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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】照明装置
(51)【国際特許分類】
   F21S 2/00 20160101AFI20230519BHJP
   F21K 9/60 20160101ALI20230519BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230519BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230519BHJP
   F21Y 105/16 20160101ALN20230519BHJP
【FI】
F21S2/00 311
F21K9/60
H01L33/50
F21Y115:10
F21Y105:16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022531678
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2021021484
(87)【国際公開番号】W WO2021256307
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020105688
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】増子 直也
(72)【発明者】
【氏名】石黒 英治
(72)【発明者】
【氏名】川口 武
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 啓一
(72)【発明者】
【氏名】村松 慶一
【審査官】竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125577(JP,A)
【文献】特開2014-75186(JP,A)
【文献】特開2019-135756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00
F21K 9/60
H01L 33/50
F21Y 115/10
F21Y 105/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの蛍光体含有LED装置を組み合わせたLED装置構成体であって、
前記蛍光体含有LED装置は、420~480nmの範囲にピーク波長を有する発光をする青色LED素子と、前記発光に励起されて蛍光を発する、ユーロピウム賦活ストロンチウム・アルミネイト(SAE)系蛍光体,LuAG(LAG)系蛍光体,及びシリケート系蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体と、を含み、
ISO白色度が82±3%のPPC(plain paper copier)紙の表面における紙面反射光が、
CIE1931の色度座標において、相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02であり、且つ、
分光分布が波長380~780nmの可視光領域において、波長420~480nmの範囲に最大強度を示す第1のピークと、波長481~580nmの範囲における最大ピークである前記第1のピークの強度に対するピークの強度の割合が40~70%であって半値幅が50以上である第2のピークとを有し、前記第1のピークと前記第2のピークとの間に、前記第1のピークの強度に対して5~17%の強度を示す谷を有する、
光を発することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記半値幅が80以上である請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記紙面反射光が、CIE1931の色度座標において、前記相関色温度が5000~6000Kであり、前記色偏差duvが-0.01~0.01である請求項1または2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記蛍光体含有LED装置は、シリカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の光拡散材を含む請求項1~3の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
前記紙面反射光は、前記波長380~780nmの可視光領域の分光波長面積に対して、波長420~480nmの領域の分光波長面積が15~30%である請求項1~4の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項6】
