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  • 特許-抗真菌用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】抗真菌用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20230519BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 8/66 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20230519BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20230519BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20230519BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230519BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20230519BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20230519BHJP
   A61K 31/26 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
A61K38/40
A61K38/44
A61K31/7004
A61P31/10
A61K8/64
A61K8/66
A61K8/60
A61Q11/00
A61Q17/00
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/06
A61K9/20
A61K9/107
A61K45/00
A61K8/46
A23L33/19
A23L33/10
A23K20/163
A23K20/147
A61K31/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019014353
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020121939
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】安部 茂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基文
(72)【発明者】
【氏名】羽山 和美
(72)【発明者】
【氏名】中野 学
(72)【発明者】
【氏名】若林 裕之
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-016553(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033616(WO,A1)
【文献】特開2013-075927(JP,A)
【文献】特表2010-505959(JP,A)
【文献】特開昭61-083131(JP,A)
【文献】日本口腔粘膜学会雑誌,2006年,12(2),p.114, 2-B-04
【文献】J Food Sci.,2005年,70(2),pp. M87-M94
【文献】日本免疫学会総会・学術集会記録,2003年11月05日,33,p.85, 1-F-W8-24-P
【文献】真菌誌,2000年,41(2),pp. 77-81
【文献】Oral Microbiol Immunol.,1992年,7,pp. 315-320
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン及びLPO反応系を有効成分として含み、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられ、
前記ラクトフェリンの適用時における濃度は、2μg/mL~2000μg/mLである、抗カンジダ用組成物。
【請求項2】
ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを有効成分として含み、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられ、
前記ラクトフェリンの適用時における濃度は、2μg/mL~2000μg/mLである、抗カンジダ用組成物。
【請求項3】
前記組成物が、医薬品、又は医薬部外品、化粧品、若しくは衛生用品(但し、口腔内に適用する医薬部外品、口腔内に適用する化粧品、及び口腔内に適用する衛生用品を除く)である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記医薬品が、経口投与する製剤、口腔内に適用する製剤、注射により投与する製剤、透析に用いる製剤、気管支・肺に適用する製剤、目に投与する製剤、耳に投与する製剤、鼻に適用する製剤、直腸に適用する製剤、腟に適用する製剤、又は外用製剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、飲食品若しくは飼料、又は口腔内に適用する組成物(但し、口腔内に適用する医薬品を除く)である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記の口腔内に適用する組成物が、口腔内に適用する医薬部外品、口腔内に適用する化粧品、又は口腔内に適用する衛生用品である、請求項5に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌症の対策として、抗真菌薬投与、光化学治療法等が使用されている。しかし、真菌がキチン質による強固な細胞壁を持ち、さらにヒトと同じ真核生物であるため、真菌症は細菌による感染症に比べ治療が困難であることが知られている。
【0003】
従来、内用抗真菌剤として真菌症の治療に使用されている抗真菌剤として、例えば、ポリエン系、フルオロピリジン系、イミダゾール(アゾール)系等が挙げられる。
また、カンジダ等の抗真菌の抑制にはアゾール系等の抗真菌剤が用いられてきた。しかし、抗真菌剤の副作用や長期投与によってもたらされる薬剤耐性化の問題が危惧されている。
そこで、特許文献1には、低濃度で強い抗真菌作用を呈する抗真菌剤を提供することを目的として、アゾール系抗真菌物質及びラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-2970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細菌と真菌とでは細胞内部構造や生理機能等が明らかに異なることから抗菌成分であれば抗真菌作用が常に発現するとは言い難く、さらに真菌はヒトと同じ真核生物であるため、真菌の細胞だけに損傷を与えつつ人体組織に副作用が少ない成分を見出すことは難しいとされている。しかし、できるだけ副作用の少ない抗真菌用組成物が望まれている。
そこで、本技術は、安全性の高い抗真菌用組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、抗真菌用成分を種々検討する中で、後記〔実施例〕に示すように、ラクトフェリン(以下、「LF」ともいう)単独ではほとんど抗真菌作用が得られていない知見を得、またLPO反応系単独でもほとんど抗真菌作用が得られていない知見を得た。
【0007】
しかしながら、本発明者は、それぞれほとんど抗真菌作用がないLF及びLPO反応系を併用することによって、抗真菌作用が劇的に増強できることを見出した。さらに、LF及びLPO反応系の使用濃度を低濃度化しても高い代謝能抑制率を維持できることも本発明者は見出した。
【0008】
しかも、LF及びLPO反応系ともに、抗真菌作用を有するアゾール系とは異なる化学構造であるので、この組み合わせで抗真菌作用が劇的に増強できたことは本発明者にとって全くの予想外であった。LF及びLPO反応系ともに食品成分としても利用されている成分であるため、これらはともに食経験的に安全性が高い成分であり、また長期間摂取も可能な成分である。
【0009】
