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  • 特許-基板保持装置および基板保持方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】基板保持装置および基板保持方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 13/04 20060101AFI20230519BHJP
【FI】
H05K13/04 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018228786
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020092173
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】木村 知博
(72)【発明者】
【氏名】多田 翔吾
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135277(JP,A)
【文献】特開2016-063162(JP,A)
【文献】特開2017-143089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベアによって搬送される基板をシリンダによって昇降駆動されるリフト部材で持ち上げ、前記リフト部材と前記基板の上方に位置するクランプ受け部材とで挟んでクランプし、前記基板がクランプされた状態で前記基板に対して所定の作業を実施し、前記作業の後に前記シリンダによって前記リフト部材を下降させて前記クランプを解除する基板保持装置において、
前記シリンダによる前記リフト部材の昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替部と、
前記シリンダに供給される流体の流量を切り替えることにより、前記リフト部材の昇降速度を第1の速度および前記第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する速度設定部と、
前記方向切替部と前記速度設定部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記基板がクランプされた状態で前記方向切替部により前記駆動方向を下降に切り替えて下降信号が出されてから前記リフト部材が実際に下降を開始する前に所定時間が経過するまでの間、前記速度設定部により前記昇降速度を前記第1の速度に設定し、
前記所定時間が経過した時点から、前記基板が下降して前記コンベアの上面に到達し前記リフト部材が前記基板から離隔する位置である下降位置に到達するまで、前記速度設定部により前記昇降速度を前記第2の速度に設定する、基板保持装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記基板が前記コンベアの上面に到達し前記リフト部材が前記下降位置に到達したら、前記速度設定部により前記昇降速度を前記第1の速度に設定する、請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項3】
コンベアによって搬送される基板をシリンダによって昇降駆動されるリフト部材で持ち上げ、前記リフト部材と前記基板の上方に位置するクランプ受け部材とで挟んでクランプし、前記基板がクランプされた状態で前記基板に対して所定の作業を実施し、前記作業の後に前記シリンダによって前記リフト部材を下降させて前記クランプを解除する基板保持方法において、
前記シリンダによる前記リフト部材の昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替ステップと、
前記シリンダに供給される流体の流量を切り替えることにより、前記リフト部材の昇降速度を第1の速度および前記第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する速度設定ステップと、を含み、
前記基板がクランプされた状態で前記方向切替ステップを実行して前記駆動方向を下降に切り替えて下降信号が出されてから前記リフト部材が実際に下降を開始する前に所定時間が経過するまでの間、前記速度設定ステップを実行して前記昇降速度を前記第1の速度に設定し、
前記所定時間が経過した時点から、前記基板が下降して前記コンベアの上面に到達し前記リフト部材が前記基板から離隔する位置である下降位置に到達するまでの間、前記速度設定ステップを実行して前記昇降速度を前記第2の速度に設定する、基板保持方法。
【請求項4】
