(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】膵炎および疼痛をデス受容体アゴニストで処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/19 20060101AFI20230519BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20230519BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230519BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230519BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230519BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
A61K38/19 ZNA
A61K47/60 ZMD
A61P1/18
A61P29/00
C07K16/28
C07K16/46
(21)【出願番号】P 2018552212
(86)(22)【出願日】2017-04-07
(86)【国際出願番号】 US2017026617
(87)【国際公開番号】W WO2017177148
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-24
(32)【優先日】2016-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(72)【発明者】
【氏名】リー, ソルキ
(72)【発明者】
【氏名】ポンパー, マーティン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】パク, オギ
(72)【発明者】
【氏名】スヴィエルシェヴスキ, マグダレーナ
(72)【発明者】
【氏名】パスリチャ パンカジ ジェイ.
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/164217(WO,A1)
【文献】膵臓、2008、Vol.23,第124-131頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/19
A61K 47/60
A61P 1/18
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性膵炎の1つまたは複数の症状を処置するための組成物であって、前記組成物は、デス受容体アゴニストを含み
、前記処置は、急性膵炎の1つまたは複数の症状に罹患しているかまたは罹患する危険性がある対象に、前記組成物が、0.001mg/kg~100mg/kgの用量で投与されることを特徴とし、ここで、前記
デス受容体アゴニストが、TRAILまたはポリアルキレンオキシドで修飾されたTRAILである、組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキシドが、5,000~50,000ダルトンの間の分子量を有する、直鎖、分岐鎖、ダイマーまたはトリマーのポリエチレングリコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、注射を介して、鼻腔内、または肺に投与されることを特徴とする、請求項1から
2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、膵組織を保護し、かつ/または疼痛を低減し、健康な膵組織を傷付けない、請求項1から
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
急性膵炎の1つまたは複数の症状を処置することが、疼痛を低減させることを含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
急性膵炎の1つまたは複数の症状を処置することが、膵炎症を低減させることを含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の前記有効量が、必要とする前記対象に、1日1回、1日2回、1日3回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回または1ヶ月に1回投与されることを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、0.2mg/kg~20mg/kgの間の用量で投与される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が4mg/kgの用量で投与される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
急性膵炎の1つまたは複数の症状の処置のための医薬の製造における、有効量のデス受容体アゴニストを含む、医薬組成物の使用であって
、ここで、前記
デス受容体アゴニストが、TRAILまたはポリアルキレンオキシドで修飾されたTRAILである、使用。
【請求項11】
前記医薬組成物がさらに第2の治療剤、予防剤または診断剤を含む、請求項1
0に記載の使用。
【請求項12】
急性膵炎の1つまたは複数の症状の処置において使用される場合の、デス受容体アゴニストを単独でまたは第2の治療剤と組み合わせて含む組成物の投薬単位を含む、急性膵炎の1つまたは複数の症状を処置するためのキットであって
、ここで、前記
デス受容体アゴニストが、TRAILまたはポリアルキレンオキシドで修飾されたTRAILである、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2016年4月7日に出願された米国仮出願番号第62/319,454号の利益および優先権を主張しており、この仮出願は、その全体が参考として本明細書中に本明細書によって援用される。
【0002】
連邦政府によって支援された研究または開発に関する陳述
本発明は、国防総省(DOD)によって授与されたW81XWH-15-1-0301およびW81XWH-15-1-0302、ならびに国立衛生研究所によって授与されたR21AA023855の下、政府支援でなされた。政府は本発明において特定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー(TNFRSF)は、細胞外システインリッチドメインを介して腫瘍壊死因子(TNF)を結合する能力によって特徴付けられる、一群のサイトカイン受容体である。神経成長因子(NGF)を除いて、全てのTNFは、原型TNF-アルファと相同である。それらの活性形態では、TNF受容体の大部分は、原形質膜中でトリマー性複合体を形成する。従って、ほとんどのTNF受容体は、膜貫通ドメイン(TMD)を含有するが、一部は、可溶性形態へと切断され得(例えば、TNFR1)、一部は、TMDを完全に欠く(例えば、DcR3)。さらに、ほとんどのTNF受容体は、下流のシグナル伝達のために、特異的アダプタータンパク質、例えば、TRADD、TRAF、RIPおよびFADDを必要とする。TNF受容体は主に、アポトーシスおよび炎症に関与するが、増殖、生存および分化などの他のシグナル伝達経路にも参加し得る。TNF受容体は、哺乳動物中の広範な種々の組織、特に白血球において発現される。
【0004】
用語デス受容体とは、デスドメインを含有するTNF受容体スーパーファミリーのメンバー、例えば、TNFR1、Fas受容体、DR4およびDR5を指す。これらは、アポトーシス(プログラム細胞死)におけるそれらの役割にちなんで名づけられたが、他の機能を有することが現在公知である。
【0005】
用語TNF受容体は、TNF-アルファを認識するスーパーファミリーの原型メンバー、即ち、TNFR1およびTNFR2を指すために使用される場合が多い。腫瘍壊死因子受容体1、腫瘍壊死因子受容体2、リンホトキシンベータ受容体、OX40、CD40、Fas受容体、デコイ受容体3、CD27、CD30、4-1BB、デス受容体4(DR4)、デス受容体5(DR5)、デコイ受容体1、デコイ受容体2、RANK、オステオプロテジェリン、TWEAK受容体、TACI、BAFF受容体、ヘルペスウイルス侵入メディエーター、神経成長因子受容体、B細胞成熟抗原、グルココルチコイド誘導性TNFR関連、TROY、デス受容体6、デス受容体3およびエクトジスプラシンA2受容体を含む27のファミリーメンバーが存在する。
【0006】
急性または慢性の膵炎は、いくつかの調査によれば、米国において「胃腸疾患の負担」への重要な寄与因子である。慢性膵炎(CP)は、アルコール乱用の重篤な結果であり、膵臓の構造および機能の進行性の不可逆的な破壊によって特徴付けられる。CPは、膵線維症および絶え間ない腹部痛を伴う。CPにおける疼痛は、処置が非常に困難である。根底にある生物学についての理解の欠如が、純粋に解剖学的な基礎に基づくことが多く、一般に高度に侵襲性である、種々の経験的アプローチをもたらしてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、膵炎を処置する治療戦略の、実質的に満たされていない要求が存在する。
【0008】
本発明の目的は、膵炎、膵線維症および膵臓痛を処置するための組成物を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、膵炎、膵線維症および膵臓痛を処置するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
膵炎および関連の障害、例えば疼痛を、デス受容体アゴニスト、例えば、組換えヒトTRAILアナログまたは抗デス受容体5(DR5)アゴニスト抗体で処置する方法が開発された。組換えTNF(腫瘍壊死因子)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)アナログおよび抗DR5抗体は、それを必要とする個体において、活性化された膵星細胞を選択的に標的化し、炎症、線維化および疼痛を低減させ、急性および慢性の膵炎において膵機能を改善する。
【0011】
膵炎または膵臓痛を処置し、膵機能を改善する方法は、膵炎、膵線維症もしくは障害、例えば、膵臓痛に罹患しているかまたは罹患する危険性がある対象に、有効量のデス受容体アゴニストを含有する医薬組成物を投与するステップを含む。適切なデス受容体アゴニストには、TRAIL-R2(デス受容体5)アゴニスト、例えば、組換えヒト(rh)TRAIL、rhTRAILアナログ、操作されたTRAILアナログ、例えば、ポリマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)、コポリマーおよび分岐鎖アナログ、ならびにバイオポリマー、例えばヒアルロン酸で修飾された長時間作用性TRAILタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。TRAILベースの長時間作用性製剤は、TRAIL融合タンパク質、アゴニスト抗TRAIL-R2抗体、およびアゴニスト小分子またはTRAIL-R2を結合するペプチド分子を含む。DR4ではなくTRAIL-R2(DR5)は、実施例3で実証されるように、活性化された膵星細胞において選択的アポトーシスを誘導する主要な受容体である。
【0012】
好ましい実施形態では、TRAILは、rhTRAIL(即ち、組換えヒトTRAIL)、またはその機能的断片もしくはバリアント、例えば、281アミノ酸のヒトTRAILの断片である。好ましい実施形態では、断片は、全長281アミノ酸のヒト形態の114~281または95~281のアミノ酸配列を有する。好ましい実施形態では、長時間作用性rhTRAILは、PEG化腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)タンパク質、PEG化TRAIL誘導体、またはそれらの任意の組合せである。好ましい実施形態では、抗デス受容体抗体は、抗デス受容体5アゴニスト抗体である。例示的な態様では、デス受容体アゴニストは、PEG化TRAILアナログおよび抗DR5アゴニスト抗体を含む。
【0013】
デス受容体アゴニストおよび1つもしくは複数のポリエチレングリコール(PEG)部分またはその誘導体もまた、本明細書で提供される。一部の場合には、デス受容体アゴニストには、PEG化TRAILアナログまたはその誘導体が含まれる。
【0014】
一態様では、PEG部分または誘導体は、直鎖PEG、分岐鎖PEG、星型PEG、櫛型PEG、デンドリマー性PEG、PEGスクシンイミジルプロピオネート、PEG N-ヒドロキシスクシンイミド、PEGプロピオンアルデヒド、PEGマレイミド、直鎖メトキシポリ(エチレングリコール)(mPEG)、分岐鎖mPEG、星型mPEG、櫛型mPEG、デンドリマー性mPEG、mPEGスクシンイミジルプロピオネート、mPEG N-ヒドロキシスクシンイミド、mPEGプロピオンアルデヒドおよびmPEGマレイミドからなる群から選択される。一部の場合には、分岐鎖PEG部分または誘導体には、モノマー性、ダイマー性および/もしくはトリマー性のPEG部分、またはそれらの誘導体が含まれる。一部の場合には、PEG部分または誘導体は、トリマー性メトキシポリエチレングリコールマレイミドである。
【0015】
PEG部分は、サイズ排除クロマトグラフィーまたはMALDI-TOF質量スペクトルによって測定した場合、少なくとも1,000ダルトンの分子量を有する。一部の場合には、PEG部分には、約1,000~1,000,000ダルトンの間の平均分子量、約10,000~500,000ダルトンの間の平均分子量、約1,000~100,000ダルトンの間、最も好ましくは5,000~50,000ダルトンの間の平均分子量を有するPEG部分が含まれる。他の場合には、PEG部分には、約20,000~250,000ダルトンの間の平均分子量、約30,000~100,000ダルトンの間の平均分子量を有するPEG部分、または約40,000~80,000ダルトンの間の平均分子量を有するPEG部分が含まれる。
【0016】
コナツムマブ、ティガツズマブ、レクサツムマブ(lexatumuman)、HGS-TR2J/KMTR-2、LBY135、ドロジツマブ、TAS266、DS-8273/DS-8273a、APG880またはRG7386である抗DR5を含有する組成物もまた提供される。
【0017】
例示的な疾患または障害には、急性または慢性の膵炎、膵炎関連痛および膵線維症、ならびに線維症関連痛が含まれる。一部の場合には、膵線維症には、膵臓中の腫瘍微小環境における線維増生が含まれる。例示的な実施形態では、線維性障害は、線維症関連痛である。一部の場合には、方法は、線維症関連痛に罹患しているまたはそれを発症する危険性がある患者を同定するステップをさらに含む。
【0018】
適切な投与様式には、静脈内および皮下を含む注射によるもの、吸入、肺、経鼻、ならびにおそらくは眼内が含まれる。組成物は、0.001mg/kg~100mg/kg、例えば、0.001mg/kg、0.01mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、65mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、85mg/kg、90mg/kg、95mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与され得る。好ましくは、組成物は、0.2mg/kg~20mg/kgの間の用量、または0.001mg/kg~20mg/kgの間の用量で投与される。製剤は、膵組織が保護され、線維形成が低減され、膵線維化が反転し、疼痛が低減され、健康な膵組織が無傷であるように、有効な投薬量および期間で投与される。一態様では、線維性疾患または障害を処置することは、炎症を低減させることを含む。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
