(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】害虫捕獲装置、及び建物
(51)【国際特許分類】
A01M 1/10 20060101AFI20230519BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20230519BHJP
A01M 1/06 20060101ALI20230519BHJP
A01M 1/24 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
A01M1/10 M
A01M1/02 A
A01M1/06
A01M1/24
(21)【出願番号】P 2021555137
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041605
(87)【国際公開番号】W WO2021090936
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019203189
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】安池 則之
(72)【発明者】
【氏名】寳角 真吾
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】五百崎 太輔
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0139648(US,A1)
【文献】特開2019-110808(JP,A)
【文献】特開2019-58124(JP,A)
【文献】特許第4230989(JP,B2)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0022060(KR,A)
【文献】特開2009-22236(JP,A)
【文献】登録実用新案第3141997(JP,U)
【文献】特開平10-108607(JP,A)
【文献】特表2005-524708(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0009595(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/10
A01M 1/02
A01M 1/06
A01M 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の外部の空気を内部に吸入する吸入部と、
前記筐体の内部に配置され、害虫を誘引するための誘引剤が収容される容器部と、
前記容器部に収容された前記誘引剤を加熱するヒータと、
湿度を計測する湿度計測部と、を備え、
前記筐体には、前記吸入部において吸入された空気であって、気体に状態変化した前記誘引剤を含む空気を前記筐体の外部へ放出するための開口が設けられ、
前記ヒータは、前記湿度計測部によって計測された前記湿度に応じて前記誘引剤を加熱する
害虫捕獲装置。
【請求項2】
前記容器部は、空気よりも熱伝導性の高い材料によって形成され、
前記ヒータは、前記容器部を介して前記誘引剤を加熱する
請求項1に記載の害虫捕獲装置。
【請求項4】
前記ヒータは、前記湿度計測部によって計測された前記湿度が高いほど、高い加熱温度で前記誘引剤を加熱する
請求項1又は2に記載の害虫捕獲装置。
【請求項5】
前記ヒータは、
前記湿度計測部によって計測された前記湿度が所定の湿度以上である場合に前記誘引剤を加熱し、
前記湿度計測部によって計測された前記湿度が所定の湿度未満である場合に前記誘引剤を加熱しない
請求項1、2、4のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項6】
前記ヒータによる前記誘引剤の加熱状態を制御する制御部を備え、
前記制御部は、電源からの電力の大きさを制御して前記ヒータに対して供給することで、前記ヒータに、電力の大きさに応じた加熱温度で前記誘引剤を加熱させる
請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項7】
前記ヒータによる前記誘引剤の加熱温度が所定の温度以上である場合に、前記ヒータへの前記電力の供給を遮断する温度ヒューズを備える
請求項6に記載の害虫捕獲装置。
【請求項8】
検知エリア内の人の存在を検知する人感センサから、前記検知エリア内の人の存在が検知されたことを示す検知情報を取得する取得部を備え、
前記取得部が前記検知情報を取得した場合に動作する
請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項9】
前記誘引剤は、乳酸である
請求項1、2、4~8のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項10】
前記容器部は、前記吸入部よりも鉛直下方に配置される
請求項1、2、4~9のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項11】
前記容器部に収容されている前記誘引剤の量を計測する計測部と、
前記計測部の計測結果に応じた出力を行う出力部と、を備える
請求項1、2、4~10のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項12】
放出された前記誘引剤を含む空気により、前記筐体からの距離が長いほど前記誘引剤の濃度が低くなる濃度勾配が形成される
請求項1、2、4~11のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置。
【請求項13】
請求項1、2、4~12のいずれか一項に記載の害虫捕獲装置が設置された壁を備える
