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特許7281726金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層とそれを用いたガス拡散電極およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層とそれを用いたガス拡散電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230519BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230519BHJP
   H01M 8/0241 20160101ALI20230519BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230519BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230519BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 H
H01M4/88 C
H01M4/88 H
H01M8/0241
H01M12/08 K
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018133715
(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公開番号】P2020013662
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】515094497
【氏名又は名称】東京電業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】立花 直樹
(72)【発明者】
【氏名】金井 稔
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0255801(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0059355(US,A1)
【文献】特開2008-262822(JP,A)
【文献】特開2008-041352(JP,A)
【文献】特開2014-123428(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/001862(JP,A1)
【文献】国際公開第2012/035579(WO,A1)
【文献】特開2017-027654(JP,A)
【文献】特開2009-009769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系電解液を用いる金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層であって、
発泡金属、カーボン材料、および樹脂結着材を含み、
前記ガス拡散層の厚み方向における少なくとも一部に、前記カーボン材料および前記樹脂結着材が前記発泡金属の空孔隙間なく充填され、当該発泡金属の空孔のうち前記カーボン材料および前記樹脂結着材が充填されなかった部分については押し潰された複合層を有し、
前記発泡金属の平均孔径が200μm以上5mm以下であり、
前記カーボン材料が疎水性カーボンである、ガス拡散層。
【請求項2】
前記発泡金属からなる層と、当該層から厚み方向に連続する前記複合層とを有する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
厚み方向の全体が前記複合層である、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項4】
厚みが0.5以上1.5mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガス拡散層。
【請求項5】
前記発泡金属が発泡ニッケルである、請求項1~4のいずれか一項に記載のガス拡散層。
【請求項6】
前記カーボン材料の平均粒径が20nm以上50nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガス拡散層。
【請求項7】
前記樹脂結着材がフッ素樹脂である、請求項1~のいずれか一項に記載のガス拡散層。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のガス拡散層を有するガス拡散電極。
【請求項9】
請求項に記載のガス拡散電極を正極に有する金属空気電池。
【請求項10】
請求項に記載のガス拡散電極を正極に有する燃料電池。
【請求項11】
