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特許7281663紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置
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  • 特許-紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置 図1
  • 特許-紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/844 20230101AFI20230519BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230519BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20230519BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20230519BHJP
   H10K 71/00 20230101ALI20230519BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K50/10
H10K59/10
C08F2/50
H10K71/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018182923
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020053310
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕基
(72)【発明者】
【氏名】山本 広志
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特許第6369790(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/070488(WO,A1)
【文献】特表2018-510449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含有し、
前記アクリル化合物(A)は、下記式(1)に示す構造を有し、かつ沸点が270℃以上であるアクリル化合物(A1)を含有し、
CH2=CR1-COO-(R3-O)n-CO-CR2=CH2 …(1)
式(1)において、R1及びR2の各々は水素又はメチル基、nは1以上の整数、R3は炭素数3以上のアルキレン基であり、nが2以上の場合は一分子中の複数のR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、
前記アクリル化合物(A1)は、前記式(1)中のR 3 が炭素数が3以上4以下のアルキレン基である化合物を含有し、
前記アクリル化合物(A)に対する前記アクリル化合物(A1)の百分比は50質量%以上であり、
前記アクリル化合物(A)は沸点260℃以下の化合物を含まず、又は前記アクリル化合物(A)中の沸点260℃以下の化合物の割合が10質量%以下である、
有機EL素子封止用の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル化合物(A1)の25℃での粘度は25mPa・s以下である、
請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
インクジェット法で成形される、
請求項1又は2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル化合物(A)は、一分子中に三つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A21)を更に含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
硬化物のガラス転移温度が80℃以上である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アクリル化合物(A)は、分子骨格中にケイ素を有する化合物(A41)、分子骨格中にリンを有する化合物(A42)、及び分子骨格中に窒素を有する化合物(A43)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を更に含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記アクリル化合物(A)中の、沸点が270℃以上である成分の百分比が80質量%以上である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
有機EL素子と前記有機EL素子を覆う封止材とを備える有機EL発光装置を製造する方法であり、
請求項1から7のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化させることで前記封止材を作製することを含む、
有機EL発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記紫外線硬化性樹脂組成物を加熱してから前記紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形する、
請求項8に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項10】
有機EL素子と、前記有機EL素子を覆う封止材とを備え、前記封止材は、請求項1から7のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である、
有機EL発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置に関し、詳しくは、有機EL素子封止用の紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物を用いる有機EL発光装置の製造方法、及びこの封止材を備える有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、照明用途、ディスプレイ用途などに適用されており、今後の普及が期待されている。
【0003】
有機EL発光装置のうち、トップエミッションタイプと呼ばれるものは、例えば支持基板上に有機EL素子を配置し、支持基板に対向するように透明基板を配置し、支持基板と透明基板との間に透明な封止材を充填して構成される。この場合、有機EL素子が発する光は封止材及び透明基板を通過して外部へ出射できる。
【0004】
封止材は、有機EL素子への水分の侵入を抑制することで、有機EL素子におけるダークスポットの発生及び成長を抑制する。ダークスポットとは、有機EL素子が水分で劣化することで生じる、発光しない部分のことである。
【0005】
封止材は、例えばエポキシ樹脂又はアクリル樹脂から選択される有機樹脂を含有する材料から作製される(特許文献1参照)。特にアクリル樹脂を使用する場合、紫外線照射等で材料を硬化させて封止材を作製できるので、有機EL素子に熱による負荷をかけることなく封止材を作製できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5581332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL素子を封止材で覆った場合であっても、有機EL素子への水分の侵入を十分に抑制できない場合がある。
【0008】
本発明の課題は、有機EL素子を封止するための封止材を作製するために使用でき、有機EL素子へ水分を侵入しにくくできる紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物を用いる有機EL発光装置の製造方法、及びこの紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える有機EL発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、有機EL封止用であり、アクリル化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含有し、前記アクリル化合物(A)は、下記式(1)に示す構造を有し、かつ沸点が270℃以上であるアクリル化合物(A1)を含有し、
CH2=CR1-COO-(R3-O)n-CO-CR2=CH2 …(1)
式(1)において、R1及びR2の各々は水素又はメチル基、nは1以上の整数、R3は炭素数3以上のアルキレン基であり、nが2以上の場合は一分子中の複数のR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、
