(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】水素ポンプ用の電気化学セルおよび圧縮装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/032 20210101AFI20230519BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20230519BHJP
C25B 9/05 20210101ALI20230519BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230519BHJP
【FI】
C25B11/032
C25B1/02
C25B9/05
C25B9/23
(21)【出願番号】P 2023503217
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022004784
(87)【国際公開番号】W WO2022249560
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2021088917
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中植 貴之
(72)【発明者】
【氏名】嘉久和 孝
(72)【発明者】
【氏名】酒井 修
(72)【発明者】
【氏名】可児 幸宗
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210543(JP,A)
【文献】特開2020-94270(JP,A)
【文献】特開平9-169501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の主面上に設けられたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の主面上に設けられたカソード触媒層と、
前記アノード触媒層上に設けられたアノードガス拡散層と、
前記カソード触媒層上に設けられたカソードガス拡散層と、を備え、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に電圧を印加されているとき、前記カソードガス拡散層は、前記アノードガス拡散層よりも高圧の水素含有ガスに晒され、前記アノードガス拡散層の厚みは、前記カソードガス拡散層の厚みよりも大きい、水素ポンプ用の電気化学セル。
【請求項8】
請求項1-7のいずれか1項に記載の電気化学セルと、
前記電気化学セルの前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の間に電圧を印加する電圧印加器と、を備え、前記電圧印加器により前記電圧を印加することで、アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、前記電解質膜を介してカソードに移動させ、圧縮水素を生成する、圧縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は水素ポンプ用の電気化学セルおよび圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、化石燃料に代わるクリーンな代替エネルギー源として、水素が注目されている。水素は燃焼しても基本的に水しか生成せず、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されずかつ窒素酸化物などもほとんど排出されないので、クリーンエネルギーとして期待されている。
【0003】
また、水素を燃料として高効率に利用する装置として、例えば、燃料電池があり、自動車用電源向け、家庭用自家発電向けに開発および普及が進んでいる。
【0004】
来るべき水素社会では、水素を製造することに加えて、水素を高密度で貯蔵し、小容量かつ低コストで輸送または利用することが可能な技術開発が求められている。特に、分散型のエネルギー源となる燃料電池の普及促進には、水素供給インフラを整備する必要がある。また、水素を安定的に供給するために、高純度の水素を製造、精製、高密度貯蔵する様々な検討が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1および特許文献2において、水素の精製および圧縮を行うための圧縮装置において、固体高分子電解質膜、電極およびセパレータの積層体がエンドプレートで挟み込んで締結された構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-70322号公報
【文献】特許6360061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、従来よりも水素圧縮動作を高効率に維持し得る水素ポンプ用の電気化学セルおよび圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様(aspect)の水素ポンプ用の電気化学セルは、電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面上に設けられたアノード触媒層と、前記電解質膜の他方の主面上に設けられたカソード触媒層と、前記アノード触媒層上に設けられたアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層上に設けられたカソードガス拡散層と、を備え、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に電圧を印加されているとき、前記カソードガス拡散層は、前記アノードガス拡散層よりも高圧の水素含有ガスに晒され、前記アノードガス拡散層の厚みは、前記カソードガス拡散層の厚み以上である、を備える。
【0009】
