(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】プリプレグ、並びに、それを用いた金属張積層板及び配線基板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20230519BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
(21)【出願番号】P 2019545666
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036187
(87)【国際公開番号】W WO2019065942
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2017190993
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰範
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘明
(72)【発明者】
【氏名】北井 佑季
(72)【発明者】
【氏名】小関 高好
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹男
(72)【発明者】
【氏名】幸田 征士
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-207753(JP,A)
【文献】特開2015-063608(JP,A)
【文献】特開2017-124551(JP,A)
【文献】特開平04-171796(JP,A)
【文献】特開2010-111758(JP,A)
【文献】特開2016-147986(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166788(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107201037(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
H05K 1/03
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを有するプリプレグであって、
その硬化物における、10GHzでの誘電正接が0.002以下であり、
前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む熱硬化性樹脂と、(B)表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤と、(C)
前記第1の無機充填剤以外の第2の無機充填剤とを含み、
前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対し、前記(B)第1の無機充填剤の含有量が0.1質量部以上15質量部以下であり、かつ、前記(C)第2の無機充填剤の含有量が200質量部以下であり、
前記繊維質基材が、石英ガラスヤーンを含むガラスクロスを含有する、プリプレグ。
【請求項2】
前記(A)熱硬化性樹脂がさらに架橋剤を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記(B)第1の無機充填剤において、前記モリブデン化合物が、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上の金属塩からなる化合物である、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記(C)第2の無機充填剤の含有量が、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対し、50質量部以上である、請求項1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記(C)第2の無機充填剤が、球状シリカ、硫酸バリウム、酸化ケイ素粉、破砕シリカ、焼成タルク、チタン酸バリウム、酸化チタン、クレー、アルミナ、マイカ、ベーマイト、ホウ酸亜鉛、及びスズ酸亜鉛から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを有する、金属張積層板。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを有する、配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、並びに、それを用いた金属張積層板及び配線基板等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器は信号の大容量化が進展しているため、半導体基板などには、高速通信に必要とされる低誘電率や低誘電正接といった誘電特性が求められる。また、更なる長距離伝送を可能にするための電気特性の改善も要望されている。
【0003】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接等の誘電特性が優れ、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても誘電特性が優れていることが知られている。このため、ポリフェニレンエーテルは、例えば、高周波用成形材料として用いられることが検討されている。より具体的には、高周波数帯を利用する電子機器に備えられるプリント配線板の基材を構成するための基板材料等として用いられることが検討されている。
【0004】
一方で、電気特性の改善を目的として様々な研究がなされている中、石英ガラスの使用が有効な手段として検討されている。この石英ガラス(Qガラス、クオーツとも称される)と前記ポリフェニレンエーテル樹脂を組み合わせたプリプレグも報告されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、基板材料向けに石英ガラスを含む基材(ガラスクロス)を使用することで、低誘電特性や低熱膨張等の特性を付与することが期待される一方で、SiO2の持つ高い硬度のために石英ガラスは非常に脆いという難点があり、基板加工時において大きな課題がある。そのため、現在まで実用化には至っていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公報WO2012/128313号パンフレット
