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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】正極活物質およびそれを備えた電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20230519BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230519BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230519BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230519BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230519BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230519BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230519BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20230519BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230519BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
C01G53/00 A
C01G45/00
H01M4/485
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020521735
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011624
(87)【国際公開番号】W WO2019230149
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018104169
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】夏井 竜一
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-116308(JP,A)
【文献】特開2008-098154(JP,A)
【文献】特開2018-085324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/485
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 10/0565
C01G 53/00
C01G 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第3の相、
を含む多相混合物であ
以下の数式(I)が充足される、
0.08≦積分強度比I (20°-23°) /I (18°-20°) ≦0.25 (I)
正極活物質。
ここで、
積分強度比I (20°-23°) /I (18°-20°) は、積分強度I (18°-20°) に対する積分強度I (20°-23°) の比に等しく、
積分強度I (18°-20°) は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する第1最大ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I (20°-23°) は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、20°以上23°以下の回折角2θの範囲に存在する第2最大ピークの積分強度である。
【請求項2】
前記単斜晶は、空間群C2/mである、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記六方晶は、空間群R-3mである、
請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記立方晶は、空間群Fm-3m及び空間群Fd-3mからなる群から選択される少なくとも1種の空間群である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、0.10以上0.14以下である、
請求項に記載の正極活物質。
【請求項6】
以下の数式(II)が充足される、
0.81≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦1.26 (II)
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する第1最大ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する第3最大ピークの積分強度である。
【請求項7】
前記積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、0.95以上1.19以下である、
請求項に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム複合酸化物は、Mnを含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム複合酸化物は、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つを含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム複合酸化物は、Fを含有する、
請求項に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記リチウム複合酸化物は、組成式LixMeyαβ(I)で表される平均組成を有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つであり、
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つであり、
xの値は、1.05以上1.5以下であり、
yの値は、0.6以上1.0以下であり、
αの値は、1.2以上2.0以下であり、かつ、
βの値は、0以上0.8以下である。
【請求項12】
前記Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも一つを含む、
請求項11に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記Meは、Mn、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項12に記載の正極活物質。
【請求項14】
前記Meは、Mnを含む、
請求項13に記載の正極活物質。
【請求項15】
Qは、Fを含む、
請求項11から14のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項16】
xの値は、1.166以上1.4以下であり、かつ
yの値は、0.67以上1.0以下である、
請求項11から15のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項17】
αの値は、1.33以上2.0以下であり、かつ
βの値は、0以上0.67以下である、
請求項11から16のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項18】
βの値は、0よりも大きく0.67以下である、
請求項17に記載の正極活物質。
【請求項19】
(x/y)の値は、1.4以上2.0以下である、
請求項1から18のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項20】
((x+y)/(α+β))の値は、1.0以上1.2以下である、
請求項1から19のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項21】
前記リチウム複合酸化物を、主成分として含む、
請求項1から2のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項22】
前記多相混合物は、前記第1の相、前記第2の相、および前記第3の相から構成される三相混合物である、
請求項1から2のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項23】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第3の相、
を含む多相混合物であり、
以下の数式(II)が充足される、
0.81≦積分強度比I (18°-20°) /I (43°-46°) ≦1.26 (II)
正極活物質。
ここで、
積分強度比I (18°-20°) /I (43°-46°) は、積分強度I (43°-46°) に対する積分強度I (18°-20°) の比に等しく、
積分強度I (18°-20°) は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する第1最大ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I (43°-46°) は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する第3最大ピークの積分強度である。
【請求項24】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第3の相、
を含む多相混合物であり、
前記リチウム複合酸化物は、組成式Li x Me y α β (I)で表される平均組成を有する、
正極活物質。
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つであり、
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つであり、
xの値は、1.05以上1.5以下であり、
yの値は、0.6以上1.0以下であり、
αの値は、1.2以上2.0以下であり、
βの値は、0以上0.8以下であり、
Meは、Mnを含み、
Meに対するMnのモル比が、0.6以上である。
【請求項25】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第3の相、
を含む多相混合物であり、
前記リチウム複合酸化物は、組成式Li x Me y α β (I)で表される平均組成を有する、
正極活物質。
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つであり、
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つであり、
xの値は、1.05以上1.5以下であり、
yの値は、0.6以上1.0以下であり、
αの値は、1.33以上1.9以下であり、かつ
βの値は、0.1以上0.67以下である。
【請求項26】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第3の相、
を含む多相混合物であり、
前記リチウム複合酸化物は、組成式Li x Me y α β (I)で表される平均組成を有する、
正極活物質。