波長581~780nmに前記第1のピークの強度に対して30%以上の強度を示すピークを有しない請求項1~5の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項7】
読書灯、スポットライト照明、卓上スタンドライト、または車両室内灯である請求項1~6の何れか1項に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のLED装置を組み合わせたLED装置構成体である照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED装置を用いた照明において、人に対して疲労感を与えにくい照明について研究されている。例えば、下記特許文献1は、暗所において明るく感じさせて高い視認性を与え、かつ疲労感を与えにくい光を発する光源として、CIE1931の色度図の座標において、無彩色を示す座標W(0.33,0.33)とスペクトル軌跡上の480nmの座標B(0.091,0.133)と、560nmの座標G(0.373,0.624)とを結ぶ線分WB及び線分WGとスペクトル軌跡に囲まれる領域における、色純度が2~50の領域に含まれ、かつ、波長領域480~540nmにおいて連続した分光波長が占める面積が380~780nmの光源全体の分光波長面積に対して15%以上である光を発する光源を開示する。
【0003】
また、疲労感に関するものではないが、紙面の白さ感を高める光により、紙面の文字を読みやすくする照明光も提案されている。このような技術として、下記特許文献2は、固体発光素子を有する光源を備え、光源は、相関色温度が5400~7000Kの範囲で、色偏差Duv-6~8の範囲にあり、The CIE 1997 Interim Color Appearance Model (Simple Version)で規定される算出方法を用いて求められたコピー用紙における鮮やかさの指標であるクロマ値が2.7以下となる分光放射特性を有する照明装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-125577号公報
【文献】特開2014-075186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、白色光を発する、LED装置を用いた照明装置において、暗い部屋で紙面上の文字を読むときに、目が疲労することにより、目のピント調節機能が低下して文字がぼやけて視認しにくくなるという問題を知見し、このような問題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に想到した。
【0006】
すなわち、本発明は、LED装置を用いた白色光を発する照明装置において、暗い部屋で文字を読む人に、目のピント調節機能を低下させにくい照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、少なくとも2つの蛍光体含有LED装置を組み合わせたLED装置構成体であって、蛍光体含有LED装置は、420~480nmの範囲にピーク波長を有する発光をする青色LED素子と、その発光に励起されて蛍光を発する、SAE系蛍光体,LAG系蛍光体,及びシリケート系蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体と、を含み、ISO白色度が82±3%のPPC(plain paper copier)紙の表面における紙面反射光(以下、単に、紙面反射光とも称する)が、CIE1931の色度座標において、相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02であり、且つ、その分光分布が波長380~780nmの可視光領域において、波長420~480nmの範囲に最大強度を示す第1のピークと、波長481~580nmの範囲における最大ピークである第1のピークの強度に対するピークの強度の割合が40~70%であって半値幅が50以上である第2のピークと、を有し、第1のピークと第2のピークとの間に、第1のピークの強度に対して5~17%の強度を示す谷を有する、光を発する照明装置である。このような照明装置によれば、白色光を発する、暗い部屋で文字を読む人に目のピント調節機能を低下させにくい照明装置が得られる。
【0008】
また、蛍光体含有LED装置は、シリカ及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の光拡散材を含むことが、SAE系蛍光体,LAG系蛍光体,及びシリケート系蛍光体を効率良く励起させるとともに、波長420~480nmの青色の発光の強度を適度に低減させることにより、上述した紙面反射光の分光分布が得られるように調整しやすい点から好ましい。
【0009】