金属空気電池または燃料電池に使用されるガス拡散電極の製造方法であって、以下の工程(A1)および(A2)を含む、ガス拡散電極の製造方法:
(A1)カーボン材料および樹脂結着材を分散させた懸濁液(a)を発泡金属に塗布し、厚み方向に加圧する工程;および
(A2)前記工程(A1)の後、前記樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する工程。
【請求項12】
以下の工程(B)をさらに含む、請求項11に記載のガス拡散電極の製造方法:
(B)前記工程(A1)の後、前記懸濁液(a)を塗布した面に、さらにカーボン材料、樹脂結着材、および触媒を含む懸濁液(b)を塗布し、厚み方向に加圧する工程。
【請求項13】
前記工程(A2)において、前記工程(A1)と(B)の後、前記懸濁液(a)および(b)の各樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する、請求項12に記載のガス拡散電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層とそれを用いたガス拡散電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、金属あるいは金属化合物を負極活物質とし、酸素を正極活物質として用いる化学反応のエネルギーを電気エネルギーとして取り出すエネルギーデバイスである。金属空気電池は正極活物質として空気中の酸素を利用するため、空気極を非常に薄くすることができ、電池に占める空気極の重量や体積は極めて小さい。したがって、通常の電池に必要な正極活物質を含む材料を電池内部に含まないため、現行の電池の中で大きなエネルギー密度をもつリチウムイオン電池と比較しても、その理論エネルギー密度は極めて大きい。金属空気電池は、自動車車載用電源、家庭や工場等の定置式分散電源、あるいは携帯電子機器用の電源等として利用することができる。
【0003】
金属空気電池の空気極は、通常、ガス拡散電極が使用される。ガス拡散電極とは気体反応物質の電気化学的酸化還元反応を直接起こさせることができる電極である。空気極では空気中の酸素を活物質として使用し、その還元反応が進行する。低電流密度域では酸素還元反応の電荷移動が律速になり、一方、高電流密度域では、酸素供給が律速となって限界拡散電流密度に近づくにつれて急速に電圧が低下する(非特許文献1)。したがって、高出力な金属空気電池を得るためには活性の高い触媒を使用して酸素還元反応の電荷移動を円滑に進行させるだけでなく酸素がスムーズに拡散して大きな電流が得られるような構造が必要である。
【0004】
金属空気電池の正極に使用されるガス拡散電極は、一般的に電解液側から順に触媒層、ガス拡散層、集電体から構成される。触媒層は、例えば、触媒、親水性カーボン等の導電性を持つ触媒担体およびPTFE等の結着材を含む。ガス拡散層は、例えば、疎水性カーボンおよびPTFE等の結着材を含む。ガス拡散層は、スムーズなガス拡散パスを形成し、かつ電解液の漏出および空気側からの水分の混入を防ぐ(非特許文献2)。アセチレンガスから製造したカーボンブラック(アセチレンブラック)は、高ストラクチャーであるため粒子間空隙が発達してガスの拡散パスを有効に形成し、また、表面官能基が少なく疎水性が高いためガス拡散層に好適である。集電体は、酸素の拡散を妨げないようにNiメッシュ(非特許文献3)やカーボン繊維織布(特許文献1)が通常使用される。しかし、これらは金属線あるいは炭素繊維を編み込んだものであるため、その線同士あるいは繊維同士は固定されていないため電気的な接触が不安定であり、また、しなやかすぎるため接合しているガス拡散層との形状を保持できず、剥離してしまう虞がある。
【0005】
特許文献2では、ガス拡散電極としてNi多孔体を使用し、この多孔体は、気孔率が55~85%であることが好ましく、また孔径が200μm以上550μm以下であることが好ましいとされている。このガス拡散電極は、プロトン伝導型固体高分子(Nafion等)を電解質として使用した固体高分子型燃料電池用であり、このNi多孔体は孔径が大きくかつ撥水性を有さないため、金属空気電池用ガス拡散層に必要な電解液の漏出および空気側からの水分の混入を防ぐ機能を有さず、使用に適さない。
【0006】
特許文献3では非導電性不織布の片面側に特定の第1の導電層、前記片面とは反対の面側に特定の第2の導電層を形成することで、第2の導電層(導電性多孔質基材)を構成する導電性炭素材料として導電性炭素繊維を用いた場合にも、第2の導電層を構成する導電性炭素繊維が第1の導電層内に突き出すのを抑制することで、導電層をクラックの少ない膜とした燃料電池や金属空気電池等の電池が得られる導電性多孔質層を提供できることを見出しているが、二つの導電層を活物質である空気が拡散する必要があるため、ガス拡散距離が長くなってガス拡散性が低下して出力が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭58-165254号公報
