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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】圧縮装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/02 20060101AFI20230519BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230519BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230519BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20230519BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20230519BHJP
【FI】
C25B1/02
C25B9/00 Z
C25B9/23
C25B9/65
C25B9/60
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023503218
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2022038376
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2021181762
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 修
(72)【発明者】
【氏名】嘉久和 孝
(72)【発明者】
【氏名】中植 貴之
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特許第6928921(JP,B1)
【文献】国際公開第2011/080789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
H01M 8/04- 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、
前記電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、
前記電圧印加器により前記アノードと前記カソード間に電圧を印加することで、前記アノードに供給されるアノード流体から取り出されたプロトンを、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、
前記アノードの外周上に設けられた面シール材と、
前記アノードと前記面シール材との間に設けられた弾性材とを備える、圧縮装置。
【請求項2】
前記アノード上に設けられたシート材を備え、
前記アノード、前記弾性材および前記面シール材と前記シート材とは、前記アノード、前記弾性材および前記面シール材上に設けられた接着剤により接着している、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項3】
前記接着剤は、前記アノードおよび前記弾性材間を跨ぐように、前記アノードおよび前記弾性材上に設けられている、請求項2に記載の圧縮装置。
【請求項4】
前記接着剤は、前記弾性材を跨ぐように、前記アノード、前記弾性材および前記面シール材上に設けられている、請求項2に記載の圧縮装置。
【請求項5】
前記アノード上に設けられたシート材を備え、
前記シート材は、アノード流体が流れるアノード流路が設けられたアノードセパレーターである、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項6】
前記アノード上に設けられたシート材を備え、
前記シート材上に、アノード流体が流れるアノード流路が設けられたアノードセパレーターを備える、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項7】
前記弾性材が、フッ素ゴムである、請求項1-6のいずれか1項に記載の圧縮装置。
【請求項8】
前記シート材は、金属シートである、請求項2に記載の圧縮装置。
【請求項9】
前記面シール材は、金属シートを含む、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項10】
前記金属シートは、SUS316またはSUS316Lである、請求項8または9に記載の圧縮装置。
【請求項11】
前記アノードは、多孔質の金属シートまたは多孔質のカーボンシートを含む、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項12】
前記接着剤は、はめ合い用接着剤である、請求項2-4のいずれか1項に記載の圧縮装置。
【請求項13】
前記接着剤は、嫌気性接着剤である、請求項2-4のいずれか1項に記載の圧縮装置。
【請求項14】
前記接着剤は、金属イオン成分を含まない、請求項2-4のいずれか1項に記載の圧縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化などの環境問題、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、化石燃料に代わるクリーンな代替エネルギー源として水素が注目されている。水素は燃焼しても基本的に水しか生成せず、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されず、かつ窒素酸化物などもほとんど排出されないので、クリーンエネルギーとして期待されている。また、水素を燃料として高効率に利用する装置としては燃料電池があり、自動車用電源向け、家庭用自家発電向けに開発および普及が進んでいる。
【0003】
例えば、燃料電池車の燃料として使用される水素は、一般的に、数十MPaに圧縮された高圧状態で車内の水素タンクに貯蔵される。そして、このような高圧の水素は、一般的に、低圧(常圧)の水素を機械式の圧縮装置によって圧縮することで得られる。
【0004】
ところで、来るべき水素社会では、水素を製造することに加えて、水素を高密度で貯蔵し、小容量かつ低コストで輸送または利用し得る技術開発が求められている。特に、燃料電池の普及促進には水素供給インフラを整備する必要があり、水素を安定的に供給するために、高純度の水素を製造、精製、高密度貯蔵する様々な提案が行われている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、電解質膜を挟んで配されたアノードおよびカソード間に所望の電圧を印加することによって、水素含有ガス中の水素の精製および昇圧が行われる電気化学式水素ポンプが提案されている。なお、カソード、電解質膜およびアノードの積層体を膜-電極接合体(以下、MEA:Membrane Electrode Assembly)という。このとき、アノードに供給される水素含有ガスは、不純物が混入していてもよい。例えば、水素含有ガスは、製鉄工場などからの副次生成の水素ガスでもよいし、都市ガスを改質した改質ガスでもよい。
【0006】
また、例えば、特許文献2では、水の電気電解で発生した低圧の水素がMEAを用いて昇圧される差圧式の水電解装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2021/140778号