また、紙面反射光は、波長380~780nmの可視光領域の分光波長面積に対して、波長420~480nmの領域の分光波長面積が15~30%であること、また、581~780nmに第1のピークの強度に対して30%以上の強度を示すピークを有しないことが、暗い部屋で文字を読む人の文字の視認性を低下させず、また、その人に目の疲労感を与えにくく、眠気を催させにくい点から好ましい。
【0010】
このような照明装置は、暗い部屋で文字を読むときに用いられる、読書灯、スポットライト照明、卓上スタンドライト、または自動車室内灯等に好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、白色光を発する照明装置において、暗い部屋で文字を読む人に目のピント調節機能を低下させにくい照明装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態の照明装置100の平面模式図である。
図2図2は、実施形態の照明装置の発光による紙面反射光の、色度座標における相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02である範囲を示す図である。
図3図3は、蛍光体含有LED装置10の平面模式図である。
図4図4は、蛍光体含有LED装置10の断面模式図である。
図5図5は、各実施例及び各比較例で得られた照明装置の発光による、紙面反射光の色度座標を示す。
図6図6は、実施例1~4で得られた照明装置の発光による紙面反射光の分光スペクトルを示す。
図7図7は、比較例1~6で得られた照明装置の発光による紙面反射光の分光スペクトルを示す。
図8図8は、実施例で用いた照明装置を説明するための説明図である。
図9図9は、実施例で用いた評価のためのLED卓上スタンド50の説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の照明装置は、少なくとも2つの蛍光体含有LED装置を組み合わせたLED装置構成体であって、蛍光体含有LED装置は、420~480nmの範囲にピーク波長を有する発光をする青色LED素子と、青色LED素子の発光に励起されて蛍光を発する、SAE系蛍光体,LAG系蛍光体,及びシリケート系蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体と、を含む。そして、照明装置は、ISO白色度が82±3%のPPC紙の表面における紙面反射光が、CIE1931の色度座標において、相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02であり、分光分布が波長380~780nmの可視光領域において、波長420~480nmの範囲に最大強度を示す第1のピークと、波長481~580nmの範囲における最大ピークである第1のピークの強度に対するピークの強度の割合が40~70%であって半値幅が50以上である第2のピークと、を有し、第1のピークと第2のピークとの間に、第1のピークの強度に対して5~17%の強度を示す谷を有する光を発する。
【0014】
本発明に係る照明装置の一例として、図面を参照して実施形態を説明する。図1は本実施形態の照明装置100の平面模式図であり、10はLED装置、20はLED装置を実装するLED実装基板である。LED実装基板20の主面には、複数のLED装置10が実装されており、また、その裏面には複数のLED装置10に電力を供給するための電力供給回路21が形成されている。また、LED実装基板20の主面には、光を拡散させるための反射膜が形成されていてもよい。そして、電力供給回路21は電源30に接続されている。そして、電力供給回路21を通じて電源30からの電力供給を受けて、複数のLED装置10は発光する。
【0015】
照明装置100は、標準的な白色度を有する上質紙である、ISO白色度が82±3%のPPC紙の表面における紙面反射光が、CIE1931の色度座標において、相関色温度が4500~7500Kの範囲で色偏差duvが-0.01~0.02の範囲であり、その分光分布が波長380~780nmの可視光領域において、波長420~480nmの範囲に最大強度を示す第1のピークと、波長481~580nmの範囲における最大ピークである第1のピークの強度に対するピークの強度の割合が40~70%であって半値幅が50以上である第2のピークと、を有し、第1のピークと第2のピークとの間に、第1のピークの強度に対して5~17%の強度を示す谷を有する、白色光を発する。なお、紙面反射光のCIE1931の色度座標及び分光分布は、後述するように、例えば、分光放射照度計(コニカミノルタ(株)製の分光放射照度計CL-500A)を用いて測定される。
【0016】
ISO白色度が82±3%のPPC紙とは、標準的な白色度を有する上質紙である。また、ISO白色度は、JIS P8148に規定される測定方法によって算出される用紙の白さを表す指標である。ISO白色度が高いほど白さが高いことを示す。
