された反毛綿含有綿繊維を用いて構成された払拭体を提供することであり、また反毛綿含有綿繊維を紡績して得られた反毛綿含有綿紡績糸を用いてパイル糸を構成した払拭体及び該パイル糸を提供することである。
その結果、反毛綿含有綿紡績糸の紡績糸強力は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸の紡績糸強力と比較して1.2倍以上である払拭体を提供することである。
【0012】
本発明の第2目的は、複数本の反毛綿含有綿紡績糸が1本以上の熱融着糸を介して撚成状態で融着形成された綿繊維100%からなるパイル糸を用いてパイルを構成した払拭体及び該パイル糸を提供することである。
その結果、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度また融着剥離方向のパイル強度の夫々は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸のパイル糸と比較して、1.1倍以上また1.06倍以上になる。
【0013】
本発明の第3目的は、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率及び撚り数の減少率の夫々は、コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下及び撚り数の減少率の70%以下である払拭体及び該パイル糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、屑綿繊維が反毛機で再生された反毛綿繊維であって、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反
毛綿繊維を使用し、原綿繊維と前記反毛綿繊維とが混紡された反毛綿含有綿繊維を用いて構成した払拭体、又は、パイル糸である。
【0015】
本発明の第2の形態は、反毛綿含有綿繊維を紡績して反毛綿含有綿紡績糸とし、反毛綿含有綿紡績糸を用いてパイル糸を構成した払拭体、又は、該パイル糸である。
【0016】
本発明の第3の形態は、複数本の前記反毛綿含有綿紡績糸が1本以上の熱融着糸を介して撚成状態で融着されたパイル糸を用いてパイルを構成した払拭体、又は、該パイル糸である。
【0017】
本発明の第4の形態は、反毛綿含有綿繊維の全重量に対する反毛綿繊維の重量比は10wt%~30wt%である払拭体、又は、該パイル糸である。
【0018】
本発明の第5の形態は、パイルがモップパイル又はマットパイルである払拭体、又は、該パイル糸である。
【0019】
本発明の第6の形態は、反毛綿含有綿紡績糸の紡績糸強力は、前記反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、前記原綿繊維と前記コーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸の紡績糸強力と比較して1.2倍以上である払拭体、又は、該パイル糸である。
【0020】
本発明の第7の形態は、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度と比較して1.1倍以上である払拭体、又は、該パイル糸である。
【0021】
本発明の第8の形態は、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し原綿繊維と前記コーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度と比較して1.06倍以上である払拭体、又は、該パイル糸である。
【0022】
本発明の第9の形態は、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸に、同量の砂埃を担持させてパイル糸を振動させた後パイル糸に残留する砂埃の保持率を測定したとき、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率の1.02倍以上である払拭体、又は、該パイル糸である。
【0023】
本発明の第10の形態は、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下である払拭体、又は、該パイル糸である。
【0024】
本発明の第11の形態は、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率の70%以下である払拭体、又は、該パイル糸である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の形態によれば、屑綿繊維が反毛機で再生された反毛綿繊維であって、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維を使用し、原綿繊維と前記反毛綿繊維とが混紡された反毛綿含有綿繊維を用いて構成した払拭体、又は、パイル糸が提供できる。
本形態の反毛綿繊維は屑綿繊維が反毛機によって再生された再利用綿繊維であり、極めて短い短繊維は除かれており、しかも反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比は50wt%以下に低減されている点に特徴を有している。即ち、極短繊維が除かれ、且つ20mm以下の短繊維含有率が50wt%以下に極限されているから、短繊維に起因する糸切れ現象が極力抑制されている。