【文献】特許第6129809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、一例として、アノードと面シール材との間の隙間に、カソード内の水素のガス圧に起因して電解質膜が垂れ込むことを従来よりも抑制し得る圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様(aspect)の圧縮装置は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、前記電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器により前記アノードと前記カソード間に電圧を印加することで、前記アノードに供給されるアノード流体から取り出されたプロトンを、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する装置であって、前記アノードの外周上に設けられた面シール材と、前記アノードと前記面シール材との間に設けられた弾性材とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様の圧縮装置は、アノードと面シール材との間の隙間に、カソード内の水素のガス圧に起因して電解質膜が垂れ込むことを従来よりも抑制し得るという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図2図2は、第2実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図3A図3Aは、電気化学式水素ポンプの電気化学セルの各部材の組立方法の一例を説明するための図である。
図3B図3Bは、電気化学式水素ポンプの電気化学セルの各部材の組立方法の一例を説明するための図である。
図3C図3Cは、電気化学式水素ポンプの電気化学セルの各部材の組立方法の一例を説明するための図である。
図3D図3Dは、電気化学式水素ポンプの電気化学セルの各部材の組立方法の一例を説明するための図である。
図3E図3Eは、電気化学式水素ポンプの電気化学セルの各部材の組立方法の一例を説明するための図である。
図3F図3Fは、電気化学式水素ポンプの各部材の組立方法の一例を説明するための図である。
図4図4は、第2実施形態の第1変形例における電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図5図5は、図4のA部の拡大図である。
図6図6は、第2実施形態の第2変形例における電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図7図7は、第3実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図8図8は、第4実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特許文献1では、電気化学式水素ポンプにおいて、低圧のアノード流体が存在する領域の部材間をシールするために、平面視においてアノードを囲むように環状の面シール材を設けることが提案されている。
【0013】
しかし、アノードの周囲に沿って上記の面シール材を設ける場合、アノードの外端面と面シール材の内端面との間には、例えば、両者の寸法公差の関係上、平面視において環状の隙間が存在する。この場合、アノードの外端面と面シール材の内端面とを跨ぐように配された電解質膜が、所定の押圧力によって押圧されると、この隙間に電解質膜が垂れ込む可能性がある。すると、電解質膜が破膜する可能性がある。
【0014】
ここで、例えば、アノードの外端面と面シール材の内端面との間に存在する隙間に接着剤を設けた場合でも、上記押圧力によって接着剤が剥がれ、結局、電解質膜が破膜する可能性がある。
【0015】
そこで、本開示者らは、鋭意検討を行った結果、アノードの外端面と面シール材の内端面との間の隙間に弾性材を設けることで、以上の問題を軽減できることを見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0016】
すなわち、本開示の第1態様の圧縮装置は、電解質膜と、電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、アノードとカソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、電圧印加器によりアノードとカソード間に電圧を印加することで、アノードに供給されるアノード流体から取り出されたプロトンを、電解質膜を介してカソードに移動させ、圧縮された水素を生成する装置であって、アノードの外周上に設けられた面シール材と、アノードと面シール材との間に設けられた弾性材とを備える。
【0017】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、アノードと面シール材との間の隙間に、カソード内の水素のガス圧に起因して電解質膜が垂れ込むことを従来よりも抑制し得る。具体的には、アノードの外端面と面シール材の内端面との間の隙間に弾性材を設けることで、水素のガス圧が弾性材を圧縮させる方向に作用するとき、弾性材は、本圧縮方向と垂直な水平方向に所定の応力がアノードの外端面と面シール材の内端面に付与されながら、水平方向に広がるように弾性変形する。これにより、アノードと弾性材との間の隙間、および、弾性材と面シール材との間の隙間が却って形成されにくくなる。よって、本態様の圧縮装置は、上記隙間への電解質膜の垂れ込みが抑制される。その結果、電解質膜が破膜する可能性を低減することができる。
【0018】
本開示の第2態様の圧縮装置は、第1態様の圧縮装置において、アノード上に設けられたシート材を備え、アノード、弾性材および面シール材とシート材とは、アノード、弾性材および面シール材上に設けられた接着剤により接着していてもよい。
【0019】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、アノード、弾性材および面シール材とシート材とを、アノード、弾性材および面シール材上に設けられた接着剤で接着することによって、圧縮装置の組立作業性が改善する。
【0020】
具体的には、例えば、アノードの外端面と弾性材の内端面との間、および、弾性材の外端面と面シール材の内端面との間を接着剤で接着した場合、弾性材の大きさなどの影響で、これらの部材間における十分な接着性を担保できない場合がある。
【0021】
そこで、本態様の圧縮装置は、アノード、弾性材および面シール材とシート材とを上記の如く接着させることで、シート材の表面上に、アノード、弾性材および面シール材の各部材を積層した後、シート材の裏面を上にするようにシート材を上下反転させる場合であっても、これらの部材がシート材の表面から外れにくくなり、その結果、圧縮装置の組立作業性が改善する。
【0022】
本開示の第3態様の圧縮装置は、第2態様の圧縮装置において、接着剤は、アノードおよび弾性材間を跨ぐように、アノードおよび弾性材上に設けられていてもよい。
【0023】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、アノードおよび弾性材間を跨ぐように、アノードおよび弾性材上に接着剤を設けることにより、多孔性のアノードの空隙に接着剤が入り込むので、アノードおよび弾性材間の隙間を接着剤で埋めながら両部材を接着することができる。よって、本態様の圧縮装置は、アノードおよび弾性材間を跨ぐように、アノードおよび弾性材上に接着剤を設けていない場合に比べて、弾性材がシート材の表面から外れにくくなる。