前記アクリル化合物(A)に対する前記アクリル化合物(A1)の百分比は50質量%以上であり、前記アクリル化合物(A)は沸点260℃以下の化合物を含まず、又は前記アクリル化合物(A)中の沸点260℃以下の化合物の割合が10質量%以下である。
【0010】
本発明の一態様に係る有機EL発光装置の製造方法は、有機EL素子と、前記有機EL素子を覆う封止材とを備える有機EL発光装置を製造する方法であり、前記紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化させることで前記封止材を作製することを含む。
【0011】
本発明の一態様に係る有機EL発光装置は、有機EL素子と、前記有機EL素子を覆う封止材とを備え、前記封止材は、前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様には、有機EL素子を封止するための封止材を作製するために使用すると、水分が有機EL素子に侵入しにくくなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における有機EL発光装置の第一例を示す概略の断面図である。
図2】本発明の一実施形態における有機EL発光装置の第二例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態に係る有機EL素子封止用の紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、アクリル化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含有する。アクリル化合物(A)は、下記式(1)に示す構造を有し、かつ沸点が270℃以上であるアクリル化合物(A1)を含有する。
CH2=CR1-COO-(R3-O)n-CO-CR2=CH2 …(1)
式(1)において、R1及びR2の各々は水素又はメチル基、nは1以上の整数、R3は炭素数3以上のアルキレン基であり、nが2以上の場合は一分子中の複数のR3は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
アクリル化合物(A)に対する前記アクリル化合物(A1)の百分比は50質量%以上である。前記アクリル化合物(A)は沸点260℃以下の化合物を含まず、又は前記アクリル化合物(A)中の沸点260℃以下の化合物の割合が10質量%以下である。
【0017】
組成物(X)から、有機EL発光装置1の封止材5を作製できる(図1参照)。この封止材5からは、アクリル化合物(A1)に起因するアウトガスは生じにくい。このため、有機EL発光装置1内にアウトガスに起因する空隙を生じにくくできる。そのため、空隙を通じて有機EL素子に水分が侵入することが起こりにくくなる。さらに、アクリル化合物(A1)は封止材5の水との親和性を高めにくく、このため封止材5を通じて有機EL素子に水分が侵入することも起こりにくくなる。このため、水分が有機EL素子に侵入しにくくなる。
【0018】
組成物(X)の硬化物のガラス転移温度は80℃以上であることが好ましい。すなわち、組成物(X)は、硬化することでガラス転移温度が80℃以上の硬化物になる性質を有することが好ましい。この場合、硬化物は良好な耐熱性を有することができる。そのため、例えば硬化物に温度上昇を伴う処理が施された場合に、硬化物が劣化しにくい。このため、例えば組成物(X)から作製された封止材5に重ねてパッシベーション層6をプラズマCVD法といった蒸着法で作製する場合、封止材5が加熱されても、封止材5が劣化しにくい。硬化物のガラス転移温度は90℃以上であればより好ましく、100℃以上であれば更に好ましい。この硬化物のガラス転移温度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。
【0019】
組成物(X)の25℃での粘度は、1mPa・s以上30mPa・s以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)を常温下でキャスティング法といった方法で成形することが容易であり、組成物(X)をインクジェット法で成形することも可能である。この粘度が25mPa・s以下であればより好ましく、20mPa・s以下であれば更に好ましく、15mPa・s以下であれば特に好ましい。この粘度が5mPa・s以上であることも好ましい。
【0020】
組成物(X)の40℃における粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下であることも好ましい。この場合、常温における組成物(X)の粘度がいかなる値であっても、組成物(X)を僅かに加熱すれば低粘度化させることが可能である。このため、加熱すれば、組成物(X)をキャスティング法といった方法で成形することが容易であり、組成物(X)をインクジェット法で成形することも可能である。また、組成物(X)を大きく加熱することなく低粘度化させることができるので、組成物(X)中の成分が揮発することによる組成物(X)の組成の変化を生じにくくできる。この粘度が25mPa・s以下であればより好ましく、20mPa・s以下であれば更に好ましく、15mPa・s以下であれば特に好ましい。この粘度が5mPa・s以上であることも好ましい。
【0021】
なお、組成物(X)の粘度は、レオメータを用いて、せん断速度100s-1の条件で測定される。レオメータとして、例えばアントンパール・ジャパン社製の型番DHR-2を使用できる。
【0022】
このような組成物(X)の25℃又は40℃における低い粘度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。
【0023】
組成物(X)の硬化物の、厚み寸法が10μmである場合の、全光透過率は、90%以上であることが好ましい。この場合、硬化物を有機EL発光装置1における封止材5に適用すると、封止材5を透過して外部へ出射する光の取り出し効率を特に向上できる。このような硬化物の光透過性も、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。
【0024】
以下、本実施形態について、更に詳しく説明する。
【0025】
1.有機EL発光装置の構造
まず、有機EL発光装置の構造について説明する。有機EL発光装置1は、有機EL素子4と、有機EL素子4を覆う封止材5とを備える。封止材5は、有機EL素子4に直接接触した状態で有機EL素子4を覆ってもよく、封止材5と有機EL素子4との間に何らかの層が介在した状態で有機EL素子4を覆ってもよい。なお、ELとはエレクトロルミネッセンスの略である。また、有機EL素子4は、有機発光ダイオードとも呼ばれる。
【0026】
有機EL発光装置1の構造の第一例を、図1を参照して説明する。この有機EL発光装置1は、トップエミッションタイプである。有機EL発光装置1は、支持基板2、支持基板2と間隔をあけて対向する透明基板3、支持基板2の透明基板3と対向する面の上にある有機EL素子4、及び支持基板2と透明基板3との間に充填されている封止材5を備える。また、第一例では、有機EL発光装置1は、支持基板2の透明基板3と対向する面及び有機EL素子4を覆うパッシベーション層6を備える。すなわち、有機EL素子4と、有機EL素子4を覆う封止材5との間に、パッシベーション層6が介在している。
【0027】
支持基板2は、例えば樹脂材料から作製されるが、これに限定されない。透明基板3は透光性を有する材料から作製される。透明基板3は、例えば、ガラス製基板又は透明樹脂製基板である。有機EL素子4は、例えば一対の電極と、電極間にある有機発光層とを備える。有機発光層は、例えば正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層及び電子輸送層を備え、これらの層は前記の順番に積層している。図1には、有機EL素子4は一つだけ示されているが、有機EL発光装置1は複数の有機EL素子4を備え、かつ複数の有機EL素子4が、支持基板2上でアレイを構成していてもよい。パッシベーション層6は窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されることが好ましい。
【0028】
有機EL発光装置1の構造の第二例を、図2を参照して説明する。なお、図1に示す第一例と共通する要素については、図1と同じ符号を付して、詳細な説明を適宜省略する。図2に示す有機EL発光装置1も、トップエミッションタイプである。有機EL発光装置1は、支持基板2、支持基板2と間隔をあけて対向する透明基板3、支持基板2の透明基板3と対向する面の上にある有機EL素子4、及び有機EL素子4を覆う封止材5を備える。
【0029】