膵炎または膵臓痛障害に罹患しているかまたは罹患する危険性がある対象に、デス受容体アゴニストを含む組成物の有効量を投与するステップを含む、膵炎または膵臓痛障害を処置する方法。
(項目2)
前記デス受容体アゴニストが、組換えヒト腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)タンパク質、TRAILアナログ、PEG化TRAIL、デス受容体(DR5)アゴニスト抗体、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアゴニストを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記デス受容体アゴニストが、レクサツムマブ、ティガツズマブ、コナツムマブ、ドロジツマブ、HGSTR2J/KMTRSおよびLBY-135からなる群から選択されるDR5アゴニストを含む、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記デス受容体アゴニストが、TAS266およびscTRAIL-RBDからなる群から選択される多価DRアゴニストを含む、項目1または2に記載の方法。
(項目5)
前記抗体が、全長抗体、結合機能性を保持するその機能的断片、ヒト化抗体、二機能性もしくはキメラ抗体、またはそれらの組合せである、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記アゴニストが、TRAILまたはポリアルキレンオキシドで修飾されたTRAILである、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記ポリアルキレンオキシドが、5,000~50,000ダルトンの間の分子量を有する、直鎖、分岐鎖、ダイマーまたはトリマーのポリエチレングリコールである、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記膵炎または膵臓痛障害が、膵炎および膵線維症関連痛からなる群から選択される、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記膵炎が、急性膵炎および慢性膵炎からなる群から選択される、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記膵線維症関連痛が膵炎関連痛である、項目8に記載の方法。
(項目11)
線維症関連痛に罹患しているかまたはそれを発症する危険性がある患者を同定するステップをさらに含む、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記膵炎が慢性膵炎である、項目1から11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記組成物が、注射を介して、鼻腔内、肺または眼内に投与される、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
膵組織が保護され、線維形成が低減され、膵線維化が反転し、かつ/または疼痛が低減され、健康な膵組織が無傷である、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
膵炎または膵臓痛障害を処置することが、疼痛を低減させることを含む、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
膵炎または膵臓痛障害を処置することが、膵線維症を低減させることを含む、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
膵炎または膵臓痛障害を処置することが、膵炎症を低減させることを含む、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
組成物の前記有効量が、それを必要とする個体に、1日1回、1日2回、1日3回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回または1ヶ月に1回投与される、項目1から17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
膵炎または膵臓痛障害を処置するための有効量のデス受容体アゴニストを含む、医薬組成物。
(項目20)
第2の治療剤、予防剤または診断剤を含む、項目19に記載の医薬組成物。
(項目21)
デス受容体アゴニストを単独でまたは第2の治療剤と組み合わせて含む組成物の投薬単位を含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、膵炎モデルにおける、デス受容体(DR)アゴニスト、例えば、TRAILアナログまたは抗DRアゴニスト抗体の役割を示す模式図である。デス受容体アゴニストは、他の組織を無傷なままにしつつ、膵臓中の活性化された膵星細胞(PSC)を選択的に標的化する。活性化されたPSCは、膵線維症および疼痛の本元の1つである。PSC活性化を選択的に遮断することおよび/または活性化されたPSCを根絶することによって、デス受容体アゴニストは、線維症および疼痛を低減させ、膵組織の修復をもたらす。
【
図2】
図2は、初代ヒト島およびラット腺房細胞のパーセント細胞生存度(%)を示す棒グラフであり、このとき、細胞は、10、100、1,000ng/mLのTRAIL
PEGで処理される。初代ヒト島および膵腺房細胞を含む正常膵細胞に対する毒性は、検出されなかった。TRAIL
PEG(10、100、1,000ng/mL)を、種々の細胞と共に24時間インキュベートし、細胞死をMTTアッセイによって定量化した。
【
図3】
図3A、3B、3C、3D、3Eおよび3Fは、培養の2、4および7日目の、培養により活性化された初代ヒトPSCによる示された遺伝子の相対的発現を示す棒グラフである。培養により活性化された初代ヒトPSCは、Acta2(α-SMA、活性化された星細胞のマーカー)、線維形成マーカーおよびTRAIL受容体(DR5/DR4)を上方調節し、TRAIL誘導性アポトーシスに対して高度に感受性になる。静止状態(2日目)および活性化されたPSC(4日目および7日目)のqPCR分析。2日目に対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図4】
図4は、培養の1、2、4および7日目の、培養により活性化された初代ヒトPSCにおけるパーセント細胞死(%)を示す棒グラフである。
*P<0.05。
【
図5】
図5は、培養により活性化されたPSCを、示された濃度のマパツズマブ(抗DR4アゴニスト抗体、0~10
3ng/mL)またはコナツムマブ(抗DR5アゴニスト抗体、0~10
3ng/mL)で処理したときの、カスパーゼ3/7(アポトーシスマーカー)活性変化(倍)を示す棒グラフである。コナツムマブのみが、活性化されたPSCにおいてアポトーシスを誘導する。これは、DR4ではなくDR5が、活性化された星細胞におけるTRAILシグナル伝達において重要な役割を果たすことを示している。未処理のPSCに対して
***P<0.001。
【
図6】
図6Aおよび6Bは、PEタグ化デス受容体抗体を使用するフローサイトメトリーによって測定した、静止状態PSC(2日目)および活性化されたPSC(7日目)の細胞膜上でのDR4またはDR5の発現プロファイルを示すグラフである。DR5は、DR4と比較して、活性化されたPSCの細胞表面上で優勢に発現される。
【
図7】
図7A~7Eは、エタノール(EtOH)で活性化された初代ヒトPSCが、Acta2(α-SMA、活性化された星細胞のマーカー)、線維形成マーカーおよびTRAIL受容体(DR5/DR4)を上方調節することを示す棒グラフである。
図3は、EtOH(30および50mM)によって活性化されたPSCのqPCR分析を示す。EtOHで活性化されていないPSCに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図8】
図8Aおよび8Bは、EtOH(50mM)で活性化されたPSCをTRAIL
PEG(1μg/mL)で処理した後の、MTTアッセイによって定量化した細胞生存度(%)、およびカスパーゼ3/7活性(アポトーシスマーカー)相対比を示す棒グラフである。アルコールで活性化されたPSCのみが、TRAIL誘導性細胞死に対して感受性である。EtOHで活性化されていないPSCに対して
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図9】
図9は、EtOH(50mM)で活性化されたPSCを種々の濃度のTRAIL
PEG、コナツムマブ(抗DR5アゴニスト抗体)およびマパツズマブ(抗DR4アゴニスト抗体)で処理した後の、定量化されたカスパーゼ3/7活性(アポトーシスマーカー)を示す線グラフである。TRAIL
PEGおよびコナツムマブのみが、EtOHで活性化されたPSCにおいてアポトーシスを誘導する。
【
図10A】
図10A~10Eは、ホールセルパッチクランプ記録によって実証した、in vitroでの後根神経節(DRG)由来の感覚ニューロンの興奮性に対する、無血清条件にある活性化されたPSCから得られた順化培地(CM)(PSC-CM)との培養物中での48時間のインキュベーションの効果を示す。
図10Aは、PSC-CMと共に培養したニューロンにおける増加した自然電位および誘導された活動電位を示す代表的なトレーシングの図である。これには、基電流(活動電位を惹起するために必要な電流の量)における大幅な減少が伴う(
図10Bを参照のこと)。
図10Cは、誘発された活動電位の増強を示す。
図10Dは、増加した活動電位振幅を示す。
図10Eは、減少したIA電流(興奮性を維持するために重要な一過性のKv電流)を示す。
【
図10B】
図10A~10Eは、ホールセルパッチクランプ記録によって実証した、in vitroでの後根神経節(DRG)由来の感覚ニューロンの興奮性に対する、無血清条件にある活性化されたPSCから得られた順化培地(CM)(PSC-CM)との培養物中での48時間のインキュベーションの効果を示す。
図10Aは、PSC-CMと共に培養したニューロンにおける増加した自然電位および誘導された活動電位を示す代表的なトレーシングの図である。これには、基電流(活動電位を惹起するために必要な電流の量)における大幅な減少が伴う(
図10Bを参照のこと)。
図10Cは、誘発された活動電位の増強を示す。
図10Dは、増加した活動電位振幅を示す。
図10Eは、減少したIA電流(興奮性を維持するために重要な一過性のKv電流)を示す。
【
図10C】
図10A~10Eは、ホールセルパッチクランプ記録によって実証した、in vitroでの後根神経節(DRG)由来の感覚ニューロンの興奮性に対する、無血清条件にある活性化されたPSCから得られた順化培地(CM)(PSC-CM)との培養物中での48時間のインキュベーションの効果を示す。
図10Aは、PSC-CMと共に培養したニューロンにおける増加した自然電位および誘導された活動電位を示す代表的なトレーシングの図である。これには、基電流(活動電位を惹起するために必要な電流の量)における大幅な減少が伴う(
図10Bを参照のこと)。
図10Cは、誘発された活動電位の増強を示す。
図10Dは、増加した活動電位振幅を示す。
図10Eは、減少したIA電流(興奮性を維持するために重要な一過性のKv電流)を示す。
【
図10D】
図10A~10Eは、ホールセルパッチクランプ記録によって実証した、in vitroでの後根神経節(DRG)由来の感覚ニューロンの興奮性に対する、無血清条件にある活性化されたPSCから得られた順化培地(CM)(PSC-CM)との培養物中での48時間のインキュベーションの効果を示す。
図10Aは、PSC-CMと共に培養したニューロンにおける増加した自然電位および誘導された活動電位を示す代表的なトレーシングの図である。これには、基電流(活動電位を惹起するために必要な電流の量)における大幅な減少が伴う(
図10Bを参照のこと)。
図10Cは、誘発された活動電位の増強を示す。
図10Dは、増加した活動電位振幅を示す。
図10Eは、減少したIA電流(興奮性を維持するために重要な一過性のKv電流)を示す。
【
図10E】
図10A~10Eは、ホールセルパッチクランプ記録によって実証した、in vitroでの後根神経節(DRG)由来の感覚ニューロンの興奮性に対する、無血清条件にある活性化されたPSCから得られた順化培地(CM)(PSC-CM)との培養物中での48時間のインキュベーションの効果を示す。
図10Aは、PSC-CMと共に培養したニューロンにおける増加した自然電位および誘導された活動電位を示す代表的なトレーシングの図である。これには、基電流(活動電位を惹起するために必要な電流の量)における大幅な減少が伴う(
図10Bを参照のこと)。
図10Cは、誘発された活動電位の増強を示す。
図10Dは、増加した活動電位振幅を示す。
図10Eは、減少したIA電流(興奮性を維持するために重要な一過性のKv電流)を示す。
【
図11】
図11は、TRAIL
PEG処置されたAPラットにおけるMPO+(好中球マーカー)細胞数の低減を示す棒グラフである。TRAIL
PEG処置は、膵臓において、炎症、および浸潤したMPO+細胞浸潤の数を大幅に低減させた。Cer-PBS(未処置APラット)に対して
*P<0.05。
【
図12】
図12は、慢性膵炎(CP)ラットモデルにおいてTRAIL
PEGを試験するための研究設計のための予定表を示す図である。アルコール誘導性CPのモデルを、SDラットにエタノール/Lieber DeCarli流動食を43日間給餌し、セルレイン(20μg/kg)の5回の毎週の注射によって確立した。エタノールを、1週間総カロリーの0~36%食餌中に補充し、7日目に開始して研究の最後まで最終エタノール濃度で維持した。ラットを、14、21、28、35および41日目にセルレイン(1時間に1回、4回のi.p.注射)で処置した。TRAIL
PEG(4mg/kg、i.v)またはPBS(対照)を、36日目に始めて7日間毎日処置した。
【
図13】
図13Aおよび13Bは、マッソントリクローム(コラーゲン染色)およびa-SMA(活性化されたPSCのマーカー)染色のデジタル画像からの定量化として陽性面積/視野を示す棒グラフである。
【
図14A】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14B】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14C】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14D】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14E】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14F】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14G】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14H】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図14I】