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つであり、
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つであり、
xの値は、1.05以上1.5以下であり、
yの値は、0.6以上1.0以下であり、
αの値は、1.2以上2.0以下であり、
βの値は、0以上0.8以下であり、かつ、
(α/β)の値は、2以上19以下である。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極、
負極、および
電解質、
を備える、
電池。
【請求項28】
請求項27に記載の電池であって、
前記負極は、
(i)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質、および
(ii)材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料
からなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ
前記電解質は、非水電解質である、
電池。
【請求項29】
請求項27に記載の電池であって、
前記負極は、
(i)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質、および
(ii)材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料
からなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ
前記電解質は、固体電解質である、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質およびそれを備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一般式LiMO(ここで、MはNi元素、Co元素およびMn元素から選ばれる少なくとも一種を含む元素)で表される化学組成を有するリチウム複合遷移金属酸化物が開示されている。当該リチウム複合遷移金属酸化物においては、X線回折パターンにおける、空間群R-3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I020)の比(I020/I003)が0.02~0.3である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/192759号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、高い容量を有する電池のために用いられる正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示による正極活物質は、
リチウム複合酸化物
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第3の相、
を含む多相混合物である。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、高容量の電池を実現するための正極活物質を提供する。本開示は当該正極活物質を含む正極、負極、および電解質を具備する電池も提供する。当該電池は、高い容量を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態2における電池10の断面図を示す。
図2図2は、実施例1、実施例7、および比較例1の正極活物質のX線回析パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態が、説明される。
【0009】
(実施の形態1)
実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物を含む。リチウム複合酸化物は、単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第3の相を含む多相混合物である。
【0010】
実施の形態1による正極活物質は、電池の容量を向上させるために用いられる。
【0011】
実施の形態1における正極活物質を具備するリチウムイオン電池は、3.4V程度の酸化還元電位(Li/Li+基準)を有する。当該リチウムイオン電池は、概ね、250mAh/g以上の容量を有する。
【0012】
単斜晶(例えば、空間群C2/m)に属する結晶構造は、Li層と遷移金属層とが交互に積層した構造を有する。遷移金属層には、遷移金属だけでなく、Liが含有されていてもよい。そのため、単斜晶に属する結晶構造には、一般的に用いられる従来材料であるLiCoOよりも、より多くの量のLiが結晶構造の内部に吸蔵される。しかし、単斜晶に属する結晶構造のみが用いられる場合、遷移金属層におけるLiの移動に伴い、原子の再配列が起こる。当該原子の再配列が電池のサイクル特性を低下させると考えられる。
【0013】
六方晶(例えば、空間群R-3m)に属する結晶構造は、Li層と遷移金属層とが交互に積層した構造を有する。六方晶に属する結晶構造では、充放電時のLiの脱離および挿入がLi層の二次元平面で起こるため、Liの拡散性が高い。そのため、レート特性に優れた電池を実現できると考えられる。しかし、単斜晶に属する結晶構造と比較して、六方晶に属する結晶構造に含まれる遷移金属層におけるLi量が少ない。そのため、六方晶に属する結晶構造のみが用いられる場合、電池の容量が低くなると考えられる。
【0014】
立方晶(例えば、空間群Fm-3m又は空間群Fd-3m)に属する結晶構造においては、充放電時のLiの脱離および挿入に伴う結晶構造の変化が少ない。このように、立方晶に属する結晶構造は、強固である。そのため、立方晶に属する結晶構造は、サイクル特性に優れる。しかし、立方晶に属する結晶構造のみが用いられる場合、結晶構造内に含有され得るLi量が少なくなるため、電池の容量が低くなると考えられる。
【0015】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第3の相を含むことで、これら3つの結晶構造の特徴の相乗効果によって電池の容量を向上させる。
【0016】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物において、単斜晶は、空間群C2/mであってもよい。
【0017】
単斜晶が空間群C2/mであるリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0018】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物において、六方晶は、空間群R-3mであってもよい。
【0019】
六方晶が空間群R-3mであるリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0020】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物において、立方晶は、空間群Fm-3m及び空間群Fd-3mからなる群から選択される少なくとも一方であってもよい。すなわち、第3の相は、空間群Fm-3m又は空間群Fd-3mに属する結晶構造を有してもよい。第3の相は、空間群Fm-3mに属する結晶構造および空間群Fd-3mに属する結晶構造の両方を有してもよい。
【0021】
立方晶が空間群Fm-3m及び空間群Fd-3mのうち少なくとも一方であるリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0022】
特許文献1は、リチウム複合遷移金属酸化物を開示している。
特許文献1に開示されたリチウム複合遷移金属酸化物は、
空間群R-3mとC2/mとを有し、
化学組成が一般式LiaMOx(ただし、MはNi元素、Co元素およびMn元素から選ばれる少なくとも一種を含む元素)で表され、かつ
X線回折パターンにおける、空間群R-3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I020)の比(I020/I003)が0.02~0.3である。
【0023】
しかし、特許文献1のような従来技術は、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物、すなわち、単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第3の相を全て含むリチウム複合酸化物、を開示も示唆もしていない。すなわち、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、従来技術からは容易に想到できない。実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0024】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物において、第1の相からなる複数の領域と、第2の相からなる複数の領域と、第3の相からなる複数の領域とが、3次元的にランダムに配列していてもよい。
【0025】
3次元的なランダム配列は、Liの3次元的な拡散経路を拡大させるため、より多くの量のリチウムを挿入および脱離させることが可能となる。その結果、電池の容量が向上する。
【0026】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、多相混合物である。例えば、バルク層と、それを被覆するコート層とからなる層構造は、本開示における多相混合物に該当しない。多相混合物は、複数の相を含んだ物質を意味する。リチウム複合酸化物の製造時にそれらの相に対応する複数の材料が混合されてもよい。
【0027】
リチウム複合酸化物が多相混合物であるかどうかは、後述するように、X線回折測定法および電子線回折測定法によって判定されうる。具体的には、X線回折測定法および電子線回折測定法によって取得されたリチウム複合酸化物のスペクトルに複数の相の特徴を示すピークが含まれるならば、そのリチウム複合酸化物は多相混合物であると判定される。
【0028】
実施の形態1においては、以下の数式(I)が充足されてもよい。
0.08≦積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)≦0.25 (I)
ここで、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、積分強度I(18°-20°)に対する積分強度I(20°-23°)に等しく、
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する第1最大ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(20°-23°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、20°以上23°以下の回折角2θの範囲に存在する第2最大ピークの積分強度である。
【0029】
0.08以上0.25以下の積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)を有するリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0030】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、実施の形態1のリチウム複合酸化物において、第1の相と第2の相との間の存在比の指標として用いられ得るパラメータである。第1の相の存在比が大きくなると、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は大きくなると考えられる。一方、第2の相の存在比が大きくなると、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は小さくなると考えられる。