また、本発明における原綿とは、綿花から種子を除いた繰綿のうち紡績用に回される綿であり紡績業界で通称される原綿に相当し、原綿繊維とは原綿を構成する繊維を指称する。
払拭体には綿製払拭体と合繊払拭体と綿合繊混合払拭体が存在するが、本発明は綿繊維100%の払拭体である。旧来から原綿繊維100%で作成した原綿払拭体が使用されてきたが、比較的高価であるとともに、紡績途中でなどで生じる屑繊維を廃棄する無駄を行ってきた。近年、天然繊維や合成繊維などの屑繊維を反毛再生して原繊維に混合したエコ払拭体が製造されている。特許文献1は合繊払拭体の中で開発されたエコ払拭体を示している。
それに対し、本発明は、綿繊維100%であり、しかも本発明では屑綿繊維を反毛再生した反毛綿繊維を原綿繊維に混合させた綿繊維100%のエコ払拭体として市場に初めて提供するものである。しかも、反毛綿繊維における繊維長20mm以下の短繊維含有率を反毛綿繊維の全重量に対し50wt%以下に限定することによって、通常のモップやマットなどの払拭体でパイルとして使用したときの糸切れの発生を防止でき、紡績糸としての引張強度である紡績糸強力の高い耐久性のある払拭体を提供することに成功した。
【0026】
本発明の第2の形態によれば、反毛綿含有綿繊維を紡績して反毛綿含有綿紡績糸とし、反毛綿含有綿紡績糸を用いてパイル糸を構成した払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
第1形態で構成された原綿繊維と反毛綿繊維とが混合された反毛綿含有綿繊維を用意し、この反毛綿含有綿繊維から通常の紡績工程を経て反毛綿含有綿紡績糸を形成し、この反毛綿含有綿紡績糸を用いてパイル糸を形成し、このパイル糸によりパイルを構成した払拭体が製造される。
払拭体のパイルは被清掃面に対して何回も摩擦されて、その結果被清掃面が清掃されるのであり、その摩擦過程でパイルには過度の引張力が作用し、所謂糸切れが生じやすい。本発明では、20mm以下の短繊維含有率が50wt%以下に極限された反毛綿を混合しているから、引張力に対して抵抗性を有したパイル糸が形成され、糸切れを防止できる払拭体が提供される。
【0027】
本発明の第3の形態によれば、複数本の前記反毛綿含有綿紡績糸が1本以上の熱融着糸を介して撚成状態で融着されたパイル糸を用いてパイルを構成した払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
本形態では、複数本の反毛綿含有綿紡績糸が1本以上の熱融着糸と共に引き揃えられ、
これらの束糸を撚成しながら走行させて、高温液体中に浸漬する。これによって熱融着糸が融解してその融液が束糸の隙間に浸透して束糸が一体に固定されたパイル糸が形成される。このパイル糸からパイルが形成された払拭体が成形される。複数本の反毛綿含有綿紡績糸が1本以上の熱融着糸と共に引き揃得られて撚成融着されるだけであるから、効率的にパイル糸を提供でき、パイルの形成も容易にでき、安価に払拭体を提供できる特徴がある。
【0028】
本発明の第4の形態によれば、反毛綿含有綿繊維の全重量に対する反毛綿繊維の重量比は10wt%~30wt%である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
前述したように、本発明の特徴は、繊維長が20mm以下の短繊維含有率が50wt%以下に極限された反毛綿繊維を原綿繊維に混合していることであり、更に本形態では、この反毛綿繊維を反毛綿含有綿繊維の全重量に対し重量比で10wt%~30wt%の範囲で含有した払拭体を提供することである。
反毛綿繊維が10wt%以下では、原綿繊維の含有率が90wt%以上と増大するためにエコ性が低下して価格もそれほど低下せず、反毛綿繊維が30wt%以上では、原綿繊維の含有率が70wt%以下になり、反毛綿繊維による短繊維の含有率が激増して糸切れ等が再発する可能性がある。
反毛綿繊維を10wt%~30wt%の範囲内に制限しておけば、払拭体としての耐久性を実現できると同時に、エコ性を実現でき、しかも払拭体の価格低下も実現できる。
【0029】
本発明の第5の形態によれば、パイルがモップパイル又はマットパイルである払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
本形態では、反毛綿含有綿繊維から作られたパイル糸でパイルを構成でき、払拭体がモップの場合にはパイルはモップパイルになり、払拭体がマットの場合にはパイルはマットパイルになる。
このように反毛綿繊維を原綿繊維に添加したパイルを有したモップやマットを構成でき、しかも所定の耐久性を有したモップやマットなどの払拭体を提供できる利点がある。
【0030】
本発明の第6の形態によれば、反毛綿含有綿紡績糸の紡績糸強力は、前記反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、前記原綿繊維と前記コーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸の紡績糸強力と比較して1.2倍以上である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