【文献】特開2017-33917号公報
【文献】特開2014-197477号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Electrochemistry, 2010, 78, pp 629-632.
【文献】Electrochemistry, 2010, 78, pp. 529-539.
【文献】Chemistry of Materials, 2013, 25, pp. 3072-3079.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、従来の金属メッシュやカーボン繊維織布を集電体として用いたガス拡散電極は、ガス拡散層と集電体との接触が不安定であり、容易に剥離する問題や、ガス拡散距離が長くなってガス拡散性が低下する問題があった。
【0010】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、優れたガス拡散性を有し、かつ、剛性が高く電気的な接触が安定した金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層とそれを用いたガス拡散電極およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、カーボン材料と樹脂結着材を含む懸濁液を発泡金属に塗布し、これを加圧することで発泡金属とカーボン材料と樹脂結着材とが隙間なく一層を形成し、そのように成形された複合層は、発泡金属とカーボン材料が複雑に絡み合うため電気的接触が安定することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明のガス拡散層は、金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層であって、発泡金属、カーボン材料、および樹脂結着材を含み、ガス拡散層における少なくとも一部に、カーボン材料および樹脂結着材が発泡金属に充填された複合層を有することを特徴としている。
【0013】
本発明のガス拡散電極は、前記ガス拡散層を有する。
【0014】
本発明の金属空気電池は、前記ガス拡散層を正極に有する。
【0015】
本発明の燃料電池は、前記ガス拡散層を正極に有する。
【0016】
本発明のガス拡散電極の製造方法は、金属空気電池または燃料電池に使用されるガス拡散電極の製造方法であって、以下の工程(A1)および(A2)を含む:
(A1)カーボン材料および樹脂結着材を分散させた懸濁液(a)を発泡金属に塗布し、厚み方向に加圧する第1工程;および
(A2)工程(A1)の後、樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する工程。
【0017】
前記方法における好ましい態様では、以下の工程(B)をさらに含む:
(B)工程(A1)の後、懸濁液(a)を塗布した面に、さらにカーボン材料、樹脂結着材、および触媒を含む懸濁液(b)を塗布し、厚み方向に加圧する工程。
【0018】
前記方法における好ましい態様では、工程(A2)において、工程(A1)と(B)の後、懸濁液(a)および(b)の各樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れたガス拡散性を有し、かつ、剛性が高く電気的な接触が安定した金属空気電池または燃料電池のガス拡散電極に使用されるガス拡散層とそれを用いたガス拡散電極およびその製造方法が提供される。そのような優れたガス拡散層によって、従来よりも支持体や補強材を簡素化でき、安価で、かつ出力が安定した金属空気電池や燃料電池の製造に資するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は実施例1のガス拡散電極断面の2次電子像、(b)は炭素の元素マップ、(c)はニッケルの元素マップである。
図2】(a)は実施例2のガス拡散電極断面の2次電子像、(b)は炭素の元素マップ、(c)はニッケルの元素マップである。
図3】(a)は実施例3のガス拡散電極断面の2次電子像、(b)は炭素の元素マップ、(c)はニッケルの元素マップである。
図4】(a)は比較例1のガス拡散電極断面の2次電子像、(b)は炭素の元素マップ、(c)はニッケルの元素マップである。
図5】発泡ニッケルの光学写真である。
図6】実施例1~3、比較例1のマグネシウム空気電池の電流密度-電圧特性を示す図である。
図7】実施例3および比較例1のマグネシウム空気電池の定電流特性を示す図である。