【0031】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.08以上の場合、第1の相の存在比が大きくなるため、充放電時のLiの挿入量および脱離量が増加し、電池の容量が向上すると考えられる。
【0032】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.25以下の場合、第2の相の存在比が大きくなるため、Liの拡散性が向上し、電池の容量が向上すると考えられる。
【0033】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、0.10以上0.14以下であってもよい。
【0034】
0.10以上0.14以下の積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)を有するリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0035】
実施の形態1においては、以下の数式(II)が充足されてもよい。
0.81≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦1.26 (II)
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する第1最大ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する第3最大ピークの積分強度である。
【0036】
0.81以上1.26以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0037】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、実施の形態1のリチウム複合酸化物において、第1の相と第2の相との総量と、第3の相との存在比の指標として用いられ得るパラメータである。第1の相と第2の相との総量の存在比が大きくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は大きくなると考えられる。一方、第3の相の存在比が大きくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は小さくなると考えられる。
【0038】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.81以上の場合、第1の相と第2の相との総量の存在比が大きくなるため、Liの拡散性と、充放電時のLiの挿入量および脱離量とが、向上し、電池の容量が向上すると考えられる。
【0039】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が1.26以下の場合、第3の相の存在比が大きくなるため、結晶構造の安定性が高まり、電池の容量が向上すると考えられる。
【0040】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、0.95以上1.19以下であってもよい。
【0041】
0.95以上1.19以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0042】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、0.08以上0.25以下の積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)および0.81以上1.26以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)の両方を有していてもよい。
【0043】
0.08以上0.25以下の積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)および0.81以上1.26以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)の両方を有するリチウム複合酸化物においては、Liの拡散性が高く保たれつつ、多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、その結晶構造の安定性は高い。このため、このようなリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0044】
X線回折ピークの積分強度は、例えば、X線回折装置に付属のソフトウェア(例えば、株式会社リガク社製、粉末X線回折装置に付属の商品名PDXLを有するソフトウェア)を用いて算出することができる。その場合、X線回折ピークの積分強度は、例えば、X線回折ピークの高さと半値幅から面積を算出することで得られる。
【0045】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群C2/mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは、(001)面を反映している。回折角2θが20°以上23°以下の範囲に存在する最大ピークは、(020)面を反映している。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(114)面を反映している。
【0046】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群R-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは、(003)面を反映している。回折角2θが20°以上23°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(104)面を反映している。
【0047】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群Fm-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが20°以上23°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(200)面を反映している。
【0048】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、立方晶、例えば、空間群Fd-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは、(111)面を、反映している。回折角2θが20°以上23°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(400)面を反映している。
【0049】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、例えば、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第1の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第2の相と、空間群Fm-3m又はFd-3mに属する結晶構造を有する第3の相とを有する。
【0050】
実施の形態1のリチウム複合酸化物は3つの相を有するので、実施の形態1のリチウム複合酸化物において、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピーク及び回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークがそれぞれ反映している空間群および面指数を完全に特定することは、必ずしも容易ではないという問題がある。
【0051】
この問題を解決するため、上述のX線回折測定に加えて、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」)を用いた電子線回折測定が行われてもよい。公知の手法により電子線回折パターンを観察することで、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が有する空間群を特定することが可能である。このようにして、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が、単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第3の相を有することを確認できる。
【0052】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、第1の相、第2の相、および第3の相から構成される三相混合物であってもよい。
【0053】
三相混合物は、電池の容量を向上させる。
【0054】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、リチウム原子だけでなく、リチウム原子以外の原子をも含む。リチウム原子以外の原子の例は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、またはAlである。実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、1種類のリチウム原子以外の原子を含んでいてもよい。これに代えて、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、2種類以上のリチウム原子以外の原子を含んでいてもよい。
【0055】
リチウム原子以外の原子は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Ti、Cr、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群から選択され得る。
【0056】
リチウム原子以外の原子を含むリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0057】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0058】
3d遷移金属元素を含むリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0059】
リチウム原子以外の原子は、Mn、Co、およびNiからなる群から選択され得る。
【0060】
Mn、Co、およびNiからなる群から選択される原子を含むリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0061】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mnを含んでもよい。
【0062】
Mnおよび酸素の軌道混成は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。上述のように第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、電池の容量を向上できる。