建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は害虫捕獲装置、及び当該害虫捕獲装置が設置された建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蚊、蝿等の害虫に対しては、これらの害虫の直接の捕獲が困難であることから、殺虫剤等を空間内に充満させる方法が一般的に行われてきた。また、特許文献1には、害虫に対して、誘引効果を示す光を出射し、当該光によって誘引された害虫を粘着性の捕虫シートによって捕獲する送風装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法等では、害虫を効果的に捕獲できない場合があった。そこで、本開示は、より効率的に害虫を捕獲可能な害虫捕獲装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る害虫捕獲装置は、筐体と、前記筐体の外部の空気を内部に吸入する吸入部と、前記筐体の内部に配置され、害虫を誘引するための誘引剤が収容される容器部と、前記容器部に収容された前記誘引剤を加熱するヒータと、を備え、前記筐体には、前記吸入部において吸入された空気であって、気体に状態変化した前記誘引剤を含む空気を前記筐体の外部へ放出するための開口が設けられる。
【0006】
また、本開示の一態様に係る建物は、上記に記載の害虫捕獲装置が設置された壁を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の害虫捕獲装置等によれば、より効果的に害虫を捕獲可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、湿度と乳酸の濃度との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、実施の形態における害虫捕獲装置が設置された建物を示す概観図である。
【
図3】
図3は、蚊と、刺咬対象である人との相対距離に基づく蚊の行動特性を説明する図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態に係る害虫捕獲装置の外観図である。
【
図4C】
図4Cは、実施の形態の別例に係る害虫捕獲装置の外観図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る害虫捕獲装置の機能ブロック図である。
【
図6A】
図6Aは、実施の形態に係る容器部周辺の外観図である。
【
図7】
図7は、乳酸ガスの濃度勾配の算出方法について説明する図である。
【
図8】
図8は、算出された濃度勾配に対する蚊の捕獲率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に至る経緯及び本開示の概要)
住宅等、建物に設けられた室内における害虫の捕獲には、従来から、不完全燃焼又は電熱変換による電気的な加熱等の方法で空間中に殺虫剤の有効成分を散布して空間中を当該有効成分で充満する方式の殺虫剤が使用されている。このような殺虫剤は、空間中に有効成分が行き渡るため、害虫の捕獲効果が高い。一方で、有効成分が充満した空間中で、人等の生物が呼吸をすることによって、当該生物の健康に悪影響を及ぼす課題があった。
【0010】
これに代替する害虫捕獲のための技術として、例えば、特許文献1に示すような紫外光を用いる技術が提案されている。紫外光を用いて害虫を誘引するこのような技術は、殺虫剤を使用しないため、上記の生物への健康に悪影響を及ぼす可能性が低減される。しかしながら、害虫等の視覚は、未発達な場合が多く、発する紫外光を害虫が未発達な視覚で認識する必要がある。例えば、蚊の視力は極めて悪い(0.003未満)といわれている。このため、紫外光を用いて害虫を誘引し捕獲する害虫捕獲装置の場合、紫外光によって誘引されるのは当該装置のごく近辺に限られる。すなわち、このような害虫捕獲装置から相対距離が遠い位置に存在する害虫を誘引し捕獲することは困難であるといった課題があった。
【0011】
そこで、本開示における害虫捕獲装置は、健康に悪影響を及ぼす可能性を低減させながらも、空間中に広く害虫捕獲の効果を行き渡らせることで、安全かつ効果的な害虫捕獲を可能とするものである。
【0012】
本開示では、害虫捕獲装置は、害虫が誘引され得る誘引剤を空間中に放出し、当該誘引剤を所定の濃度勾配で空間中に分配させる。具体的には、本開示における害虫捕獲装置は、このような誘引剤の濃度勾配を、空間中に形成させるための空気を空間中から吸入する吸入部と、吸入した空気に対して気体に状態変化した誘引剤を含ませて放出する開口を有する筐体とを備える。このような開口は、筐体の上面に設けられており、鉛直方向の成分を含む、水平面と交差する方向に向けて誘引剤を含む空気が放出される。このような開口の配置により、誘引剤を含む空気は、例えば居住空間における家具等、空間内に存在する障害物を回避しながら、空間中の誘引剤に所定の濃度勾配を形成させる。
【0013】
本開示において採用される誘引剤には、各種害虫の発するフェロモン及びそのアナログ化学物質等を用いてもよく、また、刺咬性の蚊、蝿等の害虫においては、刺咬対象の生体から発せられる化学物質を用いてもよい。例えば、蚊に対しては、人体から発せられる二酸化炭素(又はCO2と表記する場合がある)及び乳酸等を誘引剤として用いると有効である。このような誘引剤としては、気流に乗せて所定の濃度勾配で当該誘引剤を分配できる、揮発性又は昇華性を有する化学物質であればよく、捕獲したい各種害虫に合わせて適宜選択して使用することが可能である。
【0014】
また、揮発性又は昇華性を有しない化学物質であっても、超音波等で液面を波立たせ、エアロゾル等として同様の害虫捕獲装置を実現可能である。ただし、このようなエアロゾルは、空気に比べて重いため、比較的強い気流を用い、十分な飛距離を達成できなければ空間中に所定の濃度勾配を形成させることが困難である。
【0015】
さらに、害虫捕獲装置を使用する環境によっても、誘引剤を気体に状態変化させることが困難な場合がある。具体的には、空気中の湿度が高い場合に、誘引剤の気体への状態変化が抑制されることが知られている。
図1は、湿度と乳酸の濃度との関係を示す図である。例えば、
図1に示すように、湿度の上昇とともに、空気中に含まれる気体に状態変化した乳酸の濃度がリニアに低下することが知られている。
【0016】
本開示における害虫捕獲装置は、高湿度環境下において使用される場合であっても、所定の濃度勾配で誘引剤を散布可能であり、湿度によらず一定の害虫捕獲効果を発揮することが可能である。
【0017】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0018】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0019】