本発明に係る反毛綿繊維では繊維長が20mm以下の短繊維含有率が50wt%以下に極限されているのに対して、通常のコーマ落綿では繊維長が20mm以下の短繊維含有率が60wt%以上も存在する。従って、紡績糸の中における繊維長が20mm以下の短繊維含有率は、コーマ落綿含有綿紡績糸の方が反毛綿含有綿紡績糸よりも高くなることは明白である。この短繊維含有率の差が、反毛綿含有綿紡績糸の紡績糸強力はコーマ落綿含有綿紡績糸の紡績糸強力と比較して1.2倍以上という結果を招来するのである。この紡績糸強力とは紡績糸強度のことであり、紡績糸を切断する強度である。
反毛綿含有綿紡績糸の中で反毛綿繊維の含有率を10wt%~30wt%に変化すると、それに応じて原綿繊維の含有率は90wt%~70wt%に変化する。対比するべきコーマ落綿含有綿紡績糸も、コーマ落綿繊維の含有率を10wt%~30wt%に変化させ、それに応じて原綿繊維の含有率も90wt%~70wt%に変化させる必要がある。
同じ含有率で比較したときに、反毛綿含有綿紡績糸の紡績糸強力はコーマ落綿含有綿紡績糸の紡績糸強力と比較して1.2倍以上という結果を招来することができる。
【0031】
本発明の第7の形態によれば、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度と比較して1.1倍以上である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
上述のように、紡績糸の切断強度を紡績糸強力と称したが、パイル糸の切断強度はパイル強度と称する。パイル糸とは、2本以上の紡績糸を1本以上の熱融着糸を間に介在させて撚成し、熱融着糸を加熱融解させて2本以上の紡績糸を融着して一体化させた糸のことである。このパイル糸を引張方向、即ち繊維方向に引張力を印加してパイル糸が切断された強度を引張方向のパイル強度と称する。
ここでは、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と同じ条件下で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸とを相互に比較する。反毛綿繊維やコーマ落綿繊維といっ
た再利用綿繊維の含有率は10wt%~30wt%に変化され、それに応じて原綿繊維の含有率も90wt%~70wt%に変化させて相互にパイル糸の引張方向のパイル強度が測定された。引張方向のパイル糸強度とはパイル糸の切断強度のことである。その結果、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度は、コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度と比較して1.1倍以上であることが実証された。
従って、本形態の発明により、反毛綿を使用すると、従来のコーマ綿を使用したときよりも、パイル糸の引張方向のパイル強度は1.1倍以上になり、耐久性の高いエコで安価な払拭体を実現することができた。
【0032】
本発明の第8の形態によれば、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し原綿繊維と前記コーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度と比較して1.06倍以上である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
上述したように、パイル糸は、2本以上の紡績糸を1本以上の熱融着糸を間に介在させて撚成し、熱融着糸を加熱融解させて2本以上の紡績糸を融着して一体化させた糸である。2本以上の紡績糸を繊維と直交する方向、即ち相互に引き剥がす融着剥離方向に力を印加すると、熱融着が壊れて紡績糸が左右にバラけることになる。このバラけたときの強度をパイル糸の融着剥離方向のパイル強度と称する。
ここでは、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と同じ条件下で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸とを相互に比較する。反毛綿繊維やコーマ落綿繊維といった再利用綿繊維の含有率は10wt%~30wt%に変化され、それに応じて原綿繊維の含有率も90wt%~70wt%に変化させて相互にパイル糸の融着剥離方向のパイル強度が測定された。その結果、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度は、コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度と比較して1.06倍以上であることが実証された。
従って、本形態の発明により、反毛綿を使用すると、従来のコーマ綿を使用したときよりも、パイル糸の融着剥離方向のパイル強度は1.06倍以上になり、耐久性の高いエコで安価な払拭体を実現することができた。
【0033】