図8】定電流測定後の比較例1のガス拡散電極断面の二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
(ガス拡散層)
本発明のガス拡散層に使用される発泡金属は、ガス拡散電極の集電体として機能する。本発明のガス拡散層は、集電体となる発泡金属の空孔にカーボン材料が隙間なく充填され、カーボン材料が絡んだ構造となっているため電気的な接触が安定し、安定した電池出力が得られる。
【0022】
発泡金属は、ガスによる小さな空間を多量に有する金属のセル状の構造物であり、気孔を大量に有している特徴を持ち、例えば、その75~95%が空洞である。
【0023】
発泡金属の材料としては、例えば、ニッケル、チタン、アルミニウムおよびそれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、集電体としての機能面や価格等の観点を考慮すると、ニッケルを材料とする発泡ニッケルが好ましい。
【0024】
アセチレンブラックのアグロメレートのような疎水性カーボン等のカーボン材料の径を考慮すると、これを充填する発泡金属の平均孔径はこれよりも十分に大きいことが必要であり、一方で孔径が大き過ぎると充填したカーボン材料と発泡金属との接着点が少なくなって導電パスが減少し、電極の剛性も低下する。このような点から、発泡金属の平均孔径は、200μm以上5mm以下が好ましい。ここで平均孔径は、顕微鏡像から任意に選択した空孔100個の平均値であり、各空孔の径は、最長径として求める。例えば発泡金属のうち、発泡ニッケルは、三角柱状の骨格が3次元に連なった、連続気孔を持つ金属多孔体である。
【0025】
発泡金属のうち、発泡ニッケルの市販品としては、例えば、住友電気工業製「セルメット」、長峰製作所製「金属多孔質体」等が使用できる。発泡ニッケルの比表面積は250~5800m/mが好ましい。
【0026】
本発明のガス拡散層に使用されるカーボン材料は、細孔形成によって導電パスを形成し、かつ電極内部への水の浸透を抑制する疎水性を付与する。
【0027】
カーボン材料としては、疎水性カーボンが好ましい。疎水性カーボンは、表面に酸素官能基等を多数有する親水性カーボンとは異なり疎水性を有するものであり、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。その中でも、多孔質であり、電気抵抗が低く、安価である点から、カーボンブラックが好ましい。疎水性カーボンであるカーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。
【0028】
カーボン材料の平均粒径は、20nm以上50nm以下が好ましい。このような平均粒径を持つカーボン材料は、前記したような発泡金属の空孔に充填した際に、緻密な導電パスを形成し、集電体となる発泡金属とカーボン材料が絡んだ構造となるため電気的な接触が安定し、安定した電池出力が得られる。ここで平均粒径は、走査透過電子顕微鏡による観察像において、任意の100個の粒子を選択し、それぞれの外径を計測し、その数平均値として算出したものである。カーボンブラックは一般に、ストラクチャーを持つアグリゲート(1次凝集体)が、ファン・デルワールス力等の物理的な力によりアグロメレート(2次凝集体)を構成するが、カーボン材料がカーボンブラックである場合、平均粒径はアグリゲートの1次粒子の平均粒径である。
【0029】
本発明のガス拡散層に使用される樹脂結着材は、カーボン材料を結着させるバインダー機能と、ガス拡散層に撥水性を付与する機能を有する。
【0030】
樹脂結着材としては、撥水性を有する樹脂、例えばフッ素樹脂が挙げられる。その中でも、フッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロスルフォン酸ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン共重合体(FEP)、(PFE)等が挙げられる。その中でも、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルフォン酸ポリマーが好ましい。
【0031】
ガス拡散層に使用するカーボン材料と樹脂結着材の質量比は、樹脂結着材がバインダー機能、撥水付与機能を発揮する観点を考慮すると、30:70~95:5が好ましく、60:40~90:10がより好ましい。
【0032】
ガス拡散層の製造において添加する樹脂結着材の形態は、特に限定されないが、カーボン材料と混合されて分散する微粒子状が好ましく、カーボン材料と樹脂結着材を溶媒に分散した懸濁液をガス拡散層の製造に用いることができる。この場合、予めカーボン材料と樹脂結着材を水系溶媒に分散後、乾燥して溶媒を除去する等の方法によって、樹脂結着材を担持したカーボン材料を作製しておき、この樹脂結着材を担持したカーボン材料を有機溶媒に分散することによって懸濁液を調製してもよい。