(実施の形態)
[装置構成等]
図2は、実施の形態における害虫捕獲装置が設置された建物を示す概観図である。
図2に示すように、本実施の形態における害虫捕獲装置100は、建物200を構成する壁201、建具等の建材によって区切られた室内空間に設置される。以下で説明する実施の形態では、害虫として蚊を、誘引剤として乳酸を例示して説明するが、上記したように、害虫と誘引剤の任意の組み合わせについて、本開示の害虫捕獲装置100を構成することができる。
【0020】
蚊の他の害虫の例として蝿、小蜂等の小型の飛翔昆虫及び虻、蛾、蜂、ゴキブリ等の害虫が捕獲対象として挙げられる。害虫捕獲装置100が吸入によって捕獲対象の害虫を捕獲するため、害虫は、特に飛翔昆虫であるとよい。また、このような害虫の中でも蚊は、例えば、マラリア、日本脳炎、ウエストナイル熱、ジカ熱、デング熱、及びチクングニア熱等、様々な感染症を媒介し、人を最も多く殺す生き物とも言われ恐れられる害虫である。
【0021】
ここで、蚊の行動特性について、
図3を用いて説明する。
図3は、蚊と、刺咬対象である人との相対距離に基づく蚊の行動特性を説明する図である。
図3では、蚊11が、刺咬対象の人13を認識し、当該認識に基づく行動によって、人13に近づくメカニズムを示している。上記したように、蚊11は、視力が極めて悪いため、人13からの相対距離が遠い位置では、人13が発する誘引物質を検知し、当該誘引物質の濃度が高い方向に向かって移動する。誘引物質としては、呼吸の呼気に含まれるCO
2、発汗した汗に含まれる乳酸、及び足裏等常在菌の繁殖に適した環境下において繁殖した当該常在菌が分泌する臭気物質等の分泌物が挙げられる。
【0022】
蚊11は、このような誘引物質を高感度の触角によって検知し、誘引物質の濃度が高い方へと、濃度勾配に沿って移動する。蚊11は、この行動により、誘引物質の濃度が最も高い(つまり、誘引物質の発生元である)人13の方へ向かって移動する。蚊11は、例えば、図中に破線で示す、視覚等で人13を認識可能な近さの相対距離まで近づくと、人13の周りを移動しながら、例えば、肌が露出している等の刺咬に適した箇所を探索する。
【0023】
このとき、蚊11は、紫外光及び可視光の特に明暗に反応し、明度の低い(つまり、暗い)箇所を目指して移動する。またこのとき、蚊11は、温度を検知して、人13が放射する体温の放射元を目指して移動する。このようにして、蚊11は、人13との相対距離が長い間は誘引物質の濃度勾配に従って、人13との相対距離が近くなると、視覚等に従って移動し、人13を刺咬する。
【0024】
図2に戻り、本実施の形態における害虫捕獲装置100は、害虫が誘引物質に従って移動する行動特性を利用して当該害虫を誘引し、気流によって吸入して捕獲する装置である。特に、上記したように、例えば蚊11は、誘引物質の濃度勾配を正確に検知し、この濃度勾配が高い方へと移動する。つまり、誘引剤として害虫を誘引するための誘引物質または誘引物質を模した化学物質を準備し、人為的に空間内を誘引剤で充満する。このとき、誘引剤が、害虫捕獲装置100に向かって所定の濃度勾配を形成するように、誘引剤を充満させると、害虫は、上記の蚊11において例示したような行動特性により、害虫捕獲装置100に向かって自ずと移動する。
【0025】
ここで、害虫捕獲装置100は、図中に示すように、壁201に埋め込まれるように設置される。具体的には、建物200の壁201のうち、少なくとも一つには、天井高H1の半分よりも高い、例えば、図中の高さH2に示す位置等に誘引剤を含む空気が放出される開口が位置するように、害虫捕獲装置100が埋設されている。
【0026】
本開示の害虫捕獲装置100が、このように、壁201に埋設されることで、害虫捕獲装置100を設置するために要する空間をコンパクトにできる。また、害虫捕獲装置100を床に置く必要がないため、床を有効活用することもできる。さらに、害虫捕獲装置100の誘引剤を含む空気が放出される開口は、より高い位置に配置されることで誘引剤を空間中の隅々まで効果的に散布できる。一般に住宅用の建物における居室空間の天井高は、約250~280cmである。誘引剤を散布する際、障害物となり得るベッドの高さは、約50cmである。また、同様に障害物となり得る机の作業面の高さは、約80cmである。椅子等に人が着座した場合、頭上の高さは、約120cmとなる。このため、天井高の半分である約125~140cmよりも高い位置に誘引剤を含む空気が放出される開口があれば、上記のような障害物に邪魔されずに誘引剤を効果的に室内空間に散布することができる。
【0027】
次に、害虫捕獲装置100の具体的な構成について
図4A、
図4B、
図4C、及び
図5を用いて説明する。
図4Aは、実施の形態に係る害虫捕獲装置の外観図である。また
図4Bは、
図4Aに示すB-B線で害虫捕獲装置を切断した場合の断面図である。また、
図4Cは、実施の形態の別例に係る害虫捕獲装置の外観図である。また、
図5は、実施の形態に係る害虫捕獲装置の機能ブロック図である。
図4Aに示すように、本実施の形態における害虫捕獲装置100は、建物200の壁201に略半分が埋設された状態の直方体の筐体21を備える。筐体21は、樹脂又は金属等、立体形状を維持可能な硬質の材料によって形成される。なお、害虫捕獲装置100は、このような形状に限定されず、角柱、球等の任意の形状で実現することができる。
【0028】
ここで、害虫捕獲装置100は、壁201の面と平行な前面(紙面手前側の筐体21の外面)に筐体21の外部の空気を筐体21の内部に吸入するための開口を有する。この開口は、誘引剤である乳酸を含む空気が放出される開口とは異なる。以降の説明では2つの開口のうち、空気の吸入に関与する開口を第3開口23、空気の放出に関与する開口を第1開口25として説明する。
【0029】
第3開口23の筐体21内部側には、