また、本開示の一態様の圧縮装置は、前記電気化学セルと、前記電気化学セルの前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の間に電圧を印加する電圧印加器と、を備え、前記電圧印加器により前記電圧を印加することで、アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、前記電解質膜を介してカソードに移動させ、圧縮水素を生成する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様の水素ポンプ用の電気化学セルおよび圧縮装置は、従来よりも水素圧縮動作を高効率に維持し得る、という効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の電気化学セルにおけるアノードガス拡散層の厚みとカソードガス拡散層の厚みとの関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示構成および従来構成のそれぞれの電気化学セルにおけるカソード圧と過電圧の関係の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態の電気化学セルにおけるアノードガス拡散層の厚みとカソードガス拡散層の厚みの差と過電圧の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特許文献1には、高圧の水素生成時にカソードの変形に追従し得るチタン繊維焼結体を用いてカソードガス拡散層を構成することが提案されている。
【0013】
特許文献2には、スチールウール、ニッケルクロムを含む金属発泡体、炭素繊維で作製されたクロスなどを用いてカソードガス拡散層を構成することが提案されている。また、特許文献2では、カソードガス拡散層の剛性をアノードガス拡散層の剛性より小さくするとともに、カソードガス拡散層の厚みをアノードガス拡散層の厚みより大きくする構成が記載されている。これにより、高圧水素による歪みに対するカソードガス拡散層の追従性が得られることで電気化学セルの接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0014】
一般的に、電解質膜は、高温および高加湿の条件でプロトン伝導率が上がり、電気化学セルの水素圧縮効率が向上する。このため、アノードに供給される水素含有ガスを加湿する構成が取られている。このとき、アノードガス拡散層の厚みが小さいほど、アノードガス拡散層の主面に平行な方向に水素含有ガスが拡散しにくくなるので、アノードの圧力損失が大きい。そして、アノードの圧力損失が大きいほど、アノードに供給される水素含有ガスの圧力が上昇する。すると、ドルトンの法則に従い、水素含有ガス中の水蒸気量が減少することで、電解質膜の加湿不足が発生する可能性がある。これにより、電解質膜のドライアップが発生すると、電気化学セルの水素圧縮効率が低下する可能性がある。
【0015】
そこで、アノードガス拡散層の厚みを大きくすると、以上のドライアップの問題は軽減されるが、特許文献2に記載された発明に倣って、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層を設計すると、カソードガス拡散層の厚みがさらに大きくなる結果、カソードガス拡散層の厚み方向における電気抵抗が上昇する。
【0016】
そこで、本開示の第1態様の水素ポンプ用の電気化学セルは、電解質膜と、電解質膜の一方の主面上に設けられたアノード触媒層と、電解質膜の他方の主面上に設けられたカソード触媒層と、アノード触媒層上に設けられたアノードガス拡散層と、カソード触媒層上に設けられたカソードガス拡散層と、を備え、アノード触媒層とカソード触媒層との間に電圧を印加されているとき、カソードガス拡散層は、アノードガス拡散層よりも高圧の水素含有ガスに晒され、アノードガス拡散層の厚みは、カソードガス拡散層の厚み以上である。
【0017】
かかる構成によると、本態様の水素ポンプ用の電気化学セルは、従来よりも水素圧縮動作を高効率に維持し得る。具体的には、本態様の電気化学セルは、アノードガス拡散層の厚みをカソードガス拡散層の厚み以上にすることで、アノードガス拡散層の厚みがカソードガス拡散層の厚みよりも小さい場合に比べて、アノードガス拡散層の主面に平行な方向における水素含有ガスの拡散性が改善する。すると、本態様の電気化学セルは、アノードガス拡散層で発生する圧力損失が低減するので、アノードに供給される水素含有ガスの圧力上昇が抑制され、その結果、電解質膜の加湿するための水素含有ガス中の水蒸気量を適量に保つことができる。これにより、本態様の電気化学セルは、電解質膜のドライアップに起因する電気化学セルの水素圧縮効率の低下を抑制することができる。
【0018】
本開示の第2態様の電気化学セルは、第1態様の電気化学セルにおいて、アノードガス拡散層の弾性率は、カソードガス拡散層の弾性率より高くてもよい。
【0019】
かかる構成によると、本態様の電気化学セルは、アノードガス拡散層の弾性率をカソードガス拡散層の弾性率より高くすることで、アノードガス拡散層の弾性率がカソードガス拡散層の弾性率以下である場合に比べて、アノードガス拡散層において、電気化学セルのカソードおよびアノード間で発生する差圧による電解質膜の押し付けに耐え得る程度の剛性が得られやすくなる。
【0020】
本開示の第3態様の電気化学セルは、第1態様の電気化学セルにおいて、アノードガス拡散層は、金属多孔体シートを含むものであってもよい。
【0021】
本開示の第4態様の電気化学セルは、第1態様の電気化学セルにおいて、アノードガス拡散層は、カーボン多孔体シートを含むものであってもよい。
【0022】
本開示の第5態様の電気化学セルは、第4態様の電気化学セルにおいて、カーボン多孔体シートは、カーボン粉末焼結体であってもよい。
【0023】
かかる構成によると、本態様の電気化学セルは、アノードガス拡散層がカーボン粉末焼結体で構成されるカーボン多孔体シートを含むことで、アノードガス拡散層において、所望の導電性、ガス拡散性および剛性を得ることができる。
【0024】
本開示の第6態様の電気化学セルは、第4態様の電気化学セルにおいて、カーボン多孔体シートは、カーボン繊維焼結体であってもよい。
【0025】
かかる構成によると、本態様の電気化学セルは、アノードガス拡散層がカーボン繊維焼結体で構成されるカーボン多孔体シートを含むことで、アノードガス拡散層において、所望の導電性、ガス拡散性および剛性を得ることができる。