前記基板が前記コンベアの上面に到達し前記リフト部材が前記下降位置に到達したら、前記速度設定ステップを実行して前記昇降速度を前記第1の速度に設定する、請求項3に記載の基板保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベアによって搬送される基板をクランプして保持する基板保持装置および基板保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に電子部品を実装して実装基板を製造する部品実装ラインに配備される実装用設備には、各設備に搬入された基板を所定の作業が実行される間クランプして保持する基板保持装置が設けられている。この種の基板保持装置では、コンベアによって搬入された基板をリフト部材によって持ち上げて上方に位置する受け部材との間で挟み込んでクランプするクランプ動作と、作業が実行された後の基板をリフト部材とともに下降させてコンベアに戻すクランプ解除動作とが反復して実行される。このような基板保持装置を備えた部品実装設備における生産性の向上には、上述のクランプ動作、クランプ解除動作の所要時間を極力短縮して、基板保持装置の動作効率を向上させる必要がある。このため、従来より表面実装機などの部品実装設備には、基板のクランプの効率向上を目的とした各種の方策が取り入れられている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1に示す先行技術では、基板を押し上げるクランププレートを駆動手段であるシリンダによって押し上げる構成において、クランププレートの上昇過程の途中において上昇速度を切り替えるようにしている。これにより、クランププレートが基板に接触する際の上昇速度を減速して基板への衝撃を緩和するとともに、それ以外では増速してサイクルタイムの短縮を図ることができる。また特許文献2に示す先行技術では、リフトプレートの上昇過程において所定の高さ位置に到達したことが検出されたタイミングにて、基板に形成された基準マークをカメラで繰り返し認識する処理を開始し、この認識結果に基づいて基板の上昇が完了したか否かを判定するようにしている。これによりクランプ完了時期を精度よく検出して、次の作業動作に速やかに移行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-8290号公報
【文献】特開2006-4973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の特許文献例を含め、従来技術には基板のクランプを含む作業動作のさらなる効率向上を追求する上で、以下のような課題があった。すなわち、基板のクランプ解除動作においては、基板を下降させてコンベアのベルトに載せる際の衝撃荷重を緩和するため低速でリフト部材の下降を開始し、基板がベルトに載せられた後に下降速度を高速に切り替えるようにしている。このとき下降動作は低速で開始されるため、下降開始指令が出されてもリフト部材は必ずしも即座には応答せず、幾らかのタイムラグの後に下降を開始する。この結果、クランプ解除動作における所要時間が遅延し、動作効率の向上を妨げることとなっていた。
【0006】
そこで本発明は、基板への衝撃を緩和しつつ、基板のクランプ解除の動作効率を向上させることができる基板保持装置および基板保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の基板保持装置は、コンベアによって搬送される基板をシリンダによって昇降駆動されるリフト部材で持ち上げ、前記リフト部材と前記基板の上方に位置するクランプ受け部材とで挟んでクランプし、前記基板がクランプされた状態で前記基板に対して所定の作業を実施し、前記作業の後に前記シリンダによって前記リフト部材を下降させて前記クランプを解除する基板保持装置において、前記シリンダによる前記リフト部材の昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替部と、前記シリンダに供給される流体の流量を切り替えることにより、前記リフト部材の昇降速度を第1の速度および前記第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する速度設定部と、前記方向切替部と前記速度設定部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記基板がクランプされた状態で前記方向切替部により前記駆動方向を下降に切り替えて下降信号が出されてから前記リフト部材が実際に下降を開始する前に所定時間が経過するまでの間、前記速度設定部により前記昇降速度を前記第1の速度に設定し、前記所定時間が経過した時点から、前記基板が下降して前記コンベアの上面に到達し前記リフト部材が前記基板から離隔する位置である下降位置に到達するまで、前記速度設定部により前記昇降速度を前記第2の速度に設定する。
【0008】
