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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20230519BHJP
【FI】
A47J27/00 107
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020568206
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002389
(87)【国際公開番号】W WO2020153444
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019011601
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397029873
【氏名又は名称】株式会社大木工藝
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】大木 武彦
(72)【発明者】
【氏名】大木 達彦
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106144255(CN,A)
【文献】特開2017-118937(JP,A)
【文献】実開昭58-037829(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00ー27/64
A47J 36/06ー36/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を溜めることが可能な凹部を有し、上部開口部を有する受皿と、
前記受皿の前記上部開口部付近に着脱可能に係合される炭素板と、
前記受皿と前記受皿の前記上部開口部付近に係合された前記炭素板とを弾性的に固定するクリップと
を備え、
前記炭素板は、電子レンジ内で調理可能な程度の耐熱性を有し、かつ、前記受皿内に入れた水が前記炭素板の下面に接触しているかどうかを内側の水面を目視することにより確認できる貫通孔を有し、
前記炭素板及び前記受皿は、該炭素板の上面が前記上部開口部よりも下部に位置する状態で、該上部開口部付近に係合されるように構成された調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、冷凍食品を解凍するのに好適な調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭において、冷凍食品を皿等の上に載置して台所内で放置することによる自然解凍が行われている。自然解凍は、常温の空気から冷凍食品へ熱移動することにより行われ解凍の効率が良いとは言えない。そのため、自然解凍よりも効率良く解凍することを目的とする解凍器について提案がなされている(例えば特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1には、湯水を貯溜できる湯水タンクと、湯水タンクの上方に設けた解凍プレートとから構成された解凍器(調理器)が記載されている。特許文献2には、湯水を貯溜できる湯水タンクと、湯水タンクの上方に設けた解凍プレートと、解凍プレートの上方に取り外し自在に設けたカバーとから構成された解凍器(調理器)が記載されている。特許文献1及び2に記載された解凍器は、湯水タンク内に注いだ湯水の有する熱が解凍プレートに伝達され、解凍プレートに伝達された熱により、解凍プレートの上面に載置した冷凍食品が効率良く解凍される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平5-67292号公報
【文献】実開平5-95295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、冷凍食品を湯水の熱によって解凍する場合、効率良く解凍できても、湯水の熱によって食品の味や匂いを損なうおそれがある。例えば、食品から旨味エキスが排出してしまうことがある。また、解凍ができるとしても他の用途にも使用できるものでない。
【0006】
本願発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、食品の味や匂いを損なうことなく冷凍食品を効率良く解凍できるとともに、他の用途に使用できる調理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の調理器は、水を溜めることが可能な凹部を有し、上部開口部を有する受皿と、前記受皿の前記上部開口部付近に着脱可能に係合される炭素板と、前記受皿と前記受皿の前記上部開口部付近に係合された前記炭素板とを弾性的に固定するクリップとを備え、前記炭素板は、電子レンジ内で調理可能な程度の耐熱性を有し、かつ、前記受皿内に入れた水が前記炭素板の下面に接触しているかどうかを内側の水面を目視することにより確認できる貫通孔を有し、前記炭素板及び前記受皿は、該炭素板の上面が前記上部開口部よりも下部に位置する状態で、該上部開口部付近に係合されるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願発明の調理器によれば、食品の味や匂いを損なうことなく冷凍食品を効率良く解凍できるとともに、他の用途に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本願発明の調理器の一実施形態を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はA-A線切断部断面図であり、(c)はB-B線切断部断面図である。
図2図1の調理器を示す図であり、(a)は要部拡大A-A線切断部断面図であり、(b)は要部拡大B-B線切断部断面図である。