図14A~14Iは、PBSまたはTRAIL
PEGで処置したセルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)における、GAPDHと比較した示された遺伝子の発現を示す棒グラフである。複数の線維形成マーカーに対するTRAIL
PEGの効果が示される。TRAIL
PEGは、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、mRNA(遺伝子)レベルで、複数の線維症関連分子を下方調節する。a-SMA、コラーゲン1、コラーゲン3、PDGFr、TIMP1、TIMP3、フィブロネクチン、PapおよびTGFβを含む線維症関連マーカーの遺伝子発現レベルは全て、TRAIL
PEGによる処置後に低減された。Acta2は、アルファ-SMAのmRNA名である。TIMPは、MMPの阻害剤である(MMPはコラーゲンの分解を担う)。フィブロネクチンは、線維症マーカーである。ペア給餌(対照)に対して
##P<0.01、
###P<0.001、EtOH-CP/PBSに対して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図15】
図15は、PBSまたはTRAIL
PEGで処置した対照およびCPラット(EtOH-CP)の膵組織中のヒドロキシプロリン濃度(μg/g)(コラーゲンマーカー)を示す棒グラフである。TRAIL
PEGは、未処置のEtOH-CPと比較して、セルレインおよびエタノール/Lieber DeCarli食誘導性CPラット(EtOH-CP)において、膵臓中のヒドロキシプロリンレベルを大幅に低減させる。対照群に対して
#P<0.05、EtOH-CP/PBSに対して
***P<0.001。
【
図16】
図16は、PBSまたはTRAIL
PEGで処置した健康なラットおよびCPラット(EtOH-CP)における応答の回数対VFF強度を示す線グラフである。TRAIL
PEGは、膵炎関連疼痛を低減させる。侵害受容に対するTRAIL
PEGの効果を、VFF(Von Freyフィラメント)法によって腹部の機械的感受性を測定することによって、慢性膵炎(CP)ラットモデルにおいて評価した。TRAIL
PEGは、CPモデルにおいて強い抗侵害受容効力を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
I.定義
「寛解させる」とは、疾患の発症または進行を減少させるか、抑制するか、減弱するか、弱めるか、静止させるかまたは安定化することを意味する。
【0021】
「対照」または「参照」とは、比較の標準を意味する。本明細書で使用する場合、「対照」試料または対象「と比較して変化した」は、正常、未処理/未処置または対照試料由来の試料とは統計的に異なるレベルを有することと理解される。対照試料には、例えば、培養物中の細胞、1匹もしくは複数の臨床検査動物、または1人もしくは複数のヒト対象が含まれる。対照試料を選択および試験する方法は、当業者の技術範囲内である。分析物は、細胞もしくは生物によって特徴的に発現もしくは産生される天然に存在する物質(例えば、抗体、タンパク質)、またはレポーター構築物によって産生される物質(例えば、β-ガラクトシダーゼまたはルシフェラーゼ)であり得る。検出のために使用される方法に依存して、変化の量および測定値は変動し得る。統計的有意性の決定は、陽性結果を構成する平均からの標準偏差の数など、当業者の技術範囲内である。
【0022】
「検出する」とは、検出される分析物の存在、非存在または量を同定することを指す。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「診断すること」とは、病態もしくは症状を分類すること、病態の重症度(例えば、グレードまたはステージ)を決定すること、病態進行をモニタリングすること、病態の転帰を予測すること、および/または回復の見込みを決定することを指す。
【0024】
製剤または製剤成分の用語「有効量」および「治療有効量」とは、所望の効果を提供するのに十分な、単独のまたは組み合わせた、製剤または成分の量を意味する。例えば、「有効量」とは、未処置の患者と比較して、疾患または障害の症状のうち1つまたは複数を寛解させるのに必要とされる、単独のまたは組み合わせた、化合物の量を意味する。疾患の治療的処置のための有効量は、投与の様式、対象の年齢、体重および総体的健康に依存して変動する。最終的に、担当医または獣医が、適切な量および投薬レジメンを決定する。
【0025】
「モジュレートする」とは、変更すること(増加または減少させること)を意味する。かかる変更は、本明細書に記載される方法などの、標準的な当該分野で公知の方法によって検出される。
【0026】
「線維性疾患または障害」は、修復または反応性プロセスにおける、臓器または組織中での過剰な繊維状結合組織の進行性の形成に関する一般的な用語である。線維症は、典型的には炎症または損傷の結果として、身体の多くの組織において生じ得る。線維症になりやすい臓器または組織の例には、肺、膵臓、心臓、肝臓、皮膚、指、関節、脳、骨髄、陰茎および腸が含まれるがこれらに限定されない。
【0027】
用語「正常な量」とは、疾患または障害と診断されないことが既知の個体における複合体の正常な量を指す。分子の量は、試験試料において測定され、参照限界、識別限界、またはカットオフポイントおよび異常値(例えば、膵炎について)を規定するためのリスク定義閾値などの技術を利用して、「正常な対照レベル」と比較され得る。「正常な対照レベル」とは、前立腺がんに罹患していないことが既知の対象において典型的には見出される1つもしくは複数のタンパク質(または核酸)または組み合わされたタンパク質指数(または組み合わされた核酸指数)のレベルを意味する。かかる正常な対照レベルおよびカットオフポイントは、分子が単独で使用されるか、他のタンパク質を指数へと組み合わせる式中で使用されるかに基づいて変動し得る。あるいは、正常な対照レベルは、臨床的に適切な計画対象期間にわたって疾患または障害へと転換しなかった以前に試験した対象由来のタンパク質パターンのデータベースであり得る。
【0028】
決定されるレベルは、対照レベルもしくはカットオフレベルもしくは閾値レベルと同じであり得る、または対照レベルもしくはカットオフレベルもしくは閾値レベルと比較して増加もしくは減少され得る。一部の態様では、対照対象は、同じ種、性別、民族性、年齢群、喫煙状況、肥満度指数(BMI)、現行の治療レジメン状況、病歴、またはそれらの組合せが一致した対照であるが、対照が、問題の疾患に罹患していないまたは疾患の危険性がないという点で、診断されている対象とは異なる。
【0029】
語句「薬学的に許容される担体」は、当該分野で認識されており、これには、それを必要とする個体に化合物を投与するのに適切な、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルが含まれる。
【0030】
用語「TNF(腫瘍壊死因子)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)受容体アゴニスト」とは、本明細書で使用する場合、デス受容体(DR)、TRAIL-R1(DR4)およびTRAIL-R2(DR5)に結合しそれらを活性化する薬剤を指す。TRAIL受容体アゴニスト即ちTRAには、TRAIL-R1および/またはTRAIL-R2に結合する、組換えTRAIL、組換えTRAILバリアント、TRAIL誘導体および抗TRAIL受容体抗体、ならびにTRAIL-R1および/またはTRAIL-R2を結合するアゴニスト小分子またはペプチド分子が含まれるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、抗TRAIL受容体抗体には、TRAIL-R2(DR5)に対する抗体が含まれる。
【0031】
一部の実施形態では、TRAIL抗体には、がん治療のために当初開発されたDR5抗体、コナツムマブ、ティガツズマブ、レクサツムマブ、HGS-TR2J/KMTR-2、LBY135、ドロジツマブ、TAS266、DS-8273/DS-8273a、APG880、RG7386が含まれるがこれらに限定されない。
【0032】
用語「PEG化」とは、分子およびマクロ構造、例えば、薬物、治療タンパク質または小胞への、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖の共有結合もしくは非共有結合的付着またはアマルガム化(amalgamation)のプロセスを指す。
【0033】
用語「予防する」、「予防すること」、「予防」および「予防的処置」とは、特に有害な状態、障害または疾患を発症する危険性がある、それに対して感受性の、またはその素因を有する臨床的に無症候の個体への薬剤または組成物の投与を指し、従って、症状の発生および/またはそれらの根底にある原因の予防に関する。
【0034】
医薬組成物は、急速に分裂している細胞、例えば、がん細胞において細胞周期を静止させる際に使用されるキットまたは医薬品系へとアセンブルされ得る。キットまたは医薬品系は、1つまたは複数の容器手段、例えば、バイアル、チューブ、アンプル、ビン、シリンジまたはバッグをその中に密に閉じ込めて有する、担体手段、例えば、箱、段ボール箱またはチューブを含み得る。本開示のキットまたは医薬品システムは、キットを使用するための付随する指示書もまた含み得る。
【0035】
II.組成物
有用な組成物は、デス受容体(TRAIL受容体)アゴニストを含む。デス受容体アゴニストの例には、TRAIL-R1および/またはTRAIL-R2に結合する、精製されたTRAIL、単離されたTRAIL、組換えTRAIL、組換えTRAILバリアント、TRAIL誘導体および抗TRAIL受容体抗体、ならびにTRAIL-R1および/またはTRAIL-R2を結合するアゴニスト小分子またはペプチド分子が含まれる。一部の実施形態では、抗TRAIL受容体抗体には、TRAIL-R1(DR4)およびTRAIL-R2(DR5)に対する抗体が含まれる。
【0036】
A.デス受容体アゴニスト
組成物は、炎症、線維化および疼痛を低減させるため、ならびに膵臓および膵炎において膵機能を改善するために、膵炎ならびに膵臓の線維性疾患および障害を、デス受容体TRAIL-R1(DR4)およびTRAIL-R2(DR5)アゴニスト、例えば、PEG化TNF(腫瘍壊死因子)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)アナログおよび抗DR5アゴニスト抗体で処置する方法において使用される。これらのPEG化タンパク質ベースの薬物および抗DR5抗体は、膵炎および膵線維症ならびに疼痛において疾患修飾効果を有する。これらは、安全で高度に安定で強力であり、延長された半減期を有する。
【0037】
1.TRAIL
TNF(腫瘍壊死因子)関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)は、アポトーシスと呼ばれる細胞死のプロセスを誘導するリガンドとして機能するタンパク質である。TRAILは、ほとんどの正常組織細胞によって産生および分泌されるサイトカインである。これは、ある特定のデス受容体に結合することによって、主に腫瘍細胞においてアポトーシスを引き起こす。TRAILは、CD253(表面抗原分類253)およびTNFSF10(腫瘍壊死因子(リガンド)スーパーファミリー、メンバー10)とも呼ばれている。
【0038】
ヒトでは、TRAILをコードする遺伝子は、他のTNFファミリーメンバーとは異なって、染色体3q26に位置する。TRAIL遺伝子のゲノム構造は、およそ20kbにわたり、222、138、42、106および1245ヌクレオチドの5つのエクソンセグメント、ならびにおよそ8.2、3.2、2.3および2.3kbの4つのイントロンから構成される。TRAIL遺伝子は、TATAおよびCAATボックスを欠き、プロモーター領域は、GATA、AP-1、C/EBP、SP-1、OCT-1、AP3、PEA3、CF-1およびISREに対する推定応答エレメントを含有する。
【0039】
TRAILは、腫瘍壊死因子スーパーファミリーの他のメンバーに対して相同性を示す。これは、281アミノ酸から構成され、II型膜貫通タンパク質(即ち、リーダー配列なし、1つの内部膜貫通ドメイン)の特徴を有する。N末端細胞質ドメインは、ファミリーメンバー間で保存されていないが、C末端細胞外ドメインは保存され、細胞表面からタンパク質分解的に切断され得る。TRAILは、3つの受容体分子を結合するホモトリマーを形成する。
【0040】
TRAILは、デス受容体DR4(TRAIL-R1)およびDR5(TRAIL-R2)に結合する。アポトーシスのプロセスは、カスパーゼ-8依存的である。カスパーゼ-8は、プロカスパーゼ-3、-6および-7を含む下流のエフェクターカスパーゼを活性化し、特異的キナーゼの活性化をもたらす。TRAILは、受容体DcR1およびDcR2もまた結合し、これらは、細胞質ドメインを含有しない(DcR1)またはトランケート型デスドメインを含有する(DcR2)。DcR1は、TRAIL中和性デコイ受容体として機能する。DcR2の細胞質ドメインは、機能的であり、NFカッパBを活性化する。従って、DcR2を発現する細胞では、TRAIL結合は、NFカッパBを活性化し、デスシグナル伝達経路と拮抗することおよび/または炎症を促進することが公知の遺伝子の転写をもたらす。TRAILは、TNFRSF10Bと相互作用することが示されている。
【0041】
TRAILは、ネイティブまたは遺伝子操作された(組換え)形態で得られ得る。TRAILは、トリマー形成を好むジッパーアミノ酸モチーフならびに/またはその単離および精製を促進する末端基を含み得る。
【0042】
適切なTRAILタンパク質は、ヒト形態のTRAILを含み、これは、281アミノ酸長、配列番号1:
MAMMEVQGGPSLGQTCVLIVIFTVLLQSLCVAVTYVYFTNELKQMQDKYSKSGIACFLKEDDSYWDPNDEESMNSPCWQVKWQLRQLVRKMILRTSEETISTVQEKQQNISPLVRERGPQRVAAHITGTRGRSNTLSSPNSKNEKALGRKINSWESSRSGHSFLSNLHLRNGELVIHEKGFYYIYSQTYFRFQEEIKENTKNDKQMVQYIYKYTSYPDPILLMKSARNSCWSKDAEYGLYSIYQGGIFELKENDRIFVSVTNEHLIDMDHEASFFGAFLVG
のアミノ酸配列を有する。
【0043】
好ましい実施形態では、TRAILは、全長ヒト形態(1~281)のアルギニン-114(Arg、R)からグリシン-281(Gly、G)までのアミノ酸配列を有し、配列番号2:
RERGPQRVAAHITGTRGRSNTLSSPNSKNEKALGRKINSWESSRSGHSFLSNLHLRNGELVIHEKGFYYIYSQTYFRFQEEIKENTKNDKQMVQYIYKYTSYPDPILLMKSARNSCWSKDAEYGLYSIYQGGIFELKENDRIFVSVTNEHLIDMDHEASFFGAFLVG
のアミノ酸配列を有する。
【0044】
典型的には、TRAILは、N末端アミノ酸残基において、エチレングリコール(EG)単位、より好ましくは2つまたはそれよりも多いEG単位(即ち、ポリエチレングリコール(PEG))で修飾される。N末端アミノ酸残基には、リシン、システイン、セリン、チロシン、ヒスチジン、フェニルアラニンまたはアルギニンが含まれるがこれらに限定されない。
【0045】
