(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】衝撃吸収材および衝撃吸収材の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 7/00 20060101AFI20230519BHJP
B60R 19/24 20060101ALI20230519BHJP
B60R 19/32 20060101ALI20230519BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20230519BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
F16F7/00 K
B60R19/24 N
B60R19/32
B60R19/34
F16F7/12
(21)【出願番号】P 2019214428
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】趙 希禄
(72)【発明者】
【氏名】楊 陽
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-104107(JP,A)
【文献】特開2007-261557(JP,A)
【文献】特開2013-117291(JP,A)
【文献】特開2012-201286(JP,A)
【文献】特開2011-011661(JP,A)
【文献】特開2006-123887(JP,A)
【文献】特開2006-207725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00
B60R 19/24
B60R 19/34
B60R 19/32
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端に向けて延びる筒状の本体部であって、一端側から他端側に行くにつれて断面積が大きくなる前記本体部を有する衝撃吸収材であって、
前記一端側から他端側に向かう軸線に対して垂直な前記本体部の断面において、矩形と前記矩形に内接する楕円に対し、矩形の中央を中心として予め定められた角度をあけて矩形の縁に向けて延びる複数の仮想線分に沿って、前記楕円の縁から前記矩形の縁よりも内側の区間に設定された点どうしを結ぶ断面形状を有する、
ことを特徴とする衝撃吸収材。
【請求項2】
前記一端から他端に沿って予め定められた間隔をあけて、段部が形成された、
ことを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収材。
【請求項3】
一端から他端に向けて延びる断面が矩形状の筒状の本体部に対し、前記一端側から他端側に向かう軸線に対して垂直な前記本体部の断面において、矩形と前記矩形に内接する楕円に対し、矩形の中央を中心として予め定められた角度をあけて矩形の縁に向けて延びる複数の仮想線分に沿って、前記楕円の縁から前記矩形の縁よりも内側の区間に設定された点どうしを結ぶ断面形状となるように、前記本体部を外方から圧縮して変形させる加工を行って衝撃吸収材を製造することを特徴とする衝撃吸収材の製造方法。
【請求項4】
一端から他端に向けて延びる断面が矩形状の筒体の両端部を保持し、中空の前記筒体の内部に液体を充填させた状態で、前記本体部の外形に対応する内面形状を有する型を前記筒体の外表面に押し当てて、前記筒体から前記衝撃吸収材を製造することを特徴とする請求項3に記載の衝撃吸収材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を吸収する衝撃吸収材およびその製造方法に関し、特に、車両の衝突時に衝撃を吸収するのに好適な衝撃吸収材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両において衝突時の衝撃を吸収するための衝撃吸収材として、クラッシュボックスと呼ばれる部材が強度部材であるサイドメンバーと、外装部材であるバンパー等の間に設置されている。クラッシュボックスは、外装部材が他の車両や電柱やガードレール等の構造物に接触した場合に、サイドメンバーよりも先に座屈して変形することで、サイドメンバーへの衝撃の伝達を抑制するものである。このようなクラッシュボックスに使用可能な衝撃吸収部材に関して、下記の特許文献1,2に記載の技術が公知である。