本発明の基板保持方法は、コンベアによって搬送される基板をシリンダによって昇降駆動されるリフト部材で持ち上げ、前記リフト部材と前記基板の上方に位置するクランプ受け部材とで挟んでクランプし、前記基板がクランプされた状態で前記基板に対して所定の作業を実施し、前記作業の後に前記シリンダによって前記リフト部材を下降させて前記クランプを解除する基板保持方法において、前記シリンダによる前記リフト部材の昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替ステップと、前記シリンダに供給される流体の流量を切り替えることにより、前記リフト部材の昇降速度を第1の速度および前記第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する速度設定ステップと、を含み、前記基板がクランプされた状態で前記方向切替ステップを実行して前記駆動方向を下降に切り替えて下降信号が出されてから前記リフト部材が実際に下降を開始する前に所定時間が経過するまでの間、前記速度設定ステップを実行して前記昇降速度を前記第1の速度に設定し、前記所定時間が経過した時点から、前記基板が下降して前記コンベアの上面に到達し前記リフト部材が前記基板から離隔する位置である下降位置に到達するまでの間、前記速度設定ステップを実行して前記昇降速度を前記第2の速度に設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板への衝撃を緩和しつつ、基板のクランプ解除の動作効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態の基板保持装置が組み込まれた部品実装装置の構成を示す平面図
図2】本発明の一実施の形態の基板保持装置の構成説明図
図3】本発明の一実施の形態の基板保持装置の空圧回路の説明図
図4】本発明の一実施の形態の基板保持装置が組み込まれた部品実装装置の制御系の構成を示すブロック図
図5】本発明の一実施の形態の基板保持装置による基板クランプ解除動作のタイミングチャートの説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。まず図1図2を参照して、本実施の形態の基板保持装置が組み込まれた部品実装装置1の全体構成を説明する。部品実装装置1は実装ヘッドに装着された吸着ノズルによって部品を保持して基板に実装する機能を有している。
【0012】
図1において、基台1aの中央部には、X方向(基板搬送方向)に基板搬送機構2が配設されている。基板搬送機構2は上流側から搬入された基板3を搬送し、以下に説明する部品実装機構による実装作業位置に位置決めする機能を備えるものであり、並行に配設された2条の搬送コンベア2aを有している。基板搬送機構2の中央部には、搬入された基板3を下受けして保持する基板保持機構2cが設けられている。
【0013】
基板保持機構2cは、以下に説明する基板保持動作を実行する。すなわちこの基板保持動作においては、搬送コンベア2aによって搬送される基板3をシリンダ20(図2図3参照)によって昇降駆動されるリフト部材2eで持ち上げ、リフト部材2eと基板3の上方に位置するクランプ受け部材2bとで挟んでクランプし、基板3がクランプされた状態で基板3に対して所定の作業である部品実装作業を実施し、部品実装作業の後にシリンダ20によってリフト部材2eを下降させてクランプを解除する。
【0014】
基板搬送機構2の両側には、実装対象の部品を供給する部品供給部4が配置されている。部品供給部4には複数のテープフィーダ5が並列に配置されており、テープフィーダ5はキャリアテープに保持された部品を以下に説明する部品実装機構による取出位置までピッチ送りする機能を有している。基台1a上面のX方向の1端部上にはY軸移動テーブル6が配設されており、Y軸移動テーブル6には2台のX軸移動テーブル7がY方向にスライド自在に結合されている。X軸移動テーブル7には、それぞれ実装ヘッド8がX方向にスライド自在に装着されている。
【0015】
実装ヘッド8は複数の単位保持ヘッド9より成る多連型ヘッドであり、単位保持ヘッド9に装着された部品吸着用の吸着ノズル(図示省略)によってテープフィーダ5から実装対象の部品を真空吸着によって保持する。Y軸移動テーブル6およびX軸移動テーブル7を駆動することにより、実装ヘッド8は部品供給部4と基板搬送機構2に位置決めされた基板3との間で移動する。これにより実装ヘッド8は、保持した部品を基板3に実装する。実装ヘッド8および実装ヘッド8を移動させるヘッド移動機構は、部品供給部4から部品を取り出して基板3に実装する部品実装機構13(図4参照)を構成する。
【0016】
X軸移動テーブル7の下面には、それぞれ実装ヘッド8と一体的に移動する基板認識カメラ10が装着されている。ヘッド移動機構を駆動して基板認識カメラ10を基板搬送機構2に保持された基板3の上方へ移動させることにより、基板認識カメラ10は基板3に形成された認識マークを撮像する。部品供給部4と基板搬送機構2との間の実装ヘッド8の移動経路には、部品認識カメラ11,ノズル収納部12が配設されている。部品供給部4から部品を取り出した実装ヘッド8が部品認識カメラ11の上方を所定方向に通過する走査動作を行うことにより、部品認識カメラ11は実装ヘッド8に保持された状態の部品を撮像する。