典型的には、任意のTRAILアナログが、PEG化に適切であり得る。アナログには、3つのモノマーのうち少なくとも1つが、1つまたは複数のアミノ酸置換または欠失を伴った、配列番号1または2のアミノ酸配列を有する、トリマー性TRAILが含まれる。TRAILアナログは、慣用的な分子生物学の技術を使用して、in vitroで生成され得る。
【0046】
TRAILは、そのN末端において、ロイシンまたはイソロイシンジッパー(ILZ)に付着され得る。好ましい実施形態では、ジッパーモチーフは、イソロイシンジッパーである(Kimら、BBRC、321巻:930~935頁(2004年))。
【0047】
2.デス受容体アゴニスト抗体
一部の実施形態では、デス受容体アゴニスト抗体には、単一、二重または多重抗原またはエピトープ特異性を有する、DR5抗体コナツムマブ、ティガツズマブ、レクサツムマブ、HGS-TR2J/KMTR-2、LBY135、ドロジツマブ、TAS266、DS-8273/DS-8273a、APG880、RG7386またはキメラ抗体、およびハイブリッド断片を含む断片、例えば、F(ab’)2などが含まれるがこれらに限定されない。かかる抗体および断片は、当該分野で公知の技術によって作製され得、抗体を産生し、特異性および活性について抗体をスクリーニングするための一般的な方法に従って特異性および活性についてスクリーニングされ得る(例えば、HarlowおよびLane. Antibodies、A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Publications、New York、(1988年)を参照のこと)。
【0048】
多くの非ヒト抗体(例えば、マウス、ラットまたはウサギに由来するもの)は、ヒトにおいて必然的に抗原性であり、従って、ヒトに投与した場合に望ましくない免疫応答を生じさせ得る。従って、本明細書に記載される方法におけるヒトまたはヒト化抗体の使用は、ヒトに投与された抗体が望ましくない免疫応答を誘発する可能性を低下させるように機能する。ヒト化またはキメラデス受容体アゴニスト抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのうち実質的に全てを含み得、ここで、CDR領域の全てまたは実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリン(即ち、ドナー抗体)のものに対応し、フレームワーク領域の全てまたは実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。好ましくは、デス受容体アゴニスト抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものもまた含む。デス受容体アゴニスト抗体の定常ドメインは、抗体の提唱された機能、特に、必要とされ得るエフェクター機能に関して、選択され得る。一部の実施形態では、デス受容体アゴニスト抗体の定常ドメインは、ヒトIgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMドメインである(またはこれらを含む)。
【0049】
抗体断片は、抗体の結合および結合特異性、例えば、デス受容体に特異的な結合性断片を含む(抗体定常領域の特定の生物学的機能を必要としない)。標的デス受容体に対する二重特異的結合および結合特異性が保持されることを期待して、他の抗体領域は、任意の重鎖および軽鎖もしくはそれらの部分によって、または任意の重鎖および軽鎖もしくはそれらの部分から、置換、変更またはその両方がされ得る。抗体断片およびペプチド形態について、デス受容体に特異的な結合性断片は、多数の結合性断片形態のいずれかによって具体化され得、抗体結合性断片に使用される多価および多重特異的な方法のいずれかを含む、任意の適切な方法で連結され得る。開示された抗体、抗体断片およびポリペプチドの場合、かかる形態は、多価の代わりに(または多価に加えて)二重特異性である。結合性断片形態の例には、F(ab’)2、抗原結合性断片(Fab)、半抗体(half antibody)、単鎖可変断片(scFv)、VhHドメイン、V-NARドメイン、VHドメイン、VLドメイン、F(ab)3、ビス-scFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびミニボディが含まれる。これらの形態のいずれかは、デス受容体に特異的な結合性断片を具体化するために独立して使用され得、次いで、任意の適切なリンカーまたはカップリングを使用して、組み合わせまたは接合され得る。デス受容体に特異的な結合性断片は、多価および/または多重特異性形態の抗体断片の結合性断片部分としても各々使用され得る。例には、F(ab’)2、F(ab)3、ビス-scFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびミニボディが含まれる。
【0050】
3.デス受容体アゴニストのアナログ
デス受容体アゴニストは、さらなる部分を含むように修飾され得、従って、アナログを形成する。部分は、ポリマー性部分、ポリペプチド、多糖、標識されたトレーサーなどであり得る。部分は、デス受容体アゴニストに非共有結合または共有結合的に付着され得る。
【0051】
一部の実施形態では、部分は、ポリアルキレンオキシド、例えば、ポリエチレングリコール(polyethylene gycol)(PEG)である。ポリエチレングリコール(PEG)は、工業生産から医学までの多くの適用を有するポリエーテル化合物である。PEGの構造は、H-(O-CH2-CH2)n-OHである(括弧内は反復要素であることに留意されたい)。PEGは、その分子量に依存して、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても公知である。PEG、PEOまたはPOEは、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを指す。3つの名称は、化学的には同義であるが、歴史的には、PEGは、生物医学の分野において好まれ、一方でPEOは、ポリマー化学の分野においてより普及している。異なる適用は、異なるポリマー鎖の長さを要求するので、PEGは、典型的には、20,000g/molを下回る分子質量で、PEOは、20,000g/molを上回る分子質量を有するポリマーに、POEは、任意の分子質量のポリマーに使用される。PEGおよびPEOは、それらの分子量に依存して、液体または低融点固体である。PEGは、エチレンオキシドの重合によって調製され、300g/mol~10,000,000g/molの広い範囲の分子量にわたって市販されている。異なる分子量を有するPEGおよびPEOは、異なる適用において使用を見出し、鎖長効果に起因して異なる物理的特性(例えば、粘度)を有するが、それらの化学的特性はほぼ同一である。異なる形態のPEGもまた、重合プロセスに使用されるイニシエーターに依存して利用可能である-最も一般的なイニシエーターは、mPEGと略称される、単官能性メチルエーテルPEGまたはメトキシポリ(エチレングリコール)である。より低い分子量のPEGもまた、単分散、均一または離散(discrete)と呼ばれる、より純粋なオリゴマーとして利用可能である。非常に高純度のPEGは、結晶性であることが最近示されており、X線回折による結晶構造の決定を可能にする。純粋なオリゴマーの精製および分離は困難であるので、このタイプの品質の価格は、多分散PEGの価格の10~1000倍である場合が多い。
【0052】
異なる幾何学を有するPEGもまた利用可能である。分岐鎖PEGは、中心コア基から発散する3~10個のPEG鎖を有する。星型PEGは、中心コア基から発散する10~100個のPEG鎖を有する。櫛型PEGは、ポリマー骨格上に垂直方向にグラフトされた複数のPEG鎖を有する。PEGの名称中にしばしば含まれる数字は、それらの平均分子量を示す(例えば、n=9を有するPEGは、およそ400ダルトンの平均分子量を有し、PEG400と標識される)。ほとんどのPEGは、分子量の分布を伴った分子を含む(即ち、これらは多分散である)。サイズ分布は、その重量平均分子量(Mw)およびその数平均分子量(Mn)によって統計的に特徴付けられ得、それらの比率は、多分散指数(Mw/Mn)と呼ばれる。MWおよびMnは、質量分析によって測定され得る。
【0053】
PEG化は、別のより大きい分子、例えば、治療タンパク質へとPEG構造を共有結合的にカップリングする作用であり、このタンパク質は次いでPEG化タンパク質と呼ばれる。PEG化インターフェロンアルファ-2aまたは-2bは、C型肝炎感染の処置のための一般に使用される注射可能な処置である。PEGは、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ベンゼンおよびジクロロメタン中で可溶性であり、ジエチルエーテルおよびヘキサン中で不溶性である。PEGは、非イオン性界面活性剤を生成するために、疎水性分子にカップリングされる。PEGは、潜在的に毒性の不純物、例えば、エチレンオキシドおよび1,4-ジオキサンを含有する。エチレングリコールおよびそのエーテルは、損傷した皮膚に適用された場合、腎毒性である。
【0054】
ポリエチレングリコールは、エチレンオキシドと水、エチレングリコールまたはエチレングリコールオリゴマーとの相互作用によって産生される。反応は、酸性または塩基性触媒によって触媒される。エチレングリコールおよびそのオリゴマーは、水の代わりに出発材料として好ましいが、それは、これらが、低い多分散性(狭い分子量分布)を有するポリマーの創出を可能にするからである。ポリマー鎖長は、反応物の比率に依存する。
HOCH2CH2OH+n(CH2CH2O)→HO(CH2CH2O)n+1H
触媒の型に依存して、重合の機構は、カチオン性またはアニオン性であり得る。エチレンオキシドの重合は、発熱プロセスである。
【0055】
PEG化(ペグ化と表記される場合も多い)は、分子およびマクロ構造、例えば、薬物、治療タンパク質または小胞への、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖の共有結合および非共有結合的付着の両方またはアマルガム化のプロセスであり、これは次いでPEG化(ペグ化)されたと記載される。PEG化は、PEGの反応性誘導体と標的分子とのインキュベーションによって慣用的に達成される。薬物または治療タンパク質へのPEGの共有結合的付着は、宿主の免疫系から薬剤を「マスク」し(低減された免疫原性および抗原性)、薬剤の水力学的サイズ(溶液中のサイズ)を増加させ得、これは、腎クリアランスを低減させることによってその循環時間を延長させる。PEG化はまた、疎水性薬物およびタンパク質に水溶性を提供できる。
【0056】
PEG化は、分子、最も典型的にはペプチド、タンパク質および抗体断片へとポリマーPEGの鎖を付着させるプロセスであり、多くの治療薬の安全性および効率を改善し得る。これは、コンフォメーション、静電結合、疎水性などにおける変化を含む、生理化学的特性における変更を生じる。これらの物理的および化学的変化は、治療剤の全身保持を増加させる。また、これは、細胞受容体に対する治療的部分の結合親和性に影響し得、吸収および分布のパターンを変更させ得る。
【0057】
PEGは、コンジュゲーションのための特に魅力的なポリマーである。医薬品適用に適切なPEG部分の具体的な特徴は、水溶性、溶液中での高い移動度、毒性の欠如および低い免疫原性、身体からの迅速なクリアランス、ならびに身体中での変更された分布である。
【0058】
TRAIL誘導体の生物学的活性は、選択的PEG化を介して増加され得る。薬物適用の処置効果もまた、PEG化プロセスを介して増加され得る。PEG化の適用は、分子量、代謝部位の防御および免疫原性部位の阻害を増加させ、それによって、in vivo半減期および安定性を増加させ、免疫原性を低減させる。さらに、PEGに結合したペプチドおよびタンパク質の腎臓排泄は、PEGによるペプチドおよびタンパク質の分子量の増加に起因して低減され、その結果、PEG化は、薬物動態学的かつ薬力学的に、効果を増加させる利点を有する。
【0059】
好ましくは、ポリエチレングリコールまたはその誘導体は、直鎖もしくは分岐鎖であり、またはTRAILおよび/もしくは他のPEG分子へのリンカーを伴わずにもしくは伴って、ダイマーもしくはトリマーの形態であり得る。代表的なポリエチレングリコール誘導体には、メトキシポリエチレングリコールスクシンイミジルプロピオネート、メトキシポリエチレングリコールN-ヒドロキシスクシンイミド、メトキシポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、メトキシポリエチレングリコールマレイミド、またはこれらの誘導体の複数の分岐鎖型が含まれる。好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体は、直鎖メトキシポリエチレングリコールマレイミド、分岐型メトキシポリエチレングリコールマレイミドまたはトリマー性メトキシポリエチレングリコールマレイミドであり、より好ましくは、トリマー性メトキシポリエチレングリコールマレイミドである。
【0060】
TRAIL誘導体をポリエチレングリコールでPEG化し、またはその誘導体を調製した後、アナログの分子構造は、質量分析装置、液体クロマトグラフィー、X線回折分析、旋光分析、およびPEG化TRAILを構成する代表的要素の計算値と測定値との間の比較によって確認され得る。
【0061】
4.賦形剤
TRAIL、抗体または誘導体は、投与のために製剤化され得る。典型的には注射、吸入、肺投与または眼内投与のために、これは、凍結乾燥またはスプレー乾燥された粉末の形態であり、これは、無菌水、緩衝液、またはGoodman and Gilman'sに列挙されるものなどの他の賦形剤を用いて、投与のために溶解され得る。
【0062】
ポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化したTRAIL誘導体は、緩衝剤、懸濁化剤、静菌剤を任意選択で含む液剤もしくは懸濁剤として調製され、または粘度改変され、次いで、アンプルもしくはバイアルの単位投与形態へと包装され得る。組成物は、濾過、照射またはエチレンオキシドなどのガスによって無菌化される。
【0063】
III.組成物を作製する方法
A.TRAILおよびPEG化TRAILを作製する方法
PEG化の最初のステップは、一方または両方の末端におけるPEGポリマーの官能化である。各末端において同じ反応性部分で活性化されたPEGは、「ホモ二官能性」として公知であり、存在する官能基が異なる場合には、PEG誘導体は「ヘテロ二官能性」または「ヘテロ官能性」と呼ばれる。PEGポリマーの化学的に活性なまたは活性化された誘導体は、所望の分子にPEGを付着させるために調製される。
【0064】
タンパク質コンジュゲーションのための全体的なPEG化プロセスは、2つの型、即ち、溶液相バッチプロセスおよびオンカラムフェドバッチ(on-column fed-batch)プロセスにおおまかに分類され得る。単純であり一般に採用されるバッチプロセスは、好ましくは4℃~6℃の間の温度で、適切な緩衝溶液中で試薬を一緒に混合し、その後、その物理化学的特性に基づいて、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)およびメンブレンまたは水性二相系を含む適切な技術を使用して、所望の産物を分離および精製することを含む。
【0065】