【0003】
特許文献1(特開2006-123887号公報)には、クラッシュボックスにおいて、断面形状が矩形(四角形)ではなく、八角形の断面において、八角形の互いに平行な一対の第1辺の長さaと、第1辺に直交する一対の第2辺の長さbと、第1辺どうしの距離(間隔)Bと、第2辺どうしの距離Aと、について、0.4≦a/A≦0.8、且つ0.2≦b/B≦0.7とすることが記載されている。また、クラッシュボックスの長手方向に対して、所定の間隔をあけて外側から内側に凹んだビード形状も形成されている。
【0004】
特許文献2(特開2002-104107号公報)には、蛇腹部(23)を有するクラッシュボックス(20)を製造する際に、まず、八角筒状のパイプ(45)内部に加圧液体を封入した状態で上型(41)と下型(42)を外側から押し付けて蛇腹部(23)の外形形状を予備成形する。予備成形の後に、加圧液体の圧力を本成形圧(Ps2)に上昇させて、パイプ(45)を内側から膨らませる形で型(41,42)にパイプ(45)を押し付ける本成形を行って、クラッシュボックス(20)を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-123887号公報(請求項1、請求項2、「0023」-「0037」、
図1、
図2、
図5、
図6)
【文献】特開2002-104107号公報(「0019」-「0021」、
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
クラッシュボックスは、車両の衝突時等に変形してサイドメンバー(本体のフレーム)の変形を抑制するためのものであるが、衝突が軽度であれば、外装とクラッシュボックス部分だけを交換すれば修理が容易になるため好ましい。クラッシュボックスをサイドメンバーから取り外す場合に、クラッシュボックスの先端側(外装側)が変形していれば取り外し作業は容易であるが、根元側(サイドメンバー側)が変形していると取り外し作業は難しくなる。したがって、クラッシュボックスは、変形する場合は先端側から変形していくことが好ましく、根元側から変形するとクラッシュボックスが変形しきる前にサイドメンバーが変形する恐れもある。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、矩形の四つ角が面取りがされた形状に相当し、四角形状よりもエネルギー吸収効率が向上しているが、八角筒状であり、ビード形状が形成されている部分のどこから変形していくのかが現実には予測しにくい問題がある。すなわち、クラッシュボックスの根元側から変形し始める恐れもある。
【0008】
特許文献2に記載の技術のように、複数段の凹凸が繰り返される蛇腹状の形状の場合、衝撃を吸収する際に、複数の凹凸の中のどの部分から変形していくのかその都度異なる可能性が高く、クラッシュボックスが先端側から変形するかどうかは不確実である。特に、複数段の凹凸が軸方向に均等に変形すれば問題ないが、現実には斜め方向からの衝突もあって均等な変形は難しく、軸方向に斜め、すなわち、クラッシュボックスの長手方向に対して倒れるように折れ曲がるような状態になる恐れもある。この時、根元側と先端側で倒れる方向が異なることもあり、その場合、クラッシュボックスが想定していた衝撃吸収性能を発揮できない問題もある。
【0009】
本発明は、従来の衝撃吸収材に比べて、衝撃吸収性能を向上させつつ、一端側から変形しやすい衝撃吸収材を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の衝撃吸収材は、
一端から他端に向けて延びる筒状の本体部であって、一端側から他端側に行くにつれて断面積が大きくなる前記本体部を有する衝撃吸収材であって、
前記一端側から他端側に向かう軸線に対して垂直な前記本体部の断面において、矩形(矩形断面)と前記矩形(矩形断面)に内接する楕円に対し、矩形(矩形断面)の中央を中心として予め定められた角度をあけて矩形(矩形断面)の縁に向けて延びる複数の仮想線分に沿って、前記楕円の縁から前記矩形(矩形断面)の縁よりも内側の区間に設定された点どうしを結ぶ断面形状を有する、
ことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の衝撃吸収材において、
前記一端から他端に沿って予め定められた間隔をあけて、段部が形成された、