【0017】
そして、本実施形態の照明装置の発光が、紙面において反射して人の目に刺激を与える紙面反射光の特性が、上述した範囲になるように調整されていることにより、白色光を発する照明装置において、暗い部屋で文字を読む人に、目のピント調節機能を低下させにくい照明装置が得られる。図2は、照明装置の発光による、ISO白色度が82±3%のPPC紙の表面における紙面反射光が、CIE1931の色度座標において、相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02である範囲を示している。
【0018】
そして、本実施形態の照明装置の発光は、さらに、上述した紙面反射光の分光分布が、波長380~780nmの可視光領域において、波長420~480nmの範囲に最大強度を示す第1のピークと、波長481~580nmの範囲における最大ピークである、第1のピークの強度に対するピークの強度の割合が40~70%であって半値幅が50以上である第2のピークとを有し、第1のピークと第2のピークとの間に、第1のピークの強度に対して5~17%の強度を示す谷を有するように分光特性が調整されている。なお、第1のピークの波長は、波長420~480nmの領域において最大強度を示す山の頂点の波長である。また、第2のピークの波長は、波長481~580nmの領域において最大強度を示す山の頂点の波長である。また、ピークの半値幅は、各ピークの頂点における強度に対して強度が半値になる部分の波長幅である。
【0019】
図6は、本実施形態の照明装置に係る後述する実施例1~4で得られた照明装置の紙面反射光の分光スペクトルを示す。各分光スペクトル中、11(11a~11d)は波長380~780nmの可視光領域において、最大強度を示す第1のピークであり、波長420~480nmの領域に存在している。また、12(12a~12d)は、波長481~580nmの領域における最大ピークである、第1のピークの強度に対するピークの強度の割合が40~70%であって半値幅が50以上である第2のピークである。また、13(13a~13d)は、第1のピーク11と第2のピーク12との間に存在する、第1のピーク11の強度に対して5~17%の強度を示す谷である。
【0020】
紙面反射光が、CIE1931の色度座標において、相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02である範囲の光色を示し、且つ、上述したような分光スペクトルを有することにより、人に光色の違和感を与えない白色光を発する照明装置が得られる。
【0021】
紙面反射光の色に関し、相関色温度は4500~7500Kであり、色偏差duvが-0.01~0.02であり、好ましくは相関色温度が5000K~6000Kであり、色偏差duvが-0.01~0.01であり、さらに好ましくは相関色温度が5000K~6000Kであり、色偏差duvが-0.01~0である。紙面反射光がこのような色になる照明装置によれば、人に光色の違和感を与えない白色光を発する照明装置が得られる。紙面反射光の色の相関色温度が7500Kを超える場合、及び相関色温度が4500K未満の場合、また、色偏差duvが-0.01よりも低い場合、及び色偏差duvが0.02を超える場合には、白色領域から遠ざかるために、人に光色の違和感を与えてしまう。ここで、色偏差duvとは、CIE1931の色度座標において、相関色温度を示す黒体軌跡からの色差を示し、色偏差がプラス側に大きくなれば光色が緑味を増し、マイナス側に小さくなれば赤紫味を増す。
【0022】
また、紙面反射光の色に関し、波長380~780nmの可視光領域において、波長420~480nmの領域に最大強度を示す第1のピークを有し、第2のピークの強度が第1のピークの強度に対して40~70%、好ましくは40~60%であることにより、暗い部屋で文字を読む人に、目のピント調節機能を低下させにくく、目の疲労感も感じさせにくくなる。また、第2ピークの半値幅が50以上、好ましくは半値幅が50~250、さらに好ましくは半値幅が100~200であることが、暗い部屋で文字を読む人に目のピント調節機能を低下させにくくする。
【0023】
また、紙面反射光は、第1のピークと第2のピークとの間に第1のピークの強度に対して5~17%、好ましくは6~16%、さらに好ましくは8~15%の強度を示す谷を有する。ここで、第1のピークと第2のピークとの間に存在する谷とは、第1のピークと第2のピークとの間の最も強度が低い点を意味する。このように谷が一定範囲の強度を有することにより、暗い部屋で文字を読む人に、目のピント調節機能を低下させにくくする。
【0024】