【0033】
本発明のガス拡散層は、発泡金属、カーボン材料、および樹脂結着材を含み、ガス拡散層における少なくとも一部に、カーボン材料および樹脂結着材が発泡金属に充填された複合層を有する。
【0034】
製造工程に応じて、ある態様では、本発明のガス拡散層は、発泡金属からなる層と、当該層から厚み方向に連続する複合層とを有する。この場合、カーボン材料および樹脂結着材が、製造工程における加圧によって発泡金属の空孔に一部充填されて、発泡金属の厚み方向のうち一部が複合層となる。別の態様では、厚み方向の全体が複合層である。この場合、カーボン材料および樹脂結着材が、製造工程における加圧によって発泡金属の空孔にほぼ全てが充填され、残りの発泡金属の空孔は押し潰されて、発泡金属のみからなる部分は殆ど確認できず、発泡金属の厚み方向の全体が複合層となる。従って厚み方向の全体が複合層であるとは、走査型電子顕微鏡の観察において、発泡金属の空孔に、カーボン材料および樹脂結着材が厚み方向の全体に分布し、特に炭素の元素マップにおいて、カーボン材料に由来する炭素が厚み方向の全体に確認されることを含む。例えば、ニッケル等の発泡金属の元素マップにおいて金属が分布する厚みのうち、80%以上、90%以上、あるいは95%以上の範囲に、炭素の元素マップにおいて炭素が存在すること、およびカーボン材料の全てが発泡金属内に充填されることを含む。以上の態様の中でも、安定した電池出力が得られる点を考慮すると、後者のように発泡金属の厚み方向の全体が複合層となる態様が好ましい。
【0035】
本発明のガス拡散層の厚みは、0.5mm以上1.5mm以下が好ましく、0.7mm以上1.3mm以下がより好ましい。発泡金属からなる層が存在する場合には当該層と、複合層との合計厚みはガス拡散の最短距離となるため、電解液の漏出および空気側からの水分の混入を抑制する限りにおいて、ガス拡散層は薄いほど空気中の酸素の拡散に有利であるが、ガス拡散層の厚みが上記範囲内であると、電解液の漏出および空気側からの水分の混入を抑制しつつガスが拡散し、金属空気電池や燃料電池の正極として好適である。このようにガス拡散層の厚みを小さくしても、本発明のガス拡散層は、集電体となる発泡金属の空孔にカーボン材料が隙間なく充填された構造であるため、剛性が高く、電気的な接触が安定し、安定した電池出力が得られる。
【0036】
(ガス拡散電極とその製造方法)
本発明のガス拡散電極は、以上に説明した本発明のガス拡散層を有している。さらに、このガス拡散層に隣接する触媒層を備えている。本発明のガス拡散電極は、本発明のガス拡散層の高い剛性によって、従来のガス拡散電極に使用される電極支持体を省略することが可能である。
【0037】
本発明のガス拡散電極における触媒層の構成は、特に限定されないが、例えば、触媒、担体、および樹脂結着材を含む。
【0038】
触媒は、放電時には酸素還元反応、充電時には酸素酸化反応を促進させるものであれば特に限定されないが、例えば、白金等の貴金属触媒、金属酸化物触媒、カーボン触媒等が挙げられる。担体が親水性カーボン等である場合、担体自体が触媒機能を有するものであってもよい。
【0039】
担体としては、例えば、導電性のカーボン材料を用いることができる。導電性のカーボン材料としては、親水性カーボンが好ましい。親水性カーボンは、表面に酸素官能基等の親水性官能基を多数有するものであり、例えば、親水性カーボンブラック、表面を官能基で修飾したカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。その中でも、多孔質であり、電気抵抗が低く、安価である点から、親水性カーボンブラックが好ましい。親水性カーボンブラックの例としては、ケッチェンブラック、Vulcan等が挙げられる。
【0040】
樹脂結着材としては、例えばフッ素樹脂等が挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、ガス拡散層に使用される樹脂結着材として前記に例示したものが挙げられる。
【0041】
本発明のガス拡散電極を製造する方法は、好ましい態様において、本発明のガス拡散層を構成するカーボン材料および樹脂結着材を分散させた懸濁液(a)を発泡金属に塗布し、厚み方向に加圧する工程を含む。
【0042】
懸濁液(a)は、カーボン材料および樹脂結着材を含むものであれば特に限定されないが、予め、湿式分散によって微粒子状の樹脂結着材をカーボン材料に担持し、この樹脂結着材を担持したカーボン材料を、溶媒に分散して調製することが好ましい。この場合、樹脂結着材の粒径としては0.1~0.5μmが好ましい。溶媒としては、水や有機溶媒が好ましく、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、n-ブタノール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、ヘキサン等が挙げられる。