【0024】
本開示の第4態様の圧縮装置は、第2態様の圧縮装置において、接着剤は、弾性材を跨ぐように、アノード、弾性材および面シール材上に設けられていてもよい。
【0025】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、仮に、弾性材の材質の影響で、弾性材とシート材とが接着剤で接着しにくい場合でも、弾性材を跨ぐようにアノード、弾性材および面シール材上に接着剤を設けることにより、アノードと面シール材とが接着剤を介して一体となって両者がシート材に接着する。すると、弾性材がアノードおよび面シール材に挟まれるような形態で、これらの部材を一体化させることができる。よって、本態様の圧縮装置は、弾性材を跨ぐように、アノード、弾性材および面シール材上に接着剤を設けていない場合に比べて、弾性材がシート材の表面から外れにくくなる。
【0026】
本開示の第5態様の圧縮装置は、第1態様の圧縮装置において、アノード上に設けられたシート材を備え、シート材は、アノード流体が流れるアノード流路が設けられたアノードセパレーターであってもよい。
【0027】
本開示の第6態様の圧縮装置は、第1態様の圧縮装置において、アノード上に設けられたシート材を備え、シート材上に、アノード流体が流れるアノード流路が設けられたアノードセパレーターを備えてもよい。
【0028】
本開示の第7態様の圧縮装置は、第1態様から第6態様のいずれか一つの圧縮装置において、弾性材が、フッ素ゴムであってもよい。
【0029】
フッ素ゴムが、様々な種類のゴムの中で耐酸性などの化学的安定性の視点で高い特性を備えるので、弾性材の素材としてフッ素ゴムを選択すると都合がよい。
【0030】
本開示の第8態様の圧縮装置は、第2態様から第7態様のいずれか一つの圧縮装置において、アノード上に設けられたシート材を備え、シート材は、金属シートであってもよい。
【0031】
本開示の第9態様の圧縮装置は、第1態様から第8態様のいずれか一つの圧縮装置において、面シール材は、金属シートを含んでいてもよい。
【0032】
本開示の第10態様の圧縮装置は、第8態様または第9態様の圧縮装置において、金属シートは、SUS316またはSUS316Lであってもよい。
【0033】
SUS316、SUS316Lは、様々な種類のステンレスの中で耐酸性および耐水素脆性などの視点で高い特性を備えるので、金属シートの素材としてSUS316またはSUS316Lを選択すると都合がよい。
【0034】
本開示の第11態様の圧縮装置は、第1態様から第10態様のいずれか一つの圧縮装置において、アノードは、多孔質の金属シートまたは多孔質のカーボンシートを含んでもよい。
【0035】
本開示の第12態様の圧縮装置は、第2態様から第4態様のいずれか一つの圧縮装置において、接着剤ははめ合い用接着剤であってもよい。
【0036】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、アノード、弾性材および面シール材とシート材との間の隙間が存在しても、はめ合い用接着剤が、かかる隙間を埋めながら以上の部材間を適切に接着することができる。
【0037】
本開示の第13態様の圧縮装置は、第2態様から第4態様のいずれか一つの圧縮装置において、接着剤は嫌気性接着剤であってもよい。
【0038】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、嫌気性接着剤が、空気の遮断によって硬化するので、アノード、弾性材および面シール材とシート材との接着において、部材間の位置決めを行うための時間が確保される。これにより、シート材上に以上の部材を配置するための組立作業性が改善する。
【0039】
本開示の第14態様の圧縮装置は、第2態様から第4態様のいずれか一つの圧縮装置において、接着剤は金属イオン成分を含まないものであってもよい。
【0040】
電解質膜中のスルホン酸基に金属イオンが修飾すると、電解質膜が劣化する可能性があるが、本態様の圧縮装置は、アノード、弾性材および面シール材とシート材とを接着するための接着剤として、金属イオン成分を含まない接着剤を選択することで、このような可能性を低減することができる。
【0041】
以下、添付図面を参照しつつ、本開示の実施形態について説明する。以下で説明する実施形態は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される数値、形状、材料、構成要素、および、構成要素の配置位置および接続形態などは、あくまで一例であり、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、本態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。
【0042】
(第1実施形態)
上記各態様の圧縮装置のアノード流体は、様々な種類のガス、液体が想定される。例えば、圧縮装置が電気化学式水素ポンプである場合、アノード流体として、水素含有ガスを挙げることができる。また、例えば、圧縮装置が水電解装置である場合、アノード流体として、液体の水を挙げることができる。そこで、以下の実施形態では、アノード流体が水素含有ガスである場合において、圧縮装置の一例である電気化学式水素ポンプの構成および動作について説明する。
【0043】
[装置構成]
図1は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【0044】
図1に示す例では、電気化学式水素ポンプ100は、電解質膜21と、アノードANと、カソードCAと、カソードセパレーター27と、アノードセパレーター26と、弾性材29と、面シール材32と、電圧印加器50と、を備える。そして、電気化学式水素ポンプ100の電気化学セルにおいて、電解質膜21、アノード触媒層24、カソード触媒層23、アノード給電体25、カソード給電体22、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27が積層されている。電気化学式水素ポンプ100は、このような電気化学セルを複数個、積層したスタックを備えてもよい。
【0045】
ここで、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器50によりアノードANとカソードCAとの間に電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガスから取り出されたプロトン(H+)を、電解質膜21を介してカソードCAに移動させ、圧縮された水素(H2)を生成する装置である。
【0046】
上記の水素含有ガスとして、図示しない水電解装置で生成された水素ガスを用いてもよいし、図示しない改質器で生成された改質ガスを用いてもよい。
【0047】
なお、上記電圧を印加するための電圧印加器50の詳細は、後で説明する。
【0048】
アノードANは、電解質膜21の一方の主面上に設けられている。アノードANは、アノード触媒層24と、アノード給電体25とを含む電極である。カソードCAは、電解質膜21の他方の主面に設けられている。カソードCAは、カソード触媒層23およびカソード給電体22を含む電極である。これにより、電解質膜21は、アノード触媒層24およびカソード触媒層23のそれぞれと接触するようにして、アノードANとカソードCAとによって挟持されている。