本発明の第9の形態によれば、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸に、同量の砂埃を担持させてパイル糸を振動させた後パイル糸に残留する砂埃の保持率を測定したとき、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率の1.02倍以上である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
本形態では、切断強度や剥離強度といった力学物性ではなく、砂埃の保持強度という払拭物性が測定された。反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸とコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸に、同量の砂埃を同じ担持方法で担持させて、パイル糸を同条件で振動させると幾らかの砂埃は落下し、パイル糸に残留した砂埃量と当初の担持砂埃量との比率をダストの保持率としてを測定した。
その結果、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率の1.02倍以上であることが実証された。
ここでは、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と同じ条件下で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸とが相互に比較されている。反毛綿繊維やコーマ落綿繊維といった再利用綿繊維の含有率は10wt%~30wt%に変化され、それに応じて原綿繊維の含有率も90wt%~70wt%に変化させてパイル糸の保持率が測定された。含有率が上記範囲内で変化しても、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の保持率の1.02倍以上であることが分かった。
【0034】
本発明の第10の形態によれば、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、同条件で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から始めて同条件下で1回目洗い、2回目洗いと繰り返して、合計で20回洗うと、パイル糸の太さは次第に痩せて減少してゆき、また撚り数も解けて次第に減少してゆく。本形態では、パイル糸の太さの減少率を測定した。
その結果、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下であることが実証された。即ち、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸は糸切れが抑制されているため、糸としての痩せが小さく、パイル糸の太さの減少率が相対的に少ないことが分かった。
ここでは、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と同じ条件下で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸とが相互に比較されている。反毛綿繊維やコーマ落綿繊維といった再利用綿繊維の含有率は10wt%~30wt%に変化され、それに応じて原綿繊維の含有率も90wt%~70wt%に変化させてパイル糸の太さの減少率が測定された。含有率が上記範囲内で変化しても、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率は、コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下であることが分かった。
【0035】
本発明の第11の形態によれば、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用し、原綿繊維とコーマ落綿繊維とが混紡されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率の70%以下である払拭体、又は、該パイル糸が提供できる。
反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、同条件で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から始めて同条件下で1回目洗い、2回目洗いと繰り返して、合計で20回洗うと、パイル糸の撚りが次第に解けて撚り数が減少してゆく。
その結果、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率の70%以下であることが実証された。即ち、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸では極短繊維の含有率がコーマ落綿含有綿紡績糸よりも相対的に少ないから、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の方が繊維相互の固着率が相対的に高いため、撚りの解けが少なく、パイル糸の撚り数の減少率が相対的に少ないことが分かった。