また、紙面反射光は、分光分布において、波長380~780nmの可視光領域の分光波長面積に対して、波長420~480nmの領域の分光波長面積が15~30%、さらには20~30%であること、また、波長581~780nmの範囲に第1のピークの強度に対して30%以上、さらには、40%以上の強度を示すピークを有しないことが、暗い部屋で紙面上の文字を読む人の文字の視認性を低下させず、また、眠気を催させにくい点から好ましい。波長581~780nmの範囲に大きすぎるピークを有する場合には、眠気を催しやすくなる傾向がある。
【0025】
本実施形態の照明装置は、上述のように、LED実装基板上に少なくとも2つのLED装置を組み合わせたLED装置構成体である。このような照明装置に用いられる少なくとも2つのLED装置は、同様の発光特性を示す1種のLED装置を複数個組み合わせたものであっても、異なる発光特性を示す複数種のLED装置を複数個組み合わせたものであってもよく、求められる用途の照度や照射面積等に応じて適宜選択される。照明装置に実装される少なくとも2つのLED装置の個数としては、例えば、5~1000個、さらには5~200の範囲であることが実用上好ましい。
【0026】
少なくとも2つのLED装置を構成する各LED装置としては、青色LED素子を含む青色LED装置に後述するような蛍光体を組み合わせた、蛍光体含有LED装置を含むことが、上述したような特性を有する紙面反射光を生成する光を発する照明装置を製造しやすい点から好ましい。次に、このような照明装置に実装される蛍光体含有LED装置の代表例について、図面を参照して説明する。
【0027】
図3は、本実施形態の照明装置100を構成するための蛍光体含有LED装置10の平面模式図である。また、図4は、図3の蛍光体含有LED装置10のB-B′断面における断面模式図である。図3及び図4を参照すれば、本実施形態の蛍光体含有LED装置10は、青色LED素子1を含むLED装置本体5を蛍光体3及び必要に応じて配合される光拡散材を含有する蛍光体層である蛍光体含有キャップ9で覆うように製造されたLED装置構成体である。
【0028】
図4に示すように、LED装置本体5は、420~480nmの範囲に発光ピーク波長を有する青色LED素子1と、青色LED素子1を収容する凹部2aを備えるパッケージ部材2と、凹部2aに収容された青色LED素子1を封止する透明樹脂封止材4と、を備える青色LED装置である。
【0029】
青色LED素子1は、420~480nmの青色領域に発光ピーク波長を有する光を発する。LED装置本体5は青色LED素子1を含むために、紙面反射光の分光分布において、波長420~480nmの範囲に最大強度を示す第1のピークを形成する点から好ましい。青色LED素子は、高い蛍光体の発光効率が得られ、長期信頼性にも優れる。
【0030】
青色LED素子としては、窒化ガリウム(GaN)系の青色LED素子が挙げられる。また、透明樹脂封止材は、凹部に収容された青色LED素子を封止して密封する。透明樹脂封止材を形成する透明樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。本実施形態のLED装置本体5は表面実装型装置(SMD)と称されるタイプであるが、SMDの代わりに、いわゆる砲弾型、パッケージ型、チップオンボード型(COBタイプ)などの他のタイプのLED装置を用いてもよい。
【0031】
LED装置本体5の凹部2aの内壁面には、銀メッキ等による反射膜7が形成されていてもよい。青色LED素子1の一方の電極はリード2bに接続され、青色LED素子1の他方の電極は金線6によりワイヤーボンディングされてリード2cに接続されて、それぞれ外部へ延出されている。リード2bはアノードであり、リード2cはカソードである。LED装置本体5のリード2cに電源の正極側、リード2bに電源の負極側を接続して、電力を付与することにより、青色LED素子1が発光する。このようなLED装置本体5においては、透明樹脂封止材4の上面が発光面になる。そして、LED装置本体5の発光面を覆うように蛍光体含有キャップ9が装着されている。
【0032】
蛍光体含有キャップ9は、青色LED素子の発光に励起されて蛍光を発する、ユーロピウム賦活ストロンチウム・アルミネイト(SAE)系蛍光体,ルテチウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体やセリウム賦活ルテチウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体等のLuAG(LAG)系蛍光体,及びクロロシリケート蛍光体等のシリケート系蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を配合した蛍光体シートをキャップ形状に成形した成形体である。
【0033】
光透過性樹脂の具体例として、例えばシリコーンゴム(シリコーンエラストマー)やシリコーンレジン等が例示される。
【0034】