【0063】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。当該少なくとも1種の元素により、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。
【0064】
電気化学的に不活性なアニオンによって、リチウム複合酸化物の酸素原子の一部を置換してもよい。言い換えれば、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンによって酸素原子の一部を置換してもよい。この置換により、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の結晶構造はさらに安定化すると考えられる。酸素アニオンの半径よりも大きなイオン半径を有するアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、Liの拡散性が向上すると考えられる。酸素アニオンの半径よりも大きなイオン半径を有するアニオンの例は、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンである。上述のように、第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このようにして、電池の容量が向上する。
【0065】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Fを含んでもよい。
【0066】
フッ素原子は電気陰性度が高いため、酸素の一部をフッ素原子で置換することにより、カチオンとアニオンとの相互作用が大きくなり、放電容量または動作電圧が向上する。同様の理由により、Fが含まれない場合と比較して、Fの固溶により電子が局在化する。このため、充電時の酸素脱離が抑制され、結晶構造が安定する。以上のように、第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造では、結晶構造がさらに安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離することが可能となる。これらの効果が総合的に作用することで、電池の容量がさらに向上する。
【0067】
次に、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の化学組成の一例を説明する。
【0068】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の平均組成は、下記の組成式(1)で表されてもよい。
LiMeαβ ・・・式(1)
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つである。
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つである。
組成式(1)において、下記の数式が充足され得る。
1.05≦x≦1.5、
0.6≦y≦1.0、
1.2≦α≦2.0、かつ
0≦β≦0.8。
上記のリチウム複合酸化物は、電池の容量を向上させる。
【0069】
Meが化学式Me’y1Me’’y2(ここで、Me’およびMe’’は、それぞれ独立して、Meのために選択される当該少なくとも1つである)によって表される場合、「y=y1+y2」が充足される。例えば、MeがMn0.6Co0.2であれば、「y=0.6+0.2=0.8」が充足される。Qが2以上の元素からなる場合であっても、Meの場合と同様に計算できる。
【0070】
xの値が1.05以上の場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0071】
xの値が1.5以下である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0072】
yの値が0.6以上である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0073】
yの値が1.0以下である場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0074】
αの値が1.2以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0075】
αの値が2.0以下である場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0076】
βの値が0.8以下である場合、Qの電気化学的に不活性な影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0077】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の「平均組成」とは、リチウム複合酸化物の各相の組成の違いを考慮せずにリチウム複合酸化物の元素を分析することによって得られる組成である。典型的には、リチウム複合酸化物の一次粒子のサイズと同程度、または、それよりも大きな試料を用いて元素分析を行なうことによって得られる組成を意味する。第1の相、第2の相、および第3の相は、互いに同一の化学組成を有してもよい。もしくは、第1の相、第2の相、および第3の相は、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0078】
上述の平均組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより決定することができる。
【0079】
電池の容量を向上させるために、組成式(1)において、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Ti、Cr、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0080】
電池の容量を高めるために、組成式(1)において、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0081】
電池の容量を高めるために、Meは、Mn、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0082】
組成式(1)において、Meは、Mnを含んでもよい。すなわち、Meは、Mnであってもよい。
【0083】
もしくは、Meは、Mnだけでなく、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0084】
すでに説明したように、Mnおよび酸素の軌道混成は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、電池の容量を向上できる。
【0085】
組成式(1)において、Meに対するMnのモル比は、60%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)が、0.6以上1.0以下であってもよい。
【0086】
すでに説明したように、Mnおよび酸素の軌道混成は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、電池の容量を向上できる。
【0087】
組成式(1)において、Meは、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の元素を、Meに対する当該少なくとも一種の元素のモル比が20%以下となるように、含んでもよい。
【0088】
B、Si、P、及びAlは、高い共有結合性を有するので、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。その結果、サイクル特性が向上し、電池の寿命をさらに伸ばすことができる。
【0089】
以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.166≦x≦1.4、かつ
0.67≦y≦1.0。
【0090】
上記の2つの数式が充足されると、電池の容量をさらに向上できる。
【0091】
以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.33≦α≦2.0、かつ
0≦β≦0.67。
【0092】
上記の2つの数式が充足されると、電池の容量をさらに向上できる。
【0093】
以下の数式が充足されてもよい。
0<β≦0.67。
【0094】
上記の数式が充足されると、電池の容量をさらに向上できる。
【0095】
組成式(1)で表されるリチウム複合酸化物は、Q(すなわち、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1つ)を含んでもよい。当該少なくとも1種の元素により、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。
【0096】
電気化学的に不活性なアニオンによって、リチウム複合酸化物の酸素原子の一部を置換してもよい。言い換えれば、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンによって酸素原子の一部を置換してもよい。この置換により、組成式(1)で表されるリチウム複合酸化物の結晶構造はさらに安定化すると考えられる。酸素アニオンの半径よりも大きなイオン半径を有するアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、Liの拡散性が向上すると考えられる。上述のように、第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このようにして、電池の容量が向上する。
【0097】
Qは、Fを含んでもよい。
【0098】
すなわち、Qは、Fであってもよい。
【0099】
もしくは、Qは、Fだけでなく、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでもよい。
【0100】
フッ素原子は電気陰性度が高いため、酸素の一部をフッ素原子で置換することにより、カチオンとアニオンとの相互作用が大きくなり、放電容量または動作電圧が向上する。同様の理由により、Fが含まれない場合と比較して、Fの固溶により電子が局在化する。このため、充電時の酸素脱離が抑制され、結晶構造が安定化する。以上のように、第1の相、第2の相、および第3の相を有する結晶構造では、結晶構造がさらに安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離することが可能となる。これらの効果が総合的に作用することで、電池の容量がさらに向上する。
【0101】
以下2つの数式が充足されてもよい。
1.33≦α≦1.9、かつ
0.1≦β≦0.67。
【0102】
上記2つの数式が充足されると、電池の容量をさらに向上できる。
【0103】
上記2つの数式が充足されると、酸素の酸化還元によって容量が過剰となることを防ぐことができる。その結果、電気化学的に不活性なQの影響が十分に発揮されることにより、Liが脱離した際でも、結晶構造は安定なままである。このようにして、電池の容量をさらに向上できる。
【0104】
LiのMeに対するモル比は、数式(x/y)で示される。
【0105】
モル比(x/y)は、1.4以上2.0以下であってもよい。
【0106】
1.4以上2.0以下のモル比(x/y)は、電池の容量をさらに向上させる。
【0107】