有機EL素子4は、第一例の場合と同様、例えば一対の電極41、43と、電極41、43間にある有機発光層42とを備える。有機発光層42は、例えば正孔注入層421、正孔輸送層422、有機発光層423及び電子輸送層424を備え、これらの層は前記の順番に積層している。
【0030】
有機EL発光装置1は複数の有機EL素子4を備え、かつ複数の有機EL素子4が、支持基板2上でアレイ9(以下素子アレイ9という)を構成している。素子アレイ9は、隔壁7も備える。隔壁7は、支持基板2上にあり、隣合う二つの有機EL素子4の間を仕切っている。隔壁7は、例えば感光性の樹脂材料をフォトリソグラフィ法で成形することで作製される。素子アレイ9は、隣合う有機EL素子4の電極43及び電子輸送層424同士を電気的に接続する接続配線8も備える。接続配線8は、隔壁7上に設けられている。
【0031】
有機EL発光装置1は、有機EL素子4を覆うパッシベーション層6も備える。パッシベーション層6は窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されることが好ましい。パッシベーション層6は、第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62とを含む。第一パッシベーション層61は素子アレイ9に直接接触した状態で、素子アレイ9を覆うことで、有機EL素子4を覆っている。第二パッシベーション層62は、第一パッシベーション層61に対して、素子アレイ9とは反対側の位置に配置され、かつ第二パッシベーション層62と第一パッシベーション層61との間には間隔があけられている。第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62との間に、封止材5が充填されている。すなわち、有機EL素子4と、有機EL素子4を覆う封止材5との間に、第一パッシベーション層61が介在している。
【0032】
さらに、第二パッシベーション層62と透明基板3との間に、第二封止材52が充填されている。第二封止材52は、例えば透明な樹脂材料から作製される。第二封止材52の材質は特に制限されない。第二封止材52の材質は、封止材5と同じであっても、異なっていてもよい。
【0033】
上記に例示した構造を有する有機EL発光装置1における封止材5を、本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物から作製できる。すなわち、紫外線硬化性樹脂組成物は、有機EL素子4のための封止材5を作製するために用いられる。さらに言い換えれば、紫外線硬化性樹脂組成物は、好ましくは封止材作製用の組成物、有機EL素子封止用の組成物、あるいは有機EL発光装置製造用の組成物である。
【0034】
2.紫外線硬化性樹脂組成物
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)について説明する。
【0035】
上記のとおり、組成物(X)は、アクリル化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含有する。組成物(X)に紫外線を照射すると、光重合開始剤(B)によって光ラジカル重合反応が開始されてアクリル化合物(A)が硬化することで、硬化物を作製できる。組成物(X)の成分について、下記で更に詳しく説明する。
【0036】
上記のとおり、組成物(X)はアクリル化合物(A)を含有する。アクリル化合物(A)は、一分子中に一つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する。なお、「(メタ)アクリ」とは、「アクリ」と「メタクリ」とのうちの少なくとも一方のことである。
【0037】
アクリル化合物(A)全体の25℃での粘度は50mPa・s以下であることが好ましい。この場合、アクリル化合物(A)は組成物(X)を特に低粘度化させることができる。アクリル化合物(A)全体の粘度は30mPa・s以下であればより好ましく、25mPa・s以下であれば更に好ましく、20mPa・s以下であれば特に好ましい。また、アクリル化合物(A)全体の粘度は例えば3mPa・s以上である。
【0038】
アクリル化合物(A)全体の40℃での粘度が50mPa・s以下であることも好ましい。この場合、アクリル化合物(A)は、加熱された場合の組成物(X)を特に低粘度化させることができる。アクリル化合物(A)全体の粘度は30mPa・s以下であれば更に好ましく、25mPa・s以下であれば更に好ましく、20mPa・s以下であれば特に好ましい。また、アクリル化合物(A)全体の粘度は、例えば3mPa・s以上である。
【0039】
アクリル化合物(A)が含みうる化合物について説明する。
【0040】
アクリル化合物(A)は、上記のとおり、式(1)に示す構造を有し、かつ沸点が270℃以上であるアクリル化合物(A1)を含有する。換言すると、アクリル化合物(A)は、アクリル化合物(A1)を含有し、アクリル化合物(A1)は、式(1)に示す構造を有する化合物からなる群のうち、沸点が270℃以上である少なくとも一種の化合物のみからなる。
【0041】
アクリル化合物(A1)の沸点が270℃以上であるため、組成物(X)の保存中及び組成物(X)が加熱された場合に、組成物(X)からアクリル化合物(A1)が揮発しにくい。そのため、組成物(X)の保存安定性が損なわれにくい。また、組成物(X)の硬化物中及び封止材5中にアクリル化合物(A1)が未反応で残留していても、硬化物及び封止材5からアクリル化合物(A1)に起因するアウトガスが生じにくい。そのため、有機EL発光装置1内に、アウトガスによる空隙が生じにくい。有機EL発光装置1中に空隙があると空隙を通じて有機EL素子4に水分が到達してしまうおそれがあるが、空隙が生じにくいと、有機EL素子4に水分が到達しにくいため、有機EL素子4が水分によって劣化しにくくなる。なお、沸点は、減圧下の沸点を換算して得られる常圧下の沸点であり、例えばScience of Petroleum, Vol.II. P.1281(1938)に示される方法で求められる。アクリル化合物(A1)の沸点は280℃以上であればより好ましい。
【0042】
また、アクリル化合物(A1)が式(1)に示す構造を有すること、特に式(1)のR3の炭素数が3以上であることにより、アクリル化合物(A1)は、封止材5の水との親和性を高めにくい。このため、封止材5を通じて有機EL素子に水分が侵入することも起こりにくくなる。R3の炭素数は、例えば3以上15以下である。また、アクリル化合物(A1)は、式(1)に示す構造を有すること、特に一分子中に二つの(メタ)アクリロイル基を有することにより、硬化物のガラス転移温度を高めることができ、このため、硬化物及び封止材5の耐熱性を高めることができる。また、式(1)のnは、例えば1以上12以下の整数である。
【0043】
アクリル化合物(A)に対するアクリル化合物(A1)の百分比は50質量%以上である。このため、組成物(X)の保存安定性が効果的に高められ、かつ封止材5からのアウトガス発生が効果的に低減され、更に封止材5の水に対する親和性が特に高められにくい。また、アクリル化合物(A)に対するアクリル化合物(A1)の百分比は、例えば100質量%以下であり、又は95質量%以下であり、好ましくは80質量%以下である。
【0044】
アクリル化合物(A1)の25℃での粘度は25mPa・s以下であることが好ましい。この場合、アクリル化合物(A1)は組成物(X)の粘度を低めることができる。アクリル化合物(A1)の25℃での粘度は、25mPa・s以下であればより好ましく、20mPa・s以下であれば更に好ましく、15mPa・s以下であれば特に好ましい。また、アクリル化合物(A1)の25℃での粘度は、例えば1mPa・s以上であり、3mPa・s以上であれば好ましく、5mPa・s以上であれば更に好ましい。
【0045】
アクリル化合物(A1)は、例えばアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルと、ポリアルキレングルコールのジ(メタ)アクリル酸エステルと、アルキレンオキサイド変性アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルとからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0046】
アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、式(1)においてnが1である化合物である。この場合、式(1)におけるR3の炭素数は4~12であることが好ましい。R3は、直鎖状でもよく、分岐を有していてもよい。特にアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。また、アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、サートマー社製の品番SR213、大阪有機化学工業社製の品番V195、サートマー社製の品番SR212、サートマー社製の品番SR247、共栄化学工業社製の品名ライトアクリレートNP-A、サートマー社製の品番SR238NS、大阪有機化学工業社製の品番V230、ダイセル社製の品番HDDA、共栄化学工業社製の品番1,6HX-A、大阪有機化学工業社製の品番V260、共栄化学工業社製の品番1,9-ND-A、新中村化学工業社製の品番A-NOD-A、サートマー社製の品番CD595、サートマー社製の品番SR214NS、新中村化学工業社製の品番BD、サートマー社製の品番SR297、サートマー社製の品番SR248、共栄化学工業社製の品名ライトエステルNP、サートマー社製の品番SR239NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル1,6HX、新中村化学工業社製の品番HD-N、共栄化学工業社製の品名ライトエステル1,9ND、新中村化学工業社製の品番NOD-N、共栄化学工業社製の品名ライトエステル1,10DC、新中村化学工業社製の品番DOD-N、及びサートマー社製の品番SR262からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。
【0047】
ポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、式(1)においてnが2以上である化合物である。nは例えば2~10であり、2~7であることが好ましく、2~6であることも好ましく、2~3であることも好ましい。R3の炭素数は例えば2~5である。炭素数が多いほど、硬化物及び封止材5の疎水性が高くなり、封止材5が水分を透過させにくい。ポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、特にジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート及びトリテトラメチレングリコールジアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。また、ポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、特にサートマー社製の品番SR230、サートマー社製の品番SR508NS、ダイセル社製の品番DPGDA、サートマー社製の品番SR306NS、ダイセル社製の品番TPGDA、大阪有機化学工業社製の品番V310HP、新中村化学工業社製の品番APG200、共栄化学工業株式会社製の品名ライトアクリレートPTMGA-250、サートマー社製の品番SR231NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル2EG、サートマー社製の品番SR205NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル3EG、サートマー社製の品番SR210NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル4EG、三菱化学社製の品名アクリエステルHX及び新中村化学工業社製の品番3PGからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。
【0048】
アルキレンオキサイド変性アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、例えばプロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールを含有する。また、アルキレンオキサイド変性アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルは、例えばダイセル社製の品番EBECRYL145を含有する。
【0049】
アクリル化合物(A)中の、沸点が270℃以上である成分の百分比が80質量%以上であることが好ましい。アクリル化合物(A)がアクリル化合物(A1)以外の化合物を更に含む場合は、アクリル化合物(A)中の、アクリル化合物(A)とアクリル化合物(A1)以外の化合物とを含めた全成分中の、沸点が270℃以上である成分の百分比が80質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性が特に損なわれにくく、かつ硬化物及び封止材5からアウトガスが特に生じにくい。アクリル化合物(A)中の、沸点が280℃以上である成分の百分比が80質量%以上であれば、更に好ましい。
【0050】
アクリル化合物(A)が含みうるアクリル化合物(A1)以外の化合物について説明する。
【0051】
アクリル化合物(A)は、上記のアクリル化合物(A1)以外の多官能アクリル化合物(A2)を更に含有してもよい。多官能アクリル化合物(A2)は、硬化物のガラス転移温度を高めることができ、このため、硬化物及び封止材5の耐熱性を高めることができる。多官能アクリル化合物(A2)は、例えばポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを含有する。
【0052】
多官能アクリル化合物(A2)は、一分子中に三つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A21)を含有することが好ましい。すなわち、アクリル化合物(A)は、化合物(A21)を含有することが好ましい。この場合、化合物(A21)は、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。アクリル化合物(A)が化合物(A21)を含有すると、化合物(A21)は、硬化物のガラス転移温度を特に高めることができ、このため、硬化物及び封止材5の耐熱性を特に高めることができる。
【0053】
アクリル化合物(A)が化合物(A21)を含む場合、アクリル化合物(A)に対する化合物(A21)の百分比は0質量%より多く25質量%以下であることが好ましい。成分(A3)の百分比は10質量%以上であればより好ましい。この場合、硬化物のガラス転移温度を特に高めることができる。また、化合物(A21)が25質量%以下であると、化合物(A21)に起因する組成物(X)の粘度上昇が生じにくい。化合物(A21)の百分比は20質量%以下であれば、組成物(X)の粘度上昇が特に生じにくくなる。
【0054】
アクリル化合物(A)は、一分子中に一つのみの(メタ)アクリロイル基を有する単官能アクリル化合物(A3)を更に含有してもよい。単官能アクリル化合物(A3)は、組成物(X)の硬化時の収縮を抑制できる。また、単官能アクリル化合物(A3)は、組成物(X)の粘度の低減に寄与できる。アクリル化合物(A)が単官能アクリル化合物(A3)を含有する場合、アクリル化合物(A)全量に対する単官能アクリル化合物(A3)の百分比は、0質量%より多く70質量%以下であることが好ましい。単官能アクリル化合物(A3)の百分比が0質量%より多ければ、単官能アクリル化合物(A3)によって組成物(X)の硬化時の収縮を抑制できる。単官能アクリル化合物(A3)の百分比が5質量%以上であれば更に好ましい。単官能アクリル化合物(A3)の百分比が70質量%以下であれば、組成物(X)及び硬化物から、単官能アクリル化合物(A3)に起因するアウトガスが生じにくい。また、単官能アクリル化合物(A3)の量が70質量%以下であれば、アクリル化合物(A)中の多官能の成分の量が確保できるため、多官能の成分によって硬化物及び封止材5の耐熱性を特に向上できる。単官能アクリル化合物(A3)の百分比が50質量%以下であればより好ましく、単官能アクリル化合物(A3)が40質量%以下であれば更に好ましく、30質量%以下であれば特に好ましい。
【0055】
単官能アクリル化合物(A3)は、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジキシルエチル(メタ)アクリレート、エチルジグリコール(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルモノ(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、エトキシ化コハク酸(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、オクチル/デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化(4)ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(350)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(550)モノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、エトキシ化トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド付加物、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレートのプロピレンオキサイド付加物、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、及び3-(メタ)アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0056】