本技術において、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを少なくとも含む組成物を「LPO組成物」ともいう。また、本技術において、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースをチオシアン酸又はその塩の存在下で使用することによる酵素反応系を「LPO反応系」ともいい、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを「LPO反応系成分」ともいう。本技術において、チオシアン酸又はその塩は適用領域に存在させてもよく、本技術の組成物にチオシアン酸又はその塩が含まれていてもよい。
【0010】
また、本技術において、LPO反応系は、次亜チオシアン酸産生系の一つであり、当該次亜チオシアン酸産生系には、例えば、LPO反応系、ミエロパーオキシダーゼシステム(好中球)、ホースラディッシュパーオキシダーゼシステム(ホースラディッシュ)等が知られている。本技術において、OSCN-:次亜チオシアン酸を産生するシステムを、「次亜チオシアン酸産生系」という。
【0011】
以上のように、安全性の高い抗真菌用組成物を見出すことには技術的困難性があるが、本発明者は、非常に優れた抗真菌作用が発揮されるLF及び次亜チオシアン酸産生系(好適にはLPO反応系)の併用を新たに見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の(1)~()のとおりである。
【0012】
(1)ラクトフェリン及びLPO反応系を有効成分として含み、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられる、抗真菌用組成物。
(2)ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを有効成分として含み、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられる、抗真菌用組成物。
)前記組成物が、医薬品、又は医薬部外品、化粧品、若しくは衛生用品(但し、口腔内に適用する医薬部外品、口腔内に適用する化粧品、及び口腔内に適用する衛生用品を除く)である、前記(1)又は(2)に記載の組成物。
)前記医薬品が、経口投与する製剤、口腔内に適用する製剤、注射により投与する製剤、透析に用いる製剤、気管支・肺に適用する製剤、目に投与する製剤、耳に投与する製剤、鼻に適用する製剤、直腸に適用する製剤、腟に適用する製剤、又は外用製剤である、前記()に記載の組成物。
)前記組成物が、飲食品若しくは飼料、又は口腔内に適用する組成物(但し、口腔内に適用する医薬品を除く)である、前記(1)又は(2)に記載の組成物。
)前記の口腔内に適用する組成物が、口腔内に適用する医薬部外品、口腔内に適用する化粧品、又は口腔内に適用する衛生用品である、前記()に記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本技術によれば、安全性の高い抗真菌用組成物を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】LF及び/又はLPO反応系によるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の形態変化の顕微鏡観察である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0016】
本技術の使用は、治療目的であっても、非治療目的であってもよい。
「非治療目的」とは、医療行為、すなわち、治療による人体への処置行為を含まない概念である。
「予防」とは、適用対象における疾患若しくは症状の発症の防止や遅延、又は適用対象の疾患若しくは症状の危険性の低下をいう。
「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0017】
本技術において、「医薬品」とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、医薬品医療機器等法)の第2条第1項に定められる医薬品、すなわち、次の第一号から第三号に掲げる物を意味する。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
【0018】
また、本技術において、「医薬品」に該当する各製剤は、「外用製剤」を除き、「第十七改正日本薬局方」の「製剤総則 [3]製剤各条」の項に記載の分類に基づくものであり、「外用製剤」は、身体の外部(例えば、皮膚(頭皮を含む)又は爪)に適用して用いるための製剤である。
【0019】
本技術において、「医薬部外品」とは、医薬品医療機器等法の第2条第2項に定められる医薬部外品、すなわち、次第一号から第三号に掲げる物であつて人体に対する作用が緩和なものを意味する。
一 次のイからハまでに掲げる目的のために使用される物(これらの使用目的のほかに、併せて第2条第1項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であつて機械器具等でないもの
イ 吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止
ロ あせも、ただれ等の防止
ハ 脱毛の防止、育毛又は除毛
二 人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の防除の目的のために使用される物(この使用目的のほかに、併せて第2条第1項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であつて機械器具等でないもの
三 第2条第1項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物(前二号に掲げる物を除く。)のうち、厚生労働大臣が指定するもの
【0020】
また、本技術において、「化粧品」とは、医薬品医療機器等法の第2条第3項に定められる化粧品、すなわち、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌(ぼう)を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの(ただし、これらの使用目的のほかに、第2条第1項第二号又は第三号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。)を意味する。
また、本技術において、「衛生用品」とは、衛生を保つために用いられる物(但し、医薬品、医薬部外品、化粧品を除く)を意味する。
【0021】
さらに、本技術において、「口腔内に適用する」とは、口腔内や咽頭を適用部位とする態様を意味する。
【0022】
本技術の次亜チオシアン酸系は、例えば、LPO反応系、ミエロパーオキシダーゼシステム(好中球)、ホースラディッシュパーオキシダーゼシステム(ホースラディッシュ)等が挙げられる。このうち、LPO反応系が、後記実施例の観点から好適である。
【0023】
本技術の次亜チオシアン酸産生系は、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いることが好適である。当該「チオシアン酸又はその塩」については、後述のLPO組成物又はLPO反応系の構成を適宜採用することができる。
また、本技術のラクトフェリンと次亜チオシアン酸産生系における抗真菌作用を発現させるためのpH、各種成分の使用量、抗真菌作用の発現方法、又は本技術のラクトフェリンと次亜チオシアン酸産生系における用量若しくは用法等については、後述のLPO組成物(LPO反応系)の構成を適宜採用することができる。
【0024】
本技術は、好適には、ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを含む抗真菌用組成物である。
また、当該組成物は、好適には、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられる抗真菌用組成物である。
また、本技術は、好適には、ラクトフェリンを有効成分とする、LPO反応系による抗真菌作用を増強する組成物である。
さらに、本技術は、好適には、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを有効成分とする、ラクトフェリンによる抗真菌作用を増強する組成物でもある。
【0025】
本技術のラクトフェリンとの併用において「LPO組成物」又は「LPO反応系成分」がより好適である。
【0026】