図3図1の調理器の使用状態を示す図であり、(a)は解凍器として使用する状態を示す断面図であり、(b)は電子レンジに入れて使用する状態を示す断面図である。
図4図1の調理器の使用状態を示す図であり、(a)は炭素板をガスコンロ上で使用する状態を示す断面図であり、(b)は炭素板をIH調理器上で使用する状態を示す断面図である。
図5】等方性高密度炭素の基礎特性を示す表である。
図6】本願発明の調理器の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願発明を実施するための形態を、図面に基づいて説明する。図1において、符号10は、本願発明の調理器を示す。
【0011】
(構成)
調理器10は、図1に示すように、水を溜めることが可能な凹部12を有し、上部開口部14を有する受皿16を備える。凹部12は、底部30及び壁部32の内面から成る。上部開口部14は略四角形である。受皿16は、電子レンジに入れてマイクロ波を照射しても溶融又は損傷しない耐熱性の樹脂材料から形成されている。耐熱性の樹脂材料は、例えば、PP(ポリプロピレン)である。PPは、熱伝導率が0.12W/(m・K)であり、熱が伝わり難い。これにより、調理器10は、凹部12内の熱が受皿16の底部30及び壁部32を介して外部に伝わり難いように構成されている。受皿16の材質としては、PPの他、電子レンジで使用でき熱伝導率の小さい(0.1~0.5W/(m・K))の樹脂であってもよい。受皿16は、水を溜めることが可能であり電子レンジで使用できれば、樹脂以外の陶磁器やセラミック等の材料から形成されてもよい。受皿16は、図2(a)及び(b)に示すように、凹部12及び上部開口部14に連続し、後述する炭素板18を係合する段状の係合部22を備える。係合部22は直角形状断面を有する。受皿16及び炭素板18は、炭素板18が、直角形状断面を有する係合部22の上端、及び上部開口部14よりも下部に位置する状態で、係合部22(上部開口部14付近)に係合されるように構成されている。受皿16は、図2(a)及び(b)に示すように、後述するクリップ20を係合する係合凹部24が設けられている。
【0012】
調理器10は、図1に示すように、受皿16の係合部22に着脱可能に係合される炭素板18を備える。炭素板18は、受皿16の凹部12内に入れた水が下面40に接触しているかどうかを目視で確認できるように貫通孔21が設けられている。貫通孔21は、複数個設けられてもよい。炭素板18は、受皿16の略四角形の上部開口部14の形状に対応して略四角形である。炭素板18は、受皿16から取り外した状態で、食品を載置してガスコンロ又はIH(induction heating)調理器により調理可能な等方性高密度炭素から形成される。等方性高密度炭素は、電子レンジに入れてマイクロ波を照射しても溶融又は損傷しない耐熱性の炭素である。等方性高密度炭素の熱伝導率は、図5に示すように、130W/(m・K)であり、受皿16を構成するPPの熱伝導率よりも極めて大きい。これにより、受皿16の凹部12内の熱は、略、炭素板18を介してのみ外部へ伝わるように構成されている。自然解凍時に受皿16の凹部12内に満たされた水が炭素板18に満遍なく接触するように、炭素板18の下面40は平面である。炭素板18の上面、側面及び下面40は、炎等に対する耐熱性を有するセラミックコーティングが全面に形成される。炭素板18の上面のみ、焼き付き難くて焼き料理を行いやすいフッ素コーティングが形成されてもよい。
【0013】
等方性高密度炭素は、粉末のカーボンブラック(carbon black)等の原料を、例えば、型内において360度方向から約5万トンの水圧で固め、焼成炉内において約3000℃で約60~90日間焼成して製造することができる。等方性高密度炭素は、等方性黒鉛とも呼ばれ、物理的性質が方向に特に依存しないような等方性を有する。等方性高密度炭素の一般的基礎特性を、図5に従って説明する。図5に示すように、鋳鉄の比重が7.28g/cm3であり、等方性高密度炭素の比重が1.8g/cm3であり、鋳鉄の比熱は、0.435J/(g・K)であり、等方性高密度炭素の比熱は、0.7J/(g・K)である。このため、温度上昇させるための熱量について、等方性高密度炭素の鋳鉄に対する比率は、(1.8/7.28)・(0.7/0.435)=0.39である。熱伝導率について、等方性高密度炭素の鋳鉄に対する比率は、(130/48)=2.7である。図5において、遠赤外線放射率とは、ある温度の物質表面から放射するエネルギー量と、同温度の黒体(入射されたエネルギーを反射することなく100%吸収する仮想物体)から放射するエネルギー量との比率を言う。黒体の遠赤外線放射率は1である。熱拡散率とは、温度伝達率とも言い、物質内での熱の拡散のしやすさを表す数値を言う。炭素板18は、等方性高密度炭素ではなく、異方性高密度炭素から形成されることも場合によっては可能である。但し、異方性高密度炭素の場合、熱伝導に方向性が生じる。
【0014】
調理器10は、受皿16と、受皿16の上部開口部14付近に係合された炭素板18と、弾性的に固定するクリップ20を備える。クリップ20は、電子レンジに入れてマイクロ波を照射しても溶融又は損傷しない耐熱性を有するとともに弾性を有するシリコンから形成される。クリップ20は、図2(b)に示すように、受皿16の上部開口部14近辺に係合された炭素板18の外周近辺を上から弾性的に押圧する押圧部26と、受皿16の係合凹部24に係合する係合凸部28とを備える。
【0015】
(作用及び効果)