単官能アクリル化合物(A3)は、脂環式構造を有する化合物を含有することが好ましい。脂環式構造を有する化合物は、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及び4-ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0057】
単官能アクリル化合物(A3)は、下記式(10)に示す化合物(A31)を含有することも好ましい。この場合、組成物(X)を低粘度化させやすく、かつ組成物(X)から作製される封止材5に、パッシベーション層6といった無機材料製の部材との密着性が付与されやすい。また、化合物(A31)は、低い粘度を有するわりには、揮発しにくい性質を有する。そのため、組成物(X)を保存していても、組成物(X)には単官能アクリル化合物(A3)の揮発による組成の変化が生じにくい。
【0058】
【化1】
【0059】
式(10)において、R0はH又はメチル基である。Xは単結合又は二価の炭化水素基である。R1からR11の各々はH、アルキル基又は-R12-OH、R12はアルキレン基でありかつR1からR11のうち少なくとも一つはアルキル基又は-R12-OHである。R1からR11は互いに化学結合していない。
【0060】
Xが二価の炭化水素基である場合、Xの炭素数は1以上5以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。二価の炭化水素基は、例えばメチレン基、エチレン基又はプロピレン基である。Xが単結合又はメチレン基であれば特に好ましい。この場合、化合物(A31)が分子量が小さく低粘度であるという利点がある。
【0061】
1からR11のうち少なくとも一つがアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は1以上8以下であることが好ましい。アルキル基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基又はオクチル基である。アルキル基は直鎖状であっても分岐を有してもよい。すなわち、例えばアルキル基がブチル基である場合、ブチル基は、t-ブチル基でもよく、n-ブチル基でもよく、sec-ブチル基でもよい。アルキル基がヘキシル基である場合、ヘキシル基は、t-ヘキシル基でもよく、n-ヘキシル基でもよく、sec-ヘキシル基でもよい。アルキル基がオクチル基である場合、オクチル基は例えばt-オクチル基でもよい。アルキル基がメチル基又はt-ブチル基であれば特に好ましい。この場合、化合物(A31)が分子量が小さく低粘度であるという利点がある。
【0062】
式(10)において、シクロヘキサン環の4位のみに、アルキル基又は-R12-OHが接続していることが好ましい。すなわち、R1からR11のうち、R6及びR7の少なくとも一方がアルキル基又は-R12-OHであり、残りの各々がHであることが、好ましい。R1からR11のうち、R6のみがアルキル基又は-R12-OHであり、残りの各々がHであることが、特に好ましい。この場合、式(10)に示す化合物は、良好な反応性を有することができ、かつ封止材5に無機材料製の部材との密着性を特に付与しやすい。これは、式(10)に示す化合物におけるシクロヘキサン環がボート型の立体配座を有し、かつ4位にある嵩高いアルキル基又は-R12-OHが擬エクアトリアル位に位置しやすいためであると、考えられる。式(10)に示す化合物がこのような構造を有することで、式(10)に示す化合物における(メタ)アクリロイル基の反応性が高められると考えられる。また、式(10)に示す化合物がこのような構造を有すると、式(10)に示す化合物は、封止材5中の自由体積を大きくしうる。そのため封止材5と無機材料製の部材との間の界面自由エネルギーが小さくなりやすく、そのため封止材5と無機材料製の部材との密着性が高くなりやすいと、考えられる。アルキル基又は-R12-OHが嵩高いほど、アルキル基又は-R12-OHが擬エクアトリアル位に位置しやすくなる。この観点からすると、アルキル基又は-R12-OHの炭素数が多いほど好ましく、またアルキル基又は-R12-OHが分岐を有していることが好ましい。例えばアルキル基又は-R12-OHがt-ブチル基であることが好ましい。
【0063】
式(10)において、シクロヘキサン環の3位及び5位の各々のみに、アルキル基又は-R12-OHが接続していることも好ましい。すなわち、R1からR11のうち、R4及びR5の少なくとも一方がアルキル基又は-R12-OHであり、R8及びR9の少なくとも一方がアルキル基又は-R12-OHであり、残りの各々がHであることが、好ましい。R1からR11のうち、R4及びR5の一方のみがアルキル基又は-R12-OHであり、R8及びR9の少なくとも一方がアルキル基又は-R12-OHであり、残りの各々がHであることが、より好ましい。R1からR11のうち、R4及びR5の少なくとも一方がアルキル基又は-R12-OHであり、R8及びR9の一方のみがアルキル基又は-R12-OHであり、残りの各々がHであることも、より好ましい。この場合も、式(10)に示す化合物は、良好な反応性を有することができ、かつ封止材5に無機材料製の部材との密着性を特に付与しやすい。これは、式(10)に示す化合物におけるシクロヘキサン環がボート型の立体配座を有し、かつ3位と5位の各々における嵩高いアルキル基又は-R12-OHが擬エクアトリアル位に位置しやすいためであると、考えられる。このために、シクロヘキサン環の4位のみにアルキル基又は-R12-OHが接続している場合と同様に、式(10)に示す化合物における(メタ)アクリロイル基の反応性が高められ、かつ封止材5と無機材料製の部材との密着性が高くなりやすいと、考えられる。アルキル基又は-R12-OHが嵩高いほど、アルキル基又は-R12-OHが擬エクアトリアル位に位置しやすくなる。この観点からすると、アルキル基又は-R12-OHの炭素数が多いほど好ましく、またアルキル基又は-R12-OHが分岐を有していることが好ましい。例えばアルキル基又は-R12-OHがt-ブチル基であることが好ましい。
【0064】
1からR11のうち少なくとも一つが-R12-OHである場合、R12の炭素数は1以上5以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。R12は、例えばメチレン基、エチレン基又はプロピレン基である。R12がメチレン基であれば特に好ましい。この場合、化合物(A31)が分子量が小さく低粘度であるという利点がある。
【0065】
式(10)において、R1からR11の各々がH又はアルキル基であり、かつR1からR11のうち少なくとも一つがアルキル基であれば、特に好ましい。この場合、式(10)に示す化合物は、特に低い粘度を有することができ、そのため組成物(X)が特に低い粘度を有することができる。そのため、組成物(X)をインクジェット法で特に成形しやすくなる。
【0066】
化合物(A31)は、下記式(11)に示す化合物、下記式(12)に示す化合物及び下記式(13)に示す化合物からなる群から選択される、少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0067】
【化2】
【0068】
単官能アクリル化合物(A3)が、式(11)に示す化合物と式(12)に示す化合物とのうち少なくとも一方を含有すれば、特に好ましい。この場合、組成物(X)を特に低粘度化しやすく、封止材5のガラス転移温度を特に高めやすく、更に封止材5と無機材料製の部材との密着性を特に高めやすい。また、式(11)に示す化合物及び式(12)に示す化合物は、揮発しにくいため、組成物(X)の保存安定性を向上させやすい。
【0069】
単官能アクリル化合物(A3)は、環状エーテル構造を有する化合物を含有することも好ましい。環状エーテル構造を有する化合物における環状エーテル構造の環員数は3以上が好ましく、3以上4以下がより好ましい。環状エーテル構造に含まれる炭素原子数は、2以上9以下が好ましく、2以上6以下がより好ましい。環状エーテル構造を有する化合物は、例えば3-メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド及び3-アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0070】