図4Bに示すようにファン30が設けられている。ここでは、ファン30としてプロペラファンを図示しているが、ファン30としては、シロッコファン、ターボファン、プレートファン、及びクロスフローファン等、任意の構造のファンを使用可能である。ファン30は、モータ等の動力源による回転駆動によってファン30の回転軸に交差する回転面の一方側から他方側へと空気を送り出すことで、一方側に負圧を、他方側に正圧をそれぞれ発生させる送風装置である。また、ファン30によって生じた負圧が、第3開口23との間で筐体21の内部に損失しないよう、回転軸方向から見たファン30の外形に沿う円筒形状の風洞が設けられてもよい。本実施の形態では、風洞は第3開口23から筐体21の内部へと延びる形状に、当該筐体21と一体化されており、筐体21の一部であるとして説明する。このようにファン30によって、
図4Bに白抜き矢印で示す気流が形成される。
【0030】
気流は、ファン30の一方(つまり筐体21の前面側)から他方に向かって流れる。このとき、第3開口23から吸入される空気に蚊11が混入されている場合、当該蚊11は、気流の流れる方向に沿って、筐体21の内部へと吸入される。
【0031】
ここで、第3開口23から少し内部の風洞に気流の流れる方向に対して交差するように捕虫網29が設けられている。捕虫網29は、蚊11の体長に対して十分に細かい目の網であり、樹脂繊維等を編むことで形成される。捕虫網29が存在することで、吸入される空気に混入した蚊11は、捕虫網29において分離され捕虫網29よりも外側にとどまるため空気のみが筐体21の内部に吸入される。
【0032】
また、このような捕虫網29は、繊維の隙間に蚊に対して毒性を示す薬剤が浸潤されており、一定時間、捕虫網29に触れていた蚊11は、薬剤の効果によって殺虫される。薬剤として、例えばピレスロイド系の化学物質が用いられる。また、筐体21の外面を白色等の明色で形成し、捕虫網29を黒色等の暗色で形成することで、蚊11を、より暗色の捕虫網29の方へと移動させる(誘導する)ことができる。
【0033】
なお、捕虫網29に代えて、蚊11の体長よりも細かい目の電極網であって、蚊11の体長よりも短い距離だけ離間して配置された2つの電極網を用いてもよい。この2つの電極網の間に直流電圧を印加しておくと、蚊11が2つの電極網に接触した際に蚊11を介した短絡が生じ、蚊11が電殺殺虫される。
【0034】
なお、第3開口23、ファン30及び捕虫網29は、筐体21の外部の空気を内部に吸入する吸入部34の一例である。吸入部34は、前述した筐体21の前面の第3開口23の位置に対応して設けられる。すなわち、吸入部34は、直方体形状の筐体21における側面に設けられる。吸入部34は、筐体21の外部の空気を筐体21の内部へと吸入するため、塵埃の吸入を避けるために側方に設けられることが好ましい。また、吸入部34を筐体21の下面に設けても同様の効果を奏する。
【0035】
捕虫網29の薬剤によって殺虫された蚊11の死骸は、
図4Bに破線矢印で示すように重力方向に落下する。蚊11が落下する先は、風洞の一部がなくなっており、風洞よりも下部に設けられた収容部31に収容される。このようにして、捕虫網29において分離され、かつ、殺虫された蚊11は、収容部31に一定数収容される。したがって、害虫捕獲装置100によって殺虫された蚊11が害虫捕獲装置100の周辺に散らばることなく、ユーザは、収容部31の中身を捨てるのみでよい。このように、容易に害虫捕獲装置100によって捕獲、及び殺虫された蚊11の死骸を取り除くことができる。なお、収容部31は、例えば、筐体21の前面から取り出し可能な引き出し形状である。
【0036】
蚊11を空気とともに吸入するためには、ファン30によって生じる気流が蚊11の飛翔能力を上回る気流である必要がある。言い換えると、蚊11が気流に逆らって飛翔可能な気流では、蚊11を捕獲することができない。したがって、ファン30によって生じる気流が、風速2.0m/sであればよい。また、蚊11の捕獲効果をより高めるために、ファン30によって生じる気流が、風速2.5~3.5m/sであってもよい。このように気流の風速を高めるためには、第3開口23における気流の通過断面積を小さくしてもよい。
【0037】
例えば、第3開口23の開口面積が小さくなるように筐体21を設計してもよく、第3開口23よりも小さい開口が設けられた別の部材により第3開口23を覆うようにして開口面積を絞ってもよい。また、ファン30を高回転化する、または大型化することにより、気流の風速を高めることも可能である。この場合、ファン30を回転させる動力源における発熱及び筐体21の容積等によりファン30の最大径の制約があるため、捕獲対象とする害虫及び捕獲効率等に基づき要求される気流を形成可能な構成が適宜設計される必要がある。
【0038】
ファン30によって筐体21の外部から吸入された空気は、筐体21内部の構造によって乱流となりながら、第1開口25から放出される。このような第1開口25は、筐体21の上面に形成されており、少なくとも鉛直方向の成分を含む方向に向けて吸入された空気が放出される。第1開口25が形成される上面は、筐体21の最上面であってもよく、段差構造により凹んだ底面であってもよい。第1開口25は、筐体21のより高い位置に形成されるほど、より高い位置から誘引剤を含む空気を放出することができる。したがって、筐体21の上面のうち、設計上可能な最上位置に第1開口25が形成されることが好ましい。
【0039】
また、このように筐体21の上面に第1開口25が形成されることで、実質的に、上面に交差する方向に筐体21を貫通する開口が形成される。つまり、このような第1開口25から放出される空気は、上面に交差する方向に向けて放出される。略正しい姿勢で害虫捕獲装置100が設置されたとすると、上面は、水平面と略平行な面となる。このため、上面に交差する方向に向けて放出される空気は、鉛直上方向の成分を少なくとも含む方向に向かって、室内空間のより高い位置へと到達する。本実施の形態で用いる乳酸を含む誘引剤として使用される化学物質の多くは、空気よりも比重が大きく、室内空間のより高い位置から、高度を下げながら水平方向にも滑空して、室内空間のより広範に散布される。
【0040】
このように、第1開口25が筐体21の上面に設けられることにより、より高い位置から高度を下げながら誘引剤を散布させることが可能となる。したがって、害虫捕獲装置100は、室内空間に配置されたダイニングテーブル、デスク、及びベッド等の家具、ならびに、家電機器等、障害物となり得る物体の上方を通過させて、より広範に誘引剤を散布できる。つまり、害虫捕獲装置100によれば、物体の存在によって誘引剤が室内空間に十分に行き渡らない状況を回避でき、十分に行き渡った誘引剤により、より効果的に蚊11等の害虫を誘引し、捕獲することが可能となる。