本技術で使用されるラクトフェリンは、乳、涙、唾液、血液等に存在する鉄結合性糖タンパク質;哺乳動物の乳又はこれらの処理物(脱脂乳、ホエー等)から常法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー等)により分離したラクトフェリン(以下、「分離ラクトフェリン」ともいう);分離ラクトフェリンを、酸(例えば、塩酸、クエン酸等)により脱鉄したアポラクトフェリン;分離ラクトフェリンを、金属(鉄、銅、亜鉛、マンガン等)でキレートさせた金属飽和ラクトフェリン;各種飽和度で金属を飽和させたラクトフェリン等が挙げられ、これらの何れでもよい。
本技術で使用するラクトフェリンとしては、アポラクトフェリン、天然型ラクトフェリン、ホロラクトフェリンが好ましく、天然型ラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンがより好ましい。
このうちから1種又は2種以上を選択して使用してもよい。
【0027】
本技術において、ラクトフェリンは、特に哺乳動物(例えば、ウシ、ヒト、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、ウマ等)の乳(初乳、移行乳、常乳、末期乳等)に含まれる。このうち、含有量、入手容易、安全性の点から、ウシ、ヒト等の乳が好ましい。
本技術において、ラクトフェリンは哺乳動物由来に限定されず、遺伝子操作微生物や動物等から生産された組み換えラクトフェリン;化学合成ラクトフェリン等が挙げられる。また、ラクトフェリンは、非グリコシル化又はグリコシル化されたものでもよい。
また、ラクトフェリンは、市販品を用いてもよく、乳等の原料から調製してもよい。入手容易性から、市販品のラクトフェリン(例えば、森永乳業社製等)が挙げられ、また、分離ラクトフェリンの調製方法は、公知の調製方法(例えば、参考文献1:特開2014-227375号公報)を利用することができる。
【0028】
一般的にラクトパーオキシダーゼは、乳中の酸化還元酵素で、過酸化水素及びチオシアン酸から、次亜チオシアン酸と水の生成を触媒する作用を有することが知られている。
本技術で使用されるラクトパーオキシダーゼは、特に限定されないが、哺乳類の乳に由来するものを使用することが好ましい。当該ラクトパーオキシダーゼのうち、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳に由来するラクトパーオキシダーゼが好ましく、より好ましくは牛乳由来のものである。
乳はヒトの飲食に長年使用されていたために、乳由来のラクトパーオキシダーゼもヒト等の動物に対する安全性が高いので、乳由来のラクトパーオキシダーゼが好ましい。さらに、安定的な生産性の観点から、牛乳由来のラクトパーオキシダーゼがより好ましい。
【0029】
前記ラクトパーオキシダーゼは、前記哺乳類の乳等から得ることができる。
本技術に使用するラクトパーオキシダーゼは、乳等未加熱のホエー又は脱脂乳から、常法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー等)に従って工業的に製造することが好ましい(例えば、参考文献2:特開平5-41981公報、参考文献3:WO2005/078078等)。
また、市販の天然物由来のラクトパーオキシダーゼ(例えば、バイオポール社製等)、又は組換え型ラクトパーオキシダーゼ、発現・精製された組換え型ラクトパーオキシダーゼ(例えば、参考文献4:Biochemical and Biophysical Research Communications、第271巻、2000年、p.831-836)、又は市販の組換え型ラクトパーオキシダーゼを使用してもよい。
このうち、本技術に使用するラクトパーオキシダーゼの原料として、安定して大量に得ることができることから、牛乳由来の脱脂乳又はホエーが好適である。
【0030】
一般的にグルコースオキシダーゼは、β-D-グルコースを酸化してD-グルコノ-δ-ラクトンと過酸化水素を生成する酵素として知られている。
本技術で使用されるグルコースオキシダーゼは特に限定されないが、微生物由来のグルコースオキシダーゼが品質の安定性及び生産性の観点から好ましい。
当該微生物由来の酵素として、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)等の微生物の産生する酵素が挙げられる。
当該微生物由来のグルコースオキシダーゼは、公知の微生物由来酵素の製造方法を利用して得ることができる。また、市販品のグルコースオキシダーゼを使用すればよく、市販品の微生物由来のグルコースオキシダーゼ(例えば、新日本化学工業社製等)を使用することができる。
【0031】
本技術で使用されるグルコースは、特に限定されず、例えば、市販品のグルコース(例えば、日本食品化工社製等)を使用することもできる。また、グルコース含有製品(例えば、異性化糖、水飴、デンプン加水分解物等)を使用してもよい。
【0032】
本技術は、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いることが好適である。チオシアン酸が既に存在する適用領域(例えば、口腔内等)に対して本技術を使用する場合、その適用領域にチオシアン酸又はその塩を添加しなくともよく、また、チオシアン酸又はその塩を本技術の抗真菌用組成物に含有させていなくともよい。当該チオシアン酸又はその塩を必要に応じて添加する場合、市販品(例えば、Merck Millipore社製)を用いることができる。塩は特に限定されず、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、鉄(III)塩等が挙げられる。
【0033】
チオシアン酸又はその塩が存在しない適用領域に対して本技術を使用する場合、その適用領域にチオシアン酸又はその塩を別途添加すること、又はチオシアン酸又はその塩を本技術の抗真菌用の組成物に含有させることが望ましい。
また、本技術を適用させる領域に本技術のチオシアン酸又はその塩の量が不足する場合には、前記組成物に又はその適用領域にその不足分を別途添加することが望ましく、又は、不足するチオシアン酸又はその塩を前記組成物に含有させることが望ましい。
【0034】
本技術は、さらにpH調整成分を使用すること又は前記組成物に含有させることが、安定的な反応を行う観点から好ましい。また、本技術は、本技術の効果を損なわない範囲で、適宜任意成分を使用したり、前記組成物に配合してもよい。
本技術で使用するpH調整成分は、特に限定されないが、水溶媒に溶解させたときのpHが、好ましくは4.0~9.0、より好ましくは6.0~8.0、さらに好ましくは7.0~8.0である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
当該pH調整成分として、例えば、無機酸、有機酸及びこれらの塩等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。当該pH調整成分は、水溶性のものが好ましく、また市販の添加物や市販食品添加物を用いてもよい。
前記無機酸としては、リン酸、硝酸及び硫酸等が挙げられる。また、前記有機酸として、例えば、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、グルタミン酸等が挙げられる。また、塩として、アルカリ金属塩(リチウム、カリウム、ナトリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)等が挙げられる。
前記pH調整成分の群より選択される1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本技術の組成物におけるラクトフェリンの含有量は特に限定されないが、適用時におけるラクトフェリン濃度の下限値として、好ましくは2μg/mL以上、より好ましくは10μg/mL以上、より好ましくは15μg/mL以上、より好ましくは20μg/mL以上、さらに好ましくは30μg/mL以上、よりさらに好ましくは50μg/mL以上になるように調整することが好適である。当該ラクトフェリン濃度の上限値として、好ましくは10000μg/mL以下、より好ましくは5000μg/mL以下、さらに好ましくは1000μg/mL以下になるように調整することが好適である。適用時におけるラクトフェリン濃度範囲が、好ましくは2~2000μg/mL、より好ましくは8~2000μg/mL、より好ましくは30~1000μg/mL、さらに好ましくは30~500μg/mL、よりさらに好ましくは30~200μg/mLとなるように調整することが、コスト及び抗真菌作用の観点から、好適である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0036】