【0017】
ノズル収納部12には,単位保持ヘッド9に装着される吸着ノズルが部品種に対応して複数収納保持されている。実装ヘッド8がノズル収納部12にアクセスしてノズル交換動作を行うことにより、単位保持ヘッド9に装着される吸着ノズルを目的および対象とする部品種に応じて交換することができる。
【0018】
図2を参照して、基板搬送機構2の構成および機能について説明する。図2に示すように、基板搬送機構2は並行に配設された2条の搬送コンベア2aより構成される。搬送コンベア2aの内側には、基板3を搬送する搬送ベルトを備えたコンベア機構2dが搬送方向に沿って設けられている。基板3の両側端部をコンベア機構2dの搬送ベルトに当接させた状態でコンベア機構2dを駆動することにより、基板3は基板搬送方向に搬送される。
【0019】
基板搬送機構2の中央部には、部品実装機構による作業位置に対応して基板保持機構2cが配設されている。基板保持機構2cは、水平な板状の下受けプレート21をシリンダ20によって昇降(矢印a)させる構成となっている。下受けプレート21の上面には、基板3の側端部に対応する位置に2つのリフト部材2eが、また基板3を下面側から支持する位置に複数の下受けピン22が立設されている。
【0020】
図2(b)に示すように、シリンダ20を駆動して下受けプレート21を上昇させる(矢印b)ことにより、基板3は複数の下受けピン22によって下受け支持されるとともに、基板3の両側端部がリフト部材2eによってクランプ受け部材2bの下面に押し付けられてクランプされる。部品実装機構による部品実装作業はこのようにして基板3がクランプされた状態で行われる。そして部品実装作業の後には、シリンダ20によって下受けプレート21とともにリフト部材2eおよび下受けピン22を下降させて、基板3のクランプおよび下受けを解除する。
【0021】
ここで図3を参照して、基板保持機構2cにおけるシリンダ20の動作、シリンダ20のエア駆動に用いられる空圧制御機器および空圧回路系について説明する。前述のようにシリンダ20を駆動することにより、下受けプレート21を介してリフト部材2eを昇降させて、基板保持機構2cにおける基板3と、リフト部材2eやコンベア機構2dとの相対位置を変更することが可能となっている。シリンダ20には、ロッドの突没状態を検出するためのクランプ上限センサSS1、クランプ下限センサSS2、基板乗り移りセンサSS3が設けられている。
【0022】
シリンダ20のロッドが上限位置まで突出して基板3がクランプ受け部材2bに押しつけられたクランプ状態では、クランプ上限センサSS1が検出信号を発出し、ロッドが下限位置まで没入してクランプ下限センサSS2が検出信号を発出する。そして基板3がクランプ状態から下降する過程において(矢印c)、図3に示すように基板3の側端部がコンベア機構2dの搬送ベルトに乗り移ったタイミングは、基板乗り移りセンサSS3によって検出される。すなわち基板乗り移りセンサSS3によって検出される高さ位置は、基板3が下降してコンベア機構2dの搬送ベルトの上面に到達しリフト部材2eが基板3から離隔する位置である下降位置に相当する。
【0023】
空圧制御機器及び空圧回路について説明する。シリンダ20に設けられた下降ポート20a、上昇ポート20bには、それぞれエア回路29a、29bが接続されている。エア回路29a、29bには、エア供給源23から供給されるシリンダ駆動用の空圧回路がシリンダ上下動バルブSV1、速度切替バルブSV2を介して接続されている。
【0024】
シリンダ上下動バルブSV1、速度切替バルブSV2の機能を説明する。シリンダ上下動バルブSV1は下降側ソレノイドSL1A、上昇側ソレノイドSL1Bの二つのソレノイドを備えた5ポート3位置(クローズドセンタ)のダブルソレノイド型のバルブである。ここで下降側ソレノイドSL1Aは下降ポート20aに給気するソレノイドであり、上昇側ソレノイドSL1Bは上昇ポート20bに給気するソレノイドである。また速度切替バルブSV2は、ソレノイドSL2を備えた3ポート2位置のシングルソレノイド型のバルブである。速度切替バルブSV2のAポートは、エア回路29aを介してシリンダ20の下降ポート20aに接続されている。
【0025】
シリンダ上下動バルブSV1のセンタ位置にあるPポートには、エア供給源23に通じるエア供給配管24が接続されており、EAポート、EBポートにはマフラ25が接続されている。シリンダ上下動バルブSV1のAポート、Bポートのうちの一方のBポートはエア回路29bを介してシリンダ20の上昇ポート20bに接続されている。
【0026】
シリンダ上下動バルブSV1のAポートにはエア回路28が接続されている。ここでエア回路28は第1回路28a、第2回路28bに分岐しており、一方の第2回路28bには複数の逆止弁と可変絞りを組み合わせて構成されて絞り値の調整が可能な絞り調整部27が介設されている。第1回路28aは速度切替バルブSV2のPポートに接続されており、第2回路28bは速度切替バルブSV2のRポートに接続されている。