【0026】
本開示の第7態様の電気化学セルは、第1態様から第6態様のいずれか一つの電気化学セルにおいて、アノードガス拡散層の厚みとカソードガス拡散層の厚みの差は0.1mm以下であってもよい。
【0027】
アノードガス拡散層の厚みとカソードガス拡散層の厚みの差が0.1mmを上回ると、アノードガス拡散層の厚みが厚くなることで、アノードガス拡散層の主面に垂直な方向における水素含有ガスの拡散性が悪化する可能性がある。
【0028】
そこで、本態様の電気化学セルは、アノードガス拡散層の厚みとカソードガス拡散層の厚みの差を0.1mm以下にすることで、かかる厚みの差が0.1mmを上回る場合に比べて、アノードガス拡散層の主面に垂直な方向における水素含有ガスの拡散性を適切に維持することができる。
【0029】
本開示の第8態様の圧縮装置は、第1態様から第7態様のいずれか一つの電気化学セルと、電気化学セルのアノード触媒層およびカソード触媒層の間に電圧を印加する電圧印加器と、を備え、電圧印加器により電圧を印加することで、アノードに供給される水素含有ガス中の水素を、電解質膜を介してカソードに移動させ、圧縮水素を生成する。
【0030】
本態様の圧縮装置が奏する作用効果は、上記第1態様から第7態様のいずれか一つの電気化学セルが奏する作用効果と同様であるので説明を省略する。
【0031】
以下、添付図面を参照しつつ、本開示の実施形態について説明する。以下で説明する実施形態は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される数値、形状、材料、構成要素、および、構成要素の配置位置および接続形態などは、あくまで一例であり、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、本態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。
【0032】
なお、以下の実施形態では、上記態様の圧縮装置の一例である電気化学式水素ポンプの構成および動作について説明する。
【0033】
(第1実施形態)
[装置構成]
図1Aおよび
図2Aは、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図1Bは、
図1Aの電気化学式水素ポンプのB部の拡大図である。
図2Bは、
図2Aの電気化学式水素ポンプのB部の拡大図である。
【0034】
なお、
図1Aには、平面視において電気化学式水素ポンプ100の中心と、カソードガス導出マニホールド28の中心と、を通過する直線を含む電気化学式水素ポンプ100の垂直断面が示されている。また、
図2Aには、平面視において電気化学式水素ポンプ100の中心と、アノードガス導入マニホールド27の中心と、アノードガス導出マニホールド30の中心と、を通過する直線を含む電気化学式水素ポンプ100の垂直断面が示されている。
【0035】
電気化学式水素ポンプ100は、少なくとも一つの電気化学セル100Bを備える。電気化学セル100Bは、電解質膜11と、アノードANと、カソードCAと、を含み、アノード触媒層13とカソード触媒層12との間に電圧を印加されているとき、カソードガス拡散層14は、アノードガス拡散層15よりも高圧の水素含有ガスに晒される。
【0036】
また、電気化学式水素ポンプ100の水素ポンプユニット100Aにおいて、電解質膜11、アノード触媒層13、カソード触媒層12、アノードガス拡散層15、カソードガス拡散層14、アノードセパレーター17およびカソードセパレーター16が積層されている。
【0037】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、電気化学式水素ポンプ100では、3個の電気化学セル100Bが積層されているが、これに限定されない。つまり、電気化学セル100Bの個数は、電気化学式水素ポンプ100が圧縮する水素量などの運転条件をもとに適宜の数に設定することができる。
【0038】
アノードANは、電解質膜11の一方の主面に設けられている。アノードANは、アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15を含む電極である。なお、平面視において、アノード触媒層13の周囲を囲むように環状のシール部材43が設けられ、アノード触媒層13が、シール部材43で適切にシールされている。
【0039】
カソードCAは、電解質膜11の他方の主面に設けられている。カソードCAは、カソード触媒層12およびカソードガス拡散層14を含む電極である。なお、平面視において、カソード触媒層12の周囲を囲むように環状のシール部材42が設けられ、カソード触媒層12が、シール部材42で適切にシールされている。
【0040】
以上により、電解質膜11は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12のそれぞれと接触するようにして、アノードANとカソードCAとによって挟持されている。
【0041】
電解質膜11はプロトン導電性を備える膜であれば、どのような構成であってもよい。例えば、電解質膜11として、スルホン酸修飾のフッ素系高分子電解質膜、炭化水素系電解質膜などを挙げることができる。具体的には、電解質膜11として、例えば、Nafion(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0042】
アノード触媒層13は、電解質膜11の一方の主面上に設けられている。アノード触媒層13は、触媒金属(例えば、白金)を分散状態で担持することができるカーボンを含むが、これに限定されない。
【0043】
カソード触媒層12は、電解質膜11の他方の主面上に設けられている。カソード触媒層12は、触媒金属(例えば、白金)を分散状態で担持することができるカーボンを含むが、これに限定されない。
【0044】