【0041】
このとき、室内空間の床面積を6.0~40畳(約9.9~66m2)と仮定すると、放出される空気の風速を1.0~4.0m/sとすれば空間中に十分な濃度の乳酸を散布することができる。このような風速条件は、誘引剤として用いる化学物質の種類及び室内空間の形状等、各種条件に基づいて必須の風速及び最適な風速が適宜設定される。
【0042】
また、上記したように、第1開口25及び第3開口23は、筐体21の上面及び前面といった異なる位置に設けられる。これは、放出される空気の気流と吸入される空気の気流との干渉を低減させ、必要な濃度の乳酸を室内空間に散布するために設定される。ただし、ファン30及び筐体21内部の構成により層流を形成できる場合、及び、放出される空気の一部を吸入される空気とともに吸入する循環系を形成する場合等、同一の面から空気の吸入と放出が行われることが好ましい場合もある。
【0043】
本実施の形態で用いられる誘引剤の乳酸には、D体及びL体の鏡像異性体が存在し、いずれの乳酸を用いても蚊11に対する誘引効果が認められる。ただし、より好ましくは、L体の乳酸(L-乳酸)が用いられることでより高い誘引効果を実現できる。以降では、単に「乳酸」と表記する場合は、乳酸とは、L体の乳酸、D体の乳酸、又はL体とD体とが混合された(ラセミ体の)乳酸のいずれをも含む概念として説明する。
【0044】
乳酸は、沸点が約120℃と高く、害虫捕獲装置100が使用される環境では大部分が液体又は固体であり、一部がわずかに気体へと状態変化する。このような、気体に状態変化したわずかな濃度の乳酸は、人13の嗅覚等では検知することが困難であり、誘引剤として用いた場合においても、乳酸の匂いによって感じる違和感が低減される。加えて、生体に元来存在する成分であることから、気体に状態変化したわずかな濃度の乳酸は、人体に無害といえる。つまり、乳酸は、殺虫剤の散布の場合にみられるような健康への悪影響が発生しない利点がある。一方で、気体に状態変化したわずかな濃度の乳酸は、蚊11の触角によって検知するには十分な濃度である。このような理由から、害虫として蚊11を捕獲する場合、誘引剤としての乳酸は好適である。
【0045】
図4A及び
図4Bに示すように、第1開口25には、さらに、空気が放出される方向を所定方向に調整する調整機能部27が備えられる。調整機能部27は、具体的には、第1開口25の開口面に交差する板面を有する板状部材である。このような板状部材は、板面が平行となるように複数並べられている。このように並べられた複数の板状部材によって第1開口25を通過する気流は、放出される方向が所定方向に調整される。
【0046】
なお、複数の板状部材のうち一部が、その他の板状部材と平行でなくてもよい。これにより、第1開口25を通過する気流の一部は、放出される方向が所定の第1方向に調整され、第1開口25を通過する気流のその他は、放出される方向が所定の第2方向に調整される。つまり、所定方向は、一つの方向でなくてもよく、複数の方向を含んでいてもよい。
【0047】
さらに、調整機能部27には、絞り等の風速調整機構(不図示)が備えられてもよい。このように空気が放出される方向、及び風速が調整機能部27によって調整されることで、害虫捕獲装置100は、室内空間内の配置によらず、当該室内空間の形状、及び、障害物となり得る物体の配置に適合させて誘引剤を散布することができる。
【0048】
第1開口25から空気に含まれて放出される気体の誘引剤は、筐体21の内部に配置された容器部32に液体の状態で収容される。容器部32は、収容する誘引剤に対する耐性を有する材料によって形成された、上部が開口した容器である。このような容器を用いることで、液体の誘引剤を収容することができる。なお、誘引剤として液化する圧力でボンベ等に圧入された誘引剤を用いてもよい。また、この場合、当該ボンベを筐体21外に配置し、チューブ等の流路を用いてボンベ内の誘引剤を筐体21内へと導入することで、気体に状態変化した誘引剤を連続供給する構成であってもよい。
【0049】
本実施の形態では、液体の乳酸を誘引剤として用いるため、
図4Bに示すような容器部32が用いられる。また、容器部32は、吸入部34よりも鉛直下方に配置される。これにより、容器部32に収容された誘引剤にあたる空気は、吸入部34から吸入された空気のうち、上面の第1開口25へと比較的短距離で向かう気流を除く、鉛直下方に回り込んだのちに第1開口25へと比較的長距離で向かう気流の空気となる。このような長距離で向かう気流の空気は風速が抑えられる。
【0050】
誘引剤として液体の乳酸を用いた場合、風速が高い空気があたると波立ちによるエアロゾルが生じる。エアロゾルは一般に粒径が大きく、空気に含まれても短距離で落下する。乳酸をより遠くまで散布するためには、気体に状態変化した乳酸を含んだ空気を放出する必要があるため、このように風速が抑えられた空気をあてて気体成分を多く含む空気を放出することは有効である。
【0051】
なお、室内空間が十分に狭小な空間では、エアロゾルであっても空気に含まれて必要な範囲に散布されるため、実質的に気体と同等とみなすことができる。つまり、エアロゾルとして乳酸を散布しても本開示の効果を得ることが可能である。したがって、容器部32の配置はこのように吸入部34よりも鉛直下方の位置に限定されず、筐体21の内部空間の形状等に応じた適切な位置に配置されればよい。このとき、気体に状態変化した乳酸として微粒子化された乳酸が空気に含まれた、乳酸のエアロゾルが放出されてもよい。
【0052】
また、図示しないが、第3開口23が形成された筐体21の前面と対向する背面(壁201に埋設された最も奥側の面)に開口が設けられ、当該開口から壁201を介して建物200の外部に排気することで、乳酸にあたる空気の風速を抑えてもよい。このように、筐体21に所定の開口を設け、風速を任意に制御してもよい。
【0053】
また、別例として
図4Cに示すように害虫捕獲装置100は、第1開口25とは別の第2開口37を備えてもよい。第2開口37は、第1開口25とは異なる箇所に設けられ、乳酸を含む空気が放出される開口である。