【0027】
このシリンダ上下動バルブSV1、速度切替バルブSV2の組み合わせにおいて、シリンダ上下動バルブSV1を切り替えることにより、エア供給源23からの給気をシリンダ20の下降ポート20a、上昇ポート20bのいずれか一方に切り替えて、シリンダ20の駆動方向を上昇と下降とに切り替えることができる。
【0028】
すなわち下降側ソレノイドSL1A、上昇側ソレノイドSL1Bのいずれかを励磁して、図3に示す中立位置からシリンダ上下動バルブSV1をいずれかの方向に切り替えることにより、シリンダ20によるリフト部材2eの昇降駆動における駆動方向の切替が可能となっている。したがってシリンダ上下動バルブSV1は、シリンダ20によるリフト部材2eの昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替部32a(図4参照)として機能する。
【0029】
また速度切替バルブSV2を切り替えることにより、エア回路29aを第1回路28a、または絞り調整部27が介設された第2回路28bに選択的に接続することができる。第2回路28bをエア回路29aに接続した状態では、シリンダ上下動バルブSV1から速度切替バルブSV2を経てシリンダ20へ至る給気回路に、絞り調整部27が介在した回路構成となる。
【0030】
すなわちエア回路29aを介して下降ポート20aに給気してシリンダ20を駆動する下降動作においては、上述の給気回路を絞り調整部27によって絞る形態となる。このようにして給気回路が絞られることにより、シリンダ20に供給される流体である空気の流量が制限され、シリンダ20の下降動作速度、換言すればリフト部材2eの下降速度が低下する。
【0031】
またエア回路29bを介して上昇ポート20bに給気してシリンダ20を駆動する上昇動作においては、下降ポート20aから速度切替バルブSV2を経てシリンダ上下動バルブSV1に戻る戻り回路を絞り調整部27によって絞る形態となる。このようにして戻り回路が絞られることにより、下降動作と同様にシリンダ20に供給される流体である空気の流量が制限され、シリンダ20の上昇動作速度、換言すればリフト部材2eの上昇速度が低下する。
【0032】
このように本実施の形態に示す基板保持機構2cにおいては、上述の給気回路に絞り調整部27を介在させずにシリンダ20に下降動作を行わせた場合における下降速度は第1下降速度(第1の速度)であり、給気回路に絞り調整部27を介在させてシリンダ20に下降動作を行わせた場合における下降速度は第1下降速度よりも低速の第2下降速度(第2の速度)である。また上述の戻り回路に絞り調整部27を介在させずにシリンダ20に上昇動作を行わせた場合における上昇速度は第1上昇速度(第1の速度)であり、戻り回路に絞り調整部27を介在させてシリンダ20に上昇動作を行わせた場合における上昇速度は、第1上昇速度よりも低速の第2上昇速度(第2の速度)である。
【0033】
そして上述構成において、シリンダ上下動バルブSV1は、シリンダ20に供給される流体である空気の流量を切り替えることにより、リフト部材2eの昇降速度を第1の速度および第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する速度設定部32b(図4参照)として機能している。
【0034】
なお、上述の第1の速度は基板保持機構2cの作業動作効率を極力向上させるために、安定した動作が可能な範囲で極力高速に設定することが望ましい。これに対し、第2の速度は基板保持機構2cによる基板保持動作において基板3の昇降速度を基板3への衝撃を緩和することが可能な安全速度に維持することを目的としており、実際の作業における経験値に基づいて適宜設定される。
【0035】
次に図3を参照して、本実施の形態における基板保持装置が組み込まれた部品実装装置1の制御系の構成について説明する。図4において、部品実装装置1は制御部30、記憶部33、機構駆動部37、画像認識部38を備えている。制御部30は記憶部33に記憶された各種のデータに基づき、以下に説明する各部を制御して部品実装装置1による部品実装動作や各種の作業処理を実行させる。
【0036】
制御部30は内部処理機能としての実装処理部31、基板保持処理部32を備えている。実装処理部31が記憶部33に記憶された実装データ34に基づき、機構駆動部37を制御して部品実装機構13、基板搬送機構2を駆動することにより、部品供給部4から取り出した部品を基板3に実装する部品実装作業が実行される。
【0037】
また基板保持処理部32は、方向切替部32a、速度設定部32bを備えている。方向切替部32a、速度設定部32bは、図3に示すシリンダ上下動バルブSV1、速度切替バルブSV2によって実現される機能である。すなわち方向切替部32aは、シリンダ20によるリフト部材2eの昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える。また速度設定部32bは、シリンダ20に供給される流体である空気の流量を切り替えることにより、リフト部材2eの昇降速度を第1の速度および第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する。