【0043】
懸濁液(a)を発泡金属に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレー塗布、スクリーン印刷、バーコーター、スピンコーター、ブレードを用いた方法等が挙げられる。
【0044】
懸濁液(a)を発泡金属に塗布し、厚み方向に加圧する工程は、樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する工程、つまり樹脂結着材による結着を促進させるホットプレス工程であってもよいが、カーボン材料および樹脂結着材を発泡金属の空孔により多く充填させて複合層の厚みを大きくし、ガス拡散層の厚みをより小さくするためには、懸濁液(a)を発泡金属に塗布後、厚み方向に加圧した後(以下、懸濁液充填プレス工程とも言う。)、ホットプレス工程を行うことが好ましい。
【0045】
ホットプレス工程および懸濁液充填プレス工程に使用される装置は、加圧成形が可能な装置であれば特に限定されないが、例えば、油圧プレス機を用いることができる。油圧プレス機の一軸加圧成形によって電極の剛性が高まるため、大型電極の作製に好適であり、手動式の油圧プレスで作製可能であるため特殊な生産設備を必要とせず、シンプルな製造プロセスで大量生産に適している。
【0046】
ガス拡散層と触媒層を形成するために、触媒層の成分を含む懸濁液(b)を調製し、懸濁液(a)を塗布した面に、さらに懸濁液(b)を塗布し、厚み方向に加圧してもよい。
【0047】
懸濁液(b)は、例えば、カーボン材料、樹脂結着材、および触媒を含む。
【0048】
懸濁液(a)の発泡金属への塗布、懸濁液(a)を塗布した面への懸濁液(b)の塗布と、ホットプレス工程、懸濁液充填プレス工程においては、これらの手順の前後は任意であり、加圧はホットプレス工程のみで行ってもよく、懸濁液充填プレス工程を含めて行ってもよい。例えば、懸濁液(a)の発泡金属への塗布、懸濁液(a)を塗布した面への懸濁液(b)の塗布を行った後、ホットプレス工程で加圧する態様や、懸濁液(a)の発泡金属への塗布を行った後、懸濁液充填プレス工程を行い、その後懸濁液(a)を塗布した面への懸濁液(b)の塗布、懸濁液充填プレス工程を行い、さらにホットプレス工程を行う態様等であってよいが、好ましい態様では、以下の工程(A1)および(A2)を含む:
(A1)カーボン材料および樹脂結着材を分散させた懸濁液(a)を発泡金属に塗布し、厚み方向に加圧する工程(懸濁液充填プレス工程);および
(A2)工程(A1)の後、樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する工程(ホットプレス工程)。
【0049】
さらに好ましい態様では、以下の工程(B)をさらに含む:
(B)工程(A)の後、懸濁液(a)を塗布した面に、さらにカーボン材料、樹脂結着材、および触媒を含む懸濁液(b)を塗布し、厚み方向に加圧する工程。
【0050】
特に好ましい態様では、工程(A2)において、工程(A1)と(B)の後、懸濁液(a)および(b)の各樹脂結着材が軟化または流動する温度で厚み方向に加熱加圧する。
【0051】
懸濁液充填プレス工程における荷重は、特に限定されないが、工程(A1)では100~500kgfcm-2が好ましく、300~450kgfcm-2がより好ましい。工程(B)では10~50kgfcm-2が好ましく、30~45kgfcm-2がより好ましい。懸濁液充填プレス工程によって、カーボン材料同士が樹脂結着材によって結着されない状態で、カーボン材料および樹脂結着材を発泡金属の空孔により多く充填させて複合層の厚みを大きくし、ガス拡散層の厚みをより小さくすることができる。その結果として、電解液の漏出および空気側からの水分の混入を抑制しつつガスが拡散し、金属空気電池や燃料電池の正極として好適であると共に、ガス拡散層の厚みを小さくしても、集電体となる発泡金属の空孔にカーボン材料が隙間なく充填された構造であるため、剛性が高く、電気的な接触が安定し、安定した電池出力が得られる。
【0052】
以上において、加圧をホットプレス工程のみで行う場合や、懸濁液充填プレス工程を含めて行う場合に関わらず、ホットプレス工程を行う際における荷重は、特に限定されないが、50~300kgfcm-2が好ましく、100~200kgfcm-2がより好ましい。ホットプレス工程における温度は、特に限定されないが、PTFE等のフッ素樹脂の場合、その溶融温度以上で分解等が生じない範囲、例えば330~380℃が好ましい。
【0053】
