(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】生地搬送システム
(51)【国際特許分類】
B65H 5/00 20060101AFI20230519BHJP
B65H 29/00 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B65H5/00 Z
B65H29/00
(21)【出願番号】P 2019208118
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】599064214
【氏名又は名称】株式会社セガトイズ
(73)【特許権者】
【識別番号】506125812
【氏名又は名称】株式会社レイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】加藤 茂紀
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-030224(JP,U)
【文献】特開昭62-153035(JP,A)
【文献】特開平10-129866(JP,A)
【文献】特開平07-228396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00- 3/68
B65H 5/00
B65H 29/00
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地に当接する第1の生地当接面を有し、複数本の第1の針を
前記第1の生地当接面から突出させて生地に刺すことによって
前記第1の生地当接面に生地を保持した状態と、前記第1の針を没入させて生地に針が刺さらない状態とに切り替え可能な第1の保持装置と、
生地に当接する第2の生地当接面を有し、複数本の第2の針を
前記第2の生地当接面から突出させて生地に刺すことによって
前記第2の生地当接面に生地を保持した状態と、前記第2の針を没入させて生地に針が刺さらない状態とに切り替え可能な第2の保持装置と、
前記第1の生地当接面に保持された生地を、
前記第1の生地当接面と前記第2の生地当接面とで挟み込むように、前記第1の保持装置
と前記第2の保持装置とを相対的に移動させる移動装置と、
を備えている生地搬送システム。
【請求項2】
前記第1の針と前記第2の針との干渉を防止する干渉防止手段を備えている、
請求項1に記載の生地搬送システム。
【請求項3】
前記干渉防止手段は、
前記第1の保持装置と前記第2の保持装置とで前記生地を挟み込む位置にある場合に、前記第1の針と前記第2の針との位置がずらしてある、
請求項2に記載の生地搬送システム。
【請求項4】
前記干渉防止手段は、
前記第1の保持装置と前記第2の保持装置とで前記生地を挟み込む位置にある場合に、前記挟み込むことにより、前記生地が保持されるものであり、
前記第1の針と前記第2の針とが同時に突出した状態を回避するように、前記第1の針と前記第2の針との突出及び没入のタイミングが調整されている、
請求項2に記載の生地搬送システム。
【請求項5】
前記生地は、第1の生地と第2の生地との一部が縫製され、かつ第1の生地と第2の生地とを前記縫製された部分を中心として展開した縫製生地であり、
前記移動装置は、前記第1の保持装置を、前記第1の生地と前記第2の生地とのそれぞれに、異なる前記第1の針が突き刺さる位置に移動させ、
前記移動装置は、前記第1の保持装置を、前記第2の保持装置とともに前記縫製生地を挟み込む位置に移動させる場合に、前記第1の生地と前記第2の生地とのそれぞれに、異なる前記第2の針が突き刺さる位置に移動させる、
請求項1~4のいずれか1項に記載の生地搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生地を利用した製品を製造する場合に、生地を搬送する搬送装置が用いられることがある。搬送装置は、複数の針を出没させる機構を備えている。針を突出させて生地に針を突き刺すことにより生地を搬送装置に保持することができる。第1位置において生地を保持し、生地を第2位置まで搬送した後、針を没入させることにより生地を保持状態から解放する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記搬送装置では、生地を単に第1位置から第2位置に移動させるだけであった。そのため、第1位置から第2位置までの距離が長い場合には、搬送装置が大袈裟なものになり得る。また、第1位置と第2位置とが異なる製造装置による製造工程に対応した位置である場合、搬送装置が異なる製造装置に跨って配置されていなければならず、各製造工程で機械を分離できないことが問題になる場合もある。さらに、生地を反転させるには、単に生地を保持するだけでは足りず、結局は生地の反転作業を手作業によって行うことになって、生地を用いた製造ラインの自動化に支障が生じる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、自動化、省力化に適した生地の搬送態様を実現し得る生地搬送システムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明の生地搬送システムは、