カソード触媒層12もアノード触媒層13も、触媒の調製方法としては、種々の方法を挙げることができるが、特に限定されない。例えば、カーボン系粉末としては、黒鉛、カーボンブラック、導電性を有する活性炭などの粉末を挙げることができる。カーボン担体に、白金若しくは他の触媒金属を担持する方法は、特に限定されない。例えば、粉末混合または液相混合などの方法を用いてもよい。後者の液相混合としては、例えば、触媒成分コロイド液にカーボンなどの担体を分散させ、吸着させる方法などが挙げられる。白金などの触媒金属のカーボン担体への担持状態は、特に限定されない。例えば、触媒金属を微粒子化し、高分散で担体に担持してもよい。
【0045】
カソードガス拡散層14は、カソード触媒層12上に設けられている。カソードガス拡散層14は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。カソードガス拡散層14は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形に適切に追従するような弾性を備える方が望ましい。カソードガス拡散層14として、例えば、カーボン繊維焼結体などを使用することができるが、これに限定されない。
【0046】
また、カソードガス拡散層14は、カソードセパレーター16側の表面層の抵抗が、他方の表面層の抵抗よりも低く構成されており、カソードセパレーター16に対して厚み方向に歪まして設置されることが望ましい。これにより、カソードガス拡散層14が、カソードCAで高圧の圧縮水素を生成する際に、カソードセパレーター16および電解質膜11などの歪みに対して追従することで、電気化学セル100Bの接触抵抗の増加が抑制される。
【0047】
さらに、カソードガス拡散層14において、導電性向上と接触面の向上のために、カーボン繊維間にカーボン粒子と樹脂が設けられていてもよい。
【0048】
カーボン粒子の材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチンブラック、天然黒鉛などを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックを使用することが、導電性向上の観点から望ましい。
【0049】
樹脂の材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。これらの中でも、PTFEを使用することが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の確保の観点から望ましい。なお、この場合、PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などが挙げることができる。
【0050】
なお、カソードガス拡散層14の製法としては、例えば、スプレーコート、バーコーダー、転写、ディップコートなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0051】
アノードガス拡散層15は、アノード触媒層13上に設けられている。アノードガス拡散層15は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。また、アノードガス拡散層15は、電気化学式水素ポンプ100の動作時に、上記の差圧による電解質膜11の押し付けに耐え得る程度の剛性を備える方が望ましい。つまり、アノードガス拡散層15の弾性率は、カソードガス拡散層14の弾性率よりも高い。これにより、アノードガス拡散層15において、電気化学セル100BのカソードCAおよびアノードAN間で発生する差圧による電解質膜11の押し付けに耐え得る程度の剛性が得られやすくなる。
【0052】
なお、アノードガス拡散層15は、
図1Bおよび
図2Bに示す如く、多孔体シート15Sを含むが、多孔体シート15Sの詳細な構成は第1実施例および第2実施例で説明する。
【0053】
ここで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100において、
図3に示すように、アノードガス拡散層15の厚みTは、カソードガス拡散層14の厚みt以上である。これにより、アノードガス拡散層15およびカソードガス拡散層14の厚みに関する本開示構成(T≧t)は、特許文献2のような両者の厚みに関する従来構成(T<t)に比べて、アノードガス拡散層15で発生する圧力損失が低減する。
【0054】
具体的には、例えば、電気化学式水素ポンプ100の温度およびアノードANに供給される水素含有ガスの露点をそれぞれ約50℃に設定するとともに、本開示構成の一例と従来構成の一例とにおいて、電気化学セル100BのカソードCAのガス圧(以下、カソード圧)および水素含有ガスの流量を同一条件に設定した。そして、このような状態で、アノードガス拡散層15で発生する圧力損失を測定したところ、以下の結果が得られ、本開示構成は、従来構成に比べて、アノードガス拡散層15で発生する圧力損失が低減することが確認された。
・本開示構成:27.16kPa
・従来構成:27.51kPa
次に、本開示構成および従来構成のそれぞれの電気化学セルについて、カソード圧および過電圧間の相関関係を測定した。
【0055】
図4は、本開示構成および従来構成のそれぞれの電気化学セルにおけるカソード圧と過電圧の関係の一例を示す図である。
図4の横軸には、電気化学セルのカソード圧が取られ、縦軸には、電気化学セルの過電圧が取られている。
【0056】
図4に示すように、本開示構成および従来構成はいずれも、電気化学セルのカソード圧がA領域を超えるまでは、電気化学セルのカソード圧の上昇に連れて、電気化学セルの過電圧が徐々に上昇するが、電気化学セルのカソード圧がA領域を超えた高圧側の領域において、本開示構成の電気化学セル100Bの過電圧の上昇が、従来構成の電気化学セルの過電圧上昇に比べて緩やかになった。かかる現象は、電解質膜11のドライアップにおいて、本開示構成と従来構成とでは、以下のような差異が存在するからではないかと考えられる。
【0057】
従来構成の電気化学セルは、アノードガス拡散層15の厚みTがカソードガス拡散層14の厚みtよりも小さいので、本開示構成の電気化学セル100Bに比べて、アノードガス拡散層15で発生する圧力損失が大きい。このため、従来構成の電気化学セルは、本開示構成の電気化学セル100Bに比べて、アノードANに供給される水素含有ガス中の水蒸気量が減少することで、電解質膜11のドライアップ抑制のための水が不足しやすい。ここで、一般的に、電気化学セルのカソード圧の上昇に連れて電解質膜11の温度が上がり、電解質膜11の温度が高くなるほど、電解質膜11のドライアップ抑制のための水が多量に必要となる。従って、