モル比(x/y)が1よりも大きい場合では、例えば、組成式LiMnOで示される従来の正極活物質におけるLi原子数の比よりも、実施の形態1によるリチウム複合酸化物におけるLi原子数の比が高い。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となる。
【0108】
モル比(x/y)が1.4以上の場合、利用できるLi量が多いので、Liの拡散パスが適切に形成される。このため、モル比(x/y)が1.4以上の場合、電池の容量がさらに向上する。
【0109】
モル比(x/y)が2.0以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。充電時のLi脱離時の結晶構造の不安定化を原因とする放電時のLi挿入効率の低下が抑制される。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0110】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.4以上1.5以下であってもよい。
【0111】
OのQに対するモル比は、数式(α/β)で示される。
【0112】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、2以上19以下でもよい。
【0113】
モル比(α/β)が2以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0114】
モル比(α/β)が19以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。これにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が発揮されることにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0115】
上述されたように、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、組成式LiMeαβで表される平均組成を有していてもよい。したがって、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、カチオン部分およびアニオン部分から構成される。カチオン部分は、LiおよびMeから構成される。アニオン部分は、OおよびQから構成される。LiおよびMeから構成されるカチオン部分の、OおよびQから構成されるアニオン部分に対するモル比は、数式((x+y)/(α+β))で示される。
【0116】
モル比((x+y)/(α+β))は、0.75以上1.2以下であってもよい。
【0117】
0.75以上1.2以下であるモル比((x+y)/(α+β))は、電池の容量をさらに向上させる。
【0118】
モル比((x+y)/(α+β))が0.75以上である場合、リチウム複合酸化物の合成時に不純物が多く生成することを防ぐことができ、電池の容量がさらに向上する。
【0119】
モル比((x+y)/(α+β))が1.2以下の場合、リチウム複合酸化物のアニオン部分の欠損量が少なくなるので、充電によってリチウムがリチウム複合酸化物から離脱した後でも、結晶構造は安定に維持される。
【0120】
モル比((x+y)/(α+β))は、1.0以上1.2以下であってもよい。
【0121】
1.0以上1.2以下のモル比((x+y)/(α+β))は、電池の容量をさらに向上させる。
【0122】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物において、Liの一部は、NaあるいはKのようなアルカリ金属で置換されていてもよい。
【0123】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を主成分として含んでもよい。言い換えれば、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する上述のリチウム複合酸化物の質量比が50%以上となるように、含んでもよい。このような正極活物質は、電池の容量をさらに向上させる。
【0124】
電池の容量をさらに向上させるために、当該質量比は70%以上であってもよい。
【0125】
電池の容量をさらに向上させるために、当該質量比は90%以上であってもよい。
【0126】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物だけでなく不可避的な不純物をも含んでもよい。
【0127】
実施の形態1における正極活物質は、未反応物質として、その出発物質を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物の合成時に発生する副生成物を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物の分解により発生する分解生成物を含んでいてもよい。
【0128】
実施の形態1における正極活物質は、不可避的な不純物を除いて、上述のリチウム複合酸化物のみを含んでもよい。
【0129】
リチウム複合酸化物のみを含む正極活物質は、電池の容量をさらに向上させる。
【0130】
<リチウム複合酸化物の作製方法>
以下に、実施の形態1の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の製造方法の一例が、説明される。
【0131】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、例えば、次の方法により、作製される。
【0132】
Liを含む原料、Meを含む原料、および、Qを含む原料を用意する。
【0133】
Liを含む原料としては、例えば、LiOまたはLiのようなリチウム酸化物、LiF、LiCO、またはLiOHのようなリチウム塩、あるいはLiMeOまたはLiMeのようなリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0134】
Meを含む原料としては、例えば、Meのような金属酸化物、MeCOまたはMeNOのような金属塩、Me(OH)またはMeOOHのような金属水酸化物、あるいはLiMeOまたはLiMeのようなリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0135】
例えば、MeがMnの場合には、Mnを含む原料としては、例えば、MnOまたはMnのような酸化マンガン、MnCOまたはMnNOのようなマンガン塩、Mn(OH)またはMnOOHのような水酸化マンガン、あるいはLiMnOまたはLiMnのようなリチウムマンガン複合酸化物、が挙げられる。
【0136】
Qを含む原料としては、例えば、ハロゲン化リチウム、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属硫化物、または遷移金属窒化物が挙げられる。
【0137】
QがFの場合には、Fを含む原料としては、例えば、LiFまたは遷移金属フッ化物が挙げられる。
【0138】
これらの原料の重さが、例えば、上述の組成式(1)に示したモル比に対して、Li量が0.8倍となるように、測定される。
【0139】
原料を、例えば、乾式法または湿式法で混合し、次いで遊星型ボールミルのような混合装置内で10時間以上メカノケミカルに互いに反応させることで、化合物(すなわち、リチウム複合酸化物の前駆体)が得られる。
【0140】
その後、得られた化合物にLiを含む原料(例えば、LiOH)をさらに添加し、熱処理する。これにより、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が得られる。
【0141】
このようにして、x、y、α、およびβの値を、組成式(I)において示された範囲内で変化させることができる。
【0142】
熱処理の条件は、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が得られるように適宜設定される。熱処理の最適な条件は、他の製造条件および目標とする組成に依存して異なるが、本発明者らは、例えば、熱処理の温度が高いほど、熱処理に要する時間が長いほど、または熱処理時の酸素分圧が低いほど、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)および積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)の値が大きくなる傾向を見出している。さらに、本発明者らは、熱処理前に添加するLiの量が多いほど、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)の値が大きくなる傾向を見出している。製造者は、この傾向を指針として用いて熱処理の条件を定めることができる。熱処理の温度および時間は、例えば、200~900℃の範囲、及び、1分~20時間の範囲からそれぞれ選択されてもよい。熱処理の雰囲気の例は、大気雰囲気、酸素雰囲気、または不活性雰囲気(例えば、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気)である。
【0143】
以上のように、原料、原料の混合条件、および熱処理条件を調整することにより、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0144】
得られたリチウム複合酸化物が有する結晶構造の空間群は、例えば、X線回折測定または電子線回折測定により、特定することができる。これにより、得られたリチウム複合酸化物が、例えば、単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相、六方晶に属する結晶構造を有する第2の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第3の相を含むことを確認できる。
【0145】
得られたリチウム複合酸化物の平均組成は、例えば、ICP発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより、決定され得る。
【0146】
原料としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、元素のミキシングのエネルギーを低下させることができる。これにより、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の純度を高められる。
【0147】
以上のように、実施の形態1のリチウム複合酸化物の製造方法は、原料を用意する工程(a)、原料をメカノケミカルに反応させることによりリチウム複合酸化物の前駆体を得る工程(b)、および前駆体を熱処理することによりリチウム複合酸化物を得る工程(c)を具備する。
【0148】
原料は、混合原料であってもよく、当該混合原料では、LiのMeに対する比は1.4以上2.0以下であってもよい。
【0149】
工程(a)では、Meに対するLiのモル比が1.4以上1.5以下となるように原料を混合し、混合原料を調製してもよい。
【0150】
工程(b)では、メカノケミカルのためにボールミルを用いてもよい。
【0151】
以上のように、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物を得るためには、原料(例えば、LiF、LiO、遷移金属酸化物、またはリチウム複合酸化物)を、遊星型ボールミルを用いて、メカノケミカル反応により混合してもよい。
【0152】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。実施の形態1において説明された事項は、適宜、省略され得る。
【0153】