PEG誘導体に適切な官能基の選択は、PEGにカップリングされる分子上の利用可能な反応性基の型に基づく。タンパク質について、典型的な反応性アミノ酸には、リシン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニンおよびチロシンが含まれる。N末端アミノ基およびC末端カルボン酸もまた、アルデヒド官能性ポリマーとのコンジュゲーションによって、部位特異的部位として使用され得る。第1世代PEG誘導体を形成するために使用される技術は一般に、PEGポリマーを、ヒドロキシル基と反応性の基、典型的には、無水物、酸塩化物、クロロホルメートおよびカーボネートと反応させることである。第2世代PEG化化学では、より効率的な官能基、例えば、アルデヒド、エステル、アミドなどが、コンジュゲーションに利用可能になる。
【0066】
これらのヘテロ二官能性PEGは、2つの実体を連結する際に非常に有用であり、このとき、親水性、可撓性かつ生体適合性のスペーサーが必要である。ヘテロ二官能性PEGに好ましい末端基は、マレイミド、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、アミン、カルボン酸およびNHSエステルである。低減された粘度および臓器蓄積の欠如を示す、ポリマーの形状が分岐鎖、Y型または櫛形である第3世代ペグ化剤が利用可能である。PEG化化合物のクリアランス時間における予測不能性は、公知の毒物学的結果を伴わずに、封入体をもたらす肝臓における大きい分子量の化合物の蓄積をもたらし得る。さらに、鎖長における変更は、in vivoでの予想外のクリアランス時間をもたらし得る。
【0067】
B.デス受容体アゴニストを作製する方法
抗体および抗体断片は、ポリペプチドの産生に有用な、当該分野で公知の任意の方法、例えば、in vitro合成、組換えDNA産生などによって産生され得る。抗体は、組換えDNAテクノロジーによって産生され得る。抗DR5アゴニスト抗体は、組換え免疫グロブリン発現テクノロジーを使用して産生され得る。ヒト化抗体を含む免疫グロブリン分子の組換え産生は、米国特許第4,816,397号(Bossら)、米国特許第6,331,415号および同第4,816,567号(共にCabillyら)、英国特許GB2,188,638号(Winterら)ならびに英国特許GB2,209,757号に記載されている。ヒト化免疫グロブリンを含む免疫グロブリンの組換え発現のための技術は、Goeddelら、Gene Expression Technology Methods in Enzymology 第185巻 Academic Press(1991年)およびBorreback、Antibody Engineering、W. H. Freeman(1992年)にも見出され得る。組換え抗体の生成、設計および発現に関するさらなる情報は、Mayforth、Designing Antibodies、Academic Press、San Diego(1993年)に見出され得る。
【0068】
抗体は、動物を、合成または精製されたモノマー性、ホモマー性またはヘテロマー性DR5で免疫化することによっても産生され得る。免疫血清は、高度に特異的な免疫試薬(immunoreagent)を生成するために、ペプチド親和性カラムに適用される。
【0069】
本明細書に記載されるヒト抗体およびヒト化抗体は、任意の公知の技術によって調製され得る。ヒトモノクローナル抗体産生のための技術の例には、Boernerら、J. Immunol.、147巻(1号)、86~95頁(1991年)に記載されるものが含まれる。本明細書に記載されるヒト抗体(およびその断片)は、ファージディスプレイライブラリーを使用しても産生され得る(例えば、Marksら、J. Mol. Biol.、222巻、581~597頁(1991年)を参照のこと)。本明細書に記載されるヒト抗体は、トランスジェニック動物からも得られ得る。例えば、免疫化に応答してヒト抗体の完全レパートリーを産生することが可能なトランスジェニック変異体マウスが記載されている(例えば、Jakobovitsら、PNAS、90巻、2551~255頁(1993年);およびJakobovitsら、Nature、362巻、255~258頁(1993年)を参照のこと)。
【0070】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該分野で公知である。例えば、ヒト化抗体は、げっ歯類の相補性決定領域(CDR)またはCDR配列で、ヒト抗体の対応する配列を置換することによって生成され得る。詳細な手順は、Jonesら、Nature、321巻、522~525頁(1986年);Riechmannら、Nature、332巻、323~327頁(1988年);Verhoeyenら、Science、239巻、1534~1536頁(1988年)に開示されている。
【0071】
ヒト化抗体を産生するために使用され得る方法は、米国特許第4,816,567号;米国特許第5,565,332号;米国特許第5,721,367号;米国特許第5,837,243号;米国特許第5,939,598号;米国特許第6,130,364号;および米国特許第6,180,377号にも記載されている。
【0072】
IV.使用の方法
デス受容体アゴニストは、膵炎、膵線維症、膵臓痛、またはそれらの任意の組合せを処置するために使用され得る。デス受容体アゴニストは、炎症プロセスの初期段階において膵炎症を低減、停止または反転させる際、膵線維症を低減、停止または反転させる際、および膵臓痛を低減または停止する際に有用である。
【0073】
ポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化されたTRAIL誘導体を含有する医薬組成物のヒト身体用量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態および疾患のレベルに依存して変動し得、好ましくは0.01~200mg/kg/日の用量で、医師または薬剤師の決定に従って投与され得る。
【0074】
実施例に記載されるように、初代ヒトPSCにおけるTRAILPEGの効果を調査した。特に、セルレイン誘導性急性膵炎(AP)およびエタノール/セルレイン/Lieber-Decarli(LD)食誘導性慢性膵炎(CP)を含む異なる膵炎ラットモデルにおいて、静脈内投与したTRAILPEGの抗線維化および抗疼痛効力を試験した。本明細書に記載されるように、TRAILシグナル伝達は、膵線維化ならびにTGFβ調節において重要な役割を果たし、TGFβは、侵害受容器を直接過敏化し、膵痛覚過敏を誘導し得る。TRAILPEGは、急性相および慢性相の両方において、膵炎の進行を寛解させた。驚くべきことに、TRAILPEG処置は、CPラットモデルにおいて疼痛を大幅に低減させた。
【0075】
以下に詳細に記載されるように、TRAILPEGは、PSC活性化を選択的に遮断し、CPの本元である活性化されたPSCを根絶して、CPの反転を生じる。さらに、TGFβの上方調節によって侵害受容器を過敏化するPSCを標的化することによって、TRAILPEGは、全身毒性なしにCP関連の重症疼痛を低減させる。
【0076】
膵線維化および膵臓痛におけるTRAILシグナル伝達の役割を試験して、クリニックでの膵炎治療のためにデス受容体アゴニスト(例えば、TRAILPEGおよび抗DR5抗体)を利用することの実現可能性を決定した。膵炎治療に向かうTRAILシグナル伝達における新たな方向および新規TRAILベースのレジメンが提案される。
【0077】
A.処置される状態
膵炎は、膵臓の炎症である。膵臓は、消化酵素を産生する、胃の後ろにある大きい臓器である。2つの主要な型、急性膵炎および慢性膵炎が存在する。膵炎の徴候および症状には、上腹部における疼痛、悪心および嘔吐が含まれる。疼痛は、背部に回ることが多く、通常は重症である。急性膵炎では、発熱が生じ得、症状は、典型的には数日間で消散する。慢性膵炎では、体重減少、脂肪便および下痢が生じ得る。合併症には、感染症、出血、真性糖尿病、または他の臓器の問題が含まれ得る。
【0078】
急性膵炎の最も一般的な原因は、胆石およびアルコールの多量摂取である。他の原因には、とりわけ、直接的外傷、ある特定の薬物適用、流行性耳下腺炎などの感染症、および腫瘍が含まれる。慢性膵炎は、急性膵炎の結果として発症し得る。これは、多年のアルコールの多量摂取に起因することが最も一般的である。他の原因には、とりわけ、高レベルの血中脂質、高い血中カルシウム、一部の薬物適用、およびある特定の遺伝性障害、例えば、嚢胞性線維症が含まれる。喫煙は、急性および慢性の両方の膵炎の危険性を増加させる。急性膵炎の診断は、アミラーゼまたはリパーゼのいずれかの、血液中での3倍の増加に基づく。慢性膵炎では、これらの試験は正常であり得る。超音波およびCTスキャンなどの医用画像化もまた有用であり得る。
【0079】
1.急性膵炎
急性膵炎は、通常は静脈内輸液、疼痛薬物適用で、ときおりは抗生物質で処置される。典型的には、飲食は許容されず、チューブが胃中に配置され得る。内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)として公知の手順は、遮断されている場合に膵管を開放するために実施され得る。胆石を有する場合、胆嚢も除去される場合が多い。慢性膵炎では、上記に加えて、鼻腔胃チューブを介した一時的栄養補給が、適切な栄養を提供するために使用され得る。長期の食変化および膵酵素補充が必要とされ得、時々、手術が、膵臓の一部を除去するために実施される。
【0080】
急性膵炎は、1年に100,000人当たり約30人で生じる。慢性膵炎の新たな症例は、1年に100,000人当たり約8人で発症し、現在、米国で100,000人当たり約50人が冒されている。全世界では、2013年に、膵炎は、1990年の83,000人の死亡から上昇して、123,000人の死亡を生じた。これは、女性よりも男性においてより一般的である。慢性膵炎は、30~40の間の年齢で始まる場合が多いが、小児では稀である。急性膵炎は、1882年に死体解剖において最初に記載されたが、慢性膵炎は、1946年に最初に記載された。
【0081】
膵炎の最も一般的な症状は、背部へ放散する重症上腹部または左上腹部の灼熱痛、悪心、および摂食に伴い悪化する嘔吐である。身体検査は、内出血の重症度および存在に依存して変動する。血圧は、疼痛によって上昇、または脱水もしくは出血によって減少し得る。心拍数および呼吸数は、上昇する場合が多い。腹部は通常、疼痛自体よりも低い程度までではあるが、圧痛がある。腹部疾患においては一般的であるが、反射性腸麻痺から、腸雑音が低減され得る。発熱または黄疸が存在し得る。慢性膵炎は、糖尿病または膵がんをもたらし得る。未解明の体重減少が、消化を邪魔する、膵酵素の欠如から生じ得る。
【0082】
膵炎の症例のうち80パーセントは、アルコールまたは胆石によって引き起こされる。胆石は、急性膵炎の単一の最も一般的な原因である。アルコールは、慢性膵炎の単一の最も一般的な原因である。
【0083】
最も一般的にはプレドニゾロンなどのコルチコステロイドであるが、HIV薬物ジダノシンおよびペンタミジン、利尿薬、抗痙攣薬バルプロ酸、化学療法剤L-アスパラギナーゼおよびアザチオプリン、増加した血中トリグリセリドとしてエストロゲン、ならびに抗高血糖剤、例えば、メトホルミン、ビルダグリプチンおよびシタグリプチンもまた含まれる一部の薬物適用が一般に、膵炎と関連する。膵炎の増加した事象とそれ自体関連する状態を処置するために使用される薬物もまた、膵炎に偶発的に関連し得る。例には、脂質異常症の処置におけるスタチンおよび糖尿病の処置におけるグリプチン(gliptin)が含まれる。米国食品医薬品局のMedWatch Surveillance System and Published Reports Atypicalによれば、非定型抗精神病薬、例えば、クロザピン、リスペリドンおよびオランザピンもまた、膵炎を引き起こすことを担い得る。
【0084】
他の一般的な原因には、外傷、流行性耳下腺炎、自己免疫疾患、高い血中カルシウム、低体温および内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)が含まれる。膵管癒合不全は、一部の再発性症例の根底にあり得る、膵臓の一般的な先天性形成異常である。2型真性糖尿病は、2.8倍高い危険性と関連する。
【0085】
あまり一般的でない原因には、膵がん、膵管結石、血管炎(膵臓中の小さい血管の炎症)、コクサッキーウイルス感染、ならびにポルフィリン症-特に急性間欠性ポルフィリン症および赤血球生成性プロトポルフィリン症が含まれる。
【0086】
自己消化をもたらす、膵臓内のトリプシノーゲンの活性化を生じる遺伝性形態が存在する。関与する遺伝子には、トリプシノーゲンをコードするトリプシン1、トリプシン阻害剤をコードするSPINK1、または嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子が含まれ得る。
【0087】
膵炎の一般的な原因には、アルコール/エタノール、胆石、ステロイド、外傷、自己免疫性膵炎、流行性耳下腺炎、高脂血症、低体温、副甲状腺機能亢進症、サソリ刺傷、内視鏡的逆行性膵胆管造影および薬物(典型的にはアザチオプリンおよびバルプロ酸)が含まれる。
【0088】
流行性耳下腺炎、コクサッキーウイルス、B型肝炎、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスおよび水痘帯状疱疹ウイルスを含むいくつかの感染性因子が、膵炎の原因として認識されている。
【0089】
膵炎のための鑑別診断には、胆嚢炎、総胆管結石症、穿孔性消化性潰瘍、腸梗塞、小腸閉塞症、肝炎および腸間膜虚血が含まれるがこれらに限定されない。診断は、以下の3つの基準のうち2つを要求する:背部に放散し得る心窩部痛または漠然とした腹部痛の特徴的な急性発生(上記徴候および症状を参照のこと)、血清アミラーゼまたはリパーゼレベル>正常の上限の3倍、および特徴的変化に関する画像化研究。CT、MRI、腹部超音波または超音波内視鏡が、診断に使用され得る。アミラーゼおよびリパーゼは、膵臓によって産生される2種の酵素である。リパーゼは、より高い特異性を有し、より長い半減期を有するので、リパーゼおける上昇は一般に、膵炎のより良い指標とみなされる。画像化のために、腹部超音波は、簡便、単純、非侵襲性かつ安価である。これは、他の画像化モダリティよりも感受性が高く、胆石からの膵炎に対して特異的である。しかし、患者のうち25~35%では、膵臓の視像は、腸内ガスによって閉塞されて、評価が困難になる。造影CTスキャンは通常、膵壊死および余分な膵液について評価するため、ならびに疾患の重症度を予測するために、疼痛の発生後48時間よりも後に実施される。早期のCTスキャンは、誤って安心感を与え得る。ERCPまたは超音波内視鏡は、膵炎について胆汁性の原因が疑われる場合にも使用され得る。
【0090】
膵炎の処置は、対症的であり、重症度に依存する。モルヒネは一般に、疼痛制御に適切である。モルヒネは、オディ括約筋を収縮させ得るという主張があるが、これは議論の余地がある。モルヒネが膵炎または胆嚢炎を増悪し得るまたは引き起こし得るということを示唆する臨床研究は存在しない。急性膵炎に対して受けられる処置は、診断が、合併症を引き起こさない状態の軽症形態についてであるか重篤な合併症を引き起こし得る重症形態についてであるかに依存する。軽症急性膵炎の処置は、一般病棟への入院によって首尾よく実施される。伝統的に、炎症が消散するまで摂食は許されなかったが、より最近の証拠は、早期の栄養補給が安全であり転帰を改善することを示唆している。膵炎は、肺損傷を引き起こし、正常な肺機能に影響を与え得るので、酸素が、鼻を介して接続された呼吸用チューブを介して時折送達される。次いで、チューブは、状態が改善していることが明らかになったら、数日後に除去され得る。脱水が急性膵炎のエピソードの間に生じ得、従って、体液が静脈内提供される。急性膵炎の軽症または中等症の症例とさえ関連する疼痛は、重症であり得、これは、麻薬性痛み止めが必要とされ得ることを意味している。