ホットプレス工程や懸濁液充填プレス工程によって加圧を行った後、懸濁液(a)や(b)の溶媒を除去するために、乾燥機等の加熱装置によって乾燥処理を行うことが好ましい。
【0054】
(金属空気電池および燃料電池)
本発明のガス拡散電極は、金属空気電池および燃料電池に用いることができる。金属空気電池および燃料電池は、ガス拡散電極を正極に備えている。
【0055】
金属空気電池は、負極活物質として金属を用いるものであり、燃料電池は、負極活物質として水素などの金属以外の物質を用いるものである。
【0056】
金属空気電池および燃料電池は、正極として空気極が設置され、電解質を介して、負極として金属空気電池では金属極、燃料電池では燃料極が設置される。
【0057】
電解質としては、水系の金属空気電池および燃料電池の場合、これらの電解液として通常用いられる水系電解液を用いることができる。
【0058】
金属空気電池における金属極としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの金属などを用いることができる。具体的な金属極の構造は、公知の金属空気電池と同様とすればよい。燃料電池における燃料極の構造についても特に限定はなく、公知の燃料電池の燃料極の構造と同様とすればよい。燃料極用の触媒としても、従来公知の金属、金属合金、金属錯体や、触媒微粒子を炭素材料や金属酸化物などの担体に担持した触媒などを用いることができる。
【0059】
正極である空気極側には、酸素または空気を供給あるいは自然拡散させればよい。また、燃料電池には、燃料極側に燃料となる物質を供給する必要がある。燃料物質としては、水素ガスの他、メタノールのようなアルコール類などが使用できる。
【実施例
【0060】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<1>PTFE担持疎水性カーボン、PTFE担持親水性カーボンの作製
ガス拡散層用の疎水性カーボンとして市販のアセチレンブラック(HS-100、電気化学工業製)を蒸留水中に分散させ、60質量%PTFEディスパージョン(粒径:0.22μm、D-210c、ダイキン工業製)をアセチレンブラックに対して30質量%となるように添加した。これを、超音波分散して、PTFEディスパージョンをアセチレンブラックに均一に分散担持させ、混合液をろ過して120℃で乾燥してPTFE担持疎水性カーボンを作製した。触媒層に用いる親水性カーボンとしては市販のカーボンブラック(ケッチェンブラック、ライオン製)を使用し、同様の方法でPTFEを担持した。なお、表面に酸素官能基を多数有するこの親水性カーボンは、触媒として酸素還元反応を促進する。
【0061】
<2>ガス拡散電極の作製
2-プロパノールにPTFE担持疎水性カーボンを分散させてカーボンインキを作製し、これを3.5×3.8cmに切断した発泡ニッケル(厚み:1.6mm、セルメット#7、住友電気工業製)に1cmあたり14mgになるように塗布して乾燥させた。同様に2-プロパノール中に分散させたPTFE担持親水性カーボンインキを、作製した発泡ニッケル-疎水性カーボンの疎水性カーボン上に1cmあたり6mgになるように塗布して乾燥させた後、これを電気炉で急加熱して360℃まで昇温させてPTFEを融解させ、油圧プレス機を用いて38kgfcm-2の荷重でプレスした後、急冷却した。最後に120℃に保持した乾燥機に移し、溶媒の2-プロパノールを完全に除去してガス拡散電極を得た。
【0062】
<3>電池性能評価
上記のように作製したガス拡散電極(電極面積:13.3cm)を正極として、マグネシウム合金(Mg:90%、Al:9%、Zn:1%、厚み:0.5cm、電極面積:3.8×5.8cm)を負極としてセルに取り付け、電極間の距離を1cmに固定し、23質量%のNaCl水溶液に浸した状態で電子付加装置を正極、負極に接続して、電子負荷装置を用いて任意の定抵抗を接続し、電極間の電圧値と電流値を測定した。電子付加装置は菊水電子工業製PLZ664WAを用いた。
【0063】
[実施例2]
実施例1と同様の方法によりPTFE担持疎水性カーボン、PTFE担持親水性カーボンを作製した。実施例1と同サイズに切断した発泡ニッケルを金属やすりを用いて厚みが0.7mmになるまで研磨した。2-プロパノールにPTFE担持疎水性カーボンを分散させてカーボンインキを作製し、これを研磨した発泡ニッケルに1cmあたり14mgになるように塗布して乾燥させた。同様に2-プロパノール中に分散させたPTFE担持親水性カーボンインキを、作製した発泡ニッケル-疎水性カーボンの疎水性カーボン上に1cmあたり6mgになるように塗布して乾燥させた後、これを電気炉で急加熱して360℃まで昇温させてPTFEを融解させ、油圧プレス機を用いて38kgfcm-2の荷重でプレスした後、急冷却した。最後に120℃に保持した乾燥機に移し、溶媒の2-プロパノールを完全に除去してガス拡散電極を得た。電池性能評価は実施例1と同様の方法で行った。