複数本の第1の針を突出させて生地に刺すことによって生地を保持した状態と、前記第1の針を没入させて生地に針が刺さらない状態とに切り替え可能な第1の保持装置と、
複数本の第2の針を突出させて生地に刺すことによって生地を保持した状態と、前記第2の針を没入させて生地に針が刺さらない状態とに切り替え可能な第2の保持装置と、
前記第1の保持装置によって保持された生地を、前記第1の保持装置と前記第2の保持装置とで挟み込むように、前記第1の保持装置及び前記第2の保持装置とを相対的に移動させる移動装置と、
を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の生地搬送システムによれば、第1の保持装置によって保持された生地を第2の保持装置とで挟み込み、第1の保持装置では針を没入させ、第2の保持装置では針を生地に刺すことで、第1の保持装置から第2の保持装置へ生地の受け渡しが行われる。このような受け渡しが可能となれば、第1位置から第2位置へ生地を搬送する場合に、複数の保持装置によって搬送することにより、搬送システム全体の構成を簡素化することができる。また、搬送のための装置を製造工程ごとに分離することで、製造ラインにおける装置配置の自由度を高めることができる。さらに、生地に表裏がある場合には、第1の保持装置に保持された状態から、表裏反転した状態で第2の保持装置に生地が保持されるため、受け渡しによって生地を自動的に反転させることもできる。これらの点で、本発明の搬送システムは、生地の搬送を自動化したり省力化したりすることに適している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】第1保持装置(第2保持装置)を示す正面図であり、(a)は針を突出させた状態を示し、(b)は針を没入させた状態を示している。
【
図3】第1保持装置(第2保持装置)を示す底面図。
【
図5】第1保持装置から第2保持装置へ上肢パーツを受け渡すとともに反転させる動作を示す動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を具体化した一実施の形態の生地搬送システムについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「縦横」、「左右」及び「上下」は、各図に示された状態を基準としている。
【0010】
本実施形態の生地搬送システム10(
図1参照)は、人型ぬいぐるみの腕部分を構成する上肢パーツP(
図4参照)を搬送することに適用される。搬送対象となる上肢パーツPは、生地又は縫製生地に相当する。上肢パーツPは、腕パーツPaと手パーツPbとの一辺部が縫製されることにより形成されている。各パーツは、織物、編物、不織布等を素材とすることが可能であり、本実施形態ではフェルトを素材としている。
【0011】
図1のブロック図に示すように、生地搬送システム10は、コントローラ11と、第1保持装置12と、第2保持装置13と、エア給排装置14と、移動装置15とを備えている。
【0012】
コントローラ11は、生地搬送システム10の動作制御を司るものであり、CPU等を有する周知のマイクロコンピュータを主体に構成されている。第1保持装置12及び第2保持装置13は、それぞれ上肢パーツPを保持するためのものである。その具体的構成は後述する。エア給排装置14は、第1保持装置12及び第2保持装置13を駆動するためのエアの給排を行う。
【0013】
移動装置15は、第1保持装置12及び第2保持装置13をそれぞれ移動させるものである。例えば、6つの関節を有する6軸ロボット等の垂直多関節型の多軸ロボットである。なお、移動装置15は、第1保持装置12を有する多軸ロボットと、第2保持装置13を有する多軸ロボットとの2つの装置からなる場合だけでなく、双腕ロボットのように一つの装置からなる場合であってもよい。
【0014】
コントローラ11には、第1保持装置12と、第2保持装置13と、エア給排装置14と、移動装置15とがそれぞれ接続されている。コントローラ11は、予め設定された動作プログラムに基づいてこれら各装置を制御することにより、次の一連の搬送動作を制御する。はじめに、第1保持装置12による上肢パーツPの保持を行う。次に、上肢パーツPを保持した第1保持装置12を第2保持装置13への受け渡し位置へ移動させる。続いて、第1保持装置12に保持された上肢パーツPを第2保持装置13へ受け渡す。さらに続いて、第2保持装置13を移動させて、上肢パーツPを次の工程へ搬送する。