ことを特徴とする。
【0012】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の衝撃吸収材の製造方法は、
一端から他端に向けて延びる断面が矩形状の筒状の本体部に対し、前記一端側から他端側に向かう軸線に対して垂直な前記本体部の断面において、矩形(矩形断面)と前記矩形(矩形断面)に内接する楕円に対し、矩形(矩形断面)の中央を中心として予め定められた角度をあけて矩形(矩形断面)の縁に向けて延びる複数の仮想線分に沿って、前記楕円の縁から前記矩形(矩形断面)の縁よりも内側の区間に設定された点どうしを結ぶ断面形状となるように、前記本体部を外方から圧縮して変形させる加工を行って衝撃吸収材を製造することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の衝撃吸収材の製造方法において、
一端から他端に向けて延びる断面が矩形状の筒体の両端部を保持し、中空の前記筒体の内部に液体を充填させた状態で、前記本体部の外形に対応する内面形状を有する型を前記筒体の外表面に押し当てて、前記筒体から前記衝撃吸収材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1,3に記載の発明によれば、従来の衝撃吸収材に比べて、衝撃吸収性能を向上させつつ、一端側から変形しやすい衝撃吸収材を提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、段部を中心として応力集中が発生する際に、先端側の段部から順に変形しやすい。
請求項4に記載の発明によれば、内部に液体を充填させない場合に比べて、外形形状を精度よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の実施例1の衝撃吸収材を含む車両のバンパ部分の説明図である。
【
図3】
図3は実施例1の衝撃吸収材の外形形状の説明図であり、
図3Aは矩形断面の説明図、
図3Bは矩形断面に内接する楕円の説明図、
図3Cは矩形断面の中央から放射状に延びる仮想線分の説明図、
図3Dは外形の節点の説明図、
図3Eは節点を結んだ外形形状の説明図、
図3Fは奇数段目の外形形状の説明図である。
【
図5】
図5は実施例1のクラッシュボックスの加工方法の説明図であり、
図5Aは母材の両端部を保持した状態の説明図、
図5Bは
図5Aの状態から母材の内部に液体を充填した状態の説明図、
図5Cは
図5Bの状態から型を押し付けた状態の説明図、
図5Dは加工後に不要部分を削除する状態の説明図である。
【
図6】
図6は実施例1のクラッシュボックスを加工する際の母材の説明図である。
【
図7】
図7は実験結果の説明図であり、実験例1-3と比較例1-3の実験結果の一覧表である。
【
図8】
図8は実験結果の説明図であり、実験例3と比較例3の圧潰の状態の初期段階の説明図である。
【
図9】
図9は実験結果の説明図であり、
図8の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
【
図10】
図10は実験結果の説明図であり、
図9の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
【
図11】
図11は実験結果の説明図であり、
図10の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
【
図12】
図12は実験結果の説明図であり、
図11の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1の衝撃吸収材を含む車両のバンパ部分の説明図である。
図2は
図1の衝撃吸収材の説明図である。
図1、
図2において、本発明の実施例1の衝撃吸収材の一例としてのクラッシュボックスを含む車両では、前端部に外装部材の一例としてのバンパ1が配置されている。バンパ1の内面には、左右一対のクラッシュボックス2の先端部(一端部)が先端フランジ部2aを介して支持されている。クラッシュボックス2の根元部(他端部)は、根元フランジ部2bを介して強度部材の一例としてのサイドメンバー3に支持されている。根元フランジ部2bでは、サイドメンバー3に対して図示しないボルト等の締結部材を介して支持されており、ボルト等を緩めることでクラッシュボックス2およびバンパ1をサイドメンバー3に対して着脱可能に構成されている。