本技術におけるラクトパーオキシダーゼの含有量は特に限定されないが、適用時におけるラクトパーオキシダーゼ濃度の下限値として、好ましくは0.1μg/mL以上、より好ましくは0.3μg/mL以上、より好ましくは0.5μg/mL以上、より好ましくは1.0μg/mL以上、さらに好ましくは1.5μg/mL以上、よりさらに好ましくは6μg/mL以上、よりさらに好ましくは10μg/mL以上になるように調整することが好適である。また、当該ラクトパーオキシダーゼ濃度の上限値として、好ましくは1000μg/mL以下、より好ましくは250μg/mL以下、さらに好ましくは100μg/mL以下になるように調整することが好適である。さらに、当該濃度の範囲として、好ましくは0.1~1000μg/mL、より好ましくは0.5~1000μg/mL、さらに好ましくは1.5~100μg/mL、よりさらに好ましくは1.5~50μg/mLであり、コスト及び抗真菌作用の観点から、好適である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0037】
本技術におけるグルコースオキシダーゼの含有量は特に限定されないが、適用時におけるグルコースオキシダーゼ濃度の下限値として、好ましくは0.9μg/mL以上、より好ましくは2.0μg/mL以上、より好ましくは4.0μg/mL以上、より好ましくは10μg/mL以上、さらに好ましくは14μg/mL以上であり、よりさらに好ましくは60μg/mL以上となるように調整することが好適である。また、当該グルコースオキシダーゼ濃度の上限値として、好ましくは5000μg/mL以下、より好ましくは1500μg/mL以下、さらに好ましくは1000μg/mL以下となるように調整することが好適である。当該グルコースオキシダーゼ濃度の範囲として、好ましくは0.9~1500μg/mL、より好ましくは13~1500μg/mL、さらに好ましくは14~1000μg/mL、よりさらに好ましくは60~500μg/mLであり、コスト及び抗真菌作用の観点から、好適である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0038】
本技術におけるグルコースの含有量は特に限定されないが、適用時におけるグルコース濃度の下限値として、好ましくは1μg/mL以上、より好ましくは2μg/mL以上、好ましくは4μg/mL以上、より好ましくは8μg/mL以上、さらに好ましくは10μg/mL以上、さらに好ましくは15μg/mL以上、よりさらに好ましくは65μg/mL以上になるように、また、当該グルコース濃度の上限値として、好ましくは10000μg/mL以下、より好ましくは5000μg/mL以下、さらに好ましくは3000μg/mL以下になるように調整することが好適である。当該グルコース濃度の範囲として、より好ましくは10~2000μg/mL、さらに好ましくは15~1000μg/mL、よりさらに好ましくは65~500μg/mLになるように調整することが、コストの観点、使用感の観点及び抗真菌作用向上の観点から、好適である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0039】
本技術におけるLPO反応系成分の含有量は特に限定されないが、適用時におけるLPO反応系成分濃度の下限値として、好ましくは1μg/mL以上、より好ましくは4μg/mL以上、より好ましくは8μg/mL以上、より好ましくは15μg/mL以上、さらに好ましくは20μg/mL以上、さらに好ましくは30μg/mL以上、よりさらに好ましくは125μg/mL以上になるように、また当該LPO反応系成分濃度の上限値として、好ましくは10000μg/mL以下、より好ましくは5000μg/mL以下、さらに好ましくは3000μg/mL以下になるように調整することが好適である。当該LPO反応系成分濃度の範囲として、好ましくは1~4000μg/mL、より好ましくは20~4000μg/mL、さらに好ましくは30~2000μg/mL、よりさらに好ましくは125~1000μg/mLになるように調整することが、抗真菌作用向上の観点から、好適である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0040】
本技術におけるチオシアン酸又はその塩の濃度は特に限定されないが、適用時におけるチオシアン酸又はその塩の濃度は好ましくは0.1~100mM、より好ましくは0.2~60mM、さらに好ましくは0.3~20mMになるように調整することが好適である。当該濃度に満たない場合には、チオシアン酸又はその塩をこの濃度になるように、前記組成物に添加してもよいし、また使用領域に使用してもよい。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0041】
本技術における各有効成分の含有量は、その形態に応じて適した適用領域及び適用濃度になるように設計することができる。本技術における各有効成分の含有量は、例えば口腔内に適用した際に唾液中の濃度となるように設計してもよいし、また皮膚に適用した際に適用濃度となるように設計してもよい。また、本技術における各有効成分の含有量の単位は上述のように「μg/mL」でもよいし、その剤形に応じて設計することができ、「μg/g」であってもよい。
【0042】
本技術の抗真菌用組成物中のラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースの含有量として以下の例が挙げられる。
前記組成物におけるラクトフェリンの含有量は、好ましくは1~80質量%であり、より好ましくは5~60質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。
前記組成物におけるラクトパーオキシダーゼの含有量は、好ましくは0.1~50質量%であり、より好ましくは0.5~10質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。
前記組成物におけるグルコースオキシダーゼの含有量は、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは3~30質量%であり、さらに好ましくは5~20質量%である。
前記組成物におけるグルコースの含有量は、グルコースオキシダーゼの基質として十分量であれば良いが、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは5~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。
なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0043】
また、前記各有効成分の含有量の範囲は、適宜製品形態の使用するときの使用濃度に応じて調整できることが可能である。
例えば、皮膚又は膣等への使用を想定することが好適であり、このような皮膚外用剤又は医薬品等の形態として、例えば、洗浄液、スプレー液、錠剤、フィルム等が例示されるがこの例示に限定されるものではない。
また、オーラルケア用品の使用を想定することが好適であり、当該オーラルケア用品として、例えば、洗浄液、スプレー液、錠剤、錠菓、ガム、キャンディ、フィルム等が例示されるがこの例示に限定されるものではない。
【0044】
本技術におけるラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースの各使用量及び各使用割合は、特に限定されず、上述の各濃度又は各含有量を組み合わせてもよい。
【0045】
本技術におけるラクトパーオキシダーゼとラクトフェリンの使用質量比(ラクトパーオキシダーゼ:ラクトフェリン)は、好ましくは1:1000~10:1であり、より好ましくは1:100~5:1であり、さらに好ましくは1:50~4:1であり、さらに好ましくは1:20~2:1である。特に好ましくは1:20~1:1である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0046】
本技術におけるラクトパーオキシダーゼとグルコースオキシダーゼの使用質量比(ラクトパーオキシダーゼ:グルコースオキシダーゼ)は、好ましくは1:1000~10:1であり、より好ましくは1:100~5:1であり、さらに好ましくは1:50~4:1であり、さらに好ましくは1:20~1:1である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0047】