【発明の概要】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、誘電特性等の優れた電気特性を有する一方で、基板加工時の加工性にも優れるプリプレグを提供することを目的とする。また、前記プリプレグを用いた金属張積層板及び配線基板を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ね、下記構成によって上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の一態様に係るプリプレグは、熱硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを有するプリプレグであって、前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む熱硬化性樹脂と、(B)表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤と、(C)第2の無機充填剤とを含み、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対し、前記(B)第1の無機充填剤の含有量が0.1質量部以上15質量部以下であり、かつ、前記(C)第2の無機充填剤の含有量が200質量部以下であり、前記繊維質基材が、石英ガラスヤーンを含むガラスクロスであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るプリプレグの構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の構成を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る配線基板の構成を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施例で行ったドリル加工性評価試験を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様に係るプリプレグは、熱硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを有するプリプレグであって、前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む熱硬化性樹脂と、(B)表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤と、(C)第2の無機充填剤とを含み、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対し、前記(B)第1の無機充填剤の含有量が0.1質量部以上15質量部以下であり、かつ、前記(C)第2の無機充填剤の含有量が200質量部以下であり、前記繊維質基材が、石英ガラスヤーンを含むガラスクロスであることを特徴とする。
【0012】
このような構成を有する本実施形態のプリプレグは、優れた誘電特性、耐熱性、成形性を有し、さらに、基板加工時におけるドリル加工性などの加工性にも優れる。
【0013】
以下、本実施形態に係るプリプレグの各構成について、具体的に説明する。
【0014】
<(A)熱硬化性樹脂>
本実施形態で用いる熱硬化性樹脂組成物は、(A)変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む熱硬化性樹脂を含有する。本実施形態で使用する変性ポリフェニレンエーテル化合物は、末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物であればよく、例えば、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有し、後述するような置換基Xにより末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。具体的には、例えば、下記式(1)または(2)で表される変性ポリフェニレンエーテルである。
【0015】
【0016】
【0017】
式(1)及び式(2)において、m及びnは、例えば、mとnとの合計値が、1~30となるものであることが好ましい。また、mが、0~20であることが好ましく、nが、0~20であることが好ましい。すなわち、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことが好ましい。
【0018】
また、式(1)及び式(2)において、R1~R8並びにR9~R16は、それぞれ独立している。すなわち、R1~R8並びにR9~R16は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R1~R8並びにR9~R16は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0019】
R1~R8並びにR9~R16はにおいて、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0020】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0021】
また、アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0022】
また、アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0023】
また、アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0024】
また、アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0025】
また、アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0026】
次に、式(1)および式(2)中、Yとしては、炭素数20以下の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素が挙げられる。より具体的には、例えば、下記式(3)で表される基等が挙げられる。
【0027】
【0028】
前記式(3)中、R17及びR18は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(3)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられる。
【0029】
さらに、前記式(1)および(2)中、Xで示される置換基は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基であることが好ましい。
【0030】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定されない。例えば、前記置換基Xとしては、下記式(4)で表される置換基等が挙げられる。
【0031】
【0032】
式(4)中、sは、0~10を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R19~R21は、それぞれ独立している。すなわち、R19~R21は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R19~R21は、水素原子またはアルキル基を示す。
【0033】
なお、式(4)において、sが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合しているものを示す。
【0034】
このアリーレン基は、特に限定されない。具体的には、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子がアルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0035】
また、前記置換基Xとしては、より具体的には、p-エテニルベンジル基やm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0036】