SAE系蛍光体,LAG系蛍光体,及びシリケート系蛍光体としては、波長430~530nmの範囲に半値幅が50以上であるような蛍光ピーク波長を有する蛍光体であることが、上述したような分光分布を有する紙面反射光になる発光を呈する蛍光体含有LED装置が得られやすい点から好ましい。
【0035】
また、蛍光体含有キャップ9は上述の蛍光体以外の蛍光体を必要に応じて含んでもよい。このような蛍光体の具体例としては、例えば、アルミネート系蛍光体,セリウム付活イットリウムアルミニウムガーネット蛍光体等のイットリウムアルミニウムガーネット系蛍光体(YAG系蛍光体),β-SiAlON:Eu(サイアロン系蛍光体)等の青緑色~黄色領域の蛍光を発する蛍光体が挙げられる。
【0036】
なお、481~530nmの範囲にピーク波長を有する蛍光体は主として青色~青緑色の蛍光を発し、500~590nmの範囲にピーク波長を有する蛍光体は主として青緑色~黄色の蛍光を発する。
【0037】
また、蛍光体含有キャップには、演色性を向上させるために、必要に応じて青色LED素子の発光により励起されて、581~780nmの範囲にピーク波長を有する赤色系の光を発する蛍光体を配合してもよい。しかしながら、赤色系の蛍光体の蛍光による波長581~680nmの範囲のピークの分光は、眠気を催させやすくなる傾向がある。このような赤色蛍光体の具体例としては、窒化物系蛍光体,(Sr,Ca)CaAlSiN3:Eu、CaAlSiN3:Eu等のカズン系蛍光体(CASN蛍光体),サイアロン系蛍光体等が挙げられる。
【0038】
また、蛍光体含有キャップには、波長420~480nmの青色LED素子の光を拡散することにより、蛍光体含有キャップ内の蛍光体を効率良く励起させるとともに、波長420~480nmの青色の発光の強度を適度に低減させるために、光拡散材を配合することが好ましい。このような光拡散材としては、シリカや炭酸カルシウムが挙げられる。
【0039】
また、蛍光体含有キャップには、所定の波長の光を吸収することにより発光色を調整するための成分として必要に応じて着色材を配合してもよい。このような着色材の具体例としては、例えば、緑色顔料として、クロムグリーン,酸化クロム,ピグメントグリーンB,マラカイトグリーンレーキ,ファナルイエローグリーンG,フタロシアニングリーン等の有機または無機顔料が挙げられる。また、光源全体の輝度を調節するために、酸化チタン,タルク,硫酸バリウム等の白色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料を併用することができる。これらは、蛍光体と混合しても、蛍光体を含まない層を設けて配合してもよい。
【0040】
また、上述した蛍光体含有キャップに変えて、蛍光体を含有する平板な蛍光体シートを接着したり、LED装置本体の発光面に蛍光体を含有する蛍光体層を設けて蛍光体含有LED装置を製造したりしてもよい。蛍光体層としては、青色LED素子の表面に形成されたり、透明樹脂封止材の内部または表面に塗布や印刷などで形成されたりした膜状であってもよい。とくに蛍光体層が、透明樹脂封止材の表面に形成された膜状である場合、蛍光体層に配合される蛍光体や光色調整剤の配合量や、分光波長や発光強度の微調整、LED装置の製造が容易になる点から好ましい。また、蛍光体含有LED装置には、蛍光体層を形成する代わりに、青色LED素子を封止する透明樹脂封止材に蛍光体を分散させてもよい。
【0041】
以上、少なくとも2つのLED装置を組み合わせた構成体である照明装置について詳しく説明した。なお、照明装置は上述したような構成に限られず、紙面反射光が、上述したような分光特性になる限り、更なる要素を含んだり、改変されたりしてもよい。具体的には、例えば、LED装置として、蛍光体を含有しない、青色LED素子を含む青色LED装置や、波長360nm~400nmの紫外LED装置や、LED装置の分光波長を調整するカラーフィルターや、色むらのない光を取り出すための光拡散部材や、光の配光を制御するための導光部材やレンズ部材を必要に応じて組み合わせてもよい。
【0042】
以上説明した、本実施形態の照明装置は、外光が紙面反射光の分光スペクトルへ影響を及ぼさない、20ルクス以下のような暗い部屋で文字を読むときに用いられる間接照明の用途、具体的には、例えば、読書灯、スポットライト照明、卓上スタンドライト、デスクライト、シーリングライト、自動車,車輛,船舶,又は飛行機の室内のマップランプ又は車両室内灯等の内部照明として好ましく用いられる。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明の範囲は、実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
[蛍光体]
本実施例で用いた蛍光体を以下の表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[LED装置の製造]