【0018】
図2において、実施例1のクラッシュボックス2は、一端側から他端側に向けて延びる筒状の本体部2cと、本体部2cの一端部に溶接等で支持された先端フランジ部2aと、本体部2cの他端部に溶接等で支持された根元フランジ部2bとを有する。
本体部2cは、断面が後述する多角形状に形成されている。また、本体部2cは一端から他端に向かうにつれて断面積が大きくなる筒状、すなわち、中空の略錐体状に形成されている。さらに、本体部2cには、一端から他端に沿って予め定められた間隔をあけて段部2dが形成されている。実施例1では、段部2dは、クラッシュボックス2の一端側から順に偶数段目の段部2d1では、外形が外側から内側に向かうように(凹状に)形成されている。結果として、奇数段目の段部2d2では、外形が内側から外側に向かうように(凸状に)形成されている。
また、「一端から他端に向かうにつれて断面積が大きくなる」とは、一端から他端に向かう各段部において、偶数段目の段部どうし、及び奇数段目の段部どうしを比較した場合に、一端側よりも他端側の断面積が大きくなっていることも含むが、一端側から他端側の全ての段部の断面積が順に大きくなることが好ましい。すなわち、クラッシュボックス2の一端側から他端側に行くにつれて断面積が単調増加する構成が望ましいが、凸状の段部から凹状の段部に向かう区間で断面積が同一または減少する構成とすることも可能であり、クラッシュボックス2の全体として、一端側よりも他端側の断面積が大きくなっていればよい。
【0019】
(クラッシュボックスの断面形状の説明)
図3は実施例1の衝撃吸収材の外形形状の説明図であり、
図3Aは矩形断面の説明図、
図3Bは矩形断面に内接する楕円の説明図、
図3Cは矩形断面の中央から放射状に延びる仮想線分の説明図、
図3Dは外形の節点の説明図、
図3Eは節点を結んだ外形形状の説明図、
図3Fは奇数段目の外形形状の説明図である。
図3において、実施例1のクラッシュボックス2の外形形状は以下のようにして設計されている。ここで、「断面」とは衝撃吸収材の一端側から他端側に向かう軸線に対して垂直な断面を指す。本発明では、仮想的な断面及び仮想的な矩形断面を単に「断面」、「矩形断面(矩形)」という場合がある。また仮想的な矩形断面に内接する仮想的な楕円を単に「楕円」という場合がある。
【0020】
まず、
図3Aにおいて、加工前の矩形断面11を有する四角錐状のパイプに対して、
図3Bに示すように内接する楕円12を導出する。
次に、
図3Cにおいて、矩形断面11の中心11aを原点とするX軸方向(幅方向)およびY軸方向(高さ方向)を仮定し、XY平面の第1象限に相当する領域13を対象とする。第1象限の領域13において、X軸からY軸までの間の90度の角度範囲を、予め定められた角度間隔の一例として、6等分する。なお、何等分するかは、設計や仕様等に応じて任意に変更可能であるが、多すぎると加工が困難になり、少なすぎると強度が不足するため、5等分~8等分の範囲が好適である。
【0021】
そして、矩形断面11の中心11aから、90度を6等分する放射状の仮想線分14a~14eを導出する。すなわち、予め定められた角度の一例として、15度の間隔で仮想線分14a~14eを導出する。そして、各仮想線分14a~14eが楕円12と交差する点を、第1の節点a1~a5とする。また、各仮想線分14a~14eが矩形断面11の縁と交差する点を、第2の節点b1~b5とする。
【0022】
図3Dにおいて、各仮想線分14a~14eに沿って、第1の節点ai(i=1~5)と第2の節点bi(i=1~5)の距離(=|ai-bi|)に対して、第2の節点bi側から、予め定められた距離の一例としての[|ai-bi|/20]の位置に、第3の節点ci(i=1~5)を設定する。すなわち、第3の節点ciは、仮想線分14a~14eにおいて、楕円12の縁から矩形断面11の縁よりも内側の区間に設定された点である。なお、実施例1では、第3の節点ciの位置が、第2の節点biから1/20の長さだけ離れた位置を例示したが、これに限定されず、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。なお、第3の節点ciの位置が第2の節点biに近すぎるとクラッシュボックス2の性能が矩形断面11のものに近づき、第3の節点ciの位置が第1の節点aiに近すぎると矩形断面11の母材から加工する際の変形量が多くなり加工が困難になるため、クラッシュボックスの性能と母材の材質、加工方法等に応じて矩形断面11~楕円12の間で選択可能である。