上記式(4)に示す置換基Xの好ましい具体例としては、ビニルベンジル基を含む官能基が挙げられる。具体的には、下記式(5)又は式(6)から選択される少なくとも1つの置換基等が挙げられる。
【0037】
【0038】
【0039】
上記以外にも、本実施形態で用いる変性ポリフェニレンエーテルにおいて末端変性される、炭素-炭素不飽和二重結合を有する他の置換基Xとしては、(メタ)アクリレート基が挙げられ、例えば、下記式(7)で示される。
【0040】
【0041】
式(7)中、R22は、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0042】
また、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物におけるポリフェニレンエーテル鎖としては、上記式(1)及び(2)で示した繰り返し単位以外にも、例えば、下記式(8)で表される繰り返し単位を分子中に有していてもよい。
【0043】
【0044】
式(8)中、pは、1~50を示し、式(1)又は式(2)のmとnとの合計値に相当し、1~30であることが好ましい。また、R23~R26は、それぞれ独立している。すなわち、R23~R26は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R23~R26は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。また、R23~R26において、挙げられた各基としては、具体的には、R1~R8において、挙げられた各基と同様である。
【0045】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0046】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量となっているため、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を以上有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、成形性にも優れると考えられる。よって、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0047】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテルを用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0048】
なお、変性ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、変性ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数は、変性ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0049】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであればよいが、0.04~0.11dl/gであることが好ましく、0.06~0.095dl/gであることがより好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0050】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0051】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述したような置換基Xにより末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。例えば、ポリフェニレンエーテルに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とは、前記式(4)~(7)で表される置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、具体的には、p-クロロメチルスチレンやm-クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0052】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテルを合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0053】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法の一例として、具体的には、例えば、上記のようなポリフェニレンエーテルと、式(4)で表される化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、式(4)で表される化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテルが得られる。
【0054】
また、この反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と式(4)で表される化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、置換基Xが、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0055】
また、アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0056】
また、反応時間や反応温度等の反応条件は、式(4)で表される化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0057】
また、反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、式(4)で表される化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、式(4)で表される化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0058】
また、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0059】
また、相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係る樹脂組成物には、変性ポリフェニレンエーテルとして、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテルを含むことが好ましい。
【0061】
なお、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物には、上述したような変性ポリフェニレンエーテル化合物以外の熱硬化性樹脂を含めてもよい。例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が使用可能なその他熱硬化性樹脂として挙げられる。
【0062】
好ましい実施形態では、熱硬化性樹脂は、変性ポリフェニレンエーテルと架橋剤とを含む樹脂であることが望ましい。それにより、より優れた耐熱性、電気特性等が得られると考えられる。