表1に示した蛍光体F1~F7及び光拡散材D(炭酸カルシウム)をシリコーンゴムに下記表2に示す配合割合で均一に分散させた蛍光体を含有するシリコーンゴム組成物を調製し、各組成物を熱プレス成形することにより、厚さ0.3mmの蛍光体含有キャップC1~C10を製造した。
【0047】
【表2】
【0048】
そして、青色LED装置の発光面に、蛍光体含有キャップ(C1~C10)の何れかをそれぞれシリコーン系接着剤で接着して蛍光体含有LED装置L1~L10を製造した。
なお、青色LED装置としては、B1「NJSC172C(発光ピーク:443nm)」、またはB2「NSSC063A(発光ピーク:452nm)」)(何れも日亜化学工業(株)製)を用いた。
【0049】
[照明装置の製造]
図8に示すように、蛍光体含有LED装置Lを3個実装できる、対角線の長さが20mmである正六角形のLED実装基板21に、表2に示した蛍光体含有LED装置L1~L10の同種の3個ずつを実装した。このようにして、それぞれ同種の3個のLED装置が実装されたLED実装基板S(S1~S10)を多数製造した。そして、図8に示すように、厚み1mmで75×200mmの長方形のアルミニウム板22の一面に実装基板S1~S10の何れかを同種の10個ずつ放熱性シリコーン系接着剤で接着させた。1枚のアルミニウム板には同種の10個の実装基板が等間隔に接着されて、合計30個実装された。そして、各実装基板に電力を供給するために配線した。このようにして、それぞれ30個の蛍光体含有LED装置をアルミニウム板に実装してなるLED装置構成体である照明装置110を製造した。
【0050】
[LED卓上スタンドの製造]
排熱フィン14を取り付けた反射部材であるアルミニウムフレーム15に、上述の照明装置110の何れかを装着した。そして、図9に示すように、支柱16に、アルミニウムフレーム15を支持させることにより、、LED卓上スタンド50を製造した。アルミニウムフレーム15は支柱16に沿ってスライドさせることにより高さ調整される。
【0051】
また、本実施例で用いた評価方法を以下にまとめて説明する。
【0052】
[光源の光学特性の評価]
400×400mmの正方形の面を有するテーブル上に、上述したLED卓上スタンドを配置した。このとき、LED卓上スタンドの蛍光体含有LED装置の発光面から正方形の面上までの高さは、光源を点灯させたときにテーブル上における分光放射照度計(コニカミノルタ(株)製のCL-500A)で測定した照度が500ルクスになる400mmに調整された。
【0053】
そして、テーブル上にISO白色度が82%のPPC紙を配置した。そして、LED卓上スタンドの光源を点灯させてPPC紙を照明した。そして、PPC紙表面からの紙面反射光の反射スペクトル及び色度座標は分光放射照度計を用いて測定した。
【0054】
評価結果を下記表3に示す。併せて、表3に、色度(x,y)座標から特定した色味も示す。なお、第1ピークは、420~480nmの領域内にある第1のピークの波長を示している。強度比は、第1のピークに対する第2のピークの強度比を示している。分光波長領域面積率は、380~780nmの分光波長の面積を100%としたときの、420~480nmの分光波長の面積を示している。波長580~780nmの範囲に第1のピークの強度に対して30%以上の強度を有するピークの有無も示している。
【0055】
【表3】
【0056】
また、図5に各実施例及び各比較例で得られた照明装置の発光による、紙面反射光の、CIE1931の色度座標を示す。また、図6に実施例1~4で得られた照明装置の発光による紙面反射光の分光スペクトル、図7に比較例1~6で得られた照明装置の発光による紙面反射光の分光スペクトルを示す。
【0057】
[評価]
21歳から24歳の被験者10名を採用した。被験者は、裸眼,常用眼鏡,または、コンタクトレンズを着用したときに両眼で視力0.7以上であり、石原式正常色覚検査表により評価した色覚異常もなかった。常用眼鏡、または、コンタクトレンズを着用している被験者にはそれらを着用させた。また、被験者は実験前日に6時間以上の充分な睡眠をとっており、実験開始12時間以内の喫煙及び飲酒はしておらず、実験開始1時間以内にカフェインを摂取していなかった。そして、暗室内に、400×400mmの正方形の面を有するテーブル及び椅子を配置し、テーブル上に上述したLED卓上スタンドを配置した。そして、椅子に被験者が座ったときにテーブル上に配置する印刷物と被験者との視距離が450mmになるようにテーブル及び椅子の高さを調節し、目の位置を調整させた。なお、被験者には、実験の目的を伝えていない。
【0058】
暗室で被験者を椅子に座らせて1分間の安静時間を保持させた後に、発光の色度(0.33,0.33)、照度100ルクスの順応光源を点灯した。そして、被験者に以下のように自覚症しらべの問い及び眼精疲労の自覚症状の問いに回答させた。