【0015】
第1保持装置12及び第2保持装置13は、本実施形態では、いずれも同じ装置が用いられている。当該装置12,13について、以下詳述する。
図2(a)に示すように、第1保持装置12及び第2保持装置13は、エアチャック20を備えている。
【0016】
エアチャック20のチャック本体21は縦方向に延び、その一端部には、一対のチャック爪22,23が設けられている。一対のチャック爪22,23は、横方向に、互いが近づいた第1位置と、互いに離間した第2位置とに移動可能となっている。そのうち、第1位置が基準位置となっている。
【0017】
チャック本体21の他端部には、エアの給排部24が設けられている。給排部24はエア給排装置14と配管Tを介して接続されており、エア給排装置14の駆動により給排部24にエアが給排される。このエア給排により、チャック爪22,23が第1位置又は第2位置に移動する。
【0018】
一対のチャック爪22,23には、それぞれの側方に針固定部材25,26が設けられている。両者は、ボルトB等によって固定されている。各針固定部材25,26は縦方向に沿って、チャック爪22,23の先端部よりも突出している。各針固定部材25,26の突出端部には、保持対象となる生地(上肢パーツP)に突き刺すための一対の針27,28が設けられている。
【0019】
図3にも示すように、各針固定部材25,26において、一対の針27,28は、チャック爪22,23が設けられた側から見て、縦方向に並んで設けられている。いずれも、縦方向における中央部よりも端部寄りの位置に設けられている。
図2(a)における左側のチャック爪22に設けられた第1針固定部材25が有する一対の針27と、右側のチャック爪23に設けられた第2針固定部材26が有する一対の針28とは、
図3に示すように、チャック爪22,23が設けられた側から見て横方向に並んで設けられている。全部で4つ設けられた針27,28を角に見立てた場合に、当該4つの針27,28によって横長の長方形が形成されるように、4つの針27,28が配置されている。
【0020】
また、左側のチャック爪22に設けられた第1針固定部材25において、一対の針27は、その尖端部が下方向かつ左斜め外方を向き、第1針固定部材25の下端面から突出するように設けられている。右側のチャック爪23に設けられた第2針固定部材26において、一対の針28は、その尖端部が下方向かつ右斜め外方向を向き、第2針固定部材26の下端面から突出するように設けられている。そのため、第1針固定部材25に設けられた一対の針27と、第2針固定部材26に設けられた一対の針28とは、チャック爪22,23が設けられた側から見て、その両者で逆V字をなすように設けられている。
【0021】
図2に戻り、チャック本体21には、移動規制部材29が固定されている。移動規制部材29は、一対のチャック爪22,23の移動方向(横方向)に沿って、チャック本体21からその左右両側方に突出している。移動規制部材29には、当該移動規制部材29に対して縦方向に相対移動する相対移動体30が設けられている。相対移動体30は、ガイド軸31,32、第1ストッパ33,34、係止部材35,36、第2ストッパ37,38及び当接板部41,42を有している。これらはいずれも一対ずつ設けられている。
【0022】
一対のガイド軸31,32は縦方向に延び、移動規制部材29の左右両端部にそれぞれ挿通されている。一対の第1ストッパ33,34は、各ガイド軸31,32の上側端部にそれぞれ設けられている。係止部材35,36は、各ガイド軸31,32の下側端部にそれぞれ設けられている。
【0023】
各係止部材35,36のうち左側の第1係止部材35は、第1針固定部材25の左側方に設けられている。第1係止部材35の右側部には、第1針固定部材25に向けて突出し、相対移動体30の相対移動を係止する第1係止部35aが設けられている。一方、右側の第2係止部材36は、第2針固定部材26の右側方に設けられている。第2係止部材36の左側部には、第2針固定部材26に向けて突出し、第1係止部35aとともに相対移動体30の相対移動を係止する第2係止部36aが設けられている。各第2ストッパ37,38は、各係止部材35,36の上端面にそれぞれ設けられている。各第2ストッパ37,38はそれぞれガイド軸31,32を挿通し、移動規制部材29との間に間隔を隔てて配置されている。
【0024】
一対の当接板部41,42のうち第1当接板部41は、第1針固定部材25の下方に設けられている。もう一方の第2当接板部42は、第2針固定部材26の下方に設けられている。両当接板部41,42の下面は面一となっており、当該下面が生地当接面43となっている。