【0063】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に使用できる架橋剤としては、変性ポリフェニレンエーテル化合物と反応させることによって、架橋を形成させて、硬化させることができるものであれば特に限定されない。好ましくは、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有する架橋剤であり、さらに炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物が好ましい。
【0064】
また、本実施形態において用いられる架橋剤は、重量平均分子量が100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。架橋剤の重量平均分子量が低すぎると、架橋剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、架橋剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、架橋剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、架橋を好適に形成することができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0065】
具体的には、本実施形態において用いられる架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等のように分子中にビニル基を2個以上有するビニル化合物(多官能ビニル化合物)、及び分子中にビニルベンジル基を有するスチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物等が挙げられる。この中でも、炭素-炭素二重結合を分子中に2個以上有するものが好ましい。具体的には、トリアルケニルイソシアヌレート化合物、多官能アクリレート化合物、多官能メタクリレート化合物、多官能ビニル化合物、及びジビニルベンゼン化合物等が挙げられる。これらを用いると、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。また、架橋剤は、例示した架橋剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、架橋剤としては、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物と、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物とを併用してもよい。炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物としては、具体的には、分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)等が挙げられる。
【0066】
また、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋剤との合計100質量部に対して、30~90質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましい。また、前記架橋剤の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋剤との合計100質量部に対して、10~70質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。すなわち、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋剤との含有比が、質量比で90:10~30:70であることが好ましく、90:10~50:50であることがより好ましい。前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋剤の各含有量が、上記範囲を満たすような含有量であれば、硬化物の耐熱性及び難燃性により優れた樹脂組成物になる。このことは、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
【0067】
<(B)第1の無機充填剤>
本実施形態において用いられる(B)成分、すなわち、表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤について説明する。
【0068】
なお、モリブデン化合物は従来より無機充填剤として使用できることが知られているが、本実施形態においては、第1の無機充填剤は、モリブデン以外の無機物の表面の一部または全体にモリブデン化合物が存在する無機充填材である。「表面に存在している」とは、無機充填剤の表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が担持されていたり、無機充填剤の表面の少なくとも一部がモリブデン化合物で被覆されている状態等をさす。
【0069】
本実施形態の樹脂組成物は、表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する前記第1の無機充填剤を、上述した熱硬化性樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上15質量部以下の含有量で含む。前記第1の無機充填剤をこのような含有量で含むことにより、電気特性や熱膨張係数に優れつつ、ドリル加工性といった基板加工時の加工性能に優れたプリプレグを提供することができる。さらにより優れた電気特性を得るという観点からは、前記第1の無機充填剤の配合量は0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
【0070】
本実施形態で使用し得るモリブデン化合物は、例えば、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上の金属塩からなる化合物粒子であることが好ましい。このようなモリブデン化合物を使用することによって、上述した効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0071】
第1の無機充填剤としては、表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在していれば特に限定なく様々なモリブデン化合物以外の無機充填剤を使用できる。中でも、加工性、耐熱性および耐薬品性という観点から、タルクを用いることが好ましい。
【0072】
第1の無機充填剤の表面に存在するモリブデン化合物の量は特に限定はされないが、第1の無機充填剤に対し、100:0.1~100:20程度の割合(質量比)で存在していることが好ましい。それにより、耐熱性を悪化させることなく加工性を改善することが可能になるという利点がある。
【0073】
<(C)第2の無機充填剤>
本実施形態の樹脂組成物は、上述した第1の無機充填剤以外に、第2の無機充填剤を、熱硬化性樹脂100質量部に対し、200質量部以下で含む。第2の無機充填剤の含有量が200質量部以下であれば、十分な成形性と加工性が得られると考えられる。
【0074】
第2の無機充填剤の含有量の下限値は特に限定されないが、好ましくは、熱硬化性樹脂100質量部に対し、50質量部以上である。それにより、樹脂組成物に対して電気特性および耐熱性の付与が可能となるためである。