【0023】
図3Eにおいて、X軸と矩形断面11との交点Aと、
図3Dで導出された第3の節点ciと、Y軸と矩形断面11との交点Bとを接続する。
図3Fにおいて、上記の第3の節点ciを、第2象限~第4象限についても導出する。このようにして導出された第3の節点ciやX軸とY軸と矩形断面11との交点を結んだ多角形状の形16を、クラッシュボックス2の奇数段目の段部2d2の断面形状(外形形状)とする。
【0024】
図4は偶数段目の断面形状の説明図であり、
図4Aは
図3Dに対応する図、
図4Bは
図3Fに対応する図、
図4Cは側方から見た外形形状の説明図である。
図4Aにおいて、偶数段目の段部2d1の断面形状は、
図3Dで導出された第3の節点ciに対して、予め設定された段差量であるδだけ、内側(中心11a側)に移動した第4の節点diを導出する。なお、段差量δは、設計や仕様等に応じて任意に変更可能であるが、δ<|ai-ci|である必要がある。なお、交点A,Bについても、段差量δだけ移動させることも可能である。
図4Bにおいて、
図4Aで導出された第4の節点diどうしを接続した多角形状の形16′を、クラッシュボックス2の偶数段目の段部2d1の断面形状(外形形状)とする。
したがって、
図4Cに示すように、偶数段目の段部2d1が凹状で、奇数段目の段部2d2が凸状のクラッシュボックス2が設計される。
【0025】
(クラッシュボックスの製造方法の説明)
図5は実施例1のクラッシュボックスの加工方法の説明図であり、
図5Aは母材の両端部を保持した状態の説明図、
図5Bは
図5Aの状態から母材の内部に液体を充填した状態の説明図、
図5Cは
図5Bの状態から型を押し付けた状態の説明図、
図5Dは加工後に不要部分を削除する状態の説明図である。
図6は実施例1のクラッシュボックスを加工する際の母材の説明図である。
なお、製造方法の理解を容易にするために、断面形状に伴う線や段部2d1,2d2等の詳細な形状については、
図5、
図6では簡略化して記載している。
【0026】
図5、
図6において、実施例1のクラッシュボックス2の製造方法では、母材として、筒体の一例としての矩形断面11のパイプ21を使用する。
図6において、実施例1のパイプ21は、一端側の幅L1aに対して、他端側の幅L1bの方が大きくなっている。また、一端側の高さL2aと他端側の高さL2bとは同一に設定されている。なお、一例として、L1a=120.99mm、L1b=144.77mm、L2a=L2b=62.2mm、パイプ21の軸方向の長さ=576.35mmとしたが、これに限定されず、適宜変更可能である。
【0027】
図5Aにおいて、パイプ21の両端部をホルダ22で保持する。ホルダ22は、パイプ21の内部に進入する注入部22aと、パイプ21を注入部22aと挟む形で外側から保持する保持部22bとを有する。注入部22aは、パイプ21の断面形状に対応して形成されており、保持部22bが外側から押し付けながら保持することで、パイプ21の内部は密閉された状態となるように構成される。
図5Bにおいて、注入部22aに形成された注入路22cを通じて、密閉されたパイプ21の内部に加圧液体23を注入する。この時、加圧液体23の圧力は、パイプ21が膨出する程度の圧力とすることが望ましい。
【0028】
図5Cにおいて、加圧液体23が注入されたパイプ21に対して外側から上下一対の型24a,24bを押し当てる。型24a,24bは、
図3で前述したクラッシュボックス2の外形形状に対応する内面形状を有している。したがって、パイプ21の外表面を型24a,24bで押し付けることで、パイプ21が圧縮して、クラッシュボックス2の外形形状に変形、加工される。
【0029】
図5Dにおいて、加工後のパイプ21は、加圧液体23を流出させた後、型24a,24bを取り外し、ホルダ22を外した後、両端部の不要部分26を切断することで、クラッシュボックス2の本体部2cが得られる。
【0030】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のクラッシュボックス2では、断面形状が矩形断面11と楕円12との間の多角形状に形成されている。