単官能アクリル化合物(A3)は、25℃での粘度が20mPa・s以下である少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)が低粘度化しうる。
【0071】
単官能アクリル化合物(A3)は、80℃以上のガラス転移温度を有する少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は高いガラス転移温度を有しうる。単官能アクリル化合物(A3)は、90℃以上のガラス転移温度を有する少なくとも一種の化合物を含有すればより好ましく、100℃以上のガラス転移温度を有する少なくとも一種の化合物を含有すれば更に好ましい。
【0072】
単官能アクリル化合物(A3)は、沸点が200℃以上である少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。この場合、単官能アクリル化合物(A3)は、組成物(X)の保存安定性を低下させにくい。単官能アクリル化合物(A3)は、沸点が250℃以上である少なくとも一種の化合物を含有すれば、更に好ましい。
【0073】
単官能アクリル化合物(A3)が、25℃での粘度が20mPa・s以下であり、かつ80℃以上のガラス転移温度を有する少なくとも一種の化合物を含有すれば、特に好ましい。単官能アクリル化合物(A3)が、25℃での粘度が20mPa・s以下であり、かつ沸点が200℃以上である少なくとも一種の化合物を含有することも、好ましい。単官能アクリル化合物(A3)が、80℃以上のガラス転移温度を有し、かつ沸点が200℃以上である少なくとも一種の化合物を含有することも、好ましい。単官能アクリル化合物(A3)が、25℃での粘度が20mPa・s以下であり、80℃以上のガラス転移温度を有し、かつ沸点が200℃以上である少なくとも一種の化合物を含有すれば、特に好ましい。
【0074】
特に単官能アクリル化合物(A3)は、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及び4-ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及び4-ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートは、高いガラス転移温度、低い粘度及び高い沸点を有するため、組成物(X)、硬化剤及び封止材5の特性を特に高めることができる。
【0075】
アクリル化合物(A)は、分子骨格中にケイ素を有する化合物(A41)、分子骨格中にリンを有する化合物(A42)、及び分子骨格中に窒素を有する化合物(A43)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を更に含有することが好ましい。この場合、硬化物及び封止材5と無機材料製の部材との間の密着性が向上する。このため、封止材5とパッシベーション層6との間に隙間が生じにくく、この隙間を通じた有機EL素子4への水分の侵入が起こりにくい。
【0076】
なお、化合物(A41)、化合物(A42)及び化合物(A43)は分子骨格中にある原子の種類で規定されている。そのため、多官能アクリル化合物(A2)及び単官能アクリル化合物(A3)の各々に含まれる化合物と、化合物(A41)、化合物(A42)及び化合物(A43)の各々に含まれる化合物とは、重複しうる。
【0077】
化合物(A41)は、例えばアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(例えば信越化学工業社製の品番KBM5103)及び(メタ)アクリル基含有アルコキシシランオリゴマー(例えば信越化学工業社製の品番KR-513)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。ただし、アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルの沸点は260℃であるため、アクリル化合物(A)がアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを含有する場合、アクリル化合物(A)に対するアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルの百分比は10質量%以下である必要がある。
【0078】
化合物(A42)は、例えばアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートといった、アシッドホスホキシ(メタ)アクリレートを含む。
【0079】
化合物(A43)は、例えばアクリロイルモルホリン、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及びペンタメチルピペリジルメタクリレ-トからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0080】
アクリル化合物(A)が化合物(A41)、化合物(A42)及び化合物(A43)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する場合、アクリル化合物(A)に対する化合物(A41)、化合物(A42)及び化合物(A43)の合計量の百分比は、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であれば更に好ましい。
【0081】
組成物(X)は、アクリル化合物(A)以外のラジカル重合性化合物(E)を更に含有してもよい。ラジカル重合性化合物(E)は、一分子に二つ以上のラジカル重合性官能基を有する多官能ラジカル重合性化合物(E1)と、一分子に一つのみのラジカル重合性官能基を有する単官能ラジカル重合性化合物(E2)とのうち、いずれか一方又は両方を含有できる。アクリル化合物(A)とラジカル重合性化合物(E)との合計量に対するラジカル重合性化合物(E)の量は、例えば10質量%以下である。多官能ラジカル重合性化合物(E1)は、例えば一分子中にエチレン性二重結合を2つ以上有する芳香族ウレタンオリゴマー、脂肪族ウレタンオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー及びその他特殊オリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。単官能ラジカル重合性化合物(E2)は、例えばN-ビニルホルムアミド、ビニルカプロラクタム、ビニルピロリドン、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2-ブチレンオキサイド、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2-エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3-ビニルシクロヘキセンオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンオキサイド、N-ビニルピロリドン及びN-ビニルカプロラクタムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0082】
光重合開始剤(B)は、紫外線が照射されるとラジカル種を生じさせる化合物であれば、特に制限されない。光重合開始剤(B)は、例えば芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。組成物(X)100質量部に対する光重合開始剤(B)の量は、例えば1重量部以上10質量部以下である。
【0083】
光重合開始剤(B)は、この光重合開始剤(B)の一部として増感剤を含有してもよい。増感剤は、光重合開始剤(B)のラジカル生成反応を促進させて、ラジカル重合の反応性を向上させ、かつ架橋密度を向上させうる。増感剤は、例えば9,10-ジブトキシアントラセン、9-ヒドロキシメチルアントラセン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、アントラキノン、1,2-ジヒドロキシアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1,4-ジエトキシナフタレン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノベンゾフェノン、p-ジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、及びp-ジエチルアミノベンズアルデヒドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
【0084】