【0038】
基板保持処理部32が機構駆動部37を制御して基板保持機構2cを駆動することにより、前述の基板保持動作が実行される。したがって基板保持機構2cおよび基板保持処理部32を制御する制御部30は、この基板保持動作を実行する基板保持装置を構成する。なお本実施の形態では、このような基板保持装置が部品実装装置1に組み込まれた実施例を示しているが、本発明はこの実施例には限定されない。すなわちコンベアによって搬送された基板を持ち上げて基板をクランプして保持する構成であれば、本発明の適用対象となる。
【0039】
基板保持処理部32による機構駆動部37の制御においては、記憶部33に記憶された速度パラメータ35、高低速切り替えタイマ値36が参照される。速度パラメータ35は、基板保持機構2cにおけるリフト部材2eの昇降速度を規定するパラメータである。ここでは、基板3を持ち上げてクランプする上昇動作における上昇速度をそれぞれ規定する高低二つの第1上昇速度35a、第2上昇速度35bおよび基板3を下降させてクランプを解除する下降動作における下降速度をそれぞれ規定する高低二つの第1下降速度35cおよび第2下降速度35dが含まれている。
【0040】
高低速切り替えタイマ値36はこれらの高低二つの速度を切り替えるタイミングを規定するタイマ値である。本実施の形態においては、このタイマ値には、クランプ解除時に基板3を下降させる下降動作において下降指令が出されてから実際に基板3が下降を開始する起動動作を促進するために設定される起動促進タイマ値Taが含まれている。
【0041】
すなわち、シリンダ20のような空圧アクチュエータでは、駆動流体である空気の圧縮性によって給気開始時における動作応答に遅れを生じるという動作特性が避けられない。特に本実施の形態における動作態様のように、起動時には低速で起動を開始し途中で高速に切り替える方式においては、起動時の動作所要時間が遅延する結果、全体の動作時間の短縮を困難にしている。
【0042】
このような課題に対処するため、本実施の形態においては、クランプ解除のための基板3の下降動作において、下降信号が出されたタイミングから所定時間として設定された起動促進タイマ値Taの間、速度設定部32bによる設定速度を高速の第1下降速度35cに設定するようにしている。これにより、給気回路に絞り調整部27が介在しない状態でシリンダ20を動作させることができる。したがって下降信号が出されたタイミングからより多くの量の空気をシリンダ20に給気することができ、シリンダ20内における圧力上昇を促進して動作応答を改善する効果を得る。起動促進タイマ値Taの決定は、実際の試行の結果に基づいて適宜適正値を選択することにより行う。
【0043】
クランプ上限センサSS1、クランプ下限センサSS2、基板乗り移りセンサSS3からの検出出力は制御部30に取り込まれ、基板保持処理部32による基板保持動作におけるシーケンス制御に使用される。画像認識部38は、基板認識カメラ10、部品認識カメラ11による撮像結果を認識処理する。これにより、基板搬送機構2に位置決めされた基板3、基板3における実装点の位置が認識されるとともに、単位保持ヘッド9に保持された状態の部品の識別や位置認識が行われる。部品実装機構13による部品の基板3への実装に際しては、これらの認識処理結果を反映して部品搭載位置の補正が行われる。
【0044】
次に上記構成の部品実装装置1において基板保持機構2cによって基板3を保持する基板保持方法について説明する。この基板保持方法は、制御部30が基板保持処理部32を介して機構駆動部37を制御することによって実行されるものであり、搬送コンベア2aによって搬送される基板3をシリンダ20(図2図3参照)によって昇降駆動されるリフト部材2eで持ち上げ、リフト部材2eと基板3の上方に位置するクランプ受け部材2bとで挟んでクランプし、基板3がクランプされた状態で基板3に対して所定の作業である部品実装作業を実施し、部品実装作業の後にシリンダ20によってリフト部材2eを下降させてクランプを解除する動作を含んで構成されている。
【0045】
図5はこの基板保持方法における基板クランプ解除動作のタイミングチャートを示している。この基板保持方法は、基板クランプ動作においてリフト部材2eで持ち上げられた基板3を下降させてクランプを解除する動作を含むことから、シリンダ20によるリフト部材2eの昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替ステップを含んでいる。さらに、基板3を下降させる過程において下降速度を低速から高速に切り替えるようにしていることから、シリンダ20に供給される流体の流量を切り替えることにより、リフト部材2eの昇降速度を第1下降速度35c(第1の速度)および第1の速度よりも低速である第2下降速度35d(第2の速度)のいずれかに設定する速度設定ステップを含んでいる。