図3の底面図(
図2において下方向から見た図)に示すように、第1当接板部41の横幅は第2当接板部42のそれよりも小さく形成されている。これは、後述するように、各当接板部41,42の当接対象の大きさが異なるためである。
【0025】
一対の当接板部41,42の間には、貫通孔部44が形成されている。貫通孔部44は、左右中央よりも左側にずれている。貫通孔部44の奥には、
図2(a)に示すように、空間部45が確保されている。第1当接板部41は第1係止部材35の下端面と連結され、第2当接板部42は第2係止部材36の下端面と連結されている。両当接板部41,42は、相対向する一対の連結板部46,47によって連結されている(
図3も参照)。
【0026】
図3に示すように、第1当接板部41には、第1針固定部材25に設けられた一対の針27のそれぞれの下方に、第1針通し孔48が設けられている。第2当接板部42にも、第2針固定部材26に設けられた一対の針28のそれぞれの下方に、第2針通し孔49が設けられている。各針通し孔48,49は、各当接板部41,42を貫通し、横方向に延びる長孔となっている。
【0027】
移動規制部材29と各係止部材35,36それぞれとの間において、各ガイド軸31,32にはコイルばねSが設けられている。第2ストッパ37,38は、コイルばねSの内側に設けられている。コイルばねSにより、移動規制部材29と相対移動体30とは互いに離間する方向に付勢され、各第1ストッパ33,34が移動規制部材29と当接している。コイルばねSの付勢力に抗して、移動規制部材29を有するチャック本体21と相対移動体30とを相対移動させると、
図2(b)に示すように、移動規制部材29と第2ストッパ37,38とが当接し、それ以上の相対移動が規制される。
【0028】
移動規制部材29と第2ストッパ37,38とが当接した状態では、各当接板部41,42が上方へ移動してそれぞれが針固定部材25,26に近づくことにより、4つの各針通し孔48,49からそれぞれ針27,28が外方へ向きつつ斜め下方に向けて突出している。この突出した4つの針27,28が、各当接板部41,42の生地当接面43に当接した上肢パーツPに突き刺さることにより、第1保持装置12(第2保持装置13)は上肢パーツPを保持することが可能となる。なお、各針27,28の突出量は、各針固定部材25,26からの針27,28の突出量を調整することにより変更することが可能となっている。保持対象となる生地の素材に応じて、最適な突出量が設定される。
【0029】
移動規制部材29と第2ストッパ37,38とが当接した状態において、チャック本体21にエアを給排し、一対のチャック爪22,23を第2位置に移動させると、各針固定部材25,26も側方へ移動する。各針固定部材25,26は、各係止部材35,36がそれぞれ有する係止部35a,36aよりも下方に配置されて、各係止部35a,36aは各針固定部材25,26の上端面と当接する。これにより、各針固定部材25,26は係止部35a,36aによって係止され、相対移動体30は移動規制部材29から離間する方向への相対移動が規制される。そのため、4つの針通し孔48,49からそれぞれ針27,28が突出し、各当接板部41,42の生地当接面43に当接した上肢パーツPに突き刺さった状態が保持される。チャック本体21と相対移動体30とを相対移動させる力が解放された場合でも、上肢パーツPの保持状態を維持できる。
【0030】
一方、チャック本体21にエアを給排し、一対のチャック爪22,23を第1位置に復帰させると、各針固定部材25,26と各係止部35a,36aとの係止状態が解除され、相対移動体30は相対移動が可能な状態となる。そのため、チャック本体21と相対移動体30とを近づけようとする力が解放されると、コイルばねSの付勢力により、移動規制部材29と相対移動体30とは両者が離間する方向へ相対移動する。これにより、各当接板部41,42の針通し孔48,49から突出していた針27,28は、再び、針通し孔48,49の奥に没入する。
【0031】
第1保持装置12及び第2保持装置13の構成は以上のとおりである。次に、生地搬送システム10を用いて、第1保持装置12に保持された上肢パーツPを第2保持装置13に受け渡す動作について、
図4及び
図5を参照しながら説明する。これらの動作は、特に主語を示さない限り、コントローラ11の制御によって行われる。なお、
図5では、保持装置12,13の構成を一部簡略化している。また、
図5(b)~
図5(d)は、図示の状態が上下である場合に限定されず、例えば、図示の左側又は右側を下としたり、各保持装置12,13が傾斜していたりしてもよい。
【0032】
はじめに、移動装置15を駆動し、第1保持装置12を、