【0075】
本実施形態で使用できる第2の無機充填剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、球状シリカ、硫酸バリウム、酸化ケイ素粉、破砕シリカ、焼成タルク、チタン酸バリウム、酸化チタン、クレー、アルミナ、マイカ、ベーマイト、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、その他の金属酸化物や金属水和物等が挙げられる。このような無機充填剤が樹脂組成物に含有されていると、本実施形態のプリプレグを用いた積層板等の熱膨張を抑制でき、寸法安定性を高めることができると考えられる。
【0076】
さらに、シリカを用いることが、積層板の耐熱性や誘電正接(Df)を良化させることができるという利点もあるため好ましい。
【0077】
上述したような無機充填剤は、シランカップリング剤等で表面処理がなされたものであってもよい。
【0078】
<その他の成分>
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物には、上記した成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含めることもできる。
【0079】
具体的には、有機過酸化物、アゾ化合物、ジハロゲン化合物などから選択される反応開始剤や、難燃剤、樹脂改質剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0080】
ポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、変性ポリフェニレンエーテル化合物と架橋型硬化剤とからなるものであっても、硬化反応は進行し得る。また、変性ポリフェニレンエーテルのみであっても、硬化反応は進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。反応開始剤は、変性ポリフェニレンエーテルと架橋型硬化剤との硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン,過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩等を併用することができる。そうすることによって、硬化反応を一層促進させるができる。これらの中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、反応開始剤を用いる場合、好ましくは、熱硬化性樹脂である(A)末端変性ポリフェニレンエーテル化合物100質量部に対する添加量が0.1~2質量部となるように、反応開始剤を用いる。
【0081】
なお、本実施形態において上述した「含有量」とは、樹脂組成物を調整する際に各成分を配合するときの含有量や、ワニス状態での含有量をさす。
【0082】
<プリプレグ>
次に、本実施形態のプリプレグについて説明する。
【0083】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。なお、図面中の各符号は以下を示す:1 プリプレグ、2 樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物、3 繊維質基材、11 金属張積層板、12 絶縁層、13 金属箔、14 配線、15 ドリルビット、16 エントリーボード、21 配線基板。
【0084】
本実施形態に係るプリプレグ1は、
図1に示すように、前記熱硬化性樹脂組成物又は前記熱硬化性樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1としては、前記熱硬化性樹脂組成物又はその半硬化物2の中に繊維質基材3が存在するものが挙げられる。すなわち、このプリプレグ1は、前記熱硬化性樹脂組成物又はその半硬化物と、前記熱硬化性樹脂組成物又はその半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0085】
なお、本実施形態において、「半硬化物」とは、熱硬化性樹脂組成物を、さらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、溶融に伴い粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が徐々に上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0086】
本実施形態に係るプリプレグとしては、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、本実施形態に係るプリプレグとしては、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。
【0087】
本実施形態では、プリプレグを製造する際に用いられる繊維質基材として、石英ガラスヤーンを含むガラスクロスを使用する。本実施形態において、石英ガラスヤーンを含むガラスクロスとしては、例えば、QガラスやQLガラスなどが挙げられる。
【0088】
本実施形態において、石英ガラスヤーンとは、全体量に対してSiO2(二酸化ケイ素)が99.0質量%以上含まれているガラス(以下、「Qガラス」とも称す)のことをいう。
【0089】
このようなQガラスからなるガラスクロスを使用することによって、その硬化物において非常に優れた誘電特性(低誘電率、低誘電正接)を有するプリプレグを提供することができる。そして、Qガラスによって引き起こされる加工性の低下については、上述したような第1の無機充填剤を使用することによって抑制することができる。
【0090】
また、本実施形態においてQLガラスクロスとは、前記QガラスおよびLガラスで構成されるハイブリッド構成のガラスクロスである。なお、Lガラスとは、SiO2(二酸化ケイ素)50~60質量%程度と、B2O310~25質量%程度と、15質量%以下のCaOとを含むガラスクロスを意味する。通常、QLガラスは、経糸がLガラス、緯糸がQガラスで構成されている。このようなQLガラスを使用することによって、良好な低誘電特性とドリル加工性のバランスに優れたプリプレグを提供することができる。
【0091】
上記各ガラスクロスの比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)は以下の通りである:
・Qガラス Dk:3.3超~3.8以下、Df:0.0017以下
・QLガラス Dk:3.8超~4.3以下、Df:0.0023超~0.0033以下
・Lガラス Dk:4.2超~4.7以下、Df:0.0033超~0.0043以下
【0092】
なお、本実施形態における、上記各ガラスクロスの比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)は、以下の測定方法で求めた値である。まず、プリプレグ100質量%あたりの樹脂含量が60質量%となるように基板(銅張積層板)を作製し、作製した銅張積層板から銅箔を除去して、比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)の評価のための試料を得る。得られた試料の周波数10GHzにおけるDk及びDfを、ネットワーク・アナライザ(キーサイト・テクノロジー合同会社製のN5230A)を用いて、空洞共振器摂動法で測定した。得られた試料(プリプレグの硬化物)のDk及びDfの値から、ガラスクロスの体積分率及び基板作製に用いた樹脂組成物から、その樹脂組成物の硬化物を空洞共振器摂動法で測定した、10GHzにおけるDk及びDfをもとに、ガラスクロスのDk及びDfを算出する。