【0091】
重症膵炎は、臓器不全、壊死、感染性壊死、仮性嚢胞および膿瘍と関連する。重症急性膵炎と診断された場合、その人は、高度治療室(high dependency unit)または集中治療室に入れる必要がある。身体の内側の体液のレベルは、膵臓を修復する試みにおいて体液および栄養素を転用するときに、顕著に低下する可能性が高い。体液レベルにおける低下は、循環血液量減少性ショックとして公知の、体内の血液の体積における低減をもたらし得る。循環血液量減少性ショックは、生存に必要な酸素に富んだ血液を体内から非常に急速に欠乏させ得るので、命にかかわり得る。循環血液量減少性ショックになるのを回避するために、体液は、静脈内に送り込まれる。酸素は、鼻に取り付けられたチューブを介して供給され、呼吸を補助するために換気装置が使用され得る。栄養チューブが、適切な鎮痛と組み合わせて、栄養素を提供するために使用され得る。
【0092】
軽症急性膵炎の場合、根底にある原因-胆石を処置すること、薬物適用の中断、アルコールの休止などが必要である。原因が胆石である場合、胆嚢のERCP手順または除去が推奨される可能性が高い。胆嚢は、再発性膵炎の危険性を限定するために、同じ入院の間、または膵炎の2週間以内に除去すべきである。膵炎の原因がアルコールである場合、アルコール摂取の休止およびアルコール依存症の処置が、膵炎を改善し得る。根底にある原因がアルコール摂取と無関係な場合であっても、これは、回復プロセスの間に膵臓へのさらなる損傷を引き起こし得るので、医師は、少なくとも6ヶ月間アルコール摂取を回避することを勧告する。経口摂取、特に脂肪は一般に、最初は制限されるが、48時間以内の早期経腸栄養は、臨床転帰を改善することが示されている。体液および電解質は、静脈内で置き換えられる。処置の最初の72~96時間で改善が見られない場合、栄養サポートが、分泌された膵酵素によって最も影響される消化管の部分を超えるために、チューブ栄養法を介して開始される。
【0093】
早期合併症には、ショック、感染症、全身性炎症反応症候群、低い血中カルシウム、高い血中グルコースおよび脱水が含まれる。失血、脱水、および腹腔中への体液漏出(腹水症)は、腎不全をもたらし得る。呼吸器合併症は、重症の場合が多い。胸水貯留が通常存在する。疼痛からの浅呼吸は、肺虚脱をもたらし得る。膵酵素は、肺を攻撃して、炎症を引き起こし得る。重症炎症は、腹部内圧上昇および腹部コンパートメント症候群をもたらし得、さらに、腎および呼吸機能を損ない、圧力を解放するために、腹部開放(open abdomen)による管理を潜在的に必要とする。
【0094】
後期合併症には、再発性膵炎および膵仮性嚢胞-瘢痕組織によって囲まれた膵分泌物の収集-の発症が含まれる。これらは、疼痛を引き起こし、感染し、破裂および出血し、胆管を遮断し黄疸を引き起こし、または腹部周囲を移動し得る。急性壊死性膵炎は、壊死、液化および感染症によって引き起こされる膿汁の収集である膵膿瘍をもたらし得る。これは、症例のうちおよそ3%において起こり、または症例のうちほぼ60%は、膵臓中に2つよりも多い仮性嚢胞およびガスを含む。
【0095】
2.慢性膵炎
慢性膵炎は、臓器の正常な構造および機能を変更する、膵臓の長期にわたる炎症である。これは、以前に傷害された膵臓における急性炎症のエピソードとして、または持続性の疼痛もしくは吸収不良を伴う慢性損傷として、存在し得る。これは、急性膵炎における可逆的変化とは異なり、膵臓に対する不可逆的損傷によって特徴付けられる疾患プロセスである。慢性膵炎の年間発生率は、100,000人当たり5~12人であり、有病率は、100,000人当たり50人である。これは、女性よりも男性においてより一般的である。
【0096】
慢性膵炎と一致する症状は、通常、食品中の脂肪の吸収不良から生じる持続性腹部痛または脂肪性下痢を呈する。顕著な体重減少が、吸収不良に起因してしばしば生じ、状態が進行する際に健康問題であり続け得る。患者は、食品摂取、特に、高い百分率の脂肪およびタンパク質を含有する食事に関連する疼痛についても症状を訴える場合がある。
【0097】
慢性膵炎の原因には、以下がある:アルコール、自己免疫障害、管内閉塞、特発性膵炎、腫瘍、虚血および石灰沈着性の石。病原因子、遺伝的素因、および疾患進行のペース間の関係は、さらなる解明が必要であるが、最近の研究は、喫煙が、慢性膵炎を発症する高危険因子であり得ることを示している。患者の小さい群において、慢性膵炎が遺伝性であることが示されている。嚢胞性線維症を有するほぼ全ての患者は、通常は誕生時から、確立された慢性膵炎を有する。嚢胞性線維症遺伝子の変異がまた、慢性膵炎を有するが、嚢胞性線維症の他の症状発現が存在しなかった患者において同定されている。膵管の閉塞は、良性または悪性のいずれかのプロセスに起因して、慢性膵炎を生じ得る。
【0098】
遺伝的観点から見た慢性膵炎の機構は、小児期に始まる重症心窩部疼痛の早期発生を示す。これは、常染色体優性疾患であり、慢性膵炎疾患は、カチオン性トリプシノーゲン遺伝子PRSS1および変異R122Hにおいて同定される。R122Hは、トリプシノーゲンタンパク質のアミノ酸122位におけるヒスチジンによるアルギニンの置き換えを伴う、遺伝性慢性膵炎の最も一般的な変異である。当然、各々が膵臓に対してその独自の効果を示す他の機構-アルコール、栄養不良および喫煙-が存在する。
【0099】
慢性膵炎の診断は、膵臓の構造および機能に対する試験に基づく。血清アミラーゼおよびリパーゼは、慢性膵炎の症例において中程度に上昇し得、急性状態では、上昇したアミラーゼおよびリパーゼが、ほぼ常に見出される。セクレチン刺激試験は、慢性膵炎の診断のための最良の試験であるとみなされている。慢性膵炎を決定するために使用される他の試験は、血清トリプシノーゲン、コンピュータ断層撮影、超音波および生検である。慢性膵炎が遺伝的要因によって引き起こされる場合、ESR、IgG4、リウマトイド因子、ANAおよび抗平滑筋抗体における上昇が検出され得る。
【0100】
慢性膵炎の管理のための異なる処置選択肢は、医療措置、内視鏡治療および手術である。処置は、可能であれば、根底にある原因に、ならびに疼痛および吸収不良を軽減することを対象とする。インスリン依存型真性糖尿病が生じ、長期インスリン治療を必要とし得る。腹部痛は、非常に重症であり、オピエートを時として含む、高用量の鎮痛薬を必要とし得る。アルコール休止および食生活改善(低脂肪食)が、疼痛を管理し、石灰沈着プロセスを緩徐化するために重要である。抗酸化剤は助けになり得るが、利益が有意義かどうかは不明である。膵酵素補充は、慢性膵炎と関連する吸収不良および脂肪性下痢を処置する際に有効な場合が多い。CPの処置は、食事と共に膵酵素の溶液を投与することからなる。一部の患者は、酵素補充による疼痛低減を有し、これらは比較的安全であるので、慢性膵炎患者に酵素補充を与えることは、ほとんどの患者について、処置における許容可能なステップである。処置は、大きい管の関与を伴わない者および特発性膵炎を有する者において、成功する可能性がより高い場合がある。慢性膵炎を処置するための手術は、2つのエリア-摘出およびドレナージ手順-に分けられる傾向がある。手術のほうを選ぶ理由には、仮性嚢胞、瘻孔、腹水症または固定された閉塞が存在するかどうかがある。
【0101】
3.膵線維症
線維症は、修復または反応性プロセスにおける、臓器または組織中での過剰な繊維状結合組織の形成である。これは、反応性、良性または病理学的状態であり得る。傷害に応答する場合、これは瘢痕化と呼ばれ、線維症が単一の細胞株から生じる場合、これは線維腫と呼ばれる。生理学的に、線維症は、結合組織を沈着させるように作用し、これは、根底にある臓器または組織の構造および機能を抹消することができる。線維症は、繊維状組織の過剰な沈着の病理学的状態、ならびに治癒における結合組織沈着のプロセスを記述するために使用され得る。
【0102】
両方とも、コラーゲンおよびグリコサミノグリカンを含む、結合組織を築く刺激された細胞が関与するという点で、線維症は、瘢痕化のプロセスと類似である。マクロファージと呼ばれる免疫細胞、ならびに間質と呼ばれる表面間の任意の損傷組織は、TGFβを放出する。これには、増加した循環メディエーターを伴う、近傍組織の炎症、または全身性の炎症状態を含む、多数の理由がある。TGFβは、線維芽細胞の増殖および活性化を刺激し、結合組織を沈着させる。線維症は、典型的には炎症または損傷の結果として、身体内の多くの組織で生じ得、例には、膵臓(慢性膵炎)、肝臓(硬変)、肺(肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症)、心臓(心房線維症、心内膜心筋線維症、陳旧性心筋梗塞)、脳(グリア瘢痕)、関節線維症(膝、肩、他の関節)、クローン病(腸)、デュピュイトラン拘縮(手、指)、ケロイド(皮膚)、縦隔線維症(縦隔の軟組織)、骨髄線維症(骨髄)、ペロニー病(陰茎)、腎性全身性線維症(皮膚)、進行性塊状線維症(肺);炭坑夫塵肺の合併症、後腹膜線維症(後腹膜の軟組織)、強皮症/全身性硬化症(皮膚、肺)、および癒着性関節包炎(肩)の一部の形態が含まれる。
【0103】
4.膵炎または膵臓痛障害を処置する方法
a.PSCを標的化する
病理学的に、CPは、顕著な線維症によって認識される。膵線維化は主に、膵星細胞(PSC)によって組織化される(Erkan, M.ら、Gut、2012年.61巻(2号):172~178頁;Omary, M.B.ら、J Clin Invest、2007年.117巻(1号):50~59頁;Pinzani, M.、Gut、2006年.55巻(1号):12~14頁)。膵損傷または疾患の間に、静止状態PSC(qPSC)は、活性化を受け、コラーゲン沈着を促進し、線維性組織をもたらす、増殖性、線維形成性かつ収縮性の筋線維芽細胞へと形質転換する。生来、活性化されたPSC(aPSC)は、膵臓を標的化する抗線維化治療のための主要な標的である(Omary, M.B.ら、J Clin Invest、2007年.117巻(1号):50~59頁;Apte, M.V.ら、J Gastroenterol Hepatol、2006年.21巻補遺3:S97~S101頁)。従って、aPSCの根絶は、線維化およびその合併症である疼痛を防止、停止および/または反転させるための論理的戦略である。aPSCへのqPSC活性化を遮断し、qPSCではなくaPSCのアポトーシスを選択的に誘導できる分子的に標的化された薬剤を導入することは、膵線維化の本元が枯渇されるので、CPにおいてロバストな抗線維化効果を提供する。膵線維症を反転させることは、CPの進行を停止/反転させ、従って結果的に、CP関連疼痛を弱め、膵機能を改善する(
図1)。
【0104】
b.疼痛を処置するためにデス受容体アゴニストを用いてPSC-TGFβ軸を標的化する。
急性疼痛から慢性疼痛への移行は、活発に調査されているエリアである(Reichling, D.B.およびLevine, J.D.、Trends Neurosci、2009年.32巻(12号):611~618頁)。組織炎症は、末梢過敏化、即ち、その本体が後根神経節(DRG)中に収容され、その中枢が脊髄中の二次ニューロンでシナプスを終える一次求心性ニューロン(侵害受容器)の応答性の増強を生じる事象のカスケードを開始する。しかし、組織線維症が顕著である場合、炎症における後期の駆動因子についてはほとんど知られていない。本明細書に記載されるように、TGFβによるDRGニューロンの処理は、興奮性における変化を誘導し、特異的電位依存性カリウム電流(IA)を抑制したが、これは、慢性膵炎における侵害受容性興奮性の特徴である(Zhu, Y.ら、Mol Pain、2012年.8巻:65頁)。TGFβは、侵害受容器をそれ自体過敏化し、膵痛覚過敏を誘導し、CPに伴う増強された行動応答に寄与し得る。本明細書に記載されるように、PSCは、活性化プロセスの間にTGFβを上方調節し、DRGニューロンの興奮性に影響する。侵害受容におけるTRAILおよびTGFβの役割についての新たな知識は、炎症および慢性疼痛によって特徴付けられる他の状態に対しても影響を有する-実際、「急性疼痛状態から慢性疼痛状態への移行は、疼痛を弱める臨床処置を改善するための研究において、最も重要な課題であり得る」と述べられている(Reichling, D.B.およびLevine, J.D.、Trends Neurosci、2009年.32巻(12号):611~618頁)。
【0105】
C.処置される対象
典型的には、処置される対象には、膵炎、膵線維症および/もしくは膵臓痛に罹患しているまたは罹患する危険性がある対象が含まれる。
【0106】
一部の実施形態では、処置される対象には、他の慢性または急性状態、例えば、2型糖尿病、肝臓線維症、肝硬変、肝臓がん、肺線維症、皮膚線維症、膵がん、転移がん、1型糖尿病および関節リウマチを含む自己免疫状態にも罹患する、膵炎、膵線維症および/もしくは膵臓痛に罹患しているまたは罹患する危険性がある対象が含まれる。
【0107】
他の実施形態では、処置される対象には、さらなる慢性または急性状態、例えば、2型糖尿病、肝臓線維症、肝硬変、肝臓がん、肺線維症、皮膚線維症、膵がん、転移がん、1型糖尿病および関節リウマチを含む自己免疫状態には罹患しない、膵炎、膵線維症および/もしくは膵臓痛に罹患しているまたは罹患する危険性がある対象が含まれる。
【0108】
D.DR5アゴニストの有効量
組成物は、0.001mg/kg~100mg/kg、例えば、0.001mg/kg、0.01mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、65mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、85mg/kg、90mg/kg、95mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与される。例えば、組成物は、0.2mg/kg~20mg/kgの間の用量、または0.001mg/kg~20mg/kgの間の用量で投与される。
【0109】
一部の態様では、膵組織は保護され、線維形成は低減され、膵線維化は反転し、疼痛は低減され、健康な膵組織は無傷である。一態様では、線維性疾患または障害を処置することは、疼痛を低減させることを含む。疼痛は、対象において、1~100%、例えば、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%および100%低減される。
【0110】
一態様では、線維性疾患または障害を処置することは、膵線維症を低減させることを含む。膵線維症は、対象において、1~100%、例えば、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%および100%低減される。
【0111】
一態様では、線維性疾患または障害を処置することは、膵炎症を低減させることを含む。膵炎症は、1~100%、例えば、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%および100%低減される。
【0112】
1.組合せ治療のための投薬および処置レジメン
処置の方法には、典型的には、疾患もしくはその症状の処置、または所望の生理学的変化を達成するための方法が含まれ、これらの方法は、哺乳動物、特にヒトに、有効量のアポトーシス促進剤を投与して、膵炎もしくはその症状を処置する、または生理学的変化を生じさせるステップを含む。