図4に示すように、電気化学セルのカソード圧がA領域を超えた高圧側の領域において、従来構成の電気化学セルは、本開示構成の電気化学セル100Bに比べて、電解質膜11のドライアップ抑制のための加湿不足に陥りやすく、電気化学セルの過電圧上昇が顕著になる。
【0058】
図1Aおよび
図2Aに示すように、アノードセパレーター17は、アノードANのアノードガス拡散層15上に設けられた部材である。カソードセパレーター16は、カソードCAのカソードガス拡散層14上に設けられた部材である。
【0059】
そして、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17のそれぞれの中央部には、凹部が設けられている。これらの凹部のそれぞれに、カソードガス拡散層14およびアノードガス拡散層15がそれぞれ収容されている。
【0060】
このようにして、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17で電気化学セル100Bを挟むことにより、水素ポンプユニット100Aが形成されている。
【0061】
カソードガス拡散層14と接触するカソードセパレーター16の主面は、カソードガス流路を設けずに平面で構成されている。これにより、カソードセパレーター16の主面にカソードガス流路を設ける場合に比べて、カソードガス拡散層14とカソードセパレーター16との間で接触面積を大きくすることができる。すると、電気化学式水素ポンプ100は、カソードガス拡散層14とカソードセパレーター16との間の接触抵抗を低減することができる。
【0062】
これに対して、多孔体シート15Sと接触するアノードセパレーター17の主面には、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含むサーペンタイン状のアノードガス流路33が設けられている。そして、アノードガス流路33の直線部分は、
図2Aの紙面に垂直な方向に延伸している。但し、このようなアノードガス流路33は、例示であって、本例に限定されない。例えば、アノードガス流路は、複数の直線状の流路により構成されていてもよい。
【0063】
また、導電性のカソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間には、電気化学セル100Bの周囲を囲むように設けられた環状かつ平板状の絶縁体21が挟み込まれている。これにより、カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の短絡が防止されている。
【0064】
ここで、電気化学式水素ポンプ100は、水素ポンプユニット100Aにおける積層方向の両端上に設けられた第1端板および第2端板と、水素ポンプユニット100A、第1端板および第2端板を積層方向に締結するための締結器25と、を備える。
【0065】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aがそれぞれ、上記の第1端板および第2端板のそれぞれに対応する。つまり、アノード端板24Aは、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向において、一方の端に位置するアノードセパレーター17上に設けられた端板である。また、カソード端板24Cは、水素ポンプユニット100Aの各部材が積層された積層方向において、他方の端に位置するカソードセパレーター16上に設けられた端板である。
【0066】
締結器25は、水素ポンプユニット100A、カソード端板24Cおよびアノード端板24Aを積層方向に締結することができれば、どのような構成であってもよい。例えば、締結器25として、ボルトおよび皿ばね付きナットなどを挙げることができる。
【0067】
図1Aに示すように、筒状のカソードガス導出マニホールド28は、3個の水素ポンプユニット100Aの各部材およびカソード端板24Cに設けられた貫通孔、および、アノード端板24Aに設けられた非貫通孔の連なりによって構成されている。また、カソード端板24Cには、カソードガス導出経路26が設けられている。カソードガス導出経路26は、カソードCAから排出されるカソードオフガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、カソードガス導出経路26は、上記のカソードガス導出マニホールド28と連通している。
【0068】
さらに、カソードガス導出マニホールド28は、水素ポンプユニット100AのそれぞれのカソードCAと、カソードガス通過経路34のそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット100AのそれぞれのカソードCAで生成された圧縮水素は、カソードガス通過経路34のそれぞれを通過した後、カソードガス導出マニホールド28で合流される。そして、合流された圧縮水素がカソードガス導出経路26に導かれる。
【0069】
このようにして、水素ポンプユニット100AのそれぞれのカソードCAは、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのカソードガス通過経路34およびカソードガス導出マニホールド28を介して連通している。
【0070】
カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間、カソードセパレーター16およびカソード給電板22Cの間、アノードセパレーター17およびアノード給電板22Aの間には、平面視において、カソードガス導出マニホールド28を囲むように、Oリングなどの環状のシール部材40が設けられ、カソードガス導出マニホールド28が、このシール部材40で適切にシールされている。
【0071】