図5(a)に示すように、載置面51の所定位置(第1載置位置)に載置されている上肢パーツPの上方で、生地当接面43と上肢パーツPとが相対向するように配置する。
【0033】
ここで、上肢パーツPは、
図4にも示すように、腕パーツPaと手パーツPbとの一辺同士が縫製されて一体化され、縫製された辺部分を中心に一方のパーツが他方のパーツに対して展開された状態となっている。この状態は、生地搬送システム10による搬送工程の前工程である縫製工程において形成されている。第1載置位置に置かれた上肢パーツPは、その表面に縫い目が存在する。一方で、裏面側では、両パーツPa,Pbを縫った部分において、各パーツPa,Pbの縫い代Pa1,Pb1が縫い目に沿った方向に沿って存在している。載置面51には、これらの縫い代Pa1,Pb1の少なくとも一部が入り込む孔部52が設けられている。縫い代Pa1,Pb1が孔部52に入り込んだ状態で上肢パーツPが載置面51に置かれているため、上肢パーツPは略平らな状態となっている。
【0034】
上肢パーツPの上方では、
図4に示すように、一対の当接板部41,42が並ぶ方向と、上肢パーツPの腕パーツPaと手パーツPbとが並ぶ方向とが一致し、かつ手パーツPbの上方に第1当接板部41が、腕パーツPaの上方に第2当接板部42が配置されるように、第1保持装置12を移動させる。
【0035】
次いで、移動装置15を駆動して第1保持装置12を上肢パーツPに向けて下降させ、
図5(a)に示すように、一対の当接板部41,42を上肢パーツPに上から当接させる。当接後、さらに第1保持装置12を下降させると、相対移動体30に対してチャック本体21及び移動規制部材29がさらに下降する。移動規制部材29が第2ストッパ37,38に当接すると、その下降が停止する。相対移動体30に対するチャック本体21及び移動規制部材29の相対移動により、一対の針固定部材25,26が下降して一対の当接板部41,42に当接する。すると、4つの各針通し孔48,49からそれぞれ針27,28が外方へ向きつつ斜め下方に向けて突出する。この状態は、
図5(b)に示されている。
図4にも示すように、突出した4つの針27,28のうち、第1針固定部材25に設けられた一対の針27は、展開された状態の手パーツPbの表面に、第2針固定部材26に設けられた一対の針28は、展開された状態の腕パーツPaの表面にそれぞれ突き刺さる。
【0036】
なお、
図4に示すように、上肢パーツPにおいては、腕パーツPaと手パーツPbとが並ぶ方向において、腕パーツPaの方が手パーツPbよりも長い。そのため、当該方向において、腕パーツPaに当接する第2当接板部42の長さは、手パーツPbに当接する第1当接板部41の長さよりも長く形成されている。
【0037】
続いて、エア給排装置14を駆動して、チャック本体21に対してエアを給排し、一対のチャック爪22,23を第2位置、すなわち互いに離間する方向へ移動させる。すると、各針固定部材25,26も側方へ移動し、それぞれが係止部材35,36の係止部35a,36aによって係止される。これにより、チャック本体21及び移動規制部材29が相対移動体30に対して上方へ移動することが規制される。そのため、針27,28が上肢パーツPに突き刺さった状態が保持される(
図5(b)参照)。
【0038】
次に、移動装置15を駆動して、第1保持装置12を、上肢パーツPの第2保持装置13への受け渡し位置まで移動させる。この時、前述したように、チャック本体21及び移動規制部材29と相対移動体30との相対移動が規制されている。そのため、第1保持装置12を上肢パーツPの載置面51から上方へ持ち上げても、第1保持装置12による上肢パーツPの保持状態が維持される。また、第2保持装置13についても、第1保持装置12の移動と同時に又は当該移動に続いて、第1保持装置12から上肢パーツPを受け取る位置に移動させる。
【0039】
そして、
図5(b)に示すように、上肢パーツPを保持した第1保持装置12の第1当接板部41と第2保持装置13の第1当接板部41とを相対向させるとともに、第1保持装置12の第2当接板部42と第2保持装置13の第2当接板部42とを相対向させる。つまり、第1保持装置12に保持された上肢パーツPのうち、第2保持装置13の第1当接板部41が手パーツPbと対峙し、第2当接板部42が腕パーツPaと対峙するように、第2保持装置13を配置させる。それと併せて、図示のような正面視において、第1保持装置12の中心線C1と第2保持装置13の中心線C2とが若干左にずれるように、両保持装置12,13を配置させる。なお、このずれは、左側へのずれだけでなく、右側へのずれであってもよい。このように両保持装置12,13の位置を相対的にずらして配置させる動作プログラムのステップが、コントローラ11の制御プログラムが干渉防止手段に相当する。
【0040】
その後、移動装置15を駆動して、