本発明の効果を確認するためにシミュレーション実験を行った。
シミュレーション実験は、3トントラックで使用されている現行のクラッシュボックスの形状と寸法を適用し、前面衝突を想定したコンピュータシミュレーションで行った。材料は、鋼材でヤング率210[GPa]、ポアソン比0.3、降伏応力270[MPa]、密度7890[kg/m3]とした。クラッシュボックス2の根元部を拘束して、先端部から3tの剛体を初期速度15000[mm/s](56[km/h]に相当)で衝突させ、クラッシュボックス2が底付きに進行したときの吸収エネルギー量を用いて衝突圧潰特性を評価した。有限要素法における四角形要素の辺長は6mmとした。
ここで、一端側から他端側に向けて断面積が大きくなる構成を適用して実験を行った。
【0031】
比較例1は、断面形状が矩形断面11で、板厚が3.5mmの場合について実験を行った。
実験例1は、断面形状が楕円12で、板厚が3.5mmの場合について実験を行った。
実験例2は、断面形状が楕円12で、板厚が3mmの場合について実験を行った。
実験例3は、実施例1の断面形状で、板厚が3mmの場合について実験を行った。
比較例2は、交点Aと交点Bを直接接続するひし形の断面形状で、板厚が3mmの場合について実験を行った。
比較例3は、板厚が3mmで反転螺旋折り紙構造(特開2018-187637号公報)について実験を行った。
実験結果を
図7~
図12に示す。
【0032】
図7は実験結果の説明図であり、実験例1-3と比較例1-3の実験結果の一覧表である。
図7において、比較例1では、ピーク荷重が高い、すなわち、変形を始めるまでの荷重が高く、変形を始めにくいことがわかる。ピーク荷重が低すぎると、少しの衝撃でも変形してしまうため好ましくないが、ピーク荷重が高すぎると、クラッシュボックス2が変形(衝撃を吸収)し始める前に、サイドメンバー3に負荷がかかって変形したり歪んだりする恐れがあるため好ましくない。
これに対して、実験例1では、比較例1に比べて、ピーク荷重が低下しつつ、軽量化、エネルギー吸収量を高くなっている。なお、周長が、矩形断面11の周長の80%になっており、加工は母材の材質によっては厳しい場合もある。なお、実験例2のように、板厚を実験例1よりも薄くすることで、さらに、ピーク荷重を下げ、軽量化しつつ、エネルギー吸収量も比較例1と同等にすることも可能であった。
【0033】
実験例3では、板厚が比較例1に比べて薄く、使用する材料を減らしつつ、クラッシュボックスも軽量化され、ピーク荷重も低下し、エネルギー吸収量も比較例1と同等である。特に、重量当たりのエネルギー吸収量に換算すると、比較例1よりも良好な結果が得られている。なお、板厚を比較例1と同一にすれば、エネルギー吸収量は比較例1よりも良好であることは自明である。従って、実験例3では、従来構成である比較例1よりも衝撃吸収性能が向上する。
なお、比較例2に示すように、ひし形の断面形状では、比較例1よりも更なる軽量化、ピーク荷重の低下を実現可能であるが、周長が矩形断面11の60.5%となり、加工で作成することが非常に困難である。
比較例3では、比較例1に比べて、軽量化やピーク荷重の低下、エネルギー吸収量で良い結果が得られたが、圧潰モードが先端側(一端側)から順に圧潰しない問題があった。
【0034】
図8は実験結果の説明図であり、実験例3と比較例3の圧潰の状態の初期段階の説明図である。
図9は実験結果の説明図であり、
図8の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
図10は実験結果の説明図であり、
図9の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
図11は実験結果の説明図であり、
図10の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
図12は実験結果の説明図であり、
図11の場合よりも時間が経過した状態での説明図である。
【0035】
図8~
図12に示すように、実験例3では、圧潰時に先端側から順に圧潰していく。一方で、比較例3では、圧潰の初期段階で、先端部と根元部の近傍に応力集中が発生して変形が始まる。特に、したがって、先端部から圧潰が始まらず、衝撃が軽度で
図12の状態まで圧潰しない場合に、
図10、