図2Aに示すように、アノード端板24Aには、アノードガス導入経路29が設けられている。アノードガス導入経路29は、アノードANに供給される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導入経路29は、筒状のアノードガス導入マニホールド27に連通している。なお、アノードガス導入マニホールド27は、3個の水素ポンプユニット100Aの各部材およびアノード端板24Aに設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0072】
アノードガス導入マニホールド27は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33の一方の端部と、第1アノードガス通過経路35のそれぞれを介して連通している。これにより、アノードガス導入経路29からアノードガス導入マニホールド27に供給された水素含有ガスは、水素ポンプユニット100Aのそれぞれの第1アノードガス通過経路35を通じて、水素ポンプユニット100Aのそれぞれに分配される。そして、分配された水素含有ガスがアノードガス流路33を通過する間に、アノードガス拡散層15からアノード触媒層13に水素含有ガスが供給される。
【0073】
また、アノード端板24Aには、アノードガス導出経路31が設けられている。アノードガス導出経路31は、アノードANから排出される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。そして、アノードガス導出経路31は、筒状のアノードガス導出マニホールド30に連通している。なお、アノードガス導出マニホールド30は、3個の水素ポンプユニット100Aの各部材およびアノード端板24Aに設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0074】
アノードガス導出マニホールド30は、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33の他方の端部と、第2アノードガス通過経路36のそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット100Aのそれぞれのアノードガス流路33を通過した水素含有ガスが、第2アノードガス通過経路36のそれぞれを通じてアノードガス導出マニホールド30に供給され、ここで合流される。そして、合流された水素含有ガスが、アノードガス導出経路31に導かれる。
【0075】
カソードセパレーター16およびアノードセパレーター17の間、カソードセパレーター16およびカソード給電板22Cの間、アノードセパレーター17およびアノード給電板22Aの間には、平面視において、アノードガス導入マニホールド27およびアノードガス導出マニホールド30を囲むようにOリングなどの環状のシール部材40が設けられ、アノードガス導入マニホールド27およびアノードガス導出マニホールド30が、シール部材40で適切にシールされている。
【0076】
図1Aおよび
図2Aに示すように、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器102を備える。電圧印加器102は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12の間に電圧を印加する装置である。具体的には、電圧印加器102の高電位が、アノード触媒層13に印加され、電圧印加器102の低電位が、カソード触媒層12に印加されている。電圧印加器102は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12の間に電圧を印加できれば、どのような構成であってもよい。例えば、電圧印加器102は、アノード触媒層13およびカソード触媒層12の間に印加する電圧を調整する装置であってもよい。このとき、電圧印加器102は、バッテリ、太陽電池、燃料電池などの直流電源と接続されているときは、DC/DCコンバータを備え、商用電源などの交流電源と接続されているときは、AC/DCコンバータを備える。
【0077】
また、電圧印加器102は、例えば、水素ポンプユニット100Aに供給する電力が所定の設定値となるように、アノード触媒層13およびカソード触媒層12の間に印加される電圧、電気化学セル100Bに流れる電流が調整される電力型電源であってもよい。
【0078】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示す例では、電圧印加器102の低電位側の端子が、カソード給電板22Cに接続され、電圧印加器102の高電位側の端子が、アノード給電板22Aに接続されている。カソード給電板22Cは、上記の積層方向において他方の端に位置するカソードセパレーター16とは電気的に接続されるとともに、カソード端板24Cとはカソード絶縁板23Cを介して配置されている。アノード給電板22Aは、上記の積層方向において一方の端に位置するアノードセパレーター17と電気的に接続されるとともに、アノード端板24Aとはアノード絶縁板23Aを介して配置されている。
【0079】
このようにして、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器102により上記の電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素を、電解質膜11を介してカソードCAに移動させ、圧縮水素を生成することができる。
【0080】
ここで、図面には示されていないが、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮運転において必要となる部材および機器は適宜、設けられる。
【0081】
例えば、電気化学式水素ポンプ100の温度を検出する温度検出器、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAで圧縮された水素の圧力を検出する圧力検出器などが設けられていている。また、アノードガス導入経路29、アノードガス導出経路31およびカソードガス導出経路26の適所には、これらの経路を開閉するための弁などが設けられている。
【0082】