図4Cでは、第2開口37は、筐体21の側面に設けられている。なお、第2開口37が筐体21の他の側面及び下面に設けられてもよい。つまり、第2開口37は複数であってもよい。また、第2開口37には、第1開口25と同様に調整機能部39が設けられる。調整機能部39については、調整機能部27と同様であるため説明を省略する。
【0054】
このように、第2開口37が設けられることで、筐体21内部における空気の風速を調整するとともに、吸入した空気を、建物200の外部に放出することなく、室内空間に循環させることができる。これにより、乳酸を含む空気を建物200の外部へ損失することがなくなるため、乳酸の利用効率が向上される。
【0055】
ここで、
図6A及び
図6Bを用いて、容器部32の周辺についてより詳細に説明する。
図6Aは、実施の形態に係る容器部周辺の外観図である。また
図6Bは、
図4Bにおける容器部32周辺を拡大した拡大断面図である。
図6Aに示すように、容器部32には、液体の乳酸である乳酸液41aが収容されている。また、容器部32の乳酸液41aには、エアロゾルの発生を抑制しながら(つまり、液体の乳酸の波立ちを抑制しながら)乳酸液41aの表面積を拡大するためのスポンジ状の揮発促進部材36が浸漬されている。揮発促進部材36は、例えば発泡樹脂によって形成されている。乳酸液41aは、毛細管現象によって、発泡によって形成された間隙に浸潤し、液面の表面積が拡大される。
【0056】
また、容器部32の下部には、容器の底面を積載するように板状のヒータ38が備えられる。ヒータ38は、高湿度環境下において乳酸の揮発をさらに促進するため、容器部32を加熱し、容器部32に収容された液体の乳酸を加熱する。ヒータ38は、電源40から供給された電力に応じた温度で発熱し、容器部32を介して伝熱させることで乳酸を加熱する。したがって容器部32は、熱伝導性の高い材料によって形成されていることが好ましく、例えば、空気等の断熱材に比べ非常に熱伝導性の高いカーボンナノチューブもしくはシリコン樹脂等の合成材料、ダイヤモンド等の鉱物材料、又は銅等の金属材料を用いて形成される。また、ヒータ38と容器部32との間の熱伝導性を高めるため、液体金属、シリコングリス、及び金属が分散されたペースト材料等の間隙充填剤が用いられてもよい。
【0057】
容器部32を介する乳酸の加熱は、例えば、乳酸の気体への状態変化が抑制される湿度条件に応じて実施されてもよい。したがって害虫捕獲装置100には、
図4Aに示すように筐体21の外面に、湿度センサ等の湿度計測部33が備えられてもよい。例えば、ヒータ38は、湿度計測部33において計測された室内空間の湿度に応じて乳酸の加熱を行う。
【0058】
湿度に応じた加熱とは、湿度計測部33において計測された湿度が高いほど高い加熱温度での乳酸の加熱を行うことである。なお、計測された湿度によっては加熱が必要ない場合がある。したがって、ヒータ38は、湿度計測部33において計測された湿度が、所定の湿度未満であった場合に乳酸の加熱を行わず、計測された湿度が所定の湿度以上であった場合に、乳酸の加熱を行ってもよい。
【0059】
ヒータ38による乳酸の加熱状態の制御は、制御部52において実施される。制御部52は、例えば、マイクロコンピュータと可変抵抗とによって実現され、電源40からの電力の大きさを当該可変抵抗によって制御してヒータ38に供給する。ヒータ38は、供給された電力の大きさに応じて発熱し、結果として、電力の大きさに応じた加熱温度で乳酸を加熱する。
【0060】
また、ヒータ38による乳酸の加熱温度が高すぎる場合、発火する等の可能性があるため、ヒータ38による乳酸の加熱温度が所定の温度以上である場合にヒータ38への電力の供給を遮断する温度ヒューズ42が備えられてもよい。温度ヒューズ42としては、加熱状態に応じて溶断される導電線等が用いられればよい。
【0061】
このように容器部32の周辺が構成されることで、
図6Bに示すように、容器部32に収容された乳酸液41aは、湿度条件によらず気体に状態変化し、乳酸ガス41bが筐体21内に発生する。
【0062】
また、害虫捕獲装置100は、蚊11による人13の刺咬を抑制するために使用される。つまり室内空間に人13が存在しない場合に害虫捕獲装置100の動作を停止してもよい。この場合、例えば、害虫捕獲装置100には、
図4Aに示すように筐体21の外面に人感センサ35が設置されてもよい。人感センサ35から、害虫捕獲装置100から所定の距離範囲内の検知エリアに人13が存在することを示す検知情報を受信した場合にのみ、害虫捕獲装置100が動作してもよい。また、このような検知情報を受信していない間には、害虫捕獲装置100は、動作を停止していてもよい。このような検知情報は、取得部51において取得される。取得部51は、例えば、人感センサ35と通信するための通信モジュールである。
【0063】
また、害虫捕獲装置100は、ヒータ38のような加熱装置を備える関係上、容器部32に収容されている乳酸の量を計測する計測部54を備えてもよい。計測部54は、例えば、水位計である。また、計測部54による計測結果をユーザが把握するため、計測結果に応じた出力を行う出力部55を備えてもよい。出力部55は、マイクロコンピュータ等によって実現され、計測結果を数値として、ユーザの所有する端末装置(不図示)等に表示させるための情報を出力してもよい。なお、出力部55は、計測結果が所定の閾値を下回った場合に、単に筐体21の外面等に備えられた残量警告灯を点灯させるための電気信号を出力してもよい。
【0064】
[動作]
本実施の形態における害虫捕獲装置100は、動作が開始されると、ファン30が回転を開始し、気流が発生する。発生した気流により、筐体21の外部の空気は、筐体21の前面に設けられた第3開口23から筐体21の内部に吸入される。また吸入された空気は、筐体21内部において気体に状態変化した乳酸ガス41bを含みながら筐体21の上面に設けられた第1開口25へと向かう。
【0065】
このとき、湿度計測部33において計測された湿度に基づいてヒータ38による乳酸の加熱状態が制御される。例えば、ヒータ38は、計測された湿度が高湿度であった場合、乳酸をより高温に加熱し、一方で、計測された湿度が低湿度であった場合、乳酸を低温で加熱する。第1開口25から乳酸を含む空気が放出される際に、調整機能部27によって空気の風速及び方向が調整される。このようにして、乳酸を含む空気が、室内空間に行き渡る。乳酸ガス41bは、室内空間に元から存在する空気と混ざり、害虫捕獲装置100からの相対距離が遠くなるほど、濃度が薄くなる濃度勾配を形成する。