勿論、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と同じ条件下で作製されたコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸とが相互に比較されている。反毛綿繊維やコーマ落綿繊維といった再利用綿繊維の含有率は10wt%~30wt%に変化され、それに応じて原綿繊維の含有率も90wt%~70wt%に変化させてパイル糸の撚り数の減少率が測定された。含有率が上記範囲内で変化しても、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率は、コーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率の50%以下であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本発明実施例に使用された反毛綿と比較例に使用されたコーマ落綿からなる再利用綿の中における短繊維含有率の表である。
図2図2は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸の物性の対比表である。
図3図3は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するパイル強度試験(1)の概略説明図である。
図4図4は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するパイル強度試験(2)の概略説明図である。
図5図5は、本発明実施例の反毛綿10%~30%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するダスト保持性能評価(1)の概略説明図である。
図6図6は、本発明実施例の反毛綿10%~30%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するダスト保持性能評価(2)の概略説明図である。
図7図7は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関する20回洗いのパイル見かけ太さ(1)の概略説明図である。
図8図8は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関する20回洗いのパイル見かけ太さ(2)の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明に係る反毛綿と原綿を混合使用した払拭体の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明実施例に使用された反毛綿と比較例に使用されたコーマ落綿からなる再利用綿の中における短繊維含有率の表である。
本発明の特徴は、再利用綿として屑綿繊維が反毛機で再生された反毛綿繊維が利用され、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維が使用され、原綿繊維と前記反毛綿繊維とが混紡された反毛綿含有綿繊維を用いて払拭体を構成することにある。
図1に記載された本発明実施例では、原綿繊維80wt%に再利用綿繊維として反毛綿
繊維20wt%を添加して混合した反毛綿含有綿繊維から構成され、特に反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20.0mm以下の短繊維の重量比が46.3wt%以下に制限された良質の反毛綿繊維を使用している。
そして、本発明実施例と対比されるべき比較例では、前記原綿繊維80wt%に再利用綿繊維としてコーマ落綿20wt%を添加して混合したコーマ落綿含有綿繊維が使用され、特にコーマ落綿繊維の全重量に対しコーマ落綿繊維の中に含有される繊維長が20.0mm以下の短繊維の重量比が63.8wt%以下に制限されたコーマ落綿繊維が使用されている。
上記から明らかなように、本発明実施例の反毛綿繊維では繊維長20mm以下の短繊維含有率が46.3wt%と低く設定されているのに対して、比較例のコーマ落綿繊維では繊維長20mm以下の短繊維含有率が63.8wt%と高くなっている点に大きな相違が存在する。
【0039】
図2は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸の物性の対比表である。
上述した本発明実施例の反毛綿含有綿繊維を紡績して、撚数が180.7(T/m)で1.32番手の太さの反毛綿含有綿紡績糸(反毛綿20%含有綿紡績糸と云ってもよい)を作製した。これに対する比較例として、コーマ落綿含有綿繊維を紡績して、撚数が177.2(T/m)で1.31番手の太さのコーマ落綿含有綿紡績糸(コーマ落綿20%含有綿紡績糸と云ってもよい)を作製した。
反毛綿含有綿紡績糸の糸むらUは8.2(%)であるのに対し、コーマ落綿含有綿紡績糸の糸むらUは13.1(%)と高い値になった。図1で示すように、コーマ落綿含有綿
紡績糸の方が高い短繊維含有率を有しているために、この短繊維の影響により紡績工程で生じる糸むらがコーマ落綿含有綿紡績糸により多く生じると考えられる。
また、反毛綿含有綿紡績糸では、紡績糸強力が6.08(kg)及び最低強力が5.43(kg)となるのに対して、コーマ落綿含有綿紡績糸では、紡績糸強力が4.89(kg)及び最低強力が4.35(kg)となり、紡績糸を切断する引張力は反毛綿含有綿紡績糸の方が高くなることが分かった。この原因も、反毛綿含有綿紡績糸の方が低い短繊維含有率を有しているため、繊維同士の絡み力が強いことに起因すると考えられる。