以上に説明した電気化学式水素ポンプ100の構成は例示であって、本例に限定されない。例えば、電気化学式水素ポンプ100は、アノードガス導出マニホールド30およびアノードガス導出経路31を設けずに、アノードガス導入マニホールド27を通してアノードANに供給する水素含有ガス中の水素(H2)を全量、カソードCAで圧縮するデッドエンド構造が採用されてもよい。
【0083】
[動作]
以下、電気化学式水素ポンプ100の動作の一例について、図面を参照しながら説明する。以下の動作は、例えば、図示しない制御器の演算回路が、制御器の記憶回路から制御プログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器で行うことは、必ずしも必須ではない。操作者が、その一部の動作を行ってもよい。以下の例では、制御器により動作を制御する場合について、説明する。
【0084】
まず、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに低圧および高湿度の水素含有ガスが供給されるとともに、電圧印加器102の電圧が電気化学式水素ポンプ100に給電される。すると、アノードANのアノード触媒層13において、水素分子がプロトンと電子とに分離する(式(1))。プロトンは電解質膜11内を伝導してカソード触媒層12に移動する。電子は電圧印加器102を介してカソード触媒層12に移動する。
【0085】
そして、カソード触媒層12において、水素分子が再び生成される(式(2))。なお、プロトンが電解質膜11中を伝導する際に、所定水量の水が、電気浸透水としてアノードANからカソードCAにプロトンと同伴して移動することが知られている。
【0086】
このとき、例えば、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAで生成される圧縮水素が、カソードガス導出経路26を通じて、図示しない水素貯蔵器に供給される場合、カソードガス導出経路26に設けられた背圧弁、調整弁(図示せず)などを用いて、カソードガス導出経路26の圧損を増加させることにより、カソードCAで圧縮水素(H2)を生成することができる。ここで、カソードガス導出経路26の圧損を増加させるとは、カソードガス導出経路26に設けられた背圧弁、調整弁の開度を小さくすることに対応する。
【0087】
アノード:H2(低圧)→2H++2e- ・・・(1)
カソード:2H++2e-→H2(高圧) ・・・(2)
このようにして、電気化学式水素ポンプ100のアノード触媒層13およびカソード触媒層12の間に電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素を、電解質膜11を介してカソードCAに移動させ、圧縮水素を生成する水素圧縮動作が行われる。
【0088】
次に、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAで生成された圧縮水素は、カソードCAからカソードガス導出経路26を通じて電気化学式水素ポンプ100外へ排出される。例えば、カソードガス導出経路26を流れる圧縮水素が、水分および不純物などを除去された後、水素需要体の一例である水素貯蔵器に供給され、水素貯蔵器内に一時的に貯蔵されてもよい。水素貯蔵器で貯蔵された圧縮水素は、適時に、水素需要体の一例である燃料電池に供給されてもよい。
【0089】
なお、カソードCAで生成された圧縮水素は、水素貯蔵器を介さずに、直接、燃料電池に供給されてもよい。また、上記水素圧縮動作では、例えば、水素貯蔵器に圧縮水素を供給する前に、カソードCA内の圧縮水素は所定の供給圧まで昇圧され、その後、水素貯蔵器に圧縮水素を供給される。所定の供給圧は、40MPa、80MPaなどが例示される。
【0090】
以上のとおり、本実施形態の電気化学セル100Bおよび電気化学式水素ポンプ100(以下、電気化学セル100B等と略す)は、従来よりも水素圧縮動作を高効率に維持し得る。具体的には、本実施形態の電気化学セル100B等は、アノードガス拡散層15の厚みTをカソードガス拡散層14の厚みt以上にすることで、アノードガス拡散層の厚みTがカソードガス拡散層の厚みtよりも小さい場合に比べて、アノードガス拡散層15の主面に平行な方向における水素含有ガスの拡散性が改善する。すると、本実施形態の電気化学セル100B等は、アノードガス拡散層15で発生する圧力損失が低減するので、アノードANに供給される水素含有ガスの圧力上昇が抑制され、その結果、電解質膜11の加湿するための水素含有ガス中の水蒸気量を適量に保つことができる。これにより、本実施形態の電気化学セル100B等は、電解質膜11のドライアップに起因する電気化学セル100B等の水素圧縮効率の低下を抑制することができる。
【0091】
(第1実施例)
本実施例の電気化学セル100B等は、多孔体シート15Sが金属多孔体シートであること以外は、第1実施形態の電気化学セル100B等と同様である。
【0092】
アノードガス拡散層15は、金属多孔体シートを含む。金属多孔体シートとして、例えば、金属粉末焼結体、金属繊維焼結体などを使用することができるが、これに限定されない。また、金属材料として、チタンを使用することができるが、これに限定されない。例えば、チタンの他、クロム、ニッケル、タングステン、タンタル、鉄、マンガンなどの金属材料を用いることもできる。また、これらの金属内の2種類以上の合金化した合金鋼(例えば、ステンレス)、窒化物であるTiN、炭化物であるTiCなどを用いることもできる。
【0093】
なお、金属多孔体シートの製法として、例えば、溶融金属に発泡剤を加えて製造する方法、金属粉末または金属繊維を圧縮成形焼結する方法などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0094】
以上により、本実施例の電気化学セル100B等は、アノードガス拡散層15が金属粉末焼結体などで構成される金属多孔体シートを含むことで、アノードガス拡散層15において、所望の導電性、ガス拡散性および剛性を得ることができる。
【0095】
本実施例の電気化学セル100B等は、上記の特徴以外は、第1実施形態の電気化学セル100B等と同様であってもよい。
【0096】
(第2実施例)