図5(c)に示すように、第1保持装置12が保持する上肢パーツPを、当該第1保持装置12と第2保持装置13との間に挟み込む。この時、手パーツPbの裏面に第2保持装置13の第1当接板部41を、腕パーツPaの裏面に第2保持装置13の第2当接板部42をそれぞれ当接させる。当接後も、さらに両保持装置12,13を近づけると、第2保持装置13では、チャック本体21及び移動規制部材29が相対移動体30に近づく方向へ相対移動する。すると、移動規制部材29が第2ストッパ37,38に当接する。相対移動体30に対するチャック本体21及び移動規制部材29の相対移動により、一対の針固定部材25,26が下降して一対の当接板部41,42に当接する。これにより、4つの各針通し孔48,49からそれぞれ針27,28が突出する。
【0041】
この時、両パーツPa,Pbを縫った部分に存在する各パーツPa,Pbの縫い代Pa1,Pb1は、一対の当接板部41,42同士の間に設けられた貫通孔部44とその奥の空間部45に入り込む。そのため、第1保持装置12の生地当接面43と上肢パーツPの縫い代Pa1,Pb1とが干渉することが避けられる。これにより、上肢パーツPと生地当接面43とが平行な状態を保ちながら、第1当接板部41の当接面全域を手パーツPbに、第2当接板部42の当接面全域を腕パーツPaに、それぞれ当接させることができている。
【0042】
突出した4つの針27,28のうち、第1針固定部材25に設けられた一対の針27は、展開された状態の手パーツPbの裏面に、第2針固定部材26に設けられた一対の針28は、展開された状態の腕パーツPaの裏面にそれぞれ突き刺さる。この時、前述したように、第1保持装置12と第2保持装置13との相対的な位置がずれているため、両保持装置12,13が同じ装置であっても、それぞれが有する4つの針27,28が設けられた位置もずれている。そのため、第2保持装置13が有する4つの針27,28が突出した際に、すでに上肢パーツPに突き刺さっている第1保持装置12の4つの針27,28と干渉することが防止されている。
【0043】
続いて、エア給排装置14を駆動して、第2保持装置13において、チャック本体21に対してエアを給排し、一対のチャック爪22,23を第2位置、すなわち互いに離間する方向へ移動させる。すると、第2保持装置13の各針固定部材25,26も側方へ移動し、それぞれが係止部材35,36の係止部35a,36aによって係止される。これにより、チャック本体21及び移動規制部材29が相対移動体30に対して移動することが規制される。その結果、第2保持装置13の針27,28が上肢パーツPに突き刺さった状態が保持される。
【0044】
さらに続いて、エア給排装置14を駆動し、第1保持装置12において、チャック本体21に対してエアを給排し、一対のチャック爪22,23を第1位置、すなわち互いに近づく方向へ移動させ、基準位置に復帰させる。すると、各針固定部材25,26も互いに近づく方向へ移動し、係止部材35,36の係止部35a,36aによる係止状態が解除される。これにより、チャック本体21及び移動規制部材29と相対移動体30との相対移動が可能な状態となる。
【0045】
その上で、
図5(d)に示すように、第1保持装置12を第2保持装置13から離間させる。すると、チャック本体21及び移動規制部材29と相対移動体30とが互いに離間する方向へ相対移動し、それに伴って一対の針固定部材25,26も各当接板部41,42から離間する。それに伴い、上肢パーツPに突き刺さっていた針27,28は没入する。これにより、第1保持装置12は上肢パーツPから離間する。その後、移動装置15を駆動し、第1保持装置12を、縫製工程にて形成された別の上肢パーツPを再度保持すべく、当該別の上肢パーツPの上方に配置する。
【0046】
以上の一連の動作により、第1保持装置12から第2保持装置13への上肢パーツPの受け渡しが行われる。そして、この受け渡し動作により、第2保持装置13では、上肢パーツPの裏面側、すなわち、縫い代Pa1,Pb1が存在する側の面が一対の当接板部41,42と当接し、その状態で上肢パーツPを保持している。このため、上肢パーツPの受け渡しにより、上肢パーツPは、第1保持装置12によって保持されていた状態から表裏反転し、その状態で第2保持装置13に保持される。
【0047】
その後、移動装置15を駆動して第2保持装置13を、次工程における所定の載置位置(第2載置位置)へ上肢パーツPを搬送する。当該載置位置に上肢パーツPが載置されると、エア給排装置14を駆動してチャック本体21に対してエアを給排し、一対のチャック爪22,23を基準となる第1位置に復帰させる。すると、各針固定部材25,26も互いに近づく方向へ移動し、係止部材35,36の係止部35a,36aによる係止状態が解除される。チャック本体21及び移動規制部材29と相対移動体30とは、相対移動が可能な状態となる。その上で、第2保持装置13を載置位置から離間させると、上肢パーツPに突き刺さっていた針27,28が没入する。これにより、第2保持装置13は次工程の載置位置に載置された上肢パーツPから離間する。