更に、反毛綿含有綿紡績糸では、強力変動率が8.0(%)及び伸度が12.7(%)となるのに対して、コーマ落綿含有綿紡績糸では、強力変動率が8.8(%)及び伸度が13.0(%)となることが分かった。この原因も、反毛綿含有綿紡績糸の方が低い短繊維含有率を有しているため、繊維同士の絡み力が強いため変動し難く伸び難くなると考えられる。
【0040】
図3は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するパイル強度試験(1)の概略説明図である。
図3においては、本発明実施例に係る2本の1.35番手の反毛綿含有綿紡績糸を1本の熱融着糸を介して撚成状態で融着したパイル糸を作製し、比較例としては2本の1.35番手のコーマ落綿含有綿紡績糸を1本の熱融着糸を介して撚成状態で融着したパイル糸を使用した。両者のパイル糸は、再利用綿が反毛綿かコーマ落綿かの相違があるだけで他の条件は全く同等である。
新品(NEW)状態から20回洗い(R20)後の状態において、両者のパイル糸について、引張方向のパイル強度と融着剥離方向のパイル強度が測定された。引張方向のパイル強度とは繊維方向に引っ張って切断するときの荷重(N)であり、融着剥離方向のパイル強度とは繊維方向と直交する方向に引き裂いて融着が壊れて2本の綿紡績糸に分離するときの荷重(N)である。
引張方向のパイル強度について、実線の反毛ではNEWが99(N)でR20が68(N)であり、点線のコーマではNEWが83(N)でR20が60(N)であった。 また、融着剥離方向のパイル強度について、実線の反毛ではNEWが3.3(N)でR20が3.05(N)であり、点線のコーマではNEWが3.05(N)でR20が2.8(N)であった。
【0041】
図4は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するパイル強度試験(2)の概略説明図である。
引張試験機AGS-Xを用いて、上下二つのチャックにパイル糸の両端を固定して引張方向の強度試験を行い、上下二つのチャックにパイル糸を構成する2本の綿紡績糸を夫々把持させて融着剥離方向の強度試験を行った。
まず、引張方向の強度試験の上記測定値を用いて、NEW状態ではパイル強度比=反毛綿/コーマ落綿=99/83=1.19となり、反毛綿がコーマ落綿の1.1倍以上であることが分かった。また、R20状態ではパイル強度比=反毛綿/コーマ落綿=68/60=1.13となり、反毛綿がコーマ落綿の1.1倍以上であることが分かった。
以上から、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用したコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の引張方向のパイル強度と比較して1.1倍以上である、との結論が得られた。
次に、融着剥離方向の強度試験の上記測定値を用いて、NEW状態ではパイル強度比=反毛綿/コーマ落綿=3.3/3.05=1.08となり、反毛綿がコーマ落綿の1.06倍以上であることが分かった。また、R20状態ではパイル強度比=反毛綿/コーマ落綿=3.05/2.8=1.09となり、反毛綿がコーマ落綿の1.06倍以上であることが分かった。
以上から、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融着剥離方向のパイル強度は、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用したコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の融
着剥離方向のパイル強度と比較して1.06倍以上である、との結論が得られた。
【0042】
図5は、本発明実施例の反毛綿10%~30%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するダスト保持性能評価(1)の概略説明図である。
本発明実施例に係る反毛綿10%含有綿紡績糸、反毛綿20%含有綿紡績糸、反毛綿30%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸を作製した。反毛綿10%~30%含有綿紡績糸とは、反毛綿の含有率が異なるだけで、他の条件は同一にして作製されたものである。
そして、本発明実施例に係る2本の1.35番手の反毛綿含有綿紡績糸を1本の熱融着糸を介して撚成状態で融着したパイル糸、即ち反毛(10%)、反毛(20%)及び反毛(30%)の各パイル糸を作製した。比較例としては2本の1.35番手のコーマ落綿20%含有綿紡績糸を1本の熱融着糸を介して撚成状態で融着したパイル糸、即ちコーマ(20%)を使用した。4者のパイル糸は、再利用綿が含有率の異なる反毛綿と20%コーマ落綿かの相違があるだけで他の条件は全く同等である。
上記により得られた反毛(10%)、反毛(20%)、反毛(30%)及びコーマ(20%)の4種類のパイル糸を用意し、各パイル糸にJIS規定の2種の砂埃を同量だけ担持させて各パイル糸を振動させた後、各パイル糸に残留する砂埃の保持率を残留砂埃重量/担持砂埃重量により測定計算した。