本実施例の電気化学セル100B等は、多孔体シート15Sがカーボン多孔体シートであること以外は、第1実施形態の電気化学セル100B等と同様である。
【0097】
アノードガス拡散層15は、カーボン多孔体シートを含む。カーボン多孔体シートとして、例えば、カーボン粉末焼結体、カーボン繊維焼結体などを使用することができるが、これらに限定されない。
【0098】
カーボン多孔体シートとして、カーボン粉末焼結体を使用する場合、カーボン粒子の材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチンブラック、天然黒鉛などを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックを使用することが、導電性向上の観点から望ましい。
【0099】
カーボン多孔体シートとして、カーボン繊維焼結体を使用する場合、導電性向上と接触面の向上のために、カーボン繊維間にカーボン粒子と樹脂が設けられていてもよい。
【0100】
カーボン粒子の材料としては、上記と同様、アセチレンブラック、ケッチンブラック、天然黒鉛などを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックを使用することが、導電性向上の観点から望ましい。
【0101】
樹脂の材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。これらの中でも、PTFEを使用することが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の確保の観点から望ましい。この場合、PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などが挙げることができる。
【0102】
なお、カーボン多孔体シートの製法としては、例えば、スプレーコート、バーコーダー、転写、ディップコートなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0103】
以上により、本実施例の電気化学セル100B等は、アノードガス拡散層15がカーボン粉末焼結体またはカーボン繊維焼結体などで構成されるカーボン多孔体シートを含むことで、アノードガス拡散層15において、所望の導電性、ガス拡散性および剛性を得ることができる。
【0104】
本実施例の電気化学セル100B等は、上記の特徴以外は、第1実施形態の電気化学セル100B等と同様であってもよい。
【0105】
(第2実施形態)
本実施形態の電気化学セル100B等は、アノードガス拡散層15およびカソードガス拡散層14の厚みに関する以下の内容以外は、第1実施形態の電気化学セル100B等と同様である。
【0106】
本実施形態の電気化学セル100B等においては、アノードガス拡散層15の厚みTとカソードガス拡散層14の厚みtの差(T-t)は、0.1mm以下である。
【0107】
図5は、第2実施形態の電気化学セルにおけるアノードガス拡散層の厚みとカソードガス拡散層の厚みの差と過電圧の関係の一例を示す図である。
図5の横軸には、カソードガス拡散層の厚みtを固定した場合における、アノードガス拡散層15の厚みTとカソードガス拡散層14の厚みtの差(T-t)が取られ、縦軸には、電気化学セル100Bの過電圧が取られている。
【0108】
図5に示すように、上記の差(T-t)が、0mmおよび0.1mmである場合、電気化学セル100Bの過電圧上昇が確認されなかったが、上記の差(T-t)が、0.2mmである場合、電気化学セル100Bの過電圧が上昇した。かかる過電圧上昇は、アノードガス拡散層15の主面に垂直な方向における水素含有ガスの拡散性悪化に起因する現象であると考えられる。
【0109】
このように、アノードガス拡散層15の厚みTとカソードガス拡散層14の厚みtの差(T-t)が0.1mmを上回ると、アノードガス拡散層15の厚みTが厚くなることで、アノードガス拡散層15の主面に垂直な方向における水素含有ガスの拡散性が悪化する可能性がある。
【0110】
そこで、本実施形態の電気化学セル100B等は、アノードガス拡散層15の厚みTとカソードガス拡散層14の厚みtの差(T-t)を0.1mm以下にすることで、かかる厚みの差(T-t)が0.1mmを上回る場合に比べて、アノードガス拡散層の主面に垂直な方向における水素含有ガスの拡散性を適切に維持することができる。
【0111】
本実施形態の電気化学セル100B等は、上記の特徴以外は、第1実施形態および第1実施形態の第1実施例-第2実施例のいずれかの電気化学セル100B等と同様であってもよい。
【0112】
第1実施形態、第1実施形態の第1実施例-第2実施例および第2実施形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0113】
また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示は、従来よりも水素圧縮動作を高効率に維持し得る水素ポンプ用の電気化学セルおよび圧縮装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
11 :電解質膜
12 :カソード触媒層
13 :アノード触媒層
14 :カソードガス拡散層
15 :アノードガス拡散層
15S :多孔体シート
16 :カソードセパレーター
17 :アノードセパレーター
21 :絶縁体
22A :アノード給電板
22C :カソード給電板
23A :アノード絶縁板
23C :カソード絶縁板
24A :アノード端板
24C :カソード端板
25 :締結器
26 :カソードガス導出経路
27 :アノードガス導入マニホールド
28 :カソードガス導出マニホールド
29 :アノードガス導入経路
30 :アノードガス導出マニホールド
31 :アノードガス導出経路
33 :アノードガス流路
34 :カソードガス通過経路
35 :第1アノードガス通過経路
36 :第2アノードガス通過経路
40 :シール部材
42 :シール部材
43 :シール部材
100 :電気化学式水素ポンプ
100A :水素ポンプユニット
100B :電気化学セル
102 :電圧印加器
AN :アノード
CA :カソード
T :厚み
t :厚み