実施の形態2における電池は、上述の実施の形態1における正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を備える。
【0154】
実施の形態2における電池は、高い容量を有する。
【0155】
実施の形態2における電池において、正極は、正極活物質層を備えてもよい。正極活物質層は、実施の形態1における正極活物質を主成分として含んでいてもよい。すなわち、正極活物質層の全体に対する正極活物質の質量比は50%以上である。
【0156】
このような正極活物質層は、電池の容量をさらに向上させる。
【0157】
当該質量比は、70%以上であってもよい。
【0158】
このような正極活物質層は、電池の容量をさらに向上させる。
【0159】
当該質量比は、90%以上であってもよい。
【0160】
このような正極活物質層は、電池の容量をさらに向上させる。
【0161】
実施の形態2における電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、非水電解質二次電池、または全固体電池である。
【0162】
実施の形態2における電池において、負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含有していてもよい。あるいは、負極は、材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料を含有していてもよい。
【0163】
実施の形態2における電池において、電解質は、非水電解質(例えば、非水電解液)であってもよい。
【0164】
実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0165】
図1は、実施の形態2における電池10の断面図を示す。
【0166】
図1に示されるように、電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。
【0167】
セパレータ14は、正極21と負極22との間に、配置されている。
【0168】
正極21と負極22とセパレータ14とには、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)が含浸されている。
【0169】
正極21と負極22とセパレータ14とによって、電極群が形成されている。
【0170】
電極群は、ケース11の中に収められている。
【0171】
ガスケット18と封口板15とにより、ケース11が閉じられている。
【0172】
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を備えている。
【0173】
正極集電体12は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種)又はそれらの合金で作られている。
【0174】
正極集電体12は設けられないことがある。この場合、ケース11を正極集電体として使用する。
【0175】
正極活物質層13は、実施の形態1における正極活物質を含む。
【0176】
正極活物質層13は、必要に応じて、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、または結着剤)を含んでいてもよい。
【0177】
負極22は、負極集電体16と、負極集電体16の上に配置された負極活物質層17と、を備えている。
【0178】
負極集電体16は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種)又はそれらの合金)で作られている。
【0179】
負極集電体16は設けられないことがある。この場合、封口板15を負極集電体として使用する。
【0180】
負極活物質層17は、負極活物質を含んでいる。
【0181】
負極活物質層17は、必要に応じて、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、または結着剤)を含んでいてもよい。
【0182】
負極活物質の材料の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。
【0183】
金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属またはリチウム合金が挙げられる。
【0184】
炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素が挙げられる。
【0185】
容量密度の観点から、負極活物質として、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物を使用できる。珪素化合物および錫化合物は、合金または固溶体であってもよい。
【0186】
珪素化合物の例として、SiO(ここで、0.05<x<1.95)が挙げられる。SiOの一部の珪素原子を他の元素で置換することによって得られた化合物も使用できる。当該化合物は、合金又は固溶体である。他の元素とは、ホウ素、マグネシウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、ニオブ、タンタル、バナジウム、
タングステン、亜鉛、炭素、窒素、及び錫からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。
【0187】
錫化合物の例として、NiSn、MgSn、SnO(ここで、0<x<2)、SnO、またはSnSiOが挙げられる。これらから選択される1種の錫化合物が、単独で使用されてもよい。もしくは、これらから選択される2種以上の錫化合物の組み合わせが、使用されてもよい。
【0188】
負極活物質の形状は限定されない。負極活物質としては、公知の形状(例えば、粒子状または繊維状)を有する負極活物質が使用されうる。
【0189】
リチウムを負極活物質層17に補填する(すなわち、吸蔵させる)ための方法は、限定されない。この方法の例は、具体的には、(a)真空蒸着法のような気相法によってリチウムを負極活物質層17に堆積させる方法、または(b)リチウム金属箔と負極活物質層17とを接触させて両者を加熱する方法である。いずれの方法においても、熱によってリチウムは負極活物質層17に拡散する。リチウムを電気化学的に負極活物質層17に吸蔵させる方法も用いられ得る。具体的には、リチウムを有さない負極22およびリチウム金属箔(負極)を用いて電池を組み立てる。その後、負極22にリチウムが吸蔵されるように、その電池を充電する。
【0190】
正極21および負極22の結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。
【0191】
結着剤の他の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン、からなる群より選択される2種以上の材料の共重合体である。上述の材料から選択される2種以上の結着剤の混合物が用いられてもよい。
【0192】
正極21および負極22の導電剤の例は、グラファイト、カーボンブラック、導電性繊維、フッ化黒鉛、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、または有機導電性材料である。
【0193】
グラファイトの例としては、天然黒鉛または人造黒鉛が挙げられる。
【0194】
カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、またはサーマルブラックが挙げられる。
【0195】
金属粉末の例としては、アルミニウム粉末が挙げられる。
【0196】
導電性ウィスカーの例としては、酸化亜鉛ウィスカーまたはチタン酸カリウムウィスカーが挙げられる。
【0197】
導電性金属酸化物の例としては、酸化チタンが挙げられる。
【0198】
有機導電性材料の例としては、フェニレン誘導体が挙げられる。
【0199】
導電剤を用いて、結着剤の表面の少なくとも一部を被覆してもよい。例えば、結着剤の表面は、カーボンブラックにより被覆されてもよい。これにより、電池の容量を向上させることができる。
【0200】
セパレータ14の材料は、大きいイオン透過度および十分な機械的強度を有する材料である。セパレータ14の材料の例は、微多孔性薄膜、織布、または不織布が挙げられる。具体的には、セパレータ14は、ポリプロピレンまたはポリエチレンのようなポリオレフィンで作られていることが望ましい。ポリオレフィンで作られたセパレータ14は、優れた耐久性を有するだけでなく、過度に加熱されたときにシャットダウン機能を発揮できる。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μm(又は10~40μm)の範囲にある。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよい。もしくは、セパレータ14は、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%(又は35~60%)の範囲にある。用語「空孔率」とは、セパレータ14の全体の体積に占める空孔の体積の割合を意味する。空孔率は、例えば、水銀圧入法によって測定される。
【0201】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。
【0202】
非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。
【0203】
環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。
【0204】
鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。
【0205】
環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、または1、3-ジオキソランである。
【0206】
鎖状エーテル溶媒の例としては、1、2-ジメトキシエタンまたは1、2-ジエトキシエタンである。
【0207】
環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。
【0208】
鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。
【0209】
フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。
【0210】
非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。
【0211】
非水電解液は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、およびフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒を含んでいてもよい。
【0212】
当該少なくとも1種のフッ素溶媒が非水電解液に含まれていると、非水電解液の耐酸化性が向上する。
【0213】
その結果、高い電圧で電池10を充電する場合にも、電池10を安定して動作させることが可能となる。
【0214】
実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0215】
固体電解質の例は、有機ポリマー固体電解質、酸化物固体電解質、または硫化物固体電解質である。
【0216】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物と、リチウム塩との化合物である。このような化合物の例は、ポリスチレンスルホン酸リチウムである。