【0048】
本実施形態の生地搬送システム10の構成と動作は以上のとおりである。当該生地搬送システム10によれば、次の作用効果を得ることができる。
【0049】
(1)生地搬送システム10では、針27,28の出没により、突出した針27,28を生地に突き刺して保持する保持状態と、針27,28を没入させた生地の非保持状態とを切り換える保持装置12,13が用いられている。この保持装置12,13を移動装置15によって移動させ、まず第1保持装置12によって上肢パーツPを保持させる。続いて、当該上肢パーツPを第2保持装置13で挟み込む。その後、第1保持装置12では針27,28を没入させ、第2保持装置13では針27,28を上肢パーツPに刺す。これにより、第1保持装置12から第2保持装置13へ上肢パーツPの受け渡しが行われる。上肢パーツPは両保持装置12,13によって挟み込まれて第1保持装置12から第2保持装置13へ受け渡されるため、第1保持装置12に保持された状態から、表裏反転した状態で第2保持装置13に上肢パーツPが保持される。その結果、上肢パーツPの受け渡しからその表裏反転までの一連の作業が自動化され、上肢パーツPの搬送作業を省力化することができる。
【0050】
(2)生地搬送システム10により、第1保持装置12によって保持される上肢パーツPの第1載置位置から、第2保持装置13への受け渡し後に当該第2保持装置13によって上肢パーツPが置かれる第2載置位置まで、上肢パーツPが搬送される。この場合、一つの搬送装置によって上肢パーツPを第1載置位置から第2載置位置まで搬送するのではなく、複数の保持装置12,13によって上肢パーツPが搬送されるため、システム全体の構成を簡素化することができる。
【0051】
(3)生地搬送システム10によれば、第1載置位置を含む製造装置を用いて行う製造工程に第1保持装置12が設けられ、第2載置位置を含む製造装置を用いて行う次の製造工程に第2保持装置13が設けられた構成とすることで、製造工程ごとに搬送装置が分離される。これにより、一つの搬送装置によって上肢パーツPを第1載置位置から第2載置位置まで搬送する場合と比べ、製造ラインにおける装置配置の自由度を高めることができる。
【0052】
(4)生地搬送システム10では、第1保持装置12と第2保持装置13とで上肢パーツPを挟み込む場合に、第1保持装置12と第2保持装置13の位置をずらして挟み込むようにした。これにより、第1保持装置12の針27,28と第2保持装置13の針27,28との位置もずれている。いずれの保持装置12,13も機械的構成は同じものであり、針27,28を上肢パーツPに刺して保持する仕組みを採用している。そのため、位置をずらすことで針27,28同士が干渉することが防止されている。その結果、第1保持装置12から第2保持装置13への上肢パーツPの受け渡し時に、針27,28同士が干渉して第2保持装置13の針27,28の突き刺さりが不十分となり、上肢パーツPが第2保持装置13から外れてしまうことを抑制できる。
【0053】
(5)生地搬送システム10による搬送対象としての上肢パーツPは、腕パーツPaと手パーツPbとの一辺同士が縫製され、その辺部分を中心に展開されている。第1保持装置12及び第2保持装置13によって上肢パーツPを保持する場合、各保持装置12,13が有する4つの針27,28のうち、第1針固定部材25に設けられた一対の針27は手パーツPbに、第2針固定部材26に設けられた一対の針28は腕パーツPaにそれぞれ突き刺さすことで、上肢パーツPを保持している。腕パーツPaと手パーツPbとが展開された状態で、それぞれのパーツPa,Pbに針27,28が刺さるようになっているため、上肢パーツPを両パーツPa,Pbが展開された状態で保持することができる。
【0054】
(6)生地搬送システム10が有する各保持装置12,13において、第1当接板部41と第2当接板部42との間には貫通孔部44が設けられ、貫通孔部44の奥には空間部45が設けられている。そのため、上肢パーツPを保持する際に、各パーツPa,Pbの縫い代Pa1,Pb1が生地当接面43との当接側に存在する場合、縫い代Pa1,Pb1は、貫通孔部44とその奥の空間部45に入り込む。これにより、生地当接面43と上肢パーツPの縫い代Pa1,Pb1とが干渉することが避けられる。その結果、上肢パーツPの表面と生地当接面43とが平行をなす状態を保ちながら、第1当接板部41の当接面全域を手パーツPbに、第2当接板部42の当接面全域を腕パーツPaに、それぞれ当接させることができ、安定して上肢パーツPを保持できる。