【0066】
室内空間に存在する蚊11は、上記のようにして形成された濃度勾配に従って、乳酸ガス41bの濃度が高くなる方へと移動する。つまり、蚊11は、害虫捕獲装置100の方に向かって移動する。さらに、蚊11と害虫捕獲装置100との相対距離が近くなると、蚊11は、比較的暗い色の捕虫網29の方へと移動する。
【0067】
蚊11と害虫捕獲装置100との相対距離が十分に近づくと、空気の吸入気流に巻き込まれて蚊11が空気とともに第3開口23から筐体21内部に吸入される。空気は捕虫網29を通過して再度第1開口25から放出される。一方で、蚊11は、捕虫網29によって分離され、捕虫網29の薬剤によって殺虫される。殺虫された蚊11は、重力方向に従って収容部31へと落下する。このような動作の繰り返しにより、室内空間の蚊11の多くが捕獲される。
【0068】
ここで、蚊11をより効果的に捕獲するための乳酸ガス41bの濃度勾配について説明する。
図7は、乳酸ガスの濃度勾配の算出方法について説明する図である。また、
図8は、算出された濃度勾配に対する蚊の捕獲率を示す図である。
【0069】
害虫捕獲装置100から放出される空気に含まれる乳酸ガス41bは、室内空間に元から存在する空気と混ざり合うことで、乳酸ガス41bを含む空気の放出元である害虫捕獲装置100の周囲に向かって誘引剤の濃度が徐々に高くなる濃度勾配を形成する。言い換えると、害虫捕獲装置100からの距離が長くなるほど空気に含まれる乳酸ガス41bの量が減少する。先に説明したように、蚊11は、主に乳酸ガス41bの濃度が高い方へと移動する特性があるため、このような特性を利用して蚊11を害虫捕獲装置100の方へと誘引することができる。
【0070】
このとき、蚊11を誘引するために必要な乳酸ガス41bの濃度勾配を調査した。室内空間の、害虫捕獲装置100からの距離が異なる複数の箇所において、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)センサを用いて、乳酸ガス41bの濃度を計測した。
図7には、計測結果から濃度勾配を算出する算出方法を示している。害虫捕獲装置100からの距離が異なる複数の箇所において計測された乳酸ガス41bの濃度を
図7のようにグラフにプロットした。害虫捕獲装置100からの距離と乳酸ガス41bの濃度との間にリニアな関係があるため、直線近似により、害虫捕獲装置100からの距離と、乳酸ガス41bの濃度との関係を示す式を算出した。算出された式における傾きを、当該室内空間における乳酸の濃度勾配とした。なお、算出された傾きを蚊11側から見た勾配とするために、数値に-1をかけて勾配を逆転させている。
【0071】
複数の条件において、上記の乳酸の濃度勾配を算出し、各条件の室内空間における害虫捕獲装置100における蚊11の捕獲率を調査した。
図8には、各乳酸の濃度勾配に対する蚊11の捕獲率の関係が示されている。
図8に示すように、乳酸の濃度勾配が増加するに従って、蚊11の捕獲率が上昇し、ある乳酸の濃度勾配を境に蚊の捕獲率が飽和状態に達することが判明した。例えば、
図8中に2点鎖線で示すように、目標の蚊11の捕獲率を80%としたとき、乳酸の濃度勾配は、88ppb/mよりも高い値となるように乳酸ガス41bを放出させることで蚊11を、当該目標の捕獲率で捕獲でき、より効率的に捕獲することができる。
【0072】
なお、
図8からわかるように、蚊11の捕獲率と乳酸の消費量とには、トレードオフの関係があり、害虫捕獲装置100のユーザが任意の捕獲率を設定できる構成としてもよい。また、このような任意の濃度勾配が形成されるように、ヒータ38が制御されてもよい。
【0073】
[効果等]
以上説明したように、本開示の実施の形態における害虫捕獲装置100は、筐体21と、筐体21の外部の空気を内部に吸入する吸入部34と、筐体21の内部に配置され、害虫を誘引するための誘引剤が収容される容器部32と、容器部32に収容された誘引剤を加熱するヒータ38と、を備え、筐体21には、吸入部34において吸入された空気であって、気体に状態変化した誘引剤を含む空気を筐体21の外部へ放出するための開口が設けられる。
【0074】
このような害虫捕獲装置100は、吸入部34において吸入した空気を、誘引剤を含ませた状態で、筐体21の外部へと放出する。筐体21から放出された誘引剤を含む空気は、室内空間の湿度等に応じて、その濃度が変化するが、ヒータ38による加熱を行い、誘引剤の気体への状態変化を促進することで、室内空間の湿度等によらず乳酸濃度を高めることができる。よって、室内空間に誘引剤が十分量散布され、より効果的に害虫を誘引して捕獲できる。
【0075】
また、例えば、容器部32は、空気よりも熱伝導性の高い材料によって形成され、ヒータ38は、容器部32を介して誘引剤を加熱してもよい。
【0076】
これによれば、熱伝導性の比較的高い材料を用いて容器部32を形成できる。ヒータ38によって発生する熱は、容器部32を伝熱して容器部32に収容された誘引剤を加熱する。よって、容器部32を介した誘引剤の加熱により、室内空間に誘引剤が十分量散布され、より効果的に害虫を誘引して捕獲できる。
【0077】
また、例えば、さらに、湿度を計測する湿度計測部33を備え、ヒータ38は、湿度計測部33によって計測された湿度に応じて誘引剤を加熱してもよい。
【0078】
これによれば、湿度計測部33において計測された湿度に応じて、ヒータ38による誘引剤の加熱を行うことができる。誘引剤の気体への状態変化が困難と考えられる湿度に応じて、ヒータ38による気体への状態変化の促進を行うことができる。よって、湿度が高い条件において使用される場合にも適切に害虫を誘引し捕獲可能な害虫捕獲装置100が実現できる。
【0079】
また、例えば、ヒータ38は、湿度計測部33によって計測された湿度が高いほど、高い加熱温度で誘引剤を加熱してもよい。
【0080】
これによれば、計測された湿度が高いほど、誘引剤の気体への状態変化がより抑制されるが、このような状態変化の抑制をキャンセルするようにヒータ38による誘引剤の加熱を実現することができる。よって、計測された湿度による誘引剤の気体への状態変化の抑制の程度に適合し、状態変化を促進させる加熱が行えるため、湿度が高い条件において使用される場合にも、必要十分なエネルギーで適切に害虫を誘引し捕獲可能な害虫捕獲装置100が実現できる。