【0217】
高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。高分子化合物がエチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができる。その結果、イオン導電率をより高めることができる。
【0218】
酸化物固体電解質の例は、
(i) LiTi(POまたはその置換体のようなNASICON固体電解質、
(ii) (LaLi)TiOのようなペロブスカイト固体電解質、
(iii) Li14ZnGe16、LiSiO、LiGeO、またはその置換体のようなLISICON固体電解質、
(iv) LiLaZr12またはその置換体のようなガーネット固体電解質、
(v) LiNまたはそのH置換体、もしくは
(vi) LiPOまたはそのN置換体
である。
【0219】
硫化物固体電解質の例は、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75、またはLi10GeP12である。硫化物固体電解質に、LiX(XはF、Cl、Br、またはIである)、MO、またはLiMO(Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、またはInのいずれかであり、かつxおよびyはそれぞれ独立して自然数である)が添加されてもよい。
【0220】
これらの中でも、硫化物固体電解質は、成形性に富み、かつ高いイオン伝導性を有する。このため、固体電解質として硫化物固体電解質を用いることで、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0221】
硫化物固体電解質の中でも、LiS-Pは、高い電気化学的安定性および高いイオン伝導性を有する。このため、固体電解質として、LiS-Pを用いると、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0222】
固体電解質が含まれる固体電解質層には、さらに上述の非水電解液が含まれてもよい。
【0223】
固体電解質層が非水電解液を含むので、活物質と固体電解質との間でのリチウムイオンの移動が容易になる。その結果、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0224】
固体電解質層は、ゲル電解質またはイオン液体を含んでもよい。
【0225】
ゲル電解質の例は、非水電解液が含浸したポリマー材料である。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、またはポリメチルメタクリレートである。ポリマー材料の他の例は、エチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0226】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i) テトラアルキルアンモニウムのような脂肪族鎖状第4級アンモニウム塩のカチオン、
(ii) テトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状第4級ホスホニウム塩のカチオン、
(iii) ピロリジニウム、モルホリニウム、イミダゾリニウム、テトラヒドロピリミジニウム、ピペラジニウム、またはピペリジニウムのような脂肪族環状アンモニウム、または
(iv)ピリジニウムまたはイミダゾリウムのような窒素含有ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0227】
イオン液体を構成するアニオンは、PF 、BF 、SbF 、AsF 、SOCF 、N(SOCF 、N(SO 、N(SOCF)(SO、またはC(SOCF である。イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0228】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCFである。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0229】
実施の形態2における電池の形状について、電池は、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、シート型電池、ボタン型電池(すなわち、ボタン型セル)、扁平型電池、または積層型電池である。
【0230】
(実施例)
<実施例1>
[正極活物質の作製]
1.0/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、LiMnO、LiMnO、LiCoO、およびLiNiOの混合物を得た。
【0231】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0232】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0233】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0234】
粉末X線回折測定の結果、前駆体の空間群はFm-3mとして特定された。
【0235】
次に、得られた前駆体に、(Mn+Co+Ni)に対するLiのモル比が1.5となるように、LiOH・HOを添加した。LiOH・HOの添加により、Li/Mn/Co/Ni/O/Fモル比は変更され、1.2/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1となった。次いで、前駆体を、摂氏500度で2時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、実施例1による正極活物質を得た。
【0236】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0237】
図2は、粉末X線回析測定の結果を示す。
【0238】
実施例1による正極活物質に対して、電子回折測定も行った。粉末X線回折測定および電子回折測定の結果に基づいて、実施例1による正極活物質の結晶構造を解析した。
【0239】
その結果、実施例による正極活物質は、空間群C2/mに属する相、空間群R-3mに属する相、および空間群Fm-3mに属する相を含む三相混合物であると判定された。
【0240】
X線回析装置(株式会社リガク社製)を用いて得られた粉末X線回折測定の結果から、X線回析ピークの積分強度を、当該X線回析装置に付属のソフトウェア(商品名:PDXL)を用いて算出した。実施例1による正極活物質における積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)および積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、それぞれ、1.16および0.12であった。
【0241】
[電池の作製]
次に、70質量部の実施例1による正極活物質、20質量部のアセチレンブラック、10質量部のポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という)、および適量のN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という)を混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤として機能した。ポリフッ化ビニリデンは結着剤として機能した。
【0242】
20マイクロメートルの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0243】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60マイクロメートルの正極板を得た。
【0244】
得られた正極板を打ち抜いて、直径12.5mmの円形状の正極を得た。
【0245】
300マイクロメートルの厚みを有するリチウム金属箔を打ち抜いて、直径14mmの円形状の負極を得た。
【0246】
これとは別に、フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)とエチレンカーボネート(以下、「EC」という)とエチルメチルカーボネート(以下、「EMC」という)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0247】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0248】
得られた非水電解液を、セパレータに、染み込ませた。セパレータは、セルガード社の製品(品番2320、厚さ25マイクロメートル)であった。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータであった。
【0249】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点がマイナス摂氏50度に維持されたドライボックスの中で、直径が20ミリであり、かつ厚みが3.2ミリのコイン型電池を、作製した。
【0250】
(実施例2)
[正極活物質の作製]
0.2/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、LiMnO、LiMnO、LiCoO、およびLiNiOの混合物を得た。
【0251】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0252】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0253】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0254】
粉末X線回折測定の結果、前駆体の空間群はFm-3mとして特定された。
【0255】
次に、得られた前駆体に、(Mn+Co+Ni)に対するLiのモル比が1.5となるように、LiOH・HOを添加した。LiOH・HOの添加により、Li/Mn/Co/Ni/O/Fモル比は変更され、1.2/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1となった。次いで、前駆体を、摂氏500度で2時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、実施例2による正極活物質を得た。
【0256】
実施例2による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0257】
実施例2による正極活物質に対して、電子回折測定も行った。粉末X線回折測定および電子回折測定の結果に基づいて、実施例2による正極活物質の結晶構造を解析した。
【0258】
その結果、実施例2による正極活物質は、空間群C2/mに属する相、空間群R-3mに属する相、および空間群Fm-3mに属する相を含む三相混合物であると判定された。
【0259】
X線回析装置(株式会社リガク社製)を用いて得られた粉末X線回折測定の結果から、X線回析ピークの積分強度を、当該X線回析装置に付属のソフトウェア(商品名:PDXL)を用いて算出した。実施例1による正極活物質における積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)および積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、それぞれ、1.14および0.12であった。