【0113】
有効量のデス受容体アゴニストは、対象に、単一用量として1回、または複数回投与され得る。投与は、1日1回、1日2回、1日3回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回または1ヶ月に1回であり得る。
【0114】
有効量のデス受容体アゴニストは、単一の単位投薬量として(例えば、投薬単位として)、または有限の時間間隔にわたって投与される治療量以下の用量として、投与され得る。かかる単位用量は、有限の期間、例えば、最大で3日間、または最大で5日間、または最大で7日間、または最大で10日間、または最大で15日間または最大で20日間または最大で25日間、毎日投与され得る。
【0115】
一部の実施形態では、単位投薬量は、主要な治療として投与される。他の実施形態では、単位投薬量は、組合せ治療において第2の薬剤と一緒に投与される。
【0116】
a.組合せ治療
一部の実施形態では、デス受容体アゴニストは、さらなる活性薬剤と組み合わされる。デス受容体アゴニストおよびさらなる活性薬剤は、一緒に、例えば、同じ組成物の一部として投与され、または同時にもしくは異なる時点で、別々に独立して投与され得る(即ち、リガンドまたはアゴニストおよび第2の活性薬剤の投与は、互いに有限の期間で分離される)。従って、用語「組合せ」または「組み合わせた」は、リガンドまたはアゴニストおよび第2の活性薬剤の同時(concomitant)、同時(simultaneous)または逐次のいずれかの投与を指すために使用される。組合せは、同時に(concomitantly)(例えば、混合物として)、別々にではあるが同時に(simultaneously)(例えば、同じ対象中へ別々の静脈内ラインを介して;一方の薬剤は、経口で与えられるが、他方の薬剤は、注入または注射によって与えられる、など)、または逐次的に(例えば、一方の薬剤が最初に与えられ、第2の薬剤がその後に与えられる)のいずれかで投与され得る。
【0117】
一部の実施形態では、第2の活性薬剤と組み合わせたデス受容体アゴニストの投与は、アポトーシス促進剤および第2の活性薬剤が単独でまたは孤立して投与される場合よりも良い結果を達成する(即ち、組合せによって達成される結果は、個々の成分単独によって達成される結果の相加を上回る)。一部の実施形態では、組合せにおいて使用される一方または両方の薬剤の有効量は、別々に投与した場合の各薬剤の有効量よりも低い。一部の実施形態では、組合せ治療において使用される場合の一方または両方の薬剤の量は、単独で使用される場合には、治療量以下である。
【0118】
組合せ治療の処置レジメンは、リガンドまたはアゴニストの1回または複数の投与を含み得る。組合せ治療の処置レジメンは、第2の活性薬剤の1回または複数の投与を含み得る。
【0119】
一部の実施形態では、アポトーシス促進剤は、第2の活性薬剤の最初の投与の前に投与される。他の実施形態では、リガンドまたはアゴニストは、第2の活性薬剤の最初の投与の後に投与される。
【0120】
リガンドまたはアゴニストは、第2の活性薬剤の投与の少なくとも1、2、3、5、10、15、20、24もしくは30時間または1、2、3、5、10、15、20、24もしくは30日前または後に、投与され得る。
【0121】
薬剤の投薬レジメンまたはサイクルは、完全にもしくは部分的に重複していてもよく、または逐次的であり得る。例えば、一部の実施形態では、アポトーシス促進剤の全てのかかる投与(複数可)は、第2の活性薬剤の投与の前または後に行われる。あるいは、アポトーシス促進剤の1つまたは複数の用量の投与は、処置の一様または非一様な過程を形成するために、第2の治療剤の投与と時間的に交互にされ得、それによって、アポトーシス促進剤の1つもしくは複数の用量、その後、第2の活性薬剤の1つもしくは複数の用量、その後、デス受容体アゴニストの1つもしくは複数の用量が投与される;または第2の活性薬剤の1つもしくは複数の用量、その後、アポトーシス促進剤の1つもしくは複数の用量、その後、第2の活性薬剤の1つもしくは複数の用量が投与される;など、全て、治療を施す研究者または臨床医によって選択または所望されるスケジュールに従う。
【0122】
V.キット
医療用キットもまた開示される。医療用キットは、例えば、単独のまたは第2の治療剤と組み合わせた、アポトーシス促進剤、好ましくは、アゴニストTRAIL受容体に対するリガンドまたはアゴニストの投薬量供給を含み得る。第2の治療剤と組み合わされる場合、活性薬剤は、単独で(例えば、凍結乾燥されて)、または医薬組成物(例えば、混合物)中で供給され得る。活性薬剤は、単位投薬量中、または投与前に希釈すべきストック中にあり得る。一部の実施形態では、キットは、薬学的に許容される担体の供給を含む。キットは、活性薬剤または組成物の投与のためのデバイス、例えば、シリンジもまた含み得る。キットは、上記のような使用において化合物を投与するための印刷された指示書を含み得る。
【0123】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに理解される。本出願を通じて引用される全ての参考文献、特許および公開された特許出願、ならびに図面の内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0124】
一般的方法
TRAILPEGの効力をin vivoで試験するために、生物学的試料を以下のように分析した。
【0125】
血液化学および肝脂質レベル:
血清アミラーゼ、リピダーゼ(lipidase)、ALT、AST、ALP、ナトリウム、コレステロール、トリグリセリド、グルコース、アルブミン、タンパク質および尿素窒素レベルを、IDEXX分析器を使用して決定する。
【0126】
組織学およびIHC:
固定した膵試料を、H&E、Sirius Red、α-SMAで染色し、マイヤーのヘマトキシリンで対比染色した。免疫蛍光(IF)二重染色を、α-SMA、活性カスパーゼ-3に対する適切な抗体を使用して実施し、核をDAPIで染色した。膵組織に対するTUNELアッセイもまた実施して、アポトーシスシグナル伝達カスケードからのDNA損傷を決定した。
リアルタイムPCR:
【0127】
遺伝子の発現レベルを、DR5、α-SMA、Pdgf-r、Col1a1、Col1a2、Col1a3、Tgf-b1、Tgf-br2、Tgf-br3、Bmp7、Timp1/3、Mmp2/3/7/9/13ならびにBcl-2、Bcl-xl、Mcl-1、FLIPおよびcIAPに対する適切なプライマーを使用して、RT-PCR(ABI7500)によって測定した。
【0128】
ウエスタンブロッティング:
ウエスタンブロット分析を、DR5、α-SMA、コラーゲン、Timp、Tgfβ、Mmp、カスパーゼ-8/-9/-3、切断されたPARP-1、Bcl-2、Bcl-xl、Mcl-1、FLIP、FADDおよびt-Bidが含まれるがこれらに限定されない重要なマーカーについて、膵臓ホモジネート由来のタンパク質抽出物に対して実施した。
【0129】
VFF試験および電気刺激を使用した疼痛行動:
TRAILPEG処置後、各EtOH/セルレイン/LD食誘導性CP群からの4匹のラットを、VFF試験および電気刺激研究のために使用した。
【0130】
データおよび統計分析:
抗線維化治療について1群当たり6~10匹の動物、および抗疼痛治療について1群当たり4匹の動物が、5%有意水準および90%検出力について、処置群の平均値と対照群の平均値と間の差異を観察するために必要であった。組織スライドを、試料についての事前の知識なしに病理学者が分析した。染色の強度および程度を、受容されたスコアリングシステムで、0~4の間でグレード分けした。免疫組織化学(IHC)画像を、NIH Image Jによって分析した。対照と上方/下方調節された受容体との間、バイオマーカー、ならびにTRAILPEG処置ありおよびなしの群間での比較を、必要に応じて、両側フィッシャー正確確率検定、一元配置ANOVAまたはカイ二乗検定によって実施した。全てのデータセットを、種々の処置群間での複数の比較によって分析した。全ての分析を、Prismソフトウェア(GraphPad)を使用して実施する。0.05未満のP値を、全ての分析において統計的に有意とみなす。
【0131】
(実施例1)
膵細胞に対するTRAILPEGの効果。
PEG化は、タンパク質薬物の半減期(t1/2)を延長させるための究極的な方法であり、高度に効率的な商業的戦略である(Harrisら、Nat Rev Drug Discov、2巻(3号):214~221頁(2003年))。10種よりも多いPEG化生物製剤がFDA承認されており、PEG化タンパク質は、免疫原性が低いと一般にみなされている(Alconcelら、Polymer Chemistry、2巻(7号):1442~1448頁(2011年))。TRAILの極端に短いt1/2(げっ歯類では5分未満、ヒトでは30分)(Kelleyら、J Pharmacol Exp Ther、299巻(1号):31~38頁(2001年);Ashkenaziら、J Clin Oncol、26巻(21号):3621~3630頁(2008年))により、特にin vivoでTRAIL機能を研究し、薬物の効力を検証することは困難である。PEG化TRAILを、5kDaのPEG分子と共に、N末端でトリマー形成に有利に働くイソロイシン-ジッパーアミノ酸モチーフ(iLZ)を各モノマーの末端に含めてトリマー性TRAILを安定化することによって産生した(TRAILPEG)(WO2007/145457)。TRAILPEGは、クリニックにおいて調査され、効力は低いが良好な安全性プロファイルを示したDulanermin(Genentech)などの組換えTRAILに対して、ラットおよびサルにおける安定性を顕著に改善し、循環半減期を延長させた(Lemke, J.ら、Cell Death Differ、2014年.21巻(9号):1350~1364頁)。
【0132】
材料および方法
膵臓毒性の可能性を調査するために、TRIALPEGを、膵腺房細胞(AR42J、ATCC CRL-1492)(ATCC)および初代ヒト島(膵臓)(Celprogen、Torrance、CA)において試験した。AR42J細胞(ATCC)は、20%胎仔ウシ血清(FBS;Sigma、St Louis、MO)、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technology)を補充したRPMI 1640培地(Corning cellgro、Manassas、VA、USA)中で維持した。ヒト膵ランゲルハンス島細胞(#35002-04、Celprogen、Torrance、CA)を、ヒト膵ランゲルハンス島初代細胞培養完全細胞外マトリックス(#E35002-04、Celprogen)、および血清を含む培地(Celprogen #M35002-04S)中で維持した。細胞を、5%CO2の加湿雰囲気下で37℃で培養した。簡潔に述べると、2×104の細胞を、96ウェルプレート中で24時間培養し、次いで、TRAILPEG(0、101、102、103ng/mL)で3時間処理し、細胞生存度を細胞死MTTアッセイによって分析した。インキュベーション後、MTT溶液を各ウェルに添加し、4時間インキュベートした。430nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(Bio-Tek Instruments Inc、Winooski、VT)を使用して決定した。
【0133】
結果
図2に示すように、TRAIL
PEGは、腺房細胞(AR42J)および初代ヒト島に対して毒性を全く示さなかった。
【0134】
(実施例2)
培養により活性化された膵星細胞は、TRIAL誘導性アポトーシスに対して感受性になる。
結果は、初代ヒトPSCを培養により活性化した場合に、PSCが、筋線維芽細胞様細胞に形質転換し、DR4およびDR5ならびに他の線維形成マーカーを上方調節し、上方調節されたDR5/DR4を介してTRAILPEGに対して高度に感受性になることを示している。
【0135】
静止状態PSC(qPSC)ではなく活性化された初代ヒトPSC(aPSC)は、DRを上方調節し、TRAIL媒介性アポトーシスに対して感受性になる。
材料および方法
初代ヒトPSCにおけるTRAIL誘導性アポトーシスを試験した。ヒトPSC(ScienceCell Research Lab)を、製造業者の指示に従って、2%のFBS、1%の星細胞成長サプリメントおよび1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液を補充したSteCM培地(ScienceCell)中で成長させた。2×105のPSCを、ポリ-L-リシンでコーティングした6ウェルプレート中で培養し、2日間(静止状態)および7日間(活性化された)培養して、分析のために回収した。他の細胞とは異なり、肝星細胞(HSC)および膵星細胞(PSC)を含む星細胞は、連続世代の培養(例えば、5日間にわたる培養)によって、活性化され、活性化された星細胞へと分化し得る。DR5およびDR4、α-SMA、コラーゲンおよびTGFβならびにPDGFRおよびTGFβの発現を、静止状態および活性化された細胞の状態で、ウエスタンブロッティングによって分析した。7日間培養しただけで、活性化が誘導される。
【0136】
結果
活性化は、PSCの形態学的変化を誘導し、線維形成マーカー、ならびに重要なことにDR4およびDR5を大幅に上方調節した(
図3A~3F)。細胞を、静止状態または活性化された状態で3時間TRAIL
PEG(1μg/mL)で処理した場合、TRAIL誘導性アポトーシスが、細胞アポトーシス特色およびMTTアッセイによって測定される定量化された細胞死によって証明されるように、qPSCではなくaPSCにおいて明らかに観察された(
図4)。
【0137】
TRAILシグナル伝達分子、線維症マーカーおよびアポトーシスマーカーの調節をモニタリングする。
TRAILシグナル伝達分子、線維症マーカーおよびアポトーシスマーカーの調節を、活性化の間、初代ヒトPSCにおいてモニタリングした。安全性を、初代ヒト島および膵腺房細胞において確認した。
【0138】
材料および方法
代表的なTRAILシグナル伝達および線維症関連分子を、初代ヒトPSC(ScienceCell)においてタンパク質レベルおよびmRNAレベルでスクリーニングした。PSCを、SteCM培地中で2、4および7日間培養により活性化し、回収した。TRAILシグナル伝達分子DR5、DR4およびFLIPならびに線維症マーカーα-SMA、Pdgf-r、1/2/3型コラーゲン、Mmp、Timp、コラーゲンおよびTGFβ、ならびにカスパーゼ-8、-9、-3、切断されたPARP-1、BCL-2、BCL-XL、FLPIおよびcIAPを含むアポトーシスおよび抗アポトーシスマーカーの発現を、qPCRおよびウエスタンブロッティングによって分析した。PSCの形態学における変化を、顕微鏡によって観察した。TRAILシグナル伝達分子の発現パターンを確認したところで、PSC活性化の間のTRAIL誘導性アポトーシスの効果を調査した。分子研究のために、静止状態および培養により活性化されたPSC(2~7日間)を、1μg/mLのTRAILPEGで処理した。活性化されたPSCを、TRAILPEG(1μg/mL)で3時間処理しまたは処理せず、qPCRによって分析した。
【0139】
結果