【0093】
本実施形態の繊維質基材は、表面処理されたガラスクロスであってもよく、表面処理剤としては、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基などの官能基を有するシランカップリング剤が好ましく使用できる。
【0094】
前記ガラスクロスは、開繊処理を施すことによって、通気度を調整したものがより好ましい。前記開繊処理としては、例えば、ガラスクロスに高圧水を吹き付けることで行う処理、及び、プレスロールにて適宜の圧力で連続的にヤーンを加圧して、偏平に圧縮することにより行う処理等が挙げられる。前記ガラスクロスの通気度は、200cm3/cm2/秒以下であることが好ましく、3~100cm3/cm2/秒であることがより好ましく、3~50cm3/cm2/秒であることがさらに好ましい。この通気度が大きすぎる場合、ガラスクロスの開繊が不充分な傾向がある。ガラスクロスの開繊が不充分であると、プリプレグ製造時にピンホールが発生したり、ヤーンの粗密が大きくなってスキューが発生しやすくなったり、ドリル等の加工時の均一性にむらが発生したりする。また、前記通気度が小さすぎる場合、それだけ強力な開繊処理が施されたということになり、ガラスクロスに毛羽立ち等の問題が発生する傾向がある。なお、前記通気度としては、JIS R 3420(2013)に準拠して、フラジール形通気性試験機で測定された通気度である。また、また、繊維質基材の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01~0.2mmであることが好ましく、0.02~0.15mmであることがより好ましく、0.03~0.1mmであることがさらに好ましい。
【0095】
前記プリプレグにおけるレジンコンテントは、特に限定されないが、例えば、40~90質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。前記レジンコンテントが低すぎると、低誘電特性が得られにくくなる傾向がある。また、前記レジンコンテントが高すぎると、熱膨張係数(CTE)が高くなったり、板厚精度が低下する傾向がある。なお、ここでのレジンコンテントは、プリプレグの質量に対する、プリプレグの質量から繊維質基材の質量を引いた分の質量の割合[=(プリプレグの質量-繊維質基材の質量)/プリプレグの質量×100]である。
【0096】
前記プリプレグの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.015~0.2mmであることが好ましく、0.02~0.15mmであることがより好ましく、0.03~0.13mmであることがさらに好ましい。前記プリプレグが薄すぎると、所望の基板厚みを得るために必要なプリプレグの枚数が多くなる。また、前記プリプレグが厚すぎると、レジンコンテントが低くなる傾向があり、所望の低誘電特性が得られにくくなる傾向がある。
【0097】
<プリプレグの製法>
次に、本実施形態のプリプレグを得る方法について説明する。
【0098】
プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0099】
まず、変性ポリフェニレンエーテル化合物、架橋剤、反応開始剤等の、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、有機溶媒に溶解しない成分、すなわち、無機充填剤等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、変性ポリフェニレンエーテル化合物、架橋剤、反応開始剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエン、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0100】
得られた樹脂ワニスを用いて本実施形態のプリプレグ1を製造する方法としては、例えば、得られた樹脂ワニス状に調製された熱硬化性樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0101】
樹脂ワニス(樹脂組成物2)の繊維質基材3への含浸は、浸漬及び塗布等によって行われる。この含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)及び樹脂量に調整することも可能である。
【0102】
樹脂ワニス(樹脂組成物2)が含浸された繊維質基材3を、所望の加熱条件、例えば、80℃以上、180℃以下で1分間以上、10分間以下で加熱される。加熱によって、ワニスから溶媒を揮発させ、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。
【0103】
<金属張積層板>
図2に示すように、本実施形態の金属張積層板11は、上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層12と、金属箔13とを有することを特徴とする。
【0104】
上記のようにして得られたプリプレグ1を用いて金属張積層板を作製する方法としては、プリプレグ1を一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができるものである。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みや樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170~220℃、圧力を1.5~5.0MPa、時間を60~150分間とすることができる。
【0105】
<配線基板>
図3に示すように、本実施形態の配線基板21は、上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層12と、配線14とを有する。
【0106】
そのような配線基板21の製造方法としては、例えば、上記で得られた金属張積層体11の表面の金属箔13をエッチング加工等して回路(配線)形成をすることによって、積層体の表面に回路として導体パターン(配線14)を設けた配線基板21を得ることができる。本実施形態の樹脂組成物を用いて得られる配線基板21は、誘電特性に優れ、半導体チップを接合したパッケージの形態にしても、実装しやすい上に品質にばらつきがなく、信号速度やインピーダンスにも優れている。さらに、本実施形態のプリプレグの硬化物は加工性に優れているため、加工時(エッチング、剥離など)に割れ等も生じにくく、成形性やハンドリング性に優れている。
【0107】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0108】