【0260】
実施例2による正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、実施例2によるコイン型電池を作製した。
【0261】
<実施例3~10>
実施例3~実施例10では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) 混合物の混合比(すなわち、Li/Me/O/Fの混合比)を変化させたこと。
(ii) 加熱条件を、500~900℃かつ10分~10時間の範囲内で変えたこと。
【0262】
表1に、実施例3~10の正極活物質の平均組成が示される。
【0263】
実施例3~10の正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、実施例3~10のコイン型電池を作製した。
【0264】
<実施例11>
[正極活物質の作製]
1.0/0.54/0.13/0.13/2.0のLi/Mn/Co/Ni/Oモル比を有するように、LiMnO、LiMnO、LiCoO、およびLiNiOの混合物を得た。
【0265】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0266】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0267】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0268】
粉末X線回折測定の結果、前駆体の空間群はFm-3mとして特定された。
【0269】
次に、得られた前駆体に、(Mn+Co+Ni)に対するLiのモル比が1.5となるように、LiOH・HOを添加した。LiOH・HOの添加により、Li/Mn/Co/Ni/Oモル比は変更され、1.2/0.54/0.13/0.13/2.0となった。次いで、前駆体を、摂氏500度で2時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、実施例11による正極活物質を得た。
【0270】
実施例11による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0271】
実施例11による正極活物質に対して、電子回折測定も行った。粉末X線回折測定および電子回折測定の結果に基づいて、実施例11による正極活物質の結晶構造を解析した。
【0272】
その結果、実施例11による正極活物質は、空間群C2/mに属する相、空間群R-3mに属する相、および空間群Fm-3mに属する相を含む三相混合物であると判定された。
【0273】
X線回析装置(株式会社リガク社製)を用いて得られた粉末X線回折測定の結果から、X線回析ピークの積分強度を、当該X線回析装置に付属のソフトウェア(商品名:PDXL)を用いて算出した。実施例1による正極活物質における積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)および積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、それぞれ、1.21および0.24であった。
【0274】
実施例11による正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、実施例11によるコイン型電池を作製した。
【0275】
<比較例1>
比較例1では、公知の手法を用いて、化学式LiCoO(すなわち、コバルト酸リチウム)で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0276】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0277】
粉末X線回折測定の結果が、図2に示される。
【0278】
粉末X線回折測定の結果から、比較例1による正極活物質の空間群は、空間群R-3mとして特定された。
【0279】
比較例1による正極活物質における積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)および積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、それぞれ、1.27および0であった。
【0280】
比較例1による正極活物質を用いて、実施例1の場合と同様にして、比較例1のコイン型電池を作製した。
【0281】
<電池の評価>
0.5mA/cmの電流密度で、4.7Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を充電した。
【0282】
その後、0.5mA/cmの電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を放電させた。
【0283】
実施例1の電池の初回放電容量は、282mAh/gであった。
【0284】
0.5mA/cmの電流密度で、4.3Vの電圧に達するまで、比較例1の電池を充電した。
【0285】
その後、0.5mA/cmの電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、比較例1の電池を放電させた。
【0286】
比較例1の電池の初回放電容量は、150mAh/gであった。
【0287】
実施例2~実施例11のコイン型電池の初回放電容量を同様に測定した。
【0288】
以下の表1~表3は、実施例1~実施例11および比較例1の結果を示す。
【0289】
【表1】
【0290】
【表2】
【0291】
【表3】
【0292】
表1に示されるように、実施例1~11の電池は、255~282mAh/gの初回放電容量を有する。
【0293】
すなわち、実施例1~11の電池の初回放電容量は、比較例1の電池の初回放電容量よりも、大きい。
【0294】
この理由としては、実施例1~11の電池では、正極活物質におけるリチウム複合酸化物が、単斜晶に属する結晶構造を有する第1の相と、六方晶に属する結晶構造を有する第2の相と、立方晶に属する結晶構造を有する第3の相と、を含むことが考えられる。このため、多くのLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、Liの拡散性および結晶構造の安定性が高いと考えられる。このため、初回放電容量が大きく向上したと考えられる。
【0295】
比較例1では、結晶構造が空間群R-3mの単相である。(x/y)の値は1に等しい。これらの理由のため、充放電時のLiの挿入量および脱離量と結晶構造の安定性が低下し、初回放電容量が大きく低下したと考えられる。
【0296】
表1に示されるように、実施例6の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0297】
この理由としては、実施例6では、実施例1と比較して、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が小さいことが考えられる。このため、第1の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0298】
表1に示されるように、実施例7の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0299】
この理由としては、実施例7では、実施例1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいことが考えられる。このため、第3の相の存在比が小さくなり、結晶構造の安定性が低下したと考えられる。さらに、実施例7では、実施例1と比較して、I(20°-23°)/I(18°-20°)が大きいことが考えられる。このため、第2の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの拡散性が低下したと考えられる。これらの理由により、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0300】
表1に示されるように、実施例8の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0301】
この理由としては、実施例8では、実施例1と比較して、I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいことが考えられる。このため、第3の相の存在比が小さくなり、結晶構造の安定性が低下したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0302】
表1に示されるように、実施例9の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0303】
この理由としては、実施例9では、実施例1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいことが考えられる。このため、第3の相の存在比が小さくなり、結晶構造の安定性が低下したと考えられる。さらに、実施例9では、実施例1と比較して、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が小さいことが考えられる。このため、第1の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。これらの理由により、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0304】
表1に示されるように、実施例10の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0305】
この理由としては、実施例10では、実施例1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。このため、第1の相と第2の相との総量の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量、脱離量、および拡散性が低下したと考えられる。さらに、実施例10では、実施例1と比較して、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が小さいことが考えられる。このため、第1の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。これらの理由により、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0306】
表1に示されるように、実施例11の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0307】
この理由としては、実施例11では、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物が、フッ素原子Fを含有しないことが考えられる。このことが、結晶構造の不安定化を招く。その結果、充電時のLi脱離に伴い結晶構造が崩壊すると考えられる。このため、初回放電容量が低下すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0308】
本開示の正極活物質は、二次電池のような電池のために用いられ得る。
【符号の説明】
【0309】
10 電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極
図1
図2