組成物(X)中の増感剤の含有量は、例えば組成物(X)の固形分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。増感剤の含有量がこのような範囲であれば、空気中で組成物(X)を硬化させることができ、組成物(X)の硬化を窒素雰囲気等の不活性雰囲気下で行う必要がなくなる。
【0085】
組成物(X)は、光重合開始剤(B)に加えて、重合促進剤を含有してもよい。重合促進剤は、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸-2-エチルヘキシル、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、安息香酸-2-ジメチルアミノエチル、p-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルといったアミン化合物を含有する。
【0086】
組成物(X)は吸湿剤(D)を更に含有してもよい。組成物(X)が吸湿剤(D)を含有すると、組成物(X)の硬化物及び封止材5は吸湿性を有することができる。このため、封止材5は、有機EL発光装置1における有機EL素子4へ水分が更に侵入しにくくできる。吸湿剤(D)の平均粒径は200nm以下であることが好ましい。この場合、硬化物は高い透明性を有することができる。
【0087】
吸湿剤(D)は、吸湿性を有する無機粒子であることが好ましく、例えばゼオライト粒子、シリカゲル粒子、塩化カルシウム粒子、及び酸化チタンナノチューブ粒子からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。吸湿剤(D)がゼオライト粒子を含有することが特に好ましい。
【0088】
平均粒径200nm以下のゼオライト粒子は、例えば一般的な工業用ゼオライトを粉砕することで製造できる。ゼオライト粒子を製造するに当たって、ゼオライトを粉砕してから水熱合成などによって結晶化させてもよく、この場合、ゼオライト粒子は特に高い吸湿性を有することができる。このようなゼオライト粒子の製造方法の例は、特開2016-69266号公報、特開2013-049602号公報などに開示されている。
【0089】
組成物(X)が吸湿剤(D)を含有する場合、組成物(X)の全量に対する吸湿剤(D)の割合は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。吸湿剤(D)の割合が1質量%以上であれば硬化物は特に高い吸湿性を有することができる。また、吸湿剤(D)の割合が20質量%以下であれば組成物(X)の粘度を特に低減でき、組成物(X)がインクジェット法で塗布可能な程度の十分な低粘度を有することもできる。吸湿剤(D)の割合は、3質量%以上であれば更に好ましく、5質量%以上であれば特に好ましい。また、吸湿剤(D)の割合は、15質量%以下であればより好ましく、13質量%以下であれば特に好ましい。
【0090】
組成物(X)が吸湿剤(D)を含有する場合、組成物(X)は更に分散剤(E)を含有することが好ましい。この場合、分散剤(E)は組成物(X)中での吸湿剤(D)の分散性を向上できる。このため、組成物(X)には、吸湿剤(D)による粘度の増大と保存安定性の低下とが生じにくい。
【0091】
なお、分散剤(E)は、粒子に吸着しうる界面活性剤である。分散剤(E)は、粒子に吸着されうる吸着基(一般にアンカーともいう)と、吸着基が粒子に吸着することでこの粒子に付着する分子骨格(一般にテールともいう)とを、有する。分散剤(E)は、例えばテールがアクリル系の分子鎖であるアクリル系分散剤と、テールがウレタン系の分子鎖であるウレタン系分散剤と、テールがポリエステル系の分子鎖であるポリエステル系分散剤とからなら群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。吸着基は、例えば塩基性の極性官能基と酸性の極性官能基とのうち少なくとも一方を含む。塩基性の極性官能基は、例えばアミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、及び含窒素複素環基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。酸性の極性官能基は、例えばカルボキシル基とリン酸基とからなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。分散剤(E)は、例えば日本ルーブルリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDISPERBYKシリーズ及び味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーシリーズからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
【0092】
組成物(X)が吸湿剤(D)を含有する場合、吸湿剤(D)に対する分散剤(E)の量は、5質量部以上60質量部以下であることが好ましい。分散剤(E)の量が5質量部以上であることで分散剤(E)の機能が効果的に発現でき、また60質量部以下であることで封止材5中の分散剤(E)の遊離の分子が封止材5と無機材料製の部材との間の密着性を阻害することを抑制できる。また、分散剤(D)の量は15質量部以上であればより好ましく、50質量部以下であることもより好ましく、40質量部以下であればより更に好ましく、30質量部以下であれば特に好ましい。
【0093】
組成物(X)は、溶剤を含有しないことが好ましい。この場合、組成物(X)から硬化物を作製する際に組成物(X)を乾燥させて溶剤を揮発させるような必要がなくなる。また、組成物(X)の保存安定性が更に高くなる。
【0094】
上述の成分を混合することで、組成物(X)を調製できる。組成物(X)は25℃で液状であることが好ましい。
【0095】
3.封止材の作製方法及び有機EL発光装置の製造方法
組成物(X)を用いる封止材5の作製方法及び有機EL発光装置1の製造方法について説明する。
【0096】
本実施形態では、組成物(X)をインクジェット法で成形してから、組成物(X)に紫外線を照射して硬化することで、封止材5を作製することが好ましい。本実施形態では、インクジェット法で組成物(X)を塗布して成形することが可能である。
【0097】
組成物(X)をインクジェット法で塗布するに当たっては、組成物(X)が常温で十分に低い粘度を有する場合、例えば25℃における粘度が30mPa・s以下、特に15mPa・s以下である場合には、組成物(X)を加熱せずにインクジェット法で塗布することで成形できる。
【0098】
組成物(X)が加熱されることで低粘度化する性質を有する場合、組成物(X)を加熱してから組成物(X)をインクジェット法で塗布して成形してもよい。組成物(X)の40℃における粘度が30mPa・s以下、特に15mPa・s以下である場合、組成物(X)を僅かに加熱しただけで低粘度化させることができ、この低粘度化した組成物(X)をインクジェット法で吐出することができる。組成物(X)の加熱温度は、例えば20℃以上50℃以下である。
【0099】
より具体的には、例えばまず、支持基板2を準備する。この支持基板2の一面上に隔壁7を、例えば感光性の樹脂材料を用いてフォトリソグラフィ法で作製する。続いて、支持基板2の一面上に複数の有機EL素子4を設ける。有機EL素子4は、蒸着法、塗布法といった適宜の方法で作製できる。特に有機EL素子4を、インクジェット法といった塗布法で作製することが好ましい。これにより、支持基板2に素子アレイ9を作製する。
【0100】
次に、素子アレイ9の上に第一パッシベーション層61を設ける。第一パッシベーション層61は、例えばプラズマCVD法といった蒸着法で作製できる。
【0101】
次に、第一パッシベーション層61の上に組成物(X)を、例えばインクジェット法で成形して、塗膜を作製する。有機EL素子4の形成と組成物(X)の塗布のいずれにもインクジェット法を適用すれば、有機EL発光装置1の製造効率を特に向上できる。続いて、塗膜に紫外線を照射することで硬化させて、封止材5を作製する。封止材5の厚みは例えば5μm以上50μm以下である。
【0102】
次に、封止材5の上に第二パッシベーション層62を設ける。第二パッシベーション層62は、例えばプラズマCVD法といった蒸着法で作製できる。
【0103】
次に、支持基板2の一面上に、第二パッシベーション層62を覆うように、紫外線硬化性の樹脂材料を設けてから、この樹脂材料に透明基板3を重ねる。透明基板3は、例えばガラス製基板又は透明樹脂製基板である。
【0104】
次に外部から透明基板3へ向けて紫外線を照射する。紫外線は透明基板3を透過して紫外線硬化性の樹脂材料へ到達する。これにより、紫外線硬化性の樹脂材料が硬化し、第二封止材52が作製される。
【実施例
【0105】
1.組成物の調製