本技術におけるグルコースオキシダーゼとグルコースの使用質量比(ラクトパーオキシダーゼ:グルコース)は、好ましくは1:100~1:1であり、さらに好ましくは1:20~1:4である。より好ましくは1:16~1:10である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0048】
本技術において、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースの使用質量比(ラクトパーオキシダーゼ:グルコースオキシダーゼ:グルコース)は、好ましくは1:5~10:9~16、より好ましくは1:8~10:9~13である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0049】
<本技術の用途>
後記〔実施例〕に示すように、本技術のラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースは、チオシアン酸又はその塩の存在下で、抗真菌作用、真菌代謝能抑制作用、抗カンジダ作用及びカンジダ代謝能抑制作用等(以下、「抗真菌作用等」ともいう)を有する。
よって、本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系は、抗真菌作用、真菌代謝能抑制作用、抗カンジダ作用及びカンジダ代謝能抑制作用等を有する。
【0050】
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)は、長期間に渡り真菌に起因する症状又は疾患(好適にはカンジダ症)を予防、治療又は改善できる。本技術は、皮膚使用、経口投与、経口摂取又は口腔内使用等の態様で使用することが可能である。
また、本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)は、飲食、飼料、化粧、皮膚外用、口腔ケア等の種々の用途に使用できる。当該用途に係る組成物としては、飲食品、飼料、医薬品、医薬部外品、化粧品、衛生用品を例示することができる。
【0051】
また、本技術は、ヒト、及び非ヒト動物(好適には、哺乳類、鳥類、爬虫類等)等に適用することができる。このうち、ヒト及びペットが好ましく、より好ましくはヒトである。また、本技術の各有効成分は長い食経験があり、安全性が高いことが知られているため、本技術は老若男女を問わず適用することができ、体力が低下した者、虚弱体質の者、高齢者及び乳幼児により好適である。
また、本技術の適用部位は特に限定されないが、例えば、皮膚(例えば、角質層爪等)、粘膜(目の粘膜、口腔内、膣等)等に適用することができる。
【0052】
また、本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)は、真菌症又は日和見感染症に対する予防、治療又は改善等に使用することが可能である。真菌症として、例えば、乾癬、カンジダ症等が挙げられる。カンジダ症を引き起こす病原体として、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)等が挙げられる。
【0053】
ここで、一般的に、真菌症には、皮膚、粘膜や爪等に生じる表在性真菌症、真皮や皮下組織に生じる深部皮膚真菌症、日和見感染症として肺や腸管等の全身の各臓器に生じる深在性真菌症に大きく分類されている。
真菌症の発生頻度の高い発症部位として、例えば、角化組織(例えば表皮、毛髪、爪等)、皮膚に隣接する粘膜部位(例えば、口腔、膣等)等が一般的に知られている。
代表的な真菌症として、皮膚糸状菌症(乾癬)及びカンジダ症等が挙げられる。当該カンジダ症として、例えば、口腔カンジダ症、食道・腸管カンジダ症、外陰膣カンジダ症等が一般的に知られている。
また、このほかの真菌症として、アスペルギルス属の真菌の胞子が吸入され呼吸器や血管など全身で増殖することで発症するアスペルギルス症、トリコフィトン属の皮膚糸状菌によって引き起こされる白癬症、クリプトコックス属の真菌が肺や皮膚に感染して病巣を形成することで生じるクリプトコックス症等も一般的に知られている。
【0054】
近年、真菌症の原因として、例えば、広域抗生物質、抗がん剤、臓器移植による免疫抑制剤、経口避妊薬等の多くの薬剤の投与、及び高カロリー輸液や留置カテーテル等の使用等も挙げられるようになってきている。
さらに、飲み込む(嚥下)機能が低下したときに発生する誤嚥等が、このとき口腔のカンジダ等の真菌が呼吸器に移行することで肺真菌症又は誤嚥性肺炎の原因になっている。この誤嚥等は食事や飲料摂取中に多くみられるが、就寝中に唾液が流れ込む不顕性誤嚥もある。また、誤嚥等は、飲み込む力が低下した高齢者や介護者に多くみられるが、アルコールの飲み過ぎ等によって喉の筋肉が緩んでいるときにも起こるため若いヒトにもみられる場合もある。
【0055】
これら真菌症を引き起こす病原体のうち、カンジダは主要な日和見感染菌として知られており、カンジダは宿主側の免疫低下により口腔や粘膜等で真菌症を引き起こすことが知られている。また、口腔のカンジダが誤嚥等で呼吸器に移行することで肺真菌症や誤嚥性肺炎の原因となることが知られている。
【0056】
また、本技術のラクトフェリンは、後記〔実施例〕に示すように、次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)による抗真菌作用等を増強する作用を有するので、次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)による抗真菌作用等を増強するために、使用することもできる。当該ラクトフェリンは、より好適には、次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)による抗カンジダ作用等を増強させるために使用することができる。
【0057】
さらに、本技術の次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)は、後記〔実施例〕に示すように、ラクトフェリンによる抗真菌作用等を増強する作用を有するので、ラクトフェリンによる抗真菌作用を増強するために使用することもできる。当該次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)は、好適には、ラクトフェリンによる抗カンジダ作用等を増強させるために使用することができる。
【0058】
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)を用いて、上述した前記組成物を製造する場合、これらの有効成分としての含有量は、通常0.005~20質量%であり、好ましくは0.005~12.5質量%である。なお、前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0059】
上述した前記組成物を使用者が1回当たり使用する量は、使用者の性別、年齢、状態等に応じて適宜決定することができる。
上述した前記組成物の使用量は、上述した、本技術におけるラクトフェリンの濃度、次亜チオシアン酸産生系成分の濃度(好適には、LPO反応系成分の各濃度)になるように、同時期に又は別々に使用することができる。また、上述した前記組成物の使用量は、上述したチオシアン酸又はその塩の濃度になるようにさらに調整することがより好ましい。
【0060】
上述した前記組成物は、水溶液組成物の形態としてもよいし、固形組成物の形態としてもよい。
【0061】
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系成分(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系成分)の併用は、水存在下で行うことが好ましい。このため、適用領域では、本技術の組成物は、水を含んだ状態になっていることが好ましい。
【0062】
本技術は、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)を、対象者又は適用領域に使用することによって、上述した抗真菌作用(より好適には抗カンジダ作用)等を発揮させる方法である。このとき、これら各成分を、対象者又は適用領域に順次添加する形態としてもよい。当該適用の方法として、噴霧、塗布、接触等が挙げられる。
【0063】