本発明の一態様に係るプリプレグは、熱硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを有するプリプレグであって、前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む熱硬化性樹脂と、(B)表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤と、(C)第2の無機充填剤とを含み、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対し、前記(B)第1の無機充填剤の含有量が0.1質量部以上15質量部以下であり、かつ、前記(C)第2の無機充填剤の含有量が200質量部以下であり、前記繊維質基材が、石英ガラスヤーンを含むガラスクロスであることを特徴とする。
【0109】
上記構成によって、誘電特性等の優れた電気特性を有する一方で、基板加工時の加工性にも優れるプリプレグを提供することができる。
【0110】
また、前記プリプレグにおいて、前記(A)熱硬化性樹脂がさらに架橋剤を含むことが好ましい。それにより、より電気特性に優れたプリプレグを確実に提供することができると考えられる。
【0111】
さらに、前記(B)第1の無機充填剤において、前記モリブデン化合物が、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上の金属塩からなる化合物粒子であることが好ましい。それにより、上述の効果をより確実に得ることができる。
【0112】
また、前記プリプレグにおいて、前記(C)第2の無機充填剤の含有量が、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対し、50質量部以上であることが好ましい。それにより、樹脂組成物に対して更なる電気特性と耐熱性を付与することができる。
【0113】
本発明のさらなる他の一態様に係る金属張積層板は、上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを有することを特徴とする。
【0114】
また、本発明のさらなる他の一態様に係る配線基板は、上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを有することを特徴とする。
【0115】
本発明のプリプレグ、金属張積層板、及び配線基板は、誘電特性、成形性、耐熱性及び加工性に優れているため、産業利用上非常に有用である。
【0116】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0117】
まず、本実施例において、熱硬化性樹脂組成物を調製する際に用いる成分について説明する。
【0118】
<A成分:熱硬化性樹脂>
(ポリフェニレンエーテル化合物)
・変性PPE-1:ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル(上記式(2)で表され、式(2)中のXがメタクリル基であり、式(2)の中のYがジメチルメチレン基(式(3)で表され、式(3)中のR17及びR18がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)
・変性PPE-2:ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレンとを反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0119】
具体的には、以下のように反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0120】
まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0121】
得られた固体を、1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにビニルベンジル基(エテニルベンジル基)に由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、前記置換基としてビニルベンジル基を分子中に有する変性ポリフェニレンエーテルであることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。この得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記式(2)で表され、式(2)中のXが、ビニルベンジル基(エテニルベンジル基)であり、式(2)の中のYがジメチルメチレン基(式(3)で表され、式(3)中のR17及びR18がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物である。
【0122】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数を、以下のようにして測定した。
【0123】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、その溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数を算出した。
【0124】
残存OH量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×106 ここで、εは、吸光係数を示し、4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、1cmである。
【0125】
そして、その算出された変性ポリフェニレンエーテルの残存OH量(末端水酸基数)は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数からの減少分は、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数であることがわかった。すなわち、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数であることがわかった。つまり、末端官能基数が、2個であった。
【0126】
また、変性ポリフェニレンエーテルの、25℃の塩化メチレン中で固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)を、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0127】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPCを用いて、測定した。そして、その得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)を算出した。その結果、Mwは、2300であった。
【0128】
・無変性PPE:ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、固有粘度(IV)0.083dl/g、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)
【0129】
(架橋剤)
・TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製のTAIC、分子量249、末端二重結合数3個)
・DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学株式会社製のDCP、末端二重結合数2個)
【0130】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製のエピクロンHP7200、平均エポキシ基数2.3個)