【0049】
電解質膜21はプロトン伝導性を備える膜であれば、どのような構成であってもよい。例えば、電解質膜21として、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系電解質膜などを挙げることができる。具体的には、電解質膜21として、例えば、Nafion(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0050】
アノード触媒層24は、電解質膜21の一方の主面に設けられている。アノード触媒層24は、触媒金属(例えば、白金)を分散状態で担持することができるカーボンを含むが、これに限定されない。
【0051】
カソード触媒層23は、電解質膜21の他方の主面に設けられている。カソード触媒層23は、触媒金属(例えば、白金)を分散状態で担持することができるカーボンを含むが、これに限定されない。
【0052】
カソード触媒層23もアノード触媒層24も、触媒の調製方法としては、種々の方法を挙げることができるが、特に限定されない。例えば、カーボン系粉末としては、黒鉛、カーボンブラック、導電性を有する活性炭などの粉末を挙げることができる。カーボン担体に、白金若しくは他の触媒金属を担持する方法は、特に限定されない。例えば、粉末混合または液相混合などの方法を用いてもよい。後者の液相混合としては、例えば、触媒成分コロイド液にカーボンなどの担体を分散させ、吸着させる方法などが挙げられる。白金などの触媒金属のカーボン担体への担持状態は、特に限定されない。例えば、触媒金属を微粒子化し、高分散で担体に担持してもよい。
【0053】
カソード給電体22は、カソード触媒層23上に設けられている。カソード給電体22は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。カソード給電体22は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形に適切に追従するような弾性を備える方が望ましい。カソード給電体22の基材として、例えば、多孔質のカーボンシートを使用することができる。この場合、多孔質のカーボンシートとして、例えば、カーボン繊維焼結体シートなどを挙げることができるが、これに限定されない。例えば、カソード給電体22の基材として、チタン、チタン合金、ステンレススチールなどを素材とする金属繊維の焼結体シートなどを用いてもよい。
【0054】
アノード給電体25は、アノード触媒層24上に設けられている。アノード給電体25は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。アノード給電体25は、電気化学式水素ポンプ100の動作時に、上記の差圧による電解質膜21の押し付けに耐え得る程度の剛性を備える方が望ましい。アノード給電体25の基材として、例えば、多孔質の金属シートまたは多孔質のカーボンシートを使用することができる。この場合、多孔質のカーボンシートとして、例えば、カーボン粒子焼結体シートなどを挙げることができるが、これに限定されない。多孔質の金属シートとして、例えば、白金などの貴金属でコーティングしたチタン粒子焼結体シートなどを挙げることができるが、これに限定されない。
【0055】
アノードセパレーター26は、アノードAN上に設けられた部材である。カソードセパレーター27は、カソードCA上に設けられた部材である。カソードセパレーター27の中央部には凹部が設けられ、この凹部内に、カソード給電体22が収容されている。
【0056】
なお、アノードAN、弾性材29および面シール材32と、アノードセパレーター26との間に、アノードAN、弾性材29および面シール材32を固定するための適宜のシート材が配置されていてもよいし、このようなシート材が配置されていなくてもよい。前者の構成の詳細は、第3実施形態で説明する。後者の構成の詳細は、第4実施形態で説明する。
【0057】
面シール材32は、アノードANの外周上に設けられた部材である。具体的には、図1に示すように、電気化学セルのMEAのうちの電解質膜21のみが、カソードセパレーター27の凹部からアノードANの外端面と面シール材32の内端面との間に存在する環状の隙間を跨ぐように外側に延伸している。そして、電解質膜21の延伸部が、面シール材32とカソードセパレーター27の周辺部とによって挟まれるとともに、弾性材29が、アノードANと面シール材32との間に設けられている。つまり、図1の平面視において、環状の面シール材32が、上記隙間を隔ててアノードANの外周を囲むように設けられており、環状の弾性材29が、この隙間内に収容されている。
【0058】
ここで、弾性材29は、面シール材32およびアノード給電体25よりも剛性が小さい素材で構成されており、電気化学式水素ポンプ100の動作時に所定の荷重がかかると弾性変形することができる。このような素材として、例えば、ゴムが挙げられる。具体的には、フッ素ゴムを挙げることができるが、これに限定されない。ただし、フッ素ゴムが、様々な種類のゴムの中で耐酸性などの化学的安定性の視点で高い特性を備えるので、弾性材29の素材としてフッ素ゴムを選択すると都合がよい。
【0059】
以上により、アノードANおよびカソードCAが、カソードセパレーター27の周辺部の溝部に設けられたOリング30と面シール材32とによって適切にシールされるとともに、電気化学セル内におけるカソードセパレーター27およびアノードセパレーター26間の短絡が、電解質膜21の延伸部によって適切に防止される。
【0060】
なお、面シール材32は、弾性材で構成されていてもよいが、剛性を向上させるために、チタン、ステンレスなどの金属シートの両面に弾性材を設ける形態であってもよい。弾性材としては、例えば、ゴムが挙げられる。具体的には、フッ素ゴムを挙げることができるが、これに限定されない。
【0061】
また、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27は、例えば、チタン、ステンレスなどの金属シートで構成されていてもよい。
【0062】
上記のような金属シートを、例えば、低コストのステンレスで構成する場合は、SUS316、SUS316Lを選択することが望ましい。これは、SUS316、SUS316Lが、様々な種類のステンレスの中で耐酸性および耐水素脆性などの特性に優れているからである。
【0063】
以上のようにして、カソードセパレーター27およびアノードセパレーター26で上記のMEAを挟むことにより、電気化学セルが形成されている。
【0064】
ここで、図1には示されていないが、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作において必要となる部材が適宜、設けられる。
【0065】
電気化学式水素ポンプ100は、電気化学セルにおける、積層方向の両端上に設けられた一対の端板と、一対の端板を積層方向に締結する締結器と、を備える。
【0066】
締結器は、複数段の電気化学セルおよび一対の端板を積層方向に締結することができれば、どのような構成であってもよい。例えば、締結器として、ボルトおよび皿ばね付きナットなどを挙げることができる。これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、電気化学セルが、上記の積層方向において、締結器の締結圧により積層状態で適切に保持される。すると、電気化学セルの各部材間でシール部材(例えば、Oリング30、面シール材32など)のシール性が適切に発揮されるとともに、各部材間の接触抵抗が低減する。