本技術は、上述した各成分の濃度範囲において抗真菌作用を発揮する。そのため、本技術において、真菌が存在する領域を処理する際のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)の各濃度は、上述した濃度範囲内であることが好ましい。また、チオシアン酸又はその塩の濃度についても上述した濃度範囲内であることが好ましい。通常口腔内にはチオシアン酸が存在しており、口腔内に存在するこのチオシアン酸量で本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、LPO反応系)が作用し、抗真菌作用を発揮できる。
【0064】
本技術の実施態様は特に限定されず、以下の<飲食品及び飼料>、<口腔内に適用する組成物>、<医薬>、<皮膚外用剤又は化粧組成物>等を例示することができるが、別の実施態様も可能である。
【0065】
<飲食品及び飼料>
本技術の組成物は、飲食品又は飼料として用いることが可能である。なお、当該用法及び用量は、上述した用法及び用量を採用することができる。
本技術に用いられるラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)の併用は、上述した抗真菌等に用いるためのヒト若しくは動物用の飲食品、健康食品、機能性食品、病者用食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、流動食等(以下、「飲食品等」ともいう)の有効成分として、これらに配合して使用可能である。
【0066】
例えば、本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)の併用は、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子類、飲料、これら以外の市販食品や、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等に添加して用いることができる。飲食品の形態は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず用いることができる。
【0067】
本技術で定義される飲食品等は、特定の用途(特に保健の用途)や機能が表示された飲食品として提供・販売されることも可能である。
本技術の飲食品は、上述した抗真菌等に用いるため、又は誤嚥等により生じる真菌症を予防・治療・改善に用いるため、の保健用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。かかる表示としては、例えば、「オーラルケアを期待する方」、「お口の健康が気になる方」等と表示することが挙げられる。
【0068】
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明の「表示」行為に該当する。
【0069】
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0070】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0071】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0072】
上記飲食品の例示として発酵飲食品も含まれるが、当該発酵飲食品の製造の際に、本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)を配合してもよい。さらに、蔗糖等の甘味料、ペクチン、果実、フルーツジュース、寒天、ゼラチン、油脂、香料、着色料、安定剤、還元剤等を添加してもよい。また、発酵飲食品は、適宜、容器に充填してもよい。
上述した発酵飲食品の製造方法で得られた発酵飲食品は、通常の発酵飲食品と同様に適宜加工することができる。
上述にて得られた発酵飲食品には、本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)が含まれており、これにより本技術の効能を良好に発揮することができる。
【0073】
また、本技術は、上述した抗真菌等に用いるための動物用の飼料の有効成分として、使用可能である。本技術は、公知の飼料に添加して調製することもできるし、飼料の原料中混合して新たな飼料を製造することもできる。
前記飼料の原料としては、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦等の穀類;ふすま、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕脱脂粉乳、ホエー、魚粉、骨粉等の動物性飼料類;ビール酵母等の酵母類;リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;アミノ酸類;糖類等が挙げられる。また、前記飼料の形態としては、例えば、愛玩動物用飼料(ペットフード等)、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
【0074】
<口腔内に適用する組成物>
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)は、口腔内に適用する組成物として用いることが可能である。これにより、カンジタ症等の真菌症の予防、改善又は治療に有効である。また、症状が発生しやすい患部(口腔、咽頭等)に直接使用することが望ましい。
なお、本技術の用法及び用量は、上述した用法及び用量を採用することができる。
【0075】
本技術の口腔内に適用する組成物として、特に限定されないが、例えば、口腔内に適用する飲食品若しくは飼料、口腔内に適用する医薬品、口腔内に適用する医薬部外品、口腔内に適用する化粧品、口腔内に適用する衛生用品、又は口腔内に適用するデオドラント製品等の口腔用の各種製品を例示することが出来る。
これらの具体的な使用形態として、以下に限定されるものではないが、例えば、歯磨き剤、とろみ剤、トローチ、マウスウォッシュ、マウススプレー、ジェル、フィルム、義歯洗浄剤、口腔内殺菌剤等が挙げられる。
また、介護カテゴリの製品として、例えば、とろみ剤、ウェットティッシュ、口腔ケア用品の効果増強のための添加剤(マウススポンジ、ブラシ、スワブ、舌ブラシ、マウスピース、嚥下トレーニング用品、舌トレーニング用品など)等を例示することもできる。
【0076】
本技術の口腔内に適用する組成物の投与対象は、通常、ヒトであることが好ましいが、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ヒツジ、ブタ等の家畜(好適にはペット)も可能である。
【0077】
使用形態(又は製剤)としては、固体製剤及び液体製剤のいずれの形態でもよく、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、注射剤、粉末剤、噴霧製剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
本技術の口腔内に適用する組成物は、飲食品上又は製薬上で許容可能な担体を含んでいてもよい。かかる担体には、賦形剤又は希釈剤が含まれ、例えば、デキストラン類、サッカロース、ラクトース、マルトース、キシロース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアガム、グアーガム、トラガカント、アクリル酸コポリマー、エタノール、生理食塩水、リンゲル液等が挙げられる。
【0079】
前記担体に加えて、必要に応じて防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調整剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、抗酸化剤等の添加剤を加えることができる。これらの添加剤は、飲食品又は製薬の際に使用されるものが好ましい。
【0080】
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)を有効成分として含む口腔内に適用する組成物は、口腔用組成物の技術分野において慣用の方法又はそれに準じる方法に従って製造することができる。また、他の口腔のために使用される成分を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