【0046】
図5において、タイミングt1にて下降信号が出されると、シリンダ上下動バルブSV1では上昇側がOFFとなり、下降側がONとなる。これとともに、速度切替バルブSV2ではタイミングt1から予め設定された起動促進タイマ値Taが経過するタイミングt2までの間、下降速度を高速に設定する。すなわち基板3がクランプされた状態で前述の方向切替ステップを実行して、駆動方向を下降に切り替えて下降信号が出されてから所定時間である起動促進タイマ値Taが経過するまでの間、速度設定ステップを実行して昇降速度を高速の第1の速度である第1下降速度35cに設定する。
【0047】
これにより、前述のように給気回路に絞り調整部27が介在しない状態でシリンダ20を動作させて、シリンダ20内における圧力上昇を促進して動作応答を改善することができる。すなわち、下降信号が出されたタイミングt1からリフト部材2eが基板3とともに実際に下降を開始するタイミングt3までの起動遅れ時間Tdを短縮することが可能となっている。
【0048】
そしてこの後、起動促進タイマ値Taが経過したタイミングt2から、基板3が下降してコンベア機構2dの搬送ベルトの上面に到達しリフト部材2eが基板3から離隔する位置である前述の下降位置に到達するタイミングt4までの間、前述の速度設定ステップを実行して昇降速度を低速の第2の速度である第2下降速度35dに設定する。ここで下降位置は、基板3が搬送ベルトに乗り移る基板の乗り移り高さHbである。
【0049】
乗り移り高さHbより上の位置では、基板3はリフト部材2eによって下面側を支持されていることから、リフト部材2eが乗り移り高さHbに到達するまでは、基板3への衝撃緩和などを考慮した低速で下降動作が実行される。なおリフト部材2eがこの乗り移り高さHbに到達したことは、図3に示す基板乗り移りセンサSS3による検出結果に基づいて判断する。もしくは、基板乗り移りセンサSS3がない場合は、予め基板3が確実に乗り移る時間を示す基板乗り移りタイマ値Tb(タイミングt2からタイミングt4までの時間に相当)を決めておき、タイミングt2から基板乗り移りタイマ値Tbが経過した時点で基板乗り移りと判断する。
【0050】
そしてタイミングt4において基板3がコンベア機構2dの搬送ベルトの上面に到達し、リフト部材2eが下降位置である乗り移り高さHbに到達したら、このタイミングt4において前述の速度設定ステップを実行して昇降速度を高速の第1の速度である第1下降速度35cに設定する。そしてタイミングt4以降、リフト部材2eは高速の第1下降速度35cで下降して、速やかに下限位置に復帰する。これにより、基板保持方法における基板クランプ解除動作の動作効率を向上させることが可能となっている。
【0051】
上記説明したように、本実施の形態では、前述機能を有する基板保持装置において、シリンダ20によるリフト部材2eの昇降駆動における駆動方向を上昇と下降とに切り替える方向切替部32aと、シリンダ20に供給される流体の流量を切り替えることにより、リフト部材2eの昇降速度を第1の速度および第1の速度よりも低速である第2の速度のいずれかに設定する速度設定部32bと、方向切替部32aと速度設定部32bを制御する制御部30と、を備え、制御部30は、基板3がクランプされた状態で方向切替部32aにより駆動方向を下降に切り替えて下降信号が出されてから所定時間である起動促進タイマ値Taが経過するまでの間、速度設定部32bにより昇降速度を高速の第1下降速度35c(第1の速度)に設定し、起動促進タイマ値Taが経過した時点から、基板3が下降してコンベア機構2dの搬送ベルトの上面に到達しリフト部材2eが基板3から離隔する位置である乗り移り高さHb(下降位置)に到達するまで、速度設定部32bにより昇降速度を低速の第2下降速度35d(第2の速度)に設定するようにしている。
【0052】
これにより、基板クランプ解除動作において、下降信号が発出されてから基板3がリフト部材2eとともに実際に下降を開始するまでに要する起動遅れ時間Tdを短縮することができる。したがって乗り移り高さHb(下降位置)に到達するまでの下降速度を低速に維持して基板3への衝撃を緩和しつつ、基板3のクランプ解除の動作効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の基板保持装置および基板保持方法は、基板への衝撃を緩和しつつ、基板のクランプ解除の動作効率を向上させることができるという効果を有し、クランプされた基板に部品を実装する部品実装分野において有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 部品実装装置
2 基板搬送機構
2b クランプ受け部材
2d コンベア機構
2e リフト部材
3 基板
20 シリンダ
27 絞り調整部
図1
図2
図3
図4
図5