【0067】
ここで、端板の適所には、アノードガス導入経路が設けられている。アノードガス導入経路は、例えば、アノードANに供給される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導入経路は、筒状のアノードガス導入マニホールドに連通している。なお、アノードガス導入マニホールドは、電気化学セルの各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0068】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、電気化学セルのそれぞれにおいて、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面には、アノードガス流路と、アノードガス導入マニホールドとアノードガス流路とを連絡する第1連絡路とが設けられている。
【0069】
アノードガス流路は、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含む、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に設けられたサーペンタイン状の流路溝であってもよい。第1連絡路は、アノードガス流路の一方の端部とアノードガス導入マニホールドとの間を連絡するように、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に設けられた流路溝であってもよい。
【0070】
以上により、アノードガス導入経路からアノードガス導入マニホールドに供給された水素含有ガスは、電気化学セルのそれぞれの第1連絡路を通じて、電気化学セルのそれぞれに分配される。そして、分配された水素含有ガスがアノードガス流路を通過する間に、アノード給電体25からアノード触媒層24に水素含有ガスが供給される。
【0071】
また、端板の適所には、アノードガス導出経路が設けられている。アノードガス導出経路は、例えば、アノードANから排出される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導出経路は、筒状のアノードガス導出マニホールドに連通している。なお、アノードガス導出マニホールドは、電気化学セルの各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0072】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、電気化学セルのそれぞれにおいて、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に、上記アノードガス流路と、アノードガス導出マニホールドとアノードガス流路とを連絡する第2連絡路と、が設けられている。
【0073】
第2連絡路は、アノードガス流路の他方の端部とアノードガス導出マニホールドとの間を連絡するように、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に設けられた流路溝であってもよい。
【0074】
以上により、電気化学セルのそれぞれのアノードガス流路を通過した水素含有ガスが、第2連絡路のそれぞれを通じてアノードガス導出マニホールドに供給され、ここで合流される。そして、合流された水素含有ガスが、アノードガス導出経路に導かれる。
【0075】
さらに、電気化学セルのそれぞれにおいて、カソードセパレーター27の適所には、カソードセパレーター27の凹部内と筒状のカソードガス導出マニホールド内とを連通する連通経路が設けられている。なお、カソードガス導出マニホールドは、電気化学セルの各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。これにより、電気化学式水素ポンプ100の動作時に、カソードCAの高圧の水素ガスが、連通経路およびカソードガス導出マニホールドを介して電気化学式水素ポンプ100外に排出される。
【0076】
なお、以上の図示しない部材は例示であって、本例に限定されない。
【0077】
また、図1に示すように、電気化学式水素ポンプ100は、アノードANとカソードCAとの間に電圧を印加する電圧印加器50を備える。電圧印加器50は、アノードANとカソードCAとの間に電圧を印加することができれば、どのような構成であってもよい。具体的には、電圧印加器50の高電位側端子が、アノードANに接続され、電圧印加器50の低電位側端子が、カソードCAに接続されている。電圧印加器50として、例えば、DC/DCコンバータ、AC/DCコンバータなどを挙げることができる。DC/DCコンバータは、電圧印加器50が、太陽電池、燃料電池、バッテリなどの直流電源と接続された場合に用いられる。AC/DCコンバータは、電圧印加器50が、商用電源などの交流電源と接続された場合に用いられる。また、電圧印加器50は、例えば、電気化学式水素ポンプ100の電気化学セルに供給する電力が所定の設定値となるように、アノードANおよびカソードCA間に印加される電圧、アノードANおよびカソードCA間に流れる電流が調整される電力型電源であってもよい。
【0078】
[動作]
以下、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作の一例について、図面を参照しながら説明する。以下の動作は、例えば、図示しない制御器の演算回路が、制御器の記憶回路から制御プログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器で行うことは、必ずしも必須ではない。操作者が、その一部の動作を行ってもよい。以下の例では、制御器により動作を制御する場合について説明する。
【0079】
まず、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに低圧の水素含有ガスが供給されるとともに、電圧印加器50の電圧が電気化学式水素ポンプ100に給電される。
【0080】
すると、アノードANのアノード触媒層24において、酸化反応で水素分子がプロトンと電子とに分離する(式(1))。プロトンは電解質膜21内を伝導してカソード触媒層23に移動する。電子は電圧印加器50を通じてカソード触媒層23に移動する。
【0081】
そして、カソード触媒層23において、還元反応で水素分子が再び生成される(式(2))。なお、プロトンが電解質膜21中を伝導する際に、所定水量の水が、電気浸透水としてアノードANからカソードCAにプロトンと同伴して移動することが知られている。
【0082】
このとき、図示しない流量調整器を用いて、水素導出経路の圧損を増加させることにより、カソードCAで生成された水素(H2)を圧縮することができる。なお、流量調整器として、例えば、水素導出経路に設けられた背圧弁、調整弁などを挙げることができる。
【0083】
アノード:H2(低圧)→2H++2e- ・・・(1)
カソード:2H++2e-→H2(高圧) ・・・(2)