【0059】
〈自覚症しらべ〉
日本産業衛生学会産業疲労研究会発行(2002年)の下記表4に示す「自覚症しらべ」を用いて、各被験者に眠気、不安定感、ぼやけ感の自覚症状について判定させた。表3の項目から、眠気は10,13,14,17,21のスコアを参照し、不安定感は、2,5,15,18,20のスコアを参照し、ぼやけ感は、3,7,16,22,24のスコアを参照し、それぞれのスコアを合計した。
【0060】
【表4】
【0061】
〈眼精疲労の自覚症状〉
被験者に眼精疲労の自覚症状を、日本産業衛生学会・産業疲労研究所発行の「新装産業疲労ハンドブック」pp.362-363(1995)の記載に基づき、下記表5に示す基準に従って判定させた。そして、スコアを合計した。
【0062】
【表5】
【0063】
〈フリッカー値の測定〉
そして、被験者に対してフリッカー値の測定を行った。具体的には、労研デジタルフリッカー値測定器(柴田科学(株)製RDF-1)を用いて、臨界融合頻度を順逆3回測定し、平均値を求めた。なお、疲労や眠気が高まることにより臨界融合頻度(CFF)は低下を示す。
【0064】
〈ピント調節力(近点調節力)〉
次に、目の近点距離の測定を行った。具体的には、近点計((株)東和製NS-100)を用いて、片目ずつ交互に近点距離の測定を各5回行い、その平均値から平均近点距離を求めた。そして、近点調節力(D)=1/平均近点距離の式により、近点調節力を算出した。目の疲労が高まることにより、近点調節力は低くなる。
【0065】
〈oxyHb濃度の変化の測定〉
そして、1分間の安静時間後、順応光源を消灯し、近赤外線分光法(NIRS)による、前頭前野内側部のoxyHb濃度の変化信号の計測を開始した。被験者の頭部に、NIRSを用いたウェアラブル光トポグラフィ装置(日立ハイテクノロジーズ(株)製WOT-220)を国際10-20法に則り、Fp1とFp2の中間である前頭前野内側部へ電極を装着させて、被験者の頭皮上から脳に近赤外光(約700~約1500nm)を当てた。そして、被験者に評価光源を装着したLED卓上スタンドの評価光源を点灯させ、テーブル上に予め配置されていた印刷物を10分間黙読させた。なお、印刷物は、A4のPPC紙に印刷された、フォントが明朝体、フォントサイズ10.5の文字が40文字×36行で日本語の文章が印刷されたものである。そして、印刷物の黙読中のoxyHb濃度の変化信号を計測し、oxyHb濃度の平均値を算出した。oxyHb濃度は前頭前野内側部の疲労時に低下し、oxyHb濃度の低下は脳賦活反応の低下を示す。そして、LED卓上スタンドの評価光源を消灯させ、1分間の安静時間後にNIRSの測定を終了した。
【0066】
そして、順応光源を点灯し、上述した方法と同様にして、再び、目の近点距離及びフリッカー値を測定した。また、再び、被験者に自覚症調べの問い及び眼精疲労自覚症状の問いに回答させた。また、表6に示した判定基準による、印刷物を10分間黙読したときの視認性(文字の見やすさ)の問いに回答させた。
【0067】
【表6】
【0068】
各評価結果は、一般的な純白色光である比較例1の光源を用いた場合を基準として判定した。
A:基準(比較例1)より優位なスコア
B:基準(比較例1)と同等
C:基準(比較例1)より劣位なスコア
【0069】
上記評価結果を表3にまとめて示す。
【0070】
図5図6及び表3を参照すれば、実施例1~4で得られた照明装置は何れも、紙面反射光の相関色温度が4500~7500Kで色偏差duvが-0.01~0.02に含まれる発光を示し、また、紙面反射光の分光特性が本件発明の範囲を満たすものである。
【0071】
そして、表3を参照すれば、実施例1~4で得られた照明装置は、比較例1~5の照明装置に比べてピント調節力が優れていた。具体的には、紙面反射光の第1のピークと第2のピークとの間の谷の強度が第1のピークの強度に対して5%未満、または、SAE系蛍光体,LAG系蛍光体,及びシリケート系蛍光体を含まない、比較例1,3~5で得られた照明装置は、実施例1~4で得られた照明装置よりも暗所におけるピント調節力が劣っていた。また、LAG系蛍光体を含有するが、紙面反射光の第1のピークと第2のピークとの間の谷の強度が第1のピークの強度に対して17%超である比較例2で得られた照明装置も、暗所におけるピント調節力が劣っていた。なお、紙面反射光の第1のピークと第2のピークとの間の谷の強度が第1のピークの強度に対して5%未満である比較例6で得られた照明装置は、暗所におけるピント調節力が実施例1~4と同等であったものの、視認性に劣っていた。
【符号の説明】
【0072】
1 青色LED素子
3 蛍光体
5 LED装置本体
9 蛍光体含有キャップ
10 蛍光体含有LED装置
11 第1のピーク
12 第2のピーク
100,110 照明装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9