【0064】
[実施例3]
実施例1と同様の方法によりPTFE担持疎水性カーボン、PTFE担持親水性カーボンを作製した。2-プロパノールにPTFE担持疎水性カーボンを分散させてカーボンインキを作製し、これを実施例1と同じサイズに切断した発泡ニッケルに1cmあたり14mgになるように塗布して乾燥させ、これを油圧プレス機を用いて376kgfcm-2の荷重でプレスして発泡ニッケル/疎水性カーボン複合体を得た。同様に2-プロパノール中に分散させたPTFE担持親水性カーボンインキを、作製した発泡ニッケル/疎水性カーボン複合体に1cmあたり6mgになるように塗布して乾燥させ、油圧プレス機を用いて150kgfcm-2の荷重でプレスし、これを電気炉で急加熱して360℃まで昇温させてPTFEを融解させ、油圧プレス機を用いて38kgfcm-2の荷重でプレスした後、急冷却した。最後に120℃に保持した乾燥機に移し、溶媒の2-プロパノールを完全に除去してガス拡散電極を得た。電池性能評価は実施例1と同様の方法で行った。定電流測定は電流密度を23mAcm-2に固定し、電池電圧を測定した。
【0065】
[比較例1]
実施例1と同様の方法によりPTFE担持疎水性カーボン、PTFE担持親水性カーボンを作製した。2-プロパノールにPTFE担持疎水性カーボンを分散させてカーボンインキを作製し、これを3.5×3.8cmに切断したニッケルメッシュ(100mesh、ニラコ製)に1cmあたり14mgになるように塗布し、同様に2-プロパノールに分散させたPTFE担持親水性カーボンインキを、さらに疎水性カーボン上に1cmあたり6mgになるように塗布し、これを電気炉で急加熱し、温度を360℃まで昇温させてPTFEを融解させ、油圧プレス機を用いて38kgfcm-2の荷重でプレスした後、急冷却した。最後に120℃に保持した乾燥機に移し、溶媒の2-プロパノールを完全に除去してガス拡散電極を得た。電池性能評価は実施例1と同様の方法で行った。定電流測定は実施例3と同様の方法で行った。
【0066】
図1図4は走査型電子顕微鏡(JSM-6490LA、日本電子製)を用いて観察したそれぞれ実施例1~3、比較例1のガス拡散電極断面の二次電子線像、炭素およびニッケルの元素マップである。図5は発泡ニッケルの光学写真である。実施例1、2は部分的に発泡ニッケル/疎水性カーボン複合層を形成しているが、一部の発泡ニッケルは疎水性カーボンと複合しておらず、特徴的な発泡ニッケルの孔(100~500μm)が確認できる。一方、実施例3で作製したガス拡散電極は、376kgfcm-2でのプレスによって元の発泡ニッケルの特徴的な孔は確認できなくなり、疎水性カーボンが隙間なく充填され、圧縮されて潰れた発泡ニッケルと疎水性カーボンからなる複合層の一層を確認した。
【0067】
図6は実施例1~3、比較例1のマグネシウム空気電池の電流密度-電圧特性である。空気中の酸素が正極活物質である金属空気電池や燃料電池は、空気極での酸素還元反応が進行するが、電流密度が大きくなると酸素供給が律速となって急激に電池電圧が低下する。したがって、電解液の漏出および空気側からの水分の混入を防ぐ限りは、ガス拡散層は薄いほど空気中の酸素の拡散に有利である。実施例1、2のガス拡散電極は、発泡ニッケルおよび発泡ニッケル/疎水性カーボン複合層を併せた厚みはそれぞれ1250μm、964μmであるため、空気中の酸素が触媒層まで達するガス拡散パスの最短距離はそれぞれ1250μm、964μmである。実施例3のガス拡散電極の発泡ニッケル/疎水性カーボン複合層の厚みは724μmであるため、空気中の酸素が触媒層まで達するガス拡散パスの最短距離は724μmである。実施例1~3の電極はガス拡散パスの最短距離が短くなるほど、約10mAcm-2以上の高電流密度域で高い電池電圧が得られ、その最高出力はそれぞれ41.6、68.1、80.8mWcm-2となり、実施例2、3は、従来のニッケルメッシュを使用したガス拡散電極を用いたマグネシウム空気電池の最高出力46.5mWcm-2より高い性能を示した。
【0068】
図7は実施例3および比較例1のマグネシウム空気電池の定電流特性である。実施例3のマグネシウム空気電池の電池電圧は比較的安定していたが、比較例1のマグネシウム空気電池は約30分から電池電圧が減少し、約50分で電池電圧が不安定になった。図8は定電流測定後の比較例1のガス拡散電極断面の二次電子線像である。部分的にガス拡散層である疎水性カーボンから集電体であるNiメッシュの剥離が確認されたため、メッシュがガス拡散層との接触形状を保持できずに電池電圧が不安定になったものと示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8