【0055】
なお、本実施形態の生地搬送システム10は、例えば次のような別の構成を採用することもできる。
【0056】
(a)上記実施の形態では、第1保持装置12と第2保持装置13とで上肢パーツPを挟み込む場合に、両装置12,13の位置を相対的にずらすことで、両装置12,13が有する針27,28の干渉を防止している。これに代えて、両装置12,13の位置をずらすことなく上肢パーツPを挟み込み、第2保持装置13の針27,28が突出するタイミングに合わせて第1保持装置12の針27,28を没入させるようにしてもよい。このように、第1保持装置12の針27,28と第2保持装置13の針27,28とが同時に突出した状態を回避するように、第1保持装置12の針27,28と第2保持装置13の針27,28との突出及び没入のタイミングを調整するようにしてもよい。この場合、針27,28の突出及び没入のタイミングを調整する動作プログラムのステップが、干渉防止手段に相当する。
【0057】
(b)上記実施の形態では、上肢パーツPとして、縫い代Pa1,Pb1を有する側と、縫い代Pa1,Pb1を有しない側とがある場合を想定し、第1載置位置では、縫い代Pa1,Pb1がない側を表、縫い代Pa1,Pb1がある側を裏として、上肢パーツPが載置面51に置かれている。第1載置位置への上肢パーツPの置き方は、これと表裏逆とし、生地当接面43と対峙する表面側に縫い代Pa1,Pb1が存在する状態で載置面51に上肢パーツPが置かれ、その上肢パーツPを第1保持装置12が保持し、第2保持装置13に受け渡すようにしてもよい。
【0058】
(c)上記実施の形態では、搬送対象生地として、縫い代Pa1,Pb1を有する側と縫い代Pa1,Pb1を有しない側とがある上肢パーツPを想定した。搬送対象としては、この上肢パーツPに代えて、縫い代Pa1,Pb1がなく色柄等の違いによって表裏が区別される生地であったり、表裏の区別がない生地であったりしてもよい。表裏の区別がない生地を搬送対象とした場合は、第1保持装置12から第2保持装置13への生地受け渡しによって、表裏の反転も併せて行われるという上記実施形態の作用効果は生じないが、その他の作用効果を得ることはできる。
【0059】
(d)上記実施の形態では、生地搬送システム10として、第1保持装置12と第2保持装置13との2つの保持装置を有する構成を説明した。生地搬送システム10が有する保持装置の数は、3つ以上の保持装置を有していてもよい。
【0060】
(e)上記実施の形態では、第1保持装置12から第2保持装置13へ上肢パーツPを受け渡すとともに、表裏反転させる動作について説明した。上肢パーツPの反転は、この1度の受け渡しによる場合だけでなく、第2保持装置13へ受け渡された後に再び受け渡しを行い、そこからさらに受け渡しを行うことによって反転させるようにしてもよい。つまり、奇数回の受け渡しを行うことによって上肢パーツPを反転させる場合を排除するものではない。また、受け渡しは1回又は奇数回に限られず、偶数回の受け渡しを実施して、次の製造工程では反転されていない上肢パーツPを利用するようにしてもよい。偶数回の受け渡しを行うことにより、1回又は奇数回の受け渡しによって当初の状態から表裏反転した上肢パーツPをさらに表裏反転し、元の表裏の状態に戻すことができる。
【0061】
(f)上記実施の形態では、第1保持装置12及び第2保持装置13は、それぞれ全部で4つの針27,28を有している。各保持装置12,13が有する針27,28の数は任意であり、4本以下であったり、4本を超える数であったりしてもよい。また、第1保持装置12及び第2保持装置13は、エアチャック20へのエア給排によって針27,28を出没させる構成を採用している。これに代えて、ロッド出没式の標準シリンダ、モータ等の駆動源を用いて針27,28を出没させたり、油圧や水圧等のエア以外の給排による駆動方式を用いて針27,28を出没させたりする構成を採用してもよい。
【0062】
(g)上記実施の形態では、生地搬送システム10を、人型ぬいぐるみの腕部分を構成する上肢パーツPを搬送する場合に適用した例として説明した。搬送対象となる生地としては、複数の部分パーツを縫い合わせたものでなく、縫い合わせのない1枚の生地であってもよい。複数の部分パーツを縫い合わせた生地を搬送対象とする場合であっても、縫い合わせた部分パーツを展開したパーツであれば種類は限定されず、例えば脚パーツと足パーツとを縫い合わせた下肢パーツ等であってもよい。また、人型ぬいぐるみを製作する場合以外に用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
11…生地搬送システム、12…第1保持装置、13…第2保持装置、15…移動装置、27,28…針、P…上肢パーツ(生地、縫製生地)。