下記表に示す成分を混合することで、実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0106】
なお、表中に示される成分の詳細は次のとおりである。また、下記の各成分の粘度はレオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用し、温度25℃、せん断速度1000s-1の条件で測定された値である。
【0107】
(1)アクリル化合物
・KBM5103:ケイ素原子を有する単官能のアクリル化合物であるアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、信越化学工業社製の品番KBM5103、粘度4mPa・s、屈折率1.427、沸点260℃℃。
・KR513:ケイ素原子を有する3官能以上のアクリル化合物であるアクリル基含有アルコキシシランオリゴマー、粘度50mPa・s、屈折率1.427、沸点300℃以上。
・ライトエステルP-2M:2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、共栄社化学株式会社製、品名ライトエステルP-2M、粘度800mPa・s、屈折率1.4673、沸点300℃以上。
・ACMO:アクリロイルモルホリン、KJケミカル製、粘度12mPa・s、ガラス転移温度145℃。
・3PG:二官能のアクリル化合物であるトリス(プロピレングリコール)ジメタクリレート、新中村化学工業社製、品番3PG、粘度13mPa・s、ガラス転移温度-8℃、屈折率1.450、沸点400℃。
・APG200:二官能のアクリル化合物であるトリス(プロピレングリコール)ジアクリレート、新中村化学工業社製、粘度12mPa・s、ガラス転移温度55~62℃、屈折率1.449、沸点295℃。
・SR297:二官能のアクリル化合物である1,3ブチレングリコールジメタクリレート、サートマー社製、品番SR297、粘度7mPa・s、ガラス転移温度85℃、屈折率1.449、沸点290℃。
・EBECRYL145:二官能のアクリル化合物であるプロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、ダイセルオルネクス社製、品番EBECRYL145、粘度20mPa・s、ガラス転移温度60℃、屈折率1.459、沸点408℃。
・BD:二官能のアクリル化合物である1,4-ブタンジオールジメタクリレート、新中村化学工業社製、粘度7mPa・s、ガラス転移温度55℃、屈折率1.456、沸点280℃。
・SR351S:三官能のアクリル化合物であるトリメチロールプロパントリアクリレート、粘度106mPa・s、ガラス転移温度62℃、屈折率1.472、沸点300℃以上、サートマー社製、品番SR351S。
・SR350NS:三官能のアクリル化合物であるトリメチロールプロパントリメタクリレート、粘度44mPa・s、ガラス転移温度27℃、屈折率1.470、沸点300℃以上、サートマー社製、品番SR350NS。
・SR295NS:四官能のアクリル化合物であるペンタエリスリトールテトラアクリレート、粘度342mPa・s、ガラス転移温度103℃、屈折率1.485、沸点300℃以上、サートマー社製、品番SR295NS。
・SR210NS:ポリエチレングリコール200ジメタクリレート、粘度15mPa・s、ガラス転移温度-9℃、屈折率1.460、沸点350℃、サートマー社製、品番SR210NS。
・VEEA:二官能のラジカル重合性化合物であるアクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、粘度4mPa・s、ガラス転移温度40℃、沸点260℃、日本触媒製。
・IBXA:単官能のアクリル化合物であるイソボルニルアクリレート、ガラス転移温度97℃、粘度8mPa・s、沸点260℃、大阪有機化学社製。
・FA-513AS:単官能のアクリル化合物であるジシクロペンタニルアクリレート、ガラス転移温度120、粘度13mPa・s、沸点275℃、日立化成社製、品番FA-513AS。
【0108】
(2)光重合開始剤
・Irgacure184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、BASF社製、品名Irgacure184。
・IrgacureTPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、BASF社製、品名IrgacureTPO。
【0109】
2.評価試験
実施例及び比較例について、次の評価試験を実施した。その結果を表に示す。
【0110】
(1)透過率
組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約50mW/cm2の条件で30秒間紫外線照射して光硬化させることで、厚み10μmのフィルムを作製した。このフィルムの、JIS K7361-1による全光線透過率を測定した。
【0111】
(2)吸湿後密着性
二つの石英ガラス片(寸法76mm×52mm×1mm)の各々の表面上にプラズマCVD法により厚み1μmの窒化ケイ素膜を作製して、二つの基板を得た。一方の基板の窒化ケイ素膜の表面上に、組成物を塗布して厚み200μmの塗膜を形成し、この塗膜の上に他方の基板の窒化ケイ素膜を重ねた。続いて、塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約50mW/cm2の条件で30秒間紫外線照射することで、硬化させた。これにより、試験片を得た。
【0112】
この試験片を、85℃、85RHの雰囲気に曝露してから、塗膜と窒化ケイ素膜との界面の様子を顕微鏡で確認した。その結果を下記のように評価した。なお、この試験においては、塗膜と窒化ケイ素膜との密着性が高く、かつ塗膜が吸湿しにくいほど、塗膜は窒化ケイ素膜から剥離しにくい。
A:前記雰囲気に96時間曝露しても塗膜の5割以上の面積の部分が窒化ケイ素膜と密着していた。
B:前記雰囲気に48時間曝露しても塗膜の5割以上の面積の部分が窒化ケイ素膜から剥離せず、96時間曝露したら塗膜の5割以上の面積の部分が窒化ケイ素膜から剥離していた。
C:前記雰囲気に24時間曝露しても塗膜の5割以上の面積の部分は窒化ケイ素膜から剥離せず、48時間曝露したら塗膜の5割以上の面積の部分が窒化ケイ素膜から剥離していた。
D:前記雰囲気に24時間曝露したら塗膜の5割以上の面積の部分が窒化ケイ素膜から剥離していた。
【0113】
(3)揮発性
組成物を20℃のアルゴン雰囲気(露点温度-70℃)中に24時間静置した。これにより生じる組成物の重量減少の割合を測定した。重量減少量が0.5%以下の場合を「A」、0.5~1%の場合を「B」、1%以上の場合を「C」と評価した。
【0114】
(4)粘度
組成物の粘度を、レオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用して、温度25℃、せん断速度1000s-1の条件で測定した。
【0115】
(5)インクジェット性
組成物をインクジェットプリンター(リコー製、形式MH2420)のカートリッジに入れ、インクジェットプリンターにおけるノズルからカートリッジ内の組成物を吐出しうることを確認してから、ノズルから組成物を吐出させてテストパターンを連続で印刷した。その結果、組成物を1時間吐出できるとともに吐出動作が安定していた場合を「A」、組成物を1時間吐出できたが吐出動作が断続的に不安定になった場合を「B」、吐出開始から1時間経過前にノズルが詰まって組成物を吐出できなくなった場合を「C」と、評価した。
【0116】
(6)ガラス転移温度
組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約50mW/cm2の条件で30秒間、厚み200μmのフィルムを作製した。このフィルムから切り出したサンプルのガラス転移温度を、粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番DMA7100)を用いて測定した。
【0117】
(7)アウトガス評価
組成物の硬化物を加熱した場合のアウトガスをヘッドスペース法でサンプリングしてガスクロマトグラフにより測定した。ヘッドスペース用バイアルに組成物を100mg入れ、組成物に、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて紫外線を積算光量1500mJ/cm2の条件で照射して組成物を硬化させた後、バイアルを封止し、80℃で30分間加熱してから、バイアル中の気相部分をガスクロマトグラフに導入して分析した。その結果、発生したガスが300ppm以下であった場合を「A」、300ppmを超え500ppm未満であった場合を「B」、500ppm以上であった場合を「C」と評価した。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
図1
図2