本技術に係る、上述した口腔内における抗真菌等に用いるため、又は誤嚥等により生じる真菌症の予防等のための口腔内に適用する組成物は、他の口腔剤や抗真菌剤と組み合わせて使用してもよい。組み合わせて使用する口腔剤や抗真菌剤は、当該組成物の投与と同時に、投与前に、あるいは投与後のいずれかの時点で投与することができる。その投与量は特に限定されないが、市販の口腔剤や抗真菌剤である場合、口腔ケア用品や抗真菌剤メーカーによって指示される投与量であることが好ましい。
【0082】
このように、本技術は、飲食品、機能性食品、飼料、医薬品、医薬部外品、化粧品、衛生用品、口腔ケア、デオドラント製品等の幅広い分野に使用することができる。
【0083】
<医薬>
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO反応系)は、医薬用途に用いることが可能である。これにより、白癬、カンジタ症、クリプトコッカス症、アスペルギルス症等の真菌症の予防、改善又は治療に有効である。また、当該医薬を、表在性真菌症、深部皮膚真菌症、日和見感染症、角膜真菌症等に適用することができる。また、適用部位として、皮膚(例えば、毛、爪、肌(表皮及び真皮)、陰部、脇等)、及び粘膜(例えば、膣、目の粘膜等)が挙げられ、症状が見られる患部に直接使用することが望ましい。
また、本技術の医薬は、経口投与する製剤、口腔内に適用する製剤、注射により投与する製剤、透析に用いる製剤、気管支・肺に適用する製剤、目に投与する製剤、耳に投与する製剤、鼻に適用する製剤、直腸に適用する製剤、腟に適用する製剤、又は外用製剤の態様において利用することができる。
なお、ここでいう「医薬」は、本技術における医薬品及び医薬部外品の態様を含むものである。また、医薬用途における本技術の用法及び用量は、上述した用法及び用量を採用することができる。
【0084】
投与経路は、例えば経口投与、経粘膜投与、鼻腔内投与、直腸内投与等が挙げられる。このうち、経口投与(経口摂取)が好ましい。
なお、投与対象は、通常、ヒトであることが好ましいが、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ヒツジ、ブタ等の家畜も含むものとする。
【0085】
投与形態(又は製剤)としては、固体製剤及び液体製剤のいずれの形態でもよく、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、注射剤、粉末剤、噴霧製剤等が挙げられる。
【0086】
本技術の医薬は、製薬上許容可能な担体を含んでいてもよい。かかる担体には、賦形剤又は希釈剤が含まれ、例えば、デキストラン類、サッカロース、ラクトース、マルトース、キシロース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアガム、グアーガム、トラガカント、アクリル酸コポリマー、エタノール、生理食塩水、リンゲル液等が挙げられる。
【0087】
前記担体に加えて、必要に応じて防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調整剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、抗酸化剤等の添加剤を加えることができる。これらの添加剤は、製薬の際に使用されるものが好ましい。
【0088】
本技術のラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系(好適には、ラクトフェリン及びLPO組成物)を有効成分として含む医薬を製造する際は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。
【0089】
本技術に係る、上述した抗真菌等に用いるため、又は誤嚥等により生じる真菌症の予防等のための医薬は、他の医薬品と組み合わせて使用してもよい。組み合わせて使用する医薬品は、本技術の組成物の投与と同時に、投与前に、あるいは投与後のいずれかの時点で投与することができる。その投与量は特に限定されないが、市販の医薬品である場合、医薬メーカーによって指示される投与量であることが好ましい。
【0090】
<皮膚外用剤又は化粧組成物>
本技術の皮膚外用剤又は化粧組成物には、本技術の効果を妨げない範囲内で通常の皮膚外用剤又は化粧組成物に配合される他の成分を配合することができる。本技術の皮膚外用剤又は化粧組成物は、当該技術分野において慣用の方法に従って、製造することができる。
【0091】
他の成分としては、例えば、固形油、植物脂、シリコーン化合物、一価低級アルコール、多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸、有機粉体、無機粉体、水溶性高分子、皮膜形成剤、界面活性剤、増粘剤、ゲル化剤、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、防腐剤、抗菌剤、抗炎症剤、香料、抗酸化剤、pH調整剤、キレート剤、ビタミン類、植物エキス等を配合することができる。
【0092】
本技術の皮膚外用剤又は化粧組成物の形態として、本技術の効果を損なわない範囲内で、例えば、デオドラント剤、化粧水、乳液、クリーム、アイクリーム、美容液、マッサージ料、パック料、ハンドクリーム、ボディクリーム、クレンジング料、頭皮ケア料等の皮膚用の化粧品や医薬部外品等として使用することができる。
【0093】
皮膚外用剤又は化粧組成物の適用部位は、好適には真菌症が発生しやすい皮膚(例えば、頭、脇、肌、爪、髪、陰部等)に適用することが好適である。これにより、真菌症を予防、改善又は治療することが可能である。当該真菌症として、例えば、白癬及びカンジタ症等が挙げられる。
適用の方法は限定されないが、本技術の組成物を手や指で直接肌に塗布する方法;当該組成物を不織布等に含浸させて塗布する方法;当該組成物をスプレー状又はフォーム状にして皮膚上に吐出させ塗布する方法;当該組成物を皮膚上に噴霧する方法等を挙げることができる。
【0094】
このように、本技術は、幅広い分野に使用することができる。
【0095】
また、本技術は以下の構成を採用することもできる。
〔1〕ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系を有効成分として、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられる、真菌症、又は真菌に起因する症状若しくは疾患の予防、治療又は改善方法。
〔2〕抗真菌用組成物の製造のための、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系の使用。
〔3〕抗真菌のための、又は、真菌症の予防、治療若しくは改善のための、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系。
〔4〕抗真菌のための、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系の使用。
〔5〕ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを有効成分として含み、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられる、抗真菌用組成物。
〔6〕ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを有効成分として、チオシアン酸又はその塩の存在下で用いられる、真菌症、又は真菌に起因する症状若しくは疾患の予防、治療又は改善方法。
〔7〕抗真菌用組成物の製造のための、ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースの使用。
〔8〕抗真菌のための、ラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコース、又はその使用。
〔9〕ラクトフェリンを含む剤と、ラクトパーオキシダーゼを含む剤とを少なくとも有する、ラクトフェリン及びLPO反応系を用いる抗真菌用の剤キット。
〔10〕ラクトフェリンを有効成分とする、LPO反応系による抗真菌作用を増強する組成物。
〔11〕ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースを有効成分とする、ラクトフェリンによる抗真菌作用を増強する組成物。
【0096】
〔12〕飲食品、飼料又は口腔内用組成物である、〔5〕~〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔13〕医薬、化粧組成物又は皮膚外用剤である、〔5〕~〔11〕のいずれかに記載の組成物。