活性化されたPSCは、複数の抗アポトーシスタンパク質、例えば、BCL-2、BCL-XL、X-IAPを上方調節したが、細胞は、上方調節された切断された(Cl)PARP-1、Cl Casep-8およびCl Casp-3によって証明されるように、TRAIL誘導性アポトーシスに対して感受性のままであった。ほとんどの初代がん細胞の場合、かかる上方調節された抗アポトーシスタンパク質は、TRAIL誘導性細胞死を強く阻害し、TRAIL耐性を引き起こす。活性化されたPSCは、がん薬物、例えば、ドキソルビシン(DOX、100nM)、シスプラチン(CIS、10μM)または過酸化水素(H2O2、10μM)を含む従来の毒性薬剤と共にインキュベートした場合、死滅させるのが困難であることもまた示された。活性化されたPSCを、TRAILPEG(1μg/mL)と共に3時間、毒性薬剤と共に48時間インキュベートした場合、TRAILPEG処理された細胞は、Cl PARP-1、Cl Casp-8、Cl Casp-3およびCl Casp-9を上方調節したので、TRAILPEGのみが強いアポトーシスを誘導した。
【0140】
培養により活性化された初代ヒトPSCは、複数の抗アポトーシスタンパク質(BCL-XL、BCL-2、X-IAP)を上方調節するが、上方調節された切断された(Cl)PARP-1、Cl Casp-8(カスパーゼ-8)およびCl Casp-3(カスパーゼ-3)によって証明されるように、TRAIL誘導性アポトーシスに対して感受性のままである。
【0141】
(実施例3)
抗DR4抗体ではなく抗DR5抗体は、活性化された膵星細胞において選択的アポトーシスを誘導する。
TRAILは、その認知受容体(cognitive receptor)DR4およびDR5に結合することによって、アポトーシスを誘導する。両方のTRAIL受容体が活性化されたPSCにおいてアポトーシスを誘導することが必要かどうかを調査するために、カスパーゼ3/7活性(アポトーシスマーカー)を、活性化されたPSCをヒト抗DR4アゴニスト抗体(マパツズマブ)または抗DR5アゴニスト抗体(コナツムマブ)のいずれかで処理することによって測定した。DR4またはDR5特異的抗体処理について、PSCを、96ウェルプレート(Corning)上で7日間培養により活性化し、逐次濃度(0、101、102、103ng/mL)のマパツズマブ(ヒト抗DR4抗体、Creative Biolabs)またはコナツムマブ(ヒト抗DR5抗体、Creative Biolabs)を、プロテインG(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA #21193)と共に添加し、3時間インキュベートし、細胞をカスパーゼ活性について試験した。カスパーゼ3/7活性を、製造業者のプロトコールに従って、カスパーゼ3/7アッセイキット(Promega)によって測定した。各試料の発光を、1分の遅延時間および0.5秒/ウェルの読み出し時間のパラメーターを用いて、プレートリーダー(Bio-Tek Instruments Inc)で測定した(n=4)。
【0142】
活性化されたPSCの細胞膜上のDR4およびDR5発現プロファイルを調査するために、ヒト初代PSCを、2および7日間培養により活性化し、細胞を回収し、冷PBSで2回洗浄し、抗ヒトCD261(DR4)-PEまたは抗ヒトCD262(DR5)-PE(eBioscience、San Diego、CA)と共に30分間インキュベートした。マウスIgG1 Kアイソタイプ対照PE(eBioscience)を、アイソタイプ対照として使用した。TRAIL受容体の細胞表面発現を、フローサイトメトリー(Accuri C6、BD Biosciences、San Jose、CA)によって分析した。組織グラフィカル(histographical)および平均蛍光強度(MFI)データを、FlowJoソフトウェア(FlowJo LLC、Ashland、OR)を使用することによって分析した。
【0143】
結果
図5に示すように、活性化されたPSCを、コナツムマブ(DR5抗体、10
3ng/mL)で処理した場合、カスパーゼ-3/7活性は、10.79±1.42倍増加した。対照的に、マパツズマブ(10
3ng/mL)は、カスパーゼ-3/7活性を増加させなかった(1.27±0.03倍)。次に、PSCの細胞膜上のDR4およびDR5の発現を、静止状態(2日目)および活性化されたPSC(7日目)において、フィコエリトリン(PE)で標識したDR4またはDR5特異的抗体を使用するフローサイトメトリー分析によって調査した。予想外に、平均蛍光強度(MFI)における大きなシフトが、DR4抗体のものと比較して、DR5抗体処理した活性化されたPSCにおいてのみ観察された(
図6Aおよび6B)。この結果は、DR5が、活性化されたPSCの細胞表面上で優勢に発現されることを示した。併せて考えると、活性化されたPSCにおけるTRAIL誘導性アポトーシスは、DR4によってではなくDR5によって優勢に媒介されることが示される。
【0144】
(実施例4)
アルコールで活性化された膵星細胞は、TRAIL誘導性および抗DR5抗体誘導性アポトーシスに対して感受性になる。
慢性膵炎の主要な原因(全ての症例のうちおよそ70%における)は、アルコール乱用である。アルコールであるエタノール(EtOH)によって活性化した場合、静止状態PSCは、TRAIL受容体DR4およびDR5を大幅に上方調節し、TRAIL誘導性アポトーシスに対して感受性になることが示される。
【0145】
材料および方法
PSC活性化に対するアルコールの効果を調査するために、2×105のヒト初代PSCを、ポリ-L-リシンでコーティングした6ウェルプレート中で培養し、24時間培養し、エタノール(EtOH)(0、30、50mM)で48時間処理した。アルコール刺激後、細胞を、リアルタイムqPCR分析およびウエスタンブロッティングのために回収した。DR4、DR5を含むTRAILシグナル伝達分子、ならびにa-SMA(Acta2)、コラーゲンを含む線維形成性因子の発現を分析する。アルコールで活性化されたPSCにおけるTRAIL誘導性アポトーシスを調査するために、2×104の細胞を、96ウェルプレート中で一晩培養し、次いで、50mM EtOHで48時間活性化した。EtOHで活性化されたPSCを、種々の濃度(0、101、102、103ng/mL)のTRAIL、TRAILPEG、マパツズマブ(ヒト抗DR4抗体)またはコナツムマブ(ヒト抗DR5抗体)で処理し、3時間インキュベートした。アポトーシスを、上記のようにMTT細胞死アッセイおよびカスパーゼ3/7アッセイによって測定した。
【0146】
結果
図7A~7Eに示すように、EtOH(50mM)で48時間処理した静止状態PSCは、活性化されていないPSCと比較して、α-SMA(Acta2、3.7.5±0.29倍)、コラーゲン(Col1α2、4.0±0.43倍)、PDGF受容体(Pdgf-r、1.9±0.25倍)ならびにTRAIL受容体(DR4;2.1±0.12、DR5、1.8±0.0.09倍)のmRNAレベルを、持続的に上方調節した。さらに、EtOH(50mM)によって活性化されたPSCは、活性化されていないPSCと比較して大幅に増加した、TRAIL
PEGに対する細胞死(59.95±6.37%細胞死)およびカスパーゼ3/7活性(アポトーシスマーカー、10.45±1.60倍)を実証した(
図8Aおよび8B)。
【0147】
アルコールが培養物中になおも存在したままで、アルコールで活性化されたPSCを異なる濃度のTRAIL
PEG、コナツムマブ(contumumab)(抗DR5アゴニスト抗体)およびマパツズマブ(maptumumab)(抗DR4アゴニスト抗体)で処理した場合、TRAIL
PEGおよびコナツムマブのみが、強いアポトーシスを用量依存的に誘導した(
図9)。実施例3に記載したように、抗DR4抗体マパツズマブは、アルコールで活性化されたPSCにおいて毒性を全く誘導しなかった。研究は、抗DR5アゴニスト抗体のみが、活性化された膵星細胞においてアポトーシスを誘導することを実証している。ヒトTRAILおよびTRIALPEGは、DR4およびDR5の両方に結合するが、抗体は、DR4またはDR5のいずれかにのみ結合する。これらの結果は、ヒトTRAILアナログおよび抗DR5アゴニスト抗体が、膵臓中の上方調節されたDR5を標的化することによって、膵線維症、疼痛および膵炎を処置するために有用であることを確認する。
【0148】
(実施例5)
PSC-侵害受容器-TGFβ軸に対するTRAILシグナル伝達の抗侵害受容的役割。
活性化されたPSCは、TGFβを上方調節することが示されている(
図3B)。従って、活性化されたPSCは、TGFβの支配的な細胞供給源であり、疼痛の侵害受容性過敏化において役割を果たし得る。
【0149】
材料および方法
in vitroでのDRG(後根神経節)由来の感覚ニューロンの興奮性に対する、活性化されたPSCの効果を、単離されたラットDRGを、無血清順化培地中の培養により活性化されたPSC(7日間)から得られた順化培地(PSC-CM)と共にインキュベートすることによって試験した。興奮性を、Axopatch 200B増幅器を用いたホールセルパッチクランプ電気生理学的記録によって評価し、Digidata 1200でデジタル化した。
【0150】
結果
図10A~10Eで実証されるように、PSC-CMは、DRGからの大幅な匹敵する応答を引き起こし、これは、PSC活性化が、侵害受容器過敏化において重要な役割を果たすことを示している。TRAIL
PEG処置は、慢性膵炎モデルにおいて実証されるように、疼痛を反転させた(
図16、実施例6)。従って、活性化されたPSCは、TGFβの産生を介して侵害受容器を過敏化し、痛覚過敏を促進したが、これは、TRAIL
PEGによって遮断された。
【0151】
(実施例6)
抗線維化および抗疼痛CP治療のためにTRAIL
PEGを利用する。
デス受容体が抗線維化および抗疼痛治療および診断のための有益な標的であることを確認するために、強力な抗線維化、抗疼痛薬物としてのTRAIL
PEGの効力を調査した。TRAIL
PEGは、急性膵炎(
図11)および慢性膵炎(
図13A~15)の両方において、強い抗線維化効力を示した。その抗疼痛効力を、ラットCPモデルにおいて実証した(
図16)。研究は、全身投与されたTRAIL
PEGが、動物モデルにおいて急性膵炎(AP)および慢性膵炎(CP)の両方を寛解させ、CPモデルにおいて、痛覚過敏と呼ばれる身体における減退を引き起こすことを実証している。
【0152】
材料および方法
急性膵炎(AP)を、ラット(220~240g)における20μg/kgセルレインの1時間に1回の腹腔内注射4回によって誘導し、セルレインの最後の注射の2時間後に、PBSまたはTRAILPEG(i.v.、4mg/kg、単回注射)で処置した。2つの対照群を、セルレインで処置せずにPBSまたはTRAILPEGで処置した。APラットを、TRAILPEG処置の24時間後に屠殺した。
【0153】
実験的アルコール誘導性慢性膵炎(CP)のモデルを、ラットにおいて誘導した(Bertola, A.ら、Nat Protoc、2013年.8巻(3号):627~637頁;Deng, X.ら、Am J Pathol、2005年.166巻(1号):93~106頁)。
図12に示されるように、4つの群のラット(n=8、各群)に、7日間0から36%まで段階的に増加させたEtOH濃度と共に、Lieber-Decarli(LD)流動食を給餌し、次いで、最大で6週間36%のEtOHを給餌した。ラットを、14、21、28、35および41日目にセルレイン(1時間に1回、4回のi.p.注射)で処置した。TRAIL
PEG(4mg/kg、i.v.)またはPBS(対照)を、36日目に開始して7日間毎日注射した。食餌中にアルコールを含まない2つの対照群を、PBSまたはTRAIL
PEGで静脈内処置した。
【0154】
Von Freyフィラメント(VFF)法は、げっ歯類における疼痛の機構の研究のための重要なツールである(Zhuら、Mol Pain、8巻:65頁(2012年))。43日目の処置後、VFF試験を使用して、侵害受容を研究した。VFF研究後、動物を屠殺し、膵臓標本を回収し、IHC、qPCRおよびウエスタンブロッティングによって分析した。膵組織中のヒドロキシプロリン(コラーゲンマーカー)レベルを、ヒドロキシプロリンアッセイキット(Sigma)によって分析した。
【0155】
結果
H&Eで染色し、浸潤性好中球(MPO)について免疫染色した膵組織の写真は、PBS処置したAP群(Cer-PBS)と比較した場合のTRAIL
PEG(Cer-TRAIL)の抗炎症効力を実証した。静脈内TRAIL
PEG(Cer-TRAIL)は、セルレイン誘導性APラット(Cer-PBS)において急性膵炎(AP)を保護する。定量化した結果を
図11に示す。
【0156】
CPモデルでは、膵線維化が、コラーゲンおよびα-SMA(活性化されたPSCのマーカー)(
図13Aおよび13B)ならびに複数の線維形成マーカー(
図14A~14I)の高い発現によって実証された。TRAIL
PEG処置は、コラーゲン沈着を大幅に低減させ、α-SMAおよびPDGFRβ、ならびにコラーゲン(Col1a2、Col3a1)、TIMP(メタロプロテイナーゼの組織阻害剤)、フィブロネクチン、Pap(膵炎関連タンパク質)およびTGFβを含む他の線維形成マーカーおよび膵炎マーカーを下方調節した(
図14A~14I)。ヒドロキシプロリンレベルは、CPモデルにおいて高度に増加した。TRAIL
PEG処置は、膵臓中のヒドロキシプロリン含量を大幅に低減させた(
図15)。切断されたカスパーゼ-8は、TRAIL
PEG処置したCPにおいてのみ大幅に上方調節され、これは、活性化されたPSCの根絶が、TRAIL媒介性アポトーシスに起因し得ることを示している。重要なことに、膵組織の二重免疫染色(aPSC-a-SMA染色、アポトーシス-TUNEL染色および核-DAPI染色)を介して、アポトーシス(TUNEL染色)が、α-SMA+aPSCにおいて特異的に生じたことを検証できた。正常ラットへのTRAIL
PEG単独の全身投与は、目を引く毒性を全く誘導しなかった。例えば、TRAIL
PEG処置は、未処置CPラットと比較して、肝臓損傷の有用なマーカーであるALTレベルを、大幅に正常化した。
【0157】
CPには、重症で一定の腹部痛が伴う。驚くべきことに、TRAIL
PEGは、CPモデルにおいて抗侵害受容効力を示した。TRAIL
PEGは、エタノール/セルレイン/LD食誘導性CPラットにおいて、体性と呼ばれる痛覚過敏を減少させた。TRAIL
PEG(4mg/kg、i.v.)処置した動物(n=4)は、VFF試験によって測定した場合、体性と呼ばれる痛覚過敏における大幅な減退を実証した(
図16)。NGF(神経成長因子)またはTGFβによるDRGニューロンの処理は、それらの興奮性における変化を誘導し、CPにおける侵害受容性興奮性の特徴である特異的電位依存性カリウム電流(IA)(Zhuら、Mol Pain、8号:65頁(2012年))を抑制したことがここで示された。TGFβは、侵害受容器をそれ自体過敏化し、膵痛覚過敏を誘導し得る。予備研究において、PSCが活性化プロセスの間にTGFβを上方調節し、aPSCから得た順化培地(CM)がDRGニューロンの興奮性に影響することが検証された。活性化されたPSCは、TGFβを上方調節し(
図3B)、aPSCから得た順化培地(CM)は、DRGニューロンの興奮性に影響する(
図10)。従って、活性化されたPSCは、膵臓において侵害受容性過敏化を担うべき優勢な細胞型であり、PSC活性化は、侵害受容器過敏化において重要な役割を果たす。従って、この技術は、デス受容体アゴニストを利用することによって、PSC活性化を選択的に遮断し、またはTGFβおよびNGF(神経成長因子)の支配的な細胞供給源の1つである活性化されたPSCを枯渇させることによって、疼痛を寛解させるための新たな方法を示す。
【配列表】