このようにして、電気化学式水素ポンプ100では、電圧印加器50で電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素がカソードCAにおいて圧縮される。これにより、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作が行われ、カソードCAで圧縮された水素は、例えば、図示しない水素需要体に供給される。この水素需要体として、例えば、水素供給インフラの配管、水素貯蔵器、燃料電池などを挙げることができる。
【0084】
ここで、カソードCAにおいて、例えば、数十MPaに圧縮された高圧状態で水素が生成される。このため、カソードCA内の水素のガス圧P1が、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作が進行するに連れて大きくなる。このとき、図1の平面視において、Oリング30で囲まれた領域全域には、上記水素のガス圧P1とほぼ同等の高圧がかかる。つまり、図1に示すように、Oリング30とカソードCAとの間の領域においても、カソードCA内の水素のガス圧P1と同等の高圧が、電解質膜21に対して与えられる。
【0085】
以上のとおり、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードANと面シール材32との間の平面視における環状の隙間に、カソードCA内の水素のガス圧P1に起因して電解質膜21が垂れ込むことを従来よりも抑制し得る。具体的には、図1に示すように、アノードANの外端面と面シール材32の内端面との間の隙間に弾性材29を設けることで、上記水素のガス圧P1が弾性材29を圧縮させる方向に作用するとき、弾性材29は、本圧縮方向と垂直な水平方向に所定の応力P2がアノードANの外端面と面シール材32の内端面に付与されながら、水平方向に広がるように弾性変形する。これにより、アノードANと弾性材29との間の隙間、および、弾性材29と面シール材32との間の隙間が却って形成されにくくなる。よって、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、上記隙間への電解質膜21の垂れ込みが適切に抑制される。その結果、電解質膜21が、例えば、約100μm以下のような薄膜であっても、電解質膜21が破膜する可能性を低減することができる。
【0086】
(第2実施形態)
[装置構成]
図2は、第2実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【0087】
図2に示す例では、電気化学式水素ポンプ100は、電解質膜21と、アノードANと、カソードCAと、カソードセパレーター27と、アノードセパレーター26と、弾性材29と、シート材Sと、接着剤40と、面シール材32と、電圧印加器50と、を備える。
【0088】
ここで、電解質膜21、アノードAN、カソードCA、カソードセパレーター27、アノードセパレーター26、弾性材29、面シール材32および電圧印加器50は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0089】
シート材Sは、アノードAN上に設けられた部材である。そして、電気化学式水素ポンプ100は、シート材S上に、水素含有ガスが流れるアノードガス流路が設けられたアノードセパレーター26を備える。つまり、シート材SのアノードAN側の主面と、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32の主面とが面接触している。また、シート材SのアノードAN側の主面とは反対の主面と、アノードセパレーター26の主面とが面接触している。
【0090】
ここで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、例えば、多孔性のアノード給電体25と接触するシート材Sの領域内において、シート材Sの厚み方向に貫通する複数の細孔が設けられていてもよい。すると、水素含有ガスがアノードセパレーター26のアノードガス流路を通過する間に、水素含有ガスは、上記細孔および多孔性のアノード給電体25の空隙を通じてアノード触媒層24に供給される。
【0091】
なお、シート材Sは、例えば、チタン、ステンレスなどの金属シートで構成されていてもよい。この金属シートを、例えば、低コストのステンレスで構成する場合、SUS316、SUS316Lを選択することが望ましい。これは、SUS316、SUS316Lが様々な種類のステンレスの中で耐酸性および耐水素脆性などの特性に優れているからである。
【0092】
また、アノードAN、弾性材29および面シール材32とシート材Sとは、アノードAN、弾性材29および面シール材32上に設けられた接着剤40により接着している。
【0093】
接着剤40は、アノードAN、弾性材29および面シール材32とシート材Sとを接着することができれば、どのような構成であってもよい。
【0094】
例えば、接着剤40は、はめ合い用接着剤であってもよい。これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードAN、弾性材29および面シール材32とシート材Sとの間の隙間が存在しても、はめ合い用接着剤が、かかる隙間を埋めながら以上の部材間を適切に接着することができる。
【0095】
また、接着剤40は、嫌気性接着剤であってもよい。これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、嫌気性接着剤が、空気の遮断によって硬化するので、アノードAN、弾性材29および面シール材32とシート材Sとの接着において、部材間の位置決めを行うための時間が確保される。これにより、シート材S上に以上の部材を配置するための組立作業性が改善する。
【0096】
また、接着剤40は、金属イオン成分を含まないものであってもよい。電解質膜21中のスルホン酸基に金属イオンが修飾すると、電解質膜21が劣化する可能性があるが、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードAN、弾性材29および面シール材32とシート材Sとを接着するための接着剤として、金属イオン成分を含まない接着剤を選択することで、このような可能性を低減することができる。
【0097】
なお、以上のような接着剤40として、例えば、はめ合い用かつ嫌気性の接着剤(例えば、ヘンケルジャパン株式会社製のLOCTITE 638(登録商標))などを使用することができるが、これに限定されない。この接着剤(LOCTITE 638(登録商標))は、金属同士の接着に適した接着剤であるが、例えば、フッ素ゴムなどの接着には不向きである。このため、接着剤40として、接着剤(LOCTITE 638(登録商標))が使用される場合には、シート材Sが、上記の如く、金属シートであると都合がよい。
【0098】
[電気化学セルの各部材の組立方法]
以下、電気化学式水素ポンプ100の電気化学セルの各部材の組立方法の一例について、図3A図3Fを参照しながら説明する。
【0099】
まず、図示しない作業台上に、シート材Sの表面が上になるように、シート材Sを置く。そして、図3Aに示すように、図示しない接着剤塗布機を用いて、シート材Sの表面上に、硬化前の接着剤40Aを適宜の間隔を隔てて環状に複数回(本例では、3回)に亘って塗布するとともに、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32をそれぞれ、硬化前の接着剤40A上で位置合わせを行いながら、シート材Sの表面上に置く。