〔14〕真菌がカンジダである、〔5〕~〔13〕のいずれかに記載の組成物。
〔15〕ラクトパーオキシダーゼとラクトフェリンの使用質量比が1:1000~10:1である、〔5〕~〔14〕のいずれかに記載の組成物。
〔16〕ラクトパーオキシダーゼとグルコースオキシダーゼの使用質量比が1:1000~10:1である、〔5〕~〔15〕のいずれかに記載の組成物。
〔17〕グルコースオキシダーゼとグルコースの使用質量比が1:100~1:1である、〔5〕~〔16〕のいずれかに記載の組成物。
〔18〕ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースの使用質量比が1:5~10:9~16である、〔5〕~〔17〕のいずれかに記載の組成物。
【実施例
【0097】
以下に、試験例、実施例及び比較例等を用いて本技術をさらに詳しく説明するが、本技術はこれら試験例、実施例等に限定されるものではない。
【0098】
[試験例1]
(1)試料の調製
ウシ・ラクトフェリン(森永乳業社製)を精製水に溶解して5質量%のラクトフェリン溶液(原液)を調製した。
ラクトパーオキシダーゼ(DOMO社製)、グルコースオキシダーゼ(新日本化学工業社製)及びグルコース(ナカライテスク社製)を各原料、質量比がラクトパーオキシダーゼ:グルコースオキシダーゼ:グルコース=1:9:10となるように各原料を混合してLPO反応系成分(原液)を調製した。
0.66mMチオシアン酸ナトリウムを含む40mMリン酸緩衝液(pH7.7)を用いた。
【0099】
〔方法〕
96穴平底プレートの各ウェルにC. albicans菌液100μLを添加した後、種々の濃度のLF溶液、種々の濃度のLPO反応系成分、チオシアン酸溶液計100μLを入れ、COインキュベータで37℃、16時間インキュベートした。その後、酸化還元試薬であるAlamarBlue染色液を各ウェルに分注し、さらに26時間インキュベートし、代謝能を吸光度(570nm/594nm)で定量した。
なお、各ウェルに、表1に示すように、LF原液を最終濃度0、125、500、2000μg/1mLになるように、LPO反応系成分原液を最終濃度0、125、500μg/1mLになるように添加し、12通りの試料を設定した。また、低濃度の条件として、表2に示すように、LF原液を最終濃度0、7.5、31.25、125μg/1mLになるように、LPO反応系成分原液を最終濃度0、31.25、125μg/1mLになるように添加し、さらに12通りの試料を設定した。これらとき、各ウェルのチオシアン酸ナトリウムは、0.6mMとした。
【0100】
〔結果〕
LF単独及びLPO反応系成分単独のいずれでもカンジダ代謝能抑制効果を示さなかった一方、LFとLPO反応系成分の併用物は低濃度の条件でもカンジダ代謝能をほぼ完全に抑制した(表1、表2)。
【0101】
また、上記12通りの試料について16時間インキュベート終了後に、顕微鏡にてC. albicansの形態を観察したところ、LF単独及びLPO反応系成分単独では、無添加条件に比べて菌糸が短くなるなどの変化が観察されたが限定的であった(図1)。一方、LFとLPO反応系成分の併用物では明らかに形態が変化し、菌糸が少なくなっていることが観察された。なお、図1の代謝能抑制効果の結果には示していないが、形態観察の結果より、LF濃度を2μg/mLに低下させても、LPO反応系成分2~31.25μg/mLと組み合わせると、菌糸が減少することも確認した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
上述のように、LF及びLPO反応系成分の各単独ではほとんど抗真菌作用を発揮しなかったにもかかわらず、LF及びLPO反応系成分を併用することによって劇的に抗真菌作用を発揮した。LF及びLPO反応系成分の各単独ではほとんど抗真菌作用を発揮し得なかったことからすると、当該併用成分であるラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースによる抗真菌作用はもはや異質な効果と云える。
【0105】
具体的には、LF及びLPO反応系成分の混合物(LPO反応系成分:31.25μg/mL及びLF:31.25μg/mL)は、LPO反応系成分単独(LPO反応系成分:500μg/mL)の約4倍以上かつLF単独(LF:2000μg/mL)の約15倍以上の抗真菌作用を有しており、しかもこのときの真菌の代謝能抑制率をほぼ100%にまで増強できた。
【0106】
以上のことから、ラクトフェリン及びLPO反応系成分の併用は、非常に優れた真菌代謝能抑制作用及び抗真菌作用を有する。すなわち、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系の併用は、非常に優れた真菌代謝能抑制作用及び抗真菌作用を有する。
【0107】
さらに、ラクトフェリン及びLPO反応系成分の併用は、低用量でも真菌代謝能を著しく低下させることができる。また、低用量で使用可能であるので、ラクトフェリン及びLPO反応系成分のそれぞれの使用量の低減化も可能である。さらに、ラクトフェリン及びLPO反応系成分の両方とも食経験が長いので、安全性が高く、長期間の使用も可能である。また、ラクトフェリン及びLPO反応系成分の併用は、真菌の薬剤耐性化の可能性も低いと考える。
【0108】
<処方例>
以下に本技術の処方例の一例を挙げるが、本技術はこれに限定されるものではない。
【0109】
〔処方例1(飲食品用)〕
グミ飲食品中に、LF及びLPO反応系成分を、それぞれLPO反応系成分31.25μg/g、及びLF31.25μg/gになるように配合して、抗真菌用の飲食品を製造する。
抗真菌用グミは、抗真菌作用(抗カンジタ作用)を期待することができる。
【0110】
〔処方例2(口腔ケア用)〕
口腔スプレー中に、LF及びLPO反応系成分の混合物を、それぞれLPO反応系成分31.25μg/mL、及びLF31.25μg/mLになるように配合して、抗真菌用スプレー液を製造する。
抗真菌用スプレー液は、口腔内や咽頭において抗真菌作用(抗カンジタ作用)を期待することができる。
【0111】
〔処方例3(口腔ケア用)〕
増粘剤を含むとろみ剤中に、LF及びLPO反応系成分の混合物を、それぞれLPO反応系成分31.25μg/mL、及びLF31.25μg/mLになるように配合して、口腔ケア用の抗真菌用とろみ剤を製造する。
抗真菌用とろみ剤を経口摂取することで、又は、対象者の唇や口腔内若しくは経口チューブに塗布することで、口腔内の抗真菌作用(抗カンジタ作用)を期待することができ、特に肺真菌症や誤嚥性肺炎の予防が期待できる。
【0112】
〔処方例4(医薬用)〕
医薬の一例として、抗真菌薬剤中に、LF及びLPO反応系成分の混合物を、それぞれLPO反応系成分31.25μg/g、及びLF31.25μg/gになるように配合して、抗真菌剤(例えば、点眼剤、軟膏、錠剤)を製造する。
また、医薬の一例として、抗真菌薬剤中に、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系を配合して、抗真菌薬剤(例えば、点眼剤、軟膏、錠剤)を製造する。
抗真菌薬剤は、抗真菌作用(抗カンジタ作用)を期待することができる。
【0113】
〔処方例5(皮膚外用)〕
皮膚外用剤の一例として、皮膚用スプレー液中に、LF及びLPO反応系成分の混合物を、それぞれLPO反応系成分31.25μg/mL、及びLF31.25μg/mLになるように配合して、皮膚に噴霧する抗真菌用スプレー液を製造する。
皮膚外用剤の一例として、皮膚用スプレー液中に、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系を配合して、皮膚に噴霧する抗真菌用スプレー液を製造する。
抗真菌用スプレー液を皮膚(脇、陰部、頭皮等)に噴霧することで、皮膚に存在する真菌に対して、抗真菌作用(抗カンジタ作用)を期待することができる。
【0114】
〔処方例6(医薬用)〕
医薬の一例として、乳液に、LF及びLPO反応系成分の混合物を、それぞれLPO反応系成分31.25μg/mL、及びLF31.25μg/mLになるように配合して、抗真菌作用が付与された乳液を製造する。
医薬の一例として、乳液に、ラクトフェリン及び次亜チオシアン酸産生系を配合して、抗真菌作用が付与された乳液を製造する。
抗真菌作用が付与された乳液を、肌に塗布することで、肌での抗真菌作用(抗カンジタ作用)を期待することができ、肌トラブルになる真菌症の予防が期待できる。
図1