【0131】
<無機充填剤>
(第1の無機充填剤)
・KG-911C:モリブデン酸亜鉛処理タルク(Huber社製)
・KG-911A:モリブデン酸カルシウム処理タルク(Huber社製)
(第2の無機充填剤)
・SC-2300SVJ:球状シリカ(株式会社アドマテックス製)
(その他)
・モリブデン酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製)
【0132】
<反応開始剤>
・過酸化物:「パーブチルP(PBP)」(日本油脂株式会社製)
・イミダゾール系反応開始剤:「2E4MZ」(四国化成製、2エチル4メチルイミダゾール)
【0133】
<繊維質基材>
・Qガラス:石英ガラスクロス(信越石英株式会社製のSQF2116AC-04、#1078タイプ)を、分子中にメタクリル基を有するシランカップリング剤で表面処理したガラスクロス(通気度:25cm3/cm2/秒、Dk:3.5、Df:0.0015)
・QLガラス:QガラスとLガラスのハイブリッドガラス(旭化成株式会社製のQLガラス、#1078タイプ)(通気度:20cm3/cm2/秒、Dk:4.0、Df:0.0028)
・Lガラス:Lガラスクロス(汎用低誘電ガラスクロス、旭化成株式会社製のL1078、#1078タイプ)(通気度:20cm3/cm2/秒、Dk:4.5、Df:0.0038)
【0134】
<実施例1~10、比較例1~8>
[調製方法]
(樹脂ワニス)
まず、無機充填材以外の各成分を表1に記載の配合割合(質量部)で、固形分濃度が60質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を、室温で60分間攪拌した。その後、得られた液体に無機充填材を添加し、ビーズミルで無機充填材を分散させた。そうすることによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0135】
(プリプレグおよび銅張積層板)
次に、得られたワニスを、表1に示す繊維質基材(ガラスクロス)に含浸させた後、130℃で約3~8分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その際、プリプレグの重量に対する樹脂組成物の含有量(レジンコンテント)が約55質量%となるように調整した。
【0136】
そして、得られた各プリプレグを4枚重ねて、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0137】
また、得られた各プリプレグを6枚重ねて、その両側に、銅箔(古河電気工業株式会社の「FV-WS」、厚み35μm)を配置して被圧体とし、温度200℃、圧力3MPaの条件で2時間加熱・加圧して、750μmが厚みである、両面に銅箔が接着された評価基板(金属張積層板)である銅箔張積層板を作製した。
【0138】
上記のように調製された評価基板(プリプレグの硬化物、金属張積層板)を、以下に示す方法により評価を行った。
【0139】
<評価試験>
上記のように調製された各プリプレグ及び評価積層板を、以下に示す方法により評価を行った。
【0140】
[誘電特性(誘電正接(Df))]
10GHzにおけるそれぞれの評価基板(上記で得られたプリプレグの硬化物)の誘電正接を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワーク・アナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製の「N5230A」)を用い、10GHzにおける評価基板の誘電正接を測定した。評価基準としては、Dfが0.002以下を合格ラインとする。
【0141】
[ドリル加工性(穴位置精度)]
評価基板(上記で得られた銅張積層板)を用いて、
図4に示すように基板を設置して、下記ドリル加工条件で5000hit後の穴位置精度を測定した。
【0142】
ドリル加工条件:
エントリーボード:Al 0.15mm
重ね枚数:0.75 mm×2枚重ね
穴径:0.3φ×5.5
ビット品番:NHUL020
回転数:160Krpm
送り速度:20μ/rev
Hit数:5000hit
評価基準としては、穴位置精度が50μm以下であれば合格とした。
【0143】
[耐熱性]
評価基板(上記で得られた銅張積層板)を用いて、JIS C 6481 の規格に準じて耐熱性を評価した。所定の大きさに切り出した銅張積層板を280℃に設定した恒温槽に1時間放置した後、取り出した。そして熱処理された試験片を目視で観察し、フクレが発生しなかったときを○、フクレが発生したときを×として評価した。
【0144】
[成形性]
成形後のサンプルにおいて、銅箔をエッチングにて除去したサンプルに対して、以下の基準で顕微鏡観察(SEM)により成形性を評価した。
成形性評価基準:
○:成型品の表面および断面にボイド、カスレの発生なし
×:成型品の表面、断面観察の結果ボイド、カスレの発生あり
【0145】
以上の試験結果を表1に示す。
【0146】
【0147】
(考察)
表1の結果から、本発明により、非常に優れた誘電特性と、耐熱性と成形性を有し、さらにドリル加工性に優れるプリプレグおよび積層板を提供できることができることが示された。それに対し、本発明の構成と異なるプリプレグを使用した比較例においては、少なくともいずれかの評価項目において実施例よりも劣る結果となった。
【0148】
特に、表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤を含まない比較例1や比較例8では、誘電特性等は良好であったが、ドリル加工性に劣る結果となった。一方で、第1の無機充填剤の含有量が多すぎた比較例2では、十分な誘電特性と耐熱性が得られなかった。
【0149】
また、第2の無機充填剤の含有量が過剰であった比較例3では、ドリル加工性および成形性に劣る結果となった。
【0150】
プリプレグの繊維質基材として、QガラスまたはQLガラスを使用しなかった比較例4および5では、ドリル加工性には優れていたものの、本発明において目標とする誘電特性を達成できなかった。さらに、熱硬化性樹脂として未変性PPEを使用した比較例6でも誘電特性に劣る結果となった。
【0151】
また、モリブデン化合物を第1の無機充填剤の表面に存在させるのではなく、そのまま無機充填剤として使用した比較例7では、十分な誘電特性と耐熱性が得られなかった。
【0152】
さらには、Lガラスを用いた比較例4と5においては、表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤を用いても、ドリル加工性にあまり差異が出なかったが、QガラスまたはQLガラスを用いた場合、表面の少なくとも一部にモリブデン化合物が存在する第1の無機充填剤を用いることによりドリル加工性が劇的に向上することがわかった(実施例1~4および10と比較例1および8との対比)。
【0153】
この出願は、2017年9月29日に出願された日本国特許出願特願2017-190993を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0154】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、電子材料やそれを用いた各種デバイスに関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。