図11の状態のように根元部分の圧潰の方が進んでいると、クラッシュボックス2をサイドメンバー3から取り外す作業が困難になる場合がある。これに対して、実験例3では、
図8~
図12に示すように、先端側から変形しており、取り外し作業が困難になることが抑制される。
【0036】
また、比較例1に示す矩形断面では、前方(真正面)からの外力でなく、5度程度の斜め方向から外力が加わった場合でも、軸方向に対して折れ曲がるように変形することがある。クラッシュボックス2の軸方向の途中で折れ曲がってしまうと、前述した前方からの圧潰時のエネルギー吸収量に到達しない。これに対して、実施例1では、仮想線分14a~14eが15°間隔で設定されており、矩形(四角形)断面に比べて、円形(楕円形)に近い形状になっている。したがって、矩形断面に比べて、折れ曲がりにくい。よって、エネルギー吸収量等の性能も前方からの圧潰時に近い性能を発揮しやすい。
【0037】
なお、実施例1では、仮想線分14a~14eが15°間隔で設定されているが、仮想線分14a~14eの本数を増やす=角度間隔が小さくなると、断面が円や楕円に近づく。断面が円や楕円に近づくと、強度は向上するが、軸方向のどこから圧潰するのか予想、コントロールがしにくい問題がある。これに対して、実施例では、段部2dが形成されることで、段部2d(2d1,2d2)の位置に応力集中が発生して圧潰しやすく、軸方向のどの部分から圧潰していくのかを予想、コントロールしやすくなっている。
【0038】
また、実施例1では、パイプ21から製造する場合に、内部に加圧液体23を封入した状態で型24a,24bを押し当てている。加圧液体23が設けられていない場合、型24a,24bにおける凸部(クラッシュボックス2における凹部)は精度良く形成されやすい。一方で、型24a,24bにおける凹部(クラッシュボックス2における凸部)は精度よく形成されにくく、角の部分が丸まった形状(鋭くなく鈍った状態)になる恐れがある。これに対して、実施例1では、内部から加圧液体23で押されており、加圧液体23を使用しない場合に比べて、クラッシュボックス2の外形形状が精度よく形成することが可能である。
【0039】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、実施例で例示した具体的な数値や材料名は、設計や仕様の変更に応じて適宜変更可能である。
【0040】
また、実施例において、衝撃吸収材としてトラック等のクラッシュボックス2に使用することが好適であるが、これに限定されない。鉄道や航空機、船舶、ジェットコースター等の遊具等、事故時に衝撃を吸収する必要のある任意の部位に適用することも可能である。
さらに、実施例において、内側から加圧液体で加圧した状態で外側から型24a,24bでプレスする加工方法を例示したが、これに限定されない。使用する材料の加工のしやすさ等に応じて、押し出し成形等、従来公知の任意の製造方法で製造することも可能である。
【0041】
また、矩形断面のパイプ21を成形、加工してクラッシュボックス2を作成する場合を例示したが、これに限定されない。円形断面のパイプ21から成形することも可能である。他にも、例えば、
図3に示した断面において、2つ割り(多角形筒を上下半分ずつに割った形)にして、板材から2つ割りの各パーツを成型後に、成形後の2つのパーツを溶接等して筒状とすることも可能である。なお、断面を3つ以上に割ることも可能である。
【0042】
図13は変形例の説明図であり、
図13Aは
図4Aに対応する図、
図13Bは
図4Bに対応する図、
図13Cは
図4Cに対応する図である。
前記実施例において、段部2dを設けることが望ましいが、設けない構成とすることも可能である。また、偶数段目の段部2d1が凹状で、奇数段目の段部2d2が凸状の場合を例示したが、これに限定されない。偶数段目が凸状で、奇数段目が凹状とすることも可能である。具体的には、
図13に示すように、第4の節点diを導出する際に、第3の節点ci等に対して、段差量δだけ、内側ではなく外側(中心11aから遠ざかる側)に移動した点とすることで導出可能である。なお、この場合は、δ<|bi-ci|とする必要がある。
【符号の説明】
【0043】
2…衝撃吸収材、
2c…本体部、
2d…段部、
11…矩形断面、
12…楕円、
14a~14e…仮想線分、
21…筒体、
24a,24b…型、
c1~c5…点。