調理器10は、図3(a)に示すように、0℃未満の冷凍食品34を炭素板18の上に載置して、室内に放置され、自然解凍(自然解凍、常温解凍)用の解凍器として使用される。この場合、炭素板18が、受皿16に係合され、受皿16と炭素板18とが、クリップ20によって弾性的に固定されている。受皿16の凹部12には常温(15~25℃)の水36が溜められる。例えば、炭素板18が受皿16から取り外された状態で、凹部12に水36が入れられる。水36の温度は常温よりも少し高い温度であってもよい。凹部12内の水36の上面38が炭素板18の下面40に接触すると、常温の水36から炭素板18へ、炭素板から冷凍食品34へ、熱移動(熱伝達)が行われる。凹部12内の水36が炭素板18の下面40に接触しているか否かは、貫通孔21の内側の水面を目視することにより確認される。常温の水36から0℃未満の食品34へ熱Qが移動することにより、冷凍食品34が自然解凍される。また、炭素板18は炭であり、常温で、他の物質に比して多くの遠赤外線を放射する。このため、遠赤外線が冷凍食品34の組織を運動させ、冷凍食品34の解凍が促進されることが期待される。なお、炭素板18の温度が高い程、放射させられる遠赤外線の量は多くなる。
【0016】
上述のように、等方性高密度炭素から成る炭素板18の熱伝導率は、130W/(m・K)であり、鋳鉄の2.7倍であるため、効率良く解凍することができる。また、炭素板18の熱伝導率は、130W/(m・K)であるのに対して、PPから成る受皿16の熱伝導率は、0.12W/(m・K)であり、炭素板18の熱伝導率は受皿16の熱伝導率に対して極大(1083倍、500~1500倍でもよい)である。このため、受皿16内の水36の熱は、受皿16の底部30及び壁部32を介して外部へ移動することはなく、炭素板18にのみ移動し、炭素板18に移動した熱は冷凍食品34に移動する。このため、冷凍食品34を効率よく解凍することができる。しかも、自然解凍であるため、冷凍食品34の味や匂いが損なわれることはない。また、常温の水による自然解凍であり、解凍しても水の温度変化は少なく、複数個の冷凍食品について、連続して長時間使用できる。
【0017】
調理器10は、図3(b)に示すように、炭素板18の上に冷凍、冷蔵又は常温の食品34を載置し、電子レンジ42内に入れて、マイクロ波による調理が可能である。この場合、受皿16の凹部12に水36を適量入れ、食品34及び調理器10をラップ50で被覆しておけば、加熱された水36から生じた蒸気Jが炭素板18の貫通孔21を介してラップ50内に充満し、蒸し料理をすることも可能である。受皿16の凹部12に水36を入れて調理すれば、水分のほとんど無い食品であっても調理できる。また、加熱された水36の熱が熱伝導率の高い炭素板18を介して食品34に効率良く移動し、調理を迅速に行うことができる。また、炭素板18から放射する遠赤外線が冷凍食品34の組織を運動させ、食品34の加熱が促進されることが期待される。上述のように、本願発明の調理器10は、熱伝導率の高い炭素板18上で冷凍食品34を効率よく自然解凍できるとともに、電子レンジ42内での調理も可能である。
【0018】
本願発明の調理器10は、炭素板18からクリップ20及び受皿16を取り外し、図4(a)に示すように、炭素板18の上に食品34を載置し、炭素板18をガスコンロ44の上に載置した状態で、焼き料理が可能である。ガスコンロ44の炎46から生じる熱が、熱伝導率の高い炭素板18を介して、炭素板18の下面40と垂直方向(Z軸方向)に、効率良く食品34に移動し、焼き料理を促進できる。また、等方性高密度炭素から成る炭素板18は、図5に示すように、熱拡散率が232cm2/sと大きいため(鋳鉄の場合15.2cm2/s)、炎46の熱は炭素板18の下面40と平行な方向(X軸方向)に迅速に移動する。このため、炭素板18の中の炎46の上方部分のみが他の部分よりも早く加熱されることはなく、炭素板18全体に渡って満遍なく加熱される。このため、食品34は、全体に渡って満遍なく加熱され、良好な焼き加減に調理される。また、炭素板18が加熱されて炭素板18から放射させられる遠赤外線の量が増大し、食品34の組織の運動量が増大し、食品34の焼き速度が促進される。炭素板18は、約3000℃で焼成されて形成されているため、炎46の熱によって変形することはない。
【0019】
本願発明の調理器10は、炭素板18からクリップ20及び受皿16を取り外し、図4(b)に示すように、炭素板18の上に冷凍等の食品34を載置し、炭素板18をIH調理器48の上に載置した状態で、焼き料理が可能である。IH調理器48から生じる熱が、熱伝導率の高い炭素板18を介して効率良く食品34に移動し、焼き料理を促進できる。また、炭素板18が加熱されて炭素板18から放射させられる遠赤外線の量が増大し、食品34の組織の運動量が増大し、食品34の焼き速度が促進される。
【0020】
本願発明の調理器10によれば、上述のように、解凍器として使用でき、電子レンジ42で調理でき、ガスコンロ44による焼き料理ができ、IH調理器48による焼き料理ができ、4通りの用途で使用できる。このため、解凍等の用途毎に調理器を購入する必要がない。
【0021】
以上、本願発明の一実施形態について説明したが、本願発明は、上述の実施形態に限定されない。例えば、本願発明の調理器10において、炭素板18が図6に示す貫通孔21を備えてもよい。図6に示す貫通孔21は、四角形の炭素板18の一角を切り取って形成される。このようにすれば、貫通孔21の形成が容易である。
【0022】
以上、本願発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、本願発明は、図面に記載した実施形態に限定されることなく、請求の範囲に記載した事項の範囲で、様々な設計変更が可能である。例えば、本願発明の調理器10において、受皿16の上部開口部14及び炭素板18の形状は略四角形に限定されず、円形又は楕円形であってもよい。また、本願発明の調理器10において、貫通孔21を備えないことも可能である。
【符号の説明】
【0023】
10:調理器
12:凹部
14:上部開口部
16:受皿
18:炭素板
20:クリップ
21:貫通孔
22:係合部
24:係合凹部
26:押圧部
28:係合凸部
30:底部
32:壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6