【0081】
また、例えば、ヒータ38は、湿度計測部33によって計測された湿度が所定の湿度以上である場合に誘引剤を加熱し、湿度計測部33によって計測された湿度が所定の湿度未満である場合に誘引剤を加熱しなくてもよい。
【0082】
これによれば、必要な場合にヒータ38による加熱を行い、不要な際にはヒータ38による加熱を行わない害虫捕獲装置100が実現できる。つまり必要な場合のみにヒータ38による加熱が行えるため、不要な加熱によるエネルギー消費を削減できる。よって、害虫捕獲装置100の運転効率が向上される。
【0083】
また、例えば、さらに、ヒータ38による誘引剤の加熱状態を制御する制御部52を備え、制御部52は、電源40からの電力の大きさを制御してヒータ38に対して供給することで、ヒータ38に、電力の大きさに応じた加熱温度で誘引剤を加熱させてもよい。
【0084】
これによれば、ヒータ38による誘引剤の加熱を制御部52によって制御できる。このような制御は、ヒータ38に対して供給される電力の大きさを調整するのみで簡易に構成できる。よって、温度制御可能なヒータ38を備える害虫捕獲装置100を容易に実現できる。
【0085】
また、例えば、さらに、ヒータ38による誘引剤の加熱温度が所定の温度以上である場合に、ヒータ38への電力の供給を遮断する温度ヒューズ42を備えてもよい。
【0086】
これによれば、ヒータ38により所定の温度以上での加熱が行われている場合に、ヒータ38による加熱を停止させることができる。よって、害虫捕獲装置100における過加熱が抑制され、害虫捕獲装置100の使用容易性が向上される。
【0087】
また、例えば、さらに、検知エリア内の人の存在を検知する人感センサ35から、検知エリア内の人の存在が検知されたことを示す検知情報を取得する取得部51を備え、害虫捕獲装置100は、取得部51が検知情報を取得した場合に動作してもよい。
【0088】
これによれば、検知エリア内に人13が存在する場合のみに、害虫捕獲装置100を動作させることができる。人13が害虫から害を与えられ得ない状況での害虫捕獲装置100の動作を停止させ、エネルギー消費等を削減できる。よって、害虫捕獲装置100の運転効率が向上される。
【0089】
また、例えば、誘引剤は、乳酸であってもよい。
【0090】
これによれば、害虫捕獲装置100を用いて害虫として蚊11を捕獲することができる。
【0091】
また、例えば、容器部32は、吸入部34よりも鉛直下方に配置されてもよい。
【0092】
これによれば、液体の誘引剤を使用する際に、不要な波立ちを抑制し、エアロゾルの発生を抑制できる。よって、気体に状態変化した誘引剤を多く含む空気を放出できるため、より効果的に誘引剤を散布して効果的に害虫を捕獲することができる。
【0093】
また、例えば、さらに、容器部32に収容されている誘引剤の量を計測する計測部54と、計測部54の計測結果に応じた出力を行う出力部55と、を備えてもよい。
【0094】
これによれば、容器部32内に収容されている誘引剤の残量を計測できる。計測された誘引剤の残量は、ユーザが出力部55を介して把握できるため、把握した誘引剤の残量に基づき、ユーザは、誘引剤の追加等の操作を行うことができる。よって、害虫捕獲装置100の使用容易性が向上される。
【0095】
また、例えば、放出された誘引剤を含む空気により、筐体21からの距離が長いほど誘引剤の濃度が低くなる濃度勾配が形成されてもよい。
【0096】
これによれば、誘引剤を含む空気の放出元である害虫捕獲装置100の周囲に向かって誘引剤の濃度が徐々に高くなる濃度勾配が形成される。害虫は、主に誘引剤の濃度が高い方へと移動する特性があるため、このような特性を利用して害虫を害虫捕獲装置100の方へと誘引することができる。よって、害虫捕獲装置100の周囲まで誘引され移動した害虫を捕獲することができる。
【0097】
また、本開示における建物200は、上記のいずれかに記載の害虫捕獲装置100が設置された壁201を備える。
【0098】
これによれば、家具及び家電機器等、誘引剤の散布における障害物となり得る物体の多くよりも高い位置から誘引剤を含む空気を放出できる。よって、より広範囲に誘引剤を散布することができ、より効果的に害虫を捕獲できる。
【0099】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0100】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、又は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0101】
例えば、実施の形態において、害虫捕獲装置が、筐体の半分が壁に埋設された形で設置される例を説明したが、前面が壁面と略面一となるようにしてもよい。この場合、筐体の上面のうち、第1開口が形成された一部が室内空間に露出されるように壁の一部分が陥入する形状であればよい。また、筐体の上面のうち、第1開口が形成された一部と室内空間とを連通するダクトが壁に形成されていてもよい。このように壁と、筐体の外面とを略面一とすることで、デザイン性が向上するとともに、室内空間を占有する筐体の部分が最小化され、室内空間を有効活用することができる。
【0102】
また、筐体が壁に埋設されることなく、床又は机等の水平面に設置されてもよい。
【0103】
また、例えば、上記実施の形態において説明した調整機能部及び捕虫網等は必須ではなく、上面に誘引剤を含む空気を放出するための開口が形成されていればよい。したがって、容器部の配置も、上記実施の形態において説明した位置に限定されるものではなく、例えば、第1開口の直前に配置されてもよい。
【0104】
また、本開示の全般的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【符号の説明】
【0105】
21 筐体
25 第1開口(開口)
32 容器部
33 湿度計測部
34 吸入部
35 人感センサ
38 ヒータ
40 電源
42 温度ヒューズ
51 取得部
52 制御部
54 計測部
55 出力部
100 害虫捕獲装置
200 建物
201 壁