【0100】
次に、図3Bに示すように、シート材Sの表面上に置かれたアノード給電体25、弾性材29および面シール材32をそれぞれ加圧固定することで、所定時間、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32とシート材Sとの間の接着剤40Aの空気を遮断する。これにより、接着剤40Aが硬化することで、これらの部材間のおける接着剤40の接着が完了する。以下、説明の便宜上、図3Bに示された部材を「接着体」という場合がある。なお、接着体における接着剤40の接着箇所は例示であって、本例に限定されない。他の例は、変形例で説明する。
【0101】
次に、図3Cに示すように、シート材Sの裏面を上にするように、シート材Sを上下反転させる。
【0102】
次に、図3Dに示すように、別途、作業台上で組み立てたカソードセパレーター27、カソード給電体22およびMEAの積層体上に、図3Cの状態のままの接着体およびアノードセパレーター26をこの順に置くと、図3Eの如く、1個の電気化学セルの組立作業が完了する。
【0103】
最後に、図3Fに示すように、図3Eの電気化学セルを上下反転させると、図2の電気化学セルが得られる。
【0104】
なお、電気化学式水素ポンプ100で必要となる電気化学セルの個数が複数個である場合は、電気化学セルの個数分、図3Aから図3Eまでの組立作業を繰り返した後、複数の電気化学セルが積層されたスタックを上下反転させるとよい。
【0105】
以上のとおり、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノードAN、弾性材29および面シール材32とシート材Sとを、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32上に設けられた接着剤40で接着することによって、電気化学セルの組立作業性が改善する。
【0106】
具体的には、例えば、アノード給電体25の外端面と弾性材29の内端面との間、および、弾性材29の外端面と面シール材32の内端面との間を接着剤で接着した場合、弾性材29の大きさなどの影響で、これらの部材間における十分な接着性を担保できない場合がある。例えば、弾性材29の厚みが、約1mm未満、幅が約1mm~2mm程度である場合、アノード給電体25の外端面と弾性材29の内端面との間、および、弾性材29の外端面と面シール材32の内端面との間を接着剤で接着することが困難なことが多い。
【0107】
そこで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32とシート材Sとを上記の如く接着させることで、シート材Sの表面上に、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32の各部材を積層した後、シート材Sの裏面を上にするようにシート材Sを上下反転させる場合であっても、これらの部材がシート材Sの表面から外れにくくなり、その結果、電気化学セルの組立作業性が改善する。
【0108】
また、図3Eにおいて、電気化学セルの各部材の組立を、図2に示されたカソードCA側の部材からアノードAN側の部材の順番に行うのは、Oリング30、カソード給電体22、MEAの落下、位置ずれなどを起きにくくするからである。つまり、接着体の各部材が接着剤40で接着されているので、図3Dの如く、接着体をカソードセパレーター27、カソード給電体22およびMEAの積層体上に載せる場合でも、接着体の各部材の落下、位置ずれなどが発生しにくい。よって、電気化学セルの組立作業性が改善する。
【0109】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0110】
(第1変形例)
図4は、第2実施形態の第1変形例における電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。図5は、図4のA部の拡大図である。
【0111】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、以下に説明する接着剤140の接着箇所以外は、第2実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。例えば、接着剤140は、上記の接着剤40と同様、はめ合い用接着剤であってもよいし、嫌気性接着剤であってもよいし、金属イオン成分を含まないものであってもよい。
【0112】
接着剤140は、アノード給電体25および弾性材29間を跨ぐように、アノード給電体25および弾性材29上に設けられている。つまり、図4に示す如く、接着剤140は、アノード給電体25の外端面と弾性材29の内端面との間の領域を覆うように、アノード給電体25および弾性材29の主面上を延伸している。
【0113】
以上により、本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、アノード給電体25および弾性材29間を跨ぐように、アノード給電体25および弾性材29上に接着剤140を設けることにより、図5に示す如く、多孔性のアノード給電体25の空隙内に接着剤140が入り込むので、アノードANおよび弾性材29間の隙間を接着剤140で埋めながら両部材を接着することができる。よって、本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、アノード給電体25および弾性材29間を跨ぐように、アノード給電体25および弾性材29上に接着剤を設けていない場合に比べて、弾性材29がシート材Sの表面から外れにくくなる。
【0114】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態または第2実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0115】
(第2変形例)
図6は第2実施形態の第2変形例における電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【0116】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、以下に説明する接着剤240の接着箇所以外は、第2実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。例えば、接着剤240は、上記の接着剤40と同様、はめ合い用接着剤であってもよいし、嫌気性接着剤であってもよいし、金属イオン成分を含まないものであってもよい。
【0117】
接着剤240は、弾性材29を跨ぐように、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32上に設けられている。つまり、図6に示す如く、接着剤240は、アノード給電体25の外端面と弾性材29の内端面との間の領域、および、弾性材29の外端面と面シール材32の内端面との間の領域を覆うように、アノード給電体25、弾性材29おとび面シール材32の主面上を延伸している。
【0118】