その結果、4種類のパイル糸の砂埃保持率は、反毛(10%)で43.6%、反毛(20%)で43.3%、反毛(30%)で42.9%及びコーマ(20%)で41.7%となった。図5には棒グラフが示されている。
【0043】
図6は、本発明実施例の反毛綿10%~30%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関するダスト保持性能評価(2)の概略説明図である。
図6に示すように、4種類のパイル糸の砂埃保持率は、コーマ(20%)で41.7%、反毛(10%)で43.6%、反毛(20%)で43.3%、反毛(30%)で42.9%である。従って、コーマ(20%)を基準としたときの砂埃保持率比は、コーマ(20%)で1.00、反毛(10%)で1.045、反毛(20%)で1.038、反毛(30%)で1.028となる。従って、反毛(10%)~反毛(30%)に共通して、コーマ(20%)に対する砂埃保持率比は1.02以上であることが証明された。
【0044】
図7は、本発明実施例の反毛綿20%含有綿紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有綿紡績糸から作製されたパイル糸に関する20回洗いのパイル見かけ太さ(1)の概略説明図である。
図7においては、本発明実施例に係る2本の1.35番手の反毛綿20%含有綿紡績糸を1本の熱融着糸を介して撚成状態で融着したパイル糸を作製し、比較例としては2本の1.35番手のコーマ落綿20%含有綿紡績糸を1本の熱融着糸を介して撚成状態で融着したパイル糸を使用した。両者のパイル糸は、再利用綿が反毛綿かコーマ落綿かの相違があるだけで他の条件は全く同等である。
新品(NEW)状態と20回洗い(R20)後の状態において、両者のパイル糸について、パイル太さと撚り数を測定した。パイル太さの減少率は(NEWのパイル太さ-R20のパイル太さ)/NEWのパイル太さによって計算される。また、撚り数の減少率は(NEWの撚り数-R20の撚り数)/NEWの撚り数により計算される。
パイル太さの減少率は、コーマで19.8%及び反毛で7.8%であり、反毛がコーマよりも圧倒的に小さくなることが分かった。また、撚り数の減少率は、コーマで3.2%及び反毛で1.9%であり、反毛がコーマよりも小さくなることが分かった。パイル太さの減少率と撚り数の減少率が棒グラフで図示されている。
【0045】
図8は、本発明実施例の反毛綿20%含有紡績糸と比較例のコーマ落綿20%含有紡績糸から作製されたパイル糸に関する20回洗いのパイル見かけ太さ(2)の概略説明図である。
図8には、コーマと反毛の夫々について、NEW状態(初期状態)とR20状態(20回洗い後状態)のパイル糸の外観写真が示されている。コーマの方が急激に痩せ細っており、パイル太さが劇的に小さくなっていることが分かる。
パイル太さ減少率比は反毛綿パイルの太さ減少率/コーマ落綿のパイル太さ減少率で計算でき、7.8/19.8=0.393=39.3%であるから50%以下になることが明らかである。また、パイル撚り数減少率比は反毛綿パイルの撚り数減少率/コーマ落綿パイルの撚り数減少率で計算でき、1.9/3.2=0.593=59.3%であるから70%以下になることが明らかである。
第1の結論として、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用したコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の太さの減少率の50%以下である。
また、第2の結論として、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸と、反毛綿繊維に替えてコーマ落綿繊維を使用したコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸を、新品状態から20回洗浄した後、反毛綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率はコーマ落綿含有綿紡績糸を用いたパイル糸の撚り数の減少率の70%以下である。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更、別実施形態などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る反毛綿と原綿を混合使用した払拭体は、屑綿繊維が反毛機で再生された反毛綿繊維であって、反毛綿繊維の全重量に対し反毛綿繊維の中に含有される繊維長が20mm以下の短繊維の重量比が50wt%以下である反毛綿繊維を使用し、原綿繊維と反毛綿繊維とが混紡された反毛綿含有綿繊維を用いて構成された払拭体を提供することであり、また反毛綿含有綿繊維を紡績して得られた反毛綿含有綿紡績糸を用いてパイル糸を構成した払拭体を提供することができる。
従って、従来から廃棄されてきた屑綿繊維を反毛綿にして原綿に混合使用でき、廃棄屑繊維を少なくすると同時に再利用するからエコ払拭体を安価に提供できる。しかも、従来から使用されていたコーマ落綿を混合するよりも強度が高く耐久性に優れた払拭体を提供できる利点を有し、モップパイルやマットパイルに使用して売り切り商品やレンタル商品として画期的な払拭体を提供するころができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8