以上により、本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、仮に、弾性材29の材質の影響で、弾性材29とシート材Sとが接着剤240で接着しにくい場合でも、弾性材29を跨ぐようにアノード給電体25、弾性材29および面シール材32上に接着剤240を設けることにより、アノード給電体25と面シール材32とが接着剤240を介して一体となって両者がシート材Sに接着する。すると、弾性材29がアノード給電体25および面シール材32に挟まれるような形態で、これらの部材を一体化させることができる。よって、本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、弾性材29を跨ぐように、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32上に接着剤240を設けていない場合に比べて、弾性材29がシート材Sの表面から外れにくくなる。
【0119】
なお、上記はめ合い用かつ嫌気性の接着剤(例えば、LOCTITE 638(登録商標))は、金属同士の接着に適した接着剤であるが、例えば、フッ素ゴムなどの接着には不向きである。よって、弾性材29をフッ素ゴムで構成する場合には、本変形例の如く、弾性材29を跨ぐように、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32上に接着剤240を設けることが望ましい。
【0120】
本変形例の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態、第2実施形態および第2実施形態の第1変形例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0121】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【0122】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、以下に説明する構成以外は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。
【0123】
アノードAN上に設けられたシート材Sは、水素含有ガスが流れるアノードガス流路が設けられたアノードセパレーター26である。つまり、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32の主面とアノードセパレーター26の主面とが面接触している。
【0124】
なお、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100が奏する作用効果は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100が奏する作用効果と同様であるので説明を省略する。
【0125】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態、第2実施形態および第2実施形態の第1変形例-第2変形例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。例えば、図7では、第2実施形態で説明した接着剤が示されていないが、かかる接着剤が、図7のアノードセパレーター26上に設けられていてもよい。
【0126】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【0127】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、以下に説明する構成以外は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。
【0128】
シート材Sは、アノードAN上に設けられた部材である。そして、電気化学式水素ポンプ100は、シート材S上に、水素含有ガスが流れるアノードガス流路が設けられたアノードセパレーター26を備える。つまり、シート材SのアノードAN側の主面と、アノード給電体25、弾性材29および面シール材32の主面とが面接触している。また、シート材SのアノードAN側の主面とは反対の主面と、アノードセパレーター26の主面とが面接触している。
【0129】
ここで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、例えば、多孔性のアノード給電体25と接触するシート材Sの領域内において、シート材Sの厚み方向に貫通する複数の細孔が設けられていてもよい。すると、水素含有ガスがアノードセパレーター26のアノードガス流路を通過する間に、水素含有ガスは、上記細孔および多孔性のアノード給電体25の空隙を通じてアノード触媒層24に供給される。
【0130】
なお、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100が奏する作用効果は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100が奏する作用効果と同様であるので説明を省略する。
【0131】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態、第2実施形態および第2実施形態の第1変形例-第2変形例のいずれかの電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0132】
なお、第1実施形態、第2実施形態、第2実施形態の第1変形例-第2変形例、第3実施形態および第4実施形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0133】
また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。例えば、電気化学式水素ポンプ100は水電解装置などの他の圧縮装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本開示の一態様は、アノードと面シール材との間の隙間に、カソード内の水素のガス圧に起因して電解質膜が垂れ込むことを従来よりも抑制し得る圧縮装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0135】
21 :電解質膜
22 :カソード給電体
23 :カソード触媒層
24 :アノード触媒層
25 :アノード給電体
26 :アノードセパレーター
27 :カソードセパレーター
29 :弾性材
30 :Oリング
32 :面シール材
40 :接着剤
40A :接着剤
50 :電圧印加器
100 :電気化学式水素ポンプ
140 :接着剤
240 :接着剤
AN :アノード
CA :カソード
P1 :ガス圧
P2 :応力
S :シート材
【要約】
圧縮装置は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、前記電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器により前記アノードと前記カソード間に電圧を印加することで、前記アノードに供給されるアノード流体から取り出されたプロトンを、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、前記アノードの外周上に設けられた面シール材と、前記アノードと前記面シール材との間に設けられた弾性材とを備える。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5
図6
図7
図8